(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用正極活物質としてのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230808BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230808BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230808BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2021577598
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2020068724
(87)【国際公開番号】W WO2021001501
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-02-24
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】キョンスブ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ビン-ナ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】オレシア・カラクリナ
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-073482(JP,A)
【文献】特開2001-006672(JP,A)
【文献】特表2017-506805(JP,A)
【文献】特開2008-166269(JP,A)
【文献】特開2009-146739(JP,A)
【文献】特開2002-015739(JP,A)
【文献】特表2018-510450(JP,A)
【文献】特開2019-021623(JP,A)
【文献】特表2019-509605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池に適した正極活物質粉末であって、前記粒子が、コア及び表面層を含み、前記表面層が、前記コアの上部上にあり、前記粒子が元素:Li、M'および酸素を含み、M'が式M'=Ni
zMn
yCo
xA
kを有し、Aはドーパントであり、0.60≦z≦0.90、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、且つk≦0.01であり、
前記正極活物質粉末が、5μm以上15μm以下の範囲のメジアン粒径D50、0.25以上0.90以下の範囲のスパン、及び10nm以上200nm以下の範囲の表面層厚さを有し、
前記表面層は:
-正極活物質粉末の全重量に対して、0.150重量%以上0.375重量%以下の含有量の硫黄と、
-4500ppm以上11250ppm以下の含有量の硫酸イオン(SO
4
2-)と、
を含
み、
前記リチウム遷移金属系酸化物粒子が、アルミニウムをさらに含み、100以上であるAl表面被覆率A1/A2を有し、A1は表面層に含まれる元素Al、Ni、Mn、Co及びSの原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、前記原子比A1はXPSスペクトル分析により得られ、A2はICPによって得られる原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、
リチウム遷移金属系酸化物粒子の前記表面層が、LiAlO
2
相と、M''がNi、Mn及びCoを含むLiM''
1-a
Al
a
O
2
相とを含み、前記LiAlO
2
相が、正極活物質粉末中のM'の全原子含有量に対して0.10at%以上0.30at%以下の含有量で表面層に存在し、前記LiM''
1-a
Al
a
O
2
相が、正極活物質粉末中のM'の全原子含有量に対して0.14at%未満の含有量で表面層に存在する、
正極活物質粉末。
【請求項2】
200ppm未満の炭素含有量を有する、請求項
1に記載の正極活物質粉末。
【請求項3】
0.96以上1.05以下のLi/(Ni+Mn+Co+A)原子比又はLi/(Ni+Mn+Co+A+Al)原子比を有する、請求項1
又は2に記載の正極活物質粉末。
【請求項4】
前記表面層が、73.0±0.2eV~74.5±0.2e
Vの結合エネルギー範囲において最大ピーク強度を有するAl2pピークを示し、前記強度が、XPSスペクトル分析により得られる、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属系酸化物粒子が、0.85超1.00以下である硫酸イオン表面被覆率S1/S2を有し、S1が、表面層に含まれる硫酸イオンの量であり、S2が、粒子に含まれる硫酸イオンの総量である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項6】
一般式:Li
1+a'((Ni
z'Mn
y'Co
x'Al
vS
w)
1-kA
k)
1-a'O
2を有し、Aのみがドーパントであり、0.60≦z'≦
0.90、0.05≦y'≦0.20、0.05≦x'≦0.20、x'+y'+z'+v+w+k=1、0.0018≦v≦0.0053、0.006≦w≦0.012、-0.05≦a'≦0.05、且つk≦0.01である、請求項
2~
5のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項7】
Aが、Al、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y及びTiのうちのいずれか1つ以上であり、Aの各元素の含有量が、前記正極活物質粉末の全重量に対して100ppm超である、請求項1から
6のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項8】
表面層の厚さが、以下のいずれかで定義される最小距離Dに対応する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の正極活物質粉末:
【数1】
L
S1は、粒子の
周辺における第1の点位置であり、L
S2は、前記第1の点位置と前記粒子の幾何学的中心との間に定義される線における第2の点位置であり、
第2の点位置L
S2におけるTEM-EDSによって測定されたSの含有量は、第1の点位置で測定されたSの含有量に対して、0at%以上かつ5.0at%以下であり、Sの第2の含有量(S
2)は以下のように定義される:
【数2】
S
3は、前記線における第3の点位置(LS
3)におけるSの含有量(at%)であり、前記第3の点は、前記粒子の幾何学的中心と第2の点位置L
S2との間の任意の位置に位置する。
【請求項9】
【数3】
S
1が、第1の点位置(LS
1)におけるSの第1の含有量(at%)である、請求項
8記載の正極活物質粉末。
【請求項10】
Alが、表面層中に以下の含有量/定義で存在する、請求項
8又は
9に記載の正極活物質粉末:
【数4】
ここで:
【数5】
は、ICPによって測定された粉末中のM
*含有量に対するAl含有量の原子比であり、
M
*
はNi、Mn、Co、Al及びSの全原子含有量であり、
【数6】
ここで
-Al
surfaceは、EDSによって測定された表面層中のat%におけるAlの含有量であり;
-Al
totalは、EDSにより測定した前記粉末の粒子中のat%におけるAlの全含有量であり;
-領域1(Area1)は、Dに対する断面TEM-EDSで測定したAl/M
*含有量の積分である:
【数7】
ここで:
-Al(x)は、断面TEM EDSにより測定された断面粒子のx点におけるAlの原子含有量であり、
-M
*(x)は、断面TEM EDSにより測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al及びSの原子含有量であり、
-xは、前記第1の点位置と第2の点位置との間でTEMによって測定した、nmで表される距離であり、
-領域2(Area2)は、距離Cにわたって断面SEM EDSによって測定されたAl/M
*含有量の積分である:
【数8】
ここで:
-Al(x)は、断面TEM EDSにより測定された断面粒子のx点におけるAlの原子含有量であり、
-M
*(x)は、断面TEM EDSにより測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al及びSの原子含有量であり、
-xは、前記第1の点位置(x=0nm)と前記粒子の幾何学的中心(x=C)との間のTEMによって測定されたnmで表される距離であり、C
は2.5μmから7.5μmの範囲である。
【請求項11】
以下の連続したステップを含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の正極活物質
粉末の製造プロセス:
a)リチウム遷移金属系酸化物化合物を調製するステップと、
b)前記リチウム遷移金属系酸化物化合物と、硫酸イオン源と、水とを混合し、それによって混合物を得るステップと、
c)本発明による正極活物質粉末を得るために、350℃以上500℃未
満の温度で、1時間以上10時間以下の時間、炉内で酸化雰囲気中で混合物を加熱するステップと。
【請求項12】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の正極活物質粉末を含む電池。
【請求項13】
電気自動車又はハイブリッド電気自動車における請求項
12に記載の電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車(EV)及びハイブリッド電気自動車(HEV)の用途に適したリチウムイオン二次電池(LIB)用のリチウムニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質粉末であって、コアの上部に表面層が設けられたコアを有するリチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質粉末に関する。表面層は硫酸イオン(SO42-)を含む。粒子は、Li、金属M'及び酸素を含み、金属M'は、式NizMnyCoxAkを有し、Aはドーパントであり、0.60≦z≦0.90、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、及びk≦0.01である。
【0002】
特に、本発明は、高ニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質(以下、「hN(M)C化合物」という)、すなわち、M'に対するNiの原子比が少なくとも50.0%(又は50.0at%)、好ましくは少なくとも55.0%(又は55.0at%)、より好ましくは少なくとも60.0%(又は60.0at%)であるhN(M)C化合物に関する。
【0003】
本発明のフレームワークにおいて、at%は原子百分率を示す。濃度の所与の元素表現のat%又は「原子パーセント」は、クレームされた化合物中の全原子の何パーセントが前記元素の原子であるかを意味する。
【0004】
材料中の第1元素E(E
wt1)の重量パーセント(wt%)は、次式を適用することによって、前記材料中の前記第1元素E(E
at1)の所与の原子パーセント(at%)から変換することができる。
【数1】
ここで、E
at1とE
aw1との積(E
aw1は第1元素Eの原子量(又は分子量)である)を、材料中の他の元素の和で割る。nは、材料に含まれる異なる元素の数を表す整数である。
【0005】
EV及びHEVの開発とともに、このような用途に適したリチウムイオン電池に対する需要があり、hN(M)Cクラスの化合物は、その比較的安価なコスト(リチウムコバルト系リチウム酸化物などの代替物に関して)及びより高い動作電圧におけるより高い容量のために、LIBの正極活物質として使用される固体候補としてますます探求されている。
【0006】
このようなhN(M)C化合物は、例えば、JP5584456B2(以下、「JP'456」という)やJP5251401B2(以下、「JP'401」という)などの文献から既に知られている。
【0007】
JP'456には、前記hN(M)C化合物の粒子の表面層にSO4
2-イオン(例えば、JP'456記載の硫酸ラジカル)を1000ppm以上4000ppm以下含有するhN(M)C化合物が開示されている。JP'456は、硫酸ラジカルの量が上記範囲内であると、化合物の容量保持率及び放電容量特性が向上すると説明している。ただし、硫酸ラジカルの量が上記範囲未満であると容量保持率が低下し、上記範囲を超えると放電容量が低下する。
【0008】
JP'401は、一次粒子に硫酸塩コーティング、特に硫酸リチウムコーティングを適用することにより、前記硫酸塩コーティングされた一次粒子の凝集から得られる、二次粒子を設計することができ、前記二次粒子から作られたhN(M)C化合物に高いサイクル耐久性及び高い初期放電容量を付与することができる特定の細孔構造を有することを教示している。さらに、JP'401は、前記硫酸塩コーティングが洗浄され除去されると、そのような特定の細孔構造が達成されることを説明している。
【0009】
hN(M)C化合物は上記の利点に対して有望であるが、Ni含有量が高いためにサイクル安定性が劣化するなどの欠点もある。
【0010】
これらの欠点の例として、先行技術のhN(M)C化合物は、180mAh/g(JP'456)よりも優れていない低い第1放電容量、又は最大86%(JP'401)の限定された容量保持のいずれかを有する。
【0011】
したがって、現在、十分に高い第1放電容量(すなわち、少なくとも200mAh/g)を有するhN(M)C化合物を達成する必要があり、これは、本発明によれば、(H)EV用途に適したLIB中にそのようなhN(M)C化合物を使用するための前提条件である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池に使用しても十分に安全でありながら、本発明の分析方法により得られる最大10.5%の改善された不可逆容量(IRRQ)を有する正極活物質粉末を提供することにある。また、本発明は、M'に対するNiの原子比が78at%から85at%(例えば、EX1では80at%)の間である場合に少なくとも205.5mAh/g、M'に対するNiの原子比が85at%から90at%(例えば、EX3では86at%)の間である場合に少なくとも212.1mAh/gの改良された第1充電容量を有する正極活物質粉末を提供する。
【0013】
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、請求項1に記載の正極活物質化合物を提供することによって達成され、正極活物質化合物は、5μm~15μmの範囲のメジアン粒径D50、0.25~0.90の範囲のスパンを有する粒子を含み、前記粒子が、5nm~200nm、好ましくは10nm~200nmの厚さを有する表面層を含み、前記表面層が:
-正極活物質粉末の全重量に対して、0.150重量%以上0.375重量%以下の含有量の硫黄と、
-4500ppm以上11250ppm以下の含有量の硫酸イオン(SO4
2-)と、を含む。
【0015】
本発明のフレームワークにおいて、ppmは、濃度の単位に関して百万分の一を意味し、1ppm=0.0001重量%を表す。
【0016】
また、本発明のフレームワークにおいて、「硫黄」との用語は、請求項に記載された正極活物質化合物における硫黄原子又は硫黄元素(元素硫黄ともいう)の存在をいう。
【0017】
表3(下記セクションG)結果を参照)に示す結果に示されるように、200mAh/gを超える改善された第1放電容量が、以下の特徴を有するEX1に従う正極活物質粉末を用いた電池で達成されることが実際に観察される:
-粉末の全重量に対して0.28重量%の、表面層における硫黄含有量、
-表面層における8330ppmの硫酸イオン含有量、
-100nmの厚さを有する表面層、11.7μmのメジアン粒径D50、および0.65のスパン。
【0018】
hN(M)C化合物の表面層中のSO4
2-含有量が4000ppmより高い場合、化合物の放電容量が低下することを教示する先行技術の教示に反するため、この観察はさらに驚くべきことである。
【0019】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0020】
実施形態1
第1の態様において、本発明は、リチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池に適した正極活物質粉末に関するものであり、前記粒子が、コア及び表面層を含み、前記表面層が、前記コアの上部上にあり、前記粒子が元素:Li、金属M'および酸素を含み、金属M'が式M'=NizMnyCoxAkを有し、Aはドーパントであり、0.60≦z≦0.90、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、k≦0.01であり、前記正極活物質粉末が、5μm以上15μm以下のメジアン粒径D50、0.25以上0.90以下のスパン、および5nm以上200nm以下の、好ましくは少なくとも10nmかつ200nm以下の表面層厚さを有し、
前記表面層は:
-正極活物質粉末の全重量に対して、0.150重量%以上0.375重量%以下の含有量の硫黄と、
-4500ppm以上11250ppm以下の含有量の硫酸イオン(SO4
2-)と、を含む。
【0021】
好ましくは、表面層は50nm~200nm、より好ましくは100nm~200nm、最も好ましくは10nm~150nmの厚さを有する。
【0022】
より好ましくは、0.70≦z≦0.90である。
【0023】
任意で、この実施形態1の正極活物質粉末は、0.85超1.00以下である硫酸イオン表面被覆率S1/S2を有するリチウム遷移金属系酸化物粒子を含み、S1はリチウム遷移金属系酸化物粒子の表面層に含まれる硫酸イオンの量であり、S2は正極活物質粉末中の硫酸イオンの総量である。
【0024】
Aの源は、前駆体調製の共沈ステップの間にスラリー中に供給することができ、又はその後、調製された前駆体とブレンドし、続いて加熱することができる。例えば、Aの源は、硝酸塩、酸化物、硫酸塩、又は炭酸塩化合物であり得るが、これらの例に限定されない。ドーパントは、一般に、正極活物質の性能を向上させるため、例えばリチウムの拡散を支持するため、又は電解質との副反応を抑制するために添加される。ドーパントは一般にコア中に均一に分布している。正極活物質中のドーパントは、誘導結合プラズマ(ICP)法とTEM-EDS(透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)との組合せなどの分析方法の組合せによって同定される。(セクションE参照)。
【0025】
好ましくは、前記リチウム遷移金属系酸化物粒子は、モノリシック又は多結晶形態を有する。モノリシック形態とは、走査型電子顕微鏡(SEM)のような適切な顕微鏡技術で観察される、単一の粒子の形態、又は2つ又は3つの一次粒子からなる二次粒子の形態を意味する。粉末は、SEMによって提供された少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm
2)、好ましくは少なくとも100μm×少なくとも100μm(すなわち、少なくとも10000μm
2)の視野内の粒子数の80%以上がモノリシック形態を有する場合に、モノリシック粉末と呼ばれる。多結晶形態とは、3つ超の一次粒子からなる二次粒子の形態をいう。モノリシック形態及び多結晶形態を有する粒子のSEM画像の例を、それぞれ
図1.1及び
図1.2に示す。
【0026】
正極活物質は、正極において電気化学的に活性な材料として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化を受けたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる材料であることを理解しなければならない。
【0027】
実施形態2
第2の実施形態において、好ましくは実施形態1に従って、前記リチウム遷移金属系酸化物粒子は、さらにアルミニウムを含み、73.0±0.2eV~74.5±0.2eV、好ましくは73.6±0.2eV~74.1±0.2eVの結合エネルギーの範囲にある最大強度を有するAl2pピークを有し、前記強度はXPSスペクトル分析によって得られる。
【0028】
上記範囲のAl2pピークの最大ピーク強度は、表面層の主要なAl形態がLiAlO2であることを示している。Al2pピークの最大ピーク強度が73.0eVから、好ましくは73.6eV~74.5eV、好ましくは74.1eVの範囲にあるhN(M)C化合物は、表3及び表5に示すように、電池に使用した場合に、より高い比容量及びより良好な不可逆容量を示す。
【0029】
実施形態3
第3の実施形態では、好ましくは実施形態2に従って、前記リチウム遷移金属系酸化物粒子は、100以上であるAl表面被覆率A1/A2を有し、A1は表面層に含まれる元素Al、Ni、Mn、Co及びSの原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、前記原子比A1はXPSスペクトル分析により得られ、A2はICPによって得られる原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)である。
【0030】
A1は、次のステップを含む以下の方法により得られる:
1)リチウム遷移金属系酸化物粒子のXPSスペクトルを取得するステップと;
2)LiM''1-aAlaO2(Alピーク1;領域1)、LiAlO2(Alピーク2;領域2)、及びAl2O3(Alピーク3;領域3)化合物にそれぞれ割り当てられた3つのそれぞれの領域(領域1、領域2、領域3)を有する3つの特徴的なピーク(Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3)を同定するために、前記XPSスペクトルを逆畳み込むするステップと;
3)前記3つの特徴的なピークの領域(1~3)を合計してAl2pピーク領域の合計値を計算するステップと;
4)Al2pピーク領域の前記値を原子比A1(at%/at%)=(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S))に変換するステップと。
【0031】
ステップ4)は、次のステップを含む以下の方法により得られる:
a)各元素のピーク領域が得られるように、Ni、Mn、Co及びSの一次XPSピークを、スマートバックグラウンド機能を備えたThermo Scientific Avantageソフトウェアを用いてフィッティングするステップと;
b)Thermo Scientific Avantageソフトウェア及びScofield相対感度ライブラリを用いて、ステップ4 a)で得られたNi、Mn、Co及びSのピーク領域と、ステップ3)で得られたAlのピーク領域をat%に変換するステップと;
c)前記Al2pat%を、Alat%の値をNi,Mn,Co,Al及びSat%の合計で除してA1に変換するステップと。
【0032】
Al表面被覆率A1/A2の値が少なくとも100であることは、表面層に含まれるAlの均一な空間分布が存在することを示す。実施例1に示すように、表面層にAlが均一に分布しているhN(M)C化合物は、表3及び表5に実証されるように、電池に用いた場合に、より高い比容量及びより良好な不可逆容量を示す。
【0033】
実施形態4
第4の実施形態において、好ましくは実施形態2又は3に従って、前記リチウム遷移金属系酸化物粒子は、粉末の全重量に対して、0.05重量%以上0.15重量%以下のアルミニウム含有量を有する。
【0034】
実施形態5
第5の実施形態において、好ましくは実施形態2~4のいずれかに従って、リチウム遷移金属系酸化物粒子の前記表面層は、LiAlO2相と、M''がNi、Mn及びCoを含むLiM''1-aAlaO2とを含む。
【0035】
表面層中のLiAlO2相(原子)含有量は、正極活物質粉末中のM'の全原子含有量に対して、0.10at%以上かつ0.30at%以下である。
【0036】
表面層中のLiM''1-aAlaO2相(原子)含有量は、正極活物質粉末中のM'の全原子含有量に対して、0at%以上0.14at%未満である。
【0037】
表3及び4は、LiM''1-aAlaO2相の原子含有量が0.14at%以上であると、例えばCEX1.4による化合物を用いた電池性能が劣化することを示している。
【0038】
本発明のフレームワークにおいて、相は化合物に関連していることを理解しなければならない。このような文脈では、表面層に含まれる少なくとも19at%、56at%以下のアルミニウムの含有量が、前記表面層のLiAlO2相に含まれ、それゆえLiAlO2化合物を構成する元素として前記表面層に存在することを意味する。
【0039】
また、表面層に含まれるアルミニウムの含有量の最大26at%が前記表面層のLiM''1-aAlaO2相に含まれる。
【0040】
本発明のフレームワークでは、「アルミニウム」との用語は、実施形態5に係る正極活物質化合物におけるアルミニウム原子又はアルミニウム元素(元素アルミニウムともいう)の存在を指す。
LiAlO2相とLiM''1-aAlaO2相のそれぞれの量は、実施形態3で記載したステップ4)a~c)に従って得られる。
【0041】
実施形態6
第6の実施形態では、好ましくは実施形態1から5のいずれかに従って、前記正極活物質粉末は、200ppm未満の炭素含有量を有する。
【0042】
正極活物質粉末が電池の電解質と接触しているとき、高い炭素含有量(例えば、200ppm超)は、サイクル中の副反応に関連するので、低い炭素含有量(例えば、200ppm以下)を有するhN(M)C化合物は、電池内でサイクルされたときに、良好な不可逆容量など(それに限定されないが)の改善された電気化学的性能につながる。
【0043】
実施形態7
第7の実施形態において、好ましくは先行する実施形態のいずれかに従って、正極活物質粉末は、以下の一般式を有する:Li1+a'((Niz'Mny'Cox'AlvSw)1-kAk)1-a'O2、ただし、Aのみがドーパントであり、0.60≦z'<0.90、0.05≦y'≦0.20、0.05≦x'≦0.20、x'+y'+z'+v+w+k=1、0.0018≦v≦0.0053、0.006≦w≦0.012、-0.05≦a'≦0.05及びk≦0.01。
【0044】
より好ましくは、0.70≦z'≦0.90である。
【0045】
実施形態8
第8の実施形態において、好ましくは先行する実施形態のいずれかに従って、Aは、以下の元素のうちのいずれか1つ以上である:Al、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y及びTi。別の実施形態では、Aの各元素の量は、正極活物質粉末の全重量に対して100ppm超である。
【0046】
実施形態9
第9の実施形態において、好ましくは先の実施形態のいずれかに従って、コアは、S元素及び/又はAl元素を含まない。
【0047】
実施形態10
第10の実施形態において、好ましくは先の実施形態のいずれかに従って、表面層の(最小の)厚さは、粒子の断面の周辺に位置する第1の点と、前記第1の点と前記粒子の幾何学的中心(又は重心)との間に定義される線内に位置する第2の点との間の最短距離として定義され、前記第2の点位置(S2)で、及び前記第2の点位置と粒子の中心との間の任意の位置でTEM-EDS(セクションE参照)によって測定されるSの含有量は、0at%±0.1at%である。
【0048】
第2の点位置(S2)におけるSの含有量は一定であり:それは0at%超であり得、かつ第1の点位置(S1)におけるSの第1の含有量の5.0%以下でなければならず、S2の前記第2の含有量は前記線における第3の点位置(S3)におけるSの含有量に等しく、前記第3の点は前記粒子の幾何学的中心と第2の点位置との間の任意の位置に位置する。
【0049】
換言すれば、表面層の厚さは、以下のいずれかで定義される最小距離Dに対応する:
【数2】
ここで、L
S1は、
図2に示すように、粒子の周辺における第1の点位置であり、L
S2は、前記第1の点位置と前記粒子の幾何学的中心との間に定義される線における第2の点位置であり、
ここで、Sの第2の含有量は、第2の点位置L
S2でTEM-EDSによって測定され、0at%以上であり、第1の点位置で測定されたSの第1の含有量(S
1)未満であり、Sの第2の含有量(S
2)は以下のように定義される:
【数3】
S
3は、前記線における第3の点位置(LS
3)におけるSの第3の含有量(at%)であり、前記第3の点は、前記粒子の幾何学的中心と第2の点位置L
S2との間の任意の位置に位置する。
【0050】
S2及びS3が0.0at%超である場合、Sの第2の及び第3の含有量は、本発明による粒子のコア中にドーパントとして存在する、TEM-EDSによって測定されるSの含有量に対応する。
【0051】
TEM-EDSプロトコルは次のように適用される:
1)リチウム遷移金属系酸化物粒子の断面TEMラメラを、粒子サンプルをGaイオンビームを用いて切断することにより抽出して、調製されたサンプルを得る。
2)調製されたサンプル(粒子の断面)は、表面層の外縁からリチウム遷移金属系酸化物粒子の中心まで、TEM/EDSラインスキャンによって走査されて、断面の定量的元素分析を提供する。
3)EDSで検出したAlとSの含有量はM*で規格化した(M*は走査されたラメラ中のNi,Mn,Co,Al,Sの全原子である)。
4)次いで、Al/M*及びS/M*の測定されたラインスキャンを、前記粒子の断面における直線距離の関数としてプロットする。
【0052】
上述したステップ1)~4)を、分析する粒子の数だけ繰り返す。
【0053】
上述したTEM-EDS測定は、少なくとも1つの粒子について行われる。二つ以上の粒子を測定したとき、Al/M*とS/M*を数値的に平均した。
【0054】
実施形態11
第11の実施形態において、好ましくは実施形態10に従って、Alは表面層中に以下のように定義される含有量で存在する:
【数4】
ここで:
【数5】
は、ICPによって測定された粉末中のM
*含有量に対するAl含有量の原子比であり、M
*はNi、Mn、Co、Al及びSの全原子含有量であり、
【数6】
ここで:
-Al
surfaceは、EDSによって測定された表面層中のat%におけるAlの含有量であり;
-Al
totalは、EDSにより測定した前記粉末の粒子中のat%におけるAlの全含有量であり;
-領域1(Area1)は、Dに対する断面TEM-EDSで測定したAl/M
*含有量の積分である:
【数7】
であり、ここで:
-Al(x)は、断面TEM EDSにより測定された断面粒子のx点におけるAlの原子含有量であり、
-M
*(x)は、断面TEM EDSにより測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al及びSの原子含有量であり、
-xは、前記第1の点位置と第2の点位置との間でTEMによって測定した、nmで表される距離であり、
-領域2(Area2)は、距離Cにわたって断面SEM EDSによって測定されたAl/M
*含有量の積分である:
【数8】
であり、ここで:
-Al(x)は、断面TEM EDSにより測定された断面粒子のx点におけるAlの原子含有量であり、
-M
*(x)は、断面TEM EDSにより測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al及びSの原子含有量であり、
-xは、前記第1の点位置(x=0nm)と前記粒子の幾何学的中心(x=C)との間のTEMによって測定されたnmで表される距離であり、Cは好ましくは2.5μmから7.5μmの範囲である。
【0055】
上述した実施形態1~11は全て組み合わせることができる。
【0056】
本発明は、電池において、先行する実施形態1~11のいずれかに記載の正極活物質粉末の使用に関する。
【0057】
また、本発明は、先行する実施形態1~11のいずれかに記載の正極活物質粉末を製造するためのプロセスを含み、以下のステップを含む:
-リチウム遷移金属系酸化物化合物を調製するステップと、
-前記リチウム遷移金属系酸化物化合物と、硫酸イオン源、好ましくはAl2(SO4)3と、水とを混合し、それによって混合物を得るステップと、
-本発明による正極活物質粉末を得るために、350℃以上500℃未満、好ましくは450℃以下の温度で、1時間以上10時間以下の時間、炉内で酸化雰囲気中で混合物を加熱するステップと。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1.1】モノリシック形態を有する粒子のSEM画像
【
図2】正極活物質粒子断面の模式図であり、L
S1は粒子の周辺における第1の点位置であり、L
S2は前記粒子の幾何学的中心とL
S1との間の仮想ラインにおける第2の点位置である。Dは、L
S1とL
S2との間の距離として定義される表面層の厚さである。(実施形態10を参照)。
【
図3.1】フィッティングプロセス前のCEX1.2のXPS Alピーク逆畳み込み(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)
【
図3.2】フィッティングプロセス後のCEX1.2のXPS Alピーク逆畳み込み(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)
【
図4】EX1、CEX1.1、CEX1.2及びCEX1.4のAl2p及びNi3p XPSスペクトル(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)
【
図5.1】CEX1.2のS/M
*のTEM-EDS分析結果(x軸:表面層の始点を0とした距離、y軸:原子比における元素)
【
図5.2】CEX1.2のAl/M
*のTEM-EDS分析結果(x軸:表面層の始点を0とした距離、y軸:原子比における元素)
【
図6】実施例及び比較例のDQ1に対する表面層中の硫黄含有量を示すグラフであり、Bは表面処理前を示し、Aは表面処理後を示す(x軸:表面中のS
*含有量(重量%)、y軸:DQ1(mAh/g))
【発明を実施するための形態】
【0059】
図面及び以下の詳細な説明において、好ましい実施形態は、本発明の実施を可能にするように記載される。本発明をこれらの特定の好ましい実施形態を参照して説明するが、本発明はこれらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されるであろう。本発明は、以下の詳細な説明及び添付の図面を考慮することから明らかな多数の代替物、修正物及び等価物を含む。
【0060】
A)ICP分析
正極活物質粉末のLi、Ni、Mn、Co、Al及びSの含有量は、Agillent ICP 720-ESを用いた誘導結合プラズマ(ICP)法により測定した。生成物粉末サンプル2gをエルレンマイヤーフラスコ中で高純度塩酸10mLに溶解する。フラスコをガラスで覆い、前駆体が完全に溶解するまでホットプレート上で380℃で加熱する。室温に冷却した後、エルレンマイヤーフラスコの溶液を250mLのメスフラスコに注ぐ。その後、メスフラスコを250mLマークまで脱イオン水で満たし、完全に均一化する。適当な量の溶液をピペットでとり、250mLのメスフラスコに移して2次希釈し、メスフラスコを内標準物質及び10%塩酸で250mLマークまで満たし、次いで均一化する。最後に、この50mL溶液をICP測定に用いる。Ni,Mn,Co,Al及びSの総量に対するAlの原子比(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)(at%))をA2と名付ける。
S2と呼ばれる粉末全体の硫酸イオン(SO
4
2-)の量は、次式によって求められる:
【数9】
*MWSO
4/MW
Sは、SO
4の分子量をS元素の分子量で除した値であり、2.996値である。
【0061】
本発明に係るリチウム遷移金属系酸化物粒子の表面のS含有量を調べるために、洗浄及びろ過プロセスを行う。正極活物質粉末5gと超純水100gをビーカーにおいて測定する。電極活物質粉末を、マグネチックスターラーを用いて25℃の水中に5分間分散させる。分散液を真空ろ過し、上記ICP測定によりろ過溶液を分析して表面層中に存在するSの量を求める。洗浄およびろ過プロセス後の洗浄粉末中の残存Sの量をドーパントとし、洗浄およびろ過プロセス後の洗浄粉末から除去されたSの量を表面層中に存在するSの量とする。粒子表面層中の硫酸イオン(SO4
2-)の量は、この分析からのSの量に2.996及び10000ppmを乗じて得られ、これをS1と称する。硫酸イオン表面被覆率S1/S2は、S1をS2で割ることによって計算される。
【0062】
B)X線光電子分光分析
本発明では、X線光電子分光法(XPS)を用いて、本発明によるカソード材料粒子の表面層に存在するAl系化合物又は相のそれぞれの含有量(at%)を同定し、決定する。
【0063】
そのような同定は、i)XPSによって同定されたAl2pピークのフィッティング(セクションB2-XPSピーク処理を参照)、次いでii)Al2pピークのフィッティングによって同定された各化合物の表面層中の含有量を計算することによる定量的相分析(セクションB3-Al系化合物の含有量)を行うことを含む。
【0064】
また、本発明のフレームワークでは、XPSを用いて、本発明による粒子の表面層における前記Al分布の均一性の度合いを示すAl表面被覆率を測定する。
【0065】
以下に示す手順は、本発明による及び本明細書に記載する比較例による任意のカソード材料に適用可能である。
【0066】
B1)XPS測定条件
リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面分析のために、Thermo K-α+(Thermo Scientific)分光計を用いてXPS測定を行った。単色Al Kα放射線(hu=1486.6eV)を、400μmのスポットサイズと45°の測定角度で用いた。表面に存在する元素を同定するための広い探査走査を200eVの通過エネルギーで行った。284.8eVに最大強度(又は中心)を有するC1sピークをデータ収集後の較正ピーク位置として使用する。正確な表面組成を決定するために、同定された各元素について少なくとも10回の走査に対して、50eVで正確な狭い走査がその後行われる。
【0067】
B2)XPSピーク処理
XPS測定では、信号はサンプル表面層の最初の数ナノメートル(例えば、1nm~10nm)から得られる。従って、XPSで測定したすべての元素は表面層に含まれている。従って、表面層は同定された相の均一な分布を持つと仮定した。
【0068】
XPS生データの定量的相分析は、XPSピークの逆畳み込みと逆畳み込みピークへの既存のAl系化合物の寄与の決定につながるXPS信号の処理に基づいている。
【0069】
XPSピーク逆畳み込みを行い、調べた正極活物質粒子の表面層におけるLiM''1-aAlaO2、LiAlO2及びAl2O3を含む原子状Al系化合物の異なる寄与を得た。Al2O3化合物は、第1の焼結したリチウム遷移金属系酸化物化合物のリチウムと反応していないAl2(SO4)3を加熱することにより得られる。
【0070】
本発明の正極活物質粉末について測定されるXPSピークは、本質的に、結合エネルギーの狭い範囲内に位置する複数のサブピークの組み合わせである。結合エネルギーが70eVから79eVまでの範囲で現れる(又は中心にある)最大強度を持つAl2pピークは、異なるAl含有化合物の異なるサブピークからの寄与からなる。各サブピークの場所(最大強度の位置)は、互いに異なる。
【0071】
本発明におけるXPSピーク逆畳み込みプロセスを含むXPS信号処理は、以下に示すステップに従う:
ステップ1)線形関数によるバックグラウンドの除去、
ステップ2)フィッティングモデルの方程式を決定するステップ、
ステップ3)フィッティングモデルの方程式における変数の制約を決定するステップ、
ステップ4)計算前に変数の初期値を決定するステップ、
ステップ5)計算を実行するステップ。
【0072】
ステップ1)線形関数によるバックグラウンドの除去
本発明において、XPS信号処理は、65±0.5eV~85±0.5eVの範囲のAl2pの狭い走査のスペクトルを用いて行われ、このスペクトルは、70eV~85eVの範囲の最大強度(又は中心)を有するAl2pピークを含み、Ni3pピークと重なり合い、これらのピークの各々は65eV~71eVの範囲の最大強度(又は中心)を有する。測定されたデータ点のバックグラウンドは65.0±0.5eVから81.5±0.5eVの範囲で直線的にベースライン化される。
【0073】
ステップ2)フィッティングモデルの方程式を決定するステップ
65.0±0.5eVから81.5±0.5eVの範囲の最大強度を有するNi3pピークの4つのサブピークとAl2pピークの3つのサブピークがある。これらのピークは、Ni3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、Ni3p2サテライト、Alピーク1、Alピーク2及びAlピーク3として標識される。サテライトピークは、その一次ピークより数eV高い結合エネルギーで現れる小さな付加的ピークである。それは、XPS装置のアノード材料からのろ過されていないX線源と関連している。Alピーク1~3は粒子表面層に存在する化合物に対応し、それぞれi)LiM''1-aAlaO2,ii)LiAlO2,iii)Al2O3相に関係する。
表1.1は、LiM''1-aAlaO2、LiAlO2及びAl2O3相の最大ピーク強度位置範囲の基準を示す。Alピーク1の結合エネルギーの範囲は、構造中にドープされたAlの量によって変化する。
【0074】
【0075】
フィッティングモデルの方程式は、XPSピークフィッティングに通常用いられるGauss関数とLorentz関数の組合せである擬Voigt方程式に従う。式は次のとおりである:
【数10】
ここで、y
o=オフセット、x
c=サブピークの中心位置、A'=サブピークの領域、w=サブピークの幅(半値全幅またはFWHM)、m
u=プロファイル形状係数である。
【0076】
ステップ3)フィッティングモデルの方程式における変数の制約を決定するステップ
5つの変数(y0、xc、A'、w、mu)の制約について以下に説明する:
-y0(オフセット):
全7つのサブピークのy0は0である。
-xc(サブピークの中心位置):
Ni3p1のXc≧66.0eV;
Ni3p1のXc≦Ni3p1サテライトのXc-0.7eV;
Ni3p1サテライトのXc≦Ni3p2のXc-0.7eV;
Ni3p2のXc≦72eV
Ni3p2のXc≦Ni3p2サテライトのXc-0.7eV;
72.3eV≦Alピーク1のXc≦73.3eV;
73.5eV≦Alピーク2のXc≦73.9eV;及び
73.9eV≦Alピーク3のXc≦74.3eV。
【0077】
Alピーク1~3のXcの範囲は、Chem. Mater. Vol. 19, No. 23, 5748-5757, 2007;J. Electrochem. Soc., 154 (12) A1088-1099, 2007;及びChem. Mater. Vol. 21, No.23, 5607-5616, 2009から決定される。
-A'(サブピークの領域):
Ni3p1のA'*0.1≦Ni3p1サテライトのA'*1.2≦Ni3p1のA';
Ni3p2のA'*0.1≦Ni3p2サテライトのA';及び
全7サブピークのA'は1.0超である。
-w(サブピークの幅):
1.2≦w≦1.8
-Mu(プロファイル形状係数):
0.1≦mu≦0.9
【0078】
ステップ4)計算前に変数の初期値を決定するステップ
変数の初期値が次の手順で得られる場合、サブピークをフィッティングするための計算は再現可能である。
1)y
0、w、muの初期値が、それぞれ0.0、1.5、0.7に設定される。
2)サブピークNi3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、Ni3p2サテライト、Alピーク1、Alピーク2及びAlピーク3のx
cの初期値は、それぞれ67.0eV、68.0eV、69.0eV、70.0eV、73.0eV、73.7eV及び74.3eVである。
3)サブピークNi3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、及びNi3p2サテライトのA'の初期値は、以下の追加手順によって得られる:
3.a)Ni3p1のサブピークのA'は、Ni3pピークの最大ピーク強度に1.5倍したものであり、ピークの形状は3eVを底とする三角形として推定される。
3.b)Ni3p2のサブピークのA′は、Ni3p1のそれの60%である。
3.c)Ni3p1サテライトのサブピークのA'は、Ni3p1のそれの80%である。
3.d)Ni3p2サテライトのサブピークのA′は、Ni3p2のそれの80%である。
4)サブピークAlピーク1、Alピーク2及びAlピーク3のA'の初期値は、以下の手順で得られる:
4.a)Al2pの3つのサブピークのA'値は、次式に従って計算される:
【数11】
【0079】
分割因子(FF)はx
o~x
n(x
o=72.8eV、x
n=74.6eV)の範囲におけるAl2pの三つのサブピークのx
cの関数である。Alピーク1の強度はx
nからx
oに直線的に減少する。
4.b)Alピーク3の強度はx
nからx
oに直線的に増加する。従って、Alピーク1とAlピーク3との間に位置するAlピーク2の強度は、その中心73.7eVで最大強度を有する。各サブピークの分割因子(FF)は、以下の式に従って計算される:
【数12】
【0080】
推定領域は、Al2pピーク*2.5の最大ピーク強度であり、ピークの形状は5eVを底とする三角形として推定される。
【0081】
4.c)正規化因子(NF)を加えて、サブピークが合計されるときに、計算された合計ピークから重複領域を減算する。ピーク領域(A')式(分割因子と推定領域)の最初の2つの成分は、計算された強度を過度に高くするいくつかの重複領域を含むため、これは重要である。計算法では、サブピークは高さtと底bをもつ三角形のように考えられるように単純化した。
【0082】
最大強度の場所はAlピーク1、Alピーク2及びAlピーク3に対してx
cであり、それぞれ73.0eV,73.7eV及び74.3eVである。すべてのサブピークは同じ大きさと形を持ち、ベースは3eVに設定した。各サブピークの正規化因子は次のように計算される:
【数13】
【0083】
表1.2にEX1に関する変数の初期値の例を示す。
【0084】
【0085】
ステップ5)計算を実行するステップ
ピーク逆畳み込みプロセスは、Microsoft Excelソフトウェアバージョン1808に組み込まれたSolverツールによって支援される。ターゲットセルの最小値がSolver計算の目標として設定される。ターゲットセルは、測定された曲線と計算された曲線との差の二乗和を返す。測定された曲線と計算された曲線との相関係数が99.5%以上になった時点で計算を終了する。数が100%に近い場合は、計算された曲線の形状が測定された曲線の形状と厳密に一致していることを示す。そうでなければ、目標の最小値に達するために反復が続けられる。
【0086】
フィッティングプロセス前後のEX1のAl2pピークをそれぞれ
図3.1(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)及び
図3.2(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)に示す。計算された変数の結果を表1.3に示す。
【0087】
【0088】
B3)同定されたAlサブピーク1~3にリンクするAl系化合物の含有量
各AlサブピークのA'(領域)の比は、各Alサブピークの領域を3つ全てのAlサブピークの領域の合計で割ることによって、表面層中の対応するAl化合物間の相対原子比に直接変換される。次に、正極活物質粉末中のM'の全原子含有量に対して、LiM''1-aAlaO2、LiAlO2及びAl2O3を添加する。
【0089】
例えば、Alピーク1(LiM''1-aAlaO2)の相対原子比は:Alピーク2(LiAlO2):表1.2に基づいて、EX1の表面層におけるAlピーク3(Al2O3)は、14.0at%:36.2at%:49.8at%である。アルミニウムの全含有量はEX1の表面層に含まれており、ICP分析により求められるので、正極活物質粉末のM'の全原子含有量に対するLiM''1-aAlaO2、LiAlO2及びAl2O3の量は、正極活物質粉末中のAl/M'の原子百分率(ICPで測定)と各Alサブピークの相対原子比(XPSで測定)を乗じて求められる。例えば、EX1中のLiAlO2の量は、0.367(at%)(Al/M')×36.2%(LiAlO2/(LiM''1-aAlaO2+LiAlO2+Al2O3)=0.13at%である。
【0090】
B4)XPSピーク積分及び被覆率
Al2pを除く他の元素のすべての一次ピークは、スマートバックグラウンド機能を持つThermo Scientific Avantageソフトウェアを用いてフィッティングさせた。スマートバックグラウンドはShirley型ベースラインであり、バックグラウンド強度はデータ点強度より低くなければならないという制約がある。B2)XPS逆畳み込みプロセスにおけるAlピーク1、Alピーク2及びAlピーク3の領域の和として、Al2pピーク積分領域を計算する。積分ピーク領域から原子分率を計算するためにScofield相対感度ライブラリを用いた。Ni,Mn,Co,Al及びSの総量に対するAlの原子比(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)(at%/at%)をA1と名付ける。
【0091】
Al表面被覆率は、XPSで測定した粒子(A1)の表面上のAlの割合を、ICPで測定した粒子(A2)中のAlの割合で割った値として計算される。
正極活物質のAlによる表面被覆率は以下のように計算される:
【数14】
ここで、M
*は正極活物質粒子のNi、Mn、Co、Al及びSの全原子割合である。
【0092】
Alによる表面被覆率は、アルミニウムによる正極活物質粒子の被覆率の度合いを示す。Al表面被覆率値が高い場合、Al化合物は均一な分布で表面を被覆する。
【0093】
C)炭素測定
正極活物質粉末の炭素含有量はHoriba EMIA-320V炭素/硫黄分析器で測定する。1gのhNMC粉末を高周波誘導炉内のセラミックるつぼに入れる。促進剤としてタングステン1.5gとスズ0.3gをるつぼに加える。粉末はプログラム可能な温度で加熱される。燃焼中に生成されたガスは、次に4つの赤外線検出器によって分析される。低及び高CO2及びCOの分析は炭素濃度を決定する。
【0094】
D)PSD測定
粒径分布(PSD)は、粉末を水性媒体中に分散させた後、Hydro MV湿式分散アクセサリを備えるMalvern Mastersizer 3000を用いて測定される。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射と撹拌を行い、適切な界面活性剤を導入した。D10、D50及びD90は、累積体積%分布の10%、50%及び90%における粒径として定義される。スパンは、スパン=(D90-D10)/D50として定義される。
【0095】
E)TEM-EDS測定
リチウム遷移金属系酸化物粒子内のAl及びS分布を調べるために、Helios Nanolab 450 hp Dual Beam Scanning Electron Microscope-Focused Ion Beam(SEM-FIB)(FEI,USA,https://www.nanolabtechnologies.com/helios-nanolab-450-fei/)によって粒子の断面TEMラメラが調製される。Gaイオンビームを30kV電圧と30pA-7nA電流で用いた。得られたエッチングしたサンプルの寸法は5×8μm、厚さ100nmであった。調製した(エッチングした)サンプルを用いて、リチウム遷移金属系酸化物粒子の上部から中心までの表面特性をTEMとエネルギー分散X線分光法(EDS)により分析した。TEM-EDSラインスキャンは、JEM-2100F(JEOL,https://www.jeol.co.jp/en/products/detail/JEM-2100F.html)とX-MaxN 80T(Oxford instrument,https://nano.oxinst.com/products/x-max/x-max)で行った。リチウム遷移金属系酸化物粒子のEDS分析は、断面の定量的元素分析を提供する。AlとSはM*で規格化され、M*はNi,Mn,Co,Al及びSの全原子割合である。
【0096】
粒子の断面における直線距離の関数としての測定されたAl/M*とS/M*のラインスキャンは、EDSの固有分析誤差を緩和するために、Origin 9.1ソフトウェアを用いて20点のSavitzhky-Goslayフィルターで平滑化される。
【0097】
F)コインセル試験
F1)コインセル調製
正極を調製するために、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極活物質粉末、導体(Super P,Timcal)、バインダー(KF#9305,Kureha)を(90:5:5の重量比で調合して)含むスラリーを高速ホモジナイザーにより調製する。均一化したスラリーを、230μmギャップを有するドクターブレードコーターを使用してアルミニウム箔の片面に塗布する。スラリーコーティングされた箔を120℃のオーブン中で乾燥し、次にカレンダーツールを用いてプレスする。次に、再び真空オーブン中で乾燥させて、電極膜中の残存溶媒を完全に除去する。コインセルはアルゴンを満たしたグローブボックス内で組み立てられる。セパレータ(セルガード2320)は、正極と、負極として使用されるリチウム箔の一部との間に配置される。EC/DMC(1:2)中の1M LiPF6を電解質として用い、セパレータと電極の間に滴下した。次に、コインセルを完全に密閉して、電解質の漏れを防止する。
【0098】
F2)試験方法
試験方法は、従来の「一定カットオフ電圧」試験である。本発明における従来のコインセル試験は、表2に示すスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピューター制御定電流サイクリングステーション(Toyo製)を用いて25℃でサイクリングする。
スケジュールは、220mA/gの1C電流定義を使用する。初期充電容量(CQ1)と放電容量(DQ1)を、定電流モード(CC)で、4.3V~3.0V/Li金属窓領域で、0.1CのCレートで測定した。
不可逆容量IRRQは次のように%で表される:
【数15】
【0099】
【0100】
G)結果
本発明は、以下の(非限定的な)実施例によってさらに説明される。
【0101】
実施例1
式Li1+a(Ni0.80Mn0.10Co0.10)1-aO2及び1.24のスパンを有する多結晶hNMC生成物(CEX1.1)が、以下のように作動するリチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスによって得られる。
1)共沈:金属組成M'=Ni0.80Mn0.10Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体M'O0.24(OH)1.76を、混合ニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム及びアンモニアを用いて、大規模連続撹拌タンク反応器(CSTR)における共沈プロセスによって調製する。遷移金属系水酸化物前駆体は、12.0μmのD50、及び1.24のスパンを有する。
2)ブレンド:遷移金属系水酸化物及びリチウム源としてのLiOHは、工業的なブレンド装置において1.01のリチウム対金属M'(Li/M')比で均一にブレンドされる。
3)第1焼結:ブレンドは酸素雰囲気下、730°Cで12時間焼結される。この焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、焼結中間生成物を得る。
4)第2焼結:中間生成物を酸素雰囲気下、830℃で12時間焼結し、一次粒子が凝集した焼結粉末を得る。焼結粉末を粉砕し、分級し、篩い分けして、M'=Ni0.80Mn0.10Co0.10である式Li1.005M'0.995O2(a=0.005)を有するCEX1.1を得る。CEX1.1は12.0μmのD50、及び1.24のスパンを有する。CEX1.1は、ステップ1)共沈プロセスにおいて金属硫酸塩源から得られる微量の硫黄を含む。
【0102】
任意で、ドーパント源が、ステップ1)の共沈プロセスにおいて、又は、リチウム源と共にステップ2)のブレンドステップにおいて添加され得る。ドーパントは、例えば、正極活物質粉末生成物の電気化学的特性を改善するために添加することができる。
【0103】
CEX1.1は本発明によるものではない。
【0104】
本発明に従わないCEX1.2は、以下の手順によって調製される。1kgのCEX1.1を、11.68gのAl2(SO4)3・16H2Oを29.66mLの脱イオン水に溶解して調製した、アルミニウム及び硫酸イオン溶液とブレンドする。調製したブレンドは酸素雰囲気下で375℃で8時間加熱される。加熱後、粉末を粉砕、分級、篩い分けしてCEX1.2を得る。従って、hNMC化合物、CEX1.2は、CEX1.2の全重量に対して約1000ppmのAlを含有する。CEX1.1からのCEX1.2の調製はまた、本発明のフレームワークにおいて、表面処理とも呼ばれる。
【0105】
式Li1+a(Ni0.80Mn0.10Co0.10)1-aO2及び0.65のスパンを有する多結晶hNMC生成物(CEX1.3)が、以下のように作動するリチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスによって得られる。
1)共沈:金属組成M'=Ni0.80Mn0.10Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体M'O0.24(OH)1.76を、手動の逆供給プロセスを用いて連続撹拌タンク反応器(CSTR)における共沈プロセスによって調製する。CSTRの温度は60℃に固定した。2M M'SO4溶液(M'=Ni0.80Mn0.10Co0.10)、10M NaOH溶液及び12M NH4OH溶液をそれぞれ2L/時、0.9L/時及び0.4L/時の流量で10L反応器に3時間の滞留時間で連続的に供給した。CSTRを、1000rpmで羽根車を通して連続的に撹拌する。前駆体スラリーは、各時間でオーバーフローを通して収集される。収集された前駆体スラリーを沈降させ、2.8Lの透明な母液を捨てる。残りの0.5Lの厚さのスラリーは、各時間で手動でCSTRに逆供給される。この過程で、CSTR内部の前駆体のPSDを測定した。前駆体のD50粒径が11μmに達すると、毎回5Lの前駆体スラリーが収集される。収集された前駆体スラリーをろ過し、脱イオン水で洗浄した後、N2雰囲気下、150℃で20時間乾燥して、11.7μmのD50及び0.65のスパンを有する遷移金属系水酸化物前駆体を得る。
2)予備加熱:遷移金属系水酸化物前駆体を365℃で空気中で10時間予備加熱して、遷移金属系酸化物前駆体を得る。
3)ブレンド:遷移金属系酸化物及びリチウム源としてのLiOHは、工業的なブレンド装置において1.01のリチウム対金属M'(Li/M')比で均一にブレンドされる。
4)第1焼結:ブレンドは酸素雰囲気下、730°Cで12時間焼結される。この焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、焼結中間生成物を得る。
5)第2焼結:中間生成物を酸素雰囲気下、830℃で12時間焼結し、一次粒子が凝集した焼結粉末を得る。焼結粉末を粉砕し、分級し、篩い分けして、M'=Ni0.80Mn0.10Co0.10である式Li1.005M'0.995O2(a=0.005)を有するCEX1.3を得る。CEX1.3は11.7μmのD50、及び0.65のスパンを有する。CEX1.3は、ステップ1)共沈プロセスにおいて金属硫酸塩源から得られる微量の硫黄を含む。
【0106】
CEX1.3は本発明によるものではない。
【0107】
CEX1.1の代わりに0.65のスパンを有するCEX1.3を用い、表面処理プロセスの加熱温度を375℃の代わりに400℃とした以外は、CEX1.2と同様の方法でEX1を調製した。
【0108】
EX1は本発明によるものである。
【0109】
EX1は多結晶形態を有する。この形態は、第2焼結後(すなわち、実施例1に従ったCEX1.3の製造プロセスのステップ5)及びその後の粉砕、分級及び篩い分けステップの前に、以下のステップ5a及び5bを適用することによって、モノリシック形態に修正することができる:
5a)焼結中間生成物を湿式ボールミルステップに付して、凝集した一次粒子を脱凝集させ、脱凝集した一次粒子を含むスラリーを得るステップと、
5b)集脱凝集された一次粒子をスラリーから分離し、第2の焼結ステップ(4)の温度よりも300℃と少なくとも200℃との間[すなわち、630℃以下]の温度で脱凝集された一次粒子を熱処理することにより、単結晶モノリシック粒子が得られる。
【0110】
多結晶粒子をモノリシック粒子に変換するそのような処理は、WO2019/185349(20ページ11行目から20ページ33行目)のEX1から知られている。
【0111】
CEX1.4は、表面処理プロセスにおける加熱温度が550℃であること以外は、EX1と同様の方法で調製される。CEX1.4は本発明によるものではない。
【0112】
実施例2
式Li1+a(Ni0.83Mn0.07Co0.10)1-aO2及び1.40のスパンを有する多結晶hNMC生成物(CEX2.1)が、以下のように作動するリチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスによって得られる。
1)共沈:金属組成M'=Ni0.825Mn0.075Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体を、混合ニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム及びアンモニアを用いて、大規模連続撹拌タンク反応器(CSTR)における共沈プロセスによって調製する。遷移金属系水酸化物は、11.8μmのD50、及び1.40のスパンを有する。
2)ブレンド:遷移金属系水酸化物及びリチウム源としてのLiOHは、工業的なブレンド装置において0.99のリチウム対金属M'(Li/M')比で均一にブレンドされる。
3)第1焼結:ブレンドは酸素雰囲気下、730°Cで12時間焼結される。この焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、焼結中間生成物を得る。
4)第2焼結:中間生成物を酸素雰囲気下、800℃で12時間焼結し、一次粒子が凝集した焼結粉末を得る。この焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、式M'=Ni0.825Mn0.075Co0.10を有するCEX2.1を得る。CEX2.1は11.8μmのD50、及び1.40のスパンを有する。CEX2.1は、ステップ1)共沈プロセスにおいて金属硫酸塩源から得られる微量の硫黄を含む。
【0113】
CEX2.1は本発明によるものではない。
【0114】
本発明に従わないCEX2.2は、CEX1.1の代わりにCEX2.1を使用する以外は、CEX1.2と同様の方法によって調製される。
【0115】
式Li1+a(Ni0.83Mn0.07Co0.10)1-aO2及び0.36のスパンを有する多結晶hNMC粉末(CEX2.3)が、以下のように作動するリチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスによって得られる。
1)共沈:金属組成M'=Ni0.83Mn0.07Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体M'O0.24(OH)1.76を、手動の逆供給プロセスを用いて連続撹拌タンク反応器(CSTR)における共沈プロセスによって調製する。CSTRの温度は60℃に固定した。2M M'SO4溶液(M'=Ni0.83Mn0.07Co0.10)、10M NaOH溶液及び12M NH4OH溶液をそれぞれ2L/時、0.9L/時及び0.4L/時の流量で10L反応器に3時間の滞留時間で連続的に供給した。CSTRを、1000rpmで羽根車を通して連続的に撹拌する。前駆体スラリーは、各時間でオーバーフローを通して収集される。収集された前駆体スラリーを沈降させ、2.8Lの透明な母液を捨てる。残りの0.5Lの厚さのスラリーは、各時間で手動でCSTRに逆供給される。この過程で、CSTR内部の前駆体のPSDを測定した。前駆体のD50粒径が10μmに達すると、毎回5Lの前駆体スラリーが収集される。収集された前駆体スラリーをろ過し、脱イオン水で洗浄した後、N2雰囲気下、150℃で20時間乾燥して、9.3μmのD50及び0.36のスパンを有する遷移金属系水酸化物前駆体を得る。
2)予備加熱:遷移金属系水酸化物前駆体を345℃で空気中で6時間予備加熱して、遷移金属系酸化物前駆体を得る。
3)ブレンド:遷移金属系酸化物及びリチウム源としてのLiOHは、工業的なブレンド装置において1.04のリチウム対金属M'(Li/M')比で均一にブレンドされる。
4)焼結:ブレンドは酸素雰囲気下、790°Cで12時間焼結される。焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、9.3μmのD50、及び0.36のスパンを有するCEX2.3を得る。CEX2.3は、ステップ1)共沈プロセスにおいて金属硫酸塩源から得られる微量の硫黄を含む。
【0116】
CEX2.3は本発明によるものではない。
【0117】
CEX1.1の代わりに9.3μmのD50及び0.36のスパンを有するCEX2.3を使用する以外は、CEX1.2と同様の方法に従ってEX2を調製する。
【0118】
EX2は本発明によるものである。
【0119】
実施例3
式Li1+a(Ni0.86Mn0.05Co0.10)1-aO2及び1.31のスパンを有する多結晶hNMC粉末(CEX3.1)が、以下のように作動するリチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスによって得られる。
1)共沈:金属組成M'=Ni0.86Mn0.05Co0.10及び1.31のスパンを有する遷移金属系水酸化物前駆体を、混合ニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム及びアンモニアを用いて、大規模連続撹拌タンク反応器(CSTR)における共沈プロセスによって調製する。
2)ブレンド:遷移金属系水酸化物及びリチウム源としてのLiOHは、工業的なブレンド装置において1.02のリチウム対金属M'(Li/M')比で均一にブレンドされる。
3)第1焼結:ブレンドは酸素雰囲気下、765°Cで12時間焼結される。焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、一次粒子が凝集した焼結粉末を得る。焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、式M'=Ni0.86Mn0.05Co0.10を有するCEX3.1を得る。CEX3.1は11.3μmのD50、及び1.33のスパンを有する。
【0120】
CEX3.1は本発明によるものではない。
【0121】
本発明に従わないCEX3.2は、CEX1.1の代わりにCEX3.1を使用する以外は、CEX1.2と同様の方法によって調製される。
【0122】
式Li1+a(Ni0.86Mn0.05Co0.10)1-aO2及び0.54のスパンを有する多結晶hNMC生成物(CEX3.3)が、以下のように作動するリチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスによって得られる。
1)共沈:金属組成M'=Ni0.86Mn0.05Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体M'O0.16(OH)1.84を、手動の逆供給プロセスを用いて連続撹拌タンク反応器(CSTR)における共沈プロセスによって調製する。CSTRの温度は60℃に固定した。2M M'SO4溶液(M'=Ni0.86Mn0.05Co0.10)、10M NaOH溶液及び12M NH4OH溶液をそれぞれ2L/時、0.9L/時及び0.4L/時の流量で10L反応器に3時間の滞留時間で連続的に供給した。CSTRを、1000rpmで羽根車を通して連続的に撹拌する。前駆体スラリーは、各時間でオーバーフローを通して収集される。収集された前駆体スラリーを沈降させ、2.8Lの透明な母液を捨てる。残りの0.5Lの厚さのスラリーは、各時間で手動でCSTRに逆供給される。この過程で、CSTR内部の前駆体のPSDを測定した。前駆体のD50粒径が11μmに達すると、毎回5Lの前駆体スラリーが収集される。収集された前駆体スラリーをろ過し、脱イオン水で洗浄した後、N2雰囲気下、150℃で20時間乾燥して、11.2μmのD50及び0.53のスパンを有する遷移金属系水酸化物前駆体を得る。
2)予備加熱:遷移金属系水酸化物前駆体を365℃で空気中で10時間予備加熱して、遷移金属系酸化物前駆体を得る。
3)ブレンド:遷移金属系酸化物及びリチウム源としてのLiOHは、工業的なブレンド装置において1.02のリチウム対金属M'(Li/M')比で均一にブレンドされる。
4)焼結:ブレンドは酸素雰囲気下、765°Cで12時間焼結される。焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、11.2μmのD50、及び0.53のスパンを有するCEX3.3を得る。CEX3.3は、ステップ1)共沈プロセスにおいて金属硫酸塩源から得られる微量の硫黄を含む。
【0123】
CEX3.3は本発明によるものではない。
【0124】
CEX1.1の代わりに0.53のスパンを有するCEX3.3を使用する以外は、CEX1.2と同様の方法に従ってEX3を調製する。
【0125】
EX3は本発明によるものである。
【0126】
実施例4
式Li1+a(Ni0.87Mn0.03Co0.10)1-aO2及び1.41のスパンを有する多結晶hNMC粉末(CEX4.1)が、以下のように作動するリチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスによって得られる。
1)共沈:金属組成M'=Ni0.87Mn0.03Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体を、混合ニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム及びアンモニアを用いて、大規模CSTRにおける共沈プロセスによって調製する。遷移金属系水酸化物は、12.8μmのD50、及び1.41のスパンを有する。
2)ブレンド:遷移金属系水酸化物及びリチウム源としてのLiOH・H2Oは、工業的なブレンド装置において0.99のLi/M'比で均一にブレンドされる。
3)焼結:ブレンドは酸素雰囲気下、755°Cで12時間焼結される。焼結後、焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、12.8μmのD50、及び1.41のスパンを有するCEX4.1を得る。
【0127】
CEX4.1は本発明によるものではない。
【0128】
本発明に従わないCEX4.2は、CEX1.1の代わりにCEX4.1を使用する以外は、CEX1.2と同様の方法によって調製される。
【0129】
式Li1+a(Ni0.87Mn0.03Co0.10)1-aO2及び0.51のスパンを有する多結晶hNMC生成物(CEX4.3)が、以下のように作動するリチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスによって得られる。
1)共沈:金属組成M'=Ni0.87Mn0.03Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体M'O0.16(OH)1.84を、手動の逆供給プロセスを用いて連続撹拌タンク反応器(CSTR)における共沈プロセスによって調製する。CSTRの温度は60℃に固定した。2M M'SO4溶液(M'=Ni0.85Mn0.05Co0.10)、10M NaOH溶液及び12M NH4OH溶液をそれぞれ2L/時、0.9L/時及び0.4L/時の流量で10L反応器に3時間の滞留時間で連続的に供給した。CSTRを、1000rpmで羽根車を通して連続的に撹拌する。前駆体スラリーは、各時間でオーバーフローを通して収集される。収集された前駆体スラリーを沈降させ、2.8Lの透明な母液を捨てる。残りの0.5Lの厚さのスラリーは、各時間で手動でCSTRに逆供給される。この過程で、CSTR内部の前駆体のPSDを測定した。前駆体のD50粒径が10μmに達すると、毎回5Lの前駆体スラリーが収集される。収集された前駆体スラリーをろ過し、脱イオン水で洗浄した後、N2雰囲気下、150℃で20時間乾燥して、9.54μmのD50及び0.51のスパンを有する遷移金属系水酸化物前駆体を得る。
2)予備加熱:遷移金属系水酸化物前駆体を365℃で空気中で10時間予備加熱して、遷移金属系酸化物前駆体を得る。
3)ブレンド:遷移金属系酸化物及びリチウム源としてのLiOHは、工業的なブレンド装置において1.02のリチウム対金属M'(Li/M')比で均一にブレンドされる。
4)焼結:ブレンドは酸素雰囲気下、765°Cで12時間焼結される。焼結粉末を粉砕、分級、篩い分けして、9.54μmのD50、及び0.51のスパンを有するCEX4.3を得る。CEX4.3は、ステップ1)共沈プロセスにおいて金属硫酸塩源から得られる微量の硫黄を含む。
【0130】
CEX4.3は本発明によるものではない。
【0131】
CEX1.1の代わりに0.52のスパンを有するCEX4.3を使用する以外は、CEX1.2と同様の方法に従ってEX4を調製する。
【0132】
EX4は本発明によるものである。
【0133】
表3は、実施例及び比較例の組成、粒径分布及び電気化学的特性をまとめたものである。アルミニウム(Al)、硫黄(S)及び硫酸イオン(SO4
2-)の総量を、セクションA)ICP分析に記載されているように評価する。D50及び粒子のスパンは、D)PSD測定によって測定され、DQ1及びIRRQはセクションF)コインセル試験に記載された方法によって評価される。
【0134】
【0135】
表3における実施例及び比較例の電気化学的特性、ニッケル含有量及びスパンの関係は、
図6のグラフに示されており、ここで、白抜きの記号は表面処理前の比較例であり、塗りつぶしの記号は表面処理後の比較例及び実施例である。セクションA)ICP分析で説明した洗浄手順から得られた表面のS
*含有量を示すx軸。スパンが0.25~0.90の範囲にある正極活物質は、スパンが0.90より大きい正極活物質と比較して、表面処理により高いDQ1改善が得られることが観察される。
【0136】
CEX1.3及びEX1中の炭素含有量はそれぞれ238ppm及び26ppmであり、表面処理後の正極活物質における炭素レベルの改善を実証している。
【0137】
実施例1で調製したhNMC化合物の硫酸イオン表面被覆率を理解するために、セクションA)ICP分析に記載されているように、粉末全体及び表面層中の硫酸イオンの量を調査する。正極活物質粉末の全粉末中のS含有量をICPにより求め、Sの量を硫酸イオンの量に変換して得られた値をS2と定義する。また、hNMC粉末と水の混合物からろ過した溶液をICPで調査した。溶液はリチウム遷移金属系酸化物粒子の表面層から溶解したSを含み、S1と呼ばれる硫酸イオンの量に変換される。最終的に、硫酸イオンの表面被覆率はS1をS2で割って決定した。硫酸イオンの表面被覆率S1/S2が0.85以上であると、正極活物質粉末のコアが硫酸イオンで十分に被覆されるので、C含有量が低減され、電気化学的性能が改善する。
【0138】
本発明においては、hNMC粉末の表面層中のS含有量が0.150wt%~0.375wt%であることが好ましい。すなわち、hNMC粉末の表面層における硫酸イオンの含有量は、4500ppm以上11250ppm以下であることが好ましい。
【0139】
表面層におけるAl化合物とその分布を調査するためにXPS分析を行った。CEX1.1、CEX1.2、CEX1.4及びEX1は、セクションB)XPS測定に記載された手順に従って分析される。
【0140】
図4(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)に示すように、XPSスペクトルは、80eV~65eVの範囲で最大強度を有するAl2p及びNi3pのピークを示す。CEX1.1粒子(表面処理前)はアルミニウムを含まず、それゆえAl範囲にピークを示さなかった。CEX1.2、CEX1.4及びEX1のAl2pの最大ピーク強度は結合エネルギー73.78eV、73.48eV及び74.08eVであった。最大強度を有するCEX1.2及びEX1のAl2pピーク位置を表5に示す。Chem.Mater.,2017,19,5748-5757に開示されているように、Al2pピーク位置がより低い結合エネルギーにシフトし、Ni3pピーク位置が変化しない場合、LiAlO
2化合物の存在を示している。表3に示すように、より良い電池性能は、EX1におけるようなLiAlO
2化合物の存在に対応して、73.6eVから74.1eVの範囲におけるAl2pピークの出現に帰せられる。
【0141】
Al2pピークは、LiM''1-aAlaO2、LiAlO2及びAl2O3のような化合物を含み、これらの化合物のそれぞれの量は、セクションB2)XPSピーク逆畳み込みに記載された手順によって定量化される。表4にAl化合物の定量を示す。優れた電気化学的性能を有するEX1の場合、LiAlO2相の存在を示すAlピーク2の含有量は、正極活物質粉末のM'の全原子含有量に対して、0.10at%以上、0.30at%以下であることが確認された。また、LiM''1-aAlaO2の含有量は、正極活物質粉末のM'の全原子含有量に対して0.14at%未満である。CEX1.4の場合、550℃などの高温で表面処理された生成物は、400℃で調製されたEX2よりもはるかに高いAlピーク1の量を有する。そのため、表面処理時の加熱温度は500℃以下が好ましい。
【0142】
正極活物質粉末中のAlによる表面被覆率を調査するために、XPS分析(A1)からのAl/M''の原子比を、B4)XPSピーク積分及び被覆率で示されるように、ICP分析(A2)からのAl/M''の原子比で除する。Al1/Al2の値が100以上であれば、正極活物質化合物は、表面層に均一に分布しているAlを有することを意味する。表5に示すように、EX1は表面層に均一なAl分布を有している。
【0143】
【0144】
【0145】
CEX1.2の表面層は、セクションE)TEM-EDS測定に記載されるように確認され、結果を
図5.1と
図5.2(x軸:距離、0は表面層の開始点、y軸:元素原子比)に示す。SEM-FIBで調製した断面サンプルをTEM/EDS装置で調査し、サンプル中のAlとS含有量の原子比を遷移金属、Al及びSの総量で割って求めた。
【0146】
図5.1に示すように、S/M
*比は、粒子の表面層の外縁から100nmの直線距離(又は距離)で0at%に達する。従って、CEX1.2粒子の表面層の厚さは100nmである。
【0147】
図5.2は、アルミニウムの全含有量がCEX1.2粒子の厚さ100nmの表面層に含まれることを示す。
【0148】
(表面処理前の)CEX1.1粒子はアルミニウムを含有しないので、これは実際に予想される。
【0149】
EX1、EX2及びEX3を含む表面処理された正極活物質のTEM-EDSラインプロファイリング測定結果は、CEX1.2と同じである。
【0150】
表面処理前を意味する、コアに存在するドーパントとしてアルミニウムを含有するhNMCの場合、本発明によるhNMCの、表面処理後の正極活物質粉末中のアルミニウムの総量(Al
total)に対する表面層中のアルミニウムの量(Al
surface)は、以下の手順で求めることができる。
1)第1に、正極活物質粉末中のアルミニウムの総量(Al/M
*
ICP)をICP分析により求める。
2)第2に、EDS及び/又はEELS(電子エネルギー損失分光法)のような技術によって、粒子の断面の元素線プロファイルを測定する。
3)第3に、表面層の厚さは、粒子の外縁からの距離(S/M
*=0又はS/M
*が一定である場合の表面層の外縁から粒子内の点までの距離)に関する硫黄含有量の変化に基づいて決定され、前記最小距離Dは以下のように定義される:
【数16】
ここで、L
S1は、粒子のエッジにおける第1の点位置であり、L
S2は、前記第1の点位置と前記粒子の幾何学的中心との間に定義される線における第2の点位置であり、第2の点位置L
S2におけるTEM-EDSによって測定されたSの含有量は、第1の点位置(L
S1)で測定されたSの含有量に対して、0at%以上かつ5.0at%以下であり、Sの第2の含有量(S
2)は以下のように定義される:
【数17】
S
3は、前記線における第3の点位置(LS
3)におけるSの含有量(at%)であり、前記第3の点は、前記粒子の幾何学的中心と第2の点位置L
S2との間の任意の位置に位置する。
4)第4に、領域1(Area1)パラメータは、1次元ラインプロファイルにおいて表面層の距離Al/M
*を積分することによって得られ(
図5.2参照)、領域2(Area2)パラメータは、表面層の外縁から粒子の中心までの距離でAl/M
*を積分することによって得られる。粒子が球状で表面層が均一であると仮定して、領域1(Area1)及び領域2(Area2)は、Al
totalに対するAl
surfaceの原子比を以下の方程式により計算するために用いられる。
【数18】
【0151】
正極活物質粉末中のM'の全原子含有量に対する表面層中のアルミニウム量は、Al/M*
ICP比にAlsurface/Altotal比を乗じることにより、以下の方程式により求められる。Al/M*
ICP*Alsurface/Altotal。
【0152】
【0153】
表6は、請求項に記載の特徴を達成するための本発明による正極活物質の調製プロセスを要約したものである。