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特許7328135X線分析装置、分析方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】X線分析装置、分析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
G01N23/223
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019225797
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2020098209
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018234745
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100094145
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 由己男
(72)【発明者】
【氏名】青山 朋樹
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-071496(JP,A)
【文献】特開2010-054334(JP,A)
【文献】特開2011-145162(JP,A)
【文献】特開2003-139680(JP,A)
【文献】特公平05-016560(JP,B2)
【文献】特開2016-038335(JP,A)
【文献】特開2013-221745(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01N 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から発生する蛍光X線を用いて前記試料を分析するX線分析装置であって、
前記試料が載置される試料台と、
前記試料台に載置された前記試料にX線を照射するX線源と、
前記試料に前記X線を照射することにより発生した二次X線を検出する検出器と、
前記検出器により検出された前記二次X線の強度に基づいて、前記試料の前記試料台における状態に関する状態情報を取得する演算部と、
を備え、
前記演算部は、前記状態情報に基づいて前記試料の前記試料台における状態を判断し、前記試料の前記試料台における状態が適切か否かに基づいて、前記試料に含まれる元素を分析するか否かを決定し、
前記演算部は、前記二次X線のうち、前記試料台の近傍までしか伝搬しない低いエネルギーを有するX線が前記試料に照射されることにより前記試料台の近傍に存在する前記試料から発生する低エネルギー二次X線の強度に基づいて、前記試料台に載置された前記試料の表面状態に関する情報を取得する、
X線分析装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記低エネルギー二次X線の強度に基づいて、前記試料台に載置された前記試料の表面積に関する情報を取得する、請求項に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記低エネルギー二次X線の強度に基づいて、前記試料台に載置された前記試料の粒子径に関する情報を取得する、請求項1又は2に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記二次X線のうち、第1エネルギーより大きいエネルギーを有する高エネルギー二次X線の強度に基づいて、前記試料台に載置された前記試料の厚みに関する情報を取得する、請求項1~のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記二次X線のうち、前記試料から発生する散乱X線の強度に基づいて、前記状態情報を取得する、請求項1~のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記二次X線のうち、前記試料に含まれる元素に由来する蛍光X線の強度に基づいて、前記状態情報を取得する、請求項1~のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項7】
前記検出器にて検出されるX線を校正するための校正用試料と、
前記X線源から発生するX線を通過させる開口が設けられた開口部材と、
前記校正用試料又は前記開口部材の開口を、前記X線源と前記試料台との間に切り換えて配置する切換部と、
をさらに備える、請求項1~のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項8】
前記試料台の少なくとも前記試料が載置される表面は導電性を有する、請求項1~のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項9】
前記試料台の表面は、導電性を有する材料にてコーティングされている、請求項に記載のX線分析装置。
【請求項10】
前記試料台の表面にコーティングされる材料は、導電性を有する金属、又は、ダイヤモンドライクカーボンである、請求項に記載のX線分析装置。
【請求項11】
前記試料台は導電性を有する金属又はグラファイトにて構成される、請求項8~10のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項12】
試料台を備えるX線分析装置を用いた試料の分析方法であって、
前記試料台に載置された前記試料にX線を照射するステップと、
前記試料に前記X線を照射することにより発生した二次X線を検出するステップと、
検出された前記二次X線の強度に基づいて、前記試料の前記試料台における状態に関する状態情報を取得するステップと、
前記状態情報に基づいて前記試料の前記試料台における状態を判断し、前記試料の前記試料台における状態が適切か否かに基づいて、前記試料に含まれる元素を分析するか否かを決定するステップと、
を含み、
前記状態情報を取得するステップは、前記二次X線のうち、前記試料台の近傍までしか伝搬しない低いエネルギーを有するX線が前記試料に照射されることにより前記試料台の近傍に存在する前記試料から発生する低エネルギー二次X線の強度に基づいて、前記試料台に載置された前記試料の表面状態に関する情報を取得するステップを含む、
分析方法。
【請求項13】
試料台に載置された試料にX線を照射するステップと、
前記試料に前記X線を照射することにより発生した二次X線を検出するステップと、
検出された前記二次X線の強度に基づいて、前記試料の前記試料台における状態に関する状態情報を取得するステップと、
前記状態情報に基づいて前記試料の前記試料台における状態を判断し、前記試料の前記試料台における状態が適切か否かに基づいて、前記試料に含まれる元素を分析するか否かを決定するステップと、
含み、
前記状態情報を取得するステップが、前記二次X線のうち、前記試料台の近傍までしか伝搬しない低いエネルギーを有するX線が前記試料に照射されることにより前記試料台の近傍に存在する前記試料から発生する低エネルギー二次X線の強度に基づいて、前記試料台に載置された前記試料の表面状態に関する情報を取得するステップを含む、
分析方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質から発生する二次X線を用いて、当該粒子状物質を分析するX線分析装置、分析方法、及び、当該分析方法をコンピュータシステムに実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物質にX線を照射すると、その物質に特有のX線(二次X線と呼ばれる)が発生することが知られている。物質にX線を照射することにより発生する主な二次X線としては、物質に含まれる元素に由来する蛍光X線、入射したX線が物質により散乱されることで発生する散乱X線がある。
【0003】
また、上記の物質から発生する二次X線を検出し、検出した二次X線のうち蛍光X線を用いて、当該物質に含まれる元素の分析を行うことが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6096419号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、排気ガスなどの気体中に存在する粒子状物質に含まれる元素を分析する手法についての要求が高まっている。粒子状物質に含まれる元素を分析する手法として、上記の蛍光X線を用いる方法が考えられる。なぜなら、蛍光X線を用いる元素の分析方法においては、物質に含まれる元素を数ppmオーダーのレベルで精度よく測定できるからである。
【0006】
その一方で、粒子状物質から発生する蛍光X線の強度は、その粒子状物質に含まれる元素量だけでなく、測定領域に存在する粒子状物質の量、及び、測定領域における粒子状物質の状態にも依存する。そのため、蛍光X線を用いて粒子状物質に含まれる元素の含有量を精度よく測定するためには、測定領域に存在する粒子状物質の量が適切であるか否か、及び、粒子状物質が測定領域においてどのような状態で存在しているかを把握する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、二次X線を用いた粒子状物質の分析において、粒子状物質の測定領域における状態を簡単な方法により把握することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明に一見地にかかるX線分析装置は、粒子状物質から発生する蛍光X線を用いて粒子状物質の分析を行う装置である。X線分析装置は、試料台と、X線源と、検出器と、演算部と、を備える。
試料台には、粒子状物質が載置される。X線源は、試料台に載置された粒子状物質にX線を照射する。検出器は、粒子状物質にX線を照射することにより発生した二次X線を検出する。演算部は、検出器により検出された二次X線の強度に基づいて、粒子状物質の試料台における状態に関する状態情報を取得する。また、演算部は、粒子状物質から発生する二次X線に基づいて、粒子状物質に含まれる元素を分析する。
これにより、本発明に係るX線分析装置は、粒子状物質から発生する二次X線を用いて、試料台における粒子状物質の状態(状態情報)を簡単に把握することができる。また、この状態情報を用いて、測定対象試料である粒子状物質が蛍光X線分析を行うために適切か否かを判断できる。
【0009】
演算部は、二次X線のうち、第1エネルギー以下のエネルギーを有する低エネルギー二次X線の強度に基づいて、試料台に載置された粒子状物質の表面状態に関する情報を取得してもよい。
これにより、低エネルギーを有する二次X線が物質の表面において発生するとの特性を用いて、試料台に載置された粒子状物質の表面状態を把握できる。
【0010】
演算部は、低エネルギー二次X線の強度に基づいて、試料台に載置された粒子状物質の表面積に関する情報を取得してもよい。
これにより、低エネルギーを有する二次X線が物質の表面において発生するとの特性を用いて、試料台に載置された粒子状物質の表面積を把握できる。
【0011】
演算部は、低エネルギー二次X線の強度に基づいて、試料台に載置された粒子状物質の粒子径に関する情報を取得してもよい。
これにより、低エネルギーを有する二次X線が物質の表面において発生するとの特性を用いて、粒子状物質の粒子径を把握できる。
【0012】
演算部は、二次X線のうち、第1エネルギーより大きいエネルギーを有する高エネルギー二次X線の強度に基づいて、試料台に載置された粒子状物質の厚みに関する情報を取得してもよい。
これにより、高エネルギーを有する二次X線が物質の内部からも発生するとの特性を用いて、試料台に載置された粒子状物質の厚みを把握できる。
【0013】
演算部は、二次X線のうち、粒子状物質から発生する散乱X線の強度に基づいて、状態情報を取得してもよい。
これにより、粒子状物質に含まれる元素によらず、試料台に載置された粒子状物質の状態を把握できる。
【0014】
演算部は、二次X線のうち、粒子状物質に含まれる元素に由来する蛍光X線の強度に基づいて、状態情報を取得してもよい。
これにより、試料台に載置された粒子状物質の状態を、より正確に把握できる。
【0015】
上記のX線分析装置は、校正用試料と、開口部材と、切換部と、をさらに備えてもよい。校正用試料は、検出器にて検出されるX線を校正するために用いられる。開口部材には、X線源から発生するX線を通過させる開口が設けられる。切換部は、校正用試料又は開口部材の開口を、X線源と試料台との間に切り換えて配置する。
切換部により校正用試料または開口部材のいずれをX線源と試料台との間に配置するかを切り換えることで、X線分析装置の校正と、試料台に載置された粒子状物質の分析とを容易に切り換えて実行できる。
【0016】
試料台の少なくとも粒子状物質が載置される表面は、導電性を有してもよい。
これにより、試料台から粒子状物質を除去する際に、静電気により粒子状物質が試料台に残留することを抑制できる。
【0017】
試料台の表面は、導電性を有する材料にてコーティングされてもよい。これにより、導電性を有さない試料台の表面に導電性を持たせることができる。
【0018】
試料台の表面にコーティングされる材料は、導電性を有する金属、又は、ダイヤモンドライクカーボンであってもよい。これにより、試料台の表面に対してコーティングにより容易に導電性を持たせることができる。
【0019】
試料台は、導電性を有する金属、又は、グラファイトにて構成されてもよい。これにより、試料台全体に導電性を持たせることができる。
【0020】
本発明の他の見地に係る分析方法は、試料台を備えるX線分析装置を用いた粒子状物質の分析方法である。分析方法は、以下のステップを含む。
◎試料台に載置された粒子状物質にX線を照射するステップ。
◎粒子状物質にX線を照射することにより発生した二次X線を検出するステップ。
◎検出された二次X線の強度に基づいて、粒子状物質の試料台における状態に関する状態情報を取得するステップ。
◎粒子状物質から発生する二次X線に基づいて、粒子状物質に含まれる元素を分析するステップ。
これにより、粒子状物質から発生する二次X線を用いて、試料台における粒子状物質の状態情報を簡単に把握することができる。また、この状態情報を用いて、測定対象試料である粒子状物質が蛍光X線分析を行うために適切か否かを判断できる。
【0021】
本発明のさらなる他の見地に係るプログラムは、以下のステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
◎試料台に載置された粒子状物質にX線を照射するステップ。
◎粒子状物質にX線を照射することにより発生した二次X線を検出するステップ。
◎検出された二次X線の強度に基づいて、粒子状物質の試料台における状態に関する状態情報を取得するステップ。
◎粒子状物質から発生する二次X線に基づいて、粒子状物質に含まれる元素を分析するステップ。
これにより、粒子状物質から発生する二次X線を用いて、試料台における粒子状物質の状態情報を簡単に把握することができる。また、この状態情報を用いて、測定対象試料である粒子状物質が蛍光X線分析を行うために適切か否かを判断できる。
【発明の効果】
【0022】
粒子状物質から発生する二次X線の性質を用いて、粒子状物質の試料台における状態を簡単な方法により把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】X線分析装置の構成を示す図。
図2】開口部材の構成を示す図。
図3A】X線源と試料台との間に開口が配置された場合のX線の経路を示す図。
図3B】X線源と試料台との間に校正用試料が配置された場合のX線の経路を示す図。
図4】X線分析装置の動作を示すフローチャート。
図5】二次X線のスペクトルの一例を示す図。
図6】高エネルギー二次X線の強度が変化する場合の例を示す図。
図7】高エネルギー二次X線の強度と粒子状物質の厚みとの関係を模式的に示す図。
図8】低エネルギー二次X線の強度が変化する場合の例を示す図。
図9】低エネルギー二次X線の強度と粒子状物質の試料台の近傍における状態との関係を模式的に示す図。
図10】粒子状物質の粒子径と充填率との関係を模式的に示す図。
図11】粒子状物質の粒子径と低エネルギー二次X線の強度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.第1実施形態
(1)X線分析装置
以下、第1実施形態に係るX線分析装置100を説明する。X線分析装置100は、X線を粒子状物質Pへ照射して発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線スペクトルの測定又は試料に含有される元素を分析する蛍光X線分析を行うための装置である。なお、以下において、「元素分析」又は「分析」との用語は、元素の「定性」と「定量」とを含む意味で用いられる。
X線分析装置100は、例えば、測定対象の粒子状物質Pの発生源またはその近傍に配置され、発生源にて発生した粒子状物質Pに含まれる元素の特定とその含有量を、その場観察にて測定(インライン測定)できる。
インライン測定を実行するX線分析装置100は、例えば、焼却炉、各種工場から排出される排ガスの煙道に配置され、当該排ガスに含まれる粒子状物質P(例えば、重金属を含有する粒子など)を分析できる。
【0025】
X線分析装置100は、排ガスに含まれる粒子状物質以外にも、例えば、化粧品の粉末、小麦、コーンスターチ、片栗粉などの食料粉末、塩などの結晶粉末など、一般的な粒子状物質Pの分析も可能である。
【0026】
以下、図1を用いて、上記のX線分析装置100の具体的構成を説明する。図1は、X線分析装置の構成を示す図である。X線分析装置100は、試料支持部1と、X線源2と、検出器3と、開口部材4と、遮蔽体5と、演算部6と、を主に備える。
【0027】
(2)試料支持部
試料支持部1は、水平板状であり、測定対象である粒子状物質Pが載置されることによって、当該粒子状物質Pを支持する。試料支持部1は、基部13と、基部13に対して着脱が可能な着脱部12とを有している。基部13及び着脱部12は、共に貫通孔11が形成され、ほぼ平板状になっている。貫通孔11を塞ぐようにX線透過膜14が張られており、X線透過膜14は基部13と着脱部12とで挟まれて固定されている。着脱部12を外した状態で、基部13の貫通孔11にX線透過膜14を張り、着脱部12を基部13に装着することで、X線透過膜14が固定される。
【0028】
上記貫通孔11のX線透過膜14が張られた側とは反対側に、試料台15が設けられている。測定対象である粒子状物質Pは、試料台15に載置される。試料台15は、粒子状物質PがX線分析装置100の光学系(X線源2、検出器3など)に侵入することを防止する。
試料台15は、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどの、炭素元素を含む樹脂又はプラスチックで構成された板状部材である。試料台15の少なくとも粒子状物質Pが載置される表面(上面)には、導電性の材料がコーティングされている。なお、導電性材料は、試料台15の全体にコーティングされていてもよい。
【0029】
試料台15への導電性コーティングは、例えば、金などの導電性を有する金属を、蒸着により試料台15の表面にコーティングすることにより実現できる。また、導電性コーティングが試料台15から剥離することを防止するため、導電性コーティングの前に、試料台15の表面に他の金属などをコーティングしておいてもよい。
また、導電性コーティングに用いる材料は、X線を照射したときに、測定対象となる元素からの蛍光X線と同一かそれに近いエネルギーを有する蛍光X線を発生させないものとすることが好ましい。
【0030】
他の実施形態において、導電性を有する金属のコーティングは、例えば、ニッケルペーストなどの金属粉末を高濃度にて含有するペースト状の液体を試料台15に塗布して乾燥させることにより、実現することもできる。
【0031】
さらなる他の実施形態において、例えば、ダイヤモンドライクカーボンを試料台15の表面にコーティングすることもできる。ダイヤモンドライクカーボンのコーティング膜は平坦性が高いため、粒子状物質Pを試料台15から容易に除去することができる。
【0032】
アクリル樹脂、ポリカーボネートなどの透明な物質にて構成された試料台15をコーティングする場合には、コーティング膜を薄くして、試料台15が光を透過できるようにしておいてもよい。
これにより、試料台15に載置された粒子状物質Pの状態を、後述する撮像素子9により撮影できる。また、試料台15から電荷を逃がすことができる程度の導電性があればよいので、導電性コーティング膜は薄くできる。
【0033】
または、導電性を有する透明な膜を試料台15にコーティングすることによっても、試料台15の帯電を防止すると共に、撮像素子9による粒子状物質Pの撮影が可能となる。
【0034】
さらなる他の実施形態において、試料台15自体を、例えば、グラファイト、金などの導電性を有する金属により構成してもよい。これにより、試料台15全体に導電性を持たせることができる。
【0035】
本実施形態において、試料台15は、グラウンド電位に接続されている。これにより、試料台15から粒子状物質Pを除去する際に、静電気により粒子状物質Pが試料台15に残留することを抑制できる。
他の実施形態において、試料台15は、所定の電位を印加するための電圧発生装置に接続されていてもよい。電圧発生装置は、粒子状物質Pが帯びる電位の極性(正電位、負電位)と同一の極性を有する電位を、試料台15に印加する。これにより、試料台15と粒子状物質Pとの間に反発力が働いて、静電気により粒子状物質Pが試料台15に残留することを抑制できる。
【0036】
(3)X線源
X線源2は、試料台15上に載置された粒子状物質Pの下面に対して斜め下側からX線を照射する位置に配置されている。X線源2は、X線管を用いて構成されており、X線の出射端を試料支持部1の貫通孔11へ向けて配置されている。
後述するように、本実施形態では、散乱X線を用いて、試料台15上に載置された粒子状物質Pの状態に関する情報(状態情報)を取得する。従って、粒子状物質Pから散乱X線を発生させるために、X線源2から出力されるX線は、10keV以下のエネルギーを有することが好ましい。このようなX線源2としては、例えば、パラジウムをターゲットとしたX線源、又は、ロジウムをターゲットとしたX線源を使用できる。
【0037】
(4)検出器
検出器3は、試料台15上に載置された粒子状物質Pの下面から斜め下方向へ放射された二次X線を検出することができる位置に配置されている。検出器3は、例えば、Si素子等のX線検出素子(例えば、シリコンドリフト検出器(SDD))を用いて構成されており、二次X線の入射端を試料支持部1の貫通孔11へ向けて配置されている。
【0038】
X線源2及び検出器3を上記のように配置することにより、X線源2から試料台15上の粒子状物質PへX線が照射され、粒子状物質Pでは二次X線が発生する。この二次X線は、検出器3により検出される。図1には、X線源2から試料台15へ向けて照射されるX線、及び試料台15から検出器3に入射する二次X線を破線で示している。
【0039】
(5)開口部材
開口部材4は、試料支持部1の直下、X線源2から試料支持部1までのX線の経路上に配置されている。開口部材4は、X線源2から出力されたX線が通過する開口を有する部材である。以下、図2を用いて、開口部材4の具体的構成を説明する。図2は、開口部材の構成を示す図である。
開口部材4は、例えばタンタル製の板状部材であり、X線が通過する径が異なる複数の開口41、42、43が形成されている。なお、開口の数は3個に限定されるものではなく、2個であってもよく4個以上であってもよい。複数の開口41、42、43は、水平面内で、X線源2及び検出器3が並んだ方向とは交差する方向に沿って並んでいる。
【0040】
また、開口部材4には、窓部45が設けられている。窓部45は、例えば、アクリル板等の透明部材を用いて構成されている。窓部45は、開口41、42、43が並んだ方向に沿った位置に設けられている。
【0041】
さらに、開口部材4には、校正用試料44が設けられている。校正用試料44は、検出器3にて検出されるX線の校正を行うための試料である。校正用試料44は、例えば、開口41、42、43が並んだ方向に沿った位置の窓部45とは反対側に設けられる。
【0042】
ここで、X線分析装置100において実行される校正について説明する。
二次X線を用いるX線分析装置100において実行される校正には、粒子状物質Pから発生する蛍光X線のピーク位置が正しいエネルギー位置となるように装置を校正するエネルギー校正と、X線の強度を校正する強度校正と、がある。
【0043】
上記のうち、エネルギー校正は、測定対象の粒子状物質Pに含まれる元素が既知であれば、試料台15に載置された粒子状物質Pから発生する蛍光X線を用いて実行できる。
その一方、強度校正は、試料台15に載置された粒子状物質Pから発生する二次X線を用いては実行できない。なぜなら、検出器3にて検出される二次X線の強度は、試料台15に載置される粒子状物質Pにより変動するからである。
【0044】
従って、本実施形態においては、開口部材4に設けられる校正用試料44は、強度校正用の試料である。強度校正用の試料としては、例えば、銅(Cu)の板状部材を使用できる。
【0045】
なお、測定対象の粒子状物質Pに含まれる元素が不明である場合などには、校正用試料44として、エネルギー補正用の試料が設けられていてもよい。エネルギー補正用の試料としては、例えば、NIST(National Institute of Standards & Technology)にて規定された標準物質などの、所定の元素が予め決められた量だけ含まれる物質を使用できる。
【0046】
図2に示すように、開口部材4は、シャフト71を介して、切換部7に接続されている。切換部7は、開口部材4の開口41、42、43のいずれか、校正用試料44、又は、窓部45を、X線源2と試料台15との間に切り換えて配置する。切換部7は、例えば、長さ方向の一端が開口部材4に接続されたシャフト71を、その長さ方向に移動させる公知の機構により構成できる。
【0047】
以下、図3A及び図3Bを用いて、開口41、42、43又は校正用試料44が、X線源2と試料台15との間に切り換えて配置された場合のX線の経路について説明する。図3Aは、X線源と試料台との間に開口が配置された場合のX線の経路を示す図である。図3Bは、X線源と試料台との間に校正用試料が配置された場合のX線の経路を示す図である。
X線源2と試料台15との間に開口41、42、43のいずれかが配置された場合、X線源2から発生したX線は、図3Aに示すように、X線源2と試料台15の間に配置された開口41、42、43のいずれかを通過する。これにより、X線源2から出力されたX線は、開口41、42、43の径に応じてビーム径(強度)が調整されて、試料台15に載置された粒子状物質Pに到達する。
【0048】
一方、X線源2と試料台15との間に校正用試料44が配置された場合、X線源2から発生したX線は、図3Bに示すように、校正用試料44において散乱等されて、遮蔽体5に設けられた開口51を通過する。当該開口を通過したX線が、検出器3にて検出される。
【0049】
また、X線源2と試料台15との間に窓部45が配置された場合には、貫通孔11の直下に配置された撮像素子9(例えば、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなど)(図1)により、試料台15に載置された粒子状物質Pを撮影できる。
【0050】
切換部7により、校正用試料44又は開口部材4の開口41、42、43のいずれをX線源2と試料台15との間に配置するかを切り換えることで、X線分析装置100の校正と、試料台15に載置された粒子状物質Pの分析とを、容易かつ自動的に切り換えて実行できる。
【0051】
(6)遮蔽体
遮蔽体5は、例えば、アルミニウム及び/又は銅にて構成された部材である。遮蔽体5は、X線源2と検出器3との中間の位置に配置される。
また、遮蔽体5は、開口部材4に結合している。従って、遮蔽体5は、開口部材4と共に移動するようになっている。さらに、開口部材4の校正用試料44が設けられた位置に対応する遮蔽体5の部分には、開口51(図3B)が設けられる。
【0052】
上記の位置に遮蔽体5が配置され、かつ、遮蔽体5に上記の開口51が設けられることにより、粒子状物質Pの分析時には、X線源2の出射口21と検出器3の入射口31とを結んだ経路を通るX線が遮蔽され、X線源2から検出器3へX線が直接に入射することが防止される。
一方、X線分析装置100の校正時には、X線源2の出射口21から出力されたX線は、校正用試料44にて散乱等され、上記の開口51を通過して検出器3に到達する。
【0053】
(7)演算部
演算部6は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM、ROM、ハードディスク、SSD(Soild State Disk)などの記憶装置と、表示部と、各種インターフェースと、などを有するコンピュータシステムである。
以下に説明する演算部6の各機能の一部又は全部は、上記のコンピュータシステムの記憶装置に記憶されたプログラムにより実現されていてもよい。また、演算部6の各構成要素の機能の一部又は全部の機能は、カスタムICなどの半導体装置により実現されていてもよい。
【0054】
演算部6は、X線分析装置100の各構成要素(X線源2、検出器3、切換部7)を制御する機能を実現する。また、検出器3にて検出された二次X線(散乱X線、蛍光X線)の強度に基づいて、粒子状物質Pの試料台15における状態に関する情報(以下、状態情報と呼ぶ)を取得する機能を実現する。
【0055】
さらに、演算部6は、粒子状物質Pの分析のための信号処理を実行する。具体的には、演算部6は、検出器3が検出したX線、すなわち、粒子状物質Pから発生する二次X線のエネルギーとカウント数との関係、即ち二次X線のスペクトルを取得する処理を行う。
【0056】
演算部6は、さらに、二次X線に含まれる蛍光X線を用いて、粒子状物質Pに含有される元素の定性分析又は定量分析を行う機能を実現する。具体的には、蛍光X線のピーク位置から粒子状物質Pに含まれる元素を特定し、蛍光X線のピーク強度から当該元素の含有量を算出できる。
【0057】
図1に示すように、演算部6には、表示部8が接続されている。表示部8は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのディスプレイである。
演算部6は、分析時には、例えば、検出器3にて検出した二次X線のスペクトル、粒子状物質Pに含まれる測定対象元素の含有量(含有量の時間的な推移、現在の含有量)などを、表示部8に表示する。
また、演算部6は、例えば、測定対象とする粒子状物質Pの種類、測定対象とする元素等を、表示部8にリスト表示する。
【0058】
さらに、X線分析装置100は、試料台15に載置された粒子状物質Pの状態を測定するための装置を備えていてもよい。例えば、超音波、レーザなどを粒子状物質Pに照射して、粒子状物質Pの堆積厚み等を測定する装置を備えていてもよい。
この場合、演算部6は、上記の超音波及び/又はレーザの強度等に基づいて、粒子状物質Pの体積厚み等を算出してもよい。
【0059】
(8)X線分析装置の動作
(8-1)全体動作
以下、図4を用いて、検出器3にて検出した二次X線により、粒子状物質Pを分析するまでの全体動作を説明する。図4は、X線分析装置の全体動作を示すフローチャートである。
X線分析装置100が動作を開始すると、まず、演算部6は、ステップS1において、X線源2に対してX線を出力するよう指令する。これにより、X線源2から出力されたX線が、試料台15に載置されている粒子状物質Pに照射される。
【0060】
粒子状物質PにX線を照射中に、ステップS2において、粒子状物質Pから発生する二次X線のスペクトルが取得される。具体的には、まず、検出器3が、検出した二次X線のカウント数を演算部6に出力する。その後、演算部6が、入力した二次X線のカウント数から、当該二次X線のスペクトルを取得する。
【0061】
二次X線のスペクトルを取得後、ステップS3において、演算部6が、ステップS2にて取得二次X線の強度に基づいて、状態情報を取得する。ステップS3における状態情報の取得処理については、後ほど詳しく説明する。
【0062】
状態情報を取得後、演算部6は、ステップS4において、当該状態情報に基づいて、試料台15における粒子状物質Pの状態を判断し、粒子状物質Pの元素分析を実行するか否かを決定する。
状態情報に基づいて、例えば、試料台15に十分な量の粒子状物質Pが載置されており、かつ、試料台15から粒子状物質Pの一部が浮いた状態でないと判断されたら(ステップS4で「Yes」)すなわち、粒子状物質Pの状態が元素分析にとって適切であると判断されたら、演算部6は、ステップS5において、粒子状物質Pの元素分析を実行する。
【0063】
なお、ステップS5において、演算部6は、ステップS2にて取得された二次X線のスペクトルを用いて元素分析を実行してもよいし、ステップS5において新たに二次X線のスペクトルを取得し元素分析を実行してもよい。
【0064】
一方、状態情報に基づいて、例えば、試料台15に十分な量の粒子状物質Pが載置されていないか、又は、試料台15から粒子状物質Pの一部が浮いた状態であると判断されたら(ステップS4で「No」)、すなわち、粒子状物質Pの状態が元素分析にとって不適切であると判断されたら、演算部6は、ステップS6において、粒子状物質Pの状態が元素分析にとって適切となるような処理を実行する。例えば、より多くの粒子状物質Pを試料台15に載置するか、又は、試料台15に振動を加えるなどして、粒子状物質Pと試料台15との間の隙間を充填させる。
その後、演算部6は、ステップS6の実行により粒子状物質Pの状態が元素分析にとって適切となったか否かを確認するために、上記のステップS1~S4の処理を実行する。
他の実施形態において、演算部6は、ステップS6において、粒子状物質Pの分析を実行しないと決定してもよい。
【0065】
(8-2)状態情報の取得
(8-2-1)二次X線から得られる状態情報(概略)
以下、ステップS3において実行される状態情報の取得について説明する。まず、二次X線のスペクトルから得られる状態情報について、詳細に説明する。以下の説明では、図5に示すような二次X線のスペクトルが、ある特定の測定時に取得されたとする。図5は、二次X線のスペクトルの一例を示す図である。
図5では、粒子状物質Pから発生した二次X線のスペクトルを実線にて表し、粒子状物質Pが載置されていないときに検出されるX線(すなわち、X線源2から出力されるX線)のスペクトルを点線にて表している。
【0066】
図5において、エネルギー値E1、E2、E3の現れているピークは、X線源2のターゲット由来のピークであるとする。一方、エネルギー値E4、E5に現れているピークは、粒子状物質Pに含まれる元素の蛍光X線によるピークあるとする(同一元素からの蛍光X線のピークであってもよいし、異なる元素からの蛍光X線のピークであってもよい)。
【0067】
(8-2-2)高エネルギー二次X線から得られる状態情報
今回、試料台15に同一の粒子状物質Pを載置して二次X線のスペクトルを複数回取得したところ、図6に示すように、所定の閾値(第1エネルギーEtと呼ぶ)より大きいエネルギー範囲の二次X線(高エネルギー二次X線と呼ぶ)の強度がより大きく変動する場合が見られた。図6は、高エネルギー二次X線の強度が変化する場合の例を示す図である。
第1エネルギーEtの値は、例えば、3keVであった。
【0068】
検討の結果、上記の高エネルギー二次X線の強度の変動と、試料台15に載置された粒子状物質Pの高さ(厚み)との間には相関があることが判明した。この相関は、X線源2から出力される高エネルギー側のX線が、粒子状物質Pのより深い位置(厚みの大きい位置)まで伝搬し、粒子状物質Pの深い位置から高エネルギー二次X線を発生できることに由来していることが判明した。
以下、図7を用いて、上記の考察を模式的に説明する。図7は、高エネルギー二次X線の強度と粒子状物質の厚みとの関係を模式的に示す図である。
【0069】
すなわち、図7の(A)に示す場合を基準とすると、図7の(B)に示すように試料台15における粒子状物質Pの厚みが大きい場合には、高エネルギー側のX線が粒子状物質Pの深くまで伝搬できるので、当該高エネルギー側のX線の大部分が粒子状物質Pから高エネルギー二次X線を発生させるために使用される。その結果、粒子状物質Pの厚みが大きい場合に取得される高エネルギー二次X線の強度は、図7の(A)の場合に取得される高エネルギー二次X線の強度よりも大きくなる。
【0070】
その一方、図7の(C)に示すように試料台15における粒子状物質Pの厚みが小さい場合には、高エネルギー側のX線の大部分が粒子状物質Pを通過するので、高エネルギー側のX線のごく一部のみが、粒子状物質Pから高エネルギー二次X線を発生させるために使用される。その結果、粒子状物質Pの厚みが小さい場合に取得される高エネルギー二次X線の強度は、図7の(A)の場合に取得される高エネルギー二次X線の強度よりも小さくなる。
【0071】
上記の原理により、演算部6は、高エネルギー二次X線が物質の内部からも発生するとの特性を用いて、高エネルギー二次X線の強度に基づいて、試料台15に載置された粒子状物質Pの厚みに関する情報を、状態情報として取得できる。
【0072】
例えば、演算部6は、高エネルギー二次X線の強度が所定の閾値よりも小さい場合には、試料台15に載置された粒子状物質Pの厚み(載置量)が適切な分析を行うには不十分であると決定できる。
上記の「所定の閾値」は、例えば、試料台15に粒子状物質Pを適切量載置したときに得られる高エネルギー二次X線の強度の実測値であってもよいし、理論計算により算出された理論値であってもよい。当該「所定の閾値」は、演算部6の記憶装置に記憶されている。
【0073】
また、演算部6は、高エネルギー二次X線のうちの特定のエネルギー値における二次X線の強度に基づいて状態情報を取得してもよいし、高エネルギー二次X線のエネルギー範囲で強度を積分した積分強度を用いて状態情報を取得してもよい。
【0074】
この場合、演算部6は、例えば、表示部8などに、粒子状物質Pの厚み(載置量)が不十分である旨の警告を表示してもよい。これにより、例えば、粒子状物質Pの載置量が十分な量となってから、粒子状物質Pの分析を開始できる。
あるいは、演算部6は、粒子状物質Pの分析と状態情報の取得とを同時に実行し、当該状態情報から把握した粒子状物質Pの厚みが十分であるか否かの情報に基づいて、対応する粒子状物質Pの分析が適切であるか否かを判断してもよい。
【0075】
他の実施形態において、演算部6は、試料台15に載置された粒子状物質Pの厚みに関する情報に基づいて、検出器3にて検出される二次X線の強度(特に、高エネルギー二次X線の強度)を補正してもよい。
【0076】
(8-2-3)低エネルギー二次X線から得られる状態情報
また、試料台15に同一の粒子状物質Pを載置して二次X線のスペクトルを複数回取得したところ、図8に示すように、第1エネルギーEt以下のエネルギー範囲の二次X線(低エネルギー二次X線と呼ぶ)の強度がより大きく変動する場合があることも判明した。図8は、低エネルギー二次X線の強度が変化する場合の例を示す図である。
【0077】
検討の結果、上記の低エネルギー二次X線の強度の変動と、試料台15に載置された粒子状物質Pの試料台15の近傍における状態との間に相関があることが判明した。この相関は、X線源2から出力される低エネルギー側のX線が、試料台15の近傍までしか伝搬せず、試料台15の近傍に存在する粒子状物質Pからしか低エネルギー二次X線を発生できないことに由来していることが判明した。
以下、図9を用いて、上記の考察を模式的に説明する。図9は、低エネルギー二次X線の強度と粒子状物質の試料台の近傍における状態との関係を模式的に示す図である。
【0078】
すなわち、図9の(A)に示す場合を基準とすると、図9の(B)に示すように、試料台15の近傍に粒子状物質Pが存在しない大きな空間が存在する場合には、図9の(A)の場合と比較して、粒子状物質Pの試料台15に近い側の表面と検出器3との間の距離が大きくなる。
低エネルギー側のX線は粒子状物質Pの内部まで伝搬しにくいとの性質があるため、
粒子状物質Pのごく表面にのみ低エネルギー側のX線が到達する。その結果、粒子状物質Pのごく表面からしか低エネルギー二次X線が発生しない。粒子状物質Pの試料台15に近い側の表面と検出器3との間の距離が大きいので、この場合に検出器3にて取得される低エネルギー二次X線の強度は、図9の(A)の場合に取得される低エネルギー二次X線の強度よりも小さくなる。
【0079】
この傾向は、試料台15近傍における粒子状物質Pの載置状態が「粗」である場合、すなわち、粒子状物質Pの密度が試料台15の近傍において低い場合にも見られる。なぜなら、この場合、低エネルギー側のX線が到達できる範囲に存在する粒子状物質Pの量が少ないからである。
【0080】
その一方、図9の(C)に示すように、粒子状物質Pが存在しない空間が(ほとんど)存在しない場合には、図9の(A)の場合と比較して、粒子状物質Pの試料台15に近い側の表面と検出器3との間の距離が小さくなる。
上記のように低エネルギー二次X線は粒子状物質Pのごく表面からしか発生せず、かつ、粒子状物質Pの試料台15に近い側の表面と検出器3との間の距離が小さいので、この場合に検出器3にて取得される低エネルギー二次X線の強度は、図9の(A)の場合に取得される低エネルギー二次X線の強度よりも大きくなる。
【0081】
この傾向は、試料台15近傍における粒子状物質Pの載置状態が「密」である場合、すなわち、粒子状物質Pの密度が試料台15の近傍において高い場合にも見られる。なぜなら、この場合、低エネルギー側のX線が到達できる範囲に存在する粒子状物質Pの量が多いからである。
【0082】
上記の原理により、演算部6は、低エネルギー二次X線が物質の表面において発生するとの特性を用いて、低エネルギー二次X線の強度に基づいて、試料台15に載置された粒子状物質Pの試料台15の近傍における表面状態に関する情報を、状態情報として取得できる。
【0083】
例えば、演算部6は、低エネルギー二次X線の強度が所定の閾値よりも小さい場合には、粒子状物質Pの試料台15近傍における載置状態が不適切で、適切な分析を実行できないと決定できる。
上記の「所定の閾値」は、例えば、試料台15に粒子状物質Pを密に載置したときに得られる低エネルギー二次X線の強度の実測値であってもよいし、理論計算により算出された理論値であってもよい。当該「所定の閾値」は、演算部6の記憶装置に記憶されている。
【0084】
また、演算部6は、低エネルギー二次X線のうちの特定のエネルギー値における二次X線の強度に基づいて状態情報を取得してもよいし、低エネルギー二次X線のエネルギー範囲で強度を積分した積分強度を用いて状態情報を取得してもよい。
【0085】
この場合、演算部6は、例えば、表示部8などに、粒子状物質Pの試料台15近傍における載置状態が不適切である旨の警告を表示してもよい。これにより、例えば、試料台15を振動させるなどして、試料台15近傍における粒子状物質Pの載置状態を改善できる。
【0086】
他の実施形態において、演算部6は、演算部6が取得した試料台15に載置された粒子状物質Pの試料台15近傍における載置状態に関する情報に基づいて、検出器3にて検出される二次X線の強度(特に、低エネルギー二次X線の強度)を補正してもよい。
【0087】
(8-3)まとめ
上記のように、第1実施形態に係るX線分析装置100は、試料台15に載置された粒子状物質Pから発生する二次X線のスペクトルを用いて、試料台15に載置された粒子状物質Pの厚みに関する情報、試料台15の近傍における粒子状物質Pの載置状態に関する情報を、容易に取得できる。すなわち、第1実施形態に係るX線分析装置100においては、試料台15における粒子状物質Pの厚みや載置状態を簡単に把握できる。
また、この状態情報を用いて、測定対象試料である粒子状物質Pが蛍光X線分析を行うために適切か否かを判断できる。
【0088】
さらに、粒子状物質Pから発生する二次X線のスペクトルを用いて状態情報を取得することにより、演算部6は、試料台15に載置された粒子状物質Pの厚みに関する情報と、試料台15の近傍における粒子状物質Pの載置状態に関する情報とを、同時に取得できる。
【0089】
なお、測定対象である粒子状物質Pに含まれる元素とその含有量が既知である場合には、演算部6は、当該粒子状物質Pに含まれる元素に由来する蛍光X線の強度に基づいて、状態情報を取得することが好ましい。図5などに示す例においては、粒子状物質Pに含まれる元素に由来する蛍光X線のエネルギー値は、エネルギー値E4、E5である。
なぜなら、蛍光X線の強度は他の二次X線(散乱X線)の強度よりも大きいので、粒子状物質Pのより正確な状態情報を短時間に取得できるからである。
【0090】
また、X線源2のターゲット由来の蛍光X線は比較的強度が大きいので、ターゲット由来の蛍光X線のエネルギー値を有する二次X線を、状態情報を取得するために使用できる。
図5などに示す例においては、ターゲット由来の蛍光X線のエネルギー値は、エネルギー値E1~E3である。
【0091】
その一方、粒子状物質Pに含まれる元素又はその含有量が不明である場合には、演算部6は、当該粒子状物質Pから発生する散乱X線の強度に基づいて、状態情報を取得できる。
なぜなら、散乱X線は粒子状物質Pに含まれる元素によらず発生するものであるので、粒子状物質Pに関する情報が少ない場合であっても、当該粒子状物質Pについての状態情報を取得できるからである。
【0092】
他の実施形態において、演算部6は、粒子状物質Pから発生した二次X線の強度に基づいて取得した状態情報と、二次X線以外の測定量に基づいて取得した粒子状物質Pの状態と、を組み合わせて、粒子状物質Pの状態を最終的に判断してもよい。
例えば、撮像素子9により取得した粒子状物質Pの画像と、状態情報と、を用いて粒子状物質Pの状態を判断できる。また、粒子状物質Pの画像から、測定対象の粒子状物質P以外の不純物が含まれているか否かを判断できる。
また、二次X線に基づいた粒子状物質Pの厚みに関する情報と、他の方法(超音波、レーザ等)により測定した厚みと、を組み合わせて、粒子状物質Pの厚みを正確に判断できる。
【0093】
さらなる他の実施形態において、状態情報の取得は、所定の時間毎(例えば、1時間毎)に実行するのが好ましい。これにより、X線源2からX線を常時出力することを回避できる。その一方、X線源2からX線を常時出力してもよい場合には、状態情報の取得を常時実行してもよい。
【0094】
2.第2実施形態
上記の第1実施形態においては、粒子状物質Pから発生した二次X線に基づいて得られた状態情報を、粒子状物質Pの分析が適切に実行させるか否かの警告、及び、検出器3にて検出される二次X線の強度の補正に使用するかのいずれかであった。
上記のように、状態情報は、二次X線の発生箇所に関連して得られる情報であるので、試料台15に載置された粒子状物質Pの特性を測定する目的にも使用できる。
【0095】
第1実施形態において説明したように、低エネルギー二次X線は、試料台15の近傍に存在する粒子状物質P、すなわち、粒子状物質Pの試料台15に載置された側の表面から発生するものである。よって、低エネルギー二次X線を、粒子状物質Pの表面状態を測定する目的に使用できる。
【0096】
低エネルギー二次X線が粒子状物質Pの表面から発生するものであるとすると、粒子状物質Pの試料台15に載置された側の表面積に応じて、低エネルギー二次X線の大きさも変化する。
この原理を用いて、演算部6は、低エネルギー二次X線の強度に基づいて、試料台15に載置された粒子状物質Pの表面積に関する情報を取得できる。具体的には、低エネルギー二次X線の強度が大きい場合には表面積が大きいとの情報を取得でき、小さい場合には表面積が小さいとの情報を取得できる。
【0097】
また、演算部6は、表面積と低エネルギー二次X線の強度との関係を表す検量線と、検出器3にて取得した低エネルギー二次X線の強度とから、粒子状物質Pの試料台15側における表面積を算出できる。
上記の表面積と低エネルギー二次X線の強度との関係を表す検量線は、予め決められた複数の表面積にて試料台15に粒子状物質Pを載置して複数の二次X線のスペクトルを取得し、取得した二次X線のうちの低エネルギー二次X線の強度と、そのときの表面積の値と、を関連付けて作成できる。
【0098】
演算部6は、低エネルギー二次X線の強度に基づいて、試料台15に載置された粒子状物質Pの粒子径に関する情報を取得できる。
例えば、粒子状物質Pの粒子径がある程度揃っているとすると、試料台15の一定面積に載置される粒子状物質Pの充填率は、図10に示すように、その粒子径により変化する。
具体的には、粒子径が大きい場合には一定面積中の充填率が小さくなり(図10の(A))、粒子径が小さい場合には一定面積中の充填率が大きくなる(図10の(B))。
図10は、粒子状物質の粒子径と充填率との関係を模式的に示す図である。
【0099】
そして、大きな粒子径の粒子状物質Pが小さい充填率にて試料台15上に充填された場合には、試料台15の一定面積に載置された粒子状物質Pの表面積は小さくなる。
その一方、小さな粒子径の粒子状物質Pが大きい充填率にて試料台15上に充填された場合には、試料台15の一定面積における粒子状物質Pの表面積は大きくなる。
【0100】
上記の原理を利用して、図11に示すように、演算部6は、低エネルギー二次X線の強度が大きければ、試料台15に載置された粒子状物質Pの粒子径が小さいとの情報を取得できる。また、低エネルギー二次X線の強度が小さければ、試料台15に載置された粒子状物質Pの粒子径が大きいとの情報を取得できる。
図11は、粒子状物質の粒子径と低エネルギー二次X線の強度との関係を示す図である。
【0101】
また、演算部6は、粒子径と低エネルギー二次X線の強度との関係を表す検量線と、検出器3にて取得した低エネルギー二次X線の強度とから、粒子状物質Pの粒子径を算出できる。
上記の粒子径と低エネルギー二次X線の強度との関係を表す検量線は、予め決められた異なる粒子径の粒子状物質Pを試料台15に載置して複数の二次X線のスペクトルを取得し、取得した二次X線のうちの低エネルギー二次X線の強度と、そのときの粒子状物質Pの粒子径と、を関連付けて作成できる。
【0102】
低エネルギー二次X線を用いることにより、数十μmオーダーから数mmオーダー程度の範囲の粒子径を測定できる。
【0103】
低エネルギー二次X線を用いた粒子径の測定は一定面積内の粒子状物質Pの充填率に基づいているので、粒子径を測定する際には、例えば開口部材4の開口41、42、43を用いて、X線源2から出力するX線の照射径を一定にしておくことが好ましい。
また、粒子径を適切に算出するためには、少なくとも、測定対象の粒子状物質Pの粒子径よりも十分に大きな領域にX線を照射することが好ましい。
さらに、粒子径を正確に測定するためには、試料台15に載置された粒子状物質Pの広い範囲にX線を照射することが好ましい。
【0104】
そのため、粒子径の測定をする場合には、開口部材4に設けられた開口のうち、最大の径を有する開口(例えば、開口43)を用いて、X線の照射径を一定とすることが好ましい。
【0105】
さらに、X線源2からのX線が、試料台15に載置された粒子状物質Pの深い位置まで到達し、当該深い位置から二次X線が発生することを回避するために、X線源2から発生させるX線のエネルギーの最大値は、なるべく小さくしておくことが好ましい。
【0106】
また、演算部6は、粒子状物質Pの厚さと高エネルギー二次X線の強度との関係を表す検量線と、検出器3にて取得した高エネルギー二次X線の強度とから、粒子状物質Pの厚さを具体的に算出できる。
上記の厚さと高エネルギー二次X線の強度との関係を表す検量線は、予め決められた複数の厚みにて試料台15に粒子状物質Pを載置して複数の二次X線のスペクトルを取得し、取得した二次X線のうちの高エネルギー二次X線の強度と、そのときの厚みと、を関連付けて作成できる。
【0107】
3.他の実施形態
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(A)粒子状物質Pが載置されていない試料台15にX線を照射したときに発生する二次X線を、検出器3にて検出されるX線の強度の校正に使用してもよい。
【0108】
(B)測定対象となる元素、及び/又は、粒子状物質Pの主成分の元素により、X線源2から発生させるX線のエネルギーの最大値を変更してもよい。測定対象となる元素、及び/又は、粒子状物質Pの主成分の元素が重い元素である場合には、エネルギーの最大値を大きくする。軽い元素である場合には、エネルギーの最大値を小さくする。これにより、試料台15に載置された粒子状物質PにX線が入り込む深さを調整できる。
X線源2から発生させるX線のエネルギーの最大値は、例えば、X線源2のターゲットに当てる電子の加速電圧を、発生させたいX線のエネルギーの最大値に対応する電圧とすることで変更できる。
【0109】
(C)例えば、インライン測定により大量に測定された二次X線のスペクトルと、各スペクトルを用いて取得した状態情報と、を演算部6の記憶装置にデータベースとして記憶してもよい。そして、上記二次X線のスペクトルと、対応する状態情報と、を教師データとして学習させてもよい。すなわち、上記の演算部6を、この学習により形成される学習済みモデルとしてもよい。
これにより、上記の学習済みモデルである演算部6は、得られた二次X線スペクトルから、粒子状物質Pについての状態情報を自動的に取得できる。
【0110】
また、上記の学習の際には、他の手段(例えば、撮像素子9など)により取得した粒子状物質Pに関する情報を、さらに教師データとして含めてもよい。
これにより、学習済みモデルである演算部6は、得られた二次X線スペクトルと他の手段による情報とに基づいて、粒子状物質Pについての状態情報を自動的に取得できる。例えば、得られた二次X線スペクトルと粒子状物質Pの画像から、不純物が含まれているか否かを自動的に判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、粒子状物質から発生する二次X線を用いて当該粒子状物質を分析するX線分析装置、及び、粒子状物質の分析方法に広く適用できる。
【符号の説明】
【0112】
100 X線分析装置
1 試料支持部
11 貫通孔
12 着脱部
13 基部
14 X線透過膜
15 試料台
2 X線源
21 出射口
3 検出器
31 入射口
4 開口部材
41~43 開口
44 校正用試料
45 窓部
5 遮蔽体
51 開口
6 演算部
7 切換部
71 シャフト
8 表示部
9 撮像素子
Et 第1エネルギー
P 粒子状物質
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11