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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】親水滑水化処理剤および表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20230808BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230808BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20230808BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230808BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230808BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230808BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20230808BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C09D183/04
C23C26/00 A
C08G65/336
B32B15/08 Z
B05D5/00 H
B05D7/14 101C
F28F1/32 H
F28F13/18 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019010533
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2020117636
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】金子 宗平
(72)【発明者】
【氏名】松崎 正幹
(72)【発明者】
【氏名】穂積 篤
(72)【発明者】
【氏名】浦田 千尋
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-249863(JP,A)
【文献】特開2000-239607(JP,A)
【文献】特開2001-172502(JP,A)
【文献】特開2004-043521(JP,A)
【文献】国際公開第2006/082946(WO,A1)
【文献】特開2008-073963(JP,A)
【文献】特開2004-256586(JP,A)
【文献】特表2015-516368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
F28F 1/00- 1/44
F28F 11/00- 19/06
B32B 1/00- 43/00
C23C 24/00- 30/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのケイ素原子に、少なくとも1つの親水性鎖含有基と、少なくとも1つの加水分解性基とが結合している有機ケイ素化合物(A)と、
金属アルコキシド(B)と、を含み、
前記親水性鎖含有基は、下記式(1)で表され、
前記有機ケイ素化合物(A)と前記金属アルコキシド(B)とのモル比(A/B)が、0.07~0.4である、親水滑水化処理剤。
【化1】
(式中、R は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、または水酸基であり、R は、炭素数1~5のアルキレン基であり、1つの前記親水性鎖含有基の中に複数個のR が存在する場合には、各R は互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、4以上の整数であり、R は、炭素数1~5のアルキレン基である。)
【請求項2】
前記式(1)におけるRは、エチレン基である、請求項に記載の親水滑水化処理剤。
【請求項3】
前記式(1)におけるRは、アルコキシ基である、請求項に記載の親水滑水化処理剤。
【請求項4】
前記式(1)におけるRは、メトキシ基である、請求項に記載の親水滑水化処理剤。
【請求項5】
前記加水分解性基は、アルコキシ基である、請求項1~いずれかに記載の親水滑水化処理剤。
【請求項6】
前記加水分解性基は、メトキシ基である、請求項1~いずれかに記載の親水滑水化処理剤。
【請求項7】
前記有機ケイ素化合物(A)は、1つの前記親水性鎖含有基と、3つの前記加水分解性基とが結合している、請求項1~いずれかに記載の親水滑水化処理剤。
【請求項8】
材の表面に、請求項1~いずれか記載の親水滑水化処理剤を接触させて親水滑水性皮膜を形成する親水滑水性皮膜形成工程を含む表面処理方法。
【請求項9】
前記基材は、アルミニウムである請求項に記載の表面処理方法。
【請求項10】
前記基材は、熱交換器用フィン材である、請求項またはに記載の表面処理方法。
【請求項11】
請求項1~7いずれか記載の親水滑水化処理剤の加水分解縮合物を含む親水滑水性皮膜が表面に形成された基材。
【請求項12】
請求項1~7いずれか記載の親水滑水化処理剤の加水分解縮合物を含む親水滑水性皮膜が表面に形成された熱交換器用フィン材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水滑水化処理剤、当該親水滑水化処理剤を用いた表面処理方法、当該表面処理方法により親水滑水性皮膜が形成された基材、および、該表面処理方法により親水滑水性皮膜が形成された熱交換器用フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属基材の表面に親水化処理を施す技術が知られている。例えば、アルミニウムを用いた熱交換器においては、フィン表面への凝縮水の付着に起因する騒音の発生、水滴の飛散による汚染等の問題を防止するため、フィン表面に親水化処理は施される。
【0003】
金属基材への親水化処理に用いられる親水化処理剤としては、例えば、アセトアセチル基およびオキシアルキレン基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂と、架橋剤とを含有する親水化処理剤が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された親水化処理剤によれば、親水性のみならず耐水性にも優れた皮膜を形成できる。
【0004】
しかしながら、親水性に優れる皮膜の上では、凝縮水は安定化して除去しにくくなる傾向にあった。すなわち、親水性が優れている皮膜ほど、水滴除去性は悪化する。そこで、親水かつ水滴除去性に優れる処理剤として、親水性重合体(a)および架橋剤(b)を含む親水性塗料が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の親水性塗料は、架橋剤を用いた硬化反応を生じさせるため、高温での焼付け乾燥が必要となる。具体的には、通常、素材到達最高温度が約150~約250℃ 、好ましくは190~240℃という高温で焼付けする必要がある(引用文献2の段落[0063])。
【0006】
これに対して、低温で乾燥が可能で、滑水性に優れた皮膜を形成できる表面処理剤も提案されている(特許文献3参照)。特許文献3に記載された処理剤は、有機シランと金属アルコキシドを含み、有機溶媒、水、触媒を含む溶液中で共加水分解・縮重合することにより皮膜を得る。
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載された皮膜は、親水性ではなく疎水性であり、その接触角は100°程度であった。このため、親水性皮膜が必要な材料には、適用できない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-141625号公報
【文献】特開2016-155923号公報
【文献】特開2013-213181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、低温での乾燥によって、親水性を有しつつも水滴除去性を有する皮膜を形成できる親水滑水化処理剤、当該親水滑水化処理剤を用いた表面処理方法、当該表面処理方法により親水滑水性皮膜が形成された基材、および、該表面処理方法により親水滑水性皮膜が形成された熱交換器用フィン材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。そして、親水性鎖含有基と加水分解性基との両者を備える特定の構造の有機ケイ素化合物と、金属アルコキシドとを含む処理剤とすれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、少なくとも1つのケイ素原子に、少なくとも1つの親水性鎖含有基と、少なくとも1つの加水分解性基とが結合している有機ケイ素化合物(A)と、金属アルコキシド(B)と、を含み、前記有機ケイ素化合物(A)と前記金属アルコキシド(B)とのモル比(A/B)が、0.07~0.4である、親水滑水化処理剤である。
【0012】
前記親水性鎖含有基は、下記式(1)で表されるものであってもよい。
【0013】
【化1】
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、または水酸基であり、
は、炭素数1~5のアルキレン基であり、1つの親水性鎖含有基の中に複数個のRが存在する場合には、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、
nは、4以上の整数であり、
は、炭素数1~5のアルキレン基である。)
【0014】
前記式(1)におけるRは、エチレン基であってもよい。
【0015】
前記式(1)におけるRは、アルコキシ基であってもよい。
【0016】
前記式(1)におけるRは、メトキシ基であってもよい。
【0017】
前記加水分解性基は、アルコキシ基であってもよい。
【0018】
前記加水分解性基は、メトキシ基であってもよい。
【0019】
前記有機ケイ素化合物(A)は、1つの親水性鎖含有基と、3つの加水分解性基とが結合していてもよい。
【0020】
また別の本発明は、親水滑水性を付与したい基材の表面に、上記の親水滑水化処理剤を接触させて親水滑水性皮膜を形成する親水滑水性皮膜形成工程を含む表面処理方法である。
【0021】
前記基材は、アルミニウムであってもよい。
【0022】
前記基材は、熱交換器用フィン材であってもよい。
【0023】
また別の本発明は、上記の表面処理方法により、表面に親水滑水性皮膜が形成された基材である。
【0024】
また別の本発明は、上記の表面処理方法により、表面に親水滑水性皮膜が形成された熱交換器用フィン材である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の親水滑水化処理剤によれば、高温での焼付け乾燥を必要とすることなく、低温乾燥によって、親水性を有しつつも水滴除去性を有する皮膜を形成することができる。したがって、両立が困難であった親水性と水滴除去性とをバランスよく備えた皮膜を、低温の条件で生産することができる。
【0026】
また、低温の条件で乾燥できるため、食品包装材や農業用フィルム等の耐熱性のないポリマー基材に対しても適用可能であり、建築外装や窓ガラス等に対しては現場にて塗装を実施し、常温で乾燥させて性能を発現させることができる。
【0027】
さらに、本発明の親水滑水化処理剤によれば、透明性に優れた皮膜を形成することができる。このため、窓ガラス等の透明性が必要となる対象にも、好適に適用することができる。
【0028】
したがって、本発明の親水滑水化処理剤は、産業上の利用可能性が非常に大きいものである。
【0029】
また、本発明の親水滑水化処理剤により形成される親水滑水性皮膜は、親水性と水滴除去性を併せ持つため、セルフクリーニング機能を発揮する。このため、本発明の親水滑水化処理剤により、表面に親水滑水性皮膜が形成された基材は、例えば、熱交換器用フィン材等、親水性と水滴除去性との両者が要求され、また、セルフクリーニング機能が望まれる用途に、好適に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0031】
<親水滑水化処理剤>
本発明の親水滑水化処理剤は、ケイ素原子に、少なくとも1つの親水性鎖含有基と、少なくとも1つの加水分解性基とが結合している有機ケイ素化合物(A)と、金属アルコキシド(B)と、を含む。なお、本発明の親水滑水化処理剤は、上記の有機ケイ素化合物(A)と金属アルコキシド(B)とを必須成分として含んでいればよく、その他の成分を含んでいてもよい。
【0032】
[有機ケイ素化合物(A)]
本発明の親水滑水化処理剤の必須成分である有機ケイ素化合物(A)は、少なくとも1つのケイ素原子に、少なくとも1つの親水性鎖含有基と、少なくとも1つの加水分解性基とが結合している化合物である。本発明の親水滑水化処理剤において、有機ケイ素化合物(A)は、親水性の機能を発現する。
【0033】
ケイ素原子は、4価の元素であるため、最大で4つの基が結合する。本発明においては、4つのうちの少なくとも1つが親水性鎖含有基であり、かつ、少なくとも1つの加水分解性基となっている。したがって、ケイ素原子に結合している残りの2つの基は、特に限定されるものではなく、親水性鎖含有基、加水分解性基、あるいは、その他の任意の基であってよい。また、複数の親水性鎖含有基、または複数の加水分解性基を有する場合には、親水性鎖含有基および加水分解性基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
なかでは、本発明の親水滑水化処理剤の必須成分である有機ケイ素化合物(A)は、1つの親水性鎖含有基と、3つの加水分解性基とが、ケイ素原子に結合していることが好ましい。また、3つの加水分解性基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
なお、有機ケイ素化合物(A)は、上記のようなケイ素原子を少なくとも1つ含んでいればよく、複数個のケイ素原子を含んでいてもよい。例えば、上記のようなケイ素原子が縮合した縮合物であってもよいし、上記のようなケイ素原子を少なくとも1つ含む、異なる種類の有機ケイ素化合物の混合物であってもよい。
【0036】
(親水性鎖含有基)
有機ケイ素化合物(A)における親水性鎖含有基は、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(1)で表される基であることが好ましい。
【0037】
【化2】
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、または水酸基であり、
は、炭素数1~5のアルキレン基であり、1つの親水性鎖含有基の中に複数個のRが存在する場合には、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、
nは、4以上の整数であり、
は、炭素数1~5のアルキレン基である。)
【0038】
上記式(1)で示される親水性鎖含有基においては、Rが酸素と結合している繰り返し単位の構造部分が、親水性を発揮させる役割を担う。Rは、炭素数1~5のアルキレン基であり、1つの親水性鎖含有基の中に複数個のRが存在する場合には、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
また、Rとなる炭素数1~5のアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、水滴除去性をより良好なものとする場合には、直鎖状であることが好ましく、なかでも、エチレン基であることが特に好ましい。Rがエチレン基であることにより、親水性を高くしながら、水滴除去性を確保することができる。
【0040】
上記式(1)で示される親水性鎖含有基においては、Rと酸素とが結合した単位の繰り返し数nは、通常4以上の整数であり、入手容易性の観点から、4~12の整数であることが好ましい。nが4未満である場合には、親水性を発現させる鎖が短いために、有機ケイ素化合物(A)の親水性が低くなり、その結果、形成される皮膜の親水性が不十分となる。
【0041】
また、上記式(1)で示される親水性鎖含有基において、Rは、親水性鎖含有基の末端に存在する基であり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アルケニル基、または芳香族炭化水素基、または水酸基である。
【0042】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、なかでは、メトキシ基であることが特に好ましい。親水性鎖含有基となる上記式(1)の末端にメトキシ基が存在する場合には、上記式(1)で示される親水性鎖含有基は、高い状態で親水性を付与する機能を発現する。
【0043】
上記式(1)で示される親水性鎖含有基において、Rはケイ素原子に結合する部分であり、炭素数1~5のアルキレン基である。Rとなる炭素数1~5のアルキレン基は、通常、直鎖状であり、直鎖状であれば、水滴除去性をより良好なものとすることができる。
【0044】
(加水分解性基)
有機ケイ素化合物(A)における加水分解性基は、加水分解によりヒドロキシ基(シラノール基)を与える基であれば、特に限定されるものではない。また、本発明の有機ケイ素化合物(A)においては、少なくとも1つの加水分解性基がケイ素原子に結合していればよいが、最大で3つの加水分解性基がケイ素原子に結合することができる。2つまたは3つの加水分解性基がケイ素原子に結合する場合には、加水分解性基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
有機ケイ素化合物(A)における加水分解性基は、親水滑水化処理剤の必須成分である、金属アルコキシド(B)と反応する部位となる。また、金属アルコキシド(B)との反応以外に、親水滑水化処理剤が適用される基材とも反応する部位ともなる。したがって、有機ケイ素化合物(A)における加水分解性基は、形成される皮膜内部と反応しつつ、皮膜を形成する基材とも反応し、形成される皮膜の基材への密着強度を高めることができる。
【0046】
有機ケイ素化合物(A)における加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アセトキシ基、塩素原子、イソシアネート基等を挙げることができる。
【0047】
なかでは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基であることが好ましい。さらには、メトキシ基であることが好ましい。加水分解性基がメトキシ基であることにより、加水分解後に生じるアルコールが低分子となるため、低温での乾燥により寄与するものとなる。
【0048】
有機ケイ素化合物(A)の含有量は、本発明の親水滑水化処理剤において、処理剤全体に対して0.01~30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05~20質量%であり、さらに好ましくは0.1~10質量%である。
【0049】
[金属アルコキシド(B)]
本発明の親水滑水化処理剤の必須成分である金属アルコキシド(B)は、アルコキシ基が金属原子に結合している化合物であり、本発明の親水滑水化処理剤において、疎水性の機能を発現する。
【0050】
本発明に用いられる金属アルコキシド(B)は、下記式(2)で表される構造を有していることが好ましい。また、本発明で用いられる金属アルコキシド(B)は、下記式(2)で表される化合物の加水分解縮合物であってもよい。ここで、加水分解縮合物とは、金属アルコキシド(B)に含まれる全部または一部のアルコキシ基が、加水分解により縮合した化合物を意味する。
【0051】
【化3】
(式中、Mは、3価または4価の金属原子であり、
は、互いに同一であっても異なっていてもよい、炭素数1~4のアルコキシ基であり、
mは、Mの価数に応じて、3または4の整数である。)
【0052】
金属アルコキシド(B)を構成する金属Mとしては、例えば、Al、Fe、In等の3価金属、Hf、Si、Ti、Sn、Zr等の4価金属等が挙げられる。なかでは、入手容易性および貯蔵安定性の観点から、Siであることが好ましい。
【0053】
また、アルコキシ基Rは、金属Mが3価金属の場合には3個が結合し、すなわち、上記式(2)におけるmは3となる。また、金属Mが4価金属の場合には、アルコキシ基Rは4個が結合し、すなわち、上記式(2)におけるmは4となる。
【0054】
アルコキシ基Rの炭素数は1~4であることが好ましく、中では、低温での乾燥がより容易となることから、エトキシ基またはメトキシ基が最も好ましい。
【0055】
また、有機ケイ素化合物(A)の加水分解性基がアルコキシ基である場合には、有機ケイ素化合物(A)のアルコキシ基と、金属アルコキシド(B)のアルコキシ基は、同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
金属アルコキシド(B)の含有量は、本発明の親水滑水化処理剤において、処理剤全体に対して0.01~30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05~20質量%であり、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0057】
[有機ケイ素化合物(A)と金属アルコキシド(B)とのモル比(A/B)]
本発明の親水滑水化処理剤において、必須成分となる有機ケイ素化合物(A)と金属アルコキシド(B)とのモル比(A/B)は、0.07~0.4であることが好ましく、0.15~0.3の範囲であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明においては、有機ケイ素化合物(A)の鎖状の親水性鎖含有基の間に、金属アルコキシド(b)がスペースを形成することで、両立が困難であった親水性と水滴除去性とをバランスよく備える皮膜を形成することができる。有機ケイ素化合物(A)と金属アルコキシド(B)とのモル比(A/B)が、0.07~0.4の範囲であれば、鎖状の親水性鎖含有基の間に適切なスペースを形成することができ、その結果、親水性と水滴除去性との両立をバランスよく発現することができる。
【0059】
[その他の成分]
本発明の親水滑水化処理剤は、上記の有機ケイ素化合物(A)と金属アルコキシド(B)以外に、任意に他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、溶剤、触媒、添加剤等を挙げることができる。
【0060】
溶剤としては、例えば、水、または、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤等の親水性有機溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、飽和炭化水素系溶剤等の疎水性有機溶剤が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
触媒としては、加水分解触媒として作用するものが好ましく、例えば、塩酸、硝酸、酢酸等の酸性化合物、アンモニア、アミン等の塩基性化合物、金属元素を中心金属とする有機金属化合物等が挙げられる。
【0062】
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防カビ剤、抗菌剤、生物付着防止剤、消臭剤、顔料、難燃剤、帯電防止剤等、付与したい機能を発現するものを、本発明の効果を阻害しない範囲で任意に選択して配合することができる。
【0063】
なお、本発明の親水滑水化処理剤は、処理剤全体における固形分の全質量を10%程度とすることが好ましい。
【0064】
以上説明したように、本発明の親水滑水化処理剤は、少なくとも1つのケイ素原子に、少なくとも1つの親水性鎖含有基と、少なくとも1つの加水分解性基とが結合している有機ケイ素化合物(A)と、金属アルコキシド(B)と、を含み、前記有機ケイ素化合物(A)と前記金属アルコキシド(B)とのモル比(A/B)が、0.07~0.4である、親水滑水化処理剤である。
【0065】
本発明の親水滑水化処理剤によれば、高温での焼付け乾燥を必要とすることなく、低温乾燥によって、親水性を有しつつも水滴除去性を有する皮膜を形成することができる。
【0066】
<表面処理方法>
本発明の表面処理方法は、親水滑水性を付与したい基材の表面に、上記した本発明の親水滑水化処理剤を接触させて親水滑水性皮膜を形成する親水滑水性皮膜形成工程を含む。
【0067】
[基材]
本発明の表面処理方法が適用できる基材は、特に限定されるものではない。例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等の樹脂製の基材が挙げられる。また、セラミックスやガラス、鉄、シリコン、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属、さらには、前記した金属を含む合金等が挙げられる。
【0068】
なお、親水滑水性皮膜形成工程の前に、基材に対して、脱脂処理および脱脂後の水洗処理を行う脱脂処理工程を実施してもよい。
【0069】
あるいは、基材には、易接着処理等の前処理を実施してもよい。易接着処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、シラン系化合物や樹脂によるプライマー処理等が挙げられる。これにより親水滑水性皮膜の密着性が向上し、耐久性を向上させることができる。
【0070】
例えば、親水性と水滴除去性との両者が要求され、また、セルフクリーニング機能が望まれる用途として、熱交換器用フィン材が挙げられるが、熱交換器用フィン材の基材となるアルミニウムに対しても、本発明の表面処理方法は、好適に適用することができる。
【0071】
また、基材の形状としても、特に限定されるもではなく、例えば、平面、曲面、あるいは、多数の面が組み合わさった三次元的構造であってもよい。
【0072】
[親水滑水性皮膜形成工程]
親水滑水性皮膜形成工程では、必要に応じて前処理された基材の表面に、本発明の親水滑水化処理剤を接触させて、親水滑水性皮膜を形成する。
【0073】
本発明の親水滑水化処理剤を接触させる方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。例えば、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法等が挙げられる。
【0074】
なお、本発明の親水滑水化処理剤を接触させる条件についても、特に限定されるものではなく、公知の条件を適用することができる。
【0075】
<親水滑水性皮膜>
(膜厚)
本発明の親水滑水化処理剤を適用して形成される親水滑水性皮膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.05g/m以上であり、より好ましくは0.1~2g/mである。皮膜の膜厚が0.05g/m未満であると、皮膜の親水滑水性の持続性や耐食性が不十分となるおそれがある。
【0076】
(接触角)
本発明の親水滑水化処理剤を適用して形成される親水滑水性皮膜は、親水性の指標として、皮膜に対する水の接触角θsが、60°以下であることが好ましく、より好ましくは50°以下、さらに好ましくは45°以下である。
【0077】
接触角θsが60°以下であれば、建築用耐汚染の分野において、本発明の親水滑水化処理剤により形成される親水滑水性皮膜は、十分に活用することができる。また、接触角θsが45°以下であれば、熱交換器の分野において、十分な活用が期待できる。
【0078】
(転落角)
親水性皮膜の水滴除去性は、転落角の大きさと水切れ性との組み合わせによって評価できる。本発明の親水滑水化処理剤を適用して形成される親水滑水性皮膜は、皮膜に対する水の転落角θtが、10μLの水滴量に対して、50°以下であることが好ましく、より好ましくは40°以下、さらに好ましくは30°以下である。なお、水の転落角θtの下限値は、特に限定されるものではなく、低ければ低いほうが好ましい。
【0079】
(水切れ性)
また、本発明の親水滑水化処理剤を適用して形成される親水滑水性皮膜は、水滴除去性のもうひとつの指標となる水切れ性が良いことが好ましく、すなわち、目視にて、水膜、水滴ともに残存していないことが好ましい。
【0080】
<用途>
本発明の親水滑水化処理剤により親水滑水性皮膜が形成された部材は、親水性と水滴除去性を併せ持つため、セルフクリーニング機能を発揮する。このため、親水性と水滴除去性との両者が要求され、また、セルフクリーニング機能が望まれる用途に、好適に適用することができる。
【0081】
このような用途としては、例えば、空気を熱源とするヒートポンプシステム等や、輸送用機器等に使用される熱交換器の部材を挙げることができ、とりわけ、熱交換器用フィン材として、好適に用いることができる。
【0082】
また、例えば、冷凍設備、送電設備、通信設備、道路周辺設備等の部材、あるいは、自動車や車両等の輸送機等や建築物等のガラス等、親水性と水滴除去性との両者が要求され、セルフクリーニング機能が望まれる用途に、幅広く適用することが可能である。
【実施例
【0083】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0084】
<実施例1~22、比較例1~19>
[試験板の作製]
(基材の準備)
実施例および比較例においては、基材として、アルミニウム基材かガラス基材のいずれかを用いた。それぞれについて、以下に記載する。
【0085】
〔アルミニウム基材〕
150mm×70mm×0.8mmの1000系アルミニウム基材を準備し、サーフクリーナーEC370(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)の1%溶液にて、70℃で5秒間脱脂した。
【0086】
〔ガラス基材〕
ガラス基材としては、松浪硝子工業社製スライドグラスS9213(76x52mm)を、脱脂処理等を実施することなく、そのまま用いた。
【0087】
(親水滑水性皮膜形成工程)
表1および表2に示すように、R~R、ならびにmおよびnを変化させた、以下の化学式(3)で示される有機ケイ素化合物(A)と、以下の化学式(4)で示される金属アルコキシド(B)とを準備し、表1および表2に示されるモル数をそれぞれ配合後、加水分解させるために水と0.01mol/L塩酸とを表1および表2に示されるモル数配合して、親水滑水化処理剤を調製した。このとき、溶媒としてはエタノールを用いて、固形分が5質量%となるよう調製した。なお、表1および表2において、n=6-9、および9-12とは、n数がこの範囲にある材料の混合物となっている試薬を意味する。
【0088】
【化4】
【0089】
【化5】
【0090】
調製した親水滑水化処理剤中に基材を浸漬し、引き上げ後、表1に示すように、115℃で20分間加熱して乾燥、または室温で1日乾燥させて、親水滑水性皮膜を作製した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
<比較例20~27>
上記の化学式(3)におけるR~Rを含む親水性鎖含有基を、表2に示す疎水性鎖とした有機ケイ素化合物(A)と、上記の化学式(4)で示される金属アルコキシド(B)とを準備し、表2に示されるモル数をそれぞれ配合後、加水分解させるために水と0.01mol/L塩酸とを表2に示されるモル数配合して、親水滑水化処理剤を調製した。溶媒としてはエタノールを用いて、固形分が5質量%となるよう調製した。
【0094】
なお、比較例22および23において調製した親水滑水化処理剤は、安定性に優れず、作製数分後に固まってゲル化した。このため、比較例22および23については、後述する評価を実施することができなかった。
【0095】
[評価]
得られた親水滑水性皮膜について、以下の要領で、親水性(接触角θs)、および、水滴除去性として、転落角θtおよび水切れ性の評価を実施した。結果を、表3および表4に示す。
【0096】
(親水性(接触角θs))
親水性評価として、形成した親水滑水性皮膜に対する水滴の接触角θsを評価した。具体的には、親水滑水性皮膜が形成された試験板を、室温環境下、水道水流水(流水量:15kg/時)中に10秒浸漬し、引き上げて乾燥させた。続いて、乾燥させた試験板に対して、自動接触角計(型番:DMO-701、協和界面科学社製)を用いて、室温環境下、滴下10秒後における水接触角を測定した。以下に、評価基準を示す。
4:40°以下
3:40°超、50°以下
2:50°超、60°以下
1:60°超
【0097】
また、親水滑水性皮膜が形成された試験板を、室温環境下、水道水流水(流水量:15kg/時)中に24時間浸漬し、引き上げて乾燥させた。続いて、乾燥させた試験板の親水滑水性皮膜に対する水滴の水接触角θsを、上記同様に測定した。評価基準は上記同様とし、評価結果を示す。
【0098】
(水滴除去性:転落角)
水滴除去性評価として、形成した親水滑水性皮膜に対する水滴の転落角θtを評価した。具体的には、親水滑水性皮膜が形成された試験板を、室温環境下、水道水流水(流水量:15kg/時)中に10秒浸漬し、引き上げて乾燥させた。続いて、乾燥させた試験板に対して、自動接触角計(型番:DMO-701、協和界面科学社製)を用いて、室温環境下、10μLの水滴を滴下1秒後から、試験板を1°/秒の速度で徐々に傾け、水滴が転落下する角度(水転落角)を測定した。以下に、評価基準を示す。
4:30°以下
3:30°超、40°以下
2:40°超、50°以下
1:50°超
【0099】
また、親水滑水性皮膜が形成された試験板を、室温環境下、水道水流水(流水量:15kg/時)中に24時間浸漬し、引き上げて乾燥させた。続いて、乾燥させた試験板の親水滑水性皮膜に対する水滴の転落角θtを、上記同様に測定した。評価基準は上記同様とし、評価結果を示す。
【0100】
(水滴除去性:水切れ性)
自動接触角計(型番:DMO-701、協和界面科学社製)を用いて、転落角を測定した後に、滑落した水滴の通った跡を目視にて確認し、以下の評価基準にて、水の残り方を評価した。
○:水膜、水滴ともに残存していない
△:水滴が確認される
×:水膜として存在している、または滑落しない
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
表3および表4に示されるように、有機ケイ素化合物(A)と金属アルコキシド(B)とのモル比(A/B)が、0.07~0.4の範囲では、低温での乾燥によっても、親水性を有しつつも水滴除去性を有する皮膜を形成できた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の親水滑水化処理剤によれば、両立が困難であった親水性と水滴除去性とをバランスよく備えた皮膜を、高温での焼付け乾燥を必要とすることなく、低温の条件で生産することができる。
【0105】
低温の条件で乾燥できるため、発明の親水滑水化処理剤は、食品包装材や農業用フィルム等の分野において、耐熱性のないポリマー基材に対して好適に適用することができる。また、建築外装や窓ガラス等の建築分野において、現場にて塗装を実施し、常温で乾燥させることで、性能を発現させることができる。
【0106】
また、親水性と水滴除去性を併せ持つ、本発明の親水滑水化処理剤により形成される親水滑水性皮膜は、セルフクリーニング機能を発揮するため、例えば、熱交換器用フィン材等、親水性と水滴除去性の両者についての要求があり、また、セルフクリーニング機能が望まれる用途に、好適に適用することができる。