(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】導電性複合繊維およびそれを用いた繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20230816BHJP
C08G 63/692 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
D01F8/14 A
C08G63/692
(21)【出願番号】P 2021527561
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022040
(87)【国際公開番号】W WO2020261914
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2019119808
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】小野木 祥玄
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 康平
(72)【発明者】
【氏名】中塚 均
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-153319(JP,A)
【文献】特開昭60-187542(JP,A)
【文献】特開2010-059588(JP,A)
【文献】特開2014-005578(JP,A)
【文献】特開2011-021288(JP,A)
【文献】特開2010-007191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00-64/42
D01F1/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と、前記導電層に接する非導電層とを少なくとも含む導電性複合繊維であって、前記導電層には導電性物質が含有されており、前記非導電層にはホスホニウムを含むジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルが含有されて
おり、前記導電性物質が、導電性カーボンブラックまたは導電性被膜を有する酸化チタン粒子である、導電性複合繊維。
【請求項2】
前記変性ポリエステルの共重合成分がホスホニウムスルホネート基含有ジカルボン酸成分である、請求項1に記載の導電性複合繊維。
【請求項3】
前記変性ポリエステルの共重合成分がホスホニウムスルホイソフタル酸成分
、ホスホニウムスルホジカルボキシナフタレン成分、およびホスホニウムスルホコハク酸成分からなる群の中から選択される少なくとも一種の成分である、請求項2に記載の導電性複合繊維。
【請求項4】
前記変性ポリエステルが全ジカルボン酸成分のうち前記ホスホニウムを含むジカルボン酸成分を共重合成分として1.0~3.5モル%含む変性ポリエステルである、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の導電性複合繊維。
【請求項5】
前記変性ポリエステルの固有粘度が0.6~0.8である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の導電性複合繊維。
【請求項6】
前記導電層が導電性カーボンブラック20~40重量%および熱可塑性樹脂を含有し、前記導電層と前記非導電層の比率が、重量比で0.5:99.5~10:90である、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の導電性複合繊維。
【請求項7】
前記導電層が導電性被膜を有する酸化チタン粒子30~85重量%および熱可塑性樹脂を含有
し、前記導電層と前記非導電層の比率が、重量比で3:97~50:50である、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の導電性複合繊維。
【請求項8】
前記導電層が前記導電性物質および熱可塑性樹脂を含有し、前記熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリアミドまたは熱可塑性ポリオレフィンである、
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の導電性複合繊維。
【請求項9】
請求項1~請求項
8のいずれか一項に記載の導電性複合繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は2019年6月27日出願の特願2019-119808の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、制電性能およびカチオン染色性に優れた導電性複合繊維およびそれを用いた繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0003】
作業着やクリーンルームウェア等の分野において、生地の帯電防止による作業者の安全性の確保および静電気による製品損傷の抑制等のため、導電性カーボンブラックや導電性被膜を有する酸化チタン粒子を含む導電糸が一定間隔に挿入された生地が使用されている。その中で、カチオン染料可染性のある繊維、例えば作業服や防護衣等に多く用いられるアラミド繊維、セーターやフリース等に用いられるアクリル繊維等を生地に使用した場合において、カチオン染色時に生地に含まれる導電糸が染色されず、導電糸が生地上に目立って見えてしまい意匠性が失われることが問題となっている。
【0004】
上記課題を解決するため、例えば、特許文献1(特開平9-31747号公報)では、アルカリ染料可染性のあるアクリル繊維に対して導電性を付与するために、カーボンブラックとメタクリル酸メチルを30重量%以上共重合したビニル系重合体との混合物が繊維断面において0.01~100μm2の領域を少なくとも一つ形成していることを特徴とする導電性に優れたアクリル繊維が提案されている。
【0005】
また、特許文献2(特開2010-59589号公報)では、アクリル繊維と同条件でカチオン染色が可能な導電性繊維として、非導電層と導電層とからなる複合導電性繊維であって、非導電層が繊維表面の少なくとも70%を占めてなり、非導電層が、金属スルホネート基含有イソフタル酸とポリアルキレングリコールとを共重合したポリエステルであり、導電層が、導電性皮膜を有する酸化チタン粒子を含む熱可塑性重合体である複合導電性繊維が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-31747号公報
【文献】特開2010-59589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、アクリル繊維の製造方法が非常に煩雑であること、また溶剤の溶脱時に発生する空隙が導電性に影響を及ぼすことがあり、高い制電性能を求められる分野(例えば、半導体製造時に着用されるクリーンルームウェア等)には不向きである。
【0008】
また、特許文献2では、非導電層が金属スルホネート基含有イソフタル酸とポリアルキレングリコールとを共重合したポリエステルに限定されており、金属スルホネート基変性ポリエステルは一般的に重合度が上がらないことから、曳糸性に劣り、紡糸が困難になる場合があった。また、得られる導電性繊維は、高い制電性能を求められるクリーンルームウェアを含む作業着等の分野に使用可能な導電性が得られず、更なる導電性の向上が求められていた。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、カチオン染色性が良好であり、かつ高い制電性能を有する、導電性複合繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために詳細に検討を重ねた結果、導電層と、前記導電層に接する非導電層とを少なくとも含む複合繊維において、非導電層が、ホスホニウムを含むジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルを含有する場合、非導電層が十分なカチオン染色性を示すことを見出した。さらに、驚くべきことに、カチオン染料可染性を付与するために用いた特定の変性ポリエステルが、それを含有する非導電層と接している導電層にも影響を及ぼすためか、導電性を向上させることができることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]導電層と、前記導電層に接する非導電層とを少なくとも含む導電性複合繊維であって、前記導電層には導電性物質が含有されており、前記非導電層にはホスホニウムを含むジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルが含有されている、導電性複合繊維。
[2]前記変性ポリエステルの共重合成分がホスホニウムスルホネート基含有ジカルボン酸成分である、前記[1]に記載の導電性複合繊維。
[3]前記変性ポリエステルの共重合成分がホスホニウムスルホイソフタル酸成分である、前記[2]に記載の導電性複合繊維。
[4]前記変性ポリエステルが前記ホスホニウムを含むジカルボン酸成分を共重合成分として1.0~3.5モル%(好ましくは1.2~3.0モル%、より好ましくは1.5~2.5モル%)含む変性ポリエステルである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の導電性複合繊維。
[5]前記変性ポリエステルの固有粘度が0.6~0.8(好ましくは0.63~0.75、より好ましくは0.65~0.7)である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の導電性複合繊維。
[6]前記導電性物質が、導電性カーボンブラックまたは導電性被膜を有する酸化チタン粒子である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の導電性複合繊維。
[7]前記導電層が導電性カーボンブラック20~40重量%(好ましくは25~38重量%、より好ましくは25~35重量%)および熱可塑性樹脂を含有し、前記導電層と前記非導電層の比率が、重量比で0.5:99.5~10:90(好ましくは1:99~5:95、より好ましくは1.5:98.5~4:96、さらに好ましくは2:98~3.5:96.5)である、前記[6]に記載の導電性複合繊維。
[8]前記導電層が導電性被膜を有する酸化チタン粒子30~85重量%(好ましくは50~80重量%、より好ましくは65~75重量%)および熱可塑性樹脂を含有し、前記導電層と前記非導電層の比率が、重量比で3:97~50:50(好ましくは5:95~40:60、より好ましくは10:90~30:70)である、前記[6]に記載の導電性複合繊維。
[9]前記導電層が前記導電性物質および熱可塑性樹脂を含有し、前記熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリアミドまたは熱可塑性ポリオレフィンである、前記[6]~[8]のいずれかに記載の導電性複合繊維。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の導電性複合繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造物。
【0012】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、制電性能およびカチオン染色性に優れた、導電性複合繊維を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
【
図1】本発明の実施形態に係る導電性複合繊維の一芯内包芯鞘構造を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る導電性複合繊維の四芯内包芯鞘構造を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る導電性複合繊維の三層芯鞘構造を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る導電性複合繊維の二芯露出構造を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る導電性複合繊維の一芯内包芯鞘混繊構造を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る導電性複合繊維の二芯露出混繊構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0016】
本発明の導電性複合繊維は、導電層に導電性物質が含有されていることが重要である。前記導電性物質としては、導電性を有する物質であれば公知のものを使用することができるが、例えば、導電性カーボンブラックまたは導電性被膜を有する無機粒子が挙げられる。導電性カーボンブラックの種類としては、特に限定は無く、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック等が挙げられるが、例えばファーネスブラックもしくはケッチェンブラックが汎用的であり好ましい。また、導電性被膜形成の対象である無機粒子としては、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、シリカ等の無機粒子が挙げられるが、酸化チタン粒子が好ましい。無機粒子(好ましくは酸化チタン粒子)の導電性被膜としては、例えば酸化銅、酸化銀、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化錫、酸化鉛、酸化マンガン、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化ニオブなどの金属酸化物が挙げられる。また、導電性被膜には第2成分を添加してもよく、導電性被膜の第2成分としては、前記金属酸化物の金属種とは異種金属の酸化物、前記金属酸化物の金属種と同種または異種の金属等が挙げられる。例えば、酸化銅/銅、酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化錫/酸化アンチモン、酸化亜鉛/亜鉛、酸化アルミニウム/アルミニウム、酸化錫/錫、酸化アンチモン/アンチモン、及びそれら酸化物の一部が還元されたもの等を含有することが好ましい。
【0017】
上記の導電性被膜は、例えば、真空蒸着法や、金属化合物を付着させて焼成して酸化物にすることや、それを部分還元することで形成することができる。
【0018】
本発明における導電性物質は、導電性複合繊維の導電性を向上させる観点から、粉末状での比抵抗が104Ω・cm(オーダー)以下であることが好ましく、より好ましくは103Ω・cm(オーダー)以下であり、さらに好ましくは102Ω・cm(オーダー)以下である。
【0019】
上記導電性物質の比抵抗は、直径1cmの円筒に10gの試料を詰め、上部からピストンによって200kgの圧力を加えて直流(0.1~100V)を印加して測定する。
【0020】
上記導電性物質の粒径は、可紡性及び導電性の観点から、平均粒径が1μm以下であることが好ましい。平均粒径は、より好ましくは0.7μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。平均粒径が小さいほど樹脂と混合した際の樹脂中における分散性に優れ、また、混合物の導電性が優れる。平均粒径の下限値については特に制限はないが、0.01μm以上のものが好適に使用される。なお、本明細書において、平均粒径は、一次粒子径を示し、堀場製作所社製の遠心式自動粒度分布測定装置CAPA-500により測定される値を示す。
【0021】
本発明において、導電層は、上記導電性物質と、導電性物質と混合され導電層を形成する樹脂から構成されることが好ましい。導電性物質と混合され導電層を形成する樹脂(導電層の樹脂)としては、公知のあらゆる熱可塑性樹脂を使用することが出来る。溶融紡糸したときに繊維形状になる(溶融紡糸可能な)熱可塑性樹脂であるのが好ましく、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネートなどが挙げられる。その中でも、ポリアミド(例えば、ナイロン-6など)、およびポリオレフィン(例えば、低分子量ポリエチレンなど)は無機微粒子との相性が良く高濃度で添加可能であるため、より繊維の導電性を向上させることが可能であるという点において好ましい。
【0022】
本発明において、導電性物質として導電性カーボンブラックを用いる場合、導電層の総量に対する導電性カーボンブラックの含有量は、20~40重量%であることが好ましい。導電性カーボンブラックの含有量が上記下限値より少ない場合には、本発明の目的とする導電性が得られない場合があり、充分な制電性能が発揮されない場合がある。一方、上記上限値を超える場合には、導電性のより一層の向上は認められず、むしろ導電性カーボンブラックを含有させた樹脂の流動性が低下して紡糸性(繊維形成性)が低下する場合がある。導電性カーボンブラックの含有量は、より好ましくは25~38重量%であり、さらに好ましくは25~35重量%である。
【0023】
また、導電性物質として導電性被膜を有する無機粒子(特に酸化チタン粒子)を用いる場合、導電層の総量に対する導電性被膜を有する無機粒子(特に酸化チタン粒子)の含有量は、30~85重量%であることが好ましい。導電性被膜を有する酸化チタン粒子の含有量が上記下限値より少ない場合には、本発明の目的とする導電性が得られない場合があり、充分な制電性能が発揮されない場合がある。一方、上記上限値を超える場合には、導電性のより一層の向上は認められず、むしろ導電性被膜を有する酸化チタン粒子を含有させた樹脂の流動性が低下して紡糸性(繊維形成性)が低下する場合がある。導電性被膜を有する酸化チタン粒子の含有量は、より好ましくは50~80重量%であり、さらに好ましくは65~75重量%である。
【0024】
本発明の導電性複合繊維において、導電層に導電性カーボンブラックを含有する場合、導電層と非導電層の比率(導電層:非導電層)は、重量比で0.5:99.5~10:90であってもよく、1:99~5:95であることが好ましい。導電層の比率が上記下限値よりも小さい場合は導電性が不足する場合があり、導電層の比率が上記上限値よりも大きい場合はカーボンブラックの黒色でカチオン染色時に発色が悪くなる場合があり、また、紡糸時の曳糸性が低下する場合がある。導電層と非導電層の比率は、より好ましくは1.5:98.5~4:96であり、さらに好ましくは2:98~3.5:96.5である。
【0025】
また、導電層に導電性被膜を有する無機粒子(特に酸化チタン粒子)を含有する場合、導電層と非導電層の比率(導電層:非導電層)は、重量比で3:97~50:50であることが好ましい。導電層の比率が上記下限値よりも小さい場合は導電性が不足する場合があり、導電層の比率が上記上限値よりも大きい場合は紡糸時の曳糸性が低下する場合がある。導電層と非導電層の比率は、より好ましくは5:95~40:60であり、さらに好ましくは10:90~30:70である。
【0026】
本発明の導電性複合繊維の非導電層を構成する変性ポリエステルは、ジカルボン酸の変性成分としてホスホニウムが含まれていることが重要である。ジカルボン酸の変性成分としてのホスホニウムは、有機酸(例えば、スルホン酸、カルボン酸等)のホスホニウム塩として含まれていてもよく、また、ホスホニウムは、P+R1R2R3R4(式中、R1、R2、R3およびR4は、同一または異なって、水素原子、アルキル基およびアリール基からなる群から選択される)として含まれていてもよい。ホスホニウムを含むジカルボン酸成分としては、ホスホニウムスルホネート基含有ジカルボン酸成分であることが好ましく、例えば、ホスホニウムスルホイソフタル酸成分、ホスホニウムスルホジカルボキシナフタレン成分、ホスホニウムスルホコハク酸成分などが挙げられ、ホスホニウムスルホイソフタル酸成分が好ましい。非導電層にこの変性ポリエステルを含有させることにより、導電性複合繊維にカチオン染料可染性を付与させることができる。さらに、それだけでなく、この変性ポリエステルを非導電層に含有させることにより、導電性複合繊維の導電性を向上させることができる。導電性複合繊維の導電性が向上する理由としては定かではないが、おそらく、以下のメカニズムではないかと推察される。この変性ポリエステルでは、まず、重合度を向上させることができる。ホスホニウムを含むジカルボン酸成分を含有させることによって重合度を向上させることができる理由としては、以下のように考えられる。ポリエステルのカチオン変性種として多用されており公知であるものとして、金属スルホネート基含有イソフタル酸(金属スルホイソフタル酸)が挙げられるが、金属スルホネート基を含有する場合は一般的に、縮合時に金属への配位による分子鎖の疑似架橋が起こり樹脂の増粘を引き起こし重合度が上がらなくなる。そのため、分子の絡み合いが少ないことから高速紡糸性に優れないだけでなく、固有粘度を高くすることが難しくなる。一方で、金属スルホネート基をホスホニウムスルホネート基に変更することで上記の影響を抑制し、重合度を向上させることができ、その結果、後述するように、そして、変性ポリエステルの重合度の向上により、紡糸時や延伸時に加わる応力を変性ポリエステルが含まれる非導電層に集中させることが可能となる。その結果、導電層への応力を緩和できることによって、導電層の結晶化を抑制できるためか、導電性複合繊維の高速紡糸性の向上および固有粘度の増加ひいては導電性の向上が可能となると推察される。
【0027】
上記のホスホニウムスルホネート基含有ジカルボン酸成分を形成するモノマーとしては、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸エチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジ(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ジ(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、2,6-ジカルボキシナフタレン-4-スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、α-テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸等を挙げることができる。上記ホスホニウムスルホネート基含有ジカルボン酸を形成するモノマーは1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、導電性複合繊維の非導電層を構成する変性ポリエステルの変性成分であるホスホニウムを含むジカルボン酸成分以外の他の成分については、ポリエステルの構成成分として公知の成分であれば特に制限はされないが、ジカルボン酸成分を形成するモノマーとしては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。また、ジオール成分を形成するモノマーとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオールなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
変性ポリエステルの全ジカルボン酸成分中の上記のホスホニウムを含むジカルボン酸成分の共重合量は1.0~3.5モル%であることが好ましい。上記下限値未満の場合、カチオン染料で染色したときに鮮明で良好な色調が得られない場合がある。一方、上記上限値を超えると、樹脂の増粘が著しくなって紡糸が困難になる場合があり、また、カチオン染料の染着座席の増加により繊維に対するカチオン染料の染着量が過剰になって、色調の鮮明性がむしろ低下する場合がある。変性ポリエステルの全ジカルボン酸成分中のホスホニウムを含むジカルボン酸成分の共重合量は、より好ましくは1.2~3.0モル%、さらに好ましくは1.5~2.5モル%である。
【0030】
また、本発明の導電性複合繊維の非導電層を構成する変性ポリエステルの構成成分として、ジカルボン酸の変性成分に、さらにアジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等を使用してもよい。これらの成分を共重合させることにより、繊維内部構造に非晶部分を保有させることができ、その結果、常圧染色が可能となる。またそれだけでなく、融点が下がることから紡糸工程でのノズル温度を下げることが出来るため、導電層の劣化を抑制し断糸回数を減らすことが可能となる。
【0031】
また、上記非導電層を構成する変性ポリエステルは、固有粘度が0.6~0.8であることが好ましい。非導電層を構成する変性ポリエステルの固有粘度が上記下限値未満であると、導電性複合繊維の導電性が低下する場合がある。一方で、固有粘度が上記上限値を超えると、極端に粘度が上がり過ぎてしまい曳糸性が低下する場合がある。変性ポリエステルの固有粘度は、より好ましくは0.63~0.75であり、さらに好ましくは0.65~0.7である。
【0032】
上記の非導電層を構成する変性ポリエステルが導電性複合繊維の導電性に影響を及ぼす理論的説明は、現時点では推論の域を出ないが、以下のように推定している。すなわち、導電性複合繊維の導電性は導電層の結晶性が影響し、高速紡糸時のノズル直下で繊維が延伸される際の応力が導電層に与えられるほど配向結晶化が進み、結晶が導電性物質のストラクチャーを分断することで導電性が悪化すると考えられる。逆に、延伸時に非導電層側へ与えられる応力を高めることにより、導電層側への応力を低下させ、導電層の結晶化を抑制することで、導電性を向上させることができると考えられる。この応力を決定づける要素は多くあるが、一因として分子の物理的な絡み合いが考えられ、固有粘度が上がるほど分子量が増加するため、分子の絡み合いが増え樹脂にかかる応力が高まると考えられる。すなわち、非導電層を構成する変性ポリエステルの固有粘度を高くすることで導電層側への応力の集中を抑制し、導電性複合繊維の導電性を向上することが出来ると推定される。
【0033】
本発明の導電性複合繊維は、非導電層が繊維表面の面積の少なくとも70%以上を占めていることが好ましい。より好ましくは、非導電層が繊維表面の面積の90%以上を占めていることであり、さらに好ましくは非導電層が繊維表面全体を占めていることである。導電性の観点からは導電層が繊維表面へ露出している方が望ましいが、導電層の露出面積が大きすぎると繊維製造工程中および加工工程中あるいは実着用中における変質、劣化、脱落等の発生が考えられる上、染色における均一性が失われる場合がある。具体的な導電層と非導電層との複合形状に制限はないが、芯鞘断面、海島断面、並列断面等が挙げられ、例えば
図1~
図6のような断面形状のものが挙げられる。その中でも、
図1~
図3のような非導電層が繊維表面全体を占めている断面形状を有する繊維とすることが好適である。また、染色性を向上させる意味においては
図5、
図6のような混繊断面の設計が好適である。
【0034】
本発明の導電性複合繊維は、導電性物質を含有する導電層と、ホスホニウムを含むジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルを含有する非導電層とが接していればよく、これら導電層、非導電層以外の層を含んでいてもよい。例えば、そのような層としては、導電性物質を含んでおらず、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂から構成される層が挙げられる。
【0035】
本発明の導電性複合繊維は、その横断面形状は特に制限されず、例えば、円形、楕円形、六角形、五角形、四角形、三角形、星形、扁平型、ドッグボーン形、T字形、V字形、Y字形、花形等が挙げられる。そのうち、導電性複合繊維の横断面形状は、紡糸性の観点から、円形が好ましい。
【0036】
本発明の導電性複合繊維の総繊度は、10~50dtexであることが好ましく、より好ましくは20~30dtexである。総繊度が大きすぎると織編物に使用した際に導電糸が浮き出て意匠性が失われる場合があり、総繊度が小さすぎると織編物の製造時に糸切れが多発する場合がある。また、導電性複合繊維の単糸繊度については特に制限はないが、2.0~10.0dtexであることが好ましい。導電性複合繊維のフィラメント数についても特に制限はないが、1~25本であることが好ましい。
【0037】
本発明の導電性複合繊維は、制電性能に優れており、抵抗値が9.9×107Ω/cm以下であってもよく、好ましくは8.5×107Ω/cm以下、より好ましくは7.8×107Ω/cm以下であってもよい。なお、導電性複合繊維の抵抗値は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0038】
本発明の導電性複合繊維の製造方法は、導電性物質と樹脂との混合物を含む導電層材料、ホスホニウムを含むジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルを含む非導電層材料、および必要に応じて導電層、非導電層以外の層を構成する熱可塑性樹脂材料を溶融紡糸する紡糸工程を含んでいてもよい。紡糸工程では、導電層材料、非導電層材料および必要に応じて熱可塑性樹脂材料を、それぞれ別個の押出機で溶融し、複合紡糸に用いられる通常の溶融紡糸装置を用いて口金より紡出してもよい。口金の形状や大きさによって、得られる繊維の断面形状や直径を任意に設定することが可能である。
また、導電層が所望の状態で繊維表面に露出、および繊維に内包させるためには、紡糸装置内での分配板における導電層用の導入孔と非導電層用の導入孔の位置関係を調節したり、両方の複合比率を調整することが好ましい。例えば、導電層材料と非導電層材料との複合比率は、用いる導電性物質によって調整することができるが、紡糸性および導電性の観点から、導電性物質として導電性カーボンブラックを使用する場合、導電層材料と非導電層材料との比率(導電層材料:非導電層材料)は、重量比で0.5:99.5~10:90であってもよく、好ましくは1:99~5:95、より好ましくは1.5:98.5~4:96、さらに好ましくは2:98~3.5:96.5であってもよい。また、導電性物質として導電性被膜を有する無機粒子(特に酸化チタン粒子)を使用する場合、導電層材料と非導電層材料との比率(導電層材料:非導電層材料)は、重量比で3:97~50:50であってもよく、好ましくは5:95~40:60であり、より好ましくは10:90~30:70であってもよい。
【0039】
本発明では、非導電層材料としてホスホニウムを含むジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルを使用しており、このような変性ポリエステルは固有粘度を高くすることができるため、曳糸性に優れており、2000~5000m/分の巻き取り速度で高速紡糸することが可能である。変性ポリエステルの固有粘度としては、導電性複合繊維の紡糸性および導電性を向上させる観点から、0.6~0.8であることが好ましく、より好ましくは0.63~0.75、さらに好ましくは0.65~0.7であってもよい。
【0040】
本発明の導電性複合繊維の製造方法では、紡糸工程で得られる未延伸繊維を延伸する延伸工程をさらに含んでいてもよい。延伸工程は、紡糸工程で一旦巻き取って得られた未延伸繊維を、その後巻き返して延伸してもよいし、紡糸工程で得られた未延伸繊維を巻き取る前にそのまま紡糸直結で延伸してもよい。延伸は、公知の方法で行うことができ、例えば、加熱浴、加熱蒸気吹付け、ローラーヒーター、チューブヒーター、接触式プレートヒーター、非接触式プレートヒーター等を使用して、延伸熱処理することが好ましい。加熱温度は、導電層材料や非導電性材料の熱特性に応じて異なるが、例えば、80~200℃であってもよい。また、複合繊維の延伸性をより向上させるために、非導電層材料に平均粒子径が0.5μm以下である無機微粒子を5重量%以下の割合で含有させてもよい。
【0041】
本発明の製造方法では、巻き取り速度が2000m/分以上の高速紡糸が可能であるため、延伸工程を省略し(延伸省略方式)、高速で巻き取って未延伸繊維として導電性複合繊維を得てもよい。
【0042】
本発明の導電性複合繊維は、色々な形態で、種々の制電性能が要求される用途に用いることができる。例えば、本発明の導電性複合繊維と非導電性繊維とを混繊した混繊糸とすることができる(例えば、
図5、
図6のような断面形状を有する混繊糸)。前記非導電性繊維として、分散染色および/またはカチオン染色可能なマルチフィラメントもしくは紡績糸を配することで、混繊糸の一浴染めが可能となる。同色に染めることができるという点から、非導電性繊維が導電性複合繊維の非導電層と同じ変性ポリエステルからなることが好ましい。なお、混繊糸とする場合には、芯糸と側糸が分離しないように交絡を付与するのが一般的であり、交絡を付与した後、混繊糸に撚りを付与してもよい。
【0043】
上記混繊糸を得る方法としては、紡糸混繊糸としてもよく、導電性複合繊維と非導電性繊維を後加工により混繊してもよい。特に紡糸混繊糸においては、導電性複合繊維と非導電性繊維を紡糸口金上の別の孔から吐出し、それを集束することで得られる。
【0044】
上記混繊糸についても、総繊度は10~50dtexであることが好ましく、より好ましくは20~30dtexであり、単糸繊度は2.0~10.0dtexであることが好ましい。フィラメント数については2~25本が好ましく、染色性の観点からそのうち半数以上のフィラメントが非導電性繊維であることが好ましい。
【0045】
本発明の導電性複合繊維は、織物や編物等の繊維構造物に好適に使用することができる。織物や編物に導電性複合繊維を使用する場合、繊維構造物に十分な制電性能を付与する観点から、1~2インチに一本の割合で経糸及び/または緯糸の一部として打ち込まれることが好ましい。繊維構造物は、本発明の導電性複合繊維を少なくとも一部に含んでいればよく、例えば、天然繊維、化学繊維、合成繊維等の他の繊維との交織編物や、上述したような混繊糸を用いた織編物等であってもよい。
【0046】
このような繊維構造物は、制電性能が要求される幅広い用途に用いられ、例えば、静電気放電による不快感を防止するためにマフラーやセーター等の衣料品に用いることができ、さらには、電子製品や半導体を保護するために高い制電性能が求められるクリーンルームで着用される防塵衣、また、化学プラントで従事する作業者や化学薬品を扱う作業者のように、静電気放電により爆発の危険性がある工場や化学プラントでの労働者の制電用ワーキングウェアとして使用することができる。他に、本発明の導電性複合繊維は、制電カーペットのパイルの一部としても用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明について詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものでない。
【0048】
1.導電性複合繊維
<変性ポリエステルの合成>
ジカルボン酸成分を形成するモノマーとして、テレフタル酸(TA)、3,5-ジ(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩(BPIS)、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP;金属スルホイソフタル酸の一種)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)、アジピン酸(AD)を、表1に記載の各実施例および比較例のジカルボン酸成分と、ジオール成分を形成するモノマーとしてエチレングリコールでエステル交換反応及び重縮合反応を行い、表1に示される組成の各変性ポリエステル樹脂を得た。
【0049】
<ジカルボン酸成分の共重合量>
ジカルボン酸成分の共重合量は、各変性ポリエステル樹脂を重トリフルオロ酢酸溶媒中に0.5g/Lの濃度で溶解し、50℃で500MHz 1H-NMR(日本電子製核磁気共鳴装置LA-500)装置を用いて測定した。表1に記載の数値は、変性ポリエステルの全ジカルボン酸成分中の各ジカルボン酸成分の共重合量をモル%で表した値である。
【0050】
<固有粘度〔η〕>
得られた変性ポリエステル樹脂を乾燥(140℃、4時間)した後、約100mgを精秤して、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(1/1、重量比)混合溶媒20mlを加えて120℃で溶解したものを、30℃恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて測定した。
【0051】
<導電性複合繊維の製造>
以下の方法に従い、導電性複合繊維を製造した。導電層材料としては、導電性被膜(アンチモンドープ酸化錫)を有する酸化チタン粒子(TiO
2)(チタン工業社製「EC-210」、比抵抗:3.0Ω・cm、平均粒径:0.45μm)および低分子量ポリエチレン(LD-PE)(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテックHD HJ490」)から構成される混合物、または導電性カーボンブラック(CB)(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製「ファーネスブラックタイプVULCAN XC72」、比抵抗:0.45Ω・cm、平均粒径:0.03μm)およびナイロン-6(Ny-6)(宇部興産株式会社製「UBE ナイロン 1011FK」)から構成される混合物を用いた。非導電層材料としては、上記で得られた各変性ポリエステルを用いた。表1に示す各組成に従い、非導電層材料と導電層材料とを、それぞれ別々の押出し機で溶融させ、
図1に示す芯鞘断面の複合繊維を255℃の複合紡糸ノズルより吐出させた。ついで紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、連続して紡糸口金直下から1.3mの位置に設置した長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度:150℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した。その後、チューブヒーターから出てきた繊維に紡糸油剤を付与し、引き続いてローラーを介して3000m/分の引取り速度で巻き取って、総繊度22dtex、フィラメント数4本の導電性複合繊維を得た。
【0052】
2.導電性複合繊維の物性/特性評価
実施例および比較例における繊維の各物性値は以下の方法により測定した。各結果を表1に示す。
【0053】
<紡糸性>
実施例1~10および比較例1~6の導電性複合繊維について、先に記載の条件で巻き取った際の紡糸性については、以下の基準に従って評価した。
◎:12時間で断糸の発生回数が0~5回
○:12時間で断糸の発生回数が6~10回
×:12時間で断糸の発生回数が11回以上
【0054】
<導電性(抵抗値)>
電圧電流計法により、平行クリップ電極にセットされた10cmの導電性複合繊維(単繊維)試料に、直流電圧1000Vを印加し、その電圧とその時の試料に流れる電流値からオームの法則により抵抗値(Ω/cm)を求めた。なお、高い制電性能を得るための抵抗値の目安としては、例えば半導体製造時に着用する高性能帯電防止クリーンルームウェア用途等においては、上記測定方法により測定した抵抗値が9.9×107Ω/cm以下であることが好ましい。
【0055】
<染色方法>
英光産業製丸編機NCR-BL(釜径3インチ半(8.9cm)、27ゲージ)を用いて、導電性複合繊維の筒編地を作製し、この筒編地を精練した後、以下の条件で染色し、還元洗浄をして、染色サンプルを得た。
(カチオン染色)
染料:Kayacryl Red GL-ED 2.0%owf
助剤:Na2SO4 10%、CH3COONa 0.5%、CH3COOH 50%
浴比:1:50
染色温度:90℃
時間:40分
(還元洗浄)
水酸化ナトリウム:1.0g/L
ハイドロサルファイトナトリウム:1.0g/L
アミラジンD:1.0g/L
浴比:1/50
還元洗浄温度:80℃
時間:20分
【0056】
<染色性(染着濃度)>
染着濃度(K/S)は、上記染色方法で得られた染色後のサンプル編地の最大吸収波長における反射率Rを、下記分光反射率測定器を用いて測定し、以下に示すKubelka-Munkの式(1)から求めた。
分光反射率測定器:HITACHI製分光光度計
C-2000S Color Analyzer
K/S=(1-R)2/2R (1)
【0057】
【0058】
表1に示すように、導電層に導電性被膜を有する酸化チタン粒子を75重量%もしくは65重量%添加した低密度ポリエチレン(LD-PE)を用いた場合、非導電層にホスホニウムスルホネート基含有ジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルを使用した本発明の導電性複合繊維である実施例1~6は、非導電層に金属スルホネート基含有ジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルを使用した比較例1~3に比べ、紡糸性に優れるだけでなく、繊維の抵抗値が低く、導電性に優れていることがわかった。また、実施例1~6の導電性複合繊維は染色性も優れていることがわかった。同様に、導電層に導電性カーボンブラックを35重量%もしくは30重量%添加したNy-6を用いた場合、非導電層にホスホニウムスルホネート基含有ジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルを使用した本発明の導電性複合繊維である実施例7~10は、非導電層に金属スルホネート基含有ジカルボン酸成分を共重合成分として含む変性ポリエステルを使用した比較例4~6に比べ、紡糸性および導電性に優れ、染色性も優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の導電性複合繊維は、染色性および制電性能に優れているため、例えば、静電気放電による不快感を防止するためにマフラーやセーター等の衣料品の繊維材料として用いることができる。さらには、制電性能に特に優れているため、高度な制電性能の要求される用途、例えば、電子製品や半導体を扱うクリーンルームで着用される防塵衣、また、化学プラントで従事する作業者や化学薬品を扱う作業者のように、静電気放電により爆発の危険性がある工場や化学プラントでの労働者の制電用ワーキングウェアの繊維材料として使用することができる。他にも、制電カーペットのパイルの一部として用いることができる。
【0060】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0061】
1:導電性複合繊維
2:非導電層
3:導電層
4:非導電性繊維