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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】容器詰め殻剥き茹卵
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20230816BHJP
   A23B 5/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
A23L15/00 D
A23B5/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020068709
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021164419
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋章
(72)【発明者】
【氏名】相良 昌寛
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-022408(JP,A)
【文献】特開平9-084563(JP,A)
【文献】特開2003-174850(JP,A)
【文献】特開2005-143361(JP,A)
【文献】特開平08-228722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非レトルトの容器詰め殻剥き茹卵において、
調味液を茹卵1個に対して、1~9g充填され、
-80~-99kPaで脱気密封されてなり、
前記密封物を4℃で5日間保管した後の前記調味液の20℃におけるpHが6.0~7.
5であり、
Brix値が3.0~5.5である、
容器詰め殻剥き茹卵
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰め殻剥き茹卵に関する。具体的には、保存性がありながら、保管後も
卵白部が柔らかい食感を維持することができる、容器詰め殻剥き茹卵に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、調味液漬けの茹卵や、真空包装した茹卵は販売されていたが、調味液漬けの
茹卵は、保存性を高めるために茹卵全体を十分覆うだけの調味液に浸漬する必要があるた
め、喫食時にはその調味液を廃棄する手間や、保管中に卵白が硬くなってしまうという課
題があった。
一方、真空包装の場合、調味液に浸漬する代わりに、保存性を高めるため、レトルト殺
菌等の強い加熱を行う必要があるが、やはり、このような強い加熱によっても、茹卵の卵
白は硬くなり、卵黄部も半熟状のものを作ることができなかった。
【0003】
調味液に浸漬した状態で密封容器に保存した後においても、卵白が柔らかい食感を維持
する方法としては、調味液に水難溶性カルシウム含有材料粉末を添加してあることを特徴
とする密封容器入り茹卵が提案されているが(特許文献1)、卵白部の柔らかさは十分満
足できるものではなく、調味液を廃棄する手間についても解決されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-089635
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、保存性がありながら、保管後も卵白部が柔らかい食感を維持
することができる、容器詰め殻剥き茹卵を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、非レトルトの容器詰め殻剥
き茹卵において、調味液を所定量充填し、特定の圧力で脱気され、保管後の前記調味液の
pHやBrix値が特定範囲であることで、保存性がありながら、保管後も卵白部が柔ら
かい食感を維持することができる容器詰め殻剥き茹卵が得られることを見出し、本発明を
完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)非レトルトの容器詰め殻剥き茹卵において、調味液を茹卵1個に対して、1~9g
充填され、-80~-99kPaで脱気密封されてなり、前記密封物を4℃で5日間保管
した後の前記調味液の20℃におけるpHが6.0~7.5であり、Brix値が3.0
~5.5である、容器詰め殻剥き茹卵、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存性がありながら、保管後も卵白部が柔らかい食感を維持すること
ができ、更に喫食時の液切りの手間もなく、茹卵の卵黄の状態を自由に調整することがで
きる、容器詰め殻剥き茹卵が得られることから、茹卵市場の更なる拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する
【0010】
<本発明の特徴>
本発明の特徴は、非レトルト加熱の容器詰め殻剥き茹卵において、茹卵1個に対して、
調味液が1~9g充填され、所定の圧力で脱気され、前記調味液の保管後のpHとBri
x値が特定範囲内である、容器詰め殻剥き茹卵を提供することに特徴を有する。
【0011】
<茹卵>
本発明の茹卵は、鶏卵、鶉卵、アヒル卵等の家禽類の卵を、ボイル等の方法で加熱し、
卵白が熱変性によって凝固し、殻を剥ける程度に卵白が凝固しているものであり、さらに
、殻を剥いた状態のものである。
卵黄の凝固状態は問わず、卵黄は、流動性のある液状から、完全に凝固した状態まで、
種々の状態をとることができる。
【0012】
<非レトルト>
本発明の容器詰め殻剥き茹卵は非レトルト品である。非レトルト品とは、容器詰め殻剥
き茹卵を加圧状態で100℃以上処理していないものである。したがって、本発明は、容
器に調味液と茹卵を充填した後、100℃以下で加熱または非加熱のものが含まれる。例
えば、加熱殺菌目的で加熱を行う場合は、70℃×1分間と同等以上の加熱をすればよい
【0013】
<調味液>
本発明の調味液とは、流通中の茹卵の破損を防止したり、保存性を向上させたり、調味
したりするために浸漬する液をいう。
前記調味液には、保存性向上のため、酢酸ナトリウム、グリシン等の日持ち向上剤や、
ナイシン等の保存料、クエン酸等のpH調整剤を含むことが好ましい。さらに、本発明の
効果を損なわない範囲で、砂糖、醤油、アミノ酸等の調味料類、大豆油、菜種油、コーン
油、パーム油、卵黄油等の食用油脂類、グルタミン酸ナトリウム、アミノ酸等の旨味調味
料、魚、野菜等を使用した出汁又はエキス類等を添加してもよい。
【0014】
<調味液の充填量>
本発明の容器詰め殻剥き茹卵に用いる調味液の充填量は、茹卵1個に対して1~9gで
あり、4~6gであるとより良い。調味液の充填量が1g未満であると、保存性が得られ
ず、9g超であると、保管後の卵白が硬くなり、また調味液を廃棄する手間が発生するた
め不便である。
【0015】
<調味液のpH>
本発明の容器詰め殻剥き茹卵に用いる調味液のpHは、容器に調味液と茹卵を充填し、
4℃で5日間保管した後の調味液の、20℃のときのpHを測定したものであり、そのp
Hは6.0~7.5である。さらに、6.0~7.0であるとより良い。調味液のpHが
6.0未満であると、茹卵の卵白が硬くなり、酸味がでるため風味も悪くなる。一方、p
Hが7.5超であると、保存性が悪くなる。
なお、保管前の調味液のpHは、保管後のpHよりも0.5~2.5程度低く調整すれ
ば良い。
【0016】
<調味液のBrix値>
本発明の容器詰め殻剥き茹卵に用いる調味液のBrix値は、容器に調味液と茹卵を充
填し、4℃で5日間保管後の調味液のBrix値を測定したものであり、そのBrix値
は3.0~5.5である。さらに、3.4~5.0であるとより良い。調味液のBrix
値が3.0未満であると、保存性が悪くなり、Brix値が5.5超であると、茹卵の卵
白が硬くなる。
なお、保管前の調味液のBrix値は、保管後のBrix値よりも10~30程度高く
調整すれば良い。
【0017】
<脱気>
本発明の容器詰め殻剥き茹卵は、容器に調味液と茹卵を充填後、-80~-99kPa
(ゲージ圧)の圧力で脱気される。さらに、-90~-98kPaであるとより良い。-
80kPa未満であると、保存性が悪くなる。-99kPa超であると、保存性はあるが
、卵白が硬くなる。
脱気を行うための真空包装機は、前記範囲の圧力がかけられるものであれば特に限定し
ないが、例えば、真空包装機「コンパックB420(ワタナベフーマック株式会社製)」
などを用いることができる。
【0018】
<容器>
本発明の容器詰め殻剥き茹卵に用いる容器は、材質、形状等は特に制限はない。容器の
材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)ポリエチレンテ
レフタレート(PET)等の単層材料、より好ましくは、酸素透過性の低いエチレン-ビ
ニルアルコール共重合体(EVOH)、塩化ビニリデン(PVDC)、アルミニウム、そ
の他のガスバリア材料とポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)とからなる多
層材料等が挙げられる。また、容器形状としては、例えば、パウチ等の袋状容器等が挙げ
られる。
【0019】
<容器詰め殻剥き茹卵の製造方法>
本発明の容器詰め殻剥き茹卵の代表的な製造方法を説明するが、特にこの方法に限定す
るものではない。
まず、殻付生卵を用意する。殻付生卵は必要に応じ、卵殻表面に付着した糞等を除去す
るために卵殻表面を洗浄する。卵白が熱変性により凝固し、殻を剥くことができる程度ま
で、殻付生卵を加熱し、冷却し、殻を剥いて、茹卵を得る。加熱の程度は卵の大きさや形
にもよるが、80℃~100℃で5分間~30分間程度加熱すればよく、加熱しすぎると
硫化黒変が発生してしまうので注意を要する。
また、過加熱にならないように加熱後は速やかに冷却することが望ましい。
加熱方法は、湯中加熱、蒸煮加熱、シャワー式加熱等適宜選択すればよい。
【0020】
次に、調味液を調製する。調味液は、清水や調味料等の材料とともに、均一となるよう
に、攪拌混合する。
得られた茹卵は、調製した調味液とともに容器に収容し、真空包装機を用いて、-80
~-99kPaの圧力で脱気を行い、本発明の密封容器入り茹卵とする。
また、密封後に加熱殺菌工程を入れることもできる。加熱殺菌条件としては、70℃×
1分間と同等以上の加熱をすると良く、加熱方法は湯中加熱、蒸煮加熱、シャワー式加熱
等適宜選択すればよい。
【0021】
以上のようにして得られた本発明の密封容器入り茹卵は、例えば、チルド(0~15℃
程度)で流通保管し、その賞味期間を5~30日程度とした製品とすることができる。
【0022】
以下、本発明の容器詰め殻剥き茹卵について、具体的に説明する。なお、本発明は、こ
れらに限定するものではない。
【実施例
【0023】
[実施例1]
殻付生卵(鶏卵、Mサイズ)を沸騰した湯に投入し、9分間加熱した後、4℃程度の冷
水にて冷却し、殻を剥き、茹卵を得た。
調味液は、下記の配合表の原料を攪拌機で攪拌混合し、調製した。
次に、茹卵1個と調味液5gを、ポリ製のパウチに充填し、-98kPaの圧力で脱気
し(真空包装機「コンパックB420(ワタナベフーマック株式会社製)」)、密封包装
をして、本発明の容器詰め殻剥き茹卵を得た。
その後、4℃の冷蔵庫で5日間保管し、保管後の調味液のpHとBrix値を測定した
ところ、pHは6.7、Brix値は4.4であった。
【0024】
[配合]
【0025】
[試験例1]
調味液の充填量による、卵白の硬さや保存性への影響を確認した。
具体的には、調味液の充填量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にし
て、実施例2~3及び、比較例1の容器詰め殻剥き茹卵を得た。
実施例2~3及び、比較例1の容器詰め殻剥き茹卵の調味液のpHとBrix値は実施
例1と同程度であった。
【0026】
得られた実施例1~3及び、比較例1の容器詰め殻剥き茹卵の硬さと保存性を下記の評
価基準に従って評価した。結果は表1に示す。
【0027】
[評価基準(卵白の硬さ)]
〇:調味液につける前と同程度の卵白の柔らかさであった。
△:調味液につける前よりやや硬さを感じたが、問題のない範囲であった。
×:調味液につける前よりも非常に硬かった。
【0028】
[評価基準(保存性)]
〇:10~30日間の保存性であった。
△:5~9日間の保存性であった。
×:5日未満の保存性であった。
【0029】
[表1]
【0030】
表1の結果より、調味液の充填量が多くなるほど卵白が硬くなる傾向があることが分か
る。一方、保存性は調味液の充填量が少ないほど悪くなることが分かる。
【0031】
[試験例2]
調味液のpHの違いによる、卵白の硬さや保存性への影響を確認した。
具体的には、調味液の食酢の配合量を調整し、表2に記載のpHに変更した以外は、実
施例1と同様にして、実施例4~6及び、比較例2の容器詰め殻剥き茹卵を得た。
実施例4~6及び、比較例2の容器詰め殻剥き茹卵の調味液のBrix値は実施例1と
同程度であった。
【0032】
得られた実施例4~6及び比較例2の容器詰め殻剥き茹卵の硬さと保存性を試験例1と
同じ評価基準で評価した。結果は表2に示す。
【0033】
[表2]
【0034】
表2の結果より、調味液のpHが6.0未満であると卵白が硬くなり、保存性について
は、調味液のpHが高くなると低下する傾向にあり、卵白が柔らかく、保存性も十分得ら
れるpHは6.0~7.0であることが分かる。
【0035】
[試験例3]
調味液のBrix値の違いによる、卵白の硬さや保存性への影響を確認した。
具体的には、表3に記載のBrix値に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施
例7、8及び、比較例3の容器詰め殻剥き茹卵を得た。
実施例7、8及び、比較例3の容器詰め殻剥き茹卵のpHは実施例1と同程度であった
【0036】
得られた実施例7、8及び、比較例3の容器詰め殻剥き茹卵の硬さと保存性を試験例1
と同じ評価基準で評価した。結果は表3に示す。
【0037】
[表3]
【0038】
表3の結果から、調味液のBrix値が3~5.5であると卵白の柔らかさと保存性が
得られることが分かる。さらに、3.4~5.0であるとより良いことが分かる。
【0039】
[試験例4]
脱気する圧力の違いによる、卵白の硬さや保存性への影響を確認した。
具体的には、実施例1の茹卵と調味液を用いて、脱気の圧力を表4に記載の圧力に変更
し、実施例9及び10の容器詰め殻剥き茹卵を得た。
【0040】
得られた実施例9及び10の容器詰め殻剥き茹卵の硬さと保存性を試験例1と同じ評価
基準で評価した。結果は表4に示す。
【0041】
[表4]
【0042】
表4の結果から、脱気の圧力が-80~-99kPaの圧力であると卵白が柔らかく、
保存性も得られることが分かる。
【0043】
以上より、調味液の充填量が茹卵1個に対して1~9gであり、-80~-99kPa
で脱気され、4℃で5日間保管した後の調味液のpHが6.0~7.5かつ、Brix値
が3.0~5.5であることで、卵白が柔らかく、保存性のある容器詰め殻剥き茹卵が得
られることが分かる。