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特許7327521光干渉断層計及び光干渉断層計の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】光干渉断層計及び光干渉断層計の制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021572177
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2020002056
(87)【国際公開番号】W WO2021149173
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】西村 久美子
(72)【発明者】
【氏名】照井 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】大西 秀太朗
(72)【発明者】
【氏名】福田 朝陽
(72)【発明者】
【氏名】亀井 俊
(72)【発明者】
【氏名】中山 繁
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-201952(JP,A)
【文献】特開2019-045271(JP,A)
【文献】特開2018-192001(JP,A)
【文献】特開2019-154996(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0233700(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を発すると共に、発するレーザー光の波長を、波長λ1から波長λNまでの掃引幅Δλ=λN-λ1で波長掃引が可能な波長掃引型の光源と、
前記光源から発せられたレーザー光を、測定光と参照光とに分岐させる分岐部と、
前記測定光を、物体の所定領域に向けて走査する走査部と、
前記物体の所定領域からの反射光と、前記参照光との干渉光を発生させる干渉部と、
前記干渉光を検出し検出信号を出力する検出部と、
前記物体の所定領域の断層画像を取得するために、
前記所定領域をM(M及びmは整数であり、M>m>1)回走査し、
m回目の走査での照射開始波長λmを、
λm=λ1+(m-1)×Δλ/M
となるように、前記光源及び前記走査部を制御する制御部と、
を備える光干渉断層計。
【請求項2】
前記所定領域を1回走査するために必要な時間をTscan、
前記波長掃引にかかる時間をTswept、
としたとき、
Tscan=Tswept
である、請求項1の光干渉断層計。
【請求項3】
M回の前記所定領域の走査で得られた検出信号を用いて、前記所定領域の断層画像を生成する断層画像生成部と、
をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の光干渉断層計。
【請求項4】
レーザー光を発すると共に、発するレーザー光の波長を、波長λ1から波長λNまでの掃引幅Δλ=λN-λ1及び掃引時間Tsweptで波長掃引が可能な波長掃引型の光源と、
前記光源から発せられたレーザー光を、測定光と参照光とに分岐させる分岐部と、
前記測定光を、物体の所定領域に向けて走査する走査部と、
前記物体の所定領域からの反射光と、前記参照光との干渉光を発生させる干渉部と、
前記干渉光を検出し検出信号を出力する検出部と、
前記物体の所定領域の断層画像を取得するために、
前記所定領域をM(M及びmは整数であり、M>m>1)回走査し、
m回目の照射開始タイミングは、m-1回目の走査終了時から、(m-1)×Tswept/Mの時間が経過した時となるように、前記光源及び前記走査部を制御する制御部と、
を備える光干渉断層計。
【請求項5】
前記所定領域を1回走査するために必要な時間をTscanとすると、
Tscan≧α×Tswept (αは2以上の整数)
である、請求項4の光干渉断層計。
【請求項6】
前記検出信号に基づいて前記所定領域の断層画像を生成する断層画像生成部をさらに備える、請求項4または請求項5に記載の光干渉断層計。
【請求項7】
レーザー光を発すると共に、発するレーザー光の波長を、波長λ1から波長λNまでの掃引幅及び掃引時間で波長掃引が可能な波長掃引型の光源と、
前記光源から発せられたレーザー光を、測定光と参照光とに分岐させる分岐部と、
前記測定光を、物体の所定領域に向けて走査する走査部と、
前記物体の所定領域からの反射光と、前記参照光との干渉光を発生させる干渉部と、
前記干渉光を検出し検出信号を出力する検出部と、
前記物体の所定領域の断層画像を取得するために、
前記測定光を複数回走査し、前記測定光が前記物体の前記所定領域に対して、継続して照射されるように前記走査部および前記光源を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記測定光が前記所定領域を1回走査する時間の間に、前記掃引幅の波長掃引をx回(xは整数)と、さらに前記掃引幅の内の波長λ1から波長λy(λy<λN)までの波長分の波長掃引を行うように前記光源および前記走査部を制御する、光干渉断層計。
【請求項8】
前記波長掃引にかかる時間をTswept、前記所定領域を1回走査する時間をTscan、前記掃引幅の内の波長λ1から波長λy(λy<λN)までの波長分の波長掃引時間をTyとすると、
Tscan=Tswept×α+Ty (αは2以上の整数)
である、請求項7に記載の光干渉断層計。
【請求項9】
前記制御部は、前記複数回走査の内、1回目の走査から所定回数目の走査において、前記測定光が走査開始されるタイミングと、前記掃引幅の波長λ1から波長掃引が開始されるタイミングとが一致するように、前記光源を制御する請求項7または請求項8に記載の光干渉断層計。
【請求項10】
前記制御部は、前記所定領域をM(M及びmは整数であり、M>m>1)回走査するとき、m回目の走査での照射開始波長λmが、m-1回目の走査の照射開始波長と異なるように前記光源及び前記走査部を制御し、M回目の照射終了波長が1回目の走査開始波長となるように前記光源を制御する、請求項7から請求項9の何れか一項に記載の光干渉断層計。
【請求項11】
前記掃引幅の内の波長λ1から波長λy(λy<λN)までの波長分の波長掃引時間Tyと前記掃引幅の掃引時間Tsweptとの関係が、
Tswept=Ty×z(zは整数)
である、請求項7から請求項10の何れか一項に記載の光干渉断層計。
【請求項12】
前記検出信号に基づいて前記所定領域の断層画像を生成する断層画像生成部をさらに備える、請求項7から請求項11の何れか一項に記載の光干渉断層計。
【請求項13】
前記測定光が前記物体に入射する角度を前記走査部による走査角度よりも大きくする光学系を更に備える、
請求項1から請求項12の何れか一項に記載の光干渉断層計。
【請求項14】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の光干渉断層計の制御方法であって、
前記制御部は、
前記物体の所定領域の断層画像を取得するために、
前記所定領域をM(M及びmは整数であり、M>m>1)回走査し、
m回目の走査での照射開始波長λmを、
λm=λ1+(m-1)×Δλ/M
となるように、前記光源及び前記走査部を制御する、
光干渉断層計の制御方法。
【請求項15】
請求項4から請求項6の何れか1項に記載の光干渉断層計の制御方法であって、
前記制御部は、
前記物体の所定領域の断層画像を取得するために、
前記所定領域をM(M及びmは整数であり、M>m>1)回走査し、
m回目の照射開始タイミングは、m-1回目の走査終了時から、(m-1)×Tswept/Mの時間が経過した時となるように、前記光源及び前記走査部を制御する、
光干渉断層計の制御方法。
【請求項16】
レーザー光を発すると共に、発するレーザー光の波長を、波長λ1から波長λNまでの掃引幅及び掃引時間で波長掃引が可能な波長掃引型の光源と、
前記光源から発せられたレーザー光を、測定光と参照光とに分岐させる分岐部と、
前記測定光を、物体の所定領域に向けて走査する走査部と、
前記物体の所定領域からの反射光と、前記参照光との干渉光を発生させる干渉部と、
前記干渉光を検出し検出信号を出力する検出部と、
前記測定光を複数回走査し、前記測定光が前記物体の前記所定領域に対して、継続して照射されるように前記走査部および前記光源を制御する制御部と、を備えた光干渉断層計の制御方法であって、
前記制御部は、前記物体の所定領域の断層画像を取得するために、前記測定光が前記所定領域を1回走査する時間の間に、前記掃引幅の波長掃引をx回(xは整数)と、さらに前記掃引幅の内の波長λ1から波長λy(λy<λN)までの波長分の波長掃引を行うように前記光源及び前記走査部を制御する、
光干渉断層計の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉断層計及び光干渉断層計に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2010/123892号公報には、波長掃引光源を用いて断層画像を取得する光干渉断層計が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
本開示の技術の光干渉断層計は、レーザー光を発すると共に、発するレーザー光の波長を、波長λ1から波長λNまでの掃引幅Δλ=λN-λ1で波長掃引が可能な波長掃引型の光源と、前記光源から発せられたレーザー光を、測定光と参照光とに分岐させる分岐部と、前記測定光を、物体の所定領域に向けて走査する走査部と、前記物体の所定領域からの反射光と、前記参照光との干渉光を発生させる干渉部と、前記干渉光を検出し検出信号を出力する検出部と、前記物体の所定領域の断層画像を取得するために、前記所定領域をM(M及びmは整数であり、M>m>1)回走査し、m回目の走査での照射開始波長λmを、λm=λ1+(m-1)×Δλ/Mとなるように、前記光源及び前記走査部を制御する制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】眼科装置110の概略構成を示す図である。
図2A】従来の技術における波長掃引と測定光の走査との関係を示す図である。
図2B】第1の実施の形態における波長掃引と測定光の走査との関係を示す図である。
図3】第1の実施の形態における波長掃引と測定光の走査との関係を示すタイミングチャートである。
図4】第1の実施の形態における測定光の走査によってSNRが向上する原理を示す図である。
図5】第2の実施の形態の眼科装置110の概略構成を示す図である。
図6】第2の実施の形態の波長掃引と測定光の走査との関係を示すタイミングチャートである。
図7】波長掃引とポリゴンミラー24の駆動タイミングとの関係を示すタイミングチャートである。
図8】A-Scanデータの構築方法を示す図である。
図9】第2の実施の形態の変形例における波長掃引と測定光の走査との関係を示すタイミングチャートである。
図10】第3の実施の形態の波長掃引とポリゴンミラー24の駆動タイミングとの関係を示すタイミングチャートである。
図11】第4の実施の形態の眼科装置110の撮影光学系19Tの概略構成を示す図である。
図12】第5の実施の形態の眼科装置110の撮影光学系19Uの概略構成を示す図である。
図13】第5の実施の形態のあるB-Scan像を取得する際の、波長掃引と測定光の走査との関係を示すタイミングチャートである。
図14】第6の実施の形態のB-Scan像を取得する際の、波長掃引と測定光の走査との関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0006】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施形態に係る眼科装置について図面を参照して説明する。
図1には、眼科装置110の概略構成が示されている。
眼科装置110は、本開示の技術の「光干渉断層計」の一例である。
【0007】
説明の便宜上、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography)を「OCT」と称する。
【0008】
なお、眼科装置110が水平面に設置された場合の水平方向を「X方向」、水平面に対する垂直方向を「Y方向」とし、被検眼12の前眼部の瞳孔の中心と眼球の中心とを結ぶ方向を「Z方向」とする。従って、X方向、Y方向、およびZ方向は互いに垂直である。
【0009】
眼科装置110は、制御装置16、OCTユニット20、および撮影光学系19を含む。OCTユニット20、および撮影光学系19は、制御装置16により制御される。OCTユニット20により取得されたOCTデータに基づいて作成された網膜の断層画像や正面画像(en-face画像)などをOCT画像と称する。
【0010】
制御装置16は、CPU(Central Processing Unit(中央処理装置))16A、RAM(Random Access Memory)16B、ROM(Read-Only memory)16C、および入出力(I/O)ポート16Dを有するコンピュータを備えている。
【0011】
制御装置16は、I/Oポート16Dを介してCPU16Aに接続された入力/表示装置16Eを備えている。入力/表示装置16Eは、被検眼12の画像を表示したり、ユーザから各種指示を受け付けたりするグラフィックユーザインターフェースを有する。グラフィックユーザインターフェースとしては、タッチパネル・ディスプレイが挙げられる。
【0012】
また、制御装置16は、I/Oポート16Dに接続された画像処理装置17を備えている。画像処理装置17は、被検眼12の画像を生成する。
画像処理装置17は、本開示の技術の「断層画像生成部」の一例である。
【0013】
上記のように、図1では、眼科装置110の制御装置16が入力/表示装置16Eを備えているが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、眼科装置110の制御装置16は入力/表示装置16Eを備えず、眼科装置110とは物理的に独立した別個の入力/表示装置を備えるようにしてもよい。この場合、当該表示装置は、制御装置16のCPU16Aの制御下で動作する画像処理プロセッサユニットを備える。画像処理プロセッサユニットが、CPU16Aが出力指示した画像信号に基づいて、断層画像等を表示するようにしてもよい。
【0014】
OCTユニット20は、光源20A、センサ(検出素子)20B、第1の光カプラ20C、参照光学系20D、コリメートレンズ20E、および第2の光カプラ20Fを含む。
【0015】
OCTユニット20の光源20Aは、CPU16Aの制御下で、波長掃引型の光(レーザー光)を射出する。より詳細には、光源20Aとして、出射波長を時間的に高速で変化させる波長可変光源(波長走査型光源)が用いられる。光源20Aは、例えば、レーザー媒体、共振器、及び波長選択フィルタによって構成される。そして、波長選択フィルタとして、例えば、回折格子とポリゴンミラーの組み合わせ、ファブリー・ペローエタロンを用いたフィルタが挙げられる。また、光源20Aとして、VCSEL式波長可変光源が用いられてもよい。第1の実施の形態では、CPU16Aは、所望の時間に所望の波長の光(後述する測定光)が射出されるように、回折格子とポリゴンミラーを制御する。これにより、光源20Aは、波長λ1から波長λNまでの掃引幅Δλ=λN-λ1及び掃引時間Tsweptで波長を掃引する。
【0016】
撮影光学系19は、KTNスキャナ23と、反射ミラー25、リレー光学系30を含む。
【0017】
KTNスキャナ23は、KTN結晶(カリウム(K)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)から成る酸化物結晶)の電圧を加えると屈折率を自在に変えられるという性質(空間電荷制御電気光学効果)を利用した、可動部の無い高速かつ小型の光スキャナである。KTNスキャナ23の測定光の走査時間は、光源20Aの波長の掃引時間Tsweptと同じである。第1の実施の形態では、CPU16Aは、光源20Aの波長掃引とKTNスキャナ23の測定光の走査とを同動させる。CPU16Aは、光源20Aの波長掃引の開始のタイミング及び終了のタイミングのそれぞれとKTNスキャナ23による測定光の走査の開始タイミング及び終了のタイミングのそれぞれとが同じになるように、光源20A及びKTNスキャナ23を制御する。
【0018】
リレー光学系30は、複数のレンズにより構成されている。また、KTNスキャナ23の位置と瞳孔位置とが共役となるようにリレー光学系30が構成されている。
【0019】
光源20Aから射出された光は、第1の光カプラ20Cで分岐される。分岐された一方の光は、測定光として、コリメートレンズ20Eで平行光にされた後、撮影光学系19に入射される。測定光は、KTNスキャナ23によって所定方向(例えば、Y方向)に走査される。走査光はリレー光学系30及び瞳孔を経由して、眼底に照射される。眼底により反射された測定光は、リレー光学系30及びKTNスキャナ23を経由してOCTユニット20へ入射され、コリメートレンズ20Eおよび第1の光カプラ20Cを介して、第2の光カプラ20Fに入射する。
【0020】
光源20Aから射出され、第1の光カプラ20Cで分岐された他方の光は、参照光として、参照光学系20Dへ入射され、参照光学系20Dを経由して、第2の光カプラ20Fに入射する。
【0021】
第2の光カプラ20Fに入射されたこれらの光、即ち、眼底で反射された測定光と、参照光とは、第2の光カプラ20Fで干渉されて干渉光を生成する。干渉光はセンサ20Bで受光される。CPU16Aの制御下で動作する画像処理装置17は、センサ20Bで検出されたOCTデータに基づいて眼底(網膜)の断層画像やen-face画像などのOCT画像を生成する。また、眼底だけでなく、角膜や水晶体などの前眼部で測定光が反射するようにして、前眼部の断層画像やen-face画像などのOCT画像を生成することも可能である。
第1の光カプラ20C、KTNスキャナ23、第2の光カプラ20F、及びセンサ(検出素子)20Bはそれぞれ、本開示の技術の「分岐部」、「走査部」、「干渉部」、及び「検出部」の一例である。
【0022】
次に、図2Aと、図2B及び図3とを参照して、波長掃引と測定光の走査との関係を説明する。
【0023】
図2Aには、従来の技術における波長掃引と測定光の走査との関係が示されている。眼底の断層画像を取得する領域として直線の領域が指定された場合を説明する。図2Aに示すように、従来の技術における測定光の走査では、網膜1点において光源の波長掃引を行い、干渉光を検出し、1次元の断層画像(A-Scan像)を取得し、次の測定点に測定光を走査する。これを繰り返して、2次元の断層画像(B-Scan像)G1を構築する。このように測定光が、波長λ1~λNまで波長掃引されながら、網膜1点に照射される。従って、網膜1点に測定光が照射されている時間は、詳細には後述する第1の実施の形態の対応する時間より長い。
【0024】
図2Bには、第1の実施の形態における波長掃引と測定光の走査との関係が示されている。図2Bに示すように、第1の実施の形態では、以下のように、断層画像を取得する範囲RIについて、走査方向Fの測定光の走査が複数回(S1,S2,...SM)行われると共に、各走査(S1,S2,...SM)で、当該範囲RIの各領域(例えば、点)に照射される測定光の波長が異なる。
【0025】
まず、断層画像を取得する範囲RIを1回走査するために必要な時間をTscan、波長掃引にかかる時間をTsweptとすると、
Tscan=Tswept
である。
【0026】
そして、波長掃引タイミングをシフトさせながら測定光の走査を繰り返す。具体的には、断層画像を取得する範囲RIにおいて測定光を、M(M及びmは整数であり、M>m>1)回走査し、m回目の走査での照射開始波長λmを、λm=λ1+(m-1)×Δλ/Mとなるように、CPU16Aは、光源20A及びKTNスキャナ23を制御する。なお、λ1は、1回目の走査での断層画像を取得する範囲RIにおける走査開始領域RSに照射される波長である。
【0027】
具体的には、
λ2-λ1=Δλ/M、λ2=λ1+Δλ/M、
λ3-λ2=Δλ/M、λ3=λ1+2×Δλ/M、
...
λN-λN-1=Δλ/M、λN=λ1+(M-1)×Δλ/M
である。
【0028】
より具体的には、次の通りである。
(1)第1回目の走査S1では、測定光が断層画像を取得する範囲RIにおける走査の開始領域RSから終了領域REまで走査されるに従って、当該範囲RIに照射される測定光の波長がλ1、λ2、...λNまで掃引される。
(2)第1回目の走査S1で走査の終了領域REまで走査された場合、第2回目の走査S2の走査の開始領域RSが走査される時までに、波長がλ2から掃引開始できるように、光源20Aが制御される。
(3)第2回目の走査S2では、測定光が当該範囲RIにおける走査の開始領域RSから終了領域REまで走査されるに従って、当該範囲RIに照射される測定光の波長は、λ2からλNまで掃引され、最後に終了領域REにおいてλ1に掃引される。当該m(=2)回目の走査での照射開始波長λ2は、
λ2=λ1+(2-1)×Δλ/Mとなる。
(4)第2回目の走査S2で走査の終了領域まで走査された場合、第3回目の走査S3の走査の開始領域RSが走査される時までに、波長がλ3から掃引開始できるように、光源20Aが制御される。
(5)第3回目の走査S3での照射開始波長λ3は、
λ3=λ1+(3-1)×Δλ/Mとなる。
このような光源20A及びKTNスキャナ23の制御が繰り返され、断層画像を取得する範囲RIが複数(M)回行われ、最終的な断層画像G110を生成するための検出信号を取得することができる。
断層画像を取得する範囲RIは、本開示の技術の「所定領域」の一例である。
【0029】
図3を用いて、測定光の波長掃引タイミングをシフトさせながら行う走査について詳細に説明する。第1の実施の形態では、断層画像であるB-Scanデータを取得するために、網膜における断層画像を取得する範囲について直線状に走査を行う。つまり、断層画像を取得する範囲である所定の線分区間RIに測定光が照射される。線分区間RIについてB-Scanデータを取得するために行う走査は、従来では一回であったが、第1の実施の形態では、複数(M)回(図3では2000回)である。
【0030】
測定光の第1回目の走査S1では、光源20Aからの測定光が、波長λ1から波長λ2000まで波長掃引されながら、線分区間RIについて走査されるように光源20A及びKTNスキャナ23が制御される。具体的には、まず、線分区間RIの最初の領域R1に、波長λ1の測定光が照射される。KTNスキャナ23が駆動されるにしたがって測定光は線分区間RIを、B-Scan走査方向に移動する。例えば、領域R1の隣の領域R2には、波長λ2の測定光が照射される。このようにして、線分区間RIにおいて、図2の紙面の左から右に測定光が走査される際に、測定光の波長が、λ1からλN(例えば、λ2000)まで変化する。よって、線分区間RIの各領域(例えば、点)には異なる波長の測定光が照射される。
【0031】
測定光の第2回目の走査S2では、線分区間RIの最初の領域R1に、波長λ2の測定光が照射されるように光源20A及びKTNスキャナ23が制御される。領域R2以降で、最後の領域R2000の1つ前の領域R1999までは、第1回目の走査と同様に、測定光の波長掃引がされる。具体的には、波長λ3になるタイミングで、波長λ3の測定光は、領域R1の隣の領域R2に照射され、波長λ4になるタイミングで、波長λ4の測定光は、領域R2の隣の領域R3に照射され、領域R1999には、波長λ2000の測定光が照射される。そして、最後の領域R2000には、波長R1の測定光が照射される。
【0032】
以上を、測定光の合計M(図3では、2000)回目の走査まで繰り返す。これにより、例えば、線分区間RIにおける最初の領域R1には、2000回の走査によって、λ1からλ2000までのすべての波長の光が照射される。これは、領域R1への測定光が2000回に分割されて照射されることになり、領域R1に継続して照射され続く光の総エネルギー量は、従来の技術の図2Aの走査方法の場合より、小さくなる。即ち、従来の技術の図2Aの走査方法では、走査開始領域には、λ1からλN(λ2000)の範囲の測定光が、波長掃引時間、継続して照射され続く。よって、領域R1に継続して照射され続く光のエネルギー量は、第1の実施の形態より、大きい。
このように断層画像を取得する範囲である線分区間RIにおける各領域(例えば、点)に測定光が継続して照射され続く時間は、従来の技術の図2Aの走査方法より図2Bに示す第1の実施の形態の走査方法のほうが短い。
【0033】
第1の実施の形態における測定光の2000回の走査に係る時間は、次の通りである。
たとえば、波長掃引周期が200kHz、波長掃引数2000(λ1からλ2000)とすると、
(1/200kHz)×(2000)=0.01 (秒)
【0034】
これは、上記従来技術における測定光の走査に係る時間に比較して、2倍の高速化が可能になっている。
【0035】
第1の実施の形態では、眼に対するレーザー安全基準としてワールドスタンダードのひとつであるIEC60825-1(2014年度版)を採用する。当該基準によると、許容できる眼への入射レーザーパワー(Maximum Permissible Exposure: MPE)は以下の式により導出される。
18×t0.75×C4×C6(Jm-2)・・・(1)
【0036】
ここで、C4及びC6は定数、tは網膜1点あたりに照射されるレーザーのトータル照射時間である。なおここで導出されるMPEは眼の角膜上での値である。
【0037】
(1)式に規定されているように、MPEは、tの0.75乗に比例する。つまり、波長掃引光源の掃引速度を高速化して網膜1点あたりの照射時間を短くした場合に、それに比例してレーザーパワーを上げることはできない。つまり単純な高速化は、同時にOCT画像のSNR(SN比:信号 (signal)と雑音(noise)の比)の低減をもたらす結果となる。
【0038】
第1の実施の形態の測定光の走査では、眼のレーザー安全基準の導出式(1)の照射時間tが、全掃引波長のうち1波長が発振している極めて短い時間となる。たとえば、波長掃引周期が200kHz、波長掃引数2000(λ1からλ2000)とすると、
t=(1/200kHz)×(1/2000)=2.5×10-9 (秒)
となる。
【0039】
従来の技術の測定光の走査では、t=(1/200kHz)=5.0x10-6 (秒)となる。
【0040】
MPEはtの0.75乗に比例するので、第1の実施の形態の測定光の走査では、許容入射レーザーパワーを大きくすることが可能となる。よって、SNRを向上させることができる。
【0041】
図4には、第1の実施の形態における測定光の走査によってSNRが向上する原理が示されている。図4は縦軸にレーザー光の強度、横軸に照射されている時間をとり、安全性を保つための、ある領域(例えば、点)にレーザー光を照射する照射時間と、当該領域に照射するレーザー光の強度との関係を示した図である。
図4に示すように、従来の技術において、例えば、波長掃引速度が100kHzの測定光の走査では、断層画像を取得する範囲の各領域へレーザー光を継続して照射する照射時間が長くなるので、安全のため、レーザー強度を低くする必要がある(図4の矩形領域Iを参照)。また、従来の技術において、例えば、波長掃引速度が200kHzの測定光の走査では、波長掃引速度が上がるため、断層画像を取得する範囲の各領域へレーザー光を継続して照射する照射時間が100kHzに比べて短くなる。このため、安全性を保つためのレーザー光の強度は、100kHzの場合と比べて高くできる(図4の矩形領域IIを参照)。
これに対し、第1の実施の形態(例えば、波長掃引速度が200kHzの場合)の測定光の走査では、断層画像を取得する範囲を複数走査するので、継続してレーザー光を照射する時間を短くすることができ、単位時間当たりのレーザー光の強度を高くすることが可能となる(図4の矩形領域IIIを参照)。このように、第1の実施の形態の測定光の走査では、強度の高いレーザー光を用いることができるので、SNRが高くなる。
【0042】
全掃引波長のうち1波長(たとえばλ1)のみに着目すると、それが網膜1点あたりに照射される時間は従来の技術の測定光の走査と比べて変わらない。
【0043】
以下の相対SNRの導出式(2)でいえば、許容入射レーザーパワーは向上するが照射時間は変わらないという状況が実現できる。
【0044】
相対SNR=[(許容入射レーザーパワー/100kHzの許容入射レーザーパワー)x(網膜1点あたりの照射時間/100kHzの照射時間)]0.5・・・・(2)
【0045】
導出式(1)および(2)から計算すると、約1.99倍の相対的SNR向上を実現することができる。
【0046】
このように、第1の実施の形態の測定光の走査により、断層画像の取得の高速化と断層画像におけるSNR向上が同時に実現することができる。
【0047】
[第2の実施の形態]
【0048】
次に、第2の実施の形態の眼科装置について図面を参照して説明する。第2の実施の形態の眼科装置の構成は、第1の実施の形態の眼科装置の構成と略同様であるので、同一部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、主として異なる部分のみを説明する。
【0049】
図5には、第2の実施の形態の眼科装置110の概略構成が示されている。図5に示すように、第2の実施の形態の眼科装置110では、第1の実施の形態の眼科装置110の撮影光学系19のKTNスキャナ23及び反射ミラー25に代えて、ポリゴンミラー24を備えている。眼科装置110は、網膜の断層画像を取得する範囲RIを分割した領域R1、領域R2、...領域R100...領域RNを走査し、範囲RIのA-Scanデータを得る。
【0050】
図6には、第2の実施の形態の波長掃引と測定光の走査との関係が示されている。図7には、波長掃引とポリゴンミラー24の駆動タイミングとの関係が示されている。
【0051】
図6及び図7に示すように、第2の実施の形態では、波長掃引時間Tsweptと1回の走査にかかる時間Tscanとが異なるように制御されるポリゴンミラー24を用いて、断層画像を取得する範囲における各点に照射される波長をシフトする手法が用いられる。
【0052】
具体的には、図7(A)に示すように、CPU16Aからの駆動信号が200KHzの周期で入力される毎に、光源20Aは、波長掃引(λ1からλ2000)を開始する。図7(B)に示すように、CPU16Aからポリゴンミラー24に出力される駆動信号が-dからdに変化すると、ポリゴンミラー24が1走査に対応する所定角度回転する。
【0053】
1回目の走査S1では、λ1からλ2000までの波長掃引が、例えば、4回繰り返えされながら、測定光が入射されているポリゴンミラー24の1つの反射面の被検眼に対する角度が変化し、当該測定光が、断層画像を取得する範囲RIについて1回走査される。
【0054】
2回目の走査S2では、1回目の測定光の走査が終わった時に、CPU16Aは、ポリゴンミラー24に出力する駆動信号を、dから-dに変化させ、ポリゴンミラー24の次の反射面による測定光の走査を可能にする。
一方、2回目の走査S2では、CPU16Aは、光源20Aへの駆動信号を出力するタイミングを、1回目の測定光の走査が終了した時から、所定時間T0(例えば、20波長掃引するのに要する時間、つまりλ1~λ20やλ21~λ40の波長幅の掃引に要する時間)、遅らせ、4回波長掃引を繰り返す。よって、2回目の走査の際の照射開始タイミングは、1回目の走査が終了したときから、所定時間T0経過したときである。
【0055】
3回目の走査S3では、2回目の測定光の走査が終わった時に、CPU16Aは、ポリゴンミラー24に出力する駆動信号を、上記と同様にdから-dに変化させる。
一方、3回目の走査S2では、CPU16Aは、光源20Aへの駆動信号を出力するタイミングを、2回目の走査S2のための4回目の波長掃引が終了したときから所定時間T0だけ遅らせる。なお、このタイミングは、2回目の測定光の走査の終了時(即ち、CPU16Aからポリゴンミラー24への駆動信号がdになった時)から、2×T0経過したときである。2×T0は、40波長掃引するのに要する時間である。
【0056】
このように、断層画像を取得する範囲RIについて測定光をM(M>m>1で、整数)回走査し、m回目の照射開始タイミングTmは、m-1回目の走査が終了したときから、
Tm=(m-1)×Tswept/M=(m-1)×T0
経過した時となるように、CPU16Aは、光源20A及びポリゴンミラー24の少なくとも一方を制御する。これにより、最終的なB-Scan画像を生成する。
【0057】
以上をより詳細に説明すると、図6にも示すように、断層画像を取得する範囲RIについて測定光をM回走査し、断層画像を取得する範囲R1が分割された領域R1、領域R2...領域R100...領域RN(PN)の領域ごとにA-Scanデータが得られる。第2の実施の形態では、A-Scan画像を取得する各領域においては、1回の走査においては、所定数の波長範囲(例えば、λ1~λ20までの波長の範囲)の波長掃引がされた測定光が照射される。
【0058】
具体的には、1回目の走査S1における最初の領域R1には、λ1からλ20の掃引された測定光が照射される。2番目の領域R2には、λ21からλ40の掃引がされた測定光が照射される。同様に、100番目の領域R100には、図6の左にも記載されている枠f200の中に示すように、λ1981からλ2000の掃引がされた測定光が照射される。光源20Aの波長は、λ1からλ2000まで掃引されると、λ1に戻って再度掃引される。光源20Aの波長掃引(λ1からλ2000)が繰り返えされるので、101番目の領域R101には、λ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。このような波長掃引による測定項の照射が断層画像を取得する範囲における最後の領域RNまで繰り返される。図6に示す例では、断層画像を取得する範囲の1走査で4回の波長掃引が行われる。すなわち、λ1からλ2000の波長掃引が4回繰り返される。従って、断層画像を取得する範囲RIを1回走査するために必要な時間Tscanと、波長掃引にかかる時間Tsweptとは、以下の関係がある。
Tscan=4×Tswept
【0059】
本開示の技術では、1走査で4掃引が行われることに限定されない。例えば、1走査で2、3、5...掃引されてもよい。よって、
Tscan≧α×Tswept (αは2以上の整数)
である。
【0060】
測定光の2回目の走査S2では、波長掃引の開始タイミングが、T2=(2-1)×Tswept/100、シフトされる(m=2、M=100)。
説明の都合上、波長λ1を1個、波長λ2を同様に1個として数えるとすると、λ1からλ20の間に波長掃引される波長の数は、20個である。
測定光の2回目の走査では、波長が20個分、掃引される時間、波長掃引の開始タイミングが遅れる。
【0061】
上記のように網膜の各領域R1~領域RNについては、それぞれ20個分、波長が掃引された測定光が照射される。よって、測定光の2回目の走査では、断層画像を取得する範囲における最初の領域R1には、測定光は照射されない。2番目の領域R2から測定光が照射される。具体的には、2番目の領域R2には、λ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。3番目の領域R3には、λ21からλ40の掃引がされた測定光が照射される。100番目の領域R100には、λ1961からλ1980の掃引がされた測定光が照射される。断層画像を取得する範囲における最後の領域RNまで繰り返される。最後の領域RNには、λ1961からλ1980の掃引がされた測定光が照射される。次の掃引の範囲A(図6において斜線が引かれた矩形の範囲)であるλ1981からλ2000の掃引がされた測定光が照射されるタイミングは、測定光の3回目の走査における、断層画像を取得する範囲における最初の領域R1に測定光が照射されるタイミングである。
【0062】
測定光の3回目の走査S3では、断層画像を取得する範囲における最初の領域R1には、上記のように、λ1981からλ2000の掃引がされた測定光が照射される。その後、第2回目の走査と同様に、波長掃引の開始タイミングが、波長が20個分、遅れる。よって、測定光の3回目の走査では、断層画像を取得する範囲における2番目の領域R2には、測定光は照射されない。3番目の領域R3には、λ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。断層画像を取得する範囲における最後の領域RNには、λ1941からλ1960の掃引がされた測定光が照射される。次の掃引の範囲B(図6において斜線が引かれていない矩形の範囲)であるλ1961からλ1980の掃引がされた測定光が照射されるタイミングは、測定光の4回目の走査S4における、断層画像を取得する範囲における最初の領域R1に測定光が照射されるタイミングである。更に次の掃引の範囲Aであるλ1981からλ2000の掃引がされた測定光が照射されるタイミングは、測定光の4回目の走査S4における、断層画像を取得する範囲における2番目の領域R2に測定光が照射されるタイミングである。
【0063】
以上を図6に示す例では、100回目の走査まで行われる(M=100)。
λ1からλ2000の波長掃引を100回の走査で行うとすると、断層画像を取得する範囲の領域R1から領域R99までは、λ1からλ2000の波長範囲の内、λ1~λ2000の中のいずれかの20波長範囲の部分の測定光が照射されないことになる。例えば、領域R1には、λ1からλ20の範囲と、λ41からλ2000までの範囲の測定光が照射されるが、λ21からλ40までの範囲の測定光は照射されない。なぜなら、上記のように、第2回目の走査では、波長掃引の開始タイミングが、波長が20個分、遅れるからである。
【0064】
これに対し、領域R100~領域RNでは100回走査されることにより、λ1からλ2000の波長の測定光が照射されることになる。例えば、100番目の領域R100には、1回目の走査によりλ1981からλ2000、2回目の走査によりλ1961からλ1980、3回目の走査によりλ1981からλ2000...100回目においてλ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。つまり、領域R1~領域R99まではλ1~λ2000の間のすべての波長が照射されないので、A-SCANデータの作成は行わず、λ1~λ2000の間のすべての波長が照射される領域R100~領域RNでA―scanデータの生成を行う。
【0065】
領域R100に照射された測定光の戻り光と参照光との干渉光の検出信号から、領域R100のA-Scanデータが構築される。
領域R100の当該検出信号は、1回目の走査、2回目の走査、...100回目の走査と、時間的に連続したデータではなく離散的に得られるデータであるため(図6の下側のR100で囲まれた矩形の中の波長範囲を参照)、各回の走査による検出信号をメモリに保存しておく。そして、領域R100が走査される各走査回におけるタイミングの検出信号をメモリから取り出すことにより、領域R100のA-Scanデータを構築するのに必要な検出信号を得ることができる
【0066】
M回(図6では100回)におけるm回目の走査で、領域R100が走査されるタイミングは、各回の走査の開始時刻(領域R1が走査される時刻)をゼロ(スタート時刻)とすると、
(M-m)×Tswept/M
で、あらわすことができる。
【0067】
1回目の走査では、(100-1)×Tswept/100からTswept/100経過する間、
2回目の走査では、(100-2)×Tswept/100からTswept/100経過する間、
...
100回目の走査では、(100-100)×Tswept/100=ゼロ、つまりスタート時間からTswept/100経過する間となる。
【0068】
よって、領域R100が走査される各走査回におけるタイミングが計算で判明するので、領域R100のA-Scanデータ構築に必要な検出信号が特定される。このような処理を領域R100から領域RNに行うことにより、領域R100~領域RNにおける複数のA―scanデータを生成し、B-scanデータである断層画像が生成される。
【0069】
なお、領域R99が走査されるタイミングは、次の通りである。
1回目の走査では、(100-2)×Tswept/100からTswept/100経過する間、
2回目の走査では、(100-3)×Tswept/100からTswept/100経過する間、
...
99回目の走査では、(100-100)×Tswept/100=ゼロ、つまりスタート時間からTswept/100経過する間となる。
【0070】
図8を用いて、A-Scanデータの構築方法を具体的に説明する。図8に示すように、センサ20Bでは、例えば、100番目の領域R100に対応する検出信号に着目すると、1回目、2回目...100回目の走査における、λ1981からλ2000、λ1961からλ1980、...λ1からλ20の掃引がされた測定光に対応する検出信号H1、H2、...H100が切り出される。切り出された検出信号は、波長軸に沿って整列(H100、...H2、H1)させる。この整列した検出信号が干渉スペクトル信号に相当する。画像処理装置17は、干渉スペクトル信号を高速フーリエ変換することにより、A-Scanデータを構築する。画像処理装置17は、以上の処理を、各点について行い、A-Scanデータを構築する。そして、これらを、断層画像を取得する範囲の領域R1~RNの順に並べてB-Scanデータ(網膜の断層画像データ、あるいはOCTデータ)を生成する。断層画像を取得する範囲は線状だけでなく矩形、や円形などを走査するようにしてもよい。矩形や円形の走査ではOCT体積データを得ることができ、網膜の立体画像データを得ることができる。
【0071】
第2の実施の形態において実現される諸パラメータを一般化すると以下のようになる。
【0072】
全走査回数=(掃引波長数)/(走査毎のタイミングシフト量)
トータル測定スピード=(1/スキャナ速度)×(全走査回数)
データサンプル数=(全走査回数)×(波長掃引速度/スキャナ速度)
例えば、ポリゴンミラー24が、回転速度100kRPMで6面体の回転6面鏡を想定する(走査角度120-deg、走査速度10kHz相当)。
【0073】
走査毎のタイミングシフト量を20波長分とするとB-Scanデータを生成するための走査回数は、(2000)/(20)=100回となる。その結果、トータルの測定スピードは以下のように見積もられる。
(1/10kHz)×(100)=0.01 (秒)
【0074】
この場合のOCT断層画像のデータサンプル数は、
(2000/20)×(200kHz /10kHz)=2000点
となる。
【0075】
波長掃引速度100kHzの光源を用いた従来の技術では、データサンプル数を2000とした場合、その測定スピードは、
(100kHz/2000)=50Hz
となるので、それと比較すると2倍の高速化が実現できる。
【0076】
なおタイミングシフト量を40波長分とすると、全走査回数は
(2000/40)=50回
となる。そしてトータルの測定スピードは、
(1/10kHz)×(50)=0.005(s)、
即ち、200Hzとなり4倍高速化する。
【0077】
次に、本構成によるSNR向上効果を説明する。
【0078】
走査角度は120-degであり、これは網膜の範囲にして約33.5mmに相当する。この範囲に (全掃引波長数2000)×(波長掃引速度200kHz/スキャナ速度 10kHz)=40000点の波長が照射されることになる。すると、1波長あたりの照射範囲は33.5mm/40000=0.84umとなる。
【0079】
被検眼の瞳への入射ビーム径を2mmとすると、網膜上における集光スポット径は6.62umとなる。よって、網膜1点あたりには
6.62um/0.84um=7.88
となり、約8波長が照射され続けることになる。
時間に換算すると、
8×(1/200kHz)×(1/2000)=20ns
となる。
【0080】
この場合、導出式(1)および(2)に従って計算すると相対的SNRは約1.54倍となる。
【0081】
なお、200kHzの波長掃引光源を用いた従来の技術では、相対的SNRは0.77に低下する。
【0082】
以上説明した第2の実施の形態では、光源20Aの波長掃引(λ1からλ2000)を繰り返しながら測定光の走査を行うと共に、2回目以降の走査では、波長掃引の開始タイミングをシフトさせている。本開示の技術はこれに限定されない。
【0083】
図9に示すように、測定光の2回目以降の各走査の最初の領域R1には、前回の走査における最後の20波長分であるλ1981からλ2000の測定光が照射される。なお、これは、CPU16Aが、光源20Aの波長掃引を調整することにより、実現される。
【0084】
具体的には、測定光の1回目の走査では、断層画像を取得する範囲における最初の領域R1には、λ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。2番目の領域R2には、λ21からλ40の掃引がされた測定光が照射される。3番目の領域R3には、λ41からλ60の掃引がされた測定光が照射される。100番目の領域R100には、λ1981からλ2000の掃引がされた測定光が照射される。
【0085】
断層画像を取得する範囲の2回目の走査では、最初の領域R1には、λ1981からλ2000の掃引がされた測定光が照射される。2番目の領域R2には、λ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。3番目の領域R3には、λ21からλ40の掃引がされた測定光が照射される。100番目の領域R100には、λ1961からλ1980の掃引がされた測定光が照射される。
【0086】
断層画像を取得する範囲の3回目の走査では、最初の領域R1には、λ1961からλ1980の掃引がされた測定光が照射される。2番目の領域R2には、λ1981からλ2000の掃引がされた測定光が照射される。3番目の領域R3には、λ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。100番目の領域R100には、λ1941からλ1960の掃引がされた測定光が照射される
【0087】
図9に示す例では、100回目の走査まで行われる。よって、各領域R1~領域R100にすべての掃引波長(λ1からλ2000)が100回に時間的に分割されて照射されることになる。そして、図8と同様の手法で、A-Scanデータが生成され断層画像データを生成することができる。
【0088】
[第3の実施の形態]
【0089】
次に、第3の実施の形態の眼科装置について図面を参照して説明する。第3の実施の形態の眼科装置の構成は、第2の実施の形態の眼科装置の構成(図5参照)と同様であるので、その説明を省略する。
【0090】
図10には、波長掃引とポリゴンミラー24の駆動タイミングとの関係が示されている。第3の実施の形態も、波長掃引時間と1回の走査にかかる時間とが異なるポリゴンミラー24を用いて、断層画像を取得する範囲における各領域に照射される波長をシフトする手法である。
【0091】
例えば、光源20Aは、波長掃引数が2000で波長掃引周波数が200kHzの光源である。ポリゴンミラー24の回転周波数は、198kHzである。断層画像を取得する範囲における各領域に照射される波長は走査の1周期毎に20波長だけシフトする。これを100回の各走査について繰り返す。
【0092】
より詳細に説明すると、図10に示すように、1回目の走査では、ポリゴンミラー24の駆動信号の開始タイミングと、光源20Aの波長掃引の開始タイミングとが一致する。しかし、1回の走査の時間は、光源20Aの波長掃引が4回分の時間と、20波長分の波長掃引の時間とを加算した時間になっている(説明の都合上、波長λ1を1個、波長λ2を同様に1個として数える。例えば、波長λ1~λ20は20波長分とする)。よって、断層画像を取得する範囲における最初の領域Rには、λ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。最後から1つ前の領域には、λ1981からλ2000の掃引がされた測定光が照射される。最後の領域には、λ1からλ20の掃引がされた測定光が照射される。
【0093】
よって、2回目の走査では、断層画像を取得する範囲における最初の領域には、λ21からλ40の掃引がされた測定光が照射される。最後の領域には、λ21からλ40の掃引がされた測定光が照射される。
【0094】
以上の処理が繰り返され、断層画像を取得する範囲の各領域に波長掃引される範囲の全波長の測定光が照射され、断層画像が得られる。
【0095】
ポリゴンミラー24の回転周波数を低くすることも可能で、例えば、9.995kHzである場合は、1走査内に20回の波長掃引と20波長分のシフトが行われる。この場合の測定時間は以下のようになる。
(1/9.995kHz)×(100)=0.010005 (秒)
【0096】
第3の実施の形態は、第2の実施の形態と波長シフトの手法を変えたものであり、網膜上での照射時間は変わらない。そのため、第3の実施の形態の相対的SNRも約1.54倍となる。
【0097】
[第4の実施の形態]
【0098】
次に、第4の実施の形態の眼科装置について図面を参照して説明する。第4の実施の形態の眼科装置の構成は、第1の実施の形態の眼科装置の構成と略同様であるので、同一部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、主として異なる部分のみを説明する。
【0099】
図11には、第4の実施の形態の眼科装置110の撮影光学系19Tの概略構成が示されている。図11に示すように、第4の実施の形態の撮影光学系19Tでは、第1の実施の形態の眼科装置110の撮影光学系19のリレー光学系30に代えて、KTNスキャナ23側から被検眼側に、第1のリレー光学系30Aと第2のリレー光学系30Bとを備えている。第1のリレー光学系30Aと第2のリレー光学系30Bはそれぞれ複数のレンズから構成されている。
【0100】
第1のリレー光学系30Aにより、KTNスキャナ23の位置と、第1のリレー光学系30Aと第2のリレー光学系30Bとの間の中間位置とが共役となり、第2のリレー光学系30Bにより、当該中間位置と被検眼の位置とは共役となる。
【0101】
ところで、KTNスキャナ23の走査角度は、所定角度(例えば、10-deg(10度))である。
【0102】
第4の実施の形態では、第1のリレー光学系30Aにより、測定光の走査角度を拡大させている。具体的には、第1のリレー光学系30Aは、倍率(横倍率)を、例えば、(1/7)倍としている。これにより、走査角度を7倍(70-deg(70度))とすることができる。
【0103】
[第5の実施の形態]
【0104】
次に、第5の実施の形態の眼科装置について図面を参照して説明する。第5の実施の形態の眼科装置の構成は、第1の実施の形態の眼科装置の構成と略同様であるので、同一部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、主として異なる部分のみを説明する。
【0105】
図12には、第5の実施の形態の眼科装置110の撮影光学系19Uの概略構成が示されている。図12に示すように、第5の実施の形態の撮影光学系19Uでは、第1の実施の形態の眼科装置110の撮影光学系19の反射ミラー25及びリレー光学系30に代えて、走査ミラー25C及びリレー光学系30Cを備えている。走査ミラー25Cにより、KTNスキャナ23により測定光が1回走査される毎に、測定光が走査する領域が移動される。リレーレンズ30Cにより、KTNスキャナ23の位置と、被検眼の位置とは共役となる。
【0106】
第5の実施の形態では、第1の実施の形態における走査可能な範囲を、第4の実施の形態とは異なる方法で、拡大している。即ち、第5の実施の形態では、KTNスキャナ23及び走査ミラー25Cの組み合わせにより、走査できる画角を広角にしている。よって、図12の被検眼の眼底領域を、第1~第4の実施の形態よりも広い画角で撮影可能である。これは、より広範囲の眼底領域(眼底中心部だけではなく眼底周辺部を含む領域)の断層画像を取得可能であることを意味する。眼底中心部に存在する視神経乳頭や黄斑を含む領域の弾道画像だけでなく、眼底周辺部の病変、新生血管、渦静脈などを含む領域の断層画像を取得することができる。
【0107】
図13には、第5の実施の形態である広角な画角を走査での断層画像データ(B-Scanデータ)を取得する際の、波長掃引と測定光の走査との関係が示されている。
【0108】
まず、眼底中心部である第1領域Rc(図12参照)の断層画像の取得を行う。
測定光の1回目の走査S1(図13の一番上参照)では、断層画像を取得する範囲の内の第1領域Rcにおける最初の領域R1には、λ1からλ10の掃引がされた測定光が照射される。最初の領域R1の隣の領域R2には、λ11からλ20の掃引がされた測定光が照射される。第1領域Rcの最後の領域R200には、λ1991からλ2000の掃引がされた測定光が照射される。
【0109】
測定光の2回目の走査S2(図13の上から2番目参照)では、断層画像を取得する範囲の内の第1領域Rcにおける最初の領域R1には、λ11からλ20の掃引がされた測定光が照射される。2番目の領域R2には、λ21からλ30の掃引がされた測定光が照射される。第1領域Rcの最後の領域RN点には、λ1からλ10の掃引がされた測定光が照射される。
【0110】
最後の走査SM(200回目の走査、図13の一番下参照)では、断層画像を取得する範囲の内の第1領域Rcにおける最初の領域R1には、λ1991からλ2000の掃引がされた測定光が照射される。2番目の領域R2には、λ1からλ10の掃引がされた測定光が照射される。第1領域Rcの最後の領域RNには、λ1981からλ1990の掃引がされた測定光が照射される。
【0111】
以上の複数回の走査により、領域Rcの中心断層画像データが得られる。
【0112】
次に、走査ミラー25Cにより、領域Rcに上側に隣接する第1周辺領域Rp1に、走査領域を移動させる。走査ミラー25Cにより走査領域を移動させた後、図13に示す、領域Rcの複数回の走査と同様にして、当該隣接する領域Rp1の第1周辺断層画像データを取得する。
【0113】
そして、同様にして、領域Rcに下側に隣接する第2周辺領域Rp2の第2周辺断層画像データを取得する。そして、画像処理装置17にて、中心断層画像データ、第1周辺断層画像データおよび第2周辺領域Rp2の第2周辺断層画像データを合成することにより、第1~第4の実施の形態よりも広範囲RLの断層画像データを生成することができる。
上述では、中心領域Rc、第1周辺領域Rp1、第2周辺領域Rp2の3つの領域に分割して断層画像を取得したが、断層画像を取得する範囲を、2、3、5あるいは7領域など任意の領域数に分割して、断層画像を取得するようにしてもよい。
【0114】
[第6の実施の形態]
【0115】
次に、第6の実施の形態の眼科装置について図面を参照して説明する。第6の実施の形態の眼科装置の構成は、第1の実施の形態から第5の実施の形態の何れの構成も採用することができる。
【0116】
図14には、断層画像データを取得する際の、波長掃引と測定光の走査との関係が示されている。
【0117】
図14に示すように、第6の実施の形態では、各走査においては、波長を固定する。1回の走査が終了すると、波長を、例えば、1波長掃引させ、当該波長で再び走査を行う。これを繰り返し、最終的な断層画像データを生成するものである。一回の走査中は測定光の波長を固定し、複数回の走査全体では、波長が掃引されるという点で、第1の実施の形態から第5の実施の形態と異なる。
【0118】
第6の実施の形態では、一回の走査の間は波長が固定されるため、必要とされる波長掃引速度を緩やかにすることができる
【0119】
以上説明した各処理はあくまでも一例である。従って、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよいことは言うまでもない。
【0120】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的にかつ個々に記載された場合と同様に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14