(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】同位体濃縮度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/08 20060101AFI20230810BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
G01N24/08 510P
G01N24/00 530J
(21)【出願番号】P 2020041683
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高柳 智
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/170717(WO,A2)
【文献】特開2017-062163(JP,A)
【文献】特開2012-177643(JP,A)
【文献】特開2012-058200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-24/14
G01R 33/28-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定同位体化合物の測定対象同位体の同位体濃縮度を核磁気共鳴装置で測定する同位体濃縮度測定方法であって、
1分子内の同位体比率が既知である標準物質を溶媒に溶解して標準溶液を調製する標準溶液調製工程と、
安定同位体化合物である測定試料を前記標準溶液に溶解してサンプル溶液を調製するサンプル溶液調製工程と、
核磁気共鳴装置を用いて、前記サンプル溶液における前記標準物質の前記測定対象同位体の測定対象元素の核磁気共鳴スペクトル、並びに前記サンプル溶液における前記測定試料及び前記溶媒の前記測定対象同位体の前記測定対象元素の核磁気共鳴スペクトルを測定し、前記標準物質における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積に対する、前記測定試料及び前記溶媒における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積の総和の比の値を算出するサンプル溶液測定工程と、
前記サンプル溶液測定工程において算出した前記比の値に、前記標準物質の既知である同位体比率を算入することにより、前記測定試料における前記測定対象同位体の同位体濃縮度を算出する同位体濃縮度算出工程と、
前記標準溶液調製工程と前記同位体濃縮度算出工程との間に、核磁気共鳴装置を用いて、前記標準溶液における前記標準物質及び前記溶媒の前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれ
の核種の核磁気共鳴スペクトルを測定する標準溶液測定工程
と
を含み、
前記標準溶液測定工程において、前記標準溶液における前記標準物質の前記測定対象同位体の
前記測定対象元素の核磁気共鳴スペクトル、並びに前記標準溶液における前記溶媒の核磁気共鳴スペクトルを測定し、前記標準物質における前記測定対象同位体の
前記測定対象元素のそれぞれ
の核種のシグナル面積に対する、前記溶媒における前記測定対象同位体の
前記測定対象元素のそれぞれ
の核種のシグナル面積の総和の比の値を算出し、
前記同位体濃縮度算出工程において、前記標準溶液測定工程にて得られた
前記標準物質における前記測定対象同位体の
前記測定対象元素のそれぞれ
の核種のシグナル面積比に対する、前記サンプル溶液測定工程にて得られた
前記測定試料における
前記測定
対象同位体の
前記測定対象元素のそれぞれ
の核種のシグナル面積の比から、前記標準溶液測定工程にて得られた
前記標準物質における
前記測定
対象同位体の
前記測定対象元素のそれぞれ
の核種のシグナル面積に対する前記標準溶液
測定工程にて得られた
前記溶媒における
前記測定
対象同位体の
前記測定対象元素のそれぞれ
の核種のシグナル面積の比を差し引くことにより補正する
、
同位体濃縮度測定方法。
【請求項2】
前記サンプル溶液測定工程において、前記測定対象元素が第1の核種及び第2の核種を含み、前記第2の核種が同位体濃縮度算出目的核種であり、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S
4
STD並びに前記測定試料及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積の総和S
4
SAMPと、前記標準物質における
前記第2の核種のシグナル面積S
5
STD並びに前記測定試料及び前記溶媒における
前記第2の核種のシグナル面積の総和S
5
SAMPとを測定し、下記式(4)により、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S
4
STDに対する前記測定試料及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積の総和S
4
SAMPの比の値X2を算出し、下記式(5)により、前記標準物質における
前記第2の核種のシグナル面積S
5
STDに対する前記測定試料及び前記溶媒における
前記第2の核種のシグナル面積の総和S
5
SAMPの比の値Y2を算出し、
X2=S
4
SAMP/S
4
STD (4)
Y2=S
5
SAMP/S
5
STD (5)
前記同位体濃縮度算出工程において、前記同位体濃縮度算出目的核種である
前記第2の核種の同位体濃縮度Z(atom%)を下記式(1)により算出する、請求項
1に記載の同位体濃縮度測定方法。
Z={bY2/(aX2+bY2)}×100 (1)
式(1)中、
a及びbは、それぞれ、前記標準物質の1分子内の第1の核種と第2の核種の同位体比率をa:bと表した場合のa及びbであり、
X2及びY2は、それぞれ、前記サンプル溶液測定工程において算出したX2及びY2である。
【請求項3】
前記標準溶液測定工程において、前記測定対象元素が第1の核種及び第2の核種を含み、前記第2の核種が
前記同位体濃縮度算出目的核種であり、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S
2
STD及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積S
2
SOLと、前記標準物質における
前記第2の核種のシグナル面積S
3
STD及び前記溶媒における
前記第2の核種のシグナル面積S
3
SOLとを測定し、下記式(2)により、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S
2
STDに対する前記溶媒における第1の核種のシグナル面積S
2
SOLの比の値X1を算出し、下記式(3)により、前記標準物質における
前記第2の核種のシグナル面積S
3
STDに対する前記溶媒における
前記第2の核種のシグナル面積の総和S
3
SOLの比の値Y1を算出し、
X1=S
2
SOL/S
2
STD (2)
Y1=S
3
SOL/S
3
STD (3)
前記同位体濃縮度算出工程において、前記同位体濃縮度算出目的核種である
前記第2の核種の同位体濃縮度Z(atom%)を下記式(1’)により算出する、請求項
2に記載の同位体濃縮度測定方法。
Z={bY0/(aX0+bY0)}×100 (1’)
式(1’)中、
a及びbは、それぞれ、前記標準物質の1分子内の第1の核種と第2の核種の同位体比率をa:bと表した場合のa及びbであり、
X0及びY0は、それぞれ、
前記標準溶液測定工程において算出したX1及び
Y1と、前記サンプル溶液測定工程において算出した
X2及びY2とから、下記式(6)及び(7)により算出される値である。
X0=X2-X1 (6)
Y0=Y2-Y1 (7)
【請求項4】
前記測定対象元素が、水素、窒素及び塩素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の同位体濃縮度測定方法。
【請求項5】
前記測定対象同位体が、
1H及び
2Hの組合せ、
14N及び
15Nの組合せ並びに
35Cl及び
37Clの組合せからなる群から選択される少なくとも1の組合せである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の同位体濃縮度測定方法。
【請求項6】
前記測定試料が、NH
3、N
2H
2、N
2H
4、CH
3NH
2、(CH
3)
2NH及びCH
3NHNH
2からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の同位体濃縮度測定方法。
【請求項7】
前記標準物質が、3-(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム-2,2,3,3-d4,1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン-d4及び3-(トリメチルシリル)-1-プロパン-1,1,2,2,3,3-d6-スルホン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の同位体濃縮度測定方法。
【請求項8】
前記溶媒が、水、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、アセトン、ベンゼン、トルエン、及びこれらの重溶媒からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の同位体濃縮度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同位体濃縮度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同位体化合物の様々な分野における有用性が注目されている。例えば、アンモニアの水素を同位体である重水素に置換した重水素化アンモニアは、半導体製膜工程において使用され、半導体製品の性能向上に寄与する(特許文献1)。
同位体化合物の品質評価のため、同位体化合物の同位体濃縮度を精確に測定する方法が必要とされている。同位体化合物の同位体濃縮度を測定する際、安定同位体比質量分析法を用いることで、同位体化合物の同位体濃縮度を高精度に測定することが可能である。
また、同位体化合物の前処理として、測定試料を燃焼して発生したガスを測定することで、含有元素の同位体濃縮度を測定する手法が報告されている(特許文献2)。
また、キャビティーリングダウン分光法では、Picarro社製キャビティーリングダウン分光分析装置を使用することで、天然存在比付近の水素同位体濃縮度の高精度かつ簡便な測定を実現している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-087712号公報
【文献】特開2017-219428号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】2221-iデーターシート,Picarro社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安定同位体比質量分析法及びキャビティーリングダウン分光法はいずれも高精度な同位体濃縮度の測定が可能な方法である。しかし、測定試料の同位体存在比が天然存在比から大きく逸脱する場合、標準物質が存在しないため、これらの方法では高精度な同位体濃縮度の測定が困難である。
これに対して、核磁気共鳴分光法(NMR法)では、測定する化合物ごとの検出感度差がなく、測定元素の物質量に比例するシグナル面積(積分値)が得られるため、測定試料と異なる化合物を標準物質として用いることができる。そのため、NMR法では、天然存在比から大きく逸脱する測定試料であっても、同位体濃縮度測定が可能である。
NMR法による同位体濃縮度測定では、通常、標準物質と測定試料の物質量に対するシグナル面積を比較することによって、同位体濃縮度を算出する。そのため、NMR法による同位体濃縮度測定では、通常、標準物質及び測定試料の精確な秤量が必須となる。
しかし、測定試料が気体である等、測定試料の精確な秤量が困難な場合、NMR法による精確な同位体濃縮度測定が困難である。
【0006】
本発明は、測定試料の同位体存在比が天然存在比から大きく逸脱している場合又は測定試料の精確な秤量が困難な場合のいずれにおいても、測定試料の同位体濃縮度を精確に測定できる同位体濃縮度測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、以下の発明によって解決される。
[1] 安定同位体化合物の測定対象同位体の同位体濃縮度を核磁気共鳴装置で測定する同位体濃縮度測定方法であって、
1分子内の同位体比率が既知である標準物質を溶媒に溶解して標準溶液を調製する標準溶液調製工程と、
安定同位体化合物である測定試料を前記標準溶液に溶解してサンプル溶液を調製するサンプル溶液調製工程と、
核磁気共鳴装置を用いて、前記サンプル溶液における前記標準物質の前記測定対象同位体の測定対象元素の核磁気共鳴スペクトル、並びに前記サンプル溶液における前記測定試料及び前記溶媒の前記測定対象同位体の前記測定対象元素の核磁気共鳴スペクトルを測定し、前記標準物質における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積に対する、前記測定試料及び前記溶媒における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積の総和の比の値を算出するサンプル溶液測定工程と、
前記サンプル溶液測定工程において算出した前記比の値に、前記標準物質の既知である同位体比率を算入することにより、前記測定試料における前記測定対象同位体の同位体濃縮度を算出する同位体濃縮度算出工程と、
を含む同位体濃縮度測定方法。
[2] 前記標準溶液調製工程と前記同位体濃縮度算出工程との間に、核磁気共鳴装置を用いて、前記標準溶液における前記標準物質及び前記溶媒の前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種の核磁気共鳴スペクトルを測定する標準溶液測定工程をさらに含み、
前記標準溶液測定工程において、前記標準溶液における前記標準物質の前記測定対象同位体の前記測定対象元素の核磁気共鳴スペクトル、並びに前記標準溶液における前記溶媒の核磁気共鳴スペクトルを測定し、前記標準物質における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積に対する、前記溶媒における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積の総和の比の値を算出し、
前記同位体濃縮度算出工程において、前記標準溶液測定工程にて得られた前記標準物質における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積比に対する、前記サンプル溶液測定工程にて得られた前記測定試料における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積の比から、前記標準溶液測定工程にて得られた前記標準物質における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積に対する前記標準溶液測定工程にて得られた前記溶媒における前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積の比を差し引くことにより補正する、
[1]に記載の同位体濃縮度測定方法。
[3] 前記サンプル溶液測定工程において、前記測定対象元素が第1の核種及び第2の核種を含み、前記第2の核種が同位体濃縮度算出目的核種であり、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S4
STD並びに前記測定試料及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積の総和S4
SAMPと、前記標準物質における前記第2の核種のシグナル面積S5
STD並びに前記測定試料及び前記溶媒における前記第2の核種のシグナル面積の総和S5
SAMPとを測定し、下記式(4)により、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S4
STDに対する前記測定試料及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積の総和S4
SAMPの比の値X2を算出し、下記式(5)により、前記標準物質における前記第2の核種のシグナル面積S5
STDに対する前記測定試料及び前記溶媒における前記第2の核種のシグナル面積の総和S5
SAMPの比の値Y2を算出し、
X2=S4
SAMP/S4
STD (4)
Y2=S5
SAMP/S5
STD (5)
前記同位体濃縮度算出工程において、前記同位体濃縮度算出目的核種である前記第2の核種の同位体濃縮度Z(atom%)を下記式(1)により算出する、[1]又は[2]に記載の同位体濃縮度測定方法。
Z={bY2/(aX2+bY2)}×100 (1)
式(1)中、
a及びbは、それぞれ、前記標準物質の1分子内の第1の核種と第2の核種の同位体比率をa:bと表した場合のa及びbであり、
X2及びY2は、それぞれ、前記サンプル溶液測定工程において算出したX2及びY2である。
[4] 前記標準溶液調製工程と前記同位体濃縮度算出工程との間に、核磁気共鳴装置を用いて、前記標準溶液における前記標準物質及び前記溶媒の前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれの核種の核磁気共鳴スペクトルを測定する標準溶液測定工程をさらに含み、
前記標準溶液測定工程において、前記測定対象元素が第1の核種及び第2の核種を含み、前記第2の核種が前記同位体濃縮度算出目的核種であり、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S2
STD及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積S2
SOLと、前記標準物質における前記第2の核種のシグナル面積S3
STD及び前記溶媒における前記第2の核種のシグナル面積S3
SOLとを測定し、下記式(2)により、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S2
STDに対する前記溶媒における第1の核種のシグナル面積S2
SOLの比の値X1を算出し、下記式(3)により、前記標準物質における前記第2の核種のシグナル面積S3
STDに対する前記溶媒における前記第2の核種のシグナル面積の総和S3
SOLの比の値Y1を算出し、
X1=S2
SOL/S2
STD (2)
Y1=S3
SOL/S3
STD (3)
前記同位体濃縮度算出工程において、前記同位体濃縮度算出目的核種である前記第2の核種の同位体濃縮度Z(atom%)を下記式(1’)により算出する、[3]に記載の同位体濃縮度測定方法。
Z={bY0/(aX0+bY0)}×100 (1’)
式(1’)中、
a及びbは、それぞれ、前記標準物質の1分子内の第1の核種と第2の核種の同位体比率をa:bと表した場合のa及びbであり、
X0及びY0は、それぞれ、前記標準溶液測定工程において算出したX1及びY1と、前記サンプル溶液測定工程において算出したX2及びY2とから、下記式(6)及び(7)により算出される値である。
X0=X2-X1 (6)
Y0=Y2-Y1 (7)
[5] 前記測定対象元素が、水素、窒素及び塩素からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の同位体濃縮度測定方法。
[6] 前記測定対象同位体が、1H及び2Hの組合せ、14N及び15Nの組合せ並びに35Cl及び37Clの組合せからなる群から選択される少なくとも1の組合せである、[1]~[5]のいずれかに記載の同位体濃縮度測定方法。
[7] 前記測定試料が、NH3、N2H2、N2H4、CH3NH2、(CH3)2NH及びCH3NHNH2からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の同位体濃縮度測定方法。
[8] 前記標準物質が、3-(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム-2,2,3,3-d4,1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン-d4及び3-(トリメチルシリル)-1-プロパン-1,1,2,2,3,3-d6-スルホン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[7]のいずれかに記載の同位体濃縮度測定方法。
[9] 前記溶媒が、水、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、アセトン、ベンゼン、トルエン、及びこれらの重溶媒からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[8]のいずれかに記載の同位体濃縮度測定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれは、測定試料の同位体存在比が天然存在比から大きく逸脱している場合又は測定試料の精確な秤量が困難な場合のいずれにおいても、測定試料の同位体濃縮度を精確に測定できる同位体濃縮度測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の同位体濃縮度測定方法の第1の実施形態を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の同位体濃縮度測定方法の第2の実施形態を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例1における標準溶液及びサンプル溶液の
1H-NMRシグナルを示す模式図である。(A)標準溶液、(B)サンプル溶液。
【
図4】
図4は、比較例1における標準溶液及びサンプル溶液のD-NMRシグナルを示す模式図である。(A)標準溶液、(B)サンプル溶液。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「~」を用いて表される数値範囲には両端の数値を含む。
「NMR」は、「Nuclear Magnetic Resonance」(核磁気共鳴)の略語である。「1H-NMR」は、分子中の水素(軽水素、1H)の原子核(プロトン)が起こす核磁気共鳴を測定するNMRであり、「D-NMR」は、分子中の重水素(D、2H)の原子核(デューテロン)が起こす核磁気共鳴を測定するNMRである。
「IRMS」は、「Isotope Ratio Mass Spectrometry」(同位体比質量分析法)又は「Isotope Ratio Mass Spectrometer」(同位体比質量分析装置)の略称である。
「CRDS」は、「Cavity Ring-Down Spectroscopy」(キャビティーリングダウン分光法)又は「Cavity Ring-Down Spectrometer」(キャビティーリングダウン分光分析装置)の略称である。
「核種」は、原子核の組成、すなわち核の中の陽子の数、中性子の数及び核のエネルギー準位によって規定される特定の原子の種類を意味する。
「同位体」は、原子核の組成、すなわち核の中の陽子の数、中性子の数及び核のエネルギー準位によって規定される特定の原子の種類を意味する。
「同位体濃縮度」は、同位体の総原子数に対する、ある核種の原子数の割合(atom%)である。例えば、水素(1H)及び重水素(D)の総原子数に対する重水素(D)の原子数の割合(atom%)は、重水素(D)の同位体濃縮度である。
「天然存在比」は、ある元素について、核種ごとに自然界に存在する割合である。例えば、NH3のDの場合は、重水素の天然存在比より100~150ppm程度と推定される。また、「同位体存在比」は、ある元素について、核種ごとに物質中に存在する割合である。
「測定対象同位体の測定対象元素」は、同位体濃縮度の測定対象である同位体を包含する元素である。例えば、重水素(D)が測定対象同位体である場合、「測定対象同位体の測定対象元素」は、水素である。
溶媒が溶媒不純物を含む場合、溶媒不純物も含めて「溶媒」という。
【0011】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態は、安定同位体化合物の測定対象同位体の同位体濃縮度を核磁気共鳴装置で測定する同位体濃縮度測定方法であって、標準溶液調製工程と、サンプル溶液調製工程と、サンプル溶液測定工程と、同位体濃縮度算出工程と、を含む同位体濃縮度測定方法である。
以下では、
図1を適宜参照しながら、本発明の同位体濃縮度測定方法の第1の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
<標準溶液調製工程>
標準溶液調製工程S1は、1分子内の同位体比率が既知である標準物質を溶媒に溶解して標準溶液を調製する工程である。
前記測定試料を前記溶媒に溶解する方法は、特に限定されず、従来公知の溶解方法によればよい。
【0013】
前記標準物質は、1分子内の同位体比率が既知であれば特に限定されない。前記標準物質の具体例としては、3-(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム-2,2,3,3-d4、1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン-d4及び3-(トリメチルシリル)-1-プロパン-1,1,2,2,3,3-d6-スルホン酸ナトリウムが挙げられる。前記標準物質としては、3-(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム-2,2,3,3-d4、1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン-d4及び3-(トリメチルシリル)-1-プロパン-1,1,2,2,3,3-d6-スルホン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記標準物質は、2種以上を併用してもよい。前記標準物質としては、3-(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム-2,2,3,3-d4、1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン-d4及び3-(トリメチルシリル)-1-プロパン-1,1,2,2,3,3-d6-スルホン酸ナトリウムからなる群から選択されるいずれか1種がより好ましい。
【0014】
前記溶媒は、前記標準物質及び後述する測定試料のいずれも溶解し得るものを選択することが好ましい。前記溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、アセトン、ベンゼン、トルエン、及びこれらの重溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、前記標準物質及び後述する測定試料に応じて、水、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、アセトン、ベンゼン、トルエン、及びこれらの重溶媒からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記溶媒は、2種以上を併用してもよい。
【0015】
<サンプル溶液調製工程>
サンプル溶液調製工程S2は、安定同位体化合物である測定試料を標準溶液調製工程S1において調製した標準溶液に溶解してサンプル溶液を調製する工程である。
本工程で用いる標準溶液は、標準溶液調製工程S1において調製した標準溶液からその一部を分取したものであってもよい。
前記測定試料を前記標準溶液に溶解する方法は、特に限定されず、従来公知の溶解方法によればよい。
【0016】
前記測定試料は、安定同位体化合物であれば特に限定されない。前記測定試料の具体例としては、NH3(アンモニア)、N2H2(ジアゼン)、N2H4(ヒドラジン)、(CH3)NH2(モノメチルアミン)、(CH3)2NH(ジメチルアミン)及びCH3NHNH2(メチルヒドラジン)が挙げられる。前記測定試料としては、NH3、N2H2、N2H4、CH3NH2、(CH3)2NH及びCH3NHNH2からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0017】
<サンプル溶液測定工程>
サンプル溶液測定工程S3は、核磁気共鳴装置を用いて、前記サンプル溶液における前記標準物質の前記測定対象同位体の測定対象元素の核磁気共鳴スペクトル、並びに前記サンプル溶液における前記測定試料及び前記溶媒の前記測定対象同位体の測定対象元素の核磁気共鳴スペクトルを測定し、前記標準物質における前記測定対象同位体の測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積に対する、前記測定試料及び前記溶媒における前記測定対象同位体の測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積の総和の比の値を算出する工程である。
【0018】
前記測定対象元素は、安定同位体が2以上存在する元素であれば特に限定されない。前記測定対象元素の具体例は、水素、窒素、及び塩素である。前記測定対象元素としては、水素、窒素及び塩素からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0019】
前記測定対象同位体は、安定同位体が2以上存在する元素の安定同位体であれば特に限定されない。前記測定対象同位体の具体例は、1H、2H、14N、15N、35Cl及び37Clである。前記測定対象同位体としては、1H及び2Hの組合せ、14N及び15Nの組合せ並びに35Cl及び37Clの組合せからなる群から選択される少なくとも1の組合せが好ましい。
【0020】
より詳細には、サンプル溶液測定工程S3においては、前記測定対象元素が第1の核種及び第2の核種を含み、前記第2の核種が前記測定対象同位体であり、前記第2の核種が前記測定対象同位体であるものとして、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積ASTD並びに前記測定試料及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積の総和ASAMPと、前記標準物質における第2の核種のシグナル面積BSTD並びに前記測定試料及び前記溶媒における第2の核種のシグナル面積の総和BSAMPとを測定し、下記式(2)により、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積ASTDに対する前記測定試料及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積の総和ASAMPの比の値X2を算出し、下記式(3)により、前記標準物質における第2の核種のシグナル面積BSTDに対する前記測定試料及び前記溶媒における第2の核種のシグナル面積の総和BSAMPの比の値Y2を算出することが好ましい。
X2=ASAMP/ASTD (2)
Y2=BSAMP/BSTD (3)
前記第1の核種及び前記第2の核種の組合せとしては、例えば、1H及びD、14N及び15N、35Cl及び37Clが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
NMRスペクトルの測定は、前記標準溶液及び前記サンプル溶液はいずれも液体であるので、前記標準溶液及び前記サンプル溶液のいずれも、溶液を無機ガラス製のNMR試料管(NMRチューブ)に入れ、NMR装置内に設置されたプローブに入れて測定すればよく、従来公知の溶液測定法と変わるところは無い。
【0022】
<同位体濃縮度測定工程>
同位体濃縮度測定工程S4は、前記サンプル溶液測定工程において算出した前記比の値に、前記標準物質の既知である同位体比率を算入することにより、前記測定試料における前記測定対象同位体の同位体濃縮度を算出する工程である。
【0023】
より詳細には、前記同位体濃縮度算出工程において、前記同位体濃縮度算出目的核種である第2の核種の同位体濃縮度Z(atom%)を下記式(1)により算出することが好ましい。
Z={bY2/(aX2+bY2)}×100 (1)
式(1)中、a及びbは、それぞれ、前記標準物質の1分子内の第1の核種と第2の核種の同位体比率をa:bと表した場合のa及びbであり、X2及びY2は、それぞれ、前記サンプル溶液測定工程において算出したX2及びY2である。
【0024】
標準物質の1分子内の第1の核種と第2の核種の既知の同位体比率a:bが既知であるため、前記サンプル測定工程において算出したシグナル面積の比X2及びY2を用いることにより、第2の核種の同位体濃縮度Zを前記式(1)によって算出できる。前記式(1)、式(4)及び式(5)に、前記測定試料の質量、モル数等の項が入っていないことから明らかであるが、サンプル溶液調製工程では、前記測定試料の精確な秤量が不要である。
【0025】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態は、安定同位体化合物の測定対象同位体の同位体濃縮度を核磁気共鳴装置で測定する同位体濃縮度測定方法であって、標準溶液調製工程と、標準溶液測定工程と、サンプル溶液調製工程と、サンプル溶液測定工程と、同位体濃縮度算出工程と、を含む同位体濃縮度測定方法である。
本発明の第2の実施形態は、本発明の第1の実施形態と、前記標準溶液調製工程と前記同位体濃縮度算出工程との間に、核磁気共鳴装置を用いて、前記標準溶液における前記標準物質及び前記溶媒の前記測定対象同位体の前記測定対象元素のそれぞれ
の核種の核磁気共鳴スペクトルを測定する標準溶液測定工程をさらに含む点で相違するほか、前記同位体濃縮度算出工程における同位体濃縮度の算出方法も相違する。
また、本発明の第2の実施形態は、標準物質と測定試料との間で同位体交換等の反応が生じない、又は許容可能な範囲内での反応であれば、測定試料が溶媒(溶媒不純物を含有する場合を含む。)と同位体交換等の反応を生じても、標準溶液測定工程及びサンプル溶液測定工程にて得られたそれぞれ
の核種の比の値の差分を求めることで、測定試料と溶媒との間で生じる同位体交換反応等の影響を排除し、測定試料由来の同位体濃縮度を算出できる。
以下では、
図2を適宜参照しながら、本発明の同位体濃縮度測定方法の第1の実施形態との相違点を中心に、本発明の同位体濃縮度測定方法の第2の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
<標準溶液調製工程>
第2の実施形態の標準溶液調製工程S1は、上述した第1の実施形態の標準溶液調製工程S1と概略同じである。
【0027】
<標準溶液測定工程>
本発明の第2の実施形態の標準溶液測定工程S11は、前記標準溶液における前記標準物質の前記測定対象同位体の測定対象元素の核磁気共鳴スペクトル、及び前記標準溶液における前記溶媒の前記測定対象同位体の測定対象元素の核磁気共鳴スペクトルを測定し、前記標準物質における前記測定対象同位体の測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積に対する、前記溶媒における前記測定対象同位体の測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積の総和の比の値を算出する工程である。
【0028】
より詳細には、本発明の第2の実施形態の標準溶液測定工程S11は、前記測定対象元素が第1の核種及び第2の核種を含み、前記第2の核種が同位体濃縮度算出目的核種であり、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S2
STD及び前記溶媒における第1の核種のシグナル面積S2
SOLと、前記標準物質における第2の核種のシグナル面積S3
STD及び前記溶媒における第2の核種のシグナル面積S3
SOLとを測定し、下記式(2)により、前記標準物質における第1の核種のシグナル面積S2
STDに対する前記溶媒における第1の核種のシグナル面積S2
SOLの比の値X1を算出し、下記式(3)により、前記標準物質における第2の核種のシグナル面積S3
STDに対する前記溶媒における第2の核種のシグナル面積の総和S3
SOLの比の値Y1を算出する工程であることが好ましい。
X1=S2
SOL/S2
STD (2)
Y1=S3
SOL/S3
STD (3)
【0029】
<サンプル溶液調製工程>
本発明の第2の実施形態のサンプル溶液調製工程S2は、上述した第1の実施形態のサンプル溶液調製工程S2と概略同じである。
【0030】
<サンプル溶液測定工程>
本発明の第2の実施形態のサンプル溶液測定工程S3は、上述した第1の実施形態のサンプル溶液測定工程S3と概略同じである。
【0031】
<同位体濃縮度算出工程>
本発明の第2の実施形態の同位体濃縮度算出工程S14は、前記標準溶液測定工程にて得られた標準物質における測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積比に対する、前記サンプル溶液測定工程にて得られた測定試料における測定対象同位体の測定対象元素のシグナル面積の比から、前記標準溶液測定工程にて得られた標準物質における測定対象同位体の測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積に対する前記標準溶液測定工程にて得られた溶媒における測定対象同位体の測定対象元素のそれぞれの核種のシグナル面積の比を差し引くことにより補正する工程である。
【0032】
より詳細には、本発明の第2の実施形態の同位体濃縮度算出工程S14は、前記同位体濃縮度算出目的核種である第2の核種の同位体濃縮度Z(atom%)を下記式(1’)により算出する工程であることが好ましい。
Z={bY0/(aX0+bY0)}×100 (1’)
式(1’)中、a及びbは、それぞれ、前記標準物質の1分子内の第1の核種と第2の核種の同位体比率をa:bと表した場合のa及びbであり、X0及びY0は、それぞれ、標準溶液測定工程において算出したX1及びY1と、前記サンプル溶液測定工程において算出したX2及びY2とから、下記式(6)及び(7)により算出される値である。
X0=X2-X1 (6)
Y0=Y2-Y1 (7)
【0033】
標準物質の1分子内の第1の核種と第2の核種の既知の同位体比率a:bが既知であるため、本工程において算出したX0及びY0を用いることにより、第2の核種の同位体濃縮度Zを前記式(1’)によって算出できる。前記式(1’)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(6)及び式(7)に、前記測定試料の質量、モル数等の項が入っていないことから明らかであるが、サンプル溶液調製工程では、前記測定試料の精確な秤量が不要である。また、式(6)及び式(7)によって、溶媒の測定試料のシグナルに対する干渉が排除される。
【0034】
[作用効果]
従来、NMR法による同位体濃縮度測定方法では、標準物質及び測定試料を秤量し、測定対象の核種、例えば1H又は13C、1つのみを測定対象として設定の上、NMR装置を用いてNMRスペクトルを測定する。測定により得られた標準試料及び測定試料の測定対象の核種のシグナル面積と標準物質及び測定試料の秤量値とを比較することで、測定試料の同位体濃縮度を算出する。このため、標準物質及び測定試料の精確な秤量が必須であり、秤量値のバラツキが測定精度に大きな影響を与える。
【0035】
これに対し、本発明は、1分子内の同位体比率が既知である標準物質を用い、かつ、複数の核種のNMRスペクトルを測定することにより、標準物質及び測定試料の秤量値の精度に依存しない同位体濃縮度測定法を実現した。
【0036】
ここで、測定試料中の軽水素(H)に対する重水素(D)の同位体濃縮度測定を例にとって説明する。
標準物質の条件は、前記標準物質の1分子内にH及びDの両方を有すること、及び、前記標準物質の1分子内のH及びDの存在比(同位体比率)が既知であること、の2つである。
このような条件を満たす化合物として、例えば、3-(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム-2,2,3,3-d4(以下「TSP-d4」という場合がある。化学式を以下に示す。)が挙げられる。TSP-d4は、1分子内にH及びDの両方を有し、1分子内のHとDの比(H:D)は、9:4である。
【0037】
【0038】
また、測定試料中のHに対するDの同位体濃縮度測定をする場合、測定が必要な複数の核種は、HとDの2つである。
1H-NMR測定及びD-NMR測定により、1)標準物質のHとDの比、2)標準物質に対する測定試料の1H-NMRシグナル面積比、3)標準物質に対する測定試料のD-NMRシグナル面積比、が分かる。これにより、標準物質及び測定試料の秤量値に依存せず、測定試料の同位体濃縮度を算出できる。
【0039】
また、本発明の同位体濃縮度測定方法では、標準物質と測定試料との間で同位体交換等の反応が生じない、又は許容可能な範囲内での反応であれば、測定試料が溶媒(溶媒不純物を含有する場合を含む。)と同位体交換等の反応を生じても、サンプル溶液調製工程の前後での差分を求めることで、測定試料と溶媒との間で生じる同位体交換反応又はNMRシグナルの重なり等の影響を排除し、測定試料由来の同位体濃縮度を算出できる。
したがって、本発明の同位体濃縮度測定方法は、測定試料が溶媒(溶媒不純物を含有する場合を含む。)と同位体交換等の反応を生じる場合でも、何ら制限を受けることなく、精度よく同位体濃縮度を測定できる。また、測定試料の同位体比率が天然存在比から大きく逸脱する場合であっても、何ら制限を受けることなく、精度よく同位体濃縮度を測定できる。
本発明は、測定試料における同位体天然存在比が1atom%以上逸脱している場合に好適である。
【実施例】
【0040】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は後述する実施例に限定されず、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変形が可能である。
【0041】
[実施例1]
<測定条件>
・測定試料:重水素化アンモニア(ND3)
・測定試料の同位体濃縮度:99atom%D、98atom%D、97atom%D
・標準物質:TSP-d4
・溶媒:重水(99.9atom%D)
・測定核種:H、D
・測定試料と溶媒又は溶媒不純物とのNMRシグナル干渉:有り
・標準溶液とサンプル溶液間における差分算出の有無:有り
・同位体濃縮度算出方法:本発明の同位体濃縮度測定方法(第2の実施形態)
【0042】
<測定結果>
・表1に測定結果を示す。高い繰返再現性を有する同位体濃縮度測定結果を得た。
・測定試料の製造目標濃縮度と相関のある同位体濃縮度測定値を得た。
・
図3、
図4に、実施例1のH-NMR、D-NMR測定における標準溶液、サンプル溶液のNMRシグナル模式図を示す。
【0043】
【0044】
[比較例1]
<測定条件>
・測定試料:重水素化アンモニア(ND3)
・測定試料の同位体濃縮度:99atom%D
・標準物質:TSP-d4
・溶媒:重水(99.9atom%D)
・測定核種:H
・測定試料と溶媒又は溶媒不純物とのNMRシグナル干渉:有り
・標準溶液とサンプル溶液間における差分算出の有無:無し
・同位体濃縮度算出方法:標準物質及び測定試料の秤量値からの算出
【0045】
<測定結果>
測定試料の秤量として、測定試料の溶解工程前後での重量変化から、測定試料の秤量値を算出し、D-NMR面積より濃縮度測定を実施した。結果、捕集容器及び溶媒である重水の重量と比較し、ND3溶解に伴う重量増加分が小さいため、測定試料の秤量値バラツキが大きく、製造目標の濃縮度と相関性の低い同位体濃縮度測定値となった。
【0046】
【0047】
[比較例2]
<測定条件>
・測定試料:重水素化アンモニア(ND3)
・測定試料の同位体濃縮度: 99atom%D
・標準物質:テトラメチルシラン(以下、TMS)
・溶媒:重メタノール
・測定核種:H
・測定試料と溶媒又は溶媒不純物との同位体交換反応:有り
・標準溶液とサンプル溶液間における差分算出の有無:有り
・同位体濃縮度算出方法:本発明の同位体濃縮度測定方法(第2の実施形態)
【0048】
<測定結果>
標準物質であるTMSは一分子内にHは保有しているが、Dを有していないため、HとDの比による本発明の同位体濃縮度測定方法の適用は不可であった。
また、溶媒である重メタノールの同位体濃縮度を標準とした測定の場合、測定試料であるND3と重メタノール及び重メタノール中に含まれる水(溶媒不純物)との間で同位体交換反応を生じ、標準自体が変化するため、測定試料の同位体濃縮度測定は不可であった。
【0049】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の同位体濃縮度測定方法は、同位体化合物の同位体濃縮度の測定に広く適用できるので、半導体分野、医療分野をはじめとする様々な産業分野での活用が可能である。
【符号の説明】
【0051】
S1…標準溶液調製工程、S2…サンプル溶液調製工程、S3…サンプル溶液測定工程、S4,S14…同位体濃縮度算出工程、S11…標準溶液測定工程