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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】多心ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/32 20060101AFI20230816BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01B7/32 A
H01B7/00 310
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020007242
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021114431
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】塚本 佳典
(72)【発明者】
【氏名】森山 真至
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
(72)【発明者】
【氏名】荒井 才志
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-068919(JP,U)
【文献】実開昭57-168123(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/32
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線と、
異なる金属からなる導体を用いた正極導線及び負極導線を有する補償導線と、
前記複数本の電線と前記補償導線とを一括して覆うシースと、を備え
前記正極導線は、正極用導体と前記正極用導体の周囲を被覆している正極用絶縁体と、を有し、
前記負極導線は、負極用導体と前記負極用導体の周囲を被覆している負極用絶縁体と、を有し、
前記正極用絶縁体及び前記負極用絶縁体の定格温度が、前記シースの定格温度以上である、
多心ケーブル。
【請求項2】
前記補償導線は、ケーブル中心に配置されており、
前記補償導線の周囲に、前記複数本の電線が螺旋状に撚り合わせられている、
請求項1に記載の多心ケーブル。
【請求項3】
前記複数本の電線は、電源供給用の電源線を含む、
請求項1または2に記載の多心ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多心ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火災の検知のために、火災検知線が用いられている(例えば、特許文献1参照)。火災検知線は、鋼線からなる導体と、導体の周囲を覆う低融点の絶縁体と、を有する一対の火災検知用電線を撚り合わせた対撚線を有し、対撚線をジャケットで覆うように構成されている。
【0003】
従来、火災検知線は、温度上昇の検知対象となるケーブルに沿うように配置される。例えば、非接触給電に用いられる多心ケーブルでは、多心ケーブルと多心ケーブルを収容する筐体との間に、火災検知線が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-86695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の配置構造では、ケーブルと火災検知線の両方をそれぞれ布設する必要があるため、布設作業に手間がかかるという課題がある。例えば、非接触給電に用いられる多心ケーブルでは、筐体内に多心ケーブルを収容した後に、当該多心ケーブルに沿うように、筐体内に火災検知線を配置する必要があり、筐体内への布設作業に非常に手間がかかる。
【0006】
また、筐体内に敷設される多心ケーブルでは、例えば、非接触で給電することに使用される場合、多心ケーブル内に配置される電線には、大電流が流される。そのため、何らかの理由で電線に過大な電流が流れた際に、ケーブル内の温度が上昇して火災に至ることを抑制したいという要求がある。
【0007】
そこで、本発明は、筐体内への布設作業が容易であり、且つケーブル内の温度上昇を検知することが可能な多心ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数本の電線と、異なる金属からなる導体を用いた正極導線及び負極導線を有する補償導線と、前記複数本の電線と前記補償導線とを一括して覆うシースと、を備えた、多心ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筐体内への布設作業が容易であり、且つケーブル内の温度上昇を検知することが可能な多心ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は本発明の一実施の形態に係る多心ケーブルのケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図であり、(b)は補償導線のケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図2】多心ケーブルの外観を示す斜視図である。
図3】多心ケーブルを筐体の溝に収容した際の断面図である。
図4】本発明の一変形例に係る多心ケーブルのケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
図1(a)は、本実施の形態に係る多心ケーブルのケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図であり、図1(b)は補償導線のケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図である。図2は、多心ケーブルの外観を示す斜視図である。図3は、多心ケーブルを筐体の溝に収容した際の断面図である。
【0013】
図1乃至3に示すように、多心ケーブル1は、複数本の電線3と、補償導線2と、複数本の電線3と補償導線2とを一括して覆うシース4と、を備えている。
【0014】
本実施の形態に係る多心ケーブル1は、非接触によって電力を供給するために用いられるものであり、筐体10の溝11に収容され使用される。この例では、筐体10は、平行に配置された一対の側壁12と、側壁12の端部同士を連結する側壁12と垂直な底壁13とを有しており、全体として断面視で時計回り方向に90度回転させたコの字状に形成されている。一対の側壁12と底壁13とに囲まれ、底壁13と反対側に開口する断面視で矩形状の空間が、溝11である。
【0015】
なお、多心ケーブル1の用途はこれに限定されるものではなく、多心ケーブル1は、例えば、産業用ロボットと電源装置とを接続する配線として用いられるものであってもよいし、自動車用の配線、例えば電動ブレーキ装置やセンサ類用の配線として用いられるものであってもよい。
【0016】
(補償導線2)
補償導線2は、正極導線20と負極導線21とを有している。正極導線20は、正極用導体20aと正極用導体20aの周囲を被覆している正極用絶縁体20bと、を有している。負極導線21は、負極用導体21aと負極用導体21aの周囲を被覆している負極用絶縁体21bと、を有している。
【0017】
正極用導体20aと負極用導体21aとは、異なる金属から構成されている。具体的には、正極用導体20aは、例えば銅やクロメルからなり、負極用導体21aは、例えばコンスタンタンやアルメルからなる。本実施の形態では、クロメルからなる外径0.65mmの正極用導体20aを用いると共に、アルメルからなる外径0.65mmの負極用導体21aを用いた。なお、ここでは正極用導体20a及び負極用導体21aを単線導体で構成したが、正極用導体20a及び負極用導体21aを、複数本の素線を撚り合わせた撚線導体で構成してもよい。また、正極用導体20aと負極用導体21aの金属の組み合わせは、適宜変更可能である。
【0018】
多心ケーブル1を筐体10内に収容して使用する際、図示していないが、正極用導体20aと負極用導体21aの一端部はループ状に結線されており、他端部は電圧測定装置に接続されている。より具体的には、正極用導体20aの一端部に正極用熱電対の一端部が接続されており、負極用導体21aの一端部に負極用熱電対の一端部が接続されている。正極用熱電対と負極用熱電対とのそれぞれの他端部同士が結線されており、正極用導体20aの他端部と負極用導体21aの他端部は、それぞれ電圧測定装置に接続されている。補償導線2の長手方向において温度勾配が発生すると、その温度勾配に応じた熱起電力が正極用導体20aと負極用導体21aとの間に発生する。その熱起電力を電圧測定装置にて測定することで、補償導線2の長手方向における温度勾配を知ることができ、室温等を考慮して多心ケーブル1内の温度上昇を検知することができる。なお、正極用導体20aの一端部および負極用導体21aの一端部は、正極用熱電対および負極用熱電対のそれぞれに接続されずに、それら一端部同士が直接接続されることでもよい。また、正極用熱電対および負極用熱電対は、正極用導体20aおよび負極用導体21aに使用される金属と同様の金属からなる。正極用導体20aおよび負極用導体21aに使用される金属は、正極用導体20aおよび負極用導体21aに使用される金属に応じて適宜変更される。
【0019】
正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21bとしては、多心ケーブル1内の熱により溶融してしまわないように耐熱性の高いものを用いることが望ましい。より具体的には、正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21bとしては、定格温度が少なくとも多心ケーブル1を構成するシース4の定格温度以上であるものを用いることが望ましい。例えば、多心ケーブル1を構成するシース4の定格温度が105℃である場合、正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21bとしては、耐熱温度が少なくとも105℃以上、より好ましくは150℃以上のものを用いるとよい。これにより、何らかの理由で電線3に過大な電流が流れた場合に、正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21bが溶融してしまう前に電流を遮断して温度上昇を抑制すれば、多心ケーブル1を張り替えることなく続けて使用することが可能となる。なお、定格温度とは、正極用絶縁体20b、負極用絶縁体21b、シース4、ジャケット22又は絶縁体32を構成する絶縁性樹脂が所定の使用温度に到達した状態で所定の使用時間(例えば、3000時間以上)連続で使用されたときに、当該絶縁性樹脂が劣化しない(絶縁性樹脂の寿命に到達しない)使用温度の最大値である。
【0020】
正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21bとしては、ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(プリフッ化ビニリデン)等のフッ素樹脂や、ポリイミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PVC(ポリ塩化ビニル)等の絶縁性樹脂を用いることができる。ここでは、正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21bとして、厚さ0.425mmのPVCからなるものを用いた。正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21bの外径(正極導線20及び負極導線21の外径)は、1.5mmとした。
【0021】
本実施の形態では、補償導線2は、正極導線20と負極導線21とを撚り合わせて構成されている。これにより、正極導線20と負極導線21とが密接して(非常に近接して)配置され、正極導線20と負極導線21との距離が長手方向において一定に保たれるため、温度の測定ばらつきを抑制し高精度な温度測定が可能になる。なお、これに限らず、正極導線20と負極導線21とを撚り合わせずに並べて配置するようにしてもよい。
【0022】
また、本実施の形態では、補償導線2は、撚り合わせた正極導線20と負極導線21の周囲に螺旋状に巻き付けられた押さえ巻きテープ22と、押さえ巻きテープ22の周囲を被覆しているジャケット23と、をさらに有している。
【0023】
押さえ巻きテープ22は、正極導線20と負極導線21とを撚り合わせた状態で維持するためのものであり、例えば、紙、不織紙、ポリエステルテープ等の樹脂等からなるテープ部材から構成される。押さえ巻きテープ22は、その幅方向の一部が重なり合うように、撚り合わせた正極導線20及び負極導線21の周囲に螺旋状に巻き付けられる。
【0024】
ジャケット23は、正極導線20と負極導線21とを保護するためのものであり、正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21bと同様に、多心ケーブル1を構成するシース4の定格温度以上の定格温度を有する絶縁性樹脂から構成されるとよい。本実施の形態では、ジャケット23は、非充実押出成型(所謂チューブ押出成型)により形成されている。
【0025】
また、本実施の形態では、ジャケット23は、弾性体からなる。本実施の形態では、補償導線2は、多心ケーブル1のケーブル中心に配置されている。多心ケーブル1を溝11に収容する際には、多心ケーブル1を筐体10の溝11内に押圧することによって多心ケーブル1を溝11に収容する。そして、多心ケーブル1を押圧する際に、多心ケーブル1内の電線3は、ケーブル中心に配置され補償導線2に押し付けられる。このとき、補償導線2のジャケット23は、電線3が押し付けられるときの力によって弾性変形し、シース4内の電線3は、補償導線2の周方向や径方向(多心ケーブル1のケーブル長手方向に垂直な断面において、補償導線2の周囲に沿った方向や補償導線2の外径に沿った方向)に互いに動くことができるようになる。そのため、多心ケーブル1の外形が溝11の形状や寸法に応じて変形することができる。これにより、多心ケーブル1は、その外径が太くなったとしても筐体10の溝11に入れやすくすることができる。
【0026】
このように、補償導線2のジャケット23は、弾性変形をして、多心ケーブル1を溝11に収容する際の作業性を向上させる役割を果たす。また、ジャケット23は、多心ケーブル1を溝11に収容した後に、電線3からの押し付ける力が緩和されることによって形状が復元する。このときのジャケット23の復元力により、シース4内の電線3が元の位置(溝11に収容する前の位置)に動くように作用する。これにより、溝11に収容された多心ケーブル1は、変形する前の外形に復元されて溝11内に保持たされることになる。このように、補償導線2のジャケット23は、電線3を介してシース4を筐体10(溝11の内壁)へと押し付け、多心ケーブル1を溝11内に保持する役割も果たす。
【0027】
ジャケット23の外周面には、全ての電線3が直接接触している。ジャケット23としては、外力により形状が変化する弾力性のある材質からなる絶縁性樹脂を用いるとよく、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂やウレタン樹脂からなる樹脂組成物を用いることができる。ここでは、PVCからなる厚さ約0.2mmのジャケット23を形成した。ジャケット23の外径、すなわち補償導線2の外径は、約3.5mmである。
【0028】
また、押さえ巻きテープ22やジャケット23を有することで、正極導線20と負極導線21の撚りが維持され温度の測定のばらつきを抑制し高精度な温度測定が可能になる。さらに、製造時における補償導線2の取り扱いが容易となり、多心ケーブル1の製造が容易になる。ただし、これに限らず、図4に示すように、押さえ巻きテープ22及びジャケット23を省略することも可能である。また、ジャケット23のみを省略し、押さえ巻きテープ22を正極導線20と負極導線21とを保護する保護層として用いてもよい。
【0029】
(電線3)
電線3は、複数の素線を集合撚りした撚線導体からなる導体31と、導体31を覆う絶縁体32と、をそれぞれ有している。電線3は、電源供給用の電源線を含んでいる。ここでは、一例として非接触給電用の多心ケーブル1について説明しているが、その場合、すべての電線3が電源線となる。異なる用途に用いる場合、すべての電線3が電源線である必要はなく、信号伝送用の信号線が含まれていてもよい。
【0030】
本実施の形態では、6本の電線3を用いている。6本の電線3としては、同じ構造のものが用いられる。本実施の形態では、導体31に用いる素線として、すずめっき軟銅線を用いた。導体31に用いる素線の外径は、0.15mm以上0.35mm以下とするとよい。素線の外径を0.15mm以上とすることで素線の断線を抑制でき、0.35mm以下とすることで絶縁体32を薄くした際に絶縁体32を突き抜けて素線が飛び出してしまうことを抑制できる。
【0031】
素線の撚り合わせ方法として、同心撚りと呼ばれる方法が知られているが、この方法で第2導体31を形成した場合、素線が安定した状態で撚り合されてしまい、多心ケーブル1を溝11内に収容する際の外力により第2導体31の形状が変化しにくくなってしまう。そのため、多心ケーブル1を溝11内に収容する際の外力により導体31の形状が変化しやすくなるように、導体31としては、集合撚りにより形成されたものを用いる。本実施の形態では、0.26mmの素線を104本集合撚りすることで、外径が約3.1mmの導体31を形成した。
【0032】
多心ケーブル1内の導体部分の断面積を増やすために、各電線3の絶縁体32は、できるだけ薄いことが望ましい。より具体的には、絶縁体32の厚さは、導体31に用いる素線の外径の1/2倍以上1倍以下であるとよい。絶縁体32の厚さを素線外径の1/2未満とした場合、多心ケーブル1を溝11内に収容する際の外力により素線が絶縁体32を突き破ってしまうおそれがあり、素線外径の1倍を超えると、電線3が大径となり多心ケーブル1全体の大径化につながってしまう。本実施の形態では、絶縁体32の厚さを約0.2mm(素線の外径の約0.77倍)とした。
【0033】
より大容量の電力供給を可能とするため、電線3の外径に対する導体31の外径の割合は、80%以上とするとよい。また、絶縁体32が薄すぎると、上述のように素線が絶縁体32を突き破る等の不具合が生じるため、電線3の外径に対する導体31の外径の割合は、95%以下とするとよい。また、非接触によって大容量の電力供給を可能とするため、複数の電線3では、各々の導体31に同じ大きさの電流を供給するとよい。
【0034】
絶縁体32としては、薄肉成型が可能であり、補償導線2のジャケット23を弾性変形しやすくするためにジャケット23よりも硬く、外圧に強い(多心ケーブル1を溝11内に収容する際の外力によって変形しにくい)材質の絶縁性樹脂を用いるとよく、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(プリフッ化ビニリデン)等のフッ素樹脂や、ポリイミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、架橋ポリエチレン等を用いることができる。より好ましくは、絶縁体32として、表面の滑りがよいフッ素樹脂を用いるとよく、これにより、外力が加わった際にシース4内で電線3がより動きやすくなり、多心ケーブル1の溝11への挿入がより容易になる。
【0035】
絶縁体32は、非充実押出成型(所謂チューブ押出成型)により形成されている。これにより、絶縁体32が素線に密着されず、絶縁体32内で素線が互いに動くことができるようになり、外力が加わった際に電線3の断面形状が変形し易くなる。よって、多心ケーブル1の溝11への挿入がより容易になる。
【0036】
(集合体6)
補償導線2の外周には、複数の電線3が螺旋状に撚り合せられている。本実施の形態では、補償導線2は、多心ケーブル1のケーブル中心に配置されており、その周囲に6本の電線3が螺旋状に撚り合わせられている。以下、補償導線2の周囲に複数の電線3を撚り合わせたものを集合体6と呼称する。
【0037】
集合体6に用いる電線3の本数が1本乃至3本の場合、外力により多心ケーブル1が変形しにくくなる。そこで、多心ケーブル1では、集合体6に用いる電線3の本数は4本以上としている。本実施の形態では、集合体6に用いる電線3の本数を、外径が最も細くなり、かつ、全ての電線3の導体抵抗の総和を最も低くすることが可能な6本とした。
【0038】
集合体6において、ケーブル周方向に隣り合う電線3同士は、互いに接触している。また、全ての電線3は、補償導線2に接触している。補償導線2の外径は、ケーブル周方向に6本の電線3を隙間なく配置した際に全ての電線3と接触できる外径に適宜調整される。本実施の形態では、補償導線2の外径を電線3の外径と略同等とした。より具体的には、補償導線2及び電線3の外径を、共に約3.5mmとした。
【0039】
また、本実施の形態では、集合体6を構成する各電線3がシース4の内周面に接触するように設けられており、集合体6の周囲には、押さえ巻き用のテープが巻き付けられていない。これは、テープを巻き付けると、当該テープが電線3の移動を規制する役割を果たしてしまい、多心ケーブル1を溝11に挿入する際の作業性が低下してしまうおそれがあるためである。なお、製造の都合上、電線3を撚り合わせた状態で保持する必要がある場合には、集合体6の周囲に、糸(樹脂製の糸や綿糸など)を螺旋状に巻き付けるようにしてもよい。
【0040】
本実施の形態では、補償導線2と複数本の電線3との間、及び電線3とシース4(ここでは押さえ巻きテープ7)との間には、スフ糸等の介在が配置されていない。これは、昇温により介在が燃えてしまうことを抑制し、かつ外力が加わった際に電線3が補償導線2の周方向や外径方向に動くことができるスペース(後述する空気層5)を確保するためである。
【0041】
集合体6の周囲には、集合体6の撚りを維持するための押さえ巻きテープ7が螺旋状に巻き付けられている。押さえ巻きテープ7は、例えば、紙、不織紙、樹脂等からなるテープ部材から構成される。なお、押さえ巻きテープ7は省略可能であり、集合体6を構成する各電線3がシース4の内周面に接触するように設けられていてもよい。これにより、当該押さえ巻きテープ7が電線3の移動を規制してしまうことが抑制され、多心ケーブル1を溝11に挿入する際の作業性をより向上できる。なお、製造の都合上、電線3を撚り合わせた状態で保持する必要がある場合には、集合体6の周囲に、糸(樹脂製の糸や綿糸など)を螺旋状に巻き付けるようにしてもよい。
【0042】
(シース4)
押さえ巻きテープ7の周囲には、絶縁性樹脂からなるシース4が設けられている。本実施の形態に係る多心ケーブル1では、シース4は、非充実押出成型(所謂チューブ押出成型)により形成されている。シース4は、長手方向に沿った中空部41を有する中空円筒状に形成されており、この中空部41内に、補償導線2及び電線3が配置されている。これにより、多心ケーブル1では、各電線3がシース4内で互いに動くことができるようになっている。
【0043】
より詳細には、多心ケーブル1は、ケーブル周方向に隣り合う電線3の間であって、当該電線3同士の接触部の周囲(径方向内方及び外方)に形成される谷間部分に、空気層5(隙間、空隙)を有している。空気層5を有することにより、外力が加わった際に空気層5の部分に電線3が移動したり、シース4が変形して空気層5の部分へと入り込んだりすることが可能になり、多心ケーブル1の外径が変化し易くなる。その結果、多心ケーブル1を溝11に挿入する際の作業性が向上する。
【0044】
シース4の厚さは、0.6mm以上1.0mm以下とすることが望ましい。シース4の厚さが0.6mm以上であることで、外傷への耐力や絶縁性能等の低下を抑制でき、シース4の厚さが1.0mm以下であることで、多心ケーブル1の大径化を抑制できる。
【0045】
さらに、シース4を非充実押出成型により形成し、かつシース4の厚さを1.0mm以下と薄くすることで、図2に示されるように、電線3の位置でシース4が凸となるように、シース4の外表面に凹凸を生じさせることができる。これにより、筐体10の溝11内に多心ケーブル1を挿入する際に、多心ケーブル1を筐体10の溝11内へ押圧しやすくなるとともに、多心ケーブル1と筐体10(溝11の内面)との接触面積を小さくすることができ、多心ケーブル1の溝11への挿入がより容易になる。本実施の形態では、シース4として、厚さ1.0mmのPVCからなる絶縁性樹脂を用いた。多心ケーブル1の全体の外径は、約13.0mm(12.0mm以上14.0mm以下)とした。
【0046】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る多心ケーブル1では、複数本の電線3と、異なる金属からなる導体を用いた正極導線20及び負極導線21を有する補償導線2と、複数本の電線3と補償導線2とを一括して覆うシース4と、を備えている。
【0047】
非接触給電等に用いる多心ケーブル1では、周方向に複数本の電線3を配置するため、ケーブル中心にデッドスペースが存在する。このケーブル中心に補償導線2を配置することで、デッドスペースを有効利用し、ケーブル内の温度を検知可能な多心ケーブル1を実現することが可能になる。これにより、多心ケーブル1と別に温度検知用のケーブルを設ける必要がなくなり、布設作業の作業性が向上する。
【0048】
また、多心ケーブル1に補償導線2を内蔵することで、なんらかの理由で電線3に過電流が流れ、多心ケーブル1が昇温した際に、当該昇温を補償導線2により速やかに(リアルタイムで)検知することが可能になり、過電流による火災の発生を抑制することが可能になる。本実施の形態では、全ての電線3が補償導線2に接触しており、各電線3と補償導線2の距離が等しくなっているため、いずれかの電線3で過電流が発生している場合であっても、当該過電流による発熱を補償導線2により精度よく検知することが可能である。
【0049】
さらに、例えば、絶縁体が溶融することによる短絡を検知するタイプの熱検知線を多心ケーブルに内蔵することも考えられるが、この場合、一度温度上昇を検知すると以降は温度検知が不可能となり、多心ケーブルの全体を張り替える必要が生じる。これに対して、本実施の形態では、補償導線2を用いているため、補償導線2の絶縁体(正極用絶縁体20b及び負極用絶縁体21b)として十分な耐熱性を有するものを用いていれば、何度でも繰り返し温度検知を行うことが可能であり、多心ケーブル1を張り替える必要がない。
【0050】
さらにまた、本実施の形態によれば、補償導線2の熱起電力を測定することによって、多心ケーブル1の内部の温度を段階的に検知することも可能になり、例えば80℃以上で警告を発し、100℃以上で電源の供給を強制的に停止させるなど、ユーザの必要に応じた柔軟な保全システムの構築に寄与することが可能になる。
【0051】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0052】
[1]複数本の電線(3)と、異なる金属からなる導体を用いた正極導線(20)及び負極導線(21)を有する補償導線(2)と、前記複数本の電線(3)と前記補償導線(2)とを一括して覆うシース(4)と、を備えた、多心ケーブル(1)。
【0053】
[2]前記補償導線(2)は、ケーブル中心に配置されており、前記補償導線(2)の周囲に、前記複数本の電線(3)が螺旋状に撚り合わせられている、[1]に記載の多心ケーブル(1)。
【0054】
[3]前記正極導線(20)は、正極用導体(20a)と前記正極用導体(20a)の周囲を被覆している正極用絶縁体(20b)と、を有し、前記負極導線(21)は、負極用導体(21a)と前記負極用導体(21a)の周囲を被覆している負極用絶縁体(22b)と、を有し、前記正極用絶縁体(20b)及び前記負極用絶縁体(21b)の定格温度が、前記シース(4)の定格温度以上である、[1]または[2]に記載の多心ケーブル(1)。
【0055】
[4]前記複数本の電線(3)は、電源供給用の電源線を含む、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の多心ケーブル(1)。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0057】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、補償導線2と複数本の電線3との間、及び電線3とシース4(ここでは押さえ巻きテープ7)との間に、スフ糸等の介在が配置されない場合について説明したが、これに限定されず、補償導線2の周囲に電線3とスフ糸等の介在とを撚り合わせて集合体6を構成してもよい。
【0058】
また、上記実施の形態では、非接触給電用の6本の電線3を有する多心ケーブル1について説明したが、電線3の本数は用途に応じて適宜変更してよく、例えば産業用ロボット用のケーブルに適用する場合、数十本~数百本の電線3を有するものであってもよい。使用する電線3の本数が多い場合には、複数の補償導線2を用いることも可能である。
【0059】
さらにまた、上記実施の形態では、コの字状に形成された筐体10を用いる場合を説明したが、筐体10の形状はこれに限定されるものではなく、例えば、一部が楕円形状となっていたり、多角形状となっていたりしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…多心ケーブル
2…補償導線
20…正極導線
20a…正極用導体
20b…正極用絶縁体
21…負極導線
21a…負極用導体
21b…負極用絶縁体
22…押さえ巻きテープ
23…ジャケット
3…電線
31…導体
32…絶縁体
4…シース
41…中空部
5…空気層
6…集合体
7…押さえ巻きテープ
図1
図2
図3
図4