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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230815BHJP
   A23G 1/38 20060101ALI20230815BHJP
   A23D 7/00 20060101ALN20230815BHJP
   A23L 9/20 20160101ALN20230815BHJP
   A23G 3/00 20060101ALN20230815BHJP
【FI】
A23D9/00
A23G1/38
A23D9/00 500
A23D9/00 502
A23D7/00 500
A23L9/20
A23G3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019003344
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020110080
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 清美
(72)【発明者】
【氏名】將野 喜之
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-107064(JP,A)
【文献】特開2009-201380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23G、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中鎖脂肪酸トリグリセリドとヨウ素価が0~10であるパーム核油硬質部とを60:40~20:80の質量比で70~100質量%含む油脂組成物であって、
前記油脂組成物の構成脂肪酸全量に占める、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比が、75:25から25:75である、前記油脂組成物(ただし、ラウリン系油脂及びパーム系油脂の混合油脂をエステル交換して得られる油脂を10質量%以上30質量%以下含むサンドクリーム用油脂組成物を除く)。
【請求項2】
前記パーム核油硬質部は、構成脂肪酸全量に占めるラウリン酸の含有量が50質量%以上である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
5℃のSFC(固体脂含有量)が30~70%であり、25℃のSFCが25~65%である、請求項1または2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂組成物を含む食品。
【請求項5】
中鎖脂肪酸トリグリセリドとヨウ素価が0~10であるパーム核油硬質部とを60:40~20:80の質量比で、油脂組成物あるいは食品に含まれる油脂の70~100質量%に使用することにより、油脂組成物あるいは食品に含まれる油脂の、構成脂肪酸全量に占める、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比を、75:25から25:75に調整する、油脂組成物あるいは食品の製造方法(ただし、油脂組成物あるいは食品は、ラウリン系油脂及びパーム系油脂の混合油脂をエステル交換して得られる油脂を10質量%以上30質量%以下含むサンドクリーム用油脂組成物および当該サンドクリーム用油脂組成物を含むサンドクリームを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニューロンの代謝の減少によって引き起こされる認知症(例えば、アルツハイマー型認知症など)の患者の増加や、加齢の経過においてニューロンの代謝の減少によって引き起こされる認知機能低下(例えば、加齢に伴う記憶障害(AAMI))を発症した患者の増加が大きな社会問題になっている。そして、これらの症状に対する予防方法や治療方法の開発が進められている。
【0003】
ニューロンにおける代謝の減少によって引き起こされる認知症や、加齢に伴う認知機能低下の予防方法や治療方法として、肝臓における中鎖脂肪酸からケトン体への代謝を介した系が考えられている。非特許文献1には、中鎖脂肪酸トリグリセリドとココナッツオイルを4:3で混合した油脂は、アルツハイマーの症状を緩和したことが記されている。ここで、中鎖脂肪酸トリグリセリドは炭素数が8および10の脂肪酸からなる油脂であり、ココナッツオイルは炭素数が12の脂肪酸を多く含む油脂である。
【0004】
一般に、中鎖脂肪酸トリグリセリドやココナッツオイルは、そのままでは多量に摂取し辛い。毎日摂取し続けるには、飲料に混ぜて摂取したり、食べ物に混ぜて摂取したりする工夫が必要である。しかし、上記中鎖脂肪酸トリグリセリドとココナッツオイルを4:3で混合した油脂は、夏季には液体であるが、冬季には半固体になるなど、取り扱い難い。特に、クリーム、チョコレート、焼き菓子などには使用し難いものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「Alzheimer's Disease :What If There Was a Cure?」 Dr. Mary Newport著 2011年8月15日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、炭素数が8、10および12の脂肪酸をバランスよく豊富に含み、製菓製パン用途に使用し易い油脂組成物の開発が望まれている。
【0007】
本発明の課題は、炭素数が8、10および12の脂肪酸をバランスよく豊富に含み、製菓製パン用途に使用し易い油脂組成物を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った。その結果、炭素数が8および10の脂肪酸を主要構成脂肪酸とする中鎖脂肪酸トリグリセリドと、パーム核油硬質部とを、含み、炭素数が8および10の脂肪酸と炭素数が12の脂肪酸とが特定の含有比となるように調整することにより、上記課題が解決できることを見出した。これにより本発明は完成された。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含み得る。
(1)中鎖脂肪酸トリグリセリドとパーム核油硬質部とを含む油脂組成物であって、
前記油脂組成物の構成脂肪酸全量に占める、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比が、75:25から25:75である、前記油脂組成物。
(2)前記パーム核油硬質部は、構成脂肪酸全量に占めるラウリン酸の含有量が50質量%以上である、(1)の油脂組成物。
(3)前記パーム核油硬質部は、ヨウ素価が0~10である、(1)または(2)の油脂組成物。
(4)(1)~(3)のいずれか1つの油脂組成物を含む食品。
(5)中鎖脂肪酸トリグリセリドとパーム核油硬質部とを使用することにより、油脂組成物あるいは食品に含まれる油脂の、構成脂肪酸全量に占める、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比を、75:25から25:75に調整する、油脂組成物あるいは食品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、炭素数が8、10および12の脂肪酸をバランスよく豊富に含み、製菓製パン用途に使用し易い油脂組成物を提供することができる。また、当該油脂組成物を豊富に含む食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、A~Bは、A以上B以下を意味する。例えば、A~B質量%は、A質量%以上B質量%以下を意味する。
【0012】
中鎖脂肪酸トリグリセリド
本発明の油脂組成物は、中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MCTとも表す)を含有する。本発明において、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、グリセリンにエステル結合する3分子の脂肪酸の全てが中鎖脂肪酸であるトリグリセリドをいう。ここで中鎖脂肪酸は、6~10の炭素数を有する脂肪酸である。中鎖脂肪酸は、好ましくは飽和の直鎖脂肪酸である。中鎖脂肪酸は、好ましくは、n-ヘキサン酸(カプロン酸)、n-オクタン酸(カプリル酸)、およびn-デカン酸(カプリン酸)から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、n-オクタン酸(カプリル酸)および/またはn-デカン酸(カプリン酸)である。中鎖脂肪酸トリグリセリドは、例えば、トリカプリルとトリカプロンの混合物など、複数の分子種で構成されていてもよい。また、種類が異なる2種あるいは3種の構成脂肪酸を有する中鎖脂肪酸トリグリセリドの場合、中鎖脂肪酸の種類によるグリセリン骨格への結合位置は問わない。
【0013】
上記中鎖脂肪酸トリグリセリドにおいて、構成脂肪酸の全量に占めるカプロン酸の含有量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは0~5質量%である。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドの構成脂肪酸全量に占めるカプリル酸の含有量は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは35~100質量%であり、さらに好ましくは55~90質量%である。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドの構成脂肪酸全量に占めるカプリン酸の含有量は、好ましくは85質量%以下であり、より好ましくは0~75質量%であり、さらに好ましくは10~45質量%である。中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の組成が上記範囲程度であると、摂取した際に体内で持続的にケトンを産生することが期待できる。
【0014】
本発明における中鎖脂肪酸トリグリセリドは、食用に適する限り、その製造方法は特に限定されない。しかし、好ましくは油脂加工の分野において通常行われるエステル化が適用される。すなわち、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、中鎖脂肪酸とグリセロールとを、触媒添加の下、好ましくは触媒無添加の下で、また、好ましくは減圧下で、120~180℃に加熱し、脱水縮合させることにより製造できる。反応後必要に応じて、触媒の除去、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色、脱臭処理などを適用できる。
【0015】
パーム核油硬質部
本発明の油脂組成物は、パーム核油硬質部(以下、PKSとも表す)を含有する。本発明において、パーム核油硬質部は、パーム核油由来の油脂を分別することにより得られる硬質部(ステアリン部)である。例として、パーム核油を分別することにより得られるパーム核油ステアリン、パーム核油とパーム核油オレインおよび/またはパーム核油ステアリンとの混合油を分別することにより得られる硬質部などが挙げられる。パーム核油硬質部を得るための、油脂の分別方法は、特に限定されない。分別方法の例としては、従来油脂加工分野で知られている、溶剤分別、湿式分別、乾式分別などが挙げられる。
【0016】
上記パーム核油硬質部は、好ましくは0~10のヨウ素価を有する。パーム核油硬質部のヨウ素価は、より好ましくは0~8であり、さらに好ましくは0~6であり、ことさらに好ましくは0~3である。パーム核油硬質部のヨウ素価は、水素添加により調整されてもよい。すなわち、本発明においてパーム核油硬質部は、水素添加パーム核油硬質部を含み得る。また、上記パーム核油硬質部は、構成脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の含有量が、好ましくは50質量%以上である。前記ラウリン酸の含有量は、より好ましくは52~62質量%であり、さらに好ましくは54~60質量%である。パーム核油硬質部は、例えば、ヨウ素価、ラウリン酸含有量などが異なる、2種以上の混合物であってもよい。パーム核油硬質部の、ヨウ素価および/またはラウリン酸含有量が上記範囲程度であると、炭素数が8、10および12の脂肪酸をバランスよく豊富に含み、製菓製パン用途に使用し易い油脂組成物、特にグレインおよび/またはブルーム耐性を有する油脂組成物を調製し易い。
【0017】
油脂組成物
上記の非特許文献1を参照すると、ココナッツオイル、および、中鎖脂肪酸トリグリセリドとココナッツオイルとの4:3の混合油は、アルツハイマーの症状を軽減する効果が期待できる。これは、ココナッツオイルおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの構成脂肪酸である中鎖脂肪酸(ここでは炭素数12も含まれる)が代謝されて生成するケトンが、脳のエネルギーとして活用されるためと考えられている。ここで、ココナッツオイルは、カプリル酸およびカプロン酸を合計で14質量%程度およびラウリン酸を46質量%程度含む油脂であり、中鎖脂肪酸トリグリセリドは炭素数が8および/または炭素数が10の脂肪酸からなる油脂である。したがって、ココナッツオイルの、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比は、23:77程度である。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドとココナッツオイルとの4:3の混合油の、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比は、76:24程度である。よって、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比が、75:25から25:75程度であると、アルツハイマーの症状を軽減する効果が期待できる。
【0018】
上記の、ココナッツオイルおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドとココナッツオイルとの4:3の混合油は、夏季には液体であり、冬季には半固体になるなど、取り扱い難い。特に、クリーム、チョコレート、焼き菓子などには使用しにくい。本発明者らは、物性の改善と、より栄養的な濃度を向上するために、中鎖脂肪酸トリグリセリドとトリラウリンとの配合を試みた。トリラウリンの使用は、炭素数が8~12の脂肪酸の濃度を高めるために有効であった。また、クリーム、チョコレート、焼き菓子に使用するための可塑性を得るためにも有効であった。しかし、クリーム、チョコレートなどにおける、グレインおよび/またはブルーム耐性が乏しく、適当ではなかった。
【0019】
本発明の油脂組成物は、上記の、中鎖脂肪酸トリグリセリドとパーム核油硬質部とを含み、油脂組成物の構成脂肪酸の全量に占める、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比が、75:25から25:75である。前記炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比は、好ましくは65:35から40:60であり、より好ましくは60:40から45:55である。また、本発明の油脂組成物は、構成脂肪酸の全量に占める、炭素数が8、10および12の脂肪酸の合計含有量が、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは65~90質量%であり、さらに好ましくは68~84質量%である。なお、油脂を構成する各脂肪酸の含有量は、例えば、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96など)に準拠した方法で測定できる、本発明の油脂組成物の構成脂肪酸の全量に占める、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比、また、炭素数が8、10および12の脂肪酸の合計含有量、が上記範囲内にあると、油脂組成物を摂取したときの生理的効果および食品に使用する際の適度な物性の付与、が期待できる。
【0020】
本発明の油脂組成物は、上記の、中鎖脂肪酸トリグリセリドとパーム核油硬質部とを、好ましくは55:45~20:80の質量比で含み得る。前記中鎖脂肪酸トリグリセリドとパーム核油硬質部との質量比は、より好ましくは50:50~30:70であり、さらに好ましくは45:55~35:65である。また、本発明の油脂組成物に占める、中鎖脂肪酸トリグリセリドとパーム核油硬質部との合計含有量は、好ましくは70~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%である。本発明の油脂組成物に占める、中鎖脂肪酸トリグリセリドとパーム核油硬質部との質量比および/または合計含有量が前記範囲程度であると、油脂組成物を摂取したときの生理的効果および食品に使用する際の適度な物性の付与、が期待できる。
【0021】
本発明の油脂組成物は、油脂組成物の構成脂肪酸の全量に占める、炭素数が8および10の脂肪酸の合計含有量と炭素数が12の脂肪酸の含有量との質量比が、75:25から25:75であるという条件を満たす限り、中鎖脂肪酸トリグリセリドおよびパーム核油硬質部以外の、その他の油脂を含み得る。ここで、その他の油脂は、食用に適する油脂である限り、特に限定されない。その他の油脂としては、例えば、ココアバター、パーム油、パーム分別油、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、コクム脂、マンゴー脂、マンゴー分別油、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、ヤシ油、パーム核油、牛脂、豚脂、乳脂などの動植物油脂、および、これらに、混合、分別、エステル交換、水素添加などのうちの1種以上の処理が適用されることにより得られる加工油脂、が挙げられる。その他の油脂は、1種または2種以上の油脂が用いられてもよい。その他の油脂は、好ましくはココアバターを含み得る。すなわち、本発明の油脂組成物は、ココアバターを好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは0~10質量%含み得る。
【0022】
本発明の油脂組成物は、冷蔵温度(5℃程度)から室温(25℃程度)までの、固体脂含有量(SFC)の変化が少ない。例えば、5℃のSFCに対する、25℃のSFCの割合(25℃のSFC/5℃のSFC)は、好ましくは0.8以上であり、より好ましくは0.9以上である。また、5℃のSFCは、好ましくは30~70%であり、より好ましくは35~65%である。25℃のSFCは、好ましくは25~65%であり、より好ましくは30~60%である。本発明の油脂組成物は、広めの温度帯で可塑性などの物性が安定しているので、クリーム、チョコレート、可塑性油脂組成物などの油脂食品に使用し易い。
【0023】
油脂組成物を含む食品
本発明の食品は、本発明の油脂組成物を含む。本発明の食品に含まれる油脂に占める、前記油脂組成物の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70~100質量%であり、さらに好ましくは80~100質量%であり、ことさらに好ましくは90~100質量%である。本発明の食品の最も好ましい態様は、食品に含まれる油脂そのものが、本発明の油脂組成物の構成を満たす。本発明の食品の好ましい例としては、クリーム、チョコレート、可塑性油脂組成物などの油脂含有食品が挙げられる。
【0024】
上記本発明の可塑性油脂組成物は、例えば、ショートニングなどの水が配合されない無水物であってもよいし、マーガリンなどの油中水型の乳化物であってもよい。本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70~100質量%であり、さらに好ましくは80~100質量%である。可塑性油脂組成物は、例えば、パンや焼き菓子の、コーティング、スプレッド、フィリングなどとして、そのものが摂食されてもよい。また、可塑性油脂組成物は、パンや焼き菓子の生地に、練り込まれたり、折り込まれたりした状態で焼成されたパンや焼き菓子として摂食されてもよい。本発明の可塑性油脂組成物は、炭素数が8、10および12の脂肪酸をバランスよく豊富に含み、可塑性がよい。また、口どけがよい。
【0025】
本発明の可塑性油脂組成物の製造には、公知の製造条件および製造方法が適用できる。例えば、油脂と配合する油溶成分を混合溶解することで製造できる。また、可塑性を付与する場合は、まず、配合する油溶成分を混合溶解した油相を調製する。次に、必要に応じて調製した水相を、油相と混合乳化する。その後、混合乳化物を、冷却し、結晶化させて製造できる。油相の調製後または混合乳化後は、調製物は、好ましくは殺菌処理される。冷却および結晶化は、好ましくは、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどを用いた冷却可塑化である。冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、さらに好ましくは-5℃/分以上である。この際、徐冷却より急冷却の方が好ましい。
【0026】
上記本発明のクリームは、シュガークリームなどの無水クリームであってもよいし、バタークリームなどの油中水型クリームであってもよいし、ホイップドクリームなどの水中油型クリームであってもよい。本発明のクリームに含まれる油脂の含有量は、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは25~70質量%であり、さらに好ましくは30~60質量%である。クリームは、例えば、パンや焼き菓子の、コーティング、スプレッド、フィリングなどとして、そのものが摂食されてもよい。本発明のクリームは、炭素数が8、10および12の脂肪酸をバランスよく豊富に含み、起泡性がよい。また、口どけがよい。
【0027】
本発明のクリームの製造には、公知の製造条件および製造方法が適用できる。例えば、ホイップクリームのように水中油型乳化物である場合、油脂に油溶性の成分を溶解または分散させて油相を調製する。一方、水に水溶性のその他の成分を溶解または分散させて調製した水相も調製する。そして、調製した水相に対して油相を混合して予備乳化する。そして、予備乳化物を均質化処理することによりホイップクリームが製造できる。ホイップクリームは、必要に応じて殺菌処理することもできる。また、均質化処理は、殺菌処理の前に行う前均質であっても、殺菌処理の後に行う後均質であってもよく、また前均質および後均質の両者を組み合わせた二段均質であってもよい。均質化処理の後は、冷却、エージングの工程に供してもよい。ホイップドクリームのように起泡化させて使用する場合、調製した水中油型乳化物を、必要に応じて糖類などを加えた後、起泡化(ホイップ)して使用できる。
【0028】
本発明のクリームが、バタークリームやシュガークリームの場合、例えば、上記の本発明の可塑性油脂組成物に、必要に応じて、粉糖、液糖などの糖類、およびその他副素材を添加混合して起泡化(ホイップ)することにより得られる。
【0029】
上記本発明のチョコレートは、油脂と糖類とを主原料として含む。チョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)ないし法規に規定されているチョコレートに限定されない。主原料には、必要に応じてカカオ成分(カカオマス、ココアパウダーなど)、乳製品、香料、および乳化剤などが加えられる。このチョコレートは、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、成形工程、冷却工程など)の全部ないし一部を経て製造される。また、本発明におけるチョコレートは、ダークチョコレート、およびミルクチョコレートの他に、ホワイトチョコレートおよびカラーチョコレートも含む。本発明のチョコレートは、テンパー型とノンテンパー型のどちらであってもよい。しかし、好ましくはノンテンパー型である。本発明のチョコレートは、炭素数が8、10および12の脂肪酸をバランスよく豊富に含み、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含んでもいても、ブルームおよびグレインの生成が抑制される。
【0030】
本発明のチョコレートに含まれる油脂の含有量は、好ましくは25~65質量%であり、より好ましくは28~55質量%であり、さらに好ましくは30~50質量%である。本発明のチョコレートにおける油脂含有量は、配合される油脂の他に、原材料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳など)中に含まれる油脂(ココアバター、乳脂など)も含む。例えば、一般的に、カカオマスの油脂(ココアバター)含有量は55質量%(含油率0.55)であり、ココアパウダーの油脂(ココアバター)含有量は11質量%(含油率0.11)であり、全脂粉乳の油脂(乳脂)含有量は25質量%(含油率0.25)である。よって、チョコレートに含まれる油脂の含有量は、各原材料のチョコレート中の配合量(質量%)に含油率を掛け合わせたものを合計した値となる。
【0031】
本発明のチョコレートに含まれる糖類の含有量は、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~55質量%であり、さらに好ましくは30~50質量%である。糖類としては、例えば、ショ糖(砂糖および粉糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、デキストリンなどが挙げられる。
【0032】
本発明のチョコレートには、油脂および糖類以外にも、チョコレートに一般的に配合される原料を使用することができる。具体的には、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳などの乳製品、カカオマス、ココアパウダーなどのカカオ成分、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末などの各種粉末、ガム類、澱粉類、乳化剤、酸化防止剤、着色料、香料などが使用され得る。
【0033】
本発明のチョコレートの製造には、公知の製造条件および製造方法が適用できる。本発明のチョコレートの原料としては、例えば、油脂、カカオ成分、糖類、乳製品、乳化剤などが用いられ得る。本発明のチョコレートは、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、テンパリング工程(必要に応じて)、冷却工程などを経て、製造できる。
【0034】
本発明の油脂組成物を含む上記食品は、炭素数が8、10および12の脂肪酸をバランスよく豊富に含み、かつ、製菓製パン食品(ベーカリー食品)の、練り込み、折り込み、トッピング、フィリング、サンドなどの用途に適している。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例の内容に限定されない。
【0036】
<測定方法>
以下に示す、油脂の各脂肪酸含有量およびヨウ素価は、以下の方法により測定した。
油脂を構成する各脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96)に準拠した方法で測定した。
油脂のヨウ素価は、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定した。
油脂の固体脂含有量(SFC)は、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9-2003固体脂含量(NMR法)に準じて測定した。
【0037】
<油脂の調製>
以下の食用油脂を準備した。
・中鎖脂肪酸トリグリセリド1(略号:MCT1、75質量%のオクタン酸および25質量%のデカン酸を構成脂肪酸とするMCT、日清オイリオグループ株式会社製)
・極度硬化パーム核油硬質部(略号:HPKS、ヨウ素価1未満、ラウリン酸含有量54.7質量%、日清オイリオグループ株式会社製)
・ヤシ油(略号:CNO、ラウリン酸含有量45.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)
・極度硬化ヤシ油(略号:HCNO、ラウリン酸含有量45.6質量%、日清オイリオグループ株式会社製)
【0038】
<油脂組成物の調製1>
表1の油脂配合にしたがって例1から例5の油脂組成物を調製した。すなわち、必要に応じて加温融解させた各油脂を表1の配合にしたがって混合した。前記融液状態の混合油脂を氷水中で攪拌冷却し、固化状態の例1から例5の油脂組成物を得た。各油脂組成物の炭素数8、10、12の脂肪酸の含有量を表1に示した。
【0039】
<シュガークリームの調製および評価>
例1から例5の油脂組成物をそれぞれ使用して、シュガークリームを調製した。すなわち、50質量部の粉糖と50質量部の28℃で1時間調温した油脂組成物とを、ホバートミキサーに秤取り、低速攪拌で粉糖と油脂組成物とを馴染ませた。その後、中速攪拌でホイップし、比重を0.65に調整したシュガークリームを得た。
得られたシュガークリームをそれぞれ絞り袋にとり、28℃で絞り出したクリームを、8℃、20℃および28℃の各温度で、24時間静置した。24時間後、各温度に静置したシュガークリームの状態を観察した。また、28℃で絞り出したシュガークリームの口どけを確認した。結果を表1に示した。
【0040】
【表1】

【0041】
<油脂組成物の調製2>
表2の油脂配合にしたがって例6から例10の油脂組成物を調製した。すなわち、必要に応じて加温融解させた各油脂を表2の配合にしたがって混合した。
【0042】
<シートマーガリンの調製および評価>
例6から例10の油脂組成物をそれぞれ使用して、シートマーガリンを調製した。すなわち、83.7質量部の油脂組成物と0.3質量部の乳化剤とを混合融解し、油相とした。当該油相に対して、16.0質量部の水を混合乳化した。その後、混合乳化物を、コンビネーターで急冷可塑化し、シート状に成型した、例6から例10の油脂組成物を使用したシートマーガリンを調製した。マーガリン開発歴20年以上の評価者が、15℃で調温した各シートマーガリンを大理石上で展延し、シートマーガリンとして適した硬さと伸展性を有するかどうかを評価した。結果を表2に示した。
【0043】
【表2】

【0044】
<油脂組成物の調製3>
表3の油脂配合にしたがって例11から例13の油脂組成物を調製した。すなわち、必要に応じて加温融解させた各油脂を表3の配合にしたがって混合した。
【0045】
<チョコレートの調製および評価>
例11から例13の油脂組成物をそれぞれ使用して、チョコレートを調製した。すなわち、198.2質量部の油脂組成物、300.0質量部の粉糖、100.0質量部の乳糖、105.5質量部の脱脂粉乳、100.0質量部のココアパウダーおよび1.00質量部のレシチンを混合し、ローラーにより微粒化した。微粒化後の混合物を常法により精錬(コンチング)した。コンチング後半で、80.47質量部の混合物に対して、19.08質量部の油脂組成物、0.40質量部のレシチンおよび0.05質量部の香料を混合し、融液状態のチョコレート生地を調製した。融液状態のチョコレート生地を1個5グラムの型に流し込み、8℃で冷却固化して、例11から例13の油脂組成物をそれぞれ使用したチョコレートを調製した。チョコレートに含まれる油脂に占める油脂組成物の割合は、97.25質量%であった。各チョコレートの型離れの状態、および、ブルーム発生の状態(15℃および20℃での定温保持、および、10℃12時間と18℃12時間のサイクル保持)を観察した。結果を表3に示した。
【0046】
【表3】

【0047】
<油脂組成物のSFC>
表4に例1、例2、および例12の油脂組成物の固体脂含有量(SFC)を示した。本発明の油脂組成物は、冷蔵温度(5℃程度)から室温(25℃程度)までの、SFCの変化が少ない。
【0048】
【表4】