(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】IABPバルーンカテーテル及びIABP駆動装置
(51)【国際特許分類】
A61M 60/295 20210101AFI20230816BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20230816BHJP
【FI】
A61M60/295
A61M25/10 540
(21)【出願番号】P 2019567143
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2019002242
(87)【国際公開番号】W WO2019146687
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2018010847
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克明
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190011(JP,A)
【文献】特開2017-113080(JP,A)
【文献】特開2012-115619(JP,A)
【文献】特開2016-002347(JP,A)
【文献】登録実用新案第3177552(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/295
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IABP駆動装置によって駆動されるIABPバルーンカテーテルであって、
拡張及び収縮するバルーン部と、
前記バルーン部の後端に連結されて、前記バルーン部内に圧力流体を導入及び導出する圧力流体導通路が形成されたカテーテル管と、
前記カテーテル管の後端部に連結され、前記圧力流体導通路内と連通する圧力流体導入出口を有する接続通路が形成されたハンドル部と、
前記IABPバルーンカテーテルが複数台のIABP駆動装置によって引き継いで駆動された場合において、それら複数台のIABP駆動装置によって駆動された累積駆動時間に関する情報を記憶する記憶部と、
前記IABP駆動装置が、前記記憶部に入出力するためのインターフェース部と、
を有
し、
前記記憶部は、前記バルーン部が前記複数台のIABP駆動装置のそれぞれによって駆動され拡張及び収縮している間に、前記バルーン部を駆動する前記IABP駆動装置により更新された前記累積駆動時間に関する情報の記憶を継続するIABPバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記インターフェース部は、接触式端子を有することを特徴とする請求項1に記載のIABPバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記インターフェース部は、非接触式通信用アンテナを有することを特徴とする請求項1に記載のIABPバルーンカテーテル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のIABPバルーンカテーテルを駆動するIABP駆動装置であって、
前記バルーン部を拡張及び収縮させるバルーン駆動部、及び前記記憶部に対して前記情報の読み出し及び書き込みを行う制御部を有し、
前記制御部は、前記バルーン駆動部が前記バルーン部の拡張及び収縮を開始する前後に、前記記憶部から前記情報を読み出すことを特徴とするIABP駆動装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記バルーン駆動部が前記バルーン部の拡張及び収縮を継続している間、所定の周期で、前記IABPバルーンカテーテルの前記累積駆動時間を算出することを特徴とする請求項4に記載のIABP駆動装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記IABPバルーンカテーテルの前記累積駆動時間が所定の閾値を超えた場合、アラーム部にアラーム動作を行わせることを特徴とする請求項5に記載のIABP駆動装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記バルーン駆動部が前記バルーン部の拡張及び収縮を継続している間、所定の周期で、前記IABPバルーンカテーテルの前記累積駆動時間に関する前記情報を、前記記憶部に書き込むことを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載のIABP駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IABP(大動脈内バルーンポンピング)法に用いるIABPバルーンカテーテル及びこれを駆動するために用いられるIABP駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IABP法は、IABPバルーンカテーテルを患者の体内に留置し、そのIABPバルーンカテーテルを、体外で接続されたIABP駆動装置によって駆動することにより行われる。IABP駆動装置で用いられるバルーンカテーテルは一種類だけではなく、IABP法を適用する患者の体格などに応じて、複数種類のIABPバルーンカテーテルを使い分けて使用する。このようなIABPバルーンカテーテルにバルーンのサイズなどを記録したICチップを搭載することにより、IABP駆動装置が、装置に接続されたIABPバルーンカテーテルのサイズなどを、ICチップから自動的に認識する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
IABP法では、患者の状態に応じて、比較的長時間連続して、患者の体内に留置したIABPバルーンカテーテルの駆動を継続する場合がある。また、IABP法では、例えば、救命救急診療及び一般診療を通じてIABP法が適用される場合や患者が転院するような場合において、体内に留置した1つのIABPバルーンカテーテルを、複数台のIABP駆動装置で引き継いで駆動する場合がある。
【0005】
例えば、1つのIABPバルーンカテーテルを2台のIABP駆動装置で引き継いで駆動する場合、2台目のIABP駆動装置は、1台目のIABP駆動装置がどの程度の時間、対象となるIABPバルーンカテーテルを駆動していたのか、従来のIABP駆動装置では認識することができない。そのため、従来のIABPバルーンカテーテル及びIABP駆動装置では、IABPバルーンカテーテルが規定の累積駆動時間を超えて駆動された場合や、規定の累積駆動時間が近づきつつあるような状態であっても、操作者に注意喚起を行えない場合があった。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、複数台のIABP駆動装置で1つのIABPバルーンカテーテルを引き継いで駆動するような場合であっても、IABPバルーンカテーテルの累積駆動時間を適切に管理することができるIABPバルーンカテーテル及びIABP駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るIABPバルーンカテーテルは、
IABP駆動装置によって駆動されるIABPバルーンカテーテルであって、
拡張及び収縮するバルーン部と、
前記バルーン部の後端に連結されて、前記バルーン部内に圧力流体を導入及び導出する圧力流体導通路が形成されたカテーテル管と、
前記カテーテル管の後端部に連結され、前記圧力流体導通路内と連通する圧力流体導入出口を有する接続通路が形成されたハンドル部と、
前記IABPバルーンカテーテルが複数台のIABP駆動装置によって引き継いで駆動された場合において、それら複数台のIABP駆動装置によって駆動された累積駆動時間に関する情報を記憶する記憶部と、
前記IABP駆動装置が、前記記憶部に入出力するためのインターフェース部と、
を有する。
【0008】
本発明に係るIABPバルーンカテーテルは、複数台のIABP駆動装置によって引き継いで駆動された累積駆動時間に関する情報を記憶する記憶部を有するため、たとえ複数台のIABP駆動装置が、1つのIABPバルーンカテーテルを引き継いで駆動させた場合であっても、IABPバルーンカテーテルの累積駆動時間を認識することができる。また、本発明に係るIABPバルーンカテーテルを用いてIABP法を行うことにより、IABP駆動装置は、IABPバルーンカテーテルが規定の累積駆動時間を超えて駆動された場合はアラームを発生させたり、規定の累積駆動時間が近づきつつあるような状態を操作者に知らせて注意喚起を行ったりすることができる。
【0009】
また、たとえば、前記インターフェース部は、接触式端子を有してもよい。
【0010】
接触式端子を用いることで、このようなIABPバルーンカテーテルは、IABP駆動装置に対して、安定した信号のやり取りを行うことができる。
【0011】
また、たとえば、前記インターフェース部は、非接触式通信用アンテナを有してもよい。
【0012】
非接触式通信用アンテナを用いることで、このようなIABPバルーンカテーテルは、IABP駆動装置にIABPバルーンカテーテルを接続する際に、接続の手間を軽減できる。
【0013】
本発明に係るIABP駆動装置は、上記いずれかのIABPバルーンカテーテルを駆動するIABP駆動装置であって、
前記バルーン部を拡張及び収縮させるバルーン駆動部、及び前記記憶部に対して前記情報の読み出し及び書き込みを行う制御部を有し、
前記制御部は、前記バルーン駆動部が前記IABPバルーンカテーテルの拡張及び収縮を開始する前後に、前記記憶部から前記情報を読み出すことを特徴とする。
【0014】
このようなIABP駆動装置は、駆動開始前後にIABPバルーンカテーテルの記憶部から累積駆動時間に関する情報を読み出すことにより、たとえIABP駆動装置に対して、既に他のIABP駆動装置によって駆動されたIABPバルーンカテーテルが接続された場合であっても、駆動対象であるIABPバルーンカテーテルの累積駆動時間を認識することができる。また、駆動開始前後に情報を読み出すことにより、規定の累積駆動時間を超えてIABPバルーンカテーテルが駆動されることを防止できる。
【0015】
また、例えば、前記制御部は、前記バルーン駆動部が前記バルーン部の拡張及び収縮を継続している間に、所定の周期で、前記IABPバルーンカテーテルの前記累積駆動時間を算出してもよい。
【0016】
このようなIABP駆動装置は、駆動中に、所定の周期で、IABPバルーンカテーテルの累積駆動時間を算出することにより、IABPバルーンカテーテルが規定の時間を超えて駆動されないように、継続して監視することができる。
【0017】
また、例えば、前記制御部は、前記IABPバルーンカテーテルの前記累積駆動時間が所定の閾値を超えた場合、アラーム部にアラーム動作を行わせてもよい。
【0018】
このようなIABP駆動装置は、IABPバルーンカテーテルが規定の累積駆動時間を超えて駆動された場合はアラームを発生し、操作者に対してIABPバルーンカテーテルの交換などを行うように、注意喚起を行うことができる。
【0019】
また、例えば、前記制御部は、前記バルーン駆動部が前記バルーン部の拡張及び収縮を継続している間、所定の周期で、前記IABPバルーンカテーテルの前記累積駆動時間に関する前記情報を、前記記憶部に書き込んでもよい。
【0020】
このようなIABP駆動装置は、駆動中に、所定の周期で、IABPバルーンカテーテルの累積駆動時間に関する情報を記憶部に書き込むことにより、IABPバルーンカテーテルに対して、正確な累積駆動時間の情報を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るIABPバルーンカテーテルの概略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すIABPバルーンカテーテルと、それを駆動するIABP駆動装置によるIABP法の実施状態を表す概念図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すIABPバルーンカテーテルとIABP駆動装置の機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すIABP駆動装置及びIABPバルーンカテーテルによる累積駆動時間の算出及びICチップへの書き込み処理を表すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係るIABPバルーンカテーテルの概略断面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すIABPバルーンカテーテルが有するインターフェース部を拡大した拡大図である。
【
図7】
図7は、
図6に示すインターフェース部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0023】
第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係るIABPバルーンカテーテル20(以下、単に「バルーンカテーテル20」という場合がある。)の概略図である。バルーンカテーテル20は、
図2に示すIABP駆動装置によって駆動される。バルーンカテーテル20は、心臓の拍動に合わせて拡張及び収縮するバルーン部21を有する。バルーン部21は、膜厚約50~100μm程度の薄膜であるバルーン膜22を有する。バルーン膜22の材質は、特に限定されないが、耐屈曲疲労特性に優れた材質であることが好ましく、例えばポリウレタンなどにより構成される。
【0024】
バルーン部21の外径及び長さは、心機能の補助効果に大きく影響するバルーン部21の内容積と、患者の動脈の内径などに応じて決定される。バルーン部21の内容積は、特に限定されないが、25~50ccであり、バルーン部21の外径は、12~18mmが好ましく、長さは、160~250mmが好ましい。
【0025】
バルーン部21の先端部には、血液連通孔23が形成してある先端チップ部25が、熱融着ないしは接着などの手段で、バルーン膜22に取り付けてある。この先端チップ部25の内周側には、バルーン部21の内部を挿通する内管30の先端部が、熱融着ないしは接着などの手段で取り付けてある。
【0026】
バルーン部21の後端部には、金属製の接続チューブ27の外周側で、カテーテル管24の先端部が連結してある。このカテーテル管24の内部に形成された圧力流体導通路29を通じて、バルーン部21内に、圧力流体を導入及び導出し、バルーン部21が拡張及び収縮するようになっている。バルーン部21とカテーテル管24との連結は、熱融着あるいは紫外線硬化樹脂などの接着剤による接着により行われる。
【0027】
内管30は、バルーン部21及びカテーテル管24の内部を軸方向に延在し、後述するハンドル部42の血圧測定口44に連通するようになっている。内管30の内部には、バルーン部21の内部及びカテーテル管24内に形成された圧力流体導通路29とは連通しない血液導通路31が形成してある。バルーン部21内に位置する内管30は、ガイドワイヤーを通すガイドワイヤー挿通管腔としても使用される。バルーンカテーテル20を動脈内に挿入する際、バルーン部21は収縮しており、バルーン膜22は内管30に巻き付けられている。また、バルーンカテーテル20を動脈内に挿入する際、内管30にガイドワイヤーを通し、ガイドワイヤーにバルーンカテーテル20の先端をガイドさせることにより、バルーン部21を体内の適切な位置まで、迅速に挿入することができる。
【0028】
カテーテル管24は、特に限定されないが、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなどで構成される。カテーテル管24の内径及び肉厚は、特に限定されないが、内径は、好ましくは、1.5~4.0mmであり、肉厚は、好ましくは、0.05~0.4mmである。また、内管30は、特に限定されないが、硬質チューブ、金属スプリング補強チューブ、ステンレス細管などで構成される。内管30の内径及び肉厚は、特に限定されないが、内径は、好ましくは、0.1~1.0mmであり、肉厚は、好ましくは、0.05~0.3mmである。
【0029】
カテーテル管24の後端部には、患者の体外に設置されるハンドル部42が連結してある。ハンドル部42は、カテーテル管24と別体に成形され、熱融着あるいは接着などの手段で、カテーテル管24に固着される。ハンドル部42には、カテーテル管24内の圧力流体導通路29に連通する圧力流体導入出口46を有する接続通路としての第1通路47と、内管30内に連通する血圧測定口44が形成される第2通路45とが形成してある。バルーン部21を拡張及び収縮させる圧力流体は、圧力流体導入出口46を介して、カテーテル管24の圧力流体導通路29内に導入され、また、カテーテル管24の圧力流体導通路29からハンドル部42の第1通路47へ導出される。
【0030】
図2は、
図1に示すバルーンカテーテル20と、それを駆動するIABP駆動装置10によるIABP法の実施状態を表す概念図である。ハンドル部42の圧力流体導入出口46は、
図2に示すIABP駆動装置10の圧力流体コネクタチューブ12に接続される。バルーンカテーテル20においては、IABP駆動装置10による駆動によって、圧力流体がバルーン部21内に導入及び導出されるようになっている。バルーン部21内に導入される流体としては、特に限定されないが、IABP駆動装置10の駆動に応じて素早くバルーン部21が拡張及び収縮するように、粘性の小さいヘリウムガスなどが用いられる。
【0031】
図1に示す血圧測定口44は、
図2に示すIABP駆動装置10の血液コネクタチューブ14に接続され、バルーン部21先端の血液連通孔23から取り入れた動脈内の血液の血圧の変動を血圧測定装置にて測定可能になっている。この血圧測定装置で測定した血圧の変動に基づき、心臓1の拍動に応じて
図2に示すIABP駆動装置10がバルーン駆動部11(
図3参照)を制御し、心臓1の拍動周期における所定のタイミングに同期させて、バルーン部21を拡張及び収縮させるようになっている。血圧測定装置は、IABP駆動装置10に含まれていてもよいが、IABP駆動装置10とは別の装置であって、IABP駆動装置10に対して血圧変動のデータを送信するものであってもよい。
【0032】
ハンドル部42では、
図1に示すように、圧力流体導入出口46が形成された第1通路47を、カテーテル管24の軸心方向に沿ってストレート状に配置し、血圧測定口44が形成される第2通路45を、第1通路47の軸心に対して所定の傾きをもって配置してある。
【0033】
また、ハンドル部42には、
図1に示すように、内管30の端部を保持する第1内管端部保持具48と第2内管端部保持具50が装着してある。第1内管端部保持具48と第2内管端部保持具50とは、第2通路45の延在方向に沿って、第1通路47の軸心に対して所定の傾きをもって配置してある。内管30は、第1内管端部保持具48と第2内管端部保持具50によって固定されることにより、ハンドル部42の内部では、カテーテル管24の内壁に接するように偏心させて配置されている。
【0034】
バルーンカテーテル20では、ハンドル部42に形成される圧力流体導入出口46に連通する第1通路47をカテーテル管24の軸心方向に沿ってストレート状に配置してあるので、血圧測定口をカテーテル管の軸心方向に沿ってストレート状に配置する場合に比較し、圧力流体の流路抵抗を低減することが可能になると共に、バルーン部21における拡張・収縮の応答性が向上する。
【0035】
図1に示すように、バルーンカテーテル20は、情報を記憶する記憶部(記憶媒体)としてのICチップ60と、IABP駆動装置10がICチップ60に入出力するためのインターフェース部70とを有する。ICチップ60は、ハンドル部42の一部に埋め込んである。インターフェース部70は、接触式端子70aを有しており、接触式端子70aとICチップ60とは、ケーブル62を介して接続してある。ケーブル62は、特に限定されないが、たとえばRS232Cケーブルなどで構成される。ICチップ60が記憶する情報については、後述する。
【0036】
インターフェース部70の接触式端子70aは、
図2に示すように、駆動装置10に設けてある接触式端子18に着脱自在に接続される。ICチップ60が、インターフェース部70を介してIABP駆動装置10の制御部15(
図3参照)に接続されることにより、IABP駆動装置10の制御部15は、ICチップ60の情報の読み出し及び書き込みが可能になっている。
【0037】
IABP駆動装置10には、CRTや平面表示ディスプレイなどの表示部16が装着してある。表示部16には、
図3に示すように、駆動装置の運転に必要なデータ、たとえば心電図波形、血圧波形、バルーン駆動ガス圧の時系列波形、タイミング、アラーム、イベント履歴などが表示可能になっている。
【0038】
図3は、
図2に示すIABPバルーンカテーテル20とIABP駆動装置10の機能ブロック図である。
図3に示すように、IABP駆動装置10は、バルーン部21を拡張及び収縮させるバルーン駆動部11と、ICチップ60に対して情報の読み出し及び書き込みを行う制御部15と、を有する。バルーン駆動部11は、バルーン部21へ伝える圧力を形成する圧力タンクや、圧力タンクで生じた圧力を、バルーンカテーテル20における圧力流体導通路29内の圧力流体に伝えるアイソレータなどを有する。
【0039】
IABP駆動装置10は、制御部15、バルーン駆動部11及び表示部16の他に、操作信号入力部13やアラーム部19などを有する。操作信号入力部13は、入力ボタン、スイッチ及びタッチパネルなどの信号入力手段を有しており、操作信号入力部13で入力された操作信号は、制御部15に伝えられる。操作者は、操作信号入力部13を介して操作信号を入力することにより、IABP駆動装置10によるバルーンカテーテル20の駆動条件を変更・調整したり、IABP駆動装置10によるバルーンカテーテル20の駆動を開始及び停止したりすることができる。
【0040】
IABP駆動装置10のアラーム部19は、パイロットランプや、警報音を発生する警報音発生部を有しており、IABP駆動装置10の駆動中に検出された問題や異常を、操作者に知らせることができる。アラーム部19は、制御部15からの制御信号によって動作する。たとえば、制御部15は、バルーン部21内に血液などの液体が入る液体侵入を検出した場合には、アラーム部19を制御してアラーム動作を行い、IABP駆動装置10によるバルーン部21の駆動を停止するとともに、表示部16に警告内容を表示して、バルーンカテーテル20を患者の体内から抜去するなどの適切な対応を行うように、操作者を促す。
【0041】
制御部15は、マイクロプロセッサなどを有しており、ICチップ60に対する情報の読み出し及び書き込み処理を行うことに加えて、バルーン駆動部11の制御及び表示部16の制御や、IABPバルーンカテーテル20を制御するために必要な各種の演算を行うことができる。
【0042】
図3に示すように、ICチップ60に記憶される情報としては、バルーンカテーテル20がIABP駆動装置10によって駆動された累積駆動時間に関する第1情報81や、バルーン部21の拡張外径(たとえば7.0Fr)、容量(たとえば40ml)、製品番号(S/N)、バルーン種類(たとえばショートバルーン)などの第2情報82が挙げられる。第2情報82は、ICチップ60に予め記憶してあり、IABP駆動装置10によって書き換えられない、バルーンカテーテル20固有の情報である。
【0043】
これに対して、バルーンカテーテル20による累積駆動時間に関する第1情報81は、IABP駆動装置10によって書き換えられ、更新される情報であって、複数台のIABP駆動装置10によって同一のバルーンカテーテル20が引き継いで駆動された場合には、それら複数台のIABP駆動装置10のそれぞれによって、書き換えられ、更新される情報である。そして、新品(未駆動)のバルーンカテーテル20が工場から出荷される段階では、ICチップ60は、累積駆動時間が0分であることを示す第1情報81を記憶している。
【0044】
図4は、IABP駆動装置10の制御部15が、ICチップ60の第1情報81などに対して行う処理の一例を表すフローチャートである。
図4に示すステップS001では、制御部15によるICチップ60に対する信号の入出力を開始する。制御部15は、例えば、
図2に示すバルーンカテーテル20のインターフェース部70が、IABP駆動装置10の接触式端子18に接続されたときに、ICチップ60に対する信号の入出力を開始することができる。
【0045】
ステップS002において、
図3に示す制御部15は、バルーンカテーテル20のICチップ60から第1情報81を読み出し、バルーンカテーテル20の累積駆動時間を認識する。制御部15は、IABP駆動装置10の電源が起動された後、バルーン駆動部11が患者の心拍に同期したバルーン部21の拡張及び収縮を開始する前に、ステップS002による第1情報81の読み出しを行うことができる。
【0046】
ステップS002では、IABP駆動装置10に接続された患者の体内に留置した直後のIABPバルーンカテーテル20が、IABP駆動装置10に接続された場合には、制御部15は累積駆動時間が0(未駆動)である旨の第1情報81を、ICチップ60から読み出す。一方、異なるIABP駆動装置10を用いて駆動されたバルーンカテーテル20が付け替えて接続された場合や、IABP駆動装置10が再起動された場合などは、制御部15は累積駆動時間が0(未駆動)でない所定値である旨の第1情報81を、ICチップ60から読み出す。
【0047】
これにより、制御部15は、早期にバルーンカテーテル20の累積駆動時間を認識することができる。なお、制御部15は、ステップS002で読み出したバルーンカテーテル20の累積駆動時間を表示部16に表示して、操作者が累積駆動時間を認識できるようにしてもよい。また、制御部15は、ステップS002において、第1情報81だけでなく第2情報82も、ICチップ60から読み出してもよい。この場合、制御部15は、ICチップ60から読み出した第2情報82を用いて、たとえば圧力流体導通路29へ流入させる圧力流体の量などを計算することができる。
【0048】
ステップS002が終了した後、
図3に示す制御部15がバルーン駆動部11を制御し、バルーン駆動部11によるバルーンカテーテル20の拡張及び収縮が開始される(ステップS003)。
【0049】
バルーン駆動部11によるバルーン部21の拡張及び収縮が開始されると、制御部15は、
図4のステップS004~ステップS009に示される処理を、バルーンカテーテル20の駆動が行われている間は常に継続し、バルーンカテーテル20が有するICチップ60の第1情報81を更新し続ける。
【0050】
ステップS004では、制御部15は、IABPバルーンカテーテル20の累積駆動時間の算出周期及び第1情報81の書き込み(更新)周期を計測するタイマtをリセットする。タイマtは、時間の経過とともに増加する変数である。
【0051】
ステップS005では、タイマtの値が、バルーンカテーテル20の累積駆動時間の算出周期及び第1情報81の書き込み周期を規定する所定の値Tを超えたか否かを判断する。ステップS005は、タイマtの値が周期を規定する所定の値Tを超えるまで繰り返され、タイマtの値が周期を規定する所定の値Tを超えると、制御部15はステップS006の処理へ進む。なお、バルーンカテーテル20の累積駆動時間の算出周期及び第1情報81の書き込み周期は、たとえば300秒程度とすることができる。
【0052】
ステップS006では、制御部15は、バルーンカテーテル20の累積駆動時間Taを算出する。たとえば、制御部15は、直近のステップS002で算出した累積駆動時間Ta(電源ON後最初のステップS006の場合に限り、ステップS002で読み出した累積駆動時間)に、累積駆動時間の算出周期を1周期分加算することにより、累積駆動時間Taを算出することができる。
【0053】
ステップS007では、制御部15は、直前のステップS006で算出した累積駆動時間Taが、バルーンカテーテル20の累積駆動時間の適正な限界値に関する所定の閾値Tarを超えるか否かを判断する。累積駆動時間Taが所定の閾値Tarを超えた場合は、制御部15は、ステップS006からステップS008へ進む。なお、バルーンカテーテル20の累積駆動時間の適正な限界値に関する所定の閾値Tarは、たとえば336時間程度とすることができる。
【0054】
ステップS008では、制御部15は、アラーム部19を制御してアラーム動作を行わせる。たとえば、制御部15は、アラーム部19を制御して、注意又は警告を示すパイロットランプを点灯させるとともに、バルーンカテーテル20の累積駆動時間が限界であることを操作者に知らせる情報を、表示部16に表示することができる。
【0055】
ステップS008の後、及び累積駆動時間Taが所定の閾値Tarを超えない場合はステップS006の後、制御部15は、直近のステップS007で算出された累積駆動時間Taを用いて、ICチップ60に第1情報81を書き込み、ICチップ60に記憶される第1情報81を更新する。ステップS009を終了した後、制御部15はステップS004へ戻り、以後、ステップS004~ステップS009(ステップS008は所定の条件でのみ行う)に示す処理を繰り返す。
【0056】
このように、制御部15は、
図3に示すバルーン駆動部11が患者の心拍に同期したバルーン部21の拡張及び収縮を継続している間、所定の周期で、バルーンカテーテル20の累積駆動時間を算出する。また、制御部15は、バルーン駆動部11が患者の心拍に同期したバルーン部21の拡張及び収縮を継続している間、所定の周期で、バルーンカテーテル20の累積駆動時間に関する第1情報81を、ICチップ60に書き込み、ICチップ60の情報を更新する。
【0057】
図3に示すような第1情報81を記憶するICチップ60を有するバルーンカテーテル20を、制御部15を有するIABP駆動装置10が駆動することにより、たとえ複数台のIABP駆動装置10が、1つのバルーンカテーテル20を引き継いで駆動させた場合であっても、バルーンカテーテル20の累積駆動時間を正しく計算することができる。また、IABP駆動装置10は、規定の累積駆動時間が近づきつつあるような状態を操作者に知らせて注意喚起を行ったり、バルーンカテーテル20が規定の累積駆動時間を超えて駆動された場合はアラームを発生させたりすることができる。
【0058】
第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態に係るIABPバルーンカテーテル120(以下、単に「バルーンカテーテル120」という場合がある。)の概略図である。第2実施形態に係るバルーンカテーテル120は、先端チップ部125に圧力センサ40が収容されている点などが、先述したバルーンカテーテル20とは異なるが、バルーン部21などについてはバルーンカテーテル20と同様である。第2実施形態に係るバルーンカテーテル120については、バルーンカテーテル20との相違点のみ説明し、バルーンカテーテル20との共通点については、説明を省略する。
【0059】
バルーンカテーテル120は、患者の血圧を測定する圧力センサ40を有する。圧力センサ40は、先端チップ部125に埋め込まれたパイプ部材37の内部に収容されている。パイプ部材37の内部には、図示しない挿通孔や圧力伝達充填物質を介して、バルーンカテーテル120が載置される血管内の圧力(血圧)が伝達される。圧力センサ40は、圧力センサ40の近位端に接続する光ファイバ33を通して伝達される光の行路差などを利用して、パイプ部材37内の空間の圧力(血圧)を検出する。圧力センサ40としては、特表2008-524606号公報、特開2000-35369号公報などに記載されたものを用いることができる。
【0060】
先端チップ部125には、先端開口125aが形成してある。先端開口125aは、内管30内に形成されたワイヤ通路131に連通する。内管30内のワイヤ通路131は、ガイドワイヤーを通すガイドワイヤー挿通孔などとして使用される。ワイヤ通路131の後端は、ハンドル部142の2次ポート144に連通している。カテーテル管24の後端部に連結してあるハンドル部142には、カテーテル管24内の圧力流体導通路29に連通する圧力流体導入出口146を有する接続通路としての第1通路147と、内管30内のワイヤ通路131に連通する2次ポート144が形成される第2通路145とが形成してある。ハンドル部142では、2次ポート144が形成される第2通路145をカテーテル管24の軸心方向に沿ってストレート状に配置しており、圧力流体導入出口146が形成される第1通路147を、第2通路145の軸心に対して所定の傾きをもって配置してある。
【0061】
圧力センサ40に接続された光ファイバ33は、先端チップ部125からバルーン部21の内部に引き出され、バルーン部21及びカテーテル管24の内部では内管30の外壁に沿って延在して、
図5に示すように、ハンドル部142の3次ポート49まで引き出されて、インターフェース部170のセンサコネクタ170a(
図6参照)に接続される。なお、
図5では、光ファイバ33の一部が簡略化のため図示されていないが、実際には、光ファイバ33は、圧力センサ40からセンサコネクタ170aまで繋がっている。
図5に示すインターフェース部170は、
図2に示すインターフェース部70と同様に、IABP駆動装置10に設けてある接触式端子18に、着脱自在に接続される。
【0062】
図6は、光ファイバ33の近位端に接続するインターフェース部170の拡大図であり、
図7は、
図6に示すインターフェース部170の断面図である。インターフェース部170は、接触式端子としてのセンサコネクタ170aを有する。
図6に示すように、センサコネクタ170aは、遠位端側のグリップ部171と近位端側のコネクタ本体172とを有する。
【0063】
図6に示すように、グリップ部171には、表面に凹凸形状が形成された滑り止め部171aが備えられており、操作者の指で摘みやすくなっている。コネクタ本体172は、グリップ部171より外径が細くなっており、
図7に示すように、接触式端子18に備えられるソケット部18aに差し込み可能になっている。
図6及び
図7に示すように、グリップ部171の遠位端には、ケーブル162を構成する可撓性チューブが接続してあり、光ファイバ33は、ケーブル162の内部を挿通している。光ファイバ33の近位端は、
図7に示すように、コネクタ本体172の端フェルール102に連結してある。
【0064】
図6に示すように、コネクタ本体172の表面には、一対の電気接続端子110と、端フェルール102の近位端102aが露出している。
図7に示すように、コネクタ本体172をソケット部18aに差し込むと、端フェルール102と受け側フェルール202との光接続が可能になり、同時に、電気接続端子110と受け側電気接続端子210との電気的接続が可能になる。
【0065】
接触式端子18の内部では、受け側フェルール202に受け側光ファイバ88Bが接続してある。
図5に示す圧力センサ40の信号は、
図7に示す受け側フェルール202及びこれに接続する受け側光ファイバ88Bを介して、IABP駆動装置10の制御部15(
図3参照)に送られる。
【0066】
図7に示すように、センサコネクタ170aの内部には記憶部としてのICチップ160が搭載してあり、ICチップ160は、電気接続端子110に電気的に接続してある。コネクタ本体172がソケット部18aに差し込まれると、IABP駆動装置10の制御部15(
図3参照)は、受け側電気接続端子210を介して、ICチップ160の情報の読み出し及び書き込みが可能になる。
【0067】
ICチップ160は、
図3に示すICチップ60と同様に、累積駆動時間に関する第1情報81や、バルーン部21の拡張外径などの第2情報82を記憶することができる。また、
図7に示すICチップ160は、バルーンカテーテル120が有する圧力センサ40の個体差を補償するためのデータを記憶することができる。この場合、IABP駆動装置10の制御部15は、ICチップ160に記憶された圧力センサ40の個体差を補償するためのデータを、圧力センサ40のキャリブレーションを行う際や、圧力センサ40の検出信号から血圧値を算出する際などに使用し、圧力センサ40による血圧の測定精度を高めることができる。
【0068】
以上、実施形態を示して本発明を説明したが、本発明に係るバルーンカテーテル20及びIABP駆動装置10は、上述した実施形態のみに限定されず、他の多くの実施形態や変形例を含むことは言うまでもない。たとえば、記憶部(ICチップ)60は、ハンドル部42の一部に埋め込まれる態様にのみに限定されず、バルーンカテーテル20におけるその他の部分に付属していてもよい。また、記憶部60は、ICチップのような電子回路を用いた記憶媒体だけでなく、磁気、光など電子回路以外の記憶媒体を採用してもよい。
【0069】
また、IABP駆動装置10が記憶部60に入出力するためのインターフェース部70も、
図1に示すように記憶部60にケーブル62で接続された接触式端子70aを有するものに限定されず、接触式端子が直接記憶部60の表面に設けられていてもよい。さらに、インターフェース部は、接触式にのみに限定されず、非接触式通信用アンテナを有しており、IABP駆動装置10に対して非接触式に通信するものであってもよい。
【0070】
また、
図4に示す例では、IABP駆動装置10は、所定の周期でバルーンカテーテル20の累積駆動時間に関する第1情報81を記憶部(ICチップ)60に書き込むが、IABP駆動装置10が記憶部60に情報を書き込むタイミングは、これに限定されない。たとえば、IABP駆動装置10は、バルーン駆動部11がバルーン部21の駆動を停止した際など、所定のイベントが発生した後に、バルーンカテーテル20の累積駆動時間に関する第1情報81を、記憶部60に書き込んでもよい。また、IABP駆動装置10は、記憶部60からバルーンカテーテル20の累積駆動時間に関する第1情報81を読み出すタイミングについても、バルーン部21の駆動開始前のみに限定されず、バルーン部21の駆動開始後の所定のタイミングで、第1情報81を読み出してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…IABP駆動装置
11…バルーン駆動部
12…圧力流体コネクタチューブ
13…操作信号入力部
14…血液コネクタチューブ
15…制御部
16…表示部
18…接触式端子
19…アラーム部
20、120…IABPバルーンカテーテル
21…バルーン部
22…バルーン膜
23…血液導入口
24…カテーテル管
25、125…先端チップ部
27…接続チューブ
29…圧力流体導通路
30…内管
31…血液導通路
42、142…ハンドル部
44…血圧測定口
45、145…第2通路
46、146…圧力流体導入出口
47、147…第1通路(接続通路)
48…第1内管端部保持具
50…第2内管端部保持具
60、160…ICチップ(記憶部)
62…ケーブル
70、170…インターフェース部
70a…接触式端子