IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】シリコンウェーハ研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230815BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20230815BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20230815BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 621D
H01L21/304 622P
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018150810
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020027834
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-07-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】古本 有加里
(72)【発明者】
【氏名】後藤 修
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-159259(JP,A)
【文献】特開2013-105954(JP,A)
【文献】国際公開第2017/069202(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/002525(WO,A1)
【文献】特表2018-513229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、水と、水溶性高分子化合物と、含窒素塩基性化合物とを含み、
前記水溶性高分子化合物は、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも一種のポリビニルアルコール系ポリマーを含み、
前記含窒素塩基性化合物は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、R,R,Rは、それぞれ独立に、炭素数1~15のアルキル基および炭素数1~15のヒドロキシアルキル基からなる群から選択される基であるか、または、R、R、Rのうち2つは互いに結合し、それらが結合している窒素原子および炭素原子を含む環構造を形成し、残りの一つは炭素数1~15のアルキル基および炭素数1~15のヒドロキシアルキル基からなる群から選択される基である。);で表され
前記含窒素塩基性化合物は、トリエチルアミンおよびトリエタノールアミンから選択される少なくとも1種を含み、
前記含窒素塩基性化合物がトリエチルアミンを含む場合、トリエチルアミンの含有量は0.0015mol/L以下であり、
前記ポリビニルアルコール系ポリマーは、その繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含むか、あるいは、該ビニルアルコール単位と該ビニルアルコール単位以外の繰返し単位とを含み、
前記ビニルアルコール単位以外の繰返し単位は、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する繰返し単位である、シリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項2】
前記含窒素塩基性化合物はトリエチルアミンである、請求項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項3】
pHが8~12である、請求項1または2に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒はシリカ粒子である、請求項1からのいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒の平均一次粒子径は20nm以上30nm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項6】
シリコンウェーハのファイナルポリシング工程で用いられる、請求項1からのいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項7】
水と、水溶性高分子化合物と、含窒素塩基性化合物とを含み、
前記水溶性高分子化合物は、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも一種のポリビニルアルコール系ポリマーを含み、
前記含窒素塩基性化合物は、下記一般式(1):
【化2】
(式中、R,R,Rは、それぞれ独立に、炭素数1~15のアルキル基および炭素数1~15のヒドロキシアルキル基からなる群から選択される基であるか、または、R、R、Rのうち2つは互いに結合し、それらが結合している窒素原子および炭素原子を含む環構造を形成し、残りの一つは炭素数1~15のアルキル基および炭素数1~15のヒドロキシアルキル基からなる群から選択される基である。);で表され、
前記含窒素塩基性化合物は、トリエチルアミンおよびトリエタノールアミンから選択される少なくとも1種を含み、
前記含窒素塩基性化合物がトリエチルアミンを含む場合、トリエチルアミンの含有量は0.0015mol/L以下であり、
前記ポリビニルアルコール系ポリマーは、その繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含むか、あるいは、該ビニルアルコール単位と該ビニルアルコール単位以外の繰返し単位とを含み、
前記ビニルアルコール単位以外の繰返し単位は、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する繰返し単位である、シリコンウェーハのリンス用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の構成要素等として用いられるシリコンウェーハの表面は、一般に、ラッピング工程(粗研磨工程)とポリシング工程(精密研磨工程)とを経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、予備ポリシング工程(予備研磨工程)とファイナルポリシング工程(最終研磨工程)とを含む。上記ポリシング工程における研磨方法としては、セルロース誘導体等に代表される水溶性ポリマー(水溶性高分子化合物)を研磨液に含ませるケミカルメカニカルポリシング法が知られている。この方法では、上記水溶性ポリマーが砥粒やシリコンウェーハに吸着したり脱離したりすることによって、研磨表面の欠陥やヘイズの低減に寄与する。シリコンウェーハの研磨用組成物に関する技術文献として、例えば特許文献1が挙げられる。この特許文献1には、水、水溶性高分子化合物、コロイダルシリカ(砥粒)、およびアルカリ化合物(アンモニアなど)を含む研磨用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-89862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、半導体基板表面の濡れ性を向上させ、パーティクルの付着等の微小な欠陥を低減させるために、所定の粘度を有する水溶性高分子化合物を用いることが提案されている。しかし、近年では、研磨後のシリコンウェーハの表面品質に対する要求がさらに高くなってきており、ヘイズをより好適に低減し、シリコンウェーハのさらなる品質向上に貢献できる研磨用組成物が求められている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、シリコンウェーハの研磨においてヘイズを好適に低減できる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題を解決するために種々の実験と検討を行った結果、特定の含窒素塩基性化合物を研磨用組成物のpH調製に用いることによって、優れたヘイズ低減効果を発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本明細書によると、砥粒と、水と、水溶性高分子化合物と、含窒素塩基性化合物を含む、シリコンウェーハ研磨用組成物が提供される。前記含窒素塩基性化合物は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、R,R,Rは、それぞれ独立に、炭素数1~15のアルキル基および炭素数1~15のヒドロキシアルキル基からなる群から選択される基であるか、または、R、R、Rのうち2つは互いに結合し、それらが結合している窒素原子および炭素原子を含む環構造を形成し、残りの一つは炭素数1~15のアルキル基および炭素数1~15のヒドロキシアルキル基からなる群から選択される基である。);で表される。上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物を含む構成の研磨用組成物によると、シリコンウェーハの研磨におけるヘイズを好適に低減することができる。
【0008】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記R,R,Rの各々が炭素数2~6のアルキル基である。このような含窒素塩基性化合物を用いることによって、少量でヘイズを好適に低減することができる。
【0009】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記含窒素塩基性化合物はトリエチルアミンである。トリエチルアミンは、特に少量で研磨用組成物のpHを適切に調整することができ、かつ、ヘイズを適切に低減することができるため、コストの観点から特に好ましく用いることができる。
【0010】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、pHが8~12である。研磨用組成物のpHがこの範囲内に調整されるように、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物を含ませることによって、研磨レートを向上させると共にヘイズをより好適に低減することができる。
【0011】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記水溶性高分子化合物は、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも一種を含む。これによって、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物によるヘイズ低減効果がより好適に発揮される。
【0012】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記砥粒はシリカ粒子である。上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物によるヘイズの低減効果は、砥粒としてシリカ粒子を用いる研磨において好適に発揮される。
【0013】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記砥粒の平均一次粒子径は20nm以上30nm以下である。ここに開示される研磨用組成物において、かかる平均一次粒子径を有する砥粒を用いた場合、ヘイズの低減効果をより好適に発揮することができる。
【0014】
また、ここに開示される研磨用組成物は、シリコンウェーハのファイナルポリシング工程に好ましく適用することができる。かかるファイナルポリシング工程は、ポリシング工程の最後に実施される研磨工程であり、この後は研磨が実施されないため、ヘイズの低減効果を有するここに開示される研磨用組成物を特に好ましく適用することができる。
【0015】
また、本明細書によると、水と、水溶性高分子化合物と、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物を含むシリコンウェーハのリンス用組成物が提供される。かかるリンス用組成物は、例えば、砥粒の存在下で行われる研磨(典型的には、水と、水溶性高分子化合物と、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物とを含む研磨用組成物を用いて砥粒の存在下で行う研磨)の後に用いられるリンス液として好適に用いられる。上記リンス液によると、シリコンウェーハ上に残存した砥粒を除去するリンスにおいて、シリコンウェーハの表面を適切に保護してヘイズを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒と、水と、水溶性高分子と、含窒素塩基性化合物とを含む。以下、ここに開示される研磨用組成物の含有物を説明する。
【0018】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は砥粒を含む。砥粒の材質や性状は特に制限されず、使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましい。ここに開示される技術において特に好ましい砥粒として、シリカ粒子が挙げられる。ここに開示される技術は、例えば、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。
【0020】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨対象物表面にスクラッチを生じにくく、かつ良好な研磨性能(表面粗さを低下させる性能等)を発揮し得ることから、コロイダルシリカが特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカ(アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカ)を好ましく採用することができる。コロイダルシリカは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大により、研磨レートは高くなる傾向にある。かかる観点から、真比重が1.8以上(例えば1.85以上)のシリカ粒子が特に好ましい。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.2以下、例えば2.1以下である。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0022】
ここに開示される技術において、研磨用組成物中に含まれる砥粒は、一次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が会合した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態の砥粒と二次粒子の形態の砥粒とが混在していてもよい。好ましい一態様では、少なくとも一部の砥粒が二次粒子の形態で研磨用組成物中に含まれている。
【0023】
ここに開示される砥粒(典型的にはシリカ粒子)の平均一次粒子径DP1は特に限定されないが、後述する含窒素塩基性化合物によるヘイズの低減効果を好適に発揮させるという観点に基づいて適宜調整すると好ましい。典型的には、上記平均一次粒子径DP1は、1nm以上が適当であり、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上、特に好ましくは20nm以上である。また、砥粒の平均一次粒子径DP1は、200nm以下程度とすることが適当であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下、特に好ましくは30nm以下であり得る。特に、ファイナルポリシング工程では、高いレベルでヘイズを低減することが求められるため、砥粒の平均一次粒子径DP1を20nm~30nmにすることが好ましい。これによって、後述する含窒素塩基性化合物によるヘイズの低減効果をより好適に発揮させることができる。
なお、本明細書において平均一次粒子径DP1とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、BET径(nm)=2727/BET値(m/g)によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0024】
砥粒の平均二次粒子径DP2は特に限定されないが、研磨速度等の観点から、好ましくは15nm以上、より好ましくは25nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、平均二次粒子径DP2は、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましい。また、保存安定性(例えば分散安定性)の観点から、砥粒の平均二次粒子径DP2は、200nm以下が適当であり、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは70nm以下、例えば50nm以下である。砥粒の平均二次粒子径DP2は、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA-UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0025】
砥粒の平均二次粒子径DP2は、一般に砥粒の平均一次粒子径DP1と同等以上(DP2/DP1≧1)であり、典型的にはDP1よりも大きい(DP2/DP1>1)。特に限定するものではないが、研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点から、砥粒のDP2/DP1は、1.05~3の範囲にあることが適当であり、1.1~2.5の範囲が好ましく、1.2~2.4、例えば1.3~2.3の範囲がより好ましい。
【0026】
砥粒の一次粒子の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす砥粒の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。
【0027】
特に限定するものではないが、砥粒の一次粒子の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。かかる平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0028】
砥粒の一次粒子の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0029】
ここに開示される研磨用組成物における砥粒の含有量は、特に限定されず、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.075重量%以上、例えば0.1重量%以上である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、研磨対象物からの除去性等の観点から、上記含有量は、10重量%以下が適当であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下、例えば0.25重量%以下である。
【0030】
<水>
ここに開示される研磨用組成物は、水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。また、ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99~100体積%)が水であることがより好ましい。なお、本明細書では、上記溶媒および水を包含する総称として水系溶媒という語を用いる場合がある。
【0031】
<水溶性高分子化合物>
ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子化合物を含む。かかる水溶性高分子化合物は、砥粒やシリコンウェーハに吸着したり脱離したりすることによって、シリコンウェーハの表面を保護する働きを有している。ここに開示される研磨用組成物に含まれる水溶性高分子化合物の種類は、研磨用組成物の分野において公知の水溶性高分子種のなかから適宜選択することができる。水溶性高分子化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。水溶性高分子化合物の例としては、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー等の合成ポリマーや、セルロース誘導体、デンプン誘導体等の天然ポリマー等が挙げられる。
【0032】
オキシアルキレン単位を含むポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド(PEO)や、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)またはブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体等であり得る。上記トリブロック体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。なかでも、PEO-PPO-PEO型トリブロック体がより好ましい。
EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比(EO/PO)は、水への溶解性や洗浄性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上(例えば5以上)であることがさらに好ましい。
【0033】
窒素原子を含有するポリマーとしては、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。窒素原子を含有するポリマーを使用することで、基板の表面粗さを改善することができる。主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N-アセチルエチレンイミン、N-プロピオニルエチレンイミン等が挙げられる。ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、例えばN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。例えば、N-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体等を採用し得る。ここに開示される技術においては、N-ビニルピロリドンが50モル%以上の割合で重合されたN-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体の少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0034】
また、ここに開示される技術では、水溶性高分子化合物として、ポリビニルアルコール(PVA)系ポリマーを特に好ましく用いることができる。PVA系ポリマーを水溶性高分子化合物として用いた場合、後述する含窒素塩基性化合物との相互作用を特に好適に発生させることができるため、シリコンウェーハの表面を好適に保護し、優れたヘイズ低減効果を発揮できる。
【0035】
ポリビニルアルコール系ポリマーには、その繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性有機物(典型的には水溶性高分子)が用いられる。ここで、ビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)とは、次の化学式:-CH-CH(OH)-;により表される構造部分である。VA単位は、例えば、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH-CH(OCOCH)-)を加水分解(けん化)することにより生成し得る。ここに開示される技術のいくつかの態様において、ポリ酢酸ビニルのけん化度が、例えば95%以上、98%以上であるPVAを好ましく採用し得る。
【0036】
ポリビニルアルコール系ポリマーは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えてVA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含んでいてもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーが非VA単位を含む態様において、該非VA単位は、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する繰返し単位であり得る。ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位と非VA単位とを含むランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーは、一種類の非VA単位のみを含んでもよく、二種類以上の非VA単位を含んでもよい。
【0037】
ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば5%以上であってよく、10%以上でもよく、20%以上でもよく、30%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位のモル数の割合は、50%以上であってよく、65%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上(例えば95%以上、または98%以上)でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100%」とは、少なくとも意図的にはポリビニルアルコール系ポリマーに非VA単位を含有させないことをいう。他のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば95%以下であってよく、90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。
【0038】
ポリビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量(重量基準の含有量)は、例えば5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、20重量%以上でもよく、30重量%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位の含有量は、50重量%以上(例えば50重量%超)であってよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上(例えば90重量%以上、または95重量%以上、または98重量%以上)でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100重量%」とは、少なくとも意図的にはポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位として非VA単位を含有させないことをいう。他のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量は、例えば95重量%以下であってよく、90重量%以下でもよく、80重量%以下でもよく、70重量%以下でもよい。
【0039】
ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量の異なる複数のポリマー鎖を同一分子内に含んでいてもよい。ここでポリマー鎖とは、一分子のポリマーの一部を構成する部分(セグメント)を指す。例えば、ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量が50重量%より高いポリマー鎖Aと、VA単位の含有量が50重量%より低い(すなわち、非VA単位の含有量が50重量%より多い)ポリマー鎖Bとを、同一分子内に含んでいてもよい。
【0040】
ポリマー鎖Aは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えて非VA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Aを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。
【0041】
ポリマー鎖Bは、繰返し単位として非VA単位のみを含んでいてもよく、非VA単位に加えてVA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に100重量%が非VA単位であってもよい。
【0042】
ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを同一分子中に含むポリビニルアルコール系ポリマーの例として、これらのポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。上記グラフト共重合体は、ポリマー鎖A(主鎖)にポリマー鎖B(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよく、ポリマー鎖B(主鎖)にポリマー鎖A(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよい。一態様において、ポリマー鎖Aにポリマー鎖Bがグラフトした構造のポリビニルアルコール系ポリマーを用いることができる。
【0043】
ポリマー鎖Bの例としては、N-ビニル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖や、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖が挙げられる。なお、本明細書において主繰返し単位とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる繰返し単位をいう。
【0044】
ポリマー鎖Bの一好適例として、N-ビニル型のモノマーを主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわちN-ビニル系ポリマー鎖が挙げられる。N-ビニル系ポリマー鎖におけるN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0045】
N-ビニル型のモノマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーおよびN-ビニル鎖状アミドが含まれる。N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。ポリマー鎖Bは、例えば、その繰返し単位の50重量%超(例えば70重量%以上、または85重量%以上、または95重量%以上)がN-ビニルピロリドン単位であるN-ビニル系ポリマー鎖であり得る。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に全部がN-ビニルピロリドン単位であってもよい。
【0046】
ポリマー鎖Bの他の例として、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわち、N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖におけるN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0047】
N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。
【0048】
ポリマー鎖Bの他の例として、オキシアルキレン単位を主繰返し単位として含むポリマー鎖、すなわちオキシアルキレン系ポリマー鎖が挙げられる。オキシアルキレン系ポリマー鎖におけるオキシアルキレン単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bに含まれる繰返し単位の実質的に全部がオキシアルキレン単位であってもよい。
【0049】
オキシアルキレン単位の例としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等が挙げられる。このようなオキシアルキレン単位は、それぞれ、対応するアルキレンオキサイドに由来する繰返し単位であり得る。オキシアルキレン系ポリマー鎖に含まれるオキシアルキレン単位は、一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。例えば、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを組合せで含むオキシアルキレン系ポリマー鎖であってもよい。二種類以上のオキシアルキレン単位を含むオキシアルキレン系ポリマー鎖において、それらのオキシアルキレン単位は、対応するアルキレンオキシドのランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。
【0050】
ポリマー鎖Bの他の例として、アルキルビニルエーテル単位、ポリビニルアルコールとアルデヒドとをアセタール化して得られた構成単位等が挙げられる。これらの中でも、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル単位(アルキルビニルエーテル単位)、炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位(モノカルボン酸ビニルエステル単位)、および、ポリビニルアルコールと炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルデヒドとをアセタール化して得られた構成単位からなる群から選択されると好ましい。
【0051】
炭素原子数1以下10以上のアルキル基を有するビニルエーテル単位の例としては、プロピルビニルエーテル単位、ブチルビニルエーテル単位、2-エチルヘキシルビニルエーテル単位等が挙げられる。炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位の例としては、プロパン酸ビニル単位、ブタン酸ビニル単位、ペンタン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等が挙げられる。
【0052】
ここに開示される研磨用組成物に使用されるポリビニルアルコール系ポリマーは、変性されていないPVA(非変性PVA)であってもよく、VA単位および非VA単位を含む共重合体である変性PVAであってもよい。非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いてもよい。例えば、変性PVAの含有量は、PVA全量に対して、50重量%未満であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、5重量%以下であってもよく、1重量%以下であってもよい。ここに開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、非変性PVAのみを含むPVAを好ましく採用し得る。
【0053】
また、ここに開示される水溶性高分子化合物は、上述した合成ポリマーの他に、セルロース誘導体やデンプン誘導体等の天然ポリマーを用いることもできる。セルロース誘導体は、主繰返し単位としてβ-グルコース単位を含むポリマーであり、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルヒドロキシエチルセルロース、等が挙げられる。また、デンプン誘導体は、主繰返し単位としてα-グルコース単位を含むポリマーであり、アルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等が挙げられる。但し、これらは、天然物に由来しているため、ポリマー構造の局所的な乱れや異物の混入等を高度に低減することが困難である。このため、ここに開示される研磨用組成物は、高いレベルでウェーハ表面の品質を制御するという観点から、天然ポリマーを実質的に含まない方が好ましい。なお、天然ポリマーを実質的に含まないとは、少なくとも意図的には天然ポリマーを含有させないことをいう。したがって、天然ポリマー以外の水溶性高分子化合物を使用しているが、原料や製法等に由来して微量の天然ポリマーが不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう天然ポリマーを実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。例えば、天然ポリマーの含有量が0.001wt%以下、好ましくは0.0005wt%以下、より好ましくは0.0001wt%以下、特に好ましくは0.00001wt%以下であれば、天然ポリマーを実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。
【0054】
ここに開示される技術において水溶性高分子化合物の分子量は特に限定されないが、好ましい水溶性高分子化合物の分子量の範囲は、使用するポリマーの種類によって異なり得る。例えば、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマーおよびポリビニルアルコール系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、100×10以下とすることができ、60×10以下が適当である。濃縮効率等の観点から、上記Mwは、30×10以下であってもよく、好ましくは20×10以下、例えば10×10以下、典型的には8×10以下であってもよい。また、シリコンウェーハの表面を好適に保護してヘイズを低減するという観点から、Mwは例えば2000以上であってもよく、通常は5000以上であることが好ましい。いくつかの態様において、Mwは1.0×10以上が適当であり、好ましくは1.5×10以上、より好ましくは2×10以上、さらに好ましくは3×10以上、例えば4×10以上、典型的には5×10以上である。
【0055】
なお、本明細書において水溶性高分子化合物および界面活性剤の重量平均分子量(Mw)としては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。GPC測定装置としては、東ソー株式会社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定条件は以下のとおりとするとよい。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:100mM 硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=10~8/0~2
流速:1mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:200μL
【0056】
上記研磨用組成物における水溶性高分子化合物の含有量は、研磨性能や表面品質向上等の観点から、0.0005重量%以上、例えば0.0025重量%以上とすることが適当であり、好ましくは0.005重量%以上、例えば0.0075重量%以上である。上記研磨用組成物における水溶性高分子化合物の含有量の上限は、例えば0.05重量%以下とすることができる。濃縮液段階での安定性や研磨レート、洗浄性等の観点から、水溶性高分子化合物の含有量は、好ましくは0.035重量%以下、より好ましくは0.025重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.015重量%以下、例えば0.0125重量%以下、典型的には0.01重量%以下である。
【0057】
また、ここに開示される研磨用組成物における水溶性高分子化合物の含有量は、砥粒との相対的関係によっても特定され得る。具体的には、研磨用組成物における水溶性高分子化合物の含有量は、砥粒100重量部に対して0.01重量部以上とすることができる。また、ヘイズ低減等の観点からは、0.1重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、さらに好ましくは3重量部以上である。また、砥粒100重量部に対する水溶性高分子化合物の含有量は、50重量部以下であってもよく、30重量部以下とすることができる。また、安定性や研磨レート等の観点から、15重量部以下とすることが適当であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは8重量部以下、さらに好ましくは7重量部以下である。
【0058】
<含窒素塩基性化合物>
ここに開示される研磨用組成物は、下記の一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物を含む。なお、式中のR,R,Rは、それぞれ独立に、炭素数1~15のアルキル基および炭素数1~15のヒドロキシアルキル基からなる群から選択される基であり得る。なお、ここに開示される研磨用組成物は、下記の一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物の1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【化2】
【0059】
上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物を含む研磨用組成物を用いてシリコンウェーハの研磨を行うことによって、ヘイズを好適に低減できる。特に限定的に解釈されるものではないが、このような効果が得られる理由としては、例えば以下のように考えられる。上述したように、研磨用組成物は水溶性高分子化合物を含んでおり、当該水溶性高分子化合物が砥粒やシリコンウェーハに吸着したり脱離したりすることによって、シリコンウェーハの表面を保護する。ここに開示される研磨用組成物は、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物と水溶性高分子化合物とが相互作用し、水溶性高分子化合物の表面保護性能が向上するため、ヘイズを好適に低減することができると考えられる。
【0060】
以下、上記一般式(1)で表される研磨用組成物について説明する。上述したように、一般式(1)中のR,R,Rは、それぞれ独立した炭素数1~15のアルキル基またはヒドロキシアルキル基である。換言すると、R,R,Rの各々は、(CH-Xで示される構造を有しており、式中のXがメチル基、または、ヒドロキシ基であり、nが1~15である。R,R,Rは、例えば、直鎖であり得る。具体的には、R,R,Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、デシル基、イソオクチル基、またはこれらの基における水素原子の一部がヒドロキシ基で置換された構造の基、等であり得る。また、R,R,Rは、分岐を有していてもよい。具体的には、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、またはこれらの基における水素原子の一部がヒドロキシ基で置換された構造の基、等であり得る。また、R,R,Rの炭素数は、1~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がより好ましい。ヒドロキシ基による置換数は、1または2が好ましく、典型的には1である。R,R,Rの好適例として、炭素数2~6の直鎖状アルキル基、および、炭素数2~6の直鎖状アルキル基の末端の1つの水素原子がヒドロキシ基で置換されたヒドロキシアルキル基が挙げられる。
【0061】
上記含窒素塩基性化合物の一好適例としては、R,R,Rの全部がアルキル基である3級アミンが挙げられる。例えば、R,R,Rの全部が炭素原子数1~8のアルキル基であると好ましく、炭素原子数2~6のアルキル基であるとより好ましい。そのような含窒素塩基性化合物の具体例として、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、N,N-ジエチルプロピルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジエチルブチルアミン、N,N-ジメチルペンチルアミン、N,N-ジエチルペンチルアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジエチルヘキシルアミン、N-エチル-N-メチル-1-プロパンアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン;等が例示される。これらを含窒素塩基性化合物として用いた場合、少量の添加で研磨用組成物のpHを適切に調整し、かつ、ヘイズを適切に低減することができる。これらのなかでも、トリエチルアミンは、研磨用組成物のpH調整に要する添加量を特に少なくすることができるため、コストの観点から好ましく用いることができる。
【0062】
また、含窒素塩基性化合物の他の好適例としては、R,R,Rの全部がヒドロキシアルキル基であるものが挙げられる。例えば、R,R,Rの全部が炭素原子数1~8のヒドロキシアルキル基であると好ましく、炭素原子数2~6のヒドロキシアルキル基であるとより好ましい。このような含窒素塩基性化合物の具体例として、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリペンタノールアミン、トリヘキサノールアミン、トリヘプチノールアミン、トリオクチノールアミン;等が例示される。これらのなかでは、ヘイズを適切に低減することができるため、トリエタノールアミンを好ましく用いることができる。
【0063】
また、含窒素塩基性化合物の他の例としては、RとRがアルキル基であり、Rがヒドロキシアルキル基であるものが挙げられる。このときのアルキル基およびヒドロキシアルキル基の各々の炭素原子数は、1~8であると好ましく、2~6であるとより好ましい。そのような含窒素塩基性化合物の具体例として、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、ジメチルブタノールアミン、ジメチルペンタノールアミン、ジメチルヘキサノールアミン、ジメチルヘプチノールアミン、ジメチルオクチノールアミン、ジエチルメタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエチルプロパノールアミン、ジエチルブタノールアミン、ジエチルペンタノールアミン、ジエチルヘキサノールアミン、ジエチルヘプチノールアミン、ジエチルオクチノールアミン、ジプロピルメタノールアミン、ジプロピルエタノールアミン、ジプロピルプロパノールアミン、ジプロピルブタノールアミン、ジプロピルペンタノールアミン、ジプロピルヘキサノールアミン、ジプロピルヘプチノールアミン、ジプロピルオクチノールアミン、ジブチルメタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ジブチルプロパノールアミン、ジブチルブタノールアミン、ジブチルペンタノールアミン、ジブチルヘキサノールアミン、ジブチルヘプチノールアミン、ジブチルオクチノールアミン;等が例示される。
【0064】
また、含窒素塩基性化合物の他の例として、Rがアルキル基であり、RとRがヒドロキシアルキル基であるものが挙げられる。上記と同様に、このときのアルキル基およびヒドロキシアルキル基の各々の炭素原子数は、1~8であると好ましく、2~6であるとより好ましい。このような含窒素塩基性化合物の具体例として、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、メチルジプロパノールアミン、メチルジブタノールアミン、メチルジペンタノールアミン、メチルジヘキサノールアミン、エチルジメタノールアミン、エチルジエタノールアミン、エチルジプロパノールアミン、エチルジブタノールアミン、エチルジペンタノールアミン、エチルジヘキサノールアミン、プロピルジメタノールアミン、プロピルジエタノールアミン、プロピルジプロパノールアミン、プロピルジブタノールアミン、プロピルジペンタノールアミン、プロピルジヘキサノールアミン、ブチルジメタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、ブチルジプロパノールアミン、ブチルジブタノールアミン、ブチルジペンタノールアミン、ブチルジヘキサノールアミン;等が例示される。
【0065】
また、ここに開示される含窒素塩基性化合物は、R、R、Rのうち2つが互いに結合し、それらが結合している窒素原子(N)および炭素原子(C)を含む環構造を形成し、残りの一つが炭素数1~15のアルキル基および炭素数1~15のヒドロキシアルキル基からなる群から選択される基であり得る。この場合の環状構造は、炭素原子と窒素原子を環構成原子として含むヘテロ環である。このヘテロ環の環構成原子数は特に限定されないが、通常は3~9であり、典型的には4~8であり、例えば5~7である。このようなヘテロ環の一好適例としてピロール環が挙げられる。このような含窒素塩基性化合物の具体例として、1-メチルピロリジン、1-エチルピロリジン、1-プロピルピロリジン、1-ブチルピロリジン、1-ペンチルピロリジン、1-ヘキシルピロリジン;等が例示される。このような環状構造を有する含窒素塩基性化合物を用いた場合であっても、水溶性高分子化合物との相互作用を生じさせてヘイズを低減することができる。
【0066】
ここに開示される技術では、上述した式(1)で表される含窒素塩基性化合物を用いて、研磨用組成物のpHを所望の値に調整する。このとき、研磨用組成物のpHは、少なくとも8以上に調整される。また、ヘイズ低減の観点からは、8.5以上であると好ましく、9以上であるとより好ましく、9.5以上であると特に好ましく、典型的には10以上である。一方、研磨用組成物のpHの上限は、12以下とすることが好ましく、11.5以下とすることがより好ましく、11以下とすることが特に好ましく、典型的には10.5以下である。このように研磨用組成物のpHを調整することによって、研磨レートの向上を図ることができる。なお、ここに開示される技術において、液状の組成物(研磨用組成物、研磨液、リンス用組成物等)のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0067】
例えば、含窒素塩基性化合物としてトリエチルアミンを用い、研磨用組成物のpHを8~12の範囲内に調整する場合、トリエチルアミンの含有量は、0.00025mol/L以上、好ましくは0.00035mol/L以上、特に好ましくは0.0004mol/L以上に設定される。また、トリエチルアミンの含有量の上限は、0.0015mol/L以下であると好ましく、0.001mol/L以下であるとより好ましく、0.0009mol/L以下であるとより好ましい。これによって、研磨レートの向上を図ると共に、好適にヘイズを低減させることができる。一方、トリエタノールアミンを用い、研磨用組成物のpHを8~12の範囲内に調整する場合には、トリエタノールアミンの含有量は、0.005mol/L以上、好ましくは0.015mol/L以上、特に好ましくは0.02mol/L以上に設定される。また、トリエタノールアミンの含有量の上限は、0.25mol/L以下であると好ましく、0.175mol/L以下であるとより好ましく、0.125mol/L以下であると特に好ましい。また、上記のように、トリエチルアミンは、他の含窒素塩基性化合物よりも少量で研磨用組成物のpHを適切に調整でき、含有量が少量でもヘイズを好適に低減することができるため、コストの観点から特に好ましく用いることができる。
【0068】
なお、ここに開示される研磨用組成物は、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物が優位的に含まれていれば、pH調整のために他の塩基性化合物を含んでいてもよい。当該他の塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。但し、含窒素塩基性化合物によるヘイズ低減効果を好適に発揮させるという観点から、他の塩基性化合物は実質的に含まれていない方が好ましい。具体的には、他の塩基性化合物の含有量は、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物の含有量の0.1倍以下、好ましくは0.05倍以下、より好ましくは0.01倍以下、特に好ましくは0.005倍以下、例えば0.001倍以下であれば許容される。
【0069】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、緩衝剤、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には、シリコンウェーハのファイナルポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0070】
例えば、ここに開示される研磨用組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を研磨用組成物に添加することによってヘイズの低減に貢献することができる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも使用可能である。通常は、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体(例えば、ポリオキシアルキレン付加物);複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体(ジブロック型共重合体、PEO(ポリエチレンオキサイド)-PPO(ポリプロピレンオキサイド)-PEO型トリブロック体、PPO-PEO-PPO型のトリブロック共重合体等)、EOとPOとのランダム共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。なかでも好ましい界面活性剤として、EOとPOとのブロック共重合体(特に、PEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体)、EOとPOとのランダム共重合体およびポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンデシルエーテル)が挙げられる。
【0072】
界面活性剤の重量平均分子量(Mw)は、典型的には2000未満であり、濾過性や洗浄性等の観点から1900以下(例えば1800未満)が好ましい。また、界面活性剤のMwは、界面活性能等の観点から、通常、200以上が適当であり、ヘイズレベルを低下させる効果等の観点から250以上(例えば300以上)が好ましい。界面活性剤のMwのより好ましい範囲は、該界面活性剤の種類によっても異なり得る。例えば、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いる場合、そのMwは、1500以下であることが好ましく、1000以下(例えば500以下)であってもよい。また、例えば界面活性剤としてPEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体を用いる場合、そのMwは、例えば500以上であり、1000以上、さらには1200以上であってもよい。界面活性剤のMwとしては、GPCにより求められる値(水系、ポリエチレングリコール換算)を採用することができる。
【0073】
ここに開示される研磨用組成物が界面活性剤を含む場合、その含有量は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲であれば特に制限はない。通常は、洗浄性等の観点から、砥粒100重量部に対する界面活性剤の含有量を20重量部以下とすることが適当であり、15重量部以下が好ましく、10重量部以下(例えば6重量部以下)がより好ましい。界面活性剤の使用効果をよりよく発揮させる観点から、砥粒100重量部に対する界面活性剤含有量は、0.001重量部以上が適当であり、0.005重量部以上が好ましく、0.01重量部以上(例えば0.1重量部以上)がより好ましい。
また、ここに開示される研磨用組成物が界面活性剤を含む場合、水溶性高分子の含有量w1と界面活性剤の含有量w2との重量比(w1/w2)は特に制限されないが、例えば0.01~100の範囲とすることができ、0.05~50の範囲が好ましく、0.1~30の範囲がより好ましい。
あるいは、組成の単純化等の観点から、ここに開示される研磨用組成物は、界面活性剤を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0074】
キレート剤は、研磨用組成物中に含まれ得る金属不純物と錯イオンを形成してこれを捕捉することにより、金属不純物による研磨対象物の汚染を抑制する働きをする。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてアミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0075】
有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩の例としては、有機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩等が挙げられる。無機酸の例としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。無機酸塩の例としては、無機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩が挙げられる。有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0076】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、シリコンウェーハの表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより所要研磨時間が長くなってしまうためである。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量(例えば、研磨用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下、好ましくは0.0001モル以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。
【0077】
<研磨用組成物の調製>
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0078】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(典型的には、水系溶媒以外の成分)のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。なお、多剤型を採用した場合には、含窒素塩基性化合物と水溶性高分子化合物とが同じ剤に含まれている方が好ましい。これによって、含窒素塩基性化合物と水溶性高分子化合物との相互作用を好適に生じさせ、ヘイズ低減効果を好適に発揮させることができる。
【0079】
<研磨液>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物の表面上に供給され、その研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(研磨液の原液)との双方が包含される。
【0080】
<濃縮液>
上述したように、ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前の濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であり得る。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で2倍~60倍程度とすることができる。
【0081】
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の水系溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記水系溶媒が混合溶媒である場合、該水系溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記水系溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。また、後述するように多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
【0082】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば25重量%以下とすることができる。研磨用組成物の安定性(例えば、砥粒の分散安定性)や濾過性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下である。好ましい一態様において、砥粒の含有量を10重量%以下としてもよく、5重量%以下としてもよい。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、濃縮液における砥粒の含有量は、例えば0.1重量%以上とすることができ、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは0.7重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上である。
【0083】
<用途>
ここに開示される技術は、シリコンウェーハを研磨対象とする研磨に適用される。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。ここに開示される技術における研磨対象面は、典型的には、シリコンからなる表面である。
【0084】
上記シリコンウェーハには、ここに開示される研磨液を用いたポリシング工程(研磨工程)の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程よりも上流の工程においてシリコンウェーハに実施され得る一般的な処理が施されていてもよい。また、ここに開示される技術では、ポリシング工程において、予備ポリシング工程(粗研磨工程)とファイナルポリシング工程(仕上げ研磨工程)とが実施され得、ファイナルポリシング工程を経て、シリコンウェーハの表面が高品質な鏡面に仕上げられる。なお、ファイナルポリシング工程とは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。ここに開示される研磨用組成物は、ヘイズ低減効果を有しているため、研磨後の表面状態が高品質であることが特に要求されるファイナルポリシング工程に好ましく適用することができる。
【0085】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、シリコンウェーハの研磨に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨する方法の好適な一態様につき説明する。すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(典型的にはスラリー状の研磨液であり、研磨スラリーと称されることもある。)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
【0086】
次いで、その研磨液をシリコンウェーハ上に供給し、常法により研磨する。例えば、シリコンウェーハのファイナルポリシング工程を行う場合には、ラッピング工程および予備ポリシング工程を経たシリコンウェーハを一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコンウェーハの表面(研磨対象面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかるファイナルポリシング工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。なお、上記工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。
【0087】
<リンス用組成物>
研磨用組成物を用いて研磨されたシリコンウェーハは、砥粒を含まない他は研磨用組成物と同じ成分を含むリンス液を用いてリンスされ得る。換言すると、ここに開示される技術では、砥粒を含まない他は上記研磨用組成物と同じ成分を含むリンス液を用いてシリコンウェーハをリンスする工程(リンス工程)を有してもよい。リンス工程により、シリコンウェーハの表面の欠陥やヘイズの原因となる砥粒等の残留物を低減させることができる。リンス工程は、ポリシング工程とポリシング工程との間に行われてもよいし、ファイナルポリシング工程の後であって後述の洗浄工程の前に行われてもよい。かかるリンス液は、典型的には水溶性高分子化合物と含窒素塩基性化合物と水とを含むシリコンウェーハのリンス用組成物(具体的には、シリコンウェーハ研磨のリンスに用いられる組成物。リンス用組成物ともいう。)であり得る。かかるリンス用組成物に、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物を含ませることにより、シリコンウェーハの表面を好適に保護しながらリンスを行うことができる。なお、このシリコンウェーハのリンス用組成物の組成等については、砥粒を含まない他は上述のシリコンウェーハ研磨用組成物と基本的に同じなので、ここでは説明は繰り返さない。
【0088】
<洗浄>
また、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨された研磨物は、典型的には、研磨後に(必要であればリンス後に)洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液(水酸化アンモニウム(NHOH)と過酸化水素(H)と水(HO)との混合液。以下、SC-1洗浄液を用いて洗浄することを「SC-1洗浄」という。)、SC-2洗浄液(HClとHとHOとの混合液。)等を用いることができる。洗浄液の温度は、例えば常温~90℃程度とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
【0089】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0090】
≪試験A≫
<研磨用組成物の調製>
(実施例1A)
砥粒と水溶性高分子と脱イオン水と含窒素塩基性化合物とを混合して研磨用組成物を調製した。砥粒としてはコロイダルシリカ(平均一次粒径:25nm、平均二次粒子径:46nm)を使用し、その含有量を3.5%とした。水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)を使用した。PVAは、重量平均分子量(Mw)が約70000、けん化度が98%以上のものを使用し、その含有量を0.175%とした。また、本例では、含窒素塩基性化合物としてトリエチルアミンを使用し、その含有量を0.012mol/Lとした。これらを脱イオン水で20倍に希釈し、研磨用組成物のpHを10.2に調整した。研磨用組成物中の各成分の含有量は表1の通りである。
【0091】
(実施例2A)
本例では、トリエチルアミンに代えてトリエタノールアミンを使用した。その他の点は実施例1Aと同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
【0092】
(比較例1A)
本例では、トリエチルアミンに代えてアンモニア(NH)を使用した。その他の点は実施例1Aと同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
【0093】
(比較例2A~6A)
比較例2A~6Aでは、トリエチルアミンに代えて表1に示すアミンを使用した。各比較例におけるアミンの含有量は表1に示す通りである。なお、その他の点は実施例1Aと同様とした。
【0094】
<シリコンウェーハの研磨>
本試験では、予備ポリシング工程とファイナルポリシング工程とからなるポリシング工程を行い、シリコンウェーハを研磨した。シリコンウェーハとしては、直径が200mm、伝導型がP型、結晶方位が<100>のCOP(Crystal Originated Particle:結晶欠陥)フリーのシリコンウェーハを用いた。
【0095】
予備ポリシング工程では、砥粒(平均一次粒子径が35nmのコロイダルシリカ)と、水酸化カリウム(KOH)と、脱イオン水とを混合した予備研磨液を使用し、下記の条件で研磨した。なお、予備研磨液における砥粒の含有量は0.95%とし、水酸化カリウムの含有量は0.065%とした。
【0096】
(予備ポリシング工程の条件)
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨装置 型式「PNX-322」
研磨荷重:15kPa
定盤の回転速度:30rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:30rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛株式会社製 製品名「FP55」
予備研磨液の供給レート:550mL/min
予備研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:3min
【0097】
次に、ファイナルポリシング工程では、各例に係る研磨用組成物を研磨液として使用し、下記の条件でシリコンウェーハの表面を研磨した。
【0098】
(ファイナルポリシング工程の条件)
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨装置 型式「PNX-322」
研磨荷重:15kPa
定盤の回転速度:30rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:30rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛株式会社製 製品名「POLYPAS27NX」
研磨液の供給レート:400mL/min
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:4min
【0099】
そして、研磨後のシリコンウェーハを洗浄(SC-1洗浄)した。本工程では、先ず、洗浄液を収容した洗浄槽を2つ用意し、各々の洗浄槽中の洗浄液の温度を60℃に保持した。次に、ファイナルポリシング工程後のシリコンウェーハを第1の洗浄槽に6分間浸漬した後、超純水に浸漬した状態で超音波発振器を用いて超音波処理を行った。そして、第2の洗浄槽に5分間浸漬した後、スピンドライヤーを用いて乾燥させた。なお、本工程では、洗浄液として、水酸化アンモニウム(NHOH)と過酸化水素水(H)と脱イオン水(DIW)とを、体積比で1:1:15の割合で混合した混合液を用いた。
【0100】
<ヘイズ測定>
洗浄後のシリコンウェーハ表面につき、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置、商品名「Surfscan SP2XP」を用いて、DWOモードでヘイズ(ppm)を測定した。得られた結果を、比較例1Aについてのヘイズ値を100%とする相対値(ヘイズ比)に換算して表1に示した。なお、ヘイズ比が100%未満である場合に、へイズ低減効果が有意に確認できるものとする。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示されるように、含窒素塩基性化合物としてトリエチルアミンやトリエタノールアミンを用いた実施例1A、2Aは、他の含窒素塩基性化合物を用いた比較例1A~6Aと比べてヘイズが低かった。この結果から、トリエチルアミンやトリエタノールアミンのような上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物を含む研磨組成物を用いた研磨によると、研磨後のシリコンウェーハ表面におけるヘイズの発生を好適に低減し得ることがわかる。特に、実施例1Aでは、含窒素塩基性化合物の含有量が少なくなっているにも関わらず、十分なヘイズ低減効果が発揮されていた。このことから、上記一般式(1)で表される含窒素塩基性化合物の中でも、トリエチルアミンは、少量の含有量でも、ヘイズを好適に低減することができるため、コストの観点から好ましいことがわかる。
【0103】
≪試験B≫
<研磨用組成物の調製>
(実施例1B~3B)
実施例1B~3Bでは、研磨用組成物の目標pHを変更してトリエチルアミンの含有量を異ならせた点を除いて、上記試験Aの実施例1Aと同様の条件で研磨用組成物を調製した。各例における目標pHとトリエチルアミンの含有量は表2に示す通りである。
【0104】
(実施例4B~6B)
実施例4B~6Bでは、研磨用組成物の目標pHを変更してトリエタノールアミンの含有量を異ならせた点を除いて、上記試験Aの実施例2Aと同様の条件で研磨用組成物を調製した。各例における目標pHとトリエタノールアミンの含有量は表2に示す通りである。
【0105】
(比較例1B)
比較のために、上記試験Aの比較例1Aと同じ条件で研磨用組成物を調製した。
【0106】
<シリコンウェーハの研磨>
実施例1B~6B及び比較例1Bの研磨用組成物を研磨液として使用して、シリコンウェーハのファイナルポリシング工程を行った。なお、研磨条件および洗浄条件は上述の試験Aと同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0107】
<ヘイズ測定>
各例の研磨用組成物を用いてファイナルポリシング工程が行われたシリコンウェーハの表面について、上述の試験Aと同じ手順に従ってヘイズを測定した。得られた結果を、比較例1Bについてのヘイズ値を100%とする相対値(ヘイズ比)に換算して表2に示した。なお、ヘイズ比が100%未満である場合に、へイズ低減効果が有意に確認できるものとする。
【0108】
【表2】
【0109】
表2に示すように、実施例1B~6Bの何れにおいても、ヘイズ低減効果が適切に発揮されていることが確認できた。このことから、研磨用組成物の目標pHを上記した試験Aとは異なる値に設定し、含窒素塩基性化合物の含有量を変化させた場合でも、シリコンウェーハのヘイズを好適に低減できることがわかる。
【0110】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。