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特許7332258耐粒界腐食性や耐孔食性に優れ、かつ熱間加工性および冷間加工性に優れた高Niの耐食合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】耐粒界腐食性や耐孔食性に優れ、かつ熱間加工性および冷間加工性に優れた高Niの耐食合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/02 20060101AFI20230816BHJP
   C22F 1/16 20060101ALI20230816BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20230816BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20230816BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
C22C30/02
C22F1/16 Z
C22C19/05 Z
C22F1/10 H
C22F1/00 624
C22F1/00 626
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 640F
C22F1/00 641A
C22F1/00 651A
C22F1/00 641B
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018231996
(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公開番号】P2020094235
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】細田 孝
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/168904(WO,A1)
【文献】特開2010-159438(JP,A)
【文献】特開平04-110419(JP,A)
【文献】特開平03-297505(JP,A)
【文献】特開2018-111846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 30/00-30/06
C22C 19/00-19/07
C22C 38/00-38/60
C22F 1/00- 1/18
C21D 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.01~1.50%、Mn:0.01~1.50%、S:≦0.050%、Ni:30.0~50.0%、Cr:18.5~25.0%、Mo:2.00~5.00%、Cu:1.00~5.00%、Al:0.01~0.50%、Ti:0.5~2.0%、N:0.0001~0.0500%、Fe:≧20.0%の合金元素、および不可避不純物からなり、
以下の式(1)に示す、耐孔食性指数のPRE値=[%Cr]+3.3[%Mo]+16[%N]:≧31.5・・・式(1)であるNi合金であって、
該Ni合金からなる合金棒または合金管の外表面の結晶粒径(OG)と中周部の結晶粒径(MG)の比であるOG/MG:≧1.5であること
を特徴とする耐粒界腐食性および耐孔食性に優れ、かつ熱間加工性および冷間加工性に優れた合金棒又は合金管からなる高Ni合金材
なお、上記式(1)における[%元素]には各元素の質量%における値を代入する。また、上記における外表面の結晶粒径(OG)とは外表面から深さ100μmまでの結晶粒径のことであり、上記における中周部の結晶粒径(MG)とは、合金棒であればD/4の位置を中心に、もしくは合金管であれば外表面からの深さが合金管肉厚の半分となる位置を中心に、それぞれ±500μmの範囲の結晶粒径である。
ただし、Dは合金棒の直径である。
【請求項2】
請求項1に記載の合金元素に加えて、さらに質量%で、B:0.0001~0.0250%、Ca:0.0001~0.0250%、Mg:0.0001~0.0250%の合金元素のうち少なくとも1種以上を含有し、および不可避不純物からなり、
以下の式(1)に示す、耐孔食性指数のPRE値=[%Cr]+3.3[%Mo]+16[%N]:≧31.5・・・式(1)であるNi合金であって、
該Ni合金からなる合金棒または合金管の外表面の結晶粒径(OG)と中周部の結晶粒径(MG)の比であるOG/MG:≧1.5であること
を特徴とする耐粒界腐食性および耐孔食性に優れ、かつ熱間加工性および冷間加工性に優れた合金棒又は合金管からなる高Ni合金材
なお、上記式(1)における[%元素]には各元素の質量%における値を代入する。また、上記における外表面の結晶粒径(OG)とは外表面から深さ100μmまでの結晶粒径のことであり、上記における中周部の結晶粒径(MG)とは、合金棒であればD/4の位置を中心に、もしくは合金管であれば外表面からの深さが合金管肉厚の半分となる位置を中心に、それぞれ±500μmの範囲の結晶粒径である。
ただし、Dは合金棒の直径である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は化学プラント用の部材、配管あるいは海水を用いた熱交換器などの各種の腐食しやすい環境下で使用する際に、優れた耐粒界腐食性および優れた耐孔食性を有し、かつ熱間加工性および冷間加工性に優れた高Niの耐食合金に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、これまでにも、耐食性に加え、熱間・冷間での加工性に特に着眼した加工性に優れる耐食合金に関する特許を既に取得している(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この文献では、材料表面の結晶粒径が耐食性に与える影響については考慮されていなかった。
【0003】
さらに、管の軸方向および周方向の引張降伏強度や圧縮降伏強度の比などを調整することで、使用環境に応じて異なる応力分布が負荷されても、耐用可能なオーステナイト系合金管に関する特許が取得されている(例えば、特許文献2参照。)。ただし、この文献は、オーステナイト系合金管およびその製造方法に関するものもあり、材料表面の結晶粒径が耐食性に与える影響については考慮されておらず、記載も示唆もない。
【0004】
また本願出願人は、耐粒界腐食性および耐孔食性に優れた高Ni合金に関して、特許文献3に記載の発明を提案している。この出願にかかる発明は、材料の成分調整と炭化物の粒界被覆率を制御・制限して耐粒界腐食性を改善させるものであって、結晶粒径による着眼とは異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5748216号公報
【文献】特許第5137048号公報
【文献】特開2018-111846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化学プラントや熱交換器などのように高耐食性が求められる用途では、優れた耐粒界腐食性および耐孔食性が必要となる。もっとも、従来技術においては、耐粒界腐食性を向上させるメカニズムについては、十分に解明されておらず、全く記載されていない。出願人は、鋭意検討の結果、材料表面のみの結晶粒に着目し、表面のみの結晶粒を異常粒成長させることで、飛躍的に耐食性が向上することを見出したことから、本発明の着想を得た。
【0007】
発明が解決しようとする課題は、化学プラントや熱交換器などの高耐食性が求められる用途の機器の、合金表面の結晶粒径の限定という組織制御を用いた従来技術と異なるアプローチによって、耐粒界腐食性を飛躍的に向上させること、さらに使用環境を考慮して耐孔食性もあわせて向上させること、かつ熱間加工性および冷間加工性に優れた高Ni合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段では、第1の手段は、質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.01~1.50%、Mn:0.01~1.50%、S:≦0.050%、Ni:30.0~50.0%、Cr:18.5~25.0%、Mo:2.00~5.00%、Cu:1.00~5.00%、Al:0.01~0.50%、Ti:0.5~2.0%、N:0.0001~0.0500%、Fe:≧20.0%の合金元素、および不可避不純物からなり、
以下の式(1)に示す、耐孔食性指数のPRE値=[%Cr]+3.3[%Mo]+16[%N]:≧31.5・・・式(1)であるNi合金であって、
該Ni合金からなる合金棒または合金管の外表面の結晶粒径(OG)と中周部の結晶粒径(MG)の比であるOG/MG:≧1.5であること
を特徴とする耐粒界腐食性および耐孔食性に優れ、かつ熱間加工性および冷間加工性に優れた高Ni合金である。
なお、上記式(1)における[%元素]には各元素の質量%における値を代入する。また、上記における外表面の結晶粒径(OG)とは外表面から深さ100μmまでの結晶粒径のことであり、上記における中周部の結晶粒径(MG)とは、合金棒であればD/4の位置を中心に、もしくは合金管であれば外表面からの深さが合金管肉厚の半分となる位置を中心に、それぞれ±500μmの範囲の結晶粒径である。
ただし、Dは合金棒の直径である。
【0009】
第2の手段は、第1の手段の合金元素に加えて、
熱間加工性を改善するべく、さらに質量%で、B:0.0001~0.0250%、Ca:0.0001~0.0250%、Mg:0.0001~0.0250%の合金元素のうち少なくとも1種以上を含有し、および不可避不純物からなり、
以下の式(1)に示す、耐孔食性指数のPRE値=[%Cr]+3.3[%Mo]+16[%N]:≧31.5・・・式(1)であるNi合金であって、
該Ni合金からなる合金棒または合金管の外表面の結晶粒径(OG)と中周部の結晶粒径(MG)の比であるOG/MG:≧1.5であること
を特徴とする耐粒界腐食性および耐孔食性に優れ、かつ熱間加工性および冷間加工性に優れた高Ni合金である。
なお、上記式(1)における[%元素]には各元素の質量%における値を代入する。また、上記における外表面の結晶粒径(OG)とは外表面から深さ100μmまでの結晶粒径のことであり、上記における中周部の結晶粒径(MG)とは、合金棒であればD/4の位置を中心に、もしくは合金管であれば外表面からの深さが合金管肉厚の半分となる位置を中心に、それぞれ±500μmの範囲の結晶粒径である。
ただし、Dは合金棒の直径である。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、上記構成の高Ni合金とすることによって、化学プラント用の部材や、配管あるいは海水を用いた熱交換器などの用途に使用される、耐粒界腐食性や耐孔食性に優れることに加えて、熱間加工性および冷間加工性に優れた高Niの耐食合金を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施するための形態の記載に先立ち、本願発明の第1の手段および第2の手段における高Ni合金の各化学成分、耐孔食性指数の式(1)および表面結晶粒径(OG)対中周部の結晶粒径(MG)の比の限定理由について、以下に記載する。なお、化学成分における%はいずれも質量%である。
【0012】
C:0.001~0.050%
Cは、高Ni合金の強度を高める効果を有し、熱間加工性および冷間加工性、耐粒界腐食性指数、および耐孔食性指数に影響を及ぼす元素である。Cが0.001%未満であると、高Ni合金の強度不足となる。一方、Cが0.050%を超えると、高Ni合金の耐食性が低下し、熱間加工性および冷間加工性が低下する。そこで、Cは0.001~0.050%とする。
【0013】
Si:0.01~1.50%
Siは、合金製造時の脱酸剤として作用し、またNi合金の熱間加工性および冷間加工性に影響を及ぼす元素である。Siが0.01%未満であると脱酸剤として不足する。一方、Siが1.50%を超えると高Ni合金の熱間加工性および冷間加工性が低下する。そこで、Siは0.01~1.50%とする。
【0014】
Mn:0.01~1.50%
Mnは、熱間加工性に影響を与える元素であり、さらにオーステナイト相に影響を与える元素である。Mnが0.01%未満であると、高Ni合金の熱間加工性が低下するとともに、オーステナイト相が不安定となる。一方、Mnが1.50%を超えると熱間加工性が飽和する。そこで、Mnは0.01~1.50%とする。
【0015】
S:≦0.050%
Sは、低融点硫化物を形成して熱間加工性に影響を与える元素である。Sが0.050%より多いと高Ni合金の熱間加工性が低下する。そこで、Sは0.050%以下とする。
【0016】
Ni:30.0~50.0%
Niは、高Ni合金の化学成分の残部として不可避不純物とともに、本願の高Ni合金中でもっとも多く含有されるベース元素であり、かつ高Niの表面にNi硫化物皮膜を生成し、その結果、この合金の耐硫化物腐食割れ性を高める元素である。Niが30.0%未満であると高Ni合金のオーステナイト系ベース元素となり得ない。Niが50.0%を超えるとNiの耐硫化物腐食割れ性の効果は飽和する。そこで、Niは30.0~50.0%とする。
【0017】
Cr:18.5~25.0%
Crは、耐粒界腐食性指数および耐孔食性に影響を及ぼす元素であり、また、熱間加工性および冷間加工性に影響を及ぼす元素である。Crが18.5%未満であると耐粒界腐食性指数が低下し、かつ耐孔食性指数が低下する。一方、Crが25.0%より多く含有されると熱間加工性および冷間加工性が低下する。そこで、Crは18.5~25.0%とする。
【0018】
Mo:2.00~5.00%
Moは、耐孔食性に影響を与える元素であり、また、熱間加工性および冷間加工性に影響する元素である。Moが2.00%未満では耐食性が低下する。一方、Moが5.00%を超えると、熱間加工性および冷間加工性が低下し、かつコストアップとなる。そこで、Moは2.00~5.00%とする。
【0019】
Cu:1.00~5.00%
Cuは、耐食性に影響を与える元素であり、さらにオーステナイト相に影響する元素である。さらに、Cuは熱間加工性にも影響する元素である。Cuが1.00%未満では耐食性が低下し、かつオーステナイト相が不安定となる。一方、Cuが5.00%を超えると熱間加工性が低下しコストアップとなる。そこで、Cuは1.00~5.00%とする。
【0020】
Al:0.01~0.50%
Alは、製錬時の脱酸材として作用し、高Ni合金の強度および靭性に有効な元素である。Alが0.01%より少ないと脱酸材として不足し、かつ高Ni合金の強度および靭性が不足する。一方、Alが0.50%より多いと、耐食性が低下し、かつ熱間加工性および冷間加工性が低下する。そこで、Alは0.01~0.50%とする。
【0021】
Ti:0.5~2.0%
Tiは、耐粒界腐食性指数に影響を及ぼす元素であり、さらに熱間加工性および冷間加工性に影響する元素である。Tiが0.5%より少ないと耐粒界腐食性指数が低下する。一方、Tiが2.0%を超えると、熱間加工性および冷間加工性が低下し、かつ耐食性が低下する。そこで、Tiは0.5~2.0%とする。
【0022】
N:0.0001~0.0500%
Nは、オーステナイト相を安定化する元素である。Nが0.0001%より少ないとオーステナイト相が不安定となる。一方、Nが0.0500%より多いと窒化物の生成により、耐食性と冷間加工性が低下する。そこで、Nは0.0001~0.0500%とする。
【0023】
Fe:≧20.0%
Feは、熱間加工および冷間加工の際の変形抵抗に影響する元素である。Feが20.0%未満であると熱間加工性および冷間加工性が低下する。そこで、Feは20.0%以上とする。
【0024】
耐孔食性指数のPRE=[%Cr]+3.3[%Mo]+16[%N]・・・式(1):≧31.5
耐孔食性指数のPRE=[%Cr]+3.3[%Mo]+16[%N]・・・式(1)は、31.5未満だと、高Ni合金材の表面層に孔食が発生する。そこで、耐孔食性とするためには、耐孔食性指数のPRE=[%Cr]+3.3[%Mo]+16[%N]である式(1)の値は31.5以上とする。
【0025】
高Ni合金からなる合金管における外表面の結晶粒径(OG)と中周部の結晶粒径(MG)との比:≧1.5
OG/MGの比の値は、高Ni合金からなる合金管の粒界腐食の進行度合いに影響する値である。高Ni合金からなる合金管における外表面の結晶粒径(OG)と中周部の結晶粒径(MG)との比が1.5より小さいと粒界腐食が進行する。そこで、高Ni合金からなる合金管における外表面の結晶粒径(OG)と中周部の結晶粒径(MG)との比は1.5以上とする。
【0026】
B:0.0001~0.0250%、Ca:0.0001~0.0250%、Mg:0.0001~0.0250%の合金元素のうち少なくとも1種以上を含有すること
これらの元素は本発明における選択的・付加的成分であって、いずれの元素も材料の熱間加工性に影響を及ぼす元素である。Bは粒界偏析し易く、SやP等の有害元素の粒界偏析を妨げ、CaおよびMgはSと結合して粒内に固定することでSの粒界偏析を妨げるため、添加によって熱間加工性が改善する元素である。いずれも0.0001%未満ではその効果が十分には得られないが、0.0250%を超えると過剰であり、材料自体の融点を下げる、あるいは低融点化合物の形成を促して熱間加工性に悪影響を及ぼす。そこで、付加する場合は、いずれの元素も0.0001~0.0250%とする。
【0027】
次いで、本願発明の実施をするための形態について、以下に実施例を通じて記載することとする。
【実施例
【0028】
表1に示す化学成分からなる発明例のNo.1~25の高Ni合金および比較例のNo.26~39の高Ni合金の、各No.のそれぞれの化学成分からなる100kgの高Ni合金をVIMにて溶解し、それらをインゴットに鋳造した。次いで、それらのインゴットを熱間での鍛造および圧延である熱間加工および機械加工を行ない、さらに冷間での圧延である冷間加工を行なって、外径25mm、内径20mmのそれぞれの高Niの合金管を製造した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
上記で得られたこれらの高Niの合金管を評価対象材とした。続いて、これらの評価対象材の合金管は、冷間加工にて形成した加工組織を解消するために、900~1000℃で5~30分程度の溶体化処理を施した。その後、これらの合金管の熱処理曲りを矯正機で矯正し、最後に仕上げの安定化処理を900~1000℃で5~120分間実施して評価用の試験片とした。
【0032】
その後、試験片のL面(すなわち長手方向の断面であるL断面)のミクロ組織観察を行い、外表面から深さ100μmまでの範囲における結晶粒径(OG)と、合金管の平均的な結晶粒径を有する部位である合金管中周部(合金管外表面からの深さが合金管肉厚の半分となる位置を中心に、±500μmの範囲内)の結晶粒径(MG)の両方を切断法にて測定した。これらの測定結果を、表1および表2に示した。
【0033】
以上の測定結果から得られた、表1における、式(1)の欄には、耐孔食性指数のPRE値=[%Cr]+3.3[%Mo]+16[%N]が31.5以上となる本願の発明の値を満足するもので、その値 を表記した。さらに表1における、OG/MGの欄には、OG/MGの比の値が1.5以上となる本願の発明の値を満足するもので、その値を表記した。ただし、表1の比較例においてOG/MGの比の値が1.5未満のものは、その実測値に下線を付して表記した。
【0034】
その他の測定における評価項目としては、表2に示す、熱間加工性、冷間加工性、耐孔食性(これはASTM G48-A法に準拠し、表2に孔食重量減(g/cm2)で示す。)、および耐粒界腐食性(ASTM A262-C法に準拠し、表2に粒界腐食度(mm/year)で示す。)である。
【0035】
これらの評価項目の評価方法については、以下に順次記載する。
熱間加工性は、評価対象となる合金管製造時の熱間加工において、キズや割れが発生する場合がある。そこで、熱間加工においてキズや割れの発生が無く、次工程の冷間加工に進めたものを、表2に○と表記した。一方、キズや割れが多発し、次の工程の冷間加工に進めなかったものを、表2に×と表記し下線を付した。さらに、この次工程に進めなかった例のそれ以降の工程の欄には-を表記した。
なお、表1の比較例においてOG/MGの欄に-と表記したものは、表2における熱間加工ができなかったことから、比を算定するに至らなかったものを意味する。
【0036】
冷間加工性は、評価対象となる合金管製造時の冷間加工においても、キズや割れが発生する場合がある。そこで、冷間加工においてキズや割れの発生が無く、次工程に進めたものを、表2に○と表記した。一方、キズや割れが多発し、次の工程の耐孔食性の評価に進めなかったものを、表2に下線を付した×で表記した。さらに、この次工程に進めなかった場合は、それ以降の工程の欄には、測定結果がないので、-を表記した。
【0037】
次工程での耐孔食性の評価は、ASTM G48-A法に準拠し、孔食重量減で表記するために、次の実験を行なった。供試材のNi合金管の表面のスケール除去のために、このNi合金管の全表面を湿式エメリーペーパーで研磨し、ASTM G48-A法に則って孔食試験を実施した。具体的には、Ni合金管から切り出した試験片の初期重量と表面積を測定した後、試験片を6%塩化第二鉄の22℃の溶液中に72時間浸漬させた後、洗浄して再度試験片の重量を測定した。試験片の得られた重量減から腐食度を、孔食重量減と称してg/cm2として算出した。孔食重量減が1.0g/cm2以下の数値を、表2の孔食重量減の欄に表記し、それに続く評価の欄に○と表記した。一方、孔食重量減が1.0g/cm2より大きな数値に下線を付し、表2の孔食重量減の欄に表記し、それに続く評価の欄に下線を付して×と表記した。さらに、この次工程に進めなかった場合、以降の工程の欄には-を表記した。
【0038】
さらに、次工程の耐粒界腐食性は、ASTM A262-C法に準拠し、粒界腐食度で表記するために、次の実験を行なった。供試材のNi合金管に追加で、鋭敏化熱処理として675℃で60分加熱保持して空冷した後、供試材のNi合金管の表面のスケール除去のために、このNi合金管の全表面を湿式エメリーペーパーで研磨し、ASTM A262-C法に則って粒界腐食試験を実施した。具体的には、Ni合金管から切り出した試験片の初期重量と表面積を測定した後、試験片を65%沸騰硝酸に48時間浸漬させた後、洗浄して再度試験片の重量を測定した。試験片の表面積や合金の密度、そして得られた重量減から浸食度を、粒界腐食度と称してmm/yearとして算出した。この操作を5回繰り返し、各回の浸食度である粒界腐食度および初期重量と最終重量から導き出されるトータルの試食度である粒界腐食度を算出した。
なお、この試験では、基本的に5回目の粒界腐食度が最も大きくなる傾向がある。そこで、5回目のみの粒界腐食度で比較、評価し、粒界腐食度が0.75mm/year以下となるものを、表2の粒界腐食度の欄に表記し、それに続く評価の欄に○と表記した。一方、粒界腐食度が0.75mm/yearより大きい数値に下線を付し、表2の粒界腐食度の欄に表記し、それに続く評価の欄に下線を付して×と表記した。