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  • 特許-メタクリル系樹脂積層体及びその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】メタクリル系樹脂積層体及びその用途
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230816BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20230816BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20230816BHJP
   C08F 8/04 20060101ALI20230816BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20230816BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20230816BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B25/08
C08F297/04
C08F8/04
C08L9/06
C08L33/04
B60J1/00 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019156330
(22)【出願日】2019-08-29
(65)【公開番号】P2021030668
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】野本 祐作
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-124971(JP,A)
【文献】特開2018-104712(JP,A)
【文献】特開2019-042930(JP,A)
【文献】特開2017-114029(JP,A)
【文献】特開2011-052157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00、251/00-283/00、
283/02-289/00、291/00-297/08、
301/00
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル系樹脂(A)を含む第1の樹脂層が、芳香族ビニル単量体単位を含む重合体ブロック(b-1)と共役ジエン単量体単位を含む重合体ブロック(b-2)とを含むブロック共重合体又は当該ブロック共重合体の水素添加物である熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層の両面に積層された積層構造を有し、
前記第2の樹脂層は、熱可塑性エラストマー(B)95~60質量%とメタクリル系樹脂(D)5~40質量%とを含み、
熱可塑性エラストマー(B)は、JIS-K7244-4に準拠して、周波数1.0Hzの条件で動的粘弾性測定を実施し、温度に対する損失正接(tanδ)の変化のデータを取得したとき、-60~-30℃の温度範囲内に少なくとも1つの損失正接(tanδ)のピークがある、メタクリル系樹脂積層体。
【請求項2】
重合体ブロック(b-1)は、前記芳香族ビニル単量体単位としてα-メチルスチレン単量体単位を含む、請求項1に記載のメタクリル系樹脂積層体。
【請求項3】
JIS-K7211-1に準拠して、環境温度-40℃、衝撃破壊エネルギー値0.245Jの条件にて衝撃試験を実施したとき、前記メタクリル系樹脂積層体から分離される破片数が0である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂積層体。
【請求項4】
前記第1の樹脂層は、メタクリル系樹脂(A)95~60質量%と多層構造ゴム粒子(C)5~40質量%とを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂積層体。
【請求項5】
メタクリル系樹脂(D)は、重量平均分子量が80,000以下であり、メタクリル酸メチル単量体単位を80質量%以上、アクリル酸メチル単量体単位を5質量%以上含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂積層体。
【請求項6】
全体の厚さに対する前記第1の樹脂層の合計厚さの割合が50%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂積層体。
【請求項7】
曲げ弾性率が1500MPa以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂積層体を含む、移動体用グレージング。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂積層体を含む、機械カバー。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂積層体を含む、透光性遮音板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂を含む第1の樹脂層と、熱可塑性エラストマーを含む第2の樹脂層とを含むメタクリル系樹脂積層体、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
衝撃を受けたときの破片の飛散防止が必要とされる透明樹脂板(以下、飛散防止板とも言う)の用途として、車両用の窓及びキャノピー等の移動体用グレージング;工作機械及びその覗き窓等を保護する機械カバー;高速道路及び高速鉄道等で使用される遮音板及び防護板等が挙げられる。従来、かかる用途の透明樹脂板としては、ポリカーボネート系樹脂板が広く使用されているが、耐候性及び耐摩耗性が充分ではない。
【0003】
特許文献1には、単繊維プラスチックフィラメントが埋め込まれたアクリル樹脂板からなり、防音壁として好適な飛散防止板が開示されている(請求項1)。
特許文献2には、軟質アクリル樹脂層の両面にアクリル樹脂層が積層された、透明な飛散防止板が開示されている(請求項1)。
特許文献3~5には、粘弾性特性に優れたスチレン系熱可塑性エラストマーを用いた透明な飛散防止板が開示されている。特許文献3には、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する遮音層を含む合わせガラス用中間膜、及びこれを用いた合わせガラスが開示されている(請求項1、5~7、14、段落0038等)。特許文献4には、(メタ)アクリル系樹脂を含む基材層と、芳香族ビニル重合体ブロック及び共役ジエン重合体ブロックを含有するスチレン系熱可塑性エラストマーを含む粘接着層とを含む積層体が開示されている(請求項1、10、段落0026、0037、0041等)。特許文献5には、メタクリル系樹脂を含む第1の樹脂層とスチレン系熱可塑性エラストマーを含む第2の樹脂層とアイオノマーを含む第3の樹脂層とを含む積層体が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2000/20690号
【文献】特開2013-116589号公報
【文献】国際公開第2016/076340号
【文献】国際公開第2017/200014号
【文献】国際公開第2017/191826号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の飛散防止板は、アクリル樹脂板中に単繊維プラスチックフィラメントが埋め込まれているため、透明性が良くない。
特許文献2に記載の飛散防止板は、軟質アクリル樹脂の低温での粘弾性特性が良好でないため、低温下において充分な飛散防止性が得られない。
特許文献3~5には、低温下における飛散防止性については、記載がなく不明である。
従来、低温領域を含む広い温度領域で飛散防止性に優れた透明樹脂板は報告されていない。本明細書において、「低温」とは例えば、-60~-30℃の温度である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、メタクリル系樹脂が本来有する透明性及び剛性をそのまま有しつつ、低温領域を含む広い温度領域で飛散防止性を有するメタクリル系樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[11]のメタクリル系樹脂積層体及びその用途を提供する。
[1] メタクリル系樹脂(A)を含む第1の樹脂層が、芳香族ビニル単量体単位を含む重合体ブロック(b-1)と共役ジエン単量体単位を含む重合体ブロック(b-2)とを含むブロック共重合体又は当該ブロック共重合体の水素添加物である熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層の両面に積層された積層構造を有し、
熱可塑性エラストマー(B)は、JIS-K7244-4に準拠して、周波数1.0Hzの条件で動的粘弾性測定を実施し、温度に対する損失正接(tanδ)の変化のデータを取得したとき、-60~-30℃の温度範囲内に少なくとも1つの損失正接(tanδ)のピークがある、メタクリル系樹脂積層体。
【0008】
[2] 重合体ブロック(b-1)は、前記芳香族ビニル単量体単位としてα-メチルスチレン単量体単位を含む、[1]のメタクリル系樹脂積層体。
[3] JIS-K7211-1に準拠して、環境温度-40℃、衝撃破壊エネルギー値0.245Jの条件にて衝撃試験を実施したとき、前記メタクリル系樹脂積層体から分離される破片数が0である、[1]又は[2]のメタクリル系樹脂積層体。
[4] 前記第1の樹脂層は、メタクリル系樹脂(A)95~60質量%と多層構造ゴム粒子(C)5~40質量%とを含む、[1]~[3]のいずれかのメタクリル系樹脂積層体。
【0009】
[5] 前記第2の樹脂層は、熱可塑性エラストマー(B)95~60質量%とメタクリル系樹脂(D)5~40質量%とを含む、[1]~[4]のいずれかのメタクリル系樹脂積層体。
[6] メタクリル系樹脂(D)は、重量平均分子量が80,000以下であり、メタクリル酸メチル単量体単位を80質量%以上、アクリル酸メチル単量体単位を5質量%以上含む、[5]のメタクリル系樹脂積層体。
[7] 全体の厚さに対する前記第1の樹脂層の合計厚さの割合が50%以上である、[1]~[6]のいずれかのメタクリル系樹脂積層体。
[8] 曲げ弾性率が1500MPa以上である、[1]~[7]のいずれかのメタクリル系樹脂積層体。
【0010】
[9] [1]~[8]のいずれかのメタクリル系樹脂積層体を含む、移動体用グレージング。
[10] [1]~[8]のいずれかのメタクリル系樹脂積層体を含む、機械カバー。
[11] [1]~[8]のいずれかのメタクリル系樹脂積層体を含む、透光性遮音板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メタクリル系樹脂が本来有する透明性及び剛性をそのまま有しつつ、低温領域を含む広い温度領域で飛散防止性を有するメタクリル系樹脂積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る一実施形態のメタクリル系樹脂積層体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
「メタクリル系樹脂積層体」
本発明のメタクリル系樹脂積層体は、メタクリル系樹脂(A)を含む第1の樹脂層が、芳香族ビニル単量体単位を含む重合体ブロック(b-1)と共役ジエン単量体単位を含む重合体ブロック(b-2)とを含むブロック共重合体又はこのブロック共重合体の水素添加物である熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層の両面に積層された積層構造を有する。
熱可塑性エラストマー(B)は、JIS-K7244-4に準拠して、周波数1.0Hzの条件で動的粘弾性測定を実施し、温度に対する損失正接(tanδ)の変化のデータ(tanδ曲線)を取得したとき、-60~-30℃の温度範囲内に少なくとも1つの損失正接(tanδ)のピークがある樹脂である。
第1の樹脂層は好ましくは、メタクリル系樹脂(A)と多層構造ゴム粒子(C)とを含む。第2の樹脂層は好ましくは、熱可塑性エラストマー(B)とメタクリル系樹脂(D)とを含む。
以下、「メタクリル系樹脂積層体」は、単に「積層体」と略記する場合がある。
【0014】
図1に、本発明に係る一実施形態のメタクリル系樹脂積層体の模式断面図を示す。図中、符号10は本実施形態の積層体、符号11はメタクリル系樹脂を含む第1の樹脂層、符号12は熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層をそれぞれ示す。図示例の積層体10は、2つの第1の樹脂層11と1つの第2の樹脂層12とからなる3層構造の積層体である。本発明のメタクリル系樹脂積層体は3層構造に限定されず、必要に応じて他の1層以上の任意の層を含んでもよい。
【0015】
本発明のメタクリル系樹脂積層体は、特定の構造を有する複数の重合体ブロックを含み、低温領域、具体的には-60~-30℃の温度領域内に少なくとも1つの損失正接(tanδ)のピークを有する熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層の両面にそれぞれ、メタクリル系樹脂(A)を含む第1の樹脂層が積層された積層構造を有する。
【0016】
本発明の積層体は、内層として低温での粘弾性特性が良好な熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層を含むため、低温及び常温を含む広い温度領域(例えば-60~30℃)において、良好な飛散防止性を有することができる。
本発明によれば、低温及び常温を含む広い温度領域において、衝撃を受けたときの破片の飛散防止がない又は少ない積層体を提供することができる。本発明によれば、例えば、JIS-K7211-1に準拠して、環境温度-40℃、衝撃破壊エネルギー値0.245Jの条件にて衝撃試験を実施したとき、メタクリル系樹脂積層体から分離される破片数が0であるメタクリル系樹脂積層体を提供することができる。本発明の積層体は、人体に対する安全性が高く、移動体用グレージング、機械カバー、及び透光性遮音板等として好適に使用できる。
【0017】
本発明の積層体は、単繊維プラスチックフィラメントを使用しないため、良好な透明性を有しつつ、飛散防止性を発現することができる。
本発明の積層体は、熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層を挟持する、メタクリル系樹脂(A)を含む2つの第1の樹脂層を有するため、メタクリル系樹脂が本来有する透明性及び剛性等の特性をそのまま有することができる。第1の樹脂層が多層構造ゴム粒子(C)を含む場合、本発明の積層体は耐衝撃性にも優れ、好ましい。
【0018】
(第1の樹脂層)
<メタクリル系樹脂(A)>
第1の樹脂層は、1種又は2種以上のメタクリル系樹脂(A)を含む。第1の樹脂層は、メタクリル系樹脂(A)の含有量が増す程、透明性が向上し、表面硬度が高くなる傾向がある。第1の樹脂層中のメタクリル系樹脂(A)の含有量は特に制限されず、第1の樹脂層の透明性及び表面硬度の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
【0019】
メタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸メチル(MMA)の単独重合体であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)、又は、MMAと他の1種又は2種以上の単量体との共重合体である。メタクリル系樹脂(A)中のMMA単量体単位の含有量は特に制限されず、第1の樹脂層の耐熱性の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
共重合体中のMMA単量体単位の含有量は、共重合体をメタノール中で再沈殿することにより精製した後、熱分解ガスクロマトグラフィを用いて熱分解及び揮発成分の分離を行い、MMAと共重合成分とのピーク面積の比から算出することができる。
【0020】
MMAと共重合可能な単量体としては、MMA以外のメタクリル酸エステルが挙げられる。具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、及びメタクリル酸tert-ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸1-メチルシクロペンチル等のメタクリル酸シクロアルキルエステル;メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アラルキルエステル等が挙げられる。
【0021】
MMAと共重合可能なメタクリル酸エステル以外の単量体としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル(BA)、アクリル酸イソブチル、及びアクリル酸tert-ブチル等のアクリル酸エステルが挙げられる。
【0022】
メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は特に制限されず、好ましくは30,000~500,000、より好ましくは40,000~500,000、特に好ましくは60,000~300,000、最も好ましくは80,000~200,000である。Mwが30,000以上であることで、第1の樹脂層は力学強度に優れたものとなる。Mwが500,000以下であることで、第1の樹脂層は成形性に優れるものとなる。
【0023】
メタクリル系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は特に制限されず、好ましくは0.1~10g/10分、より好ましくは0.5~8g/10分、特に好ましくは1~5g/10分である。MFRが0.1~10g/10分であることで、第1の樹脂層は成形性に優れるものとなる。本明細書において、「メタクリル系樹脂(A)のMFR」は、JIS-K7210に準拠して、230℃、3.8kg荷重の条件において測定される値である。
【0024】
メタクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は特に制限されず、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、特に好ましくは110℃以上である。Tgが100℃以上であることで、第1の樹脂層は耐熱性に優れたものとなる。
【0025】
メタクリル系樹脂(A)は、重合開始剤の存在下、MMAを含む1種又は2種以上の単量体を重合することで製造できる。重合には必要に応じて、連鎖移動剤等の任意成分を用いることができる。重合法としては特に制限されず、ラジカル重合法及びアニオン重合法等が挙げられる
ラジカル重合法を用いる場合、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、又は乳化重合法を選択することが可能である。中でも、生産性及び耐熱分解性の観点から、懸濁重合法及び塊状重合法が好ましい。塊状重合は連続流通式で行うことが好ましい。
メタクリル系樹脂(A)をアニオン重合する方法としては、重合開始剤として有機アルカリ金属化合物を用い、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩等の鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法(特公平7-25859号公報を参照)、重合開始剤として有機アルカリ金属化合物を用い、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法(特開平11-335432号公報を参照)、及び重合開始剤として有機希土類金属錯体を用いてアニオン重合する方法(特開平6-93060号公報を参照)等が挙げられる。
【0026】
本明細書に記載するメタクリル系樹脂(A)の各種特性値は、重合温度、重合時間、重合開始剤の種類と量、及び、連鎖移動剤の種類と量等の重合条件を調整することによって、好ましい範囲内に調整することができる。
【0027】
<多層構造ゴム粒子(C)>
第1の樹脂層は、メタクリル系樹脂(A)の他にさらに、多層構造ゴム粒子(C)を含むことが好ましい。第1の樹脂層に多層構造ゴム粒子(C)を添加することで、本発明のメタクリル系樹脂積層体の耐衝撃性を向上させることができる。第1の樹脂層は、メタクリル系樹脂(A)95~60質量%と多層構造ゴム粒子(C)5~40質量%とを含むことが好ましい。多層構造ゴム粒子(C)の含有量が5~40質量%の範囲内にあることで、第1の樹脂層は透明性と耐衝撃性に優れたものとなる。第1の樹脂層は、メタクリル系樹脂(A)93~65質量%と多層構造ゴム粒子(C)7~35質量%とを含むことがより好ましい。第1の樹脂層は、メタクリル系樹脂(A)90~70質量%と多層構造ゴム粒子(C)10~30質量%とを含むことが特に好ましい。
【0028】
多層構造ゴム粒子(C)としては、アクリル系架橋ゴム粒子及びジエン系架橋ゴム粒子等が挙げられる。具体的には、アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位、及び必要に応じて他のビニル系単量体単位を含む共重合体ゴム粒子;共役ジエン系単量体単位、架橋性単量体単位、及び必要に応じて他のビニル系単量体単位を含む共重合体ゴム粒子;アクリル酸エステル単量体単位、共役ジエン系単量体単位、架橋性単量体単位、及び必要に応じて他のビニル系単量体単位を含む共重合体ゴム粒子等が挙げられる。
【0029】
多層構造ゴム粒子(C)としては、アクリル系多層構造ゴム粒子が好ましい。耐光性向上の観点からは、共役ジエン系単量体単位を含まないアクリル系多層構造ゴム粒子がより好ましい。アクリル系多層構造ゴム粒子は、コア部とシェル部とを有する。コア部は中心層及び中間層を含み、シェル部はコア部を覆う最外層からなる。アクリル系多層構造ゴム粒子において、中間層は架橋ゴム重合体(i)を含み、中心層は架橋ゴム重合体以外の重合体(iii)を含む。
【0030】
架橋ゴム重合体(i)は、少なくとも、アクリル酸エステル単量体単位と架橋性単量体単位とを含む。
架橋ゴム重合体(i)の原料として用いられるアクリル酸エステル単量体としては、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸エステル単量体、及び、炭素数6~24の芳香族基を有するアクリル酸エステル単量体等が好ましい。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート、及びo-フェニルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。
架橋ゴム重合体(i)中のアクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70~99質量%、特に好ましくは80~98質量%である。
【0031】
架橋ゴム重合体(i)の原料として用いられる架橋性単量体としては、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、1-アクリロキシ-3-ブテン、1-メタクリロキシ-3-ブテン、1,2-ジアクリロキシ-エタン、1,2-ジメタクリロキシ-エタン、1,2-ジアクリロキシ-プロパン、1,3-ジアクリロキシ-プロパン、1,4-ジアクリロキシ-ブタン、1,3-ジメタクリロキシ-プロパン、1,2-ジメタクリロキシ-プロパン、1,4-ジメタクリロキシ-ブタン、トリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4-ペンタジエン、及びトリアリルイソシアネート等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。
架橋ゴム重合体(i)中の架橋性単量体単位の含有量は、好ましくは0.05~10質量%、より好ましくは0.5~7質量%、特に好ましくは1~5質量%である。
【0032】
架橋ゴム重合体(i)は、上記以外の他のビニル系単量体単位を含有してもよい。他のビニル系単量体は、上記のアクリル酸エステル単量体及び架橋性単量体に共重合可能なものであれば特に限定されない。他のビニル系単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル単量体;スチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;及びN-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、及びN-o-クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系単量体等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。
【0033】
重合体(iii)は、架橋ゴム重合体(i)以外の重合体であれば特に制限されず、メタクリル酸エステル単量体単位を含む重合体が好ましい。重合体(iii)は、メタクリル酸エステル単量体単位以外に、架橋性単量体単位及び/又は他のビニル系単量体単位を含有してもよい。
重合体(iii)の原料として用いられるメタクリル酸エステル単量体としては、炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸エステル単量体、及び、炭素数6~24の芳香族基を有するメタクリル酸エステル単量体等が好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、及びメタクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。中でも、メタクリル酸メチル(MMA)が好ましい。
重合体(iii)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは40~100質量%、より好ましくは50~99質量%、特に好ましくは60~98質量%である。
【0034】
重合体(iii)の原料として必要に応じて用いられる架橋性単量体の例示は、上記の架橋ゴム重合体(i)の原料として用いられる架橋性単量体の例示と同様である。重合体(iii)中の架橋性単量体単位の含有量は、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0.01~3質量%、特に好ましくは0.02~2質量%である。
【0035】
重合体(iii)の原料として必要に応じて用いられる他のビニル系単量体は、上記のメタクリル酸エステル単量体及び架橋性単量体と共重合可能なものであれば特に限定されない。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-エチルヘキシル、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート、及びo-フェニルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート等のアクリル酸エステル単量体;酢酸ビニル;スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、α-メチルスチレン、及びビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等のニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸等のα,β-不飽和カルボン酸;及びN-エチルマレイミド、及びN-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。
【0036】
最外層は、熱可塑性重合体(ii)を含む。熱可塑性重合体(ii)は、少なくともメタクリル酸エステル単量体単位を含み、さらに必要に応じて、他のビニル系単量体単位を含む。
熱可塑性重合体(ii)の原料として用いられるメタクリル酸エステル単量体としては、炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸エステル単量体、及び、炭素数6~24の芳香族基を有するメタクリル酸エステル等が好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、及びメタクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。中でも、メタクリル酸メチル(MMA)が好ましい。
熱可塑性重合体(ii)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。
【0037】
熱可塑性重合体(ii)の原料として必要に応じて用いられる他のビニル系単量体の例示は、上記の重合体(iii)の原料として必要に応じて用いられる他のビニル系単量体の例示と同様である。熱可塑性重合体(ii)中の他のビニル系単量体単位の含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0038】
アクリル系多層構造ゴム粒子の透明性の観点から、互いに隣り合う層の屈折率の差が、好ましくは0.005未満、より好ましくは0.004未満、特に好ましくは0.003未満になるように、各層に含有される重合体を選択することが好ましい。
【0039】
アクリル系多層構造ゴム粒子中の最外層の割合は、好ましくは10~60質量%、より好ましくは15~50質量%、特に好ましくは20~40質量%である。コア部において、架橋ゴム重合体(i)を含有する層の占める割合は、好ましくは20~100質量%、より好ましくは30~70質量%である。
【0040】
多層構造ゴム粒子(C)の体積基準平均粒子径は特に限定されず、第1の樹脂層の透明性と耐衝撃性の観点から、好ましくは0.02~1μm、より好ましくは0.05~0.5μm、特に好ましくは0.1~0.3μmである。本明細書において、特に明記しない限り、「体積基準平均粒子径」は、光散乱光法によって測定される粒径分布データに基づいて算出される。
【0041】
多層構造ゴム粒子(C)の製造方法は、特に制限されない。粒子径制御及び多層構造の製造しやすさ等の観点から、乳化重合法、特にシード乳化重合法が好適である。
乳化重合法は、水等の媒体と媒体に難溶な1種以上の単量体と乳化剤とを混合して得られた原料液に重合開始剤を添加し、重合することによって、重合体粒子を含むエマルジョンを製造する方法である。
シード乳化重合法は、1種以上の単量体を乳化重合することによってシード粒子を得、このシード粒子の存在下に別の1種以上の単量体を乳化重合することによって、シード粒子とそれを略同心円状に被覆するシェル重合体層とを含むコアシェル重合体粒子を含むエマルジョンを製造する方法である。シード乳化重合法では、得られたコアシェル重合体粒子の存在下に、さらに別の1種以上の単量体を乳化重合することができる。この操作は必要に応じて、複数回繰り返し行うことができる。この方法によって、シード粒子とそれを略同心円状に被覆する複数のシェル重合体層とを有するコアシェル多層重合体粒子を含むエマルジョンを製造できる。
【0042】
<第1の樹脂層の任意成分>
第1の樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲で、メタクリル系樹脂(A)及び多層構造ゴム粒子(C)以外の他の重合体を含有していてもよい。他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、及びポリノルボルネン等のポリオレフィン;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、SMA樹脂、SMM樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、及びMBS樹脂等のスチレン系樹脂;メタクリル酸メチル-スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、及びポリアミドエラストマー等のポリアミド;ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、及びエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリウレタン;変性ポリフェニレンエーテル;シリコーン系変性樹脂;アクリル系ブロック共重合体、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、及びSIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、及びEPDM等のオレフィン系ゴム等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。第1の樹脂層中の他の重合体の含有量は特に制限されず、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0043】
第1の樹脂層は必要に応じて、各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染料・顔料、光拡散剤、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、フィラー、及び蛍光体等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。例えば、酸化防止剤の含有量は好ましくは0.01~1質量%、紫外線吸収剤の含有量は好ましくは0.01~3質量%、光安定剤の含有量は好ましくは0.01~3質量%、滑剤の含有量は好ましくは0.01~3質量%、染料・顔料の含有量は好ましくは0.01~3質量である。
【0044】
(第2の樹脂層)
<熱可塑性エラストマー(B)>
第2の樹脂層は、芳香族ビニル単量体単位を含む重合体ブロック(b-1)と共役ジエン単量体単位を含む重合体ブロック(b-2)とを含むブロック共重合体又はこのブロック共重合体の水素添加物である熱可塑性エラストマー(B)を含む。
第2の樹脂層は、熱可塑性エラストマー(B)の含有量が増す程、飛散防止性能が向上する傾向がある。ただし、熱可塑性エラストマー(B)の含有量が増す程、第2の樹脂層の弾性率が低下し、曲げ剛性が低下する傾向がある。本発明では、この欠点を、熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層の両面にメタクリル系樹脂(A)を含む第1の樹脂層を積層することで、解消する。本発明によれば、例えば、曲げ弾性率が1500MPa以上であるメタクリル系樹脂積層体を提供することができる。曲げ弾性率は、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0045】
重合体ブロック(b-1)と重合体ブロック(b-2)との結合形態は特に制限されず、直鎖状結合、分岐状結合、放射状結合、及びこれらの組合せのいずれでもよく、直鎖状結合が好ましい。
ここで、重合体ブロック(b-1)を「a」、重合体ブロック(b-2)を「b」と表記する。直鎖状の結合形態としては、a-bで表されるジブロック共重合体、a-b-a又はb-а-bで表されるトリブロック共重合体、a-b-a-bで表されるテトラブロック共重合体、a-b-a-b-a又はb-a-b-a-bで表されるペンタブロック共重合体、(а-b)X型共重合体(ここで、符号Xはカップリング残基を表し、nは2以上の整数を表す。)、及びこれらの組合せが挙げられる。中でも、ジブロック共重合体又はトリブロック共重合体が好ましい。トリブロック共重合体としては、a-b-aで表されるトリブロック共重合体が特に好ましい。
【0046】
ブロック共重合体中の芳香族ビニル単量体単位及び共役ジエン単量体単位の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0047】
ブロック共重合体中の芳香族ビニル単量体単位の含有量は、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%、特に好ましくは12~20質量%である。芳香族ビニル単量体単位の含有量が5質量%以上であると、本発明のメタクリル系樹脂積層体は成形性に優れたものとなる。芳香族ビニル単量体単位の含有量が40質量%以下であると、第1の樹脂層と第2の樹脂層との層間接着性が優れたものとなる。なお、芳香族ビニル単量体単位の含有量は、ブロック共重合体を合成する際の原料単量体の仕込み組成又はブロック共重合体のH-NMR等の測定結果から求めることができる。
重合体ブロック(b-1)は、芳香族ビニル単量体単位以外に少量の他の単量体単位を含んでいてもよい。重合体ブロック(b-1)中の芳香族ビニル単量体単位の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0048】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン(St);α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、及び4-ドデシルスチレン等のアルキルスチレン;2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、及び2-ビニルナフタレン等のアリールスチレン;ハロゲン化スチレン;アルコキシスチレン;ビニル安息香酸エステル等が挙げられる。中でも、スチレン(St)及びα-メチルスチレンが好ましく、α-メチルスチレンがより好ましい。これらは、1種又は2種以上用いることができる。
【0049】
ブロック共重合体中の共役ジエン重合体ブロック(b-2)の含有量は、好ましくは60~78質量%、より好ましくは62~76質量%、特に好ましくは64~74質量%である。共役ジエン重合体ブロック(b-2)の含有量が上記下限以上であると、エラストマーとしての特性が良好に発現する。共役ジエン重合体ブロック(b-2)の含有量が上記上限以下であると、本発明のメタクリル系樹脂積層体の成形性が優れたものとなる。なお、共役ジエン単量体単位の含有量は、ブロック共重合体を合成する際の原料単量体の仕込み組成及びブロック共重合体のH-NMR等の測定結果から求めることができる。
重合体ブロック(b-2)は、共役ジエン単量体単位以外に少量の他の単量体単位を含んでいてもよい。重合体ブロック(b-2)中の共役ジエン単量体単位の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
共役ジエンとしては、入手容易性及び取り扱い性の観点から、炭素数2~12の共役ジエンが好ましく、炭素数4~8の共役ジエンがより好ましい。具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン、及びこれらの組合せが特に好ましい。
【0050】
熱可塑性エラストマー(B)は、ブロック共重合体の少なくとも一部の共役ジエン単量体単位が水素添加(水添とも言う)された水素添加物であってもよい。一般的に、少なくとも一部の共役ジエン単量体単位が水添されたスチレン系熱可塑性エラストマーは、「水添スチレン系熱可塑性エラストマー」と称される。水添率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。なお、「水添率」は、水素添加反応前後のブロック共重合体のヨウ素価を測定して求められる。
【0051】
ブロック共重合体(未水添熱可塑性エラストマー)の重合方法としては、アニオン重合法、カチオン重合法、及びラジカル重合法等が挙げられる。
アニオン重合の場合、例えば、(i)重合開始剤としてアルキルリチウム化合物を用い、芳香族ビニル単量体、共役ジエン単量体、及び芳香族ビニル単量体を逐次重合させる方法;(ii)重合開始剤としてアルキルリチウム化合物を用い、芳香族ビニル単量体及び共役ジエン単量体を逐次重合させ、さらにカップリング剤を加えてカップリングする方法;(iii)重合開始剤としてジリチウム化合物を用い、共役ジエン単量体及び芳香族ビニル単量体を逐次重合させる方法等が挙げられる。
【0052】
アニオン重合時に有機ルイス塩基を添加することによって、熱可塑性エラストマーの1,2-結合量及び3,4-結合量を増やすことができる。さらに、有機ルイス塩基の添加量によって、熱可塑性エラストマーの1,2-結合量及び3,4-結合量を調整することができる。
有機ルイス塩基としては、酢酸エチル等のエステル;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、及びN-メチルモルホリン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環式芳香族化合物;ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、及びジオキサン等のエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル及びジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン等が挙げられる。
【0053】
公知方法にて重合されたブロック共重合体(未水添熱可塑性エラストマー)を含む反応液、又は、この反応液から単離したブロック共重合体(未水添熱可塑性エラストマー)を水素添加触媒に対して不活性な溶媒に溶解させた溶液を用意し、水素添加触媒の存在下、水素と反応させることで、水添熱可塑性エラストマーが得られる。
水素添加触媒としては、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、及びNi等の金属をカーボン、アルミナ、及び珪藻土等の担体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物又はアルキルリチウム化合物等との組合せからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒等が挙げられる。水素添加反応は通常、水素圧力0.1~20MPa、反応温度20~250℃、反応時間0.1~100時間の条件で行うことができる。
【0054】
熱可塑性エラストマー(B)は、分子鎖の一部及び/又は分子末端が極性官能基で変性されたものであってもよい。極性官能基は、少なくとも一方の分子末端に導入されていることが好ましい。極性官能基としては、マレイン酸無水物基等の酸無水物基;カルボキシ基;マレイン酸基等のジカルボキシ基;アミノ基;イミノ基;アルコキシシリル基;シラノール基;シリルエーテル基;ヒドロキシル基;エポキシ等が挙げられる。
【0055】
熱可塑性エラストマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、力学特性及び成形加工性の観点から、好ましくは30,000~400,000、より好ましくは50,000~300,000である。熱可塑性エラストマー(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は好ましくは1.0~2.0、より好ましくは1.0~1.5である。なお、本明細書において、「Mw」はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。「Mn」はGPC測定によって求めたポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0056】
本発明では、熱可塑性エラストマー(B)として、JIS-K7244-4に準拠して、周波数1.0Hzの条件で動的粘弾性測定を実施し、温度に対する損失正接(tanδ)の変化のデータ(tanδ曲線)を取得したとき、少なくとも1つの損失正接(tanδ)のピークが、-60~-30℃の温度範囲、好ましくは-55~-35℃の温度範囲、より好ましくは-50~-40℃の温度範囲にある熱可塑性エラストマーを用いる。かかる物性の熱可塑性エラストマー(B)を用いた本発明のメタクリル系樹脂積層体は、低温領域を含む広い温度領域で飛散防止性に優れるものとなる。
【0057】
熱可塑性エラストマー(B)の原料組成及び/又は重合条件を調整することで、-60~-30℃の温度範囲に少なくとも1つの損失正接(tanδ)のピークがある熱可塑性エラストマーを得ることができる。損失正接(tanδ)のピークが-60℃~-30℃の温度範囲にある熱可塑性エラストマー(B)は、重合体ブロック(b-2)を構成する共役ジエン単量体単位がイソプレン単位である場合、ビニル化度が0~40モル%であることが好ましく、重合体ブロック(b-2)を構成する共役ジエン単量体単位がブタジエン単位である場合、ビニル化度が40~70モル%であることが好ましい。
なお、共役ジエン単量体単位において、「ビニル化度」は、1,2-結合単位の量、3,4-結合単位の量、及び1,4-結合単位の量の和に対する、1,2-結合単位の量及び3,4-結合単位の量の和の割合で求めることができる。
【0058】
<メタクリル系樹脂(D)>
第2の樹脂層は、ブロック共重合体又はその水素添加物からなる熱可塑性エラストマー(B)に合わせて、1種又は2種以上のメタクリル系樹脂(D)を含むことが好ましい。第2の樹脂層がメタクリル系樹脂(D)を含むことで、第2の樹脂層の透明性及び剛性が向上し、さらにメタクリル系樹脂(A)を含む第1層との相溶性が向上するため、第1の樹脂層と第2の樹脂層との層間接着性が向上する。メタクリル系樹脂(D)としては、公知の任意のメタクリル系樹脂を用いることができ、好ましい構造及び物性は、第1の樹脂層に含まれるメタクリル系樹脂(A)と同様であり、上記の(第1の樹脂層)の項を参照されたい。なお、第1の樹脂層中のメタクリル系樹脂(A)と第2の樹脂層中のメタクリル系樹脂(D)とは同一でも非同一でもよい。
【0059】
第2の樹脂層の透明性の観点から、メタクリル系樹脂(D)は、メタクリル酸メチル(MMA)単量体単位を80質量%以上、アクリル酸メチル(MA)単量体単位を5質量%以上含むことが好ましい。
メタクリル系樹脂(D)の重量平均分子量(Mw)は特に制限されず、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下、特に好ましくは45,000以下、特に好ましくは40,000である。Mwが80,000以下であることで、第2の樹脂層は透明性に優れたものとなる。
【0060】
第2の樹脂層中の熱可塑性エラストマー(B)とメタクリル系樹脂(D)の含有量は特に制限されない。第2の樹脂層が透明性に優れることから、第2の樹脂層は、熱可塑性エラストマー(B)95~60質量%とメタクリル系樹脂(D)5~40質量%とを含むことが好ましく、熱可塑性エラストマー(B)90~65質量%とメタクリル系樹脂(D)10~35質量%とを含むことがより好ましく、熱可塑性エラストマー(B)85~70質量%とメタクリル系樹脂(D)15~30質量%とを含むことが特に好ましい。
【0061】
第2の樹脂層が熱可塑性エラストマー(B)とメタクリル系樹脂(D)とを含む場合、これらの樹脂の混合方法としては、溶融混合法及び溶液混合法等が挙げられる。溶融混合法では、単軸又は二軸以上の混練押出機、オープンロール、バンバリーミキサー、及びニーダー等の溶融混練機を用い、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガス、及びヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気下で、溶融混練を行うことができる。溶液混合法では、熱可塑性エラストマー(B)とメタクリル系樹脂(D)とを双方の良溶媒である有機溶媒に溶解させて混合することができる。これらの混合方法の中で、溶融混合法が好ましく、特に単軸又は二軸の混練押出機を用いる方法が好ましい。混合・混練時の温度は、使用する熱可塑性エラストマー(B)とメタクリル系樹脂(D)の溶融温度等に応じて適宜調節することができ、好ましくは110~300℃である。
【0062】
<第2の樹脂層の任意成分>
第2の樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性エラストマー(B)及びメタクリル系樹脂(D)以外の他の重合体及び/又は各種添加剤を含有してもよい。使用可能な他の重合体及び各種添加剤の種類と好ましい含有量は、第1の樹脂層と同様であり、上記の(第1の樹脂層)の項を参照されたい。
【0063】
熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層に任意成分を含有させる場合、任意成分は熱可塑性エラストマー(B)と混合してもよいし、熱可塑性エラストマー(B)の重合時に添加してもよい。
熱可塑性エラストマー(B)とメタクリル系樹脂(D)とを含む第2の樹脂層に任意成分を含有させる場合、任意成分は熱可塑性エラストマー(B)及び/又はメタクリル系樹脂(D)の重合時に添加してもよいし、熱可塑性エラストマー(B)とメタクリル系樹脂(D)との混合時又は混合後に添加してもよい。
【0064】
(積層構成)
本発明のメタクリル系樹脂積層体は、熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層の両面にそれぞれメタクリル系樹脂(A)を含む第1の樹脂層が積層された積層構造を含み、第1の樹脂層及び第2の樹脂層以外の他の樹脂層を有していてもよい、3層以上の積層体である。
他の樹脂層の構成樹脂は特に制限されず、メタクリル系樹脂(A)及び熱可塑性エラストマー(B)を除く1種又は2種以上の熱可塑性樹脂、1種又は2種以上の熱硬化樹脂、1種又は2種以上のエネルギー線硬化樹脂、及びこれらの組合せが挙げられる。
他の樹脂層の機能は特に制限されず、他の樹脂層は、第1の樹脂層及び第2の樹脂層を支持する支持層、耐擦傷層、帯電防止層、防汚層、摩擦低減層、防眩層、反射防止層、粘着層、熱線吸収層、遮音層、及び衝撃強度付与層等の各種機能層として機能してもよい。他の樹脂層は単数でも複数でもよい。他の樹脂層が複数である場合、組成は同一でも非同一でもよい。
【0065】
本発明のメタクリル系樹脂積層体において、第1の樹脂層の厚さは特に制限されず、耐擦傷性、耐候性、剛性、及び耐衝撃性等の観点から、好ましくは0.1~10.0mm、より好ましくは0.5~8.0mm、特に好ましくは1.0~5.0mmである。
本発明のメタクリル系樹脂積層体において、第2の樹脂層の厚さは特に制限されず、剛性、耐候性、及び飛散防止性等の観点から、好ましくは0.01~5.0mm、より好ましくは0.05~4.0mm、特に好ましくは0.1~2.5mmである。
本発明のメタクリル系樹脂積層体の全体厚さは特に制限されず、外観不良なく生産性良く製造できる観点から、好ましくは0.1~15.0mm、より好ましくは0.5~10.0mm、特に好ましくは1.0~8.0mmである。
【0066】
本発明のメタクリル系樹脂積層体において、全体の厚さに対する2つの第1の樹脂層の合計厚さの割合は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上である。全体の厚さに対する2つの第1の樹脂層の合計厚さの割合が50%以上であることで、本発明のメタクリル系樹脂積層体は、透明性と剛性に優れるものとなる。
【0067】
2つの第1の樹脂層と、これらの間に挟持された第2の樹脂層とからなる3層構造の本発明のメタクリル系樹脂積層体の製造方法は特に制限されず、公知の多層成形によって製造することが好ましい。多層成形としては、多層押出成形;多層ブロー成形;多層プレス成形;多色射出成形;インサート射出成形等の貼合成形法等が挙げられる。生産性の観点から多層押出成形が好ましい。なお、本明細書において、「多層成形」は2層以上の積層成形を意味する。
【0068】
2つの第1の樹脂層と、これらの間に挟持された第2の樹脂層と、1つ以上の他の樹脂層とを含む4層以上の積層構造の本発明のメタクリル系樹脂積層体の製造方法は特に制限されず、2つの第1の樹脂層と第2の樹脂層とともに1つ以上の他の樹脂層を上記方法で多層成形する方法、上記方法にて2つの第1の樹脂層とこれらの間に挟持された第2の樹脂層とからなる3層構造の積層体を製造した後、一方の第1の樹脂層の表面に流動性の他の樹脂を塗布して乾燥固化又は硬化する方法、上記方法にて2つの第1の樹脂層とこれらの間に挟持された第2の樹脂層とからなる3層構造の積層体を製造した後、一方の第1の樹脂層の表面に粘着層等を介して他の樹脂層を貼り合わせる方法、及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0069】
多層押出成形は公知方法にて実施することができ、2つの第1の樹脂層と、これらの間に挟持された第2の樹脂層と、必要に応じて1つ以上の他の樹脂層を溶融共押出により積層することができる。溶融状態の各層の原料樹脂(組成物)を積層状態でシート状に押出すTダイと、Tダイから押し出された溶融状態のシート状の積層体を冷却しながら加圧する互いに隣接配置された複数のロールからなるロールユニットとを備えた装置を用いて、多層押出成形を実施することが好ましい。
【0070】
積層方式としては、溶融状態の各層の原料樹脂(組成物)をTダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及び、溶融状態の各層の原料樹脂(組成物)をTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式が挙げられる。中でも、積層体の各層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
ロールユニットを構成するロールとしては例えば、ロール表面が鏡面仕上げされたポリシングロール;金属、ステンレス鋼、及び炭素鋼のコアの表面にゴムが巻き付けられたゴムロール;ロール表面に微細なエンボス模様(凹凸模様)を有するエンボスロール等が挙げられる。
【0071】
積層体の各層の原料樹脂(組成物)は、多層成形前及び/又は多層成形中に、フィルタ濾過することが好ましい。フィルタ濾過した原料樹脂(組成物)を用いて多層成形することにより、異物及びゲルに起因する欠点の少ない積層体が得られる。使用されるフィルタの材質は特に制限されず、使用温度、粘度、及び濾過精度等に応じて適宜選択され、ポリプロピレン、ポリエステル、レーヨン、コットン、及びグラスファイバ等からなる不織布;フェノール系樹脂含浸セルロースフィルム;金属繊維不織布焼結フィルム;金属粉末焼結フィルム;金網;及びこれらの組合せ等が挙げられる。中でも、耐熱性及び耐久性の観点から、金属繊維不織布焼結フィルムを複数枚積層して用いることが好ましい。フィルタの開口径は特に制限されず、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、メタクリル系樹脂が本来有する透明性及び剛性等の特性をそのまま有しつつ、低温領域を含む広い温度領域で飛散防止性を有するメタクリル系樹脂積層体を提供することができる。
【0073】
[用途]
本発明のメタクリル系樹脂積層体は例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、及び屋上看板等の看板部品又はマーキングフィルム;ショーケース、仕切板、及び店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、及びシャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、及びミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、及びFRP等の外装装飾部材;安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、及びレジャー用建築物の屋根等の建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車内装/外装部材(サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、バンパー、サンルーフ、及びグレージング等)等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク;保育器及びレントゲン部品等の医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、及び観察窓等の機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、及び拡散板等の光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、及び防音壁等の交通関係部品;温室、大型水槽、箱水槽、バスタブ等の浴室部材、時計パネル、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスク;パソコン、携帯電話、家具、自動販売機、及び浴室部材等に用いる表面材料等が挙げられる。
【0074】
本発明のメタクリル系樹脂積層体は、メタクリル系樹脂の特徴である透明性、耐候性、及び剛性等の特性を保持したまま、低温領域を含む広い温度領域で飛散防止性を有する特徴から、車両用の窓及びキャノピー等の移動体用グレージング;工作機械及びその覗き窓等を保護する機械カバー;高速道路及び高速鉄道等で使用される遮音板及び防護板等に好適に使用できる。
【実施例
【0075】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
(重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn))
樹脂の重量平均分子量(Mw)、及び、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法)により求めた。溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM-Mを2本とSuperHZ4000を1本とを直列に繋いだものを用いた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用した。測定対象樹脂4mgをTHF5mlに溶解させて試料溶液を調製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを装置内に注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5000000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて測定対象樹脂のMw及びMw/Mnを決定した。
【0076】
(損失正接(tanδ)のピーク)
熱可塑性エラストマー(B)又は熱可塑性エラストマー組成物(RB)を200℃にて熱プレスして厚さ300μmのフィルムを作製した。このフィルムから長さ20mm×幅5mm×厚さ300μmの短冊状の試験片(a)を切り出した。この試験片(a)について、JIS-K7244-4に準拠して、動的粘弾性測定を実施した。粘弾性測定装置((株)ユービーエム社製「Rheogel-E4000」)を用い、昇温速度3℃/分、測定温度範囲-100~180℃、周波数1.0Hz、ひずみ振幅0.3%、引張りモードの条件にて動的粘弾性測定を実施し、温度に対する損失正接(tanδ)の変化のデータ(tanδ曲線)を取得した。このtanδ曲線において、-60~-30℃の温度範囲に、少なくとも1つのtanδのピークが有るか否かを確認した。
【0077】
(透明性)
得られた積層シート又は単層シートを切削し、50mm×50mm×厚さ4.0mmの試験片(b)を得た。この試験片(b)について、分光色差計(日本電色工業(株)製「SE5000」)を使用し、JIS-K7361に準拠して、全光線透過率及びヘイズを測定した。評価基準は以下の通りである。
<全光線透過率>
良(○):全光線透過率が90%以上。
可(△):全光線透過率が85%以上90%未満。
不良(×):全光線透過率が85%未満。
<ヘイズ値>
良(○):ヘイズ値が1%未満。
可(△):ヘイズ値が1%以上5%未満。
不良(×):ヘイズ値が5%以上。
<透明性>
良(○):全光線透過率及びヘイズ値の判定がいずれも良(○)。
不良(×):全光線透過率及びヘイズ値の判定がいずれも不良(×)。
可(△):全光線透過率及びヘイズ値の判定が上記以外の組合せ。
【0078】
(剛性)
得られた積層シート又は単層シートを押出方向が長軸方向になるように切削し、80mm×10mm×厚さ4.0mmの試験片(c)を得た。この試験片(c)について、オートグラフ(株式会社島津製作所「AG-1S」)を使用し、JIS-K7171に準拠して、23℃における曲げ弾性率を測定した。評価基準は以下の通りである。
良(○):曲げ弾性率が1500MPa以上。
可(△):曲げ弾性率が1000MPa以上1500MPa未満。
不良(×):曲げ弾性率が1000MPa未満。
【0079】
(耐久性)
得られた積層シート又は単層シートを切削し、50mm×50mm×厚さ4.0mmの試験片(b)を得た。1つの同じ試験片(b)に対して、下記の煮沸試験(I)とヒートサイクル試験(II)とを順次実施した。
<煮沸試験(I)>
試験片(b)を温度23℃/相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、約65℃の温水中に垂直に立てて3分間浸漬させた。次いで、この試験片(b)を手早く沸騰水に2時間浸漬させた後、取り出した。
<ヒートサイクル試験(II)>
上記煮沸試験(I)を実施した試験片(b)をヒートサイクル試験機内に載置した。相対湿度85%の環境下で、1℃/分の速度で85℃まで昇温し、この温度で4時間保持した後、1℃/分の速度で温度-40℃まで降温し、この温度で4時間保持する湿熱プロファイルを1サイクルとし、これを10サイクル繰り返すヒートサイクル試験を実施した後、試験片(b)を取り出した。
各試験後に、目視観察にて、色相不良(黄変等)、光学歪み、最外層の表面荒れ、中間層の皺、層内又は層間の気泡、白化、反り、層剥離、及び割れ等の外観不良の有無を評価することで、耐久性を評価した。評価基準は以下の通りである。
良(○):外観不良は、いずれの試験後にも確認されなかった。
可(△):外観不良は、煮沸試験(I)の後には確認されなかったが、ヒートサイクル試験(II)の後には確認された。
不良(×):外観不良は、煮沸試験(I)の後に確認された。
【0080】
(常温及び低温での飛散防止性)
得られた積層シート又は単層シートを切削し、50mm×50mm×厚さ4.0mmの試験片(b)を得た。試験機として、デュポン衝撃試験機(コーティングテスター株式会社)を使用した。突端が半径1/4インチの半球状の撃ち型と半径1/4インチの半球状の受台とを用い、JIS-K7211-1に準拠し、計算した衝撃破壊エネルギー値が0.245Jとなる条件(具体的には錘500g、錘落下高さ50cm)で、試験を行った。試験片(b)から分離した破片数を目視にてカウントした。環境温度条件は、23℃(常温)と-40℃(低温)の2条件とした。各試験片について、各温度条件で試験を行い、下記基準にて評価した。
良(○):分離した破片数が0個。
不良(×):分離した破片数が1個以上。
【0081】
(耐衝撃性)
得られた積層シート又は単層シートを切削し、300mm×300mm×厚さ4.0mmの試験片(d)を得た。この試験片(d)について、JIS-R3212に準拠して、落球衝撃試験を行うことで耐衝撃性を評価した。23℃/相対湿度50%の環境下で4時間以上調湿したサンプルの周縁部を、水平に支持された支持枠に固定した。227g、直径38mmの表面が滑らかな鋼球を試験片の表面から2.5mの高さから静止状態で力を加えず、試験片の中央部に落下させた。この際、1枚の試験片に対する衝撃が1回限りとなるように、試験片上で弾んだ鋼球を回収した。各例で得られた積層シート又は単層シートについてそれぞれ12枚の試験片を用意し、各試験片について落球衝撃試験を実施し、試験後の試験片の外観を目視観察し、耐衝撃性を評価した。評価基準は以下の通りである。
良(○):すべての試験片で割れ及び亀裂が確認されなかった。
可(△):少なくとも1枚の試験片で割れ及び/又は亀裂が確認されたが、すべての試験片について鋼球が試験片を貫通する、所謂「抜け」が確認されなかった。
不良(×):少なくとも1枚の試験片で抜けが確認された。
【0082】
[樹脂原料]
以下の製造例、実施例、及び比較例では、以下の樹脂を用いた。
(メタクリル系樹脂(A)又は(D))
(A1)、(D1):株式会社クラレ社製「パラペット」、メタクリル酸メチル(MMA)の単独重合体(PMMA)、Mw=88000、Mw/Mn=1.9、
(D2):株式会社クラレ社製「パラペット」、メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸メチル(MA)との共重合体(MMA/MA(質量比)=86/14)、Mw=37000、Mw/Mn=1.8。
【0083】
(スチレン系熱可塑性エラストマー(B))
(B1):後記製造例1で製造した、ポリα-メチルスチレン(MSt)ブロックと水添ポリブタジン(EB)ブロックとからなるブロック共重合体(Mstブロック/EBブロック(質量比)=33/67、tanδ=-40℃、ビニル化度47モル%。
(B2):ポリスチレン(St)ブロックと水添ポリイソプレン(EP)ブロックとからなるブロック共重合体(Stブロック/EPブロック(質量比)=30/70)、tanδ=-40℃、ビニル化度0モル%。
(B3):ポリスチレン(St)ブロックと水添ポリイソプレン(EP)ブロックとからなるブロック共重合体(Stブロック/EPブロック(質量比)=20/80)、tanδ=5℃、ビニル化度55モル%。
【0084】
(多層構造ゴム粒子(C))
(C1):株式会社クラレ製のアクリル系3層構造粒子、(中心層組成:MMA/MA架橋共重合体、中間層組成:BA/St架橋共重合体、最外層組成:MMA/MA共重合体、体積基準平均粒子径=0.23μm)。
【0085】
[製造例1](スチレン系熱可塑性エラストマー(B1)の製造)
(1)窒素置換した撹拌装置付き耐圧容器内に、α-メチルスチレン(MSt)90.9g、シクロヘキサン138g、メチルシクロヘキサン15.2g、及びテトラヒドロフラン(THF)5.7gを仕込んだ。この混合液にsec-ブチルリチウムの1.3Mシクロヘキサン溶液2.1mlを添加し、-10℃で3時間重合させた(ブロックb-1)。次いで、この反応液にブタジエン4.4gを添加し、-10℃で30分間撹拌した後、シクロヘキサン930gを加えた。次に、この反応液にさらにブタジエン158.0gを加え、50℃で2時間重合反応を行った。
(2)続いて、この重合反応液に、安息香酸フェニルの0.5Mトルエン溶液2.7mlを加え、50℃にて1時間撹拌し、α-メチルスチレン(MSt)-ブタジエン-α-メチルスチレン(MSt)トリブロック共重合体を得た。H-NMR解析の結果、このトリブロック共重合体中のα-メチルスチレン(MSt)重合体ブロック含有量は33%であり、ブタジエン重合体ブロック全体(ブロックb-2)の1,4-結合量は53モル%であった。
(3)上記(2)で得られた重合反応液中に、オクチル酸ニッケル及びトリエチルアルミニウムから形成されたZiegler系水素添加触媒を水素雰囲気下に添加し、水素圧力0.8MPa、80℃で5時間の水素添加反応を行うことにより、α-メチルスチレン(MSt)-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)を得た。なお、H-NMR測定から求めた、ブタジエン重合体ブロックの水素転化率は99%であった。
【0086】
[製造例2、3](メタクリル系樹脂組成物(RA1)、(RA2)の製造)
表1に示す配合比でメタクリル系樹脂(A1)と多層構造ゴム粒子(C1)とを二軸押出機のホッパーに供給し、シリンダ温度230℃で溶融混練して押出成形し、ペレット状のメタクリル系樹脂組成物(RA1)、(RA2)を得た。
【0087】
【表1】
【0088】
[製造例4~8](スチレン系熱可塑性エラストマー組成物(RB1)~(RB5)の製造)
表2に示す配合比で熱可塑性エラストマー(B1)又は(B2)とメタクリル系樹脂(D1)又は(D2)とを二軸押出機のホッパーに供給し、シリンダ温度200℃で溶融混錬して押出成形し、ペレット状のスチレン系熱可塑性エラストマー組成物(RB1)~(RB5)を得た。
【0089】
【表2】
【0090】
[実施例1]
第1の樹脂層材料としてメタクリル系樹脂(A1)、第2の樹脂層材料としてスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)を用意した。
軸径50mmのベント式単軸押出機に、メタクリル系樹脂(A1)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度190~230℃、吐出量25kg/hrの条件にて溶融押出した。軸径30mmのベント式単軸押出機にスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度130~210℃、吐出量3kg/hrの条件にて溶融押出した。
上記の溶融状態のメタクリル系樹脂(A1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)とをジャンクションブロックに導入し、240℃に設定した幅400mmのマルチマニホールドダイより積層押出(共押出)し、100℃に設定した金属鏡面ロールと120℃に設定した金属鏡面ロールとで加圧冷却することでシート状に成形し、0.3m/minの速度にて引き取った。
以上のようにして、メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:1785μm)/スチレン系熱可塑性エラストマー(B1)からなる第2の樹脂層(厚さ:450μm)/メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:1785μm)の3層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体、総シート厚:4000μm、全体の厚さに対する2つの第1の樹脂層の合計厚さの割合:89%)を得た。得られたシートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0091】
[実施例2~4、6~9]
第1の樹脂層材料と第2の樹脂層材料を変更した以外は実施例1と同様にして、3層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体)を得た。得られたシートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0092】
[実施例5]
第1の樹脂層材料としてメタクリル系樹脂(A1)、第2の樹脂層材料としてスチレン系熱可塑性エラストマー組成物(RB3)を用意した。
実施例1と同様に、軸径50mmのベント式単軸押出機にメタクリル系樹脂(A1)のペレットを連続的に投入し、溶融押出した。軸径30mmのベント式単軸押出機にスチレン系熱可塑性エラストマー組成物(RB3)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度130~210℃、吐出量2kg/hrの条件にて溶融押出した。
上記の溶融状態のメタクリル系樹脂(A1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(RB3)とを用いた以外は実施例1と同様に、シート成形し、引き取った。
以上のようにして、メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:1840μm)/スチレン系熱可塑性エラストマー(BR3)からなる第2の樹脂層(厚さ:320μm)/メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:1840μm)の3層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体、総シート厚:4000μm、全体の厚さに対する2つの第1の樹脂層の合計厚さの割合:92%)を得た。得られたシートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0093】
[実施例10]
第1の樹脂層材料としてメタクリル系樹脂(A1)、第2の樹脂層材料としてスチレン系熱可塑性エラストマー組成物(RB2)を用意した。
軸径50mmのベント式単軸押出機にメタクリル系樹脂(A1)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度190~230℃、吐出量14kg/hrの条件にて溶融押出した。軸径30mmのベント式単軸押出機にスチレン系熱可塑性エラストマー組成物(RB2)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度130~210℃、吐出量14kg/hrの条件にて溶融押出した。
上記の溶融状態のメタクリル系樹脂(A1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(RB2)とを用いた以外は実施例1と同様に、シート成形し、引き取った。
以上のようにして、メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:1000μm)/スチレン系熱可塑性エラストマー(RB2)からなる第2の樹脂層(厚さ:2000μm)/メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:1000μm)の3層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体、総シート厚:4000μm、全体の厚さに対する2つの第1の樹脂層の合計厚さの割合:50%)を得た。得られたシートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0094】
[実施例11]
第1の樹脂層材料としてメタクリル系樹脂(A1)、第2の樹脂層材料としてスチレン系熱可塑性エラストマー組成物(RB2)を用意した。
軸径50mmのベント式単軸押出機にメタクリル系樹脂(A1)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度190~230℃、吐出量9kg/hrの条件にて溶融押出した。軸径30mmのベント式単軸押出機にスチレン系熱可塑性エラストマー組成物(RB2)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度130~210℃、吐出量21kg/hrの条件にて溶融押出した。
上記の溶融状態のメタクリル系樹脂(A1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(RB2)とを用いた以外は実施例1と同様に、シート成形し、引き取った。
以上のようにして、メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:600μm)/スチレン系熱可塑性エラストマー(B1)からなる第2の樹脂層(厚さ:2800μm)/メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:600μm)の3層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体、総シート厚:4000μm、全体の厚さに対する2つの第1の樹脂層の合計厚さの割合:30%)を得た。得られたシートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0095】
[比較例1]
第2の樹脂層材料をスチレン系熱可塑性エラストマー(B3)に変更した以外は実施例1と同様にして、3層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体)を得た。得られたシートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0096】
[比較例2]
第1の樹脂層材料としてメタクリル系樹脂(A1)、第2の樹脂層材料としてスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)を用意した。
実施例1と同様に、軸径50mmのベント式単軸押出機にメタクリル系樹脂(A1)のペレットを連続的に投入し、溶融押出した。実施例1と同様に、軸径30mmのベント式単軸押出機にスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)のペレットを連続的に投入し、溶融押出した。
上記の溶融状態のメタクリル系樹脂(A1)とスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)とをジャンクションブロックに導入し、240℃に設定した幅400mmのマルチマニホールドダイより積層押出(共押出)し、40℃に設定したエンボスロールと100℃に設定した金属鏡面ロールとで加圧冷却することでシート状に成形し、0.3m/minの速度にて引き取った。
以上のようにして、メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層(厚さ:3550μm)/スチレン系熱可塑性エラストマー(B1)からなる第2の樹脂層(厚さ:450μm)の2層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体、総シート厚:4000μm、全体の厚さに対する第1の樹脂層の厚さの割合:89%)を得た。得られたシートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0097】
[比較例3]
第1の樹脂層材料としてメタクリル系樹脂(A1)を用意した。
軸径50mmのベント式単軸押出機にメタクリル系樹脂(A1)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度190~230℃、吐出量28kg/hrの条件にて溶融押出した。この溶融状態のメタクリル系樹脂(A1)を240℃に設定した幅400mmの単層ダイより押出し、100℃に設定した金属鏡面ロールと120℃に設定した金属鏡面ロールとで加圧冷却することでシート状に成形し、0.3m/minの速度にて引き取った。
以上のようにして、メタクリル系樹脂(A1)からなる第1の樹脂層のみからなる単層シート(総シート厚:4000μm、全体の厚さに対する第1の樹脂層の厚さの割合:100%)を得た。得られた単層シートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0098】
[比較例4]
第2の樹脂層材料としてスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)を用意した。
軸径50mmのベント式単軸押出機にスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度130~210℃、吐出量28kg/hrの条件にて溶融押出した。この溶融状態のスチレン系熱可塑性エラストマー(B1)を、220℃に設定した幅400mmの単層ダイより押出し、40℃に設定したエンボスロールと120℃に設定した金属鏡面ロールとで加圧冷却することでシート状に成形し、0.3m/minの速度にて引き取った。
以上のようにして、スチレン系熱可塑性エラストマー(B1)からなる第2の樹脂層のみからなる単層シート(総シート厚:4000μm、全体の厚さに対する第1の樹脂層の厚さの割合:0%)を得た。得られたシートの各層の組成と評価結果を表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
[評価結果のまとめ]
実施例1~11では、メタクリル系樹脂(A)と、JIS-K7244-4に準拠して、周波数1.0Hzの条件で動的粘弾性測定を実施し、温度に対する損失正接(tanδ)の変化のデータを取得したとき、-60~-30℃の温度範囲内に少なくとも1つの損失正接(tanδ)のピークがある熱可塑性エラストマー(B)とを用いた。これら実施例では、メタクリル系樹脂(A)を含む第1の樹脂層が、熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層の両面に積層された3層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体)を得た。これら実施例で得られた積層シート(メタクリル系樹脂積層体)はいずれも、透明性、剛性、耐久性、及び耐衝撃性に優れ、広い温度範囲において飛散防止性を有するものであった。
【0101】
実施例1、3、4、5、6の比較又は実施例2、7の比較から、熱可塑性エラストマー(B)を含む第2の樹脂層に適切な分子量のメタクリル系樹脂を適量添加することで、積層シート(メタクリル系樹脂積層体)の透明性を向上できることが分かった。なお、第2の樹脂層に対する、過剰なメタクリル系樹脂の添加又は高分子量のメタクリル系樹脂の添加は、積層シート(メタクリル系樹脂積層体)の透明性を相対的に低下させる場合がある。
【0102】
実施例4、8、9の比較から、メタクリル系樹脂(A)を含む第1の樹脂層に多層構造ゴム粒子(C)を添加することで、積層シート(メタクリル系樹脂積層体)の耐衝撃性を向上できることが分かった。ただし、多層構造ゴム粒子(C)の過剰な添加は、積層シート(メタクリル系樹脂積層体)の耐久性を低下させる場合がある。
実施例1、10、11の比較から、総シート厚に対する2つの第1の樹脂層の合計厚さの割合が大きいほど、積層シート(メタクリル系樹脂積層体)の剛性が高くなることが分かった。
【0103】
第2の樹脂層材料として、-60~-30℃の温度範囲内に損失正接(tanδ)のピークがない熱可塑性エラストマー(B3)を用いた比較例1では、得られた積層シート(メタクリル系樹脂積層体)は、剛性、低温での飛散防止性、及び常温での飛散防止性が不良であった。
第1の樹脂層/第2の樹脂層の2層構造の積層シート(メタクリル系樹脂積層体)を製造した比較例2では、得られたメタクリル系樹脂積層体は耐久性が不良であった。
第1の樹脂層のみからなる単層シートを製造した比較例3では、得られた単層シートは低温での飛散防止性、常温での飛散防止性、及び耐衝撃性が不良であった。
第2の樹脂層のみからなる単層シートを製造した比較例4では、得られた単層シートは剛性が不良であった。
【0104】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0105】
10 メタクリル系樹脂積層体
11 第1の樹脂層
12 第2の樹脂層
図1