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特許7331597リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質粉体、負極、及びリチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質粉体、負極、及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質粉体、負極、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20230816BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230816BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230816BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230816BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230816BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230816BHJP
   C01B 33/113 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M10/0566
H01M10/0562
H01M10/052
C01B33/113 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019179772
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021057216
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺園 真二
(72)【発明者】
【氏名】山田 和彦
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-021451(JP,A)
【文献】特開2006-019309(JP,A)
【文献】特開2005-011696(JP,A)
【文献】特開2015-156328(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046395(WO,A1)
【文献】特開2016-024934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 10/0566
H01M 10/0562
H01M 10/052
C01B 33/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、SiOx(但し0<x<2)、Sn、及びSnOy(但し0<y≦2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の単粒子を活物質として含み、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質粉体であって、
前記単粒子より形成される二次粒子表面にフッ素化された層を有し、
前記フッ素化された層は、前記二次粒子そのものの表面がフッ素化された層である、負極活物質粉体。
【請求項2】
前記二次粒子の表面にさらに、フッ素化された別の粒子(ただし、熱可塑性樹脂を除く。)により形成された層を有する、請求項1に記載の負極活物質粉体。
【請求項3】
Si、SiOx(但し0<x<2)、Sn、及びSnOy(但し0<y≦2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の単粒子を活物質として含み、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質粉体であって、
前記単粒子より形成される二次粒子表面にフッ素化された層を有し、
前記フッ素化された層が、フッ素化されたカーボンの粒子からなり、
前記フッ素化された層における前記カーボンの含有量が50~99質量%である、負極活物質粉体。
【請求項4】
フッ素含有量の合計が0.1~20質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の負極活物質粉体。
【請求項5】
表面に前記フッ素化された層を有する二次粒子の平均粒径が0.1~10μmである請求項1~4のいずれか1項に記載の負極活物質粉体。
【請求項6】
前記フッ素化された層の厚みが1~50nmである、請求項1~のいずれか1項に記載の負極活物質粉体。
【請求項7】
表面に前記フッ素化された層を有する二次粒子において、粒子表面のフッ素含有量が、粒子内部のフッ素含有量よりも多い、請求項1~のいずれか1項に記載の負極活物質粉体。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の負極活物質粉体及び導電助剤を含み、リチウムイオン二次電池に用いられる負極。
【請求項9】
請求項に記載の負極と、電解液又は固体電解質と、正極と、を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質粉体、負極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。
近年、このような携帯型電子機器や車載用のリチウムイオン二次電池として小型化・軽量化が求められ、単位質量あたりの放電容量、サイクル特性、電池としての安定性等の更なる性能向上が望まれている。
【0003】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、層状構造を有する黒鉛が一般的に用いられている。この黒鉛負極を用いたリチウムイオン二次電池に対し、さらなる高容量化、高レート特性、コスト低減等を目的とした様々な検討がなされている。
【0004】
例えば特許文献1には、炭素安定同位体13Cを含む黒鉛から構成され、前記黒鉛中における前記炭素安定同位体13Cの含有量を、炭素安定同位体比δ13Cで-30~-15‰とすることにより、充電レート特性が向上することが開示されている。
また、特許文献2には、炭素材料からなる第1負極活物質、及び炭素材料からなり、かつ前記第1負極活物質とは異なる、非晶質炭素材料を含む第2負極活物質を含有し、特定の特性を有する負極活物質層を用いることにより、低抵抗かつ高負荷時の充放電サイクル特性、及び高温保存耐久性に優れ、かつセル組立時の負極活物質の欠落が抑制された負極が得られることが開示されている。
【0005】
黒鉛以外の負極活物質としてSi、Snが挙げられるが、これらは、充電時におけるリチウムとの合金化反応で大きな体積膨張を起こし、放電反応では収縮するため、充放電の繰り返しにより粒子が微粉化し、早期に寿命に至る。そのため実用化は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-145297号公報
【文献】特開2019-091793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン二次電池において、負極と電解液の界面には、主に充電時にSolid Electrolyte Interphase(SEI)と呼ばれる被膜が形成されることが知られている。このSEIの性質によって、リチウムイオン二次電池の性能や安全性が大きく変化するが、SEIについては未知の部分が多いのが実際のところである。
【0008】
このSEIの形成を抑制できれば、SEIに起因したリチウムイオン二次電池の性能や安全性の低下を防げるものの、SEIの形成を抑制する有効な手段は確立されていない。
【0009】
そこで本発明では、リチウムイオン二次電池の電池特性が向上するリチウムイオン二次電池用負極活物質粉体を提供することを目的とする。具体的には、SEI形成を有効に抑制することによる初期不可逆容量の低減、又は、負極活物質表面におけるLiイオンの伝導経路を確保することによるLiイオン伝導性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質粉末として、Liとの合金化反応によってLiを貯蔵できるSi、Sn及びそれらの酸化物を負極活物質として含み、それらの表面にフッ素化された層を設けることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記[1]~[8]に関するものである。
[1] Si、SiOx(但し0<x<2)、Sn、及びSnOy(但し0<y≦2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の単粒子を活物質として含み、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質粉体であって、前記単粒子より形成される二次粒子表面にフッ素化された層を有する、負極活物質粉体。
[2] フッ素含有量の合計が0.1~20質量%である、前記[1]に記載の負極活物質粉体。
[3] 表面に前記フッ素化された層を有する二次粒子の平均粒径が0.1~10μmである前記[1]又は[2]に記載の負極活物質粉体。
[4] 前記フッ素化された層の厚みが1~50nmである、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の負極活物質粉体。
[5] 前記フッ素化された層が、フッ素化されたカーボンの粒子からなり、前記フッ素化された層における前記カーボンの含有量が50~99質量%である、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の負極活物質粉体。
[6] 表面に前記フッ素化された層を有する二次粒子において、粒子表面のフッ素含有量が、粒子内部のフッ素含有量よりも多い、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の負極活物質粉体。
[7] 前記[1]~[6]のいずれか1に記載の負極活物質粉体及び導電助剤を含み、リチウムイオン二次電池に用いられる負極。
[8] 前記[7]に記載の負極と、電解液又は固体電解質と、正極と、を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る負極活物質粉体によれば、リチウムイオン二次電池の初期充放電における不可逆容量を小さくでき、又は、Liイオン伝導性を高くできることから、電池特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、例1及び例4の充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
<負極活物質粉体>
本実施形態に係る負極活物質粉体は、リチウムイオン二次電池に用いられる。Si、SiOx(但し0<x<2)、Sn、及びSnOy(但し0<y≦2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の単粒子を活物質として含み、前記単粒子より形成される二次粒子表面にフッ素化された層を有する。
【0016】
Si、SiOx、Sn、及びSnOyはいずれも、充放電がLiとの合金化反応によって行われる負極活物質である。これらは、層状構造であって、その層間にLiイオンが挿入脱離される黒鉛とは、充放電機構が異なる。
【0017】
Si、SiOx、Sn、SnOyは1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。SiOxにおけるxの値は0超2未満であり、SnOyにおけるyの値は0超2以下であるが、yの値は2未満が高容量化を実現する観点から好ましい。
また、これらのうち1種以上を、他の負極活物質と共に用いてもよく、複合材料として用いてもよい。他の負極活物質としては、例えば黒鉛、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物、その他の窒化物等が挙げられる。
【0018】
Si、SiOx、Sn、SnOyを負極活物質として用いた場合、それらの理論容量はSiが4198mAh/g、Snが994mAh/g、SiOxのx=1である場合、2007mAh/g、SnOy(但し0<y≦2)が994~780mAh/gであり、いずれも黒鉛の理論容量372mAh/gに比べて非常に高いことから、極めて有望である。
【0019】
Si、SiOx(但し0<x<2)、Sn、及びSnOy(但し0<y≦2)は、それらのうち少なくとも1種の単粒子が活物質として含まれる。なお、本明細書において、単粒子とは、複数の粒子が凝集又は連結した二次粒子とは異なり、1個の粒子として分散された一次粒子の状態のものを云う。
【0020】
負極活物質粉体に、単粒子より形成される二次粒子表面にフッ素化された層を有することにより、リチウムイオン二次電池の充放電における初期不可逆容量を小さくできるか、Liイオン伝導性を向上することができる。
初期不可逆容量の低下については、フッ素化された層により、SEIの形成が有効に抑制されるためであると推測される。この詳細については明らかではないが、以下に推測される理由を述べる。
【0021】
リチウムイオン二次電池の充放電を行うと、負極活物質|電解液界面にはSEIと呼ばれる被膜が形成される。このSEIの形成は、1サイクル目の充放電において顕著である。これに対し、負極活物質粉体を構成する活物質の表面をフッ素化された層で覆うことにより、活物質の露出が抑制される。その結果、活物質の電解液との表面反応が起こりにくくなり、SEIの形成が抑制されるものと推測される。充放電における初期不可逆容量は、SEIの形成に起因するところが大きいので、SEIの形成が抑制されるのに伴い、初期不可逆容量を低減することが実現される。
【0022】
また、電解質が液体(電解液)か固体(固体電解質)かに限らず、活物質である二次粒子の表面にフッ素化された層を形成させることで、当該層を形成させない場合と比べてLiイオン伝導性が向上することで良好な電池特性が得られる場合がある。
この理由も明らかではないが、固体電解質の場合には、電解液の場合と同様に、負極活物質|固体電解質界面にはSEIかそれに類する何らかの被膜が形成されており、その被膜形成を有効に抑制できる可能性が考えられる。また、活物質である二次粒子表面にフッ素化された層が形成されることにより、二次粒子表面が安定化されつつ、電気陰性度の大きなフッ素の存在に伴って二次粒子表面は分極し、Liカチオンとの相互作用により、負極活物質|電解質界面における界面抵抗が小さくなることで、良好なLiイオン伝導経路が形成される可能性も考えられる。
【0023】
このように、活物質である二次粒子の表面がフッ素化された層で覆われることにより、電解質が液体、固体であるかに関わらず、初期不可逆容量の低減やLiイオンの伝導経路の形成によるLiイオン伝導性の向上が図られ、リチウムイオン二次電池の電池特性が改善されて良好なものとなる。
【0024】
負極活物質粉体におけるフッ素含有量の合計は、0.1質量%以上であることが、本発明の効果がより得られる点から好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、フッ素含有量の合計は20質量%以下であることが、絶縁性の高いLiFによる導電性の低下を抑制できる点から好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
なお、フッ素含有量は、燃焼法による元素分析の結果から求められる。
【0025】
フッ素化された層は二次粒子そのものの表面がフッ素化された層である場合、フッ素化された層の厚みは、本発明の効果がより得られる点から1nm以上が好ましく、1.25nm以上がより好ましく、1.5nm以上がさらに好ましい。また、フッ素化された層の厚みは、導電性の低下を抑制する点から50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
フッ素化された層が、二次粒子表面をフッ素化された別の粒子により覆うことで形成された層である場合、フッ素化された層の厚みは、本発明の効果がより得られる点から0.1μm以上が好ましく、また、1μm以下が好ましい。
なお、フッ素化された層の厚みはX線光電子分光法や二次粒子断面からの元素マッピングなどの分析により求められる。
【0026】
活物質は、充電時に活物質表面におけるLiイオンとの合金化反応による体積膨張を伴う。そのため、活物質の単粒子の粒径が大きいほど、単粒子表面における体積膨張に伴う応力が大きくなり、単粒子が割れて微粉化するおそれが高まる。また、Liイオンが単粒子内部まで侵入して合金化反応が完了するまでの時間がかかることから、負極活物質の特性を十分に生かし、高容量を発現しようとすると、充放電レートの大きな高速充放電に対応することが困難となる。以上の理由から、単粒子の平均粒径は100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。また、単粒子の平均粒径は小さいほど好ましいが、通常20nm以上である。
【0027】
単粒子は凝集して二次粒子を形成する。形成された二次粒子の表面にフッ素化された層を有する二次粒子の平均粒径は、安定した形成の点から0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、平均粒径はLiイオンの移動し易さの点から10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
なお、表面にフッ素化された層を有する二次粒子の平均粒径とは、フッ素化された層の厚みを含み、粒径分布測定装置により求められる。通常、D50平均粒径(メジアン径:頻度の累積が50%になる粒子径)を採用される。
具体的には、負極活物質を水中に超音波処理によって充分に分散させ、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置にて二次粒子の測定を行う。頻度分布および累積体積分布曲線を得ることで体積基準の粒度分布を得、累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径をD50平均粒径と定義する。
【0028】
表面にフッ素化された層を有する二次粒子において、二次粒子表面のフッ素含有量が、二次粒子内部のフッ素含有量よりも多いことが、粒子界面におけるリチウムイオンの伝導性改善や粒子表面における活物質の高活性部位の安定化の点から好ましい。
二次粒子における表面と内部のフッ素含有量の差は、元素分析による二次粒子全体におけるフッ素含有量と、X線光電子分析による二次粒子表面から粒子内部までの深さ方向におけるフッ素含有プロファイルにより、凡そ見積もることができる。
【0029】
負極活物質粉体を構成するSi、SiOx、Sn、SnOyの粒子は、従来公知の方法により作製できる。例えば、SiOxの製造法の多くは一般的に、加熱炉でSiOxガスを発生させ、それを析出基体に析出させて塊状のSiOx製品を造る。これを粉砕して粒子を製造している。
【0030】
フッ素化された層の形成方法は特に限定されないが、例えば、二次粒子そのものの表面がフッ素化された層であってもよく、二次粒子表面を、フッ素化された別の粒子により覆うことで形成された層であってもよい。
【0031】
二次粒子そのものの表面がフッ素化された層とは、二次粒子をフッ素化可能な気体と接触させることで二次粒子表面に形成された、フッ素を含有する層である。このようにフッ素化された層が形成された場合、二次粒子表面のフッ素含有量は、二次粒子内部のフッ素含有量よりも多くなる。
フッ素化可能な気体とは、フッ素元素を含む気体であり、フッ素ガス(Fガス)、フッ化水素ガス(HFガス)、BFガス、NFガス、PFガス、SiFガス、SFガス等が挙げられる。これらフッ素元素を含む気体は単独で用いても、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスとの混合ガスを用いてもよい。
【0032】
これらの中でも、純粋にフッ素のみを反応させるという意味において他の元素を含まないので、フッ素ガス(Fガス)又はフッ化水素ガス(HFガス)が好ましい。二次粒子とFガス又はHFガスとの接触によりフッ素化された層が形成された場合、負極活物質中には、フッ素原子または水素原子のみしか含有されないので、かかるガスの接触によりフッ素化された層が形成されたと判断できる。
【0033】
混合ガスを用いる場合、フッ素元素を含む気体の濃度は、反応の制御のしやすさ及び経済的な観点から、混合ガス全体に対して0.01体積%以上が好ましく、0.1体積%以上がより好ましく、また、50体積%以下が好ましく、35体積%以下がより好ましく、20体積%以下がさらに好ましい。
【0034】
二次粒子とフッ素元素を含む気体とを接触させる時間は、10秒以上が好ましく、1分以上がより好ましく、また、120分以下が好ましく、10分以下がより好ましい。かかる範囲にすることで、二次粒子の表面に濃度を制御したフッ素化された層を精度よく形成でき、サイクル特性や充放電特性に優れた負極活物質粉体とできる。
【0035】
二次粒子とフッ素元素を含む気体とを接触させる温度は、10~150℃の範囲で温度制御しながら行うことが好ましい。二次粒子表面におけるフッ素濃度を高めたい場合には、温度を上げることで二次粒子表面とフッ素との反応性が上がり高濃度で所望のフッ素を含む層を形成することもできる。これにより、確実にかつ効率よく、フッ素化された層を形成できる。
フッ素元素を含む気体との接触は、加圧しながら行ってもよく、その圧力は、安全性を高める観点及び過剰なフッ素化を抑制する観点から、0.6MPa(ゲージ圧)以下が好ましく、0.3MPa以下がより好ましい。
【0036】
フッ素元素を含む気体との接触は、流通式又はバッチ式が好ましい。
流通式の場合は、反応容器内に二次粒子を静置した状態で入れ、所定の濃度のフッ素を含む気体を開放型の反応容器内に連続的に供給して、二次粒子とフッ素を含む気体とを接触させる方法が好ましい。
バッチ式の場合は、所定の濃度とされたフッ素元素を含む気体雰囲気の密閉された反応容器内に二次粒子を収容して、二次粒子とフッ素元素を含む気体とを接触させる方法が好ましい。
【0037】
流通式で行う場合、二次粒子に対して均一にフッ素元素を含む気体を接触させる観点から、反応容器として二次粒子を置き流動させる流動床を備えるものや、管状炉などのキルンを用いることも可能である。流動床を備える場合には、フッ素化する処理時間の短縮化および過剰なフッ素化を抑制し、より均一なフッ素化を実現できるので特に好ましい。
バッチ式で行う場合、二次粒子に対して均一にフッ素元素を含む気体を接触させるために、二次粒子を撹拌混合しながら行うことも可能である。
【0038】
フッ素化された別の粒子により形成された層とは、表面がフッ素化された別の粒子によって二次粒子表面が覆われているような場合を意味する。このようにフッ素化された層が形成された場合、二次粒子表面のフッ素含有量は、二次粒子内部のフッ素含有量よりも多くなる。
具体的には、二次粒子の表面を、フッ素化されたカーボン粒子で覆う層、フッ素化された酸化物粒子で覆う層等が挙げられる。中でもフッ素化されたカーボンの粒子で覆う層であることが高電位における安定性や大きな比表面積をもったカーボン粒子を用いることでフッ素濃度を高めることも可能となり、フッ素化による効果を十分に得ることができるので好ましい。
【0039】
カーボンの粒子は粒子状に限られず、繊維状のカーボンでもよい。いずれの場合にも、カーボンの表面にフッ素が化学吸着もしくは化学結合しているものを作製できる。
粒子状のカーボンとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、C60、C70、C84等のフラーレン類、ダイヤモンド等が挙げられる。
繊維状のカーボンとしては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0040】
上記の中でも、サイクル特性およびエネルギー密度が充分に高くなる点から、粒子状のカーボンが好ましく、高比表面積をもったケッチェンブラック又は活性炭がより好ましい。なお、カーボンは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
フッ素化された層の厚みは1~50nmが好ましいことから、フッ素化されたカーボンの粒子の粒径も50nm以下が好ましい。
【0042】
フッ素化された層がフッ素化されたカーボンの粒子から形成される場合、フッ素化された層におけるカーボンの含有量は、負極活物質表面を隙間なくコートでき、二次粒子表面の界面抵抗の増大を抑制する必要性から50質量%以上が好ましい。また、フッ素化における効果を得るために、カーボンの含有量は99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。一方、フッ素化された層におけるフッ素の含有量は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、また、50質量%以下が好ましい。
かかるフッ素とカーボンの含有量は、燃焼法による元素分析により求められる。
【0043】
二次粒子の表面をフッ素化された別の粒子によって覆う方法におけるフッ素化された別の粒子が、カーボンである場合、カーボンとフッ素化合物とを混合接触させることにフッ素化されたカーボンを製造できる。
【0044】
フッ素化に用いるフッ素化合物としては、フッ素ガス、フッ化水素ガス、ClF、IF等のフッ化ハロゲン、BF、NF、PF、SiF、SF等のガス状フッ化物、LiF、NiF等の金属フッ化物等が挙げられる。
【0045】
これらのうち、取り扱いの容易性および、得られるフッ素化されたカーボンに含まれる不純物を少なくする点から、ガス状フッ化物を使用することが好ましく、F、ClF、NFがより好ましく、Fが特に好ましい。
ガス状フッ化物を用いる場合には、フッ素化処理を制御し易くするためN等の不活性ガスで希釈して用いてもよい。
【0046】
カーボンをフッ素化する際の温度は、-20℃以上が、カーボン表面にフッ素が化学吸着もしくは化学結合の形成を可能とするため好ましい。また、かかる温度は、極度のフッ素化反応を抑制するため、350℃以下が好ましい。
【0047】
上記で得たフッ素化されたカーボンを二次粒子と混合することで、フッ素化された層を有する二次粒子が得られる。
混合方法は、乾式法又は湿式法が挙げられる。乾式法は、分散媒を用いずに混合する方式であるが、混合後の乾燥が不要であること、及び、湿式法に必要な分散液の調製が不要であること等の理由から、乾式法が簡便であり好ましい。
【0048】
乾式法において混合に用いる機器としては、各種ディスパ、ボールミル、スーパーミキサ、ヘンシェルミキサ、アトマイザ、V型混合機、ペイントシェーカ、コニカルブレンダ、ナウターミキサ、SVミキサ、ドラムミキサ、シェーカーミキサ、プロシェアーミキサ、万能ミキサ、リボン型混合機、リボンミキサ、コンテナミキサ等が挙げられる。小スケールで混合を行う場合には、自転・公転ミキサを用いてもよい。
【0049】
乾式法の混合時間は、生産性の点から1~60分間が好ましく、1~30分間がより好ましい。また、混合温度は20~30℃が好ましい。
【0050】
<負極>
本実施形態に係る負極は、上記負極活物質粉体及び導電助剤を含み、リチウムイオン二次電池に用いられる。また、必要に応じでバインダーを含んでいてもよい。
具体的には、集電体上に、負極活物質粉体及び導電助剤の混合物が形成されたものであり、媒体に溶解又は分散させてスラリー状にした混合物を、前記集電体上に塗布、乾燥し、必要であればプレスすることにより圧密化し負極が得られる。
【0051】
負極に用いられる集電体は従来公知の物が用いられ、例えば銅箔やニッケル箔等の金属箔が挙げられる。
導電助剤も特に限定されず、従来公知の物が用いられ、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラックや活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等が挙げられる。
バインダーも特に限定されず、従来公知の物が用いられ、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等が挙げられる。
【0052】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上記負極、電解質及び正極を含むものである。電解質が液体である場合には、負極と正極を隔てる隔膜として機能し短絡を防止するためにセパレータを用いる。このセパレータとしては、多孔膜などが挙げられる。
電解質、正極、セパレータは従来公知の物が用いられる。以下に具体例を示すが、これらになんら限定されるものではない。
【0053】
電解質は、電解液であっても固体電解質であってもよく、電解液である場合には、非水電解液でも水系電解液でもよい。また、固体電解質である場合には、リチウムイオン二次電池は全固体型リチウムイオン二次電池となる。
【0054】
非水電解液は有機溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液や、電解質塩を混合または溶解させたゲル状の高分子電解質等が挙げられる。
水系電解液は、二成分高濃度電解質を用いた水系電解液や、イオン液体を用いた水系電解液が挙げられる。
【0055】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、γ-ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等が挙げられる。電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類が好ましい。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
ゲル状高分子電解質に用いられる高分子としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系高分子化合物、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル共重合体、ポリエチレンオキサイド、その架橋体等のエーテル系高分子化合物等が挙げられる。共重合体に共重合させるモノマーとしては、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
該高分子化合物としては、酸化還元反応に対する安定性の点から、フッ素系高分子化合物が好ましい。
【0057】
電解質塩は、リチウムイオン伝導性を有していればよい。具体的には、LiClO、LiPF、LiBF、CHSOLi等が挙げられる。
【0058】
固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するものであればよく、無機固体電解質や電解質塩を混合させた固体高分子電解質等が挙げられる。
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。
【0059】
固体高分子電解質に用いられる高分子としては、ポリエチレンオキサイド、その架橋体等のエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物等が挙げられる。該高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
上記負極、電解質及び正極等のリチウムイオン二次電池を構成するものは、電池外装体に格納される。電池外装体の材料も、従来公知のものを使用できるが、具体的には、ニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウムまたはその合金、ニッケル、チタン、樹脂材料、フィルム材料等が挙げられる。
【0061】
リチウムイオン二次電池の形状としては、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等が挙げられ、用途に応じて適宜選択できる。
【0062】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、初期充放電時の小さい不可逆容量や、良好なリチウムイオン伝導性を実現し得る。
【実施例
【0063】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
得られた負極活物質粉体又はリチウムイオン二次電池における各特性の評価方法を下記に示す。
【0064】
[例1(実施例)フッ素化処理SiO粉体]
(フッ素化処理)
内容積0.3Lのハステロイ製反応器内にSiO粉体(豊島製作所製、純度3N)を6.5639gを入れて、Fガスを20体積%含むNガスを用いて、室温で2時間SiO粉体のフッ素化処理を行うことで、表面にフッ素化された層を有するSiO粉体(二次粒子)を得た。自動試料燃焼装置(三菱ケミカルアナリテック(ダイヤインスツルメンツ)製、AQF-100)とイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス製、DX120)とを用いて、フッ素含有量を定量分析したところ、フッ素化された層を有するSiO粉体中のフッ素含有量の合計は0.45質量%であり、二次粒子表面のフッ素含有量は、二次粒子内部のフッ素含有量よりも多かった。なお、表面にフッ素化された層を有する二次粒子の平均粒径は1μmであった。
【0065】
(負極形成用スラリーの調製)
上記で得られた表面にフッ素化された層を有するSiO粉末を負極活物質として用いて以下の手順により負極形成用スラリーを調製した。
室温で表面にフッ素化された層を有するSiO粉体を1.9993g秤量し、ここにアセチレンブラックを0.1133gを加え、自転・公転回転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2000rpm、2分間粉体混合した。次に、増粘剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液2.4664gと水2.0104を加え、2000rpmで10分間混合した。
バインダーとして、アフラスCS150(AGC社製)0.2023gを加え、500rpm、10秒間混合し負極形成用スラリーを調製した。
【0066】
(負極シートの作製)
次に、以下の手順により負極シートを作製した。
上記で調製された負極形成用スラリーを厚さ30μmの銅箔上にドクターブレードにより塗工ギャプ120μm設定で塗工した。次に80℃に設定したホットプレート上に置いて、10分間乾燥した。更に、100℃、10分間オーブンの中で乾燥した。このようにして乾燥し得られた負極シートを圧延ローラーで圧密化し、厚さ46μm、密度1.40g/cmからなる負極シートを作製した。
【0067】
(リチウムイオン二次電池用評価セルの作製)
上記手順で負極シートを作製した後、負極シートを打ち抜いた。セパレータとして厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、更に電解液には、濃度1mol/dmのLiPF/EC(エチレンカーボネート)+DEC(ジエチルカーボネート)(1:1)溶液(LiPFを溶質とするECとDECとの体積比(EC:DEC=1:1)の混合溶液を意味する。)を用いた。
アルゴンガスグローブボックス内でステンレス製簡易密閉セルに銅箔上に塗工した負極シート、セパレータ、電解液を入れ、対極として厚さ500μmの金属リチウム箔を入れ、リチウムイオン電池用評価セルを組み立てた。
【0068】
(電池特性)
上記で得られたリチウムイオン二次電池用評価セルを用いて、以下の充放電特性評価を実施した。
C-レート0.05C(電流0.4339mA)で電圧0.05Vまで定電流充電した。また、充電完了後に同じC-レート0.05C(電流0.4339mA)で電圧1.5Vまで定電流放電した。充放電容量特性として、1サイクル目の充電容量と放電容量を求め、その充電容量に対する放電容量の比を初期不可逆容量として算出した。また、充放電電圧特性として、100mAh/g時における充電電圧と放電電圧をそれぞれ求めた。
【0069】
[例2(実施例)フッ素化カーボンコートSiO粉体]
カーボンとして比表面積1270m/gのケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)に対し、例1と同様の手法によりフッ素化処理を行うことで、フッ素化カーボンを作製した。元素分析法によりフッ素含有量を定量分析したところ、フッ素化カーボンにおけるフッ素含有量は40質量%であり、カーボン含有量は60質量%であった。
得られたフッ素化カーボンを0.04g、実施例1で使用したものと同一のSiO粉体2.0gを、自転・公転回転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2000rpm、2分間粉体混合して、SiO粉体の表面上にフッ素化カーボンを付着コートさせることで、フッ素化された層を有するSiO粉体(二次粒子)を得た。ここで、フッ素化カーボンの付着コートを実施する前後におけるSiO粉体の走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-4300)による表面観察から、付着コートにより、SiO粉体の表面にフッ素化カーボンによるフッ素化された層が形成されていることを確認した。
フッ素化された層を有するSiO粉体中のフッ素含有量の合計は0.55質量%であり、二次粒子表面のフッ素含有量は、二次粒子内部のフッ素含有量よりも多かった。なお、表面にフッ素化された層を有する二次粒子の平均粒径は1.5μmであった。
次いで例1と同様にして負極形成用スラリーを調製し、負極シートを作製した後、リチウムイオン二次電池用評価セルを組むことで、電池特性の評価を行った。
【0070】
[例3(比較例)SiO粉体]
例1で使用したSiO粉体をそのままの形で用い、例1と同様にして負極形成用スラリーを調製し、負極シートを作製した後、リチウムイオン二次電池用評価セルを組むことで、電池特性の評価を行った。
【0071】
[例4(比較例)Si粉体]
Si粉体(豊島製作所製、純度3N、平均粒径5μm)をそのままの形で用い、例1と同様にして負極形成用スラリーを調製し、負極シートを作製した後、リチウムイオン二次電池用評価セルを組むことで、電池特性の評価を行った。
【0072】
例1~4について、フッ素化処理に関するデータを表1に、電池特性の評価結果を表2にそれぞれ示す。また、例1及び例4の充放電極性を図1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
上記の結果から、例1において、例3のフッ素化された層を有さないSiO粉体に比べて、充電容量に対して放電容量を高めることができ、初期不可逆容量の低減が実現された。この評価結果は、二次粒子表面に対してフッ素化処理を実施することにより、SEIの形成抑制効果による安定化が図られたためと推察される。
また、例2のフッ素化カーボンコートによりフッ素化された層を有するSiO粉体においては、初期不可逆容量は、例3と同程度であった。しかしながら、充電容量が100mAh/gの時の充電電圧が0.26Vであり、例3のSiO粉体(0.17V)と比較して高かった。これより、二次粒子表面におけるLiイオン伝導経路が形成されたことにより、充電時における電圧低下が小さくなったものと推察される。
図1