(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】赤外線遮蔽性積層シートとその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230810BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230810BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20230810BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20230810BHJP
B29K 69/00 20060101ALN20230810BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20230810BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20230810BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B27/30 A
B29C48/08
B29C48/21
B29K69:00
B29L7:00
B29L9:00
(21)【出願番号】P 2020532464
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029207
(87)【国際公開番号】W WO2020022426
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2018141338
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大澤 侑史
(72)【発明者】
【氏名】太田 大介
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-047179(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217429(WO,A1)
【文献】特開平06-312489(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020819(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/030147(WO,A1)
【文献】特開2015-128899(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133530(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003863(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/054051(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/054060(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104375(WO,A1)
【文献】特開2019-044109(JP,A)
【文献】特開2006-307171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 48/00-48/96
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08J 7/04- 7/06
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を含有する基材層の少なくとも片面に、メタクリル樹脂を含有する表面層が積層された積層シートであって、
前記表面層が紫外線吸収剤を含み、
前記基材層が着色剤を含み、
前記着色剤がカーボンブラック及び有機染料を含み、
総厚みが3.0~10.0mmであり、
前記基材層の厚みをT1、前記表面層の総厚みをT2としたときにT1>T2を充足し、
全光線透過率が3~60%であり、
波長1500nmにおける透過率が60%以下であり、
JIS Z 8781-4で定義されるL
*a
*b
*色空間において、a
*値の絶対値が10.0以下、b
*の絶対値が10.0以下で
あり、
樹脂グレージング用である、積層シート。
【請求項2】
前記表面層が赤外線吸収剤を含む、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂を含有する基材層の少なくとも片面に、メタクリル樹脂を含有する表面層が積層された積層シートであって、
前記表面層が紫外線吸収剤を含み、
前記基材層が着色剤を含み、
総厚みが3.0~10.0mmであり、
前記着色剤が有機染料を含み、
前記表面層が赤外線吸収剤を含み、
前記基材層の厚みをT1、前記表面層の総厚みをT2としたときにT1>T2を充足し、
全光線透過率が3~60%であり、
波長1500nmにおける透過率が60%以下であり、
JIS Z 8781-4で定義されるL
*a
*b
*色空間において、a
*値の絶対値が10.0以下、b
*の絶対値が10.0以下で
あり、
樹脂グレージング用である、積層シート。
【請求項4】
前記赤外線吸収剤が、
一般式W
yO
z(式中、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表されるタングステン酸化物微粒子、
一般式M
xW
yO
z(式中、Mは、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表される複合タングステン酸化物微粒子、
一般式LaXO
3(式中、Xは、Ni、Co、Fe、及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素)で表される複合酸化物微粒子、
一般式XB
m(式中、Xは、Y、Sr、Ca、及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、4.0≦m≦6.2)で表されるホウ化物微粒子、
インジウム錫酸化物微粒子、
及び、アンチモン錫酸化物微粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の微粒子である、請求項2又は3に記載の積層シート。
【請求項5】
前記表面層は、メタクリル樹脂5~90質量%と、芳香族ビニル化合物単位及び無水マレイン酸単位を含む共重合体95~10質量%とを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項6】
前記共重合体は、芳香族ビニル化合物単位50~84質量%、無水マレイン酸単位15~49質量%、及びメタクリル酸エステル単位1~35質量%を含む、請求項5に記載の積層シート。
【請求項7】
前記表面層は、メタクリル樹脂と多層構造ゴム粒子とを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項8】
前記表面層上にさらに、耐擦傷性層、眩光防止層、又は反射防止層を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項9】
共押出成形により前記基材層と前記表面層との積層構造を形成する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の積層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線遮蔽性積層シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の輸送機に使用されるグレージングでは、部材の軽量化及び安全性向上を目的に、ガラスから熱可塑性樹脂への材料の代替が進められている。代替材料として、耐衝撃性に優れるポリカーボネート樹脂が検討されている。一般的にポリカーボネート樹脂は耐擦傷性及び耐候性に劣る傾向があるが、ポリカーボネート樹脂の表面にハードコート層を形成することでこれらの特性を改善することができる。
例えば、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂シート上に、シクロアルキル基含有単位を有するアクリル共重合体(A)及びポリイソシアネート化合物(B)を含むアクリル樹脂組成物を熱硬化させた第1層、及びオルガノシロキサン樹脂組成物を熱硬化させた第2層からなる耐候性に優れたハードコート層が形成された積層体が開示されている(請求項1、12)。
【0003】
赤外線遮蔽材料は、自動車及び建築物等の窓部材等に用いた場合、車内及び室内等の温度上昇を抑制し、人の体感温度を低下させることができる。特に赤外線遮蔽性を有する透明樹脂は、材料の軽量化及びサーマルマネージメントの観点から、CO2排出量低減等の環境負荷低減の効果が大きく、好ましい。
特許文献2~4は、赤外線遮蔽材料に関する。
特許文献2には、ZnO膜、TiO2膜、ITO膜、又はSnO2膜等からなる一対の透明金属酸化物膜によりAg膜を挟んだサンドイッチ構造の熱線反射膜を含む合わせガラスが開示されている(請求項2)。
特許文献3には、結晶性ナフタレンジカルボン酸ポリエステルと別の選ばれたポリマーとの複数の交互の層を有し、赤外線エネルギーを反射し可視光を透過する多層化ポリマーフィルムが開示されている(請求項1、29)。
特許文献4には、ポリカーボネート樹脂に、無機赤外線遮蔽添加剤及びカーボンブラックを添加した組成物が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/105741号
【文献】特開平7-187727号公報
【文献】国際公開第1995/17303号(特表平9-506837号公報)
【文献】国際公開第2007/008476号(特表2009-501266号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2において、熱線反射膜はスパッタ法により気相成膜されているが([実施例]の項)、この方法は製造コストが高く、好ましくない。
特許文献3に記載の多層フィルムは、製造コストが高く、好ましくない。また、ポリカーボネート樹脂シートと貼り合わせる際の熱加工により性能が低下してしまう恐れがある。
特許文献4に記載の組成物は低コストに製造できるが、色調がカーボンブラック特有の赤みを帯びた黒色となり、好ましくない。樹脂グレージング等の用途では、漆黒に近い黒色が好ましい。また、赤外線吸収により樹脂の温度が上昇することで、もともと耐候性の低いポリカーボネート樹脂の劣化が促進され、耐候性試験時の変色(着色)が促進される恐れがある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、色調が良好で、良好な赤外線遮蔽性を有し、耐候性に優れた積層シートとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[10]の積層シートとその製造方法を提供する。
[1] ポリカーボネート樹脂を含有する基材層の少なくとも片面に、メタクリル樹脂を含有する表面層が積層された積層シートであって、
前記基材層が着色剤を含み、
総厚みが3.0~10.0mmであり、
前記基材層の厚みをT1、前記表面層の総厚みをT2としたときにT1>T2を充足し、
全光線透過率が3~60%であり、
波長1500nmにおける透過率が60%以下であり、
JIS Z 8781-4で定義されるL*a*b*色空間において、a*値の絶対値が10.0以下、b*の絶対値が10.0以下である、積層シート。
【0008】
[2] 前記着色剤がカーボンブラック及び/又は有機染料である、[1]の積層シート。
[3] 前記表面層が赤外線吸収剤を含む、[1]又は[2]の積層シート。
[4] 前記赤外線吸収剤が、
一般式WyOz(式中、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表されるタングステン酸化物微粒子、
一般式MxWyOz(式中、Mは、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表される複合タングステン酸化物微粒子、
一般式LaXO3(式中、Xは、Ni、Co、Fe、及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素)で表される複合酸化物微粒子、
一般式XBm(式中、Xは、Y、Sr、Ca、及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、4.0≦m≦6.2)で表されるホウ化物微粒子、
インジウム錫酸化物微粒子、
及び、アンチモン錫酸化物微粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の微粒子である、[3]の積層シート。
【0009】
[5] 前記表面層は、メタクリル樹脂5~90質量%と、芳香族ビニル化合物単位及び無水マレイン酸単位を含む共重合体95~10質量%とを含む、[1]~[4]のいずれかの積層シート。
[6] 前記共重合体は、芳香族ビニル化合物単位50~84質量%、無水マレイン酸単位15~49質量%、及びメタクリル酸エステル単位1~35質量%を含む、[5]の積層シート。
[7] 前記表面層は、メタクリル樹脂と多層構造ゴム粒子とを含む、[1]~[4]のいずれかの積層シート。
【0010】
[8] 前記表面層上にさらに、耐擦傷性層、眩光防止層、又は反射防止層を有する、[1]~[7]のいずれかの積層シート。
[9] 樹脂グレージング用である、[1]~[8]のいずれかの積層シート。
[10] 共押出成形により前記基材層と前記表面層との積層構造を形成する、[1]~[9]のいずれかの積層シートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、色調が良好で、良好な赤外線遮蔽性を有し、耐候性に優れた積層シートとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の積層シートの模式断面図である。
【
図2】本発明に係る第2実施形態の積層シートの模式断面図である。
【
図3】本発明に係る一実施形態の積層シートの製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[積層シート]
本発明の積層シートは、ポリカーボネート樹脂(PC)を含有する基材層の少なくとも片面に、メタクリル樹脂(PM)を含有する表面層が積層された構造を有する。
図1、
図2は、本発明に係る第1、第2実施形態の積層シートの模式断面図である。これらの図において、同じ構成要素には同じ参照符号を付してある。
図1に示す第1実施形態の積層シート10Xは、ポリカーボネート樹脂(PC)を含有する基材層11の両面にそれぞれ、メタクリル樹脂(PM)を含有する表面層12A、12Bが積層された構造を有している。表面層12Aと表面層12Bは、組成と厚みが同一でも非同一でもよい。
図2に示す第2実施形態の積層シート10Yは、ポリカーボネート樹脂(PC)を含有する基材層11の片面にメタクリル樹脂(PM)を含有する表面層12が積層された構造を有している。
積層シート10X、10Yにおいて、各層の厚みは適宜設計することができる。積層シート10X、10Yは、上記以外の任意の層を有していてもよい。
【0014】
本発明の積層シートは、樹脂グレージング等として好適な赤外線遮蔽性積層シートである。
樹脂グレージング等として用いる場合の遮光性と透光性のバランスが良好であることから、本発明の積層シートは、全光線透過率(Tt)が3~60%である。
樹脂グレージング等として好適な赤外線遮蔽性を有することから、本発明の積層シートは、波長1500nmにおける透過率が60%以下である。
樹脂グレージング等として好適な漆黒に近い色調を呈することができることから、本発明の積層シートは、JIS Z 8781-4で定義されるL*a*b*色空間において、a*値の絶対値が10.0以下、b*の絶対値が10.0以下である。
本発明の積層シートにおいては、ポリカーボネート樹脂(PC)を含有する基材層が1種又は2種以上の着色剤を含む。また、メタクリル樹脂(PM)を含有する表面層が好ましくは、1種又は2種以上の赤外線吸収剤を含むことができる。
全光線透過率(Tt)、波長1500nmにおける透過率、及び色調(a*値の絶対値とb*値の絶対値)は、基材層に添加される1種又は2種以上の着色剤の種類と添加濃度、基材層の厚み、必要に応じて表面層に添加される1種又は2種以上の赤外線吸収剤の種類と添加濃度、及び表面層の厚みによって、調整することができる。
【0015】
(基材層)
<ポリカーボネート樹脂(PC)>
基材層は、1種以上のポリカーボネート樹脂(PC)を含有する。本明細書において、ポリカーボネート樹脂は、特に明記しない限り、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂等の一般的な非変性ポリカーボネート樹脂である。
ポリカーボネート樹脂(PC)は、好適には1種以上の二価フェノールと1種以上のカーボネート前駆体とを共重合して得られる。二価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。カーボネート前駆体としては、ホスゲン等のカルボニルハライド;ジフェニルカーボネート等のカーボネートエステル;二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート等が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂(PC)の製造方法としては、二価フェノールの水溶液とカーボネート前駆体の有機溶媒溶液とを界面で反応させる界面重合法、及び、二価フェノールとカーボネート前駆体とを高温、減圧、無溶媒条件下で反応させるエステル交換法等が挙げられる。
【0016】
ポリカーボネート樹脂(PC)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは20,000~70,000である。Mwが10,000以上であることで、本発明の積層シートは耐衝撃性及び耐熱性に優れるものとなる。Mwが100,000以下であることで、ポリカーボネート樹脂(PC)は成形性に優れ、本発明の積層シートの生産性を高められる。
【0017】
加熱溶融成形の安定性の観点から、1種以上のポリカーボネート樹脂(PC)を含む基材層の構成樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1~30g/10分、より好ましくは3~20g/10分、特に好ましくは5~10g/10分である。本明細書において、基材層の構成樹脂のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度300℃、1.2kg荷重下の条件で測定される値である。
【0018】
ポリカーボネート樹脂(PC)は市販品を用いてもよい。住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー(登録商標)」及び「SDポリカ(登録商標)」、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロン/ノバレックス(登録商標)」、出光興産株式会社製「タフロン(登録商標)」、及び帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標)」等が挙げられる。
【0019】
<着色剤>
基材層は、1種又は2種以上の着色剤を含有する。着色剤としては、顔料及び有機染料が挙げられる。一般的に、顔料は耐候性に優れるが有機染料よりも分散不良が発生し易い傾向があり、有機染料は顔料よりも耐候性に劣るが分散不良が発生しづらく生産性に優れる傾向がある。
着色剤としては、無機顔料であるカーボンブラック及び/又は有機染料が好ましい。着色剤によって着色された基材層の色は特に制限されず、黒色でも他の色でもよい。樹脂グレージング等の用途では、黒色が好ましく、特に漆黒に近い黒色が好ましい。基材層の色を黒色とする場合、単独で黒色を呈する着色剤を1種又は2種以上使用してもよいし、組合せにより黒色を呈する複数種の着色剤を使用してもよい。
【0020】
カーボンブラック等の無機顔料に比べて有機染料は耐候性が良くない傾向があるが、本発明の積層シートでは、基材層が含むことができる有機染料を表面層(例えば表面層に含まれる紫外線吸収剤等)により外光から保護することができるので、耐候性試験において有機染料の劣化とそれによる色調の悪化を抑制することができる。
【0021】
基材層は赤外線吸収剤を含まないことが好ましい。一般的に赤外線吸収剤を添加した層は、耐候性試験時に赤外線を吸収することにより温度が上昇し、樹脂等の劣化反応が促進される傾向がある。耐候性の良くないポリカーボネート樹脂(PC)を含む基材層に赤外線吸収剤を添加した場合、耐候性試験時の変色(着色)が促進される恐れがある。
【0022】
カーボンブラックは公知のものを用いることができ、その原料種及び製造方法は特に制限されない。例えば、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等が挙げられる。
カーボンブラックの平均粒子径は特に制限されず、積層シートのヘイズ抑制及びカーボンブラックの凝集欠点発生の抑制の観点から、好ましくは5~60nm、より好ましくは7~55nm、特に好ましくは10~50nmである。
【0023】
有機染料は公知のものを用いることができ、アンスラキノン類、アゾ類、アントラピリドン類、ペリレン類、アントラセン類、ペリノン類、インダンスロン類、キナクリドン類、キサンテン類、チオキサンテン類、オキサジン類、オキサゾリン類、インジゴイド類、チオインジゴイド類、キノフタロン類、ナフタルイミド類、シアニン類、メチン類、キノリン類、ピラゾロン類、ラクトン類、クマリン類、ビス-ベンズオキサゾリルチオフェン類、ナフタレンテトラカルボン酸類、フタロシアニン類、トリアリールメタン類、アミノケトン類、ビス(スチリル)ビフェニル類、アジン類、ローダミン類、及びこれらの誘導体等が挙げられる。高耐熱性、長波長域帯に広い光吸収帯を有する性質、及び耐候性の観点から、アンスラキノン類、ペリレン類、ペリノン類、アゾ類、メチン類、及びキノリン類等が好ましい。
任意の色の有機染料を1種又は2種以上用いることができる。上記したように、樹脂グレージング等の用途では、単独で黒色を呈する1種又は2種以上の有機染料、又は組合せにより黒色を呈する複数種の有機染料を用いることが好ましい。
【0024】
以下に有機染料の好適な具体例をカラーインデックスのジェネリックネームで示す。
アンスラキノン類としては、Solvent Red 52、Solvent Red 111、Solvent Red 149、Solvent Red 150、Solvent Red 151、Solvent Red 168、Solvent Red 191、Solvent Red 207、Disperse Red 22、Disperse Red 60、Disperse Violet 31、Solvent Blue 35、Solvent Blue 36、Solvent Blue 63、Solvent Blue 78、Solvent Blue 83、Solvent Blue 87、Solvent Blue 94、Solvent Blue 97、Solvent Green 3、Solvent Green 20、Solvent Green 28、Disperse Violet 28、Solvent Violet 13、Solvent Violet 14、及びSolvent Violet 36等が挙げられる。
【0025】
ペリノン類としては、Solvent Orange 60、Solvent Orange 78、Solvent Orange90、Solvent Violet 29、Solvent Red 135、Solvent Red162、及びSolvent Red 179等が挙げられる。
【0026】
ペリレン類としては、Solvent Green 3、Solvent Green 5、Solvent Orange 55、Vat Red15、Vat Orange7、F Orange240、F Red305、F Red339、及びF Yellow83等が挙げられる。
【0027】
アゾ系類としては、Solvent Yellow 14、Solvent Yellow 16、Solvent Yellow 21、Solvent Yellow 61、Solvent Yellow 81、Solvent Red 23、Solvent Red 24、Solvent Red 27、Solvent Red 8、Solvent Red 83、Solvent Red 84、Solvent Red 121、Solvent Red 132、Solvent Violet21、Solvent Black 21、Solvent Black 23、Solvent Black 27、Solvent Black 28、Solvent Black 31、Solvent Orange 37、 Solvent Orange 40、及びSolvent Orange 45等が挙げられる。
【0028】
メチン類としては、Solvent Orange 80、Solvent Yellow 93等が挙げられる。
キノリン類としては、Solvent Yellow 33、Solvent Yellow 98、Solvent Yellow 157、Disperse Yellow 54、及びDisperse Yellow 160等が挙げられる。
【0029】
有機染料は好ましくは2種以上を組み合わせて使用することで、色の深みと清澄感が高く、色調に優れる積層シートを得ることができる。アンスラキノン類、ペリレン類、ペリノン類、アゾ類、メチン類、及びキノリン類からなる群から2種以上を組み合わせることが好ましい。同様の理由から、着色剤として、1種又は2種以上の有機染料とカーボンブラックとを併用することも好ましい。
【0030】
基材層に含まれる着色剤(好ましくはカーボンブラック及び/又は有機染料)の濃度及び単位面積当たりの質量は、基材層の厚みと積層シート全体の厚みに応じて、積層シートの全光線透過率(Tt)が3~60%となるように設計される。基材層の厚みにもよるが、基材層に含まれる着色剤の濃度は、好ましくは0.0005~0.03質量%、より好ましくは0.000625~0.0257質量%、特に好ましくは0.000714~0.0225質量%である。基材層の単位面積当たりに含まれる着色剤の質量は、好ましくは60~1080mg/m2、より好ましくは75~925mg/m2、特に好ましくは85~810mg/m2である。
着色剤の添加タイミングは特に制限されず、ポリカーボネート樹脂(PC)の重合時でも重合後でもよい。
【0031】
<任意成分>
基材層は必要に応じて、1種以上の他の重合体を含むことができる。他の重合体としては特に制限されず、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。基材層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0032】
基材層は必要に応じて、着色剤以外の他の各種添加剤を含むことができる。他の添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、光拡散剤、艶消し剤、コアシェル粒子及びブロック共重合体等の耐衝撃性改質剤、及び蛍光体等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。基材層の構成樹脂100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
基材層に他の重合体及び/又は他の添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、ポリカーボネート樹脂(PC)の重合時でも重合後でもよい。
【0033】
(表面層)
表面層は、1種以上のメタクリル樹脂(PM)を含有するメタクリル樹脂含有層である。メタクリル樹脂(PM)は、光沢、透明性、及び表面硬度等に優れる樹脂である。表面層中のメタクリル樹脂(PM)の含有量は、好ましくは20~100質量%である。
加熱溶融成形の安定性の観点から、1種以上のメタクリル樹脂(PM)を含むメタクリル樹脂含有層の構成樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1~10g/10分、より好ましくは1.5~7g/10分、特に好ましくは2~4g/10分である。本明細書において、メタクリル樹脂含有層の構成樹脂のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度230℃、3.8kg荷重下で測定される値である。
【0034】
表面層として好ましいメタクリル樹脂含有層としては、1種以上のメタクリル樹脂(PM)及び必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができるメタクリル樹脂(組成物)からなるメタクリル樹脂含有層(MLA);メタクリル樹脂(PM)及びSMA樹脂(S)(詳細については後記)を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができるメタクリル樹脂組成物(MR1)からなるメタクリル樹脂含有層(MLB);メタクリル樹脂(PM)及び多層構造ゴム粒子(RP)(詳細については後記)を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができるメタクリル樹脂組成物(MR2)からなるメタクリル樹脂含有層(MLC)等が挙げられる。
【0035】
<メタクリル樹脂(PM)>
メタクリル樹脂含有層(MLA)~(MLC)に含まれるメタクリル樹脂(PM)は、好ましくはメタクリル酸メチル(MMA)を含む1種以上のメタクリル酸炭化水素エステル(以下、単にメタクリル酸エステルとも言う)に由来する構造単位を含む単独重合体又は共重合体である。メタクリル酸エステル中の炭化水素基は、メチル基、エチル基、及びプロピル基等の非環状脂肪族炭化水素基であっても、脂環式炭化水素基であっても、フェニル基等の芳香族炭化水素基であってもよい。透明性の観点から、メタクリル樹脂(PM)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0036】
メタクリル樹脂(PM)は、メタクリル酸エステル以外の1種以上の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸3-メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、及びアクリル酸3-ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル等が挙げられる。中でも、入手性の観点から、MA、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、及びアクリル酸tert-ブチル等が好ましく、MA及びアクリル酸エチル等がより好ましく、MAが特に好ましい。メタクリル樹脂(PM)における他の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0037】
メタクリル樹脂(PM)は、好ましくはMMAを含む1種以上のメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。複数種の単量体を用いる場合は、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法としては特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0038】
メタクリル樹脂(PM)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは40,000~500,000である。Mwが40,000以上であることでメタクリル樹脂含有層は耐擦傷性及び耐熱性に優れるものとなり、Mwが500,000以下であることでメタクリル樹脂含有層は成形性に優れるものとなる。本明細書において、特に明記しない限り、「Mw」はゲルパーエミーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0039】
<メタクリル樹脂組成物(MR1)>
メタクリル樹脂組成物(MR1)は、上記のメタクリル樹脂(PM)及びSMA樹脂(S)を含み、さらに及び必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができる。樹脂組成物(MR1)中のメタクリル樹脂(PM)の含有量は、好ましくは5~80質量%、より好ましくは5~55質量%、特に好ましくは10~50質量%である。樹脂組成物(MR1)中のSMA樹脂(S)の含有量は、好ましくは95~20質量%、より好ましくは95~45質量%、特に好ましくは90~50質量%である。これらの樹脂の含有量が上記の範囲内であると、表面層の耐熱性が向上し、硬化被膜を形成する工程において、積層シートが加熱された際、積層シートの面状が荒れることを抑制することができる。また、基材層に用いられるポリカーボネート樹脂(PC)とのガラス転移温度差を小さくすることができ、シート成形における積層シートの反りを低減することができる。
【0040】
本明細書において、SMA樹脂(S)とは、1種以上の芳香族ビニル化合物及び無水マレイン酸(MAH)を含む1種以上の酸無水物に由来する構造単位を含む共重合体である。芳香族ビニル化合物としては、スチレン(St);2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、及び4-tert-ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α-メチルスチレン及び4-メチル-α-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン;が挙げられる。中でも、入手性の観点からスチレン(St)が好ましい。樹脂組成物(MR1)の透明性及び耐湿性の観点から、SMA樹脂(S)中の芳香族ビニル化合物単量体単位の含有量は、好ましくは50~85質量%、より好ましくは55~82質量%、特に好ましくは60~80質量%である。酸無水物としては入手性の観点から少なくとも無水マレイン酸(MAH)を用い、必要に応じて、無水シトラコン酸及びジメチル無水マレイン酸等の他の酸無水物を用いることができる。樹脂組成物(MR1)の透明性及び耐熱性の観点から、SMA樹脂(S)中の酸無水物単量体単位の含有量は、好ましくは15~50質量%、より好ましくは18~45質量%、特に好ましくは20~40質量%である。
【0041】
SMA樹脂(S)は、芳香族ビニル化合物及び酸無水物に加え、1種以上のメタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を含むことができる。メタクリル酸エステルとしては、MMA、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸1-フェニルエチル等が挙げられる。中でも、アルキル基の炭素数が1~7であるメタクリル酸アルキルエステル等が好ましい。SMA樹脂(S)の耐熱性及び透明性の観点から、MMAが特に好ましい。積層シートの曲げ加工性及び透明性の観点から、SMA樹脂(S)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは1~35質量%、より好ましくは3~30質量%、特に好ましくは5~26質量%である。この場合において、芳香族ビニル化合物単量体単位の含有量は好ましくは50~84質量%、酸無水物単量体単位の含有量は好ましくは15~49質量%である。
【0042】
SMA樹脂(S)は、芳香族ビニル化合物、酸無水物、及びメタクリル酸エステル以外の他の単量体に由来する構造単位を有していてもよい。他の単量体としては、メタクリル樹脂(PM)の説明において上述したものを用いることができる。SMA樹脂(S)中の他の単量体単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0043】
SMA樹脂(S)は、芳香族ビニル化合物、酸無水物、必要に応じてメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。この重合においては、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法は特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法及び溶液重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0044】
SMA樹脂(S)のMwは、好ましくは40,000~300,000である。Mwが40,000以上であることでメタクリル樹脂含有層は耐擦傷性及び耐衝撃性に優れるものとなり、Mwが300,000以下であることでメタクリル樹脂含有層は成形性に優れるものとなる。
【0045】
樹脂組成物(MR1)は、メタクリル樹脂(PM)、SMA樹脂(S)、及び必要に応じて他の重合体を混合して得られる。混合法としては、溶融混合法及び溶液混合法等が挙げられる。溶融混合法では、単軸又は多軸の混練機;オープンロール、バンバリーミキサー、及びニーダー等の溶融混練機等を用い、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガス、及びヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気下で溶融混練を行うことができる。溶液混合法では、メタクリル樹脂(PM)とSMA樹脂(S)とを、トルエン、テトラヒドロフラン、及びメチルエチルケトン等の有機溶媒に溶解させて混合することができる。
【0046】
<メタクリル樹脂組成物(MR2)>
メタクリル樹脂組成物(MR2)は、上記のメタクリル樹脂(PM)及び多層構造ゴム粒子(RP)を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができる。樹脂組成物(MR2)中のメタクリル樹脂(PM)の含有量は、好ましくは80~99質量%、より好ましくは85~95質量%である。樹脂組成物(MR2)中の多層構造ゴム粒子(RP)の含有量は、好ましくは20~1質量%、より好ましくは15~5質量%である。表面層が多層構造ゴム粒子(RP)を含むことで、積層シートの耐割れ性等を向上することができる。多層構造ゴム粒子(RP)の含有量が過少では、打ち抜き加工時の条件によっては端部に割れが生じる恐れがある。一方、多層構造ゴム粒子の含有量が過多では、成形時及び折り曲げ時等に積層シートに白化が生じる、表面層の表面硬度が低下して傷が付き易くなる、形状転写後の製品外観が悪くなる等の恐れがある。
【0047】
本明細書において、多層構造ゴム粒子(RP)はアクリル系多層構造ゴム粒子である。多層構造ゴム粒子(RP)としては、1種以上のアクリル酸アルキルエステル共重合体を含む1層以上のグラフト共重合体層を有するアクリル系多層構造ゴム粒子が挙げられる。かかるアクリル系多層構造ゴム粒子としては、特開2004-352837号公報等に開示のものを使用できる。アクリル系多層構造ゴム粒子は好ましくは、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位を含む架橋重合体層を有することができる。
多層構造ゴム粒子(RP)の層数は特に制限されず、2層でも3層以上でもよい。好ましくは、多層構造ゴム粒子(RP)は、最内層(RP-a)と1層以上の中間層(RP-b)と最外層(RP-c)とを含む3層以上のコアシェル多層構造粒子である。
【0048】
最内層(RP-a)の構成重合体は、MMA単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最内層(RP-a)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~99.99質量%、より好ましくは85~99質量%、特に好ましくは90~98質量%である。3層以上の多層構造粒子(RP)中の最内層(RP-a)の割合は、好ましくは0~15質量%、より好ましくは7~13質量%である。最内層(RP-a)の割合がかかる範囲内にあることで、表面層の耐熱性を高めることができる。
【0049】
中間層(RP-b)の構成重合体は、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。中間層(RP-b)の構成重合体中のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、好ましくは70~99.8質量%、より好ましくは75~90質量%、特に好ましくは78~86質量%である。3層以上の多層構造ゴム粒子(RP)中の中間層(RP-b)の割合は、好ましくは40~60質量%、より好ましくは45~55質量%である。中間層(RP-b)の割合がかかる範囲内であることで、表面層の表面硬度を高め、表面層を割れ難くすることができる。
【0050】
最外層(RP-c)の構成重合体は、MMA単位を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最外層(RP-c)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。3層以上の多層構造粒子(RP)中の最外層(RP-c)の割合は、好ましくは35~50質量%、より好ましくは37~45質量%である。最外層(RP-c)の割合がかかる範囲内であることで、表面層の表面硬度を高め、表面層を割れ難くすることができる。
【0051】
多層構造ゴム粒子(RP)の粒子怪は、好ましくは0.05~0.3μmである。粒子径は、電子顕微鏡観察及び動的光散乱測定等の公知方法により測定することができる。電子顕微鏡観察による測定は例えば、電子染色法により多層構造ゴム粒子(RP)の特定の層を選択的に染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて複数の粒子の粒子径を実測し、それらの平均値を求めることによって行うことができる。動的光散乱法は、粒子径が大きくなる程、粒子のブラウン運動が大きくなるという原理を利用する測定法である。
【0052】
多層構造ゴム粒子(RP)は、多層構造ゴム粒子(RP)同士の膠着による取り扱い性の低下、及び、溶融混練時の分散不良による耐衝撃性の低下を抑制するため、多層構造ゴム粒子(RP)と分散用粒子(D)とを含むラテックス又は粉体の形態で用いることができる。分散用粒子(D)は例えば、MMAを主とする1種以上の単量体の(共)重合体からなり、多層構造ゴム粒子(RP)よりも相対的に粒子径の小さい粒子を用いることができる。
【0053】
分散用粒子(D)の粒子径は、分散性向上の観点から、できるだけ小さいことが好ましく、乳化重合法による製造再現性の観点から、好ましくは40~120nm、より好ましくは50~100nmである。分散用粒子(D)の添加量は、分散性向上効果の観点から、多層構造ゴム粒子(RP)と分散用粒子(D)との合計量に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。
【0054】
<赤外線吸収剤>
表面層は好ましくは、1種又は2種以上の赤外線吸収剤を含むことができる。
赤外線吸収剤としては公知のものを用いることができ、
一般式WyOz(式中、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表されるタングステン酸化物微粒子、
一般式MxWyOz(式中、Mは、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表される複合タングステン酸化物微粒子、
一般式LaXO3(式中、Xは、Ni、Co、Fe、及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素)で表される複合酸化物微粒子、
一般式XBm(式中、Xは、Y、Sr、Ca、及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、4.0≦m≦6.2)で表されるホウ化物微粒子、
インジウム錫酸化物(ITO)微粒子、
及び、アンチモン錫酸化物(ATO)微粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の微粒子が好ましい。
【0055】
表面層に含まれる赤外線吸収剤の濃度は、表面層の厚みに応じて、積層シートの波長1500nmにおける透過率が60%以下となるように設計される。表面層の厚みにもよるが、好ましくは0.01~1.00質量%、より好ましくは0.05~0.50質量%、特に好ましくは0.10~0.30質量%である。
一般的に赤外線吸収剤を添加した層は、耐候性試験時に赤外線を吸収することにより温度が上昇し、樹脂等の劣化反応が促進される傾向がある。本発明では、耐候性の良くないポリカーボネート樹脂(PC)を含む基材層ではなく、耐候性に優れるメタクリル樹脂(PM)を含む表面層に赤外線吸収剤を添加することにより、耐候性試験時の変色(着色)を抑制することができる。具体的には、耐候性試験時の変色(着色)のパラメータであるΔE値を、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、特に好ましくは2.5以下に抑えることができる。
赤外線吸収剤の添加タイミングは、メタクリル樹脂(PM)、SMA樹脂(S)、及び多層構造ゴム粒子(RP)等の樹脂の重合時又は重合後でもよいし、メタクリル樹脂(PM)を含む複数種の樹脂の混合時又は混合後でもよい。
【0056】
<任意成分>
表面層が含むことができる他の重合体としては特に制限されず、基材層の説明において上述したものと同様のものを用いることができる。表面層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
表面層は必要に応じて、赤外線吸収剤以外の他の各種添加剤を含むことができる。他の添加剤としては、基材層の説明において上述したものと同様のものを用いることができる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。表面層の構成樹脂100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
基材層が含むポリカーボネート樹脂(PC)及び基材層が含むことができる有機染料の劣化防止の観点から、表面層は紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
表面層に他の重合体及び/又は赤外線吸収剤以外の他の添加剤を含有させる場合、添加タイミングは、メタクリル樹脂(PM)、SMA樹脂(S)、及び多層構造ゴム粒子(RP)等の樹脂の重合時又は重合後でもよいし、メタクリル樹脂(PM)を含む複数種の樹脂の混合時又は混合後でもよい。
【0057】
(積層シートの総厚み)
本発明の積層シートは、総厚みが3.0~10.0mmであり、好ましくは3.5~8.0mm、より好ましくは4.0~7.0mmである。総厚みが3.0mm以上であれば、積層シートの剛性を確保することができ、大面積にした際にも積層シートの撓みを抑制できる。また、総厚みが3.0mm以上であれば、積層シートの靭性を確保することができ、落球試験時に積層シートに割れ又は亀裂が発生するのを抑制できる。総厚みが10.0mm超では、材料コスト及び軽量化の観点から、好ましくない。
【0058】
(基材層の厚み(T1)と表面層の総厚み(T2)との関係)
本発明の積層シートは、基材層の厚みをT1、表面層の総厚みをT2としたときにT1>T2を充足する。
表面層の総厚み(T2)は、
図1に示す第1実施形態の積層シート10Xでは、基材層11の両面に形成された表面層12A、12Bの厚みの合計値を意味し、
図2に示す第2実施形態の積層シート10Yでは、基材層11の片面に形成された表面層12単独の厚みを意味する。
表面層の総厚み(T2)は、好ましくは0.05~0.60mm、より好ましくは0.10~0.50mm、特に好ましくは0.10~0.40mm、最も好ましくは0.10~0.30mmである。表面層の総厚み(T2)が0.05mm未満では、積層シートの剛性が低下し、ハードコート層等として機能する硬化被膜を積層した後の表面硬度が不充分となる恐れがある。また、表面層の総厚み(T2)が0.60mm超では、積層シートの靭性が低下し、落球試験時に割れ又は亀裂が生じる恐れがある。
【0059】
(積層シートの全光線透過率(Tt))
本発明の積層シートは、全光線透過率(Tt)が3~60%であり、好ましくは5~50%、より好ましくは10~40%である。全光線透過率(Tt)が上記の範囲内であると、樹脂グレージング等として用いた場合に、遮光性と透光性のバランスが好適になる。
【0060】
(積層シートの波長1500nmにおける透過率)
本発明の積層シートは、波長1500nmにおける透過率が60%以下であり、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下である。波長1500nmにおける透過率が上記の範囲内であると、樹脂グレージング等として用いた場合に、赤外線を効果的に遮蔽することができる。例えば、自動車及び建築物等の窓部材等に用いた場合、車内及び室内等の温度上昇を抑制し、人の体感温度を低下させることができる。
基材層がカーボンブラックを含む場合には、表面層に赤外線吸収剤を添加しなくても、良好な赤外線遮蔽性を実現することができる。したがって、基材層がカーボンブラックを含む場合には、表面層に赤外線吸収剤を添加してもしなくてもよい。
基材層がカーボンブラックを含まない場合には、表面層に赤外線吸収剤を添加することで、所望の赤外線遮蔽性を実現することができる。
【0061】
(積層シートの色調)
積層シートの色調は、分光光度計を用いて透過モードの条件で測定することができる。本発明の積層シートは、JIS Z 8781-4で定義されるL*a*b*色空間において、a*の絶対値が10.0以下、b*の絶対値が10.0以下である。好ましくは、a*の絶対値が9.0以下、b*の絶対値が9.0以下である。より好ましくは、a*の絶対値が8.0以下、b*の絶対値が8.0以下である。特に好ましくは、a*の絶対値が7.0以下、b*の絶対値が7.0以下である。a
*
の絶対値とb*の絶対値が上記の範囲内であると、本発明の積層シートは漆黒に近い黒色を呈することができ、好ましい。
【0062】
基材層に添加する着色剤としてカーボンブラックのみを用いる場合、積層シートの色調がカーボンブラック特有の赤みを帯びた黒色となる傾向がある(後記[実施例]の項の比較例2を参照。)。基材層に添加する着色剤としてカーボンブラックを用いる場合は、有機染料を併用することで、赤みを低減し、漆黒に近い色調を得ることができる。
基材層に添加する着色剤としてカーボンブラックを用いずに、単独で又は組合せにより黒色を呈する1種又は2種以上の有機染料を用いても、漆黒に近い色調を得ることができる。
【0063】
(他の層)
本発明の積層シートは、基材層の少なくとも片面に表面層が積層されたものであれば、他の層を有していてもよい。
本発明の積層シートは必要に応じて、最表面に硬化被膜を有することができる。硬化被膜は耐擦傷性層(ハードコート層)又は視認性向上効果のための低反射性層として機能することができる。硬化被膜は公知方法にて形成することができる。
硬化被膜の材料としては、無機系、有機系、有機無機系、及びシリコーン系等が挙げられ、生産性の観点から、有機系及び有機無機系が好ましい。
【0064】
無機系硬化被膜は例えば、SiO2、Al2O3、TiO2、及びZrO2等の金属酸化物等の無機材料を、真空蒸着及びスパッタリング等の気相成膜で成膜することにより形成することができる。
有機系硬化被膜は例えば、メラミン系樹脂、アルキッド系樹脂、ウレタン系樹脂、及びアクリル系樹脂等の樹脂を含む塗料を塗工し加熱硬化する、又は、多官能アクリル系樹脂を含む塗料を塗工し紫外線硬化させることにより形成することができる。
有機無機系硬化被膜は例えば、表面に光重合反応性官能基が導入されたシリカ超微粒子等の無機超微粒子と硬化性有機成分とを含む紫外線硬化性ハードコート塗料を塗工し、紫外線照射により硬化性有機成分と無機超微粒子の光重合反応性官能基とを重合反応させることにより形成することができる。この方法では、無機超微粒子が、有機マトリックスと化学結合した状態で有機マトリックス中に分散した網目状の架橋塗膜が得られる。
シリコーン系硬化被膜は例えば、カーボンファンクショナルアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、及びテトラアルコキシシラン等の部分加水分解物、又はこれらにコロイダルシリカを配合した材料を重縮合させることにより形成することができる。
上記方法において、材料の塗工方法としては、ディップコート、グラビアロールコート等の各種ロールコート、フローコート、ロッドコート、ブレードコート、スプレーコート、ダイコート、及びバーコート等が挙げられる。
【0065】
耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜(耐擦傷性層、ハードコート層)の厚みは、好ましくは2~30μm、より好ましくは5~20μmである。薄すぎると表面硬度が不充分となり、厚すぎると製造工程中の折り曲げにより割れが発生する恐れがある。低反射性硬化被膜(低反射性層)の厚みは、好ましくは80~200nm、より好ましくは100~150nmである。薄すぎても厚すぎても低反射性能が不充分となる恐れがある。
【0066】
その他、本発明の積層シートは必要に応じて、表面に、眩光防止(アンチグレア)層、反射防止(アンチリフレクション)層、及び防指紋層等の公知の表面処理層を有することができる。
【0067】
[積層シートの製造方法]
以下、本発明の積層シートの製造方法の好ましい態様について説明する。本発明の積層シートは公知方法により製造することができ、好ましくは共押出成形を含む製造方法により製造される。
【0068】
図面を参照して、本発明に係る一実施形態の積層シートの製造装置の構造について、説明する。
図3に示す製造装置30は、基材層用単管32を介して接続された、基材層用押出機31と基材層用定量ポンプ33と基材層用濾過手段34とを備える。基材層用樹脂材料は、基材層用押出機31を用いて溶融可塑化され、基材層用単管32内に押出される。基材層用単管32内に押出された溶融状態の基材層用樹脂材料は、ギアポンプ等の定量ポンプ33を用いて下流に送られる。定量ポンプ33の後段には、ポリマーフィルター等の基材層用濾過手段34が配置され、積層前に樹脂劣化物及び他の異物が除去される。
製造装置30はまた、表面層用単管42を介して接続された、表面層用押出機41と表面層用定量ポンプ43と表面層用濾過手段44とを備える。表面層用樹脂材料は、表面層用押出機41を用いて溶融可塑化され、表面層用単管42内に押出される。表面層用単管42内に押出された溶融状態の表面層用樹脂材料は、ギアポンプ等の定量ポンプ43を用いて下流に送られる。定量ポンプ43の後段には、ポリマーフィルター等の表面層用濾過手段44が配置され、積層前に樹脂劣化物及び他の異物が除去される。
【0069】
製造装置30はまた、Tダイ51、複数の冷却ロール(図示例では第1~第3の冷却ロール52~54)、及び一対の引取りロール55を備える。
基材層用濾過手段34を通過後の溶融状態の基材層用樹脂材料と、表面層用濾過手段44を通過後の溶融状態の表面層用樹脂材料は、基材層の少なくとも一方の面に表面層が積層された熱可塑性樹脂積層体の形態で、幅広の吐出口を有するTダイ51から溶融状態で共押出される。積層方式としては、Tダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及びTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式等が挙げられる。積層シートの層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
【0070】
Tダイ51から共押出された溶融状態の熱可塑性樹脂積層体は、複数の冷却ロール(図示例では第1~第3の冷却ロール52~54)を用いて加圧及び冷却される。冷却ロールの数は、適宜設計することができる。
冷却ロールとしては、金属ロール及び外周部に金属製外筒を備えた弾性ロール(以下、金属弾性ロールとも言う)等が挙げられる。金属ロールとしては、ドリルドロール及びスパイラルロール等が挙げられる。金属ロールの表面は、鏡面であってもよいし、模様又は凹凸等を有していてもよい。金属弾性ロールは例えば、ステンレス鋼等からなる軸ロールと、この軸ロールの外周面を覆うステンレス鋼等からなる金属製外筒と、これら軸ロール及び金属製外筒の間に封入された流体とからなり、流体の存在により弾性を示すことができる。金属製外筒の厚みは好ましくは2~5mm程度である。金属製外筒は、屈曲性及び可撓性等を有することが好ましく、溶接継ぎ部のないシームレス構造であるのが好ましい。このような金属製外筒を備えた金属弾性ロールは、耐久性に優れると共に、金属製外筒を鏡面化すれば通常の鏡面ロールと同様の取り扱いができ、金属製外筒に模様及び凹凸等を付与すればその形状を転写できるロールになるので、使い勝手がよい。
【0071】
冷却後に得られた積層シート56は、一対の引取りロール55によって引き取られる。以上の共押出、冷却、及び引取りの工程は、連続的に実施される。なお、本明細書では、主に加熱溶融状態のものを「熱可塑性樹脂積層体」と表現し、固化したものを「積層シート」と表現しているが、両者の間に明確な境界はない。
製造装置の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜設計変更が可能である。
【0072】
本発明の積層シートにおいては、ポリカーボネート樹脂(PC)を含有する基材層が1種又は2種以上の着色剤を含む。着色剤としては、カーボンブラック及び/又は有機染料が好ましい。
本発明の積層シートにおいてはまた、メタクリル樹脂(PM)を含有する表面層が好ましくは、1種又は2種以上の赤外線吸収剤を含むことができる。
本発明によれば、基材層に添加される1種又は2種以上の着色剤の種類と添加濃度、基材層の厚み、必要に応じて表面層に添加される1種又は2種以上の赤外線吸収剤の種類と添加濃度、及び表面層の厚みを調整することによって、樹脂グレージング等として好適な遮光性、透光性、赤外線遮蔽性、及び色調を有する積層シートを提供することができる。
【0073】
本発明の積層シートでは、基材層が含むポリカーボネート樹脂(PC)及び基材層が含むことができる有機染料を表面層(例えば表面層に含まれる紫外線吸収剤等)により外光から保護することができるので、耐候性試験においてポリカーボネート樹脂(PC)及び有機染料の劣化とそれによる色調の悪化を抑制することができる。
また、一般的に赤外線吸収剤を添加した層は、耐候性試験時に赤外線を吸収することにより温度が上昇し、樹脂等の劣化反応が促進される傾向がある。赤外線吸収剤を用いる場合、耐候性の良くないポリカーボネート樹脂(PC)及び必要に応じて有機染料を含む基材層ではなく、耐候性に優れるメタクリル樹脂(PM)を含む表面層に赤外線吸収剤を添加することにより、耐候性試験時の変色(着色)を抑制することができる。
以上の作用効果により、本発明の積層シートは耐候性に優れる。
【0074】
本発明の積層シートは、総厚みが3.0~10.0mmであり、基材層の厚みをT1、表面層の総厚みをT2としたときにT1>T2を充足するため、靱性に優れる。そのため、落球試験時の割れ及び亀裂の発生が抑制される。
以上説明したように、本発明によれば、色調が良好で、良好な赤外線遮蔽性を有し、耐候性に優れた積層シートとその製造方法を提供することができる。
【0075】
[用途]
本発明の積層シートは、自動車等の輸送機及び建築物等の窓部材等に使用される樹脂グレージング等として好適である。
【実施例】
【0076】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(SMA樹脂(S)の共重合組成)
SMA樹脂(S)の共重合組成は、核磁気共鳴装置(日本電子社製「GX-270」)を用い、下記の手順で13C-NMR法により求めた。
SMA樹脂(S)1.5gを重水素化クロロホルム1.5mlに溶解させて試料溶液を調製し、室温環境下、積算回数4000~5000回の条件にて13C-NMRスペクトルを測定し、以下の値を求めた。
・[スチレン単位中のベンゼン環(炭素数6)のカーボンピーク(127、134,143ppm付近)の積分強度]/6
・[無水マレイン酸単位中のカルボニル部位(炭素数2)のカーボンピーク(170ppm付近)の積分強度]/2
・[MMA単位中のカルボニル部位(炭素数1)のカーボンピーク(175ppm付近)の積分強度]/1
以上の値の面積比から、試料中のスチレン単位、無水マレイン酸単位、MMA単位のモル比を求めた。得られたモル比とそれぞれの単量体単位の質量比(スチレン単位:無水マレイン酸単位:MMA単位=104:98:100)から、SMA樹脂(S)中の各単量体単位の質量組成を求めた。
【0077】
(重量平均分子量(Mw))
樹脂のMwは、下記の手順でGPC法により求めた。溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用した。樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて試料溶液を調製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPCで測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいてMwを決定した。
【0078】
(樹脂(組成物)のガラス転移温度)
樹脂(組成物)のガラス転移温度は、樹脂(組成物)10mgをアルミパンに入れ、示差走査熱量計(「DSC-50」、株式会社リガク製)を用いて、測定を実施した。30分以上窒素置換を行った後、10ml/分の窒素気流中、一旦25℃から200℃まで20℃/分の速度で昇温し、10分間保持し、25℃まで冷却した(1次走査)。次いで、10℃/分の速度で200℃まで昇温し(2次走査)、2次走査で得られた結果から、中点法でガラス転移温度を算出した。なお、2種以上の樹脂を含有する樹脂組成物において複数のTgデータが得られる場合は、主成分の樹脂に由来する値をTgデータとして採用した。
【0079】
(全光線透過率(Tt))
得られた積層シートから50mm×50mmの試験片を切り出した。村上色彩技術研究所製「HM-150」を用いて、試験片の全光線透過率(Tt)を測定した。
(波長1500nmにおける透過率、積層シートの初期の色調)
得られた積層シートから50mm×50mmの試験片を切り出した。島津製作所製「島津紫外・可視・近赤外分光光度計UV-3600」を用いて、積層シートの300~3000nmの波長域の吸収スペクトルを測定し、波長1500nmにおける透過率を求めた。波長1500nmにおける透過率が低い程、積層シートの赤外線遮蔽性が高い。次いで、初期の色調として、JIS Z 8781-4で定義されるL*a*b*色空間の色座標(L*値、a*値、b*値)を測定した。
【0080】
(赤外線遮蔽性)
縦、横、高さの外寸がいずれも約40cmであり、肉厚が約5cmであり、上面が開口した発泡スチロール製の断熱容器を用意した。この断熱容器内において、開口部を有する上面から5cm下方の位置に底面に対して平行にブラックパネルを設置し、ブラックパネルの温度を熱電対により計測できるようにした。
得られた積層シートから450mm×450mmの試験片を切り出した。上記断熱容器の開口部を有する上面上に、目視上断熱容器との間に隙間がないように、試験片を設置した。このとき、積層シートの表面層が容器の外側になるように試験片の設置を行った。このように試験片を設置した断熱容器を気温30℃で直射日光が照りつける屋外に設置した。屋外設置を開始してから30分後にブラックパネル温度はほぼ飽和状態に達したので、そのブラックパネル温度(TBP)を記録した。この温度TBPが低い程、積層シートは赤外線遮蔽性に優れ、遮熱性に優れる。
【0081】
(耐候性)
得られた積層シートから50mm×50mmの試験片を切り出した。スガ試験機(株)製「スーパーキセノンウェザーメーターSX-75」に、表面層が光源側となるように試験片を設置した。UV照射強度:180W/m2、ブラックパネル温度:63℃、及び120分中18分間降雨の条件で、2000時間の耐候性試験を実施した。試験終了後、中性洗剤を含ませたウレタンスポンジで試験片の表面を軽く擦って洗浄した。次いで、島津製作所製「島津紫外・可視・近赤外分光光度計UV-3600」を用いて、積層シートの300~3000nmの波長域の吸収スペクトルを測定した。次いで、耐候性試験後の色調として、初期(耐候性試験前)と同様に、JIS Z 8781-4で定義されるL*a*b*色空間の色座標(L*値、a*値、b*値)を測定した。耐候性試験前後の色差(ΔE値)を求めた。ΔE値が小さい程、耐候性試験後の積層シートの変色が少なく、好ましい。
【0082】
(落球試験)
得られた積層シートから400mm×400mmの試験片を切り出した。
図4に示すように、上部に試験片61の周縁部(各辺の末端から10mmの領域)を把持する把持部62Hを有し、上面が開口した箱状のサンプルホルダ62を用意した。このサンプルホルダ62に試験片61を取り付けた。サンプルホルダ62の内底面から試験片61の下面までの高さは100mmであった。
上記のようにサンプルホルダ62に取り付けられた試験片61の上面に対して、250gの鉄球63を、試験片61の表面から鉄球63の中心までの高さが7mである位置から、垂直に自然落下させた。落球後、試験片61の外観を目視観察し、割れ又は亀裂の有無を確認した。この試験を5枚の試験片について実施し、以下の基準で評価を行った。
A(良):すべての試験片で落球後に割れ及び亀裂が見られなかった。
B(可):1枚の試験片で落球後に割れ及び/又は亀裂が見られた。
C(不良):2枚以上の試験片で落球後に割れ及び/又は亀裂が見られた。
【0083】
[材料]
用いた材料は、以下の通りである。
<ポリカーボネート樹脂(PC)>
(PC1)
住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「SDポリカ(登録商標)」(温度300℃、1.2kg荷重下でのMFR=6.7g/10分)。
【0084】
<ポリカーボネート樹脂(PC)+添加剤>
ポリカーボネート樹脂(PC1)に対して、有機染料(Macrolex Green 5B,Macrolex Violet 3R,Diaresin Orange HS)、カーボンブラック(三菱カーボンブラック製「#1000」)、及び赤外線吸収剤(住友金属鉱山製「YMDS-874」)のうち1種又は2種を添加し、二軸押出機で溶融混練することで、複数種のポリカーボネート樹脂含有組成物(いずれも温度300℃、1.2kg荷重下でのMFR=7.0g/10分)を得た。
有機染料及びカーボンブラックの添加量は、例によって、積層シートの全光線透過率(Tt)が表1-2、表2-2に記載の値となる量に調整した。
赤外線吸収剤の添加量は、例によって、積層シートの波長1500nmにおける透過率が表1-2、表2-2に記載の値となる量に調整した。
【0085】
<メタクリル樹脂(PM)>
(PM1)
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、株式会社クラレ製「パラペット(登録商標)HR」(温度230℃、3.8kg荷重下でのMFR=2.0g/10分、Tg=115℃)。
【0086】
<メタクリル樹脂(PM)+添加剤>
メタクリル樹脂(PM1)に対して、紫外線吸収剤(ADEKA製「LA-31RG」)1.00質量%及び/又は赤外線吸収剤(住友金属鉱山製「YMDS-874」)0.75質量%を添加し、二軸押出機で溶融混練することで、複数種のメタクリル樹脂含有組成物(いずれも、温度230℃、3.8kg荷重下でのMFR=2.0g/10分、Tg=115℃)を得た。
【0087】
<SMA樹脂(S)>
(S1)
国際公開第2010/013557号に記載の方法に準拠して、SMA樹脂(スチレン-無水マレイン酸-MMA共重合体、スチレン単位/無水マレイン酸単位/MMA単位(質量比)=56/18/26、Mw=150,000、Tg=138℃)を得た。
【0088】
<メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1)>
(MR1-1)
メタクリル樹脂(PM1)とSMA樹脂(S1)とを質量比30:70で混合して、メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1-1)を得た。
【0089】
<メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1)+添加剤>
メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1-1)に対して、紫外線吸収剤(ADEKA製「LA-31RG」)1.00質量%、及び/又は、赤外線吸収剤(住友金属鉱山製「YMDS-874」)0.75質量%又は1.50質量%を添加し、二軸押出機で溶融混練することで、メタクリル樹脂含有樹脂組成物を得た。
【0090】
<多層構造ゴム粒子(RP)>
(RP1)
以下の組成の共重合体からなる最内層(RP-a1)、中間層(RP-b1)、及び最外層(RP-c1)を順次形成して、3層構造のアクリル系多層構造ゴム粒子(RP1)を製造した。粒子径は0.23μmであった。
最内層(RP-a1):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=32.91/2.09/0.07、
中間層(RP-b1):アクリル酸ブチル単位/スチレン単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=37.00/8.00/0.90、
最外層(RP-c1):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位(質量比)=18.80/1.20。
【0091】
<分散用粒子(D)>
(D1)メタクリル系共重合体粒子、メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル単位(質量比)=90/10、粒子径:0.11μm。
【0092】
<多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)>
多層構造ゴム粒子(RP1)を含むラテックスと分散用粒子(D1)を含むラテックスとを固形分質量比67対33の割合で混合した。得られた混合ラテックスを-30℃で4時間かけて凍結させた。凍結したラテックスの2倍量の90℃温水に凍結ラテックスを投入し、溶解してスラリーとした後、20分間90℃に保持して脱水し、80℃で乾燥して多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)を得た。
【0093】
<メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR2)>
(MR2-1)
メタクリル樹脂(PM1)と多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)とを質量比88対12で溶融混練して、メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR2-1)を得た。
【0094】
<メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR2)+添加剤>
メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR2-1)に対して、紫外線吸収剤(ADEKA製「LA-31RG」)1.00質量%、赤外線吸収剤(住友金属鉱山製「YMDS-874」)0.75質量%又は1.50質量%、有機染料(Macrolex Green 5B,Macrolex Violet 3R,Diaresin Orange HS)、及び赤外線吸収剤として作用するインジウム錫酸化物(ITO)微粒子(三菱マテリアル電子化成製「PI-6T」)のうち1種又は2種を添加し、二軸押出機で溶融混練することで、メタクリル樹脂含有樹脂組成物を得た。
有機染料の添加量は、例によって、積層シートの全光線透過率の値が表1-2、表2-2に記載の値となる量に調整した。
赤外線吸収剤及び赤外線吸収剤として作用するITO微粒子の添加量は、例によって、積層シートの波長1500nmにおける透過率が表1-2、表2-2に記載の値となる量に調整した。
ITO微粒子も赤外線吸収剤の1種であるが、表中の「赤外線吸収剤」は住友金属鉱山製「YMDS-874」である。
【0095】
[実施例1、2]
図3に示したような製造装置を用いて積層シートを成形した。
基材層用押出機31として150mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて、ポリカーボネート樹脂(PC1)に対して有機染料及びカーボンブラックを添加した基材層用樹脂材料を溶融押出した。表面層用押出機41として65mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて、メタクリル樹脂(PM1)に対して紫外線吸収剤1.00質量%を添加した表面層用樹脂材料を溶融押出した。なお、実施例1では表面層用押出機41を2つ用意した。
溶融状態のこれらの樹脂をマルチマニホールド型ダイスを介して積層し、Tダイ51から溶融状態の3層構造(表面層1/基材層/表面層2)(実施例1)又は2層構造(表面層1/基材層
)(実施例2)の熱可塑性樹脂積層体を共押出した。この溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を、互いに隣接する第1冷却ロール52と第2冷却ロール53との間に挟み込み、第2冷却ロール53に巻き掛け、第2冷却ロール53と第3冷却ロール54との間に挟み込み、第3冷却ロール54に巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られた積層シート56を一対の引取りロール55によって引き取った。
積層構造(各層の組成と厚み)、各層の厚みの関係、総厚み、及び評価結果を表1-1、表1-2に示す。
【0096】
[実施例3~15、比較例1~6、参考例1]
各層の組成と厚みを表1-1又は表2-1に示すように変更した以外は実施例1又は実施例2と同様にして、2層構造又は3層構造の積層シートを作製した。なお、これらの例において、表に記載のない条件は共通条件とした。各例の評価結果を表1-2、表2-2に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
[結果のまとめ]
実施例1~6では、ポリカーボネート樹脂を含有する基材層に着色剤としてカーボンブラック及び有機染料を添加した。実施例7~15では、ポリカーボネート樹脂を含有する基材層に着色剤として有機染料単独又はカーボンブラックと有機染料の組合せを添加し、さらに、メタクリル樹脂を含有する表面層に赤外線吸収剤を添加した。これら実施例1~15ではいずれも、全光線透過率(Tt)が3~60%であり、1500nmにおける透過率が60%以下である積層シートが得られた。いずれの実施例の積層シートも、a*の絶対値が10.0以下かつb*の絶対値が10.0以下であり、漆黒に近い黒色を呈し、色調が良好で、外観品位に優れたものであった。いずれの実施例の積層シートも、赤外線遮蔽性の試験においてブラックパネル温度T(BP)が80℃以下であり、赤外線遮蔽性及び遮熱性が良好であった。いずれの実施例の積層シートも、耐候性試験前後の色差ΔEが小さく、耐候性が良好であった。いずれの実施例の積層シートも、落球試験結果が良好で、靱性が良好であった。
【0102】
基材層に着色剤として有機染料のみを添加し、表面層に赤外線吸収剤を添加しなかった比較例1の積層シートは、波長1500nmにおける透過率が85%と高く、赤外線遮蔽性の試験においてブラックパネル温度(TBP)が85℃と高く、赤外線遮蔽性が不良であった。基材層に添加する着色剤として有機染料を用いる場合には、カーボンブラックを併用するか、表面層に赤外線吸収剤を添加することが好ましい。
【0103】
基材層に着色剤としてカーボンブラックのみを添加し、表面層に赤外線吸収剤を添加しなかった比較例2の積層シートは、波長1500nmの透過率が45%と低く、赤外線遮蔽性の試験においてブラックパネル温度(TBP)が75℃と低く、赤外線遮蔽性が良好であった。しかしながら、b*の値が14.4と高く、色調は赤みを帯びた黒色であり、外観品位が不良であった。基材層に添加する着色剤としてカーボンブラックを用いる場合には、有機染料を併用することが好ましい。
【0104】
総厚みが3.0mm未満である比較例3~5の積層シートは、落球試験時に割れ及び/又は亀裂が生じ、靭性が不良であった。
【0105】
基材層に着色剤を添加せず、表面層に有機染料を添加した比較例6の積層シートは、耐候性試験前後の色差ΔEが大きく、耐候性が不良であった。基材層に有機染料を添加する場合には表面層に含まれる紫外線吸収剤により有機染料が保護されるのに対して、表面層に有機染料を添加する場合には、同様の効果を受けることができないと考えられる。表面層は有機染料を含まないことが好ましい。
【0106】
基材層に有機染料と赤外線吸収剤を添加し、表面層に赤外線吸収剤を添加しなかった参考例1の積層シートは、耐候性試験前後の色差ΔEが大きく、耐候性が不良であった。赤外線吸収剤を含む層は耐候性試験時に温度が上昇し、樹脂等の劣化反応が促進すると考えられる。よって、耐候性の良くないポリカーボネート樹脂又は有機染料を含む層には、赤外線吸収剤を添加しないことが好ましい。
【0107】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【0108】
この出願は、2018年7月27日に出願された日本出願特願2018-141338号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0109】
10X、10Y 積層シート
11 基材層
12、12A,12B 表面層