(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】成形体及びその製造方法、プリプレグ、並びに積層体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20230816BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20230816BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08J5/00 CER
B32B37/00
(21)【出願番号】P 2020527380
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2019023270
(87)【国際公開番号】W WO2020004036
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2018122108
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】枦山 一郎
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/067920(WO,A1)
【文献】特開2009-084332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/04-5/10、
5/12-5/22、5/24
B29B 11/16、15/08-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部と、該樹脂部と隣接する基材とを含むプリプレグであって、
前記樹脂部が熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含み、
前記樹脂部の結晶化度が20%以上70%以下であり、且つ、
前記樹脂部が球晶を含み、前記球晶の大きさが3μm未満であ
り、
前記基材は、炭素繊維、合成樹脂繊維、及びガラスから選択される少なくとも一種よりなるクロス又は不織布である、
プリプレグ。
【請求項2】
前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点が200℃以上である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記樹脂部が、充填剤、難燃剤、及び酸化防止剤のうちの少なくとも1つを更に含有する、請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含んでなり、
球晶を含み、該球晶の大きさが3μm未満であり、且つ、
結晶化度が20%以上70%以下である、
成形体の製造方法であり、
熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含むプレ成形体を、前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)以上の温度で熱プレスしてから、前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の結晶化温度Tc(℃)まで急冷して結晶化する結晶化工程を含む、成形体の製造方法。
【請求項5】
前記結晶化工程における急冷時における、前記融点Tm(℃)から前記結晶化温度Tc(℃)までの冷却時間が1分以内である、請求項4に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点が200℃以上である、請求項4又は5に記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記成形体が、充填剤、難燃剤、及び酸化防止剤のうちの少なくとも1つを更に含有する、請求項4~6の何れかに記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
樹脂層と、該樹脂層の少なくとも一方の表面に対して直接隣接して積層された金属層とを含む積層体の製造方法であって、
前記樹脂層が熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含み、
前記樹脂層の結晶化度が20%以上70%以下であり、且つ、
前記樹脂層が球晶を含み、該球晶の大きさが3μm未満であり、
熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含むプレ成形体の少なくとも一方の表面に対して前記金属層を積層させて接着前積層物を得て、前記接着前積層物を、前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)以上の温度で熱プレスしてから、前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の結晶化温度Tc(℃)まで急冷して結晶化する結晶化工程を含む、
積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体及びその製造方法、プリプレグ、並びに積層体に関するものである。特に、本発明は、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含む、成形体及びその製造方法、プリプレグ、並びに積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速伝送信号や高周波信号を使用する電子機器には、低誘電率且つ低誘電損失の材料からなる基板を備えてなるプリント配線基板が必要とされている。従来は、ガラスクロス等よりなる基材に対して、熱硬化性樹脂を含浸させることで形成したプリプレグの両面側に、それぞれ銅箔等の金属層を配置した状態で熱プレス等することにより熱硬化性樹脂を硬化させて得た銅張積層板が、プリント配線基板として一般的に用いられてきた。しかし、熱硬化性樹脂は耐熱性及び形状精度に優れる一方で、誘電率及び誘電損失が比較的大きいことが課題とされてきた。
【0003】
ここで、脂環式構造含有樹脂は、誘電率及び誘電損失が低い傾向がある。中でも、結晶性の脂環式構造含有樹脂は、比較的高融点であり、耐熱性に優れることから、プリント配線基板を形成するための基板材料として有望である。プリント配線基板に用いられる基板材料の耐熱性が高ければ、かかるプリント配線基板を用いて、リフローはんだ付け工程を好適に実施することができるため、有利である。
【0004】
そこで、近年、熱可塑性の脂環式構造含有樹脂を基板材料として用いるための技術が開発されてきた。
例えば、特許文献1では、基板材料として、結晶性の熱可塑性脂環式構造含有樹脂を用いて、プリント配線基板を形成する技術が開示されている。特許文献1に従って得られたプリント配線基板は、冷熱衝撃試験耐性及び伝送特性のバランスに優れており、高周波信号の伝送用に特に好適に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、プリント配線基板に用いられる基板材料には、十分な耐熱性を有することに加えて、強度に優れることが求められている。しかし、上記特許文献1に記載された結晶性の熱可塑性脂環式構造含有樹脂は、耐熱性及び強度の点で改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂を含む成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂を含むプリプレグを提供することを目的とする。
さらにまた、本発明は、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂よりなる樹脂層を含む積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、樹脂として、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を用いて成形体を形成するにあたり、熱可塑性脂環式構造含有樹脂により形成される球晶のサイズを適切に制御することで、得られる成形体等の耐熱性及び強度を高いレベルで両立可能であることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の成形体は、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含んでなり、球晶を含み、前記球晶の大きさが3μm未満であり、且つ、結晶化度が20%以上70%以下である、ことを特徴とする。このように、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含んでなる成形体において、球晶の大きさ及び結晶化度が共に上記所定の範囲内である場合に、耐熱性及び強度を高いレベルで両立することができる。
なお、「結晶化度」は、X線回折装置を用いて、実施例に記載した方法により測定することができる。また、球晶の「大きさ」は、実施例に記載した方法により測定することができる。
【0010】
ここで、本発明の成形体において、前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点が200℃以上であることが好ましい。熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点が200℃以上であれば、成形体の耐熱性を一層良好に高めることができる。
なお、熱可塑性脂環式構造含有樹脂の「融点」は、示差走査熱量計を用いて、実施例に記載した方法により測定することができる。
【0011】
また、本発明の成形体は、充填剤、難燃剤、及び酸化防止剤のうちの少なくとも1つを更に含有していても良い。これらのうちの任意のものを成形体が含有していれば、かかる成形体は所望の属性を有し得る。
【0012】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のプリプレグは、樹脂部と、該樹脂部と隣接する基材とを含むプリプレグであって、前記樹脂部が熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含み、前記樹脂部の結晶化度が20%以上70%以下であり、且つ、前記樹脂部が球晶を含み、前記球晶の大きさが3μm未満である、ことを特徴とする。熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含有する樹脂部を含むプリプレグにおいて樹脂部における球晶の大きさ及び結晶化度が共に上記所定の範囲内であれば、かかるプリプレグは耐熱性及び強度に優れる。
【0013】
ここで、本発明のプリプレグにおいて、前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点が200℃以上であることが好ましい。熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点が200℃以上であれば、プリプレグの耐熱性を一層良好に高めることができる。
【0014】
また、本発明のプリプレグにおいて、前記樹脂部が、充填剤、難燃剤、及び酸化防止剤のうちの少なくとも1つを更に含有していても良い。これらのうちの任意のものをプリプレグが含有していれば、かかるプリプレグは所望の属性を有し得る。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体は、樹脂層と、該樹脂層の少なくとも一方の表面に対して直接隣接して積層された金属層とを含む積層体であって、前記樹脂層が熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含み、前記樹脂層の結晶化度が20%以上70%以下であり、且つ、前記樹脂層が球晶を含み、該球晶の大きさが3μm未満である、ことを特徴とする。熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含有する樹脂層を含む積層体において樹脂層における球晶の大きさ及び結晶化度が共に上記所定の範囲内であれば、かかる積層体は耐熱性及び強度に優れる。
【0016】
ここで、本発明の積層体において、前記樹脂層が、充填剤、難燃剤、及び酸化防止剤のうちの少なくとも1つを更に含有していても良い。これらのうちの任意のものを積層体が含有していれば、かかる積層体は所望の属性を有し得る。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の成形体の製造方法は、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含むプレ成形体を、前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)以上の温度で熱プレスしてから、前記熱可塑性脂環式構造含有樹脂の結晶化温度Tc(℃)まで急冷して結晶化する結晶化工程を含むことを特徴とする。かかる製造方法によれば、耐熱性及び強度に優れる成形体を効率的に製造することができる。
【0018】
ここで、本発明の成形体の製造方法において、前記結晶化工程における急冷時における、前記融点Tm(℃)から前記結晶化温度Tc(℃)までの冷却時間が1分以内であることが好ましい。結晶化工程における冷却条件を上記のようにすることで、熱可塑性脂環式構造含有樹脂の結晶化を良好に制御することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂を含む成形体及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂を含むプリプレグを提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂層を含む積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一例に従う成形体の原子間力顕微鏡画像である。
【
図2】実施例1等にて結晶化工程(2)を行った場合の温度プロファイル及び圧力プロファイルである。
【
図3】実施例1等にてリフロー試験を実施した際の温度プロファイルである。
【
図4】実施例2にて結晶化工程(2)を行った場合の温度プロファイル及び圧力プロファイルである。
【
図5】実施例2にてリフロー試験を実施した際の温度プロファイルである。
【
図6】実施例4にて結晶化工程(2)を行った場合の温度プロファイル及び圧力プロファイルである。
【
図7】比較例2等にて結晶化工程(2)を行った場合の温度プロファイル及び圧力プロファイルである。
【
図8】比較例3にて結晶化工程(2)を行った場合の温度プロファイル及び圧力プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の成形体はプリント配線基板を形成する際に好適に用いることができる。特に、本発明の成形体、プリプレグ、及び積層体は、高速伝送信号や高周波信号を使用する電子機器に適したプリント配線基板を形成する際に好適に用いることができる。そして、本発明の成形体は、本発明の成形体の製造方法により効率的に製造することができる。
以下、それぞれについて詳述する。
【0022】
(成形体)
本発明の成形体は、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含んで成る。さらに、本発明の成形体は、球晶を含み、該球晶の大きさが3μm未満であり、且つ、結晶化度が20%以上70%以下であることを特徴とする。本発明の成形体は、結晶化度が上記範囲内であり、且つ、所定の大きさの球晶を含むため、強度及び耐熱性に優れる。
【0023】
<樹脂>
樹脂は、少なくとも一種の熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含むことを必要とする。なお、樹脂として、複数種の熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含んでも良い。さらに、任意で、熱可塑性脂環式構造含有樹脂以外の樹脂であって、後述するその他の成分及び添加剤とは異なる樹脂を含んでいても良い。本発明の成形体が、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含むことで、成形体により良好な接着能を発揮することができる。
【0024】
ここで、熱可塑性脂環式構造含有樹脂は結晶性である必要がある。なお、樹脂が「結晶性である」とは、本明細書の実施例に記載した条件下で、示差走査熱量計(DSC)を用いて融点を検出することが可能である性質をいう。なお、かかる性質は、重合体鎖の立体規則性により定まる性質である。また、樹脂が「熱可塑性である」とは、樹脂に対して熱を加えれば軟らかくなり、冷却すれば硬くなることを繰り返す性質を指す。
【0025】
熱可塑性脂環式構造含有樹脂としては、環状オレフィン重合体であって、分子内に脂環式構造を有し、且つ熱可塑性を有する化合物が挙げられる。そのような化合物としては、例えば、国際公開第2012/033076号に記載の、シンジオタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素化物、特開2002-249553号公報に記載の、アイソタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素化物、特開2007-16102号公報に記載の、ノルボルネン開環重合体水素化物等の公知のものを用いることができる。中でも、生産性等の観点から、樹脂としては、シンジオタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素化物を用いることが好ましい。
【0026】
なお、シンジオタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素化物は、特開2017-170735号公報に開示された方途に従って、好適に合成することができる。また、「シンジオタクチック立体規則性を有する」とは、本明細書の実施例に記載された13C-NMR測定方法に従って測定された、ラセモダイアッドの割合が51%以上であることを意味する。さらにまた、シンジオタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素化物におけるラセモダイアッドの割合は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0027】
<<熱可塑性脂環式構造含有樹脂の好適属性>>
[融点]
熱可塑性脂環式構造含有樹脂は、融点が200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることが更に好ましく、260℃以上であることが更により好ましく、350℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。融点が上記下限値以上であれば、成形体の耐熱性を良好に高めることができる。また、融点が上記上限値以下であれば、成形体の成形容易性を良好に高めることができる。熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点は、例えば、樹脂を構成する重合体を合成する際に、立体規則性及び水素化率等を制御することで、調節することができる。
【0028】
[結晶化温度]
熱可塑性脂環式構造含有樹脂は、結晶化温度が、ガラス転移温度Tg以上であることが好ましく、Tg+10℃以上であることがより好ましく、Tg+50℃以下であることが好ましい。結晶化温度が上記範囲であれば、冷却温度や冷却速度を制御することで結晶の成長を制御できる。熱可塑性脂環式構造含有樹脂の結晶化温度は、例えば立体規則性を制御することで調整することができる。
【0029】
[ガラス転移温度]
さらにまた、熱可塑性脂環式構造含有樹脂は、耐熱性の観点から、ガラス転移温度が、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることが好ましい。また、熱可塑性脂環式構造含有樹脂ガラス転移温度は、成形性の観点から、200℃以下であることが好ましい。また、結晶化工程等における温度制御を比較的容易とする観点から、ガラス転移温度が150℃以下であるとより好ましい。なお、「ガラス転移温度」は、示差走査熱量計を用いて、実施例に記載した方法に従って測定することができる。熱可塑性脂環式構造含有樹脂のガラス転移温度は、例えば、複数の熱可塑性脂環式構造含有樹脂の組成比率を制御することで、調節することができる。
【0030】
[水素化率]
また、熱可塑性脂環式構造含有樹脂は、熱可塑性脂環式構造含有樹脂の主鎖に含まれる炭素-炭素二重結合の水素化率が、95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。さらに、熱可塑性脂環式構造含有樹脂が主鎖以外に炭素-炭素二重結合を有する場合には、主鎖及び主鎖以外に含まれる炭素-炭素二重結合全体の水素化率が95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。水素化率が高ければ、得られる成形体の耐熱性を高めることができる。なお、「水素化率」は、1H-NMR測定に基づいて算出することができるモル基準の値である。熱可塑性脂環式構造含有樹脂の水素化率は、樹脂を構成する重合体を水素化する際の、水素化条件を制御することによって調節することができる。
【0031】
<<樹脂の球晶>>
本発明の成形体は、球晶を含み、かかる球晶の大きさが3μm未満であることを必要とする。成形体に含まれる球晶の大きさが3μm未満であれば、成形体の強度及び耐熱性が高い。さらに、球晶の大きさは、2.2μm以下であることが好ましい。成形体の強度を一層向上させることができるからである。なお、成形体が、「球晶を含み、かかる球晶の大きさが3μm未満である」とは、換言すれば、成形体が複数の球晶を含む場合に、かかる複数の球晶の中でも最大の球晶の大きさが3μm未満であることを意味する。
図1に、複数の球晶を含み、かかる複数の球晶のうち、最大のものでも大きさが約1μm以下である成形体の断面を、原子間力顕微鏡を用いて観察して得た画像の一例を示す。
図1にて、表示視野中に散在する暗色領域が球晶に相当する。球晶の大きさは、原子間力顕微鏡で観察し、球晶として観察される結晶のサイズを直接測定することにより取得することができる。
【0032】
ここで、球晶は、溶融した樹脂が冷却される過程で生じる、樹脂を構成する高分子の分子鎖の折りたたみ構造よりなる。そして、球晶のサイズは、樹脂が冷却される過程における温度変化の態様に主に依存して、変化する。従って、後述する本発明の成形体の製造方法のように、樹脂を溶融状態とした後に冷却する工程における融点から結晶化温度までの時間を所定時間以内とすることで、効率的に、上記のような所定の範囲内に、球晶の大きさを制御することができる。
【0033】
<その他の成分>
なお、成形体は、上述したような樹脂以外に、その他の成分として、酸化防止剤、充填剤、及び難燃剤のうちの少なくとも1つを含有していることが好ましい。これらのうちの任意のものを含有させることで、所望の属性を成形体に付与することができるからである。さらに、成形体は、上記のようなその他の成分以外の各種添加剤を任意で含有していても良い。そのような添加剤としては、例えば、結晶核剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、及び滑剤等が挙げられる。
【0034】
例えば、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。これらは、一種を単独で、あるいは複数種を組み合わせて用いることができる。なお、酸化防止剤を含有する成形体は、プリント配線基板を形成するために好適に用いることができる。
【0035】
フェノール系酸化防止剤としては、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、α-トコフェロール、2,2,4-トリメチル-6-ヒドロキシ-7-t-ブチルクロマン、テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジターシャリーブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジターシャリーブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジターシャリーブチルフェニル)4,4’-ビフェニルジホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、ジステアリルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート等が挙げられる。
【0036】
また、充填剤としては、無機充填剤や有機充填剤が挙げられる。無機充填剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系充填剤;酸化マグネシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素(シリカ)などの金属酸化物系充填剤;塩化ナトリウム、塩化カルシウムなどの金属塩化物系充填剤;硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウムなどの金属硫酸塩系充填剤;硝酸ナトリウム、硝酸カルシウムなどの金属硝酸塩系充填剤;リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどの金属リン酸塩系充填剤;チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムなどの金属チタン酸塩系充填剤;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩系充填剤;炭化硼素、炭化ケイ素などの炭化物系充填剤;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物系充填剤;アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、鉄などの金属粒子系充填剤;マイカ、カオリン、フライアッシュ、タルク、雲母などのケイ酸塩系充填剤;ガラス繊維;ガラス粉末;カーボンブラック;などが挙げられる。これらの無機充填剤は、公知の、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等で表面処理されたものであってもよい。有機充填剤としては、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、各種エラストマー等の粒子化合物が挙げられる。
【0037】
さらにまた、難燃剤としては、公知のハロゲン系難燃剤や非ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、トリス(2-クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、塩素化ポリスチレン、塩素化ポリエチレン、高塩素化ポリプロピレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルオキシド、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、1,2-ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、テトラブロモビスフェノールS、テトラデカブロモジフェノキシベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニルプロパン)、ペンタブロモトルエンなどが挙げられる。
【0038】
<成形体中における各種成分の含有量>
成形体中の熱可塑性脂環式構造含有樹脂の含有量は、成形体全体を100質量%として、通常、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは、80質量%以上である。そして、上述したその他の成分の含有量は、目的に合わせて適宜決定することができるが、成形体全体を100質量%として、通常、50質量%未満、好ましくは40質量%未満、より好ましくは20質量%未満である。その他の成分として複数種の成分を併用した場合には、複数種の成分の合計含有量がかかる範囲内であることが好ましい。
例えば、酸化防止剤の含有量は、成形体全体を100質量%として、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、通常5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。また、例えば、充填剤の含有量は、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下である。更にまた、例えば、難燃剤の含有量は、通常1質量%以上、好ましくは10質量%以上、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0039】
<成形体の形状>
成形体の形状は、特に限定されることなく、用途に適したあらゆる形状であり得るが、シート状であることが好ましい。なお、本明細書において、「シート状」とは、厚み分の距離を隔てて対向する表面及び裏面を有する形状を意味する。
成形体がシート状である場合に、その厚みは、通常10μm以上、好ましくは25μm以上、通常250μm以下、好ましくは100μm以下である。
【0040】
<成形体の結晶化度>
本発明の成形体は、結晶化度が20%以上70%以下であることを必要とする。成形体の結晶化度が20%以上であれば、耐熱性が充分に高い。また、成形体の結晶化度が70%以下であれば、成形体の強度が充分に高い。さらに、耐熱性を一層高める観点から、成形体の結晶化度は、30%以上であることが好ましい。
成形体の結晶化度が高ければ、かかる成形体は、100℃超といった高温領域での絶縁性に優れるため、高速伝送信号及び高周波信号等を使用する電子機器に備えられる電子部品の構成材料として好適に用いることができる。
【0041】
成形体の結晶化度は、樹脂を溶融状態とする際の温度、及び樹脂を溶融状態とした後に冷却する工程における融点から結晶化温度までの時間を調節すること等に基づいて、制御することができる。
【0042】
(成形体の製造方法)
本発明の成形体の製造方法は、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含むプレ成形体を、熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)以上の温度で熱プレスしてから、熱可塑性脂環式構造含有樹脂の結晶化温度Tc(℃)まで急冷して結晶化する結晶化工程(「結晶化工程(2)」とも称する。)を含むことを特徴とする。結晶化工程において、プレ成形体を、融点Tm(℃)以上の温度で熱プレスしてから、結晶化温度Tc(℃)まで急冷することで、得られる成形体に含まれる樹脂の球晶の大きさ及び成形体の結晶化度を効率的に所望の値に制御することができる。さらに、本発明の成形体の製造方法は、任意で、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含む樹脂ペレットを得る工程(0)、及び、樹脂ペレットを熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)以上の温度に昇温して溶融成形してプレ成形体を得る工程(1)を含んでも良い。以下、各工程について詳述する。
【0043】
<樹脂ペレットを得る工程(0)>
樹脂ペレットを得る工程(0)では、上記(成形体)の項目で詳述した諸属性を満たす熱可塑性脂環式構造含有樹脂に対して、必要に応じて任意のその他の成分及び/又は添加剤を添加して、常法に従ってプレ混合し、プレ混合物を得る。得られたプレ混合物を、二軸押出し機等の既知の混合装置に導入して、溶融押出成形等の既知の成形方法に従って、ストランド状の成形体を得た後に、ストランドカッター等の切断装置を用いて切断し、樹脂ペレットを得る。なお、プレ混合の際の温度条件は、特に限定されることなく、0℃以上、熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)未満であり得る。また、プレ混合物を二軸押出し機等の混合装置にて混合する際の温度は、熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)以上Tm+100(℃)以下であり得る。
【0044】
<プレ成形体を得る工程(1)>
プレ成形体を得る工程(1)では、上記工程(0)で得られた樹脂ペレットを、熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)以上の温度で加熱して溶融成形してプレ成形体を得る。かかる工程(1)は、特に限定されることなく、樹脂ペレットを熱可塑性脂環式構造含有樹脂の融点Tm(℃)以上の温度で加熱することができる装置、及び、所望の形状に成形することができる装置を用いて実施することができる。例えば、好適な成形装置としては、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機が挙げられる。成形方法としては、特に限定されることなく、射出成形、押出成形、プレス成形、インフレーション成形、ブロー成形、カレンダー成形、注型成形、及び圧縮成形等の公知の成形方法を採用することができる。なお、本工程(1)にて、任意で延伸処理を行っても良い。
なお、樹脂ペレットを加熱する際の温度は、Tm+100(℃)以下であり得る。
【0045】
<結晶化工程(2)>
結晶化工程(2)では、被プレス対象であるプレ成形体を、融点Tm(℃)以上の温度で熱プレスして成形体としてから、該成形体を結晶化温度Tc(℃)まで急冷する。結晶化工程(2)は、特に限定されることなく、温度調節機構を有する真空プレス装置等を用いて実施することができる。結晶化工程(2)では、プレ成形体に対してプレス圧をかけ始めた後に、プレ成形体の加熱を開始しても良いし、プレ成形体に対してプレス圧をかける前、又はプレ成形体に対してプレス圧をかけ始めると同時に、プレ成形体の加熱を開始しても良い。中でも、プレ成形体に対してプレス圧をかける前、又はプレ成形体に対してプレス圧をかけ始めると同時に、プレ成形体の加熱を開始することが好ましい。圧力がかかった状態の方が熱媒から均一に熱が伝達され、温度の均一性を保つことができるからである。さらに、成形体の急冷にあたり、プレス圧の印加を解除すると同時に、又は解除した後に成形体の冷却を開始しても良いし、プレス圧の印加を解除する前に成形体の冷却を開始して、その後プレス圧の印加を解除しても良い。中でも、プレス圧の印加を解除すると同時に、又は解除した後に成形体の冷却を開始することが好ましい。球晶の形成を適度に促進することができるからである。ここで、プレス圧の印加を解除した後に成形体の冷却を開始するにあたり、加熱した熱媒から冷却用熱媒(即ち、冷媒)に入れ替えるといった手段が有効である。この際、プレス板等のプレス部材による成形体の加圧を一旦停止し、プレス部材を加熱するための熱媒を冷媒に交換して、プレス部材自体の温度を均一化した後に、再度、プレス部材を用いて成形体を低圧で加圧することで、成形体を均一に冷却することができる。
【0046】
熱プレスの際のプレ成形体の加熱温度は、融点Tm(℃)以上であることが必要であり、融点Tm+10(℃)以上であることが好ましく、Tm+100(℃)以下であることが好ましく、Tm+50(℃)以下であることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすることで、成形体の均一性を高めることができる。なお、熱プレスの際のプレ成形体の加熱温度が融点Tm(℃)未満である場合には、熱プレスしている間に成形体の結晶化が進行して球晶が成長し、以降の工程にて冷却したとしても、成長した球晶が成形体内に残存する。そして、成長した球晶は破壊点となりやすく、成形体の強度低下につながる虞がある。加熱温度が融点Tm(℃)以上であれば、加熱工程にて成形体を良好に非晶化することができる。そして、後続する結晶化工程にて結晶化を良好に制御することが可能となる。また、加熱温度を上記上限値以下とすることで、成形体の結晶化度が過度に高まることを抑制して、成形体の強度を一層高めることができる。熱プレスの際には、成形体を均一に溶解して非晶化することができればよいため、過度に高い温度での加熱は不要である。
なお、熱プレスの際のプレ成形体の加熱温度は、加熱対象であるプレ成形体自体の温度ではなく、プレ成形体の加熱に用いる加熱手段(例えば、真空プレス装置に備えられる温度調節機構としてのヒーター)の設定温度であり得る。
【0047】
また、急冷の際の融点Tm(℃)から結晶化温度Tc(℃)までの冷却時間が1分以内であることが好ましい。球晶の大きさが過剰に大きくなることを一層効果的に抑制することができるからである。
【0048】
さらにまた、プレス圧は、特に限定されることなく、例えば、1MPa以上10MPa以下でありうる。ここで、成形体を作成する際には、かかる圧力範囲の中でも、比較的低いプレス圧にて、充分に良好に成形体を得ることができる。また、後述するプリプレグ及び積層体等を作成する際には、樹脂、基材、及び金属といった構成要素間の密着性を高める観点から、上記圧力範囲の中でも、成形体を作成する際のプレス圧よりも若干高めのプレス圧を印加することが好ましい。しかし、10MPa超の高いプレス圧を印加したとしても、密着性が飛躍的に高まるということはなく、プレス圧の好適上限は10MPa程度で十分である。さらに、冷却工程において、加熱の際に印加したプレス圧よりも十分に低い圧力、例えば、0.1MPa以上1.0MPa以下のプレス圧を印加することが好ましい。冷却工程においてプレス圧をかけることで、効率的に成形体を冷却することが可能となる。また、冷却工程におけるプレス圧を過度に高くしなければ、冷却に応じた成形体の収縮を過度に抑制することを回避することができる。
【0049】
図2に、後述する実施例1等にて結晶化工程(2)を行った場合の温度プロファイル及び圧力プロファイルを示す。
図2には、プレス圧(10MPa)の印加を開始すると同時に、加熱温度を室温から280℃まで急激(約50秒)に昇温して、一定時間(約600秒)保持した後に、プレス圧を一旦開放して温度が若干下がったところで、再度プレス圧(1MPa)の印加を開始すると同時に、樹脂の結晶化温度(130℃)以下の温度(100℃)まで約60秒かけて冷却している。
【0050】
なお、上述した工程(0)~(2)にて、効果的に球晶の大きさ及び結晶化度を制御することが可能であるが、結晶化を促進する等の目的の下、必要に応じて、上記工程(2)を経て得られた成形体に対してアニール処理を行っても良い。アニール処理とは、冷却した成形体を再度加熱する処理である。アニール処理を行うことにより、結晶化度及び/又は球晶の大きさを微調整することができる。例えば、アニール処理は、特に限定されることなく、熱処理オーブン及び赤外線ヒーター等を用いて実施することができる。
【0051】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含有する樹脂部と、該樹脂部と隣接する基材とを含むプリプレグである。そして、樹脂部の結晶化度が20%以上70%以下であり、且つ、樹脂部が球晶を含み、球晶の大きさが3μm未満であることを特徴とする。本発明のプリプレグは、結晶化度及び球晶の大きさが上記範囲を満たすため、強度及び耐熱性に優れる。さらに、本発明のプリプレグは加熱による寸法変化が少なく、寸法精度に優れる。
【0052】
<樹脂部>
樹脂部は、後述する基材に対して隣接する樹脂よりなる構成部である。樹脂部は、基材に隣接する「層」状の領域であり得る。ここで、基材が繊維状基材等の内部に空隙を含んだ構造体である場合には、かかる空隙に対して樹脂が含浸した状態となっている場合がある。なお「空隙に対して樹脂が含浸した状態」とは、空隙を埋めるようにして樹脂が延在する状態を指す。空隙に対して樹脂が含浸した状態となっている場合に、樹脂部は、基材に隣接する「層」状の領域、及び基材空隙内に存在する連続的又は非連続的な部分領域にわたって、存在し得る。なお、プリプレグを構成する際に用いた基材及び樹脂部の体積のバランスによっては、樹脂により形成される「層」状領域が確認し難いことがあり得る。しかし、あるプリプレグを観察した場合に、たとえ樹脂部が「層」状をなしていない場合であっても、基材に対して隣接する樹脂よりなる構成部が存在する限りにおいて、かかるプリプレグは「樹脂部」を有する。プリプレグと被接着対象との接着性を高める観点から、樹脂部が基材に隣接する層状の領域を含むことが好ましい。
【0053】
樹脂部を構成するための「樹脂」としては、(成形体)の項目で詳述した樹脂を好適に用いることができる。また、樹脂部を構成するための「樹脂」には、(成形体)の項目で詳述したその他の成分及び添加剤等を任意に配合しても良く、これらの配合量も(成形体)の項目にて記載した好適範囲内であり得る。そして、樹脂部は、(成形体)<<樹脂の球晶>>の項目で説明した好適な大きさの球晶を含むことを特徴とする。さらに、樹脂部は、(成形体)<成形体の結晶化度>の項目で説明した好適範囲内の結晶化度を呈することが好ましい。
【0054】
<基材>
基材としては、特に限定されることなく、炭素繊維、環状オレフィン系樹脂繊維等の合成樹脂繊維、及びガラス等よりなるクロス又は不織布等が挙げられる。なお。環状オレフィン系樹脂繊維等の合成樹脂繊維よりなるクロス又は不織布を用いる場合には、かかる合成樹脂繊維の融点は、樹脂部を構成するための樹脂の融点よりも高い必要がある。なお、耐熱性の観点からはガラスよりなるクロス又は不織布が優れている。その一方で、合成樹脂繊維よりなるクロス又は不織布を用いることで、誘電率の低いプリプレグを形成することができる。基材の厚みは、特に限定されることなく、例えば、10μm以上500μm以下であり得る。
【0055】
<プリプレグの製造方法>
プリプレグの製造にあたり、例えば、(成形体の製造方法)<プレ成形体を得る工程(1)>の項目で説明したプレ成形体を用いる場合には、(成形体の製造方法)<結晶化工程(2)>の項目で説明した処理と同様の加熱及び急冷処理を行うに際して、プレ成形体-基材-プレ成形体をこの順で積層させて含浸前プリプレグを得る。なお、結晶化工程に先立って、含浸前プリプレグの載置された雰囲気を真空状態(例えば、100kPa未満)とすることで、基材中に気泡が残留することを良好に抑制することができる。そして、含浸前プリプレグについて、(成形体の製造方法)<結晶化工程(2)>で説明した処理と同様の加熱及び急冷処理を行うことで、基材に対して、プレ成形体を構成していた樹脂成分の少なくとも一部が含浸されてなる、プリプレグを得ることができる。かかる製造方法に従って得られたプリプレグは、所定の属性を満たす。即ち、所定の積層物である含浸前プリプレグに対して、上記工程(2)を実施することで、プリプレグに含まれる樹脂部における結晶化、所定サイズの球晶生成、及び基材に対する樹脂の含浸処理を、一つの工程内で行うことができる。
なお、プリプレグを製造するに当たり、結晶化前の成形体であるプレ成形体に代えて、結晶化度及び球晶サイズが所定の条件を満たす本発明の成形体を用いることも可能である。この際、上記した製造方法においてプレ成形体に代えて成形体を用いる他は、上記と同様にして、プリプレグを得ることができる。
【0056】
(積層体)
本発明の積層体は、樹脂層と、該樹脂層の少なくとも一方の表面に対して直接隣接して積層された金属層とを含む積層体である。そして、樹脂層が熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含み、樹脂層の結晶化度が20%以上70%以下であり、且つ、樹脂層が球晶を含み、該球晶の大きさが3μm未満であることを特徴とする。本発明の積層体は、結晶化度及び球晶の大きさが上記範囲内である樹脂層を含んでなるため、耐熱性及び強度に優れる。積層体は、樹脂層の少なくとも一方の表面に対して直接隣接して積層された少なくとも一つの金属層を有する限りにおいて特に限定されることなく、樹脂層の両面のそれぞれに積層された金属層を有していても良いし、樹脂層の一方の表面上のみに積層された金属層を有していても良い。
【0057】
<金属層>
金属層としては、銅、金、銀、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、及びクロム等の金属を含有してなる層が挙げられる。中でも、プリント配線基板の形成材料として有用な積層体が得られることから、銅が好ましい。金属層の厚みは、特に限定されることなく、積層体の使用目的に合わせて適宜決定することができる。金属層の厚みは、通常、1μm以上、好ましくは3μm以上、通常35μm以下、好ましくは18μm以下であり得る。
【0058】
<樹脂層>
樹脂層は、上記金属層に対して直接隣接して積層されてなる。ここで、「直接隣接して」とは、金属層と樹脂層との間に接着層等の他の性状の層が介在せず、金属層と樹脂層とが相互に直接接触している状態を意味する。また、樹脂層は、上述した成形体又はプリプレグと同様の構成を有し得る。換言すれば、樹脂層は、結晶化度が上記所定の範囲であるとともに、含まれる球晶の大きさが3μm未満である熱可塑性脂環式構造含有樹脂を含むことを必要とし、任意で、基材を含んでいてもよい。
【0059】
樹脂層は、(成形体の製造方法)<プレ成形体を得る工程(1)>の項目で説明したプレ成形体、本発明の成形体、又は本発明のプリプレグを用いて形成することができる。従って、樹脂層を構成するための「樹脂」及び樹脂層における結晶化度及び球晶の大きさ等の諸属性は、上述した好適な属性を満たすことが好ましい。
【0060】
<積層体の製造方法>
積層体の製造にあたり、例えば、(成形体の製造方法)<プレ成形体を得る工程(1)>の項目で説明したプレ成形体を用いる場合には、(成形体の製造方法)<結晶化工程(2)>で説明した処理と同様の加熱及び急冷処理を行うに際して、(金属箔)-プレ成形体-基材-プレ成形体-(金属箔)をこの順で積層させて接着前積層物を得る。なお、前述した(金属箔)は、金属層を形成するための材料であり、積層体の何れか一方の表面上に配置することが必須であり、他方は任意である。因みに、金属箔の厚みの好適範囲は、金属層について上記した好適な範囲と同じであり得る。そして、接着前積層物について、(成形体の製造方法)<結晶化工程(2)>の項目で説明した処理と同様の加熱及び急冷処理を行う。なお、「基材」としては、(プリプレグ)<基材>の項目にて上述したものと同じものを用いることができる。
【0061】
(多層配線板)
本発明の成形体、プリプレグ、及び積層体は、多層配線板を作成する際に好適に使用することができる。多層配線板の形成にあたり、複数の積層体の各銅箔部をエッチングすることでそれぞれ所望のパターンを形成し、積層体間にプリプレグを挟み積層物として、かかる積層物を厚み方向に熱プレスすれば、プリプレグを構成する熱可塑性脂環式構造含有樹脂により、隣接する積層体表面との接着性を発揮することができ、効率的に多層配線板を作製することができる。
そして、本発明の成形体、プリプレグ、及び/又は、積層体を用いて形成された多層配線板は、含有される樹脂の結晶化度が上記範囲内であるとともに、球晶の大きさが3μm未満であるため、強度及び耐熱性に優れ、さらに、100℃超といった高温領域での絶縁性に優れる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明について実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「部」は、特に断らない限り、質量基準である。また、圧力はゲージ圧力である。各例における測定及び評価は、以下の方法により行った。
【0063】
<ジシクロペンタジエン開環重合体の分子量(重量平均分子量及び数平均分子量)>
調製したジシクロペンタジエン開環重合体を含む溶液を採取して、測定用試料とした。得られた測定用試料について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム HLC-8320(東ソー社製)で、Hタイプカラム(東ソー社製)を用い、温度40℃の下、テトラヒドロフランを溶媒として、ジシクロペンタジエン開環重合体の分子量をポリスチレン換算値として求めた。
【0064】
<脂環式構造含有樹脂の水素化率(水素添加率)>
調製した熱可塑性脂環式構造含有樹脂の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、145℃で、1H-NMR測定により測定した。
【0065】
<脂環式構造含有樹脂のラセモダイアッドの割合>
オルトジクロロベンゼン-d4/1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)-d3(混合比(質量基準)1/2)を溶媒として、200℃でinverse-gated decoupling法を適用して13C-NMR測定を行い、ラセモダイアッドの割合(メソ/ラセモ比)を求めた。具体的には、オルトジクロロベンゼン-d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとの強度比に基づいて、ラセモダイアッドの割合を求めた。
【0066】
<融点、ガラス転移温度、及び結晶化温度>
調製した熱可塑性脂環式構造含有樹脂について、示差走査熱量分析計(日立ハイテクサイエンス社製、DSC6220)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で、融点、ガラス転移温度、及び結晶化温度を測定した。
【0067】
<結晶化度>
実施例、比較例で製造した成形体から試験片を切り出した。なお、成形体以外を製造した例については、基材を介在させることなく、各例における処理と同じ結晶化処理を行って、樹脂層を得て、試験片を切り出した。
試験片をX線回折装置に設置し、2θ=3°~40°の範囲で測定した。2θ=16.5°及び18.4°付近のピークを結晶ピークとして、ブロードパターン(ハローパターン)を非晶部として、(結晶ピークの面積)/(結晶ピークの面積+ブロードパターンの面積)×100(%)に従って、結晶化度の値を算出した。
<球晶の大きさ>
原子間力顕微鏡を用いて、実施例、比較例で製造した成形体等の断面を観察した。視野内に存在する複数の球晶をランダムに選出し、観察画面から直接球晶の大きさを測定した。なお、測定対象とした球晶について、観察画面に表示された輪郭に外接する外接円の直径を、かかる球晶の大きさとした。そして、得られた球晶の大きさのうちの最大値を、測定対象とした成形体に含まれる「球晶の大きさ」とした。
【0068】
<引張強度及び破断伸び率>
実施例、比較例で製造した成形体等について、下記のようにして準備した測定試料を用いて、引張試験機(島津製作所製、AUTOGRAPH AGS-X)により機械強度(引張強度及び破断伸び率)を測定した。なお、5枚の測定試料について試験を行い、平均値を測定値とした。
測定試料の準備にあたり、成形体については、幅10mm、長さ100mmで切り出して、測定試料とした。また、積層体については、ガラスクロスのクロス方向(布目方向)に対して、45°の方向、即ちガラスクロスの伸縮性が最も発揮されうる方向、が長手方向となるように、幅10mm、長さ100mmで切り出して測定試料とした。
【0069】
<リフロー耐性>
実施例、比較例で製造した成形体等について、100mm×100mmの測定試料を切り出し、80mmの間隔で四隅に寸法変化測定用パターンを設けた。そして、かかる測定試料について、表1に示す図面のプロファイルに従ってリフロー試験を行った。試験を経た測定試料について、パターン間の距離を測定し、式:|寸法変化量|/80mm×100(%)に従って、リフロー試験前後の寸法変化率を測定した。寸法変化率が0.5%以下であった場合に、対応するリフロー試験のプロファイルにおけるピーク温度をリフロー耐性温度とした。
【0070】
<寸法変化率>
実施例、比較例で製造した積層体について、寸法変化率を評価した。まず、250×250mmサイズの積層体に対して、銅箔の一部をエッチング除去し、200mmの間隔で四隅に寸法変化測定用パターンを設けた。オーブンで150℃30分の熱処理を行った後、寸法変化測定用のパターン間の距離を測定し、式:|寸法変化量|/200mm×100(%)に従って、熱処理前後の寸法変化率を測定した。なお、寸法変化率の値は、4辺について算出した。表1には、4辺について算出した値の全てが満たしていた閾値を示す。
【0071】
<絶縁抵抗値>
実施例、比較例で製造した成形体等について、厚み方向の絶縁抵抗を測定した。電圧500V、測定温度範囲は25℃~125℃とした。
【0072】
(実施例1)
<熱可塑性脂環式構造含有樹脂(COP1)の合成>
熱可塑性脂環式構造含有樹脂(COP1)として、以下の手順に従ってジシクロペンタジエン開環重合体水素化物を得た。
内部を窒素置換した金属製耐圧反応容器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)のシクロヘキサン溶液(濃度70%)42.8部(ジシクロペンタジエンとして30部)、1-ヘキセン1.9部を加え、全容を53℃に加熱した。
一方、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解して得られた溶液に、ジエチルアルミニウムエトキシドのn-ヘキサン溶液(濃度19%)0.061部を加えて10分間攪拌し、触媒溶液を調製した。この触媒溶液を前記反応器内に添加し、開環重合反応を開始させた。
全容を55℃に保ちながら270分攪拌した後、メタノール1.5部を加え、開環重合反応を停止させた。なお、重合反応液にメタノールを添加することで、触媒分を不溶化させる効果も得られる。
得られた重合反応液に含まれるジシクロペンタジエン開環重合体の重量平均分子量(Mw)は28,700、数平均分子量(Mn)は9570、分子量分布(Mw/Mn)は3.0であった。
得られた重合反応液に、濾過助剤として珪藻土(昭和化学工業社製、ラヂオライト#1500)1部を加えた。この懸濁液に対して、リーフフィルター(IHI社製、CFR2)にて濾過処理を行い、不溶化した触媒分を珪藻土とともに濾別し、ジシクロペンタジエン開環重合体の溶液を得た。
上記に従って得たジシクロペンタジエン開環重合体の溶液を、攪拌機、温調ジャケット付きの反応器(住友重機械工業社製)に移送した後、ジシクロペンタジエン開環重合体の濃度が9%になるようにシクロヘキサン600部、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.1部を加えた。次いで、全容を回転数64rpmで攪拌しながら、水素圧4MPa、温度180℃にて6時間水素化反応を行い、ジシクロペンタジエン開環重合体水素化物の粒子を含有するスラリーを得た。
このようにして得られたスラリーを遠心分離することにより、固形分と溶液とを分離し、固形分を、60℃で24時間減圧乾燥し、熱可塑性脂環式構造含有樹脂としてのジシクロペンタジエン開環重合体水素化物27.0部を得た。
熱可塑性脂環式構造含有樹脂における、水素化反応による不飽和結合の水素化率は99%以上、ガラス転移温度は98℃、融点は262℃、結晶化温度は130℃、ラセモダイアッドの割合(即ち、シンジオタクティシティー)は90%であった。
【0073】
<成形体の製造>
<<樹脂ペレットを得る工程(0)>>
ジシクロペンタジエン開環重合体水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、製品名「イルガノックス(登録商標)1010」、BASFジャパン社製)0.8部を混合した後、混合物を二軸押出し機(TEM-37B、東芝機械社製)に投入し、熱溶融押出し成形によりストランド状の成形体を得た後、これをストランドカッターにて細断し、樹脂ペレットを得た。
二軸押出し機の運転条件を以下に示す。
・バレル設定温度:270~280℃
・ダイ設定温度:250℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
<<プレ成形体を得る工程(1)>>
上記樹脂ペレットを得る工程(0)で得られた樹脂ペレットについて以下の条件で成形処理を行い、厚み100μmのフィルム状のプレ成形体である樹脂フィルムを得た。
・成形機:Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機(製品名「MeasuringExtruder Type Me-20/2800V3」、Optical Control Systems社製)
・バレル温度設定:280℃~290℃
・ダイ温度:270℃
・スクリュー回転数:30rpm
・フィルム巻き取り速度:1m/分
<<結晶化工程(2)>>
プレ成形体を得る工程(1)で得られた樹脂フィルムから、250mm×250mmサイズのシートを切り出し、真空ラミネータ(日機装社製、ドライラミネータSDL380-280-100-H)を用いて、
図2に示すプロファイルで280℃、圧力10MPaで10分プレスし、その後急冷して、シート状の成形体を得た。なお、
図2に示す温度プロファイルのように、急冷時には、融点である262℃から結晶化温度以下の温度である100℃までの時間を、30秒以内とした。
得られた成形体について、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す項目について評価を行った。なお、リフロー耐性の評価にあたり、
図3に示す温度プロファイルで、上記に従うリフロー試験を実施した。
さらに、上記に従って、成形体の厚み方向の絶縁抵抗を測定したところ、25℃から125℃において10
5MΩであった。
【0074】
(実施例2)
<熱可塑性脂環式構造含有樹脂(COP2)の合成>
熱可塑性脂環式構造含有樹脂(COP2)として、以下の手順に従ってジシクロペンタジエン開環重合体水素化物を得た。
内部を窒素置換した金属製耐圧反応容器に、トルエン344部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)のトルエン溶液(濃度35%)286部(ジシクロペンタジエンとして100部)、1-ヘキセン8部を加え、全容を35℃に加熱した。
開環重合触媒であるタングステン錯体0.086部を29部のトルエンに溶解して触媒溶液を調製した。この触媒溶液を前記反応器内に添加し、35℃で1時間、開環重合反応を行い、ジシクロペンタジエン開環重合体を含む溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエン開環重合体を含む溶液667部に、停止剤として、2-プロパノール1.1部を加えて、重合反応を停止させた。
この溶液の一部を用いて、ジシクロペンタジエン開環重合体の分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は24,600、数平均分子量(Mn)は8,600、分子量分布(Mw/Mn)は2.86であった。
得られたジシクロペンタジエン開環重合体を含む反応液を、攪拌機、温調ジャケット付きの金属製耐圧容器に移送した後、トルエン330部、水素化触媒としてのクロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.027部を添加した。次いで全容を回転数64rpmで撹拌しながら、水素圧2.0MPa、120℃まで昇温・昇圧し、さらに0.03MPa/分で4.0MPaまで、1℃/分で180℃まで昇温・昇圧を行った後に6時間水素添加反応を行なった。冷却後の反応液は、固形分が析出したスラリー液であった。
反応液を遠心分離することにより、固形分と溶液とを分離し、固形分を、120℃で24時間減圧乾燥し、熱可塑性脂環式構造含有樹脂としてのジシクロペンタジエン開環重合体水素化物90部を得た。
得られたジシクロペンタジエン開環重合体水素化物の水素化率は99.5%、融点は276℃、ラセモダイアッドの割合(即ち、シンジオタクティシティー)は100%であった。また、示差走査熱量計(DSC)を用いて、得られたジシクロペンタジエン開環重合体水素化物のガラス転移温度が90℃以上120℃以下、結晶化温度が120℃であることを確認した。
【0075】
<成形体の製造>
<<樹脂ペレットを得る工程(0)>>
上記のようにして得られたジシクロペンタジエン開環重合体水素化物20部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、製品名「イルガノックス(登録商標)1010」、BASFジャパン社製)0.16部を混合した後、混合物を二軸押出し機(TEM-37B、東芝機械社製)に投入し、熱溶融押出し成形により、ストランド状の成形体を得た。その後、かかるストランド状の成形体をストランドカッターにて細断し、ジシクロペンタジエン開環重合体水素化物を含む樹脂材料であるペレットを得た。
二軸押出し機の運転条件を、以下に示す。
・バレル設定温度:280~290℃
・ダイ設定温度:260℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
<<プレ成形体を得る工程(1)>>
上記樹脂ペレットを得る工程(0)で樹脂ペレットについて以下の条件で成形処理を行い、厚み100μmのフィルム状のプレ成形体としての樹脂フィルムを得た。
・成形機:Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機(製品名「MeasuringExtruder Type Me-20/2800V3」、Optical Control Systems社製)
・バレル温度設定:290℃~300℃
・ダイ温度:280℃
・スクリュー回転数:35rpm
・フィルム巻き取り速度:1m/分
<<結晶化工程(2)>>
プレ成形体を得る工程(1)で得られたフィルム成形体から250mm×250mmサイズのシートを切り出し、真空ラミネータ(日機装社製、ドライラミネータSDL380-280-100-H)を用いて、
図4に示すプロファイルで300℃、圧力10MPaで10分プレスし、その後急冷した。
得られた成形体について、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す項目について評価を行った。なお、リフロー耐性の評価にあたり、
図5に示す温度プロファイルで、上記に従うリフロー試験を実施した。
【0076】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により樹脂フィルム(結晶化前のフィルム状プレ成形体)を得た。得られた樹脂フィルムから250×250mmサイズのシートを2枚切りだし、同じく250×250mmサイズに切り出したガラスクロス(日東紡製、Eガラス1078)を挟み、さらに、その外側に銅箔(福田金属箔粉製、CF-T4X-SV、厚み:18μm、Rz:1.0μm)を設置し、真空ラミネータ(日機装社製、ドライラミネータSDL380-280-100-H)を用いて、
図2に示すプロファイルにて、280℃、圧力10MPaで10分プレスし、その後急冷して、積層体としての両面銅張積層板を得た。
上記のようにして得られた積層体について、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す項目について評価を行った。なお、リフロー耐性の評価にあたり、
図3に示す温度プロファイルで、上記に従うリフロー試験を実施した。
【0077】
(実施例4)
実施例1と同様の方法により樹脂フィルム(結晶化前のフィルム状プレ成形体)を得た。得られた樹脂フィルムから250×250mmサイズのシートを2枚切りだし、同じく250×250mmサイズに切り出したガラスクロス(日東紡製、Eガラス1078)を挟み、さらに、その外側に銅箔(福田金属箔粉製、CF-T4X-SV、厚み:18μm、Rz1.0μm)を設置し、真空ラミネータ(日機装社製、ドライラミネータSDL380-280-100-H)を用いて、
図6に示すプロファイルにて、280℃、圧力10MPaで10分プレスし、その後急冷して、積層体としての両面銅張積層板を得た。
図6に示すように、急冷時の温度プロファイルは、融点である262℃から、150℃まで30秒、さらに150℃から結晶化温度以下となる100℃まで30秒以下であった。
上記のようにして得られた積層体について、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す項目について評価を行った。なお、リフロー耐性の評価にあたり、
図3に示す温度プロファイルで、上記に従うリフロー試験を実施した。
【0078】
(実施例5)
実施例1と同様の方法により樹脂フィルム(結晶化前のフィルム状プレ成形体)を得た。得られた樹脂フィルムから250×250mmサイズのシートを2枚切りだし、同じく250×250mmサイズに切り出したガラスクロス(日東紡製、Eガラス1078)を挟み、真空ラミネータ(日機装社製、ドライラミネータSDL380-280-100-H)を用いて、
図2に示すプロファイルにて、280℃、圧力10MPaで10分プレスし、その後急冷して、プリプレグを作製した。
上記のようにして得られたプリプレグについて、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す誘電率及び誘電損失以外の項目について評価を行った。なお、リフロー耐性の評価にあたり、
図3に示す温度プロファイルで、上記に従うリフロー試験を実施した。
また、実施例3と同様の方法で積層体としての銅張積層板を作製した。
銅張積層板の銅箔の一部をエッチング除去して、所定の配線パターンを形成した後、配線パターンを形成した銅張積層板とプリプレグとを相互に積層し、再び真空ラミネータ(日機装社製、ドライラミネータSDL380-280-100-H)を用いてプレスを行った。プロファイルは
図2に示すプロファイルを用いた。
以上の工程により多層配線板を得た。得られた多層配線板について、プリプレグ及び銅張積層板の銅箔をエッチング除去した試験試料を50mm×50mmに切り出し、平衡円板共振器法により誘電特性を測定した。測定にはネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製、PNAネットワークアナライザN5227)を使用した。10GHzにおける比誘電率ε
rは、2.53であり、誘電損失tanδは、0.0008であった。このため、得られた多層配線基板は、低誘電率且つ低誘電損失であり、高速伝送信号や高周波信号を使用する電子機器に好適に配設することが可能であることが分かった。
【0079】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により樹脂フィルム(結晶化前のフィルム状プレ成形体)を得た。かかる樹脂フィルムについて、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す項目について評価を行った。なお、リフロー耐性の評価にあたり、
図3に示す温度プロファイルで、上記に従うリフロー試験を実施した。
【0080】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により樹脂フィルム(結晶化前のフィルム状プレ成形体)を得た。かかる樹脂フィルムから250mm×250mmサイズのシートを切り出し、真空熱プレス装置(井元製作所社製、IMC-182型)を用いて、
図7に示すプロファイルで280℃、圧力3MPaで10分プレスし、その後徐冷し、フィルム状の成形体を得た。
このようにして得られた成形体について、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す項目について評価を行った。
【0081】
(比較例3)
実施例2と同様の方法により樹脂フィルム(結晶化前のフィルム状プレ成形体)を得た。かかる樹脂フィルムから、250mm×250mmサイズのシートを切り出し、真空熱プレス装置(井元製作所製、IMC-182型)を用いて、
図8に示すプロファイルで300℃、圧力3MPaで10分プレスし、その後徐冷し、フィルム状の成形体を得た。
このようにして得られた成形体について、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す項目について評価を行った。
【0082】
(比較例4)
実施例1と同様の方法により樹脂フィルム(結晶化前のフィルム状プレ成形体)を得た。得られた樹脂フィルムから250×250mmサイズのシートを2枚切りだし、同じく250×250mmサイズに切り出した銅箔(福田金属箔粉製、CF-T4X-SV 18μm、Rz1.0μm)を外側に設置し、真空熱プレス装置(井元製作所製、IMC-182型)を用いて、
図7に示すプロファイルにて、280℃、圧力3MPaで10分プレスし、その後徐冷し、積層体としての両面銅張積層板を得た。
上記のようにして得られた積層体について、上述した方途に従って、表1に評価結果を示す項目について評価を行った。
【0083】
【0084】
表1より、大きさが3μm未満の熱可塑性脂環式構造含有樹脂の球晶を含み、且つ、結晶化度が20%以上70%以下である実施例1~2に係る成形体、かかる成形体を含んでなる実施例3~4に係る積層体(銅張積層板)は、及び樹脂部の結晶化度及び球結晶の大きさが同条件を満たす実施例5に係る積層体(多層配線板)は、耐熱性及び強度に優れることが分かる。一方、結晶化度が20%未満である比較例1、及び球晶の大きさが3μm以上である比較例2~4では、耐熱性及び強度を両立することができなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂を含む成形体及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂を含むプリプレグを提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、耐熱性及び強度に優れる熱可塑性樹脂よりなる樹脂層を含む積層体を提供することができる。