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特許7329242燃料装置及びその製造方法、並びに、ハイブリッドロケットエンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】燃料装置及びその製造方法、並びに、ハイブリッドロケットエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/10 20060101AFI20230810BHJP
   F02K 9/72 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
F02K9/10
F02K9/72
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019190285
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021063501
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃平
(72)【発明者】
【氏名】オウ カンイ
(72)【発明者】
【氏名】吉野 拓郎
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-112293(JP,A)
【文献】特開2004-225678(JP,A)
【文献】特開2012-087716(JP,A)
【文献】特公昭45-034954(JP,B1)
【文献】米国特許第3937070(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/10
F02K 9/70
F02K 9/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体燃料を有し、該固体燃料が、流体の酸化剤を与えられて燃焼し、発熱反応を生じさせる燃料装置において、
前記固体燃料は非導電性であり、
導電性材料によって形成され、前記固体燃料の燃焼に伴って縮小する電極ネットワークと、
前記電極ネットワークの物理量を計測する計測手段と、
前記計測手段の計測値の変化を基に前記固体燃料の消費速度を導出する消費速度算出手段とを備え
前記電極ネットワークは、それぞれ導電性樹脂によって形成された複数の棒状部を具備する格子構造体を有し、該格子構造体は、前記固体燃料の燃焼に伴って前記棒状部の数が減少し、電気的な物理量が変化することを特徴とする燃料装置。
【請求項2】
請求項記載の燃料装置において、前記導電性樹脂は、グラフン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末及び金属繊維のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする燃料装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料装置において、前記固体燃料は、熱可塑性エラストマ、酸化剤粒子及び金属粒子のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする燃料装置。
【請求項4】
インジェクタが設けられたエンジンケースと、前記インジェクタ経由で前記エンジンケース内に流体の酸化剤を供給する酸化剤供給手段とを有するハイブリッドロケットエンジンにおいて、
前記エンジンケース内に設けられた、非導電性の固体燃料と、
導電性材料によって形成され、前記固体燃料の燃焼に伴って縮小する電極ネットワークと、
前記電極ネットワークの物理量を計測する計測手段と、
前記計測手段の計測値の変化を基に前記固体燃料の消費速度を導出する消費速度算出手段とを備え
前記電極ネットワークは、それぞれ導電性樹脂によって形成された複数の棒状部を具備する格子構造体を有し、該格子構造体は、前記固体燃料の燃焼に伴って前記棒状部の数が減少し、電気的な物理量が変化することを特徴とするハイブリッドロケットエンジン。
【請求項5】
請求項記載のハイブリッドロケットエンジンにおいて、前記導電性樹脂は、グラフン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末及び金属繊維のうち少なくとも1つを含むことを特徴とするハイブリッドロケットエンジン。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のハイブリッドロケットエンジンにおいて、前記固体燃料は、熱可塑性エラストマ、酸化剤粒子及び金属粒子のうち少なくとも1つを含むことを特徴とするハイブリッドロケットエンジン。
【請求項7】
3次元プリンタを用いて、絶縁性複合フィラメント材料及び導電性フィラメント材料を基に、固体燃料及び該固体燃料の燃焼に伴って縮小する電極ネットワークの領域をそれぞれ形成する工程を経て、前記固体燃料が、流体の酸化剤を与えられて燃焼し、前記電極ネットワークが前記固体燃料の燃焼に伴って縮小し、しかも、前記電極ネットワークが、それぞれ導電性樹脂によって形成された複数の棒状部を具備する格子構造体を有し、該格子構造体が、前記固体燃料の燃焼に伴って前記棒状部の数が減少し、電気的な物理量が変化する燃料装置を得ることを特徴とする燃料装置の製造方法。
【請求項8】
請求項記載の燃料装置の製造方法において、前記電極ネットワークの一部又は全体が、グラフン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末及び金属繊維のうち少なくとも1つを含む導電性樹脂によって形成されることを特徴とする燃料装置の製造方法。
【請求項9】
請求項又はに記載の燃料装置の製造方法において、前記固体燃料は、熱可塑性エラストマ、酸化剤粒子及び金属粒子のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする燃料装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体燃料が流体の酸化剤を供給されて燃焼する燃料装置、及びその製造方法、並びに、ハイブリッドロケットエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドロケットエンジンには、固体燃料及び液体酸化剤を基に固体燃料の表面近傍のみで拡散火炎を生じさせる境界層燃焼が採用されている(特許文献1参照)。この境界層燃焼は、非火薬であるため、宇宙開発における意図せぬ着火や爆発のリスクに由来した設計、製造及び運用制約を緩和することが期待できる。また、ハイブリッドロケットエンジンは、推力制御も可能であり、液体ロケットよりも構造が簡素である。
そのため、ハイブリッドロケットエンジンは、近年、特にSpaceShipTwo等に代表される有人宇宙機に適用され、超小型衛星の推進系等にも応用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-87716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、推力、燃焼効率が依然として低く、推進剤残渣(燃え残り)が多い等の問題から、ハイブリッドロケットエンジンを搭載した衛星が軌道上に投入された実績は未だにない。推力の増大、燃焼効率については近年大幅な改善の兆しがあるが、固体燃料の消費速度を精度良く計測することが困難で、推進剤残渣の問題についてはあまり改善されていない。また、固体燃料の消費速度を精度良く計測できないと、ハイブリッドロケットエンジンの燃焼中の性能をリアルタイム測定できず、性能の安定化や複雑な推力制御を図ることができない。
【0005】
このような状況下において、固体燃料の消費速度をリアルタイムで計測する技術が提案されているが、いずれの技術も確立しているとは言えず、新しい技術が求められている。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、固体燃料の消費速度を新しい技術で計測可能な燃料装置及びその製造方法、並びに、ハイブリッドロケットエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る燃料装置は、固体燃料を有し、該固体燃料が、流体の酸化剤を与えられて燃焼し、発熱反応を生じさせる燃料装置において、前記固体燃料は非導電性であり、導電性材料によって形成され、前記固体燃料の燃焼に伴って縮小する電極ネットワークと、前記電極ネットワークの物理量を計測する計測手段と、前記計測手段の計測値の変化を基に前記固体燃料の消費速度を導出する消費速度算出手段とを備え、前記電極ネットワークは、それぞれ導電性樹脂によって形成された複数の棒状部を具備する格子構造体を有し、該格子構造体は、前記固体燃料の燃焼に伴って前記棒状部の数が減少し、電気的な物理量が変化する。
【0007】
前記目的に沿う第2の発明に係るハイブリッドロケットエンジンは、インジェクタが設けられたエンジンケースと、前記インジェクタ経由で前記エンジンケース内に流体の酸化剤を供給する酸化剤供給手段とを有するハイブリッドロケットエンジンにおいて、前記エンジンケース内に設けられた、非導電性の固体燃料と、導電性材料によって形成され、前記固体燃料の燃焼に伴って縮小する電極ネットワークと、前記電極ネットワークの物理量を計測する計測手段と、前記計測手段の計測値の変化を基に前記固体燃料の消費速度を導出する消費速度算出手段とを備え、前記電極ネットワークは、それぞれ導電性樹脂によって形成された複数の棒状部を具備する格子構造体を有し、該格子構造体は、前記固体燃料の燃焼に伴って前記棒状部の数が減少し、電気的な物理量が変化する。
【0008】
前記目的に沿う第3の発明に係る燃料装置の製造方法は、3次元プリンタを用いて、絶縁性複合フィラメント材料及び導電性フィラメント材料を基に、固体燃料及び該固体燃料の燃焼に伴って縮小する電極ネットワークの領域をそれぞれ形成する工程を経て、前記固体燃料が、流体の酸化剤を与えられて燃焼し、前記電極ネットワークが前記固体燃料の燃焼に伴って縮小し、しかも、前記電極ネットワークが、それぞれ導電性樹脂によって形成された複数の棒状部を具備する格子構造体を有し、該格子構造体が、前記固体燃料の燃焼に伴って前記棒状部の数が減少し、電気的な物理量が変化する燃料装置を得る。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明に係る燃料装置及び第2の発明に係るハイブリッドロケットエンジンは、導電性材料によって形成され、非導電性の固体燃料の燃焼に伴って縮小する電極ネットワークと、電極ネットワークの物理量を計測する計測手段と、計測手段の計測値の変化を基に固体燃料の消費速度を導出する消費速度算出手段とを備えるので、それぞれ固体燃料の消費速度を計測可能な従来にない燃料装置及びハイブリッドロケットエンジンである。
また、第3の発明に係る燃料装置の製造方法は、3次元プリンタを用いて、絶縁性複合フィラメント材料及び導電性フィラメント材料を基に、固体燃料及び該固体燃料の燃焼に伴って縮小する電極ネットワークの領域をそれぞれ形成する工程を経て、固体燃料が、流体の酸化剤を与えられて燃焼し、電極ネットワークが固体燃料の燃焼に伴って縮小する燃料装置を得るので、固体燃料の消費速度を計測可能な従来にない燃料装置の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)、(B)はそれぞれ、本発明の第1の実施の形態に係る燃料装置の説明図である。
図2】同燃料装置の計測手段の接続を示すブロック図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係るハイブリッドロケットエンジンの説明図である。
図4】同ハイブリッドロケットエンジンの計測手段及び酸化剤供給手段の接続を示すブロック図である。
図5】第1の実験で使用した設備の説明図である。
図6】第2の実験で使用した設備の説明図である。
図7】第3の実験で使用した設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)、(B)、図2に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る燃料装置10は、固体燃料11を有し、固体燃料11が、流体の酸化剤12を与えられて燃焼し、発熱反応を生じさせる装置であって、導電性材料によって形成され、固体燃料11の燃焼に伴って縮小する電極ネットワーク13と、電極ネットワーク13の物理量を計測する計測手段14と、計測手段14の計測値の変化を基に固体燃料11の消費速度を導出する消費速度算出手段15とを備える装置である。以下、詳細に説明する。
【0012】
固体燃料11は非導電性であり、図1(A)、(B)に示すように、円筒形状に形成されている。固体燃料11には、酸化剤12が流入する貫通孔16が軸心に沿って設けられており、貫通孔16内で境界層燃焼が生じる。本実施の形態において、固体燃料11は、熱可塑性エラストマ、酸化剤粒子及び金属粒子のうち少なくとも1つ(1種類)以上を含んでいる。
【0013】
電極ネットワーク13は、固体燃料11内に配された複数の格子構造体17を有し、直流電源18に接続されている。各格子構造体17は複数の棒状部19を具備し、各格子構造体17において、各棒状部19は、固体燃料11の軸心に平行であり、固体燃料11の径方向に等ピッチに配列した状態で並列接続されている。
固体燃料11の軸心方向の同じ位置に、複数の格子構造体17が放射状に配されてなる格子構造体群が配されており、複数の格子構造体群が固体燃料11の軸心方向の異なる位置に設けられている。
【0014】
本実施の形態では、各棒状部19が、グラフン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末及び金属繊維のうち少なくとも1つ(1種類)を含む導電性樹脂によって形成されている。各格子構造体17は、固体燃料11の燃焼(境界層燃焼)により固体燃料11の内壁が後退(貫通孔16が拡大)するのに伴い(即ち、固体燃料11の燃焼に伴って)、棒状部19の数が減少して、電気抵抗値が反比例的に減少する(即ち、電気的な物理量が変化する)。従って、格子構造体17の電気抵抗値は、固体燃料11の厚み(内壁から外壁までの距離)に対し、反比例の関係にある。
【0015】
電極ネットワーク13には、図2に示すように、電極ネットワーク13の電気抵抗値を測定する計測手段14が接続され、計測手段14には、計測手段14から計測手段14の測定値を取得する、CPU及びメモリ等によって構成された消費速度算出手段15が接続されている。
固体燃料11が燃焼している際、計測手段14は、直流電源18から直流電流を供給されている電極ネットワーク13の電気抵抗値を測定し、消費速度算出手段15は、計測手段14の測定値、即ち、電極ネットワーク13の電気抵抗値の単位時間当たりの変化量を基にして固体燃料11の消費速度(減少速度)を導出する。
【0016】
格子構造体17は通電によって温度上昇するため、各格子構造体17は、固体燃料11の消費に伴って電極ネットワーク13全体の電気抵抗値を変化させる機能に加えて、固体燃料11を温めるヒータとしての機能も有することとなる。
【0017】
次に、図3図4を参酌して、本発明の第2の実施の形態に係るハイブリッドロケットエンジン30について説明する。なお、ハイブリッドロケットエンジン30において、燃料装置10と同様の構成については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する(この点、以下の同様とする)。
ハイブリッドロケットエンジン30は、図3に示すように、インジェクタ31が設けられたエンジンケース32と、インジェクタ31経由でエンジンケース32内に流体の酸化剤12を供給する酸化剤供給手段33とを有している。
【0018】
固体燃料11及び全ての格子構造体17はエンジンケース32内に設けられている。エンジンケース32には、一端部にインジェクタ31が設けられ、他端部にノズル34が設けられている。CPU及びメモリ等によって構成された酸化剤供給手段33には、図4に示すように、計測手段14が計測する電極ネットワーク13の電気抵抗値の変化を基に固体燃料11の消費速度を導出する消費速度算出手段15が接続されている。酸化剤供給手段33は、消費速度算出手段15が導出する固体燃料11の消費速度を基にして酸化剤12の供給量を調整して固体燃料11の燃焼による発熱反応を制御する。
【0019】
また、燃料装置10は、3次元(3D)プリンタを用いて、絶縁性複合フィラメント材料及び導電性フィラメント材料を基に、固体燃料11及び固体燃料11の燃焼に伴って縮小する電極ネットワーク13の領域(本実施の形態では、各格子構造体17)をそれぞれ形成する工程を経て、製造することができる。なお、格子構造体17のみでなく、電極ネットワーク13全体を、グラフン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末及び金属繊維のうち少なくとも1つを含む導電性樹脂によって形成してもよい。
【0020】
上述した実施の形態では、固体燃料11の材料として絶縁性熱可塑性フィラメントが用いられ、電極ネットワーク13の材料として熱可塑性導電性フィラメントが用いられた。更に、熱可塑性バインダや燃料を兼ねるバインダも使用された。熱可塑性材料として熱可塑性エラストマを使用しているが、これに限られるものではなく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン、ポリサルファイド(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリブタジエンアクリル酸アクリロトリル(PBAN)、ポリブタジエンアクリル酸(PBAA)、末端カルボキシル基ポリブタジエン(CTPB)、末端水酸基ポリブタジエン(HTPB)、ニトロセルロース等を使用しても構わない。
【0021】
酸化剤としては、過塩素酸アンモニウム(AP)、硝酸アンモニウム(AN)、過塩素酸カリウム(KP)、過塩素酸ニトロニウム(NP)を使用しても構わない。
【0022】
金属燃料として、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、ボロン(B)を使用することができる。硬化、架橋剤として、トルエン ジイソシアネート(TDI)、パラキノンジオウキシム(PQD)等を使用してもよい。
【0023】
結合用添加材として、1、2-トリス(2-メチルアデジリニル)スフィンオキサイド等を使用しても構わない。可塑剤として、ジオクチルアジペート、ニトログリセリントリメチロールエタン トリナイトレート(TMETN)、トリエチレン グコールジナイトレート(TEGDN)、ジエチレン グリコール ジナイトレート(DEGDN)、ジエチルフタレート(DEP)、トリアセン(TA)、ポリウレタン(PU)などを使用してもよい。また、燃焼速度触媒として、酸化第二鉄、サリチル酸鉛(PbSa)、サリチル酸銅(CuSa)などを使用しても構わない。
【0024】
導電性材料として、フラーレン、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属フィラーなどを用いることができる。
【実施例
【0025】
次に、本発明について行った実験について説明する。
第1の実験では、グラフェンを混合した導電性樹脂と絶縁性樹脂とを原材料として、3次元プリンタを利用して、図5に示すように、固体燃料11及び格子構造体17を製作した。当該製作は、固体燃料11の軸心方向の格子構造体17間の寸法(ピッチ)L1及び棒状部19の長さL2を検証した後に行った。そして、インジェクタ31やノズル34等、ハイブリッドロケットエンジンを構成するその他の部品を試作した。これによって、3次元プリンタによって、固体燃料及び格子構造体を製作でき、その他の部品についても製造できることを確認した。
【0026】
第2の実験では、図6に示すように、固体燃料11の貫通孔16を中心に貫通孔16の両側に格子構造体17が配置された燃料装置40について、固体燃料11の消費速度が計測できるかを検証した。
固体燃料11の燃焼中に一方の格子構造体17の電圧を電圧計41で計測し、他方の格子構造体17が設けられた領域の固体燃料11の厚みを、超音波厚さ計42を用いて計測した。電圧計41及び超音波厚さ計42をデータロガー43経由でコンピュータ44に接続し、一方の格子構造体17の電圧値と超音波厚さ計42の計測値とを比較して、固体燃料11の消費速度の測定が目標とする精度を確保できるかを確認した。
【0027】
第3の実験では、図7に示すように、固体燃料11の軸心方向の異なる位置に、格子構造体群が設けられた燃料装置50について、固体燃料11を燃焼させた状態で、固体燃料11の軸心方向全体に渡って格子構造体17の電圧を電圧計41で計測して固体燃料11の消費速度のリアルタイム測定を行った。本実験では、各格子構造体17に対応した電圧計41に加え、インジェクタ31経由で貫通孔16にガス状の酸化剤を供給する導入管52に装着した流量計53と、導入管52内の温度を計測する温度計54と、インジェクタ31のガス吹出し側の圧力を計測する圧力計55とを設けた。各電圧計41、流量計53、温度計54及び圧力計55それぞれの計測値は、データロガー43経由でコンピュータ44に収集できるようにした。
【0028】
そして、固体燃料11の燃焼処理後に、レーザー距離計を用いた水位計測による形状測定手法によって固体燃料11の形状を測定して、燃焼処理後の固体燃料11の厚み(内壁から外壁までの距離)を導出し、固体燃料11の消費速度のリアルタイム測定を基に固体燃料11の厚みが正確に測定できているかを確認した。
【0029】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、電極ネットワークは、固体燃料の燃焼に伴って縮小すればよく、格子構造体を有さなくてもよい。
また、計測手段が計測する電極ネットワークの物理量は、電気抵抗値に限定されず、例えば、電圧値であってもよい。
更に、格子構造体の棒状部を形成する導電性樹脂は、グラフン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末又は金属繊維を含まなくても良く、固体燃料は、熱可塑性エラストマ、酸化剤粒子又は金属粒子を含まなくても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によって、ロケットの機体に搭載可能な簡便な燃料流量計測システムを実現できる。本手法は単純円筒の固体燃料だけでなく、ラダー抵抗構造の形状を工夫することで、CAMUI型ハイブリッドロケット、端面燃焼型ハイブリッドロケット等、複雑な固体燃料形状のハイブリッドロケットに適用することも可能である。この計測システムをハイブリッドロケットの推力、酸燃比制御技術や再着火技術と組み合わせることで、高い安全性を持ち、高度な制御が可能なハイブリッドロケットエンジンシステムが実現する。これによってロケット打ち上げや超小型衛星等、宇宙開発の様々な場面で保安に関するリスクを大きく緩和し、時間、人、技術及び機体コストを劇的に削減することが可能となり、宇宙開発の発展や基盤技術の維持コスト低減に貢献できる。
より具体的には、高効率のまま推力を自動制御でき、爆発性も低い垂直離着陸ハイブリッドロケットの研究開発が可能となる。また、高度な制御が可能な相乗り超小型衛星用のハイブリッドロケットスラスタへと応用することも可能である。コースティング時の固体燃料形状を把握できるようになるため、軌道面の変更など、複数回の消炎再着火を要求するミッションなどでは、推進系の質量特性を把握することに繋がるため、特に有用であると考えられる。
【符号の説明】
【0031】
10:燃料装置、11:固体燃料、12:酸化剤、13:電極ネットワーク、14:計測手段、15:消費速度算出手段、16:貫通孔、17:格子構造体、18:直流電源、19:棒状部、30:ハイブリッドロケットエンジン、31:インジェクタ、32:エンジンケース、33:酸化剤供給手段、34:ノズル、40:燃料装置、41:電圧計、42:超音波厚さ計、43:データロガー、44:コンピュータ、50:燃料装置、52:導入管、53:流量計、54:温度計、55:圧力計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7