(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】インク組成物
(51)【国際特許分類】
H10K 71/12 20230101AFI20230808BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20230808BHJP
C09D 11/102 20140101ALI20230808BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20230808BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230808BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230808BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20230808BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20230808BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20230808BHJP
【FI】
H10K71/12
C08G61/12
C09D11/102
C09D11/52
C09K11/06 690
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/22 D
H10K85/10
(21)【出願番号】P 2022088852
(22)【出願日】2022-05-31
(62)【分割の表示】P 2019540969の分割
【原出願日】2018-09-04
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2017171135
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】前田 大輔
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7120242(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/115467(WO,A1)
【文献】特表2012-507151(JP,A)
【文献】国際公開第2016/100313(WO,A1)
【文献】特開2010-171373(JP,A)
【文献】特開2005-314682(JP,A)
【文献】国際公開第2013/178975(WO,A1)
【文献】特表2011-516695(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133315(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150412(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147204(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135582(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135581(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 71/12
C08G 61/12
C09D 11/102
C09D 11/52
C09K 11/06
H05B 33/10
H10K 50/10
H10K 50/15
H10K 85/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物であって、
(A)式(I):
【化1】
[式中、R
1は、-SO
3Mであり、R
2は、-O[C(R
aR
b)-C(R
cR
d)-O]
p-R
eであり、
Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、
各々のR
a、R
b、R
c、及びR
dが、それぞれ独立に、H、ハロゲン、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;
pは、1、2、又は3であり、そして
R
eは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである]
で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン;
(B)オニウムボレート塩であって、
式(a3):
【化4】
で表されるアニオンと、
式(c1)~(c5):
【化5】
からなる群より選択される少なくとも1種の対カチオンとからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である);及び
(C)グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類及びグリコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含む有機溶媒、を含む液体担体を含む、
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項2】
前記グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類及びグリコール類の総含有量が、(C)成分の総重量に基づいて50重量%より多い、請求項1に記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項3】
更に、(D)アミン化合物を含む、請求項1又は2に記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項4】
更に、(F)マトリックス化合物を含む、請求項1~3記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項5】
(B)成分が下記式で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【化6】
【請求項6】
各々のR
a、R
b、R
c、及びR
dが、それぞれ独立に、H、(C
1-C
8)アルキル、(C
1-C
8)フルオロアルキル、又はフェニルであり;そしてR
eが、(C
1-C
8)アルキル、(C
1-C
8)フルオロアルキル、又はフェニルである、請求項1~5のいずれか一項に記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項7】
(A)成分が、下記式:
【化7】
で表される基(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムである)、より選択される繰り返し単位を含む、請求項1~6のいずれか一項記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項8】
(A)成分が、式(I)で表される繰り返し単位を、繰り返し単位の総重量に基づいて50重量%より多い量で含む、請求項1~7のいずれか一項記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項9】
(D)成分が、(D1)第三級アルキルアミン化合物と、(D2)第三級アルキルアミン化合物以外のアミン化合物とを含む、請求項3記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項10】
(D2)成分が、第一級アルキルアミン化合物である、請求項9記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項11】
第一級アルキルアミン化合物が、エチルアミン、n-ブチルアミン、t-ブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ヘキシルアミン、n-デシルアミン及びエチレンジアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項12】
第一級アルキルアミン化合物が、n-ブチルアミンである、請求項10に記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項13】
更に、(E)金属酸化物ナノ粒子を含む、請求項1~12のいずれか一項記載に記載の
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項記載のインク組成物から形成された
正孔輸送層又は正孔注入層薄膜。
【請求項15】
請求項14に記載の
正孔輸送層又は正孔注入層薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか一項記載のインク組成物を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることを特徴とする
正孔輸送層又は正孔注入層薄膜の製造方法。
【請求項17】
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物であって、
(A)式(I):
【化8】
[式中、R
1は、-SO
3Mであり、R
2は、-O[C(R
aR
b)-C(R
cR
d)-O]
p-R
eであり、
Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、
pは、1、2、又は3であり、そして
R
eは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである]
で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン;
(B)オニウムボレート塩であって、
式(a3):
【化4】
で表されるアニオンと、
式(c1)~(c5):
【化5】
からなる群より選択される少なくとも1種の対カチオンとからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である);及び
(C)グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類及びグリコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含む有機溶媒、を含液体担体;及び
(F)マトリックス化合物
を含む
正孔輸送層又は正孔注入層調製剤インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオフェン化合物、オニウムボレート塩及び液体担体を含む、インク組成物に関する。また、本開示は、インク組成物から形成された電荷輸送性薄膜、及び該電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子には、発光層や電荷注入層として、有機化合物からなる電荷輸送性薄膜が用いられる。特に、正孔注入層は、陽極と、正孔輸送層あるいは発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の低電圧駆動及び高輝度を達成するために重要な機能を果たす。
正孔注入層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスと、スピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別され、これら各プロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。それゆえ、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスで形成可能な正孔注入層が望まれている。
このような事情に鑑み、本発明者らは、各種ウェットプロセスに適用可能であるとともに、有機EL素子の正孔注入層に適用した場合に優れたEL素子特性を実現できる薄膜を与える電荷輸送性材料や、それに用いる有機溶媒に対する溶解性の良好な化合物を開発してきている(特許文献1及び2)。
【0003】
一方、有機電子デバイス用インク組成物として、スルホン化共役ポリマー、アミン化合物等を含む組成物が知られている(特許文献3)。該インク組成物中のアミン化合物の存在は、良好な貯蔵寿命と安定性を有するインク組成物を提供するだけでなく、該インク組成物から形成される薄膜は、優れた均質性を示す。しかしながら、該インク組成物から形成される正孔注入層を含む有機発光ダイオード(OLED)デバイスの電荷輸送性は、依然として改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008/032616号
【文献】国際公開第2008/129947号
【文献】国際公開第2016/171935号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、各種ウェットプロセスに適用可能であり、電荷輸送性に優れたインク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、特定構造を有するポリチオフェン化合物、特定構造を有するオニウムボレート塩及び液体担体を含むインク組成物は、各種ウェットプロセスに適用可能であり、電荷輸送性に優れた電荷輸送性薄膜を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の発明を提供する。
【0008】
(1)インク組成物であって、
(A)式(I):
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、H、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、フルオロアルコキシ、アリールオキシ、-SO
3M、又は-O-[Z-O]
p-R
eであるか、あるいは、R
1及びR
2は、一緒になって-O-Z-O-を形成する
(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、Zは、場合によりハロゲン又はYで置換されているヒドロカルビレン基(ここで、Yは、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシアルキル基であり、該アルキル基又はアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい)であり、pは、1以上の整数であり、そして、R
eは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである)]で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン;
(B)オニウムボレート塩であって、式(a1):
【化2】
で表されるアニオン、及び式(a2):
【化3】
で表される1価又は2価のアニオン
[式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよいヘテロアリール基であり、Rは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基又は炭素数7~10のフルオロアラルキル基であり、Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子又は-CN
+-である]からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である);及び
(C)有機溶媒を含む液体担体
を含む組成物。
【0009】
(2)Arが、1又は2以上の電子吸引性置換基を有するアリール基である、(1)記載のインク組成物。
【0010】
(3)電子吸引性置換基が、ハロゲン原子である、(2)記載のインク組成物。
【0011】
(4)前記アニオンが、式(a3)で表される、(1)~(3)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【化4】
【0012】
(5)対カチオンが、式(c1)~(c5):
【化5】
からなる群より選択される、(1)~(4)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0013】
(6)(B)成分が下記式で表される、(1)~(5)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【化6】
【0014】
(7)R1及びR2が、それぞれ独立に、H、フルオロアルキル、-SO3M、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、又は-ORfであるか、あるいは、R1及びR2は、一緒になって-O-(CH2)q-O-(ここで、(CH2)qは、場合によりYで置換されている)を形成し;ここで、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、各々のRa、Rb、Rc、及びRdが、それぞれ独立に、H、ハロゲン、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;Reが、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;pが、1、2、又は3であり;Rfが、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;qが、1、2、又は3であり;そしてYが、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルコキシアルキル基であり、該アルコキシアルキル基は任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい、(1)~(6)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0015】
(8)R1が、Hであり、そしてR2が、H以外である、(1)~(7)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0016】
(9)R1及びR2が、両方ともH以外である、(1)~(7)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0017】
(10)R1及びR2が、それぞれ独立に、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、又は-ORfであるか、あるいは、R1及びR2は、一緒になって-O-(CH2)q-O-を形成する、(9)記載のインク組成物。
【0018】
(11)R1及びR2が、両方とも-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Reである、(9)記載のインク組成物。
【0019】
(12)各々のRa、Rb、Rc、及びRdが、それぞれ独立に、H、(C1-C8)アルキル、(C1-C8)フルオロアルキル、又はフェニルであり;そしてReが、(C1-C8)アルキル、(C1-C8)フルオロアルキル、又はフェニルである、(7)~(11)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0020】
(13)(A)成分が、下記式:
【化7】
で表される基(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムである)、及びこれらの組合せからなる群より選択される繰り返し単位を含む、(1)~(12)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0021】
(14)(A)成分が、スルホン化ポリ(3-MEET)である、(1)~(13)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0022】
(15)(A)成分が、式(I)で表される繰り返し単位を、繰り返し単位の総重量に基づいて50重量%より多い量で含む、(1)~(14)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0023】
(16)(C)成分が、グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類及びグリコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、(1)~(15)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0024】
(17)更に、(D)アミン化合物を含む、(1)~(16)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0025】
(18)(D)成分が、(D1)第三級アルキルアミン化合物と、(D2)第三級アルキルアミン化合物以外のアミン化合物とを含む、(17)記載のインク組成物。
【0026】
(19)(D2)成分が、第一級アルキルアミン化合物である、(18)記載のインク組成物。
【0027】
(20)第一級アルキルアミン化合物が、エチルアミン、n-ブチルアミン、t-ブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ヘキシルアミン、n-デシルアミン及びエチレンジアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、(19)記載のインク組成物。
【0028】
(21)第一級アルキルアミン化合物が、n-ブチルアミンである、(19)又は(20)記載のインク組成物。
【0029】
(22)更に、(E)金属酸化物ナノ粒子を含む、(1)~(21)のいずれか一つに記載に記載のインク組成物。
【0030】
(23)更に、(F)マトリックス化合物を含む、(1)~(22)のいずれか一つに記載のインク組成物。
【0031】
(24)(1)~(23)のいずれか一つに記載のインク組成物から形成された電荷輸送性薄膜。
【0032】
(25)(24)記載の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0033】
(26)(1)~(23)のいずれか一つに記載のインク組成物を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることを特徴とする電荷輸送性薄膜の製造方法。
【0034】
(27)インク組成物であって、
(A)式(I):
【化8】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、H、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、フルオロアルコキシ、アリールオキシ、-SO
3M、又は-O-[Z-O]
p-R
eであるか、あるいは、R
1及びR
2は、一緒になって-O-Z-O-を形成する
(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、Zは、場合によりハロゲン又はYで置換されているヒドロカルビレン基(ここで、Yは、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシアルキル基であり、該アルキル基又はアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい)であり、pは、1以上の整数であり、そして、R
eは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである)]で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン;
(B)オニウムボレート塩であって、式(a1):
【化9】
で表されるアニオン、式(a2):
【化10】
で表される1価又は2価のアニオン、及び(a5)
【化11】
で表されるアニオン
[式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよいヘテロアリール基であり、Rは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基又は炭素数7~10のフルオロアラルキル基であり、Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子又は-CN
+-であり、Eは長周期型周期表の第13族又は第15族に属する元素を表す]からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である);
(C)有機溶媒を含む液体担体;及び
(F)マトリックス化合物
を含む組成物。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、各種ウェットプロセスに適用可能であり、電荷輸送性に優れたインク組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、実施例3及び比較例2の電荷輸送性薄膜の断面の形状を表す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書に使用されるとき、単数で記載された名詞又は単数・複数を区別せずに記載された名詞は、特に断りない限り「1つ(1個)以上」又は「少なくとも1つ(1個)」を意味する。
【0038】
本明細書に使用されるとき、「~を含む(comprises)」という用語は、「本質的に~からなる」及び「~からなる」を包含する。「~を含む(comprising)」という用語は、「本質的に~からなる」及び「~からなる」を包含する。
【0039】
「~がない(free of)」という句は、この句により修飾される材料の外部添加がないこと、及び当業者には公知の分析手法(例えば、ガス又は液体クロマトグラフィー、分光光度法、光学顕微鏡法等)により観測できる検出可能な量のこの材料が存在しないことを意味する。
【0040】
本開示を通して、種々の刊行物が参照により取り込まれる。参照により本明細書に取り込まれる該刊行物における任意の言語の意味が、本開示の言語の意味と矛盾するならば、特に断りない限り、本開示の言語の意味が優先するものである。
【0041】
本明細書に使用されるとき、有機基に関して「(Cx-Cy)」(ここで、x及びyは、それぞれ整数である)という用語は、この基が、1個の基に炭素原子x個から炭素原子y個までを含んでよいことを意味する。
【0042】
本明細書に使用されるとき、「アルキル」という用語は、一価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素基、更に典型的には、一価の直鎖又は分岐の飽和(C1-C40)炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、オクチル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル、ベヘニル、トリアコンチル、及びテトラコンチル等を意味する。
【0043】
本明細書に使用されるとき、「フルオロアルキル」という用語は、1個以上のフッ素原子で置換されている、本明細書中と同義のアルキル基、更に典型的には(C1-C40)アルキル基を意味する。フルオロアルキル基の例は、例えば、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ペルフルオロアルキル、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル、ペルフルオロエチル、及び-CH2CF3を含む。
【0044】
本明細書に使用されるとき、「ヒドロカルビレン」という用語は、炭化水素、典型的には(C1-C40)炭化水素から2個の水素原子を除去することにより形成される二価基を意味する。ヒドロカルビレン基は、直鎖、分岐又は環状であってよく、そして飽和又は不飽和であってよい。ヒドロカルビレン基の例は、メチレン、エチレン、1-メチルエチレン、1-フェニルエチレン、プロピレン、ブチレン、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、及び2,6-ナフチレンを含むが、これらに限定されない。
【0045】
本明細書に使用されるとき、「アルコキシ」という用語は、-O-アルキル(ここで、アルキル基は、本明細書中と同義である)として示される一価基を意味する。アルコキシ基の例は、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、及びtert-ブトキシを含むが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書に使用されるとき、「アリール」という用語は、1個以上の6員炭素環(その不飽和が、3個の共役二重結合により表される)を含有する一価の不飽和炭化水素基を意味する。アリール基は、単環式アリール及び多環式アリールを含む。多環式アリールとは、2個以上の6員炭素環(その不飽和が、3個の共役二重結合により表される)を含有する一価の不飽和炭化水素基であって、隣接する環が、1個以上の結合若しくは二価の架橋基により相互に結合しているか、又は一緒になって縮合している基のことをいう。アリール基の例は、フェニル、アントラセニル、ナフチル、フェナントレニル、フルオレニル、及びピレニルを含むが、これらに限定されない。
【0047】
本明細書に使用されるとき、「アリールオキシ」という用語は、-O-アリール(ここで、アリール基は、本明細書中と同義である)として示される一価基を意味する。アリールオキシ基の例は、フェノキシ、アントラセノキシ、ナフトキシ、フェナントレノキシ、及びフルオレノキシを含むが、これらに限定されない。
【0048】
本明細書に記載の任意の置換基又は基は、1個以上の炭素原子で、1個以上の同じか又は異なる本明細書に記載の置換基によって、場合により置換されていてもよい。例えば、ヒドロカルビレン基は、アリール基又はアルキル基で更に置換されていてもよい。本明細書に記載の任意の置換基又は基はまた、1個以上の炭素原子で、例えば、F、Cl、Br、及びIのようなハロゲン;ニトロ(NO2)、シアノ(CN)、並びにヒドロキシ(OH)からなる群より選択される1個以上の置換基によって、場合により置換されていてもよい。
【0049】
本明細書に使用されるとき、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性とも同義である。また、本発明のインク組成物は、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、インク組成物を使用して得られる固体膜に電荷輸送性があるものでもよい。
【0050】
本明細書に使用されるとき、「正孔キャリア化合物」とは、正孔の移動を容易にすることができる(即ち、正電荷キャリア)か、かつ/又は例えば、電子デバイスにおいて電子の移動をブロックできる任意の化合物のことをいう。正孔キャリア化合物は、電子デバイスの、典型的には有機電子デバイス(例えば、有機発光デバイス等)の正孔輸送層(HTL)、正孔注入層(HIL)及び電子ブロック層(EBL)中で有用な化合物を含む。
【0051】
本明細書に使用されるとき、正孔キャリア化合物、例えば、ポリチオフェンに関する「ドープされた」という用語は、この正孔キャリア化合物が、ドーパントにより促進される、化学変換、典型的には酸化又は還元反応、更に典型的には酸化反応を受けたことを意味する。本明細書に使用されるとき、「ドーパント」という用語は、正孔キャリア化合物、例えば、ポリチオフェンを酸化又は還元する、典型的には酸化する物質のことをいう。本明細書で、正孔キャリア化合物が、ドーパントにより促進される、化学変換、典型的には酸化又は還元反応、更に典型的には酸化反応を受けるプロセスは、「ドーピング反応」又は単純に「ドーピング」と呼ばれる。ドーピングは、ポリチオフェンの特性を変えるが、この特性は、電気的特性(抵抗率及び仕事関数等)、機械的特性、及び光学的特性を含んでよいが、これらに限定されない。ドーピング反応の過程で、正孔キャリア化合物は、帯電し、そしてドーパントは、ドーピング反応の結果として、ドープされた正孔キャリア化合物に対して逆荷電した対イオンになる。本明細書に使用されるとき、物質は、ドーパントと称されるためには、正孔キャリア化合物を化学反応させるか、酸化するか、又は還元し、典型的には酸化しなければならない。正孔キャリア化合物と反応しないが、対イオンとして作用しうる物質は、本開示ではドーパントとはみなされない。したがって、正孔キャリア化合物、例えば、ポリチオフェンに関する「ドープされていない」という用語は、この正孔キャリア化合物が、本明細書に記載のドーピング反応を受けていないことを意味する。
【0052】
本明細書に使用されるとき、「パイルアップ」とはインク組成物がバンクの側面を這い上がる現象を意味する。
インク組成物を塗布するための方法は種々知られているが、そのような方法の一例として、インク組成物を微小な液滴としてノズルから吐出させ、被塗布物に付着させるインクジェット法(液滴吐出法)を挙げることができる。有機EL素子の製造を目的として、インクジェット法を用いて電荷輸送性薄膜を基板上に形成する場合、基板上に形成された薄膜電極(多くの場合、パターニングされた薄膜電極)上にバンク(隔壁)を形成して、薄膜電極上の必要な領域が、バンクで囲まれた膜形成領域となるようにし、その膜形成領域のみに、インクジェット法によりインク組成物を塗布して電荷輸送性薄膜を形成する、という方法がしばしば採用される。
【0053】
このようにして形成される電荷輸送性薄膜は、その厚さが薄膜全体にわたって均一な状態であることが好ましい。しかし現実には、特に上記のようなバンクを用いる方法により形成された場合、電荷輸送性薄膜が厚さの不均一な状態となることがある。そのような状態の一例として、形成された電荷輸送性薄膜の周辺部の厚さが、薄膜の中央から端に向かう方向に沿って増大した状態を挙げることができる。これは、前記膜形成領域内に塗布されたインク組成物がバンクの側面を這い上がることにより、形成される塗膜の周囲の厚さが、塗膜の中央から端(換言すれば、塗膜がバンクの側面と接触する部分)に向かう方向に沿って増大した状態になることに起因し、この状態にある塗膜から形成された電荷輸送性薄膜は、前記の如く厚さの不均一な状態になる。本明細書では、このようにインク組成物がバンクの側面を這い上がる現象を「パイルアップ現象」又は単に「パイルアップ」と称する。
【0054】
本開示のインク組成物は、非水系でもよく水が含まれていても良いが、インクジェット塗布におけるプロセス適合性とインクの保存安定性の観点で、非水系であることが好ましい。本明細書に使用されるとき、「非水系」は、本開示のインク組成物中の水の総量が、インク組成物の総量に対して0~2重量%であることを意味する。典型的には、インク組成物中の水の総量は、インク組成物の総量に対して0~1重量%、更に典型的には0~0.5重量%である。ある実施態様において、本開示のインク組成物には水が実質的に存在しない。
【0055】
[(A)成分]
(A)成分は、式(I):
【化12】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、H、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、フルオロアルコキシ、アリールオキシ、-SO
3M、又は-O-[Z-O]
p-R
eであるか、あるいは、R
1及びR
2は、一緒になって-O-Z-O-を形成し、ここで、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、Zは、場合によりハロゲン又はYで置換されているヒドロカルビレン基(ここで、Yは、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシアルキル基であり、該アルキル基又はアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい)であり、pは、1以上の整数であり、そしてR
eは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである]で表される繰り返し単位を含む、ポリチオフェンである。(A)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0056】
ある実施態様において、R1及びR2は、それぞれ独立に、H、フルオロアルキル、-SO3M、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、又は-ORfであるか、あるいは、R1及びR2は、一緒になって-O-(CH2)q-O-(ここで、(CH2)qは、場合によりYで置換されている)を形成し;ここで、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、各々のRa、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立に、H、ハロゲン、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;Reは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;pは、1、2、又は3であり;Rfは、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;qは、1、2、又は3であり、そしてYは、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルコキシアルキル基であり、該アルコキシアルキル基は任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい。
【0057】
ある実施態様において、R1は、Hであり、そしてR2は、H以外である。このような実施態様において、繰り返し単位は、3-置換チオフェンから誘導される。
【0058】
ポリチオフェンは、レジオランダム型又はレジオレギュラー型化合物であってよい。その非対称構造のため、3-置換チオフェンの重合から、繰り返し単位間の3種の可能性がある位置化学結合を含有するポリチオフェン構造の混合物が生成する。2個のチオフェン環が結合するとき利用可能なこの3種の配向は、2,2’、2,5’、及び5,5’カップリングである。2,2’(即ち、頭-頭)カップリング及び5,5’(即ち、尾-尾)カップリングは、レジオランダム型カップリングと呼ばれる。対照的に、2,5’(即ち、頭-尾)カップリングは、レジオレギュラー型カップリングと呼ばれる。位置規則性(regioregularity)の程度は、例えば、約0~100%、又は約25~99.9%、又は約50~98%でありうる。位置規則性は、例えば、NMR分光法を用いる等の、当業者には公知の標準法により決定することができる。
【0059】
ある実施態様において、ポリチオフェンは、レジオレギュラー型である。幾つかの実施態様において、ポリチオフェンの位置規則性は、少なくとも約85%、典型的には少なくとも約95%、更に典型的には少なくとも約98%であってよい。幾つかの実施態様において、位置規則性の程度は、少なくとも約70%、典型的には少なくとも約80%であってよい。更に他の実施態様において、レジオレギュラー型ポリチオフェンは、少なくとも約90%の位置規則性の程度を、典型的には少なくとも約98%の位置規則性の程度を有する。
【0060】
3-置換チオフェンモノマー(該モノマーから誘導されるポリマーを含む)は、市販されているか、又は当業者には公知の方法により製造することができる。側基を持つレジオレギュラー型ポリチオフェンを含む、合成方法、ドーピング法、及びポリマー特性評価は、例えば、McCulloughらの米国特許第6,602,974号及びMcCulloughらの米国特許第6,166,172号に提供される。
【0061】
別の実施態様において、R1及びR2は、両方ともH以外である。このような実施態様において、繰り返し単位は、3,4-二置換チオフェンから誘導される。
【0062】
ある実施態様において、R1及びR2は、それぞれ独立に、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、又は-ORfであるか、あるいは、R1及びR2は、一緒になって-O-(CH2)q-O-を形成する。ある実施態様において、R1及びR2は、両方とも-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Reである。R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよい。
【0063】
ある実施態様において、各々のRa、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立に、H、(C1-C8)アルキル、(C1-C8)フルオロアルキル、又はフェニルであり;そしてReは、(C1-C8)アルキル、(C1-C8)フルオロアルキル、又はフェニルである。
【0064】
ある実施態様において、R1及びR2は、それぞれ-O[CH2-CH2-O]p-Reである。ある実施態様において、R1及びR2は、それぞれ-O[CH(CH3)-CH2-O]p-Reである。
【0065】
ある実施態様において、Reは、メチル、プロピル、又はブチルである。
【0066】
ある実施態様において、qは、2である。
【0067】
ある実施態様において、-O-(CH2)q-O-は、1つ以上の位置がYで置換されている。ある実施態様において、-O-(CH2)q-O-は、1つの位置がYで置換されている。
【0068】
ある実施態様において、qは、2であり、Yは、3-スルホブトキシメチル基である。この場合、-O-(CH2)2-O-基は、1つの位置が3-スルホブトキシメチル基で置換されていると、好ましい。
【0069】
ある実施態様において、ポリチオフェンは、下記式:
【化13】
で表される基(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムである)、及びこれらの組合せからなる群より選択される繰り返し単位を含む。
【0070】
当業者には明らかであろうが、下記式:
【化14】
で示される繰り返し単位は、下記式:
【化15】
3-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン[本明細書では3-MEETと呼ばれる]
で示される構造により表されるモノマーから誘導され;下記式:
【化16】
で示される繰り返し単位は、下記式:
【化17】
(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムである)
スルホン化3-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン[本明細書ではスルホン化3-MEETと呼ばれる]
で示される構造により表されるモノマーから誘導され;下記式:
【化18】
で示される繰り返し単位は、下記式:
【化19】
3,4-ビス(2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン[本明細書では3,4-ジBEETと呼ばれる]
で示される構造により表されるモノマーから誘導され;下記式:
【化20】
で示される繰り返し単位は、下記式:
【化21】
3,4-ビス((1-プロポキシプロパン-2-イル)オキシ)チオフェン[本明細書では3,4-ジPPTと呼ばれる]
で示される構造により表されるモノマーから誘導され、そして下記式:
【化22】
で示される繰り返し単位は、下記式:
【化23】
3,4-エチレンジオキシチオフェン
で示される構造により表されるモノマーから誘導される。
【0071】
3,4-二置換チオフェンモノマー(該モノマーから誘導されるポリマーを含む)は、市販されているか、又は当業者には公知の方法により製造することができる。例えば、3,4-二置換チオフェンモノマーは、3,4-ジブロモチオフェンを、式:HO-[Z-O]p-Re又はHORf[式中、Z、Re、Rf及びpは、本明細書中と同義である]で与えられる化合物の金属塩、典型的にはナトリウム塩と反応させることにより生成させることができる。
【0072】
3,4-二置換チオフェンモノマーの重合は、最初に3,4-二置換チオフェンモノマーの2及び5位を臭素化して、対応する3,4-二置換チオフェンモノマーの2,5-ジブロモ誘導体を形成することにより実施される。次にニッケル触媒の存在下での3,4-二置換チオフェンの2,5-ジブロモ誘導体のGRIM(グリニャールメタセシス)重合により、ポリマーを得ることができる。このような方法は、例えば、米国特許第8,865,025号に記載されており、これは、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。チオフェンモノマーを重合する別の既知の方法は、酸化剤として、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)のような金属非含有有機酸化剤を用いるか、又は、例えば塩化鉄(III)、塩化モリブデン(V)、及び塩化ルテニウム(III)のような遷移金属ハロゲン化物を用いる、酸化重合によるものである。
【0073】
金属塩、典型的にはナトリウム塩に変換され、そして3,4-二置換チオフェンモノマーを生成させるのに使用されうる、式:HO-[Z-O]p-Re又はHORfを有する化合物の例は、トリフルオロエタノール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルセロソルブ)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol(商標) PnB)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(Dowanol(商標) DPnB)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(フェニルカルビトール)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol(商標) DPM)、ジイソブチルカルビノール、2-エチルヘキシルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、エチレングリコールモノフェニルエーテル(Dowanol(商標) Eph)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol(商標) PnP)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(Dowanol(商標) PPh)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル(プロピルカルビトール)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルカルビトール)、2-エチルヘキシルカルビトール、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol(商標) DPnP)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol(商標) TPM)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)、及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol(商標) TPnB)を含むが、これらに限定されない。
【0074】
本開示の式(I)で表される繰り返し単位を有するポリチオフェンは、重合によるその形成に続いて、更に修飾することができる。例えば、3-置換チオフェンモノマーから誘導される1種以上の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、水素が、スルホン化によるスルホン酸基(-SO3H)のような置換基によって置換されうる、1個以上の部位を有していてもよい。
【0075】
本明細書に使用されるとき、ポリチオフェンに関連する「スルホン化」という用語は、そのポリチオフェンが、1個以上のスルホン酸基(-SO3H)を含むことを意味する。(当該ポリチオフェンは、「スルホン化ポリチオフェン」とも言う。)
典型的には、-SO3H基の硫黄原子は、ポリチオフェンの基本骨格に直接結合しており、側基には結合していない。本開示の目的には、側基は、理論的に又は実際にポリマーから脱離されても、ポリマー鎖の長さを縮めない一価基である。スルホン化ポリチオフェンポリマー及び/又はコポリマーは、当業者には公知の任意の方法を用いて製造することができる。例えば、ポリチオフェンを、例えば、発煙硫酸、硫酸アセチル、ピリジンSO3等のような、スルホン化試薬と反応させることによりスルホン化することができる。別の例では、モノマーをスルホン化試薬を用いてスルホン化し、次に既知の方法及び/又は本明細書に記載の方法により重合することができる。当業者には明らかであろうが、スルホン酸基は、塩基性化合物、例えば、アルカリ金属水酸化物、アンモニア及びアルキルアミン(例えば、モノ-、ジ-及びトリアルキルアミン、例えば、トリエチルアミン等)の存在下で、対応する塩又は付加体の形成をもたらし得る。よって、ポリチオフェンに関連する「スルホン化」という用語は、このポリチオフェンが、1個以上の-SO3M基(ここで、Mは、アルカリ金属イオン(例えば、Na+、Li+、K+、Rb+、Cs+等)、アンモニウム(NH4
+)、モノ-、ジ-、及びトリアルキルアンモニウム(トリエチルアンモニウム等)であってよい)を含んでもよいという意味を含む。
【0076】
共役ポリマーのスルホン化及びスルホン化共役ポリマー(スルホン化ポリチオフェンを含む)は、Seshadriらの米国特許第8,017,241号に記載されており、これは、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、スルホン化ポリチオフェンについては、国際公開第2008/073149号及び国際公開第2016/171935号に記載されており、これは、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0077】
ある実施態様において、ポリチオフェンは、スルホン化されている。
【0078】
ある実施態様において、スルホン化ポリチオフェンは、式(I):
【化24】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、H、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、フルオロアルコキシ、アリールオキシ、又は-O-[Z-O]
p-R
e(式中、Zは、場合によりハロゲン化されているヒドロカルビレン基であり、pは、1以上の整数であり、そして、R
eは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである)である。
但し、R
1及びR
2のいずれかは、-SO
3M(Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムである。)である。]
で表される繰り返し単位を含む。
【0079】
ある実施態様において、スルホン化ポリチオフェンは、式(I)[式中、各々のR1及びR2が、それぞれ独立に、H、フルオロアルキル、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、又は-ORfであり;ここで、各々のRa、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立に、H、ハロゲン、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;Reは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;pは、1、2、又は3であり;そしてRfは、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである。
但し、R1及びR2のいずれかは、-SO3M(Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムである。)である。]
で表される繰り返し単位を含む。
【0080】
ある実施態様において、R1が、-SO3M(Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムである。)であり、そしてR2が、-SO3M以外である。Mは、好ましくは、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、より好ましくはトリアルキルアンモニウムである。
【0081】
ある実施態様において、R1が、-SO3Mであり、そしてR2が、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、又は-ORfである。
【0082】
ある実施態様において、R1が、-SO3Mであり、そしてR2が、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Reである。
【0083】
ある実施態様において、R1が、-SO3Mであり、そしてR2が、-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH3である。
【0084】
ある実施態様において、スルホン化ポリチオフェンは、式(I):
【化25】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、H、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、フルオロアルコキシ、アリールオキシ、又は-O-[Z-O]
p-R
e(式中、Zは、場合によりハロゲン化されているヒドロカルビレン基であり、pは、1以上の整数であり、そして、R
eは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである)である]
で表される繰り返し単位を含むポリチオフェンのスルホン化により得られる。
【0085】
ある実施態様において、スルホン化ポリチオフェンは、式(I)[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、H、フルオロアルキル、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、又は-ORfであり;ここで、各々のRa、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立に、H、ハロゲン、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;Reは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールであり;pは、1、2、又は3であり;そしてRfは、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである]で表される繰り返し単位を含むポリチオフェンのスルホン化により得られる。
【0086】
ある実施態様において、R1は、Hであり、そしてR2は、H以外である。このような実施態様において、繰り返し単位は、3-置換チオフェンから誘導される。
【0087】
スルホン化ポリチオフェンは、レジオランダム型又はレジオレギュラー型化合物でありうるポリチオフェンから得られる。その非対称構造のため、3-置換チオフェンの重合から、繰り返し単位間の3種の可能性がある位置化学結合を含有するポリチオフェン構造の混合物が生成する。2個のチオフェン環が結合するとき利用可能なこの3種の配向は、2,2’、2,5’、及び5,5’カップリングである。2,2’(即ち、頭-頭)カップリング及び5,5’(即ち、尾-尾)カップリングは、レジオランダム型カップリングと呼ばれる。対照的に、2,5’(即ち、頭-尾)カップリングは、レジオレギュラー型カップリングと呼ばれる。位置規則性(regioregularity)の程度は、例えば、約0~100%、又は約25~99.9%、又は約50~98%でありうる。位置規則性は、例えば、NMR分光法を用いる等の、当業者には公知の標準法により決定することができる。
【0088】
3-置換チオフェンモノマー(該モノマーから誘導されるポリマーを含む)は、市販されているか、又は当業者には公知の方法により製造することができる。側基を持つレジオレギュラー型ポリチオフェンを含む、合成方法、ドーピング法、及びポリマー特性評価は、例えば、McCulloughらの米国特許第6,602,974号及びMcCulloughらの米国特許第6,166,172号に提供される。共役ポリマーのスルホン化及びスルホン化共役ポリマー(スルホン化ポリチオフェンを含む)は、Seshadriらの米国特許第8,017,241号に記載されている。
【0089】
ある実施態様において、R1は、Hであり、そしてR2は、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、又は-ORfである。ある実施態様において、R1は、Hであり、そしてR2は、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Reである。
【0090】
ある実施態様において、各々のRa、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立に、H、(C1-C8)アルキル、(C1-C8)フルオロアルキル、又はフェニルであり;Re及びRfは、それぞれ独立に、H、(C1-C8)アルキル、(C1-C8)フルオロアルキル、又はフェニルである。
【0091】
ある実施態様において、R2は、-O[CH2-CH2-O]p-Reである。ある実施態様において、R2は、-ORfである。
【0092】
金属塩、典型的にはナトリウム塩に変換することができ、そしてチオフェンモノマーに結合して3-置換チオフェン(次にこれを使用して、スルホン化すべきポリチオフェンを生成させる)を形成させることができる、式:HO[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re又はHORfを有する化合物の例は、トリフルオロエタノール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルセロソルブ)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol(商標) PnB)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(Dowanol(商標) DPnB)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(フェニルカルビトール)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol(商標) DPM)、ジイソブチルカルビノール、2-エチルヘキシルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、エチレングリコールモノフェニルエーテル(Dowanol(商標) Eph)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol(商標) PnP)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(Dowanol(商標) PPh)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル(プロピルカルビトール)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルカルビトール)、2-エチルヘキシルカルビトール、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol(商標) DPnP)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol(商標) TPM)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)、及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol(商標) TPnB)を含むが、これらに限定されない。
【0093】
ある実施態様において、Reは、H、メチル、プロピル、又はブチルである。ある実施態様において、Rfは、CH2CF3である。
【0094】
ある実施態様において、スルホン化ポリチオフェンは、下記式:
【化26】
で示される繰り返し単位を含むポリチオフェンをスルホン化することにより得られる。
【0095】
当業者には明らかであろうが、下記式:
【化27】
で示される繰り返し単位は、下記式:
【化28】
3-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン[本明細書では3-MEETと呼ばれる]
で示される構造により表されるモノマーから誘導される。
【0096】
したがって、下記式:
【化29】
で示される繰り返し単位を含むポリチオフェンのスルホン化により、スルホン化ポリ(3-MEET)が生じる。
【0097】
ある実施態様において、ポリチオフェンは、スルホン化ポリ(3-MEET)である。
【0098】
本開示に使用されるポリチオフェンは、ホモポリマー又はコポリマー(統計的、ランダム、勾配、及びブロックコポリマーを含む)であってよい。モノマーA及びモノマーBを含むポリマーとしては、ブロックコポリマーは、例えば、A-Bジブロックコポリマー、A-B-Aトリブロックコポリマー、及び-(AB)k-マルチブロックコポリマーを含む。ポリチオフェンは、他のタイプのモノマー(例えば、チエノチオフェン、セレノフェン、ピロール、フラン、テルロフェン、アニリン、アリールアミン、及びアリーレン(例えば、フェニレン、フェニレンビニレン、及びフルオレン等)等)から誘導される繰り返し単位を含んでもよい。
【0099】
ある実施態様において、ポリチオフェンは、式(I)で表される繰り返し単位を、繰り返し単位の総重量に基づいて50重量%より多い、典型的には80重量%より多い、更に典型的には90重量%より多い、更になお典型的には95重量%より多い量で含む。
【0100】
当業者には明らかであろうが、重合に使用される出発モノマー化合物の純度に応じて、形成されるポリマーは、不純物から誘導される繰り返し単位を含有してもよい。本明細書に使用されるとき、「ホモポリマー」という用語は、1つのタイプのモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを意味するものであるが、不純物から誘導される繰り返し単位を含有してもよい。ある実施態様において、ポリチオフェンは、基本的に全ての繰り返し単位が、式(I)で表される繰り返し単位である、ホモポリマーである。
【0101】
ポリチオフェンは、典型的には約1,000~1,000,000g/molの間の数平均分子量を有する。更に典型的には、この共役ポリマーは、約5,000~100,000g/molの、更になお典型的には約10,000~約50,000g/molの間の数平均分子量を有する。数平均分子量は、例えば、ゲル透過クロマトグラフィーのような、当業者に公知の方法により決定することができる。
【0102】
本発明においては、前記のポリチオフェンを還元剤で処理した後に用いてもよい。
ポリチオフェンでは、それらを構成する繰り返し単位の一部において、その化学構造が「キノイド構造」と呼ばれる酸化型の構造となっている場合がある。用語「キノイド構造」は、用語「ベンゼノイド構造」に対して用いられるもので、芳香環を含む構造である後者に対し、前者は、その芳香環内の二重結合が環外に移動し(その結果、芳香環は消失する)、環内に残る他の二重結合と共役する2つの環外二重結合が形成された構造を意味する。当業者にとって、これらの両構造の関係は、ベンゾキノンとヒドロキノンの構造の関係から容易に理解できるものである。種々の共役ポリマーの繰り返し単位についてのキノイド構造は、当業者にとって周知である。一例として、前記式(I)で表されるポリチオフェンの繰り返し単位に対応するキノイド構造を、下記式(I’)に示す。
【化30】
[式中、R
1及びR
2は、式(I)において定義された通りである。]
【0103】
このキノイド構造は、前記のドーピング反応によって生じ、ポリチオフェンに電荷輸送性を付与する「ポーラロン構造」及び「バイポーラロン構造」と称される構造の一部を成すものである。これらの構造は公知である。有機EL素子の作成において、「ポーラロン構造」及び/又は「バイポーラロン構造」の導入は必須であり、実際、有機EL素子作成時、電荷輸送性ワニスから形成された電荷輸送性薄膜を焼成処理するときに、前記のドーピング反応を意図的に起こさせて、これを達成している。このドーピング反応を起こさせる前のポリチオフェンにキノイド構造が含まれているのは、ポリチオフェンが、その製造過程(スルホン化ポリチオフェンの場合、特に、その中のスルホン化工程)において、ドーピング反応と同等の、意図しない酸化反応を起こしたためと考えられる。
【0104】
ポリチオフェンに含まれるキノイド構造の量と、ポリチオフェンの有機溶媒に対する分散性の間には相関があり、キノイド構造の量が多くなると、分散性は低下する。このため、インク組成物から電荷輸送性薄膜が形成された後でのキノイド構造の導入は問題を生じないが、前記の意図しない酸化反応により、ポリチオフェンにキノイド構造が過剰に導入されていると、インク組成物の製造に支障をきたす。ポリチオフェンにおいては、有機溶媒に対する分散性にばらつきがあることが知られているが、その原因の1つは、前記の意図しない酸化反応によりポリチオフェンに導入されたキノイド構造の量が、各々のポリチオフェンの製造条件の差に応じて変動することであると考えられる。
そこで、ポリチオフェンを、還元剤を用いる還元処理に付すと、ポリチオフェンにキノイド構造が過剰に導入されていても、還元によりキノイド構造が減少し、ポリチオフェンの有機溶媒に対する分散性が向上するため、均質性に優れた電荷輸送性薄膜を与える良好なインク組成物を、安定的に製造することが可能になる。
【0105】
この還元処理に用いる還元剤は、前記キノイド構造を還元して非酸化型の構造、即ち、前記ベンゼノイド構造に変換する(例えば、前記式(I)で表されるポリチオフェンにおいては、前記式(I’)で表されるキノイド構造を、前記式(I)で表される構造に変換する)ことができるものである限り特に制限はなく、例えば、アンモニア水、ヒドラジン等を使用することが好ましい。還元剤の量は、処理すべきポリチオフェン100重量部に対し、通常0.1~10重量部、好ましくは0.5~2重量部である。
【0106】
還元処理の方法及び条件に特に制限はない。例えば、適当な溶媒の存在下又は非存在下、単にポリチオフェンを還元剤と接触させることにより、この処理を行うことができる。通常、ポリチオフェンを28%アンモニア水中で撹拌する(例えば、室温にて終夜)等の、比較的温和な条件下での還元処理により、ポリチオフェンの有機溶媒に対する分散性は十分に向上する。
スルホン化ポリチオフェンの場合、必要であれば、スルホン化ポリチオフェンを対応するアンモニウム塩、例えばトリアルキルアンモニウム塩(スルホン化ポリチオフェンアミン付加体)に変換した後に、還元処理に付してもよい。
【0107】
なお、この還元処理によりポリチオフェンの溶媒に対する分散性が変化する結果、処理の開始時には反応系に溶解していなかったポリチオフェンが、処理の完了時には溶解している場合がある。そのような場合には、ポリチオフェンと非相溶性の有機溶剤(スルホン化ポリチオフェンの場合、アセトン,イソプロピルアルコール等)を反応系に添加して、ポリチオフェンの沈殿を生じさせ、濾過する等の方法により、ポリチオフェンを回収することができる。
【0108】
インク組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、場合により(A)成分以外の正孔キャリア化合物を更に含んでいてもよい。
【0109】
オプションの正孔キャリア化合物は、例えば、低分子量化合物又は高分子量化合物を含む。オプションの正孔キャリア化合物は、非ポリマーであってもポリマーであってもよい。非ポリマー正孔キャリア化合物は、架橋性低分子及び架橋していない低分子を含むが、これらに限定されない。非ポリマー正孔キャリア化合物の例は、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)ベンジジン(CAS # 65181-78-4);N,N’-ビス(4-メチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)ベンジジン;N,N’-ビス(2-ナフタレニル)-N,N’-ビス(フェニルベンジジン)(CAS # 139255-17-1);1,3,5-トリス(N,N-ビス(3-メチルフェニル)アミノ)ベンゼン(m-MTDABとも呼ばれる);N,N’-ビス(1-ナフタレニル)-N,N’-ビス(フェニル)ベンジジン(CAS # 123847-85-8、NPB);4,4’,4”-トリス(N,N-フェニル-3-メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATAとも呼ばれる、CAS # 124729-98-2);4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBPとも呼ばれる、CAS # 58328-31-7);1,3,5-トリス(ジフェニルアミノ)ベンゼン;1,3,5-トリス(2-(9-エチルカルバジル-3)エチレン)ベンゼン;1,3,5-トリス[(3-メチルフェニル)フェニルアミノ]ベンゼン;1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン;1,4-ビス(ジフェニルアミノ)ベンゼン;4,4’-ビス(N-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル;4-(ジベンジルアミノ)ベンズアルデヒド-N,N-ジフェニルヒドラゾン;4-(ジエチルアミノ)ベンズアルデヒド ジフェニルヒドラゾン;4-(ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド ジフェニルヒドラゾン;4-(ジフェニルアミノ)ベンズアルデヒド ジフェニルヒドラゾン;9-エチル-3-カルバゾールカルボキシアルデヒド ジフェニルヒドラゾン;銅(II)フタロシアニン;N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニルベンジジン;N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン;N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ-p-トリルベンゼン-1,4-ジアミン;テトラ-N-フェニルベンジジン;チタニル フタロシアニン;トリ-p-トリルアミン;トリス(4-カルバゾール-9-イルフェニル)アミン;及びトリス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]アミンを含むが、これらに限定されない。
【0110】
オプションのポリマー正孔キャリア化合物は、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-alt-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)];ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-alt-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1’-ビフェニレン-4,4’-ジアミン)];ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-co-N-(4-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFBとも呼ばれる)及びポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](一般にポリ-TPDと呼ばれる)を含むが、これらに限定されない。
【0111】
他のオプションの正孔キャリア化合物は、例えば、2010年11月18日に公開の米国特許出願公開第2010/0292399号;2010年5月6日に公開の米国特許出願公開第2010/0109000号;及び2010年5月6日に公開の米国特許出願公開2010/0108954号に記載されている。本明細書に記載のオプションの正孔キャリア化合物は、当該分野において公知であり、そして市販されている。
【0112】
[(B)成分]
(B)成分は、オニウムボレート塩であって、式(a1):
【化31】
で表されるアニオン、及び式(a2):
【化32】
で表される1価又は2価のアニオン
[式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよいヘテロアリール基であり、Rは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基又は炭素数7~10のフルオロアラルキル基であり、Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子又は-CN
+-である]からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である)である。
【0113】
(B)成分は、(A)成分のポリチオフェンを酸化し、電気的特性(抵抗率及び仕事関数等)を改善するドーパントとして機能する。(B)成分のように、式(a1)又は(a2)で表されるアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩をドーパントとして用いると、ポリチオフェンの電気的特性を大きく改善することができ、電荷輸送性に優れたインク組成物とすることができる。
【0114】
式(a1)及び(a2)において、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよいヘテロアリール基である。
【0115】
アリール基としては、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。その具体例としては、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等が挙げられ、フェニル基、トリル基及びナフチル基が好ましい。
【0116】
ヘテロアリール基としては、好ましくは炭素数2~20のヘテロアリール基が挙げられる。その具体例としては、2-チエニル基、3-チエニル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基等の含酸素ヘテロアリール基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基等の含硫黄ヘテロアリール基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-ピラジル基、3-ピラジル基、5-ピラジル基、6-ピラジル基、2-ピリミジル基、4-ピリミジル基、5-ピリミジル基、6-ピリミジル基、3-ピリダジル基、4-ピリダジル基、5-ピリダジル基、6-ピリダジル基、1,2,3-トリアジン-4-イル基、1,2,3-トリアジン-5-イル基、1,2,4-トリアジン-3-イル基、1,2,4-トリアジン-5-イル基、1,2,4-トリアジン-6-イル基、1,3,5-トリアジン-2-イル基、1,2,4,5-テトラジン-3-イル基、1,2,3,4-テトラジン-5-イル基、2-キノリニル基、3-キノリニル基、4-キノリニル基、5-キノリニル基、6-キノリニル基、7-キノリニル基、8-キノリニル基、1-イソキノリニル基、3-イソキノリニル基、4-イソキノリニル基、5-イソキノリニル基、6-イソキノリニル基、7-イソキノリニル基、8-イソキノリニル基、2-キノキサニル基、5-キノキサニル基、6-キノキサニル基、2-キナゾリニル基、4-キナゾリニル基、5-キナゾリニル基、6-キナゾリニル基、7-キナゾリニル基、8-キナゾリニル基、3-シンノリニル基、4-シンノリニル基、5-シンノリニル基、6-シンノリニル基、7-シンノリニル基、8-シンノリニル基等の含窒素ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0117】
前記置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基及び炭素数2~20のアルキニル基等が挙げられる。
【0118】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0119】
炭素数1~20のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコサニル基等が挙げられるが、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0120】
炭素数2~20のアルケニル基の具体例としては、エテニル基、n-1-プロペニル基、n-2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、n-1-ブテニル基、n-2-ブテニル基、n-3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルエテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、n-1-ペンテニル基、n-1-デセニル基、n-1-エイコセニル基等が挙げられる。
【0121】
炭素数2~20のアルキニル基の具体例としては、エチニル基、n-1-プロピニル基、n-2-プロピニル基、n-1-ブチニル基、n-2-ブチニル基、n-3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、n-1-ペンチニル基、n-2-ペンチニル基、n-3-ペンチニル基、n-4-ペンチニル基、1-メチル-n-ブチニル基、2-メチル-n-ブチニル基、3-メチル-n-ブチニル基、1,1-ジメチル-n-プロピニル基、n-1-ヘキシニル基、n-1-デシニル基、n-1-ペンタデシニル基、n-1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0122】
Arは、好ましくは、1又は2以上の電子吸引性置換基を有するアリール基である。Arが電子吸引性置換基を有するアリール基であると、ルイス酸性が向上する点で好ましい。前記電子吸引性基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等が挙げられ、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。Arは、特に好ましくは、ペンタフルオロフェニル基である。
【0123】
(B)成分が式(a1)で表されるアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩である場合、式(a4):
【化33】
で表されるアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩が、特に好ましい。
【0124】
式(a1)において、Rは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基又は炭素数7~10のフルオロアラルキル基である。
【0125】
炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖状アルキル基等が挙げられるが、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましい。
【0126】
炭素数3~20のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の炭素数3~20の環状アルキル基が挙げられる。
【0127】
炭素数1~10のフルオロアルキル基の具体例としては、炭素数1~10のアルキル基の水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換した基が挙げられる。
その具体例としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチル基、ノナフルオロブチル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフロオロヘキシル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロヘキシル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0128】
炭素数7~10のアラルキル基としては、アルキル基の水素原子の少なくとも1つをアリール基で置換した基が挙げられ、例えば、ベンジル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、フェニルエチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルメチル基等が挙げられるが、炭素数7~9のアラルキル基が好ましい。
【0129】
炭素数7~10のフルオロアラルキル基の具体例としては、炭素数7~10のアラルキル基の水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換した基が挙げられる。
その具体例としては、パーフルオロベンジル基、ペンタフルオロフェニルメチル基、ヘプタフルオロ-1-ナフチルメチル基、ヘプタフルオロ-2-ナフチルメチル基、ヘプタフルオロ-1-ナフチルエチル基、ヘプタフルオロ-2-ナフチルエチル基等が挙げられる。
【0130】
これらの中でも、式(a1)におけるRは、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。本発明で好適に用いることのできる式(a1)で表されるアニオンとしては下記式で表されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0131】
【0132】
式(a2)において、Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子又は-CN+-である。アルキレン基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキレン基が挙げられる。その具体例としては、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0133】
Lは、-CN+-であると、特に好ましい。
【0134】
(B)成分が式(a2)で表されるアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩である場合、式(a3):
【化35】
で表されるアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩が、特に好ましい。
【0135】
(B)成分の対カチオンは、特に限定されるものではないが、15~17族に属する元素を含むカチオンが好ましく、硫黄を含むカチオンがより好ましい。
【0136】
(B)成分の対カチオンは、式(c1)~(c5):
【化36】
からなる群より選択されることが好ましい。中でも、対カチオンが(c1)で表されるカチオンは、特に好ましい。
【0137】
(B)成分は、下記式:
【化37】
で表されるオニウムボレート塩であることが特に好ましい。
【0138】
(B)成分は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて公知のその他のオニウムボレート塩を併用してもよい。なお、(B)成分は、例えば、特開2005-314682号公報等に記載された公知の方法を参考に合成することができる。
【0139】
(A)成分と(B)成分との比率は、物質量(モル)比で、(A)成分:(B)成分=1:0.01~15とすることができ、好ましくは、1:0.1~10、より好ましくは、1:0.5~5である。(A)成分と(B)成分との比率がこの範囲であると、素子特性の観点から、好ましい。
【0140】
(B)成分は、インク組成物への溶解を容易にするため、あらかじめ後述する(C)液体担体を構成する有機溶媒に溶かしておいてもよい。
このような有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2-ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル、モノフェニルエーテル又はトリエチレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコール及びその誘導体類;ジオキサン等の環式エーテル類;蟻酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;トルエン、キシレン、3-フェノキシトルエン、4-メトキシトルエン、安息香酸メチル、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、イソホロン等の芳香族炭化水素類等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
有機溶媒を使用する場合、その使用割合は、(B)成分100重量部に対して、15~1,000重量部が好ましく、30~500重量部がより好ましい。
【0141】
本願の目的を妨げない範囲で、インク組成物は、(B)成分以外のドーパントを含有してもよい。ドーパントは当該分野において公知である。例えば、米国特許第7,070,867号;米国特許出願公開第2005/0123793号;及び米国特許出願公開第2004/0113127号を参照のこと。ドーパントは、イオン性化合物であってもよい。ドーパントは、カチオン及びアニオンを含むことができる。
【0142】
イオン性化合物のカチオンは、例えば、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、又はAuであってよい。
【0143】
イオン性化合物のカチオンは、例えば、金、モリブデン、レニウム、鉄、及び銀カチオンであってよい。
【0144】
幾つかの実施態様において、ドーパントは、アルキル、アリール、及びヘテロアリールスルホナート又はカルボキシラートを含む、スルホナート又はカルボキシラートを含んでもよい。本明細書に使用されるとき、「スルホナート」とは、-SO3M1基(ここで、M1は、H+又はアルカリ金属イオン(例えば、Na+、Li+、K+、Rb+、Cs+等);又はアンモニウム(NH4
+)であってよい)のことをいう。本明細書に使用されるとき、「カルボキシラート」とは、-CO2M1基(ここで、M1は、H+又はアルカリ金属イオン(例えば、Na+、Li+、K+、Rb+、Cs+等);又はアンモニウム(NH4
+)であってよい)のことをいう。スルホナート及びカルボキシラートドーパントの例は、ベンゾアート化合物、ヘプタフルオロブチラート、メタンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、p-トルエンスルホナート、ペンタフルオロプロピオナート、及びポリマースルホナート類、ペルフルオロスルホナート含有アイオノマー類等を含むが、これらに限定されない。
【0145】
幾つかの実施態様において、ドーパントは、スルホナートもカルボキシラートも含まない。
【0146】
幾つかの実施態様において、ドーパントは、スルホニルイミド(例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等);アンチモナート(例えば、ヘキサフルオロアンチモナート等);アルセナート(例えば、ヘキサフルオロアルセナート等);リン化合物(例えば、ヘキサフルオロホスファート等);及び(B)成分を除くボレート(例えば、テトラフルオロボレート、テトラアリールボレート、及びトリフルオロボレート等)を含んでよい。テトラアリールボレート類の例は、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(TPFB)のようなハロゲン化テトラアリールボレート類を含むが、これらに限定されない。トリフルオロボレート類の例は、(2-ニトロフェニル)トリフルオロボレート、ベンゾフラザン-5-トリフルオロボレート、ピリミジン-5-トリフルオロボレート、ピリジン-3-トリフルオロボレート、及び2,5-ジメチルチオフェン-3-トリフルオロボレートを含むが、これらに限定されない。
【0147】
ドーパントは、例えば、共役ポリマーとの、例えば、1つ以上の電子移動反応を受けることによって、ドープされたポリチオフェンが生成する材料であってよい。ドーパントは、適切な電荷均衡する対アニオンを提供するように選択することができる。反応は、当該分野において公知のとおり、ポリチオフェンとドーパントの混合により起こり得る。例えば、ドーパントは、ポリマーからカチオン-アニオンドーパント(金属塩等)への自発電子移動を受けて、共役ポリマーを、アニオンが会合しているその酸化型の形態で、遊離金属と共に残すことができる。例えば、LebedevらのChem. Mater., 1998, 10, 156-163を参照のこと。本明細書に開示されるとおり、ポリチオフェン及びドーパントとは、反応することによりドープされたポリマーを形成する成分のことをいう場合がある。ドーピング反応は、電荷キャリアが生成される電荷移動反応であってよく、この反応は、可逆的であっても不可逆的であってもよい。幾つかの実施態様において、銀イオンは、銀金属及びドープされたポリマーへの又はこれらからの電子移動を受けることができる。
【0148】
最終配合物において、組成物は、元の成分の組合せとは明確に異なるものであってよい(即ち、ポリチオフェン及び/又はドーパントは、混合前と同じ形態で最終組成物中に存在してもしなくともよい)。
ドーパントとしては、無機酸、有機酸、有機又は無機酸化剤等が用いられる。有機酸としては、ポリマー有機酸及び/又は低分子有機酸(非ポリマー有機酸)が用いられる。
一実施形態では、有機酸はスルホン酸であり、その塩(-SO3M2(ここで、M2は、アルカリ金属イオン(例えば、Na+、Li+、K+、Rb+、Cs+等)、アンモニウム(NH4
+)、モノ-、ジ-、及びトリアルキルアンモニウム(トリエチルアンモニウム等))でもよい。該スルホン酸のなかでも、アリールスルホン酸が好ましい。
【0149】
幾つかの実施態様において、ドーパントの具体例としては、塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機強酸;塩化アルミニウム(III)(AlCl3)、四塩化チタン(IV)(TiCl4)、三臭化ホウ素(BBr3)、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF3・OEt2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、塩化銅(II)(CuCl2)、五塩化アンチモン(V)(SbCl5)、五フッ化砒素(V)(AsF5)、五フッ化リン(PF5)、トリス(4-ブロモフェニル)アルミニウムヘキサクロロアンチモナート(TBPAH)等のルイス酸;ポリスチレンスルホン酸等のポリマー有機酸;ベンゼンスルホン酸、トシル酸、カンファースルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5-スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、国際公開第2005/000832号に記載されている1,4-ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、国際公開第2006/025342号に記載されているアリールスルホン酸誘導体、特開2005-108828号公報に記載されているジノニルナフタレンスルホン酸誘導体等の低分子有機酸(非ポリマー有機酸);7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)、ヨウ素、ヘテロポリ酸化合物等の有機又は無機酸化剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0150】
幾つかの実施態様において、ドーパントは、アリールスルホン酸化合物、ヘテロポリ酸化合物、長周期型周期表の第13族又は15族に属する元素を含むイオン化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
特に好ましいドーパントとしては、ポリスチレンスルホン酸等のポリマー有機酸、5-スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、国際公開第2005/000832号に記載されている1,4-ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、特開2005-108828号公報に記載されているジノニルナフタレンスルホン酸誘導体等の低分子有機酸(非ポリマー有機酸)を挙げることができる。また、下記式(2)で示されるスルホン酸誘導体も、好適に用いることができる。
【0151】
【化38】
〔式中、X
1は、O、S又はNHを表し、Aは、X
1及びc個の(SO
3H)基以外の置換基を有していてもよいナフタレン環又はアントラセン環を表し、Tは、非置換若しくは置換の炭化水素基、1,3,5-トリアジン基、又は非置換若しくは置換の下記式(3)若しくは(4):
【化39】
で示される基(式中、W
1及びW
2は、それぞれ独立して、O、S、S(O)基、S(O
2)基、又は非置換若しくは置換基が結合したN、Si、P、P(O)基を示す。W
1は単結合でもよい。R
46~R
59はそれぞれ独立して水素原子又はハロゲン原子を表す。)を表し、cは、Aに結合するスルホン酸基数を表し、1≦c≦4を満たす整数であり、dは、TとX
1との結合数を示し、1≦dを満たす整数である。〕
【0152】
式(3)又は(4)のR46~R59は好ましくはフッ素原子であり、全てフッ素原子であることがより好ましい。式(3)のW1は単結合が好ましい。最も好ましいのは式(3)におけるW1が単結合であり、R46~R53が全てフッ素原子である。
【0153】
本発明に係るアリールスルホン酸化合物は、更に下記式(5)で示されるものを用いることもできる。
【化40】
(式中、X
1は、O、S又はNHを表し、Ar
5は、アリール基を表し、cは、スルホン酸基数を表し、1~4を満たす整数である。)
【0154】
前記式(5)中、X
1は、O、S又はNHを表すが、合成が容易であることから、特に、Oが好ましい。
cは、ナフタレン環に結合するスルホン酸基数を表し、1~4を満たす整数であるが、当該化合物に高電子受容性及び高溶解性を付与することを考慮すると、c=1又は2が好ましい。中でも、下記式(6)で示される化合物が、好適である。
【化41】
(式中、Ar
5は、アリール基を表す。)
【0155】
式(5)及び式(6)におけるアリール基としては、フェニル基、キシリル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられ、これらのアリール基は置換基を有していてもよい。
この置換基としては、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、スルホン基、ハロゲン原子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらのアリール基の中でも特に下記式(7)で示されるアリール基が好適に用いられる。
【化42】
(式中、R
60~R
64は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基を示す。)
【0156】
式(7)中、ハロゲン原子としては、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素原子のいずれでもよいが、本発明においては、特にフッ素原子が好適である。
炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、2-エチルヘキシル基、n-デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数1~10のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基としては、パーフルオロビニル基、パーフルオロプロペニル基(アリル基)、パーフルオロブテニル基等が挙げられる。
これらの中でも、有機溶剤に対する溶解性をより高めることを考慮すると、特に、下記式(8)で示されるアリール基を用いることが好ましい。
【化43】
(式中、R
62は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基を示す。)
【0157】
式(8)中、R62は特に、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ニトロ基が好ましく、トリフルオロメチル基、パーフルオロプロペニル基、ニトロ基がより好ましい。
【0158】
更に、後述する(F)マトリックス化合物を添加した場合は、下記式(a5)で表されるアニオンとその対カチオンとからなるイオン化合物も、ドーパントとして好適に用いることができる。
【化44】
(式中、Eは長周期型周期表の第13族又は第15族に属する元素を表し、Arは、各々独立して、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよいヘテロアリール基を表わす。)
【0159】
式(a5)中、Eは長周期型周期表の第13族又は第15族に属する元素の中でもホウ素、ガリウム、リン、アンチモンが好ましく、ホウ素がより好ましい。
【0160】
式(a5)中、アリール基、ヘテロアリール基の例示としては、5又は6員環の単環又は2~4縮合環由来の1価の基が挙げられる。中でも、化合物の安定性、耐熱性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環由来の1価の基が好ましい。
更に、Arのうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、Arの水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが最も好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ-2-ナフチル基、テトラフルオロ-4-ピリジル基等が挙げられる。
【0161】
上述した中でも、下記式(10)、(11):
【化45】
で示されるアニオンとカチオンの組合せであるイオン化合物(特許第5381931号を参照)を好適に用いることができる。
【0162】
また、ヘテロポリ酸化合物も、ドーパントとして特に好ましい。ヘテロポリ酸化合物は、代表的に式(A)で示されるKeggin型あるいは式(B)で示されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の酸素酸であるイソポリ酸と、異種元素の酸素酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素の酸素酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)の酸素酸が挙げられる。
【化46】
【0163】
ヘテロポリ酸化合物の具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、リンタングストモリブデン酸、ケイタングステン酸等が挙げられるが、得られる薄膜を備えた有機EL素子の特性を考慮すると、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸が好適であり、リンタングステン酸がより好ましい。
なお、これらのヘテロポリ酸化合物は、公知の合成法によって合成して用いてもよいが、市販品としても入手可能である。例えば、リンタングステン酸(Phosphotungstic acid hydrate、又は12-Tungstophosphoric acid n-hydrate,化学式:H3(PW12O40)・nH2O)や、リンモリブデン酸(Phosphomolybdic acid hydrate、又は12-Molybdo(VI)phosphoric acid n-hydrate,化学式:H3(PMo12O40)・nH2O(n≒30))は、関東化学(株)、和光純薬(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)、日本無機化学工業(株)、日本新金属(株)等のメーカーから入手可能である。
【0164】
幾つかの実施態様では、ドーピングプロセスから反応副産物を除去してもよい。例えば、銀のような金属は、濾過によって除去することができる。
【0165】
例えば、ハロゲン及び金属を除去するために、材料を精製することができる。ハロゲンは、例えば、塩化物、臭化物及びヨウ化物を含む。金属は、例えば、ドーパントのカチオン(ドーパントのカチオンの還元型を含む)、又は触媒若しくは開始剤残留物から残された金属を含む。金属は、例えば、銀、ニッケル、及びマグネシウムを含む。量は、例えば、100ppm未満、又は10ppm未満、又は1ppm未満であってよい。
【0166】
銀含量を含む金属含量は、特に50ppmを超える濃度では、ICP-MSにより測定することができる。
【0167】
ある実施態様において、ポリチオフェンが(B)成分を含むドーパントでドープされるとき、ポリチオフェンとドーパントを混合することにより、ドープされたポリマー組成物が形成される。混合は、当業者には公知の任意の方法を用いて達成されうる。例えば、ポリチオフェンを含む溶液を、ドーパントを含む別の溶液と混合することができる。ポリチオフェン及びドーパントを溶解するのに使用される溶媒は、後述の(C)液体担体を構成する1種以上有機溶媒である。反応は、当該分野において公知のとおり、ポリチオフェンとドーパントの混合により起こり得る。生じるドープされたポリチオフェン組成物は、組成物に基づいて、約40重量%~75重量%のポリマー及び約25重量%~55重量%のドーパントを含む。別の実施態様において、ドープされたポリチオフェン組成物は、組成物に基づいて、約50重量%~65重量%のポリチオフェン及び約35重量%~50重量%のドーパントを含む。典型的には、ポリチオフェンの重量は、ドーパントの重量よりも大きい。典型的には、ドーパントは、約0.25~0.5m/ruの量のテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸銀のような銀塩であってよい(ここで、mは、銀塩のモル量であり、そしてruは、ポリマー繰り返し単位のモル量である)。
【0168】
ドープされたポリチオフェンは、当業者には公知の方法により(例えば、溶媒の回転蒸発等により)単離されて、乾燥又は実質乾燥材料(粉末等)が得られる。残留溶媒の量は、乾燥又は実質乾燥材料に基づいて、例えば、10重量%以下、又は5重量%以下、又は1重量%以下であってよい。乾燥又は実質乾燥粉末は、1種以上の新しい溶媒に再分散又は再溶解することができる。
【0169】
[(C)成分]
(C)成分は、有機溶媒を含む液体担体である。(C)成分は、(A)成分及び(B)成分を良好に溶解し、かつ、(A)成分と(B)成分を均一に混合してインク組成物とするために必要な成分である。(C)成分としては、インク組成物の湿潤性、粘度、形態制御のようなインク特性を調節するために、(A)成分及び/又は(B)成分を部分的に可溶化するか、又は膨潤させる有機溶媒を含有してもよい。また、(C)成分は、(A)成分の非溶媒として作用する1種以上の有機溶媒を更に含んでもよい。
【0170】
(C)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。(C)成分は、アノード又は発光層のようなデバイス中の他の層との使用及び加工に適応させた二種以上の有機溶媒を含む溶媒混合物であってもよい。また、有機溶媒は、例えば、基板湿潤性、溶媒除去の容易性、粘性、表面張力及び出射性等のインク特性を改善するために、(C)成分中に種々の割合で使用されることができる。
【0171】
(C)成分としては、例えば、「グリコール系溶媒(s1)」を例示することができる。「グリコール系溶媒」とは、式Rh-O-(Rg-O)n-Ri(式中、それぞれのRgは、各々独立に、直鎖状又は分岐状C2-C4非置換アルキレン基であり、Rh及びRiは、各々独立に、水素原子、直鎖状、分岐状又は環状C1-C8非置換アルキル基或いは直鎖状又は分岐状C1-C8非置換脂肪族アシル基であり、nは、1~6の整数である)で表される、1種以上の芳香族構造を有していない有機溶媒であり、グリコールモノエーテル類;グリコールジエーテル類;グリコールエステルエーテル類;グリコールモノエステル類;グリコールジエステル類;及びグリコール類等を例示することができる。前記Rgは、C2又はC3非置換アルキレン基であることが特に好ましい。また前記nは、1~4の整数であることが特に好ましい。前記アルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状C1-C6非置換アルキル基が好ましく、直鎖状C1-C4非置換アルキル基がより好ましく、メチル基及びn-ブチル基が特に好ましい。前記アシル基としては、直鎖状又は分岐状C2-C6非置換脂肪族アシル基が好ましく、直鎖状C2-C4非置換アシル基がより好ましく、アセチル基及びプロピオニル基が特に好ましい。
【0172】
(C)成分中の(s1)成分は、例えば以下の溶媒を包含する。
・エチレングリコール、プロピレングリコールであるグリコール類又はそのオリゴマー(2量体~4量体、例えばジエチレングリコール)であるグリコール類
・前記グリコール類のモノアルキルエーテルであるグリコールモノエーテル類
・前記グリコール類のジアルキルエーテルであるグリコールジエーテル類
・前記グリコール類の脂肪族カルボン酸モノエステルであるグリコールモノエステル類
・前記グリコール類の脂肪族カルボン酸ジエステルであるグリコールジエステル類
・前記グリコールモノエーテル類の脂肪族カルボン酸モノエステルであるグリコールエステルエーテル類
【0173】
これらの中でも、(C)成分が、グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類及びグリコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含み、該グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類及びグリコール類の総含有量が、(C)成分の総重量に基づいて50重量%より多いと、インクジェット塗布による成膜時に、インク固形分の溶解性を保つことができ、かつ、インク組成物が後述する(E)金属酸化物ナノ粒子を含有する場合、(E)成分の凝集を適切に制御し、より平坦な膜を形成することができるため、好ましい。グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類及びグリコール類の総含有量は、(C)成分の総重量に基づいて60重量%以上であることがより好ましく、更により好ましくは75重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類及びグリコール類の含有比率の上限は100重量%である。
【0174】
(C)成分中の(s1)成分は混合しても良い。例は限定されないが、グリコールジエーテル類とグリコール類を混合させることが挙げられる。具体例としては、後述するグリコールジエーテル類及びグリコール類の具体例が挙げられるが、好ましくは、グリコールジエーテル類として、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、グリコール類として、エチレングリコール、ジエチレングリコールが挙げられる。
【0175】
グリコールモノエーテル類の例は、アルキレングリコールモノエーテル(グリコールモノエーテル類)を含む。好適なグリコールモノエーテル類の例は、限定されないが、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルセロソルブ)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol(商標) PnB)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(Dowanol(商標) DPnB)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol(商標) DPM)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol(商標) PnP)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル(プロピルカルビトール)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルカルビトール)、2-エチルヘキシルカルビトール、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol(商標) DPnP)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol(商標) TPM)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol(商標) TPnB)を含む。
【0176】
グリコールジエーテル類の例は、例えば、エチレングリコールジエーテル(1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン及び1,2-ジブトキシエタン等);ジエチレングリコールジエーテル(ジエチレングリコールジメチルエーテル及びジエチレングリコールジエチルエーテル等);プロピレングリコールジエーテル(プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル及びプロピレングリコールジブチルエーテル等);ジプロピレングリコールジエーテル(ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル及びジプロピレングリコールジブチルエーテル等);並びに本明細書に言及されるエチレングリコール及びプロピレングリコールエーテルのより高次の類似体(すなわち、トリ-及びテトラ-類似体、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等)を含む。
【0177】
グリコール類の例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等を含む。
【0178】
(C)成分中の(s1)成分は、更に、エチレングリコールモノエーテルアセテート及びプロピレングリコールモノエーテルアセテート等(グリコールエステルエーテル類)を考慮することができ、ここで、エーテルは、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル及びシクロヘキシルから選択されることができる。また、上記リストのより高次のグリコールエーテル類似体(ジ-、トリ-及びテトラ-等)を含む。
例は、限定されないが、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、2-エトキシエチルアセテート、2-ブトキシエチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含む。
【0179】
(C)成分中の(s1)成分は、更に、エチレングリコールジアセテート等(グリコールジエステル類)を考慮することができ、また、より高次のグリコールエーテル類似体(ジ-、トリ-及びテトラ-等)を含む。
例は、限定されないが、エチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテートを含む。
【0180】
(C)成分は、更に、グリコール系溶媒を除く有機溶媒(s2)を考慮することができる。(s2)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。(s2)成分は例えば、脂肪族及び芳香族ケトン類、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び2,3,4,5-テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド(テトラメチレンスルホン;スルホラン)のような有機硫黄溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、テトラメチル尿素(TMU)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素;アルキル化ベンゼン類(キシレン及びその異性体等)等の芳香族炭化水素類、ハロゲン化ベンゼン類、N-メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジクロロメタン、ジオキサン類、酢酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸メチル、炭酸ジメチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン;アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、3-エトキシプロピオニトリル等のニトリル類;、アニソール、エトキシベンゼン、ジメトキシベンゼン等の芳香族エーテル類;メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール、2-(ベンジルオキシ)エタノール、ジイソブチルカルビノール、メチルイソブチルカルビノール等のアルコール類、又はこれらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0181】
(s2)成分は、ニトリル類、アルコール類、芳香族エーテル類又は芳香族炭化水素類が好ましい。
例は、限定されないが、ニトリル類として、メトキシプロピオニトリル、エトキシプロピオニトリル、アルコール類として、ベンジルアルコール、2-(ベンジルオキシ)エタノール、芳香族エーテル類として、メチルアニソール、ジメチルアニソール、エチルアニソール、ブチルフェニルエーテル、ブチルアニソール、ペンチルアニソール、ヘキシルアニソール、ヘプチルアニソール、オクチルアニソール、フェノキシトルエン、芳香族炭化水素類として、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、オクチルベンゼン、ノニルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン又はテトラリンが挙げられる。
これらの中でも、アルコール類がより好ましく、アルコール類の中でも2-(ベンジルオキシ)エタノールがより好ましい。
【0182】
(s2)成分のその他の例としては、脂肪族及び芳香族ケトン類が挙げられる。脂肪族及び芳香族ケトン類は、アセトン、アセトニルアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、メチルイソブテニルケトン、2-ヘキサノン、2-ペンタノン、アセトフェノン、エチルフェニルケトン、シクロヘキサノン、及びシクロペンタノンを含むが、これらに限定されない。幾つかの実施態様において、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、及びアセトンのような、ケトンに対してα位に位置する炭素上にプロトンを有するケトン類は回避される。
【0183】
いくつかの実施態様において、非プロトン非極性溶媒の使用は、プロトンに感受性であるエミッター技術を備えるデバイス(例えば、PHOLED等)の寿命を延ばす追加の利益を提供することができる。
【0184】
ある実施態様において、(C)成分は、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール(グリコール類)、テトラメチル尿素又はそれらの混合物を含む。
好適なグリコール類の例は、限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。
【0185】
(C)成分が(s1)成分と(s2)成分とを含む場合、(s1)成分の含有量:wts1(重量)と、(s2)成分の含有量:wts2(重量)とが、式(1-1)を満たすことが好ましく、式(1-2)を満たすことがより好ましく、式(1-3)を満たすことが最も好ましい。
0.05≦wts2/(wts1+wts2)≦0.50 (1-1)
0.10≦wts2/(wts1+wts2)≦0.40 (1-2)
0.15≦wts2/(wts1+wts2)≦0.30 (1-3)
なお、(s1)成分が2種以上含有されている場合、wts1は(s1)成分の合計含有量(重量)を示し、(s2)成分が2種以上含有されている場合、wts2は(s2)成分の合計含有量(重量)を示す。
ある態様において、(s1)成分と(s2)成分の含有量が上記関係を満たすと、インクジェット塗布による成膜時に、(E)成分の凝集をよりいっそう適切に制御し、より平坦な膜を形成することができるため、好ましい。
【0186】
(C)成分の量は、インク組成物の総量に対して、約50重量%~約99重量%、典型的には約75重量%~約98重量%、更に典型的には約90重量%~約95重量%である。
【0187】
[(D)成分]
インク組成物は、更に(D)アミン化合物を含むことができる。(D)成分を添加することにより、(A)成分の(C)成分に対する分散性を向上させることができる。(D)成分は、エタノールアミン化合物及びアルキルアミン化合物を含むが、これらに限定されない。(D)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0188】
適切なエタノールアミン化合物の例は、ジメチルエタノールアミン[(CH3)2NCH2CH2OH]、トリエタノールアミン[N(CH2CH2OH)3]、及びN-tert-ブチルジエタノールアミン[t-C4H9N(CH2CH2OH)2]を含む。
【0189】
アルキルアミン化合物は、第1級、第2級、及び第3級アルキルアミン化合物を含む。第1級アルキルアミン化合物の例は、例えば、エチルアミン[C2H5NH2]、n-ブチルアミン[C4H9NH2]、t-ブチルアミン[C4H9NH2]、2-エチルヘキシルアミン、n-ヘキシルアミン[C6H13NH2]、n-デシルアミン[C10H21NH2]、及びエチレンジアミン[H2NCH2CH2NH2]を含む。第2級アルキルアミン化合物は、例えば、ジエチルアミン[(C2H5)2NH]、ジ(n-プロピルアミン)[(n-C3H9)2NH]、ジ(イソプロピルアミン)[(i-C3H9)2NH]、及びジメチルエチレンジアミン[CH3NHCH2CH2NHCH3]を含む。第3級アルキルアミン化合物は、例えば、トリメチルアミン[(CH3)3N]、トリエチルアミン[(C2H5)3N]、トリ(n-ブチル)アミン[(C4H9)3N]、及びテトラメチルエチレンジアミン[(CH3)2NCH2CH2N(CH3)2]を含む。
【0190】
(D)成分が、(D1)第三級アルキルアミン化合物と、(D2)第三級アルキルアミン化合物以外のアミン化合物とを含むと、溶解性又は分散性の観点で好ましい。
【0191】
(D1)成分は、(A)成分の溶解性又は分散性を高めるために使用される。インク組成物の製造前に、(A)成分を(D1)成分で前処理すると、(A)成分の(C)成分への溶解性又は分散性が高められるため、好ましい。本願のインク組成物を非水系インク組成物とする場合、(A)成分は通常、水性分散液で得られるため、該水性分散液を乾燥させて、粉末状としたものを(C)成分に溶解又は分散させて、インク組成物とする。この場合、(A)成分の水性分散液に(D1)成分を添加・混合後、乾燥させたものを用いると、(A)成分の(C)成分への溶解性・分散性が向上するため、好ましい。(D1)成分は、トリエチルアミンが好ましい。
【0192】
(D2)成分は、第一級アルキルアミン化合物であると好ましい。該第一級アルキルアミン化合物が、エチルアミン、n-ブチルアミン、t-ブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ヘキシルアミン、n-デシルアミン及びエチレンジアミンからなる群より選択される少なくとも1種であると、(A)成分の溶解性又は分散性の観点で好ましい。(D2)成分は、より好ましくは、n-ブチルアミン又は2-エチルヘキシルアミンであり、特に好ましくはn-ブチルアミンである。
【0193】
(D)成分の量は、インク組成物の総量に対する重量百分率として調節及び測定することができる。ある実施態様において、(D)成分の量は、インク組成物の総量に対して、少なくとも0.01重量%、少なくとも0.10重量%、少なくとも1.00重量%、少なくとも1.50重量%、又は少なくとも2.00重量%である。ある実施態様において、(D)成分の量は、インク組成物の総量に対して、約0.01重量~約2.00重量%、典型的には約0.05重量%~約1.50重量%、更に典型的には約0.1重量%~約1.00重量%である。(A)成分としてスルホン化ポリチオフェンを用いる場合、(D)成分の少なくとも一部が、スルホン化共役ポリマーとのアンモニウム塩、例えばトリアルキルアンモニウム塩(スルホン化ポリチオフェンアミン付加体)の形態で存在していてもよい。
【0194】
(D1)成分と(D2)成分との比率は、特に限定されないが、物質量(モル)比で、(D2)成分:(D1)成分=3:1~15:1とすることができ、好ましくは、5:1~10:1である。
【0195】
[(E)成分]
インク組成物は、更に(E)金属酸化物ナノ粒子を含むことができる。インク組成物に(E)成分を含有させると、インク組成物を使用して得られる電荷輸送性薄膜の透明性を高く、かつ、可視スペクトルの吸光度を低くすることができる。その結果、該電荷輸送性薄膜を用いて作製された有機EL素子の電流効率、外部量子効率及び輝度半減期を向上させることができる。(E)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0196】
本明細書に使用されるとき、「半金属」という用語は、金属と非金属との化学的及び/又は物理的性質の中間の又は混合物の性質を有する元素のことをいう。本明細書において、「半金属」という用語は、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、及びテルル(Te)のことをいう。
本明細書において、「金属酸化物」とは、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)及びW(タングステン)等の金属及び上述した半金属のうち1種又は2種以上の組み合わせの酸化物のことをいう。
【0197】
本明細書に使用されるとき、「ナノ粒子」という用語は、ナノスケールの粒子であって、その一次粒子の数平均径が、典型的には500nm以下である粒子のことをいう。一次粒子の平均径は、例えば、透過電子顕微鏡法(TEM)や、BET法による比表面積から換算する方法等を利用することができる。
【0198】
TEMによる粒子径の測定法では、画像処理ソフトウェアを用いてナノ粒子の投影画像を処理してから、面積相当径(これは、ナノ粒子と同じ面積を持つ円の直径として定義される)を求める方法で、粒子径を測定することができる。典型的には、TEM(例えば、透過型電子顕微鏡HT7700(株式会社日立ハイテクノロジーズより入手可能))と共に提供される、TEMの製造販売元が作成した画像処理ソフトウェアを用いて、前記の投影画像の処理を行う。平均粒子径は、円相当径の数平均として求める事ができる。
【0199】
(E)成分の一次粒子の数平均粒径は、500nm以下;250nm以下;100nm以下;又は50nm以下;又は25nm以下である。典型的には、(E)成分は、約1nm~約100nm、更に典型的には約2nm~約30nmの数平均粒径を有する。
【0200】
金属酸化物としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)及びW(タングステン)等の酸化物、又はこれらを含む混合酸化物が挙げられる。適切な金属酸化物ナノ粒子の非限定的な特定の例は、B2O3、B2O、SiO2、SiO、GeO2、GeO、As2O4、As2O3、As2O5、Sb2O3、Sb2O5、TeO2、SnO2、ZrO2、Al2O3、ZnO及びこれらの混合物を含むナノ粒子を含むが、これらに限定されない。
【0201】
ある実施態様において、インク組成物は、B2O3、B2O、SiO2、SiO、GeO2、GeO、As2O4、As2O3、As2O5、SnO2、SnO、Sb2O3、TeO2、又はこれらの混合物を含む1種以上の金属酸化物ナノ粒子を含む。
【0202】
ある実施態様において、インク組成物は、SiO2を含む1種以上の金属酸化物ナノ粒子を含む。(E)成分が、SiO2を含む金属酸化物ナノ粒子であると、インク組成物を使用して得られる電荷輸送性薄膜の透明性をより高く、かつ、可視スペクトルの吸光度をより低くでき、該電荷輸送性薄膜を用いて作製された有機EL素子の電流効率、外部量子効率及び輝度半減期をよりいっそう向上させることができるため、好ましい。
【0203】
金属酸化物ナノ粒子は、1種以上の有機キャッピング基を含んでもよい。このような有機キャッピング基は、反応性であっても非反応性であってもよい。反応性有機キャッピング基は、例えば、UV線又はラジカル開始剤の存在下で、架橋できる有機キャッピング基である。
【0204】
ある実施態様において、金属酸化物ナノ粒子は、1種以上の有機キャッピング基を含む。
【0205】
適切な金属酸化物ナノ粒子の例は、日産化学工業(株)によりORGANOSILICASOL(商標)として販売されている、種々の溶媒(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、イソプロパノール、メタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)中の分散液として利用できるSiO2ナノ粒子を含む。
【0206】
インク組成物中の(E)成分の量は、(A)及び(B)成分並びに任意の(D)~(F)成分を合わせた重量に対する重量百分率として、調節及び測定することができる。ある実施態様において、(E)成分の量は、(A)及び(B)成分並びに任意の(D)~(F)成分を合わせた重量に対して、1重量%~98重量%、典型的には約2重量%~約95重量%、更に典型的には約5重量%~約90重量%、更になお典型的には約10重量%~約90重量%である。ある実施態様において、(E)成分の量は、(A)及び(B)成分並びに任意の(D)~(F)成分を合わせた重量に対して、約20重量%~約98重量%、典型的には約25重量%~約95重量%である。
【0207】
[(F)成分]
インク組成物は、正孔注入層(HIL)又は正孔輸送層(HTL)中で有用であることが知られている1種以上の(F)マトリックス化合物を更に含むことができる。(F)成分は薄膜作製時のバイルアップを改善し、厚さを均一かつ平坦にするすることができる化合物であり、こうした機能を有する材料であれば、特に限定されず使用できる。(F)成分を更に含むインク組成物を用いて作製された電荷輸送性薄膜を有する有機EL素子は、電荷輸送性薄膜の上層側に形成される発光層等の厚みの均一性も改善されるため、発光ムラ等がなく、素子特性を改善することができる。(F)成分は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0208】
(F)成分は、低分子量又は高分子量化合物であってよく、そして本明細書に記載のポリチオフェンとは異なる。マトリックス化合物は、例えば、合成ポリマーであってよい。例えば、2006年8月10日に公開の米国特許公開2006/0175582号を参照のこと。合成ポリマーは、例えば、炭素基本骨格を含むことができる。幾つかの実施態様において、合成ポリマーは、酸素原子又は窒素原子を含む少なくとも1個のポリマー側基を有する。合成ポリマーは、ルイス塩基であってもよい。典型的には、合成ポリマーは、炭素基本骨格を含み、そして25℃を超えるガラス転移点を有する。合成ポリマーはまた、25℃以下のガラス転移点及び/又は25℃を超える融点を有する、半結晶性又は結晶性ポリマーであってもよい。合成ポリマーは、1種以上の酸性基、例えば、スルホン酸基を含んでもよい。
【0209】
ある実施態様において、(F)成分である合成ポリマーは、少なくとも1個のフッ素原子及び少なくとも1個のスルホン酸(-SO3H)残基により置換されている、少なくとも1個のアルキル又はアルコキシ基であって、場合により少なくとも1個のエーテル結合(-O-)基により中断されているアルキル又はアルコキシ基を含む、1個以上の繰り返し単位を含むポリマー酸である。
【0210】
ある実施態様において、ポリマー酸は、式(II)に従う繰り返し単位及び式(III)に従う繰り返し単位:
【化47】
[式中、各々のR
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、及びR
11は、独立に、H、ハロゲン、フルオロアルキル、又はペルフルオロアルキルであり;そしてXは、-[OC(R
jR
k)-C(R
lR
m)]
r-O-[CR
nR
o]
z-SO
3Hであって、各々のR
j、R
k、R
l、R
m、R
n及びR
oは、独立に、H、ハロゲン、フルオロアルキル、又はペルフルオロアルキルであり;rは、0~10であり;そしてzは、1~5である]を含む。
【0211】
ある実施態様において、各々のR5、R6、R7、及びR8は、独立に、Cl又はFである。ある実施態様において、各々のR5、R7、及びR8は、Fであり、そしてR6は、Clである。ある実施態様において、各々のR5、R6、R7、及びR8は、Fである。
【0212】
ある実施態様において、各々のR9、R10、及びR11は、Fである。
【0213】
ある実施態様において、各々のRj、Rk、Rl、Rm、Rn及びRoは、独立に、F、(C1-C8)フルオロアルキル、又は(C1-C8)ペルフルオロアルキルである。
【0214】
ある実施態様において、各々のRn及びRoは、Fであり;rは、0であり;そしてzは、2である。
【0215】
ある実施態様において、各々のR5、R7、及びR8は、Fであり、そしてR6は、Clであり;そして各々のRn及びRoは、Fであり;rは、0であり;そしてzは、2である。
【0216】
ある実施態様において、各々のR5、R6、R7、及びR8は、Fであり;そして各々のRn及びRoは、Fであり;rは、0であり;そしてzは、2である。
【0217】
式(II)に従う繰り返し単位の数(「n1」)対式(III)に従う繰り返し単位の数(「n2」)の比は、特に限定されない。n1:n2比は、典型的には9:1~1:9、更に典型的には8:2~2:8である。ある実施態様において、n1:n2比は、9:1である。ある実施態様において、n1:n2比は、8:2である。
【0218】
本開示の使用に適したポリマー酸は、当業者には公知の方法を用いて合成されるか、又は商業的供給元から得られる。例えば、式(II)に従う繰り返し単位及び式(III)に従う繰り返し単位を含むポリマーは、式(IIa)により表されるモノマーを式(IIIa)により表されるモノマー:
【0219】
【化48】
[式中、R
5~R
11は、上記と同義であり、Z
1は、-[OC(R
jR
k)-C(R
lR
m)]
r-O-[CR
nR
o]
z-SO
2Fであって、R
j、R
k、R
l、R
m、R
n及びR
o、r、及びzは、本明細書中と同義である]と、公知の重合方法により共重合し、続いてスルホニルフルオリド基の加水分解によりスルホン酸基に変換することによって製造されうる。
【0220】
例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)は、スルホン酸の前駆体基を含む1種以上のフッ素化モノマー(例えば、F2C=CF-O-CF2-CF2-SO2F;F2C=CF-[O-CF2-CRpF-O]q1-CF2-CF2-SO2F(ここで、Rpは、F又はCF3であり、そしてq1は、1~10である);F2C=CF-O-CF2-CF2-CF2-SO2F;及びF2C=CF-OCF2-CF2-CF2-CF2-SO2F等)と共重合されうる。
【0221】
ポリマー酸の当量は、ポリマー酸に存在する酸基1モル当たりのポリマー酸の質量(グラム)として定義される。ポリマー酸の当量は、約400~約15,000gポリマー/mol酸、典型的には約500~約10,000gポリマー/mol酸、更に典型的には約500~8,000gポリマー/mol酸、更になお典型的には約500~2,000gポリマー/mol酸、更にいっそう典型的には約600~約1,700gポリマー/mol酸である。
【0222】
このようなポリマー酸は、例えば、E.I. DuPontにより商品名 NAFION(登録商標)の下で販売されているもの、Solvay Specialty Polymersにより商品名 AQUIVION(登録商標)の下で販売されているもの、又はAGC株式会社により商品名 FLEMION(登録商標)の下で販売されているものである。
【0223】
ある実施態様において、(F)成分である合成ポリマーは、少なくとも1個のスルホン酸(-SO3H)残基を含む1個以上の繰り返し単位を含むポリエーテルスルホンである。
【0224】
ある実施態様において、ポリエーテルスルホンは、式(IV):
【化49】
に従う繰り返し単位、並びに式(V)に従う繰り返し単位及び式(VI)に従う繰り返し単位:
【化50】
[式中、R
12~R
20は、それぞれ独立に、H、ハロゲン、アルキル、又はSO
3Hであるが、ただし、R
12~R
20の少なくとも1個は、SO
3Hであり;そしてR
21~R
28は、それぞれ独立に、H、ハロゲン、アルキル、又はSO
3Hであるが、ただし、R
21~R
28の少なくとも1個は、SO
3Hであり、そしてR
29及びR
30は、それぞれH又はアルキルである]からなる群より選択される繰り返し単位を含む。
【0225】
ある実施態様において、R29及びR30は、それぞれアルキルである。ある実施態様において、R29及びR30は、それぞれメチルである。
【0226】
ある実施態様において、R12~R17、R19、及びR20は、それぞれHであり、そしてR18は、SO3Hである。
【0227】
ある実施態様において、R21~R25、R27、及びR28は、それぞれHであり、そしてR26は、SO3Hである。
【0228】
ある実施態様において、ポリエーテルスルホンは、式(VII):
【化51】
[式中、aは、0.7~0.9であり、そしてbは、0.1~0.3である]により表される。
【0229】
ポリエーテルスルホンは、スルホン化されていてもいなくともよい、他の繰り返し単位を更に含んでもよい。
【0230】
例えば、ポリエーテルスルホンは、式(VIII):
【化52】
[式中、R
31及びR
32は、それぞれ独立に、H又はアルキルである]で示される繰り返し単位を含んでもよい。
【0231】
本明細書に記載の任意の2個以上の繰り返し単位は、一緒になって繰り返し単位を形成することができ、そしてポリエーテルスルホンは、このような繰り返し単位を含んでもよい。例えば、式(IV)に従う繰り返し単位は、式(VI)に従う繰り返し単位と合わせられて、式(IX):
【化53】
に従う繰り返し単位を与えうる。
【0232】
同様に、例えば、式(IV)に従う繰り返し単位は、式(VIII)に従う繰り返し単位と合わせられて、式(X):
【化54】
に従う繰り返し単位を与えうる。
【0233】
ある実施態様において、ポリエーテルスルホンは、式(XI):
【化55】
[式中、aは、0.7~0.9であり、そしてbは、0.1~0.3である]により表される。
【0234】
少なくとも1個のスルホン酸(-SO3H)残基を含む1個以上の繰り返し単位を含むポリエーテルスルホンは、市販されており、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホンは、小西化学工業株式会社によりS-PESとして販売されている。
【0235】
ある態様において、(F)成分である合成ポリマーは、下記式(XII):
【化56】
で示される繰り返し単位を含む、ビニル芳香族重合体である。式中、Ar’は、置換されていてもよい芳香環であり、2種類以上でもよい。Ar’としては置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいナフチル基等が挙げられる。
【0236】
ある態様において、(F)成分である合成ポリマーは、ビニル芳香族重合体(例えば、ポリ(スチレン)又はその誘導体(但し、ポリスチレンスルホン酸を除く));ポリ(酢酸ビニル)又はその誘導体;ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)又はその誘導体;ポリ(ピロリドン)又はその誘導体(例えば、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-酢酸ビニル));ポリ(ビニルピリジン)又はその誘導体;ポリ(メタクリル酸メチル)又はその誘導体;ポリ(アクリル酸ブチル)又はその誘導体;ポリ(アリールエーテルケトン)又はその誘導体;ポリ(アリールスルホン)又はその誘導体;ポリ(エステル)又はその誘導体;あるいはこれらの組合せ等のようなポリマー又はオリゴマーを含む。これらのポリマー又はオリゴマーは、薄膜作製時のバイルアップの改善の点で好ましい。
【0237】
中でも、(F)成分は、ビニル芳香族重合体又はその誘導体であると、薄膜作製時のバイルアップがよりいっそう改善するため、好ましい。より好ましくは、1種以上の置換若しくは非置換のスチレンから合成されるホモポリマー若しくはコポリマー又はその誘導体であり、特に好ましくは、少なくともスチレン及び4-ヒドロキシスチレンから合成されるコポリマー又はその誘導体である。更に、(F)成分としてビニル芳香族重合体又はその誘導体を使用すると、インク組成物から得られる電荷輸送性薄膜の透明性を高く、かつ、可視スペクトルの吸光度を低くしやすくなるため、好ましい。その結果、該電荷輸送性薄膜を用いて作製された有機EL素子の電流効率、外部量子効率及び輝度半減期を向上させることができる。
【0238】
ビニル芳香族重合体又はその誘導体は、式(XII)で示される繰り返し単位以外の繰り返し単位を形成するモノマー成分を含んでも良い、コポリマー又はホモポリマーであり、モノマー成分全体に占める式(XII)で示される繰り返し単位を形成するモノマーの割合が50重量%以上のコポリマー又はホモポリマーを指す。モノマー成分全体に占める式(XII)で示される繰り返し単位を形成するモノマーの割合は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上であり、ある態様においては100%である。
【0239】
(F)成分であるマトリックス化合物は、例えば、少なくとも1種の半導体マトリックス化合物成分からなっていてよい。この半導体マトリックス化合物成分は、本明細書に記載の(A)成分とは異なる。半導体マトリックス化合物成分は、典型的には主鎖及び/又は側鎖に正孔運搬単位を含む繰り返し単位からなる、半導体低分子又は半導体ポリマーであってよい。半導体マトリックス化合物成分は、中性型であっても、又はドープされていてもよく、典型的には有機溶媒(例えば、トルエン、クロロホルム、アセトニトリル、シクロヘキサノン、アニソール、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、安息香酸エチル及びこれらの混合物等)に可溶性及び/又は分散性である。
【0240】
ある態様においては、フッ素化されたポリマー酸とその他のマトリックス化合物とは成膜性の観点から混合しないほうが好ましい場合がある。
【0241】
インク組成物中の(F)成分の量は、(A)及び(B)成分並びに任意の(D)~(F)成分を合わせた重量に対して、5重量%~95重量%であることが好ましく、より好ましくは50重量%~90重量%、特に好ましくは60重量%~80量%である。(F)成分の量が上記範囲であると、バイルアップをよりいっそう改善することができる。
【0242】
本願は、更に、インク組成物であって、
(A)式(I):
【化57】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、H、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、フルオロアルコキシ、アリールオキシ、-SO
3M、又は-O-[Z-O]
p-R
eであるか、あるいは、R
1及びR
2は、一緒になって-O-Z-O-を形成する
(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、Zは、場合によりハロゲン又はYで置換されているヒドロカルビレン基(ここで、Yは、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシアルキル基であり、該アルキル基又はアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい)であり、pは、1以上の整数であり、そして、R
eは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである)]で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン;
(B)オニウムボレート塩であって、式(a1):
【化58】
で表されるアニオン、式(a2):
【化59】
で表される1価又は2価のアニオン、及び(a5)
【化60】
で表されるアニオン
[式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよいヘテロアリール基であり、Rは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基又は炭素数7~10のフルオロアラルキル基であり、Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子又は-CN
+-であり、Eは長周期型周期表の第13族又は第15族に属する元素を表す]からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である);
(C)有機溶媒を含む液体担体;及び
(F)マトリックス化合物
を含む組成物を提供する。本構成のインク組成物を使用すると、薄膜作製時のバイルアップがいっそう改善され、厚さが均一で電荷輸送性に優れた電荷輸送性薄膜とすることができる。
【0243】
[インク組成物]
【0244】
インク組成物は、当業者には公知の任意の適切な方法により調製することができる。例えば、1つの方法において、最初の水性混合物は、本明細書に記載のポリチオフェンの分散液を、必要に応じてポリマー酸等のマトリックス化合物の水性分散液、及び必要に応じて追加の溶媒と混合することにより調製される。混合物中の水を含む溶媒を、典型的には蒸発により次に除去する。生じる乾燥生成物を、ジメチルスルホキシド、グリコール系溶媒のような1種以上の有機溶媒に溶解又は分散させ、加圧下で濾過することにより、非水性混合物が生成する。このような非水性混合物に、オニウムボレート塩又はその溶液若しくは分散液、場合によりアミン化合物、金属酸化物ナノ粒子の分散液及びマトリックス化合物又はその分散液若しくは溶液と混合することにより、最終のインク組成物を製造することができる。これらの成分の添加順は、特に限定されず、任意の添加順でインク組成物を製造することができる。
【0245】
別の方法において、本明細書に記載のインク組成物は、ストック溶液から調製することができる。例えば、本明細書に記載のポリチオフェンのストック溶液は、水性分散液からポリチオフェンを乾燥状態で、典型的には蒸発により単離することによって調製することができる。乾燥されたポリチオフェンは、次に1種以上の有機溶媒、及び場合によりアミン化合物と合わせられる。オニウムボレート塩のストック溶液は、有機溶媒で溶解することにより、製造することができる。マトリックス化合物のストック溶液は、マトリックス化合物がポリマー酸の場合、水性分散液からポリマー酸を乾燥状態で、典型的には蒸発により単離することによって調製することができる。乾燥されたポリマー酸は、次に1種以上の有機溶媒と合わせられる。他のマトリックス化合物のストック溶液は、同様に製造することができる。金属酸化物ナノ粒子のストック溶液は、例えば、市販の分散液を1種以上の有機溶媒であって、市販の分散液に含まれる溶媒(単数又は複数)と同一であっても異なっていてもよい有機溶媒で希釈することにより、製造することができる。各ストック溶液の所望の量を次に合わせることにより、本開示のインク組成物を形成する。
【0246】
更に別の方法において、本明細書に記載のインク組成物は、本明細書に記載のとおり乾燥状態で個々の成分を単離するが、ストック溶液を調製する代わりに、乾燥状態の成分を合わせて、次に1種以上の有機溶媒に溶解することによりNQインク組成物を提供することによって、調製することができる。
【0247】
なお、アミン化合物は通常、最終的にインク組成物を調製する際に添加するが、それ以前の時点で予め添加しておいてもよい。例えば、(A)成分としてスルホン化ポリチオフェンを用いる場合、先に述べたように、スルホン化ポリチオフェンにアミン化合物を添加して、対応するアンモニウム塩、例えばトリアルキルアンモニウム塩(スルホン化ポリチオフェンアミン付加体)に変換してもよい。必要であれば、このアンモニウム塩を還元処理に付してもよいし、還元処理されたスルホン化ポリチオフェンの溶液にアミン化合物(例えばトリエチルアミン)を添加して、スルホン化ポリチオフェンをアンモニウム塩(例えばトリエチルアンモニウム塩)として、粉末の形態で沈殿させ、これを回収してもよい。
このような処理の方法に特に制限はないが、例えば、還元処理されたスルホン化ポリチオフェンに水及びトリエチルアミンを加えて溶解し、これを加熱下(例えば60℃)に撹拌した後、得られた溶液にイソプロピルアルコール及びアセトンを添加して、スルホン化共役ポリマーのトリエチルアンモニウム塩の沈殿を生じさせ、これを濾過して回収する等の方法を採用し得る。
【0248】
インク組成物中の全固形分(%TS)は、インク組成物の総量に対して、約0.1重量%~約50重量%、典型的には約0.3重量%~約40重量%、更に典型的には約0.5重量%~約15重量%、更になお典型的には約1重量%~約5重量%である。
【0249】
[電荷輸送性薄膜を形成する方法]
電荷輸送性薄膜は、インク組成物を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることにより製造することができる。電荷輸送性薄膜は、正孔運搬薄膜であることが好ましい。
本開示のインク組成物は、基板上の薄膜として注型及びアニーリングすることができる。
【0250】
よって、本開示はまた、正孔運搬薄膜の形成方法であって、
1)基板を本明細書に開示のインク組成物でコーティングすること;及び
2)基板上のコーティングをアニーリングすることにより、正孔運搬薄膜を形成すること
を含む方法に関する。
【0251】
基板上のインク組成物のコーティングは、例えば、回転注型、スピンコーティング、ディップ注型、ディップコーティング、スロットダイコーティング、インクジェット印刷、グラビアコーティング、ドクターブレード法、及び例えば、有機電子デバイスの作製のための当該分野において公知の任意の他の方法を含む、当該分野において公知の方法によって実行することができる。
【0252】
基板は、可撓性であっても剛性であっても、有機であっても無機であってもよい。適切な基板化合物は、例えば、ガラス(例えば、ディスプレイガラスを含む)、セラミック、金属、及びプラスチック薄膜を含む。
【0253】
本明細書に使用されるとき、「アニーリング」という用語は、本開示のインク組成物でコーティングされた基板上に硬化層、典型的には薄膜を形成するための任意の一般的プロセスのことをいう。一般的アニーリングプロセスは、当業者には公知である。典型的には、インク組成物でコーティングされた基板から溶媒を除去する。溶媒の除去は、例えば、大気圧未満の圧力にコーティングされた基板を付すことにより、かつ/又は基板に積層されたコーティングをある温度(アニーリング温度)まで加熱し、この温度をある期間(アニーリング時間)維持し、そして次に生じた層、典型的には薄膜をゆっくり室温まで冷却させることにより達成できる。
【0254】
アニーリングの工程は、インク組成物でコーティングされた基板を、当業者には公知の任意の方法を用いて加熱することにより、例えば、オーブン中又はホットプレート上で加熱することにより実行することができる。アニーリングは、不活性環境、例えば、窒素雰囲気又は希ガス(例えば、アルゴンガス等)雰囲気下で実行することができる。アニーリングは、空気雰囲気で実行してもよい。
【0255】
ある実施態様において、アニーリング温度は、約25℃~約350℃、典型的には150℃~約325℃、更に典型的には約200℃~約300℃、更になお典型的には約230~約300℃である。
【0256】
アニーリング時間は、アニーリング温度が維持される時間である。アニーリング時間は、約3~約40分間、典型的には約15~約30分間である。
【0257】
ある実施態様において、アニーリング温度は、約25℃~約350℃、典型的には150℃~約325℃、更に典型的には約200℃~約300℃、更になお典型的には約250~約300℃であり、そしてアニーリング時間は、約3~約40分間、典型的には約15~約30分間である。
【0258】
本開示は、本明細書に記載の方法により形成される正孔運搬薄膜に関する。
【0259】
可視光の透過は重要であり、そして薄膜の厚さが大きいところでの良好な透過(低い吸光)は特に重要である。例えば、本開示の方法により製造された薄膜は、約380~800nmの波長を有する光の、少なくとも約85%、典型的には少なくとも90%の透過率(典型的には、基板を伴う)を示すことができる。ある実施態様において、透過率は少なくとも約90%である。
【0260】
1つの実施態様において、本開示の方法により製造された薄膜は、約5nm~約500nm、典型的には約5nm~約150nm、更に典型的には約50nm~120nmの厚さを有する。
【0261】
ある実施態様において、本開示の方法により製造された薄膜は、少なくとも約90%の透過率を示し、そして約5nm~約500nm、典型的には約5nm~約150nm、更に典型的には約50nm~120nmの厚さを有する。ある実施態様において、本開示の方法により製造された薄膜は、少なくとも約90%の透過率(%T)を示し、そして約50nm~120nmの厚さを有する。
【0262】
本開示の方法により製造された薄膜は、最終デバイスの電子的特性を向上させるのに使用される電極又は追加の層を場合により含有する基板上に製造することができる。得られる薄膜は、1種以上の有機溶媒に対して抵抗性である場合が有り、これらの溶媒は、その後デバイスの作製中にコーティング又は堆積される層のための、インク中の液体担体として使用される溶媒になり得る。薄膜は、例えば、トルエンに対して抵抗性であり、トルエンは、その後デバイスの作製中にコーティング又は堆積される層のためのインク中の溶媒になり得る。
【0263】
[有機ELデバイス]
本開示はまた、本明細書に記載の方法により調製される薄膜を含む有機エレクトロルミネッセンス素子(デバイス)に関する。本明細書に記載のデバイスは、例えば、溶解法を含む当該分野において公知の方法により製造することができる。標準法によりインクを適用し、そして溶媒を除去することができる。本明細書に記載の方法により調製される薄膜は、デバイス中のHIL及び/又はHTL層であってよい。
【0264】
方法は、当該分野において公知であり、そして例えば、OLED及びOPVデバイスを含む、有機電子デバイスを作製するために利用することができる。当該分野において公知の方法は、輝度、効率、及び寿命を測定するために利用することができる。有機発光ダイオード(OLED)は、例えば、米国特許第4,356,429号及び4,539,507号(Kodak)に記載されている。発光する導電性ポリマーは、例えば、米国特許第5,247,190号及び5,401,827号(Cambridge Display Technologies)に記載されている。デバイスアーキテクチャ、物理的原理、溶解法、多層化、混合、並びに化合物の合成及び配合は、Kraftら、“Electroluminescent Conjugated Polymers-Seeing Polymers in a New Light,” Angew. Chem. Int. Ed., 1998, 37, 402-428に記載されており、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0265】
Sumationから入手できる化合物、Merck Yellow、Merck Blue、American Dye Sources (ADS)から、Kodak(例えば、A1Q3等)から、及び実にAldrichから入手できる化合物(BEHP-PPV等)のような、種々の導電性ポリマー、更には有機分子を含む、当該分野において公知であり、かつ市販されている発光体を使用することができる。このような有機エレクトロルミネセント化合物の例は、以下を含む:
(i)ポリ(p-フェニレンビニレン)及びフェニレン残基上の種々の位置で置換されているその誘導体;
(ii)ポリ(p-フェニレンビニレン)及びビニレン残基上の種々の位置で置換されているその誘導体;
(iii)ポリ(p-フェニレンビニレン)及びフェニレン残基上の種々の位置で置換されており、そしてまたビニレン残基上の種々の位置で置換されているその誘導体;
(iv)ポリ(アリーレンビニレン)であって、アリーレンが、ナフタレン、アントラセン、フリレン、チエニレン、オキサジアゾール等のような残基であってよい、ポリ(アリーレンビニレン);
(v)ポリ(アリーレンビニレン)の誘導体であって、アリーレンが、上記(iv)中と同様であってよく、そして更にアリーレン上の種々の位置に置換基を有する、誘導体;
(vi)ポリ(アリーレンビニレン)の誘導体であって、アリーレンが、上記(iv)中と同様であってよく、そして更にビニレン上の種々の位置に置換基を有する、誘導体;
(vii)ポリ(アリーレンビニレン)の誘導体であって、アリーレンが、上記(iv)中と同様であってよく、そして更にアリーレン上の種々の位置に置換基を、及びビニレン上の種々の位置に置換基を有する、誘導体;
(viii)(iv)、(v)、(vi)、及び(vii)中の化合物のような、アリーレンビニレンオリゴマーと非共役オリゴマーとのコポリマー;並びに
(ix)ポリ(p-フェニレン)及びフェニレン残基上の種々の位置で置換されているその誘導体(ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)等のようなラダーポリマー誘導体を含む);
(x)ポリ(アリーレン)であって、アリーレンが、ナフタレン、アントラセン、フリレン、チエニレン、オキサジアゾール等のような残基であってよい、ポリ(アリーレン);及びアリーレン残基上の種々の位置で置換されているその誘導体;
(xi)(x)中の化合物のようなオリゴアリーレンと非共役オリゴマーとのコポリマー;
(xii)ポリキノリン及びその誘導体;
(xiii)ポリキノリンと、可溶性を提供するために、フェニレン上で例えば、アルキル又はアルコキシ基により置換されているp-フェニレンとのコポリマー;
(xiv)ポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスチアゾール)、ポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)、ポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾイミダゾール)、及びその誘導体のような、リジッドロッドポリマー、並びにその誘導体;
(xv)ポリフルオレン単位を持つポリフルオレンポリマー及びコポリマー。
【0266】
好ましい有機発光ポリマーは、緑色、赤色、青色、若しくは白色光を放射するSUMATIONの発光ポリマー(Light Emitting Polymers)(「LEP」)又はそのファミリー、コポリマー、誘導体、又はこれらの混合物を含み;SUMATIONのLEPは、Sumation KKから入手できる。他のポリマーは、Covion Organic Semiconductors GmbH, Frankfurt, Germany(今やMerck(登録商標)に所有されている)から入手できるポリスピロフルオレン様ポリマーを含む。
【0267】
あるいは、ポリマーよりむしろ、蛍光又は燐光を放射する有機低分子が有機エレクトロルミネセント層として使える。低分子有機エレクトロルミネセント化合物の例は、(i)トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq);(ii)1,3-ビス(N,N-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(OXD-8);(iii)オキソ-ビス(2-メチル-8-キノリナト)アルミニウム;(iv)ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム;(v)ビス(ヒドロキシベンゾキノリナト)ベリリウム(BeQ2);(vi)ビス(ジフェニルビニル)ビフェニレン(DPVBI);及びアリールアミン置換ジスチリルアリーレン(DSAアミン)を含む。
【0268】
このようなポリマー及び低分子化合物は、当該分野において周知であり、そして例えば、米国特許第5,047,687号に記載されている。
【0269】
デバイスは、多くの場合、例えば、溶解法又は真空法、更には印刷法及びパターン形成法により調製できる多層構造を用いて作製することができる。詳しくは、正孔注入層(HIL)のための本明細書に記載の実施態様であって、正孔注入層としての使用のために本組成物が配合される実施態様の利用を、効果的に実行することができる。
【0270】
デバイス中のHILの例は以下を含む:
1)PLED及びSMOLEDを含むOLED中の正孔注入;例えば、PLED中のHILには、共役が炭素又はケイ素原子を巻き込む、全ての分類の共役ポリマー発光体を使用することができる。SMOLED中のHILでは、以下が例である:蛍光発光体を含有するSMOLED;燐光発光体を含有するSMOLED;HIL層に加えて1種以上の有機層を含むSMOLED;及び低分子層が、溶液若しくはエアゾール噴霧から、又は任意の他の処理方法により処理されているSMOLED。更に、他の例は、以下を含む:デンドリマー又はオリゴマー有機半導体系のOLED中のHIL;両極性発光FETであって、HILが、電荷注入を調節するため又は電極として使用されるFET中のHIL;
2)OPV中の正孔抽出層;
3)トランジスタ中のチャネル材料;
4)論理ゲートのような、トランジスタの組合せを含む回路中のチャネル材料;
5)トランジスタ中の電極材料;
6)コンデンサ中のゲート層;
7)化学センサーであって、ドーピングレベルの調節が、感知すべき種と導電性ポリマーとの関係により達成されるセンサー;
8)バッテリー中の電極又は電解質材料。
【0271】
種々の光活性層をOPVデバイスに使用することができる。光起電デバイスは、例えば、米国特許第5,454,880号;6,812,399号;及び6,933,436号に記載されるような、例えば、導電性ポリマーと混合されたフラーレン誘導体を含む光活性層により調製することができる。光活性層は、導電性ポリマーの混合物、導電性ポリマーと半導体ナノ粒子との混合物、及びフタロシアニン、フラーレン、及びポルフィリンのような低分子の二重層を含むことができる。
【0272】
一般的電極化合物及び基板、更には封入化合物を使用することができる。
【0273】
1つの実施態様において、カソードは、Au、Ca、Al、Ag、又はこれらの組合せを含む。1つの実施態様において、アノードは、酸化インジウムスズを含む。1つの実施態様において、発光層は、少なくとも1種の有機化合物を含む。
【0274】
例えば、中間層のような界面修飾層、及び光学スペーサー層を使用することができる。
【0275】
電子輸送層を使用することができる。
【0276】
本開示はまた、本明細書に記載のデバイスの製造方法に関する。
【0277】
ある実施態様において、デバイスの製造方法は、以下を含む:基板を提供すること;例えば、酸化インジウムスズのような透明導電体を基板上に積層すること;本明細書に記載のインク組成物を提供すること;透明導電体上にインク組成物を積層することにより、正孔注入層又は正孔輸送層を形成すること;正孔注入層又は正孔輸送層(HTL)上に活性層を積層すること;及び活性層上にカソードを積層すること。
【0278】
本明細書に記載されるとおり、基板は、可撓性であっても剛性であっても、有機であっても無機であってもよい。適切な基板化合物は、例えば、ガラス、セラミック、金属、及びプラスチック薄膜を含む。
【0279】
別の実施態様において、デバイスの製造方法は、本明細書に記載のインク組成物を、OLED、光起電デバイス、ESD、SMOLED、PLED、センサー、超コンデンサ、カチオン変換器、薬物放出デバイス、エレクトロクロミック素子、トランジスタ、電界効果トランジスタ、電極モディファイア、有機電界トランジスタ用の電極モディファイア、アクチュエータ、又は透明電極中の、HIL又はHTL層の一部として適用することを含む。
【0280】
HIL又はHTL層を形成するためのインク組成物の積層は、当該分野において公知の方法(例えば、回転注型、スピンコーティング、ディップ注型、ディップコーティング、スロットダイコーティング、インクジェット印刷、グラビアコーティング、ドクターブレード法、及び例えば、有機電子デバイスの作製のための当該分野において公知の任意の他の方法を含む)により実行することができる。
【0281】
1つの実施態様において、HIL層は、熱的にアニーリングされる。1つの実施態様において、HIL層は、約25℃~約350℃、典型的には150℃~約325℃の温度で熱的にアニーリングされる。1つの実施態様において、HIL層は、約25℃~約350℃、典型的には150℃~約325℃の温度で、約3~約40分間、典型的には約15~約30分間熱的にアニーリングされる。
【0282】
本開示により、約380~800nmの波長を有する光の、少なくとも約85%、典型的には少なくとも約90%の透過率(典型的には、基板を伴う)を示すことができる、HIL又はHTLを調製することができる。ある実施態様において、透過率は少なくとも約90%である。
【0283】
1つの実施態様において、HIL層は、約5nm~約500nm、典型的には約5nm~約150nm、更に典型的には約50nm~120nmの厚さを有する。
【0284】
ある実施態様において、HIL層は、少なくとも約90%の透過率を示し、そして約5nm~約500nm、典型的には約5nm~約150nm、更に典型的には約50nm~120nmの厚さを有する。ある実施態様において、HIL層は、少なくとも約90%の透過率(%T)を示し、そして約50nm~120nmの厚さを有する。
【0285】
本開示のインク、方法及びプロセス、薄膜、並びにデバイスは、以下の非限定例により更に説明される。
【実施例】
【0286】
[1]オニウムボレート塩の合成
[合成例1]オニウムボレート塩(P-1)の合成
下式で示されるP-1は、以下の方法で合成した。
【化61】
【0287】
10L四ツ口フラスコに、ジエチルエーテル6,068mL、下記式(Q-1)で表される化合物151.7g、KCN9.4gを仕込み、34~36℃で3時間反応させた。反応後、常圧濃縮を行い、267.2gの褐色液体を得た。得られた褐色液体を、55℃でエバポレーターにて濃縮後、35℃で16時間減圧乾燥し、157.7gの薄い茶色の固体である式(Q-2)で表される中間体を得た。得られた中間体(Q-2)は、LDI-MSにて同定した。
LDI-MS m/Z found:1050.12([M]
-calcd:
1049.97).
【化62】
【0288】
300mL三角フラスコに、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリフルオロメタンスルホナート11.043g、中間体(Q-2)22.000g、イオン交換水110mL、ジエチルエーテル110mLを仕込み、25℃で16時間反応させた。反応後のフラスコ内容物を300mL分液ロートに移し、水層を分離した。イオン交換水100mLでエーテル層を5回洗浄した。エーテル層を40~45℃でエバポレーターにて濃縮後、20時間減圧乾燥し、24.000gの淡黄色の固体である目的物を得た。得られた目的物は、1H-NMR及びLDI-MSにて同定した。
1H-NMR(300MHz、DMSO-d6):δ7.40~7.80(19H,m)
LDI-MS m/Z found:371.04([M]+calcd:
371.09).
LDI-MS m/Z found:1050.11([M]-calcd:
1049.97).
【0289】
[合成例2]オニウムボレート塩(P-2)の合成
下式で示されるP-2は、以下の方法で合成した。
【化63】
【0290】
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(東京化成工業(株)製)38.1g、ペンタン1200gを反応容器に仕込み、撹拌下、室温にてn-ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)38.8gを滴下し、室温で3時間反応してスラリー状の反応液を得た。
反応液をろ過して得られた結晶物をペンタンにてかけ洗いし、60℃で減圧乾燥して中間体であるリチウム n-ブチルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート38.1gを得た(収率89%)。
【0291】
続いて、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスファート(サンアプロ(株)製)22.5gをジクロロメタン530gに溶解させた溶液に、上記で得られたボレート30gをイオン交換水400gに溶解させた水溶液を加え、撹拌下で1時間混合した。混合後、静置して水層を除き、ジクロロメタン溶液をイオン交換水400gで5回洗浄した。水洗後のジクロロメタン溶液を減圧下、脱溶媒し、目的物である(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウム n-ブチルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート塩の淡黄色固体40gを得た(収率97%)。得られた目的物は、1H-NMR及び19F-NMRにて同定した。
1H-NMR(DMSO-d6):δ 7.6~7.8(12H,m),7.4~7.5(5H,m),7.3(2H,d),1.0~1.2(4H,m),0.6~0.8(5H,m)ppm.
19F-NMR(DMSO-d6):δ -132(6F,d),-159.5(3F,t),-163(6F,t)ppm.
【0292】
[2]電荷輸送性物質の調整
[合成例3]スルホン化ポリ(3-MEET)(以下、S-ポリ(3-MEET)ともいう)アミン付加物の調製
S-ポリ(3-MEET)の水性分散液(水中0.598%固形物)500gをトリエチルアミン(東京化成工業(株)製) 0.858gと混合することにより調製した。生じた混合物を回転蒸発により乾固し、そして次に、真空オーブンにて50℃で一晩更に乾燥した。黒色の粉末3.8gとして生成物を単離した。
電荷輸送性物質であるS-ポリ(3-MEET)2.00gを28%アンモニア水(純正化学(株)製)100mLに溶解させ、室温にて終夜撹拌させた。反応液は、アセトン1500mLにて再沈殿し、析出物をろ過にて回収した。得られた析出物は、再度、水20mL及びトリエチルアミン(東京化成工業(株)製)7.59gにて溶解させ、60℃、1時間撹拌した。反応液を冷却後、イソプロピルアルコール1000mL,及びアセトン500mLの混合溶媒にて再沈殿し、析出物をろ過にて回収した。得られた析出物は、0mmHg、50℃にて1時間真空乾燥し、アンモニア水で処理したS-ポリ(3-MEET)-A 1.30gを得た。
【0293】
[3]インク組成物の調製
[実施例1-1]
合成例3にて得た電荷輸送性物質であるS-ポリ(3-MEET)-A 0.125gを、エチレングリコール(関東化学(株)製)2.28g、ジエチレングリコール(関東化学(株)製)2.28g、及びn-ブチルアミン(東京化成工業(株)製)0.20gに溶解させた。溶液の調整はホットスターラーを用い、80℃で1時間撹拌させた。次いで、トリエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)1.25gを加え、ホットスターラーを用い、400rpm、80℃で1時間撹拌させた。最後に、P-1を0.125g加え、ホットスターラーを用い、400rpm、40℃で10分間撹拌させ、得られた溶液を、孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して4wt%のインク組成物を得た。
【0294】
[実施例1-2]
合成例3にて得た電荷輸送性物質であるS-ポリ(3-MEET)-A 0.025gを、エチレングリコール(関東化学(株)製)2.35g、ジエチレングリコール(関東化学(株)製)2.35g、及びn-ブチルアミン(東京化成工業(株)製)0.04gに溶解させた。溶液の調整はホットスターラーを用い、80℃で1時間撹拌させた。次いで、トリエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)1.25gを加え、ホットスターラーを用い、400rpm、80℃で1時間撹拌させた。放冷後、P-1を0.013g、(F)成分として粉末状の4-ヒドロキシスチレン/スチレン=70/30の共重合体(マルカリンカーCST7030(丸善石油化学(株)製))を0.213g加え、ホットスターラーを用い、400rpm、40℃で30分間撹拌させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して4wt%のインク組成物を得た。
【0295】
[実施例1-3]
合成例3にて得た電荷輸送性物質であるS-ポリ(3-MEET)-A 0.025gを、エチレングリコール(関東化学(株)製)1.53g、ジエチレングリコール(関東化学(株)製)2.35g、及びn-ブチルアミン(東京化成工業(株)製)0.04gに溶解させた。溶液の調整はホットスターラーを用い、80℃で1時間撹拌させた。次いで、トリエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)1.25gを加え、ホットスターラーを用い、400rpm、80℃で1時間撹拌させた。放冷後、P-1を0.013g、オルガノシリカゾル(EG-ST(日産化学工業(株)製)、平均粒子径:12nm、固形分濃度:20~21wt%、分散媒:エチレングリコール)を1.04g加え、ホットスターラーを用い、400rpm、40℃で30分間撹拌させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して4wt%のインク組成物を得た。
【0296】
[実施例1-4]
合成例3にて得た電荷輸送性物質であるS-ポリ(3-MEET)-A 0.025gを、エチレングリコール(関東化学(株)製)2.35g、ジエチレングリコール(関東化学(株)製)2.35g、及びn-ブチルアミン(東京化成工業(株)製)0.04gに溶解させた。溶液の調整はホットスターラーを用い、80℃で1時間撹拌させた。次いで、トリエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)1.25gを加え、ホットスターラーを用い、400rpm、80℃で1時間撹拌させた。放冷後、P-2を0.013g、(F)成分として粉末状の4-ヒドロキシスチレン/スチレン=70/30の共重合体(マルカリンカーCST7030(丸善石油化学(株)製))を0.213g加え、ホットスターラーを用い、400rpm、40℃で30分間撹拌させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して4wt%のインク組成物を得た。
【0297】
[実施例1-5]
合成例3にて得た電荷輸送性物質であるS-ポリ(3-MEET)-A 0.025gを、エチレングリコール(関東化学(株)製)4.70g、ジエチレングリコール(関東化学(株)製)4.70g、及びn-ブチルアミン(東京化成工業(株)製)0.04gに溶解させた。溶液の調整はホットスターラーを用い、80℃で1時間撹拌させた。次いで、トリエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)2.50gを加え、ホットスターラーを用い、400rpm、80℃で1時間撹拌させた。放冷後、P-1を0.013g、(F)成分として粉末状の4-ヒドロキシスチレン/スチレン=70/30の共重合体(マルカリンカーCST7030(丸善石油化学(株)製))を0.213g加え、ホットスターラーを用い、400rpm、40℃で30分間撹拌させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して2wt%のインク組成物を得た。
【0298】
[比較例1]
初めに、AQUIVION D66-20BS水溶液(Solvay社製、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ-2-(ビニルオキシ)エタン-1-スルホン酸コポリマー、676gポリマー/酸1モルの当量)の溶媒をエバボレーターにて留去し、得られた残留物を減圧乾燥機にて80℃で1時間減圧乾燥させ、D66-20BSの粉末を得た。得られた粉末を用いて、D66-20BSの10wt%エチレングリコール溶液を作製した。溶液の調製は、ホットスターラーを用い、400rpm、90℃で1時間撹拌することにより行った。
次に、別の容器を用意し、合成例3にて得たS-ポリ(3-MEET)-A 0.020gを、エチレングリコール(関東化学(株)製)1.20g、ジエチレングリコール(関東化学(株)製)1.95g、トリエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)4.88g、2-(ベンジルオキシ)エタノール(関東化学(株)製)0.98g及びn-ブチルアミン(東京化成工業(株)製)0.032gに溶解させた。溶液の調製は、ホットスターラーを用い、80℃で1時間撹拌することにより行った。次いで、得られた溶液に、D66-20BSの10wt%エチレングリコール溶液を0.10g加え、得られた混合物を、ホットスターラーを用いて400rpm、80℃で1時間撹拌した。最後に、オルガノシリカゾル(EG-ST(日産化学工業(株)製)、平均粒子径:12nm、固形分濃度:20~21wt%、分散媒:エチレングリコール)を0.83g加え、得られた混合物を、ホットスターラーを用いて400rpm、80℃で10分間撹拌し、得られた分散液を孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して2wt%のインク組成物を得た。
【0299】
[4]有機EL素子の作製及び特性評価
[実施例2-1~2-4]
実施例1-1~1-4で得られたインク組成物を用いて、以下の手順により実施例2-1~2-4の有機EL素子を作製した。
実施例1-1から1-4で得られた組成物を、それぞれ、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、真空乾燥機にて15分間乾燥した。次に、乾燥させた各ITO基板をグローブボックス内に挿入し、窒素下、230℃で30分間焼成し、ITO基板上に厚さ50nmの正孔注入層を形成した。ITO基板としては、酸化インジウムスズ(ITO)が表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にO2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去した。
【0300】
次いで、正孔注入層を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いて、正孔輸送層としてα-NPD(N,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニルベンジジン)を0.2nm/秒にて30nm成膜した。次に、正孔輸送層として関東化学(株)製の電子ブロック材料HTEB-01を10nm成膜した。次いで、発光層として新日鉄住金化学(株)製の発光層ホスト材料NS60と発光層ドーパント材料Ir(PPy)3を共蒸着した。共蒸着はIr(PPy)3の濃度が6%になるように蒸着レートをコントロールし、40nm積層させた。次いで、電子輸送層としてAlq3、電子注入層としてフッ化リチウム及び陰極層としてアルミニウムの薄膜を順次積層して有機EL素子を得た。この際、蒸着レートは、Alq3及びアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ20nm、0.5nm及び80nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、有機EL素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。酸素濃度2ppm以下、露点-76℃以下の窒素雰囲気中で、有機EL素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着剤((株)MORESCO製、モレスコモイスチャーカット WB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製,HD-071010W-40)を有機EL素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着剤を硬化させた。
【0301】
【0302】
実施例2-1~2-4の素子について、輝度10000cd/m2で駆動した場合における駆動電圧、電流密度及び発光効率(電流効率及び外部量子効率)、並びに輝度の半減期(初期輝度10000cd/m2が半分に達するのに要する時間)を測定した。結果を表1に示す。
【0303】
なお、輝度、駆動電圧、電流密度、電流効率及び外部量子効率は、(株)イーエッチシー製 多チャンネルIVL測定装置により測定した。輝度半減期は、(株)イーエッチシー製 有機EL輝度寿命評価システムPEL-105Sにより測定した。
【0304】
【0305】
実施例2-1~2-4に示すように、(A)式(I)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン、(B)式(a1)又は(a2)で表されるアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩、及び有機溶媒を含む液体担体を含むインク組成物は、ウェットプロセスに適用可能であり、該組成物から形成される正孔注入層は良好に有機EL素子として駆動した。
【0306】
実施例2-1と2-2の比較より、インク組成物が更に(F)マトリックス化合物を含有すると、作製された有機EL素子の電流効率、外部量子効率及び輝度半減期が向上し、好ましい。実施例2-1と2-3の比較より、インク組成物が更に(E)金属酸化物ナノ粒子を含有すると、作製された有機EL素子の電流効率、外部量子効率及び輝度半減期が向上し、好ましい。
【0307】
[5]ポジ型感光性樹脂組成物の調製
以下の合成例で用いる略号の意味は、次の通りである。
MMA:メチルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
HPMA:4-ヒドロキシフェニルメタクリレート
HPMA-QD:4-ヒドロキシフェニルメタクリレート1molと、1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド1.1molの縮合反応によって合成される化合物
CHMI:N-シクロヘキシルマレイミド
PFHMA:2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
AIBN:α、α’-アゾビスイソブチロニトリル
QD1:α、α、α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン1molと、1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド1.5molの縮合反応によって合成される化合物
GT-401:ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(商品名:エポリードGT-401(株式会社ダイセル製))
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
CHN:シクロヘキサノン
【0308】
[数平均分子量及び重量平均分子量の測定]
以下の合成例に従い得られた共重合体の数平均分子量及び重量平均分子量を、東ソー(株)製GPC装置(ShodexカラムKD800及びTOSOHカラムTSK-GEL)を用い、溶出溶媒N,N’-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム-水和物(LiBr・H2O)を10mmol/L(リットル)混合)を流量1ml/分でカラム中に(カラム温度40℃)流して溶離させるという条件で測定した。なお、下記の数平均分子量(以下、Mnと称す。)及び重量平均分子量(以下、Mwと称す。)は、ポリスチレン換算値にて表される。
【0309】
<合成例4>
MMA 10.0g、HEMA 12.5g、CHMI 20.0g、HPMA 2.50g、MAA 5.00g及びAIBN 3.20gをPGME 79.8gに溶解し、60℃乃至100℃にて20時間反応させることにより、アクリル重合体溶液(固形分濃度40wt%)を得た(P3)。得られたアクリル重合体P3のMnは3,700、Mwは6,100であった。
【0310】
<合成例5>
HPMA-QD 2.50g、PFHMA 7.84g、MAA 0.70g、CHMI 1.46g及びAIBN 0.33gをCHN 51.3gに溶解し、110℃にて20時間撹拌して反応させることにより、アクリル重合体溶液(固形分濃度20wt%)を得た(P4)。得られたアクリル重合体P4のMnは4,300、Mwは6,300であった。
【0311】
合成例4で得られたP3 5.04g、合成例5で得られたP4 0.05g、QD1 0.40g、GT-401 0.09g及びPGMEA 6.42gを混合し、室温で3時間撹拌して均一な溶液とすることにより、ポジ型感光性樹脂組成物を調製した。
【0312】
[6]バンク付基板の作製
(株)テクノビジョン製UV-312を用いて10分間オゾン洗浄したITO-ガラス基板上に、スピンコーターを用いて、前記工程[5]にて得られたポジ型感光性樹脂組成物を塗布した後、基板をホットプレート上でのプリベーク(温度100℃で120秒間加熱)に付して、膜厚1.2μmの薄膜を形成した。この薄膜に、長辺200μm、短辺100μmの長方形が多数描かれたパターンのマスクを介して、キヤノン(株)製紫外線照射装置PLA-600FAにより、紫外線(365nmにおける光強度:5.5mW/cm2)を一定時間照射した。その後、薄膜を2.38%TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液に20秒間浸漬して現像を行った後、超純水による薄膜の流水洗浄を20秒間行った。次いで、この長方形パターンが形成された薄膜をポストベーク(温度230℃で30分間加熱)に付して硬化させ、バンク付基板を作製した。
【0313】
[7]電荷輸送性薄膜の断面形状の評価
[実施例3]及び[比較例2]
前記工程[6]にて得られたバンク付基板上の長方形の開口部(膜形成領域)に、クラスターテクノロジー(株)製 Inkjet Designerを用いて、実施例1-5及び比較例1で得られたインク組成物をそれぞれ吐出し、得られた塗膜を、10Pa以下の減圧度(真空度)で15分減圧乾燥し、その後ホットプレートにて230℃で30分乾燥させて、実施例3及び比較例2の電荷輸送性薄膜を形成した。
実施例3及び比較例2の電荷輸送性薄膜の断面の形状を、微細形状測定機ET4000A((株)小坂研究所製)にて測定した。得られた結果を、
図1に示す。
【0314】
実施例3と比較例2を比較すると、実施例3の電荷輸送性薄膜の断面の形状は、比較例2の薄膜の断面のそれと比較して、バンク近傍での膜の這い上がり(膜厚の増加)が明らかに少ない。
以上の結果から、(A)式(I)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン、(B)式(a1)、(a2)又は(a5)で表されるアニオンと対カチオンとからなるオニウムボレート塩、(C)有機溶媒を含む液体担体、及び(F)マトリックス化合物を含むインク組成物を用いることにより、電荷輸送性薄膜形成時のパイルアップの抑制が可能となることが確認された。このことより、本発明のインク組成物を用いて得られる有機EL素子において、パイルアップに伴う開口部の減少や、発光層の不均一な厚みに伴う発光ムラ等がなく、素子特性が大幅に改善されることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0315】
本発明のインク組成物は、有機エレクトロルミネッセンス素子の電荷輸送性薄膜用材料として使用することができる。