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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】Liイオンバッテリー用の正極スラリー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1391 20100101AFI20230816BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230816BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230816BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/62 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020544766
(86)(22)【出願日】2019-02-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019053253
(87)【国際公開番号】W WO2019162119
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】18158504.3
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-レ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブリーデル
(72)【発明者】
【氏名】スル-ヒ・ミン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-ジュ・イ
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-082050(JP,A)
【文献】特開2000-208148(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104679(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221554(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/066637(WO,A1)
【文献】特開2015-168610(JP,A)
【文献】国際公開第01/013443(WO,A2)
【文献】特開2012-023015(JP,A)
【文献】国際公開第2017/124859(WO,A1)
【文献】水酸化ナトリウム安全性データシート(2017年12月14日作成),キシダ化学,2023年04月11日,http://www.kishida.co.jp/product/catalog/msds/id/11490/code/000-75165j.pdf
【文献】水酸化ナトリウム安全性データシート(2023年3月22日改訂),富士フイルム和光純薬株式会社,2023年04月11日,URL:labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-1887JGHEJP.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式バッテリーの製造に使用される正極スラリー化混合物であって、前記混合物が、
リチウム金属系酸化物を含む正極活物質であって、前記リチウム金属系酸化物中の金属が、Ni、Mn、Al、及びCoのうちの1つ以上を含む、正極活物質と、
炭素系導電性エンハンサと、
極性非プロトン性溶媒と、
前記極性非プロトン性溶媒に可溶性であるバインダー物質と、を含み、前記混合物が、重量%未満の含水量を有する粉末状水酸化アルカリ化合物を更に含み、
前記水酸化アルカリ化合物は、NaOH、KOH、又はこれらの混合物であることを特徴とする、正極スラリー化混合物。
【請求項2】
前記バインダー物質が非水溶性である、請求項1に記載のスラリー化混合物。
【請求項3】
前記バインダー物質が、PVDF、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-コ-HFP)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はこれらの混合物のうちのいずれか1つである、請求項1又は2に記載のスラリー化混合物。
【請求項4】
前記極性非プロトン性溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル(EtOAc)、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びプロピレンカーボネート(PC)のうちのいずれか1つである、請求項1~3のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項5】
前記粉末状水酸化アルカリ化合物の含水量が、0.3重量%未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項6】
前記水酸化アルカリ化合物が、NaOHである、請求項1~5のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項7】
前記混合物中の前記水酸化アルカリ化合物の含有量が、前記混合物中の固形分の総含有量に対して0.01~5重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項8】
前記混合物中の固形分の総含有量に対して1重量%未満の含水量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項9】
前記リチウム金属系酸化物が、α-NaFeO型層状構造を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項10】
前記リチウム金属系酸化物が、Co及びNi、並びにAl及びMnのうちのいずれか一方又は両方を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項11】
前記リチウム金属系酸化物が、一般式Li(N1-yN’2-x、[式中、0.9≦x≦1.1、0≦y<0.1であり、Nは、Mn、Co、及びNiのうちの1つ以上であり、N’は、Mg、Al、及びTiのうちの1つ以上である]を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項12】
前記N1-yN’が、Ni、Co、及びAlで構成される、又はNi、Co、及びMnで構成される、請求項11に記載のスラリー化混合物。
【請求項13】
前記炭素系導電性エンハンサが、グラファイト、アセチレンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、及びカーボンブラック、又はこれらの混合物のうちのいずれか1つである、請求項1~12のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項14】
前記混合物中の固形分の総含有量が、65~75重量%である、請求項1~12のいずれか一項に記載のスラリー化混合物。
【請求項15】
リチウム二次バッテリー用の正極を調製する方法であって、
粉末状正極活物質、炭素系導電性エンハンサ、極性非プロトン性溶媒に溶解したバインダー物質、及び重量%未満の含水量を有する水酸化アルカリ化合物の混合物を準備する工程と、
前記極性非プロトン性溶媒を更に添加して前記混合物を混合し、それによってスラリー化混合物を得る工程と、
前記スラリー化混合物を集電体上にコーティングする工程と、
前記コーティングされたスラリー化混合物を、真空オーブン内で85~120℃で乾燥させる工程と、を含み、
前記水酸化アルカリ化合物は、NaOH、KOH、又はこれらの混合物である、方法。
【請求項16】
前記混合物が、85~95重量%の粉末状正極活物質、2~5重量%のバインダー物質、2~5重量%の炭素系導電性エンハンサ、及び0.01~5重量%の水酸化アルカリ化合物の固形分の組成を有し、前記固形分の組成が合計100重量%になる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記正極活物質が、一般式Li(N1-yN’2-x[式中、0.9≦x≦1.1、0≦y<0.1であり、Nは、Mn、Co、及びNiのうちの1つ以上であり、N’は、Mg、Al、及びTiのうちの1つ以上である]を有する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記極性非プロトン性溶媒が、N-メチル-2-ピロリドンである、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式リチウムバッテリーの調製における正極スラリー組成物に関する。より具体的には、正極スラリーは、リチウム遷移金属系酸化物及び添加剤を含有し、サイクル寿命(特に高温における)、内部抵抗、ひいては電力挙動の面でフルセルに利点をもたらす。
【背景技術】
【0002】
層状リチウム金属酸化物は、主に高容量であるという理由から、リチウムイオンバッテリー用の商業用カソード材料として広く使用されている。しかしながら、近年、ポータブル電子デバイス、電気自動車、及び他の新興プラットフォーム(例えば、動力工具)におけるリチウムイオンバッテリーの使用の増加に伴い、良好な電力性能及び良好なサイクル安定性を有するバッテリーが強く求められている。典型的な層状酸化物としては、リチウムコバルト酸化物(LCO)及びリチウムニッケル系酸化物(リチウムニッケル-マンガン-コバルト酸化物又はNMC、及びリチウムニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物又はNCA)が挙げられる。サイクル寿命性能及び電力性能は、標準セルで直接測定することができる。内部抵抗は、電力性能特性を決定する重要なパラメータである。抵抗が低くなるほど、必要な電力を供給する際にバッテリーに生じる制限は少なくなる。よって、バッテリーの寿命の間、内部抵抗の増加は少なくすべきである。内部抵抗又は直流抵抗(Direct Current Resistance)(DCR)は、バッテリーに好適なパルス試験を行うことにより測定される。DCRの測定については、例えば、「Appendix G,H,I and J of the USABC Electric Vehicle Battery Test Procedures」に記載されており、http://www.uscar.orgで見ることができる。USABCとは、「US advanced battery consortium」の略であり、USCARとは、「United States Council for Automotive Research」の略である。
【0003】
Liイオンバッテリーの電力性能を向上させるために、特に正極側のセルの内部抵抗の低減を試みる多くのアプローチがなされてきた。主なアプローチの1つは、正極活物質の金属ドーピングである。特に、いくつかの特許は、比較的重い金属によるドーピングを開示した。米国特許出願公開第2007/0212607号では、リチウムイオンバッテリーの直流抵抗特性を向上させるためのLi1+x(NiCoMn1-y-z1-xのZr及びNbドーピングを開示している。米国特許出願公開第2012/0276446号では、同じタイプのNMC材料のMo、Ta及びWドーピングが開示されており、これはバッテリーの直流抵抗を減少させる。これらの重金属元素は、四価、五価又は六価状態などの高原子価状態を有することができ、様々なリチウム対金属比で、Liと多くの酸化物を形成することができる。正極活物質中にこれらの元素をドーピングすることによって、リチウム重金属酸化物を正極材料の表面上に形成させることができ、よってこのリチウム重金属酸化物がLi拡散を助け、電解質との副反応を抑制するのに役割を果たし、このことによりバッテリーの内部抵抗は更に減少し得る。それにもかかわらず、このアプローチは、重元素の添加によってカソードエネルギー密度の低下、及びコストの増加をもたらす。別の関連するアプローチは、米国特許出願公開第2015/0021518号に記載されているように、リチウム重金属酸化物を正極のスラリー中に添加するというものである。数モル%のタングステン酸リチウム(lithium tungsten oxide)をスラリーに添加することにより、対応するNMC及びNCA/炭素セルの初期直流抵抗は減少する。しかしながら、サイクル中のこれらのセルの直流抵抗の増加は重要である。
【0004】
国際公開第2001/013443号では、LMO(LiMn)粒子のそれぞれの一部を形成する水酸化リチウムの分解生成物によって、リチウムが豊富なスピネルリチウムマンガン酸化物LMOの粒子を含む電極活物質を開示している。スピネルLMO生成物は、表面積の低減及び容量保持率の増加(容量低下の低減)によって特徴付けられる。Li富化スピネル物質を得るプロセスでは、LMOは、好適な溶媒中の水酸化リチウムの溶液又は懸濁液に添加される。好適な溶媒としては、水、又はメタノール、エタノールなどのアルコールが挙げられる。水酸化リチウムは、約200℃の温度で最大約16時間、空気中で予め乾燥させる。その後、混合物を加熱に供する。この加熱工程は、LMOの個々の粒子の表面上の水酸化リチウムの分解を開始するのに十分高い温度で行われる。温度は、水酸化リチウムを本質的に完全に分解して、リチウム富化スピネルを残すのに十分高いことが好ましい。加熱は、LMO上に水酸化リチウムを熱分解するのに十分な時間にわたって行われる。加熱工程は、約300~500℃の範囲の温度で都合よく実行される。この工程の後、乾燥した表面処理LMOは、EC、DMC、DECなどの溶媒中でバインダー及び導電助剤(炭素)と混合した後、電極(elecrode)キャリア上のフィルムとしてキャストされる。
【0005】
更なる先行技術としては、欧州特許第2523240号があり、これは、リチウム遷移金属化合物粉末の製造方法を開示しており、この方法は、リチウム化合物と、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuから選択される少なくとも1つの遷移金属の化合物と、As、Ge、P、Pb、Sb、Si、及びSnからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む構造式によって表される化合物とを液体媒体中で粉砕して、その中に均一に分散させたこれらの化合物を含有するスラリーを調製する工程と、スラリーが噴霧乾燥される噴霧乾燥工程と、得られた噴霧乾燥粉末が酸素含有ガス雰囲気中で950℃以上で燃焼する燃焼工程と、を含む。また、米国特許出願公開第2017/0207442号があり、これは、バッテリー電極を調製する方法を提供し、この方法は、
1)水を含み、約2.0~約7.5のpHを有する第1の水溶液中の活バッテリー電極物質を前処理して、第1の懸濁液を形成する工程と、
2)第1の懸濁液を乾燥させて、前処理された活バッテリー電極物質を得る工程と、
3)前処理された活バッテリー電極物質、導電助剤、及びバインダー物質を第2の水溶液中に分散させて、スラリーを形成する工程と、
4)ホモジナイザーによってスラリーを均質化して、均質化されたスラリーを得る工程と、
5)均質化されたスラリーを集電体上に適用して、集電体上にコーティングされたフィルムを形成する工程と、
6)集電体上にコーティングされたフィルムを乾燥させて、バッテリー電極を形成する工程と、を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、活物質として層状リチウム金属酸化物及びPVDFなどの従来のバインダー物質を含有する正極系であって、バッテリーのサイクル及び保管中に電極が有する内部抵抗が低く、同時に高温でも高容量及び改善されたサイクル寿命を維持する、正極系を更に開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様から見て、本発明は、充電式バッテリーの製造に使用される正極スラリー化混合物であって、該混合物が、
リチウム金属系酸化物を含む正極活物質であって、このリチウム金属系酸化物中の金属が、Ni、Mn、Al、及びCoのうちの1つ以上を含む、正極活物質と、
炭素系導電性エンハンサと、
極性非プロトン性溶媒に可溶性であるバインダー物質と、を含み、この混合物が、5重量%未満の含水量を有する粉末状水酸化アルカリ化合物を更に含むことを特徴とする、スラリー化混合物を提供することができる。スラリー化混合物は、混合物中の固形分の総含有量に対して1重量%未満の含水量を有し得る。実験は、水酸化アルカリの内部含水量が、他のスラリー構成成分中に加えて存在する水よりも重要であるが、粘度に所望の効果を得るためには、スラリー中の総含水量を制限することが重要であり得ることを示す。異なる実施形態では、リチウム金属系酸化物は、Ni及びCo、並びにMn及びAlのうちのいずれか一方又は両方を含み得、又はリチウム金属系酸化物は、α-NaFeO型層状構造を有し得る。
【0008】
水酸化アルカリ化合物は、LiOH、NaOH、及びKOHのうちのいずれか1つであってもよい。一実施形態では、バインダー物質は非水溶性である。別の実施形態では、バインダー物質は、PVDF、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-コ-HFP)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はこれらの混合物のうちのいずれか1つである。更なる実施形態では、スラリー化混合物は、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル(EtOAc)、アセトン、ジメチルホルムアミド(dimethyformamide)(DMF)、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びプロピレンカーボネート(PC)のうちのいずれか1つである極性非プロトン性溶媒を更に含む。
【0009】
これらの実施形態では、粉末状水酸化アルカリ化合物の内部含水量又は構造含水量は、1重量%未満、又は更には0.3重量%未満であることが好ましい場合がある。最適な含水量は、標準グレードLiOHを乾燥させるコストと、スラリー粘度を低下させる際の乾燥LiOHの効率とのバランスの結果であり得る。また、電極組成物中の水酸化アルカリ化合物の含有量は、混合物中の固形分の総含有量に対して0.01~5重量%、又は0.01~1重量%、好ましくは0.02~0.3重量%であってもよい。これらの好ましい量は、下限を規定することによって所望の効果を保証するものであり、使用量を可能な限り低く維持して、材料及び取り扱いコストを低くする。過度に多くの水酸化物化合物が添加されると、電極の容量が低下する。
【0010】
これらの異なる実施形態では、リチウム金属系酸化物は、一般式Li(N1-yN’2-x[式中、0.9≦x≦1.1、0≦y<0.1であり、Nは、Mn、Co、及びNiのうちの1つ以上であり、N’は、Mg、Al、及びTiのうちの1つ以上である]を有し得る。一実施形態では、Nは、Co及びNi、並びにAl及びMnのうちのいずれか一方又は両方を含む。このような物質の結晶構造は、α-NaFeO型層状構造(R3m空間群)である。LiCoO及びLiNiOの結晶構造はまた、上述の構造に属する六方晶系に属している。より具体的には、リチウム金属系酸化物の式は、Li1+x’(Ni1-y’-z’Mny’Coz’1-x’[式中、-0.03≦x’≦0.10、0.1≦y’≦0.4、及び0.1≦z’≦0.4である]であってもよい。更に、炭素系導電性エンハンサは、グラファイト、アセチレンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、及びスーパーP、又はこれらの混合物のうちのいずれか1つであり得る。
【0011】
前述の実施形態のスラリー化混合物は、0.1s-1の剪断速度で100Pa・s未満、好ましくは70Pa・s未満の粘度を有し得る。また、スラリー化混合物は、10s-1の剪断速度で10Pa・s未満、好ましくは5Pa・s未満の粘度を有し得る。最後に、スラリー化混合物は、スラリー化混合物を加湿チャンバに少なくとも3日間保持したときに粘度が上昇しない場合がある。これらの境界は、意図される発明の目標に到達するのに有効であることが実験的に結論付けられている。スラリー中の固体分画の分散が改善されると、通常の固形分含有量よりも高い、すなわち、スラリー化混合物中に最大70重量%又は更には75重量%(標準含有量は65重量%未満である)の固形分を有するスラリーを工業的に取り扱うことが可能になる。
【0012】
第2の態様から見て、本発明は、リチウム二次バッテリー用の正極を調製する方法であって、
粉末状正極活物質、炭素系導電性エンハンサ、極性非プロトン性溶媒に溶解したバインダー物質、及び5重量%未満の含水量を有する水酸化アルカリ化合物の混合物を準備する工程と、
極性非プロトン性溶媒を更に添加してこの混合物を混合し、それによってスラリー化混合物を得る工程と、
スラリー化混合物を集電体上にコーティングする工程と、
コーティングされたスラリー化混合物を、真空オーブン内で85~120℃で乾燥させる工程と、を含む、方法を提供することができる。したがって、本方法は、本発明の第1の態様で定義されるように、スラリー化混合物を使用して、正極を提供することができる。この方法では、この混合物は、80~95重量%の粉末状正極活物質、2~5重量%のバインダー物質、2~5重量%の炭素系導電性エンハンサ、及び0.01~5重量%の水酸化アルカリ化合物の固形分の組成を有し得、固形分の組成が合計100重量%になる。また、正極活物質は、一般式Li(N1-yN’2-x[式中、x=0.9~1.1、0<y<0.1であり、Nは、Mn、Co、及びNiのうちの1つ以上であり、N’は、Mg、Al、及びTiのうちの1つ以上である]を有し得る。一実施形態では、極性非プロトン性溶媒は、電子グレードのN-メチル-2-ピロリドンであり、別の実施形態では、水酸化アルカリ化合物は、バッテリーグレードのLiOH・HOである。スラリー化混合物は、スラリー化混合物中の固形分の総含有量に対して1重量%未満の含水量を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】25℃及び45℃での、実施例1(黒色ドット)対反例1(灰色三角形)のフルセル試験。容量%(軸A)対サイクル数(軸B)
図2】25℃及び45℃での、実施例1(黒色ドット)及び反例1(灰色三角形)のフルセルにおけるDCRの進展。DCR増加(軸A)対サイクル数(軸B)
図3】25℃での、実施例1(黒色ドット)対反例1(灰色三角形)のフルセルにおける放電レート性能。二重対数スケールでの、容量%(軸A)対適用電流(Cレート)(軸B)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、バッテリー内で現実的に発生する室温及び高温の両方の使用温度におけるバッテリーのサイクル及び改善した電力挙動中に、低い内部抵抗、高容量、改善された安定性を維持することができる、充電式リチウムイオンバッテリー用の正極を製造するためのスラリー及び方法を提供する。本発明の利点を得るための重要な点は、特定の添加剤をスラリーに別々に組み込むことによる、又は活物質との添加剤のブレンドとしてスラリー中に供給することによる、電極スラリー組成物中の好適な添加剤の使用である。米国特許出願公開第2016/0365571号に示されるように、このようなスラリー又はペースト又はインクは通常、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダー、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性非プロトン性溶媒、及び導電性を向上させるためのカーボンブラックなどの添加剤を含有する。本発明では、追加の添加剤が添加される。添加剤は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、若しくは水酸化カリウムなどの粉末状アルカリ金属水酸化物、又はこれらの混合物である。添加剤は、電極組成物中に十分に分散しているため、混合物中の離散したアルカリ金属水酸化物粒子は、他の構成成分と密接に接触している。
【0015】
先行技術として言及した国際公開第2001/013443号に関して、カソード材料の表面上のLiOHと電解質との間で化学反応が発生し得、主にHF媒介反応によってCOが生成することが知られている。これは、例えば、Journal of Materials Science 48(24)December 2013,pp.8457-8551の「Mechanism of gas evolution from the cathode of lithium-ion batteries at the initial stage of high-temperature storage」で説明される。したがって、LiOHは、リチウムイオンバッテリーの望ましくない膨張及び歪みを引き起こす高温でのガス形成に部分的に関与することが知られているため、カソード電極におけるLiOHの添加は、当初は興味深いものではなかった。しかしながら、本発明では、LiOHは、電極インク中の活物質及び炭素の分散を最適化するためにスラリー調製中に添加され、結果として、バインダーポリマー分子による粒子の被覆率を最適化する。結果として、水酸化物の主要部分は、表面とバインダーとの間に保持されるため、電解質と接触せず、その後ガス形成が制限される。
【0016】
本発明の明白な効果を達成するために、本発明者らは、正極を調製するために使用されるスラリーの粘度と、本発明が達成しようとするバッテリーの改善された電気化学的特性との間の関係を綿密に研究した。カソードスラリーの粘度は、電極の将来の性能の良好な指標であることが見出されている。予想され得るように、十分に分散した物質は、粘度に直接影響を及ぼす。活物質の粒子及び導電性添加剤が凝集しない場合、粘度が粒子クラスタのサイズに関連するため、これにより粘度が改善される。低剪断速度での低粘度は、粒子の良好な分散を示し、その結果、電極内に非常に均質な粒子分散体及び最適な電子ネットワークをもたらす。したがって、本発明は、異なる粒子の完全な分散を示し、かつ容易な電極キャスティングプロセスを保証する、改善された粘度を有する正極スラリー組成物を提供することができる。
【0017】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、これを以下のように説明することができると考えている:水に水酸化物を添加すると、浸漬粒子のゼータ電位が変化することが知られている。このゼータ電位は、互いに相互に反発する、その表面上に集中した正電荷又は負電荷の存在に起因して、水中の粒子の分散度に影響を与える。一般的にPVDF系バインダーを溶解するために通常使用されるNMPなどの極性非プロトン性溶媒の場合、ゼータ電位は、定義するのがより複雑である。それにもかかわらず、本発明者らは、活物質及び導電助剤(黒色カーボン又はナノチューブなど)の分散は、はるかに改善されると考えている。水酸化物は、NMP又は任意の他の極性非プロトン性溶媒中で解離及び可溶化される。LiOHなどの水酸化物の添加が、この効果を有し得ることは、明らかではなかった。それにもかかわらず、LiOHを添加することにより、NMP中の活物質及び炭素のスラリーの粘度低下が観察されたことは、分散液の改善を明確に実証している。理論上の説明では、インク調製中、水酸化物が有機溶媒(NMP)中に可溶化された後、OHイオンがカソード材料の表面及び炭素添加剤と相互作用して入り、OHの「湿潤」シェル又は活性カソード粒子の周囲にOH中で高度に濃縮された層を形成する。このシェルは、各粒子の分散を改善するだけでなく、おそらくバインダーの相互作用粒子も改質することになるが、これは、水酸化物分子の「位置」が、後続の乾燥工程中に維持され、その間、バインダーは粒子に次第により近くなり、粒子もまた互いに近くになるためである。したがって、OHは、おそらくLiと溶液中で析出するが、2つの粒子間及び粒子とバインダー鎖との間に徐々にトラップされる。実際に、粒子の周囲の溶媒和シェル内の電荷分布のために、OHはトラップされる可能性が最も高く、バッテリーが組み立てられる際に、少なくとも大部分の水酸化物が電解質と直接接触しない。
【0018】
LiOHは、水との任意の負の相互作用を回避するのに十分に乾燥している必要があることが判明した。これは、水がHF媒介反応においてLiF(Liイオン毒として知られる)の形成のための触媒として作用するためである。標準(「乾燥していない」)グレードのLiOH・HOを使用する場合(LiOH含有量が55~56.5重量%のみであり、残りが結晶水(不可避不純物以外)である)の、NMP中における大量の水の存在は、実施例で実証されるように、固形分物質の分散を可能にしない。
【0019】
スラリーの粘度を低下させるために、過去に多くのアプローチが公開されていることに言及しなければならない。KR2015-0025665は、イオン特性の主鎖及び非イオン性界面活性剤特性の側鎖を含むコポリマーを、正極スラリー中の分散剤として添加することにより、カソード材料及び導電助剤の分散性が向上することを教示している。米国特許出願公開第2015-0364749号では、混合物質の安定状態を維持しながら、完全なゼータ電位を有する電極活物質及び導電助剤分散体を開示し、その後、電極活物質分散体と導電助剤分散体とを混合して、電極活物質スラリーを調製し、これにより、従来の方法と比較して、電極活物質スラリー内に電極活物質と導電助剤とを均一に分散させることができる効果を有する。これらの先行技術文献は、水系スラリー中の分散剤の添加に関連する。有機(NMP)系スラリー中の分散の改善はより困難であり、この場合の分散を改善する方法を説明する開示は、先行技術において見出されなかった。
【0020】
実験では、最も一般的なスラリー成分を使用した。すなわち、正極活物質、NMPに溶解したPVDFバインダー、及びカーボンブラックを導電助剤として使用した。PVDFの代わりに、他の既知のバインダー、例えば(限定するものではない)、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-コ-HFP)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はこれらの混合物を使用できることは明らかである。また、NMPの代わりに、他の極性非プロトン性溶媒、例えば(限定するものではない)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル(EtOAc)、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びプロピレンカーボネート(PC)を使用できる。炭素系導電性エンハンサとしては、カーボンブラック系導電性物質、例えば、グラファイト、若しくはアセチレンブラック、若しくは炭素繊維、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、スーパーP、又はこれらの混合物を使用してもよい。
【0021】
本発明は、フルセル調製中に、水酸化アルカリが正極のスラリーに添加される場合、1-得られたスラリーは、低剪断速度でより低い粘度を有し、2-そのスラリーから得られるセルは、室温での、より具体的には、高温での充放電中にはるかに良好な容量保持率(又はサイクル安定性)を示し、これらは、改善されたDCR及び高い放電率でより良好な容量を有することが観察される。水酸化物は、スラリーを乾燥して有機溶媒を排除した後に、集電体上にコーティングされた電極組成物中に残る。
【0022】
本発明による添加剤粒子は、5重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満の含水量を有する、LiOH、NaOH、又はKOHなどのアルカリ金属水酸化物(MaOH)粒子として説明することができる。「乾燥」アルカリ金属水酸化物は、LiOH・HO中の55~56重量%のLiOHの含有量を有する標準グレードを150℃で12時間乾燥させることによって得られる。99.0又は99.3重量%のLiOH含有量を有する商業用バッテリー又は高純度LiOHグレードも、例えば、Targrayから入手可能である。これらは、500ppm未満、又は300ppm未満、又は更には≦200ppmまでの含水量を有する。アルカリ金属水酸化物粉末は、アグロメレーションを回避し、粗分画>500pmを排除するために、使用する前に粉砕されてもよく、10~50pmのD50を有する粉砕された粉末を得ることができる。粉砕操作中、結晶水は分解されない。また、スラリー中への添加直前にLiOHを乾燥させて、水の再凝縮を回避することについて言及することも重要である。本発明による添加剤粒子は、正極スラリー中に別個の相として分散させることができ、又は添加剤粒子は、スラリー中への組み込みの前に、カソード活物質と穏やかにブレンドすることができる。本発明による活物質及び添加剤を含有する電極スラリーは、溶媒、バインダー及び導電性添加剤を更に含有し、「An effective mixing for lithium ion battery slurries」、Advances in Chemical Engineering and Science,2014,4,515-528においてLiuらに論じられているものなどの従来の手段を使用して調製することができる。スラリーは既知の方法によって集電体上にコーティングする。
【0023】
特定の実施形態では、本発明において正極は、(溶媒の蒸発後に)以下を含む:
式Li(N1-yN’2-x[式中、x=0.9~1.1、0≦y<0.1であり、Nは、Mn、Co、及びNiのうちの1つ以上であり、N’は、Mg、Al、及びTiのうちの1つ以上である]の活物質;
0.01重量%~1重量%、好ましくは0.02重量%~0.3重量%の、前述の式MOHの添加剤;
約5重量%の、典型的には導電性カーボンブラックである炭素;
約5重量%~10重量%未満の、典型的にはPVDFであるフッ素化ポリマー;
一般にAl箔である集電体。
【0024】
重量%は、集電体上にコーティングされた材料の総重量に対して表される。この正極は、初期抵抗が低いこと及びサイクル中の抵抗増加が少ないことの両方、並びに高容量及び長いサイクル寿命が有益である、充電式リチウムイオンバッテリーにおいて使用することができる。
【0025】
以下の説明では、実施例におけるフルセルの形成方法及びそれらの分析方法を詳述する:
【0026】
A)フルセルの作製
650mAhパウチ型セルを、以下の2工程:I.スラリー作製及びコーティング、並びにII.フルセルの組み立て、により作製する。
【0027】
I.スラリー作製及びコーティング
スラリーは、700gの量産カソード材料粉末(例えば:NMC111(Li1.09[Ni0.34Mn0.33Co0.330.91))(Umicore KoreaからのCellcore(登録商標)グレード)と、47.19gのスーパーP(登録商標)(Denkaの導電性カーボンブラック)と、393.26gの10重量%PVDF系バインダーとを、NMP溶液中で混合することによって調製する。混合物を、遊星ミキサー中で2.5時間混合する。混合中に追加のNMPを添加し、更に0.05重量%の本発明の添加剤を添加する。混合物をDisperミキサー(Dispermat(登録商標))に移し、更にNMPを添加しながら1.5時間混合する。使用されるNMPの典型的な総量は、約425gである。このスラリー中の最終固形分含有率は約65重量%である。スラリー粘度は、以下に記載の方法に従って測定される。スラリーをコーティングラインに移し、ここで集電体の両側にコーティングされた電極が作製される。電極表面は平滑であり、その充填量は9.6mg/cmである。電極を、ロール圧縮機によって圧縮し、約3.2g/cmの電極密度を得る。電極を使用して、後述するパウチセル型フルセルを調製する。
【0028】
上記のデータから、典型的なスラリーは、約790gの固形分及び425gのNMPを含有すると推定することができる。リチウム二次バッテリー産業で使用される電子グレードのNMPの仕様は、安全上の理由から、300ppm未満の含水量であるが、実際には測定された含有量は≦100ppmであり、40ppmの低さであってもよい。スラリー中の固形分の総含有量に対して表すと、NMPによる含水量の寄与は、最大で160ppmに相当し、より典型的には100ppm未満である。スーパーP(登録商標)は、固形分中に添加される量について<0.1重量%のHOの仕様を有し、スラリー中の含水量に対する導電性炭素からの最大寄与は、固形分の総含有量に対して約65ppmである。量産カソード材料粉末は、300ppmの最大含水量を有し、典型的な含有量は約150ppmである。その標準組成に基づいて、スラリー化混合物は、好ましくは、添加剤がその所望の効果を有するための混合物中の固形分の総含有量に対して、1重量%未満の含水量を有し得る。
【0029】
II.フルセルの組み立て
フルセル試験の目的のために、作製した正極(カソード)を、通常はグラファイト型炭素である負極(アノード)、及び多孔性電気絶縁膜(セパレータとして)と共に組み立てる。フルセルは、以下の主要工程により作製される。
a)電極のスリット加工:スラリーコーティングの後、電極活物質はスリッターによりスリット加工され得る。電極の幅及び長さを、バッテリー用途に応じて決定する。
b)タブの取り付け:2種類のタブが存在する。アルミニウムタブを正極(カソード)に取り付け、銅タブを負極(アノード)に取り付ける。
c)電極の乾燥:作製した正極(カソード)及び負極(アノード)を、85℃~120℃で8時間、真空オーブン内で乾燥する。
(d)ジェリーロール巻き取り:電極を乾燥した後、巻き取り機を使用してジェリーロールを作製する。ジェリーロールは、少なくとも負極(アノード)、多孔性電気絶縁膜(セパレータ)及び正極(カソード)からなる。
(e)パッケージング:作製したジェリーロールを、アルミラミネートフィルムパッケージを用いて650mAhのセル中に組み込み、パウチセルとする。更に、非水電解液を室温で8時間含浸させる。バッテリーはその理論容量の15%で予備充電し、やはり室温で1日エージングする。次いで、真空下にて30秒間、バッテリーをガス抜きし、アルミニウムパウチを密閉する。
f)形成:密閉されたバッテリーを以下のとおり使用するために作製する:CC/CVモード(定電流/定電圧)で0.25Cの電流(1C=650mA)を使用して、カットオフ電流C/20の終止条件で、4.2Vまでバッテリーを充電する。次に、CCモードで0.5Cレートで2.7Vのカットオフ電圧までバッテリーを放電する。最後に、CC/CVモードで0.5CのCレートで4.2Vまでバッテリーを再び充電する。形成工程の後、SOC(充電状態)が100%のフルセルは「新品のセル」とみなされ、下記の「フルセルサイクル試験」に使用することができる。
【0030】
B)フルセルサイクル試験
「形成」工程(f))後のリチウムフルセル二次バッテリーを、25℃及び45℃の両方で、以下の条件下で数回充電及び放電して、それらの充放電サイクル性能を測定する。
CCモードにて1Cのレートで4.2Vまで、次にCVモードにてC/20に到達するまで、充電を実施する。
次にセルを10分間休ませる。
CCモードにて1Cレートで、2.7Vまで放電を行う。
次にセルを10分間休止させる。バッテリーの保持容量が約80%に達するまで充放電サイクルを続ける。100サイクルごとに、CCモードにて0.2Cのレートで2.7Vに下がるまで放電を行う。n回目のサイクルにおける保持容量を、1回目のサイクルの放電容量に対するn回目のサイクルで得られた放電容量の比として算出する。
【0031】
C)フルセルDCR試験
直流抵抗は、電流パルスに対する電圧応答から得られ、使用される手順は、USABC標準(United States Advanced Battery Consortium LLC)によるものである。直流抵抗値は、データを使用して将来の劣化速度を推定しバッテリー寿命を予測できることから、非常に実用に適しており、更に、電解質とアノード又はカソードとの間の反応の反応生成物が低導電性表面層として析出するため、直流抵抗は、電極に対する損傷を検出する感度が非常に高い。
【0032】
D)放電電力特性試験-レート性能
「形成」工程(f))後のリチウム二次フルセルバッテリーは、以下の条件下で、25℃で数回充放電される。
CCモードにて1Cのレートで4.2Vまで、次にCVモードにてC/20に到達するまで、充電を実施する。
次にセルを10分間休ませる。
CCモードにてC/5のレートで、2.7Vに下がるまで放電を行う。
次にセルを10分間休ませる。
以下のサイクルは、放電電流が連続してC/2、C、2C、3C、4C、5C、及び10Cとなる類似の工程に従う。レート性能は、C/2、C、2C、3C、4C、5C、及び10Cそれぞれでの放電容量をC/5での放電容量で除算することによって表現される。
【0033】
E)粘度の測定
測定は、TA instruments Koreaからのレオメーターで行われる。標準的な較正及び温度の25℃への安定化後、幾何学的間隙は、50pmに設定され、次いで、粘度の測定は、0.1s-1~100s-1の剪断速度を適用することによって行われる。元来、粘度対剪断速度を対数スケールでプロットする。本出願では、焦点は2つの粘度値:10s-1の剪断速度で得られた値及び0.1s-1の剪断速度での値である。10s-1における剪断速度は、電極のキャスティング中の刺激と類似している。この値は、スラリーが液体すぎる場合、電極担体上のコーティングが不可能になるため、この値は特定の粘度範囲内である必要があり、スラリーが粘稠すぎる場合、スラリーはコーティングロールに固着する。10s-1における剪断速度の所望の値は、20~1Pa・s、好ましくは5Pa・s未満である。0.1s-1で測定された値(及び10s-1で得られた値と比較して)は、スラリーのチキソトロピー性、すなわち、適用される剪断速度に従って変化するその粘度を示す。2値がほぼ等しい場合、粘度は、理想的な分散を示す剪断速度から独立している。カソードスラリーの場合、0.1s-1で測定した粘度が100Pa・s未満である場合、これは粒子が良好に分散していることを示す。より高い値では、粒子は、低剪断速度では破壊されず、粘度に直接影響を与えるネットワークのタイプを生成するファンデルワールス力などの力によって互いに付着される。したがって、0.1s-1で測定される粘度の好ましい範囲は、10s-1で測定した粘度より高く、100Pa・s未満、好ましくは80Pa・s未満、又は更には70Pa・s未満であり得る。
【0034】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0035】
実施例1:カソードスラリー中へのLiOHの添加
この実施例では、0.05重量%の、0.14重量%の含水量を有するLiOHを、前述の説明に従って、(約3pmのD50を有する)MX3と呼ばれる市販のCellcore(登録商標)NMC111で構成される電極に添加する。この電極は、前述のようにセルを組み立て、試験するために使用される。本実施例は、以下に対する電極添加剤の影響を記載する:
スラリーの粘度
フルセルのサイクル寿命(又は容量保持率)特性(方法B)に従い、図1に示す)は、放電容量(初期容量%)がサイクル数(#)に対してプロットされる。
サイクル中のDCRの進展(方法C)に従い、図2に示す)は、DCR増加(%)がサイクル数(#)に対してプロットされる。
放電電力プロファイル又は新品のフルセル(=形成工程後に調製されたフルセル)のレート性能(図3に示す)は、容量が放電電流(Cレート)に対してプロットされる。
【0036】
結果を表1にまとめる。
【0037】
反例1:参照物質:カソードスラリー中へのLiOHの添加なし
この実施例では、本発明によるLiOH及び任意の他の添加剤を添加しない以外は、実施例1の手順に従う。反例1の結果を表1にまとめる。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例では、サイクル寿命は、1回目のサイクルの容量の%で算出された「n」回目のサイクル後の容量によって表される。同様に、DCR増加は、初期サイクルにおける抵抗に対して%で算出され、初期サイクルにおける抵抗は100%に設定された値を有する。
【0040】
水酸化リチウムの添加は、粘度に明らかな影響を及ぼし、これは次いでバッテリー性能の劇的な改善に変換される。サイクル寿命は、特に45℃では、はるかに改善される。高電流レートでの容量もまた、強く改善される。これらの改善は、DCRの減少に直接関連している。DCRは、改善された物質分散に起因する、電極内部の良好な電子パーコレーションの指標である。電子ネットワークは最適であり、カソード材料の表面における電解質分解、及び局所抵抗による物質劣化が制限される。実験は、フルセルの電気化学的性能に影響を与えることができるためには、スラリーの粘度を監視することで十分であることを示す。
【0041】
実施例2:添加剤の混合アプローチ及び含水量の影響。
この一連の実施例は、純粋な機械的アプローチによって、すなわち、分散を改善しようとする混合エネルギーの増加によって、分散を改善することができないことを実証する。この実施例では、スラリー及び電極は、前述のように、約7pmのD50を有する活物質Cellcore(登録商標)NMC111グレードとして使用して調製する。分散体に対する混合エネルギーの効果を試験するために、このスラリーを混合ビーズと又は混合ビーズなしで、遊星ミキサーを使用して140RPMで2.5時間、続いてディスパーミキサーを用いて3600RPMで1.5時間、混合する。ビーズを使用する場合、乾燥物質(カソード+導電助剤+バインダー)50g当たりに直径10mmのビーズを6つ添加する。また、0.3重量%のLiOHを、本発明による乾燥グレード(この場合は0.19重量%のHO含有量を有する)及び標準的なLiOH・HOの「乾燥していない」グレードの両方で添加する。この電極は、前述のようにセルを組み立て、試験するために使用される。本実施例は、以下に対する電極添加剤の影響を記載する:
混合工程後及び5日後のスラリーの粘度。スラリーを、ソフト混合(沈殿を避けるのに十分な非常に低RPMでの混合)しながら加湿チャンバ内で5日間維持して、経時的な粘度の進展を追跡し、物質の分散体への時間の影響を試験する。
フルセルの容量保持特性(方法B))
【0042】
粘度測定及びバッテリー性能を表2にまとめる。粘度測定は、ビーズを伴う又は伴わない混合工程が物質分散体に影響を及ぼさないことを明確に示す。すなわち、混合エネルギーの増加及び混合中のスラリー中のビーズの衝撃がある場合であっても、粒子の分散又はデアグロメレーションは改善されないと言える。本実施例はまた、スラリー中に乾燥水酸化物を添加することの重要性を示す。標準グレードLiOH中の水の存在は、おそらくは、表面と電解質(物質とNMP)との相互作用の改善を減少させ、したがって、粘度に対する明白な効果を制限し、その後、バッテリー性能を制限する。乾燥LiOHの存在下での粘度が経時的に増加又は減少しないという事実はまた、任意の再アグロメレーションが参照又は「湿潤LiOH」の添加時の粘度の増加に変換されるため、物質の分散後の再アグロメレーションを回避することによって、乾燥LiOHの分散効果を実証する。
【0043】
【表2】
【0044】
第2の実験では、スラリー及び電極は、前述のように、約7pmのD50を有するCellcore(登録商標)NMC111グレードを使用して作製する。この実験では、混合デバイスのインペラ速度を変更して、スラリー中のエネルギー入力を増加させる影響を測定する。粘度測定及びバッテリー性能を表3にまとめる。前述と同様に、混合エネルギーの増加(混合速度の増加)にもかかわらず、LiOHが添加されない場合、粒子の分散及びデアグロメレーションは改善されない。
【0045】
【表3】
【0046】
混合工程は、以下のように実施される。
標準速度の混合:遊星ミキサーを用いて140rpmで2.5時間、次いでDispermat(登録商標)を用いて3600rpmで1.5時間。
高速の混合:遊星ミキサーを用いて140rpmで2.5時間、次いでDispermat(登録商標)を用いて5000rpmで1.5時間。
非常に高速の混合:遊星ミキサーを用いて140rpmで2.5時間、次いでDispermat(登録商標)を用いて6500rpmで1.5時間。
【0047】
ここで、LiOH中の含水量は0.5重量%である。
【0048】
実施例3:添加剤のタイプ
この実施例は、水酸化アルカリ添加のみが、粘度、すなわち炭素及び活物質の分散に明白な影響を及ぼすことを実証する。この実施例の参照は、5gの導電助剤(カーボンスーパーP)と、5gのPVDFと、45gのNMPとを用いて行った。同様の粘度の値は、他のタイプの炭素添加剤で得られる。スラリーを、ビーズを添加しながら、2000rpmで5分間、Dispermat(登録商標)中で混合する。この参照には、以下の表4に記載されるように、0.5g又は0.15gのいずれかの添加剤を添加する。10s-1の剪断速度で測定した基準粘度は11.2Pa・sであり、測定した0.1s-1における粘度は354.16Pa・sである。LiOH、KOH、又はNaOHの添加は、粘度を著しく低下させ、これは、分散の改善を明確に示す。他の試験添加剤は全て、粘度に対する影響が全くないか又は非常に限定されており、水酸化アルカリの独特な役割を明確に実証する。
【0049】
【表4】
図1
図2
図3