(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】通信システム、遠隔制御機械システム及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 72/0446 20230101AFI20230808BHJP
H04W 28/04 20090101ALI20230808BHJP
H04L 1/18 20230101ALI20230808BHJP
H04W 84/12 20090101ALI20230808BHJP
【FI】
H04W72/0446
H04W28/04 110
H04L1/18
H04W84/12
(21)【出願番号】P 2019129207
(22)【出願日】2019-07-11
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149711
【氏名又は名称】服部 耕市
(72)【発明者】
【氏名】長尾 明典
(72)【発明者】
【氏名】長尾 勇平
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 正行
(72)【発明者】
【氏名】尾知 博
(72)【発明者】
【氏名】坂元 恭士郎
【審査官】久松 和之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-186014(JP,A)
【文献】特開2015-133533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
H04L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセスポイントと複数のステーションを備え、これらの間で、一定の基準周期を1周期とし、任意のデータを送信するためにN周期の通信期間を設定して周期通信を行う通信システムにおいて、
連続する前記通信期間が、前記N周期よりも短いM周期の期間でオーバーラップすることを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記通信期間は通常送信期間と当該通常送信期間で通信エラーとなったデータを再送する再送期間とを有しており、前の通信期間の再送期間に次の通信期間の通常送信期間がオーバーラップすることを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記アクセスポイントと前記ステーションとの間で行われる通信の方式が直交周波数分割多元接続方式であることを特徴とする請求項1又は2に記載の通信システム。
【請求項4】
コントローラと、当該コントローラによって制御される機械と、請求項1から3のいずれかに記載の通信システムを備え、前記コントローラは前記通信システムのアクセスポイントに接続され、前記機械は前記通信システムのステーションに接続されており、前記通信システムによって前記コントローラが生成した制御データが前記機械に伝えられることを特徴とする遠隔制御機械システム。
【請求項5】
前記機械は産業用ロボットであることを特徴とする請求項4記載の遠隔制御機械システム。
【請求項6】
一定の基準周期を1周期として、任意のデータを送信するためにN周期の通信期間を設定して周期通信を行う通信方法において、
連続する前記通信期間が、前記N周期よりも短いM周期の期間でオーバーラップすることを特徴とする通信方法。
【請求項7】
前記通信期間は通常送信期間と当該通常送信期間で通信エラーとなったデータを再送する再送期間とを有しており、前の通信期間の再送期間に次の通信期間の通常送信期間をオーバーラップさせることを特徴とする請求項6記載の通信方法。
【請求項8】
アクセスポイントと複数のステーションとの間で直交周波数分割多元接続方式の通信を行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセスポイントとステーションとの間で周期通信を行う通信方法および通信システムに関する。また、本発明は、前記通信方法を実施する前記通信システムを使用して例えば産業用ロボット等の機械を制御する遠隔制御機械システムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ネットワークの1つの目的は、産業用機械を高速かつ高信頼に同期制御することである。現在、産業用ネットワークの多くでは有線ネットワーク(産業用イーサネットなどのファストイーサネット(イーサネットは登録商標))が用いられている。しかし、有線ネットワークでは配線コストや配置の自由度などの問題があり、その無線化が望まれている。
【0003】
一方で、すでに産業用の無線ネットワークは存在する。例えば、無線LAN規格IEEE802.11のPCF(Point Coordinator Function)機能を用いたiPCF(Industrial PCF)方式があり、これは端末ごとに順番に制御情報を伝送することで、周期時間1[msec]×端末数を達成する(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】PROFINET無線通信による自動制御-日本プロフィバス協会、インターネット<http://www.profibus.jp/tech/document/pbday2010/B-5_Siemens.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特に産業用ロボット等の制御等に利用される通信においては、通信の信頼性を確保しつつ、更なる周期通信の高速化が望まれている。
本発明は、通信の信頼性を確保しつつ、更なる周期通信の高速化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の通信システムは、アクセスポイントと複数のステーションを備え、これらの間で、一定の基準周期を1周期とし、任意のデータを送信するためにN周期の通信期間を設定して周期通信を行うものであって、連続する通信期間が、N周期よりも短いM周期の期間でオーバーラップするようにしている。
【0007】
また、本発明の通信システムは、通信期間は通常送信期間と当該通常送信期間で通信エラーとなったデータを再送する再送期間とを有しており、前の通信期間の再送期間に次の通信期間の通常送信期間がオーバーラップするようにしても良い。
【0008】
また、本発明の通信システムは、アクセスポイントとステーションとの間で行われる通信の方式が直交周波数分割多元接続方式であっても良い。
【0009】
さらに、本発明の通信方法は、一定の基準周期を1周期として、任意のデータを送信するためにN周期の通信期間を設定して周期通信を行うものであって、連続する通信期間が、N周期よりも短いM周期の期間でオーバーラップするようにしている。
【0010】
また、本発明の通信方法は、通信期間は通常送信期間と当該通常送信期間で通信エラーとなったデータを再送する再送期間とを有しており、前の通信期間の再送期間に次の通信期間の通常送信期間をオーバーラップさせるようにしても良い。
【0011】
また、本発明の通信方法は、アクセスポイントと複数のステーションとの間で直交周波数分割多元接続方式の通信を行うようにしても良い。
【0012】
例えば、無線LANネットワークにおいて周期通信を行う上で、ビーコン周期を1周期として、任意のデータを送信するためにN周期の通信期間を設定し、前のデータを送信するために設定したN周期と次のデータを送信するために設定したN周期が、N周期より短いM周期の期間でオーバーラップすることで、前のデータの再送を行いつつ、その再送期間において次のデータの送信も可能となる。これによって、(N-M)周期の周期通信となるため高速性が実現できる。しかも、送信エラーが発生した場合にはデータを再送するため、通信の高信頼性を確保できる。また、トリガーフレームによるOFDMA通信方式を用いても良く、この場合には集中管理通信が可能となるため、より効率的な通信が実現できる。
【0013】
さらに、本発明の遠隔制御機械システムは、コントローラと、当該コントローラによって制御される機械と、上記の通信システムを備え、コントローラは通信システムのアクセスポイントに接続され、機械は通信システムのステーションに接続されており、通信システムによってコントローラが生成した制御データが機械に伝えられるものである。
この場合、機械は産業用ロボットであっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通信の信頼性を確保しつつ周期通信の更なる高速化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の通信方法の概念を示し、M=1とした場合の説明図である。
【
図2】本発明の通信方法に対する比較例(M=0とした場合)の説明図である。
【
図3】本発明の通信システムおよび遠隔制御機械システムの実施形態の一例を示す説明図である。
【
図4】本発明の通信方法の概念を示し、M=2とした場合の説明図である。
【
図5】本発明の通信方法の通信プロトコルの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1に、本発明の通信方法の実施形態の一例を示す。この通信方法は、一定の基準周期、例えばビーコン周期を1周期として、任意のデータを送信するためにN周期の通信期間を設定して周期通信を行うものであって、連続する通信期間が、N周期よりも短いM周期の期間でオーバーラップするようにしている。通信期間は通常送信期間と当該通常送信期間で通信エラーとなったデータを再送する再送期間とを有しており、前の通信期間(n番目の通信期間)の再送期間に次の通信期間(n+1番目の通信期間)の通常送信期間をオーバーラップさせている。
【0017】
本実施形態では、アクセスポイント(親機)と5台のステーション(子機)STA1~STA5との間で1対5の直交周波数分割多元接続(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)方式の通信を行っている。また、アクセスポイントはビーコンフレーム(図中、四角で囲った「B」で示す)を周期的に送信しており、一定の周期であるビーコン周期が形成される。そして、4周期のビーコン周期を通信期間とし(N=4)、1番目のビーコン周期を通常送信期間(図中「通常」で示す)、2番目のビーコン周期を1回目の再送期間(図中「再送1」で示す)、3番目のビーコン周期を2回目の再送期間(図中「再送2」で示す)、4番目のビーコン周期を3回目の再送期間(図中「再送3」で示す)としている。
【0018】
1番目のデータ(図中「1」で示す)は1番目の通信期間(1サイクル目)に送信され、2番目のデータ(図中「2」で示す)は2番目の通信期間(2サイクル目)に送信され、n番目のデータはn番目の通信期間に送信される。このようなサイクルを繰り返して以降のデータも送信される。
【0019】
なお、
図1の各ステーションSTA1~STA5に対応するマトリックス表は各周期におけるデータ送信の有無を示しており、着色はデータ送信が有ることを示している。そして、データ送信が有る場合に記載されている番号は何番目のデータであるかを、記号「×」はデータ送信が失敗したことを、添え字「r」は1回目の再送データであることを、添え字「rr」は2回目の再送データであること、添え字「rrr」は3回目の再送データであることをそれぞれ示している。
【0020】
各ステーションについて、通常送信期間でのデータ送信が成功した場合、そのステーションに対するデータ再送は行われない(例えば、1番目のデータ1(Data1)の第1のステーションSTA1への送信)。すなわち、1回目~3回目の再送期間でのデータの再送は行われない。
【0021】
一方、通常送信期間でのデータ送信が失敗(通信エラー)した場合、そのステーションに対してデータの再送が行われる(例えば、1番目のデータ1の第4のステーションSTA4への送信)。すなわち、1回目の再送期間でデータ再送が行われ、これも失敗した場合には2回目の再送期間でデータ再送が行われ(例えば、1番目のデータ1の第2のステーションSTA2への送信)、更にこれも失敗した場合には3回目の再送期間にもデータ再送が行われる(例えば、2番目のデータ2(Data2)の第2のステーションSTA2への送信)。
【0022】
4周期の通信期間のうち、3周期までにデータ送信が成功していれば、オーバーラップする期間には次の通信期間のデータのみが送信される。例えば、1番目の通信期間と2番目の通信期間とのオーバーラップ期間には、2番目の通信期間のデータ2のみが送信される。
【0023】
一方、4周期の通信期間のうち、3周期までにデータ送信が成功していない場合には、オーバーラップ期間には前の通信期間の再送データと次の通信期間の新データとが送信される。例えば、2番目の通信期間と3番目の通信期間とのオーバーラップ期間には、2番目の通信期間のデータ2と3番目の通信期間のデータ3との両方が送信される。
【0024】
本実施形態では、連続する通信期間を1周期の期間でオーバーラップさせている。すなわち、前の通信期間の最後(3番目)の再送期間と、その後の通信期間の通常送信期間をオーバーラップさせている(M=1)。そのため、制御周期は3(=N-M)周期となっている。
【0025】
ここで、比較例として、オーバーラップさせない例(M=0の場合)を
図2に示す。この比較例は、オーバーラップさせない(M=0)ことの他は
図1の例と同じ条件である。この比較例では前の通信期間が終了してから次の通信期間を開始させており、制御周期は通信期間と同じ4周期となっている。つまり、この比較例では、データ再送の有無にかかわらず、3回の再送期間が終わらなければ次のデータを送信しないので、制御周期が長くなる。そして、
図2からも明らかなように、各通信期間において未使用の帯域が多く、通信資源としての帯域を効率良く使用できていないことがわかる。
【0026】
これに対し、
図1の本発明では、
図2の例では未使用となる帯域を効率良く使用して前の通信期間と次の通信期間とをオーバーラップさせ、これによって、制御周期を短くすることができる。この結果、高速制御通信を実現することができる。しかも、送信エラーが有った場合にはデータ再送を行っているため、通信の高信頼性を確保することができる。
【0027】
図3に、上述の通信方法を実施する通信システムの一例を示す。通信システム1は、例えば産業用ロボット2とそのコントローラ3との間を接続するもので、コントローラ3に接続されたアクセスポイント(親機)4と、産業用ロボット2に接続されたステーション(子機)5とを備えている。アクセスポイント4と各ステーション5との間では、上述の通信方法で周期通信が実施される。本実施形態では、産業用ロボット2として5台の産業用ロボット2A~2Eを設けており、これに対応して、ステーション5として5台のステーション5A~5Eを設けている。
【0028】
また、
図3には、通信システム1を備える遠隔制御機械システムの一例も示されている。遠隔制御機械システム6は、コントローラ3と、当該コントローラ3によって制御される機械2と、通信システム1を備え、コントローラ3は通信システム1のアクセスポイント4に接続され、機械2は通信システム1のステーション5に接続されており、通信システム1によってコントローラ3が生成した制御データを機械2に伝える構成である。本実施形態では、機械2として産業用ロボットを備えている。ただし、機械2は産業用ロボットに限るものではなく、遠隔操作・遠隔制御される機械であれば適用可能である。例えば、カメラ,センサ、ティーチングペンダント等でも良い。
【0029】
コントローラ3は、産業用ロボット2A~2E毎に制御データを生成する。生成された制御データは、通信システム1によって対応する産業用ロボット2A~2Eに伝えられる。例えば、第1の産業用ロボット2A用の制御データはアクセスポイント4から第1のステーション5Aに送信され、さらに第1の産業用ロボット2Aに伝えられる。また、第2の産業用ロボット2B用の制御データはアクセスポイント4から第2のステーション5Bに送信され、さらに第2の産業用ロボット2Bに伝えられる。第3の産業用ロボット2C用の制御データ、第4の産業用ロボット2D用の制御データ、第5の産業用ロボット2Eの制御データも同様に、それぞれ対応するステーション5C~5Eを介して伝えられる。
【0030】
各産業用ロボット2A~2E用の制御データは、それぞれ同一の通信期間内に対応する産業用ロボット2A~2Eに伝えられる。これを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことで各制御データがコントローラ3から各産業用ロボット2A~2Eに伝えられる。このとき、上述したように、連続する通信期間をN周期よりも短いM周期の期間でオーバーラップさせているので、制御周期を短くすることができる。
【0031】
ここで、FA(ファクトリー・オートメーション)と周期通信との相性について説明する。FAでは複数のロボットに制御データを送信し、一定の周期でロボットを動作させる。ロボットが一定の間隔で動作し、その間隔をロボットの動作周期という。制御データにはロボットの動作開始時間などの情報が含まれており、ロボットが動作するまでに制御データが受信できれば問題ない。
【0032】
このとき、通信がランダムアクセスであると、動作周期内に制御データを受信できない可能性があり、FAには適さない。また、すべてのロボットが制御データを受け取るために動作周期を長く設定すると、高速な制御ができなくなってしまう。このためFAについてはマスタ(アクセスポイント・親機)がすべての通信を管理して通信を行う周期通信のほうが適している。これはマスタがあらかじめ通信の順番やタイミングなどを指定し、スケジュールどおりに通信を行う方式である。この通信においてすべての端末(ステーション・子機)がデータを受信するまでにかかる時間を通信周期という。周期通信においては、動作周期に対して通信周期が同じになるか又は短くなれば、すなわちロボットが次の動作を行うまでに次の動作についての制御データを受け取れば、ロボットを問題なく制御することができる。
【0033】
通信システム1および遠隔制御機械システム6は、前後の通信期間の一部をオーバーラップさせてその分だけ制御周期を短くしているので、制御データを伝えるサイクルを短くすることができ、高速な制御通信が可能となる。
【0034】
また、通信システム1および遠隔制御機械システム6は、OFDMA方式の通信を行っており、アクセスポイント4がすべての通信を管理する集中管理通信が可能となるため、より効率的な通信を実現することができる。
【0035】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
例えば、オーバーラップさせる周期を1周期(M=1)としていたが、これに限らない。
図4に、オーバーラップさせる周期を例えば2周期(M=2)とした例を示す。この例は、オーバーラップさせる周期数が異なることの他は
図1の例と同じ条件にしてある。
図4からも明らかなように、オーバーラップさせる周期を増やすことで、通信に使用する帯域をさらに効率良く使用して制御周期をさらに短くすることができる。なお、オーバーラップさせる周期を更に増やすことも可能であり、例えば
図4の例では1回目の再送期間(再送1)に次のデータを送信するようにしても良い。この場合には、通信に使用する帯域をさらに効率良く使用して制御周期をさらに短くすることが可能になる。
【0036】
また、上述の説明では、ステーション5の数を5台としていたが、ステーション数は5台に限るものではない。
また、上述の説明では、アクセスポイント4と各ステーション5との間の通信を無線通信としていたが、有線通信としても良い。この場合には、送信エラーの発生を抑制することができる。
【0037】
また、上述の説明では、アクセスポイント4が周期的に送信するビーコンフレームを利用して基準となる一定の周期(一定の基準周期)を形成していたが、一定の周期を形成する手段としてはこれに限るものではない。例えば、アクセスポイント4と各ステーション5との間の通信を有線通信にする場合には同期信号を周期的に流すことで一定の基準周期を形成するようにしても良い。
【0038】
さらに、上述の説明では、遠隔制御機械システム6の機械2として産業用ロボットを例にしていたが、これには限られない。遠隔操作・遠隔制御される機械であれば適用可能である。例えば、NC工作機械、旋盤、AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)等にも適用可能である。また、ファクトリー・オートメーション分野の機械の他、例えば遠隔外科手術等に使用される医療機械、建設現場や土木作業現場等で使用される重機類やクレーン類や運搬車輌等の作業機械、農林水産業等で使用されるトラクター、播種機、田植機、散布機、ドローン等の無人航空機、運搬機械、移動機械等の作業機械にも適用可能である。さらに、港湾荷役で使用される連続アンローダ、各種クレーン、AGV等にも適用可能である。
【0039】
また上述の説明では、アクセスポイント4とステーション5との間で行われる通信の方式として直交周波数分割多元接続方式を採用していたが、これには限られない。例えば、周波数分割多重方式(FDMA)、符号分割多重方式(CDMA)等の採用も可能である。
【実施例1】
【0040】
本発明は、例えばFA(ファクトリー・オートメーション)などの産業分野において、無線ネットワークによる複数台の産業機械に対し、高速で高信頼な同期制御を可能とする。従来、産業用ネットワークの多くには有線ネットワーク(産業用イーサネットなどのファストイーサネット(イーサネットは登録商標))が用いられていた。しかし配線コストや配置の自由度などの問題があり、その無線化が望まれていた。近年、産業用の無線ネットワーク技術が進展してきているが、伝送エラーレートが有線の10-8に比べて10-2から10-3であり、常に再送を意識しなければならないため、有線程の高速性は望めないのが実状である。
【0041】
本発明においては、無線LANネットワークで周期通信を行う上で、ビーコン周期(無線ネットワークを同期させる為のパケット)を1周期として、任意のデータを送信するためにN周期の通信期間を設定し、前のデータを送信するために設定したN周期と次のデータを送信するために設定したN周期が、N周期より短いM周期の期間でオーバーラップすることで、前のデータの再送を行いつつ、その再送期間において次のデータの送信も可能となる。これによって、N-M周期の周期通信となるため高速性が実現でき、かつ再送も行っているため高信頼性も確保できる。また、OFDMA通信方式を用いることで集中管理通信が可能となるため、より効率的な通信が実現できる。
【0042】
本発明は、データ伝送が増加する中で、多品種少量生産等が進み設備変更も頻繁に行われるFA分野でのデータ伝送に、特に有効である。
【実施例2】
【0043】
例えば、コントローラが生成した制御データを複数のステーションに送信する産業用無線LANでは、FAに特化させた通信となっているため、独自技術を組み込んだ通信プロトコルとなっている。そのため、オリジナルのSoC(System-on-a-chip)が使用され、製造コストが高くなる。そこで、この問題を解決するために、次世代無線規格IEEE802.11axに注目した。この規格は集中管理通信とマルチユーザ通信に対応している。集中管理通信では、Triggerというフレームを用いることで、STAのアップリンクのタイミングを制御することができる。また変調方式にOFDMAが採用されており、いままでのOFDMでは一つの周波数帯域に1ユーザしか対応できなかったものが、OFDMAでは一つの周波数帯域をより細かく分け複数のユーザに割り当てることができ、それにより同時に送信が可能となっている。これら二つの技術はFA分野等において求められる技術に一致しているため非常に有用性がある。
【0044】
IEEE802.11無線LAN規格では、アクセスポイントがビーコンフレームを周期的に送信している。また、IEEE802.11ax無線LAN規格においては、トリガーフレームによるOFDMA通信方式が採用されており、そのアクセスポイントを用いることによってビーコン周期を1周期として、本発明の実施が可能である。
【0045】
図5は、IEEE 802.11axの規格に本発明を適用した例を示している。この例では、同時にUL(アップリンク)できるステーションの数を2ユーザ、通信を行うステーションの数を4台(STA1~STA4)としている。フレームエラーによる再送は次の再送期間で行うものとし、通信期間は通常の通信期間(通常送信期間)が1つ、再送期間が2つあり、前の通信期間の2回目の再送期間2と次の通信期間の通常送信期間をオーバーラップさせている。
【0046】
通常送信期間と再送期間は、ビーコンから始まる。TWTを指定してTrigger(トリガー)フレームから始まるMU cascading sequenceに合わせてSTA(ステーション)をawakeさせる。AP(アクセスポイント)はTriggerフレームに加え制御データのDL(ダウンリンク) を送信する。STAはDLに対する応答としてAckを返答するとともに、Trigger フレームに対してULのデータを送信する。2台のSTAごとにULするため、2回のTriggerフレームの送信を終えて、全STAに対してMulti-STA BAを送信する。この時エラーして正常にフレームの送受信が完了していないSTAはSTA2とSTA4である。そしてMulti-STA BAの送信ではSTA3がうまく受信できなかった場合を示している。このときのAPの認識は、ULが返ってきてBAも返したので通信が無事終了していると判断している。逆に、STA3はBAが返ってきてないことからフレームエラーと判断し、ULするためにAPからのTriggerフレームを待って再送しようとし続けてしまう。しかし、APからのTriggerフレームが来ない限りSTA3はULすることができない。よってSTA3のバッファに残っている、送る必要のないData1(1番目の制御データ)を早めに掃き出すことを考える必要がある。そこで、
図5のように本来の制御周期をオーバーラップさせることで、Data2(2番目の制御データ)がバッファにたまるので、APはTriggerフレームを送ることができる。それが再送期間2である。またこの期間では、すでにData1の通信は完了している。そのため、Data2の通信のため、改めてSTA1、STA2へ送信を行う。次のフローでは、残りのSTA3、STA4へTriggerフレームを送信するが、このときSTA3からバッファにたまっていたData1のフレームを吐き出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
例えば、産業用ロボット等を備えるファクトリー・オートメーション、遠隔外科手術等の医療分野、無人機械を使用する農林水産分野等に適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 通信システム
2 産業用ロボット(機械)
4 アクセスポイント
5 ステーション
6 遠隔制御機械システム