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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】スパッタリングカソード
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20230814BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20230814BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C23C14/35 C
H01L21/203 S
H01L21/285 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019029828
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020132967
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(73)【特許権者】
【識別番号】515315440
【氏名又は名称】アルバック コリア リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ULVAC KOREA,LTD.
【住所又は居所原語表記】5,Hansan-Gil,Cheongbuk-Myeon,Pyeongtaek-Si,Gyeonggi-Do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】沼田 幸展
(72)【発明者】
【氏名】中牟田 雄
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】谷 典明
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュングン
(72)【発明者】
【氏名】ビョン ドンボン
(72)【発明者】
【氏名】ソ ビョンホ
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-165568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/203
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視円形のターゲットのスパッタ面とは反対側に配置されたマグネトロンスパッタ装置用のスパッタリングカソードであって、
前記ターゲットの平面に対する鉛直方向に沿って配置された第1磁気回路と第2磁気回路と、
を備え、
前記第1磁気回路及び前記第2磁気回路の少なくとも一方は、
前記ターゲットに平行に配置される支持板と、
前記支持板に固定されかつ前記鉛直方向に延びる軸線の周りを囲む第1コイルと、
前記支持板に固定されかつ前記第1コイルの外側を囲む第2コイルと、
を備え
前記第2磁気回路は、前記ターゲットと前記第1磁気回路との間に位置し、
前記第2磁気回路は、前記支持板と、前記第1コイルと、前記第2コイルとを備え、
前記第1磁気回路は、
前記第1磁気回路の平面視において第1配列線上に配列する複数の第1永久磁石と、
前記第1磁気回路の平面視において前記第1配列線を囲む第2配列線上に配列するとともに前記第1永久磁石とは異なる極性を有する複数の第2永久磁石とを備える、
スパッタリングカソード。
【請求項2】
前記ターゲットが固定されるバッキングプレートを備え、
前記バッキングプレートは、前記ターゲットが固定される面とは反対の面に溝を有し、
前記第1磁気回路及び前記第2磁気回路の少なくとも一方は、前記溝の内部に配置されている、
請求項1に記載のスパッタリングカソード。
【請求項3】
前記溝の表面には絶縁部材が形成されている、
請求項2に記載のスパッタリングカソード。
【請求項4】
前記第1磁気回路を回転させる回転機構と、
前記第1コイル及び前記第2コイルに電流を供給するコイル電源と、
前記回転機構及び前記コイル電源を制御する制御装置と、
を備える、
請求項に記載のスパッタリングカソード。
【請求項5】
前記コイル電源は、第1方向に流れる電流を前記第1コイルに供給し、前記第1方向とは反対の第2方向に流れる電流を前記第2コイルに供給する、
請求項に記載のスパッタリングカソード。
【請求項6】
前記第1磁気回路及び前記第2磁気回路によって生成される磁場の重畳によって得られる合成磁場の垂直成分がゼロとなる位置は、前記ターゲットの中心を通る、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のスパッタリングカソード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マグネトロンスパッタ装置に用いられるスパッタリングカソードが知られている(例えば、特許文献1参照)。スパッタリングカソードの一方の面には、成膜空間に面するターゲットが固定されており、他方の面には、複数の磁石が配列されている。
【0003】
スパッタリングによる成膜では、ターゲットを構成する金属の種類や構成元素に起因して、ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子の挙動が異なる。また、スパッタリングの条件の変動により、スパッタ粒子が基板に到達するまでの過程は複雑に変化する。スパッタリングによって所望の成膜分布を得るために、複数の磁石により構成された磁気回路を調整するだけでなく、成膜空間の圧力、T/S距離(ターゲットと基板との距離)、T/M距離(ターゲットと磁石との距離)、基板に対するバイアス電圧、外部磁場等を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-157820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、マグネトロンスパッタ装置によって得られる成膜分布として、±5%未満といった均一性に優れた分布が求められている。しかしながら、従来のスパッタリングカソードにおける上述した各種調整によって、均一性に優れた分布を得るためには、極めて微細な調整が必要であり、多大な手間と時間を要し、調整を容易に行うことができないという問題がある。また、磁気回路を変更する作業は、マグネトロンスパッタ装置を停止させた状態で行われる場合が多い。更に、磁気回路の設計、組立て作業において、多大な時間を要し、生産性の低下を招くという問題がある。
【0006】
さらに、スパッタリングによる±5%未満の成膜分布の形状は、複数の基板に対する連続成膜に伴う、ターゲットの形状変化、成膜空間の内部に露出するシールド部材に対する膜の付着等の不可避的な経時変化により、容易に崩れてしまう。このため、成膜分布の再現性が得られにくいという問題もある。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、以下の目的を達成するスパッタリングカソードを提供する。
1.所望の成膜分布が得られる最適な成膜条件の探査、マグネトロンスパッタ装置のメンテナンス、或いは磁気回路の組立て作業において、多大な手間と時間がかかることを避けつつ、成膜分布を容易に調整することができる。
2.連続成膜等に起因する経時変化に伴って成膜分布が変化した場合であっても、成膜分布を容易に修正することができる。
3.マグネトロンスパッタ装置の生産性の向上に寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るスパッタリングカソードは、平面視円形のターゲットのスパッタ面とは反対側に配置されたマグネトロンスパッタ装置用のスパッタリングカソードであって、前記ターゲットの平面に対する鉛直方向に沿って配置された第1磁気回路と第2磁気回路と、を備え、前記第1磁気回路及び前記第2磁気回路の少なくとも一方は、前記ターゲットに平行に配置される支持板と、前記支持板に固定されかつ前記鉛直方向に延びる軸線の周りを囲む第1コイルと、前記支持板に固定されかつ前記第1コイルの外側を囲む第2コイルとを備える。前記第2磁気回路は、前記ターゲットと前記第1磁気回路との間に位置する。前記第2磁気回路は、前記支持板と、前記第1コイルと、前記第2コイルとを備える。前記第1磁気回路は、前記第1磁気回路の平面視において第1配列線上に配列する複数の第1永久磁石と、前記第1磁気回路の平面視において前記第1配列線を囲む第2配列線上に配列するとともに前記第1永久磁石とは異なる極性を有する複数の第2永久磁石とを備える。
【0009】
本発明の一態様に係るスパッタリングカソードは、前記ターゲットが固定されるバッキングプレートを備え、前記バッキングプレートは、前記ターゲットが固定される面とは反対の面に溝を有し、前記第1磁気回路及び前記第2磁気回路の少なくとも一方は、前記溝の内部に配置されてもよい。
【0010】
本発明の一態様に係るスパッタリングカソードにおいては、前記溝の表面には絶縁部材が形成されてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係るスパッタリングカソードにおいては、前記第1磁気回路を回転させる回転機構と、前記第1コイル及び前記第2コイルに電流を供給するコイル電源と、前記回転機構及び前記コイル電源を制御する制御装置と、を備えてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係るスパッタリングカソードにおいては、前記コイル電源は、第1方向に流れる電流を前記第1コイルに供給し、前記第1方向とは反対の第2方向に流れる電流を前記第2コイルに供給してもよい。
【0015】
本発明の一態様に係るスパッタリングカソードにおいては、前記第1磁気回路及び前記第2磁気回路によって生成される磁場の重畳によって得られる合成磁場の垂直成分がゼロとなる位置は、前記ターゲットの中心を通ってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記態様によれば、所望の成膜分布が得られる最適な成膜条件の探査、マグネトロンスパッタ装置のメンテナンス、或いは磁気回路の組立て作業において、多大な手間と時間がかかることを避けつつ、成膜分布を容易に調整することができる。さらに、連続成膜等に起因する経時変化に伴って成膜分布が変化した場合であっても成膜分布を容易に修正することができる。この結果、マグネトロンスパッタ装置の生産性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るスパッタリングカソードを備えたマグネトロンスパッタ装置の概略構造を示す断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るスパッタリングカソードを構成する第1磁気回路を示す下面図であって、図1の符号Aで示された方向から見た概略構造を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るスパッタリングカソードを構成する第2磁気回路を示す上面図であって、図1の符号Aで示された方向とは反対の方向から見た概略構造を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るスパッタリングカソードを備えたマグネトロンスパッタ装置の概略構造を部分的に示す拡大断面図であって、第1磁気回路、第2磁気回路、バッキングプレート、及びターゲットを示す図である。
図5A】本発明の第1実施形態に係るスパッタリングカソードを構成する第2磁気回路のコイルに供給される電流と、コイルから発生する磁場とを説明する図である。
図5B】本発明の第1実施形態に係るスパッタリングカソードを構成する第2磁気回路のコイルに供給される電流と、コイルから発生する磁場とを説明する図であって、図5Aに示す電流方向とは逆の方向に電流がコイルに供給される場合を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るスパッタリングカソードを構成する第2磁気回路を示す平面図である。
図7A】本発明の実施例を説明する図である。
図7B】本発明の実施例を説明する図である。
図7C】本発明の実施例を説明する図である。
図7D】本発明の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係るスパッタリングカソードについて、図面を参照しながら説明する。本実施形態の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
以下の説明において、「平面視」とは、図2に示すZ方向から見た平面を意味している。このZ方向は、図1の符号Aに示された方向と同じである。また、「第1」や「第2」等の序数詞は、構成要素の混同を避けるために付しており、数量を限定しない。
【0019】
(スパッタ装置)
以下に述べる第1実施形態では、スパッタ装置の一例として、マグネトロンスパッタ装置を説明する。このマグネトロンスパッタ装置は、スパッタダウン方式による平行平板型のスパッタ装置であり、回転マグネトロンカソード(スパッタリングカソードユニット)を用いる。ここで、スパッタリングカソードユニットとは、スパッタ装置のカソード側を構成する部材の一群(ターゲットや磁気回路等)を意味する。なお、以下の説明では、マグネトロンスパッタ装置を、単に、スパッタ装置と称することがある。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るスパッタ装置100は、真空チャンバ10と、基板ステージ20と、後述するターゲットTに電力を印加するスパッタ電源30Aと、基板ステージ20に電力を印加するバイアス電源30Bと、T/S可変機構40と、真空ポンプ50と、ガス供給部60と、スパッタリングカソード70(第1磁気回路71及び第2磁気回路72)と、コイル電源73と、T/M可変機構80と、磁気回路回転機構90(回転機構)と、ターゲットTと、バッキングプレートBと、制御装置CONTとを備える。
【0021】
(真空チャンバ)
真空チャンバ10は、下部チャンバ11と上部チャンバ12とを備える。上部チャンバ12は、開口12Aを有している。この開口12Aは、後述するバッキングプレートBが設けられる部分である。真空チャンバ10及びバッキングプレートBで囲まれたスパッタ装置100の内部は、成膜空間Rである。下部チャンバ11には、ゲートバルブ(不図示)が設けられており、成膜空間Rの真空度を維持した状態でゲートバルブを開閉し、基板Sを成膜空間Rの外部と内部との間において、基板Sの搬送が可能となっている。
【0022】
(基板ステージ)
基板ステージ20は、真空チャンバ10内に配置されており、導電性部材であるアルミニウムによって形成されている。基板ステージ20は、基板載置面21を有する。この基板載置面21上には、基板Sが載置される。本実施形態において、基板Sの直径は、例えば、200mmである。
【0023】
(スパッタ電源)
スパッタ電源30Aは、例えば、直流電源であり、真空チャンバ10の外部に設けられており、後述するバッキングプレートBに電気的に接続されている。なお、スパッタ電源30Aとしては、直流/交流等の公知の電源を採用することができる。また、スパッタ電源30Aは、異なる周波数の電力を重畳させてバッキングプレートBに供給することも可能である。
【0024】
(バイアス電源)
バイアス電源30Bは、例えば、真空チャンバ10の外部に設けられており、不図示のマッチングボックス及び配線を通じて真空チャンバ10内に設けられた基板ステージ20に電気的に接続されている。バイアス電源30Bは、13.56MHzといった公知の高周波電力を基板ステージ20に供給する。なお、バイアス電源30Bは、例えば、2Mzといったバイアス周波数の電力を基板ステージ20に供給することも可能である。
【0025】
なお、上述したスパッタ電源30A及びバイアス電源30Bの構成は、直流電源(DC)や高周波電源(RF)に限定されない。DC、RF以外にも、Pulse-DC、DC+RF等を採用することができる。
【0026】
(T/S可変機構)
T/S可変機構40は、基板ステージ20を上下に移動させることで、後述するターゲットTと基板Sとの距離(T/S距離)を調整する。T/S可変機構40の駆動機構としては、ステッピングモータ等を用いた公知の機構が用いられる。
【0027】
(真空ポンプ)
真空ポンプ50は、不図示の圧力調整弁及び配管を介して、真空チャンバ10に形成された排気口に接続されている。真空ポンプ50を駆動することで、真空チャンバ10内を真空状態に維持することが可能であり、プロセス終了後に真空チャンバ10内に残存するガスを除去することが可能である。また、プロセスガスが真空チャンバ10内に供給されている状態で真空ポンプ50及び圧力調整弁が駆動することで、プロセス条件に応じて真空チャンバ10内の圧力を調整することが可能である。
【0028】
(ガス供給部)
ガス供給部60は、不図示のマスフローコントローラ及び配管を介して、真空チャンバ10に形成されたガス供給口に接続されている。ガス供給部60から真空チャンバ10に供給されるガスとしては、スパッタリングに用いられる公知のガスが用いられる。例えば、アルゴン、酸素、或いは窒素が用いられる。
【0029】
(T/M可変機構)
T/M可変機構80は、第1磁気回路71を上下に移動させることで、ターゲットTと第1磁気回路71との距離(T/M距離)を調整する。T/M可変機構80の駆動機構としては、ステッピングモータ等を用いた公知の機構が用いられる。
【0030】
(磁気回路回転機構)
磁気回路回転機構90は、第1磁気回路71がターゲットTに平行に支持された状態で、スパッタリングが行われている間に第1磁気回路71を回転させる。磁気回路回転機構90の駆動機構としては、モータ等を用いた公知の機構が用いられる。磁気回路回転機構90の回転数は、適宜調整可能である。
【0031】
(コイル電源)
コイル電源73は、後述する第2磁気回路72を構成する第1コイルC1及び第2コイルC2に電力を供給する。第1コイルC1及び第2コイルC2の各々について、コイル電源73は、電流方向と電流量とを制御することが可能である。
具体的に、コイル電源73は、第1方向に流れる電流を第1コイルC1に供給し、第1方向とは反対の第2方向に流れる電流を第2コイルC2に供給することが可能である。換言すると、第1コイルC1に正電流(第1方向)が供給され、第2コイルC2に負電流(第2方向)が供給されてもよい。反対に、第1コイルC1に負電流(第1方向)が供給され、第2コイルC2に正電流(第2方向)が供給されてもよい。
【0032】
また、コイル電源73は、第2コイルC2に供給される電流量(絶対値)よりも高い電流量を第1コイルC1に供給することが可能である。反対に、コイル電源73は、第1コイルC1に供給される電流量(絶対値)よりも高い電流量を第2コイルC2に供給することも可能である。
【0033】
(制御装置)
制御装置CONTは、スパッタ装置100を制御する装置である。制御装置CONTは、ターゲットTに電力を印加するスパッタ電源30A、基板ステージ20に電力を印加するバイアス電源30B、T/S可変機構40、真空ポンプ50、ガス供給部60、T/M可変機構80、磁気回路回転機構90、及びコイル電源73に電気的に接続されている。制御装置CONTによって、スパッタ装置100を構成する各種の部材、装置、機構の動作が制御される。
【0034】
(バッキングプレート)
バッキングプレートBは、上部チャンバ12の開口12Aに配置されており、フランジF(バッキングプレート取り付けフランジ)及びシール部材12Sを介して上部チャンバ12に固定されている。バッキングプレートBは、下面B1と上面B2とを有する。下面B1は、成膜空間Rに面しており、ターゲットTが固定される面である。上面B2は、下面B1の反対側に位置し、後述する第1磁気回路71の構成要素が配置される空間に面している。
【0035】
なお、上面B2には、溝が形成されてもよい。この場合、第2磁気回路72を構成する支持板72Bの少なくとも一部が溝の内部に配置されてもよい。換言すると、バッキングプレートBに支持板72Bが埋め込まれた構成が採用されてもよい。さらに、この構成においては、バッキングプレートBと支持板72Bとを電気的に絶縁するために、溝の内部において、溝の表面に絶縁部材が形成されてもよい。これにより、スパッタ時に発生する高電圧が第2磁気回路72に影響を与えることを防止することができる。
ここで、絶縁部材は、バッキングプレートBに形成された溝に配置された絶縁フィルムや絶縁膜であってもよい。また、絶縁部材は、バッキングプレートBに形成された溝の表面に対して表面処理(絶縁処理)を施すことによって得られた絶縁膜であってもよい。
【0036】
図1は、フランジFと上面B2とによって囲まれた凹形状空間の内部に、第2磁気回路72が配置された例を示している。第1磁気回路71及び第2磁気回路72が凹形状空間の内部に配置されてもよい。
【0037】
(ターゲット)
ターゲットTは、平面視において、円形形状を有する。ターゲットTを構成する金属の種類は特に限定されない。金属材料は、単一材料であってもよいし、複数の材料が所定の比率で含有された合金であってもよい。ターゲットTは、成膜空間R内において基板Sに対向するスパッタ面TSを有する。
【0038】
(スパッタリングカソード)
スパッタリングカソード70は、バッキングプレートBの上面B2に面しており、成膜空間Rの外側に配置されている。換言すると、スパッタリングカソード70は、スパッタ面TSとは反対側に配置されている。スパッタリングカソード70は、第1磁気回路71と第2磁気回路72とを備える。
第1磁気回路71及び第2磁気回路72は、ターゲットTの平面に対する鉛直方向に沿って配置されている。第2磁気回路72は、ターゲットTと第1磁気回路71との間に位置する。本実施形態では、第1磁気回路71は、ターゲットTの中心を回転中心として回転する永久磁石を備える。
一方、第2磁気回路72は、第1磁気回路71とは異なり、回転しない。第2磁気回路72は、コイル電源73に電気的に接続された第1コイルC1(電磁石)及び第2コイルC2(電磁石)を備える。
【0039】
(第1磁気回路)
図2に示すように、第1磁気回路71は、磁気回路回転機構90に機械的に接続しており、磁気回路回転機構90の駆動によって、ターゲットTの中心を回転中心として回転する。第1磁気回路71は、固定板71Bと、複数の第1永久磁石PM1と、複数の第2永久磁石PM2とを備える。
【0040】
(固定板)
固定板71Bは、板状部材であり、ターゲットTに平行に配置されている。本実施形態において、固定板71Bの直径は、例えば、φ300mmである。なお、固定板71Bの直径は、この大きさに限定されない。
【0041】
(第1永久磁石、第2永久磁石)
固定板71Bの平面視において、固定板71B上には、複数の第1永久磁石PM1と複数の第2永久磁石PM2とが固定されている。
ここで、「固定板71Bの平面視」とは、第1磁気回路71を符号Aから見た平面を意味しており、第1磁気回路71の下面図に相当する。換言すると、ターゲットTから見た平面図と称することもできる。
【0042】
ターゲットTから見て、第1永久磁石PM1と第2永久磁石PM2とは、極性が互いに異なっている。すなわち、第1永久磁石PM1がN極であれば、第2永久磁石PM2はS極であり、第1永久磁石PM1がS極であれば、第2永久磁石PM2はN極である。
また、複数の第1永久磁石PM1と複数の第2永久磁石PM2の配列に関し、互いに同じ極性を有する複数の磁石が連続的な線を形成するように並んでいる。複数の第2永久磁石PM2の配列は、複数の第1永久磁石PM1の配列の外側に位置している。
【0043】
複数の第1永久磁石PM1の配列は、第1磁石パターンP1(第1配列線)を形成している。第1磁石パターンP1は、略C字状の第1曲線CV1と、固定板71Bの中心の近くに位置する点T1を有する略V字状の第1線L1との組み合わせにより形成されている。第1曲線CV1と第1線L1とは、2つの第1端点PE1で接続されている。
換言すると、第1磁石パターンP1は、ハート形状あるいは円形形状から部分的にV字形状が除去された凹部形状を有するパターンである。
このような第1磁石パターンP1上に、複数の第1永久磁石PM1は、配列している。
【0044】
複数の第2永久磁石PM2の配列は、第2磁石パターンP2(第2配列線)を形成している。第2磁石パターンP2は、第1磁石パターンP1の外側に位置し、かつ、第1磁石パターンP1を囲むパターンである。
第2磁石パターンP2は、略C字状の第2曲線CV2と、点T1よりも外側に位置する点T2を有する略V字状の第2線L2との組み合わせにより形成されている。第2曲線CV2と第2線L2とは、2つの第2端点PE2で接続されている。
換言すると、第2磁石パターンP2は、ハート形状あるいは円形形状から部分的にV字形状が除去された凹部形状を有するパターンである。
このような第2磁石パターンP2上に、複数の第2永久磁石PM2は、配列している。
【0045】
(第2磁気回路)
図3から図5Bに示すように、第2磁気回路72は、支持板72Bと、支持板72Bに固定された第1コイルC1及び第2コイルC2とを備える。
【0046】
(支持板)
支持板72Bは、板状部材であり、ターゲットTに平行に配置されている。支持板72Bの材料としては、銅が採用されている。支持板72Bの表面には、円環状の溝が形成されている。この溝に嵌合するように、第1コイルC1及び第2コイルC2は、支持板72Bに固定されている。第1コイルC1及び第2コイルC2は、アルミニウム等の金属で構成されたボビン(不図示)に巻回された状態で、支持板72Bの溝部に固定されている。
なお、必要に応じて、支持板72Bを冷却する冷却媒体が流動する流路が支持板72Bに設けられてもよい。
【0047】
(第1コイル、第2コイル)
第1コイルC1は、Z方向(ターゲットTの平面に対する鉛直方向)に延びる軸線AXの周りを囲む巻き線で構成されている。第2コイルC2は、第1コイルC1の外側を囲むように位置し、軸線AXの周りを囲む巻き線で構成されている。
第1コイルC1及び第2コイルC2を構成する巻き線は、例えば、複数の周回でボビンに巻回された構造を有する。巻き線は、公知の導線である。
【0048】
第1コイルC1の端子(巻き線の端部)は、第1ケーブルCB1を介して、コイル電源73に電気的に接続されている。第2コイルC2の端子(巻き線の端部)は、第2ケーブルCB2を介して、コイル電源73に電気的に接続されている。
この構成において、コイル電源73は、第1コイルC1及び第2コイルC2に電力を供給することが可能である。
【0049】
次に、図5A及び図5Bを参照して、第1コイルC1及び第2コイルC2の各々に流れる電流と、発生される磁場について説明する。
なお、図5A及び図5Bでは、コイルが巻回されているボビンは省略されており、コイルのみが示されている。また、図5A及び図5Bでは、コイル電源73と第1コイルC1とが接続されている構造が示されているが、コイル電源73と第2コイルC2とが接続される構造も、図5A及び図5Bに示す構造と同様である。
【0050】
コイル電源73は、第1コイルC1及び第2コイルC2の各々に対して電流(電力)を供給する。第1コイルC1及び第2コイルC2の各々について、コイル電源73が電流方向と電流量とを制御することで、第2磁気回路72から発生する磁場の強度及び方向を自在に制御することが可能となる。
このため、図4に示すように第1磁気回路71と第2磁気回路72とが対向配置されたスパッタリングカソード70の構造において、第2磁気回路72から発生する磁場と第1磁気回路71から発生する磁場とを重畳させることが可能となり、磁場の重畳によって得られる合成磁場(重畳磁場)の分布を制御することが可能となる。
【0051】
特に、スパッタリングカソード70によって生成される磁場の重畳によって得られる合成磁場の垂直成分がゼロとなる位置がターゲットTの中心を通るように、合成磁場を制御することが可能となる。
スパッタリングカソード70によって生じる磁場の垂直成分について説明すると、第1磁気回路71及び第2磁気回路72によって、ターゲットTのスパッタ面TSに面する空間内に磁場が生成される。この磁場は、ターゲットTの中心と外周との間の領域における磁場の垂直成分がゼロとなる位置を通る線が無端状に閉じるように、ターゲットTから漏洩する。
【0052】
次に、以上のように構成された第1磁気回路71を備えたスパッタ装置100の作用について説明する。
スパッタ装置100の成膜空間Rにおいては、予め、真空ポンプ50の駆動によって、所定の真空度が維持されている。その後、ゲートバルブが開いた状態で、成膜空間Rの外部から内部に向けて不図示の搬送アームが基板Sを搬送し、基板ステージ20の基板載置面21上に基板Sが載置される。
【0053】
この状態で、T/S可変機構40及びT/M可変機構80が駆動し、ターゲットTと基板Sとの距離が調整され、ターゲットTと第1磁気回路71との距離が調整される。次に、磁気回路回転機構90が第1磁気回路71を回転させ、コイル電源73は第1コイルC1及び第2コイルC2に電流を供給し、第2磁気回路72から磁場が発生する。これにより、第2磁気回路72から発生する磁場と第1磁気回路71から発生する磁場とが重畳する。
【0054】
さらに、ガス供給部60からスパッタガスが成膜空間Rの内部に導入され、圧力調整弁を制御することで成膜空間R内の圧力が所定圧力に調整される。この状態で、ターゲットTに電気的に接続されたスパッタ電源30Aから所定の電力がターゲットTに印加され、真空チャンバ10内にプラズマが発生し、スパッタリングが行われる。また、この際、バイアス電源30Bから所定の電力が基板ステージ20に印加されてもよい。
【0055】
以上説明したように、本実施形態に係るスパッタ装置100によれば、コイル電源73から第1コイルC1及び第2コイルC2への電流を供給により第2磁気回路72から磁場を容易に発生することができ、この磁場の分布を調整することができる。このため、第1磁気回路71及び第2磁気回路72によって生成される磁場を重畳させ、合成磁場を自在に変化させることができる。
【0056】
例えば、プラズマの発生に伴ってスパッタリングが行われている状態で、第1磁気回路71と第2磁気回路72による合成磁場を調整することができる。また、スパッタリングが行われていない状態においても、合成磁場を調整することができる。
特に、所望の成膜分布が得られる最適な成膜条件の探査する際に、第1コイルC1及び第2コイルC2に対する供給電流(電流方向、電流量)をパラメータとする条件でスパッタリングを行うことで、第2磁気回路72の最適条件を容易に探査することができる。
【0057】
スパッタ装置100によって得られる成膜分布として±5%未満といった均一性に優れた分布が求められている場合でも、第1コイルC1及び第2コイルC2に対する供給電流を微細に調整することができるので、均一性に優れた成膜分布を容易に得ることができる。
また、このような微細な調整においては、多大な手間や時間が不要となる。また、第1コイルC1及び第2コイルC2に対する供給電流の調整においては、スパッタ装置100を停止させる必要がないため、組立て作業やメンテナンスにおいて多大な時間を要することがなく、スパッタ装置100の生産性の向上に寄与する。
【0058】
従来では、スパッタリングによる成膜分布の形状は、複数の基板に対する連続成膜に伴って、ターゲットTの形状変化、成膜空間Rの内部に露出する部材に対する膜の付着等の不可避的な経時変化により、容易に崩れてしまう。特に、連続成膜において±5%未満といった成膜分布を維持することは難しく、成膜分布の再現性が得られにくい。
これに対し、本実施形態に係るスパッタ装置100によれば、第1コイルC1及び第2コイルC2に対する供給電流の微調整(電流方向、電流量の調整)が可能であるため、合成磁場を調整することができ、成膜分布を容易に修正することができる。
【0059】
さらに、ターゲットTの非エロージョンが発生する範囲を含むことなく成膜分布を変化させることができる。このため、非エロージョンを起因とするターゲットからの発塵を抑制することもできる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るスパッタリングカソードについて、図面を参照しながら説明する。図6は、本実施形態に係るスパッタリングカソードを構成する第2磁気回路を示す平面図である。図6において、第1実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。
第2磁気回路を構成するコイルの個数の点で、第2実施形態は上述した第1実施形態と相違する。
【0061】
図6に示す第2磁気回路72Aは、支持板72Bに4つのコイルが固定された構造を有する。すなわち、第2磁気回路72Aは、軸線AXの周りを囲む第1コイルC1と、第1コイルC1の外側を囲むように位置する第2コイルC2と、第2コイルC2の外側を囲むように位置する第3コイルC3と、第3コイルC3の外側を囲むように位置する第4コイルC4とを備える。
第1コイルC1、第2コイルC2、第3コイルC3、及び第4コイルC4は、ケーブルを介して、コイル電源73に接続されている。コイル電源73は、上記4つのコイルの各々の電流方向と電流量とを制御することが可能である。
【0062】
本実施形態によれば、第2磁気回路72Aを構成する4つのコイルによって生成される磁場と、第1磁気回路71によって生成される磁場とを重畳させ、これによって合成磁場を得ることが可能となる。4つのコイルの電流方向と電流量を制御することで合成磁場を自在に変化させることができる。2つのコイルの電流を制御する第1実施形態よりも、電流が制御されるコイルの数が多いので、より細かく、合成磁場の微調整を行うことができる。
上述した第1実施形態及び第2実施形態では、コイルの個数が2つ又は4つの場合について説明したが、コイルの個数は、2つ以上であればよい。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【0064】
なお、電磁石を構成する第1コイルC1及び第2コイルC2は、第1磁気回路71及び第2磁気回路72の少なくとも一方に設けられていればよい。第1コイルC1及び第2コイルC2は、第1磁気回路71に設けられてもよいし、第1磁気回路71及び第2磁気回路72の両方に設けられてもよい。
【0065】
上述した実施形態では、第1コイルC1及び第2コイルC2を備える第2磁気回路72は、永久磁石を備える第1磁気回路71とターゲットTとの間に位置しているが、永久磁石を備える第1磁気回路71は、第1コイルC1及び第2コイルC2を備える第2磁気回路72とターゲットTとの間に位置してもよい。
【0066】
ただし、この構成では、第2磁気回路72は、ターゲットTから離れた位置に配置されるため、第2磁気回路72によって生成される磁場が成膜空間Rにおけるスパッタ面TSに達しない恐れがあり、この場合、第1磁気回路71及び第2磁気回路72によって生成される磁場の重畳によって得られる合成磁場を利用したスパッタリングが実現されないことが考えられる。
第1磁気回路71及び第2磁気回路72による合成磁場を成膜空間Rにおけるスパッタ面TS上に発生させるために、第2磁気回路72をターゲットTの近くに配置する構成、すなわち、第1磁気回路71とターゲットTとの間に第2磁気回路72を配置することが好ましい。
【0067】
上述した実施形態では、第1磁気回路71が備える複数の第1永久磁石PM1及び複数の第2永久磁石PM2は、ハート形状等の配列パターンに沿って配置されているが、本発明は、この構成に限定されない。
第1磁気回路71及び第2磁気回路72によって生成される磁場の重畳によって得られる合成磁場を利用したスパッタリングによって、所望の成膜分布が得られれば、複数の第1永久磁石PM1及び複数の第2永久磁石PM2の配列パターンは限定されない。
【実施例
【0068】
次に、図7Aから図7Dを参照し、本発明の実施例を説明する。
図7Aから図7Dにおいて、上記の実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。
図7Aから図7Dに示す実験結果は、上記の第1実施形態に係るスパッタリングカソード70(第1磁気回路71及び第2磁気回路72)を備えるスパッタ装置を用いてスパッタリングを行って得られた膜厚分布を示している。
【0069】
図7Aは、第1コイルC1の電流値として0A、+5、-5Aを設定し、かつ、第2コイルC2の電流値として0Aを設定した条件(3条件)においてスパッタリングを行い、得られた膜厚分布を示している。
【0070】
図7Bは、第1コイルC1の電流値として0Aを設定し、かつ、第2コイルC2の電流値として0A、+5、-5Aを設定した条件、すなわち、3条件においてスパッタリングを行い、得られた膜厚分布を示している。
【0071】
図7Cは、第1コイルC1の電流値として0Aを設定して第2コイルC2の電流値として0Aを設定した第1条件、第1コイルC1の電流値として+5Aを設定して第2コイルC2の電流値として+5Aを設定した第2条件、及び第1コイルC1の電流値として-1.5Aを設定して第2コイルC2の電流値として-1.5Aを設定した第3条件、すなわち、3条件においてスパッタリングを行い、得られた膜厚分布を示している。
【0072】
図7Dは、第1コイルC1の電流値として+5Aを設定して第2コイルC2の電流値として0Aを設定した第1条件、第1コイルC1の電流値として+5Aを設定して第2コイルC2の電流値として-1.5Aを設定した第2条件、第1コイルC1の電流値として+5Aを設定して第2コイルC2の電流値として-0.5Aを設定した第3条件、及び第1コイルC1の電流値として+5Aを設定して第2コイルC2の電流値として-1.0Aを設定した第4条件、すなわち、4条件においてスパッタリングを行い、得られた膜厚分布を示している。
【0073】
第1コイルC1及び第2コイルC2の電流条件を除いた実験条件は、以下のとおりである。
・使用装置:SME-200J(株式会社アルバック社製)
・ターゲット材料:Al-1.0wt%Si
・ターゲットサイズ:φ305mm/厚さ6mm
・第1磁気回路71の形状:図2に示す構造
・T/M距離(ターゲットTと第1磁気回路71との距離):50mm
・T/S距離(ターゲットTと基板ステージ20との距離):52mm
・放電時間:90秒
・放電開始の際の真空チャンバ10内の圧力:6.0×10-4Pa未満
・バイアス電源30Bの電力:3.0kW
・ガス種:Ar
・ガス供給量:60sccm
・真空チャンバ10内の圧力:0.83Pa
・成膜対象である基板Sの直径:200mm
・第1磁気回路71と第2磁気回路72との間の距離D1(図4参照):5mm
・第1コイルC1の半径:38mm
・第2コイルC2の半径:90mm
・コイル(第1コイルC1及び第2コイルC2)の厚さD2(図4参照):15mm
・バッキングプレートBの厚さD3(図4参照):24mm
・膜厚の測定方法:XRF分析
【0074】
図7Aから図7Dにおいて、横軸は、基板の中心(0mm)から端部(100mm)までの位置(mm)を示しており、縦軸は、基板の中心における膜厚を1とした場合の膜厚比率を示している。
ここで、縦軸が示す数値についてより具体的に説明する。まず、第1コイルC1の電流値として0Aを設定し、かつ、第2コイルC2の電流値として0Aを設定した条件で成膜を行い、基板の中心(0mm)から端部(100mm)までの複数の位置における膜厚を測定し、複数の膜厚測定値を得る。複数の膜厚測定値の各々を、基板の中心における膜厚測定値(リファレンス値)で割ることによって得られた値が膜厚比率である。換言すると、基板の中心における膜厚測定値を用いて、膜厚測定値を規格化することによって得られた値が膜厚比率である。
【0075】
図7Aから図7Dが示す実験結果から、以下の点が明らかとなった。
(1)図7Aに示すように、第1コイルC1の電流値を変化させた結果、電流値が-5Aである場合には山型プロファイル(基板の中心の膜厚比率が大きく、基板の端部における膜厚比率が小さい)が得られ、電流値が+5Aである場合には谷型プロファイル(基板の中心の膜厚比率が小さく、基板の端部における膜厚比率が大きい)が得られることが明らかとなった。
(2)図7Bに示すように、第2コイルC2の電流値を変化させた結果、電流値が-1.5Aである場合には山型プロファイル(基板の中心の膜厚比率が大きく、基板の端部における膜厚比率が小さい)が得られ、電流値が+5Aである場合には谷型プロファイル(基板の中心の膜厚比率が小さく、基板の端部における膜厚比率が大きい)が得られることが明らかとなった。特に、第1コイルC1の電流値が+5Aである図7Aに比べて、第2コイルC2の電流値が+5Aである場合には、基板の端部における膜厚比率がより大きくなることが明らかとなった。
(3)図7Cに示すように、第1コイルC1及び第2コイルC2の両方の電流値を変化させた結果、第1コイルC1及び第2コイルC2の両方の電流値が-1.5Aである場合には山型プロファイル(基板の中心の膜厚比率が大きく、基板の端部における膜厚比率が小さい)が得られ、第1コイルC1及び第2コイルC2の両方の電流値が+5Aである場合には谷型プロファイル(基板の中心の膜厚比率が小さく、基板の端部における膜厚比率が大きい)が得られることが明らかとなった。また、第2コイルC2の電流値が+5Aである図7Bに比べて、第1コイルC1及び第2コイルC2の両方の電流値が+5Aである場合には、基板の端部における膜厚比率がより大きくなることが明らかとなった。
(4)図7Aから図7Cの結果から、第1コイルC1及び第2コイルC2の電流値の絶対値を互いに異ならせたり、電流値の正負(図5A及び図5B参照)を変えたりすることで、均一な膜厚比率を実現する第1コイルC1及び第2コイルC2の電流条件を発見できる可能性があることが明らかとなった。
(5)図7Dに示すように、第1コイルC1の電流値が+5Aであり、かつ、第2コイルC2の電流値が-1.0Aである場合に、均一な膜厚比率を実現できることが明らかとなった。すなわち、第1コイルC1に正の電流値を供給し、第2コイルC2に負の電流値を供給し、第1コイルC1の電流値の絶対値が第2コイルC2の電流値の絶対値よりも大きくすることで、均一な膜厚比率が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、所望の成膜分布が得られる最適な成膜条件の探査、マグネトロンスパッタ装置のメンテナンス、或いは磁気回路の組立て作業において、多大な手間と時間がかかることを避けつつ、成膜分布を容易に調整することができる磁気回路を備えたスパッタリングカソードに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 真空チャンバ、11 下部チャンバ、12 上部チャンバ、12A 開口、12S シール部材、20 基板ステージ、21 基板載置面、30A スパッタ電源、30B バイアス電源、40 T/S可変機構、50 真空ポンプ、60 ガス供給部、70 スパッタリングカソード、71 第1磁気回路、71B 固定板、72、72A 第2磁気回路、72B 支持板、73 コイル電源、80 T/M可変機構、90 磁気回路回転機構、100 スパッタ装置、AX 軸線、B バッキングプレート、B1 下面、B2 上面、C1 第1コイル、C2 第2コイル、C3 第3コイル、C4 第4コイル、CB1 第1ケーブル、CB2 第2ケーブル、CONT 制御装置、CV1 第1曲線、CV2 第2曲線、F フランジ、L1 第1線、L2 第2線、P1 第1磁石パターン、P2 第2磁石パターン、PE1 第1端点、PE2 第2端点、PM1 第1永久磁石、PM2 第2永久磁石、R 成膜空間、RF 高周波電源、S 基板、T ターゲット、TS スパッタ面。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図7D