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  • 特許-有機ELデバイス及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】有機ELデバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/84 20230101AFI20230815BHJP
   H10K 71/12 20230101ALI20230815BHJP
【FI】
H10K50/84
H10K71/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019120215
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021005540
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海保 昭雄
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/038356(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/038171(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/084209(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/190636(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0190673(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0005149(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 50/88
H10K 59/00 - 59/95
H10K 71/10 - 71/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光領域を有する有機ELデバイスであって、
基板と、
前記発光領域を取り囲むように前記基板上に配置される、厚み及び幅を有するバンクと、
有機層構造部と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)と、を有し、
前記有機層構造部は、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含み、
前記部分(B)における最大膜厚TBSが前記部分(A)における中心膜厚TACよりも大きい、有機ELデバイス。
【請求項2】
発光領域を有する有機ELデバイスであって、
基板と、
前記発光領域を取り囲むように前記基板上に配置される、厚み及び幅を有するバンクと、
有機層構造部と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)と、を有し、
前記有機層構造部は、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含み、
前記Lが2.5mm以上である、有機ELデバイス。
【請求項3】
発光領域を有する有機ELデバイスであって、
基板と、
前記発光領域を取り囲むように前記基板上に配置される、厚み及び幅を有するバンクと、
有機層構造部と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)と、を有し、
前記有機層構造部は、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含み、
前記有機層構造部は、2以上の有機層で構成され、
前記有機層構造部は、第1有機層と、前記第1有機層上に配置される第2有機層とを含み、
前記第1有機層は、前記発光領域内に配置される部分(A1)と、前記バンクの幅方向における長さLB1を有して前記バンク上に配置される部分(B1)と、を有し、
前記第2有機層は、前記発光領域内に配置される部分(A2)と、前記バンクの幅方向における長さLB2を有して前記バンク上に配置される部分(B2)と、を有し、
前記LB2が前記LB1と同じか又はそれよりも大きい、有機ELデバイス。
【請求項4】
発光領域を有する有機ELデバイスであって、
基板と、
前記発光領域を取り囲むように前記基板上に配置される、厚み及び幅を有するバンクと、
有機層構造部と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)と、を有し、
前記有機層構造部は、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含み、
前記発光領域は、少なくとも1辺の長さが1mm以上である方形形状を有する、有機ELデバイス。
【請求項5】
前記有機層構造部の全ての端部が前記バンク上に位置している、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機ELデバイス。
【請求項6】
前記バンクの少なくとも上面が撥液性を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機ELデバイス。
【請求項7】
前記バンクが単層構造である、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機ELデバイス。
【請求項8】
発光領域を有する有機ELデバイスの製造方法であって、
前記発光領域を規定するための、厚み及び幅を有するバンクを基板上に形成する工程と、
前記バンクの少なくとも上面の撥液性を制御する工程と、
前記バンクが形成された基板上に、塗布法により有機層構造部を形成する工程と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)とを有するように、かつ、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含むように形成され、
前記有機層構造部は、前記部分(B)における最大膜厚TBSが前記部分(A)における中心膜厚TACよりも大きくなるように形成される、有機ELデバイスの製造方法。
【請求項9】
発光領域を有する有機ELデバイスの製造方法であって、
前記発光領域を規定するための、厚み及び幅を有するバンクを基板上に形成する工程と、
前記バンクの少なくとも上面の撥液性を制御する工程と、
前記バンクが形成された基板上に、塗布法により有機層構造部を形成する工程と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)とを有するように、かつ、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含むように形成され、
前記有機層構造部は、前記Lが2.5mm以上となるように形成される、有機ELデバイスの製造方法。
【請求項10】
発光領域を有する有機ELデバイスの製造方法であって、
前記発光領域を規定するための、厚み及び幅を有するバンクを基板上に形成する工程と、
前記バンクの少なくとも上面の撥液性を制御する工程と、
前記バンクが形成された基板上に、塗布法により有機層構造部を形成する工程と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)とを有するように、かつ、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含むように形成され、
前記有機層構造部は、2以上の有機層で構成され、
有機層構造部を形成する工程は、
前記バンクが形成された基板上に、第1有機層形成用の塗布液を塗布して第1塗布膜を形成する工程と、
前記第1塗布膜を乾燥させて第1有機層を形成する工程と、
前記第1有機層上に、第2有機層形成用の塗布液を塗布して第2塗布膜を形成する工程と、
前記第2塗布膜を乾燥させて第2有機層を形成する工程と、
を含み、
前記第1有機層は、前記発光領域内に配置される部分(A1)と、前記バンクの幅方向における長さLB1を有して前記バンク上に配置される部分(B1)と、を有するように形成され、
前記第2有機層は、前記発光領域内に配置される部分(A2)と、前記バンクの幅方向における長さLB2を有して前記バンク上に配置される部分(B2)と、を有するように、かつ、前記LB2が前記LB1と同じか又はそれよりも大きくなるように形成される、有機ELデバイスの製造方法。
【請求項11】
発光領域を有する有機ELデバイスの製造方法であって、
前記発光領域を規定するための、厚み及び幅を有するバンクを基板上に形成する工程と、
前記バンクの少なくとも上面の撥液性を制御する工程と、
前記バンクが形成された基板上に、塗布法により有機層構造部を形成する工程と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)とを有するように、かつ、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含むように形成され、
前記有機層構造部を形成する工程は、
前記バンクが形成された基板上に、第1有機層形成用の塗布液を塗布して第1塗布膜を形成する工程と、
前記第1塗布膜を乾燥させて第1有機層を形成する工程と、
を含み、
前記撥液性を制御する工程は、前記バンクの少なくとも上面の前記第1有機層形成用の塗布液に対する接触角を10度未満にする工程を含む、有機ELデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELデバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)デバイスは、有機化合物の電界発光を利用した発光素子を含むデバイスである。
特開2007-035347号公報(特許文献1)には、基板上に撥液性の隔壁(バンク)を設け、この隔壁によって区画される領域に機能層を形成したエレクトロルミネッセンス素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-035347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バンクによって発光領域を規定した面発光の有機ELデバイスにおいては、その発光領域内で発光輝度にムラが生じることがあった。
本発明の目的は、発光輝度のムラが低減された発光領域を有する有機ELデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す有機ELデバイス及び有機ELデバイスの製造方法を提供する。
[1] 発光領域を有する有機ELデバイスであって、
基板と、
前記発光領域を取り囲むように前記基板上に配置される、厚み及び幅を有するバンクと、
有機層構造部と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)と、を有し、
前記有機層構造部は、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含む、有機ELデバイス。
[2] 前記部分(B)における最大膜厚TBSが前記部分(A)における中心膜厚TACよりも大きい、[1]に記載の有機ELデバイス。
[3] 前記有機層構造部の全ての端部が前記バンク上に位置している、[1]又は[2]に記載の有機ELデバイス。
[4] 前記Lが2.5mm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の有機ELデバイス。
[5] 前記有機層構造部は、2以上の有機層で構成される、[1]~[4]のいずれかに記載の有機ELデバイス。
[6] 前記有機層構造部は、第1有機層と、前記第1有機層上に配置される第2有機層とを含み、
前記第1有機層は、前記発光領域内に配置される部分(A1)と、前記バンクの幅方向における長さLB1を有して前記バンク上に配置される部分(B1)と、を有し、
前記第2有機層は、前記発光領域内に配置される部分(A2)と、前記バンクの幅方向における長さLB2を有して前記バンク上に配置される部分(B2)と、を有し、
前記LB2が前記LB1と同じか又はそれよりも大きい、[5]に記載の有機ELデバイス。
[7] 前記バンクの少なくとも上面が撥液性を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の有機ELデバイス。
[8] 前記バンクが単層構造である、[1]~[7]のいずれかに記載の有機ELデバイス。
[9] 前記発光領域は、少なくとも1辺の長さが1mm以上である方形形状を有する、[1]~[8]のいずれかに記載の有機ELデバイス。
[10] 発光領域を有する有機ELデバイスの製造方法であって、
前記発光領域を規定するための、厚み及び幅を有するバンクを基板上に形成する工程と、
前記バンクの少なくとも上面の撥液性を制御する工程と、
前記バンクが形成された基板上に、塗布法により有機層構造部を形成する工程と、
を含み、
前記有機層構造部は、前記発光領域内に配置される部分(A)と、前記バンクの幅方向における長さLを有して前記バンク上に配置される部分(B)とを有するように、かつ、前記部分(A)における最大膜厚をTASとし、前記部分(A)における中心膜厚をTACとするとき、下記式:
AS/TAC≦1.1
を満たす部分を含むように形成される、有機ELデバイスの製造方法。
[11] 前記有機層構造部は、前記部分(B)における最大膜厚TBSが前記部分(A)における中心膜厚TACよりも大きくなるように形成される、[10]に記載の有機ELデバイスの製造方法。
[12] 前記有機層構造部は、前記Lが2.5mm以上となるように形成される、[10]又は[11]に記載の有機ELデバイスの製造方法。
[13] 前記有機層構造部は、2以上の有機層で構成される、[10]~[12]のいずれかに記載の有機ELデバイスの製造方法。
[14] 有機層構造部を形成する工程は、
前記バンクが形成された基板上に、第1有機層形成用の塗布液を塗布して第1塗布膜を形成する工程と、
前記第1塗布膜を乾燥させて第1有機層を形成する工程と、
前記第1有機層上に、第2有機層形成用の塗布液を塗布して第2塗布膜を形成する工程と、
前記第2塗布膜を乾燥させて第2有機層を形成する工程と、
を含み、
前記第1有機層は、前記発光領域内に配置される部分(A1)と、前記バンクの幅方向における長さLB1を有して前記バンク上に配置される部分(B1)と、を有するように形成され、
前記第2有機層は、前記発光領域内に配置される部分(A2)と、前記バンクの幅方向における長さLB2を有して前記バンク上に配置される部分(B2)と、を有するように、かつ、前記LB2が前記LB1と同じか又はそれよりも大きくなるように形成される、[13]に記載の有機ELデバイスの製造方法。
[15] 前記撥液性を制御する工程は、前記バンクの少なくとも上面の前記第1有機層形成用の塗布液に対する接触角を10度未満にする工程を含む、[10]~[14]のいずれかに記載の有機ELデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
発光輝度のムラが低減された発光領域を有する有機ELデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る有機ELデバイスが有することができるバンク付き基板の一例を示す概略平面図である。
図2】本発明に係る有機ELデバイスの一例におけるバンク周辺を一部拡大して示す概略断面図である。
図3】本発明に係る有機ELデバイスの他の一例におけるバンク周辺を一部拡大して示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態を示しながら本発明について説明する。同一の要素には同一符号を付する。重複する説明は省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない場合がある。
【0009】
<有機ELデバイス>
本発明に係る有機ELデバイス(以下、単に「有機ELデバイス」ともいう。)は、基板と、該基板上に配置されるバンクと、有機層構造部とを含む。バンクは、有機ELデバイスの発光領域を規定するものであり、該発光領域を取り囲むように基板上に配置される。有機ELデバイスの発光領域とは、電圧の印加によって発光する二次元的な区域のうち、上記バンクによって取り囲まれた区域を意味する。
有機ELデバイスは、発光領域を1つのみ有していてもよいし、2以上有していてもよい。
例えば、2以上の発光領域は、基板上に二次元配列(又はマトリックス状)に配置されていてもよい。各列における発光領域の間の間隔、各行における発光領域の間の間隔、発光領域の配置例及び発光領域の数等は、有機ELデバイスの仕様等に応じて適宜設定される。
有機ELデバイスは、トップエミッション型のデバイスでもよいし、ボトムエミッション型のデバイスでもよい。
【0010】
有機ELデバイスの発光領域には、発光を生じさせるための構造部である発光部が設けられている。発光部は、少なくとも、基板側から順に、第1電極(例えば、陽極)と、有機層構造部と、第2電極(例えば、陰極)とを含む。有機層構造部は、有機層で構成され、1層又は2層以上の有機層を含んでいてもよい。有機層構造部は、有機ELデバイスの発光に寄与する層である。
【0011】
有機ELデバイスの構成及び有機ELデバイスの構成要素についてより詳細に説明する。
【0012】
(1)基板
図1は、本発明に係る有機ELデバイスが有することができるバンク付き基板の一例を示す概略平面図である。図1に示されるバンク付き基板10は、基板11と、第1電極12(例えば、陽極)と、バンク13とを有する。
基板11は、第1電極12及びバンク13を支持する支持体であり、例えば、可視光(波長400nm~800nmの光)に対して透光性を有する板状の透明部材である。
基板11の厚みは、例えば30μm以上1100μm以下である。基板11は、例えばガラス基板又はシリコン基板等のリジッド基板であってもよいし、プラスチック基板又は高分子フィルム等の可撓性基板であってもよい。可撓性基板を用いることで、有機ELデバイスが可撓性を有し得る。
【0013】
基板11には発光部を駆動させるための回路が予め形成されていてもよい。基板11には、例えばTFT(Thin Film Transistor)やキャパシタ等があらかじめ形成されていてもよい。
【0014】
(2)第1電極
第1電極12は、例えば陽極である。ただし、第1電極12が陰極であり、第2電極が陽極であってもよい。
第1電極12の平面視形状(基板11の厚み方向から見た形状)としては、例えば、長方形、正方形等の四角形、他の多角形、及び、四角形や他の多角形において角部に丸味を付けた形状等が挙げられる。第1電極12の平面視形状は、円形又は楕円形でもよい。また、第1電極12の平面視形状は、四角形や他の多角形において、少なくとも1辺を弧状(例えば円弧状)にした形状でもよい。
本明細書において、平面視とは、層等の厚み方向から見ることを意味する。
【0015】
第1電極12は、金属酸化物、金属硫化物又は金属等からなる薄膜を用いることができ、具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、又は銅等からなる薄膜が用いられる。
有機ELデバイスが基板11側から光を出射する場合、光透過性を示す第1電極12が用いられる。
【0016】
第1電極12の厚みは、光透過性、電気伝導度等を考慮して適宜決定することができる。第1電極12の厚みは、例えば10nm以上10μm以下であり、好ましくは20nm以上1μm以下であり、より好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0017】
一実施形態において、第1電極12と基板11との間には、絶縁層等で構成される層が設けられてもよい。絶縁層等で構成される層を基板11の一部とみなすこともできる。
【0018】
(3)バンク
バンク13は、有機ELデバイスの発光領域14を規定するための厚み及び幅を有する隔壁であり、換言すれば、発光領域14を取り囲むように配置される厚み及び幅を有する隔壁である。バンク13は、基板11上、より具体的には、基板11上に形成された第1電極12上に配置される。この際、第1電極12と第2電極との短絡防止の観点から、図1に示されるように、第1電極12の周縁部の少なくとも一部の直上に配置されるようにバンク13を配置することが好ましい。
【0019】
バンク13は、基板11の表面上において予め設定されている発光領域14を区画するために、開口を有するようなパターンで基板11上に設けられる。
図1に示される例において、バンク13の平面視形状は四角枠形状を有しているが、これに限定されるものではなく、バンク13が有する開口形状及び外形形状(いずれも平面視形状)は、所望する発光領域14の形状や基板11の形状(いずれも平面視形状)等に応じて適宜選択される。
バンク13が有する開口形状(すなわち、発光領域14の形状)は通常、その面積が1mm以上であり、好ましくは5mm以上であり、また、通常1m以下である。
一実施形態において、バンク13が有する開口形状(すなわち、発光領域14の形状)は、図1に示されるように、正方形、長方形等の方形形状であり、かつ、その少なくとも1辺の長さは1mm以上であり、2以上の辺又はすべての辺の長さが1mm以上であってもよい。辺の長さは、5mm以上であってもよく、10mm以上であってもよく、さらには20mm以上であってもよい。バンク13が有する開口形状が方形形状である場合において、1辺の長さは、通常1000mm以下である。
発光領域14の面積が大きいほど、発光輝度のムラが視認されやすい傾向にあることから、本発明は、少なくとも1辺の長さが1mm以上である場合のように発光領域14の面積が大きい場合にとりわけ有利である。
【0020】
バンク13は、例えば、1種類以上の樹脂組成物から構成することができる。
後述する塗布法によって有機層構造部を構成する第1有機層等の有機層を形成する場合、バンク13は、該バンクによって発光領域14を好適に規定(区画)できるようにする観点、及びバンク13よりも外側に有機層が濡れ広がらないようにする観点から、好ましくは、少なくともその上面(基板11とは反対側の面)が撥液性を有しており、より好ましくは、その上面及びその側面が撥液性を有している。
バンク13の少なくとも上面が撥液性を有していることは、バンク13の少なくとも上面に接するように形成した塗布膜を加熱して有機層を形成する乾燥工程において、塗布膜の収縮ムラを抑制するうえでも有利である。
本明細書における撥液性とは、塗布法で使用する有機層形成用の塗布液に対する撥液性である。「有機層形成用の塗布液に対する撥液性」における有機層は通常、第1電極12上に最初に形成される有機層(最も第1電極12寄りの有機層)、すなわち、第1有機層である。
【0021】
少なくともその上面が撥液性を有するバンク13としては、撥液剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなる層、撥液剤を含む感光性樹脂組成物の硬化物からなる層、又は撥液剤を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層等であるバンク、熱可塑性樹脂からなる層、感光性樹脂組成物の硬化物からなる層又は熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層等の少なくとも上面に撥液処理を施してなるバンク等が挙げられる。
撥液処理としては、フッ素樹脂等を含有する撥液剤を塗布する処理、撥液剤の塗布後に、塗布面に紫外線等の活性エネルギー線を照射する処理等が挙げられる。
UVオゾン処理によってバンク13の少なくとも上面の撥液性を制御してもよい。
撥液剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなる層、撥液剤を含む感光性樹脂組成物の硬化物からなる層、又は撥液剤を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層の少なくとも上面に上記撥液処理をさらに施してもよい。
【0022】
発光輝度のムラが低減された発光領域を有する有機ELデバイスを提供するうえでより有利であることから、上記塗布液に対するバンク13の上面の接触角は、10度未満であることが好ましく、9度以下であることがより好ましく、8度未満であることがさらに好ましい。同様の理由で、上記塗布液に対するバンク13の側面の接触角は、10度未満であることが好ましく、9度以下であることがより好ましく、8度未満であることがさらに好ましい。
上記接触角は、後述する[実施例]に記載の方法に従って測定される。
【0023】
バンク13は、単層構造であってもよいし、厚み方向に2以上の層を積層した多層構造をあってもよい。バンク13の作製がより容易であることから、バンク13は、好ましくは単層構造である。
【0024】
バンク13の断面形状は特に制限されず、例えば、バンク13の発光領域14に望む側面は、基板11の表面に対して直交していてもよいし、鋭角をなすように傾斜していてもよい(順テーパ型)。
【0025】
バンク13の厚み(高さ)は、例えば0.3μm以上10μm以下程度であり、好ましくは0.5μm以上5μm以下である。
バンク13の幅(図1に示されるW)は、例えば0.5mm以上20mm以下程度であり、好ましくは1mm以上10mm以下である。
バンク13の外形形状(平面視形状)が方形形状である場合、その1辺の長さは、例えば0.5mm以上1000mm以下程度であり、好ましくは1mm以上1000mm以下程度である。
【0026】
バンク付き基板10は、例えば、基板11に予め設定される発光領域14上に第1電極12を形成した後、バンク13を形成することで製造することができる。
【0027】
バンク13は、例えば、塗布法を利用して形成することができる。具体的には、バンク13の材料を含む塗布液を、第1電極12が形成された基板11に塗布してなる塗布膜を乾燥させ、必要に応じて硬化処理を施した後、その塗布膜を所定の形状にパターニングすることで形成できる。塗布法としては、例えば、スピンコート法、スリットコート法等が挙げられる。バンク13の材料を含む塗布液の溶媒は、バンク13の材料を溶解できる溶媒であればよい。
【0028】
また、バンク13は、例えばインクジェット塗布法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサー塗布法、ノズルコート法等によりパターニングされた塗布膜を形成し、必要に応じて硬化処理を施す直描方式によって形成することもできる。
【0029】
(4)有機層構造部
上述のように、有機ELデバイスの発光領域には発光部が設けられ、発光部は、少なくとも、第1電極(例えば、陽極)と、有機層構造部と、第2電極(例えば、陰極)とを含む。第1電極と第2電極との間に、有機層構造部は、有機層で構成され、1層又は2層以上の有機層を含んでいてもよく、通常は、2層以上の有機層が設けられる。
本明細書において、第1有機層とは、第1電極12上に最初に形成される有機層(最も第1電極12寄りの有機層)を意味する。第1有機層は、好ましくは正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層又は電子注入層であり、より好ましくは正孔注入層又は発光層であり、さらに好ましくは正孔注入層である。
【0030】
第1有機層が正孔注入層、電子輸送層又は電子注入層である場合、発光部は、第1有機層以外の有機層として、少なくとも発光層をさらに有する。
第1有機層が発光層である場合、発光部は有機層として第1有機層のみを有していてもよいが、他の有機層をさらに含むことが好ましい。
【0031】
正孔注入層は、陽極(例えば、第1電極12)から発光層への正孔注入効率を改善する機能を有する有機層である。
正孔注入層の材料は公知の正孔注入材料が用いられ得る。正孔注入材料としては、例えば、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム及び酸化アルミニウム等の酸化物;フェニルアミン化合物;スターバースト型アミン化合物;フタロシアニン化合物;アモルファスカーボン;ポリアニリン;ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体が挙げられる。
【0032】
発光層は、所定の波長の光を発光する機能を有する有機層である。
発光層は通常、主として蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、あるいは、該有機物とこれを補助するドーパントとから形成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。
発光層に含まれる有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよい。発光層を構成する発光材料としては、例えば、下記の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料が挙げられる。
【0033】
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン若しくはその誘導体、テトラフェニルブタジエン若しくはその誘導体、トリフェニルアミン若しくはその誘導体、オキサジアゾール若しくはその誘導体、ピラゾロキノリン若しくはその誘導体、ジスチリルベンゼン若しくはその誘導体、ジスチリルアリーレン若しくはその誘導体、ピロール若しくはその誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン若しくはその誘導体、ペリレン若しくはその誘導体、オリゴチオフェン若しくはその誘導体、オキサジアゾールダイマー若しくはその誘導体、ピラゾリンダイマー若しくはその誘導体、キナクリドン若しくはその誘導体、クマリン若しくはその誘導体等が挙げられる。
【0034】
金属錯体系の発光材料としては、例えば、Tb、Eu、Dy等の希土類金属、又はAl、Zn、Be、Pt、Ir等を中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を配位子に有する金属錯体が挙げられる。金属錯体としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体等が挙げられる。
【0035】
高分子系の発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリパラフェニレン若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、ポリアセチレン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体の他、上記色素材料、金属錯体材料を高分子化した材料等が挙げられる。
【0036】
上記発光材料のうち、赤色に発光する材料(以下、「赤色発光材料」ともいう。)としては、例えば、クマリン若しくはその誘導体、チオフェン環化合物、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が挙げられる。赤色発光材料としては、特開2011-105701号公報に開示されている材料も挙げられる。
【0037】
緑色に発光する材料(以下、「緑色発光材料」ともいう。)としては、例えば、キナクリドン若しくはその誘導体、クマリン若しくはその誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が挙げられる。緑色発光材料としては、特開2012-036388号公報に開示されている材料も挙げられる。
【0038】
青色に発光する材料(以下、「青色発光材料」ともいう。)としては、例えば、ジスチリルアリーレン若しくはその誘導体、オキサジアゾール若しくはその誘導体、及びそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリパラフェニレン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が挙げられる。青色発光材料としては、特開2012-144722号公報に開示されている材料も挙げられる。
【0039】
ドーパント材料としては、例えば、ペリレン若しくはその誘導体、クマリン若しくはその誘導体、ルブレン若しくはその誘導体、キナクリドン若しくはその誘導体、スクアリウム若しくはその誘導体、ポルフィリン若しくはその誘導体、スチリル色素、テトラセン若しくはその誘導体、ピラゾロン若しくはその誘導体、デカシクレン若しくはその誘導体、フェノキサゾン若しくはその誘導体等が挙げられる。
【0040】
発光層の厚みは、用いる材料によって最適値が異なり、求められる特性及び層の形成し易さ等を勘案して適宜決定される。発光層の厚みは、例えば1nm以上1μm以下であり、好ましくは2nm以上500nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下である。
【0041】
電子注入層は、陰極から発光層への電子注入効率を改善する機能を有する層である。
電子注入層には公知の電子注入材料を用いることができる。
電子注入層の厚みは、用いる材料等によっても異なるが、例えば1nm以上50nm以下である。
【0042】
(5)有機層構造部の配置構成及び膜厚
有機層構造部は、発光部を形成する要素であり、基本的には、バンク13によって規定された発光領域14(バンク13の開口部)内に形成されるものであるが、本発明は、有機層構造部が発光領域14内に配置される部分(A)と、バンク13上に配置される部分(B)とを有することを特徴とする。
【0043】
図2は、本発明に係る有機ELデバイスの一例におけるバンク周辺を一部拡大して示す概略断面図である。
図2に示される例において、有機層構造部1は、発光領域14内に配置される部分(A)と、バンク13上に配置される部分(B)とを有する。有機層構造部1が発光領域14を越えてバンク13上にまで延在している部分、すなわち部分(B)の長さは、バンク13の幅W方向における長さで、長さLであり、Lはゼロより大きく、好ましくはバンク13の幅Wよりも小さい。
【0044】
塗布法等によって有機層構造部1を形成する場合、有機層構造部1は、バンク13の発光領域14側端部近傍において、厚みが最も大きい部分を有する。
本明細書において、有機層構造部1の部分(A)における最大膜厚を「TAS」という。部分(A)が最大膜厚TASを有する位置は、通常、バンク13の発光領域14側端部より約100μmの位置から、発光領域14側端部より約1000μmの位置までの範囲に存在する。
また、本明細書において、有機層構造部1の部分(A)における中心膜厚を「TAC」という。中心膜厚TACとは、部分(A)の中心点での膜厚をいう。
部分(B)を有するように、すなわち、端部がバンク13上に位置するように有機層構造部1を形成することにより、TASとTACとの比TAS/TACを1に近づけることができ、これにより、発光領域14内での発光輝度のムラを低減することができる。
発光輝度のムラを低減させる観点から、比TAS/TACは、1.0以上1.1以下であり、好ましくは1.0以上1.05以下であり、より好ましくは1.0である。
部分(B)を有する有機層構造部1を形成するための方法としては、有機層構造部1を構成する有機層を形成するための塗布液を用いた塗布法が好ましく、より好ましくはインクジェット印刷法である。
【0045】
発光輝度のムラを低減させる観点から、長さLは、好ましくは2.5mm以上であり、より好ましくは3mm以上である。
長さLを上記範囲にすることによって、上記数値範囲のTAS/TACを実現させやすくなる。
【0046】
発光領域14内のできるだけ広い領域にわたって発光輝度のムラを低減する観点から、有機層構造部1は、できるだけ多くの端部がバンク13上に位置していることが好ましく、有機層構造部1の全ての端部がバンク13上に位置していることがより好ましい。
【0047】
本明細書において、有機層構造部1の部分(B)における最大膜厚を「TBS」という。
図2を参照して、有機層構造部1の部分(B)における最大膜厚TBSは、好ましくは、部分(A)における中心膜厚TACよりも大きい。このような厚み関係は、有機層構造部1の形成に塗布法を採用したうえで、塗布液の濃度、粘度及び塗布膜乾燥方法等を調整することによって実現することが可能である。
上記厚み関係を充足することは、発光輝度のムラが低減された発光領域を有する有機ELデバイスを提供するうえで有利である。
【0048】
有機層構造部1の部分(A)における中心膜厚TAC、部分(A)の最大膜厚TAS、及び、部分(B)における最大膜厚TBSは、作製した有機ELデバイスを注意深く切断することによって露出した断面について、走査型透過電子顕微鏡を用いて画像を取得し、この画像から任意で選択した1点について、上述の定義に従って実測する。
部分(B)の長さL(後述するLB1、LB2及びLB3についても同様)は、形成した有機層構造部1(又は有機層)について、精密測長機を用いて測定される。
【0049】
有機層構造部1の部分(A)における中心膜厚TACの値は、例えば10nm以上10μm以下であり、好ましくは50nm以上5μm以下である。
【0050】
(6)第1有機層
第1有機層は、有機層構造部を構成する有機層であり、有機層構造部が2以上の有機層で構成される場合、これらの有機層のうち最も第1電極12寄りに配置される有機層である。
第1有機層は、発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、発光領域14内に配置される部分(A1)と、バンク13上に配置される部分(B1)とを有することが好ましい。第1有機層が発光領域14を越えてバンク13上にまで延在している部分、すなわち部分(B1)の長さは、バンク13の幅W方向における長さで、長さLB1であり、LB1はゼロより大きく、また、好ましくはバンク13の幅Wよりも小さい。
発光領域14内のできるだけ広い領域にわたって発光輝度のムラを低減する観点から、第1有機層は、できるだけ多くの端部がバンク13上に位置していることが好ましく、第1有機層の全ての端部がバンク13上に位置していることがより好ましい。
部分(B1)を有する第1有機層を形成するための方法としては、第1有機層形成用の塗布液を用いた塗布法が好ましく、より好ましくはインクジェット印刷法である。
【0051】
第1有機層の部分(A1)における中心膜厚の値は、第1有機層の機能が発現される限り特に制限されず、その機能に応じた厚みであり得る。また、中心膜厚の値は、第1有機層の材料によっても最適値が異なり得る。
例えば第1有機層が正孔注入層である場合、その中心膜厚は、例えば1nm以上1μm以下であり、好ましくは2nm以上500nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下である。
例えば第1有機層が発光層である場合、その中心膜厚は、例えば1nm以上2μm以下であり、好ましくは5nm以上500nm以下であり、より好ましくは10nm以上200nm以下である。
例えば第1有機層が電子注入層である場合、その中心膜厚は、例えば1nm以上50nm以下である。
【0052】
(7)第1有機層以外の他の有機層
発光領域14に形成される有機層構造部1は、第1有機層以外の他の有機層を含むことができる。第1有機層以外の他の有機層としては、第1有機層上(第1有機層における第1電極12側とは反対側)に隣接して設けられる第2有機層、第2有機層上(第2有機層における第1電極12側とは反対側)に隣接して設けられる第3有機層等が挙げられる。勿論、有機層構造部1は、4つ以上の有機層を含んでいてもよい。
【0053】
有機層として第1有機層のみを有する有機層構造部の層構成、及び、第1有機層と第1有機層以外の他の有機層とを含む有機層構造部の層構成としては、例えば、下記の層構成が挙げられる。
(a)第1電極/発光層/第2電極
(b)第1電極/正孔注入層/発光層/第2電極
(c)第1電極/正孔注入層/発光層/電子注入層/第2電極
(d)第1電極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/第2電極
(e)第1電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/第2電極
(f)第1電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/第2電極
(g)第1電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/第2電極
(h)第1電極/発光層/電子注入層/第2電極
(i)第1電極/発光層/電子輸送層/電子注入層/第2電極
ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。
第1電極は例えば陽極であり、第2電極は例えば陰極である。
【0054】
正孔輸送層は、陽極又は正孔注入層等から発光層への正孔注入を改善する機能を有する層である。
正孔輸送層の材料には、公知の正孔輸送入材料が用いられ得る。正孔輸送層の材料としては、例えば、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン若しくはその誘導体、ピラゾリン若しくはその誘導体、アリールアミン若しくはその誘導体、スチルベン若しくはその誘導体、トリフェニルジアミン若しくはその誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、及びポリ(2,5-チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等が挙げられる。また、特開2012-144722号公報に開示されている正孔輸送材料も挙げることができる。
【0055】
第2有機層が正孔輸送層である場合、第2有機層の中心膜厚(第2有機層の中心での膜厚)は、用いる材料等によっても異なるが、例えば1nm以上1μm以下であり、好ましくは2nm以上500nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下である。第3有機層が正孔輸送層である場合も同様である。
【0056】
電子輸送層は、陰極又は電子注入層等からの電子注入を改善する機能を有する層である。電子輸送層には公知の電子輸送材料を用いることができる。
第2有機層が電子輸送層である場合、第2有機層の中心膜厚(第2有機層の中心での膜厚)は、用いる材料等によっても異なるが、例えば1nm以上1μm以下であり、好ましくは2nm以上500nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下である。第3有機層が電子輸送層である場合も同様である。
【0057】
図3は、本発明に係る有機ELデバイスの他の一例におけるバンク周辺を一部拡大して示す概略断面図である。図3に示される有機ELデバイスは、第1有機層1a及び第2有機層1bの2層構造からなる有機層構造部1を含む。
図3に示されるように、有機層構造部1が第1有機層1aと第1有機層1a上に配置される第2有機層1bとを含む場合、発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第2有機層1bは、発光領域14内に配置される部分(A2)と、バンク13上に配置される部分(B2)とを有することが好ましい。第2有機層1bが発光領域14を越えてバンク13上にまで延在している部分、すなわち部分(B2)の長さは、バンク13の幅W方向における長さで、長さLB2であり、LB2はゼロより大きく、また、好ましくはバンク13の幅Wよりも小さい。
【0058】
発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第2有機層1bの部分(B2)の長さLB2は、第1有機層1aの部分(B1)の長さLB1と同じか又はそれよりも大きいことが好ましい。
長さLB2と長さLB1との差は、発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、好ましくは0mm以上1mm以下である。
図3に示される有機ELデバイスにおいて、第2有機層1bの部分(B2)の長さLB2は、図2で示される有機層構造部1の部分(B)の長さLと同じである。
【0059】
発光領域14内のできるだけ広い領域にわたって発光輝度のムラを低減する観点から、第2有機層1bは、できるだけ多くの端部がバンク13上に位置していることが好ましく、第2有機層1bの全ての端部がバンク13上に位置していることがより好ましい。
【0060】
図示しないが、有機層構造部1が第2有機層1b上に配置される第3有機層をさらに含む場合についても同様であり、この場合、発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第3有機層は、発光領域14内に配置される部分(A3)と、バンク13上に配置される部分(B3)とを有することが好ましい。第3有機層が発光領域14を越えてバンク13上にまで延在している部分、すなわち部分(B3)の長さは、バンク13の幅W方向における長さで、長さLB3であり、LB3はゼロより大きく、また、好ましくはバンク13の幅Wよりも小さい。
【0061】
発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第3有機層の部分(B3)の長さLB3は、第2有機層1bの部分(B2)の長さLB2と同じか又はそれよりも大きいことが好ましい。
長さLB3と長さLB2との差は、発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、好ましくは0mm以上1mm以下である。
【0062】
発光領域14内のできるだけ広い領域にわたって発光輝度のムラを低減する観点から、第3有機層は、できるだけ多くの端部がバンク13上に位置していることが好ましく、第3有機層の全ての端部がバンク13上に位置していることがより好ましい。
【0063】
有機層構造部1を構成する各有機層の膜厚や長さは、有機層構造部1の各種膜厚や長さと同様にして測定することができる。
【0064】
(8)第2電極
第2電極は、例えば陰極である。
陰極は、発光部に含まれる1又は2以上の有機層の上に設けられる。
陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料が好ましい。有機ELデバイスが陽極側から光を取り出す場合には、発光層から放射される光を陰極で陽極側に反射するために、陰極の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。
具体的には、陰極には、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属又は周期表の13族金属等を用いることができる。また、陰極として、導電性金属酸化物又は導電性有機物等からなる透明導電性陰極を用いることもできる。
【0065】
陰極の厚みは、電気伝導度、耐久性を考慮して適宜設定される。陰極の厚みは、例えば10nm以上10μm以下であり、好ましくは20nm以上1μm以下であり、より好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0066】
有機ELデバイスが2以上の発光領域14(したがって、2以上の発光部)を有する場合、発光領域ごとに陰極を設けてもよいし、バンク13を跨いで、すべての発光領域14に共通の陰極を1つ設けてもよい。
【0067】
なお、有機ELデバイスの第2電極上には、通常、封止基板が設けられる。その他、有機ELデバイスは、例えば、有機EL照明デバイスや有機ELディスプレイが備える公知の他の要素を備え得る。
【0068】
<有機ELデバイスの製造方法>
本発明の一実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法は、下記の工程を含む。
発光領域14を規定するための、厚み及び幅を有するバンク13を基板11上に形成する工程(バンク形成工程)、
バンク13の上面の撥液性を制御する工程(撥液性制御工程)、
バンク13が形成された基板11上に、塗布法により有機層構造部を形成する工程(有機層構造部形成工程)。
本発明に係る製造方法は、上記本発明に係る有機ELデバイスを製造するための方法として好適である。
【0069】
有機層構造部形成工程は通常、上述の第1有機層1aを形成する工程を含む。第1有機層1aは、下記の工程によって形成することができる。
第1有機層形成用の塗布液を塗布して第1塗布膜を形成する工程(第1塗布工程)、及び
第1塗布膜を乾燥させて第1有機層1aを形成する工程(第1乾燥工程)。
【0070】
有機層構造部1が第1有機層1a上に配置される第2有機層1bを含む場合、上記製造方法は、第1乾燥工程の後に、下記の工程をさらに含む。
第1有機層1a上に、第2有機層形成用の塗布液を塗布して第2塗布膜を形成する工程(第2塗布工程)、及び
第2塗布膜を乾燥させて第2有機層1bを形成する工程(第2乾燥工程)。
【0071】
有機層構造部1が第2有機層1b上に配置される第3有機層を含む場合、上記製造方法は、第2乾燥工程の後に、下記の工程をさらに含む。
第2有機層1b上に、第3有機層形成用の塗布液を塗布して第3塗布膜を形成する工程(第3塗布工程)、及び
第3塗布膜を乾燥させて第3有機層を形成する工程(第3乾燥工程)。
【0072】
(1)バンク形成工程
バンク形成工程は通常、例えば図1に示されるようなバンク付き基板10を作製する工程である。バンク付き基板10を構成する基板11、第1電極12及びバンク13、並びに、バンク付き基板10の作製方法については上述の記載が引用される。
【0073】
(2)撥液性制御工程
上述のように、バンク13によって発光領域14を好適に規定(区画)できるようにする観点、及びバンク13よりも外側に有機層が濡れ広がらないようにする観点から、バンク13の少なくとも上面(基板11とは反対側の面)は撥液性を有していることが好ましく、上面及び側面が撥液性を有していることがより好ましい。撥液性制御工程は、バンク13の少なくとも上面の撥液性を調整する工程である。
バンク13の少なくとも上面が撥液性を有していることは、バンク13の少なくとも上面に接するように形成した塗布膜を加熱して有機層を形成する乾燥工程において、塗布膜の収縮ムラを抑制するうえでも有利である。
【0074】
バンク13の少なくとも上面の撥液性を調整(制御)する方法としては、撥液剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなる層、撥液剤を含む感光性樹脂組成物の硬化物からなる層、又は撥液剤を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層等としてバンク13を形成する方法、熱可塑性樹脂からなる層、感光性樹脂組成物の硬化物からなる層又は熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層等としてバンク13を形成した後、バンク13の少なくとも上面に撥液処理を施す方法が挙げられる。
前者の場合、撥液性制御工程は、バンク形成工程の一部である。
後者の場合における撥液処理としては、フッ素樹脂等を含有する撥液剤を塗布する処理や、撥液剤の塗布後に、塗布面に紫外線等の活性エネルギー線を照射する処理等が挙げられる。
UVオゾン処理によってバンク13の少なくとも上面の撥液性を制御してもよい。
撥液剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなる層、撥液剤を含む感光性樹脂組成物の硬化物からなる層、又は撥液剤を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層の少なくとも上面に上記撥液処理をさらに施してもよい。
【0075】
発光輝度のムラが低減された発光領域を有する有機ELデバイスを提供するうえでより有利であることから、撥液性制御工程は、上記塗布液に対するバンク13の上面の接触角(<有機ELデバイス>の項を参照)が好ましくは10度未満となるように、より好ましくは9度以下となるように、さらに好ましくは8度未満となるようにバンク13上面の撥液性を調整する工程を含む。好ましくは、この撥液性制御工程によって、上記塗布液に対するバンク13の側面の接触角が好ましくは10度未満となるように、より好ましくは9度以下となるように、さらに好ましくは8度未満となるようにバンク13側面の撥液性が調整される。
上記接触角は通常、第1有機層形成用の塗布液に対する接触角である。
【0076】
(3)有機層構造部形成工程
有機層構造部1は、塗布液を塗布した後、塗膜を乾燥させる塗布法によって形成することができる。
塗布液の塗布法としては、例えば、インクジェット印刷法が挙げられる。ただし、バンク13の開口部に層を形成可能な塗布法であれば他の公知の塗布法、例えば、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、又はノズルプリント法を用いてもよい。
【0077】
塗布液に含まれる溶媒は、塗布液に含まれる機能材料を溶解できるものである限り特に制限されないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩化物溶媒;テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のエーテル溶媒;トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート、乳酸ブチル等のエステル溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール溶媒等が挙げられる。
溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
塗布膜の乾燥方法は、第1塗布膜を乾燥できる限り特に限定されないが、真空乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。
【0079】
有機層構造部1は、2以上の有機層で構成されてもよい。この場合、上述の塗布及び乾燥を繰り返すことによって2以上の有機層を形成する。
【0080】
有機層構造部1は、発光領域14内に配置される部分(A)と、バンク13の幅W方向における長さLを有してバンク13上に配置される部分(B)とを有するように実施される。長さLはゼロより大きく、好ましくはバンク13の幅Wよりも小さい。
【0081】
部分(B)を有するように、すなわち、端部がバンク13上に位置するように有機層構造部1を形成することにより、TASとTACとの比TAS/TACを1に近づけることができ、これにより、発光領域14内での発光輝度のムラを低減することができる。
発光輝度のムラを低減させる観点から、比TAS/TACは、1.0以上1.1以下であり、好ましくは1.0以上1.05以下であり、より好ましくは1.0である。
【0082】
発光輝度のムラを低減させる観点から、長さLは、好ましくは2.5mm以上であり、より好ましくは3mm以上である。
長さLを上記範囲にすることによって、上記数値範囲のTAS/TACを実現させやすくなる。
【0083】
発光領域14内のできるだけ広い領域にわたって発光輝度のムラを低減する観点から、有機層構造部1は、できるだけ多くの端部がバンク13上に位置するように形成されることが好ましく、全ての端部がバンク13上に位置するように形成されることがより好ましい。
【0084】
有機層構造部1は、部分(B)における最大膜厚TBSが部分(A)における中心膜厚TACよりも大きくなるように形成されることが好ましい。このような厚み関係は、塗布液を用いた塗布法において、塗布液の濃度、粘度及び塗布膜乾燥方法等を調整することによって実現することが可能である。
上記厚み関係を充足することは、発光輝度のムラが低減された発光領域を有する有機ELデバイスを提供するうえで有利である。
【0085】
(4)第1有機層の形成
バンク13が形成された基板11上、より具体的には、バンク13の開口部(発光領域14)に第1有機層形成用の塗布液を塗布して第1塗布膜を形成し(第1塗布工程)、次いで第1塗布膜を乾燥させることによって(第1乾燥工程)、第1有機層1aを形成することができる。
第1有機層形成用の塗布液は、正孔注入材料を含む塗布液、発光材料を含む塗布液、電子注入材料を含む塗布液等であり得る。塗布液の塗布法及び塗布膜の乾燥方法の例は上述のとおりである。
【0086】
発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第1塗布工程は、第1乾燥工程を経て得られる第1有機層1aが、発光領域14内に配置される部分(A1)と、バンク13の幅W方向における長さLB1を有してバンク13上に配置される部分(B1)とを有するように実施されることが好ましい。長さLB1はゼロより大きく、また、好ましくはバンク13の幅Wよりも小さい。
【0087】
(5)第1有機層以外の他の有機層の形成
第1有機層1a上に、第2有機層形成用の塗布液を塗布して第2塗布膜を形成し(第2塗布工程)、次いで第2塗布膜を乾燥させることによって(第2乾燥工程)、第2有機層1bを形成することができる。
第2有機層形成用の塗布液は、正孔輸送材料を含む塗布液、発光材料を含む塗布液、電子輸送材料を含む塗布液、電子注入材料を含む塗布液等であり得る。
第2有機層形成用の塗布液に含まれる溶媒の例、塗布液の塗布法及び塗布膜の乾燥方法の例は上述のとおりである。
【0088】
発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第2塗布工程は、第2乾燥工程を経て得られる第2有機層1bが、発光領域14内に配置される部分(A2)と、バンク13の幅W方向における長さLB2を有してバンク13上に配置される部分(B2)とを有するように実施されることが好ましい。長さLB2はゼロより大きく、また、好ましくはバンク13の幅Wよりも小さい。
【0089】
発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第2有機層1bの部分(B2)の長さLB2は、第1有機層1aの部分(B)の長さLB1と同じか又はそれよりも大きいことが好ましい。
長さLB2と長さLB1との差は、発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、好ましくは0mm以上1mm以下である。
【0090】
発光領域14内のできるだけ広い領域にわたって発光輝度のムラを低減する観点から、第2塗布工程は、第2乾燥工程を経て得られる第2有機層1bにおけるできるだけ多くの端部がバンク13上に位置するように実施されることが好ましく、第2有機層1bの全ての端部がバンク13上に位置するように実施されることがより好ましい。
【0091】
第2有機層1b上に、第3有機層形成用の塗布液を塗布して第3塗布膜を形成し(第3塗布工程)、次いで第3塗布膜を乾燥させることによって(第3乾燥工程)、第3有機層を形成することができる。
第3有機層形成用の塗布液は、発光材料を含む塗布液、電子輸送材料を含む塗布液、電子注入材料を含む塗布液、正孔輸送材料を含む塗布液、正孔注入材料を含む塗布液等であり得る。
第3有機層形成用の塗布液に含まれる溶媒の例、塗布液の塗布法及び塗布膜の乾燥方法の例は上述のとおりである。
【0092】
発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第3塗布工程は、第3乾燥工程を経て得られる第3有機層が、発光領域14内に配置される部分(A3)と、バンク13の幅W方向における長さLB3を有してバンク13上に配置される部分(B3)とを有するように実施されることが好ましい。長さLB3はゼロより大きく、また、好ましくはバンク13の幅Wよりも小さい。
【0093】
発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、第3有機層の部分(B3)の長さLB3は、第2有機層1bの部分(B2)の長さLB2と同じか又はそれよりも大きいことが好ましい。
長さLB3と長さLB2との差は、発光領域14内での発光輝度のムラを低減する観点から、好ましくは0mm以上1mm以下である。
【0094】
発光領域14内のできるだけ広い領域にわたって発光輝度のムラを低減する観点から、第3塗布工程は、第3乾燥工程を経て得られる第3有機層におけるできるだけ多くの端部がバンク13上に位置するように実施されることが好ましく、第3有機層の全ての端部がバンク13上に位置するように実施されることがより好ましい。
【0095】
有機層構造部1が4以上の有機層を有する場合において、第4以降の有機層も、上記第1~第3有機層と同様にして形成することができる。
【0096】
所望の1又は2以上の有機層を形成した後、第2電極(例えば、陰極)を形成する工程を実施することにより有機ELデバイスを得ることができる。第2電極の形成方法としては、例えば、第1電極12の場合と同様の蒸着法及び塗布法が挙げられる。
【実施例
【0097】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0098】
下記項目についての測定方法は次のとおりである。
〔a〕バンク上面及び側面の接触角
第1有機層形成用の塗布液に対するバンク13上面及び側面の接触角は、「オートディスペンサシステム AD-31S」(協和界面科学(株)製)を用いて、温度23℃の環境下で測定した。
【0099】
〔b〕膜厚及び層部分の長さ
有機層構造部の中心膜厚及び最大膜厚は、上述の定義に従って測定した。具体的には、作製した有機ELデバイスを注意深く切断することによって露出した断面について、走査型透過電子顕微鏡を用いて画像を取得し、この画像から任意で選択した1点について、上述の定義に従って中心膜厚及び最大膜厚を実測した。
等の層部分の長さは、精密測長機を用いて測定した。下記の表1に示されるL、LB1、LB2、LB3及びLB4の値は、正方形形状に形成された有機層構造部又は有機層の各辺の中心位置での測定値の平均(4点の平均)である。
【0100】
<実験例1>
図1に示される構成のバンク付き基板10を用意した。
基板11の外形形状は、1辺の長さが約50mmの正方形であった。基板11の材質はガラスである。
バンク13の外形形状は1辺の長さが約34mmの正方形であり、バンク13の開口形状は1辺の長さが約22mmの正方形であり、バンク13の幅Wは約6mmであった。バンク13は、撥液剤を含有する感光性樹脂組成物を硬化させてなる層(単層構造)であり、該層を形成後、表面(上面及び側面)をUVオゾン処理することによって、第1有機層形成用の塗布液に対するバンク13上面及び側面の接触角を約8度程度まで低下させた。
バンク13は、第1電極12(陽極)の周縁部の一部の直上に配置されるように位置合わせされている。
【0101】
上記バンク付き基板10の発光領域14(バンク13の開口部)に、次の手順で第1有機層1a(正孔注入層)を形成した。
正孔注入材料を含有する第1有機層形成用の塗布液を用意した。
この塗布液を用いてインクジェット印刷法により発光領域14に第1塗布膜を形成し、次いで第1塗布膜をホットプレートで乾燥させることによって第1有機層1aを形成した。
第1有機層1aの部分(B1)の長さLB1を表1に示す。
本実験例における第1有機層1aは、その全ての端部がバンク13上に位置していた。
【0102】
次に、第1有機層1a上に、次の手順で第2有機層1b(正孔輸送層)を形成した。
正孔輸送材料を含有する第2有機層形成用の塗布液を用意した。
この塗布液を用いてインクジェット印刷法により第1有機層1a上に第2塗布膜を形成し、次いで第2塗布膜をホットプレートで乾燥させることによって第2有機層1bを形成した。
第2有機層1bの部分(B2)の長さLB2を表1に示す。
本実験例における第2有機層1bは、その全ての端部がバンク13上に位置していた。
【0103】
次に、第2有機層1b上に、次の手順で第3有機層(発光層)を形成した。
発光材料を含有する第3有機層形成用の塗布液を用意した。
この塗布液を用いてインクジェット印刷法により第2有機層1b上に第3塗布膜を形成し、次いで第3塗布膜をホットプレートで乾燥させることによって第3有機層を形成した。
第3有機層の部分(B3)の長さLB3を表1に示す。
本実験例における第3有機層は、その全ての端部がバンク13上に位置していた。
【0104】
次に、第3有機層上に第4有機層(電子輸送層)を形成した。電子輸送材料を含有する第4有機層形成用の塗布液を用意した。この塗布液を用いてインクジェット印刷法により第3有機層上に第4塗布膜を形成し、次いで第4塗布膜をホットプレートで乾燥させることによって第4有機層を形成した。
次に、第4有機層上に電子注入層(無機層)及び陰極を蒸着法により形成して、窒素雰囲気下で封止することにより有機ELデバイスを得た。
第4有機層の部分(B4)の長さLB4を表1に示す。
【0105】
<実験例2、3>
第1~第4有機層の形成条件を調整することによって、有機層構造部の部分(A)の中心膜厚TAC及び最大膜厚TAS、並びに、部分(B)の最大膜厚TBS及び長さLを表1に示されるとおりとしたこと以外は実験例1と同様にして有機ELデバイスを作製した。
【0106】
(発光輝度のムラ評価)
得られた有機ELデバイスについて、同じ電圧を印加して発光領域を発光させ、発光している発光領域の画像を取得した。取得した画像において、発光領域の中央部と周縁部(バンク近傍部)との間の色目を観察し、下記評価基準に従って発光輝度のムラを評価した。
A:色目に相違がないか、又は殆ど相違がない。
B:色目に明らかな相違がある。
【0107】
【表1】
【0108】
上述のとおり、表1に示されるL、LB1、LB2、LB3及びLB4の値は、正方形形状に形成された有機層構造部又は有機層の各辺の中心位置での測定値の平均(4点の平均)である。実験例1~3の有機ELデバイスは、バンク13の全周にわたって形成された部分(B)のいずれの位置においても、表1に示される平均値とほぼ同等のLの値を有していた。LB1、LB2、LB3及びLB4についても同様であった。
【符号の説明】
【0109】
1 有機層構造部、1a 第1有機層、1b 第2有機層、10 バンク付き基板、11 基板、12 第1電極、13 バンク、14 発光領域。
図1
図2
図3