(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無の判別方法並びに白血病の治療及び/又は予防のための薬剤
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20230809BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20230809BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20230809BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230809BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20230809BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230809BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230809BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230809BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230809BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6844 Z
C07K19/00
C07K14/435
C12N15/12
C12N15/62 Z
G01N33/50 P
G01N33/68
G01N33/574 A
(21)【出願番号】P 2022026497
(22)【出願日】2022-02-24
(62)【分割の表示】P 2017547830の分割
【原出願日】2016-10-26
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2015210226
(32)【優先日】2015-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん研究推進のためのシーズ育成支援基盤、がん治療標的探索プロジェクト事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】304031427
【氏名又は名称】愛知県
(73)【特許権者】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間野 博行
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】安田 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】河津 正人
(72)【発明者】
【氏名】早川 文彦
(72)【発明者】
【氏名】清井 仁
(72)【発明者】
【氏名】都築 忍
(72)【発明者】
【氏名】直江 知樹
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/082933(WO,A1)
【文献】Journal of Clinical Oncology,2016年,Vol.34, No.28,p.3451-3459
【文献】Nature Communications,2016年,Vol.7,13331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C07K 19/00
C07K 14/435
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は罹患の可能性の判別を補助する方法であって、
被験者から得られたサンプルにおいて、MEF2D遺伝子の融合変異を検出する検出工程、並びに
前記融合変異が検出された場合に、前記被験者が悪性リンパ腫又は白血病に罹患しているか又は罹患する可能性が高いと決定する決定工程を含み、
前記MEF2D遺伝子の融合変異が、MEF2D遺伝子の一部を5'末端側に含み、BCL9遺伝子の一部を3'末端側に含む
、MEF2D遺伝子の一部とBCL9遺伝子の一部からなる融合遺伝子を形成する変異であり、
MEF2D遺伝子とBCL9遺伝子の前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドが、
(i)MEF2D遺伝子によってコードされる配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~200位のアミノ酸をN末端側に含み、BCL9遺伝子によってコードされる配列番号6で示されるアミノ酸配列における1100位~1426位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列、
(ii)(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列を含む、前記方法。
【請求項2】
前記(i)のアミノ酸配列が、MEF2D遺伝子によってコードされる配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~202位のアミノ酸をN末端側に含み、BCL9遺伝子によってコードされる配列番号6で示されるアミノ酸配列における1055位~1426位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(i)のアミノ酸配列が、配列番号20、22、24及び26からなる群から選択されるいずれか一で示されるアミノ酸配列である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は罹患の可能性の判別を補助する方法であって、
被験者から得られたサンプルにおいて、MEF2D遺伝子の融合変異を検出する検出工程、並びに
前記融合変異が検出された場合に、前記被験者が悪性リンパ腫又は白血病に罹患しているか又は罹患する可能性が高いと決定する決定工程を含み、
前記MEF2D遺伝子の融合変異が、MEF2D遺伝子の一部を5'末端側に含み、HNRNPUL1遺伝子の一部を3'末端側に含む
、MEF2D遺伝子の一部とHNRNPUL1遺伝子の一部からなる融合遺伝子を形成する変異であり、
MEF2D遺伝子とHNRNPUL1遺伝子の前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドが、
(i)MEF2D遺伝子によってコードされる配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~335位のアミノ酸をN末端側に含み、HNRNPUL1遺伝子によってコードされる配列番号8で示されるアミノ酸配列における563位~856位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列、
(ii)(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列を含む、前記方法。
【請求項5】
前記(i)のアミノ酸配列が、配列番号28で示されるアミノ酸配列である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
白血病が、急性リンパ性白血病である、請求項1
~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
急性リンパ性白血病が、思春期・若年成人の急性リンパ性白血病である、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
MEF2DとBCL9Lの融合タンパク質をコードする遺伝子を特異的に検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセットであって、
(1)フォワードプライマーが配列番号30の連続する14~30塩基を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号31の配列の相補的な配列の連続する14~30塩基を含むヌクレオチドからなるか、又は
(2)フォワードプライマーが配列番号30の配列の相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基の配列を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号31の配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基の配列を含むヌクレオチドからなる、前記プライマーセット。
【請求項9】
MEF2DとHNRNPUL1の融合タンパク質をコードする遺伝子を特異的に検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセットであって、
(1)フォワードプライマーが配列番号32の連続する14~30塩基を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号33
で示される塩基配列における1位~2009位の配列の相補的な配列の連続する14~30塩基を含むヌクレオチドからなるか、又は
(2)フォワードプライマーが配列番号32の配列の相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基の配列を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号33
で示される塩基配列における1位~2009位の配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基の配列を含むヌクレオチドからなる、前記プライマーセット。
【請求項10】
前記検出が、融合タンパク質をコードする遺伝子から発現したmRNAの検出である、請求項8又は9に記載のプライマーセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は該疾患の罹患の可能性の判別方法、及び悪性リンパ腫又は白血病を治療及び/又は予防するための薬剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性リンパ腫は、リンパ・網内系組織に生じる悪性新生物である。悪性リンパ腫はリンパ球系統の細胞ががん化したものであり、腫大したリンパ節として発見されることが多いが、臓器に浸潤することも認められる。高齢者に多い疾患だが、思春期および若年成人においても好発する疾患である。リンパ腫の発生する部位は、リンパ節、脾臓、その他リンパ様・網内系細胞の存在する部位である。悪性リンパ腫はリンパ性白血病とは発生部位、腫瘍形成性という点で一応区別するが、両疾患は生物物学的には近縁の疾患で、臨床的に鑑別困難な場合も存在する。
【0003】
一方、白血病は、分化過程にある造血細胞が腫瘍化し、クローン性増殖したものである。白血病は未分化な白血病芽球が増加して急性に経過する急性白血病と、分化した白血病細胞が増加し、通常慢性の経過をとる慢性白血病とに大別される。特に、急性白血病のうち、急性リンパ性白血病(ALL)は、年齢にかかわらず好発する疾患である。小児のALLが比較的予後良好なのに比し、思春期・若年成人のALLまたは高齢者のALLは化学療法への反応性が悪く、有効な分子標的療法もほとんど存在しない(非特許文献1及び2)。
【0004】
悪性リンパ腫及び白血病はその診断法及び治療法が十分に確立されているとは言えず、その迅速な診断法や効果的な治療法が強く求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Pulte, D., Gondos, et al., Blood, 2009, 113, pp. 1408-1411.
【文献】Schafer, E.S. et al., Nat. Rev. Clin. Oncol., 2011, 8, pp. 417-424.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は該疾患の罹患の可能性の判別方法、及び該疾患を治療及び/又は予防するための薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、白血病患者由来の白血病細胞から調製したcDNAを次世代シークエンサーによって網羅的に配列解析することにより、DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合変異、DUX4遺伝子の過剰発現、又はMEF2D遺伝子の融合変異が白血病患者において特異的に存在することを見出した。さらに、DUX4の阻害剤が、前記DUX4遺伝子の融合変異及びDUX4遺伝子の過剰発現を有する細胞株の増殖を抑制することを見出した。
【0008】
本発明は上記知見に基づくものであり、以下の態様を包含する。
(1)悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は罹患の可能性の判別を補助する方法であって、
被験者から得られたサンプルにおいて、DUX4遺伝子と免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子の融合変異、DUX4遺伝子の過剰発現、及びMEF2D遺伝子の融合変異の少なくとも一つを検出する検出工程、並びに
前記融合変異又は過剰発現の少なくとも一つが検出された場合に、前記被験者が悪性リンパ腫又は白血病に罹患しているか又は罹患する可能性が高いと決定する決定工程を含み、
前記DUX4遺伝子が、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードし、
前記DUX4遺伝子と免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子の融合変異が、DUX4遺伝子の一部を5'末端側に含み、免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子の一部を3'末端側に含む融合遺伝子を形成する変異である、
前記方法。
(2)DUX4遺伝子と免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子の前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドが、
(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1位~300位のアミノ酸を含み、かつ410位~424位のアミノ酸を欠くアミノ酸配列をN末端側に含み、さらに免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子に由来する2~100アミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列、
(ii)(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列を含む、上記(1)に記載の方法。
(3)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、配列番号1で示される塩基配列を含む、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記MEF2D遺伝子の融合変異が、MEF2D遺伝子の一部を5'末端側に含み、BCL9遺伝子の一部を3'末端側に含む融合遺伝子を形成する変異であり、
MEF2D遺伝子とBCL9遺伝子の前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドが、
(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~200位のアミノ酸をN末端側に含み、配列番号6で示されるアミノ酸配列における1100位~1426位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列、
(ii)(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列を含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記MEF2D遺伝子の融合変異が、MEF2D遺伝子の一部を5'末端側に含み、HNRNPUL1遺伝子の一部を3'末端側に含む融合遺伝子を形成する変異であり、
MEF2D遺伝子とHNRNPUL1遺伝子の前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドが、
(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~335位のアミノ酸をN末端側に含み、配列番号8で示されるアミノ酸配列における563位~856位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列、
(ii)(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列を含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(6)白血病が、急性リンパ性白血病である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)急性リンパ性白血病が、思春期・若年成人の急性リンパ性白血病である、上記(6)に記載の方法。
(8)以下の(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列:
(i)DUX4遺伝子によってコードされる配列番号2で示されるアミノ酸配列における1位~300位のアミノ酸を含み、かつ410位~424位のアミノ酸を欠くアミノ酸配列をN末端側に含み、さらに免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子に由来する2~100アミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列、
(ii)(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列
を含む、ポリペプチド。
(9)(i)のアミノ酸配列が、配列番号10、12、14、16、及び18のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、上記(8)に記載のポリペプチド。
(10)上記(8)又は(9)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(11)上記(8)又は(9)に記載のポリペプチド又は上記(10)に記載のポリヌクレオチドからなる悪性リンパ腫又は白血病検出用マーカー。
(12)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるDUX4をコードする遺伝子を検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセット、又はDUX4と特異的に結合する抗体を含む、悪性リンパ腫又は白血病検出用キット。
(13)DUX4と特異的に結合する抗体を含む、悪性リンパ腫又は白血病検出用剤。
(14)DUX4遺伝子と免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子の融合変異、及び/又はDUX4遺伝子の過剰発現を有する被験者において、悪性リンパ腫又は白血病を治療及び/又は予防するための、DUX4阻害剤を有効成分として含む医薬組成物であって、
前記DUX4遺伝子が、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードし、
前記DUX4遺伝子と免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子の融合変異が、DUX4遺伝子の一部を5'末端側に含み、免疫グロブリン重鎖又は免疫グロブリン軽鎖遺伝子の一部を3'末端側に含む融合遺伝子を形成する変異である、前記医薬組成物。
(15)DUX4の阻害剤が、DUX4の阻害性核酸、DUX4に対する中和抗体、及び低分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種の薬剤である、上記(14)に記載の医薬組成物。
(16)阻害性核酸が、siRNA又はshRNAである、上記(15)に記載の医薬組成物。
(17)以下の(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列:
(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~200位のアミノ酸をN末端側に含み、配列番号6で示されるアミノ酸配列における1100位~1426位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列、
(ii)(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列
を含む、ポリペプチド。
(18)(i)のアミノ酸配列が、配列番号20、22、24、及び26のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、上記(17)に記載のポリペプチド。
(19)以下の(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列:
(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~335位のアミノ酸をN末端側に含み、配列番号8で示されるアミノ酸配列における563位~856位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列、
(ii)(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列
を含む、ポリペプチド。
(20)(i)のアミノ酸配列が、配列番号28で示されるアミノ酸配列を含む、上記(19)に記載のポリペプチド。
(21)上記(17)~(20)のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(22)上記(17)~(20)のいずれかに記載のポリペプチド又は上記(21)に記載のポリヌクレオチドからなる悪性リンパ腫又は白血病検出用マーカー。
(23)上記(21)に記載のポリヌクレオチドを特異的に検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセット、及び/又は上記(17)~(20)のいずれかに記載のポリペプチドと特異的に結合する抗体を含む、悪性リンパ腫又は白血病検出用キット。
(24)MEF2DとBCL9Lの融合タンパク質をコードする遺伝子を特異的に検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセットであって、
(1)フォワードプライマーが配列番号30の連続する14~30塩基を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号31の配列の相補的な配列の連続する14~30塩基を含むヌクレオチドからなるか、又は
(2)フォワードプライマーが配列番号30の配列の相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基の配列を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号31の配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基の配列を含むヌクレオチドからなる、前記プライマーセット。
(25)MEF2DとHNRNPUL1の融合タンパク質をコードする遺伝子を特異的に検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセットであって、
(1)フォワードプライマーが配列番号32の連続する14~30塩基を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号33の配列の相補的な配列の連続する14~30塩基を含むヌクレオチドからなるか、又は
(2)フォワードプライマーが配列番号32の配列の相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基の配列を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号33の配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基の配列を含むヌクレオチドからなる、前記プライマーセット。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2015-210226号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によって、新規なマーカー遺伝子又はタンパク質を検出することで、迅速かつ簡便に悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は罹患の可能性を判別することができる。また、本発明により、DUX4遺伝子の融合変異又は過剰発現を有する被験者において、悪性リンパ腫又は白血病を効果的に治療及び/又は予防するための医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1a】実施例1のスクリーニングコホートにおいて検出された全ての遺伝子融合に対する各遺伝子融合の割合を円グラフで示す。B細胞、T細胞、及び系統不明のALLで検出された遺伝子融合を、それぞれ白、灰色、及び黒色で示す。
【
図1b】実施例1の組み合わせコホートにおけるDUX4-、又はMEF2D-融合遺伝子の頻度を、3つの世代(0~14歳(小児)、15~39歳(AYA)、40歳以上)で示す。融合遺伝子のスクリーニングを、小児又はAYAの大部分でRNA-seqにより行ったが、他の例ではRT-PCRを用いた。
【
図1c】実施例1のスクリーニングコホートにおけるKaplan-Meier分析を示す。患者をPh様発現プロフィール、DUX4-融合遺伝子、MEF2D-融合遺伝子、又は他の非Ph様プロフィールを有する患者にグループ分けした。P値はLogrank試験により決定した。
【
図2a】ALLにおけるDUX4転移の例の模式図を示す。患者#JALSG-002の白血病芽細胞のゲノムでは、ミトコンドリアゲノムのフラグメントを有する2コピーのDUX4がIGH遺伝子座のIGHJ6とIGHV3-15の間に挿入されていた。患者#JALSG-006では、染色体1のフラグメントと共に1コピーのDUX4がIGHJ4とIGHV3-66の間に転移されていた。どちらの再構成においても、DUX4コピーの3'末端が破壊されていた。Chr.は染色体を意味する。
【
図2b】実施例1のRNA-seqリードをDUX4遺伝子座にマッピングし、総リードの100万当たりのリード数(RPM)として示した。DUX4からIGH内の融合点は、矢印で示す。DUX4転写物のエキソン/イントロン構造を、Ensemble transcript database(http://www.ensembl.org/index.html)における対応識別番号(ENST番号)と共に下に示す。
【
図2c】DUX4 とDUX4-IGHの融合タンパク質の構造の例を示す。患者#JALSG-001、#JALSG-003、#JALSG-004又は#JALSG-005で認められたDUX4-IGH融合タンパク質のカルボキシ末端は、IGHのゲノム断片によってコードされるペプチドと融合していた。アミノ酸数をタンパク質の構造の模式図の下に示す。
【
図2d】実施例1の小児及びAYAコホートのRNA-seqデータから、DUX4 cDNA(NM_001293798)にマッピングされたリードの数を計算し、RefSeqエントリーに対するマッピングされた総リードの100万当たりのリード数(RPM)として示した。正常な血液細胞(末梢血における三つのT細胞及び三つのCD19
+B細胞画分、及び骨髄における一つのCD10
+及びCD34
+画分)及び三つのPh
+ALL検体を同様に分析した。Ph又はDUX4融合遺伝子の存在/非存在を下に示す。アスタリスクは、NALM6細胞株を示す。
【
図3a】DUX4-IGHの形質転換能力を示す。組換えレトロウイルスを用いて、DUX4、又は患者#JALSG-001、#JALSG-003、#JALSG-004又は#JALSG-005において同定されたDUX4-IGH遺伝子を3T3細胞に形質導入し、その後この細胞を12日間5%ウシ血清中で培養した。DUX4-IGHを発現しないレトロウィルス(Mock)を感染させた細胞も同様に分析した。スケールバーは100μmである。
【
図3b】Aは、NALM6細胞のゲノムで、2コピーのDUX4がIGHJ4とIGHD2-15の間の位置に転移していたことを示す。Bは、DUX4-IGH融合遺伝子がコードしていたタンパク質を示す。このタンパク質は、DUX4タンパク質のカルボキシ末端がIGHによってコードされる25アミノ酸に置換されていた。Cは、DUX4-IGH又は野生型DUX4を一過的に発現するNALM6又はHEK293の全細胞溶解物をDUX4又はACTBに対する抗体によりイムノブロットした結果を示す。
【
図3c】NALM6細胞にコントロールのshRNA(対照-sh)又はDUX4-IGH shRNA(DUX4-sh)と共にGFPを発現する組換えレトロウイルスを、NALM6又は患者#JALSG-003で同定されたDUX4-IGH(それぞれ、DUX4-sh + DUX-IGH(NALM6)、DUX4-sh + DUX-IGH(JALSG-003))を発現するウイルスと一緒に感染させた。GFP
+画分の割合をフローサイトメトリーにより試験し、3日目の割合により標準化した。データは、三重試験の平均値±SDである。
【
図4a】実施例1のコホートにおいて検出されたMEF2D融合の例を示す。アミノ酸数をタンパク質の構造の模式図の下に示す。
【
図4b】MED2D融合が、機能獲得変異であることを示す。野生型のMEF2D、MEF2D-BCL9又はMEF2D-HNRNPUL1の発現ベクターでトランスフェクトしたHEK293細胞から調製した全細胞溶解物を、MEF2D(上部)又はACTB(下部)に対する抗体によるイムノブロット分析に供した(A)。MEF2Dのレポータープラスミドを対照pGL-TK及びMockプラスミド又は野生型MEF2D、MEF2D-BCL9又はMEF2D-HNRNPUL1の発現ベクターと共に、HEK293細胞に一過的に導入した。レポーター活性を、トランスフェクションの2日後に測定した。ホタルルシフェラーゼ活性を、ウミシイタケルシフェラーゼ活性によって標準化した。値は平均±SDである。
【
図4c】MEF2D融合タンパク質の形質転換能力を示す。マウス3T3線維芽細胞にMockウイルス(Mock)又は野生型MEF2D、MEF2D-BCL9又はMEF2D-HNRNPUL1を発現する組換えレトロウイルスを感染させ、5%ウシ血清の存在下で12日間培養し、観察した。スケールバーは100μmである。
【
図5a】融合癌遺伝子の白血病誘発活性を示す。マウスpro-B細胞にMockレトロウイルス又はDUX4-IGH、MEF2D-HNRNPUL1又はMEF2D-BCL9を発現する組換えウイルスを感染させ、放射線照射した免疫不全マウスに移植した。移植の28日後、CD19、CD43、c-kit、CD25、IL7Ra又はIgMの細胞表面の発現を、(一次)骨髄細胞におけるB220
+GFP
+細胞についてフローサイトメーターにより評価した。図中のB220
+GFP
+ゲーティングは、B220
+GFP
+細胞を解析に用いたことを意味し、横軸はB220の発現強度を、縦軸は左端に示した各タンパク質の発現強度を示す。同じ実験を、二次又は三次の移植マウスにおいて行った。NDは測定しなかったこと(Not Determined)を意味する。
【
図5b】実施例3の一次移植マウスのカプランマイヤー分析を示す。各群の無疾患の期間を、Bonferroni補正を用いて、Logrankにより比較した。
【
図5c】DUX4-IGH発現pro-B細胞を移植したマウスが、白血病を生じることを示す。細胞を、上記マウスの骨髄(BM)、脾臓又は肝臓から得、分化マーカータンパク質の発現について試験した。図中のB220
+GFP
+ゲーティングは、B220
+GFP
+細胞を解析に用いたことを意味し、横軸はB220の発現強度を、縦軸は左端に示した各タンパク質の発現強度を示す。右下の写真は、ライトギムザ溶液でスメア染色した骨髄を示す。スケールバーは5μmである。
【
図6】本明細書における遺伝子の概念図を示す。ゲノム上の遺伝子はmRNAに転写され、スプライシングによって、コード領域と非翻訳領域からなるmRNAが生じる。
【
図7】DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合遺伝子によりコードされるポリペプチドがIGH又はIGL遺伝子のイントロン部分に由来するアミノ酸を含む場合の例を示す。簡略化のために、DUX4遺伝子を一つの領域として表した。DUX4がIGH又はIGL遺伝子のイントロン部分に挿入され、DUX4からIGH又はIGLのイントロンに続く読み枠において該イントロン部分にストップコドンが存在する場合に、ポリペプチドが、DUX4と該イントロンとの融合部分から該ストップコドンまでの塩基配列に由来するアミノ酸配列を含むことを示す。
【
図8】抗DUX4ポリクローナル抗体を用いて、白血病患者由来の骨髄細胞サンプルを免疫染色した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.DUX4遺伝子の変異又は過剰発現に基づく疾患の判別方法
一態様において、本発明は、悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は罹患の可能性の判別方法又は判別を補助する方法であって、被験者から得られたサンプルにおいてDUX4(Double homeobox 4)遺伝子とIGH(免疫グロブリン重鎖)又はIGL(免疫グロブリン軽鎖)遺伝子の融合変異、及び/又はDUX4遺伝子の過剰発現を検出する検出工程、及び前記変異及び/又は過剰発現が検出された場合に、該被験者が悪性リンパ腫又は白血病に罹患しているか又は罹患する可能性が高いと決定する決定工程を含む前記方法に関する。
【0013】
本明細書において、悪性リンパ腫又は白血病の種類は、特に限定しない。悪性リンパ腫として、例えば、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫が挙げられ、好ましくは悪性リンパ腫はB細胞リンパ腫である。白血病の例として、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、AML)、急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia ALL)、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia、CML)、及び慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia CLL)等が挙げられ、好ましくはALLであり、特に好ましくは、小児又は思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult、AYA)の急性リンパ性白血病、さらに好ましくは思春期・若年成人の急性リンパ性白血病(AYA-ALL)である。本明細書において、小児とは0~14歳の被験者を意味し、思春期・若年成人とは15~39歳の被験者を意味する。
【0014】
本明細書において、「被験者」は、悪性リンパ腫又は白血病の罹患が疑われる個体、及び健常な個体のいずれであってもよい。悪性リンパ腫又は白血病の罹患が疑われる個体について本発明の方法を適用することにより、悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無をより正確に判断することができ、健常な個体について本発明の方法を適用することにより、罹患の有無、又は被験者が将来的に悪性リンパ腫又は白血病に罹患する可能性の高さを判断することができる。
【0015】
本明細書において、「サンプル」とは、本発明の方法に供される生体試料を意味する。本発明において使用可能なサンプルとしては、限定するものではないが、例えば生体から単離した細胞又は組織が挙げられる。細胞の例として、例えば末梢血細胞、細胞を含むリンパ液及び組織液、毛母細胞、口腔細胞、鼻腔細胞、腸管細胞、膣内細胞、粘膜細胞、喀痰(肺胞細胞又は気肝細胞等を含み得る)が挙げられる。組織の例として、病変部位、例えば、リンパ節、骨髄、脾臓、胸腺、及び肝臓等が挙げられ、例えばこれらの組織の生検サンプルを用いることができる。
【0016】
本明細書において、「遺伝子」は、特に明記しない限り、タンパク質に転写されるコード領域、並びにコード領域にタンパク質に転写されない非翻訳領域及びイントロン領域を加えた構造遺伝子(シストロン)の両方を包含する。本明細書における遺伝子の概念図を
図6に示す。
図6は、ゲノム上の遺伝子がmRNAに転写され、スプライシングによって、コード領域と非翻訳領域からなるmRNAが生じることを示す。
【0017】
本発明の方法の検出工程では、DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合変異、好ましくはDUX4遺伝子とIGH遺伝子の融合変異及び/又はDUX4遺伝子の過剰発現を検出する。本発明の方法の検出工程において検出される融合変異及び過剰発現、並びに検出工程について、以下に詳細に説明する。
【0018】
<融合変異>
本明細書において、「DUX4遺伝子」は、配列番号2で示されるアミノ酸配列、配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して、例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子であってよい。また、DUX4遺伝子は配列番号2で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子であってよい。本明細書において、同一性の値は、複数の配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DANASYS、及びBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, Nuc. Acids. Res. 25, 3389-3402, 1977及びAltschul et al, J. Mol. Biol. 215, 403-410, 1990を参照されたい。また、本明細書において、「1若しくは複数個」の範囲は、1から10個、好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子は、好ましくは配列番号1で示される塩基配列を含む。
【0019】
本明細書において、「DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合変異」とは、DUX4遺伝子の一部(好ましくは5'末端側)を5'末端側に含み、IGH又はIGL遺伝子の一部を3'末端側に含む融合遺伝子を意味する。本発明のDUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合変異は、好ましくは、
図2aに示す様にDUX4遺伝子の一部の領域が、ゲノムDNA上のIGH又はIGL遺伝子座に転座することによって生じる。この場合、融合遺伝子は、5'末端側から3'末端側にかけて、IGH又はIGL遺伝子又はその一部、DUX4遺伝子又はその一部、IGH又はIGL遺伝子又はその一部を含む。
【0020】
DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、好ましくは、(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1位~300位、好ましくは1位~316位のアミノ酸を含み、かつ410位~424位、好ましくは409位~424位のアミノ酸を欠くアミノ酸配列をN末端側に含み、さらにIGH又はIGL遺伝子、好ましくはIGH遺伝子に由来する2~100アミノ酸、好ましくは2~32アミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列を含む。ここで、IGH又はIGL遺伝子は、遺伝子再構成に基づいて多様な配列から構成されるため、その配列を一義的に定めることはできない。本明細書において、「IGH又はIGL遺伝子に由来するアミノ酸配列を含む」とは、IGH又はIGL遺伝子のタンパク質をコードする配列を含むか、あるいは、IGH又はIGL遺伝子のイントロン部分に由来する配列を含むことを意味する。前記融合ポリペプチドが、「IGH又はIGL遺伝子のイントロン部分に由来する配列を含む」とは、DUX4遺伝子又はその一部がIGH又はIGL遺伝子のイントロン部分に挿入され、DUX4からIGH又はIGLのイントロンに続く読み枠において該イントロン部分にストップコドンが存在する場合に、ポリペプチドが、DUX4と該イントロンとの融合部分から該ストップコドンまでの塩基配列に由来するアミノ酸配列を含むことを意味する。DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合遺伝子によりコードされるポリペプチドがIGH又はIGL遺伝子のイントロン部分に由来するアミノ酸を含む場合の例を
図7に示す。(i)のアミノ酸配列の例として、例えば、配列番号10、12、14、16、及び18のいずれかで示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0021】
前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、(ii)上記(i)のアミノ酸配列に対して例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は(iii)上記(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含んでよい。
【0022】
前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、造腫瘍活性を有する。ポリペプチドの造腫瘍活性の有無は、本分野で公知の方法により特定することができ、例えば融合遺伝子を適当な細胞(例えば哺乳動物細胞)に導入して増殖させ、フォーカス形成の有無を観察することによって決定することができる。造腫瘍活性の有無の測定法の詳細については、例えば本明細書の実施例2を参照されたい。
【0023】
理論により拘束されるものではないが、一実施形態において、DUX4の遺伝子融合は、以下の三つのメカニズム:(i)IGH又はIGLのエンハンサーの近傍へのDUX4の転座によってもたらされるDUX4転写活性の増加、(ii)コードされるDUX4タンパク質のカルボキシ末端の欠損による、アポトーシス活性の低減、及び(iii)IGH又はIGLに由来するポリアデニル化シグナルによるDUX4遺伝子の翻訳の活性化、の少なくとも一つを介して悪性リンパ腫又は白血病の誘発に関与し得る。
【0024】
<過剰発現>
本明細書において「過剰発現」とは、参照に対して統計学的に有意に高い発現を意味する。参照としては、例えば、悪性リンパ腫又は白血病に罹患していないことが明らかな複数(例えば、3以上、4以上、又は5以上)の正常な被験者から得られた遺伝子又はタンパク質の発現量を用いることができる。DUX4遺伝子又はタンパク質の過剰発現は、例えば、参照に対して2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、例えば10倍以上高い発現を意味する。
【0025】
<検出工程>
本発明の方法において、DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合変異を検出する工程は、例えば、ゲノム上の前記融合遺伝子、前記融合遺伝子から発現したmRNA(又はmRNAに由来するcDMA)、又は前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドを検出する工程を含む。同様に、DUX4遺伝子の過剰発現を検出する工程は、例えば、前記遺伝子から発現したmRNA(又はこれに由来するcDMA)、又は前記遺伝子によりコードされるポリペプチドを検出する工程を含む。
【0026】
ゲノム上の遺伝子の検出は、例えば公知の方法により抽出したゲノムDNAを用いて行うことができる。ゲノムDNAの抽出は、市販のDNA抽出キットを用いて行えばよい。また、前記融合遺伝子から発現したmRNAを検出する工程は、mRNAを用いて行ってもよいし、サンプルから抽出したmRNAを逆転写したcDNAを用いて行ってもよい。mRNAの抽出及び逆転写は、例えば市販のmRNA抽出キット及び逆転写キットを利用することができる。
【0027】
ゲノム上の前記融合遺伝子、又は前記融合遺伝子から発現したmRNA、又はDUX4遺伝子から発現したmRNAを検出する工程は、公知の遺伝子解析法(例えば遺伝子検出法として常用されるPCR法、RT-PCR法、Real-time PCR法、LCR(Ligase chain reaction)、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法、マイクロアレイ法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、in situ hybridization法、及び次世代シークエンサーによる解析等)に従って実施することができる。例えば、被験者由来のサンプルから抽出された核酸、例えばmRNA等を用いて、適当なプライマーを用いる遺伝子増幅技術、又は適当なプローブを用いるハイブリダイゼーション技術等を利用する。ゲノム上のDNA又はmRNAの検出は定性的又は定量的に行い、定量的に行う場合、DNA又はmRNA量は、例えば遺伝子増幅反応方法にて測定すればよい。
【0028】
本検出工程において前記融合遺伝子又はDUX4遺伝子を検出するために用いられるプライマーは、前記融合遺伝子又はDUX4遺伝子を特異的に増幅できるものであれば、特に限定されず、前記融合遺伝子若しくはDUX4遺伝子、又はこれらから発現したmRNAの塩基配列に基づいて設計することができる。同様に、本検出工程において前記融合遺伝子又はDUX4遺伝子を検出するために用いられるプローブは、前記融合遺伝子又はDUX4遺伝子に特異的にハイブリダイズできるものであれば、特に限定されず、前記融合遺伝子若しくはDUX4遺伝子、又はこれらから発現したmRNAの塩基配列に基づいて設計することができる。前記融合遺伝子又はDUX4遺伝子を検出するために用いることができるプライマー及びプローブとして、例えば後述の「3.DUX4遺伝子の変異又は過剰発現を検出するためのプライマー、プローブ、及び抗体」において記載するプライマーセット及びプローブが挙げられる。
【0029】
DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合遺伝子の有無は、融合遺伝子の配列がわかっている場合には、各技術に適した方法によって確認することができる。例えば、PCR法では、PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析し、エチジウムブロマイド染色等によって目的とするサイズの増幅断片が得られたか否かを確認することで、変異の有無を検出することができる。例えば、前記融合遺伝子又は前記融合遺伝から発現したmRNAに相当するサイズを有する増幅断片が得られた場合、被験者から得られたサンプルにおいて、前記融合遺伝子が存在していたことが推定される。必要に応じて、さらに該増幅断片の配列決定を行ってもよい。このようにして、融合遺伝子の有無を検出することができる。また、DUX4遺伝子のIGH又はIGL遺伝子の融合遺伝子の有無は、融合遺伝子の配列がわかっていない場合には、DUX4遺伝子のIGH又はIGL遺伝子の融合が存在する可能性がある候補検体に対して、3’-RACEによるDUX4遺伝子の末端の配列決定、又は候補検体の細胞を次世代シークエンサーによるcDNAの網羅的解析に供することにより特定することができる。候補検体は、例えば以下の融合遺伝子の過剰発現を検出する工程によって特定することができる。
【0030】
前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドを検出する工程は、例えば被験者から得られたサンプル由来の可溶化液を調製し、その中に含まれる前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドに対して、抗DUX4抗体を用いて、又は前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドに対する抗体を用いて、免疫学的測定法又は酵素活性測定法等を行うことにより、実施できる。特に、以下の「3.DUX4遺伝子の変異又は過剰発現を検出するためのプライマー、プローブ、及び抗体」に記載の抗DUX抗体を用いることが好ましい。好適には、前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドに特異的なモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いた、酵素免疫測定法、2抗体サンドイッチELISA法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法、ウエスタンブロッティング法等の手法を用いることができる。
【0031】
同様に、DUX4遺伝子の過剰発現の有無は、各技術に適した方法によって確認することができる。DUX4遺伝子の過剰発現は、例えば、Real-time PCR法では、被験者から得られたサンプルを蛍光標識したプライマーで増幅し、蛍光の強度を参照の値と比較することによって、検出することができる。DUX4の過剰発現は、例えば、DUX4に対する抗体で細胞又は組織の免疫染色を行い、蛍光強度の有無又は参照との差を検出することにより、検出することができる。参照としては、例えば、悪性リンパ腫又は白血病に罹患していないことが分かっている複数(例えば、3以上、4以上、又は5以上)の正常な被験者から得られたサンプルを用いればよい。
【0032】
本発明の方法は、他の方法(例えば、レントゲン撮影及び内視鏡検査等)と組み合わせて用いることができる。他の疾患の判別方法又は診断方法と組み合わせることで、本発明の判別方法の精度を高めることができる。
【0033】
2.DUX4融合ポリペプチド及びポリヌクレオチド
一態様において、本発明は、(i)DUX4遺伝子によってコードされる配列番号2で示されるアミノ酸配列における1位~300位、好ましくは1位~316位のアミノ酸を含み、かつ410位~424位、好ましくは409位~424位のアミノ酸を欠くアミノ酸配列をN末端側に含み、さらにIGH又はIGL遺伝子に由来する2~100アミノ酸、好ましくは2~32アミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列を含むポリペプチドに関する。(i)のアミノ酸配列の例として、例えば、配列番号10、12、14、16、及び18のいずれかで示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0034】
一実施形態において、本発明は、(ii)上記(i)のアミノ酸配列に対して例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は(iii)上記(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列を含む、ポリペプチドに関する。
【0035】
本発明のポリペプチドは、造腫瘍活性を有する。ポリペプチドの造腫瘍活性の有無は、本分野で公知の方法により特定することができ、例えば融合遺伝子を適当な細胞(例えば哺乳動物細胞)に導入して増殖させ、フォーカスの形成の有無を観察することによって決定することができる。
【0036】
本発明のポリペプチドは、例えば、前記融合遺伝子を有すると判断された被験者由来のサンプルから、又は、前記融合遺伝子又はその断片包含するベクターを導入した宿主細胞から調製することができる。ペプチドの精製は、公知の方法、例えば、硫安塩析、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン等)による沈殿分離、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、基質または抗体等を利用したアフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透ろ過等の濾過処理等、を単独で又は1以上組み合わせて行うことが可能である。
【0037】
一実施形態において、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。そのようなポリヌクレオチドの例として、例えば、(i)配列番号9、11、13、15、及び17のいずれかで示される塩基配列、(ii)上記(i)の塩基配列に対して、例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有する塩基配列、又は(iii)上記(i)の塩基酸配列において1若しくは複数個の塩基が付加、欠失、及び/又は置換された塩基列を含む、ポリヌクレオチドが挙げられる。
【0038】
本発明のポリヌクレオチドの調製方法として、例えば、(1)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた方法、(2)cDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から所望のポリヌクレオチドを含む形質転換株を選択する方法、及び(3)化学合成法を挙げることができる。例えば、前記融合遺伝子を有すると判断された被験者から得られたサンプルから抽出されたmRNAに対してRT-PCRを行うことにより、本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製することができる。
【0039】
また、一実施形態において、本発明は、前記ポリペプチド又はポリヌクレオチドからなる悪性リンパ腫又は白血病検出用マーカーに関する。
【0040】
3.DUX4遺伝子の変異又は過剰発現を検出するためのプライマー、プローブ、及び抗体
一態様において、本発明は、悪性リンパ腫又は白血病検出用キットに関する。本発明のキットは、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるDUX4をコードする遺伝子を検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセット、該遺伝子を検出するためのプローブ、及びDUX4と特異的に結合する抗体の少なくとも一つを含む。本発明のキットは、上記プライマーセット、プローブ、抗体の少なくとも一つを、二以上含んでもよい。
【0041】
DUX4をコードする遺伝子を検出するためのプライマーセットは、DUX4遺伝子を特異的に検出できるものであれば特に限定しないが、例えば、(1)フォワードプライマーが配列番号29の連続する14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号29の配列の相補的な配列の連続する14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基を含むヌクレオチドからなるか、又は(2)フォワードプライマーが配列番号29の相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基の配列を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号29の配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基の配列を含むヌクレオチドからなる、フォワードプライマー及びリバースプライマーを含む。本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。ストリンジェントな条件は、例えばGreen and Sambrook, Molecular Cloning, 4th Ed (2012), Cold Spring Harbor Laboratory Press を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェントな条件を設定すればよい。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃が挙げられる。より具体的には、5×SSC (83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃が挙げられる。
【0042】
DUX4をコードする遺伝子を検出するためのプローブは、DUX4遺伝子を検出できるものであれば特に限定しないが、例えば、(1)配列番号29の連続する少なくとも14、例えば20、好ましくは30の塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又は(2)配列番号29の連続する少なくとも14、例えば20、好ましくは30の塩基配列に相補的な配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドから構成されることが好ましい。
【0043】
プライマー及びプローブは、当業者に知られる公知の方法により調製することができ、限定されるものではないが、例えば化学合成法によって調製することができる。
【0044】
DUX4と特異的に結合する抗体は、市販のものを購入してもよいし、当業者に知られる公知の方法により製造してもよい。抗体としては、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFV)、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、および、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fc、Fvなどの抗体断片等が挙げられ、好ましくはポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体が挙げられる。
【0045】
本発明における抗体、例えばポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は、標的タンパク質若しくはその部分断片、例えば配列番号41を含むペプチド、又はそれらを発現する細胞を感作抗原として、当業者に周知の方法で作製することができる(E. Harlow et al. (Ed.), "Antibodies: A Laboratory Manual", Cold Spring HarborLaboratory, 1988)。
【0046】
ポリクローナル抗体は、例えば、DUX4タンパク質又はその断片等の抗原をマウス又はウサギ等の哺乳動物に投与し、該哺乳動物から血液を採取し、抗体を精製することにより得ることができる。免疫感作の方法は当業者に公知であり、例えば抗原を1回以上投与することにより行うことができる。また、抗原(またはその部分断片)は、その免疫原性を高めるために、完全フロイントアジュバント等の通常用いられるアジュバントを含有する適当な緩衝液に溶解して用いることができる。抗体の精製方法もまた当業者に公知である。例えば、ポリクローナル抗体は、遠心分離、硫酸アンモニウム等を用いた沈澱、及びクロマトグラフィー、例えば抗原ペプチドを用いたアフィニティークロマトグラフィー等を一以上用いて精製することができる。
【0047】
モノクローナル抗体を産生する方法としては、ハイブリドーマ法を挙げることができる。ハイブリドーマ法では、まず、ポリクローナル抗体の産生と同様に哺乳動物を免疫感作する。続いて、感作の終了した免疫動物から脾臓を摘出し、B細胞を得る。次いで、B細胞を常法に従いミエローマ細胞と融合させて抗体産生ハイブリドーマを作製する。細胞の融合方法は、当業者に公知の方法を任意に選択して用いることができる。ハイブリドーマの選択は、常法に従い、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン含有培地)中で適当な期間培養することによって行うことができる。次に、目的とする抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング及びクローニングを行う。スクリーニングは、ELISA法等の公知の抗体検出方法により行うことができ、また、クローニングは、限界希釈法等の当業者に公知の方法により行うことができる。続いて、得られたハイブリドーマを適当な培養液中で培養し、塩析、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等によって、培養液からモノクローナル抗体を精製することができる。
【0048】
上記プライマーセット、プローブ、及び抗体は、さらに検出を容易にするために、化学的又は物理的検出手段により検出可能な標識を有してよい。標識に用いられる物質として、蛍光物質、酵素、放射性同位元素、及び発光物質等が挙げられる。蛍光物質として、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネート等、酵素として、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼ等、放射性同位元素として、125I、131I、及び3H等、発光物質として、ルシフェリン、及びルミノール及びその誘導体等が挙げられる。
【0049】
本発明のキットは、上記プライマーセット又はプローブに加えて、例えば、バッファー、酵素、及び使用説明書等を含んでもよい。
【0050】
一態様において、本発明は、DUX4と特異的に結合する抗体を含む、悪性リンパ腫又は白血病検出用剤に関する。本発明の悪性リンパ腫又は白血病検出用剤は、試薬としてサンプル分析等のために用いることもできるし、悪性リンパ腫又は白血病の診断のためにも用いることができる。
【0051】
4.DUX4の阻害剤を含む医薬組成物
一態様において、本発明は、DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合変異、及び/又はDUX4遺伝子の過剰発現を有する被験者において、悪性リンパ腫又は白血病を治療及び/又は予防するための、DUX4の阻害剤を有効成分として含む医薬組成物に関する。
【0052】
DUX4の阻害剤は、DUX4の活性を阻害し得るものであれば特に限定しないが、例えば、DUX4の阻害性核酸、DUX4に対する中和抗体、及び低分子化合物が挙げられる。これらの阻害剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0053】
DUX4の阻害性核酸として、例えば、DUX4に対する核酸アプタマー、DUX4に対するsiRNA又はshRNA、好ましくはDUX4に対するsiRNA又はshRNAが挙げられる。
【0054】
本明細書において、「siRNA」(低分子干渉RNA:small interference RNA)とは、標的遺伝子の一部に相当する塩基配列を有するセンス鎖(パッセンジャー鎖)、及びそのアンチセンス鎖(ガイド鎖)からなる小分子二本鎖RNAである。本明細書において「shRNA」(short hairpin RNA)とは、適当な配列を有する短いスペーサー配列によって上記のsiRNA又は成熟型二本鎖miRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖が連結された一本鎖RNAをいう。つまり、shRNAは、一分子内でセンス領域とアンチセンス領域が互いに塩基対合してステム構造を形成し、同時に前記スペーサー配列がループ構造を形成することによって、分子全体としてヘアピン型のステム-ループ構造を形成している。
【0055】
DUXに対するsiRNA若しくはshRNAは、DUX4の配列に基づいて、当業者であれば適宜設計することができる。そのような配列として、例えば配列番号40で示される配列を含むshRNAが挙げられる。阻害性核酸は、ベクターに導入して被験者に投与することが好ましく、阻害性核酸の送達に用いることができるベクターとして、例えばpLMNベクター(Transomic)が挙げられる。
【0056】
本発明の医薬組成物は、DUX4の阻害剤以外に、他の有効成分、例えば、5-FU(フルオロウラシル)、メトトレキサート、ロイコボリン、及びトラスツズマブ等の抗癌剤を含んでもよい。
【0057】
本発明の医薬組成物は、原則として当該分野で公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Merck Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載の方法を用いて製剤化できる。具体的な製剤化の方法は、投与方法によって異なる。投与方法は、経口投与と非経口投与に大別され、投与方法は適宜選択することができる。
【0058】
本発明の医薬組成物を経口投与する場合、製薬上許容可能な担体を添加してもよい。
【0059】
「製薬上許容可能な担体」とは、薬剤の製剤化や生体への適用を容易にし、その有効成分の作用を阻害又は抑制しない範囲で添加される物質をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤又は潤滑沢剤が挙げられる。
【0060】
「賦形剤」としては、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック(登録商標)、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
「結合剤」としては、例えば、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0062】
「崩壊剤」としては、例えば、前記デンプンや、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム又はそれらの塩が挙げられる。
【0063】
「充填剤」としては、例えば、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が挙げられる。
【0064】
「乳化剤」としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0065】
「流動添加調節剤」及び「滑沢剤」としては、例えば、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが挙げられる。
【0066】
経口剤の剤形としては、例えば、固形剤(錠剤、丸剤、舌下剤、カプセル剤、ドロップ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤等を挙げることができる。さらに固形剤は、必要に応じ、当該分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠とすることができる。剤形の具体的な形状、大きさについては、いずれもそれぞれの剤形において当該分野で公知の剤形の範囲内にあればよく、特に限定はしない。
【0067】
本発明の医薬組成物を非経口投与する場合、その具体例としては、注射による投与が挙げられる。本発明の医薬組成物を注射で投与する場合、製薬上許容可能な溶媒と混合し、必要に応じて製薬上許容可能な担体を加えた懸濁液剤として調製することができる。
【0068】
「製薬上許容可能な溶媒」は、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は油性液のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、及び塩化ナトリウム、並びに低濃度の非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80(TM)、HCO-60)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。油性液としては、ゴマ油、大豆油が挙げられ、溶解補助剤として例えば安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールと併用することもできる。また、緩衝剤、例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えば、ベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。
【0069】
注射剤は、製薬上許容される賦形剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化すればよい。
【0070】
注射は、例えば、血管内注射、リンパ管内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等が挙げられ、全身投与である血管内注射又はリンパ管内注射等の循環器内投与が好ましいが、リンパ腫へ直接的に投与する局所投与であってもよい。
【0071】
本発明の医薬組成物における有効成分の含有量は、原則1回の投与でその有効成分が標的部位に達し得る量、かつそれを適用する被験者に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量であればよい。このような含有量は、疾患の進行度、DUX4阻害剤の種類、医薬組成物の剤形及び投与方法等によって異なるが、当業者によって適宜定められる。
【0072】
本発明の医薬組成物が投与される被験者(本発明の医薬組成物の適用対象となる被験者)が有するDUX4遺伝子の融合変異及びDUX4遺伝子の過剰発現については、上記「1.DUX4遺伝子の変異又は過剰発現に基づく疾患の判別方法」において記載した通りであるからここでは記載を省略する。
【0073】
本発明の医薬組成物の治療及び/又は予防の対象となる悪性リンパ腫及び白血病の種類は、悪性リンパ腫であれば、例えば前述のホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫が挙げられ、好ましくはB細胞リンパ腫である。また白血病であれば前述の急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病が挙げられ、好ましくはALLであり、特に好ましくは、小児又は思春期・若年成人の急性リンパ性白血病、さらに好ましくは思春期・若年成人の急性リンパ性白血病(AYA-ALL)である。
【0074】
本発明の医薬組成物は、例えば、本発明の方法、すなわち、悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は該疾患の罹患の可能性の判別方法を適用した被験者に対して投与することができる。悪性リンパ腫又は白血病を罹患している被験者に対して本発明の医薬組成物を投与することで治療的効果が、悪性リンパ腫又は白血病を罹患する可能性が高い被験者に対して本発明の医薬組成物を投与することで予防的効果が期待される。
【0075】
5.DUX4の阻害剤又は医薬組成物を用いる悪性リンパ腫又は白血病の治療及び/又は予防方法
一態様において、本発明は、上記DUX4の阻害剤、又は上記医薬組成物を被験者に投与することを含む、DUX4遺伝子とIGH又はIGL遺伝子の融合変異、及び/又はDUX4遺伝子の過剰発現を有する被験者の悪性リンパ腫又は白血病の治療及び/又は予防方法に関する。
【0076】
本発明の治療及び/又は予防方法は、好ましくは本発明の判別方法、すなわち、悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は該疾患の罹患の可能性の判別方法を適用した被験者に対して行うことができる。すなわち、上記判別方法によって悪性リンパ腫又は白血病を罹患していると判別された被験者に対してDUX4の阻害剤又は上記医薬組成物を投与することにより治療効果が、悪性リンパ腫又は白血病を罹患する可能性が高いと判別された被験者に対してDUX4の阻害剤又は上記医薬組成物を投与することにより予防的効果が期待される。
【0077】
本発明の方法の治療及び/又は予防の対象となる悪性リンパ腫及び白血病の種類は、上述の通りである。
【0078】
6.MEF2D遺伝子の変異に基づく疾患の判別方法
一態様において、本発明は、悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は罹患の可能性の判別方法又は判別を補助する方法であって、被験者から得られたサンプルにおいてMEF2D(Monocyte-specific enhancer factor 2)遺伝子の融合変異を検出する検出工程、及び前記変異が検出された場合に、該被験者が悪性リンパ腫又は白血病に罹患しているか又は罹患する可能性が高いと決定する決定工程を含む前記方法に関する。本態様において検出される融合変異について、以下詳細に説明する。
【0079】
本明細書において、「MEF2D遺伝子」は、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列に対して、例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子であってよい。また、MEF2D遺伝子は、配列番号4で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子であってよい。配列番号4で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子は、好ましくは配列番号3で示される塩基配列を含む。
【0080】
本明細書において、MEF2D遺伝子の融合変異とは、MEF2D遺伝子とBCL9遺伝子又はMEF2D遺伝子とHNRNPUL1遺伝子の融合変異である。本明細書において、「MEF2D遺伝子とBCL9遺伝子の融合変異」とは、MEF2D遺伝子の一部(好ましくは5'末端側)を5'末端側に含み、BCL9(B-cell Lymphoma 9)遺伝子の一部(好ましくは3'末端側)を3'末端側に含む融合遺伝子を意味する。該融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~200位、好ましくは1~202位のアミノ酸をN末端側に含み、配列番号6で示されるアミノ酸配列における1100位~1426位、好ましくは1055位~1426位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列を含む。(i)のアミノ酸配列の例として、例えば、配列番号20、22、24、及び26のいずれか、好ましくは配列番号20又は22で示されるアミノ酸配列が挙げられる。前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、(ii)上記(i)のアミノ酸配列に対して例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は(iii)上記(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含んでよい。
【0081】
本明細書において、「MEF2D遺伝子とHNRNPUL1遺伝子の融合変異」とは、MEF2D遺伝子の一部(好ましくは5'末端側)を5'末端側に含み、HNRNPUL1(Heterogeneous Nuclear Ribonucleoprotein U-Like 1)遺伝子の一部(好ましくは3'末端側)を3'末端側に含む融合遺伝子を意味する。該融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列における1~335位のアミノ酸をN末端側に含み、配列番号8で示されるアミノ酸配列における563位~856位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列を含む。(i)のアミノ酸配列の例として、例えば、配列番号28で示されるアミノ酸配列が挙げられる。前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、(ii)上記(i)のアミノ酸配列に対して例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は(iii)上記(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含んでよい。
【0082】
前記MEF2D融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、造腫瘍活性を有する。ポリペプチドの造腫瘍活性の有無の測定法、及びMEF2D遺伝子の融合変異を検出する検出工程については、「1.DUX4遺伝子の変異又は過剰発現に基づく疾患の判別方法」で記載したものと同様であるからここでは記載を省略する。
【0083】
7.MEF2D融合ポリペプチド及びポリヌクレオチド
一態様において、本発明は、MEF2DとBCL9の融合ポリペプチドに関する。該融合ポリペプチドは、(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列における1位~200位、好ましくは1~202位のアミノ酸をN末端側に含み、配列番号6で示されるアミノ酸配列における1100位~1426位、好ましくは1055位~1426位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列を含む。(i)のアミノ酸配列の例として、例えば、配列番号20、22、24、及び26のいずれか、好ましくは配列番号20又は22で示されるアミノ酸配列が挙げられる。前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、(ii)上記(i)のアミノ酸配列に対して例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は(iii)上記(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含んでよい。
【0084】
一態様において、本発明は、MEF2DとHNRNPUL1の融合ポリペプチドに関する。該融合ポリペプチドは、(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列における1~335位のアミノ酸をN末端側に含み、配列番号8で示されるアミノ酸配列における563位~856位のアミノ酸をC末端側に含むアミノ酸配列を含む。(i)のアミノ酸配列の例として、例えば、配列番号28で示されるアミノ酸配列が挙げられる。前記融合遺伝子によりコードされるポリペプチドは、(ii)上記(i)のアミノ酸配列に対して例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は(iii)上記(i)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含んでよい。
【0085】
前記融合ポリペプチドは、造腫瘍活性を有する。ポリペプチドの造腫瘍活性の有無の測定法については、「1.DUX4遺伝子の変異又は過剰発現に基づく疾患の判別方法」と同様であるからここでは記載を省略する。
【0086】
一実施形態において、本発明は、上記融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。そのようなポリヌクレオチドの例として、例えば、(i)配列番号19、21、23、25、及び27のいずれかで示される塩基配列、(ii)上記(i)の塩基配列に対して、例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有する塩基配列、又は(iii)上記(i)の塩基酸配列において1若しくは複数個の塩基が付加、欠失、及び/又は置換された塩基列を含む、ポリヌクレオチドが挙げられる。
【0087】
上記融合ポリペプチド及びポリヌクレオチドの調製法については、「2.DUX4融合ポリペプチド及びポリヌクレオチド」で記載した方法と同様であるからここでは記載を省略する。
【0088】
一実施形態において、本発明は、前記ポリペプチド又はポリヌクレオチドからなる悪性リンパ腫又は白血病検出用マーカーに関する。
【0089】
本発明者によって、MEF2D遺伝子の融合変異陽性の被験者は、比較的予後が悪いことが示されたことから、MEF2D融合ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、予後マーカーとして用いることができる。例えば、MEF2D遺伝子の融合変異が検出された場合には、予後が悪いことが想定されるため、予め骨髄移植等の治療・予防措置を行うことで、悪性リンパ腫又は白血病の再発の可能性を低減することができる。
【0090】
8.MEF2D遺伝子の変異を検出するためのプライマー、プローブ、及び抗体
一態様において、本発明は、MEF2D遺伝子とBCL9遺伝子の融合遺伝子を検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセットに関する。該プライマーセットは、該融合遺伝子を特異的に検出できるものであれば特に限定しないが、例えば、(1)フォワードプライマーが配列番号30の連続する14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号31の配列の相補的な配列の連続する14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基を含むヌクレオチドからなるか、又は(2)フォワードプライマーが配列番号30の相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基の配列を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号31の配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基の配列を含むヌクレオチドからなる、フォワードプライマー及びリバースプライマーを含む。
【0091】
一態様において、本発明は、MEF2D遺伝子とBCL9遺伝子の融合遺伝子を検出するためのプローブに関する。該プローブは、該融合遺伝子を検出できるものであれば特に限定しないが、例えば、(1)配列番号30の連続する少なくとも7、例えば10、好ましくは15の塩基配列、及び配列番号31の連続する少なくとも7、例えば10、好ましくは15の塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又は(2)配列番号30の連続する少なくとも7、例えば10、好ましくは15の塩基配列、及び配列番号31の連続する少なくとも7、例えば10、好ましくは15の塩基配列に相補的な配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドから構成されることが好ましい。
【0092】
一態様において、本発明は、MEF2D遺伝子とHNRNPUL1遺伝子の融合遺伝子を検出するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを含むプライマーセットに関する。該プライマーセットは、該融合遺伝子を特異的に検出できるものであれば特に限定しないが、例えば、(1)フォワードプライマーが配列番号32の連続する14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号33の配列の相補的な配列の連続する14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基を含むヌクレオチドからなるか、又は(2)フォワードプライマーが配列番号32の相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基の配列を含むヌクレオチドからなり、リバースプライマーが配列番号33の配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基の配列を含むヌクレオチドからなる、フォワードプライマー及びリバースプライマーを含む。
【0093】
一態様において、本発明は、MEF2D遺伝子とHNRNPUL1遺伝子の融合遺伝子を検出するためのプローブに関する。該プローブは、該融合遺伝子を検出できるものであれば特に限定しないが、例えば、(1)配列番号32の連続する少なくとも7、例えば10、好ましくは15の塩基配列、及び配列番号33の連続する少なくとも7、例えば10、好ましくは15の塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又は(2)配列番号32の連続する少なくとも7、例えば10、好ましくは15の塩基配列、及び配列番号33の連続する少なくとも7、例えば10、好ましくは15の塩基配列に相補的な配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドから構成されることが好ましい。
【0094】
プライマー及びプローブは、当業者に知られる公知の方法により調製することができ、限定されるものではないが、例えば化学合成法によって調製することができる。
【0095】
一態様において、本発明は、MEF2DとBCL9の融合タンパク質、又はMEF2DとHNRNPUL1の融合タンパク質に特異的に結合する抗体に関する。抗体の種類及び作製方法については、上記「3.DUX4遺伝子の変異又は過剰発現を検出するためのプライマー、プローブ、及び抗体」において記載したのと同様であるからここでは詳細な記載を省略する。例えば、上記融合タンパク質に対する抗体は、当業者に知られる公知の方法により製造することができ、例えば、哺乳動物に融合部分を含むタンパク質を免疫し、その血清から当業者に知られる任意の方法によって抗体を得ることができる。
【0096】
上記プライマーセット、プローブ、及び抗体は、さらに検出を容易にするために、化学的又は物理的検出手段により検出可能な標識を有してよい。標識に用いられる物質として、蛍光物質、酵素、放射性同位元素、及び発光物質等が挙げられる。蛍光物質として、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネート等、酵素として、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼ等、放射性同位元素として、125I、131I、及び3H等、発光物質として、ルシフェリン、及びルミノール及びその誘導体等が挙げられる。
【0097】
一実施形態において、本発明は、上記プライマーセット、プローブ、及び抗体の少なくとも一つを含む、悪性リンパ腫又は白血病検出用キットに関する。本発明のキットは、上記プライマーセット、プローブ又は抗体に加えて、例えば、バッファー、酵素、及び使用説明書等を含んでもよい。
【0098】
一態様において、本発明は、MEF2DとBCL9の融合タンパク質、又はMEF2DとHNRNPUL1の融合タンパク質と特異的に結合する抗体を含む、悪性リンパ腫又は白血病検出用剤に関する。本発明の悪性リンパ腫又は白血病検出用剤は、試薬としてサンプル分析等のために用いることもできるし、悪性リンパ腫又は白血病の診断のためにも用いることができる。
【0099】
9.MEF2Dの阻害剤を含む医薬組成物
一態様において、本発明は、上記MEF2D遺伝子の融合変異を有する被験者において、悪性リンパ腫又は白血病を治療及び/又は予防するための、MEF2Dの阻害剤を有効成分として含む医薬組成物に関する。
【0100】
MEF2Dの阻害剤は、MEF2Dの活性を阻害し得るものであれば特に限定しないが、例えば、MEF2Dの阻害性核酸、MEF2Dに対する中和抗体、及び低分子化合物が挙げられる。これらの阻害剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0101】
MEF2Dの阻害剤を有効成分として含む以外の構成は、上記「4.DUX4の阻害剤を含む医薬組成物」と同様であるから記載を省略する。
【0102】
10.MEF2Dの阻害剤又は医薬組成物を用いる悪性リンパ腫又は白血病の治療及び/又は予防方法
一態様において、本発明は、上記MEF2Dの阻害剤、又は上記医薬組成物を被験者に投与することを含む、上記MEF2D遺伝子の融合変異を有する被験者の悪性リンパ腫又は白血病の治療及び/又は予防方法に関する。
【0103】
本発明の治療及び/又は予防方法は、好ましくは本発明の判別方法、すなわち、悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無又は該疾患の罹患の可能性の判別方法を適用した被験者に対して行うことができる。
【実施例】
【0104】
[実施例1:新規融合遺伝子の同定及び特徴づけ]
<材料と方法>
細胞株
ヒト胎児由来腎臓(HEK)293細胞及びマウス3T3線維芽細胞はAmerican type Culture Collection(ATCC)から入手し、10%のウシ胎児血清(FBS)(Thermofisher)を含むダルベッコ改変イーグル培地-F12(DMEM-F12)(Thermofisher)で維持した。B細胞株(Kasumi-7、Kasumi-9、NALM6、NAGL-1及びCCRF-SB)は、JCRB細胞バンクから購入し、10% FBSを含むRPMI1640培地(Thermofisher)で維持した。他に明記しない限り、細胞培養は、全ての実施例において同様に行った。
【0105】
臨床検体
スクリーニングコホートのための又はPh陽性ALLの被験者をJALSGの研究に供した。CD19+B細胞及びT細胞画分を、健常なボランティアの末梢血から、磁性ビーズ-精製システム(Miltenyi Biotech)により選択した。骨髄CD34+細胞は、Takara Bioから購入した。CD10+画分は、Takara Bioから購入した骨髄単核細胞から磁性ビーズ精製システムにより濃縮した。検証コホートは、5例の再発を含む62のB細胞ALL患者からなっていた。年齢の中央値は24歳であった(0~81歳の範囲)。完全寛解したサンプルは、34の患者から得られた。なお、本研究は、全ての患者に対してインフォームドコンセントを得、東京大学を含む参加した全ての研究所の倫理委員会に承認された。
【0106】
RNA-seq
相補的RNAを、NEBNext Ultra Directional RNA Library Prep Kit(New England Biolabs)を用いてRNAから調製し、HiSeq2000/2500 platform(Illumina)により両端からNGSシークエンシングに供した。
【0107】
RNA-seqデータにおいて、既知の融合遺伝子はdeFuse分析において以下のパラメーター値を示した;確率>0.9及びスプリットリードカウント>100。したがって、融合遺伝子のスクリーニングの第一ラウンドは、インフレームオプションがイエスとなるのと同じパラメーターを用いて行った(アルゴリズムA)。その後、次のラウンドのスクリーニングでは、上記の通りアルゴリズムAで特定された、又は既に遺伝子融合に関与することが知られているプローブ遺伝子(以下の表に示す)を用いて、以下の基準で融合遺伝子を探索した;確率>0.9又はスプリットリードカウント>100(アルゴリズムB)。
【0108】
【0109】
上記アルゴリズムA又はアルゴリズムBにより特定された融合遺伝子の候補を、RT-PCR、及びその後のシークエンシングにより確認した。
【0110】
RNA-seqデータによる発現プロファイリングのために、ペアードエンド(paired-end)リードを、TopHat2(https://ccb.jhu.edu/software/tophat/index.shtml)を用いてhg19ヒトゲノムアッセンブリーにアライメントした。各RefSeq遺伝子の発現レベルは、HTSeq(http://www-huber.embl.de/users/anders/HTSeq/doc/overview.html)を用いてマッピングしたリードカウントから計算し、DESeq2パイプライン(http://bioconductor.org/packages/release/bioc/html/DESeq2.html)により標準化した。クラスタリング分析のために、標準化したリードカウントを、さらにDESeq2における分散可視化変換法により変換し、Ward法によって階層的クラスタリング分析に供した。クラスタリングに用いた遺伝子は、Roberts et al,N. Engl. J. Med., 371, pp. 1005-1015 (2014)に定義されているが、最近のRefseqデータベースに応じて少し改変した。
【0111】
リードを、TopHat2を用いてDUX4遺伝子座(chr4: 191,007,101~191,011,800)にマッピングし、リードカバー範囲をSAMtools(http://samtools.sourceforge.net)により計算することで
図2bを作成した。DUX4の発現レベルを調べるために、リードをBowtie 2(http://bowtie-bio.sourceforge.net/bowtie2/index.shtml)によりDUX4 cDNA(NM_001293798)にマッピングし、リード数をSAMtoolsにより数えた。数十~数百のDUX4コピーがヒトゲノムに存在しているため、DUX4の発現レベルを、RNAseqエントリーにマッピングされた総リード100万当たりのリード数(RPM)から推定した。DUX4及びACTBの相対発現もまた、Taqman RT-PCR分析(Thermo Fisher Scientific)により、スクリーング及び検証コホートの組み合わせ、正常ヒト組織(Clontech)並びに5つのB細胞ALL細胞株について測定した。
【0112】
非同義SNVの同定
データセットから、各塩基についてQ値≧20であるシークエンスリードを選択し、Bowtie 2アルゴリズムを用いてRNAseqデータベースにマッピングした。ミスマッチは、(i)得られたリードが≧3の独立したミスマッチを含むか、(ii)「1000ゲノム」データベース(http://www.1000genomes.org)又は本発明者のインハウスデータベースの正常なヒトのゲノム変化に既に存在するか、又は(iii)ゲノムの片方の鎖にのみ支持されている場合には、取り除いた。遺伝子変異をSnpEff(http://snpeff.sourceforge.net)によりアノテーションした。大部分の被験者から対の正常細胞は得られなかったため、本発明者は公共のデータベース、例えばCatalogue of Somatic Mutations in Cancer(http://cancer.sanger.ac.uk/cosmic/)、International Cancer Genome Consortium(https://dcc.icgc.org)、The Cancer Genome Atlas (https://tcga-data.nci.nih.gov/tcga/tcgaHome2.jsp)及びCancer Cell Line Encyclopedia(http://www.broadinstitute.org/ccle/home)で既に報告されている非同義SNVにのみ着目した。
【0113】
融合点を増幅するためのゲノムPCR
ゲノムDNAを、以下のプライマーを用いてPCR増幅に供した:DUX4-IGH: 5’-ATAACGGTGTCCTTCTGTTTGCAG-3’(配列番号34)及び5’-GCAGAGGGGATCTCCCAACCT-3’(配列番号35);MEF2D-BCL9: 5’-CAGCCAGCACTACAGAGGAACAG-3’(配列番号36)及び5’-GGCATCTGATTGGAGTGAGAAAGT-3’ (配列番号37);並びにACTB: 5’-CTTCTCCTTAATGTCACGCACGAT-3’ (配列番号38)及び5’-GATCATGTTTGAGACCTTCAACACC-3’ (配列番号39)。
【0114】
<結果>
日本成人白血病治療共同研究グループ(JALSG)ALL202-U プロトコル(Hayakawa, F. et al., Blood Cancer J., 4, e252 (2014))で治療したPh(フィラデルフィア染色体)陰性のAYA(adolescents and young adults、思春期・若年成人)-ALL(acute lymphoblastic leukemeia、急性リンパ性白血病)の骨髄単核細胞からRNAを単離した(スクリーニングコホート:B細胞ALL 54個体、T細胞ALL 18個体、及び系統不明のALL 1個体)。逆転写(RT)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づくALLにおける既知の融合遺伝子のスクリーングにより、4個体でTCF3-PBX1が、4個体でSTIL-TAL1が、1個体でETV6-RUNX1が、1個体でKMT2A-MLLT1が、1個体でKMT2A-AFF3が同定された(STIL-TAL1はT細胞型ALLで、他は全てB細胞型ALLで同定された)。さらに、Ph陽性のALL(n=3)及び健常なボランティア(n=8)からRNAを単離した。これらのRNAをRNA-seqに供し、1個体当たり40.8±4.0Gbp(平均値±SD)の配列データを得、またその配列はサンプル当たり16170±471種類の遺伝子(実際にはRefSeqエントリー: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/refseq/rsg/)にマッピングした。
【0115】
データセットから、deFuseアルゴリズム(McPherson, A. et al., PLoS Comput. Biol., 7, e1001138 (2011))によるコンピューターパイプラインを用いて、融合遺伝子の候補を探索した。BCR-ABL1に加えて、PCRで既に同定した融合転写産物を対応検体において検出することに成功した。さらに、48例のAYA-ALL患者において、計26個の独立した融合遺伝子を見出し、そのうち11個は新規であった(
図1a)。AYA-ALLにおいて最も高頻度な融合は、ホメオボックスを含むタンパク質をコードするDUX4(n=10、B細胞型ALLの18.5%)であり、また、MEF2Dの融合もB細胞ALLにおいて高頻度で見出された。AYA-ALLのB又はT細胞型では、それぞれ14人の患者(25.9%)又は10人の患者(55.6%)においていかなる融合候補も同定されなかった。
【0116】
B細胞ALLにおいて、新規の染色体再構成が高頻度に見出されたため、全ての年齢層のB細胞ALLにおいて、さらに61個体を分析した(検証コホート:小児(0~14歳)23個体、AYA 19個体、≧40歳 19個体)。
図1bに示すように、スクリーニングコホート+検証コホートのRNA-seq及びRT-PCRスクリーニングの結果、DUX4-及びMEF2D-融合が特定の年齢に応じてその頻度が異なることが明らかになった。例えば、DUX4-融合はAYA世代でのみ見出され(両コホートのAYA-ALLにおいて16.4%)、対照的に、MEF2D-融合は、小児及びAYAにおいて同等の頻度で見出された。RT-PCRスクリーニングでは、これらの融合のいずれも、≧40歳の検体では認められなかった。
【0117】
遺伝子発現プロフィールに基づいて、B細胞ALLはPh様又は非Ph様に分類することができ、Ph様のB細胞ALLは、しばしばチロシンキナーゼ経路が活性化されている。Ph陽性ALLの症例を加えたスクリーニングコホートの目的変数なしのクラスタリング分析をRNA-seqデータを用いて行い、7人のPh陰性ALL患者が3例のPh陽性ALLとともにPh様ALLに分類されることを示した。スクリーニングコホートの遺伝子変異プロフィールの臨床結果(データ示さず)は、遺伝子融合が相互排他的であることを示している。DUX4-及びMEF2D-融合は、全て非Ph様群に分類された。しかしながら、これらの変異の患者の予後への影響は、異なっている。DUX4-遺伝子融合を有するALLでは、完全寛解後に長い無疾患生存が予測されるのに対し、MEF2D-遺伝子融合を有する患者の予後は、Ph様ALLの予後と同様に、悪いものであった(
図1c)。
【0118】
AYA-ALLのサブセットにおいて、DUX4遺伝子が存在するD4Z4リピートが、主に染色体14のIGH遺伝子座に転座していたことが見出された(
図2a)。NGSデータの平均リード長は、本発明者の研究では平均104塩基長のシーケンスリードの解析であったため、IGH遺伝子座に挿入されたDUX4のコピー数を決定することは困難であった。しかしながら、
図2bに示す様に、DUX4の遺伝子座にマッピングされたリードの数が、融合点を超えて急激に減少したことは、転座されたDUX4遺伝子が数個であったことを示唆している。実際、幾つかの場合において、DUX4の転座部分の全体がゲノムDNAからPCRで増幅され得、このとき、DUX4のコピー数は、1又は2であると決定された(
図2a)。また、完全寛解期におけるペア検体においてDUX4-IGHが存在しなかったことは(データ示さず)、かかる染色体転座は白血病細胞に後天的に生じた変異であることを示唆している。
【0119】
DUX4転座が生じている全ての症例において、DUX4のコーディング領域の3'末端のIGHフラグメント等への置換をもたらし、これが変異型カルボキシ末端を有するDUX4タンパク質の生産をもたらしていた(
図2c)。また、DUX4のRNA-seqのデータは、融合陽性の症例においてのみ、DUX4が非常に強く発現していることを明らかにした(
図2d)。
【0120】
[実施例2:融合遺伝子のin vitro機能解析]
<材料と方法>
DUX4-IGH mRNAの3'末端を同定するために、SMARTer RACE 5'/3'キット(Takara Bio)により、製造業者の指示に従ってcDNA末端の迅速増幅(RACE)を行った。DUX4-IGH、MEF2D-BCL9又はMEF2D-HNRNPUL1をコードする全長cDNAを患者の検体からPCR増幅し、サンガーシークエンシングにより確認した。次にそれらをpMXSレトロウイルスベクター(Cell Biolabs)、pcDNA3.1発現ベクター(Thermofisher)又はpMSCV-ires-GFPベクターにライゲーションし、そのcDNAとGFPを同時に発現させた。野生型のDUX4を発現させるために、DUX4の翻訳がiresフラグメントによって制御されるpMSCV-GFP-iresベクターを用いた(Tsuzuki, S. & Seto, M., Stem Cells 31, 236-247 (2013))。
【0121】
MEF2レポータープラスミドはQiagenから購入した。ヒトMMP7プロモーター領域(Corveleyn, A. et al., J. Cell. Biochem. 94, 1112-1125 (2005))をヒトゲノムDNAからPCR増幅し、pGL3ルシフェラーゼベクター(Promega)にライゲーションした。HEK293T細胞に、Lipofectamine LTX試薬(Thermofisher)を用いて100ngのレポータープラスミド、200ngの発現ベクター及び4ngのpGL-TK(Promega)をトランスフェクションした。48時間後、細胞を溶解してルシフェラーゼ活性を測定した。ホタルルシフェラーゼに基づくレポーター活性を、ウミシイタケルシフェラーゼの活性によって標準化した。
【0122】
フォーカス形成アッセイのために、組換えレトロウイルスを、pMXS-又はpMSCV-に基づく発現ベクターとecotropic packaging plasmid(Takara Bio)をHEK293T細胞に導入することにより作製した。組換えレトロウイルスを3T3細胞に感染させ、次に該細胞を5%のウシ血清(Thermofisher)を加えたDMEM-F12(Thermofisher)で2週間培養した。
【0123】
様々なcDNAについての発現ベクターをLipofectamine LTXを用いてHEK293T細胞に一過的に形質導入し、その2日後に細胞を溶解した。イムノブロット分析を、DUX4(ab124699)、又はMEF2D(ab93257)に対する抗体(いずれもAbcam)を用いて行った。細胞溶解物を、ACTBに対する抗体(#4967, Cell Signaling Technology)によってもイムノブロットした。
【0124】
shRNAの発現ベクターは、pLMNベクター(Transomic)を用いて構築した。DUX4-IGHに対するshRNAの配列は、5’-ACCCUGUGUGUCUCAGUUCAUA-3’(配列番号40)であり、これはNALM6におけるDUX4-IGH融合遺伝子の転写物のIGH領域を標的としている。
【0125】
<結果>
DUX4-IGH融合遺伝子の癌への関連を調べるために、野生型のDUX4又はDUX4融合遺伝子をマウス3T3線維芽細胞においてそれぞれ発現させ、フォーカス形成アッセイを行った。
図3aで示す様に、DUX4-融合遺伝子を導入した線維芽細胞は全て形質転換して発癌活性を示したが、野生型DUX4導入線維芽細胞は発癌活性を示さなかった。
【0126】
計5種類のB細胞ALL細胞株をRNA-seqに供したところ、19歳の男性から確立されたNALM6においてDUX4の高発現が認められた(
図2d)。融合遺伝子のスクリーニングにより、実際に、NALM6細胞株がDUX4-IGHを有することを確かめた(
図3b)。臨床検体の場合と同様に、IGHへの融合は、変異型カルボキシ末端を有するDUX4タンパク質の生産をもたらし、その発現をイムノブロット分析により確かめた。この再構成は、DUX4タンパク質コード領域の近傍にIGHD2~15内のポリアデニル化シグナルを配置する。ショートヘアピンRNA(shRNA)によるDUX4融合のノックダウンは、NALM6細胞の増殖を抑制した(P=1.22×10
-7、ウェルチのt検定)が、かかる効果はshRNA抵抗性のDUX4-IGHを共発現させた場合には認められず、これはDUX4が治療標的となり得ることを示している(
図3c)。また前記DUX4-IGH-shRNAの増殖抑制は、融合陰性B細胞株であるCCRF-SBでは認められなかった(データ示さず)。
【0127】
MEF2D-BCL9及びMEF2D-HNRNPUL1が、本発明のAYA-ALLコホートで、それぞれ2個体及び3個体で見出された(
図4a)。また、MEF2D-BCL9融合遺伝子が体細胞ゲノムの再構成に由来することを証明した(データ示さず)。
【0128】
MEF2D-BCL9、及びMEF2D-HNRNPUL1タンパク質の両方が、対応する野生型タンパク質に対して高い転写活性を有していた(
図4b)。それらの癌化能を3T3細胞で試験したところ、融合タンパク質を発現する細胞において複数の異常なフォーカスが示されたが、野生型のタンパク質では異常なフォーカスは認められなかった(
図4c)。
【0129】
[実施例3:融合遺伝子のin vivo機能解析]
<材料と方法>
以前に記載した通り(Tsuzuki, S. et al., Stem Cells, 2013, 31, 236-247)、B220+c-kit+ pro-B細胞を、15% FBS、幹細胞因子、flt3リガンド、インターロイキン-7、及び2-メルカプトエタノールを加えたイスコフ改変ダルベッコ培地(Thermofisher)においてOP9細胞上で培養した胎児肝細胞から誘導した。
【0130】
これらの細胞に、融合遺伝子と改良したGFPを発現する組換えレトロウイルスを感染させた。得られたGFP陽性細胞を、亜致死的に放射線照射した(2グレイ)NSGマウス(Jackson Laboratory)に接種した。移植の28日後、CD19、CD43、c-kit、CD25、IL7Ra又はIgMの細胞表面の発現を、(一次)骨髄細胞におけるB220+GFP+細胞についてフローサイトメーターにより評価した。フローサイトメトリー分析には、以下の抗体:抗B220(RA3-6B2)、抗CD19(1d3)、抗c-kit(2B8)、抗CD43(S7)、抗CD25(PC61.5)及び抗IgM(II/41)抗体を用いた。S7をBD Biosciencesから購入したのを除き、全ての抗体はeBioscienceから得た。全ての動物実験は、愛知県がんセンター及び名古屋大学の実験動物委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコルに従って行った。
【0131】
<結果>
DUX4-IGHの融合cDNAをマウスpro-B細胞にレトロウイルスにより導入し、これを免疫不全マウスに注入した結果、DUX4-IGH発現pro-B細胞はin vivoで増殖したが、未成熟な段階で維持された(CD19+CD43+c-kit+CD25-IL7Ra+IgM-)(
図5a、
図5c)。この細胞は二次及び三次のレシピエントに連続的に移植することができ、これはそれらが自己再生活性を有することを示している。対照的に、同じレトロウイルスベクターを用いて野生型のDUX4が導入された場合には、マウスpro-B細胞は、アポトーシスを起こした。したがって、内部リボソーム侵入領域(ires)フラグメントの調節下で少量のDUX4が発現されるようにし、改変組換えレトロウイルスを感染させ、ソートしたB細胞で、マウス移植アッセイを再試験した。その結果、野生型DUX4は増殖有意性を示さなかったが、分化の抑止はもたらした(データ示さず)。
【0132】
同じ移植アッセイを用いて、MEF2D-BCL9発現細胞をin vivoで増殖させると、MEF2D-BCL9はpro-B細胞のin vivoでの増殖優位性をもたらさないが、MEF2D-BCL9及びMEF2D-HNRNPUL1の両方が、17匹のマウスのうち4匹で、B細胞の分化をpro-B細胞の段階で妨害した(
図5a)。
【0133】
DUX-IGH発現注入実験の結果、最終的に157日の中央潜伏期間でマウスは白血病を発症した(
図5b)。MEF2D-BCL9は、低い浸透率だがやはり白血病をもたらす(290日の観察期間で~50%)。
【0134】
[実施例4:ポリクローナル抗体を用いた免疫染色]
ウサギにおいて、ヒトDUX4タンパク質の1~13アミノ酸残基(MALPTPSDSTLPA:配列番号41)を用いて、常法に従って、抗DUX抗体を生産させ、上記ペプチドによって、抗DUX4ポリクローナル抗体をアフィニティー精製した。続いて、得られた抗体(1.2μg/ml)を白血病患者由来の骨髄細胞に室温で32分間反応させ、その後BenchMark XT system (Ventana Medical Systems Inc)によって、製造業者の指示に従って検出を行った。
【0135】
その結果、白血病患者由来の骨髄細胞サンプルは、抗DUX4ポリクローナル抗体によって強く染色された(
図8)。これは、抗DUX4ポリクローナル抗体が白血病の検出に用いられ得ることを示唆している。
【0136】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】