(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】Ni-Nb積層板材およびその製造方法、Ni-Nb合金板材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/04 20060101AFI20230816BHJP
B21B 1/38 20060101ALI20230816BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20230816BHJP
C22C 27/02 20060101ALI20230816BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20230816BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20230816BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20230816BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
B23K20/04 B
B21B1/38 L
C22C19/03 Z
C22C27/02 102Z
C22F1/10 Z
C22F1/18 F
B21B3/00 L
C22F1/00 623
C22F1/00 627
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
(21)【出願番号】P 2019091021
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】横山 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】石尾 雅昭
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-034125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0170887(US,A1)
【文献】国際公開第2006/132166(WO,A1)
【文献】特開2014-161885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
B21B 1/00 - 11/00、
47/00 - 99/00
C22C 19/03、27/02
C22F 1/00、1/10、1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiおよびNbからなる金属間化合物の
共存組織を有し、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層されて構成されており、前記Niリッチ層および前記Nbリッチ層の合計の層数が3以上である、Ni-Nb合金板材。
【請求項2】
純Niまたは7質量%以下のNbを含むNi合金からなるNi系金属板材と、純Nbまたは15質量%以下のNiを含むNb合金からなるNb系金属板材とを、厚さ方向に交互に積層し、前記Ni系金属板材および前記Nb系金属板材の合計の積層数を3以上とした状態で圧延接合することによって、Ni系金属層とNb系金属層とが厚さ方向に交互に積層され、合計の積層数が3以上の積層板材を形成し、
前記積層板材に対して拡散焼鈍を行うことによって、NiおよびNbからなる金属間化合物の
共存組織を有し、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層され、前記Niリッチ層および前記Nbリッチ層の合計の積層数が3以上の合金板材を形成する、Ni-Nb合金板材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Ni-Nb積層板材およびその製造方法、Ni-Nb合金板材およびその製造方法に関する。詳しくは、Ni系金属層およびNb系金属層から構成されたNi-Nb積層板材およびその製造方法、そのNi-Nb積層板材を用いて製造可能なNi-Nb合金板材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ni(ニッケル)とNb(ニオブ)を含む、Ni-Nb合金が知られている。
【0003】
図1はNiおよびNbの二元系状態図である。
図1に示す状態図において、Niに対してNbが約23.5at%(約33質量%)以下の範囲にあるNi-Nb合金は、金属NiとNi-Nb系の金属間化合物とが共存する。また、Niに対してNbが約54at%(約65質量%)以上の範囲にあるNi-Nb合金は、金属NbとNi-Nb系の金属間化合物とが共存する。その中間、つまり、Niに対してNbが約23.5at%(約33質量%)を超えて約54at%(約65質量%)未満の範囲にあるNi-Nb合金は、Ni-Nb系の金属間化合物によって構成される。その中でも、Niに対してNbが約26.5at(約36質量%)以上約50at%(約61質量%)以下の範囲にあるNi-Nb合金は、Ni-Nb系の金属間化合物であるNi
3NbとNi
6Nb
7とが共存する。
【0004】
上記したように、Ni-Nb合金は、NiとNbの配合比に応じて、組織形態が異なるものとなる。Ni-Nb合金は、上記した構成組織の特質が考慮され、Ni-Nb合金板材、Ni-Nb系の金属間化合物、あるいはNi-Nb系の合金粉末などとして、実用化されている。例えば、特許文献1には、Niと6質量%以上32質量%未満のNbを含むNi-Nb合金によって構成された冷陰極放電管用電極が開示されている。この場合、Ni-Nb合金がNi-Nb合金板材として用いられている。また、例えば、特許文献2には、Nb基材の表面がNi-Nb系の金属間化合物(被覆材)で被覆された電解用不溶性電極が開示されている。この場合、Ni-Nb合金がNi-Nb系の金属間化合物として用いられている。また、例えば、特許文献3には、Mo粉末に対してNi6Nb7および/またはNi3NbからなるNi-Nb系の合金粉末を混合し、次いで加圧焼結して製造されたMo合金スパッタリングターゲット材が開示されている。この場合、Ni-Nb合金がNi-Nb系の合金粉末として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4091508号公報
【文献】特開平2-200799号公報
【文献】特許第5958822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属Niおよび金属Nbは展延性が良い。Ni-Nb系の金属間化合物と展延性が良い金属Niとが共存するNi-Nb合金は、展延性のよい金属Niが組織中に多く存在することによって、大変形を伴う圧延加工などによるNi-Nb合金板材の製造が可能である。また、同様に、Ni-Nb系の金属間化合物と展延性が良い金属Nbとが共存するNi-Nb合金は、展延性のよい金属Nbが組織中に多く存在することによって、プレス加工および圧延加工などの大変形を伴う塑性加工によるNi-Nb合金板材の製造が可能である。こうしたNi-Nb合金板材は、例えば、Ni源およびNb源を同時に溶解・凝固させてインゴットを製造し、そのインゴットをプレスして厚板素材を製造し、その厚板素材を圧延して所定の厚さに形成する、などの方法で製造が可能である。
【0007】
Ni-Nb系の金属間化合物は脆く、割れやすい。そのため、Ni-Nb系の金属間化合物からなり、展延性が良い金属Niまたは金属Nbが共存しないNi-Nb合金は、大変形を伴う圧延加工などによるNi-Nb合金板材の製造が困難である。例えば、Niに対してNbが約26.5at(約36質量%)以上約50at%(約61質量%)以下の範囲にあって、Ni-Nb系の金属間化合物からなるNi-Nb合金のインゴットを製造し、インゴットから厚板素材へのプレス加工、また、厚板素材から板材への圧延加工などの工程を経て、Ni-Nb合金板材を製造するのは困難と考えられる。こうした事情から、Niに対して約26.5at(約36質量%)以上約50at%(約61質量%)以下のNbを含む、Ni-Nb系の金属間化合物の共存組織を有するNi-Nb合金から構成された、商用のNi-Nb合金板材は市場に出ていない。
【0008】
この発明の目的の1つは、Ni-Nb系の金属間化合物の共存組織を有するNi-Nb合金板材の製造を可能にする板素材およびその製造方法を提供することである。また、この発明の目的の1つは、上記板素材から構成されたNi-Nb合金板材およびその製造方法を提供することである。また、望ましくは、板厚が4mm以下のNi-Nb合金板材の製造を可能とする、板厚が例えば4mm以下の板素材、およびその板素材から構成された板厚が4mm以下のNi-Nb合金板材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、展延性の良いNi系金属板材と、展延性の良いNb系金属板材とを、交互に積層した状態で圧延接合して積層板材を製造する、クラッド圧延工程と、クラッド圧延工程で製造された積層板材を拡散焼鈍してNi-Nb系の金属間化合物を生成する拡散焼鈍工程と、を含む、製造方法によって、上記した課題が解決できることを見出し、この発明に想到することができた。
【0012】
この発明の1つは、上記Ni-Nb積層板材から構成されたNi-Nb合金板材およびその製造方法に関する。
すなわち、この発明に係るNi-Nb合金板材は、NiおよびNbからなる金属間化合物の共存組織を有し、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層されて構成されており、前記Niリッチ層および前記Nbリッチ層の合計の層数が3以上である。
この発明において、Ni-Nb合金板材は、板厚が4mm以下であってよい。
【0013】
この発明に係るNi-Nb合金板材の製造方法は、純Niまたは7質量%以下のNbを含むNi合金からなるNi系金属板材と、純Nbまたは15質量%以下のNiを含むNb合金からなるNb系金属板材とを、厚さ方向に交互に積層し、前記Ni系金属板材および前記Nb系金属板材の合計の積層数を3以上とした状態で圧延接合することによって、Ni系金属層とNb系金属層とが厚さ方向に交互に積層され、合計の積層数が3以上の積層板材を形成し、前記積層板材に対して拡散焼鈍を行うことによって、NiおよびNbからなる金属間化合物の共存組織を有し、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層され、前記Niリッチ層および前記Nbリッチ層の合計の積層数が3以上の合金板材を形成する。
この発明において、板厚を4mm以下に形成するNi-Nb合金板材の製造方法であってよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、Ni-Nb系の金属間化合物の共存組織を有するNi-Nb合金板材を提供することができる。
また、板厚が4mm以下のNi-Nb合金板材の製造を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】NiおよびNbの二元系状態図(二元合金状態図集、アグネ技術センター発行、ISBN 978-4-900041-88-2 C3057)である。
【
図2】この発明に係るNi-Nb積層板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断した断面(横断面)の観察写真である。
【
図3】この発明に係るNi-Nb積層板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断した断面(横断面)の観察写真である。
【
図4】この発明に係るNi-Nb積層板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断した断面(横断面)の観察写真である。
【
図5】この発明に係るNi-Nb合金板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断した断面(横断面)の観察写真である。
【
図6】この発明に係るNi-Nb合金板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断した断面(横断面)の観察写真である。
【
図7】Ni-Nb合金板材を板厚方向に切断した断面(横断面)の観察写真であって、NiおよびNbについて分析した箇所を示すものである。
【
図8】Ni-Nb合金板材を板厚方向に切断した断面(横断面)の観察写真であって、NiおよびNbについて分析した箇所を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、この発明に係るNi-Nb積層板材およびその製造方法について説明する。
図2は、この発明に係るNi-Nb積層板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断したNi-Nb積層板材の断面(横断面)の観察写真である。
図2に示すNi-Nb積層板材は、Ni系金属層と、Nb系金属層と、Ni系金属層とが、この順に、厚さ方向(圧接方向)に交互に積層されて成る。このNi-Nb積層板材はNi系金属層およびNb系金属層の合計の層数が3である。つまり、このNi-Nb積層板材は3層構造のクラッド板材である。Ni系金属層とNb系金属層とが、交互に3層以上積層されることによって、後の拡散焼鈍におけるNiおよびNbの相互拡散によるNi-Nb合金化を十分に進めることができる。また、この発明に係るNi-Nb積層板材は、板厚が4mm以下であってよく、板厚を構成するそれぞれの層の厚さは限定されない。例えば、
図2に示すNi-Nb積層板材は、板厚が約0.1mmであり、板厚を構成するそれぞれの層の厚さ比率(Ni系金属層:Nb系金属層:Ni系金属層)は、およそ、1:2.5:1である。
【0017】
この発明に係るNi-Nb積層板材において、Ni系金属層は、純Niまたは7質量%以下のNbを含むNi合金から成る。純NiはNiを99質量%以上含むものをいう。純Niまたは7質量%以下のNbを含むNi合金は、後に、Ni-Nb系の金属間化合物を生成するためのNi源となる。純Niは展延性が良く、7質量%(約4.5at%)以下のNbを含むNi合金は展延性の良い金属Niが豊富に存在するため、大変形を伴う圧延接合を容易に行うことができる。また、純NiからなるNi板材、および例えば5質量%(約3.2at%)のNbを含むNi合金板材(Ni-5Nb合金板材)は、入手が容易である。なお、
図2に示すNi-Nb積層板材を構成するNi系金属層は、Niを99質量%以上含む純Niから構成されている。
【0018】
この発明に係るNi-Nb積層板材において、Nb系金属層は、純Nbまたは15質量%以下のNiを含むNb合金から成る。純NbはNbを99質量%以上含むものをいう。純Nbまたは15質量%以下のNiを含むNb合金は、後に、Ni-Nb系の金属間化合物を生成するためのNb源となる。純Nbは展延性が良く、15質量%(約22at%)以下のNiを含むNb合金は展延性の良い金属Nbが存在するため、大変形を伴う圧延接合を行うことができる。純NbからなるNb板材(Nb箔材)は入手が容易であり、好ましくは、純NbからなるNb系金属層とする。なお、
図2に示すNi-Nb積層板材を構成するNb系金属層は、Nbを99質量%以上含む純Nbから構成されている。
【0019】
図2に示すNi-Nb積層板材は、この発明に係るNi-Nb積層板材の製造方法によって、製造することができる。
この発明に係るNi-Nb積層板材の製造方法では、まず、純Niまたは7質量%以下のNbを含むNi合金からなるNi系金属板材と、純Nbまたは15質量%以下のNiを含むNb合金からなるNb系金属板材とを、準備する。Ni系金属板材およびNb系金属板材は、圧延接合の前に、必要十分な熱処理を行っておくのがよい。
図2に示すNi-Nb積層板材を製造する場合は、純Niからなる板厚が約0.3mmのNi系金属板材と、純Nbからなる板厚が約0.3mmのNb系金属板材とを準備した。なお、Ni系金属板材およびNb系金属板材に対して、圧延接合の前に、例えば700℃以上1050℃以下の温度で1分間以上10分間以下保持する熱処理を行ってもよい。
【0020】
次に、この発明に係るNi-Nb積層板材の製造方法では、Ni系金属板材と、Nb系金属板材と、Ni系金属板材とを、この順に、厚さ方向(圧接方向)に交互に積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を3以上とした状態で圧延接合を行う。こうした圧延接合によって、Ni系金属層とNb系金属層とが厚さ方向に交互に積層され、合計の積層数が3以上の積層板材を形成することができる。なお、この発明において、上記した圧延接合の後に、必要に応じて熱処理を行ってもよい。この熱処理は、例えば700℃以上900℃以下の温度で約1分間以上5分間以下保持するものであってよい。
図2に示すNi-Nb積層板材を製造する場合は、Ni系金属板材と、Nb系金属板材と、Ni系金属板材とを、この順に、厚さ方向(圧接方向)に交互に積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を3とした状態で圧延接合を行っている。また、圧延接合の後、約800℃で約3分間保持する熱処理を行っている。
【0021】
上記したように、
図2に示す3層構造のNi-Nb積層板材は、展延性の良いNi系金属板材と、展延性の良いNb系金属板材と、展延性の良いNi系金属板材とを、厚さ方向(圧接方向)に交互に積層し、合計の積層数を3とした状態で圧延接合する、クラッド圧延によって、容易に製造することができる。こうしたクラッド圧延によって、Ni系金属層とNb系金属層とが厚さ方向に交互に積層され、合計の積層数が3の
図2に示すNi-Nb積層板材を形成することができる。なお、
図2に示すNi-Nb積層板材は、板厚が約0.1mmである。厚さ比率(Ni系金属層:Nb系金属層:Ni系金属層)は、およそ、1:2.5:1である。Ni系金属層は、それぞれの層の厚さが約22μmである。Nb系金属層は、層の厚さが約56μmである。
【0022】
この発明に係るNi-Nb積層板材の別の実施形態について説明する。
図3は、この発明に係るNi-Nb積層板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断したNi-Nb積層板材の断面(横断面)の観察写真である。
図3に示すNi-Nb積層板材は、Ni系金属層およびNb系金属層が厚さ方向(圧接方向)に交互に積層されて成る。このNi-Nb積層板材はNi系金属層およびNb系金属層の合計の層数が18である。つまり、このNi-Nb積層板材は18層構造のクラッド板材である。このNi-Nb積層板材において、Ni系金属層はNiを99質量%以上含む純Niから構成され、Nb系金属層はNbを99質量%以上含む純Nbから構成されている。このNi-Nb積層板材は、板厚が約0.1mmである。また、このNi-Nb積層板材の横断面を、
図3に示すように3つのエリア1~3に区分し、エリア1~3のそれぞれについてEDS(Energy Dispersive Spectroscopy)分析を行ったところ、エリア1~3の平均のNb含有比は49.6質量%(約37.4at%)であった。
【0023】
図4は、この発明に係るNi-Nb積層板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断したNi-Nb積層板材の断面(横断面)の観察写真である。
図4に示すNi-Nb積層板材は、Ni系金属層およびNb系金属層が厚さ方向(圧接方向)に交互に積層されて成る。このNi-Nb積層板材はNi系金属層およびNb系金属層の合計の層数が18である。つまり、このNi-Nb積層板材は18層構造のクラッド板材である。このNi-Nb積層板材において、Ni系金属層はNiに対してNbを5質量%含むNi合金(Ni-5Nb)から構成され、Nb系金属層はNbを99質量%以上含む純Nbから構成されている。このNi-Nb積層板材は、板厚が約0.1mmである。また、このNi-Nb積層板材の横断面を、
図4に示すように3つのエリア1~3に区分し、エリア1~3のそれぞれについて、上記した
図3に示すNi-Nb積層板材の場合と同様に、EDS分析を行ったところ、エリア1~3の平均のNb比率は55.3質量%(約43.9at%)であった。
【0024】
図3および
図4に示すような18層構造のNi-Nb積層板材は、例えば、展延性の良いNi系金属板材と展延性の良いNb系金属板材とを交互に積層した状態で圧延接合する、クラッド圧延を繰り返すことによって、製造することができる。具体的には、例えば、1回目のクラッド圧延(第1クラッド圧延)工程において、展延性の良いNi系金属板材と展延性の良いNb系金属板材とを積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を2とした状態で圧延接合することによって、2層構造のNi-Nb積層板材を製造することができる。2回目のクラッド圧延(第2クラッド圧延)工程において、2層構造のNi-Nb積層板材を3枚積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を6とした状態で圧延接合することによって、6層構造のNi-Nb積層板材を製造することができる。3回目のクラッド圧延(第3クラッド圧延)工程において、6層構造のNi-Nb積層板材を3枚積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を18とした状態で圧延接合することによって、18層構造のNi-Nb積層板材を製造することができる。なお、こうしたクラッド圧延を繰り返す場合、上記した18層構造のNi-Nb積層板材に限らず、クラッド圧延の繰り返し回数は限定されないし、クラッド圧延は1回であってもよい。
【0025】
上記したように、例えばクラッド圧延を繰り返すことによって、展延性の良いNi系金属板材および展延性の良いNb系金属板材から構成された、
図3および
図4に示すような18層構造のNi-Nb積層板材を、製造することができる。なお、この発明に係るNi-Nb積層板材は、後に、この発明に係るNi-Nb合金板材の製造を容易にするために、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数が3以上であればよい。また、上記したようにクラッド圧延を繰り返す場合の途中のクラッド圧延におけるNi系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数は限定されない。
【0026】
以下、
図3および
図4に示すような18層構造のNi-Nb積層板材の製造方法について詳述する。
<Ni系金属板材、Nb系金属板材>
Ni系金属板材およびNb系金属板材を準備する。Ni系金属板材は、
図3に示すNi-Nb積層板材を製造する場合は純Niからなる板厚が約0.3mmのものを準備し、
図4に示すNi-Nb積層板材を製造する場合はNiに対してNbを5質量%含む板厚が約0.3mmのものを準備する。また、Nb系金属板材は、
図3および
図4に示すいずれのNi-Nb積層板材を製造する場合においても、純Nbからなる板厚が約0.3mmのものを準備する。なお、Ni系金属板材およびNb系金属板材に対して、圧延接合の前に、例えば700℃以上1050℃以下の温度で1分間以上10分間以下保持する熱処理を行ってもよい。
図3および
図4に示すいずれのNi-Nb積層板材を製造する場合においても、Ni系金属板材に対しては約900℃で約5分間保持する熱処理を行い、Nb系金属板材に対しては約1000℃で約5分間保持する熱処理を行っている。
【0027】
<第1クラッド圧延>
Ni系金属板材およびNb系金属板材を用いて、2層構造のNi-Nb積層板材を製造する、第1クラッド圧延を行う。第1クラッド圧延においては、Ni系金属板材とNb系金属板材とを厚さ方向(圧接方向)に積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を2とした状態で圧延接合する。これにより、2層構造のNi-Nb積層板材を製造することができる。この2層構造のNi-Nb積層板材は、板厚が例えば0.1mm以上0.3mm以下であってよい。なお、クラッド圧延のパス数は必要に応じて設定してよい。また、2層構造のNi-Nb積層板材に対して、必要に応じて、例えば700℃以上900℃以下の温度で約1分間以上5分間以下保持する熱処理を行うことができる。
図3および
図4に示すいずれのNi-Nb積層板材を製造する場合においても、2層構造のNi-Nb積層板材に対して、約800℃で約3分間保持する熱処理を行っている。
【0028】
<第2クラッド圧延>
2層構造のNi-Nb積層板材を用いて、6層構造のNi-Nb積層板材を製造する、第2クラッド圧延を行う。第2クラッド圧延においては、2層構造のNi-Nb積層板材を厚さ方向(圧接方向)に3枚積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を6とした状態で圧延接合する。これにより、6層構造のNi-Nb積層板材を製造することができる。この2層構造のNi-Nb積層板材は、板厚が例えば0.2mm以上0.4mm以下であってよい。なお、クラッド圧延のパス数は必要に応じて設定してよい。また、6層構造のNi-Nb積層板材に対して、必要に応じて、例えば700℃以上900℃以下の温度で約1分間以上5分間以下保持する熱処理を行うことができる。
図3および
図4に示すいずれのNi-Nb積層板材を製造する場合においても、6層構造のNi-Nb積層板材に対して、約800℃で約3分間保持する熱処理を行っている。
【0029】
<第3クラッド圧延>
6層構造のNi-Nb積層板材を用いて、18層構造のNi-Nb積層板材を製造する、第3クラッド圧延を行う。この第3クラッド圧延は、
図3および
図4に示すNi-Nb積層板材を製造する場合の最終のクラッド圧延になる。第3クラッド圧延においては、6層構造のNi-Nb積層板材を厚さ方向(圧接方向)に3枚積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を18とした状態で圧延接合する。これにより、18層構造のNi-Nb積層板材を製造することができる。この18層構造のNi-Nb積層板材は、最終圧接の後に行った圧延により、板厚が約0.1mmに形成されている。なお、クラッド圧延のパス数は必要に応じて設定してよい。また、6層構造のNi-Nb積層板材に対して、必要に応じて、例えば700℃以上900℃以下の温度で約1分間以上5分間以下保持する熱処理を行うことができる。
図3および
図4に示すいずれのNi-Nb積層板材を製造する場合においても、6層構造のNi-Nb積層板材に対して、約800℃で約3分間保持する熱処理を行っている。
【0030】
上記したように、例えば3回のクラッド圧延を繰り返すことによって、展延性の良いNi系金属板材および展延性の良いNb系金属板材から構成された、
図3および
図4に示すような18層構造のNi-Nb積層板材を、製造することができる。なお、この発明に係るNi-Nb積層板材は、後に、この発明に係るNi-Nb合金板材の製造を容易にするために、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数が3以上であればよい。また、上記したようにクラッド圧延を繰り返す場合の途中のクラッド圧延におけるNi系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数は限定されない。
【0031】
次に、この発明に係るNi-Nb合金板材およびその製造方法について説明する。
この発明に係るNi-Nb合金板材は、この発明に係る上記したNi-Nb積層板材から構成されたものである。詳しくは、上記したNi-Nb積層板材に対して適切な条件で行った拡散焼鈍によって製造されたものである。この発明に係るNi-Nb合金板材は、NiおよびNbからなる金属間化合物の共存組織を有し、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層されて構成されており、Niリッチ層およびNbリッチ層の合計の層数が3以上である。なお、Niリッチ層とは、NbよりもNiの含有比が大きい層状の組織を意図する。また、Nbリッチ層とは、NiよりもNbの含有比が大きい層状の組織を意図する。
【0032】
図5は、この発明に係るNi-Nb合金板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断したNi-Nb合金板材の断面(横断面)の観察写真である。
図5に示すNi-Nb合金板材は、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層されて構成され、Niリッチ層およびNbリッチ層の合計の層数が18である。つまり、このNi-Nb合金板材は、合金組織がNiリッチ層およびNbリッチ層による多層構造の形態になっている。このNi-Nb合金板材は、板厚が約0.1mmであり、板厚を構成するNiリッチ層およびNbリッチ層のそれぞれの厚さは一定ではなく、うねり模様を呈している。このNi-Nb合金板材の横断面を、
図5に示すように3つのエリア1~3に区分し、エリア1~3のそれぞれについて、上記したNi-Nb積層板材の場合と同様に、EDS分析を行ったところ、エリア1~3の平均のNb含有比は46.4質量%(約35.4at%)であった。
【0033】
図6は、この発明に係るNi-Nb合金板材の1つの実施形態であって、板厚方向に切断したNi-Nb合金板材の断面(横断面)の観察写真である。
図6に示すNi-Nb合金板材は、
図5に示すNi-Nb合金板材と同様に、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層されて構成され、Niリッチ層およびNbリッチ層の合計の層数が18である。つまり、
図6に示すNi-Nb合金板材も
図5に示すNi-Nb合金板材と同様に、合金組織がNiリッチ層およびNbリッチ層による多層構造の形態になっている。このNi-Nb合金板材は、板厚が約0.1mmであり、板厚を構成するNiリッチ層およびNbリッチ層のそれぞれの厚さは一定ではなく、
図5に示すNi-Nb合金板材と同様に、うねり模様を呈している。このNi-Nb合金板材の横断面を、
図6に示すように3つのエリア1~3に区分し、エリア1~3のそれぞれについて、上記した
図5に示すNi-Nb合金板材の場合と同様に、XPS分析を行ったところ、エリア1~3の平均のNb含有比は48.4質量%(約37.2at%)であった。
【0034】
この発明に係るNi-Nb合金板材は、Niリッチ層およびNbリッチ層の合計の層数が3以上であればよく、
図5および
図6に示す18層構造のNi-Nb合金板材に限定されない。また、この発明に係るNi-Nb合金板材は、板厚が4mm以下であってよく、板厚を構成するそれぞれの層の厚さは限定されない。例えば、この発明に係るNi-Nb合金板材の実施形態である
図5および
図6に示すNi-Nb合金板材は、板厚が約0.1mmである。
【0035】
Niリッチ層およびNbリッチ層の合計の積層数が3以上のNi-Nb合金板材は、例えば、
図5および
図6に示すような18層構造のNi-Nb合金板材は、この発明に係る上記したNi-Nb積層板材を用いて、容易に製造することができる。具体的には、このNi-Nb合金板材は、純Niまたは7質量%以下のNbを含むNi合金からなるNi系金属板材と、純Nbまたは15質量%以下のNiを含むNb合金からなるNb系金属板材とを、厚さ方向に交互に積層し、Ni系金属板材およびNb系金属板材の合計の積層数を3以上とした状態で圧延接合することによって、Ni系金属層とNb系金属層とが厚さ方向に交互に積層され、合計の積層数が3以上の積層板材を形成する、積層板材の製造工程の後に、その積層板材に対して拡散焼鈍を行うことによって、NiおよびNbからなる金属間化合物の
共存組織を有し、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層され、Niリッチ層およびNbリッチ層の合計の積層数が3以上の合金板材を形成する、拡散焼鈍工程を経ることによって、容易に製造することができる。
【0036】
この発明に係る上記したNi-Nb合金板材の製造方法において、積層板材の製造工程は、この発明に係る上記したNi-Nb積層板材の製造方法と同等である。つまり、この発明に係る上記したNi-Nb積層板材に対して、上記した拡散焼鈍工程を行うことによって、NiおよびNbからなる金属間化合物の共存組織を有し、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層され、Niリッチ層およびNbリッチ層の合計の積層数が3以上である、この発明に係るNi-Nb合金板材を製造することができる。
【0037】
例えば、
図5に示すNi-Nb合金板材は、
図3に示すNi-Nb積層板材に対して、約1100℃の温度で約1時間、アルゴンガス雰囲気中で保持する拡散焼鈍を行うことによって、製造したものである。また、例えば、
図6に示すNi-Nb合金板材は、
図4に示すNi-Nb積層板材に対して、約1100℃の温度で約1時間、アルゴンガス雰囲気中で保持する拡散焼鈍を行うことによって、製造したものである。なお、
図5および
図6に示すNi-Nb合金板材のいずれにおいても、相対的に、濃い灰色に見える部分がNiリッチ層であり、薄い灰色に見える部分がNbリッチ層である。また、黒点状に見える部分は微細孔であって、拡散焼鈍で加熱された際のNiとNbとの拡散速度の差によって発生したと考えられるカーケンダルボイドである。こうした微細孔は、例えば、HIP(Hot Isostatic Pressing)を行うことによって押し潰し、実質的に消滅させることが可能である。
【0038】
図5および
図6に示すNi-Nb合金板材の他部位から別のサンプルを切り出し、Niリッチ層およびNbリッチ層と考えられる幾つかの層を対象として、EDS分析によって、NiおよびNbの含有比を調べた。
図5に示すNi-Nb合金板材に対応するサンプルおよび測定点を
図7に示し、
図6に示すNi-Nb合金板材に対応するサンプルおよび測定点を
図8に示す。表1は、調べたNiおよびNbの含有比である。
【0039】
【0040】
表1に示すNiおよびNbの含有比と、
図7および
図8に示すNi-Nb合金板材の観察像とから、
図7および
図8に示すNi-Nb合金板材は、含有比を質量%で表した場合、相対的に、図中の薄い灰色に見える部分(測定位置番号1~3および16~18)がNbリッチ層であり、図中の濃い灰色に見える部分(測定位置番号4~6および19~21)がNiリッチ層であることが確認された。また、
図7および
図8に示すNi-Nb合金板材は、Niリッチ層とNbリッチ層とが厚さ方向に交互に積層されて構成されており、Niリッチ層およびNbリッチ層の合計の層数が、およそ18であることが確認された。また、
図7および
図8に示すNi-Nb合金板材は、含有比を質量%で表した場合、Niリッチ層はNi含有比(平均)が約66質量%(約76at%)でNb含有比が約34質量%(約24at%)であり、Nbリッチ層はNi含有比(平均)が約42質量%(約53at%)でNb含有比(平均)が約58質量%(約47at%)であることが確認された。これより、
図7および
図8に示すNi-Nb合金板材は、NiリッチのNi-Nb合金部分とNbリッチのNi-Nb合金部分とが厚さ方向に交互に積層されて構成された多層構造のNi-Nb合金板材(Ni-Nb合金クラッド板材)であることが確認された。
【0041】
図1に示すNiおよびNbの二元系状態図に基づけば、NbリッチのNi-Nb合金部分は、すなわち、Niに対してNbの含有比が約47at%(約58質量%)であるNi-Nb合金部分は、Ni-Nb系の金属間化合物であるNi
3NbとNi
6Nb
7とが
共存し、金属Niまたは金属Nbが共存しない組織形態を成すことが解かる。また、NiリッチのNi-Nb合金部分は、すなわち、Niに対してNbの含有比が約24at%(約34質量%)であるNi-Nb合金部分は、Ni-Nb系の金属間化合物であるNi
3Nbが存在し、金属Niまたは金属Nbが共存しない組織形態を成すことが解かる。こうした金属Niまたは金属Nbが共存せず、Ni-Nb系の金属間化合物のみから成るNi-Nb合金は脆く、割れやすいが、上記した製造方法によって、Ni-Nb合金板材を提供することができた。