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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】ガス輸送方法及びガス輸送システム
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/00 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
E21B43/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019228303
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021095774
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】羽上田 裕章
(72)【発明者】
【氏名】和田 良太
(72)【発明者】
【氏名】今野 義浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-031097(JP,A)
【文献】特開2016-215151(JP,A)
【文献】特開2003-082975(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0163231(US,A1)
【文献】特開平10-205259(JP,A)
【文献】特開2002-327587(JP,A)
【文献】特開2017-071125(JP,A)
【文献】特開昭63-022208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液混合体から回収されたガスを輸送するガス輸送方法であって、
前記気液混合体から前記ガスを主成分とする流体を分離装置によって分離する第1工程と、
前記分離装置によって分離された前記流体を、輸送管を通して輸送する第2工程と、を備え、
前記第2工程では、前記流体に含まれる液滴の少なくとも一部をガスハイドレートとする管理区間を前記輸送管に設け、前記輸送管のうち、前記管理区間に対して下流側に位置する領域では、前記液滴の表面を前記ガスハイドレートによって覆う、または、前記液滴の全体を前記ガスハイドレートにすることを特徴とするガス輸送方法。
【請求項2】
気液混合体から回収されたガスを輸送するガス輸送システムであって、
前記気液混合体から前記ガスを主成分とする流体を分離する分離装置と、
前記分離装置によって分離された前記流体を輸送する輸送管と、
を備え、
前記輸送管には、前記流体に含まれる液滴の少なくとも一部をガスハイドレートとする管理区間が設けられ、
前記輸送管のうち、前記管理区間に対して下流側に位置する領域では、前記液滴の表面が前記ガスハイドレートによって覆われる、または、前記液滴の全体が前記ガスハイドレートとされることを特徴とするガス輸送システム。
【請求項3】
前記管理区間の温度を前記分離装置の温度に対して相対的に低くする温度調節装置をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のガス輸送システム。
【請求項4】
前記温度調節装置は、前記分離装置を加熱する加熱装置であることを特徴とする請求項3に記載のガス輸送システム。
【請求項5】
前記温度調節装置は、前記管理区間を冷却する冷却装置であることを特徴とする請求項3に記載のガス輸送システム。
【請求項6】
前記管理区間は、内径が前記輸送管の他の部分よりも大きくなっている大径部を備えていることを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載のガス輸送システム。
【請求項7】
前記管理区間には、前記管理区間における流路断面積を狭めて前記管理区間における前記流体の流速を高める流速調整部材が設けられていることを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載のガス輸送システム。
【請求項8】
前記管理区間の内面には、撥水層が設けられていることを特徴とする請求項2から7のいずれか1項に記載のガス輸送システム。
【請求項9】
前記管理区間に設けられ、前記管理区間の内面に付着したメタンハイドレートを除去する除去装置をさらに備えることを特徴とする請求項2から8のいずれか1項に記載のガス輸送システム。
【請求項10】
前記輸送管は、本体管と、前記本体管に接続され前記管理区間を形成する管理配管と、を備え、
前記管理配管は前記本体管との連通を切り替え可能に複数設けられ、複数の前記管理配管のうちの1つが前記本体管と連通することで前記輸送管が形成されることを特徴とする請求項2から9のいずれか1項に記載のガス輸送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液混合体から回収されたガスを輸送するガス輸送方法及びガス輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
気液混合体から回収されたガスを輸送管を通して輸送する際に、輸送管内でガスハイドレートが生成して圧力損失が高まると、ガスの輸送に障害が生じる可能性がある。下記特許文献1、2においては、ハイドレートインヒビターを用いてガスハイドレートの生成を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-336084号公報
【文献】特開2000-356088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2のようにハイドレートインヒビターを用いた場合、ハイドレートインヒビターの添加装置や回収装置の設置に費用が掛かる。より安価な方法で、ガスハイドレートによる圧力損失の増加を防止し、ガスを安定的に輸送することが求められる。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、ガスハイドレートによる圧力損失の増加を防止し、ガスを安定的に輸送することが可能なガス輸送方法及びガス輸送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るガス輸送方法は、気液混合体から回収されたガスを輸送するガス輸送方法であって、前記気液混合体から前記ガスを主成分とする流体を分離装置によって分離する第1工程と、前記分離装置によって分離された前記流体を、輸送管を通して輸送する第2工程と、を備え、前記第2工程では、前記流体に含まれる液滴の少なくとも一部をガスハイドレートとする管理区間を前記輸送管に設け、前記輸送管のうち、前記管理区間に対して下流側に位置する領域では、前記液滴の表面を前記ガスハイドレートによって覆う、または、前記液滴の全体を前記ガスハイドレートにすることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るガス輸送システムは、気液混合体から回収されたガスを輸送するガス輸送システムであって、前記気液混合体から前記ガスを主成分とする流体を分離する分離装置と、前記分離装置によって分離された前記流体を輸送する輸送管と、を備え、前記輸送管には、前記流体に含まれる液滴の少なくとも一部をガスハイドレートとする管理区間が設けられ、前記輸送管のうち、前記管理区間に対して下流側に位置する領域では、前記液滴の表面が前記ガスハイドレートによって覆われる、または、前記液滴の全体が前記ガスハイドレートとされることを特徴とする。
【0008】
流体に含まれる液滴の少なくとも一部をガスハイドレートとする管理区間が輸送管に設けられ、輸送管のうち、管理区間に対して下流側に位置する領域では、液滴の表面がガスハイドレートによって覆われる、または、液滴の全体がガスハイドレートとされる。これにより、輸送管のうち、管理区間に対して下流側に位置する領域においては、ガスハイドレートによって覆われていない液滴(自由水)をなくす、あるいは最小限とすることができる。ここで、流体中に、ガスハイドレートが存在しているが、ガスハイドレートによって覆われていない液滴(自由水)が存在していない場合には、ガスハイドレートが輸送管の内面へ付着したり、ガスハイドレートの集塊が生成されたりすることを防止できる。したがって、輸送管のうち、管理区間に対して下流側に位置する領域における、ガスハイドレートの付着や凝集を防止することができ、ガスハイドレートによる圧力損失の増加を防止することができる。この結果、気液混合体から回収されたガスを安定的に輸送することができる。
【0009】
また、本発明に係るガス輸送システムにおいて、前記管理区間の温度を前記分離装置の温度に対して相対的に低くする温度調節装置をさらに備えていてもよい。
【0010】
また、本発明に係るガス輸送システムにおいて、前記温度調節装置は、前記分離装置を加熱する加熱装置であってもよい。
【0011】
また、本発明に係るガス輸送システムにおいて、前記温度調節装置は、前記管理区間を冷却する冷却装置であってもよい。
【0012】
また、本発明に係るガス輸送システムにおいて、前記管理区間は、内径が前記輸送管の他の部分よりも大きくなっている大径部を備えていてもよい。
【0013】
また、本発明に係るガス輸送システムにおいて、前記管理区間には、前記管理区間における流路断面積を狭めて前記管理区間における前記流体の流速を高める流速調整部材が設けられていてもよい。
【0014】
また、本発明に係るガス輸送システムにおいて、前記管理区間の内面には、撥水層が設けられていてもよい。
【0015】
また、本発明に係るガス輸送システムにおいて、前記管理区間に設けられ、前記管理区間の内面に付着したメタンハイドレートを除去する除去装置をさらに備えていてもよい。
【0016】
また、本発明に係るガス輸送システムにおいて、前記輸送管は、本体管と、前記本体管に接続され前記管理区間を形成する管理配管と、を備え、前記管理配管は前記本体管との連通を切り替え可能に複数設けられ、複数の前記管理配管のうちの1つが前記本体管と連通することで前記輸送管が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガスハイドレートによる圧力損失の増加を防止し、ガスを安定的に輸送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係るガス輸送システムの全体図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るガス輸送システムの要部を示す拡大図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る輸送管を示す図である。
図4】メタンガスの相平衡曲線を示すグラフである。
図5】輸送管の内面へのメタンハイドレートの付着による圧力損失の増加について説明するための図である。
図6】メタンハイドレートの集塊による圧力損失の増加について説明するための図である。
図7】水に対する接触角θとぬれ性との関係について説明するための図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る管理配管を示す図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る管理配管を示す図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る管理配管及び第1本体管の(a)横断面図、(b)(a)のA-A線断面図、及び(c)(a)のB-B線断面図である。
図11】本発明の第4実施形態の第1変形例に係る管理配管及び第1本体管の(a)横断面図、及び(b)(a)のC-C線断面図である。
図12】本発明の第4実施形態の第2変形例に係る管理配管及び第1本体管の(a)横断面図、及び(b)(a)のD-D線断面図である。
図13】本発明の第5実施形態に係る輸送管の(a)平面図、及び(b)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、図1から図3を参照し、本発明の第1実施形態に係るガス輸送システム100について説明する。図1は、ガス輸送システム100の全体図である。図2は、ガス輸送システム100の要部を示す拡大図である。図3は、ガス輸送システム100の輸送管2を示す図である。
【0020】
本実施形態に係るガス輸送システム100は、例えば、メタンハイドレート開発において、海底E1に掘られた生産井E2から産出されるメタンガス(ガス)を陸上設備200まで輸送するために用いられる。
【0021】
図2に示されるように、生産井E2は、海底E1から下方に向かって、メタンハイドレート層E3に到達するよう掘られる。なお、海底E1の水深は、例えば1000m程度であり、海底E1付近の圧力は、例えば10MPa程度である。生産井E2の深さは、例えば300m程度であり、生産井E2の底部付近の圧力は、例えば13MPa程度である。
メタンハイドレート層E3におけるメタンハイドレート(ガスハイドレート)を減圧法にて分解することにより、生産井E2内から生産流体A1を産出する。生産流体A1は、主としてメタンガス(ガス)と水(液体)とにより構成される気液混合体である。
【0022】
ガス輸送システム100は、生産井E2から産出される生産流体(気液混合体)A1からメタンガス(ガス)を主成分とする分離流体(流体)A2を分離する分離装置1と、分離装置1と陸上設備200とを繋ぐ輸送管2とを備える。
【0023】
分離装置1は、セパレータ10と、排水管11と、ポンプ12とを備える。分離装置1は、海底E1上に配置される海底設備である。
【0024】
セパレータ10には、生産流体A1が流入管13を通って流入する。セパレータ10は、生産流体A1を、メタンガスを主成分とする分離流体A2と、水A3とに分離する。分離流体A2は、セパレータ10の上部に設けられた排出口から、輸送管2へ排出される。
【0025】
セパレータ10には、セパレータ10を加熱するための不図示の加熱装置(温度調節装置)が設けられる。加熱装置によってセパレータ10を加熱することにより、セパレータ10の温度が、後述する輸送管2の管理配管21の温度に対して相対的に高くされている。加熱装置によってセパレータ10を加熱することにより、セパレータ10内におけるメタンハイドレートの生成を防止することができる。
例えば、生産井E2からセパレータ10内に流入する生産流体A1の圧力が約4MPaA以上である場合には、セパレータ10内の温度が4℃程度であると、メタンハイドレートが生成されてしまう可能性がある。加熱装置により、セパレータ10内の温度をメタンハイドレートが生成される温度以上に昇温することにより、セパレータ10内におけるメタンハイドレートの生成を防止することができる。なお、セパレータ10に、昇温されたセパレータ10内の温度を保つための断熱材(保温装置)が設けられていてもよい。
【0026】
セパレータ10によって生産流体A1を分離流体A2と水A3とに分離することにより、分離流体A2に含まれる水の量を低減することができる。しかしながら、分離流体A2には、メタンガスとともに、セパレータ10により分離しきれなかった液滴(水)も存在している。
分離流体A2に含まれる液滴は、セパレータ10により、そのサイズが小さく(例えば、最大粒径が数十μm程度の液滴)されていることが好ましい。
例えば、セパレータ10として、バッフルを設けた重力分離タイプのセパレータを使用する場合、分離流体A2に含まれる液滴の大きさは、セパレータ10内で分離流体A2が排出口に向かう気流の流速に依存する。具体的には、気流の流速が早ければ、大きな液滴となるが、気流の流速が遅ければ、液滴は小さくなる。したがって、分離流体A2が排出口に向かう気流の流速を調整する(遅くする)ことにより、液滴の粒径を小さくすることができる。
あるいは、セパレータ10として、旋回流により生産流体A1から水塊を除去し、その後に遠心分離により生産流体A1から水滴を排除する機構を使用する場合、遠心分離機構の設計により、液滴の最大粒径を制御することができる。
【0027】
排水管11は、セパレータ10の下部に接続される。ポンプ12は、排水管11に接続される。生産流体A1から分離された水A3は、排水管11及びポンプ12を介して、分離装置1の外部に排出される。
【0028】
輸送管2の一端は、セパレータ10の排出口と接続されている。セパレータ10から排出された分離流体A2は、輸送管2に流入する。輸送管2の他端は陸上設備200に接続されている。分離流体A2におけるメタンガスは、輸送管2を通って陸上設備200へ輸送される。
【0029】
本実施形態においては、輸送管2に、分離流体A2に含まれる液滴(水)の少なくとも一部をガスハイドレートとする管理区間が設けられる。すなわち、輸送管2は、管理区間を形成する管理配管21と、セパレータ10と管理配管21とを接続する第1本体管22と、管理配管21と陸上設備200とを接続する第2本体管23とを備える。
【0030】
セパレータ10から排出された分離流体A2は、まず第1本体管22に流入する。第1本体管22内におけるメタンハイドレートの生成を防止するために、第1本体管22は、断熱材(保温装置)により覆われている。これにより、分離流体A2は、セパレータ10の加熱装置による昇温状態が維持されたまま(すなわち、分離流体A2の温度がメタンハイドレートが生成される温度以上に保たれたまま)、第1本体管22内を流通する。分離流体A2は、第1本体管22から管理配管21へと流入する。
なお、第1本体管22を加熱する加熱装置が設けられていてもよい。この場合、例えば、第1本体管22として二重管を用い、外管もしくは内管に温められた水を流すことにより、第1本体管22を加熱する。
【0031】
本実施形態においては、管理配管21(管理区間)においては、分離流体A2に含まれる液滴を積極的にメタンハイドレート化させて、液滴の表面をメタンハイドレートで覆う、または、液滴の全体をメタンハイドレートとする。
【0032】
ここで、図4を参照して、メタンハイドレートの生成環境について説明する。
図4は、メタンガスの相平衡曲線を示す。図4において、横軸はメタンガス、及び水の温度を表し、縦軸はメタンガス、及び水の圧力を表す。
図4において、相平衡曲線L1よりも圧力が高い、及び/または温度が低い側の領域では、メタンハイドレートが生成される環境となる。例えば、水深1000mの海底E1は、温度が約4℃(277K)で圧力が約10.1MPaである状態R3となり、領域R1内にある。この状態R3において、メタンと水が存在すると、メタンは気体ではなくハイドレートとして存在する。また、例えば、輸送管2内の温度が4℃(277K)の場合には、輸送管2内の圧力が約4MPaまで上がると、メタンハイドレートが生成される環境となる。すなわち、輸送管2内の温度が4℃(277K)かつ圧力が約4MPaの状態において、分離流体A2内にメタンガスと水とが存在すると、メタンハイドレートが生成される。
一方、相平衡曲線L1よりも圧力が低い、及び/または温度が高い側の領域では、メタンハイドレートが生成されない。また、分離流体A2内にメタンハイドレートが存在していたとしても、メタンハイドレートはメタンガスと水とに分解する。
【0033】
次に、図5及び図6を参照し、メタンハイドレートの生成と、圧力損失との関係について説明する。
【0034】
図5は、メタンガスの輸送管300の内面へのメタンハイドレートの付着による圧力損失の増加について説明するための図である。
図5(a)は、メタンハイドレートが輸送管300の内面に付着していない状態を示す。図5(a)においては、輸送管300内にメタンハイドレートが存在するものの、メタンハイドレートが輸送管300の内面に付着しておらず、したがってメタンガスが平常通り輸送されている。図5(b)は、メタンハイドレートが輸送管300の内面に付着した状態を示す。この状態においては、輸送管300の内面へのメタンハイドレートの付着により、輸送されるメタンガスと輸送管300の内面との間に発生する摩擦が増加する。したがって、メタンハイドレートに起因する圧力損失が発生する。図5(c)は、メタンハイドレートの輸送管300の内面への付着により、輸送管300内の狭窄が進行した状態を示す。この状態においては、輸送管300内の通気断面が小さくなるため、圧力損失がさらに増加する。
【0035】
図6は、メタンハイドレートの集塊による圧力損失の増加について説明するための図である。メタンハイドレート同士が結合することにより、メタンハイドレートの集塊が生成される。また、輸送管400の内面に堆積したメタンハイドレートがガス流で吹き飛ばされることでも、ガスともに移送されるメタンハイドレートの大きな集塊が生成される可能性がある。
図6(a)においては、輸送管400内にメタンハイドレートの集塊が存在するものの、メタンハイドレートの集塊は小さくかつ濃度が低いため、メタンガスとともに輸送管400内を流れている。したがって、メタンガスは平常通り輸送されている。図6(b)は、メタンハイドレートの大きな集塊が生成されたり、またはガスとともに移送される集塊の濃度が高いため、この集塊により輸送管400内が閉塞した状態を示す。この状態においては、輸送管400内の通気断面が小さくなるため、圧力損失が増加する。
【0036】
ここで、近年の研究では、メタンハイドレート自身には付着力がないことが判明している。すなわち、メタンガス中に、メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートで覆われた水(以下、単にメタンハイドレートとも称する)が存在しているが、メタンハイドレートで覆われていない水(以下、自由水と称する)が存在していない場合には、メタンハイドレートが輸送管の内面へ付着したり、メタンハイドレートの集塊が生成されたりすることがない。一方で、メタンガス中に、メタンハイドレートと自由水との双方が存在していると、自由水の表面張力が架橋力となり、メタンハイドレートの付着や凝集が起こると考えられる。
【0037】
本実施形態においては、管理区間(管理配管21)において、分離流体A2に含まれる液滴を積極的にメタンハイドレート化させる。この結果、輸送管2のうち、管理区間(管理配管21)に対して下流側に位置する第2本体管23では、液滴の表面がメタンハイドレートによって覆われる、または、液滴の全体がメタンハイドレートとされる。すなわち、管理区間(管理配管21)に対して下流側に位置する第2本体管23では、自由水をなくす、あるいは最小限とすることができる。したがって、第2本体管23における、メタンハイドレートの付着や凝集を防止でき、メタンハイドレートによる圧力損失の増加を防止することができる。
【0038】
なお、管理区間(管理配管21)は、輸送管2のうち、メタンハイドレートが生成される可能性がある区間の最も上流に設置することが好ましい。例えば、海底パイプラインや埋設パイプラインにおいては、周辺環境の温度が輸送管2に沿ってほぼ一定であり、輸送管2の入口近傍(すなわち、セパレータ10の排出口近傍)において、輸送管2内の圧力が最も高い。すなわち、輸送管2の入口近傍において、メタンハイドレートが生成される可能性が高くなる。したがって、管理配管21は、セパレータ10の排出口に可能な限り近い位置に設けられることが好ましい。
【0039】
図3に戻り、管理配管21について説明する。管理配管21は、大径部31と、大径部31と第1本体管22及び第2本体管23とをそれぞれ接続する一対のテーパ部32とを備える。
【0040】
大径部31は、内径が輸送管2の他の部分よりも大きくなっている。なお、輸送管2の他の部分とは、管理配管21のうち大径部31以外の部分、並びに第1本体管22及び第2本体管23のうち、管理配管21と隣接している所定の長さ(例えば、管理配管21と同等の長さ)の部分を意味する。大径部31においては、流路断面積が拡がるため、分離流体A2の流速が遅くなる。
【0041】
管理配管21には、管理配管21を冷却するための冷却装置(温度調節装置)が設けられる。冷却装置によって管理配管21を冷却することにより、管理配管21の温度が、セパレータ10の温度に対して相対的に低くされている。冷却装置として、例えば、管理配管21と周辺の海水との熱交換により、管理配管21内の分離流体A2を冷却する機構が採用される。本実施形態においては、管理配管21と周辺の海水との熱交換の効率を上げるために、管理配管21の外面に、冷却装置の一つとしてフィン33が設けられる。フィン33により、外圧による管理配管21の座屈も防止できる。また、管理配管21を効率的に冷却するために、管理配管21として、外部被覆がされていない鋼管を用いてもよい。
【0042】
冷却装置として、管理配管21を外側から冷却する機構を設けてもよい。
冷却装置として、管理配管21の少なくとも一部を二重管とし、外管もしくは内管に冷水を流すことにより、管理配管21を冷却する構造を設けてもよい。
冷却装置として、管理配管21の上流側に圧力調節弁を設けてもよい。この場合、圧力調節弁によって圧力調節弁よりも下流側における管理配管21内の圧力を下げることにより、分離流体A2に含まれるメタンガスを断熱膨張させる。これにより分離流体A2が冷却される。
【0043】
また、管理配管21の内面には、撥水層が設けられている。撥水層として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(いわゆるテフロン(登録商標))などのフッ素樹脂のコーティングが用いられる。
【0044】
管理配管21に対して下流側に位置する第2本体管23では、分離流体A2に含まれる液滴が十分な厚さのメタンハイドレートで覆われている必要がある。なお、十分な厚さのメタンハイドレートとは、液滴を覆うメタンハイドレートが、メタンガスとともに輸送される中で壊れない程度に十分成長していることを意味する。すなわち、管理配管21において、分離流体A2に含まれる液滴を覆うメタンハイドレートが十分に成長する時間、分離流体A2を滞留させる必要がある。例えば、管理配管21内がメタンハイドレートの生成環境にある場合には、液滴の表面を覆うメタンハイドレートは数秒程度で生成される。なお、メタンハイドレートの成長が進み、液滴の中心部までメタンハイドレートが成長すると、液滴の全体がメタンハイドレートとなる。
【0045】
管理配管21の長さは、分離流体A2が管理配管21内に滞留する時間(すなわち、分離流体A2に含まれる液滴を覆うメタンハイドレートが十分に成長する時間)を考慮して設定される。
一方で、経済的な観点からは、管理配管21の長さを短くすることが好ましい。管理配管21の長さを短くするために、以下の3つの方策が考えられる。
【0046】
第1に、管理配管21の温度を下げることが考えられる。本実施形態においては、管理配管21に、管理配管21を冷却する冷却装置が設けられる。これにより、メタンハイドレートの生成及び成長が促進され、メタンハイドレートが十分に成長する時間を短縮することができる。したがって、分離流体A2が管理配管21内に滞留する時間を短縮することができ、管理配管21の長さを短くすることができる。
【0047】
第2に、分離流体A2に含まれる液滴のサイズを小さくすることが考えられる。本実施形態においては、セパレータ10により、分離流体A2に含まれる液滴のサイズが小さく(例えば、液滴の最大粒径が数十μm程度)される。
液滴の表面で生成されるメタンハイドレートは1秒間で数~数10μmに達するため、分離流体A2に含まれる液滴の最大粒径が例えば20μmである場合、数秒で液滴のほぼ全体をメタンハイドレートとすることが可能である。このように、分離流体A2に含まれる液滴のサイズを小さくすることにより、より短い時間で、メタンハイドレートを十分に成長させることができる。したがって、分離流体A2が管理配管21内に滞留する時間を短縮することができ、管理配管21の長さを短くすることができる。
【0048】
なお、分離流体A2に含まれる液滴は、分離流体A2の流れに乗って管理配管21内を流通するが、液滴のサイズが大きいと、液滴は自身の重力によって管理配管21の底部に集まりやすくなる。この場合、管理配管21の底部の水分濃度が、頂部の水分濃度に比べて高くなり、水分濃度の高い管理配管21の底部において、液滴同士の衝突により、メタンハイドレートの集塊が生成されてしまう可能性が高まる。一方で、液滴のサイズが小さいと、液滴が分離流体A2の流れによって攪拌されるため、管理配管21の内部の水分濃度を均一化することができる。したがって、分離流体A2に含まれる液滴のサイズを小さくすることにより、メタンハイドレートの集塊の生成を防ぐこともできる。
【0049】
第3に、分離流体A2の流速を遅くすることにより、分離流体A2が管理配管21内に滞留する時間を稼ぐことが考えられる。本実施形態においては、管理配管21に大径部31が設けられる。
例えば、生産井E2において1本あたりから生産されるメタンガスのレートが10万Sm/日であると想定すると、管理配管21の管径が4インチであり、管理配管21の板厚が10mmであり、管理配管21内の圧力が5MPaAの場合、管理配管21内の分離流体A2の流速は4.24m/sとなる。分離流体A2が管理配管21内に滞留する時間を5秒とした場合、分離流体A2の流速が4.24m/sであれば、管理配管21の長さは22m必要となる。一方で、管理配管21の管径を5インチ(板厚10mm)に増加させた場合、管理配管21内の分離流体A2の流速は2.47m/sまで遅くなる。分離流体A2が管理配管21内に滞留する時間を5秒とした場合、分離流体A2の流速が2.47m/sであれば、管理配管21の長さを13mまで短縮することができる。
【0050】
なお、管理区間(管理配管21)においては、メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴とともに、未だメタンハイドレートに覆われていない液滴(自由水)も存在する。したがって、自由水の表面張力が架橋力となり、メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が、管理配管21の内面に付着する可能性がある。
メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が、管理配管21の内面に付着することを防止するための方策について以下に説明する。
【0051】
本実施形態においては、管理配管21の内面に撥水層が設けられている。撥水層としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(いわゆるテフロン(登録商標))のコーティングが用いられる。ポリテトラフルオロエチレンは、水に対する接触角が114度と大きい材質である。
図7は、水に対する接触角θとぬれ性との関係について説明するための図である。図7に示されるように、水に対する接触角θが小さいと、ぬれがよく(弾きが悪く)なる。一方、水に対する接触角θが大きいと、ぬれが悪く(弾きがよく)なる。水に対する接触角θが大きい撥水層を管理配管21の内面に施すことにより、管理配管21の内面に付着しようとする自由水を弾き、分離流体A2の流れによって吹き飛ばすことができる。この結果、管理配管21の内面へのメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴の付着を防止することができる。
【0052】
次に、本実施形態におけるガス輸送方法について説明する。
まず、メタンハイドレート層E3におけるメタンハイドレートを減圧法にて分解することにより、生産井E2内から生産流体A1を産出する。
生産流体A1は、流入管13を介して分離装置1に流入する。分離装置1のセパレータ10により、生産流体A1を分離流体A2と水A3とに分離する。すなわち、生産流体A1からメタンガスを主成分とする分離流体A2をセパレータ10によって分離する(第1工程)。なお、第1工程では、セパレータ10により、分離流体A2に含まれる液滴のサイズが小さく(例えば、液滴の最大粒径が数十μm程度)されている。水A3は、排水管11及びポンプ12を介して、分離装置1の外部に排出される。
分離流体A2は、セパレータ10から輸送管2へ排出される。分離流体A2に含まれるメタンガスは、輸送管2を通して陸上設備200まで輸送される(第2工程)。第2工程では、管理区間(管理配管21)において、分離流体A2に含まれる液滴の少なくとも一部をメタンハイドレートとする。輸送管2のうち、管理区間(管理配管21)に対して下流側に位置する第2本体管23では、液滴の表面がメタンハイドレートによって覆われる、または、液滴の全体がメタンハイドレートとされる。
【0053】
本実施形態においては、分離流体A2に含まれる液滴の少なくとも一部をメタンハイドレートとする管理区間(管理配管21)が輸送管2に設けられ、輸送管2のうち、管理区間(管理配管21)に対して下流側に位置する第2本体管23では、液滴の表面がメタンハイドレートによって覆われる、または、液滴の全体がメタンハイドレートとされる。これにより、第2本体管23における自由水をなくす、あるいは最小限とすることができる。したがって、第2本体管23における、メタンハイドレートの凝集や付着を防止することができ、メタンハイドレートによる圧力損失の増加を防止することができる。この結果、メタンガスを安定的に輸送することができる。また、本実施形態においては、ハイドレートインヒビター等の注入が不要であるため、従来よりも費用を抑えつつ、メタンハイドレートによる圧力損失の増加を防ぐことができる。
【0054】
また、本実施形態においては、分離装置1のセパレータ10を加熱する加熱装置が設けられている。加熱装置によってセパレータ10内の温度をメタンハイドレートが生成される温度以上に昇温することにより、セパレータ10内におけるメタンハイドレートの生成を防止することができる。
【0055】
また、本実施形態においては、管理配管21を冷却する冷却装置が設けられている。冷却装置によって管理配管21内の温度を下げることにより、管理配管21において、分離流体A2に含まれる液滴へのメタンハイドレートの生成及び成長を促進することができる。
【0056】
また、本実施形態においては、管理配管21が大径部31を備えている。大径部31においては、流路断面積が拡がるため、分離流体A2の流速が遅くなる。したがって、分離流体A2が管理配管21内に滞留する時間(すなわち、分離流体A2に含まれる液滴を覆うメタンハイドレートが十分に成長する時間)を確保することができる。
【0057】
(第2実施形態)
以下、図8を参照して本発明の第2実施形態を説明する。なお、本実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。図8は、本実施形態に係る管理配管21Aを示す図である。
【0058】
管理配管21Aは、大径部31と、テーパ部32と、フィン33と、縮径部34とを備える。縮径部34の内径は、大径部31よりも小さくなっている。さらに、縮径部34の内径は、第1本体管22及び第2本体管23よりも小さい。テーパ部32は、大径部31と縮径部34とを接続する。縮径部34は、管理配管21Aにおいて最も上流側に配置される。縮径部34は、大径部31よりも上流側に配置される。縮径部34においては、流路断面積が狭まるため、分離流体A2の流速が速くなっている。
【0059】
管理配管21Aの特に上流部においては、メタンハイドレートに覆われた液滴とともに、未だメタンハイドレートに覆われていない液滴(自由水)も存在するため、メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が、管理配管21Aの内面に付着する可能性がある。縮径部34によって分離流体A2の流速を高めることにより、管理配管21Aの内面に付着したメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴を分離流体A2の流れによって吹き飛ばす。これにより、メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴の管理配管21Aの内面への付着を防止することができる。
【0060】
(第3実施形態)
以下、図9を参照して本発明の第3実施形態を説明する。なお、本実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。図9は、本実施形態に係る管理配管21Bを示す図である。
【0061】
本実施形態においては、管理配管21Bの大径部31の上流部に、整流器(流速調整部材)35が設けられる。整流器35により、大径部31における流路断面積を狭めて、分離流体A2の流速を高めるとともに、管理配管21Bに流入する分離流体A2の流れを管理配管21Bの内面近傍に集中させる。これにより、管理配管21Bの内面に付着したメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴を分離流体A2の流れによって吹き飛ばす。したがって、メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴の管理配管21Bの内面への付着を防止することができる。
【0062】
(第4実施形態)
以下、図10を参照して本発明の第4実施形態を説明する。なお、本実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。図10は、本実施形態に係る管理配管21A及び第1本体管22の(a)横断面図、(b)(a)のA-A線断面図、及び(c)(a)のB-B線断面図である。
【0063】
管理配管21Aは、大径部31と、テーパ部32と、フィン33と、縮径部34とを備える。管理配管21Aのうち、縮径部34において、分離流体A2に含まれる液滴を覆うメタンハイドレートが生成される。また、管理配管21Aのうち、縮径部34よりも下流側(すなわち、テーパ部32及び大径部31)において、分離流体A2に含まれる液滴を覆うメタンハイドレートが成長し、メタンハイドレートが安定化する。
すなわち、管理配管21Aのうち、縮径部34は、分離流体A2に含まれる液滴を覆うメタンハイドレートが生成される生成区間を形成する。また、管理配管21Aのうち、テーパ部32及び大径部31は、分離流体A2に含まれる液滴を覆うメタンハイドレートが安定化する安定化区間を形成する。
【0064】
ここで、生成区間においては、メタンハイドレートに覆われた液滴とともに、未だメタンハイドレートに覆われていない液滴(自由水)が存在する。したがって、生成区間において、メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が、管理配管21Aの内面に付着する可能性が高い。
本実施形態においては、生成区間における管理配管21Aの内面(縮径部34の内面)に付着したメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴を除去する除去装置4が設けられる。
【0065】
除去装置4は、シャフト41と、インペラ42と、軸受43と、上流側支持部44Aと、下流側支持部44Bと、ブラシ(除去部材)45と、を備えている。
【0066】
図10(a)に示されるように、シャフト41は、第1本体管22及び管理配管21Aに挿通される。シャフト41は、上流側支持部44A及び下流側支持部44Bにより回転可能に支持されている。シャフト41の一端部には、インペラ42が取り付けられている。
【0067】
図10(a)及び10(b)に示されるように、インペラ42及び上流側支持部44Aは、第1本体管22内に設けられる。すなわち、インペラ42及び上流側支持部44Aは、輸送管2のうち、管理区間(管理配管21A)よりも上流側に配置される。インペラ42は、第1本体管22内を流通する分離流体A2の流れを動力源として回転力を得て、シャフト41を軸線回りに回転させる。
なお、第1本体管22は、断熱材(保温装置)により覆われているため、第1本体管22内におけるメタンハイドレートの生成が防止されている。したがって、インペラ42及び上流側支持部44Aへのメタンハイドレートの付着を防ぐことができる。
【0068】
軸受43及び下流側支持部44Bは、大径部31内に設けられる。すなわち、軸受43及び下流側支持部44Bは、管理配管21のうち、生成区間(縮径部34)よりも下流側に位置する安定化区間に配置される。安定化区間においては、分離流体A2に含まれる液滴のほとんどがメタンハイドレートで覆われており、自由水(未だメタンハイドレートに覆われていない液滴)がほとんど存在していない。したがって、軸受43及び下流側支持部44Bへのメタンハイドレートの付着を防ぐことができる。
【0069】
なお、軸受43及び下流側支持部44Bは省略されていてもよい。例えば、上流側支持部44Aをシャフト41の軸方向に複数設け、モーメント反力が取れる状態(キャンチレバー構造)とすることで、下流側支持部44Bを省略しても、上流側支持部44Aによりシャフト41を支持することが可能となる。
【0070】
ブラシ45は、シャフト41に取り付けられる。ブラシ45は、管理区間(管理配管21A)のうち、生成区間(縮径部34)に設けられる。ブラシ45は、生成区間(縮径部34)における、シャフト41の軸方向における全域に亘って設けられる。ブラシ45は、シャフト41と共に、シャフト41の軸線回りに回転する。
【0071】
図10(a)及び10(c)に示されるように、ブラシ45は、周方向(シャフト41の軸線回りに周回する方向)に間隔を空けて配置される複数(本実施形態においては2つ)の毛列を備える。ブラシ45のそれぞれの毛列は、シャフト41の軸方向に配列される多数の毛により構成される。ブラシ45の毛は、シャフト41から縮径部34の内面に向かって延びる。ブラシ45による縮径部34の内面の摩耗を防ぐため、ブラシ45の毛の先端と縮径部34の内面との間には僅かな隙間が形成される。ブラシ45の複数の毛列は、複数の毛列の遠心力が互いに相殺されるように配置される。例えば、ブラシ45の複数の毛列は、周方向に等間隔に配置される。これにより、シャフト41に偏心力が作用することを防止できる。
【0072】
メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が縮径部34の内面に付着し、所定の高さ(ブラシ45の毛の先端と縮径部34の内面との隙間以上の高さ)まで積層すると、ブラシ45によって、積層されたメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が除去される。
なお、ブラシ45の毛の先端が縮径部34の内面に接触するように設けられていてもよい。この場合、ブラシ45の毛の固さは、縮径部34の内面のコーティングを磨滅させない程度に調整されることが好ましい。
【0073】
本実施形態においては、管理配管21の内面に付着したメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴を、除去装置4のブラシ45によって除去することができる。
【0074】
なお、除去部材として、ブラシ45以外の構成を用いてもよい。
例えば、図11に第4実施形態の第1変形例として示すように、除去部材として、複数のポール46が設けられていてもよい。図11は、第1変形例に係る管理配管21A及び第1本体管22の(a)横断面図、及び(b)(a)のC-C線断面図である。
【0075】
複数(本変形例においては2つ)のポール46は、周方向に間隔を空けて設けられている。ポール46は、縮径部34内において、シャフト41の軸方向に延びる。より詳細には、ポール46は、縮径部34内において、ポール46と縮径部34の内面との間に僅かな隙間が空くように設けられ、縮径部34の内面に沿って配置される。ポール46は、生成区間(縮径部34)における、シャフト41の軸方向における全域に亘って設けられる。ポール46は、縮径部34に対して上流側及び下流側(すなわち、第1本体管22内及びテーパ部32内)においては、その端部がシャフト41に近づくように、シャフト41の軸方向に対して傾斜する。ポール46の両端部は、縮径部34に対して上流側及び下流側において、シャフト41と接合されている。ポール46は、シャフト41と共に、シャフト41の軸線回りに回転する。
【0076】
複数のポール46は、複数のポール46の遠心力が互いに相殺されるように配置される。例えば、複数のポール46は、周方向に等間隔に配置される。これにより、シャフト41に偏心力が作用することを防止できる。
【0077】
メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が縮径部34の内面に付着し、所定の高さ(ポール46と縮径部34の内面との隙間以上の高さ)まで積層すると、ポール46によって、積層されたメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が除去される。
【0078】
ポール46は、シャフト41から離れて配置されるため、シャフト41の回転に伴いポール46が回転する際の、ポール46の周方向の移動速度は速い。また、ポール46の径は小さく曲率は大きいため、ポール46に自由水やメタンハイドレートが付着しにくい。
したがって、ポール46自身へのメタンハイドレートの付着を防止しつつ、管理配管21の内面に付着したメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴を、除去装置4のポール46によって除去することができる。
【0079】
また、図12に第4実施形態の第2変形例として示すように、除去部材として、ブラシ45に代わり、ワイヤー47が設けられていてもよい。図12は、第2変形例に係る管理配管21A及び第1本体管22の(a)横断面図、及び(b)(a)のD-D線断面図である。
【0080】
本変形例においては、2つのワイヤー47が、周方向に間隔を空けて設けられている。ワイヤー47は、縮径部34内において、シャフト41の軸方向に延びる。より詳細には、ワイヤー47は、縮径部34内において、ワイヤー47と縮径部34の内面との間に僅かな隙間が空くように設けられ、縮径部34の内面に沿って配置される。ワイヤー47は、生成区間(縮径部34)における、シャフト41の軸方向における全域に亘って設けられる。ワイヤー47は、縮径部34に対して上流側及び下流側(すなわち、第1本体管22内及びテーパ部32内)においては、その端部がシャフト41に近づくように、シャフト41の軸方向に対して傾斜する。2つのワイヤー47は、その両端部において互いに結合されている。これにより、2つのワイヤー47がループ状に形成される。
2つのワイヤー47は、一対の保持部材48により、ループ形状が保たれた状態で保持される。保持部材48として、例えば、ワイヤー47の延在方向の変更点においてワイヤー47を支持する偏向材が用いられる。保持部材48は、シャフト41に取り付けられている。ワイヤー47及び保持部材48は、シャフト41と共に、シャフト41の軸線回りに回転する。
【0081】
2つのワイヤー47は、2つのワイヤー47の遠心力が互いに相殺されるように配置される。例えば、2つのワイヤー47は、周方向に等間隔に配置される。これにより、シャフト41に偏心力が作用することを防止できる。
【0082】
メタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が縮径部34の内面に付着し、所定の高さ(ワイヤー47と縮径部34の内面との隙間以上の高さ)まで積層すると、ワイヤー47によって、積層されたメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴が除去される。
【0083】
ワイヤー47は、シャフト41から離れて配置されるため、シャフト41の回転に伴いワイヤー47が回転する際の、ワイヤー47の周方向の移動速度は速い。また、ワイヤー47の径は小さく曲率は大きいため、ワイヤー47に自由水やメタンハイドレートが付着しにくい。
したがって、ワイヤー47自身へのメタンハイドレートの付着を防止しつつ、管理配管21の内面に付着したメタンハイドレート、及び/またはメタンハイドレートに覆われた液滴を、除去装置4のワイヤー47によって除去することができる。
【0084】
また、本変形例においては、保持部材48の少なくとも1つ(本変形例においては上流側の保持部材48)が滑車構造となっており、この保持部材48に垂直軸のインペラ49が取り付けられている。なお、縮径部34よりも上流側に配置される保持部材48が滑車構造とされることが好ましい。インペラ49は、第1本体管22内を流通する分離流体A2の流れを動力源として回転する。インペラ49の回転により、ループ状に形成された2つワイヤー47は、図12(a)における矢印に沿って周回する。すなわち、ループ状に形成された2つワイヤー47は、第1本体管22側から、縮径部34の内面に沿って移動してテーパ部32側へ到達し、また、テーパ部32側から、縮径部34の内面に沿って移動して第1本体管22側へ到達するように周回する。
仮に縮径部34内やテーパ部32内においてワイヤー47にメタンハイドレートが付着したとしても、ワイヤー47の回転によりメタンハイドレートが付着した部分が第1本体管22内に到達すると、ワイヤー47に付着したメタンハイドレートが分解される。したがって、ワイヤー47へのメタンハイドレートの堆積を防止することができる。
【0085】
(第5実施形態)
以下、図13を参照して本発明の第5実施形態を説明する。なお、本実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。図13は、本実施形態に係る輸送管2の(a)平面図、及び(b)側面図である。
【0086】
本実施形態においては、複数の管理配管21が設けられており、それぞれの管理配管21と第1本体管22及び第2本体管23との連通が切り替え可能となっている。また、複数の管理配管21のうちの1つが第1本体管22及び第2本体管23と連通されることで輸送管2が形成される。
【0087】
図13(a)に示されるように、複数の管理配管21の一端同士は、ヘッダー管50Aにより互いに接続されている。複数の管理配管21の他端同士は、ヘッダー管50Bにより互いに接続されている。
複数の管理配管21の一端は、ヘッダー管50Aを介して、第1本体管22に接続されている。複数の管理配管21の他端は、ヘッダー管50Bを介して、第1本体管22に接続されている。
【0088】
ヘッダー管50Aには、第1本体管22と管理配管21との連通を許容/遮断するためのバルブ51Aが、管理配管21毎に設けられている。ヘッダー管50Bには、管理配管21と第2本体管23との連通を許容/遮断するためのバルブ51Bが、管理配管21毎に設けられている。バルブ51A及びバルブ51Bの開閉を制御することにより、複数の管理配管21のうち、第1本体管22及び第2本体管23と連通する管理配管21を切り替え可能となっている。
【0089】
図13(b)に示されるように、ヘッダー管50Aには、放圧ノズル52が設けられている。管理配管21は、上流側から下流側に向かって低くなるように、水平方向に対して傾斜して配置される。管理配管21の下流側には、排水ノズル53が設けられている。排水ノズル53は、管理配管21の底部に設けられている。
【0090】
本実施形態においては、管理配管21の内面にメタンハイドレートが付着した場合に、使用する管理配管21を切り替えることができる。
また、使用する管理配管21を切り替えた後に、メタンハイドレートが付着した管理配管21の放圧ノズル52のバルブを開けることにより、管理配管21内の圧力を減圧し、管理配管21の内面に付着したメタンハイドレートを水とメタンガスとに分解する。これにより、管理配管21の内面へのメタンハイドレートの付着を解消し、管理配管21を再度利用することができる。
なお、管理配管21は上流側から下流側に向かって低くなるように傾斜するため、メタンハイドレートの分解により生成された水は管理配管21の下流側へと流れる。排水ノズル53のバルブを開けることにより、メタンハイドレートの分解により生成された水を、排水ノズル53を通って管理配管21の外部に排水する。これにより、メタンハイドレートの分解により生成された水が管理配管21に溜まり、メタンハイドレートが再生成されてしまうことを防止できる。また、メタンハイドレートの分解により生成された水が下流側(ヘッダー管50B及び第2本体管23)へと流れ込むことを防止できる。
【0091】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上記実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上述の実施形態においては、ガス輸送システム及び輸送方法が、海底E1に掘られた生産井E2から産出されるメタンガスを陸上設備200まで輸送するために用いられる例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限られず、本発明のガス輸送システム及び輸送方法は、陸上のガス田開発において、井戸から出てきたガスを埋設管を通して輸送する際に用いられてもよい。
【0092】
また、本実施形態においては、分離装置1のセパレータ10を加熱する加熱装置が設けられている。しかしながら、セパレータ10の周辺環境が、メタンハイドレートの生成環境から外れている場合には、加熱装置は省略されていてもよい。同様に、セパレータ10や第1本体管22に設けられる保温装置は省略されていてもよい。
【0093】
また、本実施形態においては、管理配管21に、管理配管21を冷却する冷却装置が設けられている。しかしながら、管理配管21の周辺環境が、メタンハイドレートの生成環境となっている場合には、冷却装置は省略されていてもよい。
【0094】
また、本実施形態においては、管理配管21が大径部31及びテーパ部32を備えている。しかしながら、管理配管21が大径部31及びテーパ部32を備えず、管理配管21が第1本体管22や第2本体管23と同等の内径を有していてもよい。
【0095】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1…分離装置、2…輸送管、4…除去装置、10…セパレータ、21,21A,21B…管理配管、22…第1本体管、23…第2本体管、31…大径部、32…テーパ部、33…フィン(冷却装置)、34…縮径部、35…整流器(流速調整部材)、100…ガス輸送システム、200…陸上設備、A1…生産流体(気液混合体)、A2…分離流体(流体)、A3…水(液体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13