(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】たんぱく質の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230808BHJP
G01N 33/52 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/52 B
(21)【出願番号】P 2019084576
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】森久保 桂子
(72)【発明者】
【氏名】中島 章裕
(72)【発明者】
【氏名】大島 俊文
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223726(JP,A)
【文献】特開平11-083859(JP,A)
【文献】特開平07-243972(JP,A)
【文献】特開昭53-025490(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0084175(US,A1)
【文献】特開2000-221197(JP,A)
【文献】特開2016-211967(JP,A)
【文献】Baoshan He,Field detection of proteins by a disposable strip,Scientific Research and Essays,2011年04月04日,Vol.6 No.7,Page.1688-1691
【文献】S. BRAMHALL,A Simple Colorimetric Method for Determination of Protein,Analytical Biochemistry,1969年,Vol.31,Page.146-148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象のたんぱく質を呈色する呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
を備える、たんぱく質の検出方法であって、
前記検出工程の前に、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
をさらに備え
、
前記呈色工程、前記ろ過工程、前記たんぱく質変性工程、前記脱色工程、および前記検出工程をこの順で実施することを特徴とする、たんぱく質の検出方法。
【請求項2】
測定対象のたんぱく質を呈色する呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
を備える、たんぱく質の検出方法であって、
前記検出工程の前に、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
をさらに備え
、
前記ろ過工程、前記呈色工程、前記たんぱく質変性工程、前記脱色工程、および前記検出工程をこの順で実施することを特徴とする、たんぱく質の検出方法。
【請求項3】
前記呈色工程において、測定対象のたんぱく質との結合により吸収波長がシフトする呈色試薬を用い、測定対象のたんぱく質を呈色する、請求項
1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記呈色工程において、ブラッドフォード法により測定対象のたんぱく質を呈色する、請求項
1または2に記載の検出方法。
【請求項5】
前記ろ過工程において、測定対象のたんぱく質をガラスフィルターでろ過する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項6】
前記たんぱく質変性工程において、フィルターに酸を添加することによりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させる、請求項1~
5のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記酸が、酢酸、リン酸、ギ酸、クエン酸、塩酸、及び乳酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸である、請求項
6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記酸が酢酸である、請求項
6に記載の検出方法。
【請求項9】
前記脱色工程において、フィルターに添加する脱色剤が有機溶剤を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項10】
前記有機溶剤が、エタノール、メタノール、イソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルコールを含む、請求項
9に記載の検出方法。
【請求項11】
前記有機溶剤がエタノールを含む、請求項
9に記載の検出方法。
【請求項12】
前記たんぱく質変性工程において、フィルターに酢酸を添加することによりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させ、かつ、前記脱色工程において、フィルターにエタノールを添加する、請求項1~
11のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項13】
前記測定対象のたんぱく質が、食品工場の製造設備の洗浄に用いたすすぎ水に含まれるたんぱく質、または、食物もしくは飲料に含まれるたんぱく質である、請求項1~
12のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項14】
前記食品工場の製造設備の洗浄に用いたすすぎ水に含まれるたんぱく質が、乳、卵、小麦、そば、落花生、エビ、カニ、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、またはゼラチンに含まれるたんぱく質である、請求項
13に記載の検出方法。
【請求項15】
食物もしくは飲料に含まれるたんぱく質が、乳、卵、小麦、そば、落花生、エビ、カニ、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、またはゼラチンに含まれるたんぱく質である、請求項
13に記載の検出方法。
【請求項16】
検出の所要時間が1時間以下であることを特徴とする、請求項1~
15のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項17】
測定対象のたんぱく質を呈色させる呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
前記検出工程において検出された測定対象のたんぱく質の呈色について、その色彩値を測定する色彩値測定工程と、
を備える、たんぱく質の濃度測定方法であって、
前記呈色工程、前記ろ過工程、前記たんぱく質変性工程、前記脱色工程、前記検出工程、および前記色彩値測定工程をこの順で実施し、
測定対象のたんぱく質の濃度と、その色彩値とが既知の複数の参照用試料を用いて、各参照用試料中の測定対象のたんぱく質の濃度と前記色彩値との対応関係を示す検量線を作成することにより、前記色彩値測定工程で測定される色彩値から測定対象のたんぱく質の濃度を測定することを特徴とする、たんぱく質の濃度測定方法。
【請求項18】
測定対象のたんぱく質を呈色させる呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
前記検出工程において検出された測定対象のたんぱく質の呈色について、その色彩値を測定する色彩値測定工程と、
を備える、たんぱく質の濃度測定方法であって、
前記ろ過工程、前記呈色工程、前記たんぱく質変性工程、前記脱色工程、前記検出工程、および前記色彩値測定工程をこの順で実施し、
測定対象のたんぱく質の濃度と、その色彩値とが既知の複数の参照用試料を用いて、各参照用試料中の測定対象のたんぱく質の濃度と前記色彩値との対応関係を示す検量線を作成することにより、前記色彩値測定工程で測定される色彩値から測定対象のたんぱく質の濃度を測定することを特徴とする、たんぱく質の濃度測定方法。
【請求項19】
測定対象のたんぱく質をブラッドフォード法により呈色させる呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
前記検出工程において検出された測定対象のたんぱく質の呈色について、CIE規格に準拠したL
*a
*b
*表色系において定義されるb値を測定する色彩値測定工程と、
を備える、たんぱく質の濃度測定方法であって、
前記呈色工程、前記ろ過工程、前記たんぱく質変性工程、前記脱色工程、前記検出工程、および前記色彩値測定工程をこの順で実施し、
測定対象のたんぱく質の濃度とCIE規格に準拠したL
*a
*b
*表色系において定義されるb値とが既知である複数の参照用試料を用いて、各参照用試料中の測定対象のたんぱく質の濃度と前記b値との対応関係を示す検量線を作成することにより、前記色彩値測定工程で測定されるb値から測定対象のたんぱく質の濃度を測定することを特徴とする、たんぱく質の濃度測定方法。
【請求項20】
測定対象のたんぱく質をブラッドフォード法により呈色させる呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
前記検出工程において検出された測定対象のたんぱく質の呈色について、CIE規格に準拠したL
*a
*b
*表色系において定義されるb値を測定する色彩値測定工程と、
を備える、たんぱく質の濃度測定方法であって、
前記ろ過工程、前記呈色工程、前記たんぱく質変性工程、前記脱色工程、前記検出工程、および前記色彩値測定工程をこの順で実施し、
測定対象のたんぱく質の濃度とCIE規格に準拠したL
*a
*b
*表色系において定義されるb値とが既知である複数の参照用試料を用いて、各参照用試料中の測定対象のたんぱく質の濃度と前記b値との対応関係を示す検量線を作成することにより、前記色彩値測定工程で測定されるb値から測定対象のたんぱく質の濃度を測定することを特徴とする、たんぱく質の濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たんぱく質の検出方法、たんぱく質の濃度測定方法、及びたんぱく質の検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
食品業界においては、ある食品製品中に含まれるアレルゲンが、別の食品製品に混入することを防ぐ目的で、製造設備等の洗浄後のすすぎ水中のアレルゲン量を把握する必要がある。アレルゲンはたんぱく質であることが多いため、すすぎ水中のたんぱく質の量を測定するのが一般的である。
また、近年は低カロリー食品やゼロカロリー食品に対する消費者の需要が高まっており、栄養表示にたんぱく質が0と表示された食品が市場に広く流通するようになった。そのため、当該食品中にたんぱく質が含有していないかどうか、製造時に簡易に把握できる方法が求められている。
【0003】
このように、対象試料に含まれるたんぱく質を検出、測定するニーズは高い。これまで対象試料中のたんぱく質の検出や測定は、エンザイムイムノアッセイ法(ELISA法)等で行うことが一般的であった。しかし、ELISA法は、抗体を用いて特定のたんぱく質を検出する方法であり、検出や測定ができるたんぱく質が限られ、汎用性に欠ける。
【0004】
上記問題に対しては、例えば、特許文献1には、ドットブロット法と蛍光染色法を組み合わせたたんぱく質の分析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、蛍光染色法を実施するための特別な蛍光画像解析装置が必要なことや、サンプル調製から画像解析まで4~5時間も必要であり、迅速なたんぱく質の検出が困難であった。そのため、例えば食品の製造工場で日々実施される、製造設備等のすすぎ水の洗浄度確認や、食品中のたんぱく質を検出する方法としては採用が難しい。
【0007】
そこで、本発明は、操作が簡便でありながら、精度良くかつ高感度に、対象試料中のたんぱく質を検出する方法、たんぱく質の濃度を測定する方法、及びたんぱく質の検出キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、対象試料に含まれる測定対象のたんぱく質を呈色し、フィルターでろ過することにより、たんぱく質を検出する方法であって、たんぱく質検出前にフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させ、かつ、フィルターに脱色剤を添加することによって、操作が簡便でありながら、精度良く、かつ高感度に対象試料中のたんぱく質を検出できることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、上記方法によれば、対象試料に含まれる測定対象のたんぱく質の濃度と、検出される測定対象のたんぱく質の呈色の色彩値との間の相関関係をより線形(一次関数)に近似でき、測定対象のたんぱく質の濃度をより精度良く測定することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の通りである。
[1]測定対象のたんぱく質を呈色する呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
を備える、たんぱく質の検出方法であって、
前記検出工程の前に、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
をさらに備えることを特徴とする、たんぱく質の検出方法。
[2]前記呈色工程、前記ろ過工程、前記たんぱく質変性工程、前記脱色工程、および前記検出工程をこの順で実施する、前記[1]に記載の検出方法。
[3]前記ろ過工程、前記呈色工程、前記たんぱく質変性工程、前記脱色工程、および前記検出工程をこの順で実施する、前記[1]に記載の検出方法。
[4]前記呈色工程において、測定対象のたんぱく質との結合により吸収波長がシフトする呈色試薬を用い、測定対象のたんぱく質を呈色する、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の検出方法。
[5]前記呈色工程において、ブラッドフォード法により測定対象のたんぱく質を呈色する、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の検出方法。
[6]前記ろ過工程において、測定対象のたんぱく質をガラスフィルターでろ過する、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の検出方法。
[7]前記たんぱく質変性工程において、フィルターに酸を添加することによりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させる、前記[1]~[6]のいずれか1に記載の検出方法。
[8]前記酸が、酢酸、リン酸、ギ酸、クエン酸、塩酸、及び乳酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸である、前記[7]に記載の検出方法。
[9]前記酸が酢酸である、前記[7]に記載の検出方法。
[10]前記脱色工程において、フィルターに添加する脱色剤が有機溶剤を含む、前記[1]~[9]のいずれか1に記載の検出方法。
[11]前記有機溶剤が、エタノール、メタノール、イソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルコールを含む、前記[10]に記載の検出方法。
[12]前記有機溶剤がエタノールを含む、前記[10]に記載の検出方法。
[13]前記たんぱく質変性工程において、フィルターに酢酸を添加することによりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させ、かつ、前記脱色工程において、フィルターにエタノールを添加する、前記[1]~[12]のいずれか1に記載の検出方法。
[14]前記測定対象のたんぱく質が、食品工場の製造設備の洗浄に用いたすすぎ水に含まれるたんぱく質、または、食物もしくは飲料に含まれるたんぱく質である、前記[1]~[13]のいずれか1に記載の検出方法。
[15]前記食品工場の製造設備の洗浄に用いたすすぎ水に含まれるたんぱく質が、乳、卵、小麦、そば、落花生、エビ、カニ、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、 牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、またはゼラチンに含まれるたんぱく質である、前記[14]に記載の検出方法。
[16]食物もしくは飲料に含まれるたんぱく質が、乳、卵、小麦、そば、落花生、エビ、カニ、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、またはゼラチンに含まれるたんぱく質である、前記[14]に記載の検出方法。
[17]検出の所要時間が1時間以下であることを特徴とする、前記[1]~[16]のいずれか1に記載の検出方法。
[18]測定対象のたんぱく質を呈色させる呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
前記検出工程において検出された測定対象のたんぱく質の呈色について、その色彩値を測定する色彩値測定工程と、
を備える、たんぱく質の濃度測定方法であって、
測定対象のたんぱく質の濃度と、その色彩値とが既知の複数の参照用試料を用いて、各参照用試料中の測定対象のたんぱく質の濃度と前記色彩値との対応関係を示す検量線を作成することにより、前記色彩値測定工程で測定される色彩値から測定対象のたんぱく質の濃度を測定することを特徴とする、たんぱく質の濃度測定方法。
[19]測定対象のたんぱく質をブラッドフォード法により呈色させる呈色工程と、
測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性工程と、
フィルターに脱色剤を添加する脱色工程と、
フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色を検出する検出工程と、
前記検出工程において検出された測定対象のたんぱく質の呈色について、CIE規格に準拠したL*a*b*表色系において定義されるb値を測定する色彩値測定工程と、
を備える、たんぱく質の濃度測定方法であって、
測定対象のたんぱく質の濃度とCIE規格に準拠したL*a*b*表色系において定義されるb値とが既知である複数の参照用試料を用いて、各参照用試料中の測定対象のたんぱく質の濃度と前記b値との対応関係を示す検量線を作成することにより、前記色彩値測定工程で測定されるb値から測定対象のたんぱく質の濃度を測定することを特徴とする、たんぱく質の濃度測定方法。
[20]測定対象のたんぱく質を捕捉するフィルターと、測定対象のたんぱく質を呈色させる呈色試薬と、測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性剤と、脱色剤とを含む、たんぱく質の検出キット。
[21]さらに、呈色判断紙を備え、
前記呈色判断紙と前記フィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質の呈色状態とを比較することによって、測定対象のたんぱく質の濃度を測定するための、
前記[20]に記載のたんぱく質の検出キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施態様であるたんぱく質の検出方法によれば、簡便な操作で対象試料中のたんぱく質を検出することができる。また、対象試料に含まれるたんぱく質に由来しない呈色を低減することができ、精度良くかつ高感度に、対象試料中のたんぱく質を検出することができる。
【0012】
また、本発明の一実施態様であるたんぱく質の濃度測定方法によれば、対象試料に含まれる測定対象のたんぱく質の濃度と、検出される測定対象のたんぱく質の呈色の色彩値との間の相関関係をより線形(一次関数)に近似できる。そのため、簡便かつ精度良く、対象試料中のたんぱく質の濃度を測定することができる。
【0013】
また、本発明の一実施態様であるたんぱく質の検出キットによれば、上記たんぱく質の検出方法や濃度測定方法を簡便に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】たんぱく質の検出の際に用いる呈色判断紙を示す図である。
【
図2】本発明の検出キットの一実施態様を説明するための図である。
【
図3】本発明の検出キットの別の実施態様を説明するための図である。
【
図4】本発明の検出キットの別の実施態様を説明するための図である。
【
図5】試験例3で測定した比較例3及び実施例9のb値と、試料中のカゼインナトリウムの濃度の関係を示すグラフである。
【
図6】試験例3で測定した比較例4及び実施例10のb値と、試料中のカゼインナトリウムの濃度の関係を示すグラフである。
【
図7】試験例3で測定した比較例5及び実施例11のb値と、試料中のカゼインナトリウムの濃度の関係を示すグラフである。
【
図8】試験例3で測定した比較例6及び実施例12のb値と、試料中のカゼインナトリウムの濃度の関係を示すグラフである。
【
図9】試験例3で測定した比較例7及び実施例13のb値と、試料中のカゼインナトリウムの濃度の関係を示すグラフである。
【
図10】試験例4で測定した比較例8及び実施例14のb値と、試料中のカゼインナトリウムの濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施態様に限定されるものではない。
【0016】
<たんぱく質の検出方法>
本発明の一実施態様であるたんぱく質の検出方法は、少なくとも、上記呈色工程、ろ過工程、及び検出工程に加え、たんぱく質変性工程、及び脱色工程を備えることを特徴とする。以下各工程について説明する。
【0017】
[呈色工程]
本発明における呈色工程は、測定対象のたんぱく質を呈色させる工程である。たんぱく質を呈色させる方法は特に制限されず、測定対象のたんぱく質が後述する検出工程で検出できる限りにおいて任意の方法を採用できる。
本工程を実施するに際しては、採用する呈色方法に応じて、対象試料を予め緩衝液や水等に溶解、懸濁、分散等させて抽出しておく等、対象試料の前処理を実施してもよい。
【0018】
本発明における呈色工程をろ過工程の前に実施する場合、呈色方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、対象試料に、たんぱく質と結合し複合体を形成する色素を添加する。これにより、対象試料中に含まれるたんぱく質と上記色素とを結合させ、たんぱく質-色素複合体を形成させることで、測定対象のたんぱく質を呈色させる。
【0019】
また、本発明における呈色工程をろ過工程の後に実施する場合、呈色方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、ろ過工程によりフィルターに捕捉されたたんぱく質に対し、たんぱく質と結合し複合体を形成する色素を添加する。これにより、フィルター上でたんぱく質-色素複合体を形成させることで、測定対象のたんぱく質を呈色させる。
【0020】
上記たんぱく質-色素複合体を形成させる際の、色素の添加量、色素を添加してからたんぱく質と接触させる時間、温度、pH等の種々の呈色条件は特に制限されるものではなく、選択する呈色方法に応じて適宜設定できる。また、たんぱく質の呈色反応を妨げない範囲であれば、その他任意の添加剤を併用して呈色反応を行ってもよい。
【0021】
なかでも、測定対象のたんぱく質との結合により吸収波長がシフトする色素を有する呈色試薬を用いて、測定対象のたんぱく質の呈色を行う方法が好ましい。この方法によれば、たんぱく質に結合した色素と、たんぱく質に結合していない色素とが、異なる色に呈色するため、その呈色の違いによって、両者を識別することができる。これにより、例えば、たんぱく質に結合していない色素がフィルターに捕捉される場合であっても、たんぱく質に結合していない色素の呈色のみを検出することによって、測定対象のたんぱく質をより精度良く検出することができる。
【0022】
このような呈色方法としては、例えば、ブラッドフォード法、BCA(Bicinchoninic Acid)法、Lowry法等が挙げられる。なかでも、呈色反応が肉眼でも確認しやすく、より高感度に、かつ精度良く測定対象のたんぱく質を検出できるという観点から、ブラッドフォード法が好ましい。
【0023】
ブラッドフォード法は、酸性染料であるクマシーブリリアントブルー(CBB)と測定対象のたんぱく質とが結合することで、たんぱく質-CBB複合体が形成されると、その吸収波長が465nmから595nm(茶色から青)へシフトすることを利用して、たんぱく質を呈色させる方法である。この色の変化は、たんぱく質の量に比例して起こるので、595nmの吸光度を測定することにより、後述するように試料中のたんぱく質濃度の定量または半定量が可能となる。ブラッドフォード法は、例えば、Takara Bradford Protein Assay Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いて実施することができる。
【0024】
[ろ過工程]
本発明におけるろ過工程は、測定対象のたんぱく質をフィルターでろ過し、そのフィルターに測定対象のたんぱく質が捕捉されることにより、フィルター上で測定対象のたんぱく質を濃縮する工程である。試料が固体状である場合や、液状であっても粘性が高い場合など、は、ろ過処理を行う前に対象試料を予め緩衝液や水等に溶解、懸濁、分散等させて抽出しておく等、対象試料の前処理を実施してもよい。
【0025】
本発明において、ろ過処理に使用するフィルターとは、多孔質を備え液体が通過できる構造体を指す。当該フィルターは、測定対象のたんぱく質を捕捉、濃縮できるものであれば特に制限されない。例えば、物理的に測定対象のたんぱく質を捕捉し濃縮できるもの;測定対象のたんぱく質を化学的に吸着できるもの;測定対象のたんぱく質を電気的に吸着できるもの等を挙げることができる。具体的には、例えば、ガラスフィルター、シリンジフィルター、メンブレンフィルター、ろ紙等が挙げられる。本発明におけるろ過工程では、本発明の効果の観点から、ガラスフィルターを用いることが特に好ましい。
【0026】
本発明におけるフィルターの保持粒子径は、試料の種類や、測定対象のたんぱく質の種類に応じて、適宜調整することができる。フィルターの保持粒子径は、例えば0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。また、フィルターの保持粒子径は、例えば1.6μm以下であることが好ましく、1.4μm以下であることがより好ましく、1.2μm以下であることがさらに好ましい。フィルターの保持粒子径が上記範囲であることにより、呈色したたんぱく質を良好に吸着させることができる。フィルターの保持粒子径とは、JIS Z 8901で規定された7種粉体分散水を自然ろ過した際に、90%以上を保持できる粒子径を意味する。
【0027】
本発明におけるフィルターのろ過径は、液体試料の種類や、測定対象のたんぱく質の種類に応じて、適宜調整することができる。フィルターのろ過径は、例えば3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、7mm以上がさらに好ましい。また、フィルターのろ過径は、例えば40mm以下が好ましく、35mm以下がより好ましく、33mm以下がさらに好ましい。フィルターのろ過径が上記範囲であることにより、濃度がppmオーダー以上のたんぱく質水溶液を色彩色差計等で測定することができる。フィルターのろ過径とは、ガラスフィルターのうち実際に試料がろ過される範囲の直径を意味する。
【0028】
フィルターへの試料の通液量や通液時間は、試料中のたんぱく質の濃度や通液する流速に従って適宜調整することができる。例えば、通液量は10ml~100mlが好ましい。また、通液時間は通常3秒~40分の範囲である。
【0029】
本発明におけるろ過の方法は特に制限されず、例えば、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過等が挙げられる。なかでも、低濃度のたんぱく質を簡便に検出、測定できるという観点からは、吸引ろ過による減圧ろ過を行うことが好ましい。また、シリンジの先端にフィルター(シリンジフィルター)を固定し、ブランジャー(押子)を押し込むことによりろ過する方法も、ろ過を簡便に実施できるという観点から好ましい。
【0030】
[たんぱく質変性工程、脱色工程]
本発明におけるたんぱく質変性工程は、上記ろ過工程によりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させる工程である。また、本発明における脱色工程は、フィルターに脱色剤を添加する工程である。上記いずれの工程も、後述する検出工程の前に実施する。本発明においては、たんぱく質変性工程と脱色工程の両工程を備えることにより、以下のとおり、測定対象のたんぱく質をより高精度に検出することが可能となる。
【0031】
上記呈色工程においては、試料に含まれるたんぱく質以外の物質と色素とが非特異的に結合した複合体が僅かに形成されるおそれがある。また、たんぱく質に結合しなかった色素が、色素単体でフィルターに捕捉され、フィルターに保持されるおそれがある。このような場合、フィルターにたんぱく質に由来しない呈色が僅かに生じるおそれがあり、測定試料中に存在するたんぱく質の検出精度が低下することになる。
【0032】
例えば、工場用水、特に、食品工場の製造設備の洗浄に用いたすすぎ水を対象試料とする場合、当該すすぎに用いられる水道水や地下水は地域によってその成分が異なる。そのため、これらの成分に起因する非特異な呈色が生じる場合、その呈色の程度は測定試料ごとに異なる可能性がある。その差異は僅かであったとしても、低濃度のたんぱく質を検出する場合であれば、その影響は無視できず、測定結果の精度を低下させるおそれがある。
また、食物や飲料等の食品を測定試料とする場合、当該試料にはたんぱく質以外の成分が多く含まれるため、これらの成分に起因する非特異な呈色が生じるおそれがある。また、食物や飲料等の食品はもともと有色のものも多く、測定対象のたんぱく質の呈色を検出する際に、対象試料自身が呈する色が測定結果に影響を与えてしまう可能性もある。
【0033】
一方、本発明は、たんぱく質変性工程を備えるため、測定対象のたんぱく質を変性させることにより、たんぱく質の立体構造を変化させ、たんぱく質をフィルターに強固に吸着させることができる。そのため、たんぱく質に結合していない色素がフィルターに捕捉された場合であっても、たんぱく質に色素が結合した「たんぱく質-色素複合体」を選択的にフィルターに強固に吸着させることが可能となると考えられる。
【0034】
これにより、例えば、たんぱく質変性工程の後にフィルターを洗浄する工程を備えることにより、たんぱく質に結合していない色素を優先的にフィルターから除去することが可能となる。そのため、測定対象のたんぱく質をより高精度に検出することができる。
また、本発明は脱色工程を備えるため、測定対象のたんぱく質をより高精度に検出することができる。これは、上記たんぱく質変性工程によって、フィルターに強固に吸着した色素(たんぱく質-色素複合体)は、脱色工程において脱色されにくいのに対し、フィルターに捕捉された色素(たんぱく質に結合していない色素)は、フィルターへの吸着力が弱いため優先的に脱色されるためであると推測される。なお、本発明は上述したメカニズムに限定されるものではない。
【0035】
以上のとおり、本発明はたんぱく質変性工程と脱色工程の両工程を備えることにより、測定対象のたんぱく質に起因する呈色を精度良く検出することができる。
【0036】
測定対象のたんぱく質を変性させる方法は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されない。例えば、たんぱく質を加熱する方法、たんぱく質変性剤を添加する方法等が挙げられる。
たんぱく質を加熱する方法は、例えば、測定対象のたんぱく質が捕捉されたフィルターを60℃以上で加熱する方法が挙げられる。加熱手段は特に限定されない。
たんぱく質変性剤を添加する方法は、例えば、酸、カオトロピック剤等のたんぱく質変性剤を用いることができる。
上記酸としては、有機酸、無機酸いずれでもよく、例えば、酢酸、リン酸、ギ酸、クエン酸、塩酸、及び乳酸等が挙げられる。
カオトロピック剤としては、例えば、尿素、ホルムアミド、グアニジン等が挙げられる。
【0037】
好ましくは、フィルターに酸を添加することによりフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を変性させる方法である。上記酸としては、酢酸、リン酸、ギ酸、クエン酸、塩酸、及び乳酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸であることが好ましい。また、後述する実施例でも示されているとおり、対象試料と陰性対照試料とのS/N比を特に向上させることができるという観点から、酢酸がより好ましい。また、上記酸は、pHが2~5の範囲であることが好ましい。
【0038】
本発明における脱色工程において、フィルターに脱色剤を添加する方法は特に制限されない。使用する脱色剤は、上記呈色工程で採用する呈色方法に応じて適宜従来公知の方法を採用できる。
脱色剤としては、例えば、アルコール等の有機溶剤を含む脱色剤が挙げられる。有機溶剤は、脱色効率の観点から、エタノール、メタノール、イソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルコールを含むことが好ましい。安全性の観点および脱色効率の観点からは、エタノールを含むことが好ましい。
【0039】
上記脱色剤をフィルターに添加する際の条件は、対象試料の種類、呈色方法、脱色剤の種類等によって適宜設定でき、例えば、pHは2~5、温度が4~80℃とする。
【0040】
上記たんぱく質変性工程と脱色工程は、両工程をあわせて一の工程で行ってもよく、別々の工程で行ってもよい。両工程をあわせて一の工程で行う場合は、例えば、上記たんぱく質変性剤と脱色剤の両方を含む試薬を、測定対象のたんぱく質が捕捉されたフィルターに添加する。このような試薬としては、具体的には、酸とアルコールを含む試薬が挙げられ、特に好ましくは、酢酸とエタノールを含む試薬が挙げられる。これにより、たんぱく質の変性と、脱色反応を同時に行うことでき、操作の簡便性の観点から好ましい。
【0041】
[検出工程]
本発明における検出工程は、呈色後のフィルターに捕捉された測定対象のたんぱく質を検出する工程である。検出工程では、上記各工程により、フィルター上で呈色した測定対象のたんぱく質が捕捉、濃縮されることで、測定対象のたんぱく質の検出が可能となる。
【0042】
上記測定対象のたんぱく質の検出は、呈色方法に合わせた最適な方法で実施できる。例えばL*a*b*表色系、L*c*h*表色系、L*u*v*表色系、ハンターLab表色系、XYZ(Yxy)表色系、マンセル表色系等により、呈色の程度を数値化した色彩値を測定行うことができる。または色彩値を求めず、呈色判断紙を用いて肉眼で判定を行ってもよい。
【0043】
上記色彩値の測定には色彩色差計を用いることもできる。または、例えば、種々の色彩値ごとに作製した呈色判断紙と、実際のたんぱく質の呈色状態を比較することによって、色彩値を求めてもよい。
【0044】
本発明においては、特に、呈色反応としてブラッドフォード法を採用し、かつ、上記色彩値がCIE規格に準拠したL*a*b*表色系において定義されるb値であることが好ましい。L*a*b*表色系は、JIS Z8729においても採用されている。
【0045】
上記b値は、色彩色差計により測定可能である。また、例えば、種々のb値ごとに作成された呈色判断紙と、実際のたんぱく質の呈色状態を比較することによって、測定対象のたんぱく質のb値を求めてもよい。
図1は、呈色判断紙の一例を示す図である。呈色判断紙は、例えば(a)~(d)のように無色から濃青色まで着色されたろ紙を擬似的に示しており、それぞれb値が割り当てられている(図示せず)。呈色判断紙の枚数は制限されず、その枚数は多いほど、多くのb値が割り当てられることになるため、より正確にb値を求めることができ、好ましい。
【0046】
本発明のたんぱく質の検出方法は、対象試料に対して適用するとともに、陰性対照試料に対しても適用することができる。本発明の方法によれば、対象試料だけでなく陰性対照試料に対しても、上述した非特異的な呈色が低減される結果、対象試料の呈色と陰性対照試料の呈色の差を肉眼でより明確に判断できるようになる。そのため、対象試料の呈色と陰性対照試料の呈色とを比較することによって、対象試料がたんぱく質を含有するか否かについての判定を肉眼でも行うことが可能となる。
【0047】
また、対象試料と陰性対照試料とのS/N比を向上させることができるため、両者の呈色を比較することにより、より精度の高い測定が可能となる。上記S/N比は、例えば、後述する実施例で示すように対象試料と陰性対照試料のb値を測定し、得られた対象試料のb値を陰性対照試料のb値で除することで求めることができる。S/N比は、好ましくは6.3以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは10以上である。
【0048】
陰性対照試料は、対象試料の種類に応じて適宜選択して使用できる。例えば、測定試料が上記すすぎ水である場合は、すすぎ水に用いられる水道水や地下水自体を陰性対照対象として、対象試料と同様に、呈色工程、ろ過工程、たんぱく質変性工程、脱色工程、及び検出工程を実施することが好ましい。これにより、上述した非特異的な呈色が低減された測定試料と陰性対照試料同志を比較することができ、より正確な測定が可能となる。
また、例えば、測定試料が食物や飲料等の食品である場合は、たんぱく質が含まれていないことが確認されている同種の試料を陰性対照試料とすることが好ましい。
【0049】
その他、本発明は、検出工程の前にフィルターを洗浄する洗浄工程を備えてよい。洗浄工程は任意の方法を実施することができる。これにより、例えば、フィルターに捕捉されたたんぱく質以外の余分な成分を洗浄する。
【0050】
本発明に係るたんぱく質の検出方法の一実施態様としては、呈色工程、ろ過工程、たんぱく質変性工程、脱色工程、検出工程の順で実施する。当該態様では呈色工程後にろ過工程を実施することになる。そのため、試料に対して呈色処理を行い、その後に実施するろ過工程により呈色したたんぱく質をフィルターに捕捉させる。具体的には、試料に、たんぱく質と結合し複合体を形成する色素を添加し、試料中に含まれるたんぱく質と上記色素とを結合させ、たんぱく質-色素複合体を形成させることで、測定対象のたんぱく質を呈色させる。その後、当該試料をフィルターでろ過することにより、たんぱく質-色素複合体をフィルターに捕捉させる。
このように、呈色工程後にろ過工程を実施することにより、より低濃度のたんぱく質を測定できるという利点がある。
【0051】
また、本発明の検出方法の他の実施態様としては、ろ過工程、呈色工程、たんぱく質変性工程、脱色工程、検出工程の順で実施する。当該態様ではろ過工程後に呈色工程を実施することになる。そのため、試料をフィルターでろ過し測定対象のたんぱく質をフィルターに捕捉させ、その後に実施する呈色工程により、フィルターに捕捉されたたんぱく質を呈色する。
このように、ろ過工程後に呈色工程を実施することにより、たんぱく質の呈色方法の選択の幅が広くなるという利点がある。
【0052】
本発明に適用する試料としては、たんぱく質を含む可能性のある試料であれば特に制限されず、例えば、食物、飲料、環境試料、生体試料等が挙げられる。本発明における試料は、液状であってもよく、固体状であってもよい。また、試料を緩衝液等に溶解、懸濁、分散等させて抽出しておく等、前処理を実施してもよい。
食物としては、例えば、動物、植物等の食物、加工食品、調味料等が挙げられる。
飲料としては、例えば、ジュース、酒類、炭酸飲料等が挙げられる。
環境試料としては、土壌、岩石、海水、淡水、生活排水、生活用水、工場排水、工場用水等が挙げられる。
生体試料としては、例えば、喀痰、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、鼻腔ぬぐい液、鼻汁、咽頭ぬぐい液、含漱液、唾液、全血、血清、血漿、汗、尿、細胞、糞便等が挙げられる。
【0053】
本発明は試料中の微量のたんぱく質を検出できるため、もともとたんぱく質を含むことが想定されていないものや、たんぱく質が含まれていてもその量が極めて微量であるものを試料とすることが可能である。その観点から、例えば、栄養表示にたんぱく質が0と表示された食物や飲料等の食品や、工場排水のうち食品工場の製造設備の洗浄に用いたすすぎ水等が好適である。
【0054】
なお、本発明に適用する試料がたんぱく質の検出を妨害する物質を含有する場合は、その妨害物質の種類に応じて適宜必要な処理を行い、当該妨害物質を除去してもよい。例えば、工場用水のように塩素濃度が高い試料の場合は、適当な中和剤を事前に添加しておくことが好ましい。中和剤としては、例えばアスコルビン酸ナトリウムや、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
本発明で検出できる測定対象のたんぱく質の種類は、特に制限されるものではない。例えば、卵、牛乳、小麦、そば、落花生、エビ、カニ、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、またはゼラチンに含まれるたんぱく質等が挙げられる。また、その他にも、日本または外国で指定されている種々のアレルゲンを検出することが可能である。
【0056】
本発明の検出方法は、ELISA法や濁度法、蛍光染色法等の従来法に比べて、手間やコストがかからず、非常に簡便で迅速に対象試料中のたんぱく質を検出できる。具体的には、本発明の検出方法によれば、検出の所要時間を1時間以下とすることができる。なお、検出の所要時間とは、試験器具を設置するところから検出結果が出るまでの時間を指す。また、後述するキットを用いれば、検出の所要時間をさらに短縮することも可能である。
【0057】
以上、本発明の一実施態様であるたんぱく質の検出方法を説明したが、上記説明した態様のみに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、上記した態様以外の実施態様とすることを妨げるものではない。
【0058】
<たんぱく質の濃度測定方法>
本発明は、上記検出方法における呈色工程、ろ過工程、たんぱく質変性工程、脱色工程、検出工程に加え、検出工程において検出された測定対象のたんぱく質の呈色状態について、その色彩値を測定する色彩値測定工程を備えることにより、試料中における測定対象のたんぱく質の濃度を測定する方法を提供する。
【0059】
試料中における測定対象のたんぱく質の濃度と、上述した検出工程で検出される測定対象のたんぱく質の呈色の色彩値との間に、一定の相関関係がある。具体的には、測定対象のたんぱく質の濃度と、測定対象のたんぱく質の呈色の色彩値との間には線形(一次関数)の関係が存在する。
【0060】
したがって、測定対象のたんぱく質の濃度とその色彩値とが既知である複数の参照用試料を用いて、各参照用試料中の測定対象のたんぱく質の濃度と上記色彩値との対応関係を示す検量線を、事前に作成しておくことにより、測定により得られた色彩値から測定対象のたんぱく質の濃度を測定することが可能となる。
【0061】
特に本発明においては、上記たんぱく質変性工程と脱色工程の両工程を備えることにより、精度良く、測定対象のたんぱく質を検出することができるため、測定対象のたんぱく質の濃度と、検出される測定対象のたんぱく質の呈色の色彩値との間の相関関係がより線形(一次関数)に近似したものとなる。そのため、測定対象のたんぱく質の濃度をより精度良く測定することができる。
【0062】
上記色彩値の測定は、たんぱく質の検出方法で上述した方法により行うことができる。上記色彩値を測定して、たんぱく質の濃度を測定する場合、色彩色差計を用いて定量的にたんぱく質の濃度を測定してもよいし、呈色判断紙を用いて半定量的にたんぱく質の濃度を測定してもよい。
【0063】
本発明の濃度測定方法によれば、測定対象のたんぱく質の種類にもよるが、濃度が0.25ppb程度であっても、測定された色彩値を上記検量線に適用することにより、サンプル中の測定対象のたんぱく質濃度を測定することができる。好ましくは、例えば、0.25ppb以上、0.5ppb以上、1ppb以上、2ppb以上、5ppb以上、10ppb以上等である。なお上限については特に制限はないが、例えば、2000ppm以下である。
【0064】
以上、本発明の一実施態様であるたんぱく質の濃度測定方法を説明したが、上記説明した態様のみに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、上記した態様以外の実施態様とすることを妨げるものではない。
【0065】
<たんぱく質の検出キット>
本発明のたんぱく質の検出キットは、少なくとも、測定対象のたんぱく質を捕捉するフィルターと、測定対象のたんぱく質を呈色させる呈色試薬と、測定対象のたんぱく質を変性させるたんぱく質変性剤と、脱色剤とを含むものである。本発明の検出キットは、上述した本発明のたんぱく質の検出方法やその濃度測定方法を実施する際に用いることができる。
【0066】
たんぱく質の検出キットにおけるフィルター、呈色試薬、脱色剤は、上記で詳述したものを使用できる。また、当該キットは呈色判断紙を備えてもよい。本発明のキットによれば、実験器具や資材等が揃っていない状況でも、簡便な操作で対象試料中のたんぱく質を検出することができる。また、対象試料に含まれるたんぱく質に由来しない呈色を低減することができ、精度良く、かつ高感度に対象試料中のたんぱく質を検出することができる。
【0067】
本発明の一実施態様であるたんぱく質の検出キット10は、
図2に示すように、測定対象のたんぱく質をろ過、捕捉、濃縮するフィルター12と、試料導入容器11と、呈色工程に使用する呈色試薬13と、脱色剤(図示せず)とを備える。また、測定対象のたんぱく質の濃度を測定するための呈色判断紙(図示せず)を備えていてもよい。以下、上記検出キット10の使用方法について説明する。
【0068】
まず、試料を、試料導入容器11内に導入する。試料は種類に応じて緩衝液や水等に溶解、懸濁、分散等させて抽出しておく等、適宜前処理を実施してもよい。試料導入容器11は、
図2に示すようにあらかじめ呈色試薬13を収納しておくことで、試料を試料導入容器11に導入するとともに、試料が呈色試薬とが接触するようにしておいてもよく、あるいは、試料を試料導入容器11に充填してから、呈色試薬13を試料導入容器11中の試料に添加してもよい。あるいは、この時点では呈色試薬を使用せず、後述するろ過後の呈色工程において使用してもよい。
【0069】
つづいて、フィルター12を試料導入容器11上部の開口部付近に固定する。その後、試料を、任意の方法でフィルター12に通液させ、ろ過処理を行うことで、フィルター12に測定対象のたんぱく質を捕捉、濃縮させる。なお、この時点で、呈色試薬13を試料に適用していない場合は、フィルター12上に捕捉、濃縮された測定対象のたんぱく質に対して、呈色試薬13を適用する。
【0070】
上記ろ過処理後、フィルター12にたんぱく質変性剤を添加し、フィルター12に捕捉されたたんぱく質を、フィルター12により強固に吸着させる。その後、フィルター12に脱色剤を添加する。これにより、たんぱく質に結合していない色素をフィルター12から優先的に脱色させることができると考えられる。なお、たんぱく質変性剤と脱色剤とを含む試薬を用いることで、たんぱく質の変性と、脱色を同時に行ってもよい。
【0071】
最後に、フィルター12に捕捉、濃縮された測定対象のたんぱく質の呈色を確認し、たんぱく質の検出を行う。呈色の確認は、上述したとおり色彩色差計や呈色判断紙等を用いて行うことができる。また上述したとおり、検量線を用いて測定対象のたんぱく質の濃度を測定してもよい。
【0072】
本発明の別の実施態様である検出キット20は、複数の試料において、たんぱく質を検出可能なように構成された態様である。検出キット20は、
図3に示すように、試料導入容器30と、フィルター31と、呈色試薬(図示せず)と、脱色剤(図示せず)と、ろ液収容容器40と、減圧口41と、ろ液排出口42とを備える。なお、
図3中、試料導入容器30は1つのみ図示しているが、対象試料の数に応じて複数個備えていてもよい。
以下、上記検出キット20の使用方法について説明する。なお、以下は試料が1つの場合で説明するが、試料が複数の場合は、その数量に応じて同様の操作を行えばよい。
【0073】
まず、試料導入容器30をろ液収容容器40から取り外した状態で、試料を試料導入容器30内に導入する。これは上記検出キット10の使用方法で説明した方法で実施できる。
【0074】
つづいて、試料導入容器30上部の開口部付近に、必要に応じてフィルター固定器(図示せず)を設け、そこにフィルターを設置する。フィルター固定器はフィルターによるろ過を阻害しないものを用いる。その後、試料導入容器30を
図3に示すように、ろ液収容容器40に接続しろ過処理を行う。ろ過処理は上記検出キット10と同様の方法で実施できるが、必要に応じて、ろ液収容容器40の減圧口41とアスピレータ(図示せず)とを接続し、ろ液収容容器40内を減圧することにより、試料に含まれる測定対象のたんぱく質をフィルターに捕捉、濃縮してもよい。
【0075】
ろ液はろ液出口32からろ液収容容器40内に排出される。ろ液排出口42は通常閉塞しており、ろ液収容容器40内のろ液の貯水量が増加した場合には、適宜ろ液排出口42を開放し、ろ液をろ液収容容器40の外部に排出する。
【0076】
上記ろ過処理後のたんぱく質変性剤及び脱色剤の適用、ないし測定対象のたんぱく質の検出及び濃度測定は上記検出キット10の使用方法で説明した同様の方法で実施できる。
【0077】
さらに、本発明の検出キットの別の実施態様としては、上記検出キット20において、試料導入容器30等の代わりに、
図4に示すシリンジ60を用いた態様の検出キット50が挙げられる。シリンジ60は、ブランジャー(押子)61、シリンジフィルター62、ろ液出口63、外筒64、ガスケット65を備える。使用方法としては、外筒内に対象試料を充填し、ブランジャー(押子)61を押し込むことによりシリンジフィルター62でろ過を行う点を除いては、上記検出キット20とほぼ同様の方法を採用できる。
【0078】
以上、本発明の一実施態様であるたんぱく質の検出キットを説明したが、上記説明した実施態様のみに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、上記した態様以外の実施態様とすることを妨げるものではない。
【実施例】
【0079】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0080】
(試験例1)
本試験では、乳アレルゲンであるカゼインナトリウムを各種水(精製水、水道水(八王子で採取)、製造用水(京都で採取)、地下水(香川で採取))で希釈したものを対象試料として、本発明の方法によりたんぱく質の検出を行った。また、上記各種水のみを用いたものを陰性対照試料として、同様に試験を実施した。
【0081】
[実施例1]
実施例1-1:対象試料の調製
対象試料として、カゼインナトリウムを精製水で希釈し、1ppmのカゼインナトリウム水溶液を調製した。また、アスコルビン酸ナトリウム30mgを添加し、水溶液中の遊離塩素を中和した。
実施例1-2:陰性対照試料の調製
1ppmのカゼインナトリウム水溶液の代わりに、精製水を用いたことを除いては、対象試料と同様にして、陰性対照試料を調製した。
測定:
上記調製した各試料に、ブラッドフォード試薬のクマシーブリリアントブルー G‐250染色液(TAKARA社製)を1mL添加、撹拌後、室温(25℃)で5分静置した(呈色工程)。各試料20mLをガラスフィルター「GF-75」(ADVANTEC社製、保持粒子径:0.3μm、ろ過径:30mm)に3秒かけて通液した(ろ過工程)。その後、ガラスフィルターに、たんぱく質変性剤および脱色剤として5%酢酸(pH2.4)8%エタノール100mLを、40秒かけて通液した(たんぱく質変性および脱色工程)。その後、イオン交換水100mLをガラスフィルターに40秒かけて通液した。
フィルター上の青色の呈色を色差計(CR-5、コニカミノルタ社製)で測定し、得られたb値を求めた。測定値を表1に示す。
【0082】
[実施例2]
実施例2-1:対象試料の調製
カゼインナトリウムを水道水(八王子で採取)で希釈したことを除いては、実施例1-1と同様に、対象試料を調製した。
実施例2-2:陰性対照試料の調製
精製水の代わりに水道水(八王子で採取)を用いたことを除いては、実施例1-2と同様に、陰性対照試料を調製した。
測定:
実施例1と同様に測定を行い、b値を求めた。測定値を表1に示す。
【0083】
[実施例3]
実施例3-1:対象試料の調製
カゼインナトリウムを製造用水(京都で採取)で希釈したことを除いては、実施例1-1と同様に、対象試料を調製した。
実施例3-2:陰性対照試料の調製
精製水の代わりに製造用水(京都で採取)を用いたことを除いては、実施例1-2と同様に、陰性対照試料を調製した。
測定:
実施例1と同様に測定を行い、b値を求めた。測定値を表1に示す。
【0084】
[実施例4]
実施例4-1:対象試料の調製
カゼインナトリウムを地下水(香川で採取)で希釈したことを除いては、実施例1-1と同様に、対象試料を調製した。
実施例4-2:陰性対照試料の調製
精製水の代わりに地下水(香川で採取)を用いたことを除いては、実施例1-2と同様に、陰性対照試料を調製した。
測定:
実施例1と同様に測定を行い、b値を求めた。測定値を表1に示す。
【0085】
[比較例1]
測定前にたんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例1-1と同様に対象試料(比較例1-1)を調製し、また、実施例1-2と同様に陰性対象試料(比較例1-2)を調製し、b値の測定を行った。測定値を表1に示す。
【0086】
[比較例2]
測定前にたんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例2-1と同様に対象試料(比較例2-1)を調製し、また、実施例2-2と同様に陰性対象試料(比較例2-2)を調製し、b値の測定を行った。測定値を表1に示す。
【0087】
[比較例3]
測定前にたんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例3-1と同様に対象試料(比較例3-1)を調製し、また、実施例3-2と同様に陰性対象試料(比較例3-2)を調製し、b値の測定を行った。測定値を表1に示す。
【0088】
[比較例4]
測定前にたんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例4-1と同様に対象試料(比較例4-1)を調製し、また、実施例4-2と同様に陰性対象試料(比較例4-2)を調製し、b値の測定を行った。測定値を表1に示す。
【0089】
【0090】
表1に示すとおり、対象試料はいずれも陰性対照試料よりもb値が小さい(b値のマイナスの絶対値が大きい)結果となり、呈色した青色が濃くなった。対象試料中のたんぱく質(カゼインナトリウム)の検出が可能であることが示された。
また、対象試料および陰性対照試料のいずれの試料においても、たんぱく質変性工程および脱色工程を実施することによりb値が増加した。また、陰性対照試料のb値は0に近づいており、着色がほとんど見られなくなったため、対象試料についてのたんぱく質の検出を肉眼で判定することが可能となった。
以上の結果から、本発明の方法により、対象試料に含まれるたんぱく質以外のバックグラウンドの影響を低減しつつ、精度良く測定対象のたんぱく質を検出できることが示された。
【0091】
(試験例2)
本試験では、試験例1のたんぱく質変性剤や脱色剤を種々変更して、試験例1と同様の試験を実施した。
【0092】
[実施例3]
たんぱく質変性剤および脱色剤を5%リン酸(pH2.4)8%エタノールに変更した点を除いては、実施例2-1と同様に対象試料を調製し、実施例2-2と同様に陰性対照試料を調製し、b値を測定した。また、対象試料におけるb値と陰性対照試料におけるb値の比率(S/N比)を求めた。結果を表2に示す。
【0093】
[実施例4]
たんぱく質変性剤および脱色剤を5%ギ酸(pH2.4)8%エタノールに変更した点を除いては、実施例2-1と同様に対象試料を調製し、実施例2-2と同様に陰性対照試料を調製し、b値を測定した。また、対象試料と陰性対照試料のS/N比を求めた。結果を表2に示す。
【0094】
[実施例5]
たんぱく質変性剤および脱色剤を5%クエン酸(pH2.4)8%エタノールに変更した点を除いては、実施例2-1と同様に対象試料を調製し、実施例2-2と同様に陰性対照試料を調製し、b値を測定した。また、対象試料と陰性対照試料のS/N比を求めた。結果を表2に示す。
【0095】
[実施例6]
たんぱく質変性剤および脱色剤を5%塩酸(pH2.4)8%エタノールに変更した点を除いては、実施例2-1と同様に対象試料を調製し、実施例2-2と同様に陰性対照試料を調製し、b値を測定した。また、対象試料と陰性対照試料のS/N比を求めた。結果を表2に示す。
【0096】
[実施例7]
たんぱく質変性剤および脱色剤を5%乳酸(pH2.4)8%エタノールに変更した点を除いては、実施例2-1と同様に対象試料を調製し、実施例2-2と同様に陰性対照試料を調製し、b値を測定した。また、対象試料と陰性対照試料のS/N比を求めた。結果を表2に示す。
【0097】
[実施例8]
たんぱく質変性剤および脱色剤を5%酢酸(pH2.3)7%メタノールに変更した点を除いては、実施例2-1と同様に対象試料を調製し、実施例2-2と同様に陰性対照試料を調製し、b値を測定した。また、対象試料と陰性対照試料のS/N比を求めた。結果を表2に示す。
【0098】
【0099】
表2に示すとおり、各試料ともに対象試料は陰性対照試料よりもb値が小さい(b値のマイナスの絶対値が大きい)結果となり、呈色した青色が濃くなった。対象試料中のたんぱく質(カゼインナトリウム)の検出が可能であることが示された。
また、対象試料および陰性対照試料のいずれの試料においても、たんぱく質変性および脱色工程を実施することによりb値が増加した。なかでも、たんぱく質変性剤および脱色剤として、酢酸とエタノールを組み合わせた実施例2が最もb値が増加した。
また、たんぱく質変性および脱色工程を実施することにより、対象試料と陰性対照試料とのS/N比が向上した。
以上の結果から、本発明の方法により、対象試料に含まれるたんぱく質以外のバックグラウンドの影響を低減しつつ、精度良く測定対象のたんぱく質を検出できることが示された。
【0100】
(試験例3)
試験例3では、各種飲料水を対象試料として用い、試験例1と同様に本発明の方法を実施した。
[実施例9]
対象試料として、ミネラルウォーター(透明色)にカゼインナトリウムを所定の濃度(0ppm、0.5ppm、1ppm)になるように加えた試料を用いたことを除いては、試験例1の実施例1-1と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図5に示す。
【0101】
[実施例10]
対象試料として、清涼飲料水(透明色)にカゼインナトリウムを所定の濃度(0ppm、0.5ppm、1ppm)になるように加えた試料を用いたことを除いては、実施例9と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図6に示す。
【0102】
[実施例11]
対象試料として、果実ミックスジュース(透明な褐色)にカゼインナトリウムを所定の濃度(0ppm、0.5ppm、1ppm)になるように加えた試料を用いたことを除いては、実施例9と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図7に示す。
【0103】
[実施例12]
対象試料として、緑茶(半透明な緑色)にカゼインナトリウムを所定の濃度(0ppm、0.5ppm、1ppm)になるように加えた試料を用いたことを除いては、実施例9と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図8に示す。
【0104】
[実施例13]
対象試料として、りんごジュース(透明褐色)にカゼインナトリウムを所定の濃度(0ppm、0.5ppm、1ppm)になるように加えた試料を用いたことを除いては、実施例9と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図9に示す。
【0105】
[比較例3]
たんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例9と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図5に示す。
【0106】
[比較例4]
たんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例10と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図6に示す。
【0107】
[比較例5]
たんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例11と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図7に示す。
【0108】
[比較例6]
たんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例12と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図8に示す。
【0109】
[比較例7]
たんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例13と同様の処理を行い、b値を求めた。また、合わせてL値、a値も求めた。結果を表3及び
図9に示す。
【0110】
【0111】
表3に示すとおり、各試料ともに、1ppm、0.5ppm、0ppmの順にb値が小さい(b値のマイナスの絶対値が大きい)結果となっており、飲料中に含まれるたんぱく質の検出が可能であることが示された。
また、いずれの試料においても、たんぱく質変性および脱色工程を実施することによりb値が増加した。
また
図5に示す通り、たんぱく質変性および脱色工程を行った実施例では、それらの工程を行わない比較例と比べて、R
2の値が1に近くなっており、対象試料の濃度とb値との間の線形の相関性が高い結果となった。
以上の結果からも、本発明は、たんぱく質変性および脱色工程を備えることにより、より精度良く測定対象の濃度を測定できることが示された。
【0112】
(試験例4)
本試験では、カゼインナトリウム水溶液を対象試料として用い、試験例1と同様に本発明の方法を実施した。
[実施例14]
対象試料として、カゼインナトリウムを、精製水で希釈し、0ppm、0.1ppm、0.25ppm、0.5ppm、1ppm、1.5ppm、2ppmのカゼインナトリウム水溶液を用いたことを除いては、試験例1の実施例1-1と同様の処理を行い、b値を求めた。同じ試験を合計3回行い、b値の平均値(n=3)を表4及び
図10に示す。
【0113】
[比較例8]
たんぱく質変性および脱色工程を実施しなかったことを除いては、実施例14と同様の処理を行い、b値を求めた。同じ試験を合計3回行い、b値の平均値(n=3)を表4及び
図10に示す。
【0114】
【0115】
表4に示すとおり、各試料ともに、おおよそ濃度の高い順にb値が小さい(b値のマイナスの絶対値が大きい)結果となっており、たんぱく質の検出が可能であることが示された。
また
図10に示す通り、たんぱく質変性および脱色工程を行った実施例では、それらの工程を行わない比較例と比べて、R
2の値が1に近くなっており、対象試料の濃度とb値との間の線形の相関性が高い結果となった。
以上の結果からも、本発明は、たんぱく質変性および脱色工程を備えることにより、より精度良く測定対象の濃度を測定できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、操作が簡便でありながら、精度良くかつ高感度に、対象試料中のたんぱく質を検出できる。特に食品業界においては、食品工場での製造設備等に残存するアレルゲン量を把握するため、当該設備の洗浄後のすすぎ水に含まれるたんぱく質の量を把握したり、食物や飲料等の食品中にたんぱく質が含まれるかを把握するために、本発明の検出方法は非常に有用であり、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0117】
10,20,50 検出キット
11,30 試料導入容器
12,31 フィルター
13 呈色試薬
32,63 ろ液出口
40,70 ろ液収容容器
41 減圧口
42,71 ろ液排出口
60 シリンジ
61 ブランジャー(押子)
62 シリンジフィルター
64 外筒
65 ガスケット