(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】凍結乾燥用ノズル、凍結乾燥装置、および、造粒方法
(51)【国際特許分類】
F26B 5/06 20060101AFI20230816BHJP
F26B 17/10 20060101ALI20230816BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
F26B5/06
F26B17/10 B
B05C5/00 101
(21)【出願番号】P 2019121999
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉元 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 薫樹
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-197145(JP,A)
【文献】特開2005-125278(JP,A)
【文献】特開2019-49525(JP,A)
【文献】国際公開第98/56894(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 5/06
F26B 17/10
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空空間に原料液を噴射させて前記原料液からなる粒を前記真空空間で凍結乾燥させるための凍結乾燥用ノズルであって、
前記真空空間に曝されるノズル外表面と、
前記原料液が流れる
中空の流路と、を備え、
前記流路は、錘台筒面状を有する第一流路と、前記原料液の噴射口と前記第一流路の先端とを繋ぐ筒面状を有した第二流路と、を備え、
前記ノズル外表面は、前記噴射口を先端として前記真空空間に向けて先細る錘台筒面状を有
し、かつ当該錘台筒面状の部分から前記第一流路の前記先端に向けて前記流路の延在方向に延びる筒面状を有する
凍結乾燥用ノズル。
【請求項2】
前記第二流路の長さは、0.5mm以上2mm以下である
請求項1に記載の凍結乾燥用ノズル。
【請求項3】
前記第一流路を前記真空空間に向けて仮想的に延長した錘筒面の中心角は、20°以上180°未満である
請求項1または2に記載の凍結乾燥用ノズル。
【請求項4】
前記ノズル外表面を前記真空空間に向けて仮想的に延長した錘筒面の中心角は、20°以上120°以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の凍結乾燥用ノズル。
【請求項5】
前記ノズル外表面のなかで前記噴射口を含む部分が前記原料液の液体成分を撥液する撥液性を有する
請求項1から4のいずれか一項に記載の凍結乾燥用ノズル。
【請求項6】
真空室と、
原料液を供給する供給部と、
前記供給部が供給する前記原料液を前記真空室へ噴射する請求項1から5のいずれか一項に記載の凍結乾燥用ノズルと、を備える
凍結乾燥装置。
【請求項7】
原料液を凍結乾燥用ノズルに供給すること、および、
前記凍結乾燥用ノズルから前記原料液を真空室に噴射して凍結乾燥物である微粒子を形成すること、を含み、
前記凍結乾燥用ノズルとして請求項1から5のいずれか一項に記載の凍結乾燥用ノズルを用いる
造粒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥用ノズル、凍結乾燥装置、および、造粒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射式の凍結乾燥装置は、真空室内において、凍結乾燥用ノズルから下方に向けて原料液を噴射する。噴射される原料液は、例えば、医薬品、食品、化粧品などの原料を溶媒や分散媒のなかに含む。噴射された原料液は、凍結乾燥用ノズルの下方で、液柱から粒子に変わる。粒子中の原料は、溶媒や分散媒に蒸発潜熱を奪われて自己凍結する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、噴射された原料液の一部は、液柱として成長せずに、噴射口の周囲に向けて飛散する。飛散した原料液は、噴射口の周囲に付着して瞬時に自己凍結する。噴射口の周囲に一旦付着した凍結乾燥物は、それに他の凍結乾燥物が堆積することを促してしまう。結果として、原料液の進行する方向が堆積物によって曲げられたり、噴射口そのものが塞がれたりする。特に、高分子化合物を含むような高い粘度を有した原料液では、噴射された原料液の一部が噴射口の周囲に向けて飛散しやすいため、上述した課題が深刻なものとなっている。
【0005】
本発明の目的は、原料液を円滑に噴射可能にした凍結乾燥用ノズル、凍結乾燥装置、および、造粒方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための凍結乾燥用ノズルは、真空空間に原料液を噴射させて前記原料液からなる粒を前記真空空間で凍結乾燥させるための凍結乾燥用ノズルであって、前記真空空間に曝されるノズル外表面と、前記原料液が流れる流路と、を備え、前記流路は、錘台筒面状を有する第一流路と、前記原料液の噴射口と前記第一流路の先端とを繋ぐ筒面状を有した第二流路と、を備え、前記ノズル外表面は、前記噴射口を先端として前記真空空間に向けて先細る錘台筒面状を有する。
【0007】
上記凍結乾燥用ノズルによれば、錘台筒状を有した第一流路が、第二流路に向けて原料液の流れを徐々に抑える。そして、筒面状を有した第二流路が、真空空間に向けて原料液を円滑に流出させる。これにより、オリフィスのような流路を備える従来の構成と比べて、噴射口での原料液の飛散が抑制される。また、噴射口を先端とするノズル外表面が、真空空間に向けて先細る錘筒面状を有しているため、仮に、原料液が噴射口で飛散するとしても、原料液がノズル外表面に付着することが抑制される。結果として、原料液の凍結乾燥物が噴射口の周囲に堆積すること、また、原料液の凍結乾燥物が噴射口を閉塞することを抑制して、真空空間への原料液の噴射を円滑にすることができる。
【0008】
上記凍結乾燥用ノズルにおいて、第二流路の長さは0.5mm以上2mm以下であってもよい。
上記凍結乾燥用ノズルによれば、第二流路の長さが0.5mm以上であるため、噴射口から噴射される原料液の進行方向を一定方向に定めやすい。また、第二流路の長さが2mm以下であるため、噴射口から噴射される原料液の流速を高めやすい。これにより、原料液から液柱を形成することの安定化を図ること、ひいては、噴射口から噴射された原料液のなかでの飛散を抑制することが可能となる。
【0009】
上記凍結乾燥用ノズルにおいて、前記第一流路を前記真空空間に向けて仮想的に延長した錘筒面の中心角は、20°以上180°未満であってもよい。
上記凍結乾燥用ノズルによれば、第一流路を含む錘筒面の中心角が20°以上であるから、原料液が第一流路で受ける抵抗を十分に抑えて、真空空間に向けて原料液を円滑に流出させることができる。
【0010】
上記凍結乾燥用ノズルにおいて、前記ノズル外表面を前記真空空間に向けて仮想的に延長した錘筒面の中心角は、20°以上120°以下であってもよい。
上記凍結乾燥用ノズルによれば、ノズル外表面を含む錘筒面の中心角が120°以下であるから、原料液がノズル外表面に付着することを、より高い確度のもとで抑制できる。また、ノズル外表面を含む錘筒面の中心角が20°以上であるから、ノズル外表面の加工、および、第一流路や第二流路の加工を、より低い負荷のもとで行うことが可能ともなる。
【0011】
上記凍結乾燥用ノズルにおいて、前記ノズル外表面のなかで前記噴射口を含む部分が前記原料液の液体成分を撥液する撥液性を有していてもよい。
上記凍結乾燥用ノズルによれば、ノズル外表面のなかで噴射口を含む部分は、原料液の付着を撥液性によって抑制し、これにより、原料液の自己凍結物が堆積することを抑制する。結果として、噴射口の周囲で自己凍結物が堆積すること、また、噴射口が自己凍結物で塞がれることが抑制されて、真空空間への原料液の流出が円滑となる。
【0012】
上記課題を解決するための凍結乾燥装置は、真空室と、原料液を供給する供給部と、前記供給部が供給する前記原料液を前記真空室へ噴射する上記凍結乾燥用ノズルと、を備える。
【0013】
上記凍結乾燥装置によれば、原料液の凍結乾燥物が噴射口の周囲に堆積すること、また、原料液の凍結乾燥物が噴射口を閉塞することを抑制して、真空空間への原料液の噴射を円滑にすることができる。
【0014】
上記課題を解決するための造粒方法は、原料液を凍結乾燥用ノズルに供給すること、および、前記凍結乾燥用ノズルから前記原料液を真空室に噴射して凍結乾燥物である微粒子を形成すること、を含み、前記凍結乾燥用ノズルとして上記凍結乾燥用ノズルを用いる。
【0015】
上記造粒方法によれば、原料液の凍結乾燥物が噴射口の周囲に堆積すること、また、原料液の凍結乾燥物が噴射口を閉塞することを抑制して、真空空間への原料液の噴射を円滑にすることができる。そして、製造された微粒子の粒径についての均一化を図ることが可能ともなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】凍結乾燥装置の一実施形態における装置構成を示す構成図。
【
図2】凍結乾燥用ノズルの一実施形態における断面構造を示す断面図。
【
図3】凍結乾燥用ノズルの変更例における断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、
図1および
図2を参照して、凍結乾燥装置、凍結乾燥用ノズル、および、造粒方法の第1実施形態を説明する。
【0018】
図1が示すように、凍結乾燥装置10は、原料液を供給する供給部11と、真空室21と、真空室21の内部を排気するための真空ポンプ31と、供給部11から供給される原料液を真空室21の内部に噴射する噴射器41とを備える。
【0019】
供給部11が供給する原料液は、例えば、医薬品、食品、化粧品などの原料を含み、原料の粉末が溶媒に溶解された液体や液状体、または、原料の粉末が分散媒に分散した液体や液状体である。液状体は、固体と液体との間に位置付けられる粘度が高い流体である。原料液の一例は、アルブミンを含むアルブミン水溶液や、マンニトールを含むマンニトール水溶液である。
【0020】
供給部11は、例えば、原料液が貯留される容器の内部にガスを供給する。容器に供給されるガスは、窒素、アルゴン、その他の不活性ガスである。供給部11は、容器の内部に供給されるガスの圧力によって、供給部11から供給される原料液の流量を調整する。
【0021】
真空室21は、例えば、上面と底面とを有した円筒形状を有する。真空室21は、真空室の内部空間である真空空間21Sを区切る。真空空間21Sの圧力は、真空ポンプ31の駆動によって、例えば、0.1Pa以上500Pa以下のなかのいずれかの値に調整される。
【0022】
噴射器41は、真空室21の上面に備えられている。噴射器41は、供給部11に接続されている。噴射器41は、凍結乾燥用ノズル42を備える。凍結乾燥用ノズル42は、供給部11から供給される原料液を真空空間21Sの内部に噴射する。
【0023】
真空空間21Sの内部に噴射される原料液は、凍結乾燥用ノズル42から液柱L1を形成する。液柱L1の長さは、原料液の粘度、凍結乾燥用ノズル42が備える噴射口の内径、噴射口から噴射されるときの圧力、真空空間21Sの圧力などによって定まる。例えば、原料液がマンニトール水溶液であり、噴射口の内径が150μmであり、噴射されるときの圧力が0.5MPaであり、真空空間21Sの圧力が50Paであるとき、液柱L1の長さは、約400mmである。
【0024】
液柱L1は、表面張力の作用などを受けて、複数の液滴L2に分断される。液柱L1、および、液滴L2に含まれる液体成分は、真空空間21Sにおいて、原料などから蒸発潜熱を奪って蒸発する。蒸発潜熱を奪われた液滴L2は、自己凍結をはじめて霧状の微粒子L3に変わる。微粒子L3に含まれる液体成分の固化分は、原料などから昇華潜熱を奪って蒸発する。これにより、原料液の凍結乾燥物である微粒子L3が、トレイ21Tの上に堆積する。
【0025】
図2が示すように、噴射器41は、凍結乾燥用ノズル42を備える。凍結乾燥用ノズル42は、直管部42E、絞り部43、および、噴射部44を備える。直管部42Eの外表面、絞り部43の外表面、および、噴射部44の外表面は、凍結乾燥用ノズル42の外表面であるノズル外表面42Sを構成する。ノズル外表面42Sは、真空空間21Sに曝される。直管部42Eの内表面、絞り部43の内表面、および、噴射部44の内表面は、凍結乾燥用ノズル42の流路42Pを構成する。凍結乾燥用ノズル42の流路42Pは、供給部11から供給された原料液を流す。
【0026】
直管部42Eは、供給部11と第一流路43Pとに接続されている。直管部42Eは、供給部11から供給された原料液を第一流路43Pに流入させる。
絞り部43は、直管部42Eと噴射部44とを接続されている。絞り部43の内表面は、第一流路43Pである。第一流路43Pは、下方に向けて先細る錘台筒面状を有する。第一流路43Pを下方に向けて仮想的に延長した錘筒面の中心角θ1は、例えば、20°以上180°未満である。第一流路43Pは、例えば、凍結乾燥用ノズル42の母材に対する穴開け加工、および、研磨加工によって形成される。
【0027】
第一流路43Pが備える2つの開口のなかで上流側の開口は、直管部42Eに接続されている。第一流路43Pが備える2つの開口のなかで下流側の開口は、噴射部44に接続されている。第一流路43Pは、直管部42Eから流入する原料液の流れを大きく乱さないように徐々に絞り、原料液を噴射部44に流す。
【0028】
噴射部44は、絞り部43に接続されている。噴射部44の内表面は、第二流路44Pである。第二流路44Pは、下方に向けて延在する円筒面状を有する。第二流路44Pの内径は、第一流路43Pの先端径と等しく、例えば、50μm以上200μm以下である。第二流路44Pの延在方向において、第二流路44Pの長さは、例えば、0.5mm以上2mm以下である。第二流路44Pは、例えば、凍結乾燥用ノズル42の母材に対する穴開け加工、および、研磨加工によって形成される。
【0029】
第二流路44Pが備える2つの開口のなかで上流側の開口は、第一流路43Pに接続されている。第二流路44Pが備える2つの開口のなかで下流側の開口は、真空空間21Sに原料液を噴射するための噴射口45である。
【0030】
流路42Pは、直管部42Eの内表面、第一流路43P、および、第二流路44Pを備える。流路42Pは、供給部11から供給された原料液を受け入れて、噴射口45から液柱L1として噴射させる。
【0031】
ノズル外表面42Sは、噴射口45を含む先端外表面441を備える。先端外表面441は、噴射部44の先端における外表面である。先端外表面441は、下方に向けて先細る錘台筒面状を有する。先端外表面441を下方に向けて仮想的に延長した錘筒面の中心角θ2は、例えば、20°以上120°以下である。ノズル外表面42Sは、凍結乾燥用ノズル42の母材に対する面取り加工、および、研磨加工によって形成される。
【0032】
先端外表面441の下端は、第二流路44Pに直接接続される。錘台筒面状を有した先端外表面441と、円筒状を有した第二流路44Pとの境界は、これらの加工に際して不可避的に存する水平面を含み得るものであり、実質的に線状を有する。錘台筒面状を有した先端外表面441と、円筒状を有した第二流路44Pとの境界は、噴射口45である。
【0033】
[作用]
凍結乾燥用ノズル42の作用について、凍結乾燥用ノズル42を搭載した凍結乾燥装置を用いる造粒方法と共に以下に説明する。
【0034】
噴射器41に供給された原料液は、凍結乾燥用ノズル42を通して、真空空間21Sに噴射される。第一流路43P、および、第二流路44Pは、流路42Pでの原料液の流出を円滑にして、噴射口45から延在する液柱L1の形成を円滑に進める。液柱L1は、表面張力の作用などを受けて、複数の液滴L2に分断されて、液体成分の蒸発を経て、霧状の微粒子L3に変わる。微粒子L3に含まれる液体成分の固化分は、原料などから昇華潜熱を奪って蒸発し、原料液の凍結乾燥物である微粒子L3を形成する。
【0035】
一方、液柱L1を形成しない原料液は、噴射口45の周囲に向かって、微小液滴として飛散する。特に、粘度の高い原料液においては、水などの粘度が低い原料液と比べて、より多くの微小液滴が形成され得る。飛散した微小液滴は、液体成分の蒸発に伴って自己凍結し、さらには、液体成分の凍結後の昇華に伴って乾燥する。
【0036】
この際、錘台筒状を有した第一流路43Pが、第二流路44Pに向けて原料液の流れを徐々に抑える。そして、筒面状を有した第二流路44Pが、真空空間21Sに向けて原料液を円滑に噴射させる。これにより、オリフィスのような流路を備える従来の構成と比べて、噴射口45での原料液の飛散が抑制される。また、噴射口45を先端とするノズル外表面42Sが、下方に向けて先細る錘筒面状を有しているため、仮に、原料液が噴射口45で飛散するとしても、原料液がノズル外表面に付着することが抑制される。結果として、ノズル外表面42Sに付着せずに自己凍結した微小液滴は、トレイ21Tに回収されたり、真空空間21Sから排気されたりする。
【0037】
すなわち、噴射口45に位置する原料液は、噴射口45から若干膨出するように噴射されて液柱L1を形成する。この際、噴射口45から膨出する原料液の一部は、液柱L1を形成するうえで、噴射口45の周囲との親和性に従い、少なからず噴射口45の周囲に向けて引き剥がされる。一方、下方に向けて先細る錘筒面状を有したノズル外表面42Sは、噴射口45の周囲に向けたこうした誘導を抑える。すなわち、ノズル外表面42Sは、噴射口45の周囲に向けて原料液が誘導されることを抑えて、噴射口45から飛散する微小液滴の総量そのものを低減させる。
【0038】
[実施例]
凍結乾燥用ノズル42からアルブミン水溶液を噴射したところ、オリフィスのような従前の構成と比べて、噴射口45の周囲に自己凍結した微小液滴は認められず、原料液を安定して噴射させられることが認められた。また、比較的に高粘度のマンニトール水溶液を用を噴射したところ、これにおいても、微小液滴の飛散が抑えられることを確認した。また、凍結乾燥用ノズル42は、特に、粘度が1.8mPa・sよりも高く、また、分子量が数万から80万程度のタンパク質が原料液に含まれる場合に、より効果的であることも確認した。
【0039】
なお、こうした効果は、真空空間21Sの圧力に応じた飽和水蒸気下で、噴射口45の周囲において、水分が吸着し得る表面積の差によるものと推定される。すなわち、噴射口45の周囲に位置する水平面の面積が非常に小さく、これにより、噴射口45の周囲に存在する水分子量が従前の構成と比べて少ないことは、タンパク質などの高分子タンパク質との接触点における水分子量が少ないことと同じである。そのため、高分子が噴射口45の周囲に付着する力は、噴射口45の周囲に位置する水平面が少ない分だけ弱められている。そして、液柱L1の一部を剥離させて噴射口45の周囲に誘導する起点となるような保持力を高分子が発揮しがたく、このような作用によって上記効果が得られていると言える。
【0040】
以上、第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1-1)第一流路43P、および、第二流路44Pによる原料液の円滑な流出が、液柱L1の形成を促して、噴射口45での原料液の飛散を抑える。また、下方に向けて先細る錘筒面状を有したノズル外表面42Sが、飛散した原料液の付着を抑える。そして、原料液の飛散抑制と原料液の付着抑制とが相まって、原料液の自己凍結物が噴射口45の周囲に堆積することが抑制されて、真空空間21Sへの原料液の噴射が円滑となる。
【0041】
(1-2)第二流路44Pの内径が小さい構成においても、原料液での流れの乱れが第一流路43Pによって抑えられて、液柱L1の形成が円滑に進められる。これにより、液柱L1を細くすること、ひいては、凍結乾燥物の微小化や均一化を図ることが容易となる。
【0042】
(1-3)第二流路44Pの内径が小さい構成においても、第二流路44Pでの流速を確保することが容易となるため、流速の低下に起因した噴射口45の近傍での自己凍結を抑制できる。
【0043】
(1-4)第二流路44Pの延在方向に進行し、かつ、第二流路44Pの周方向に旋回するような旋回流を第一流路43Pが形成する流量下では、液柱L1が螺旋状に形成され得る。こうした液柱L1の形成によれば、液柱L1を液滴L2に分断することが容易であるから、液柱L1を進行させるために要する真空空間21Sの長さについて、それの短縮化を図ることが可能ともなる。
【0044】
(1-5)第二流路44Pの長さが0.5mm以上である構成であれば、噴射口45から噴射される原料液の進行方向を一定方向に定めやすい。また、第二流路44Pの長さが2mm以下である構成であれば、噴射口45から噴射される原料液の流速を高めやすい。
【0045】
(1-6)中心角θ1が20°以上である構成であれば、原料液が第一流路43Pで受ける抵抗を十分に抑えて、真空空間21Sに向けて原料液を円滑に流出させることができる。
【0046】
(1-7)中心角θ2が120°以下である構成であれば、原料液がノズル外表面42Sに付着することを、より高い確度のもとで抑制できる。また、中心角θ2が20°以上である構成であれば、ノズル外表面42Sの加工、および、第一流路43Pや第二流路44Pの加工を、より低い負荷のもとで行うことが可能ともなる。
【0047】
(第2実施形態)
以下、
図3を参照して、凍結乾燥装置、凍結乾燥用ノズル、および、造粒方法の第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態は、凍結乾燥用ノズルの構成が第1実施形態とは異なる。以下、第1実施形態と異なる凍結乾燥用ノズルの構成について主に説明し、第1実施形態と同様の構成についてはその説明を割愛する。
【0048】
凍結乾燥用ノズル42は、ノズル本体51と撥液層52とを備える。ノズル本体51は、例えば、ステンレス鋼などの金属製の筒状部材である。撥液層52は、ノズル本体51の表面のほぼ全体を覆っている。ノズル外表面42Sは、撥液層52から構成されている。絞り部43の内表面、および、噴射部44の内表面、すなわち、第一流路43P、および、第二流路44Pもまた、撥液層52から構成されている。
【0049】
撥液層52は、原料液を構成する液体成分を撥液する。撥液層52を構成する材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)からなる群から選択される少なくとも1つである。撥液層52を構成する材料は、例えば、撥水性樹脂と共析されためっき被膜、あるいは、撥水性シランカップリング処理された、亜鉛-ニッケル-シリカ複合めっき被膜である。撥液層52を構成する材料は、高い撥液性が得られる観点において、フッ素樹脂を含むことが好ましい。また、撥液層52は、撥液層52の機械的な耐久性が得られる観点において、フッ素樹脂と共析されためっき被膜であることが好ましい。フッ素樹脂と共析されためっき被膜であれば、撥液層52のなかにフッ素樹脂が均一に分布しやすく、フッ素樹脂による撥液性と、めっき被膜による耐久性とが、撥液層52の全体で均一に得られやすい。
【0050】
撥液層52は、例えば、PTFEと共析されたニッケルめっき被膜である。ニッケルめっき被膜は、例えば、PTFEを30%含む無電解ニッケルめっき被膜である。無電解ニッケルめっき被膜であれば、フッ素樹脂の一例であるPTFEがニッケルめっき被膜のなかに均一に分布しやすく、これにより、液体成分の撥液性を撥液層52のほぼ全体で均一に得られやすい。また、ニッケルめっき被膜であれば、原料液のなかに粉末などが含まれる場合であっても、粉末に対する耐摩耗を撥液層52において得られる。
【0051】
[作用]
第一流路43Pに流入した原料液は、第一流路43Pが有する錘台形状による乱れの抑制、および、第一流路43Pが有する撥液性とが相まって、第二流路44Pに向けて円滑に流出する。第二流路44Pに流入した原料液は、第二流路44Pが有する円筒形状による層流の形成、および、第二流路44Pでの撥液性とが相まって、真空空間21Sに向けて円滑に液柱L1を形成する。
【0052】
この際、噴射口45を含むノズル外表面42Sが、撥液層52によって構成されている。そのため、噴射口45から飛散した原料液がノズル外表面42Sに付着することが、撥液層52の撥液性によって抑えられる。
【0053】
以上、第2実施形態によれば、第1実施形態での効果に加えて以下の効果が得られる。
(2-1)流路42Pが撥液層52から構成されるため、噴射口45に向けて円滑に原料液を導くこと、および、噴射口45で原料液が飛散することが抑制される。そのため、噴射口45の近傍に凍結乾燥物が堆積することがさらに抑制される。
【0054】
(2-1)撥液層52が、例えば、PTFEと共析された無電解Niめっき被膜であるから、撥液層52による撥液性の均一化を図ること、また、原料液の通過による撥液層52の摩耗を抑えることが可能ともなる。
【0055】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。
・撥液層52は、ノズル本体51に塗布された撥水性シランカップリング剤であってもよい。
【0056】
・ノズル本体51を構成する材料は、例えば、PTFE、PFA、および、FEPなどの撥水性樹脂であってもよい。この際、撥液層52が割愛されて、ノズル本体51の外表面が、凍結乾燥用ノズルの外表面であって、撥液性を備えた面であってもよい。すなわち、ノズル外表面42Sにおける撥液性は、ノズル本体51の撥液性によって担われてもよい。
【0057】
・撥液層52は、流路42Pから割愛されて、ノズル外表面42Sのみを構成してもよい。また、撥液層52は、ノズル外表面42Sのなかで、噴射口45を囲う部分にのみ位置する構成であってもよい。
【0058】
・真空室21は、凍結乾燥物を加熱する加熱機構を搭載してもよい。加熱機構を搭載する構成であれば、凍結乾燥物の加熱による乾燥を促すことも可能となる。
・真空室21は、蒸発した液体成分を捕集するコールドトラップなどの冷却機構を搭載してもよい。冷却機構を搭載する構成であれば、液体成分の蒸気圧を所定値に保つことが可能ともなるため、液体成分の蒸発を安定させること、ひいては、凍結乾燥物の大きさの均一化を図ることが可能ともなる。
【0059】
・第二流路44P、および、噴射口45の周囲に位置するノズル外表面42Sについては、接触角を高める目的で突起を設けても良い。特に、複数の突起を設けることで液柱L1に対する固液接触面積が増大し、所謂、超撥水性を付与することが可能となる。超撥水性とは、接触角が120°前後の表面性状を利用して接触角が150°を超える状態にまで強化された状態を言う。これにより、微小液滴の飛散はさらに抑えられる。この突起は、表面粗さを調整することを目的として付与されるが、その設計においては、例えば、濡れに関する式であるWenzel式やCassie式を用いて、求めることができる。
【0060】
なお、第二流路44Pの内径が小さいほど、第二流路44Pの流路抵抗は高く、壁面近傍に位置する原料に大きな剪断力を与える。第二流路44Pに位置する突起は、こうした剪断力を弱めて原料の安定性を高めることを可能ともする。第二流路44Pに位置する突起は、例えば、流出方向に沿うスパイラル状であってもよいし、流出方向に沿うスプライン状であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
θ1,θ2…中心角、L1…液柱、L2…液滴、L3…微粒子、10…凍結乾燥装置、11…供給部、21…真空室、21S…真空空間、21T…トレイ、31…真空ポンプ、41…噴射器、42…凍結乾燥用ノズル、42S…ノズル外表面、42P…流路、43…絞り部、43P…第一流路、44…噴射部、44P…第二流路、45…噴射口、52…撥液層。