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特許7333019セメント組成物、及び、セメント硬化体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】セメント組成物、及び、セメント硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230817BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20230817BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20230817BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/08 Z
C04B22/14 A
C04B24/12 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020041863
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143088
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】本田 和也
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-095651(JP,A)
【文献】特開2014-189437(JP,A)
【文献】特開2016-190771(JP,A)
【文献】特開平09-110510(JP,A)
【文献】立畑 節郎ら,高炉セメントの強さ発現性とトリエタノールアミン,セメント・コンクリート論文集,1982年,VOL36,ID36-014
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02, C04B40/00-40/06, C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグ又はフライアッシュが混合された混合セメントと、硫酸カリウムと、トリエタノールアミンと、水と、を含み、
前記高炉スラグが混合される場合、前記高炉スラグの含有量が前記混合セメントに対し5質量%以上70質量%以下であり、
前記フライアッシュが混合される場合、前記フライアッシュの含有量が前記混合セメントに対し5質量%以上30質量%以下であり、
前記混合セメントに対して、
前記硫酸カリウムの含有量が0.50質量%以上2.0質量%以下であり、
前記トリエタノールアミンの含有量が0.01質量%以上0.1質量%以下である、セメント組成物。
【請求項2】
前記混合セメントに対して、前記硫酸カリウムの含有量が1.0質量%以上2.0質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記混合セメントに対して、前記トリエタノールアミンの含有量が0.02質量%以上0.08質量%以下である、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
水結合材比が50%以上58%以下である、請求項1~3のいずれか一つに記載のセメント組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載のセメント組成物を用いてセメント硬化体を製造する方法であって、
高炉スラグ又はフライアッシュが混合された混合セメントと、硫酸カリウムと、トリエタノールアミンと、水と、を混合して混合物を得た後、該混合物を硬化させる、セメント硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、及び、該セメント組成物を用いたセメント硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリート構造物等のセメント硬化体に用いられるセメント組成物は、硬化する前のフレッシュな状態で型枠や支保工内に打設し、硬化させた後に脱枠することで施工される。
【0003】
従来、飛来塩分や凍結防止剤により塩化物イオンの供給が考えられるセメント硬化体や、化学的浸食の厳しい環境下で設置されるセメント硬化体には、普通ポルトランドセメントに対して高炉スラグ微粉末やフライアッシュ等の混和材を添加した混合セメントの使用が望ましいとされている(非特許文献1)。
【0004】
一方で、混合セメントを使用したセメント組成物は、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントを使用したセメント組成物に比べて水和速度が遅く、特に、低温環境下においてセメント硬化体の初期強度が小さくなる傾向にある(非特許文献2)。セメント硬化体の初期強度が小さいと、型枠及び支保工を取り外せる強度を確保するまでの期間が長くなり、工事の期間が長くなるといった問題がある。セメント硬化体の初期強度は、セメント組成物の水セメント比を小さくすることにより向上することが知られている(非特許文献3)。
【0005】
セメント硬化体においては、自己収縮ひずみについても充分に留意する必要がある。セメント硬化体の自己収縮ひずみが大きいと、収縮応力によるひび割れが生じ、耐久性が低下するといった問題が発生する。セメント硬化体の自己収縮ひずみは、セメント組成物の水セメント比を大きくすることにより抑制されることが知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】コンクリート標準示方書[設計編]、土木学会、2017年制定、145ページ
【文献】コンクリート標準示方書[施工編]、土木学会、2017年制定、127ページ
【文献】コンクリート専門委員会 委員会報告ダイジェスト版、社団法人 セメント協会、2011年3月、11ページ
【文献】高強度コンクリートの技術の現状(2009)、日本建築学会、123ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、セメント硬化体の初期強度を向上させるためには、セメント組成物の水セメント比を小さくすることが望ましい。一方で、セメント組成物の水セメント比を小さくすると、セメント硬化体が緻密になり、自己収縮ひずみが大きくなる。そのため、セメント硬化体の初期強度の向上と、自己収縮ひずみの抑制とを両立させることが難しいという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、初期強度が高く、かつ、自己収縮ひずみを抑制したセメント硬化体を得ることが可能なセメント組成物、及び、該セメント組成物を用いたセメント硬化体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るセメント組成物は、高炉スラグ又はフライアッシュが混合された混合セメントと、硫酸カリウムと、トリエタノールアミンと、水と、を含み、前記混合セメントに対して、前記硫酸カリウムの含有量が0.50質量%以上2.0質量%以下であり、前記トリエタノールアミンの含有量が0.01質量%以上0.1質量%以下である。
【0010】
斯かる構成により、前記セメント組成物は、初期強度が高く、かつ、自己収縮ひずみを抑制したセメント硬化体を得ることができる。
【0011】
本発明に係るセメント組成物は、前記混合セメントに対して、前記硫酸カリウムの含有量が1.0質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0012】
斯かる構成により、前記セメント組成物は、初期強度がより高く、かつ、自己収縮ひずみをより抑制したセメント硬化体を得ることができる。
【0013】
本発明に係るセメント組成物は、前記混合セメントに対して、前記トリエタノールアミンの含有量が0.02質量%以上0.08質量%以下であることが好ましい。
【0014】
斯かる構成により、前記セメント組成物は、初期強度がより高く、かつ、自己収縮ひずみをより抑制したセメント硬化体を得ることができる。
【0015】
本発明に係るセメント組成物は、水結合材比が50%以上58%以下であることが好ましい。
【0016】
斯かる構成により、前記セメント組成物は、好ましい範囲の強度を有するセメント硬化体を得ることができる。
【0017】
本発明に係るセメント硬化体の製造方法は、上述のセメント組成物を用いてセメント硬化体を製造する方法であって、高炉スラグ又はフライアッシュが混合された混合セメントと、硫酸カリウムと、トリエタノールアミンと、水と、を混合して混合物を得た後、該混合物を硬化させる。
【0018】
斯かる構成により、初期強度が高く、かつ、自己収縮ひずみを抑制したセメント硬化体を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、初期強度が高く、かつ、自己収縮ひずみを抑制したセメント硬化体を得ることが可能なセメント組成物、及び、該セメント組成物を用いたセメント硬化体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態に係るセメント組成物、及び、該セメント組成物を用いたセメント硬化体の製造方法について説明する。
【0021】
<セメント組成物>
本実施形態に係るセメント組成物は、高炉スラグ又はフライアッシュが混合された混合セメントと、硫酸カリウムと、トリエタノールアミンと、水と、を含む。
【0022】
高炉スラグが混合された混合セメントとしては、JIS R 5211に規定される各種の高炉セメントを用いることができる。前記高炉セメントとしては、高炉セメントA種、B種、及び、C種が挙げられる。フライアッシュが混合された混合セメントとしては、JIS R 5213に規定される各種のフライアッシュセメントを用いることができる。前記フライアッシュセメントとしては、フライアッシュセメントA種、B種、及び、C種が挙げられる。
【0023】
高炉スラグ又はフライアッシュを混合するセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS R 5210で規定される普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメントを用いることができる。なお、これらのセメントは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
高炉スラグとしては、特に限定されるものではなく、例えば、高炉水砕スラグ微粉末、高炉除冷スラグ微粉末等が挙げられ、JIS A 6206の規定に適合するものを用いることができる。高炉スラグの含有量は、強度をより向上させ、かつ、自己収縮ひずみをより抑制する観点から、混合セメントに対して、5質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
フライアッシュとしては、特に限定されるものではなく、例えば、フライアッシュI種、II種、III種、IV種等が挙げられ、JIS A 6201の規定に適合するものを用いることができる。フライアッシュの含有量は、強度をより向上させ、かつ、自己収縮ひずみをより抑制する観点から、混合セメントに対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
混合セメントの配合量は、単位量(kg/m:セメント硬化体1m当たりの質量)で、200kg/m以上615kg/m以下であることが好ましく、230kg/m以上500kg/m以下であることがより好ましい。
【0027】
硫酸カリウムの含有量は、混合セメントに対して、0.50質量%以上2.0質量%以下であり、1.0質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0028】
トリエタノールアミンの含有量は、混合セメントに対して、0.01質量%以上0.1質量%以下であり、0.02質量%以上0.08質量%以下であることが好ましい。
【0029】
水としては、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等を使用することができる。水には、セメント組成物の水和反応及びセメント硬化体に悪影響を及ぼす有機物、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が含まれないか、含まれていても極めて微量であることが好ましい。水としては、品質の安定した水道水又は工業用水であることがより好ましい。
【0030】
水の配合量は、単位量(kg/m:セメント硬化体1m当たりの質量)で、130kg/m以上185kg/m以下であることが好ましく、140kg/m以上175kg/m以下であることがより好ましい。
【0031】
水結合材比は、50%以上58%以下であることが好ましく、52%以上56%以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態に係るセメント組成物は、例えば、粗骨材、細骨材等の骨材、混和材等の粉体成分、混和剤等の液体成分を含んでいてもよい。
【0033】
細骨材とは、10mm網ふるいを全部通過し、5mm網ふるいを質量で85%以上通過する骨材のことをいう(JIS A 0203:2014)。細骨材としては、例えば、JIS A 5308附属書Aレディミクストコンクリート用骨材で規定される山砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂、石灰石砕砂等の天然由来の砂、高炉スラグ、電気炉酸化スラグ、フェロニッケルスラグ等のスラグ由来の砂等が挙げられる。なお、これらの細骨材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
粗骨材とは、5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材のことをいう(JIS A 0203:2014)。粗骨材としては、例えば、川砂利、山砂利、海砂利等の天然骨材、砂岩、硬質石灰岩、玄武岩、安山岩等の砕石等の人工骨材、再生骨材等が挙げられる。なお、これらの粗骨材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
混和材としては、例えば、シリカフューム、セメントキルンダスト、高炉フューム、転炉スラグ微粉末、半水石膏、膨張材、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末等の無機質微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等の無機物系フィラーが挙げられる。なお、混和材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
混和剤としては、例えば、AE剤、AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤(例えば、酒石酸等)、凝結促進剤(例えば、硫酸アルミニウム等)、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。なお、混和剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本実施形態に係るセメント組成物は、高炉スラグ又はフライアッシュが混合された混合セメントと、硫酸カリウムと、トリエタノールアミンと、水と、を含み、前記混合セメントに対して、前記硫酸カリウムの含有量が0.50質量%以上2.0質量%以下であり、前記トリエタノールアミンの含有量が0.01質量%以上0.1質量%以下であることにより、初期強度が高く、かつ、自己収縮ひずみを抑制したセメント硬化体を得ることができる。
【0038】
本実施形態に係るセメント組成物は、前記混合セメントに対して、前記硫酸カリウムの含有量が1.0質量%以上2.0質量%以下であることにより、初期強度がより高く、かつ、自己収縮ひずみをより抑制したセメント硬化体を得ることができる。
【0039】
本実施形態に係るセメント組成物は、前記混合セメントに対して、前記トリエタノールアミンの含有量が0.02質量%以上0.08質量%以下であることにより、初期強度がより高く、かつ、自己収縮ひずみをより抑制したセメント硬化体を得ることができる。
【0040】
本実施形態に係るセメント組成物は、水結合材比が50%以上58%以下であることにより、好ましい範囲の強度を有するセメント硬化体を得ることができる。
【0041】
<セメント硬化体の製造方法>
本実施形態に係るセメント硬化体の製造方法は、上述のセメント組成物を用いてセメント硬化体を製造する方法であって、高炉スラグ又はフライアッシュが混合された混合セメントと、硫酸カリウムと、トリエタノールアミンと、水と、を混合して混合物を得た後、該混合物を硬化させる。
【0042】
前記混合物は、高炉スラグ又はフライアッシュが混合された混合セメントと、硫酸カリウムと、トリエタノールアミンと、水と共に、必要に応じて粗骨材、細骨材等の骨材、混和材等の粉体成分と、混和剤等の液体成分と、をミキサー等で攪拌混合することにより得られる。
【0043】
本実施形態に係るセメント硬化体の製造方法は、斯かる構成により、初期強度が高く、かつ、自己収縮ひずみを抑制したセメント硬化体を製造することができる。
【実施例
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(セメント組成物の作製)
表1~表3に示す配合で各実施例及び比較例のセメント組成物を作製した。
【0046】
表1~表3に示す各成分の詳細を以下に示す。
セメント:普通ポルトランドセメント(N、住友大阪セメント社製)
高炉セメントB種(BB、住友大阪セメント社製)
フライアッシュII種(FA、北陸電力社製、七尾大田火力発電所産)
水:水道水
細骨材:山砂
粗骨材:砂岩砕石
硫酸カリウム(KSO):大塚化学社製
トリエタノールアミン(C15NO):関東化学社製
【0047】
(圧縮強度の測定)
各セメント組成物は、内径10cm×高さ20cmの円筒形の型枠に流し込み、硬化させた。冬場の施工環境を想定して、コンクリートの練り上がり温度は10℃、養生温度は15℃とし、封緘養生とした。圧縮強度試験は注水24時間後に実施し、脱型は圧縮強度試験直前に行った。圧縮強度の測定はJIS A 1108に記載の方法に従って測定した。結果を表2及び表3に示す。なお、本試験では、圧縮強度が3.0N/mm以上のセメント組成物を合格と判定した。
【0048】
(自己収縮ひずみの測定)
自己収縮ひずみの測定は、JCI超流動コンクリート研究委員会報告書の「高流動コンクリートの自己収縮試験方法」に準拠して測定した。結果を表2及び表3に示す。なお、本試験では、自己収縮ひずみが75μ以下のセメント組成物を合格と判定した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表2及び表3の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす実施例のセメント組成物は、材齢1日の初期強度が高く、かつ、自己収縮ひずみを抑制したセメント硬化体が得られる。
【0053】
一方、硫酸カリウム及びトリエタノールアミンの少なくとも一方を含まないか、含んでいても本発明で規定する範囲を外れる比較例のセメント組成物は、得られたセメント硬化体の材齢1日の初期強度が低いか、自己収縮ひずみが大きいか、又は、その両方である。