(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその製造方法、成形品、並びに当該樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法
(51)【国際特許分類】
C08L 71/10 20060101AFI20230816BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C08L71/10
C08K3/32
(21)【出願番号】P 2023509841
(86)(22)【出願日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2022028602
(87)【国際公開番号】W WO2023008365
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2021125542
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】竹内 諒
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520257(JP,A)
【文献】特表2018-520258(JP,A)
【文献】特表平04-500088(JP,A)
【文献】特開平03-227320(JP,A)
【文献】特開昭63-006023(JP,A)
【文献】特開平04-272924(JP,A)
【文献】特開平01-104650(JP,A)
【文献】特開昭61-225248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/10
C08K 3/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)全芳香族エーテルケトン樹脂と、(B)酸と塩基とからなる塩と、を含み、下記pH測定法により測定して得られるpHが6~8であり、
前記(A)全芳香族エーテルケトン樹脂が、
求核芳香族置換反応により重合され、かつ、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上である、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)前記(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下する。
(c)温度を25℃とし、前記(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【請求項2】
前記(B)酸と塩基とからなる塩のpHが4~9である、請求項1に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)全芳香族エーテルケトン樹脂が、ポリエーテルケトンである、請求項1又は2に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)酸と塩基とからなる塩が、リン酸塩のうちの少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項6】
少なくとも
、求核芳香族置換反応により重合される(A)全芳香族エーテルケトン樹脂に対して、(B)酸及び塩基、又は酸と塩基とからなる塩の少なくとも1種を添加し、下記pH測定法により測定して得られるpHが6~8となるように調整する、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の製造方法。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)前記(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下する。
(c)温度を25℃とし、前記(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【請求項7】
求核芳香族置換反応により重合され、かつ、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上である(A)全芳香族エーテルケトン樹脂を含む全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法であって、
前記全芳香族エーテルケトン樹脂組成物に、(B)酸と塩基とからなる塩を添加して、下記pH測定法により測定して得られるpHを6~8とする、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)前記(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下する。
(c)温度を25℃とし、前記(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、又はポリエーテルケトンエーテルケトンケトン等の全芳香族エーテルケトンを含む樹脂組成物及びその製造方法、該樹脂組成物を成形してなる成形品、並びに当該樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族エーテルケトン樹脂は、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)の略語でも知られ、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEK(ポリエーテルケトン)、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)、PEKEKK(ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン)等が製品として上市されている。全芳香族エーテルケトン樹脂は一般に高い融点(300℃超)を有するため、溶融させるに当たり高温に加熱する必要がある。ところが、そのような高温では熱劣化に対する安定性に欠けるという問題がある。そのため、溶融状態での安定化のために種々の対策がなされている(特許文献1、2参照)。特許文献1、2に記載の樹脂組成物は、リン酸塩又はリン酸塩の混合物を添加することで、溶融状態での熱酸化に対する安定化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2018-520257号公報
【文献】特表2018-520258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、全芳香族エーテルケトン樹脂は、溶融状態においては滞留時間の経過に伴い、増粘することが知られている。そのような増粘は、一般的には全芳香族エーテルケトン樹脂の加工温度が非常に高温(350℃超)であることに伴い、酸化による架橋が原因で生じると考えられている。特許文献1及び2に記載の樹脂組成物は溶融状態において熱酸化に対する安定化を図るものではあるが、滞留時間の経過に伴う粘度の増減は、残存した反応性末端同士の反応、酸化架橋、残存触媒による副反応等による分子鎖伸長、熱や酸素、残存不純物等による分子鎖切断等多くの要因を含んでおり、熱酸化に対する安定化を図るだけでは溶融粘度の滞留安定性を向上させることはできない。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、溶融粘度の滞留安定性に優れる全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその製造方法、成形品、並びに当該樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物のpHを所定の範囲に調整することにより、溶融粘度の滞留安定性を向上可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)(A)全芳香族エーテルケトン樹脂と、(B)酸と塩基とからなる塩と、を含み、下記pH測定法により測定して得られるpHが6~8であり、
前記(A)全芳香族エーテルケトン樹脂が、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上である、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)前記(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水を0.1mL滴下する。
(c)温度を25℃とし、前記(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【0008】
(2)前記(B)酸と塩基とからなる塩のpHが4~9である、前記(1)に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0009】
(3)前記(A)全芳香族エーテルケトン樹脂が、ポリエーテルケトンである、前記(1)又は(2)に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0010】
(4)前記(B)酸と塩基とからなる塩が、リン酸塩のうちの少なくとも1種である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0011】
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0012】
(6)少なくとも(A)全芳香族エーテルケトン樹脂に対して、(B)酸及び塩基、又は酸と塩基とからなる塩の少なくとも1種を添加し、下記pH測定法により測定して得られるpHが6~8となるように調整する、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の製造方法。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)前記(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下する。
(c)温度を25℃とし、前記(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【0013】
(7)ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上である(A)全芳香族エーテルケトン樹脂を含む全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法であって、
前記全芳香族エーテルケトン樹脂組成物に、(B)酸と塩基とからなる塩を添加して、下記pH測定法により測定して得られるpHを6~8とする、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)前記(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下する。
(c)温度を25℃とし、前記(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶融粘度の滞留安定性に優れる全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその製造方法、成形品、並びに当該樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<全芳香族エーテルケトン樹脂組成物>
本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも呼ぶ。)は、(A)全芳香族エーテルケトン樹脂と、(B)酸と塩基とからなる塩とを含む。
そして、下記pH測定法により測定して得られるpHが6~8である。また、(A)全芳香族エーテルケトン樹脂は、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上である。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下する。
(c)温度を25℃とし、(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【0016】
本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物は、(B)酸と塩基とからなる塩により、pHが6~8の範囲に調整されるため、溶融粘度の滞留安定性を向上させることができる。そのメカニズムとしては、以下のように推察される。
全芳香族エーテルケトン樹脂の重合方法としては、(1)求核芳香族置換反応及び(2)フリーデル・クラフツ・アシル化反応の2種類が挙げられるが、本実施形態においては、(1)求核芳香族置換反応により重合されるものを対象としている。すなわち、(A)全芳香族エーテルケトン樹脂である、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンはいずれも(1)求核芳香族置換反応により重合される。(1)求核芳香族置換反応により重合される全芳香族エーテルケトン樹脂は、フェノール性水酸基と芳香族ハロゲンを反応性基として高温(300℃以上)、塩基性条件下で重合される。重合停止には、末端封止反応により末端バランスを崩し重合の進行を止める方法が一般的に採用される(特開昭61-138626号公報)。塩基性触媒として用いられるアルカリ金属塩は重合後の水による洗浄工程により取り除かれる。末端封止反応の反応率が低い、塩基性触媒の残存といった条件が重なると、溶融滞留した際に反応性末端同士で重合反応が進行し分子量が増大し、増粘することが重合メカニズムから考えられる。そこで、本実施形態においては、樹脂組成物のpHを所定の範囲内とすることで重合後の末端の官能性基による反応を抑制して溶融粘度の滞留安定性の向上を図っている。
【0017】
一方、pH測定法について、さらに具体的な条件について説明する。前記(a)における攪拌は、マグネチックスターラーやメカニカルスターラー等、系内を均一に攪拌できる一般的な方法を用いることが好ましい。また、前記(b)におけるろ過において、ろ材としては、ろ材の溶出が無い固液を分離可能な一般的な材質を用いることが好ましい。さらに、前記(c)において用いるpH試験紙としては、少なくともpH1~11を測定可能なものであればよい。
以下に、本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0018】
[(A)全芳香族エーテルケトン樹脂]
本実施形態の全芳香族樹脂組成物は、(A)全芳香族エーテルケトン樹脂として、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)からなる群より選ばれる1種以上を含む。それらの全芳香族エーテルケトン樹脂は、(1)求核芳香族置換反応により重合されることから塩基性を呈する。そのような観点から、全芳香族エーテルケトン樹脂自体のpHは9~12であることが好ましい。(A)全芳香族エーテルケトン樹脂としては、ポリエーテルケトン(PEK)であることが好ましい。
【0019】
上述の通り、全芳香族エーテルケトン樹脂の重合方法としては、(1)求核芳香族置換反応及び(2)フリーデル・クラフツ・アシル化反応の2種類が挙げられる。上記具体例のうち、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)のみが(2)フリーデル・クラフツ・アシル化反応により重合するのが一般的である。そのようなポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、中性を呈する。
【0020】
[(B)酸と塩基とからなる塩]
本実施形態において(B)酸と塩基とからなる塩(以下、「(B)成分」とも呼ぶ。)は、樹脂組成物のpHを6~8とするために用いられる。樹脂組成物のpHが8を超えると、溶融粘度が滞留によって増加してしまい、pHが6未満であると、溶融粘度が滞留によって低下してしまうため、溶融粘度の滞留安定性に劣る。当該pHは6~7が好ましく、7がより好ましい。なお、樹脂組成物のpHを6~8にするに当たり、(B)成分は2種以上を用いてもよい。
【0021】
上記の通り、樹脂組成物のpHを6~8に調整するに当たり、(B)成分としてpHが4~9であるものを用いることが好ましい。なお、(B)成分を2種以上の混合物とする場合、少なくとも1種の成分のpHが4~9でなくても、混合物のpHが4~9の範囲内となるようにすればよい。
【0022】
(B)成分の由来となる酸及び塩基としては、樹脂組成物のpHを6~8に調整可能であれば特に限定はない。(B)成分の由来となる酸としては、リン酸、硫酸等が挙げられる。また、(B)成分の由来となる塩基としては、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属及びマグネシウムの水酸化物、アンモニア等が挙げられる。
(B)成分としては、例えば、リン酸塩のうちの少なくとも1種、硫酸アンモニウム等が挙げられ、中でも、リン酸塩のうちの少なくとも1種が好ましい。リン酸塩としては、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等が挙げられる。
【0023】
(B)成分の含有量としては、樹脂組成物のpHが6~8になるように設定すればよく、200~2000ppmとすることができる。
【0024】
[他の成分]
本実施形態においては、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤、又は、有機高分子材料、無機若しくは有機の粉体状、板状の充填材等を1種又は2種以上添加することができる。ただし、他の成分を添加する場合であっても、樹脂組成物のpHが6~8の範囲内となることが必要となる。
【0025】
<成形品>
本実施形態の成形品は、以上の本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を成形してなる。当該成形品は、溶融粘度の滞留安定性に優れるため、射出成形による長時間連続成形や、長時間滞留する固相押出等、高温に長時間暴露されるような成形加工でも安定して使用可能となる。
【0026】
本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を用いて成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0027】
本実施形態の成形品としては、自動車、航空、重産業(鉄鋼、発電所)、電子部品等の用途として好適に用いることができる。
【0028】
<全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の製造方法は、少なくとも(A)全芳香族エーテルケトン樹脂に対して、(B)酸及び塩基、又は酸と塩基とからなる塩の少なくとも1種を添加し、下記pH測定法により測定して得られるpHが6~8となるように調整する。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下する。
(c)温度を25℃とし、(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【0029】
本実施形態の製造方法においては、上述の本実施形態の樹脂組成物と同様に、少なくとも(A)全芳香族エーテルケトン樹脂に対して、(B)酸及び塩基、又は酸と塩基とからなる塩の少なくとも1種を添加することにより、樹脂組成物のpHを6~8に調整する。樹脂組成物のpHを6~8に調整することで、上述の通り、溶融粘度の滞留安定性に優れる。
【0030】
ここで、本実施形態の製造方法においては、樹脂組成物のpHを調整するに当たり、(B)酸及び塩基、又は酸と塩基とからなる塩の少なくとも1種を用いる。このうち、酸と塩基とからなる塩(以下、「塩A」)については、上述の本実施形態の樹脂組成物に含まれる、酸と塩基とからなる塩と同じであるため、ここでは説明を省略し、酸及び塩基のみについて以下に説明する。
【0031】
本実施形態の製造方法において添加する酸及び塩基は、それらを中和した後に上記塩Aとなる組合せが選択される。例えば、塩Aがリン酸二水素ナトリウムの場合、酸及び塩基はリン酸と水酸化ナトリウムとの組合せであり、塩Aが酢酸ナトリウムの場合、酸及び塩基は酢酸と水酸化ナトリウムとの組合せである。すなわち、全芳香族エーテルケトン樹脂に対して、酸及び塩基を添加すると、当該酸及び塩基はブレンド時に中和反応により塩Aを生成する。塩Aが生成すると、溶融粘度の滞留安定性に優れるという効果を発揮する。
【0032】
酸及び塩基の添加量としては、当該酸及び塩基の中和後に生成する塩のpHが、上述の塩Aと同じ範囲のpHとなるように設定する。
【0033】
<全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法>
本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法(以下、「滞留安定性の向上方法」と省略する。)は、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上である(A)全芳香族エーテルケトン樹脂を含む全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の溶融粘度の滞留安定性の向上方法である。そして、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物に、(B)酸と塩基とからなる塩を添加して、下記pH測定法により測定して得られるpHを6~8とする。
[pH測定法]
(a)全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過する。
(b)前記(a)により得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下する。
(c)温度を25℃とし、前記(b)において残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定する。
【0034】
上述の本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物においては、pHを所定の範囲内とすることで重合後の末端の官能性基による反応を抑制して溶融粘度の滞留安定性の向上を図っている。すなわち、樹脂組成物のpHを所定の範囲内とすることで、溶融粘度の滞留安定性を向上させることができる。そこで、本実施形態の滞留安定性の向上方法においては、(B)酸と塩基とからなる塩を添加して、前記pH測定法により測定して得られるpHを6~8とすることで溶融粘度の滞留安定性を向上させることができる。
【0035】
本実施形態の滞留安定性の向上方法において、(A)全芳香族エーテルケトン樹脂は、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上であり、その詳細については上述の通りであるからここでは説明を省略する。また、(B)酸と塩基とからなる塩も、本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物において説明した通りであるからここでは説明を省略する。その他、各成分の好ましいもの例示及び含有量の範囲も、上述の本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物において説明した記載内容がそのまま当てはまる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1~6、比較例1~5]
各実施例・比較例において、表1に示す各原料成分を表1に示す割合でブレンドし、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末を得た。なお、(B)酸と塩基とからなる塩は、水溶液(溶媒:蒸留水、濃度:2000ppm/mL)にして添加した。
使用した各原料成分の詳細を以下に示す。
【0038】
(A)全芳香族エーテルケトン樹脂
・ポリエーテルケトン(PEK)
特開2009-227961号公報に記載される製造方法に従って重合し、ポリエーテルケトンの粉末を得た。得られたポリエーテルケトンの粉末のpHは10であった。
なお、全芳香族エーテルケトン樹脂のpHは、後述する全芳香族エーテルケトン樹脂組成物のpH測定法と同様にして測定した。
【0039】
(B)酸と塩基とからなる塩
・リン酸二水素ナトリウム(2水和物);pH:4
・リン酸水素二ナトリウム(無水);pH:9
・リン酸三ナトリウム(12水和物);pH:12
・リン酸二水素カリウム;pH:4
・リン酸水素二カリウム;pH:9
・リン酸二水素アンモニウム;pH:4
・硫酸アンモニウム;pH:4
【0040】
[評価]
(1)pH
各実施例・比較例において得られた全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末10gに、アセトン5mLを添加した後、純水100mlを添加して10分間撹拌し、その後ろ過した。得られたろ液の液体成分を揮発させて生じた残渣に純水0.1mLを滴下した。温度を25℃とし、残渣に滴下した純水にpH試験紙を接触させてpHを測定した。測定したpHを表1及び表2に示す。
【0041】
(2)溶融粘度の保持率
各実施例・比較例において得られた全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末を、140℃で9時間乾燥後、SUS304製の円形金型(外径:50mm、内径:21mm、厚み:2mm)の中央部に0.8g計量し、真空加熱プレス装置((株)井元製作所製)を用いて、以下の成形条件でプレス成形し、測定用試験片を得た。
[成形条件]
加熱板温度:400℃
予熱時間:3分
プレス圧力:10ton
プレス時間:30秒
【0042】
得られた試験片について、レオメーター(TA Instruments製、Discovery HR-3)を用いて、以下の測定条件で溶融状態における複素粘度を測定し、下記の式(I)により溶融粘度の保持率を算出した。算出した溶融粘度の保持率を表1及び表2に示す。
溶融粘度の保持率(%)=[(30分時点の複素粘度)/(5分時点の複素粘度)]×100・・・(I)
[測定条件]
プレート径:25mm
ギャップ間隔:1000μm
測定温度:400℃
測定モード:振動
測定雰囲気:窒素
測定時間:5~30分
測定範囲:100rad/s
ひずみ:3%
【0043】
(3)溶融粘度の滞留安定性
各実施例・比較例において算出した溶融粘度の保持率に基づき評価した。すなわち、溶融粘度の保持率が95~105%の場合を「良好」とし、95%未満もしくは105%以上の場合を「不良」として評価した。評価結果が「良好」の場合、溶融粘度の滞留安定性に優れることを示す。評価結果を表1及び表2に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
表1~2より、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物のpHを6~8の範囲とした実施例1~6はいずれも溶融粘度の滞留安定性に優れることが分かる。これに対して、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物のpHの範囲が6~8の範囲外の比較例1~5は溶融粘度の滞留安定性に劣っていた。