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特許7329828窒化物圧電体およびそれを用いたMEMSデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】窒化物圧電体およびそれを用いたMEMSデバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20230814BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20230814BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20230814BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/30
B81B3/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019159305
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021039995
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100132621
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 孝行
(74)【代理人】
【識別番号】100123364
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 徳子
(72)【発明者】
【氏名】アンガライニ スリ アユ
(72)【発明者】
【氏名】秋山 守人
(72)【発明者】
【氏名】上原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】平田 研二
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-121025(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111280(WO,A1)
【文献】特開2009-010926(JP,A)
【文献】特開2013-219743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/20
H10N 30/30
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Al1-X-YMgTaNで表される圧電体であって、
X+Yが1より小さく、かつXは0より大きく1より小さく、Yは0より大きく1より小さい範囲にあり、
Taは4価のものを含み、
前記4価のTaが、4価以外のTaと比較して最も多く含まれていることを特徴とする圧電体。
【請求項2】
化学式Al 1-X-Y Mg Ta Nで表される圧電体であって、
X+Yが1より小さく、かつXは0より大きく1より小さく、Yは0より大きく1より小さい範囲にあり、
Taは4価のものを含み、
X/Yが、2よりも大きく、5以下であることを特徴とする圧電体。
【請求項3】
化学式Al 1-X-Y Mg Ta Nで表される圧電体であって、
X+Yが1より小さく、かつXは0より大きく1より小さく、Yは0より大きく1より小さい範囲にあり、
Taは4価のものを含み、
X/Yが、2.5よりも大きく、4以下であることを特徴とする圧電体。
【請求項4】
X+Yが、0.0よりも大きく、0.4以下であることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の圧電体。
【請求項5】
X+Yが、0.15以上で0.35以下であることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の圧電体。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の圧電体が基板上に設けられており、前記圧電体と前記基板との間に、少なくとも1層の中間層が設けられていることを特徴とする圧電体。
【請求項7】
前記中間層は、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化チタン、窒化スカンジウム、窒化イッテルビウム、モリブデン、タングステン、ハフニウム、チタン、ルテニウム、酸化ルテニウム、クロム、窒化クロム、白金、金、銀、銅、アルミニウム、タンタル、イリジウム、パラジウムおよびニッケルの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項に記載の圧電体。
【請求項8】
前記中間層と前記圧電体との間に、前記中間層を構成する物質と前記圧電体を構成する物質とが含まれる拡散層がさらに設けられていることを特徴とする請求項6または7に記載の圧電体。
【請求項9】
請求項1~の何れか1項に記載の圧電体を用いたMEMSデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムおよびタンタルを添加した窒化アルミニウムの圧電体およびそれを用いたMEMSデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電現象を利用するデバイスは、幅広い分野において用いられており、小型化および省電力化が強く求められている携帯電話機などの携帯用機器において、その使用が拡大している。その一例として、薄膜バルク音響波共振子(Film Bulk Acoustic Resonator;FBAR)を用いたFBARフィルタがある。
【0003】
FBARフィルタは、圧電応答性を示す薄膜の厚み縦振動モードを用いた共振子によるフィルタであり、ギガヘルツ帯域における共振が可能であるという特性を有する。このような特性を有するFBARフィルタは、低損失であり、かつ広帯域で動作可能であることから、携帯用機器のさらなる高周波対応化、小型化および省電力化に寄与することが期待されている。
【0004】
このようなFBARに用いられる圧電体薄膜の圧電体材料としては、例えばスカンジウムを添加した窒化アルミニウム(特許文献1参照)や、マグネシウムおよびタンタルを添加した窒化アルミニウム(特許文献2)等が挙げられる。特にスカンジウムを添加した窒化アルミニウムは、高い圧電定数を有し、次世代の高周波フィルタへの利用に期待されている。また、圧力センサ、加速度センサ、ジャイロセンサなどの物理センサ、アクチュエータ、マイクロフォン、指紋認証センサ、振動発電機等の様々なMEMS(micro electro mechanical system)デバイスへの利用に期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-10926号公報
【文献】特許第5904591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スカンジウム(Sc)は高価な希土類元素であり、スカンジウムを添加した窒化アルミニウム(AlN)で構成された圧電体は他の物質で構成された圧電体と比較して、製造コストが高額になってしまうという問題点があった。
【0007】
また、特許文献2には、マグネシウム(Mg)およびタンタル(Ta)を添加した窒化アルミニウム(AlN)で構成された圧電体が開示されているが、数値計算に基づくものである。具体的には、原子価が2価のマグネシウム(12.5原子%)と、原子価が5価のタンタル(6.25原子%)とを窒化アルミニウムにドープさせた場合の数値計算の結果が開示されている。
【0008】
しかし、特許文献2に開示された圧電体はあくまで数値計算によるものであって、計算に用いたタンタルの原子価(価数)が正しいのかという問題点があった。詳細は後述するが、本発明に係る圧電体(Al1-X-YMgTaN)に含まれるタンタルは、5価のものだけではなく、他の価数のものも含まれており、特許文献2に開示されているものとは全く異なるものである。
【0009】
本発明は上述した事情に鑑み、何の元素も添加されていない窒化アルミニウムよりも高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体およびそれを用いたMEMSデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、上述した問題点に関して鋭意研究を続けた結果、以下のような画期的なマグネシウム(Mg)およびタンタル(Ta)を添加した窒化アルミニウム(AlN)の圧電体を見出した。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様は化学式Al1-X-YMgTaNで表される圧電体であって、X+Yが1より小さく、かつXは0より大きく1より小さく、Yは0より大きく1より小さい範囲にあり、Taは4価のものを含むことを特徴とする圧電体にある。
【0012】
ここで、「4価のもの」とは、原子価が4価のものをいう。Taの価数は、例えばX線光電子分光法(XPS)、X線吸収分光法(XANES)、TEM-EELS等により検出することができる。
【0013】
かかる第1の態様では、何の元素も添加(ドープ)されていない窒化アルミニウムよりも高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、4価のTaが、4価以外のTaと比較して最も多く含まれていることを特徴とする請求項1に記載の圧電体にある。
【0015】
かかる第2の態様では、より高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、X/Yが、2よりも大きく、5以下であることを特徴とする第1または第2の態様に記載の圧電体にある。
【0017】
かかる第3の態様では、さらに高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、X/Yが、2.5よりも大きく、4以下であることを特徴とする第1または第2の態様に記載の圧電体にある。
【0019】
かかる第4の態様では、特に高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、X+Yが、0.0よりも大きく、0.4以下であることを特徴とする第1~第4の態様の何れか1つに記載の圧電体にある。
【0021】
かかる第5の態様では、より高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0022】
本発明の第6の態様は、X+Yが、0.15以上で0.35以下であることを特徴とする第1~第4の態様の何れか1つに記載の圧電体にある。
【0023】
かかる第6の態様では、さらに高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0024】
本発明の第7の態様は、第1~第6の態様の何れか1つに記載の圧電体が基板上に設けられており、圧電体と基板との間に、少なくとも1層の中間層が設けられていることを特徴とする圧電体にある。
【0025】
かかる第7の態様では、圧電体の結晶性(結晶化度)が向上するので、より高い性能指数(d33およびg33の少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0026】
本発明の第8の態様は、中間層は、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化チタン、窒化スカンジウム、窒化イッテルビウム、モリブデン、タングステン、ハフニウム、チタン、ルテニウム、酸化ルテニウム、クロム、窒化クロム、白金、金、銀、銅、アルミニウム、タンタル、イリジウム、パラジウムおよびニッケルの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする第7の態様に記載の圧電体にある。
【0027】
かかる第8の態様では、圧電体の結晶性(結晶化度)がより向上するので、さらに高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0028】
本発明の第9の態様は、中間層と圧電体との間に、中間層を構成する物質と圧電体を構成する物質とが含まれる拡散層がさらに設けられていることを特徴とする第7または第8の態様に記載の圧電体にある。
【0029】
かかる第9の態様では、第7および第8の態様と同様に、高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する窒化物圧電体を提供することができる。
【0030】
本発明の第10の態様は、第1~第9の態様の何れか1つに記載の圧電体を用いたMEMSデバイスにある。
【0031】
ここで、「MEMSデバイス」とは、微小電気機械システムであれば特に限定されず、例えば、FBARフィルタ、圧力センサ、加速度センサ、ジャイロセンサなどの物理センサやアクチュエータ、マイクロフォン、指紋認証センサ、振動発電機、エナジーハーベスター等が挙げられる。
【0032】
かかる第10の態様では、高周波対応化、小型化および省電力化されたMEMSデバイスを提供することができる。特にMEMSデバイスが高周波フィルタの場合には、従来の高周波フィルタと比較して、低損失であり、かつ広帯域で動作可能なものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は実施形態1に係る圧電体薄膜の概略断面図である。
図2図2は各圧電体薄膜における結合エネルギー(Binding energy)と強度(Intensity)との関係を示すグラフである。
図3図3はタンタルとマグネシウムのモル比と、タンタルの4f軌道のピーク領域の割合との関係を示すグラフである。
図4図4はMg/Taの原子パーセントの比率に対する圧電定数d33との関係を示すグラフである。
図5図5はドーパント(Mg+Ta)の濃度と圧電定数d33との関係を示すグラフである。
図6図6はドーパント(Mg+Ta)の濃度と比誘電率εとの関係を示すグラフである。
図7図7はドーパント(Mg+Ta)の濃度と圧電出力定数g33との関係を示すグラフである。
図8図8はドーパント(Mg+Ta、Sc)の濃度と圧電出力定数g33との関係を示すグラフである。
図9図9は実施形態2に係る圧電体薄膜の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る圧電体の薄膜に関する実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、形状に制限はなく、薄膜状でなくてもよいのは言うまでもない。
(実施形態1)
【0035】
図1は本実施形態に係る圧電体薄膜の概略断面図である。この図に示すように、圧電体薄膜1は、基板10上に形成されている。圧電体薄膜1の厚さは特に限定されないが、0.1~30μmの範囲が好ましく、0.1~2μmの範囲が密着性に優れているので特に好ましい。
【0036】
なお、基板10は、その表面上に圧電体薄膜1を形成できるものであれば、厚さや材質等は特に限定されない。基板10としては、例えば、シリコンおよびインコネル等の耐熱合金、ポリイミド等の樹脂フィルム等が挙げられる。
【0037】
圧電体薄膜1は、化学式Al1-X-YMgTaNで表され、X+Yが1より小さく、かつXは0より大きく1より小さく、Yは0より大きく1より小さい範囲にあり、マグネシウム(Mg)およびタンタル(Ta)が添加(ドープ)された窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。そして、この圧電体薄膜1には、原子価が4価のTaが含まれている。なお、Taの原子価については、X線光電子分光法(XPS)等により検出することができる。
【0038】
このような構成の圧電体薄膜1は、何の元素も添加されていない窒化アルミニウムよりも高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する。
【0039】
ここで、Taは、4価以外の価数(例えば、3価や5価)のものが含まれていてもよいが、4価のTaの含有量が4価以外のものと比較して最も多く含まれている圧電体薄膜1が好ましい。このような構成の圧電体薄膜1は、より高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する。
【0040】
また、圧電体薄膜1に含まれるTaのうち、4価のTaの含有割合が30%以上であれば、より高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する圧電体薄膜1となり、4価のTaの含有割合が45%以上であれば、さらに高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する圧電体薄膜1となり、4価のTaの含有割合が50%以上であれば、特に高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する圧電体薄膜1となる。
【0041】
そして、上述した化学式において、X/Yが、2よりも大きく、5以下である圧電体薄膜1が好ましい。このような構成の圧電体薄膜1は、さらに高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する。
【0042】
さらに、上述した化学式において、X/Yが、2.5よりも大きく、4以下である圧電体薄膜1がより好ましい。このような構成の圧電体薄膜1は、特に高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する。
【0043】
次に、上述した化学式において、X+Yが、0.0よりも大きく、0.4以下である圧電体薄膜1がより好ましい。このような構成の圧電体薄膜1は、より高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する。
【0044】
また、上述した化学式において、X+Yが、0.15以上で0.35以下である圧電体薄膜1がさらに好ましい。このような構成の圧電体薄膜1は、さらに高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する。
【0045】
さらに、上述した化学式において、X+Yが、0.2以上で0.3以下である圧電体薄膜1が特に好ましい。このような構成の圧電体薄膜1は、特に高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)の値を有する。
【0046】
そして、これらの圧電体薄膜1を用いた高周波フィルタは、従来の高周波フィルタと比較して、低損失であり、かつ広帯域で動作することができる。その結果、携帯用機器を、より高周波対応、小型化および省電力化することができる。なお、高周波フィルタの構成は特に限定されず、公知の構成で製造することができる。
【0047】
次に、本実施形態に係る圧電体薄膜1の製造方法について説明する。圧電体薄膜1は、一般的な圧電体薄膜と同様に、スパッタ法や蒸着法等の製造方法を用いて製造することができる。具体的には、例えば、窒素ガス(N)雰囲気下、または窒素ガス(N)およびアルゴンガス(Ar)混合雰囲気下(気体圧力1Pa以下)において、基板10(例えばシリコン(Si)基板)に、タンタルで構成されたターゲット、マグネシウムで構成されたターゲットおよびアルミニウム(Al)で構成されたターゲットを同時にスパッタ処理することにより製造することができる。なお、ターゲットとして、タンタル、マグネシウムおよびアルミニウムが所定の比率で含まれる合金を用いてもよい。
【0048】
なお、基板と圧電体薄膜との間に、基板を構成する物質と圧電体薄膜を構成する物質とが含まれる層が形成されていてもよい。このような層は、例えば、基板上に圧電体薄膜を形成した後、それらに熱を加えることによって形成することができる。
(実施例)
【0049】
次の装置およびスパッタリングターゲット等を用いて、比抵抗が0.02Ωcmのn型シリコン基板上に厚さ0.4~1.5μmのタンタルとマグネシウムが添加された窒化アルミニウムの圧電体薄膜(Al1-X-YMgTaN)を作製した。
多元同時スパッタ成膜装置(エイコーエンジニアリング社製)
タンタルのスパッタリングターゲット材(濃度:99.999%)
マグネシウムのスパッタリングターゲット材(濃度:99.999%)
アルミニウムのスパッタリングターゲット材(濃度:99.999%)
ガス:窒素(純度:99.99995%以上)とアルゴンガス(純度:99.9999%以上)の混合ガス(混合比 50:50)
基板加熱温度:500℃
【0050】
成膜実験は、スパッタチャンバー内の気圧を10-6以下の高真空になるように真空ポンプで下げた後に行った。また、酸素等の不純物の混入をさけるため、ターゲット装着直後や各成膜実験の直前にターゲット表面の清浄処理を行った。
【0051】
そして、得られた各圧電体薄膜をXPS(島津/KRATOS製作所社製、AXIS―165)で測定した際の結合エネルギー(Binding energy)と強度(Intensity)との関係を図2に示し、タンタルとマグネシウムのモル比と、タンタルの4f軌道のピーク領域の割合との関係を図3に示す。これらの図から分かるように、タンタルに対するマグネシウムの原子パーセントの比率(Mg/Ta)が大きくなるにつれて、Ta5+およびTa3+の割合が小さくなるが、Ta4+の割合は大きくなることが分かった。また、1≦Mg/Ta≦3の範囲で、Ta5+およびTa3+よりもTa4+の原子数の割合が最も高いことも分かった。
【0052】
次に、図4に、ドーパント(Mg+Ta)の濃度が15~26at.%における、Mg/Taの原子パーセントの比率に対する圧電定数d33との関係を示す。この図から、圧電定数d33の値は、Mg/Taが1より大きくなるにつれて大きくなり、3.1の時に最も高くなり、Mg/Taが3.1よりも大きくなるにつれて、圧電定数d33の値は小さくなることが分かった。なお、圧電定数d33については、ピエゾメータ(アルファ株式会社製 Piezotest PM300)を用いて測定した。
【0053】
さらに、図5に、ドーパント(Mg+Ta)の濃度と圧電定数d33との関係を示す。ここで、Mg/Taの原子パーセントの比率は、3.1に固定した。この図から、ドーパント(Mg+Ta)の濃度が高くなるにつれて圧電定数d33の値が高くなり、24.3at.%の時に最も高くなることが分かった。なお、ドーパント(Mg+Ta)の濃度が0のものが、何の元素も添加されていない窒化アルミニウムの圧電定数d33の値である。
【0054】
また、図6に、ドーパント(Mg+Ta)の濃度と比誘電率εとの関係を示す。ここで、Mg/Taの原子パーセントの比率は、3.1に固定した。この図から、ドーパント(Mg+Ta)の濃度が24.3at.%になるまで、ほぼ一定の値(ε=10)となっているが、ドーパント(Mg+Ta)の濃度が24.3at.%よりも高くなるにつれて比誘電率εの値も高くなることが分かった。
【0055】
さらに、上記のデータから次の式を用いて、圧電出力定数g33を算出した。ここでε=8.8542e-12を用いた。
【0056】
【数1】
【0057】
そして、図7に、得られた圧電出力定数g33とドーパント(Mg+Ta)の濃度との関係を示す。ここで、Mg/Taの原子パーセントの比率は、3.1に固定されている。この図から、圧電出力定数g33の値は、ドーパント(Mg+Ta)の濃度が高くなるにつれて大きくなり、24.3at.%の時に最も高くなる。そして、ドーパント(Mg+Ta)の濃度が24.3at.%よりも高くなるにつれて、圧電出力定数g33の値は小さくなって行くことが分かった。なお、ドーパント(Mg+Ta)の濃度が0のものが、何の元素も添加されていない窒化アルミニウムの圧電出力定数g33の値である。
【0058】
また、図8に、各ドーパント(Mg+Ta、Sc)の濃度と圧電出力定数g33との関係を示す。この図から、各ドーパントの濃度が24.3at.%となるまでは、タンタルとマグネシウムが添加された窒化アルミニウム圧電体薄膜(Al1-X-YMgTaN)は、スカンジウムが添加された窒化アルミニウム圧電体薄膜(Al1-XScN)よりも、高い圧電出力定数g33を有することが分かった。
【0059】
以上のことから、本実施例の圧電体薄膜は、Mg/Taの原子パーセントの比率が1より大きく、4以下の範囲で、かつドーパント(Mg+Ta)の濃度が0.0よりも大きく、0.4以下の範囲で、何の元素も添加されていない窒化アルミニウムと比較して、高い性能指数(d33およびg33)の値を有することが分かった。
なお、電気機械結合係数Kは、比誘電率等を用いて算出することができる。
(実施形態2)
【0060】
上述した実施形態1では、基板上に直接圧電体薄膜を作製するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図9に示すように、基板10と、圧電体薄膜1Aとの間に中間層20を設けてもよい。
【0061】
ここで、中間層20としては、中間層20上に圧電体薄膜1Aを形成することができるものであればその材料や厚さ等は特に限定されない。中間層としては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化チタン(TiN)、窒化スカンジウム(ScN)、窒化イッテルビウム(YbN)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)、酸化ルテニウム(RuO)、クロム(Cr)、窒化クロム(CrN)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)およびニッケル(Ni)で構成された厚さ50~200nmのものが挙げられる。
【0062】
基板10上に、このような中間層20を設けることにより、圧電体薄膜1Aの結晶性(結晶化度)が向上するので、実施形態1の圧電体薄膜よりもさらに高い性能指数(d33、g33およびKの少なくとも何れか1つ)を有するタンタルとマグネシウムが添加された窒化アルミニウム圧電体薄膜(Al1-X-YMgTaN)を形成することができる。
(実施形態3)
【0063】
上述した実施形態2では、中間層上に直接圧電体薄膜が形成されるようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、中間層と圧電体薄膜との間に、中間層を構成する物質と圧電体薄膜を構成する物質とが含まれる拡散層をさらに設けてもよい。なお、拡散層は、例えば、中間層上に圧電体薄膜を形成した後、それらに熱を加えることによって形成することができる。このように拡散層を設けても、実施形態2と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0064】
1、1A 圧電体薄膜
10 基板
20 中間層

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9