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特許7328744成膜装置、および、電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】成膜装置、および、電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20230809BHJP
   C23C 14/00 20060101ALI20230809BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C23C14/35 Z
C23C14/00 B
H05H1/46 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018143576
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020019989
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】青沼 大介
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05558750(US,A)
【文献】特開昭61-235562(JP,A)
【文献】特開平05-214522(JP,A)
【文献】特開平09-209141(JP,A)
【文献】特開昭62-284070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0225997(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015117845(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H05H 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物および円筒形のターゲットが内部に配置されるチャンバと、
前記ターゲットの内部に設けられ、前記ターゲットの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する磁場発生手段と、
前記ターゲットを回転駆動するターゲット駆動手段と、を備え、前記ターゲットと対向して配置される前記成膜対象物に成膜を行う成膜装置であって、
前記チャンバの内部に、前記成膜対象物に成膜するためのスパッタを行う第1の空間と、前記ターゲットの外表面をクリーニングするためのスパッタを行う第2の空間と、が設けられており、
前記磁場発生手段は、前記ターゲットの前記第1の空間側の外表面から漏洩する第1の漏洩磁場を発生させる第1の磁石ユニットと、前記ターゲットの前記第2の空間側の外表面から漏洩する第2の漏洩磁場を発生させる第2の磁石ユニットと、を有し
前記第1の磁石ユニットは前記成膜対象物に対向して配置され、前記第2の磁石ユニットは、前記第1の磁石ユニットに対し180°反対側の位置から前記ターゲットの回転方向で下流側に片寄せて配置され、
前記第2の漏洩磁場の強度が、前記第1の漏洩磁場の強度よりも低く、
前記チャンバの内部にスパッタガスを供給するためのガス供給手段を備え、
前記ガス供給手段によるガス供給口が、前記成膜対象物の成膜対象面の法線に垂直で、かつ、前記ターゲットの回転軸を含む平面の近傍に位置して、前記ガス供給口から前記第1の空間および前記第2の空間の両方にガスを供給し、前記ターゲットの前記第2の空間においてクリーニングされた部分は前記ターゲット駆動手段による回転により送り込まれた前記第1の空間において前記スパッタが行われることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記第2の磁石ユニットと前記ターゲットとの間には、磁性板が配置されることを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記磁性板は、前記ターゲットの長手方向と直交する断面形状が円弧状の磁性板であることを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記第2の磁石ユニットは、前記第1の磁石ユニットよりも磁力の弱い磁石ユニットであることを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記第2の空間は、前記ターゲットの回転軸を挟んで前記第1の空間の反対側にあることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記第1の空間におけるスパッタと、前記第2の空間におけるスパッタと、を同時に行うモードを有する請求項1からのいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記磁場発生手段を有し、前記ターゲットが、前記磁場発生手段がその内部に配置されるようにそれぞれ配置されるカソードユニットを、前記チャンバ内に複数有することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項8】
成膜対象物をチャンバ内に配置し、前記成膜対象物と対向して配置された円筒形のターゲットから飛翔するスパッタ粒子を堆積させて成膜するスパッタ成膜工程を含む電子デバイスの製造方法であって、
前記ターゲットの内部に配置された磁場発生手段によって、前記ターゲットから前記成膜対象物に向かう第1の方向と、前記成膜対象物から離れる方向の第2の方向と、の両方に前記ターゲットの外表面から漏洩する漏洩磁場を発生させ、
前記磁場発生手段は、前記第1の方向の漏洩磁場を発生させる第1の磁石ユニットと、前記第2の方向の漏洩磁場を発生させる第2の磁石ユニットと、を有し、前記第1の磁石ユニットは前記成膜対象物に対向して配置され、前記第2の磁石ユニットは、前記第1の磁石ユニットに対し180°反対側の位置から前記ターゲットの回転方向で下流側に片寄せて配置され、
前記第2の方向における漏洩磁場の強度は、前記第1の方向における漏洩磁場の強度よりも低く、
前記第1の方向における漏洩磁場によってプラズマを集中させてスパッタを行う本スパッタ工程と、
前記第2の方向における漏洩磁場によってプラズマを集中させてスパッタを行うプリスパッタ工程と、を行い、
前記成膜対象物の成膜対象面の法線に垂直で、かつ、前記ターゲットの回転軸を含む平面の近傍に位置するガス供給口から前記第1の方向の前記チャンバの内部の空間と前記第2の方向の前記チャンバの内部の空間の両方にガスが供給され、前記ターゲットの前記プリスパッタ工程においてスパッタが行われた部分は、前記本スパッタ工程においてスパッタが行われることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記プリスパッタ工程は、前記ターゲットの外表面を清浄にする工程であることを特徴とする請求項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記本スパッタ工程と前記プリスパッタ工程とを同時に行うことを特徴とする請求項に記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、および、電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板や基板上に形成された積層体などの成膜対象物に、金属や金属酸化物などの材料からなる薄膜を形成する方法として、スパッタ法が広く知られている。スパッタ法によって成膜を行うスパッタ装置は、真空チャンバ内において、成膜材料からなるターゲットと成膜対象物とを対向させて配置した構成を有している。ターゲットに負の電圧を印加するとターゲットの近傍にプラズマが発生して電離した不活性ガス元素によってターゲット表面がスパッタされ、放出されたスパッタ粒子が成膜対象物に堆積して成膜される。また、ターゲットの背面(円筒形のターゲットの場合にはターゲットの内側)にマグネットを配置し、発生する磁場によってカソード近傍の電子密度を高くしてスパッタする、マグネトロンスパッタ法も知られている。
【0003】
従来のこの種の成膜装置においては、例えば、ターゲットを交換した後や、チャンバ内を大気開放した後、あるいは成膜処理を連続して行わずターゲットがプラズマに曝されない期間が長い場合などには、ターゲットの表面が酸化あるいは変質している場合がある。このようにターゲットの表面が酸化あるいは変質した場合や、ターゲット表面に異物が付着した場合などには、成膜対象物に対してスパッタする前に、成膜対象物以外に対してスパッタを行い、ターゲットの表面を清浄にするプリスパッタが行われている(特許文献1)。
【0004】
ターゲットを回転させながらスパッタを行うロータリーカソード(RC;回転カソード、ローテータブルカソードとも称する)におけるプリスパッタとしては、例えば、特許文献2に記載のような方法がある。特許文献2に記載のスパッタ装置では、RCの内部に設けられたマグネット(磁石アセンブリ)を回転させることで、次の3つの状態をとることができる。
(1)プラズマが基板(成膜対象物)の反対側を向いている状態
(2)プラズマが横(基板の成膜面に水平な方向)を向いている状態
(3)プラズマが基板を向いている状態
【0005】
すなわち、(1)の状態でプラズマを発生させて(1)または(2)の状態で維持することで基板にスパッタすることなくプリスパッタを行うことができる。プリスパッタが完了した後には、マグネットを回転させて(3)の状態にすれば、基板やRCを移動させることなく、プリスパッタから本スパッタに移行することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-204705号公報
【文献】特表2015-519477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のようにマグネットを回転させる方法では、成膜対象物が大型化してRCが長尺になった場合に、マグネットが重くなり、回転させることが困難になる。
【0008】
また、プリスパッタをしても、本スパッタまでに磁石アッセンブリを半周させている間にターゲット表面状態が変わる可能性があった。
その他の方法として、RC全体をプリスパッタのための位置まで移動させてプリスパッタする方法も考えられるが、移動距離が長くなり、生産性が低下してしまう。
【0009】
本発明の目的は、プリスパッタを生産性良く、簡便に行うことができる成膜装置および電子デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面としての成膜装置は、成膜対象物および円筒形のターゲットが内部に配
置されるチャンバと、前記ターゲットの内部に設けられ、前記ターゲットの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する磁場発生手段と、前記ターゲットを回転駆動するターゲット駆動手段と、を備え、前記ターゲットと対向して配置される前記成膜対象物に成膜を行う成膜装置であって、前記チャンバの内部に、前記成膜対象物に成膜するためのスパッタを行う第1の空間と、前記ターゲットの外表面をクリーニングするためのスパッタを行う第2の空間と、が設けられており、前記磁場発生手段は、前記ターゲットの前記第1の空間側の外表面から漏洩する第1の漏洩磁場を発生させる第1の磁石ユニットと、前記ターゲットの前記第2の空間側の外表面から漏洩する第2の漏洩磁場を発生させる第2の磁石ユニットと、を有し前記第1の磁石ユニットは前記成膜対象物に対向して配置され、前記第2の磁石ユニットは、前記第1の磁石ユニットに対し180°反対側の位置から前記ターゲットの回転方向で下流側に片寄せて配置され、前記第2の漏洩磁場の強度が、前記第1の漏洩磁場の強度よりも低く、前記チャンバの内部にスパッタガスを供給するためのガス供給手段を備え、前記ガス供給手段によるガス供給口が、前記成膜対象物の成膜対象面の法線に垂直で、かつ、前記ターゲットの回転軸を含む平面の近傍に位置して、前記ガス供給口から前記第1の空間および前記第2の空間の両方にガスを供給し、前記ターゲットの前記第2の空間においてクリーニングされた部分は前記ターゲット駆動手段による回転により送り込まれた前記第1の空間において前記スパッタが行われることを特徴とする。

【0012】
本発明のさらに別の一側面としての電子デバイスの製造方法は、成膜対象物をチャンバ内に配置し、前記成膜対象物と対向して配置された円筒形のターゲットから飛翔するスパッタ粒子を堆積させて成膜するスパッタ成膜工程を含む電子デバイスの製造方法であって、前記ターゲットの内部に配置された磁場発生手段によって、前記ターゲットから前記成膜対象物に向かう第1の方向と、前記成膜対象物から離れる方向の第2の方向と、の両方に前記ターゲットの外表面から漏洩する漏洩磁場を発生させ、前記磁場発生手段は、前記第1の方向の漏洩磁場を発生させる第1の磁石ユニットと、前記第2の方向の漏洩磁場を発生させる第2の磁石ユニットと、を有し、前記第1の磁石ユニットは前記成膜対象物に対向して配置され、前記第2の磁石ユニットは、前記第1の磁石ユニットに対し180°反対側の位置から前記ターゲットの回転方向で下流側に片寄せて配置され、前記第2の方向における漏洩磁場の強度は、前記第1の方向における漏洩磁場の強度よりも低く、前記第1の方向における漏洩磁場によってプラズマを集中させてスパッタを行う本スパッタ工程と、前記第2の方向における漏洩磁場によってプラズマを集中させてスパッタを行うプリスパッタ工程と、を行い、前記成膜対象物の成膜対象面の法線に垂直で、かつ、前記ターゲットの回転軸を含む平面の近傍に位置するガス供給口から前記第1の方向の前記チャンバの内部の空間と前記第2の方向の前記チャンバの内部の空間の両方にガスが供給され、前記ターゲットの前記プリスパッタ工程においてスパッタが行われた部分は、前記本スパッタ工程においてスパッタが行われることを特徴とする。

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プリスパッタを生産性良く、簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は実施形態1の成膜装置の構成を示す模式図、(B)は実施形態1の成膜装置の側面図。
図2】(A)は磁性板の斜視図、(B)は第1磁石ユニットの斜視図。
図3】(A)はターゲット駆動機構の一例を示す斜視図、(B)はターゲット駆動機構の一例を示す断面図。
図4】実施形態2の成膜装置の構成を示す模式図。
図5】(A)は実施形態3の成膜装置の構成を示す模式図、(B)は実施形態3の仕切板の斜視図。
図6】実施形態4の成膜装置の構成を示す模式図。
図7】有機EL素子の一般的な層構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
[実施形態1]
まず、図1(A)を参照して、実施形態1の成膜装置1の基本的な構成について説明する。
【0018】
本実施形態に係る成膜装置1は、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造において基板(基板上に積層体が形成されているものも含む)上に薄膜を堆積形成するために用いられる。より具体的には、成膜装置1は、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどの電子デバイスの製造において好ましく用いられる。中でも、本実施形態に係る成膜装置1は、有機EL(ErectroLuminescence)素子などの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造において特に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。
【0019】
図7は、有機EL素子の一般的な層構成を模式的に示している。図7に示すとおり、勇気EL素子は、基板に陽極、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に成膜される構成が一般的である。本実施形態に係る成膜装置1は、有機膜上に、スパッタリングによって、電子注入層や電極(陰極)に用いられる金属や金属酸化物等の積層被膜を成膜する際に好適に用いられる。また、有機膜上への成膜に限定されず、金属材料や酸化物材料等のスパッタで成膜可能な材料の組み合わせであれば、多様な面に積層成膜が可能である。
【0020】
成膜装置1は、ガス導入口(供給口)7aおよび不図示の排気口を備え、内部を真空に
維持することができるチャンバ10を有する。チャンバ10の内部には、ガス導入口7a
1を介して不図示のガス導入手段によってアルゴン等の不活性ガスや反応性ガスが供給される。ここでは、ガス導入口7aは、チャンバ10の内部に配置されたガス配管7の先端
に設けられている。チャンバ10の内部からは、不図示の排気口を介して不図示の排気手段によって真空排気が行われる。
【0021】
チャンバ10内には、成膜装置1によって成膜処理を行う対象である成膜対象物6と、成膜対象物6と対向して円筒形のターゲット2と、が配置される。チャンバ10内にターゲット2が配置された状態で、成膜対象物6が不図示の搬送手段によってターゲット2と対向するチャンバ10内の領域である成膜エリアに搬送され、成膜処理が行われてもよい。成膜対象物6は、成膜エリア内で成膜対象物6の成膜面に平行な方向に不図示の成膜対象物駆動手段によって移動させられつつ、成膜処理が行われてもよい。ターゲット2の内部には、磁場発生手段としての磁石ユニット3が設けられる。ターゲット2は、駆動手段としてのターゲット駆動装置11によって、ターゲット2の円筒中心軸を回転の軸として回転駆動される。磁石ユニット3は密閉されたケース4内に装着され、ターゲット2と共にロータリーカソード8を構成している。
【0022】
ターゲット2は、成膜対象物6に成膜を行う成膜材料の供給源として機能する。ターゲット2の材質は特に限定はされないが、例えば、Cu、Al、Ti、Mo、Cr、Ag、Au、Niなどの金属ターゲットとその合金材が挙げられる。ターゲット2は、これらの成膜材料が形成された層の内側に、バッキングチューブのような別の材料からなる層が形成されていてもよい。また、ターゲット2は円筒形のターゲットであるが、ここで言う「円筒形」は数学的に厳密な円筒形のみを意味するのではなく、母線が直線ではなく曲線であるものや、中心軸に垂直な断面が数学的に厳密な「円」ではないものも含む。すなわち、本発明におけるターゲット2は、中心軸を軸に回転可能な円筒状のものであればよい。
【0023】
磁石ユニット3は、ターゲット2の外表面から漏洩する漏洩磁場を発生する磁場発生手段である。磁石ユニット3は、ターゲット2の外表面の成膜対象物6と対向する第1の領域A1から漏洩する第1の漏洩磁場M1と、ターゲット2の外表面の成膜対象物6と対向しない第2の領域A2から漏洩する第2の漏洩磁場M2と、を発生させる。すなわち、磁石ユニット3によって、ターゲット2と成膜対象物6との間の空間である第1の空間S1には第1の漏洩磁場M1が生成され、ターゲット2の外表面から離れる方向で、かつ、成膜対象物6から離れる方向にある第2の空間S2には第2の漏洩磁場M2が生成される。ここで、第1の空間S1は、成膜対象物6に対する成膜を行うためのスパッタを行うための空間であり、第2の空間S2は後述するようにターゲットの外表面をクリーニングするためのスパッタを行う空間である。第2の空間S2は、図示例では、チャンバ底面とターゲット2の間の空間である。第1および第2の漏洩磁場M1、M2によって、ターゲット2の外周近傍にはプラズマP1、P2が集中し、効率的にスパッタが行われる。なお、第1の空間S1は第1の領域A1と面しており、第2の空間S2は第2の領域A2と面している。
【0024】
第1の磁石ユニット3Aと第2の磁石ユニット3Bの配置については、下記のように表現することもできる。ターゲット2の長手方向に垂直な断面において、ターゲット2の外周上の点であって、成膜対象物6と対向して配置されたときに成膜対象物6との距離が最も短くなる点を第1の点X1とする。そして、同じ断面において、第1の点X1とターゲット2の回転軸上の点nと、を結ぶ直線を第1の直線L1とする。さらに、同じ断面において、ターゲット2の回転軸上の点nを通り、第1の直線L1と垂直な直線を第2の直線L2とする。このとき、ターゲット2を、第2の直線L2を含み、かつターゲット2の長
手方向に平行な平面で分割して2つの部分に分割する。この2つの部分を、第1の部分、第2の部分とする。図1(A)の場合、第1の点X1はターゲット2の外周のうち最も上に位置する点であり、第1の直線L1は第1の点X1を通り、成膜対象物6に垂直な直線であり、第2の直線L2はターゲット2の中心(点n)を通り成膜対象物6と平行な直線である。したがって、図1(A)の場合、ターゲット2は成膜対象物6側の半円(半円筒)と、その反対側の半円(半円筒)とに分割される。このとき、第1の磁石ユニット3Aは第1の部分の外表面の少なくとも一部から漏洩する第1の漏洩磁場M1を発生させ、第2の磁石ユニット3Bは第2の部分の外表面の少なくとも一部から漏洩する第2の漏洩磁場M2を発生させるように配置されている。
【0025】
ターゲット2の内部には、ターゲット2の内周と磁石ユニット3との間に、磁石ユニット3によって生成され、ターゲット2の外表面へと漏洩する漏洩磁場の強度を弱める磁性板5が配置されている。本実施形態では、磁性板5は、第2の漏洩磁場M2の強度を、第1の漏洩磁場M1の強度よりも弱める機能を有する。これにより、第2の空間S2におけるターゲット2の近傍のプラズマP2の密度を、第1の空間S1におけるターゲット2の近傍のプラズマP1の密度よりも低下させ、第2の空間S2における放電を第1の空間S1における放電よりも微弱にすることができる。
【0026】
磁性板5の形状は、図2(A)に示すように、円筒状のケース4の内周に沿ったアーチ状の板状部材で、ケース4の内周に固定されている。図示例では、磁性板5は、ケース4の半周分を覆う構成となっており、半円筒形状を有している。磁性板5の固定は、ケース4の内周に張り付けてもよいし、ねじ等の締結部材によって固定してもよいし、場合によっては、ケース4自体の材質を、該当部分について磁性部材によって構成してもよい。
【0027】
磁性板5の材質は磁束を吸収して内部に集中しやすい材料、すなわち、高い比透磁率を有する材料であれば特に限定はされない。磁気遮蔽板5を構成する材料の比透磁率は500以上であることが好ましく、1000以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましい。なお、磁気遮蔽板5を構成する材料の比透磁率の上限は特に限定はされず、例えば、10000000以下であってもよいし、1000000以下であってもよい。より具体的には、磁気遮蔽板5を構成する材料としては、強磁性体であることが好ましく、例えば、Fe、Co、Niやその合金、パーマロイやミューメタル等を用いることができる。
【0028】
ターゲット2にはバイアス電圧を印加する電源13が接続され、制御装置14によって、ターゲット駆動装置11および電源13が制御される。なお、チャンバ10は接地されている。すなわち、ターゲット2を回転させながら、電源13に印加することで、成膜対象物6側の第1の空間S1と成膜対象物6と反対側(裏側)の第2の空間S2にプラズマを発生させ、裏面側で微弱放電させてプリスパッタを行う。同時に、第1の空間S1では密度の高いプラズマを発生させて本スパッタを行い、成膜対象物6にスパッタ粒子を堆積させて成膜するようになっている。
【0029】
図1(B)に示すように、成膜対象物6は、図示例では、真空チャンバ10の天井側に、ロータリーカソード8の回転軸と平行、すなわち、水平に配置され、両側縁が基板ホルダによって保持されている。成膜対象物6は、例えば、チャンバ10の側壁に設けられた不図示の入口ゲートから搬入され、成膜エリア内の成膜位置まで移動して成膜され、成膜後、不図示の出口ゲートから排出される。成膜装置1は、上述のように、成膜対象物6の成膜面が重力方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆるデポアップの構成であってもよい。ただし、これに限定はされず、成膜対象物6がチャンバ10の底面側に配置されてその上方にロータリーカソード8が配置され、成膜対象物6の成膜面が重力方向上方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆるデポダウンの構成であってもよい。あるいは、
成膜対象物6が垂直に立てられた状態、すなわち、成膜対象物6の成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0030】
ロータリーカソード8は、チャンバ10の上下方向ほぼ中央に配置され、両端がサポートブロック300とエンドブロック200を介して回転自在に支持されている。ガスの配管7は、図1(A)に示すように、ロータリーカソード8に対して、図中左右2か所に設けられ、チャンバ10の底面側から上向きに延びる。ガスの配管7のチャンバ10内の開口部であるガス導入口7aの位置(ガス供給位置)は、ロータリーカソード8の中心軸N
の高さで、円筒形状のターゲット2の左右側面に向けて屈曲し、ターゲット2の左右側面に対向して開口している。
【0031】
ガス導入口7aの位置は特に限定はされないが、第1の空間S1と第2の空間S2との
間が好ましい。すなわち、ガス導入口7aの位置は、成膜対象物6の成膜対象面の法線に
垂直で、かつ、ターゲット2の回転軸を含む平面の近傍とすることが好ましい。これにより、1つのガス導入口7aから、第1の空間S1および第2の空間S2の両方に、ガスを
供給するこができる。
【0032】
(磁石ユニット3の配置構成)
磁石ユニット3は、成膜対象物6に向かう方向(第1の方向D1)に磁場を形成する第1磁石ユニット3Aと、成膜対象物2とは離れる方向である第2の方向D2に磁場を形成する第2磁石ユニット3Bによって構成されている。なお、本実施形態では第1の方向D1と第2の方向D2は180°逆向き、すなわち第1の方向D1と第2の方向D2とがなす角が180°としているが、これに限定はされない。第1の方向D1と第2の方向D2とがなす角は90°以上180°以下であればよく、120°以上180°以下であることが好ましい。第1磁石ユニット3Aと第2磁石ユニット3Bは背面合わせで重ねられており、磁力の強さは同じに設定されている。なお、第1磁石ユニット3Aと第2磁石ユニット3Bとの間には空間が設けられていてもよい。第1磁石ユニット3Aと第2磁石ユニット3Bは、基本的に同じ構成であり、第1磁石ユニット3Aを例にとって、その構成を説明する。
【0033】
第1磁石ユニット3Aは、図2(B)に示すように、ロータリーカソード8の回転軸と平行方向に延びる中心磁石31と、中心磁石31を取り囲む中心磁石31とは異極の周辺磁石32と、ヨーク板33とを備えている。周辺磁石32は、中心磁石31と平行に延びる一対の直線部32a,32bと、直線部32a,32bの両端を連結する転回部32c、32cとによって構成されている。第2磁石ユニット3Bも同一の構成である。
【0034】
磁石ユニット3によって形成される磁場は、中心磁石31の磁極から、周辺磁石32の直線部32a,32aへ向けてループ状に戻る磁力線を有している。これにより、ターゲット2の表面近傍には、ターゲット2の長手方向に延びたトロイダル型の磁場のトンネルが形成される。この磁場によって、電子が捕捉され、ターゲット2の表面近傍にプラズマを集中させ、スパッタリングの効率が高められている。
【0035】
(ケースの構成)
ケース4は円筒形状の密閉されたボックスで、磁石ユニット3がケース4内に配置される。ケース4の中心軸線とターゲットの中心軸はロータリーカソード8の中心軸線Nと同軸的に組付けられている。また、磁石ユニット3のヨーク板33は、中心軸線Nを通る水平面上に位置し、第1磁石ユニット3Aと第2磁石ユニット3Bの中心磁石31、31の中心を通る垂直面が、中心軸線を通るように配置されている。
【0036】
(ターゲットの駆動機構)
図3(A)は、ターゲット駆動機構11の一例を示す概略斜視図であり、図3(B)はロータリーカソード8の回転軸に沿った断面図である。図3(A)は、ロータリーカソード8の基本的な構成、図3(B)は、回転軸受とシールの配置構成を主として記載している。
【0037】
まず、図3(A)を参照して、ターゲット駆動機構11について説明する。ターゲット2に動力を伝達する動力伝達軸21は円筒状の中空軸でエンドブロック200に突出しており、この動力伝達軸21の中空穴を通じてケース4の固定軸41がターゲット2の動力伝達軸21から突出している。ターゲット2の動力伝達軸21は、ターゲット2の端部に固定される端板22の中央に突設され、ケース4の固定軸41は、ケース4の端板42の中央に突設されている。
【0038】
ターゲット2の動力伝達軸21は、駆動伝達機構としてのベルト伝達機構110を介して、駆動源であるモータ130に接続され、回転駆動力が伝達されるようになっている。すなわち、モータ130の回転駆動力が、ベルト伝達機構110、動力伝達軸21を介してターゲット2に伝達され、ターゲット2が回転駆動される。ベルト伝達機構110は、図示例では、ベルトおよびプーリは、歯付きタイプのものが使用されているが、これに限定されない。
【0039】
一方、サポートブロックの端部は、ターゲット2の端部に設けられた従動側回転軸24が、サポートブロック300に回転自在に支持されている。エンドブロック側と異なり、互いに回転自在に支持されればよいので、ターゲット2の従動側回転軸24をケース4の固定軸44が貫通しなくもよい。
【0040】
次に、図3(B)を参照して、回転部分の軸受とシールを中心に説明する。
【0041】
(エンドブロック側の構成)
固定軸41とターゲット2の動力伝達軸21との間には、一対の軸受Bが設けられ、固定軸41に対してターゲット2の動力伝達軸21が回転自在となっており、固定軸41とターゲット2の動力伝達軸21との環状隙間に真空シールに適した密封装置270が装着されている。この密封装置270は、固定軸41とターゲット2の動力伝達軸21との相対的な回転を可能としつつ、環状隙間を封止する機能を有している。また、ケース4と磁石ユニット3は連結されており、ターゲット2が回転しても、ケース4および内部の磁石ユニット3は回転することはない。すなわち、成膜装置1は、ケース4および内部の磁石ユニット3がエンドブロック200に対して固定された状態のまま、ターゲット2を回転させることができる。
【0042】
さらに、ターゲット2の動力伝達軸21と、エンドブロック200に設けられた円形の開口部201との間にも軸受Bが設けられ、エンドブロック200に対してターゲット2の動力伝達軸21が回転自在となっており、さらに、ターゲット2の動力伝達軸21と開口部201との環状隙間が密封装置270によってシールされている。なお、図示例では、駆動力伝達軸21は、ターゲット2の開口端を塞ぐ端板22に設けられた構成で、ターゲット2は、クランプなどの締結部材290によって外周側の端部が締結され、ターゲット2の内周と端板22との嵌合部はガスケットGによって封止されている。これにより、ケース4内を低圧力状態に維持している。
【0043】
(サポートブロック300側の構成)
ターゲット2の従動側回転軸24は中空ではなく、動力伝達軸21と同軸的に設けられ、サポートブロック300に設けられた軸穴301に軸受Bを介して回転自在に支持されている。この軸受部には特に密封装置は不要である。
【0044】
従動側回転軸24は、ターゲット2の開口端を塞ぐ端板25に設けられた構成で、端板25の内側の端面には未貫通の軸受穴26が設けられており、この軸受穴26にケース4の固定軸44が、軸受Bを介して回転自在に支持されている。なお、ターゲット2のサポートブロック300側の端部も、クランプなどの締結部材290によって外周側の端部が締結され、ターゲット2の内周と端板との嵌合部はガスケットGによって封止され、ターゲット100の内部空間を低圧力状態に維持している。
【0045】
なお、ここではサポートブロック300はチャンバ10の内部に配置され、エンドブロック200はチャンバ10の外部に配置されるものとしたが、これに限定はされず、エンドブロック200もチャンバ10の内部に配置されてもよい。この場合、モータ130等もエンドブロック200の内部に配置されてもよい。エンドブロック200およびサポートブロック300をチャンバ10の内部に配置して、ロータリーカソード8と共に成膜対象物6の成膜面に対して平行に移動可能な構成としてもよい。この構成にすれば、ロータリーカソード8を回転駆動させつつ、ロータリーカソード8を成膜対象物6の成膜面に対して平行に駆動させることができる。
【0046】
次に、成膜装置1の作用について説明する。
【0047】
成膜装置1は、制御部14によって、駆動源のモータ130、ターゲット駆動機構11を制御し、ターゲット2を回転させて、成膜対象物6に成膜する。ターゲット2を回転させながら、電源13からターゲット2にバイアス電圧を印加すると、磁石ユニット3によって生成される漏洩磁場によって、ターゲット2の外側の空間にプラズマが発生する。より具体的には、成膜対象物6側の第1の空間S1には磁力の高い第1の漏洩磁場M1によって高密度のプラズマP1が生成され、成膜対象物6と反対側の第2の空間S2には、磁力の低い第2の漏洩磁場M2によって低密度のプラズマP2が生成される。
【0048】
ターゲット2の外表面のうち、第2の領域A2に相当する部分は、第2の空間S2における低密度のプラズマP2の荷電粒子によってターゲット2がスパッタされて表面がクリーニングされる(プリスパッタ)。ターゲット2は回転駆動されているため、ターゲット2の外表面のうち、プリスパッタによってクリーニングされる部分はターゲット2の外表面を移動していく。すなわち、ターゲット2を回転させつつプリスパッタすることで、ターゲット2の外表面の全周についてクリーニングを行うことができる。ターゲット2の外表面のうち、プリスパッタによってクリーニングされた部分は、回転によって第1の領域A1に送り込まれる。第1の領域A1では、第1の空間S1における高密度のプラズマP1の荷電粒子によって清浄なターゲット表面がスパッタされる(本スパッタ)。これにより、不純物が低減されたスパッタ粒子が成膜対象物6に堆積し、均一な被膜が成膜される。
【0049】
なお、本スパッタとプリスパッタは、時間的に間隔をあけて順番に実施してもよいし、連続して順番に実施してもよいし、同時に実施してもよい。本実施形態では、本スパッタとプリスパッタは同時に実施される。本スパッタとプリスパッタを同時に実施するなどして、第2の領域A2でクリーニングされたターゲット2の表面を直ちに本スパッタするようにすることで、本スパッタが行われる第1の領域A1では、ターゲット2の表面を常に清浄な状態に保つことができる。これにより、純度の高い均質な成膜層を得ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、成膜対象物6から離れる方向にある第2の空間S2においてプリスパッタを行う。すなわち、ターゲット2の外表面のうち、成膜対象物6と対向していない部分をスパッタすることで、プリスパッタを行う。これにより、プリスパッタによっ
て飛散するスパッタ粒子は、成膜対象物6とは反対側のチャンバ10の内壁面等に付着するため、プリスパッタによる成膜対象物6または成膜対象物6に形成されている膜への影響を低減させることができる。さらに、第2の領域A2から漏洩して形成される第2の漏洩磁場M2は第1の漏洩磁場M1よりも磁場強度が弱く、第2の空間S2で生成されるプラズマP2はプラズマP1よりも低密度である。そのため、プリスパッタにおいては本スパッタよりも微弱な放電によってスパッタされるので、プリスパッタによるターゲット2の消費量の抑制を図ることもできる。
【0051】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。以下の説明では実施形態1と、主として異なる点についてのみ説明し、同一の構成部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
[実施形態2]
図4は、本発明の実施形態2に係る成膜装置101を示している。実施形態1では、磁性板5によって、第2の領域A2から漏洩する第2の漏洩磁場M2の強度を、第1の領域A1から漏洩する第1の漏洩磁場M1の強度よりも低く設定していた。一方、実施形態2では、第2磁石ユニット3B自体の磁力を、成膜対象物6側の第1磁石ユニット3Aの磁力より弱くする。これにより、第2の領域A2から漏洩する第2の漏洩磁場M2の強度を、第1の領域A1から漏洩する第1の漏洩磁場M1の強度よりも低く設定する。このようにすれば、磁性板5を用いることなく、第2の領域A2側の漏洩磁場を弱めて微弱放電が可能となり、第1の領域A1における本スパッタと、第2の領域A2におけるプリスパッタと、を効率的に行うことができる。
【0053】
[実施形態3]
図5は、本発明の実施形態3に係る成膜装置102を示している。実施形態3では、チャンバ10の内部を、成膜対象物6に成膜するための第1の空間S1と、第2の空間S2と、に仕切るための仕切り部材400を設けたものである。
【0054】
第1の空間S1は、上記した通り、本スパッタの際の高密度のプラズマP1が生成される領域であり、第2の空間S2はプリスパッタの際に低密度のプラズマP2が生成される領域である。成膜装置102は、第1の空間S1にガスを導入するための第1のガス導入口71と、第2の空間S2にガスを導入するための第2のガス導入口72と、を有しており、それぞれのガス導入口71,72は別のガス供給源に接続されていてもよい。それぞれのガス導入口71,72からは別種のガスが供給されてもよい。
【0055】
仕切り部材400は、ロータリーカソード8の中心軸Nを通る水平面に沿って、ロータリーカソード8の左右に一対の水平板部401と、水平板部401を支持する垂直方向に延びる支持板部402とを備えたL字形状に屈曲した板材によって構成される。支持板部402はチャンバ10の内壁面に固定され、水平板部401のロータリーカソード8側の端部が、ターゲット2の側面に対して微小な隙間を介して対向するように構成される。なお、水平板部401が直接チャンバ10の壁に固定された構成でもよい。このように第1の空間S1と第2の空間S2を仕切ることで、プリスパッタ時の酸化物等の飛散粒子が成膜対象物側に付着する等の影響を抑制することできる。
【0056】
[実施形態4]
図6は、本発明の実施形態4に係る成膜装置103を示している。実施形態4では、磁石ユニット3を、成膜対象物6側の第1の領域A1に対向させて1つ設け、第2の領域A21,A22に対向させて2つ設けている。すなわち、成膜装置103は、第1の領域A1から漏洩磁場を発生させるために配置される第1の磁石ユニット3Aと、第2の領域A21,A22から漏洩磁場M21,M22を発生させるために配置される2つの第2の磁
石ユニット3B1,3B2と、を有する。第2の磁石ユニット3B1,3B2は、ターゲットの回転方向に沿って上流側と下流側に配置される構成で、第1の磁石ユニット3Aと合わせて3角形状の配置となっている。
【0057】
このようにすれば、第2の領域A2に、2つの第2の磁石ユニット3B1,3B2によ
って、2つの磁場M21、M22によって複数のプラズマP21,P22が生成され、裏
面側の放電エリアを広くすることができ、クリーニングの表面均一性を向上させることができる。なお、第2の磁石ユニットは複数設ければよく、2つに限定されず、3つ以上でもよい。
【0058】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の構成を採用することができる。
【0059】
例えば、実施形態1~3では、磁石ユニット3は、成膜対象物と対向する第1磁石ユニット3Aに対して、1つの第2磁石ユニット3Bを180°反対側に配置しているが、1つの第2の磁石ユニット3Bを、実施形態4の2つの第2の磁石ユニットの下流側の磁石ユニット3B2のように、回転方向下流側に片寄せて配置するような構成としてもよい。このようにすれば、ターゲット2を本スパッタの直前でクリーニングすることができ、クリーニングの効果が高い。
【0060】
また、上記各実施形態では、磁性板5を磁石ユニット3と共にケース4内に配置した場合について説明したが、ケース4の外周とターゲット2の内周の間の隙間に配置する構成としてもよい。
【0061】
また、磁性板のサイズとしては、上記実施形態ではほぼ断面半円形状となっており、円筒状のターゲットの180°の範囲を覆うサイズとなっているが、180°に限定されるものではない。円筒状のターゲットの90°以上270°以下の範囲を覆うサイズとすることが好ましく、150°以上210°以下の範囲を覆うサイズとすることがより好ましい。
【0062】
また、上記実施形態では、磁性板5を1枚の磁性板で構成しているが、2枚重ねた構成としてもよいし、1枚には限定されない。
【0063】
また、上記実施形態では、ロータリーカソード8が1つの場合を例示したが、ロータリーカソード8がチャンバ10の内部に複数配置された成膜装置にも適用可能である。より具体的には、異種材料のターゲット2をそれぞれ有する複数のロータリーカソード8が配置され、成膜対象物6上に異種材料の積層構造の成膜層を形成する成膜装置にも適用可能である。複数のロータリーカソード8で異種材料を成膜する場合、1つのロータリーカソード8のターゲット2に、別のロータリーカソード8のターゲット2からスパッタされた異種材料からなるスパッタ粒子が付着してしまうことがある(コンタミ)。このように、コンタミが生じると、成膜対象物6に成膜される膜の組成比が、意図した比率から変わる恐れがある。このような場合でも、上述の各実施形態のように、裏面側で常に微弱放電しておけば、付着した異種材料は常にクリーニングされて除去され、成膜層の組成比を維持することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 成膜装置
2 ターゲット
3 磁石ユニット(磁場発生手段)
6 成膜対象物
10 チャンバ
11 ターゲット駆動装置(ターゲット駆動手段)
A1 第1の領域
A2 第2の領域
M1 第1の漏洩磁場
M2 第2の漏洩磁場
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7