(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20230808BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20230808BHJP
A01N 63/50 20200101ALI20230808BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230808BHJP
A23L 2/44 20060101ALI20230808BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230808BHJP
A23L 2/66 20060101ALI20230808BHJP
A23L 3/3463 20060101ALI20230808BHJP
A23L 3/3526 20060101ALI20230808BHJP
A23L 29/288 20160101ALI20230808BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230808BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20230808BHJP
A23L 33/195 20160101ALI20230808BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/785 20060101ALI20230808BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230808BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230808BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20230808BHJP
C11D 7/42 20060101ALI20230808BHJP
D06M 15/15 20060101ALI20230808BHJP
D06M 15/61 20060101ALI20230808BHJP
D06M 16/00 20060101ALI20230808BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230808BHJP
【FI】
A61K38/48 100
A01N61/00 D
A01N63/50 100
A01P1/00
A23L2/00 P
A23L2/52
A23L2/66
A23L3/3463
A23L3/3526 501
A23L29/288
A23L33/10
A23L33/17
A23L33/195
A61K9/12
A61K31/785
A61K47/10
A61P31/12
A61P43/00 121
C11D7/32
C11D7/42
D06M15/15
D06M15/61
D06M16/00 Z
C12N15/31 ZNA
(21)【出願番号】P 2022522221
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2021018455
(87)【国際公開番号】W WO2021230358
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2020086137
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 奈々
(72)【発明者】
【氏名】中野 智美
(72)【発明者】
【氏名】日夏 雅子
(72)【発明者】
【氏名】平木 純
(72)【発明者】
【氏名】福士 英明
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-500518(JP,A)
【文献】特開2005-095112(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167789(WO,A1)
【文献】特開2016-117693(JP,A)
【文献】特開2016-113373(JP,A)
【文献】特開2016-013976(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1860870(CN,A)
【文献】NIKOLIC T. et al.,Preparation of cellulosic fibers with biological activity by immobilization of trypsin on periodate oxidized viscose fibers,Cellulose,2014年,21,pp.1369-1380
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/48
A61P 31/12
A61K 47/34
A61K 47/32
A61K 9/12
A61K 47/10
C12N 9/50
A23L 29/288
A23L 33/10
A23L 33/195
C12N 9/12
A23L 2/52
A23L 2/66
A23L 33/17
A23L 3/3463
A23L 3/3526
A01P 1/00
A01N 63/50
A01N 61/00
C12N 15/31
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーを含む、ノンエンベロープ型ウイルスに対して使用
するための抗ウイルス剤
であって、
前記セリンプロテアーゼが、ズブチリシン様セリンプロテアーゼまたはトリプシンであり、
前記カチオン性ポリマーが、ポリリジンまたはポリエチレンイミンであり、
前記ノンエンベロープ型ウイルスが、カリシウイルス科に属するウイルスである、抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記セリンプロテアーゼが、Bacillus属に属する細菌、Flavobacterium属に属する細菌、Arthrobacter属に属する細菌、Streptomyces属に属する細菌、Geobacillus属に属する細菌、Aspergillus属に属する菌またはRhizopus属に属する菌が産生するものである、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記セリンプロテアーゼが、配列番号1~7の何れかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または配列番号1~7の何れかで表されるアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有し、かつ抗ウイルス活性を有するタンパク質である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記セリンプロテアーゼが、ズブチリシンまたはナットウキナーゼである、請求項1~3の何れか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
前記セリンプロテアーゼが、トリプシンである、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
前記ノンエンベロープ型ウイルスが、ノロウイルスである請求項1~
5の何れか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
アルコールをさらに含む、請求項1~
6の何れか一項に記載に抗ウイルス剤。
【請求項8】
噴霧剤の形態である、請求項1~
7の何れか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項9】
請求項1~
7の何れか一項に記載の抗ウイルス剤を塗布してなる、繊維製品。
【請求項10】
請求項1~
7の何れか一項に記載の抗ウイルス剤を含有する、飲食品組成物。
【請求項11】
請求項1~7の何れか一項に記載の抗ウイルス剤を含有する、食品洗浄処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーを含む、抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ノロウイルスをはじめとするノンエンベロープ型ウイルスの不活化には、次亜塩素酸や次亜塩素酸ナトリウムが用いられるが、これらは有機物が共存する場合や経時的にも不活化効果が劣化しやすく、使用時において十分な不活化効果が得られないことがあった。また安全性の観点から、次亜塩素酸ナトリウムは手指に使用することができず、さらには金属腐食性もあり使用方法が制限されていた。
本発明者等は、これまでに納豆抽出ペプチドとカチオン性ポリマーを組み合わせた抗ウイルス剤について見出し、この抗ウイルス剤がノンエンベロープ型ウイルスに対するウイルス不活化作用があることを示した(特許文献1)。これにより、ノンエンベロープ型ウイルスに対して不活化効果を発揮し、かつ手指への適用や経口投与/摂取も可能な安全性の高い、抗ウイルス剤を提供した。
なお、特許文献1に記載される納豆抽出ペプチドは、バチルス属細菌が産生するセリンプロテアーゼの一種であるズブチリシンより派生するペプチドであると推定されているが、ズブチリシンそのものと特許文献1に記載される納豆抽出ペプチドは異なるものである。
【0003】
しかしながら、抗ウイルス剤の成分の1つである納豆抽出ペプチドは、単独ではノンエンベロープ型ウイルスを不活化することができず(特許文献1)、さらに納豆抽出ペプチドは、納豆中に存在するペプチドであるがその含量は1%程度と少なく、納豆抽出ペプチドを得るためには納豆を出発材料として抽出および精製を行なう必要があるため、製造コストが高いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、安全性が高く、かつウイルス不活化能が高い抗ウイルス剤を、その製造コストを抑えつつ製造することが求められていた。
さらに、このような抗ウイルス剤の有する安全性の高さを維持しつつ、ウイルス不活化能をさらに高めるべく、継続的な検討を行うことは当技術分野において一般的に望まれることである。
【0006】
上記状況に鑑み、安全性が高く、製造コストが安価な成分とカチオン性ポリマーからなる、ウイルス不活化能が高い抗ウイルス剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ズブチリシンやナットウキナーゼ、トリプシン等のセリンプロテアーゼ含む抗ウイルス剤がノンエンベロープ型ウイルスに対する不活化作用があること、および、カチオン性ポリマーと組み合わせることによって、セリンプロテアーゼを含む抗ウイルス剤のノンエンベロープ型ウイルスに対する不活化作用を増強させることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
[1]セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーを含む、ノンエンベロープ型ウイルスに対して使用される、抗ウイルス剤。
[2]前記セリンプロテアーゼが、Bacillus属に属する細菌、Flavobacterium属に属する細菌、Arthrobacter属に属する細菌、Streptomyces属に属する細菌、Geobacillus属に属する細菌、Aspergillus属に属する菌またはRhizopus属に属する菌が産生するものである、[1]に記載の抗ウイルス剤。
[3]前記セリンプロテアーゼが、配列番号1~7の何れかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または配列番号1~7の何れかで表されるアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有し、抗ウイルス活性を有するタンパク質である、[1]又は[2]に記載の抗ウイルス剤。
[4]前記セリンプロテアーゼが、ズブチリシンまたはナットウキナーゼである、[1]~[3]の何れかに記載の抗ウイルス剤。
[5]前記セリンプロテアーゼが、トリプシンである、[1]に記載の抗ウイルス剤。
[6]前記カチオン性ポリマーが、ポリリジンまたはポリエチレンイミンである、[1]~[5]の何れかに記載の抗ウイルス剤。
[7]前記ノンエンベロープ型ウイルスが、ノロウイルスである、[1]~[6]の何れかに記載の抗ウイルス剤。
[8]アルコールをさらに含む、[1]~[7]の何れかに記載に抗ウイルス剤。
[9]噴霧剤の形態である、[1]~[8]の何れかに記載の抗ウイルス剤。
[10][1]~[8]の何れかに記載の抗ウイルス剤を塗布してなる、繊維製品。
[11][1]~[8]の何れかに記載の抗ウイルス剤を含有する、飲食品組成物。
[12][1]~[8]の何れかに記載の抗ウイルス剤を含有する、食品洗浄処理剤。
【発明の効果】
【0009】
安全性が高く、製造コストが安価な成分とカチオン性ポリマーからなる、ウイルス不活化能を有する抗ウイルス剤であって、セリンプロテアーゼ単独使用時と比較してウイルス不活化能をさらに高め、また安定的にウイルス不活化能を有する新規抗ウイルス剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<抗ウイルス剤>
本発明の抗ウイルス剤は、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーを含む、ノンエンベロープ型ウイルスに対して使用される、抗ウイルス剤である。
【0011】
本発明のセリンプロテアーゼは、例えば、キモトリプシン及びキモトリプシンに類似するセリンプロテアーゼを含むキモトリプシン類セリンプロテアーゼ、トリプシン、エラスターゼ、ズブチリシン、ナットウキナーゼ、トロンビン、プラスミン等が挙げられる。
【0012】
本発明においてセリンプロテアーゼは市販されている製品を使用してもよく、また主成分がセリンプロテアーゼではなくともセリンプロテアーゼが含有されていればよく、以下の商品名で市販されているものを例示できる:
アルカラーゼ(登録商標)2.4LFG、プロタメックス(登録商標)、JPBL001株を利用して生産されたアルカリプロテアーゼ、JPFV001株を利用して生産されたプロテアーゼ(以上、ノボザイムジャパン株式会社製);
ペプチターゼR、プロテアーゼP「アマノ」3SD、プロチンSD-AY10、プロテアックス(以上、天野エンザイム株式会社製);
ビオプラーゼ(登録商標)OP、ビオプラーゼ(登録商標)30G、ビオプラーゼ(登録商標)30L、ビオプラーゼ(登録商標)AL-15FG、ビオプラーゼ(登録商標)APL-30、ビオプラーゼ(登録商標)SP-20FG、ビオプラーゼ(登録商標)XL-416F、デナチーム(登録商標)PMC SOFTER、デナチームCPO PEPRICH、プロテアーゼCL-15(以上、ナガセケムテックス株式会社製);
アロアーゼ(登録商標)XA-10、アロアーゼ(登録商標)AP-10、アロアーゼ(登録商標)NP-10、(以上、ヤクルト薬品工業株式会社製);
オリエンターゼ(登録商標)22BF、(以上、エイチビィアイ株式会社製);
スミチーム(登録商標)MP、(以上、新日本化学工業株式会社製);
マキシプロBAP、マキシプロPSP、BakeZyme(登録商標)B500BG、BakeZyme(登録商標)PPU95,000(以上、DSMニュートリション ジャパン株式会社製);
マグナックスMT103、エンチロンSA-100、エンチロンSA-150P、エンチロンNBS-100(以上、洛東化成工業株式会社製);
EFFECTENZ(登録商標)P 2020、EFFECTENZ(登録商標)M 2020、EFFECTENZ(登録商標)P 3020、EFFECTENZ(登録商標)P 150、Optimase(登録商標)PR、Multifect(登録商標)PR 6L(以上、ダニスコジャパン株式会社製);
ADMIL(合同酒精株式会社製);
コクラーゼ(登録商標)・P顆粒(三菱ケミカルフーズ株式会社製)。
【0013】
また特に限定されないが、本発明において、セリンプロテアーゼは、Bacillus licheniformis、Bacillus clausii、Bacillus polymyxa、Bacillus subtilis、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus alcalophilus等のBacillus属に属する細菌;Flavobacterium属に属する細菌;Arthrobacter属に属する細菌;Streptomyces属に属する細菌;Geobacillus stearothermophilus等のGeobacillus属に属する細菌;Aspergillus oryzae、Aspergillus niger、Aspergillus melleus等のAspergillus属に属する菌;Rhizopus属に属する菌が産生するセリンプロテアーゼであってもよい。
本発明において、セリンプロテアーゼを産生する菌は、好ましくはBacillus licheniformis、Bacillus clausii、Bacillus subtilis、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus alcalophilus、Geobacillus stearothermophilus、Aspergillus melleusである。さらに好ましくはBacillus licheniformisまたはBacillus clausiiであり、これらの菌が産生するプロテアーゼは、強く安定した抗ウイルス活性を示す。またBacillus subtilisとしてはBacillus subtilis var. nattoを例示することが出来る。
【0014】
また特に限定されないが、本発明において、セリンプロテアーゼは配列番号1~7の何れかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよく、または、配列番号1~7の何れかで表されるアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を有し、好ましくは95%以上同一のアミノ酸配列を有し、さらに好ましくは98%以上同一のアミノ酸配列を有し、かつ抗ウイルス活性を有するタンパク質であってもよい。
配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質はBacillus subtilis var. nattoが産生するセリンプロテアーゼであり、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質はBacillus subtilis var. nattoが産生するセリンプロテアーゼであり、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質はBacillus subtilisが産生するセリンプロテアーゼであり、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質はBacillus licheniformisが産生するセリンプロテアーゼであり、配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質はBacillus clausiiが産生するセリンプロテアーゼであり、配列番号6で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質はBacillus amyloliquefaciensが産生するセリンプロテアーゼであり、配列番号7で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質はGeobacillus stearothermophilusが産生するセリンプロテアーゼである。
なお、アミノ酸配列の同一性の数値を算出する方法については、当業者に既知の方法を用いる事ができ、例えばBLAST(登録商標)が提供するアミノ酸ホモロジー検索で用いるblastpの規定パラメーターにより算出することができる。
【0015】
また特に限定されないが、本発明において、セリンプロテアーゼは、好ましくはキモトリプシン及びキモトリプシンに類似するセリンプロテアーゼを含むキモトリプシン類セリンプロテアーゼ、トリプシン、エラスターゼ、ズブチリシン、ナットウキナーゼ、トロンビンまたはプラスミンである。さらに好ましくはズブチリシン様セリンプロテアーゼであり、具体的にはズブチリシンまたはナットウキナーゼである。
Bacillus subtilis var. nattoが産生する配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するズブチリシンおよびBacillus subtilis var. nattoが産生する配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するナットウキナーゼのアミノ酸配列の同一性は約99%である。ズブチリシンやナットウキナーゼといったセリンプロテアーゼは工業的手法によって大量生産可能であるため、工業的手法による大量生産が行われていない納豆抽出ペプチドと比較して製造コストが安くなるという点が優れている。
トリプシンは食品にも利用できることが知られている安全な酵素であり、また工業的手法によって大量生産可能であるため安価に入手することが可能である。またトリプシンの有するアミノ酸配列は特に限定されることなく、いずれのアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0016】
本発明において、カチオン性ポリマーは、抗ウイルス剤のウイルス不活化作用を増強させる限り特に限定されることはないが、好ましくはポリリジンまたはポリエチレンイミンである。
【0017】
特に限定されることはないが、本発明のカチオン性ポリマーとしてポリリジンを用いた場合は、ポリリジンは天然に存在するポリマーであるため安全性が高い。
ポリリジンはα-ポリリジン、ε-ポリリジンのいずれでもよく、特に限定されるものではないが、毒性の低さ、入手の容易さからε-ポリリジンが好ましい。また、通常はL-リジンのポリマーである。
ε-ポリリジンは、例えば特許第1245361号に記載の方法で製造することができる。
【0018】
ポリリジンの重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは3000以上、より好ましくは4000以上であり、好ましくは10000以下、より好ましくは8000以下、さらに好ましくは6000以下であり、3000~6000の範囲が特に好ましい。
ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは300~10,000,000である。
なお、ここで重量平均分子量は、GPC-LALLS法により測定された値である。
【0019】
また、本発明のカチオン性ポリマーは、通常はホモポリマーであるが、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他のアミノ酸をモノマーとして含んでもよい。
【0020】
また、本発明のカチオン性ポリマーは、遊離の形であってもよいし、塩酸、硫酸、リン酸及び臭化水素酸から選ばれた少なくとも1種の無機酸、または酢酸、プロピオン酸、フマル酸、リンゴ酸及びクエン酸から選ばれた少なくとも1種の有機酸の塩の形であってもよい。
【0021】
本発明の抗ウイルス剤におけるセリンプロテアーゼとカチオン性ポリマーとの含有比率は、抗ウイルス剤が抗ウイルス効果を発揮する限り特に限定されないが、使用時の質量比として1:100~100:1であることが好ましい。
【0022】
本発明の抗ウイルス剤を含む製剤の最終pHは、抗ウイルス剤が抗ウイルス効果を発揮する限り特に限定されないが、好ましくはpH6.0以上、より好ましくはpH7.0~11.0、さらに好ましくはpH7.3~10.3であり、適宜、対象となるウイルスの種類や濃度などに合わせて調整してもよく、また用途に応じて調整してもよい。
【0023】
本発明の抗ウイルス剤は、ノンエンベロープ型ウイルスを不活化の対象とするものである。ウイルス不活化の結果、ウイルスの感染力を減弱化またはウイルスの感染を阻止することができる。本発明に係る抗ウイルス剤は、次亜塩素酸または次亜塩素酸ナトリウムと異なり、有機物の共存下であっても抗ウイルス活性が低下しないため、適用し得る対象、条件、環境、形態等についての選択の幅が次亜塩素酸よりも格段に広い点でも優れる。
本発明の抗ウイルス剤が作用するノンエンベロープ型ウイルスは、特に限定されないが、例えばノロウイルス、ロタウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、ネコカリシウイルスが挙げられ、好ましくはノロウイルスである。
【0024】
なお、本明細書において、「抗ウイルス活性」は、例えば、当業者に既知の方法であるプラークアッセイ法またはTCID50(median tissue culture infectious dose、50%組織培養感染量)法によって評価される。
【0025】
プラークアッセイ法の場合、試料未添加の場合と比べて、試料添加時のプラーク形成単位(PFU)が小さい、より好ましくは10倍小さく、さらに好ましくは100倍小さいときに、該試料は抗ウイルス活性を有する、と判断する。
TCID50法の場合、試料未添加の場合に比べて試料添加時のlog TCID50値が小さい、より好ましくは1以上小さい、さらに好ましくは2以上小さいとき、すなわち抗ウイルス活性値が0より大きい、好ましくは1以上、さらに好ましくは2以上であるときに、該試料は抗ウイルス活性を有する、と判断する。
なお、ノンエンベロープ型ウイルスに対する不活化試験において、ヒトノロウイルスの培養は困難であることから、一般的に代替試験として使用されているネコカリシウイルスに対する試験によって評価することができる。また、ヒトノロウイルスではなくマウスノロウイルスを代替試験として使用することもできる。
【0026】
本発明の別の側面は、ノンエンベロープ型ウイルス不活化のための、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーの使用である。
また、別の側面は、ノンエンベロープ型ウイルス不活化のための抗ウイルス剤の製造における、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーの使用である。
また、別の側面は、ノンエンベロープ型ウイルス不活化のために用いられる、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーである。
また、別の側面は、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーを対象に適用することを含む、該対象におけるノンエンベロープ型ウイルスの不活化方法である。セリンプロテアーゼを対象に適用することとは、例えば、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーを飲食品組成物としてヒト等の哺乳動物に経口摂取させること、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーを飲食品と接触若しくは混合させること、又はセリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーを繊維製品に塗布することなどが挙げられる。
【0027】
<飲食品組成物>
本発明の抗ウイルス剤は、経口摂取することが可能であるため、飲食品組成物に含有させる態様とすることができる。
【0028】
本発明の飲食品組成物の態様としては、通常の食品、飲料、食品添加物、機能性表示食品、特定保健用食品等の保健機能食品、サプリメント等が挙げられ、特に限定されない。サプリメントとしては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形のサプリメントであってもよく;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液状のサプリメントであってもよい。
【0029】
飲食品組成物の形態としては、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、また錠菓、流動食、飼料等としてもよい。
かかる形態にする際には、本発明の抗ウイルス剤の他に、飲食品製造時に通常添加される成分、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、調味料及び香味料等を用いることができる。炭水化物としては、単糖類、例えば、ブドウ糖、果糖など;二糖類、例えば、マルトース、スクロース、オリゴ糖など;及び多糖類、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖及び、キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールが挙げられる。香味料としては、天然香味料(タウマチン、ステビア抽出物等)及び合成香味料(サッカリン、アスパルテーム等)を使用することができる。
【0030】
また、飲食品組成物は、添加物として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味剤、矯臭剤、pH調整剤、着色剤等の通常飲食品にも添加されるものをさらに含んでもよい。
【0031】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0032】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0033】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0034】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0035】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸;CaCl2等の二価の無機塩類等が挙げられる。
【0036】
矯味剤及び矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、液剤の場合に使用する担体としては、特に限定されないが水等の溶剤等が挙げられる。
【0037】
また、飲食品組成物の一形態として、他に一般の飲食品に含有させる態様であってもよく、例えば、パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品等の即席食品;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子等の菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料等の飲料類;これら以外の飲食品等に、本発明の抗ウイルス剤を添加してもよい。
【0038】
また、飲食品組成物の一形態として、食品洗浄処理剤が挙げられ、これは生鮮食品を含む飲食品に対して抗ウイルス処理を施し、食中毒の発生を予防するために使用するものである。例えば、ノロウイルスに汚染された生カキ等に対して、本発明の飲食品組成物である食品洗浄処理剤を用いて洗浄する態様が好ましく挙げられ、洗浄の際に該処理剤を生カキの洗い流し用の水に添加したり、該処理剤を含む水に生カキを浸漬したりすればよく、特に限定されない。
【0039】
本発明の飲食品組成物の好ましい摂取量は、抗ウイルス効果を発揮できる限り特に限定されず、例えば、約60kgの体重を有する平均的なヒトを対象とした場合、1日あたり、セリンプロテアーゼ量として0.01mg~10000mg、好ましくは0.1mg~10000mg、より好ましくは1mg~5000mgであり、カチオン性ポリマー量として0.01mg~100000mg、好ましくは0.1mg~100000mg、より好ましくは1mg~50000mgである。
【0040】
本発明の飲食品組成物の好ましい摂取タイミングは、特に限定されず、例えば、食前、食後または食間のいずれでもよい。また、摂取間隔は特に限定されない。
【0041】
本発明の飲食品組成物における、本発明の抗ウイルス剤の含有量は、抗ウイルス活性を有する限り特に限定されず、任意で良い。
【0042】
本発明の別の側面は、飲食品組成物の製造における、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマーの使用である。
また、別の側面は、セリンプロテアーゼおよびカチオン性ポリマー、又はこれを有効成分として含有する飲食品組成物を摂取することを含む、ウイルス感染症を改善及び/又は予防する方法である。
【0043】
<他の製品の態様>
その他に、本発明の抗ウイルス剤は、日用品、衛生用品など、種々の態様とすることができる。
その際の形態としては、特に限定されないが、噴霧剤の形態とすることができる。噴霧剤は、例えば、スプレー、エアロゾル、または乾燥噴霧の形態で使用される。噴霧剤は、圧縮ガスやポンプによる噴霧および/または吐出に適した剤型に加工される。例えば水、特に限定されないがpH6.0以上、好ましくはpH7.0~11.0程度、より好ましくはpH7.3~10.3程度の緩衝液、または生理食塩水等に本発明の抗ウイルス剤を溶解させたり、揮発性溶媒に懸濁して製剤化したりする。噴霧剤は、口腔用噴霧剤や鼻腔噴霧剤など、生体に直接投与できる他、フェイスマスクや衣類などの繊維製品に塗布したり、加湿器等により室内に霧散させたりして使用できる。
【0044】
また、本発明の抗ウイルス剤を塗布してなる繊維製品も、本発明に包含される。
繊維製品は、合成繊維、再生繊維もしくは天然繊維、またはこれらの混紡を加工した衣類、衛生用品、寝装品、フイルム類、およびインテリア用品等である。特に限定されるものではないが、繊維製品としては、例えば、シャツ、外套、ズボン、スカート、ナイトウェア、下着類、靴下、手袋、帽子、白衣、看護衣、介護衣、作業着、フェイスマスク、シーツ、枕カバー、カーペット、布団、座布団、壁紙、各種フィルター類、カーテン、およびカーペット等が例示できる。
本発明に係る繊維製品は、例えば、繊維製品または製品加工前の繊維に、本発明の抗ウイルス剤をスプレー、浸漬、含浸、またはコーティング等の方法により塗布すればよい。
【0045】
本発明の抗ウイルス剤を種々の製品(飲食品組成物も含む)の態様とする場合には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、適当な成分と任意に併用することができる。
かかる併用成分は、製品の剤型等に応じて適宜選択すればよく、例えば、水;エタノール、イソプロパノール等の炭素数5以下の低級アルコール;グリセリン、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール等の多価アルコール;グリシン、有機酸、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、デヒドロ酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、亜硫酸ナトリウム、EDTA、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化アルキルジアミノエチルグリシン、ヨードチンキ、ポピドンヨード、セチル酸化ベンザルコニウム、トリクロサン、クロルキシレノール、イソプロピルメチルフェノール、ラクトフェリン、ナイシン、バクテリオシン、ウド抽出物、エゴノキ抽出物、カワラヨモギ抽出物、酵素分解ハトムギ抽出物、しらこタンパク抽出物、ツヤプリシン、ペクチン分解物等の抗菌剤などが挙げられ、特に限定されない。これらのうち、水、低級アルコール及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種が併用成分として好ましく、抗菌性をも付与しうる観点から低級アルコール及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0046】
この他にも、クエン酸、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン等のpH調整剤、トコフェロール酢酸エステル等の酸化防止剤、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース等の増粘剤、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸等のアミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等のホスホン酸系キレート剤、トリエタノールアミン、ポリアミン類等のアミン系キレート剤などの添加剤も、併用成分として好ましく挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0048】
<実施例1>ズブチリシンまたはナットウキナーゼをε-ポリリジンと併用した時の抗ネコカリシウイルス活性試験(プラークアッセイ法での評価)
ネコカリシウイルス(Feline Calicivirus F-9 ATCC VR-782)を細胞に対して、所定の濃度に希釈した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-)(pH7.4))で表面を洗浄したCRFK細胞(ATCC CCL-94)に希釈したウイルス液を添加した。細胞増殖用培地(2%ウシ胎仔血清加ダルベッコ改変イーグル培地、ナカライテクノ)を5mL加え、細胞変性効果(CPE)が確認されるまで、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2~3日間培養した。懸濁液を50mLコニカルチューブに回収し、細胞をペレット化するために遠心分離した(3000rpm、10分間)。遠心分離して得られた上澄み液をバイアル瓶に分注してウイルスストック液とし、-85℃で保管した。
ズブチリシン(シグマアルドリッチ社、製品番号P4860、酵素活性≧2.4U/g、組成(重量体積パーセント):酵素9%;グリセロール50%;水41%)とナットウキナーゼ(富士フイルム和光純薬株式会社、製品番号147-08801、活性≧250IU/g、分子量約31,000)、ε-ポリリジン(JNC株式会社、ロット番号2161102、重量平均分子量4700、重量体積パーセント濃度25%)はそれぞれ、表中の各試験区の所定の終濃度(体積パーセント濃度)になるように精製水で調製した。
試料0.45mLに0.05mLのウイルスストック液を加えて室温にて30分間静置した後、細胞増殖用培地(10%ウシ胎仔血清加ダルベッコ改変イーグル培地、ナカライテクノ)で10倍希釈した後、同様に10
2から10
6倍まで細胞増殖用培地で段階希釈した。この段階希釈して得られた液を段階希釈液として用いた。
あらかじめ細胞増殖用培地を用いて、感染細胞(CRFK細胞)を組織培養用12ウェルプレート(True Line cell culture plate TR5001)内で1ウェル当たり4×10
5の細胞数に播種し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で1日間培養した。
段階希釈液を0.3mLずつ1ウェルの細胞に接種し、再度CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で1時間培養し、1mLの細胞増殖用培地で2回洗浄後、積層用培地(1%CMC加2%ウシ胎仔血清加ダルベッコ改変イーグル培地、ナカライテクノ)を重層させた。
CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2日間培養した後、ゲンチアナ紫(クリスタルバイオレット)溶液で固定および染色を行い、プラーク数を測定した。測定したプラーク数を式((ウェルあたりのプラーク数/ウェルあたりの測定検体の体積(mL))×希釈倍率=PFU/mL)に当てはめ、ウイルス力価(PFU/mL)を算出した。
表1に示す通り、ズブチリシンを単独で使用した場合(試料#2)よりも、ズブチリシンとε-ポリリジンを併用した場合(試料#3)の方が、ウイルス力価が大きく低下することが分かった。さらに、表2に示す通り、ナットウキナーゼを単独で使用した場合(試料#5)よりも、ナットウキナーゼとε-ポリリジンを併用した場合(試料#6)の方が、ウイルス力価が大きく低下することが分かった。
つまり、ズブチリシンまたはナットウキナーゼとε-ポリリジンとを併用することによって、ズブチリシンまたはナットウキナーゼを単独で使用した場合と比較して、抗ウイルス効果が大きく増加することが示された。
【表1】
【表2】
【0049】
<実施例2>ズブチリシンまたはナットウキナーゼをε-ポリリジンと併用した時の抗ネコカリシウイルス活性試験(log TCID
50値での評価)
抗ネコカリシウイルス活性が、ズブチリシンまたはナットウキナーゼをε-ポリリジンと併用することで増強されるかを確認した。
この試験は複数回行っており、それぞれ表3または4で示される混合濃度で試料を調製した。
【表3】
【表4】
実施例1で使用したネコカリシウイルス液のウイルスストック液を、希釈率10倍以下かつ陰性対照のlog TCID
50値が6を下回らないように、適宜PBS(-)(pH7.4)で希釈し、ウイルスストック液とセリンプロテアーゼ溶液を1:9の体積比で混合し、30分間室温でインキュベートした。インキュベート後の培養上清をPBS(-)(pH7.4)によって希釈し、10
0~9倍の段階希釈液を作成した。
あらかじめ細胞増殖用培地(5%ウシ胎仔血清加イーグル最小必須培地、シグマアルドリッチ社)を用いて、感染細胞(CRFK細胞ATCC CCL-94)を組織培養用96ウェルプレート(IWAKI 細胞培養用マイクロプレート ポリスチレン製 平底)内で1ウェル(細胞増殖用培地0.05mL)当たり2×10
4の細胞数になるよう播種し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で培養した。インキュベート後、各ウェルの培地を取り除かずに、段階希釈液を1ウェルあたり0.05mLずつ添加して混合することでウイルス液を細胞に接種した。CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2~3日間培養し、顕微鏡によって細胞変性を確認し、当業者に既知の方法により、log TCID
50値を測定した。
ズブチリシン単独使用と比較して、ズブチリシンとε-ポリリジンを併用することによってlog TCID
50値は1.4~2.3低下した(表5及び表6)。また、ナットウキナーゼ単独使用と比較して、ナットウキナーゼとε-ポリリジンを併用することによってlog TCID
50値は最大で3.0低下した(ナットウキナーゼ100ppm)(表6)。すなわち、ズブチリシンまたはナットウキナーゼとε-ポリリジンを併用することによって、ズブチリシン、ナットウキナーゼまたはε-ポリリジンをそれぞれ単独で使用した場合と比較して抗ウイルス活性が相乗的に増加することが示された。
【表5】
【表6】
【0050】
<実施例2>セリンプロテアーゼを含有する市販の酵素製剤とε-ポリリジンと併用した時の抗ネコカリシウイルス活性試験(log TCID
50値での評価)
抗ネコカリシウイルス活性が、セリンプロテアーゼを含有する市販の酵素製剤とε-ポリリジンとを併用することで増強されるかを確認した。セリンプロテアーゼ溶液は、表7から8で示される酵素製剤を用い、それぞれ表中の各試験区の所定の終濃度(体積パーセント濃度)になるようにPBS(-)(pH7.4)で調製した。
この試験は複数回行っており、それぞれ表7または8で示される混合濃度で試料を調製した。
【表7】
【表8】
実施例1で使用したネコカリシウイルス液のウイルスストック液を、希釈率10倍以下かつ陰性対照のlog TCID
50値が6を下回らないように、適宜PBS(-)(pH7.4)で希釈し、ウイルスストック液とセリンプロテアーゼ溶液を1:9の体積比で混合し、10分間室温でインキュベートした。インキュベート後の培養上清をPBS(-)(pH7.4)によって希釈し、10
0~9倍の段階希釈液を作成した。
あらかじめ細胞増殖用培地(5%ウシ胎仔血清加イーグル最小必須培地、シグマアルドリッチ社)を用いて、感染細胞(CRFK細胞ATCC CCL-94)を組織培養用96ウェルプレート(IWAKI 細胞培養用マイクロプレート ポリスチレン製 平底)内で1ウェル(細胞増殖用培地0.05mL)当たり2×10
4の細胞数になるよう播種し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で培養した。インキュベート後、各ウェルの培地を取り除かずに、段階希釈液を1ウェルあたり0.05mLずつ添加して混合することでウイルス液を細胞に接種した。CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2~3日間培養し、顕微鏡によって細胞変性を確認し、当業者に既知の方法により、log TCID
50値を測定した。
セリンプロテアーゼを含有する市販の酵素製剤とε-ポリリジンを併用した場合、陰性対照と比較してlog TCID
50値は3.1~4.5低下した(表9及び表10)。すなわち、市販の酵素製剤とε-ポリリジンを併用することによって、市販の酵素製剤をそれぞれ単独で使用した場合と比較して、抗ウイルス活性が相乗的に増加することが示され、またその抗ウイルス効果が安定的に発現することが示された。
【表9】
【表10】
【0051】
<実施例4>ズブチリシンを数種のポリカチオンと併用した時の抗ネコカリシウイルス活性試験(log TCID
50値での評価)
抗ネコカリシウイルス活性が、ズブチリシンを数種のポリカチオンと併用することで増強されるかを確認した。実施例1で使用したズブチリシン、ポリエチレンイミン(純正化学株式会社、製品番号:2018I1645、分子量約1200)、プロタミン硫酸塩(富士フイルム和光純薬株式会社、製品番号:168-05192、サケ由来)、DEAE-デキストラン塩酸塩(シグマアルドリッチ社、製品番号:29100346)をそれぞれ使用し、表11で示される混合濃度で試料を調製した。なお、試料#1は陰性対照である。
試料0.45mLと実施例1で使用したネコカリシウイルス液のウイルスストック液0.05mLを混合し、30分間室温でインキュベートした。インキュベート後の培養上清を、PBS(-)(pH7.4)によって希釈し、10
0~9倍の段階希釈液を作成した。
あらかじめ細胞増殖用培地(5%ウシ胎仔血清加イーグル最小必須培地、シグマアルドリッチ社)を用いて、感染細胞(CRFK細胞ATCC CCL-94)を組織培養用96ウェルプレート(IWAKI 細胞培養用マイクロプレート ポリスチレン製 平底)内で1ウェル当たり2×10
4の細胞数を播種し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で培養した。段階希釈液を0.05mLずつ1ウェルの細胞に接種した。CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2~3日間培養し、顕微鏡によって細胞変性を確認し、当業者に既知の方法により、log TCID
50値を測定した。
表11に示す通り、ズブチリシンとポリエチレンイミンを併用した場合のlog TCID
50値は3.7であり、陰性対照(6.1)と比較して2.4低下しており、ズブチリシンとポリエチレンイミンを併用することによって、抗ウイルス活性を有することが示された。一方で、ズブチリシンとプロタミン硫酸塩又はDEAE-デキストラン塩酸塩を併用した場合のlog TCID
50値はそれぞれ6.6または5.7であり、陰性対照の値と同程度の値であることより、ズブチリシンとプロタミン硫酸塩又はDEAE-デキストラン塩酸塩を併用しても抗ウイルス活性を有さないことが示された。
【表11】
【0052】
<実施例5>海水中においてズブチリシンまたはナットウキナーゼをε-ポリリジンと併用した時の抗ネコカリシウイルス活性試験(log TCID
50値での評価)
海水中においても、ズブチリシンまたはナットウキナーゼをε-ポリリジンと併用した時、抗ネコカリシウイルス活性を有するかを確認した。
使用した海水は、下記の人工海水A及びBである。
人工海水A:観賞魚用人工海水(カミハタ、品番なし)を、製造者のマニュアルに記載される使用方法の通り、水道水500mLに対して一袋分(約18.5g)を入れて調製した。さらに、滅菌のためにオートクレーブ処理を行った。
人工海水B:テトラマリンソルトプロ(テトラ、品番:70751)を、脱イオン水で3.5重量%になるように調整し、滅菌のためにオートクレーブ処理を行った。
表12に記載される混合濃度で試料を調製し、セリンプロテアーゼ溶液とした。希釈溶媒は、試料#1~#3はPBS(-)(pH7.4)であり、試料#4~#7は人工海水A又は人工海水Bである。
実施例1で使用したネコカリシウイルス液のウイルスストック液とセリンプロテアーゼ溶液を1:9の体積比で混合し、30分間室温でインキュベートした。インキュベート後の培養上清をPBS(-)(pH7.4)によって希釈し、10
0~9倍の段階希釈液を作成した。
あらかじめ細胞増殖用培地(5%ウシ胎仔血清加イーグル最小必須培地、シグマアルドリッチ社)を用いて、感染細胞(CRFK細胞ATCC CCL-94)を組織培養用96ウェルプレート(IWAKI 細胞培養用マイクロプレート ポリスチレン製 平底)内で1ウェル(細胞増殖用培地0.05mL)当たり2×10
4の細胞数になるよう播種し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で培養した。インキュベート後、各ウェルの培地を取り除かずに、段階希釈液を1ウェルあたり0.05mLずつ添加して混合することでウイルス液を細胞に接種した。CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2~3日間培養し、顕微鏡によって細胞変性を確認し、当業者に既知の方法により、log TCID
50値を測定した。
【表12】
表12に示す通り、ナットウキナーゼとε-ポリリジンを併用した場合は、人工海水A又はBを使用した試料(#6~7)の抗ネコカリシウイルス活性は、PBS(-)(pH7.4)を使用した試料(#3)と比較してやや劣ったものの、コントロール試料(#1)と比較すると抗ウイルス活性を有することが確認できた。
また、ズブチリシンとε-ポリリジンを併用した場合は、人工海水A又はBを使用した試料(#4~5)の抗ネコカリシウイルス活性は、PBS(-)(pH7.4)を使用した試料(#2)と比較してlog TCID
50値が同等であり、海水中においても高い抗ウイルス活性が維持されることが示された。
【0053】
<比較例1>海水中において納豆抽出物をε-ポリリジンと併用した時の抗ネコカリシウイルス活性試験(log TCID
50値での評価)
納豆(ヤマダフーズ 業務用極小粒納豆 YM-180)300gを秤量し、3倍量の10mM Tris-HCl(pH7.4)を加えて冷蔵庫内で一昼夜撹拌した。納豆をガーゼで取り除き、その溶液を5,000×g、10分間遠心分離して沈殿を取り除いた。ε-ポリリジン(JNC株式会社 ポリリジン25%水溶液 2161102)を0.1%になるように加えて1時間スターラーで混和した後、5,000×g、10分間遠心分離して沈殿を取り除いた。0.22μm滅菌済フィルター(TRP Syringe filters 0.22μm)を使ってろ過滅菌した。硫酸アンモニウム(Wako 試薬特級019-03435)を飽和濃度の50%になるように数回に分けて加えて、4℃で1時間撹拌した。その溶液を10,000×gで20分間遠心分離して沈殿を取り除き、上清に硫酸アンモニウムを飽和濃度の75%になるように数回に分けて加えて、4℃で1時間撹拌した。10,000×gで20分間遠心分離して上清を捨て、氷冷下で沈殿に10mM Tris-HCl 10mLを加えて溶解し、透析対象液とした。透析膜(積水メディカル株式会社 セルロースチューブ透析膜27/32 製造番号:521737)約25cmを蒸留水で洗浄して可塑剤を取り除き、上記の透析対象液を空気と共に透析膜によって包み込んだ。外液としては、透析対象液の約100倍容量の10mM Tris-HClを用い、そこに透析対象液を包み込んだ透析膜を浮かべ、外液を撹拌しながら透析を一昼夜行った。その際3回程度外液を交換した。透析膜を切り開いて透析後の溶液を容器に移し、その容器の口を蓋の代わりにキムワイプと輪ゴムで覆い-85℃ディープフリーザーで1時間程度冷凍した。凍結乾燥機(東京理化器機株式会社 EYELA FDU-2000)にこの容器を取り付け、2昼夜程度凍結乾燥を行い、納豆抽出物を得た。このようにして得た納豆抽出物を滅菌水で0.2%になるように溶解し、0.22μm滅菌フィルターでろ過滅菌した。
人工海水A及び人工海水Bは実施例4で使用したものと同じものを使用した。
表13~15に記載される混合濃度でサンプルを調製した。試験区#1及び#2は滅菌水、試験区#3及び4は人工海水A、試験区#5及び#6は人工海水Bをそれぞれ溶媒として用い、サンプル溶液とした。ウイルスストック液とサンプル溶液を1:9の体積比で混合し、30分間室温でインキュベートした。インキュベート後の培養上清をPBS(-)(pH7.4)によって希釈し、10
0~9倍の段階希釈液を作成した。
実施例5に記載する方法と同様の方法によりlog TCID
50値を測定した。その結果、納豆抽出物とポリリジンを併用することによって、滅菌水中ではlog TCID
50値は4.5であり、陰性対照(7.2)と比較して2.7低下しており、抗ネコカリシウイルス活性が示された(表13)。一方で、人工海水A及びB中においては、log TCID
50値がそれぞれ6.3及び6.6であり、陰性対照(7.2及び7.3)と比較して0.9及び0.7の低下にとどまった(表14及び表15)。すなわち、納豆抽出物及びポリリジンを海水中で併用した場合の抗ネコカリシウイルス活性は、滅菌水中で併用した場合と比較して、著しく低下することが示された。
【表13】
【表14】
【表15】
【0054】
<実施例6>トリプシンをε-ポリリジンと併用した時の抗ネコカリシウイルス活性試験(log TCID
50値での評価)
トリプシンが、ε-ポリリジンと併用されることによって、抗ネコカリシウイルス活性が増強されるか調べた。トリプシン、ブタ脾臓由来(富士フイルム和光純薬、製品番号209-19282、ロット番号SEG1875)とε-ポリリジン(JNC株式会社、重量平均分子量4700、重量体積パーセント濃度25%、ロット番号2161102)を、表16中の各試験区の所定の終濃度(体積パーセント濃度)になるようにTris-HClで調製した。
実施例1で使用したネコカリシウイルス液のウイルスストック液を、希釈率10倍以下かつ陰性対照のlog TCID
50値が6を下回らないように、適宜PBS(-)(pH7.4)で希釈し、ウイルスストック液とセリンプロテアーゼ溶液を1:9の体積比で混合し、30分間室温でインキュベートした。インキュベート後の培養上清をPBS(-)(pH7.4)によって希釈し、10
0~9倍の段階希釈液を作成した。
あらかじめ細胞増殖用培地(5%ウシ胎仔血清加イーグル最小必須培地、シグマアルドリッチ社)を用いて、感染細胞(CRFK細胞ATCC CCL-94)を組織培養用96ウェルプレート(IWAKI 細胞培養用マイクロプレート ポリスチレン製 平底)内で1ウェル(細胞増殖用培地0.05mL)当たり2×10
4の細胞数になるよう播種し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で培養した。インキュベート後、各ウェルの培地を取り除かずに、段階希釈液を1ウェルあたり0.05mLずつ添加して混合することでウイルス液を細胞に接種した。CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2~3日間培養し、顕微鏡によって細胞変性を確認し、当業者に既知の方法により、log TCID
50値を測定した。
表16に示す通り、トリプシン単独では500ppmという低濃度を用いた場合は抗ウイルス活性を有さないが、トリプシンをε-ポリリジンと併用した場合はlog TCID
50値は4.9であり、陰性対照(6.8)と比較して1.9低下しており、トリプシンとε-ポリリジンと併用することで抗ウイルス活性を増強できることが示された。
【表16】
【0055】
<実施例7>細胞毒性試験
実施例1で用いたズブチリシン、ナットウキナーゼおよびε-ポリリジンを、それぞれ0.5~5000μg/mLの濃度となるように、10%ウシ胎仔血清加ダルベッコ改変イーグル培地で適宜希釈し、48ウェルプレートで培養したRAW264.7細胞の培養上清中に添加した。72時間後に、細胞数を測定し、当業者に既知の方法により50%細胞毒性濃度(CC50)を求めた。
2回の細胞数測定値を平均した値を用いた場合のCC50は、ズブチリシンが4.6μg/mL、ナットウキナーゼが1450μg/mL、ε-ポリリジンが27μg/mLであった。
【0056】
<実施例8>抗マウスノロウイルス活性試験
実施例1で用いたズブチリシン、ナットウキナーゼおよびε-ポリリジンを、それぞれPBS(-)(pH7.4)で希釈することにより、最終濃度の4倍希釈液に調製した。
マウスノロウイルスのストック液は次の方法により調製した。1×10
6細胞/mLのRAW264.7細胞を、100mmディッシュ(1ディッシュあたり10mL)に加えて、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で培養した。培地は、10%ウシ胎仔血清加DMEMを使用した。翌日、マウスノロウイルス(MNV S7-PP3株)のウイルス液を0.1PFU/細胞に調製し、上記の細胞に1ディッシュあたり1mL加え、室温で1時間感染させた。維持培地(1%ウシ胎仔血清加DMEM)を1ディッシュあたり5mLずつ添加し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で培養した。翌日、CPE(ウイルス感染による細胞変性効果)が細胞全体に出現していることを確認の上、懸濁液を50mLチューブに入れ、4℃で1500rpm、10分間遠心分離した。その上清を1.5mLのマイクロチューブに適宜(0.1~1mL)分注してウイルスストック液とし、-80℃で保存した。
ウイルスストック液をPBS(-)(pH7.4)で希釈して2×10
5PFU/mLのウイルス力価に調製した。
96ウェルプレートの各ウェルに、上記調製したズブチリシン、ナットウキナーゼまたはPBS(-)(pH7.4)を20μL、上記調製したε-ポリリジンまたはPBS(-)(pH7.4)を20μL、および上記調製したウイルスストック液を40μL(計80μL/ウェル)加え、室温で30分間~1時間放置した。その後、各ウェルから10μL取り出し、すぐにPBS(-)(pH7.4)で100倍希釈し、100μL回収した。その希釈液を24ウェルプレートに単層状に培養したRAW264.7細胞に接種し、プラーク用培地を重層した。当業者に既知の方法により、培養2日後に細胞を固定し、ゲンチアナ紫(クリスタルバイオレット)溶液で染色し、その後プラーク数を測定した。表17に示す通り、ズブチリシン、ナットウキナーゼまたはε-ポリリジンを単独で使用した場合と比較して、ズブチリシンまたはナットウキナーゼをε-ポリリジンと併用した場合にプラーク数が少ないことが分かった。
つまり、ズブチリシンまたはナットウキナーゼとε-ポリリジンとを併用することによって、ズブチリシンまたはナットウキナーゼを単独で使用した場合と比較して、抗ウイルス効果が大きく増加することが示された。
【表17】
【0057】
<実施例9>ナットウキナーゼ及びε-ポリリジンをアルコールと併用した時の抗マウスノロウイルス活性試験(プラークアッセイ法での評価)
マウスノロウイルスは実施例8で使用したものを用いた。
ナットウキナーゼ(富士フイルム和光純薬株式会社、製品番号147-08801、活性≧250IU/g、分子量約31,000)、ε-ポリリジン(JNC株式会社、ロット番号2161102、重量平均分子量4700、重量体積パーセント濃度25%)をPBS(-)(pH7.4)で希釈し、それぞれ1%(w/v)に調整して0.01mLずつ96ウェルプレートのウェル内で混合した。ここに99.5%エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社、製品番号057-00456)を0又は0.05mL加え、合計の液量が0.075mLになるようPBS(-)(pH7.4)を加えた。また、陰性対照としてPBS(-)(pH7.4)0.075mLを用意した。これらのウェルにウイルスストック液0.025mLを加えて室温にて1時間静置した後、PBS(-)(pH7.4)で100倍希釈した。
あらかじめ細胞増殖用培地(10%ウシ胎仔血清加DMEM)を用いて、感染細胞(RAW264.7細胞)を組織培養用24ウェルプレート内で1ウェル当たり5×10
5の細胞数に播種し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で1日間培養した。細胞増殖用培地を取り除いてウイルス希釈液0.1mLをウェルに加え、30分~1時間培養した後、積層用培地(1.5%Sea Plaque Agarose(Lonza)添加DMEM培地)を重層させた。
CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2日間培養した後、10%ホルマリンを加えて2時間~一晩固定し、20%エタノールを含むゲンチアナ紫(クリスタルバイオレット)溶液で染色し、プラーク数を測定した。各条件2ウェルで試験を実施し、平均プラーク数を記録した。
その結果、ナットウキナーゼ及びε-ポリリジンとエタノールとを併用することで、抗マウスノロウイルス活性が増強されることが示された(表18)。
【表18】
【0058】
<実施例10>各pHにおける抗ネコカリシウイルス活性試験(log TCID
50値での評価)
ズブチリシンあるいはセリンプロテアーゼを含有する市販の酵素製剤とε―ポリリジンを併用した場合の、各pHにおける抗ネコカリシウイルス活性を確認した。セリンプロテアーゼ溶液は、表19から22で示される酵素製剤を用い、それぞれ表中の各試験区の所定の終濃度(体積パーセント濃度)になるように、それぞれ表中に記載のpHに調整済みのPBS(-)(pH6.0、pH7.0~7.5、pH9.0)を用いて調製した。
この試験は複数回行っており、それぞれ表19から22で示される濃度で試料を調製した。
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
実施例1で使用したネコカリシウイルス液のウイルスストック液を、希釈率10倍以下かつ陰性対照のlog TCID
50値が6を下回らないように、適宜PBS(-)(pH7.4)で希釈し、ウイルスストック液とセリンプロテアーゼ溶液を1:9の体積比で混合し、10分間室温でインキュベートした。インキュベート後の培養上清をPBS(-)(pH7.4)によって希釈し、10
0~9倍の段階希釈液を作成した。
あらかじめ細胞増殖用培地(5%ウシ胎仔血清加イーグル最小必須培地、シグマアルドリッチ社)を用いて、感染細胞(CRFK細胞ATCC CCL-94)を組織培養用96ウェルプレート(IWAKI 細胞培養用マイクロプレート ポリスチレン製 平底)内で1ウェル(細胞増殖用培地0.05mL)当たり2×10
4の細胞数になるよう播種し、CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で培養した。インキュベート後、各ウェルの培地を取り除かずに、段階希釈液を1ウェルあたり0.05mLずつ添加して混合することでウイルス液を細胞に接種した。CO
2インキュベーターによって、37℃、5%CO
2の培養条件下で2~3日間培養し、顕微鏡によって細胞変性を確認し、当業者に既知の方法により、log TCID
50値を測定した。
ズブチリシンを用いた場合、pH7.0において陰性対照と比較してlog TCID
50値は1.1以上の低下を示し、pH7.2以上では3.1以上低下した(表23)。また、プロチンSD-AY10を用いた場合、pH7.0において陰性対照と比較してlog TCID
50値は1.6以上の低下を示し、pH7.1以上では2.1以上低下した(表23)。さらに、ビオプラーゼ(登録商標)OPを用いた場合、pH7.2において陰性対照と比較してlog TCID
50値は1.1以上の低下を示し、pH7.3以上では2.6以上低下した(表23)。また、ビオプラーゼ(登録商標)OP、ビオプラーゼ(登録商標)SP-20FG、プロチンSD-AY10又はアルカラーゼ(登録商標)2.4LFGを用いた場合、pH6.0において陰性対照と比較してlog TCID
50値は0.2~0.7の低下であり、いずれも抗ウイルス活性が低いものであり(表24)、その一方で、pH9.0において陰性対照と比較してlog TCID
50値は3.7~4.0の低下であり、いずれも抗ウイルス活性が高いものであった(表25)。さらに、P「アマノ」3SDを用いた場合、pH7.2において陰性対照と比較してlog TCID
50値は1.8以上の低下を示し、pH7.3以上では2.3以上低下した(表26)。加えて、ビオプラーゼ(登録商標)APL-30を用いた場合、pH7.0において陰性対照と比較してlog TCID
50値は1.3以上の低下を示し、pH7.1以上では2.3以上低下した(表26)。また、ビオプラーゼ(登録商標)30Gを用いた場合、pH7.3において陰性対照と比較してlog TCID
50値は1.6以上の低下を示し、pH7.4以上では3.1以上低下した(表26)。すなわち、ズブチリシンの場合、好ましくはpH6.0以上、より好ましくはpH7.0~11.0、さらに好ましくは7.3~10.3で効果的に使用でき、各種セリンプロテアーゼおよび各種セリンプロテアーゼを含有する市販の酵素製剤において、抗ウイルス活性に対するpHの至適領域が異なり、活性の強度も異なるため、適宜pHを調整すること、用途に応じてセリンプロテアーゼ製剤を選定することが好ましいことが示された。
【表23】
【表24】
【表25】
【表26】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、ノンエンベロープ型ウイルスに対して不活化効果を発揮し、かつ手指への適用や経口摂取も可能な安全性の高い、新規な抗ウイルス剤が提供されるため、非常に有用である。
【配列表】