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特許7332840全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその成形品、並びにリン系安定剤
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  • 特許-全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその成形品、並びにリン系安定剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその成形品、並びにリン系安定剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/10 20060101AFI20230816BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20230816BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C08L71/10
C08K3/32
C08K5/521
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023528295
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2022048558
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2022002415
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】竹内 諒
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/94472(WO,A1)
【文献】特表2021-527748(JP,A)
【文献】特表2019-515079(JP,A)
【文献】国際公開第2020/188202(WO,A1)
【文献】特表2013-534570(JP,A)
【文献】特開2017-114994(JP,A)
【文献】特表2018-520257(JP,A)
【文献】特表2018-520258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/10
C08K 3/32
C08K 5/521
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)全芳香族エーテルケトン樹脂と、(B)リン系安定剤と、を含み、
前記(B)リン系安定剤は、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩とを含有し、
前記(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上であり、
前記(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B1)リン酸二水素塩がアルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B1)リン酸二水素塩がアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B)リン系安定剤の合計の含有量が100~5000質量ppmである、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)リン系安定剤における、アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.00<([M]+[MII]×2)/[P]<2.00を満たす、請求項1に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)リン系安定剤における、アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.10≦([M]+[MII]×2)/[P]≦1.80を満たす、請求項1又は2に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)全芳香族エーテルケトン樹脂が、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B1)リン酸二水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸二水素塩であり、
前記(B2)リン酸水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸水素塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)リン系安定剤の合計の含有量が100~1000質量ppmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)全芳香族エーテルケトン樹脂が、ポリエーテルケトンである、請求項1~6のいずれか1項に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項9】
(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩と、を含有し、
前記(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上であり、
前記(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B1)リン酸二水素塩がアルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B1)リン酸二水素塩がアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上である、リン系安定剤。
【請求項10】
アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.00<([M]+[MII]×2)/[P]<2.00を満たす、請求項9に記載のリン系安定剤。
【請求項11】
前記(B1)リン酸二水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸二水素塩であり、
前記(B2)リン酸水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸水素塩である、請求項9又は10に記載のリン系安定剤。
【請求項12】
アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.10≦([M]+[MII]×2)/[P]≦1.80を満たす、請求項9~11のいずれか1項に記載のリン系安定剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその成形品、並びにリン系安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族エーテルケトン樹脂は、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)の略語でも知られ、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEK(ポリエーテルケトン)、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)、PEKEKK(ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン)等が製品として上市されている。全芳香族エーテルケトン樹脂は一般に高い融点(300℃超)を有するため、溶融させるに当たり高温に加熱する必要がある。ところが、そのような高温では熱劣化に対する安定性に欠けるという問題がある。そのため、溶融状態での安定化のために種々の対策がなされている(特許文献1、2参照)。特許文献1、2に記載の樹脂組成物は、リン酸塩又はリン酸塩の混合物を添加することで、溶融状態での熱酸化に対する安定化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2018-520257号公報
【文献】特表2018-520258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、全芳香族エーテルケトン樹脂は、溶融状態においては滞留時間の経過に伴い、増粘することが知られている。そのような増粘は、一般的には全芳香族エーテルケトン樹脂の加工温度が非常に高温(350℃超)であることに伴い、酸化による架橋が原因で生じると考えられている。特許文献1及び2に記載の樹脂組成物は溶融状態において熱酸化に対する安定化を図るものである。ところが、滞留時間の経過に伴う粘度の増減は、残存した反応性末端同士の反応、酸化架橋、残存触媒による副反応等による分子鎖伸長、熱や酸素、残存不純物等による分子鎖切断等多くの要因を含んでいる。そのため、熱酸化に対する安定化を図るだけでは溶融粘度の滞留安定性を向上させることはできない。
【0005】
また、本発明者の検討によると、リン酸塩(リン酸二水素塩(NaHPO等)、又はリン酸二水素塩及びリン酸水素塩(NaHPO等)の混合物)は、特に、水の存在下、かつ、高温時において金属腐食性が大きい。そのため、上記のように、溶融状態での熱酸化に対する安定化のためにリン酸塩を使用した場合、押出機等の装置内の金属部材が腐食する可能性があり、製造性の悪化が危惧される。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、溶融粘度の滞留安定性及び製造性に優れる全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその成形品、並びに高温時において耐金属腐食性に優れるリン系安定剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物のpHを所定の範囲(中性域)に調整することにより、溶融粘度の滞留安定性を向上可能であることを見出した。また、本発明者は、特定のリン酸塩を特定の組合せで使用することで、高温時における耐金属腐食性を向上可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)(A)全芳香族エーテルケトン樹脂と、(B)リン系安定剤と、を含み、
前記(B)リン系安定剤は、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩とを含有し、
前記(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上であり、
前記(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B1)リン酸二水素塩がアルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B1)リン酸二水素塩がアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B)リン系安定剤の合計の含有量が100~5000質量ppmである、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0009】
(2)前記(B)リン系安定剤における、アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.00<([M]+[MII]×2)/[P]<2.00を満たす、前記(1)に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0010】
(3)前記(B)リン系安定剤における、アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.10≦([M]+[MII]×2)/[P]≦1.80を満たす、前記(1)又は(2)に記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0011】
(4)前記(A)全芳香族エーテルケトン樹脂が、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選ばれる1種以上である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0012】
(5)前記(B1)リン酸二水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸二水素塩であり、
前記(B2)リン酸水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸水素塩である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0013】
(6)前記(B)リン系安定剤の合計の含有量が100~1000質量ppmである、前記(1)~(5)のいずれかに記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0014】
(7)前記(A)全芳香族エーテルケトン樹脂が、ポリエーテルケトンである、前記(1)~(6)のいずれかに記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物。
【0015】
(8)前記(1)~(7)のいずれかに記載の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0016】
(9)(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩と、を含有し、
前記(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上であり、
前記(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B1)リン酸二水素塩がアルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上であり、
前記(B1)リン酸二水素塩がアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上である、リン系安定剤。
【0017】
(10)アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.00<([M]+[MII]×2)/[P]<2.00を満たす、前記(9)に記載のリン系安定剤。
【0018】
(11)前記(B1)リン酸二水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸二水素塩であり、
前記(B2)リン酸水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸水素塩である、前記(9)又は(10)に記載のリン系安定剤。
【0019】
(12)アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.10≦([M]+[MII]×2)/[P]≦1.80を満たす、前記(9)~(11)のいずれかに記載のリン系安定剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶融粘度の滞留安定性及び製造性に優れる全芳香族エーテルケトン樹脂組成物及びその成形品、並びに高温時における金属腐食性が低いリン系安定剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】リン酸塩のイオン比([Na]/[P])に対するpHの関係をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<全芳香族エーテルケトン樹脂組成物>
本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも呼ぶ。)は、(A)全芳香族エーテルケトン樹脂と、(B)リン系安定剤と、を含む。また、(B)リン系安定剤は、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩とを含有する。そして、(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上である。さらに、(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上である。さらに、(B1)リン酸二水素塩がアルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、(B2)リン酸水素塩はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上である。さらに、(B1)リン酸二水素塩がアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、(B2)リン酸水素塩はアルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上である。また、(B)リン系安定剤の合計の含有量が100~5000質量ppmである。
なお、以下の説明において、アルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属を「アルカリ土類金属等」と呼ぶ。
【0023】
本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物は、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩とにより、pHが中性域の範囲に調整されるため、溶融粘度の滞留安定性を向上させることができる。そのメカニズムとしては、以下のように推察される。
全芳香族エーテルケトン樹脂の重合方法としては、(1)求核芳香族置換反応及び(2)フリーデル・クラフツ・アシル化反応の2種類が挙げられるが、本実施形態においては、(1)求核芳香族置換反応により重合されるものを対象としている。すなわち、(A)全芳香族エーテルケトン樹脂である、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンはいずれも(1)求核芳香族置換反応により重合される。(1)求核芳香族置換反応により重合される全芳香族エーテルケトン樹脂は、フェノール性水酸基と芳香族ハロゲンを反応性基として高温(300℃以上)、塩基性条件下で重合される。重合停止には、末端封止反応により末端バランスを崩し重合の進行を止める方法が一般的に採用される(特開昭61-138626号公報)。塩基性触媒として用いられるアルカリ金属塩は重合後の水による洗浄工程により取り除かれる。末端封止反応の反応率が低い、塩基性触媒の残存といった条件が重なると、溶融滞留した際に反応性末端同士で重合反応が進行し分子量が増大し、増粘することが重合メカニズムから考えられる。そこで、本実施形態においては、樹脂組成物のpHを中性域とすることで重合後の末端の官能性基による反応を抑制して溶融粘度の滞留安定性の向上を図っている。
【0024】
一方、本実施形態の樹脂組成物においては、(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属等のリン酸二水素塩の1種以上である。また、(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属等のリン酸水素塩の1種以上である。そして、本実施形態においては、(B1)リン酸二水素塩及び(B2)リン酸水素塩の組合せに特徴を有する。すなわち、(B1)リン酸二水素塩がアルカリ金属のリン酸二水素塩の場合、(B2)リン酸水素塩はアルカリ土類金属等のリン酸水素塩である。逆に、(B1)リン酸二水素塩がアルカリ土類金属等のリン酸二水素塩の1種以上である場合、(B2)リン酸水素塩はアルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上である。別言すると、(B1)リン酸二水素塩及び(B2)リン酸水素塩において、双方ともにアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属等の塩となることはなく、一方がアルカリ金属塩の場合、他方がアルカリ土類金属等の塩である。
本実施形態においては、(B1)リン酸二水素塩及び(B2)リン酸水素塩を上記のように組合せることで、金属腐食を抑制することができるが、そのメカニズムは次のように推察される。すなわち、アルカリ金属のリン酸塩は一般に水に溶けるが、2価以上の金属イオン(本実施形態においてはアルカリ土類金属等のイオン)が存在すると、M(I)(II)POで示される塩を形成する。そして、それらの塩の大部分は難溶性の塩である(金属表面技術, Vol.28, No.1, 1977)。そのため、リン酸塩の溶解性が変化して、酸の発生が抑制され、金属腐食性が低下したと推察される。
以下に、本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0025】
[(A)全芳香族エーテルケトン樹脂]
本実施形態の全芳香族樹脂組成物は、(A)全芳香族エーテルケトン樹脂として、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)からなる群より選ばれる1種以上を含む。それらの全芳香族エーテルケトン樹脂は、(1)求核芳香族置換反応により重合されることから塩基性を呈する。そのような観点から、全芳香族エーテルケトン樹脂自体のpHは9~12であることが好ましい。(A)全芳香族エーテルケトン樹脂としては、ポリエーテルケトン(PEK)であることが好ましい。
【0026】
上述の通り、全芳香族エーテルケトン樹脂の重合方法としては、(1)求核芳香族置換反応及び(2)フリーデル・クラフツ・アシル化反応の2種類が挙げられる。上記具体例のうち、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)のみが(2)フリーデル・クラフツ・アシル化反応により重合するのが一般的である。そのようなポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、中性を呈する。
【0027】
[(B)リン系安定剤]
本実施形態においては、上述の通り、(B)リン系安定剤は、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩とを含有する。以下、(B1)リン酸二水素塩及び(B2)リン酸水素塩のそれぞれについて説明する。
【0028】
((B1)リン酸二水素塩)
本実施形態において用いられる(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属等のリン酸二水素塩の1種以上である。
【0029】
アルカリ金属のリン酸二水素塩としては、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素ルビジウム、リン酸二水素セシウム等が挙げられる。
また、アルカリ土類金属等のリン酸二水素塩としては、リン酸二水素マグネシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素ストロンチウム、リン酸二水素バリウム等が挙げられる。
【0030】
中でも、(B1)リン酸二水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸二水素塩が好ましい。
【0031】
((B2)リン酸水素塩)
本実施形態において用いられる(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属等のリン酸水素塩の1種以上である。
【0032】
アルカリ金属のリン酸水素塩としては、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二ルビジウム、リン酸水素二セシウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属等のリン酸水素塩としては、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素バリウム等が挙げられる。
【0033】
中でも、(B2)リン酸水素塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる1種以上の金属のリン酸水素塩が好ましい。
【0034】
本実施形態に係る(B)リン系安定剤において、(B1)リン酸二水素塩及び(B2)リン酸水素塩の組合せとしては、例えば、以下の組合せが挙げられるが、本実施形態においては以下の組合せに限定されるものではない。
(B1)リン酸二水素塩がリン酸二水素カリウム、(B2)リン酸水素塩がリン酸水素マグネシウムの組合せ。
(B1)リン酸二水素塩がリン酸二水素ナトリウム、(B2)リン酸水素塩がリン酸水素カルシウムの組合せ。
(B1)リン酸二水素塩がリン酸二水素マグネシウム、(B2)リン酸水素塩がリン酸水素二カリウムの組合せ。
(B1)リン酸二水素塩がリン酸二水素カルシウム、(B2)リン酸水素塩がリン酸水素二ナトリウムの組合せ。
(B1)リン酸二水素塩がリン酸二水素カリウム、(B2)リン酸水素塩がリン酸水素マグネシウム及びリン酸水素カルシウムの組合せ。
(B1)リン酸二水素塩がリン酸二水素カリウム及びリン酸二水素ナトリウム、(B2)リン酸水素塩がリン酸水素マグネシウムの組合せ。
(B1)リン酸二水素塩がリン酸二水素カリウム及びリン酸二水素ナトリウム、(B2)リン酸水素塩がリン酸水素マグネシウム及びリン酸水素カルシウムの組合せ。
(B1)リン酸二水素塩がリン酸二水素マグネシウム及びリン酸二水素カルシウム、(B2)リン酸水素塩がリン酸水素二カリウム及びリン酸水素二ナトリウムの組合せ。
【0035】
(B)リン系安定剤において、アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属等のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、1.00<([M]+[MII]×2)/[P]<2.00を満たすことが好ましい。当該不等式について図1を参照して説明する。なお、[HPO]又は[HPO]のモル数はリンのモル数と等価であるため、上記不等式においてそれらをリンのモル数[P]と表記している。
図1は、リン酸塩のイオン比([Na]/[P])に対するpHの関係をグラフで示している。図1において、[Na]/[P]の値が1.00のときにNaHPOの組成となり、2.00のときにNaHPOの組成となる。そして、[Na]/[P]の値が1.00超2.00未満のときに、NaHPOの組成及びNaHPOの組成が混合した状態である。その状態のときpHが中性域となり、溶融粘度の滞留安定性が向上する。
【0036】
本実施形態においては、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩とを含有すること、及びアルカリ金属の価数(1価)とアルカリ土類金属等の価数(2価)とを考慮すると、1.00<([M]+[MII]×2)/[P]<2.00を満たすとpHが中性域となり、溶融粘度の滞留安定性が向上する。また、1.10≦([M]+[MII]×2)/[P]≦1.80を満たすことがより好ましい。
【0037】
以上の(B)リン系安定剤の合計の含有量は100~5000質量ppmである。100質量ppm未満であると溶融粘度の滞留安定性に劣り、5000質量ppmを超えると製造性に劣る。当該含有量は、100~1000質量ppmであることが好ましく、200~800質量ppmであることがより好ましい。
【0038】
[他の成分]
本実施形態においては、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤、又は、有機高分子材料、無機若しくは有機の粉体状、板状の充填材等を1種又は2種以上添加することができる。ただし、他の成分を添加する場合であっても、樹脂組成物のpHが中性域となることが必要となる。
【0039】
本実施形態の樹脂組成物は、耐金属腐食性の更なる向上のため水分を含まないことが好ましい。
【0040】
<成形品>
本実施形態の成形品は、以上の本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を成形してなる。当該樹脂組成物は、溶融粘度の滞留安定性に優れるため、射出成形による長時間連続成形や、長時間滞留する固化押出等、高温に長時間暴露されるような成形加工でも安定して使用可能となる。また、当該樹脂組成物は製造性に優れるため、成形品の成形時において製造装置の腐食が少ない。
【0041】
本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を用いて成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0042】
本実施形態の成形品としては、自動車、航空、重産業(鉄鋼、発電所)、電子部品等の用途として好適に用いることができる。
【0043】
<リン系安定剤>
本実施形態のリン系安定剤は、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩と、を含有する。また、(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上である。さらに、(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上である。そして、(B1)リン酸二水素塩がアルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、(B2)リン酸水素塩はアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸水素塩の1種以上である。(B1)リン酸二水素塩がアルカリ土類金属及びマグネシウムからなる群より選ばれる金属のリン酸二水素塩の1種以上である場合、前記(B2)リン酸水素塩はアルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上である。
【0044】
本実施形態のリン系安定剤は、上述の本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物に含まれる(B)リン系安定剤である。従って、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物に添加した場合、溶融粘度の滞留安定性に優れる。また、本実施形態のリン系安定剤は、高温時において金属腐食性が低いため、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物に添加し、例えば、押出機により押出しをした場合に、押出機の内部の金属部材の腐食を防止することができる。
【0045】
上記の通り、本実施形態のリン系安定剤は、上述の本実施形態の全芳香族エーテルケトン樹脂組成物に含まれる(B)リン系安定剤であり、(B)リン系安定剤について既にした説明がそのまま当てはまる。(B)リン系安定剤の説明で述べた、好ましい態様や具体例も同じである。従って、本実施形態のリン系安定剤の詳細な説明は省略する。
【0046】
本実施形態のリン系安定剤は、耐金属腐食性の更なる向上のため水分を含まないことが好ましい。
【実施例
【0047】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1~6、比較例1~7、参考例1] ~リン系安定剤~
各実施例・比較例・参考例において、表1、2に示す(B1)リン酸二水素塩及び(B2)リン酸水素塩を表1、2に示す割合でブレンドしてリン系安定剤を得た。また、アルカリ金属のモル数を[M]とし、アルカリ土類金属等のモル数を[MII]とし、リンのモル数を[P]としたとき、([M]+[MII]×2)/[P]の式により算出した数値を表1及び表2に示す。
【0049】
[評価]
各実施例・比較例・参考例で得られたリン系安定剤の耐金属腐食性を、以下の手順に従った加速試験を行って評価した。
(a)試験に用いるリン系安定剤を180℃に設定した送風乾燥機にて2時間乾燥させた。
(b)乾燥させたリン系安定剤を各実施例・比較例・参考例のリン酸塩組成と同等の組成でリン酸塩の総量が15gになるように乳鉢に計量し、そこに蒸留水1.5gを添加して混ぜ合わせた。
(c)PTFE製の内筒を有する、耐圧容器内に(b)で調合したリン酸塩と15mm×15mm×3mmの金属試験片(鋼材種類:山陽特殊製鋼社SPM30)を入れ、200℃で72時間処理を行った。
(d)処理が完了した金属試験片から、リン酸塩と腐食部分をカッターナイフなどで除去し、試験後の重量減少量を確認した。結果を表1に示す。
また、重量減少量が4%以下の場合を「良好」とし、4%を超える場合を「不良」として評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1、2より、耐金属腐食性の評価において、実施例1~7においてはいずれも良好な結果が得られたのに対し、比較例1~7はいずれも不良であった。すなわち、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩とを所定の組合せで使用しつつ、リン系安定剤を全体として所定の含有量で含有することで高温時における耐金属腐食性が向上することが分かる。なお、参考例1は、(B2)リン酸水素塩たるリン酸水素二ナトリウムを単独で添加した例であり、リン酸水素塩を単独で使用した場合には、耐腐食性が劣るという問題は生じない。
【0053】
[実施例8~13、比較例8~17] ~全芳香族エーテルケトン樹脂組成物~
各実施例・比較例において、表3、4に示す各原料成分を表3、4に示す割合でブレンドし、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末を得た。なお、各実施例・比較例(比較例17を除く)で用いた(B)リン系安定剤は、上述の実施例1~7、比較例1~7、参考例1のリン系安定剤のいずれかと同等であり、以下に、それらの対応関係を示す。
実施例8~13の(B)リン系安定剤:それぞれ実施例1~6の(B)リン系安定剤
比較例8~12の(B)リン系安定剤:それぞれ比較例1~5の(B)リン系安定剤
比較例13の(B)リン系安定剤:実施例7の(B)リン系安定剤
比較例14~15の(B)リン系安定剤:それぞれ比較例6~7の(B)リン系安定剤
比較例16の(B)リン系安定剤:参考例1のリン系安定剤
【0054】
また、使用した全芳香族エーテルケトン樹脂の詳細は以下の通りである。
(A)全芳香族エーテルケトン樹脂
・ポリエーテルケトン(PEK)
特開2009-227961号公報に記載される製造方法に従って重合し、ポリエーテルケトンの粉末を得た。
【0055】
[評価]
各実施例・比較例で得られた樹脂組成物を用いて以下の評価を行った。
【0056】
(1)樹脂組成物ペレットの作製
各実施例・比較例において得られた全芳香族エーテルケトン樹脂組成物の粉末を、コペリオン社製二軸押出機ZSK26MCを用いて、バレル設定温度380℃、ダイヘッド設定温度400℃で溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。
【0057】
(2)溶融粘度の保持率
得られた樹脂組成物ペレットについて、(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1B型を使用し、シリンダー温度設定値400℃で、内径1mm、長さ30mmのオリフィスを用いて、剪断速度1000/秒で、ISO11443に準拠して、溶融粘度を測定し、下記の式(I)により溶融粘度の保持率を算出した。算出した溶融粘度の保持率を表3及び表4に示す。
溶融粘度の保持率(%)=[(滞留時間30分の溶融粘度)/(滞留時間10分の溶融粘度)]×100・・・(I)
【0058】
(3)溶融粘度の滞留安定性
各実施例・比較例において算出した溶融粘度の保持率に基づき評価した。すなわち、溶融粘度の保持率が95%以上105%未満の場合を「良好」とし、95%未満もしくは105%以上の場合を「不良」として評価した。評価結果が「良好」の場合、溶融粘度の滞留安定性に優れることを示す。評価結果を表3及び表4に示す。
【0059】
(4)樹脂組成物の製造性
各実施例・比較例の樹脂組成物の製造性を、上記の実施例1~6、比較例1~7、参考例1におけるリン系安定剤の耐金属腐食性の試験結果に基づき判断した。すなわち、各実施例・比較例において用いた(B)リン系安定剤に対応する、実施例1~6、比較例1~7、参考例1におけるリン系安定剤の耐金属腐食性の試験結果に基づき判断した。具体的には、重量減少量が4%以下の場合を「良好」とし、重量減少量が4%を超える場合を「不良」とした。評価結果が「良好」の場合、製造装置を腐食させるリスクが小さいことから製造性に優れることを示す。評価結果を表3及び表4に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
表3、4より、実施例8~13は、溶融粘度の滞留安定性及び樹脂組成物の製造性に優れることが分かる。これに対して、比較例8~17は、溶融粘度の滞留安定性及び樹脂組成物の製造性の双方を同時に満足させることができなかった。
なお、比較例13は、実施例7の(B)リン系安定剤を用いてはいるが、含有量が過少のため、溶融粘度の滞留安定性に劣っていた。同様に、比較例16は、参考例1の(B)リン系安定剤を用いているため耐金属腐食性については良好であったが、当該リン系安定剤はリン酸水素塩単独でありpHが塩基性域のため(図1参照)、溶融粘度の滞留安定性に劣っていた。
【要約】
(A)全芳香族エーテルケトン樹脂と、(B)リン系安定剤と、を含み、(B)リン系安定剤は、(B1)リン酸二水素塩と、(B2)リン酸水素塩とを含有し、(B1)リン酸二水素塩は、アルカリ金属のリン酸二水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属等のリン酸二水素塩の1種以上であり、(B2)リン酸水素塩は、アルカリ金属のリン酸水素塩の1種以上、又はアルカリ土類金属等のリン酸水素塩の1種以上であり、かつ、(B1)リン酸二水素塩と(B2)リン酸水素塩とが所定の組合せで含有し、(B)リン系安定剤の合計の含有量が100~5000質量ppmである、全芳香族エーテルケトン樹脂組成物である。
図1