(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】中種生地、パン生地及びパン生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 10/00 20060101AFI20230808BHJP
A21D 2/32 20060101ALI20230808BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20230808BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20230808BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D2/32
A21D2/18
A21D13/00
(21)【出願番号】P 2018137886
(22)【出願日】2018-07-23
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】友枝 哲太郎
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-081515(JP,A)
【文献】特開2015-144592(JP,A)
【文献】特開2017-195815(JP,A)
【文献】特開2013-000111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 - 17/00
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する水性液を、混合する、中種生地の製造方法であって、
上記増粘安定剤の一部又は全部が
分子量20万以下のデキストランであり、
上記水性液を、中種生地を構成する澱粉類100質量部に対して1~10質量部の量で混合し、
前記中種生地が、パン生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、糖類含量が20質量部以上であるパン生地に用いられる、中種生地の製造方法。
【請求項2】
水性液における増粘安定剤の含有量が固形分量として0.1~10質量%であり、水分散性リン脂質の含有量が固形分量として0.01~5質量%である、請求項1に記載の中種生地の製造方法。
【請求項3】
水性液の油脂含量が2質量%以下である、請求項1又は2に記載の中種生地の製造方法。
【請求項4】
水性液が、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン及びゼラチンから選ばれる少なくとも一種を更に含む、請求項1~3の何れか1項に記載の中種生地の製造方法。
【請求項5】
水性液がキサンタンガムを含む請求項4に記載の中種生地の製造方法。
【請求項6】
上記水分散性リン脂質が、乳由来リン脂質である、請求項1~5の何れか1項記載の中種生地の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の製造方法で得られた中種生地を使用するパン生地の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法で得られたパン生地を加熱処理するパン類の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6の何れか1項に記載の製造方法で得られた中種生地を用いる、パン生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、パン生地に含まれる糖類含量が20質量部以上であるパンのソフト性又は歯切れの改良方法。
【請求項10】
増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する水性液であって、
上記増粘安定剤の一部又は全部が
分子量20万以下のデキストランであり、
中種生地を構成する澱粉類100質量部に対して当該水性液を1~10質量部の量で混合する中種生地の製造に用いられ、
パン生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、パン生地に含まれる糖類含量が20質量部以上であるパンの体積向上、ソフト性若しくは歯切れの改良、又はパン生地のべたつき低減に用いられる改良材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中種生地、当該中種生地を用いたパン生地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在一般的に行われている製パン法を大別すると、中種製パン法とストレート製パン法に分類することができるが、現在の製パン業界では、品質の安定したパンを得られることから中種製パン法が広く採用されている。
中種製パン法とは、一般に、製パンに用いる小麦粉の一部を予め水とあわせて混捏した「中種」を通常2~4時間程度発酵、熟成、水和させ、その中種に残りの原料を添加、混捏してパン生地を製造し、分割・丸目、成形、ホイロ、焼成し、パンを得る方法である。
【0003】
この中種製パン法は、ソフトで老化しにくいパンを得ることができるが、ストレート製パン法に比べて風味がやや弱いという問題があることに加え、糖類含量の高いパンであると、その効果が発揮しにくく、逆にパンの食感がねちゃついたものになってしまうという問題があった。
【0004】
このため、各種の呈味成分や改良素材を添加する方法が考えられてきた。しかし、中種製パン法は、中種生地の段階で小麦粉にしっかりと水を吸収させ、安定した品質(生地・パン)とすることが目的であることから、中種生地は基本的に小麦粉、水及びイーストのみからなるものであり、その理由により中種製パン法で副原料や改良素材を添加する場合は、本捏生地の段階で添加することが普通である。そのため中種製パン法による製パン技術において、中種生地そのものに改良剤を添加使用した例は数少なく、先行文献としては、例えば、食塩水を用いる方法(例えば特許文献1参照)、ペクチンを含む混合物を用いる方法(例えば特許文献2参照)、小麦粉に対して、乳成分と酵素を用いる方法(例えば特許文献3参照)、リン脂質に富む乳製品を用いる方法(例えば特許文献4参照)、乳清ミネラルを用いる方法(例えば特許文献5参照)などが挙げられるのみである。
【0005】
しかし、特許文献1のように、食塩水を使用する方法は、生地に練込むのではなく生地表面に散布又は浸漬することで吸水を減少させることなく、また風味に影響をあまり与えることなく、中種生地の常温保存性を高めることを狙った発明であるため、風味の面での改良効果は見られなかった。また、特許文献2のように、各種添加物や乳化剤を中種生地に添加する方法は、発酵阻害の恐れに加え、ねちゃついた食感となったり、喉越しの悪い食感となる問題もあった。特許文献3の方法は発酵阻害の恐れはないものの、パンの種類によっては生地が脆弱になり、ねちゃついた食感となってしまう問題があった。特許文献4の方法は、ややもっちりとした食感になってしまう問題があった。また、特許文献5に記載の方法は、発酵風味を抑えるなど風味に影響を与えるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-191658号公報
【文献】特開平07-289145号公報
【文献】特開平11-032658号公報
【文献】特開2005-046085号公報
【文献】特開2017-093366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、ソフトで歯切れが良く、風味良好なパン類を提供することができる中種生地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を達成すべく種々検討した結果、増粘安定剤と特定の乳化物質を併用することで上記目的が達成可能であることに加え、得られるパン類の体積もより大きなものとすることができることを見出した。
すなわち本発明は、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する中種生地を提供するものである。
また本発明は、上記中種生地を使用したパン生地及びそれを加熱処理したパン類を提供するものである。
更に本発明は、上記中種生地を使用したパン生地の製造方法を提供するものである。
更に本発明は、上記中種生地を用いるパン類の食感改良方法を提供するものである。
更に本発明は、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する水性液である、製パン改良材を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の中種生地、又は、本発明の製パン改良材を含有する中種生地を使用すれば、体積が大きく、ソフトで歯切れが良く、風味良好なパン類が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の中種生地について詳細に説明する。
まず、本発明で使用する増粘安定剤について述べる。
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、デキストラン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天及びグルコマンナン等の多糖類、並びにゼラチン等の蛋白質が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0011】
本発明では上記増粘安定剤として、その一部又は全部に多糖類、特にデキストランを使用することが好ましい。
尚、本発明では上記デキストランの中でもその分子量が20万以下、好ましくは10万以下、より好ましくは5万以下のものを使用することが好ましい。尚、本発明において分子量とは質量平均分子量をいう。
また、デキストランの分子量の下限については、一般的に0.5万である。
【0012】
本発明の中種生地における上記増粘安定剤の含有量は、パン生地に含まれる澱粉類100質量部に対し、好ましくは固形分として0.01~1質量部、より好ましくは0.01~0.5質量部、更に好ましくは0.01~0.2質量部である。0.01質量部以上であることで本発明の効果、特にソフトな食感がより確実に得られる。1質量部以下であることで、過度に吸水が増えることを効果的に防止できる。これにより、過度な吸水に起因して、パン生地がべたつく問題や、更には得られるパン類がケービングを起こしてしまったり、ねちゃついた食感になってしまうおそれをより効果的に防止できる。
【0013】
尚、ここで使用量の基準となる「パン生地に含まれる澱粉類」とは、パン類を製造する際に使用する澱粉類すべてのことであり、後述のパン類を製造する際の中種工程で使用する澱粉類と本捏工程で使用する澱粉類とを合わせたものである。(以下の「パン生地に含まれる澱粉類に対して」という部分についても同様である。)
尚、上記の澱粉類としては、中種工程で使用する澱粉類及び本捏工程で使用する澱粉類のいずれについても、特に限定されるものではないが、例えば、薄力粉・中力粉・強力粉・全粒粉・デュラム粉等の小麦粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、大豆粉、ハトムギ粉等の穀粉類をはじめ、小麦でんぷん、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米でんぷん、甘薯でんぷん、じゃがいもでんぷん、タピオカでんぷん等の食用澱粉、更にはこれらの穀粉類や食用澱粉に酵素処理、酸処理、アルカリ処理、エステル化、リン酸架橋化、焙焼、湿熱等の物理的、化学的処理を行った化工澱粉類、水に溶解し易いように予め加熱処理あるいはアルカリ処理等により糊化させた糊化澱粉類を挙げることができる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。中種工程で使用する澱粉類と本捏工程で使用する澱粉類とは同一種類であってもよく、異なる種類であってもよい。
【0014】
次に、本発明で使用する水分散性リン脂質について述べる。
水分散性リン脂質とは、一般のリン脂質が油溶性であるのに対し、水に分散するように親水基を表面に向けて配列させた状態にあるリン脂質であり、水やアルコール等の水性液にリン脂質を添加して均質化させたものや、天然の生体膜やその加工品などの食品素材を挙げることができる。
上記リン脂質は、特に限定されるものではなく、食品に使用できるリン脂質であればどのようなリン脂質でも構わない。上記リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸等のジアシルグリセロリン脂質を使用することができ、更に上記リン脂質に対し、ホスホリパーゼ等により酵素処理を行い、乳化力を向上させたリゾリン脂質、上記リン脂質や上記リゾリン脂質を含有する食品素材を使用することができる。本発明ではリン脂質としてこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
本発明では、上記のリン脂質そのものよりも、上記の天然の生体膜やその加工品などの食品素材を用いる方が好ましい。このような食品素材としては、卵黄や、牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳が挙げられるが、風味と食感の面から乳由来の食品素材を用いるのが好ましく、牛乳由来の食品素材を用いるのが更に好ましい。乳由来の食品素材に含まれるリン脂質を乳由来リン脂質ともいう。
【0016】
尚、上記乳由来の食品素材においては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5~40質量%である乳原料を使用することが好ましい。
【0017】
上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上である乳原料としては、例えば、クリームからバターを製造する際に生じる水相成分(バターミルク)や、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分が挙げられる。
ここで、上記のクリームからバターを製造する際に生じる水相成分は、その製法の違いにより組成が大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常0.5~1.5質量%程度である。一方、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、大凡2~15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0018】
すなわち本発明では、上記の乳原料として、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分を使用することが好ましい。
次に上記のクリームからバターを製造する際に生じる水相成分の製造方法について説明する。
クリームからバターを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30~40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70~95質量%まで高める。次いで乳化破壊機で脂肪球を破壊して凝集させ、バター粒を形成させる工程でバターの副産物として発生するものである。
【0019】
上記のクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30~40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70~95質量%まで高める。次いで乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0020】
一方、バターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まずバターを溶解機で溶解し熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0021】
また、本発明においては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上であれば、上記水相成分をそのまま用いてもよく、また噴霧乾燥、濃縮、冷凍などの処理を施したものを用いてもよい。
【0022】
また、本発明では、上記乳原料中の乳原料の一部又は全部をそのままリゾ化してもよく、また濃縮した後にリゾ化してもよい。また更に得られたリゾ化物を更に濃縮、あるいは、噴霧乾燥処理等を施してもよい。
【0023】
乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5質量%以上である乳原料中の、リン脂質をリゾ化するにはホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置き換える作用を有する酵素である。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。ホスホリパーゼAは作用する部位の違いによってA1、A2に分かれるが、A2が好ましい。
【0024】
また、本発明では、上記の乳原料に、pHを3~6となるように酸処理を行ったものを使用してもよい。
上記酸処理を行うには、酸を添加する方法であっても、また、乳酸発酵等の発酵処理を行う方法であってもよいが、好ましくは酸を添加する。該酸としては、無機酸であっても有機酸であってもよいが、有機酸であることが好ましい。該有機酸としては、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられ、果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルト等の有機酸を含有する飲食品も用いることができるが、本発明においてはより酸味が少なく、風味に影響しない点でフィチン酸及び/又はグルコン酸を使用することが好ましい。
【0025】
上記酸の添加によるpHの調整は、上記酸を上記乳原料自体に添加することにより行ってもよいし、下述の水性液を製造する際に、又は製造後に上記酸を添加することにより行ってもよい。
【0026】
また、本発明では、上記の乳原料に、リン脂質含有量1質量部あたり、0.01~1質量部のカルシウム塩を添加したものを使用してもよい。
上記カルシウム塩としては塩化カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム等が例示され、このうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
また、本発明で用いる上記の乳原料は、パン生地への分散性が良好である点、及び、下述の水性液中の経日安定性が良好である点で、均質化処理を行なったものであることが好ましい。均質化処理は1回でもよく、2回以上行ってもよい。特に、下記のUHT加熱処理を行う場合は、該加熱処理の前後に行うことが好ましい。尚、均質化の際に粘性が高い等の場合は、加水により粘度を調整してから均質化処理を行なってもよい。
上記均質化処理に用いられる均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バブル式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、ディスパーミル等が挙げられる。均質化圧力は特に制限はないが、好ましくは1~100MPaである。
【0028】
更に本発明で用いる上記の乳原料は、UHT加熱処理を行ってもよい。UHT加熱処理の条件としては特に制限はないが、処理温度は好ましくは120~150℃であり、処理時間は好ましくは1~6秒である。
【0029】
上記の乳原料や乳原料加工品は、液状、流動状、ペースト状、粉末状、固形状等の状態のものとすることができ、本発明では何れの状態のものでも使用できるが、上記乳原料や乳原料加工品は、液状、流動状又はペースト状のものを使用することが、本発明の効果が安定して得られる点で好ましい。液状、流動状又はペースト状である上記乳原料や乳原料の固形分含量としては、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。上記乳原料や乳原料加工品として液状、流動状又はペースト状のものを使用する場合、粉末状又は固形状のものを使用する場合に比して、パン生地への分散性がより良好になるほか、下述の水性液中の経日安定性をより良好なものとすることができる。
【0030】
本発明で用いる増粘安定剤が、上記と同様の均質化処理を経たものであることも好ましい。特に、増粘安定剤及び上記の水分散性リン脂質は、両者が混合した状態における均質化処理を経たものであることが一層好ましい。尚、本発明で用いる増粘安定剤は、UHT加熱処理を経たものであってもよい。
【0031】
本発明の中種生地における上記水分散性リン脂質の含有量は、パン生地に含まれる澱粉類100質量部に対し、好ましくは固形分として0.001~1質量部、より好ましくは0.002~0.1質量部、更に好ましくは0.003~0.05質量部である。0.001質量部以上とすることで、本発明の効果、特にソフトで歯切れのよい食感がより確実に得られる。1質量部以下とすることで、パン生地がべたつく問題や、更には得られるパン類がケービングを起こしてしまったり、ねちゃついた食感になってしまうおそれをより効果的に防止できる。
【0032】
尚、本発明では上記増粘安定剤と上記水分散性リン脂質は、上記増粘安定剤及び上記水分散性リン脂質を含有する水性液、好ましくは上記と同様の均質化処理を経た水性液として使用することが、得られるパンのソフトな食感を更に一層高めることができるため好ましい。具体的には本発明の中種生地は、上記増粘安定剤及び上記水分散性リン脂質を含有する水性液と、澱粉類との混合物であることが好ましい。
本発明の製パン改良材は、上記増粘安定剤と上記水分散性リン脂質を含有する上記の水性液からなる。
ここでいう水性液とは、水溶液のほか、懸濁液や水相を主体として少量の水に不溶の成分が分散した水相を連続相とする液状物を意味するものとする。
【0033】
尚、上記水性液における上記増粘安定剤の含有量は固形分として好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは1~10質量%、更に好ましくは1~5質量%である。また、上記水性液における上記水分散性リン脂質の好ましい含有量は固形分として好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.1~2質量%、更に好ましくは0.1~1質量%である。
【0034】
尚、上記水性液は油脂含量が好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、更に好ましくは2質量%以下であることが好ましい。上記水性液において、油脂の含有量を10質量%未満とすることにより、本発明の改良効果が得やすいものとなる。
【0035】
尚、上記水性液における固形分含量は好ましくは30質量%未満、より好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%未満である。尚、固形分には油分を含まないものとする。
【0036】
本発明の中種生地は、これを構成する澱粉類100質量部に対して、上記水性液を1~100質量部混合させたものであることがソフトで歯切れが良い食感のパンがより確実に得られる点で好ましく、1~50質量部混合させたものであることが更に好ましく、最も好ましくは1~10質量部である。ここでいう中種生地を構成する澱粉類の量とは、パン生地全体における澱粉類の量ではなく、中種生地のみに含まれる澱粉類の量を意味する。
【0037】
また、本発明の中種生地には、上記増粘安定剤及び水分散性リン脂質又はそれらを含む水性液並びに澱粉類以外に、必要に応じ、一般の中種生地に使用される水、イースト、更には上記乳原料以外の乳や乳製品、乳蛋白、酵素、卵類、糖、塩、油脂類、イーストフード等から選ばれる1種又は2種以上が使用され、これらの使用量は生地の種類により適宜調整される。
【0038】
尚、本発明の中種生地における水分含量は、該中種生地を構成する澱粉類100質量部に対して、水分が50~80質量部とすることが安定した品質のパンが得られる点で好ましく、55~65質量部とすることが更に好ましい。
【0039】
次に、本発明のパン生地について説明する。
本発明のパン生地は、上記本発明の中種生地を使用したものである。尚、パン生地における中種生地の使用量は特に制限されず、パン生地で使用する澱粉類のうち、中種生地で使用する澱粉類が10~100質量%の範囲から適宜選択可能であるが、好ましくは20~80質量%である。
【0040】
尚、本発明のパン生地には、上記中種生地以外に他の原料を含有させることが好ましい。他の原料としては、澱粉類、イースト、糖類、甘味料、油脂類、卵類、乳製品、水、食塩、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、ヨーグルト、チーズ、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、酸化剤、還元剤、酵素、イーストフード、乳化剤、保存料、日持ち向上剤等から選ばれる1種又は2種以上を適宜用いることができる。
【0041】
また別途湯種生地や発酵種、液種生地を使用することもできる。
尚、本発明のパン生地の種類としては、特に制限はないが、例えば食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、デニッシュ・ペストリー生地、フランスパン生地などが挙げられる。
【0042】
なかでも本発明では、本発明の高い効果が得られる点、特に体積の向上効果が大きい点で、菓子パン生地であることが好ましく、特に、パン生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、糖類含量が20質量%以上である菓子パン生地であることが好ましい。
ここで糖類とは、単糖類、二糖類、オリゴ糖類が挙げられ、単糖類としては、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、キシロース等が挙げられる。また二糖類としては、乳糖、スクロース、セロビオース、マルトース等が挙げられ、オリゴ糖類としては、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、パラチノースオリゴ糖、アガロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、乳果オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、カップリングシュガー、ラフィノース、ラクチュロース、テアンデオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖等が挙げられる。
【0043】
次に、本発明のパン生地の製造方法について詳細に説明する。尚、以下において特に詳述しないことについては、上述した本発明の中種生地の項で詳述したことと同様である。
本発明のパン生地の製造方法は、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する中種生地を使用することを特徴の一つとする。
尚、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を、中種生地ではなく、本捏生地の製造時に添加した場合は、得られるパン生地がべたつきやすく、得られるパン類も体積がやや小さく、歯切れがやや劣るものとなってしまう。
【0044】
本発明のパン生地の製造方法は、好ましくは、中種生地を発酵させた後、発酵後の当該中種生地と他の原料とを混合するものである。
ここで中種生地の発酵を行う際の発酵温度及び発酵時間としては、好ましくは0~30℃で60~1200分、更に好ましくは10~28℃で120~600分、一層好ましくは20~28℃で120~360分が採用される。上記発酵温度を0℃以上ですることで発酵阻害を防止できるため好ましく、30℃以下とすることで、発酵の進みすぎによる臭いの発生を防止できるため好ましい。また、上記発酵時間を60分以上とすることで、パン類の発酵による風味が得られやすいので好ましく、1200分以下とすることで、発酵の進みすぎによる臭いの発生を防止できるため好ましい。
【0045】
本発明のパン生地の製造方法においては、上記中種発酵を行った中種生地を、本捏工程において他の原料と混合することが好ましい。ここでいう混合はいわゆる混捏(ミキシングともいう)であることが好ましい。
上記本捏工程において使用する他の原料としては、例えば、澱粉類、イースト、糖類、甘味料、油脂類、卵類、乳製品、水、食塩、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、ヨーグルト、チーズ、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、酸化剤、還元剤、酵素、イーストフード、乳化剤、保存料、日持ち向上剤などから選ばれる1種又は2種以上を適宜用いることができる。
【0046】
また別途湯種生地や発酵種、液種生地を使用することもできる。
このようにして得られたパン生地は、次いで通常の工程を経て、焼成することにより本発明のパン類が得られる。
【0047】
次に本発明のパン類について述べる。
本発明のパン類は、本発明のパン生地の加熱処理品である。該加熱処理としては、焼成、フライ、蒸し、電子レンジ加熱などが挙げられるが、焼成することが好ましい。また、得られた本発明のパン類を、冷蔵、冷凍保存したり、該保存後に電子レンジ加熱することも可能である。
【0048】
本発明のパン類の食感改良方法は、本発明の中種生地を用いるものである。好ましくは、本発明のパン類の食感改良方法は、上記のパン生地の製造方法で述べた方法にて本発明の中種生地を用いてパン生地を得、これを加熱処理することにより、得られるパンの食感を改良するものである。
【実施例】
【0049】
<水性液の製造>
〔製造例1〕
クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)5質量部、分子量4万のデキストラン(名糖産業製)1質量部、キサンタンガム0.005質量部を、水93.995質量部に添加し、更にこれをホモゲナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行った。そして、再度、ホモゲナイザーにて均質化圧力12MPaにて均質化を行った。これを5~10℃に冷却し、増粘安定剤1質量%及び水分散性リン脂質0.19質量%を含有する、固形分2.9質量%である、水性液Aを得た。
【0050】
〔製造例2〕
クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)10質量部、分子量4万のデキストラン(名糖産業製)4質量部、キサンタンガム0.005質量部を、水85.995質量部に添加し、更にこれをホモゲナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行った。そして、再度、ホモゲナイザーにて均質化圧力12MPaにて均質化を行った。これを5~10℃に冷却し、増粘安定剤4質量%及び水分散性リン脂質0.37質量%を含有する、固形分7.8質量%である、水性液Bを得た。
【0051】
〔製造例3〕
クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)10質量部、分子量4万のデキストラン(名糖産業製)4質量部、キサンタンガム0.005質量部を、水85.965質量部に添加し、更にフィチン酸0.03質量部を添加して、pHを5.5に調整した。更にこれをホモゲナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行った。そして、再度、ホモゲナイザーにて均質化圧力12MPaにて均質化を行った。これを5~10℃に冷却し、増粘安定剤4質量%及び水分散性リン脂質0.37質量%を含有する、固形分7.8質量%である、水性液Cを得た。
【0052】
〔製造例4〕
クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)10質量部を、水90質量部に添加し、更にこれをホモゲナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行った。そして、再度、ホモゲナイザーにて均質化圧力12MPaにて均質化を行った。これを5~10℃に冷却し、水分散性リン脂質0.37質量%を含有する、固形分3.8質量%である、水性液Dを得た。
【0053】
〔製造例5〕
分子量4万のデキストラン(名糖産業製)4質量部、キサンタンガム0.005質量部を、水95.995質量部に添加し、更にこれをホモゲナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行った。そして、再度、ホモゲナイザーにて均質化圧力12MPaにて均質化を行った。これを5~10℃に冷却し、増粘安定剤4質量%を含有する、固形分4質量%である、水性液Eを得た。
【0054】
<パン生地及びパンの製造>
〔実施例1〕
強力粉70質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部、水性液A3質量部、水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速3分、中速2分、中種ミキシングし、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する本発明の中種生地Aを得た。捏ね上げ温度は26℃であった。この中種生地Aを生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、2時間中種発酵を行なった。この中種発酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、更に、強力粉30質量部、食塩1.0質量部、上白糖20質量部、脱脂粉乳2質量部、全卵(正味)5質量部、水16質量部を添加し、フックを使用し、低速3分、中速3分、本捏ミキシングした。ここで製パン練り込み用ショートニング(商品名「プレミアムショート」:株式会社ADEKA製)5質量部を投入し、更に、低速3分、中速4分ミキシングを行ない、本発明のパン生地である菓子パン生地Aを得た。得られた菓子パン生地Aの捏ね上げ温度は28℃であった。ここで、フロアタイムを30分とった後、60gに分割・丸目を行なった。次いでベンチタイムを30分とった後、再丸目し、天板に並べ、38℃、相対湿度85%、50分ホイロをとった後、190℃に設定した固定窯に入れ13分焼成し、本発明のパンである菓子パンAを得た。
得られた菓子パンAは体積が大きく、ソフトで歯切れが良く、良好な風味を有していた。また、ソフトな食感は20℃保存2日後も保たれていた。
尚、分割・丸目時の生地はべたつきがなく、伸展性も良好であった。
【0055】
〔実施例2〕
実施例1で使用した水性液Aに代えて水性液Bを使用した以外は実施例1と同様の配合及び製法で、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する本発明の中種生地B、本発明の菓子パン生地B、更に本発明の菓子パンBを得た。
得られた菓子パンBは体積が大きく、ソフトで歯切れが良く、良好な風味を有していた。また、ソフトな食感は20℃保存2日後も保たれていた。
尚、分割・丸目時の生地はべたつきがなく、伸展性も良好であった。
【0056】
〔実施例3〕
実施例2で使用した水性液Bに代えて水性液Cを使用した以外は実施例2と同様の配合及び製法で、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する本発明の中種生地C、本発明の菓子パン生地C、更に本発明の菓子パンCを得た。
得られた菓子パンCは体積が大きく、ソフトで歯切れが良く、良好な風味を有していた。また、ソフトな食感は20℃保存2日後も保たれていた。
尚、分割・丸目時の生地はべたつきがなく、伸展性も良好であった。
【0057】
〔実施例4〕
実施例2で使用した水性液Bを無添加とし、分子量4万のデキストラン(名糖産業製)0.12質量部、及び、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)0.011質量部を添加した以外は、実施例2と同様の配合及び製法で、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する本発明の中種生地D、本発明の菓子パン生地D、更に本発明の菓子パンDを得た。
得られた菓子パンDは体積が大きく、ソフトで歯切れが良く、良好な風味を有していた。また、ソフトな食感は20℃保存2日後も保たれていたが、菓子パンBに比べややソフト感が弱かった。
尚、分割・丸目時の生地はべたつきがなく、伸展性も良好であった。
【0058】
〔比較例1〕
実施例2で使用した水性液Bに代えて水性液Dを使用した以外は実施例2と同様の配合及び製法で、水分散性リン脂質は含有するが、増粘安定剤を含有しない比較例の中種生地E、比較例の菓子パン生地E、更に比較例の菓子パンEを得た。
得られた菓子パンEは体積が菓子パンBに比べて小さく、良好な歯切れと良好な風味を有しているが、ソフト感が弱かった。また、20℃保存2日後にはぱさつきが感じられた。
尚、分割・丸目時の生地は、伸展性は良好であるが菓子パン生地Bに比べてべたつきが感じられ、不良な物性であった。
【0059】
〔比較例2〕
実施例2で使用した水性液Bに代えて水性液Eを使用した以外は実施例2と同様の配合及び製法で、増粘安定剤は含有するが、水分散性リン脂質を含有しない比較例の中種生地F、比較例の菓子パン生地F、更に比較例の菓子パンFを得た。
得られた菓子パンFは体積が菓子パンBに比べて小さく、ソフトではあるが歯切れが悪くねちゃつきの感じられる食感であり、風味も劣るものであった。尚、ソフトな食感は20℃保存2日後も保たれていた。
尚、分割・丸目時の生地は、伸展性は良好であるが菓子パン生地Bに比べてべたつきが感じられ、不良な物性であった。
【0060】
〔比較例3〕
実施例2で使用した水性液Bを無添加とし、水40部を水43部に変更した以外は実施例2と同様の配合及び製法で、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有しない比較例の中種生地G、比較例の菓子パン生地G、更に比較例の菓子パンGを得た。
得られた菓子パンGは菓子パンBに比べ風味、体積、ソフト感、歯切れとも劣るものであった。尚、20℃保存2日後にはぱさつきを強く感じられるものとなっていた。
尚、分割・丸目時の生地は、菓子パン生地Bに比べ、ややべたつきが感じられ、伸展性も劣る不良な物性であった。
【0061】
〔比較例4〕
比較例3で得られた中種生地Gを生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、2時間中種発酵を行なった。この中種発酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、更に、強力粉30質量部、食塩1.0質量部、上白糖20質量部、脱脂粉乳2質量部、全卵(正味)5質量%、水16質量部及び上記水性液B3質量部を添加し、フックを使用し、低速3分、中速3分、本捏ミキシングした。ここで製パン練り込み用ショートニング(商品名「プレミアムショート」:株式会社ADEKA製)5質量部を投入し、更に、低速3分、中速4分ミキシングを行ない、本発明のパン生地である菓子パン生地Hを得た。得られた菓子パン生地Hの捏ね上げ温度は28℃であった。ここで、フロアタイムを30分とった後、60gに分割・丸目を行なった。次いでベンチタイムを30分とった後、再丸目し、天板に並べ、38℃、相対湿度85%、50分ホイロをとった後、190℃に設定した固定窯に入れ13分焼成し、比較例のパンである菓子パンHを得た。
得られた菓子パンHは菓子パンBに比べ体積、歯切れがやや劣るものであった。尚、風味、ソフト性は菓子パンBと同等であった。
尚、分割・丸目時の生地は、菓子パン生地Bに比べ、伸展性は同等であったが、べたつきが感じられ、不良な物性であった。
【0062】
以上の通り、各実施例では、体積が大きく、ソフトで歯切れが良く、風味良好なパンが得られ、パン生地の物性も良好であるのに対し、各比較例では体積が小さく、ソフト感又は歯切れに劣るパンしか得られておらず、パン生地の物性も劣ることが判る。
特に比較例1~3の比較により、水分散性リン脂質又は増粘安定剤のみを中種生地に含有させた場合、両者とも中種生地に含有させない場合に比して、パンの体積及びパン生地のべたつきの改善は見られないのに対し、水分散性リン脂質及び増粘安定剤を中種生地に含有させた各実施例では、パンの体積及び生地のべたつきの改善が見られた。このことから、水分散性リン脂質及び増粘安定剤を中種生地に含有させることでパンの体積の大きさ及びパン生地のべたつきのなさを相乗的に向上させることができる可能性が示された。