(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】NO分解触媒構造体、NO分解処理装置及びNO分解触媒構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/035 20060101AFI20230808BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230808BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B01J29/035 A ZAB
B01J35/02 N
B01D53/86 222
(21)【出願番号】P 2018105690
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2017108628
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尋子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】関根 可織
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/155216(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/097108(WO,A1)
【文献】特開2008-006436(JP,A)
【文献】特開2014-014750(JP,A)
【文献】特開平03-143547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
F01N 3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する、固体酸からなるNO分解触媒と、
を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部を有し、
前記固体酸は微粒子であり、前記微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、かつ、前記拡径部の内径以下であり、ここで、前記通路の平均内径は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する孔の短径及び長径の平均値から算出されるものであり、かつ
前記NO分解触媒が、少なくとも前記拡径部に包接されて存在していることを特徴とするNO分解触媒構造体。
【請求項2】
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、請求項1に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項3】
前記微粒子の平均粒径が、0.1nm~50nmであることを特徴とする、請求項
1または2に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項4】
前記微粒子の平均粒径が、0.45nm~14.0nmであることを特徴とする、請求項
1~3のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項5】
前記通路の平均内径に対する前記微粒子の平均粒径の割合が、
1.1~500であることを特徴とする、請求項
1~4のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項6】
前記通路の平均内径に対する前記微粒子の平均粒径の割合が、
1.1~36であることを特徴とする、請求項
5に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項7】
前記通路の平均内径に対する前記微粒子の平均粒径の割合が、1.7~4.5であることを特徴とする、請求項
5又は
6に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項8】
前記固体酸が金属元素(M)を含有し、金属元素(M)が、前記NO分解触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有されていることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項9】
前記通路の平均内径は、0.1nm~1.5nmであり、前記拡径部の内径は、0.5nm~50nmであることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項10】
前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他のNO分解触媒を更に備えることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項11】
前記担体に内在する前記NO分解触媒の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他のNO分解触媒の含有量よりも多いことを特徴とする、請求項
10に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項12】
前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、請求項1~
11のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体を備える、NO分解処理装置。
【請求項14】
規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)に、Fe、Zn、Al、Zr、Ti、Se、Te、Sn、Mn、Tc、Re、Cd、Mg、W、Moからなる群から選択される1種以上の金属元素に対応する金属成分を含む金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合し水熱処理する水熱処理工程と、
を有することを特徴とするNO分解触媒構造体の製造方法。
【請求項15】
前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、請求項
14に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
【請求項16】
前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、請求項
14又は
15に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
【請求項17】
前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、請求項
14~
16のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
【請求項18】
前記焼成工程において固体酸が生成される、請求項
14~
17のいずれか1項に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
【請求項19】
前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項
14に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質構造の担体とNO分解触媒とを備えるNO分解触媒構造体、NO分解処理装置及びNO分解触媒構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりに伴い、環境浄化触媒が注目されている。環境浄化触媒としては、例えば、環境汚染物質として知られている窒素酸化物(NOx)の分解に用いる触媒が挙げられる。NOxの分解方法としては、従来、アンモニア等の還元剤を用いてNOxを分解する方法と、還元剤を使用せずに一酸化窒素(NO)を直接分解する方法が知られている。後者は、還元剤を使用しないため、理想的な分解方法として精力的に検討されている。
【0003】
NOの直接分解反応に用いる触媒として、例えば、非特許文献1には、Cuイオン交換したペンタシル型ゼオライト(ZSM-5)が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Appl.Catal.A 222,pp.163-181 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に開示されているような触媒は、分解により生成する酸素によって失活しやすいという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、触媒活性の低下が抑制され、NOを効率良く分解することが可能なNO分解触媒構造体、そのNO分解触媒構造体を備えるNO分解処理装置及びNO分解触媒構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する、固体酸からなるNO分解触媒と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記NO分解触媒が、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることによって、固体酸の機能低下を抑制し、長寿命化を実現できる触媒構造体が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1] ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する、固体酸からなるNO分解触媒と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記NO分解触媒が、前記担体の少なくとも前記通路に保持されていることを特徴とするNO分解触媒構造体。
[2] 前記通路は、拡径部を有し、かつ、前記NO分解触媒が、少なくとも前記拡径部に包接されていることを特徴とする、[1]に記載のNO分解触媒構造体。
[3] 前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、[2]に記載のNO分解触媒構造体。
[4] 前記固体酸は微粒子であり、前記微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、かつ、前記拡径部の内径以下であることを特徴とする、[2]又は[3]に記載のNO分解触媒構造体。
[5] 前記微粒子の平均粒径が、0.1nm~50nmであることを特徴とする、[4]に記載のNO分解触媒構造体。
[6] 前記微粒子の平均粒径が、0.45nm~14.0nmであることを特徴とする、[4]又は[5]に記載のNO分解触媒構造体。
[7] 前記通路の平均内径に対する前記微粒子の平均粒径の割合が、0.06~500であることを特徴とする、[4]~[6]のいずれか1つに記載のNO分解触媒構造体。
[8] 前記通路の平均内径に対する前記微粒子の平均粒径の割合が、0.1~36であることを特徴とする、[7]に記載のNO分解触媒構造体。
[9] 前記通路の平均内径に対する前記微粒子の平均粒径の割合が、1.7~4.5であることを特徴とする、[7]又は[8]に記載のNO分解触媒構造体。
[10] 前記固体酸が金属元素(M)を含有し、金属元素(M)が、前記NO分解触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有されていることを特徴とする、[1]~[9]のいずれか1つに記載のNO分解触媒構造体。
[11] 前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部を有し、前記通路の平均内径は、0.1nm~1.5nmであり、前記拡径部の内径は、0.5nm~50nmであることを特徴とする、[1]~[10]のいずれか1つに記載のNO分解触媒構造体。
[12] 前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他のNO分解触媒を更に備えることを特徴とする、[1]~[11]のいずれか1つに記載のNO分解触媒構造体。
[13] 前記担体に内在する前記NO分解触媒の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他のNO分解触媒の含有量よりも多いことを特徴とする、[12]に記載のNO分解触媒構造体。
[14] 前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、[1]~[13]のいずれか1つに記載のNO分解触媒構造体。
[15] [1]~[14]のいずれか1つに記載のNO分解触媒構造体を備える、NO分解処理装置。
[16] ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、を有することを特徴とするNO分解触媒構造体の製造方法。
[17] 前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、[16]に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
[18] 前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、[16]又は[17]に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
[19] 前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、[16]~[18]のいずれか1つに記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
[20] 前記水熱処理工程において、前記前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することを特徴とする、[16]に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
[21] 前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、[16]に記載のNO分解触媒構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒活性の低下が抑制され、NOを効率良く分解することが可能なNO分解触媒構造体及びそのNO分解触媒構造体を備えるNO分解処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るNO分解触媒構造体の内部構造が分かるように概略的に示したものであって、
図1(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、
図1(b)は部分拡大断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のNO分解触媒構造体の機能の一例を説明するための部分拡大断面図であり、
図2(a)は篩機能、
図2(b)は触媒機能を説明する図である。
【
図3】
図3は、
図1のNO分解触媒構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図1のNO分解触媒構造体の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[触媒構造体の構成]
図1は、本発明の実施形態に係るNO分解触媒構造体(以下、単に「触媒構造体」と記す。)の構成を概略的に示す図であり、(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、(b)は部分拡大断面図である。なお、
図1における触媒構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0012】
図1(a)に示すように、触媒構造体1は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、該担体10に内在する固体酸20とを備える。固体酸20は、NO分解触媒として機能する。特に、固体酸20は、還元剤を使用せずにNOを分解する反応(NOの直接分解反応ともいう)においても、触媒として機能する。触媒構造体1において、複数の固体酸20,20,・・・は、担体10の多孔質構造の内部に包接されている。
【0013】
担体10は、多孔質構造であり、
図1(b)に示すように、好適には複数の孔11a,11a,・・・が形成されることにより、互いに連通する通路11を有する。ここで固体酸20は、担体10の少なくとも通路11に存在しており、好ましくは骨格体10の少なくとも通路11に保持されている。
【0014】
このような構成により、担体10内での固体酸20の移動が規制され、固体酸20、20同士の凝集が有効に防止されている。その結果、固体酸20としての有効表面積の減少を効果的に抑制することができ、固体酸20の機能は長期にわたって持続する。すなわち、触媒構造体1によれば、固体酸20の凝集による機能の低下を抑制でき、触媒構造体1としての長寿命化を図ることができる。また、触媒構造体1の長寿命化により、触媒構造体1の交換頻度を低減でき、使用済みの触媒構造体1の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0015】
通常、触媒構造体を、流体(例えば、重質油や、NOx等の改質ガスなど)の中で用いる場合、流体から外力を受ける可能性がある。この場合、固体酸が、担体10の外表面に付着されているだけであると、流体からの外力の影響で担体10の外表面から離脱しやすいという問題がある。これに対し、触媒構造体1では、固体酸20は担体10の少なくとも通路11に存在しているため、流体による外力の影響を受けたとしても、担体10から固体酸20が離脱しにくい。すなわち、触媒構造体1が流体内にある場合、流体は担体10の孔11aから、通路11内に流入するため、通路11内を流れる流体の速さは、流路抵抗(摩擦力)により、担体10の外表面を流れる流体の速さに比べて、遅くなると考えられる。このような流路抵抗の影響により、通路11内に存在している固体酸20が流体から受ける圧力は、担体10の外部において固体酸が流体から受ける圧力に比べて低くなる。そのため、担体11に内在する固体酸20が離脱することを効果的に抑制でき、固体酸20の機能を長期的に安定して維持することが可能となる。なお、上記のような流路抵抗は、担体10の通路11が、曲がりや分岐を複数有し、担体10の内部がより複雑で三次元的な立体構造となっているほど、大きくなると考えられる。
【0016】
また、通路11は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有していることが好ましく、このとき、固体酸20は、少なくとも拡径部12に存在していることが好ましく、少なくとも拡径部12に包接されていることが好ましい。ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。
これにより、固体酸20の担体10内での移動がさらに規制され、固体酸20の離脱や、固体酸20、20同士の凝集をさらに有効に防止することができる。包接とは、固体酸20が担体10に内包されている状態を指す。このとき固体酸20と担体10とは、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、固体酸20と担体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、固体酸20が担体10に間接的に存在していてもよい。
【0017】
図1(b)では固体酸20が拡径部12に包接されている場合を示しているが、この構成だけには限定されず、固体酸20は、その一部が拡径部12の外側にはみ出した状態で通路11に保持されていてもよい。また、固体酸20は、拡径部12以外の通路11の部分(例えば通路11の内壁部分)に部分的に埋設され、又は固着等によって保持されていてもよい。
また、拡径部12は、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔11a,11a同士を連通しているのが好ましい。これにより、骨格体10の内部に、一次元孔、二次元孔又は三次元孔とは異なる別途の通路が設けられるので、機能性物質20の機能をより発揮させることができる。
【0018】
また、通路11は、担体10の内部に、分岐部又は合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部12は、通路11の上記分岐部又は合流部に設けられるのが好ましい。
【0019】
担体10に形成された通路11の平均内径DFは、上記一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する孔11aの短径及び長径の平均値から算出され、例えば0.1nm~1.5nmであり、好ましくは0.5nm~0.8nmである。また、拡径部12の内径DEは、例えば0.5~50nmであり、好ましくは1.1nm~40nm、より好ましくは1.1nm~3.3nmである。拡径部12の内径DEは、例えば後述する前駆体材料(A)の細孔径、及び包接される固体酸20の平均粒径DCに依存する。拡径部12の内径DEは、固体酸20を包接し得る大きさである。
【0020】
担体10は、ゼオライト型化合物で構成される。ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン交換ゼオライト、シリカライト等のケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩等のゼオライト類縁化合物、リン酸モリブデン等のリン酸塩系ゼオライト類似物質などが挙げられる。中でも、ゼオライト型化合物はケイ酸塩化合物であることが好ましい。
【0021】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、FAU型(Y型又はX型)、MTW型、MFI型(ZSM-5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MWW型(MCM-22)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)、BEA型(ベータ型)などの中から選択され、好ましくはMFI型であり、より好ましくはZSM-5である。ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばMFI型の最大孔径は0.636nm(6.36Å)、平均孔径0.560nm(5.60Å)である。
【0022】
以下、固体酸20について詳しく説明する。
固体酸20が微粒子であるとき、微粒子は一次粒子の状態で通路11に存在している場合と、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の状態で通路11に存在している場合とがある。いずれの場合においても、微粒子の平均粒径DCは、好ましくは通路11の平均内径DFよりも大きく、かつ、拡径部12の内径DE以下である(DF<DC≦DE)。このような固体酸20は、通路11内では、好適には拡径部12に包接されており、担体10内での固体酸20の移動が規制される。よって、固体酸20が流体から外力を受けた場合であっても、担体10内での固体酸20の移動が抑制され、担体10の通路11に分散配置された拡径部12、12、・・のそれぞれに包接された固体酸20、20、・・同士が接触するのを有効に防止することができる。
【0023】
また、固体酸20が微粒子である場合には、微粒子の平均粒径DCは、一次粒子及び二次粒子のいずれの場合も、好ましくは0.1nm~50nmであり、より好ましくは0.1nm以上30nm未満であり、さらに好ましくは0.45nm~14.0nm、特に好ましくは1.0nm~3.3nmである。また、通路11の平均内径DFに対する固体酸20の平均粒径DCの割合(DC/DF)は、好ましくは0.06~500であり、より好ましくは0.1~36であり、更に好ましくは1.1~36であり、特に好ましくは1.7~4.5である。
【0024】
固体酸20としては、具体的に、金属酸化物及びその水和物、硫化物、金属塩、複合酸化物、並びにヘテロポリ酸が挙げられる。金属酸化物としては、酸化鉄(FeOx)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、三酸化セレン(SeO3)、二酸化セレン(SeO2)、三酸化テルル(TeO3)、二酸化テルル(TeO2)、二酸化スズ(SnO2)、酸化マンガン(Mn2O7)、酸化テクネチウム(Tc2O7)及び酸化レニウム(Re2O7)が挙げられる。また、硫化物としては、硫化カドミウム(CdS)及び硫化亜鉛(ZnS)が挙げられる。また、金属塩としては、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硫酸鉄(FeSO4)、及び塩化アルミニウム(AlCl3)が挙げられる。また、複合酸化物としては、SiO2-TiO2、SiO2-MgO及びTiO2―ZrO2が挙げられる。さらに、ヘテロポリ酸としては、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸及びケイモリブデン酸が挙げられる。これらの固体酸20は、1種のみを用いてもよく、複数の種類を組み合わせて用いてもよい。なお、固体酸20は、担体10を構成するゼオライト型化合物とは区別されるものである。固体酸20には、例えば、ゼオライトは含まれない。
また、固体酸20の金属元素(M)は、触媒構造体1に対して0.5~2.5質量%で含有されているのが好ましく、触媒構造体1に対して0.5~1.5質量%で含有されているのがより好ましい。例えば、金属元素(M)がCoである場合、Co元素の含有量(質量%)は、(Co元素の質量)/(触媒構造体1の全元素の質量)×100で表される。
【0025】
また、固体酸20を構成する金属元素(M)に対する、担体10を構成するケイ素(Si)の割合(原子数比Si/M)は、10~1000であることが好ましく、50~200であるのがより好ましい。上記割合が1000より大きいと、活性が低く、固体酸としての作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が10よりも小さいと、固体酸20の割合が大きくなりすぎて、担体10の強度が低下する傾向がある。なお、ここでいう固体酸20は、担体10の内部に保持され、又は担持された固体酸をいい、担体10の外表面に付着した固体酸を含まない。
【0026】
[触媒構造体の機能]
触媒構造体1は、上記のとおり、多孔質構造の担体10と、担体に内在する少なくとも1つの固体酸20とを備える。触媒構造体1は、担体に内在する固体酸20が流体と接触することにより、固体酸20の機能に応じた機能を発揮する。具体的に、触媒構造体1の外表面10aに接触した流体は、外表面10aに形成された孔11aから担体10内部に流入して通路11内に誘導され、通路11内を通って移動し、他の孔11aを通じて触媒構造体1の外部へ出る。流体が通路11内を通って移動する経路において、通路11に存在している固体酸20と接触することによって、固体酸20の機能に応じた反応(例えば、触媒反応)が生じる。また、触媒構造体1は、担体が多孔質構造であることにより、分子篩能を有する。
【0027】
まず、触媒構造体1の分子篩能について、
図2(a)を用いて、流体が一酸化窒素(NO)含有ガスである場合を例として説明する。
【0028】
図2(a)に示すように、孔11aの孔径以下、言い換えれば、通路11の内径以下の大きさを有する分子で構成されるNOは、担体10内に流入することができる。一方、孔11aの孔径を超える大きさを有する分子で構成されるガス成分15は、担体10内へ流入することができない。このように、NO含有ガスが複数種類の化合物を含んでいる場合に、担体10内に流入することができないガス成分15の反応は規制され、担体10内に流入することができるNOを反応させることができる。
【0029】
反応によって担体10内で生成した化合物のうち、孔11aの孔径以下の大きさを有する分子で構成される化合物のみが孔11aを通じて担体10の外部へ出ることができ、反応生成物として得られる。一方、孔11aから担体10の外部へ出ることができない化合物は、担体10の外部へ出ることができる大きさの分子で構成される化合物に変換させれば、担体10の外部へ出すことができる。このように、触媒構造体1を用いることにより、特定の反応生成物を選択的に得ることができる。
【0030】
各固体酸20は、拡径部12に包接されているため、担体10内での移動が制限されている。これにより、担体10内における固体酸20同士の凝集が防止される。その結果、固体酸20とNOとの大きな接触面積を安定して維持することができる。よって、固体酸20が、優れた触媒機能を有する高活性なNO分解触媒として機能する。特に、触媒構造体1を、NOの直接分解反応に用いることにより、NOを効率的に除去することができる。
【0031】
[触媒構造体の製造方法]
図3は、
図1の触媒構造体1の製造方法を示すフローチャートである。以下、担体に内在する固体酸が金属酸化物微粒子である場合を例に、触媒構造体の製造方法の一例を説明する。
【0032】
(ステップS1:準備工程)
図3に示すように、先ず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。
【0033】
ここで、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径1nm~50nmの細孔が1次元、2次元又は3次元に均一な大きさかつ規則的に発達したSi-O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られるが、合成物の具体例としては、例えばSBA-1、SBA-15、SBA-16、KIT-6、FSM-16、MCM-41等が挙げられ、中でもMCM-41が好ましい。なお、SBA-1の細孔径は10nm~30nm、SBA-15の細孔径は6nm~10nm、SBA-16の細孔径は6nm、KIT-6の細孔径は9nm、FSM-16の細孔径は3nm~5nm、MCM-41の細孔径は1nm~10nmである。また、このような規則性メソ細孔物質としては、例えばメソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケート等が挙げられる。
【0034】
前駆体材料(A)は、市販品及び合成品のいずれであってもよい。前駆体材料(A)を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法により行うことができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整して、水熱処理(水熱合成)を行う。その後、水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄及び乾燥し、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。ここで、混合溶液の溶媒としては、例えば水、又はアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。また、原料は、担体の種類に応じて選択されるが、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)等のシリカ剤、フュームドシリカ、石英砂等が挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマー等を用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましく、例えばMCM-41を作製する場合にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の界面活性剤が好適である。水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。
【0035】
(ステップS2:含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0036】
金属含有溶液は、触媒構造体の金属酸化物微粒子を構成する金属元素(M)に対応する(例えば、金属イオン)に対応する金属成分を含有する溶液であればよく、例えば、溶媒に、金属元素(M)を含有する金属塩を溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、中でも硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。
【0037】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、後述する焼成工程の前に、例えば、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、金属含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0038】
このような添加剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することは無く、金属含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加するのが好ましい。非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量が50質量%未満であると上記の抑制作用が発現し難く、非イオン性界面活性剤を前駆体材料(A)に対して500質量%よりも多く添加すると粘度が上がりすぎるので好ましくない。よって、非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量を上記範囲内の値とする。
【0039】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる金属元素(M)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する焼成工程の前に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することが好ましく、50~200となるように調整することがより好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/Mに換算して50~200とすることで、金属酸化物微粒子の金属元素(M)を、触媒構造体1に対して0.5~2.5質量%で含有させることができる。前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する金属元素(M)の量は、金属含有溶液の金属濃度や、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する金属元素(M)の量は、触媒構造体の担体に内在する金属酸化物微粒子を構成する金属元素の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、触媒構造体の担体に内在させる金属酸化物微粒子の量を調整することができる。
【0040】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒等を用いることができる。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、前駆体材料(A)に、金属含有溶液に含まれる水分及び洗浄溶液の水分が多く残った状態で後述の焼成処理を行うと、前駆体材料(A)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥させることが好ましい。
【0041】
(ステップS3:焼成工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0042】
焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことが好ましい。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で金属酸化物微粒子が形成される。
【0043】
(ステップS4:水熱処理工程)
次いで、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製し、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、触媒構造体を得る。
【0044】
構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造を規定するための鋳型剤であり、例えば界面活性剤を用いることができる。構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムブロミド(TMABr)、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)等の界面活性剤が好適である。
【0045】
前駆体材料(C)と構造規定剤との混合は、本水熱処理工程時に行ってもよいし、水熱処理工程の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製方法は、特に限定されず、前駆体材料(C)と、構造規定剤と、溶媒とを同時に混合してもよいし、溶媒に前駆体材料(C)と構造規定剤とをそれぞれ個々の溶液に分散させた状態にした後に、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。また、混合溶液は、水熱処理を行う前に、酸又は塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0046】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。
ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、前駆体材料(C)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(C)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、前駆体材料(C)の細孔内部での金属酸化物微粒子の位置は概ね維持されたまま、構造規定剤の作用により、触媒構造体の担体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。このようにして得られた触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在する金属酸化物微粒子を備え、さらに担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、金属酸化物微粒子はその少なくとも一部分が担体の通路に保持されている。
また、本実施形態では、上記水熱処理工程において、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製して、前駆体材料(C)を水熱処理しているが、これに限らず、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合すること無く、前駆体材料(C)を水熱処理してもよい。
【0047】
水熱処理後に得られる沈殿物(触媒構造体)は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄処理、乾燥処理及び焼成処理を施すことが好ましい。洗浄溶液としては、水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥、150℃以下の高温乾燥等が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で焼成処理を行うと、触媒構造体の担体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥させることが好ましい。また、焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。このような焼成処理により、触媒構造体に付着していた構造規定剤が焼失する。また、触媒構造体は、使用目的に応じて、回収後の沈殿物に対して焼成処理を施すことなくそのまま用いることもできる。例えば、触媒構造体の使用する環境が、酸化性雰囲気の高温環境である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、構造規定剤は焼失する。この場合、焼成処理を施した場合と同様の触媒構造体が得られるので、焼成処理を施す必要がない。
【0048】
[触媒構造体1の変形例]
図4は、
図1の触媒構造体1の変形例を示す模式図である。
図1の触媒構造体1は、担体10と、担体10に内在する固体酸20とを備えるが、この構成だけに限定されず、例えば、
図4に示すように、触媒構造体2が、担体10の外表面10aに保持された少なくとも1つの他のNO分解触媒30を更に備えていてもよい。
【0049】
NO分解触媒30は、一又は複数の触媒能を発揮する物質である。NO分解触媒30が有する触媒能は、固体酸20が有する触媒能と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、NO分解触媒30は、固体酸であってもよく、固体酸以外の物質であってもよい。NO分解触媒30が固体酸である場合に、NO分解触媒30は固体酸20と同一の物質であってもよいし、異なる物質であってもよい。特に、NO分解触媒30が固体酸である場合、触媒構造体2に保持された固体酸の含有量を増大させることができ、固体酸の触媒活性を更に促進することができる。
【0050】
この場合、担体10に内在する固体酸20の含有量は、担体10の外表面10aに保持されたNO分解触媒30の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、担体10の内部に保持された固体酸20による触媒能が支配的となり、固体酸の触媒能が安定的に発揮される。
【0051】
以上、本発明の実施形態に係る触媒構造体について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【0052】
例えば、上記触媒構造体を備えるNO分解処理装置が提供されてもよい。このようなNO分解処理装置を用いた触媒反応に触媒構造体を用いることで、上記同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1~288)
[前駆体材料(A)の合成]
シリカ剤(テトラエトキシシラン(TEOS)、和光純薬工業株式会社製)と、鋳型剤としての界面活性剤とを混合した混合水溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80~350℃、100時間、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水及びエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1~6に示す種類及び孔径の前駆体材料(A)を得た。なお、界面活性剤は、前駆体材料(A)の種類に応じて(「前駆体材料(A)の種類:界面活性剤」)以下のものを用いた。
・MCM-41:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製)
・SBA-1:Pluronic P123(BASF社製)
【0054】
[前駆体材料(B)及び(C)の作製]
次に、表1~6に示す種類の固体酸微粒子を構成する金属元素(M)に応じて、該金属元素(M)を含有する金属塩を、水に溶解させて、金属含有水溶液を調製した。なお、金属塩は、固体酸微粒子の種類に応じて(「固体酸微粒子:金属塩」)以下のものを用いた。
・ZnOX:硝酸亜鉛六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・AlOX:硝酸アルミニウム九水和物(和光純薬工業株式会社製)
・ZrOX:硝酸ジルコニル二水和物(和光純薬工業株式会社製)
【0055】
次に、粉末状の前駆体材料(A)に、金属含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0056】
なお、表1~6に示す添加剤の有無の条件が「有り」の場合は、金属含有水溶液を添加する前の前駆体材料(A)に対して、添加剤としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO-15V、日光ケミカルズ株式会社製)の水溶液を添加する前処理を行い、その後、上記のように金属含有水溶液を添加した。なお、添加剤の有無の条件が「無し」の場合については、上記のような添加剤による前処理は行っていない。
【0057】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有水溶液の添加量は、該金属含有水溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算したときの数値が、表1~6の値になるように調整した。
【0058】
次に、上記のようにして得られた金属含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(C)を得た。
【0059】
[触媒構造体の合成]
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、表1~6に示す構造規定剤とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、80~350℃、表1~6に示すpH及び時間の条件で、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1~6に示す担体と固体酸微粒子とを有する触媒構造体を得た(実施例1~288)。
【0060】
(比較例1)
比較例1では、MFI型シリカライトに平均粒径50nm以下の酸化コバルト粉末(II,III)(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を混合し、骨格体としてのシリカライトの外表面に、酸化コバルト微粒子を付着させた機能性構造体を得た。MFI型シリカライトは、金属を添加する工程以外は、実施例52~57と同様の方法で合成した。
【0061】
(比較例2)
比較例2では、酸化コバルト微粒子を付着させる工程を省略したこと以外は、比較例1と同様の方法にてMFI型シリカライトを合成した。
【0062】
[評価]
実施例1~288の触媒構造体及び比較例1~5のシリカライトについて、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。
【0063】
[A]断面観察
実施例1~288の触媒構造体及び比較例1~5のシリカライトについて、粉砕法にて観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(TITAN G2、FEI社製)を用いて、断面観察を行った。
【0064】
その結果、上記実施例の触媒構造体では、シリカライトからなる担体の内部に固体酸微粒子が内在し、保持されていることが確認された。一方、比較例の触媒構造体では、固体酸微粒子が担体の外表面に付着しているのみで、担体の内部には存在していなかった。
また、上記実施例のうち固体酸微粒子が酸化ジルコニウム粒子(ZrOx)である触媒構造体について、FIB(集束イオンビーム)加工により断面を切り出し、SEM(SU8020、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)、EDX(X-Max、株式会社堀場製作所製)を用いて断面元素分析を行った。その結果、骨格体内部からZr元素が検出された。
上記TEMとSEM/EDXによる断面観察の結果から、骨格体内部にZrOx微粒子が存在していることが確認された。
【0065】
[B]担体の通路の平均内径及び固体酸微粒子の平均粒径
上記評価[A]で行った断面観察により撮影したTEM画像にて、担体の通路を、任意に500個選択し、それぞれの長径及び短径を測定し、その平均値からそれぞれの内径を算出し(N=500)、さらに内径の平均値を求めて、担体の通路の平均内径DFとした。また、固体酸微粒子についても同様に、上記TEM画像から、固体酸微粒子を、任意に500個選択し、それぞれの粒径を測定して(N=500)、その平均値を求めて、固体酸微粒子の平均粒径DCとした。結果を表1~6に示す。
また、機能性物質の平均粒径及び分散状態を確認するため、SAXS(小角X線散乱)を用いて分析した。SAXSによる測定は、Spring-8のビームラインBL19B2を用いて行った。得られたSAXSデータは、Guinier近似法により球形モデルでフィッティングを行い、粒径を算出した。粒径は、固体酸が酸化鉄微粒子である触媒構造体について測定した。また、比較対象として、市販品である酸化鉄微粒子(Wako製)をSEMにて観察、測定した。
この結果、市販品では粒径約50nm~400nmの範囲で様々なサイズの酸化鉄微粒子がランダムに存在しているのに対し、TEM画像から求めた平均粒径が1.2nm~2.0nmの各実施例の触媒構造体では、SAXSの測定結果においても粒径が10nm以下の散乱ピークが検出された。SAXSの測定結果とSEM/EDXによる断面の測定結果から、骨格体内部に、粒径10nm以下の機能性物質が、粒径が揃いかつ非常に高い分散状態で存在していることが分かった。
【0066】
[C]金属含有溶液の添加量と骨格体内部に包接された金属量との関係
原子数比Si/M=50,100,200,1000(M=Al、Zr、Zn)の添加量で、固体酸を骨格体内部に包接させた触媒構造体を作製し、その後、上記添加量で作製された触媒構造体の骨格体内部に包接された金属量(質量%)を測定した。尚、本測定において原子数比Si/M=100,200,1000の触媒構造体は、それぞれ実施例1~288のうちの原子数比Si/M=100,200,1000の触媒構造体と同様の方法で金属含有溶液の添加量を調整して作製し、原子数比Si/M=50の触媒構造体は、金属含有溶液の添加量を異ならせたこと以外は、原子数比Si/M=100,200,1000の触媒構造体と同様の方法で作製した。
金属量の定量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)単体か、或いはICPとXRF(蛍光X線分析)を組み合わせて行った。XRF(エネルギー分散型蛍光X線分析装置「SEA1200VX」、エスエスアイ・ナノテクノロジー株式会社製)は、真空雰囲気、加速電圧15kV(Crフィルター使用)或いは加速電圧50kV(Pbフィルター使用)の条件で行った。
XRFは、金属の存在量を蛍光強度で算出する方法であり、XRF単体では定量値(質量%換算)を算出できない。そこで、Si/M=100で金属を添加した触媒構造体の金属量は、ICP分析により定量し、Si/M=50および100未満で金属を添加した触媒構造体の金属量は、XRF測定結果とICP測定結果を元に算出した。
この結果、少なくとも原子数比Si/Mが50~1000の範囲内で、金属含有溶液の添加量の増加に伴って、触媒構造体に包接された金属量が増大していることが確認された。
【0067】
[D]性能評価
担体と固体酸微粒子とを備える上記実施例及び比較例の触媒構造体について、固体酸微粒子がもつ触媒能(性能)を評価した。結果を表1~6に示す。
【0068】
(1)触媒活性
触媒活性は、以下の条件で評価した。
まず、触媒構造体を、常圧流通式反応装置に0.2g充填し、NO(一酸化窒素)を含むガスを流速1.0ml/minで流し、直接分解反応を行った。
【0069】
反応終了後に、回収した生成ガスの成分を、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により分析した。なお、生成ガスの分析装置には、TRACE1310GC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:熱伝導度検出器)を用いた。
【0070】
さらに、上記分析結果に基づき、N2(窒素)の収率(mol%)を求めた。N2の収率は、反応開始前のNOの物質量(mol)に対する、生成ガス中に含まれるN2の物質量の総量(mol)の百分率(mol%)として算出した。
【0071】
本実施例では、生成ガス中に含まれるN2の収率が、80mol%以上である場合を触媒活性(分解能)が優れていると判定して「◎」、50mol%以上80mol%未満である場合を触媒活性が良好であると判定して「○」、20mol%以上50mol%未満である場合を触媒活性が良好ではないものの合格レベル(可)でありと判定して「△」、そして20mol%未満である場合を触媒活性が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0072】
(2)耐久性(寿命)
耐久性は、以下の条件で評価した。
【0073】
まず、上記評価(1)で使用した触媒構造体を回収し、650℃で、12時間加熱して、加熱後の触媒構造体を作製した。次に、得られた加熱後の触媒構造体を用いて、上記評価(1)と同様の方法により、NOの直接分解反応を行い、さらに上記評価(1)と同様の方法で、生成ガスの成分分析を行った。
【0074】
得られた分析結果に基づき、上記評価(1)と同様の方法で、N2の収率(mol%)を求めた。さらに、加熱前の触媒構造体によるN2の収率(評価(1)で求めた収率)と比較して、加熱後の触媒構造体によるN2の収率が、どの程度維持されているかを比較した。具体的には、加熱前の触媒構造体によるN2の収率(評価(1)で求めた収率)に対する、上記加熱後の触媒構造体によるN2の収率(評価(2)で求めた収率)の百分率(%)を算出した。
【0075】
本実施例では、加熱後の触媒構造体によるN2の収率(評価(2)で求めた収率)が、加熱前の触媒構造体によるN2の収率(記評価(1)で求めた収率)に比べて、80%以上維持されている場合を耐久性(耐熱性)が優れていると判定して「◎」、50%以上80%未満維持されている場合を耐久性(耐熱性)が良好であると判定して「○」、20%以上50%未満維持されている場合を耐久性(耐熱性)が良好ではないものの合格レベル(可)でありと判定して「△」、そして20%未満に低下している場合を耐久性(耐熱性)が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0076】
なお、比較例2についても、評価(1)及び(2)と同様の性能評価を行った。比較例2は、担体そのものであり、固体酸微粒子は有していない。そのため、上記性能評価では、触媒構造体に替えて、比較例2の担体のみを充填した。結果を表6に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表1~6から明らかなように、断面観察により担体の内部に固体酸が保持されていることが確認された触媒構造体(実施例1~288)は、単に固体酸微粒子が担体の外表面に付着しているだけの触媒構造体(比較例1)と比較して、NOの直接分解反応において優れた触媒活性を示し、触媒としての耐久性にも優れていることが分かった。
【0084】
一方、固体酸を何ら有していない比較例2の担体そのものは、NOの分解反応において触媒活性は殆ど示さず、実施例1~288の触媒構造体と比較して、触媒活性及び耐久性の双方が劣っていた。
【0085】
また、担体の外表面にのみ固体酸を付着させた比較例1の触媒構造体は、固体酸を何ら有していない比較例2の担体そのものと比較して、NOの分解反応における触媒活性は改善されるものの、実施例1~288の触媒構造体に比べて、触媒としての耐久性は劣っていた。
【符号の説明】
【0086】
1、2 触媒構造体
10 担体
10a 外表面
11 通路
11a 孔
12 拡径部
20 固体酸
30 NO分解触媒