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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】潜像印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20230814BHJP
   B42D 25/30 20140101ALI20230814BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020046150
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021146530
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-126977(JP,A)
【文献】特開2020-037215(JP,A)
【文献】特開2014-136325(JP,A)
【文献】特開2021-003860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、色彩要素群、蒲鉾状要素群及び潜像要素群が順に積層された印刷画像を備え、
前記蒲鉾状要素群は、明暗フリップフロップ性及び光透過性を有し、盛り上がりを有する蒲鉾状要素が規則的に配列されて成り、
前記潜像要素群は、所定の色彩を有し、かつ、基画像が分割又は分割圧縮された潜像要素が規則的に配列されて成り、
前記色彩要素群は、前記基材及び前記潜像要素と異なる色彩であって、前記潜像要素とネガポジ関係にある色彩要素が規則的に配列されて成り、
前記印刷画像において、異なる色彩で隣接する領域の色差ΔEが30以下であり、前記潜像要素群に少なくとも前記色彩要素群が嵌り合って配置され、
正反射光下で観察すると、前記色彩要素群と前記潜像要素群の色彩を有する潜像画像が視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項2】
基材の少なくとも一部に、蒲鉾状要素群の上に、色彩要素群及び潜像要素群が積層された印刷画像を備え、
前記蒲鉾状要素群は、明暗フリップフロップ性を有し、盛り上がりを有する蒲鉾状要素が規則的に配列されて成り、
前記潜像要素群は、所定の色彩を有し、かつ、基画像が分割又は分割圧縮された潜像要素が規則的に配列されて成り、
前記色彩要素群は、前記基材及び前記潜像要素と異なる色彩であって、前記潜像要素とネガポジ関係にある色彩要素が規則的に配列されて成り、
前記印刷画像において、異なる色彩で隣接する領域の色差ΔEが30以下であり、前記潜像要素群に少なくとも前記色彩要素群が嵌り合って配置され、
正反射光下で観察すると、前記色彩要素群と前記潜像要素群の色彩を有する潜像画像が視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項3】
前記色彩要素群の色彩が部分的に異なることを特徴とする請求項1又は2記載の潜像印刷物。
【請求項4】
前記印刷画像は、前記色彩要素群に隣接し、前記色彩要素群と同じ色彩で形成された色彩部を備え、前記潜像要素群に、前記色彩要素群の一部と前記色彩部の一部が嵌り合って配置されたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の潜像印刷物。
【請求項5】
前記潜像要素群が、最表面に積層され、かつ、光遮断性のインキにより形成されたことを特徴とする請求項4記載の潜像印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、正反射光下の動画的な視覚効果と豊かな色彩表現を両立させた、高い真偽判別性と偽造抵抗力を備えた潜像印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の画像が切り替わる画像のチェンジ効果や、画像が動いて見える動画効果は、人目を引きやすく、偽造することが困難であることから、近年、セキュリティ印刷物の真偽判別要素として用いられる傾向にある。これらの効果を備えた代表的な技術はホログラムであり、チェンジ効果や動画効果を有する様々な形態で、銀行券、パスポート等の高度なセキュリティが要求されるセキュリティ印刷物にも貼付されて広く用いられている。
【0003】
一方、ホログラム以外にも、パララックスバリア、レンチキュラー等の公知技術を用い、わずかな角度変化で複数の画像が切り替わる画像のチェンジ効果や、画像が動いて見える動画効果を備えた真偽判別要素も既に存在している。
【0004】
しかし、ホログラムは、銀行券を代表とする各種セキュリティ印刷物に用いられているものの、一般的な印刷物と比較すると、製造工程の複雑さと高い製造コストに大きな問題がある。パララックスバリアやレンチキュラーを用いた真偽判別要素は、クリア層かレンズが必要となることから、基材がほぼプラスティックに限定される上、印刷物には一定の厚み(少なくとも150μm程度)が必要となり、厚さに制限のある印刷物には用いることができず、一定の厚みが許されるプラスティック製カード以外には採用されない傾向にある。
【0005】
以上の問題を解決するため、本出願人は、高光沢で盛り上がりを有した蒲鉾状要素群の上に透明な潜像要素群を重ね合わせて形成する技術であって、潜像要素群の中の複数の潜像画像が観察角度に応じて動いて見えたり、潜像画像がチェンジする効果を実現した偽造防止技術を既に出願している(例えば、特許文献1から特許文献3まで参照)。この技術は、蒲鉾状要素に特定の角度で光が入射した場合に、蒲鉾状要素群の画線表面のうち、入射光と直交する角度を成す画線表面のみが強く光を反射する現象を利用することで、光を反射した画線表面に重ねられた潜像要素群の一部の潜像画像のみが、反射光量や色彩の違いによって可視化される。この技術は、パララックスバリアやレンチキュラーの10分の1以下の厚さで形成することが可能であって、製造技術も従来からある製版技術と印刷技術を活用することで容易に実施可能であり、かつ、一般的な印刷物と同じコストでホログラムと同様なチェンジ効果や動画効果を備えた印刷画像を形成することができるという優れた特徴を有する。
【0006】
また、特許文献1から特許文献3までに記載の技術を応用し、正反射光下において豊かな色彩変化を生じさせることを目的とした技術が存在する(例えば、特許文献4参照)。特許文献4に記載の技術は、特許文献1から特許文献3までに記載の技術と異なり、蒲鉾状要素群及び潜像要素群の下に着色インキによって形成した色彩層を配することによって、正反射光下において出現する潜像画像に複雑で多彩な色変化を実現した技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4682283号公報
【文献】特許第5131789号公報
【文献】特許第5200284号公報
【文献】特開2019-126977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1から特許文献4までに記載の技術は、反射層や、盛り上がりを有する蒲鉾状要素の画線表面の一部が光を強く反射し、光を反射した画線表面に重ねられた潜像要素の一部が反射率や色彩の違いによってサンプリングされることで潜像画像が出現する技術である。これらの技術のうち、特許文献1から特許文献3までに記載の技術では、正反射時に出現する潜像画像の色彩は、基本的に蒲鉾状要素中に含まれた機能性材料の光学特性によって決定される。そのため、多くの場合、ラメ調やメタリック調のギラギラとした色彩表現となり、自然な色彩を表現することが難しかった。特に彩度の高い自然な色彩を表現することは困難であった。また、これらの技術において、蒲鉾状要素群を形成する機能性材料が表現できる色彩は1色のみであり、潜像要素によってもう1色を表現するのが基本的な限界であって、潜像画像が2色を越える色彩を表現することは困難であった。
【0009】
一方、特許文献4に記載の技術においては、特許文献1から特許文献3までに記載の技術と異なり、色彩層を形成することで、特殊な材料を用いることなく、正反射光下において出現する動画効果を備えた潜像画像に対して、2色を超える色彩を付与することが可能となった。しかし、色彩層の形成において、必要な色数が多くなると、潜像印刷物の作製のために印刷機の印刷ユニットの多くを占有する状態となる。通常、潜像画像を構成する模様はそれ単体で構成されることはなく、紙幣、パスポート等のセキュリティ印刷物の一部に付与されることが通例である。以上のことから、地紋や彩紋、文字等のセキュリティ印刷物に必須な構成要素も同時に印刷する必要があり、潜像画像を構成する模様以外にも多くの色数を必要とし、そのために印刷ユニットが必要となる。当然のことながら、印刷機の印刷ユニットの数には限りがあることから、特許文献4に記載の技術において色彩層の形成のために占有しなければならない印刷ユニットの数が多くなれば、セキュリティ印刷物の印刷に当たって、必然的にその他の要素に割ける色数が少なくなるという問題があった。
【0010】
また、特許文献1から特許文献4までの技術はいずれも潜像画像を構成する模様の形成に透明インキを必要とした。透明インキは目視できないため、着色インキと比較して印刷品質の管理が困難であることはもちろん、脱刷や汚れ等の発生リスクが高い。多くの場合、透明インキの品質管理を行う場合、インキ中に発光顔料を混合して発光画像として管理するのが一般的である。ただし、透明インキを発光させた場合、品質管理の面では発光画像を管理することで品質異常の発見が容易になる一方で、偽造者にとっても潜像画像を構成する潜像要素群の構成が一目瞭然となるため、偽造抵抗力が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、正反射光下で出現する潜像画像に豊かな色彩を付与することが可能であって、色数も従来の技術よりも1色少なく構成でき、さらに透明インキを用いる必要がないために品質管理が容易な潜像印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に、色彩要素群、蒲鉾状要素群及び潜像要素群が順に積層された印刷画像を備え、蒲鉾状要素群は、明暗フリップフロップ性及び光透過性を有し、盛り上がりを有する蒲鉾状要素が規則的に配列されて成り、潜像要素群は、所定の色彩を有し、かつ、基画像が分割又は分割圧縮された潜像要素が規則的に配列されて成り、色彩要素群は、基材及び潜像要素と異なる色彩であって、潜像要素とネガポジ関係にある色彩要素が規則的に配列されて成り、印刷画像において、異なる色彩で隣接する領域の色差ΔEが30以下であり、潜像要素群に少なくとも色彩要素群が嵌り合って配置され、正反射光下で観察すると、色彩要素群と潜像要素群の色彩を有する潜像画像が視認されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に、蒲鉾状要素群の上に、色彩要素群及び潜像要素群が積層された印刷画像を備え、蒲鉾状要素群は、明暗フリップフロップ性を有し、盛り上がりを有する蒲鉾状要素が規則的に配列されて成り、潜像要素群は、所定の色彩を有し、かつ、基画像が分割又は分割圧縮された潜像要素が規則的に配列されて成り、色彩要素群は、基材及び潜像要素と異なる色彩であって、潜像要素とネガポジ関係にある色彩要素が規則的に配列されて成り、印刷画像において、異なる色彩で隣接する領域の色差ΔEが30以下であり、潜像要素群に少なくとも色彩要素群が嵌り合って配置され、正反射光下で観察すると、色彩要素群と潜像要素群の色彩を有する潜像画像が視認されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の潜像印刷物は、色彩要素群の色彩が部分的に異なることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の潜像印刷物の印刷画像は、色彩要素群に隣接し、色彩要素群と同じ色彩で形成された色彩部を備え、潜像要素群に、色彩要素群の一部と色彩部の一部が嵌り合って配置されたことを特徴とする
【0016】
また、本発明の潜像印刷物は、潜像要素群が、最表面に積層され、かつ、光遮断性のインキにより形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の潜像印刷物は、複数の色彩が付与された潜像画像を表現するために、従来の技術のように蒲鉾状要素群に対して機能性材料を用いる必要がなく、市販されている一般的な着色インキで形成した色彩要素群と潜像要素群によって、豊かな色彩を表現できる。
【0018】
また、本発明の潜像印刷物は、特許文献4において、色彩層の一部を構成していた色彩背景部を備えることがなく、潜像要素群が、正反射光下で視認される潜像画像の一部の色彩を付与することができる。そのため、透明インキを必要とせず、印刷画像の形成に使用する印刷ユニットを1ユニット減らすことができる。
【0019】
また、本発明の潜像印刷物は、透明インキを用いることなく作製できることから品質管理が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の潜像印刷物を示す。
図2】本発明の潜像印刷物の印刷画像の概要図を示す。
図3】本発明の潜像印刷物の蒲鉾状要素群の構成を示す。
図4】本発明の潜像印刷物の潜像要素群の構成を示す。
図5】本発明の潜像印刷物の色彩要素群の構成を示す。
図6】本発明の潜像印刷物の層構造を示す。
図7】色彩要素群と潜像要素群の配置関係を示す。
図8】本発明の潜像印刷物の効果を示す。
図9】従来技術の色彩要素群の構成を示す。
図10】色彩要素群と潜像要素群の別の構成を示す。
図11】色彩が部分的に異なる色彩要素群の構成を示す。
図12】色彩要素群の別の構成を示す。
図13】色彩要素群に隣接して配置される色彩部の構成を示す。
図14】第2の実施の形態の潜像印刷物の層構造を示す。
図15】色彩要素群と色彩部に対する潜像要素群の配置を示す。
図16】実施例1の潜像印刷物の印刷画像の概要図を示す。
図17】実施例1の潜像要素群の構成を示す。
図18】実施例1の色彩要素群の構成を示す。
図19】実施例1の潜像印刷物の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0022】
なお、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、「異なる色彩」とは、色相、明度又は彩度のうちのどれかが異なるか、若しくは、それらの組み合わせが異なることをいう。また、本発明における「色差」とは、CIE1976L*a*b*表色系のΔEで定義するものとする。CIE1976L*a*b*表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。色差は、ある二色の色空間中における距離のことであり、CIE1976L*a*b*表色系での色差は、二色のL*の差、a*の差、及びb*の差をそれぞれ二乗して加え、その平方根をとることで求めることができる。なお、本明細書においては、白、灰、黒等の無彩色も一つの色彩として考える。
【0023】
また、本発明における「正反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、「拡散反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例に挙げると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色の強い光を発する。また、「正反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、「拡散反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
【0024】
本発明における「画線」とは、印刷画像を形成する最小単位の小さな点である網点を特定の方向に一定の距離連続して配置した点線や破線の分断線、直線、曲線、破線等を指し、「画素」とは、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を複数集めて一塊にした円や三角形、四角形を含む多角形、星形等の各種図形、又は文字、記号、数字等を指す。
【0025】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態における潜像印刷物(1)の基本的な構成について、図1から図8までを用いて説明する。図1に、本発明の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像(3)を有して成る。基材(2)は、印刷画像(3)が形成可能な面を備えていれば、材質は特に限定されるものではなく、上質紙、コート紙、プラスティック、金属等を用いることができる。その他、基材(2)の色彩や大きさについても特に制限はない。印刷画像(3)の色彩については、基材(2)と異なる色彩であれば、いかなる色彩でもよい。
【0026】
図2(a)は、印刷画像(3)の概要を示す図であり、図2(b)は、図2(a)のA-A’線における断面図である。印刷画像(3)は、図2(a)に示す色彩要素群(4)、蒲鉾状要素群(5)及び潜像要素群(6)を備えて成り、各要素群(4、5、6)が、例えば、図2(b)に示すように積層されて成る。以下、各部の詳細について順に説明する。なお、蒲鉾状要素群(5)を図面上では、黒色の縦万線で示しているが、説明上分かり易くするためであり、実際は、後述する色彩を有している。他の図面においても、蒲鉾状要素群(5)は同様である。
【0027】
まず、蒲鉾状要素群(5)について説明する。図3に、蒲鉾状要素群(5)の一例を示す。本実施の形態における蒲鉾状要素群(5)は、一定の画線幅の直線であり、一定の盛り上がり高さを有した蒲鉾のような形状を有する蒲鉾状要素(7)が、規則的に配列されて成る。本発明において、「規則的に配列する」とは、特定形状の要素が所定のピッチで特定の方向に複数配列されている状態をいう。第1の実施の形態においては、一定の画線幅(W1)を有した蒲鉾状要素(7)が、画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配列されて成る。なお、第1の実施の形態において蒲鉾状要素群(5)は、盛り上がりを有した蒲鉾状の画線の集合によって構成された例について説明するが、本発明における蒲鉾状要素(7)の形状は、画線の形状に限定されるものではなく、画素の形状としても何ら問題ない。
【0028】
本発明において蒲鉾状要素(7)は、正反射時に明度が上昇する明暗フリップフロップ性を備える必要がある。蒲鉾状要素(7)の正反射時に生じる反射光の強さは、後述する正反射時に視認される潜像画像(13)の階調表現域の高低に直結するため、蒲鉾状要素(7)の反射光量は大きいことが好ましい。明暗フリップフロップ性を備えていれば、同時にカラーフリップフロップ性を備えていても問題ない。カラーフリップフロップ性とは、正反射時に色相が変化する効果である。
【0029】
明暗フリップフロップ性は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキのワニスを用いれば、容易に備えることができる光学特性である。また、カラーフリップフロップ性を付与するためには、特殊な機能性材料をインキに配合する必要があり、これらの機能性材料としては、パール顔料、メタリック顔料、ガラスフレーク、エフェクト顔料等が存在し、機能性インキとしてはOVI(Optical Variable Ink)、CSI(Color Shifting Ink)、コレステリック液晶インキ等が存在する。ただし、本発明の色彩表現は、カラーフリップフロップ性による色彩変化に依存しない効果であるため、必ずしも優れたカラーフリップフロップ性は必要なく、パールフルオロアルキルリン酸処理等の撥水・撥油処理を施す必要はない。基本的に蒲鉾状要素群(5)には明暗フリップフロップ性があれば充分な色彩表現が可能である。
【0030】
また、印刷画像(3)の積層順の詳細については、後述するが、色彩要素群(4)の上に蒲鉾状要素群(5)が積層される場合、蒲鉾状要素群(5)は、光透過性を有する必要があり、その場合、蒲鉾状要素(7)は、完全な透明でもよいし、半透明であってもよく、蒲鉾状要素(7)を通して、その下に形成された色彩要素群(4)の色が視認できる程度に光を透過すれば、着色されていてもよい。これらの構成のうち、蒲鉾状要素(7)は、色彩要素群(4)による潜像画像(13)の色彩表現の効果を高くするために、透明な構成とすることが好ましい。なお、蒲鉾状要素群(5)を構成する蒲鉾状要素(7)同士の間に、非画線部を設ける場合は、蒲鉾状要素(7)がいかなる色彩を有し、光透過性を有していなかった場合でも、色彩要素群(4)を完全に隠蔽することはなく、本発明の蒲鉾状要素群(5)として形成してもよい。また、蒲鉾状要素群(5)の上に色彩要素群(4)が積層される場合もまた、蒲鉾状要素(7)は、光透過性を備えていなくてもよい。
【0031】
光透過性を有する蒲鉾状要素(7)は、樹脂を含んだ材料によって形成することができる。ここでいう樹脂とは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキのワニス成分にあたる、一定の光沢を有した樹脂を指す。抄き入れ、エンボス等によって基材(2)に直接凹凸を形成する構成では本発明の必須要件を満たさない。なお、本発明は、蒲鉾状要素(7)によるレンズ効果を利用するものではないため、樹脂の屈折率等に配慮する必要はない。
【0032】
蒲鉾状要素(7)の画線の盛り上がりの高さは、特に制限するものではないが流通適性を考えると1mm以上の高さを有することは好ましくない。また、蒲鉾状要素(7)をインキによって形成する場合であって、皮膜の厚さが3μm以下の場合は、潜像画像(13)の動画効果が低くなる場合がある。よって、蒲鉾状要素(7)をインキ皮膜によって形成する場合には、3μm以上1mm以下であることが好ましい。
【0033】
蒲鉾状要素群(5)を形成する場合、一定の盛り上がり高さが形成できるのであれば、蒲鉾状要素群(5)を形成する手段は特に限定されるものではない。印刷で形成する場合、スクリーン印刷、凹版印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等が適当である一方で、オフセット印刷、凸版印刷等は不向きである。また、インキジェットやレーザー方式のプリンターで厚盛りにインキを盛って蒲鉾状要素群(5)を形成しても何ら問題ない。以上が蒲鉾状要素群(5)の説明である。
【0034】
(潜像要素群)
続いて、潜像要素群(6)について図4を用いて説明する。潜像要素群(6)は、正反射時に出現する潜像画像(13)の元となる基画像(8)を、例えば、特許第5200284号公報に記載の方法で加工することで形成する。具体的には、図4(a)に示す基画像(8)を設定し、基画像(8)を第一の方向(S1)に一定の幅で切り出し、特定の縮率で第一の方向(S1)に圧縮することで、一つの潜像要素(9)を作製する。基画像(8)を切り出す位置を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1)にずらしながら、切り出しから圧縮を繰り返して潜像要素(9)を順番に作製し、それぞれの潜像要素(9)を蒲鉾状要素(7)のピッチ(P1)と同じピッチ(P1)で第一の方向(S1)に規則的に配列することで、図4(b)に示す潜像要素群(6)を作製することができる。図4(b)に示すように、隣り合う潜像要素(9)同士は、基画像(8)から取り出す際の位置をずらして切り出されるため、互いの形状が異なる。ここでは、基画像(8)として、図4(a)に示す「桜の花びら」をネガの状態で現した図柄を設定した例について説明する。
【0035】
本発明において、潜像要素群(6)は、赤、青、緑、黄等のあらゆる色彩を用いて表現してもよいが、色彩要素群(4)の色彩と異なる必要がある。また、潜像画像(13)に潜像要素群(6)の色彩を付与するために有色とする必要がある。なお、潜像要素群(6)を形成する材料は、一般的な印刷用のインクやインキを用いればよい。
【0036】
潜像要素群(6)は、蒲鉾状要素群(5)と異なり、盛り上がり高さは不要であることから、生産性の高いオフセット印刷、凸版印刷等で形成してもよい。また、インキジェット、レーザープリンター等のプリンターで形成することもできる。プリンターで潜像要素群(6)を形成する場合には、一枚一枚付与された潜像画像(13)が異なる可変印刷が可能であり、住民票、パスポート等のような個人情報付与に最適である。以上が、潜像要素群(6)の説明である。
【0037】
(色彩要素群)
続いて、色彩要素群(4)について、図5を用いて説明する。色彩要素群(4)は、図5に示すように、潜像要素群(6)とはネガポジ反転した関係の構成となっており、複数の色彩要素(10)が規則的に配列されて成る。また、色彩要素群(4)は、潜像要素群(6)の色彩とは異なるとともに、潜像画像(13)に色彩要素群(4)の色彩を付与するために有色とする必要がある。
【0038】
色彩要素群(4)の作製方法は、前述した特許第5200284号公報に記載の方法で作製した潜像要素群(6)をネガポジ反転して形成することができる。なお、図5(b)に示すように、基画像(8)とネガポジ関係にある基画像(8’)(「桜の花びら」をポジの状態で現した図柄)を設定して、特許第5200284号公報に記載の方法で、切り出しと圧縮を繰り返して色彩要素(10)を順番に作製し、それぞれの色彩要素(10)を蒲鉾状要素(7)のピッチ(P1)と同じピッチ(P1)で第一の方向(S1)に並べることで、色彩要素群(4)を作製してもよい。
【0039】
(色彩の境目の色差)
続いて、色彩要素群(4)の色彩制限に関する説明をする。実際には、印刷画像(3)における色彩制限であるが、印刷画像(3)の主たる色彩は、色彩要素群(4)、蒲鉾状要素群(5)、潜像要素群(6)の三つの要素の減法混色によって決定される。印刷画像(3)の色彩の設計の段階において、それぞれの色彩の境目において適用する色彩について考慮する必要がある。色彩の境目において、色差が大きすぎる色彩同士を隣接し、隣り合う色彩として配置した場合、本発明の効果は生じないか、その効果が著しく低下する。例えば、極めて濃い赤と完全な白を色彩の境目で隣り合わせた場合、いかに潜像要素群(6)や色彩要素群(4)の構成で工夫を凝らしたとしても、本発明の効果は生じない。そのため、色彩の境目で隣り合う色彩は、一定の色差の範囲に収める必要がある。
【0040】
具体的な数値としては、印刷画像(3)として完成した状態における色彩の境目の色差ΔEが30以下である必要がある。より具体的には、色彩要素群(4)の上に、蒲鉾状要素群(5)や潜像要素群(6)が重なり、印刷画像(3)として完成した状態で、色彩の境目で隣り合う色彩を印刷画像(3)上から拡散反射光下で測定した場合の、それぞれの色差ΔEが30以下である必要がある。本発明においては、蒲鉾状要素群(5)は着色されている場合もあり、潜像要素群(6)も着色されており、蒲鉾状要素群(5)や潜像要素群(6)の色彩の影響を受け、色彩要素群(4)単体での色彩の境目で隣り合う色彩の色差と、印刷画像(3)となった場合の色彩は大きく異なるため、本発明においては、印刷画像(3)となった場合の色彩の境目で隣り合う色彩によって定義する。
【0041】
印刷画像(3)上から測定して隣り合う色彩が色差ΔEで30を超える色差を含んだ構成となった場合、如何なる材料を用いたとしても、本発明の効果は生じない。一般的な印刷用紙を用いて印刷によって蒲鉾状要素群(5)を形成する場合は、印刷画像(3)上の色彩の境目で隣り合う色彩の色差ΔEを30以下で形成することで本発明の効果が生じ得る。
【0042】
ただし、印刷画像(3)の中に含まれる色彩であっても、色彩の境目で隣接して隣り合っていなければ、色差ΔEが30を超えていても問題ない。本発明の色彩要素群(4)の色彩設計において重要なのは、印刷画像(3)において色彩の境目で隣接して隣り合っている色彩間の色差ΔEが30を超えないことである。このため、徐々に色彩が変化するグラデーションを有効に活用すれば、隣り合う色彩間の色差を小さくでき、印刷画像(3)中に表現できる色彩表現域を拡大することができる。一方、本発明の印刷画像(3)において、色彩の境目の色差ΔEの下限については、潜像画像(13)が異なる色彩で視認される構成であれば、特に制約はないが、色彩豊かな潜像画像(13)とするために、印刷画像(3)の色彩の境目の色差ΔEが13以上であることが好ましい。以上が、色彩要素群(4)の色彩制限に関する説明である。
【0043】
色彩要素群(4)は、潜像要素群(6)と同様に、生産性の高いオフセット印刷、凸版印刷等で形成してもよい。また、インキジェット、レーザー等のプリンターで形成することもできる。プリンターで形成する場合には、一枚一枚付与された潜像画像(13)が異なる可変印刷が可能であり、住民票、パスポート等のような個人情報付与に最適である。以上が、色彩要素群(4)の説明である。
【0044】
(積層、配置)
続いて、図6に本発明の潜像印刷物(1)の印刷画像(3)の積層順について説明する。印刷画像(3)は、図6(a)に示すように、基材(2)をベースにして(図示せず)、まず色彩要素群(4)を形成し、その上に蒲鉾状要素群(5)、更にその上に潜像要素群(6)を積層した構成か、又は、図6(b)に示すように、基材(2)をベースにして(図示せず)、まず蒲鉾状要素群(5)、その上に色彩要素群(4)と潜像要素群(6)を積層した構成とする。なお、図6(a)に示す積層順の場合、蒲鉾状要素群(5)の下に形成された色彩要素群(4)の色彩を潜像画像(13)に付与するため、蒲鉾状要素(7)は、光透過性を備える構成とする必要がある。
【0045】
図7は、色彩要素群(4)と潜像要素群(6)の配置関係を示す図であり、図7に示すように、潜像要素群(6)と色彩要素群(4)が嵌り合った配置となっている。図7では、「桜の花びら」をネガの状態で現した図柄を基に作製した潜像要素群(6)と、「桜の花びら」をポジの状態で現した図柄を基に作製した色彩要素群(4)の配置関係を示したもので、この場合、潜像要素群(6)内に色彩要素群(4)が嵌り合った配置となるが、潜像要素群(6)と色彩要素群(4)の作製に用いる基画像(8、8’)をネガポジ反転した場合には、色彩要素群(4)内に潜像要素群(6)が嵌り合った配置となる(図示せず)。
【0046】
(効果)
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の効果について、図8を用いて説明する。なお、潜像印刷物(1)の効果について説明するため、一例として、潜像要素群(6)の色彩が水色で構成され、色彩要素群(4)の色彩が桃色で構成された潜像印刷物(1)について説明する。
【0047】
図8(a)のように光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光下の観察において、観察者(12)からは、色分けされた色彩要素群(4)、蒲鉾状要素群(5)及び潜像要素群(6)がそのまま可視化された不明瞭な画像が視認できる。
【0048】
続いて、図8(b)のように光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度がほぼ同じ、いわゆる正反射光下の観察において、観察者(12)には色彩要素群(4)の色彩とともに、色彩要素群(4)の色彩の境目に沿って潜像要素群(6)の色彩によって一部が鮮明に可視化されたカラーの潜像画像(13)が出現したことを確認できる。具体的には、桃色で「桜の花びら」を表す潜像画像(13)が水色の背景の中に視認できる。また、図8(c)のように正反射光下の観察において、図8(b)の観察角度からやや観察角度を変えて観察すると、桃色で「桜の花びら」を表す潜像画像(13)の第一の方向(S1)の位相が変化して見える。図8(b)から図8(c)への潜像画像(13)の位置の変化は連続的であり、観察角度の変化に伴って、動画的効果が生じる。
【0049】
以上のような効果を生じる原理について説明する。まず、図8(a)に示すような拡散反射光下においては、色彩要素群(4)、潜像要素群(6)及び蒲鉾状要素群(5)は、それぞれ着色されているため、それぞれの合成画像が視認される。この画像は、色彩要素群(4)や潜像要素群(6)の多くの画像は分断・圧縮された画像に色彩が付与された構成であるため、不明瞭な印象を与える画像となる。
【0050】
また、図8(b)から図8(c)に示すような正反射光下では、特許文献1から特許文献4までに記載の従来技術と同様に盛り上がりを有する蒲鉾状要素(7)の画線表面のうち、入射する光と直交した画線表面のみが光を強く反射し、その上に重なった潜像要素(9)の情報がサンプリングされ、強い光の明暗と潜像要素(9)の色彩による色差が生じ、潜像要素群(6)から基画像(8)に近い形状の潜像画像(13)が、潜像要素(9)の色彩によって可視化される。また、同時に色彩要素群(4)の色彩が観察されるため、潜像要素群(6)の色彩と色彩要素群(4)の色彩によってカラー化された潜像画像(13)として可視化される。
【0051】
図8(b)から図8(c)のように、正反射光下で角度を変化させると、蒲鉾状要素(7)の画線表面のうち、入射する光と直交した画線表面の位置が変化するため、サンプリングされる潜像要素群(6)の情報が変化し、結果として潜像要素群(6)の色彩で表された潜像画像(13)の位置が変化して視認される。また、潜像要素群(6)の色彩で構成された潜像画像(13)の移動に伴って、色彩要素群(4)に配された桃色の色彩もまた、潜像要素群(6)によって見える潜像画像(13)の中を移動して見える。なお、蒲鉾状要素群(5)の下にある色彩要素群(4)の色彩の境目も潜像画像(13)の輪郭と同期して動いて見える効果については、観察者の錯覚であり、光学的に生じる現象ではない。この現象については、特開2019-126977号公報に記載のとおりである。
【0052】
本実施の形態においては、色彩要素群(4)が潜像要素群(6)とネガポジ関係にあって、図7に示すように嵌り合う配置とした例について説明したが、色彩要素群(4)の構成は、これに限定するものではない。潜像要素群(6)と色彩要素群(4)の形状が若干異なるほぼ同一の形状とし、かつ、潜像要素群(6)とは若干異なる構成で色彩要素群(4)の色彩の境目を形成した場合でも、本発明の効果である動画効果が生じる構成が存在する。このような本発明の効果が生じる、色彩の境目を含んだ色彩要素群(4)の中の色彩配置を「潜像要素群(6)と形状相関性の高い色彩配置」と定義する。ここでいう色彩配置とは、色彩の境目における色彩の微細な塗り分けの形状や位置関係だけでなく、色彩要素群(4)全体におけるすべての色彩の塗り分けの形状や位置関係を含む。色彩要素群(4)と潜像要素群(6)の形状相関性の高い色彩配置については特開2019-126977号公報に記載のとおりである。また、色彩要素群(4)の基画像(8’)の存在を目立たなくする処理方法として、特開2019-126977号公報に記載のとおり、ぼかし、拡大縮小、回転、透明化等の処理を適用できる。
【0053】
(従来技術の色彩層との比較)
図9は、本発明の色彩要素群(4)と比較のため、特開2019-126977号公報に記載の色彩要素群(14)の構成を示す図である。前述のように、正反射光下で潜像画像(13)の「桜の花びら」が桃色、その背景が水色として視認されるために、従来の色彩要素群(14)は、図9に示すように、桃色の色彩要素群(14A)と、水色の色彩背景部(14B)を備える構成とする必要があったが、本発明の色彩要素群(4)は、水色の色彩背景部(14B)を備えることがなく、潜像要素群(6)自体が水色で構成される。このため、特開2019-126977号公報に記載の潜像要素群を設ける必要がないことから、印刷画像(3)を構成する色数も従来の技術よりも1色少なく構成でき、さらに透明インキを用いる必要がないために品質管理が容易になる。また、本発明は、有色の潜像要素群(6)が印刷画像(3)の最表面に積層した場合、潜像要素群(6)による色彩が鮮やかな潜像画像(13)を視認できるという効果がある。
【0054】
(潜像と色彩のネガポジ反転の例)
本実施の形態では、図4に示す潜像要素群(6)と図5に示す色彩要素群(4)を備えた印刷画像(3)の構成について説明したが、図10(a)に示すように、潜像要素群(6)は、「桜の花びら」をポジの状態で現した基画像(図示せず)を基に作製してもよく、その場合、色彩要素群(4)は、図10(b)に示すように、「桜の花びら」をネガの状態で現した基画像(図示せず)に対応した構成となる。
【0055】
(色彩要素群の色が部分的に異なる例)
図11は、色彩要素群(4)の色彩が部分的に異なる構成を示す図であり、「桜の花びら」を彩る領域(4A)が桃色で構成され、「桜の花びらの中心部」を彩る領域(4B)が黄色で構成された例を示している。図11に示す構成において、色彩要素群(4)を構成する色彩要素(10)は、図11の拡大図に示すように、領域(4A)に対応した色彩要素(10A)と領域(4B)に対応した色彩要素(10B)から成り、色彩要素(10A)と色彩要素(10B)の色彩が異なる。
【0056】
図11に示す構成の色彩要素群(4)と図4に示す潜像要素群(6)を備えた印刷画像(3)において、正反射光下で観察すると、前述した原理と同様にして、「桜の花びらの中心部」が黄色で視認される。また、正反射光下で角度を変化させると、潜像画像(13)の移動に伴って、黄色の色彩の位置も移動して見える。
【0057】
図11に示す色彩要素群(4)は、桃色と黄色の2色で構成された例について説明したが、色彩要素群(4)を構成する色の数は、これに限定されるものではなく、更に多くの色で色彩要素群(4)を構成してもよい。また、色彩要素群(4)を構成する色彩の配置は、特に限定されるものではなく、所望とする潜像画像の色彩に応じて適宜配置すればよく、例えば、「桜の花びら」を彩る領域(4A)内において、部分的に異なる色彩を配置してもよい。ただし、前述のように、印刷画像(3)において色彩の境目で隣接して隣り合っている色彩間の色差ΔEが30を超えない構成とする必要がある。
【0058】
(色彩要素群の色を基材の色とする例)
図12は、図11に示す色彩要素群(4)の構成に対して、「桜の花びらの中心部」を彩る領域(4B)を除いた構成(色を付与しない)の色彩要素群(4)の構成を示す図である。この場合、潜像印刷物(1)を正反射光下で観察した際に、潜像画像(13)の「桜の花びらの中心部」は、色彩要素群(4)の色彩が施されていないため、色彩要素群(4)の下の基材(2)の色彩が視認される。すなわち、基材(2)の色彩が、図11に示す色彩要素(10B)の役割を果たし、潜像画像(13)の色彩を表現することができる。図12に示すように、色彩要素群(4)の一部の領域に色彩を付与せず、基材(2)の色で置き換える構成は、印刷画像(3)を形成するインキを少なくでき、セキュリティ印刷物を印刷するための印刷ユニットの数の制約の課題の解決、更には、コスト削減できるという効果がある。なお、図12では、「桜の花びらの中心部」を彩る領域(4B)を除いた構成(色彩を付与しない)について説明したが、「桜の花びら」を彩る領域(4A)を除いた(色彩を付与しない)構成としてもよい。
【0059】
本実施の形態の説明において潜像要素群(6)と色彩要素群(4)に適用したのは、特許第5200284号公報に記載の動画効果が生じる構成であるが、本発明の効果とそれを実現するための構成は、これに限定されるものではない。連続的なチェンジ効果を主体としてパラパラ漫画方式で動画効果を実現する構成を適用することもできる。例えば、特許第4682283号公報や特開2016-221889号公報に記載の技術のように、相互に関連性のある図柄を次々にチェンジさせることで動画効果を実現する構成を適用することもできる。
【0060】
ただし、本発明において生じる、色彩要素群(4)の色彩の境目が動いて見える効果は、表面反射や屈折によって画像が実際にサンプリングされているわけではなく、錯覚によって生じる現象であることから、無条件にこれらの技術の画線構成に転用できるものではない。例えば、「A」から「B」に潜像画像がチェンジする効果に同期して色彩要素群(4)の色彩の境目が動いて見える効果を付与することは、困難である。これは、劇的で鮮明な潜像画像の変化に対して、錯覚が働きづらいためである。
【0061】
また、同じ動画効果であっても、モアレマグニフィケーション(モアレ拡大現象)を利用して動画効果を生じさせる特許第4844894号公報や特許第5131789号公報の画線構成を用いて、色彩要素群(4)の色彩の境目が動いて見える効果を実現することも同様に難しい。モアレ拡大現象は潜像要素群(6)の構成が第一の方向(S1)に非常に長い帯状の構成となるため、正反射光下で出現した潜像画像が背景の色彩と同化しやすく、本発明の効果である色彩の境目がぼやけて、色彩の違いを知覚しずらいためである。
【0062】
本発明の効果が高く発揮できるのは、インテグラルフォトグラフィ方式の動画効果と、パラパラ漫画方式のチェンジ効果を応用した動画効果である。特に潜像画像の動きの幅を過剰に大きく設計しないことが本発明の効果を高める上で重要である。色彩要素群(4)を用いて、パラパラ漫画方式で動画効果を実現するには、特開2019-126977号公報に記載の方法を用いればよい。
【0063】
また、本実施の形態の説明において蒲鉾状要素群(5)を構成するそれぞれの要素は、画線で形成したが、これに限定するものではない。蒲鉾状要素(7)や潜像要素(9)を画線ではなく画素とした場合の構成については、特許第4660775号公報、特許第4682283号公報、特許第5200284号公報、特許第6075244号公報及び特許第6120082号公報に記載の構成を用いればよい。また、蒲鉾状要素(7)や潜像要素(9)を直線ではなく、曲線で形成する場合には特許第6032423号公報、特許第6112357号公報の構成を用いればよい。また、より特殊な効果を実現するのであれば、特開2016-203459号公報、特開2016-210149号公報、特開2016-221889号公報及び特開2017-56577号公報等を用いてもよい。これに伴って色彩要素群(4)は、潜像要素群(6)が表すそれぞれの要素の輪郭線にそって色彩の境目で色分けした構成とすればよい。以上のように、色彩要素群(4)、蒲鉾状要素群(5)及び潜像要素群(6)の形状については、限定されるものではなく、従来の蒲鉾状要素(5)の上に潜像要素群(6)を重ねて潜像画像を発現させる技術で用いられていた構成をそのまま用いることができる。
【0064】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態の印刷画像(3)は、色彩要素群(4)と潜像要素群(6)が嵌り合うように印刷する必要があるが、第2の実施の形態は、色彩要素群(4)と潜像要素群(6)を容易に位置合わせして作製できる潜像印刷物(1)である。なお、第2の実施の形態の潜像印刷物(1)について、第1の実施の形態と異なる点について説明する。
【0065】
図13は、色彩要素群(4)と、色彩要素群(4)に隣接して配置される色彩部(16)の構成を示す図である。色彩部(16)の色彩は、色彩要素群(4)の色彩と同じであり、色彩要素群(4)を形成するインキを用いて、一つの印刷ユニットにより形成することができる。このため、図13に示す色彩要素群(4)と色彩部(16)の境界は、目視で確認することができない状態で基材(2)に形成される。なお、図13では、色彩要素群(4)と色彩部(16)の構成を簡単に説明するため、色彩要素群(4)に相当する領域を破線で示し、色彩要素群(4)に隣接して配置された色彩部(16)に相当する領域を点線で示しているが、これらの構成は、図5に示す構成の色彩要素群(4)と、それに隣接した領域に同じ色彩の領域が色彩部(16)として形成されたものとなっている。
【0066】
(積層、配置)
図14は、第2の実施の形態の潜像印刷物(1)の印刷画像(3)の積層順について説明する図である。第2の実施の形態においても、図14(a)に示すように、基材(2)をベースにして(図示せず)、まず色彩要素群(4)と色彩部(16)を形成し、その上に蒲鉾状要素群(5)、更にその上に潜像要素群(6)を積層した構成か、又は、図14(b)に示すように、基材(2)をベースにして(図示せず)、まず蒲鉾状要素群(5)、その上に色彩要素群(4)と色彩部(16)を形成し、更にその上に潜像要素群(6)を積層した構成とする。なお、潜像要素群(6)の濃度が高い場合には、蒲鉾状要素群(5)の上に潜像要素群(6)を重ね、その上に色彩要素群(4)を配置することも可能である(図示せず)。
【0067】
色彩要素群(4)と色彩部(16)に対する潜像要素群(6)の配置は、図15(a)に示すように、色彩要素群(4)と潜像要素群(6)が嵌り合った位置で重なってもよいし、図15(b)に示すように、色彩要素群(4)と潜像要素群(6)の位置がずれた位置で重っても、ずれた部分に色彩部(16)が重なっていればよい。これは、色彩要素群(4)と色彩部(16)が同じ色彩で構成されているため、どちらの色彩がサンプリングされても、正反射光下で視認される「桜の花びら」の色彩は、同じになるからである。以上のことから、第1の実施の形態のように、色彩要素群(4)と潜像要素群(6)の位置が嵌り合う必要がなく、容易に印刷画像(3)を形成することができる。
【0068】
(潜像要素群)
図14に示す積層構造の第2の実施の形態の潜像印刷物(1)において、色彩部(16)を設けることにより、正反射光下で視認される潜像画像(13)の「桜の花びら」以外の領域にも、色彩部(16)の色彩が現れてしまう。具体的には、潜像要素群(6)の濃度が低く、その下に積層されている色彩部(16)の色彩が見えてしまう場合がある。このような場合に、潜像要素群(6)は、その下に形成される色彩要素群(4)の色彩の一部を完全に覆い隠すために、光遮断性が高いことが望ましい。光遮断性を高めるには、潜像要素群(6)の色彩の濃度を高めることも一つの手段であるが、濃度が高すぎると、色彩要素群(4)の色彩も制限されるとともに、動画効果が低下する可能性がある。このため、潜像要素群(6)は低い濃度(淡い色彩)で、かつ、高い光遮断性を有することがより望ましい。この構成を満たすには、白色顔料のような、色彩を淡くし、かつ、光遮断性を高める顔料を、潜像要素群(6)を形成するインキに混合することが適している。具体的には、着色インキにチタン白を混合することで、色彩は淡く、かつ、光遮断性を高めたインキとすることが最も好ましい。
【0069】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作成した潜像印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
実施例1の潜像印刷物(1)は、図1に示すように、基材(2)上に、桃色、黄色、水色の色彩から成る印刷画像(3)を有して成る。基材(2)には、白色の微塗工紙(グラディオスCC 日本製紙製)を用いた。
【0071】
図16に実施例1の潜像印刷物(1)の構成を示す。印刷画像(3)は、色彩要素群(4)、蒲鉾状要素群(5)及び潜像要素群(6)から成り、図1に示すように、基材(2)の上に、桃色、黄色の色彩から成る色彩要素群(4)が形成され、その上に透明な蒲鉾状要素群(5)が重なり、更にその上に水色の潜像要素群(6)が重なり合わさって成る。
【0072】
蒲鉾状要素群(5)は、図3に示すように、幅0.3mmの直線を成す蒲鉾状要素(7)が、第一の方向(S1)にピッチ0.4mmで連続して配置した。
【0073】
図17は、実施例1の潜像要素群(6)の構成を示す図である。潜像要素群(6)は、「桜の花びら」をネガの状態で現した図柄を基画像として(図示せず)、特許第5200284号公報と同様の方法により、切り出しと圧縮を繰り返して各潜像要素(9)を作製した。なお、図17に示す「右下に配置された桜の花びら」を構成する潜像要素(9)は、図17に示す「左上に配置された桜の花びら」を構成する潜像要素(9)を垂直方向にミラー反転させて配置した。これは、正反射光下の観察で動画効果が生じた場合に、「二つの桜の花びら」が逆方向に動いて見えることで、動画効果を高めるためである。潜像要素群(6)の色彩は淡い水色とし、マットな水色のインキの中にチタン白顔料を5%添加することで遮蔽力を強化した。
【0074】
図18は、実施例1の色彩要素群(4)の構成を示す図である。色彩要素群(4)は、「左上の桜の花びら」に対応した第1の色彩要素群(4-1)と「右下の桜の花びら」に対応した第2の色彩要素群(4-2)から成る。第1の色彩要素群(4-1)は、部分的に色彩が異なり、破線で囲む領域の「桜の花びら」は、桃色、「桜の花びらの中心部」は、黄色の色彩とした。第2の色彩要素群(4-2)は、「桜の花びらの中心部」を黄色の色彩とし、「桜の花びら」は、色彩を付与せず、基材(2)の色彩で置き換えたものである。なお、図18は、第1の色彩要素群(4-1)と第2の色彩要素群(4-2)が形成される領域とそれらの領域の色の配置を示したもので、実際には、特許第5200284号公報と同様の方法により、基画像の切り出しと圧縮を繰り返して作成された構成となっている。また、第1の色彩要素群(4-1)に隣接して、桃色の色彩部(16)を設けた。
【0075】
色彩要素群(4)と色彩部(16)の具体的な作製手段としては、カラーレーザープリンタ(IPSIO RICOH製)を用いて、桃色は、マゼンタ10%、イエロー3%とし、黄色は、イエロー15%として印刷した。
【0076】
続いて、蒲鉾状要素群(5)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で形成した。使用したのは、透明なスクリーンインキ(UVTUB-000 帝国インキ製造株式会社製)である。このインキを用いて色彩要素群(4)の上に印刷した。それぞれの蒲鉾状要素(7)の高さは約15μmであった。さらに、潜像要素群(6)をウェットオフセット印刷によって低光沢な水色インキを用いて、蒲鉾状要素群(5)の上に形成した。
【0077】
実施例の潜像印刷物(1)の効果について図19を用いて説明する。図19(a)のように拡散反射光下において、観察者(12)からは、桃色と黄色と白色と水色で色分けされた不明瞭な画像が視認できた。続いて、図19(b)のような正反射光下の観察において、観察者(12)には、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13A)と、白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13B)が水色の背景とともに可視化されたカラーの鮮明な潜像画像(13A、13B)が視認できた。また、図19(b)の観察角度からやや角度を変えて観察すると、図19(c)に示すように、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13A)と、白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13B)の第一の方向の位相が変化した。図19(b)から図19(c)への位置の変化は連続的であり、観察角度の変化に伴って、色分けされた潜像画像(13A、13B)が逆方向にスムーズに移動する、動画的効果が生じることを確認した。
【符号の説明】
【0078】
1 潜像印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 色彩要素群
4-1 第1の色彩要素群(実施例1)
4-2 第2の色彩要素群(実施例1)
5 蒲鉾状要素群
6 潜像要素群
7 蒲鉾状要素
8 基画像
8’ 基画像
9 潜像要素
10 色彩要素
11 光源
12 観察者
13 潜像画像
13A、13B 潜像画像(実施例1)
14 従来技術の色彩要素群
16 色彩部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19