(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】焼成済み冷凍パン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 15/02 20060101AFI20230809BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20230809BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20230809BHJP
A21D 6/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
A21D15/02
A21D2/14
A21D2/36
A21D6/00
(21)【出願番号】P 2020063881
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】関 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 孝弘
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-049026(JP,A)
【文献】特開平10-191875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類を含む生地原料から調製された生地を焼成してパン類を得る工程と、該パン類を圧縮する工程と、圧縮されたパン類を冷凍する工程とを有する、焼成済み冷凍パン類の製造方法であって、
前記パン類を圧縮する工程では、圧縮後のパン類の圧縮方向の厚みが、圧縮前のパン類の同方向の厚みの20~75%となるようにパン類を圧縮し、
前記穀粉類は、非熱処理デュラム粉砕物を35~80質量%、乾熱処理小麦粉を1~10質量%及び湿熱処理澱粉を1~15質量%含有する、焼成済み冷凍パン類の製造方法。
【請求項2】
前記乾熱処理小麦粉は、乾熱処理デュラム粉砕物又は乾熱処理強力粉を含む、請求項1に記載の焼成済み冷凍パン類の製造方法。
【請求項3】
前記生地原料は、アルギン酸プロピレングリコールエステルを含む、請求項1又は2に記載の焼成済み冷凍パン類の製造方法。
【請求項4】
前記焼成済み冷凍パン類は、喫食時に電子レンジで加熱解凍されるものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成済み冷凍パン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成後に圧縮され冷凍された焼成済み冷凍パン類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、焼成済みのパン類が冷凍状態で保存、流通、販売されているところ、パン類は多孔性の食品であり、冷凍状態であっても重量に対して嵩高くなりがちなため、保存、流通、販売に際し場所をとり、コストの高騰を招くという問題がある。この問題を解決し得る技術として、特許文献1には、パン類を一旦焼成等の手段により製造した後、その製造されたパン類を圧縮して嵩を減少させた状態で冷凍保存する技術が開示されている。
【0003】
焼成済みのパン類を冷凍した冷凍パン類は、電子レンジ等の加熱調理器を用いて加熱解凍することで喫食可能な状態となる。しかし、冷凍パン類を電子レンジで加熱解凍すると、硬い食感となる、ヒキが出て歯切れが悪くなる、くちどけが悪くなる、表面に皺がよって収縮する等の不都合が生じやすく、パン類本来の食感及び外観が損なわれることが多い。特に、特許文献1に記載の如き圧縮された冷凍パン類には、このような冷凍に起因する問題に加えて更に、電子レンジで加熱解凍したときに嵩が十分に復元しないという問題がある。
【0004】
冷凍パン類を電子レンジで加熱解凍して喫食した場合の食感を改善するために、生地原料としてデュラム小麦粉を使用することが知られている。例えば特許文献2には、デュラム小麦粉の配合割合が30~100重量%である穀粉を使用して製造された冷凍ベーカリー製品が開示されている。特許文献3には、粒度分布が特定範囲にあるデュラム小麦粉を用いて冷凍パン類を製造することが開示されている。特許文献4には、常温あるいは冷凍状態で保存・流通可能で電子レンジ加熱に適したパン類として、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量に対して、デュラム小麦粉を10~30質量%、焙煎小麦粉を1~10質量%及び湿熱処理澱粉を1~15質量%の割合で用いて製造したものが開示されている。特許文献4の[0026]には、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量に対するデュラム小麦粉の使用割合が30質量%を超えると好ましくない旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-313093号公報
【文献】特開平6-153769号公報
【文献】特開平10-28515号公報
【文献】特開2012-29575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、保存、流通、販売時には圧縮された状態であって場所をとらず、加熱解凍した場合の外観の復元性及び食感が良好な焼成済み冷凍パン類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、穀粉類を含む生地原料から調製された生地を焼成してパン類を得る工程と、該パン類を圧縮する工程と、圧縮されたパン類を冷凍する工程とを有する、焼成済み冷凍パン類の製造方法であって、前記パン類を圧縮する工程では、圧縮後のパン類の圧縮方向の厚みが、圧縮前のパン類の同方向の厚みの20~75%となるようにパン類を圧縮し、前記穀粉類は、非熱処理デュラム粉砕物を35~80質量%、乾熱処理小麦粉を1~10質量%及び湿熱処理澱粉を1~15質量%含有する、焼成済み冷凍パン類の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存、流通、販売時には圧縮された状態であって場所をとらず、加熱解凍した場合の外観の復元性及び食感が良好な焼成済み冷凍パン類が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の焼成済み冷凍パン類の製造方法は、生地原料から調製された生地を焼成してパン類を得る工程(以下、「パン類製造工程」とも言う。)と、該パン類を圧縮する工程(以下、「圧縮工程」とも言う。)と、圧縮されたパン類を冷凍する工程(以下、「冷凍工程」とも言う。)とを有する。
【0010】
本発明に係るパン類製造工程で使用する生地原料には穀粉類が含まれる。ここでいう「穀粉類」には、穀粉及び澱粉が含まれる。また、ここでいう「澱粉」は特に断らない限り、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を指し、穀粉中に本来的に内在する澱粉とは区別される。本発明では穀粉類として、非熱処理デュラム粉砕物、乾熱処理小麦粉、湿熱処理澱粉の3種類を使用する。
【0011】
本発明で使用する非熱処理デュラム粉砕物としては、熱処理されていないデュラム粉砕物を用いることができ、例えば、デュラムセモリナ、デュラム小麦粉、デュラム全粒粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。デュラムセモリナは、デュラム小麦からふすま(表皮)及び胚芽を除いて粗挽きしたものであり、デュラム小麦粉は、デュラムセモリナを更に粉砕・粉末化したものである。デュラムセモリナとデュラム小麦粉との主な違いは粒子の大きさであり、一般に、前者の方が後者に比べて平均粒径が大きい。デュラム全粒粉は、デュラム小麦をそのまま粉砕したもので、ふすまや胚芽を含む点で、これらを実質的に含まないデュラムセモリナ及びデュラム小麦粉と相違する。これらの非熱処理デュラム粉砕物の中でも特にデュラムセモリナ、デュラム小麦粉が好ましく、とりわけデュラム小麦粉が好ましい。デュラム小麦粉としては、デュラム小麦を製粉して得られる小麦粉であって、本技術分野で使用可能なものを特に制限無く用いることができる。
【0012】
好ましい非熱処理デュラム粉砕物(デュラム小麦粉)の一例として、本出願人の先の出願に係る特開2009-11277号公報に記載のデュラム小麦粉(以下、「特定デュラム小麦粉」とも言う。)が挙げられる。この特定デュラム小麦粉は、損傷澱粉量が9.5質量%以下であることを特徴とする。ここでいう「損傷澱粉」は、小麦粉に含まれる澱粉の一部が機械的な損傷を受けて澱粉粒が破壊された状態のものを指す。特定デュラム小麦粉は損傷澱粉が比較的少ないことが主たる特徴の1つである。特定デュラム小麦粉の損傷澱粉量は、好ましくは8.0~6.0質量%、より好ましくは7.0~8.0質量%である。パン類の製造に特定デュラム小麦粉を用いると、パン生地のミキシング耐性及び分割・成形時の作業性が向上し、得られるパン類のボリュームが大きくなるとともに、パン類の内相、食感、香りが良好になり、更には、パン類を電子レンジで加熱した場合の食感及び外観等が良好になり得る。特定デュラム小麦粉は、例えば、特開2009-11277号公報に記載の方法に従って製造することができる。
【0013】
非熱処理デュラム粉砕物の粒度(粒径の頻度)は特に制限されず、パン類の種類等に応じて適宜設定することができるが、パン類の食感の向上等の観点から、平均粒径が好ましくは20~100μm、より好ましくは60~100μmの範囲であり、且つ粒径200μm以下の部分が90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは100質量%であることが好ましい。前記の特定デュラム小麦粉の粒度も斯かる範囲にあることが好ましい。
【0014】
本発明において、小麦粉等の平均粒径は、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」)を用いて乾式で測定したときの累積体積50容量%における体積累積粒径D50を指す。なお、粒度(粒径の頻度)とは、粒径分布を解析し、計算した「検出頻度割合」である(日機装株式会社製の前記装置9200FRAに添付された資料「マイクロトラック粒度分析計測定結果の見方」参照)。
【0015】
本発明で使用する乾熱処理小麦粉は、処理対象の小麦粉(原料小麦粉)を乾式下に高温(通常、品温90~160℃)で熱処理(すなわち乾熱処理)することによって得られるもので、焙焼小麦粉、焙煎小麦粉、ローストフラワーなどとも呼ばれる。乾熱処理は、処理対象を水分無添加の条件で加熱する処理であり、処理対象中の水分を積極的に蒸発させる処理である。乾熱処理は、例えば、オーブンでの加熱、焙焼窯での加熱、乾燥器を用いる加熱、処理対象に熱風を吹き付ける熱風乾燥、高温低湿度環境での処理対象の放置などによって実施することができる。乾熱処理には必要に応じ、バンドオーブン等のオーブン、パドルドライヤー等の加熱装置付きミキサーなどを用いることができる。乾熱処理における加熱温度(処理対象の品温)は、処理中一定でもよく、変動してもよい。
【0016】
乾熱処理小麦粉の製造に際して乾熱処理に供される原料小麦粉としては、本技術分野で使用可能な熱処理されていない小麦粉を特に制限無く用いることができ、例えば、薄力小麦粉、中力小麦粉、準強力小麦粉、強力小麦粉、デュラム粉砕物(デュラムセモリナ、デュラム小麦粉、デュラム全粒粉等)が挙げられる。薄力小麦粉の乾熱処理によって乾熱処理薄力粉が得られ、中力小麦粉の乾熱処理によって乾熱処理中力粉が得られ、準強力小麦粉の乾熱処理によって乾熱処理準強力粉が得られ、強力小麦粉の乾熱処理によって乾熱処理強力粉が得られ、デュラム粉砕物の乾熱処理によって乾熱処理デュラム粉砕物が得られる。乾熱処理小麦粉の製造に際して乾熱処理に供される原料小麦粉としては、前記の特定デュラム小麦粉(損傷澱粉量が9.5質量%以下のデュラム小麦粉)を用いることもできる。これらの乾熱処理小麦粉の中でも特に乾熱処理デュラム粉砕物、乾熱処理強力粉が好ましく、とりわけ乾熱処理デュラム粉砕物が好ましい。
本発明では、1種類の乾熱処理小麦粉を使用してもよく、小麦粉の種類及び/又は熱処理方法が異なる複数種の乾熱処理小麦粉を併用してもよい。
【0017】
好ましい乾熱処理小麦粉の一例として、原料小麦粉を雰囲気温度140~350℃の環境下(例えばオーブンの庫内)に10~120分間置いたものが挙げられる。
好ましい乾熱処理小麦粉の他の一例として、原料小麦粉を該原料小麦粉の品温90℃以上が5分間以上維持される条件で乾熱処理したものが挙げられる。
【0018】
本発明で使用する湿熱処理澱粉は、処理対象の澱粉(原料澱粉)を水分の存在下で熱処理(すなわち湿熱処理)することによって得られるものである。湿熱処理澱粉は、原料澱粉が完全にα化したものではなく、部分的にα化されたものが好ましい。湿熱処理方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。
湿熱処理澱粉の製造に際して湿熱処理に供される原料澱粉としては、本技術分野で使用可能な熱処理されていない澱粉を特に制限無く用いることができ、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉が挙げられる。これらの湿熱処理澱粉の中でも特に、コーンスターチを湿熱処理してなる湿熱処理澱粉が、電子レンジ加熱による食感の低下を効果的に抑制し得るという点から好ましい。
本発明では、1種類の湿熱処理澱粉を使用してもよく、澱粉の種類及び/又は熱処理方法が異なる複数種の湿熱処理澱粉を併用してもよい。
【0019】
好ましい湿熱処理澱粉の一例として、偏光十字を有し且つアミラーゼによる消化性が未処理品の4~10倍であるもの(以下、「特定湿熱処理澱粉」とも言う。)が挙げられる。この特定湿熱処理澱粉は、例えば、特開平4-130102号公報の実施例2に記載されている方法に準じて、澱粉を減圧状態に置いた後に加圧水蒸気を供給して124℃で20分間湿熱処理する方法などにより得ることができる。特定湿熱処理澱粉をパン類に用いると、電子レンジで加熱したときに硬くならず、ヒキが生じないパンが得られ、しかも風味が損なわれないという効果が得られる。
【0020】
本発明は、パン類製造工程で使用する生地原料に含まれる穀粉類が前記3種類の穀粉類(非熱処理デュラム粉砕物、乾熱処理小麦粉、湿熱処理澱粉)をそれぞれ特定量含有する点で特徴付けられる。
具体的には、本発明で使用する穀粉類における非熱処理デュラム粉砕物の含有量は、該穀粉類の全質量に対して、35~80質量%であり、好ましくは40~60質量%である。
また、本発明で使用する穀粉類における乾熱処理小麦粉の含有量は、該穀粉類の全質量すなわち複数種の穀粉類の合計質量に対して、1~10質量%であり、好ましくは3~10質量%、より好ましくは5~10質量%である。
また、本発明で使用する穀粉類における湿熱処理澱粉の含有量は、該穀粉類の全質量に対して、1~15質量%であり、好ましくは3~10質量%、より好ましくは5~10質量%である。
前記3種類の穀粉類を前記範囲で使用することによって、パン類の圧縮・冷凍に起因する不都合(パン類の外観及び食感の低下等)の発生が効果的に抑制され、加熱解凍した場合の外観の復元性及び食感が良好な焼成済み冷凍パン類の提供が可能となる。
【0021】
本発明では、パン類製造工程で使用する生地原料に、前記3種類の穀粉類(非熱処理デュラム粉砕物、乾熱処理小麦粉、湿熱処理澱粉)以外の他の穀粉類を含有させてもよい。斯かる他の穀粉類としては、本技術分野で使用可能な穀粉及び澱粉を特に制限無く用いることができ、例えば、非熱処理デュラム粉砕物及び乾熱処理小麦粉以外の小麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、そば粉、米粉、豆粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉等の穀粉;馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉等の未加工澱粉;前記の各未加工澱粉に、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理を施した加工澱粉が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記3種類の穀粉類に加えて他の穀粉類を使用する場合、本発明で使用する穀粉類における他の穀粉類の含有量は、該穀粉類の全質量に対して、好ましくは0~63質量%、より好ましくは10~55質量%である。
【0022】
本発明に係るパン類製造工程で使用する生地原料は、穀粉類に加えて更に、増粘剤を含んでいてもよい。これにより、焼成済み冷凍パン類の加熱解凍後の食感がより一層向上し得る。増粘剤としては、この種のパン類に使用可能なものを特に制限無く用いることができ、例えば、ペクチン、アルギン酸エステル、寒天、グアーガム、キサンタンガム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましい増粘剤として、アルギン酸エステル、寒天が挙げられる。特にアルギン酸エステルが好ましく、とりわけアルギン酸プロピレングリコールエステルが好ましい。
生地原料における増粘剤の含有量は、該生地原料に含まれる穀粉類100質量部に対して、好ましくは0.2~2質量部、より好ましくは0.3~1質量部である。増粘剤の含有量が少なすぎるとこれを使用する意義に乏しく、多すぎるとパン類の食感等に悪影響が生じるおそれがある。
【0023】
本発明に係るパン類製造工程で使用する生地原料は、前述した穀粉類及び増粘剤の他に、製パンや製菓に従来用いられている副資材を含んでいてもよい。斯かる副資材としては、例えば、各種発酵種やイースト(生イースト、ドライイースト等);砂糖やその他の糖類;イーストフード;卵又は卵粉;脱脂粉乳、全脂粉乳、生乳、チーズ、ヨーグルト、ホエー等の乳製品;ショートニング、バター、マーガリンその他の動植物油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;グルテンや乳蛋白等の蛋白質;食物繊維;コーヒーやココア等の呈味料;果汁;甘味料;香料;色素等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明に係るパン類製造工程は、典型的には、穀粉類を含む生地原料を用いて生地を調製し、調製した生地を発酵させた後、焼成する工程を含み、斯かる工程は常法に従って実施できる。本発明に係るパン類製造工程は、公知の製パン方法に準じて実施することができ、そのような製パン方法の具体例として、直捏法(ストレート法)、中種法、速成法、水種法、酒種法が挙げられる。直捏法は、全ての原料を水と共に一度に混捏して生地を調製し、該生地を発酵した後焼成する製パン法である。中種法は、原料の一部を水と共に混捏して中種生地を調製し、該中種生地を発酵した後(中種工程)、該中種生地に残りの原料を添加しさらに混捏して本捏生地を調製し(本捏工程)、該本捏生地を焼成する製パン法である。
【0025】
本発明に係る圧縮工程では、パン類製造工程を経て得られたパン類を圧縮する。このように焼成され製造されたパン類を圧縮することで、嵩張りがちなパン類の嵩が減少してコンパクトなものとなるため、保存、流通、販売に際し場所をとり難くなり、保存、流通、販売にかかるコストの低廉化を図ることが可能となる。また、圧縮されたパン類を冷凍したものは、焼成されたパン類を圧縮せずにそのまま冷凍したものに比べて、耐衝撃性が向上していて保形性に優れており、例えば、流通過程で高所から落下するなどした場合でも破損し難い。つまり、パン類を圧縮することで、パン類の取扱性、物流耐性が向上し得る。
【0026】
本発明に係る圧縮工程では、圧縮後のパン類の圧縮方向の厚みが、圧縮前のパン類の同方向の厚みの20~75%となるように、パン類を圧縮する。以下、この「圧縮前のパン類の圧縮方向の厚みに対する圧縮後のパン類の圧縮方向の厚みの割合」を「圧ぺん率」とも言う。本発明に係る圧縮工程では、圧ぺん率が20~75%となるようにパン類を圧縮する。
前記の「パン類の圧縮方向の厚み」は、典型的には、パン類の上下方向の長さである。ここでいう「上下方向の長さ」は、パン類を一切カットせずに水平面上に静置した場合の該水平面と該パン類における高さが最も高い部分との間の長さを指す。
前記の「圧縮前のパン類」は、圧ぺん率を算出する際の基準となるものであることから、焼成直後のパン類のような、比較的高熱で外形形状が不安定で厚みが変動し得るようなものではなく、粗熱が取れて外形形状がある程度安定した状態のものが好ましく、具体的には例えば、焼成後に常温(例えば雰囲気温度25℃)で30分以上静置したパン類を例示できる。
圧ぺん率が75%を超えると、パン類の圧縮が不十分なために圧縮工程を実施する意義に乏しく、圧ぺん率が20%未満では、パン類の圧縮が過剰であるために製造結果物である焼成済み冷凍パン類を加熱解凍した場合の外観の復元性に劣り、嵩の回復が不十分となって食感等に悪影響を及ぼすおそれがある。圧ぺん率は、好ましくは25~70%、より好ましくは30~60%である。
【0027】
本発明に係る圧縮工程におけるパン類の圧縮方法は、パン類を押圧して嵩(厚み)を減少させ得る方法であればよく、例えば、板状の圧縮具をパン類に押し当てる等の手作業による圧縮でもよく、機械的圧縮でもよい。機械的圧縮の具体例としては、プレス機による加圧圧縮、可撓性包材中にパン類を密封した状態で該包材内を減圧することによる圧縮(いわゆる真空パック方式)、上下一対の圧縮ベルトでパン類を挟み圧縮する方法(特許文献1に記載の方法)が挙げられる。
パン類を圧縮する際にパン類と接触する圧縮具、具体的には例えば、プレス機による加圧圧縮を行う場合における該プレス機が備える圧縮プレートを、圧縮前に予め冷却しておいてもよい。そうすることで、次工程の冷凍工程での冷凍時間が短縮されて、生産の効率化を図ることができる。
【0028】
本発明に係る冷凍工程では、圧縮工程で圧縮されたパン類を冷凍する。パン類の冷凍方法は特に制限されず、公知の冷凍方法を適宜利用することができ、例えば、短時間で凍結させる急速冷凍でもよく、比較的ゆっくり凍結させる緩慢冷凍でもよい。冷凍時間、冷凍温度などの冷凍条件は、パン類の種類等に応じて適宜調整することができる。
冷凍工程に供されるパン類は、圧縮のための加圧が維持された状態でもよい。すなわち、圧縮のための加圧が維持された状態でパン類を冷凍してもよい。具体的には例えば、プレス機によってパン類を加圧圧縮しつつ、該パン類を冷凍してもよい。これにより、圧縮させたパン類をそのままの形態で冷凍保存することが可能となるので、圧ぺん率を所望の範囲に設定することが一層容易となり、圧ぺん率を前記特定範囲にすることによる作用効果がより一層確実に奏され得る。
【0029】
本発明の製造方法は、前述のとおり、パン類製造工程、圧縮工程及び冷凍工程を有するところ、パン類製造工程後で冷凍工程前に、パン類を包装する工程を有していてもよい。例えば、パン類製造工程で得られたパン類を包装材により包装した後、圧縮工程で該パン類を該包装材ごと圧縮し、しかる後、冷凍工程に供してもよい。あるいは、圧縮工程で圧縮されたパン類を包装材により包装した後、冷凍工程に供してもよい。パン類の包装は常法に従って実施できる。
【0030】
本発明が適用可能なパン類は、前述した生地原料から調製された生地を必要に発酵させた後に焼成して得られる食品であればその種類は特に限定されず、例えば、食パン;ソフトロール類(バターロール、ホットドッグロール、ディナーロールなど);ハードロール類(カイザーロール、ソフトフランスなど);菓子パン(デニッシュペストリー、バンズ、パネトーネ、アンパン、ジャムパン、クリームパン)などが挙げられる。特にソフトロール類及びハードロール類は、本発明の適用対象として好適である。
また、本発明が適用されるパン類のサイズは特に制限されないが、好ましいサイズの具体例として、焼成後に常温(例えば雰囲気温度25℃)で30分以上静置した状態で、重量が好ましくは20~100g、より好ましくは25~70g、厚みすなわち前記の上下方向の長さが好ましくは3~10cmを例示できる。
【0031】
本発明の製造方法によって製造される焼成済み冷凍パン類は、典型的には、喫食時に電子レンジで加熱解凍されるものである。この種の冷凍パン類は、電子レンジで加熱解凍すると、パン類本来の食感及び外観が損なわれることが多いが、本発明の製造方法によって製造される焼成済み冷凍パン類は、冷凍されていることに加えて更に、食感及び外観に悪影響を及ぼすおそれのある圧縮がなされているにもかかわらず、電子レンジで加熱解凍した場合の外観の復元性及び食感が良好である。したがって本発明は、電子レンジ解凍用の焼成済み冷凍パン類に好適である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1~19、比較例1~4、対照例1:ソフトロール類の製造〕
下記表1~3に示す配合にて、ストレート法によりソフトロール類の一種であるバターロールを製造した(パン類製造工程)。具体的には、市販の製パン用ミキサー(エスケーミキサー(株)製、商品名「SK-20」)におけるミキシングボウルに、穀粉類と、水と、マーガリン以外の生地原料とを投入し、低速で5分間、中速で6分間ミキシングを行った後、マーガリンを添加し、更に低速で2分間、中速で5分間、高速で2分間のミキシングを行って、パン生地を得た(捏上温度:27℃)。こうして得られたパン生地を、温度27℃、相対湿度75%の雰囲気下で1時間発酵させ、次いで45gずつ分割して丸め、ベンチタイムを20分間とった後、生地を再丸めして丸状に成形した。そして、成形したパン生地に対してホイロ(温度38℃、相対湿度85%の雰囲気下)を65分間行った後、オーブン(上火200℃、下火180℃)で8分間焼成して、厚み約5cmのバターロールを得た。次いで、得られたバターロールを圧縮した(圧縮工程)。具体的には、天板上に焼成したバターロールを載せ、更に該バターロールの上に別の天板を載せ、圧ぺん率が下記表1~3に示す値となるように該別の天板を該バターロール側に押し込むことで、該バターロールを上下方向に加圧圧縮した。次いで、圧縮されたバターロールを冷凍した(冷凍工程)。具体的には、本冷凍工程に先立つ圧縮工程でのバターロールの加圧が維持された状態、すなわち上下2枚の天板でバターロールが挟圧された状態を維持したまま、バターロールを-40℃の環境下で30分以上静置した。以上により、焼成済み冷凍パン類である冷凍バターロールを製造した。
【0034】
前記のバターロールの製造で使用した主な原材料の詳細は下記のとおり。
・強力小麦粉:日清製粉株式会社製、商品名「カメリヤ」
・非熱処理デュラム粉砕物:特開2009-11277号公報に記載の製造例2のデュラム小麦粉(損傷澱粉量7.5質量%、平均粒径約75μmで且つ粒径200μm以下の部分が100質量%)
・乾熱処理小麦粉(乾熱処理デュラム粉砕物、乾熱処理強力粉):下記方法により製造したものを使用
・湿熱処理澱粉:三和澱粉工業株式会社製、商品名「デリカスターHM-131」
【0035】
(乾熱処理小麦粉の製造方法)
トンネル型オーブンの庫内に原料小麦粉を投入し、庫内温度を300℃から180℃まで段階的に下降させながら約30分間焙焼処理(品温90℃以上で約20分間)することで、目的の乾熱処理小麦粉を製造した。原料小麦粉として特開2009-11277号公報に記載の製造例2のデュラム小麦粉を使用することで乾熱処理デュラム粉砕物を製造し、原料小麦粉として強力小麦粉(日清製粉株式会社製、商品名「カメリヤ」)を使用することで乾熱処理強力粉を製造した。
【0036】
〔実施例20~21、比較例5~6、対照例2:ハードロール類の製造〕
下記表4に示す配合にて、ストレート法によりハードロール類の一種であるソフトフランスを製造した(パン類製造工程)。具体的には、市販の製パン用ミキサー(エスケーミキサー(株)製、商品名「SK-20」)におけるミキシングボウルに、穀粉類及び水を含む全ての生地原料とを投入し、低速で5分間、中速で8分間ミキシングを行って、パン生地を得た(捏上温度:24℃)。こうして得られたパン生地を、温度27℃、相対湿度75%の雰囲気下で1時間発酵させ、次いで60gずつ分割して丸め、ベンチタイムを20分間とった後、生地のガスを抜いて楕円状に成形した。そして、成形したパン生地に対してホイロ(温度38℃、相対湿度80%の雰囲気下)を50分間行った後、オーブン(上火230℃、下火210℃)で13分間焼成して、厚み約6cmのソフトフランスを得た。
次いで、得られたソフトフランスを、圧ぺん率が下記表4に示す値となるように圧縮し(圧縮工程)、次いで、圧縮されたソフトフランスを冷凍した(冷凍工程)。ソフトフランスの圧縮工程及び冷凍工程は、前述したバターロールの製造における同工程と同様に行った。以上により、焼成済み冷凍パン類である冷凍ソフトフランスを製造した。
【0037】
〔評価試験〕
各実施例、比較例及び対照例の焼成済み冷凍パン類を冷凍庫で1週間保存した後、電子レンジ(出力800W)で70秒間加熱して喫食可能なパン類とした上で、10名の専門パネラーに該パン類の外観(復元性)を目視観察してもらい、電子レンジ加熱に伴う復元性を下記の評価基準に従って評価してもらうとともに、該パン類を食してもらい、その際の食感(歯切れ、硬さ、くちどけ)を下記の評価基準に従って評価してもらった。結果を10名の評価点の平均値として下記表1~4に示す。
【0038】
<復元性の評価基準>
5点:嵩が圧縮前の状態に完全に戻り、表面に張りがある。
4点:嵩は圧縮前の状態にほぼ戻るが、表面にシワが少し残る。
3点:嵩は圧縮前の状態にほぼ戻るが、表面のシワがやや深い。
2点:嵩が圧縮前の状態にあまり戻らず、表面のシワも深い。
1点:嵩が圧縮前の状態に戻らず、表面のシワが深い。
<歯切れの評価基準>
5点:非常に歯切れがよい。
4点:歯切れがよい。
3点:わずかにガム様のヒキを感じるが、歯切れがある。
2点:ガム様のヒキがあり、歯切れがやや悪い(対照例と同等)。
1点:ガム様のヒキを強く感じ、歯切れが悪い。
<硬さの評価基準>
5点:ソフトさが優れ、且つ弾力がある。
4点:ソフトさがやや優れ、且つやや弾力がある。
3点:少しソフトであり、弾力を多少感じる。
2点:部分的にやや硬く、弾力にやや欠ける(対照例と同等)。
1点:部分的に硬く、弾力に欠ける。
<くちどけの評価基準>
5点:くちどけに非常に優れる。
4点:くちどけに優れる。
3点:くちどけが若干良い。
2点:くちどけがやや悪い(対照例と同等)。
1点:くちどけが悪い。
【0039】
【0040】
表1に示すとおり、各実施例は、生地原料に含まれる穀粉類が、非熱処理デュラム粉砕物を35~80質量%、乾熱処理小麦粉(乾熱処理デュラム粉砕物又は乾熱処理強力粉)を1~10質量%及び湿熱処理澱粉を1~15質量%含有するため、これを満たさない対照例及び比較例に比べて、加熱解凍に伴う外観の復元性及び食感の双方に優れていた。特に実施例6~9は、生地原料にアルギン酸プロピレングリコールエステルが含有されていたことに起因して、他の実施例よりも高評価であった。また、実施例8と実施例9との対比から、乾熱処理小麦粉としては乾熱処理強力粉よりも乾熱処理デュラム粉砕物の方が効果的であることがわかる。
【0041】
【0042】
表2における実施例と比較例との対比から、生地原料に含まれる穀粉類として乾熱処理小麦粉及び湿熱処理澱粉の双方を用いることの有用性がわかる。
【0043】
【0044】
表3に示すとおり、各実施例は、圧縮工程でのパン類の圧ぺん率が20~75%の範囲にあるため、これを満たさない比較例に比べて、復元性に優れ、食感も良好であった。
【0045】
【0046】
表4に示すとおり、ハードロール類についても、ソフトロール類(表1~3参照)と同様の傾向が確認できる。