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特許7333080ポリマーと被接着物との接着積層体の製造方法
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  • 特許-ポリマーと被接着物との接着積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ポリマーと被接着物との接着積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/02 20060101AFI20230817BHJP
   C09J 4/04 20060101ALI20230817BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20230817BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C09J5/02
C09J4/04
C09J163/00
B32B27/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020525796
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024504
(87)【国際公開番号】W WO2019244980
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2018117172
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬
(72)【発明者】
【氏名】淺原 時泰
(72)【発明者】
【氏名】井上 豪
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第00923846(GB,A)
【文献】特開2008-291168(JP,A)
【文献】特開平06-340759(JP,A)
【文献】特開2000-109584(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104798(WO,A1)
【文献】国際公開第1989/010208(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/117850(WO,A1)
【文献】特表平07-509750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
C08J7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射下においてポリマーをハロゲン酸化物ラジカルと反応させる、表面処理工程、および、
前記表面処理工程後の前記ポリマーの表面および被接着物の表面の少なくとも一方に、接着剤を塗布して、前記ポリマーと前記被接着物とを接着する接着工程を含み、
前記ポリマーが、主鎖に芳香環を有するポリマーであることを特徴とする前記ポリマーと前記被接着物との接着積層体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、液晶ポリマーである、請求項1に記載の接着積層体の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤が、水親和性の接着剤である、請求項1に記載の接着積層体の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤が、水を開始剤として重合するモノマーを含む、請求項1に記載の接着積層体の製造方法。
【請求項5】
前記モノマーが、シアノアクリレートモノマーである、請求項4に記載の接着積層体の製造方法。
【請求項6】
前記接着剤が、エポキシ系接着剤である、請求項1から4のいずれか一項に記載の接着積層体の製造方法。
【請求項7】
前記表面処理工程の反応系が、気体反応系または液体反応系である、請求項1から6のいずれか一項に記載の接着積層体の製造方法。
【請求項8】
前記ハロゲン酸化物ラジカルが、二酸化塩素ラジカルである、請求項1から7のいずれか一項に記載の接着積層体の製造方法。
【請求項9】
前記表面処理工程に供する前記ポリマーが、シート、フィルム、プレート、チューブ、パイプ、棒、ビーズ、ブロック、織布、不織布および糸からなる群から選択された少なくとも一つの成形体である、請求項1から8のいずれか一項に記載の接着積層体の製造方法。
【請求項10】
前記被接着物が、金属またはポリマーである、請求項1から9のいずれか一項に記載の接着積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーと被接着物との接着積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー層と被接着物とを接着する際、あらかじめ、前記ポリマー層には、接着性を高める処理が行われている(特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-251038号公報
【文献】特開2013-091702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2の方法は、変性ポリマーを用いる方法である。しかし、この方法は、ポリマー合成の段階で特別な処理が必要であり、適用範囲に限界がある。
【0005】
また、ポリマーの接着性を高める方法として、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、グラフト化処理等の物理的な処理方法がある。しかし、これらの方法は、操作の煩雑さ、処理コスト、反応コントロールの困難性等の問題がある。他方、化学的な表面処理方法は、重金属酸化剤を用いる方法があるが、重金属酸化剤の処理コスト等の問題がある。このような問題は、前記ポリマーと前記被接着物とを接着剤により接着させる場合も同様である。
【0006】
そこで、本発明は、簡便かつ低コストに、接着剤を介したポリマーと被接着物との接着性を向上させ、接着積層体を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の製造方法は、ポリマーと被接着物との接着積層体の製造方法であり、
ポリマーをハロゲン酸化物ラジカルと反応させる、表面処理工程、および、
前記表面処理工程後の前記ポリマーの表面および被接着物の表面の少なくとも一方に、接着剤を塗布して、前記ポリマーと前記被接着物とを接着する接着工程を含み、
前記ポリマーが、主鎖に芳香環を有するポリマーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便かつ低コストに、接着剤を介したポリマーと被接着物との接着性を向上させた接着積層体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の接着積層体の製造方法における表面処理工程の一例を模式的に示す図である。
図2図2は、実施例1におけるフィルムの濡れ性を示す写真である。
図3図3は、実施例1における接着体の積層方法の概略を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、前記表面処理工程によれば、前記ポリマーを改質できる。本明細書において、前記表面処理工程を「改質処理」または「改質方法」という場合がある。前記表面処理工程により前記ポリマーを酸化する場合、前記表面処理工程は、前記ポリマーの酸化方法であるということができる。
【0011】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記ポリマーが、液晶ポリマーである。
【0012】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記接着剤が、水親和性の接着剤である。
【0013】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記接着剤が、水を開始剤として重合するモノマーを含む。
【0014】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記モノマーが、シアノアクリレートモノマーである。
【0015】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記接着剤が、エポキシ系接着剤である。
【0016】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記表面処理工程の反応系が、気体反応系または液体反応系である。
【0017】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルが、二酸化塩素ラジカルである。
【0018】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記表面処理工程に供する前記ポリマーが、シート、フィルム、プレート、チューブ、パイプ、棒、ビーズ、ブロック、織布、不織布および糸からなる群から選択された少なくとも一つの成形体である。
【0019】
本発明の接着積層体の製造方法は、例えば、前記被接着物が、金属またはポリマーである。
【0020】
本発明において、鎖状化合物(例えば、アルカン、不飽和脂肪族炭化水素等)または鎖状化合物から誘導される鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、例えば、直鎖状でも分枝状でもよく、その炭素数は、特に限定されず、例えば、1~40、1~32、1~24、1~18、1~12、1~6、1~2であり、不飽和炭化水素基の場合、炭素数は、例えば、2~40、2~32、2~24、2~18、2~12、2~6である。本発明において、環状の化合物(例えば、環状飽和炭化水素、非芳香族環状不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、ヘテロ芳香族化合物等)または環状の化合物から誘導される環状の基(例えば、環状飽和炭化水素基、非芳香族環状不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されず、例えば、5~32、5~24、6~18、6~12、または6~10である。置換基等に異性体が存在する場合、例えば、異性体の種類は、特に制限されず、具体例として、単に「ナフチル基」という場合は、例えば、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でもよい。
【0021】
本発明において、塩は、特に制限されず、例えば、酸付加塩でも、塩基付加塩でもよい。前記酸付加塩を形成する酸は、例えば、無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は、例えば、無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸は、特に限定されず、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸は、特に限定されず、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基は、特に限定されず、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基は、特に限定されず、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。
【0022】
以下、本発明の実施形態について、例をあげてさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0023】
本発明の製造方法は、前述のように、ポリマーをハロゲン酸化物ラジカルと反応させる、表面処理工程、および、前記表面処理工程後の前記ポリマー(以下、処理済ポリマーともいう)の表面および被接着物の表面の少なくとも一方に、接着剤を塗布して、前記処理済ポリマーと前記被接着物とを接着する接着工程を含み、前記ポリマーが、主鎖に芳香環を有するポリマーであることを特徴とする。本発明の製造方法によれば、例えば、前記表面処理工程によって、前記ポリマーの表面を改質でき、これによって、前記接着工程における、前記接着剤を介した、前記処理済ポリマーと前記被接着物との接着性を向上し、前記処理済ポリマーと前記被接着物との接着性が向上して接着積層体を製造できる。
【0024】
(1) ポリマー
本発明において、前記表面処理工程に供するポリマー(以下、処理前ポリマーともいう。)は、主鎖に芳香環を有するポリマーである。後述する表面処理工程によれば、例えば、前記ポリマーの主鎖に含まれる芳香環の側鎖が、改質される。前記芳香環の種類は、特に制限されず、例えば、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントリレン基、クリセニレン基、ピレニレン基、ベンゾアントラセニレン基、フルオランテニレン基、ベンゾフルオランテニレン基、ペリレニレン基、コロネリレン基、ピセニレン基、ジフェニルアントラセニレン基、フルオレニレン基、トリフェニリレン基、ルビセニレン基、フェニルアントラセニレン基、ビスアントラセニレン基、ジアントラセニルベンジニレン基、ジベンゾアントラセニレン基等があげられ、好ましくは、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントリレン基、クリセニレン基、ピレニレン基、ベンゾアントラセニレン基等があげられる。前記処理前ポリマーは、例えば、エンジニアプラスチックがあげられ、具体例として、液晶ポリマーがあげられる。
【0025】
本発明は、中でも、前記液晶ポリマーへの適用に有用である。前記液晶ポリマーは、既存の接着剤による接着が極めて困難であることが知られている。前記液晶ポリマーは、例えば、接着剤によって化学的に前記被接着物に接着させることが困難であることから、前記液晶ポリマーの成形体について、物理的な処理で粗面化する等が必要であった。しかし、前記成形体の表面を粗面化しても、前記被接着物に対して前記接着剤により十分な接着力で接着させることが困難である。前記液晶ポリマー等は、例えば、微細な成形が可能であり、機能性にも優れることから、スマートフォン等の様々なデバイスへの利用が図られているが、接着性が大きな課題となっている。本発明によれば、例えば、前記液晶ポリマーであっても、前記表面処理工程を施すことによって、前記液晶ポリマーの表面を改質でき、これによって前記接着性が向上することから、前述のような物理的な処理も不要であり、また、十分な接着性も得ることができる。
【0026】
前記液晶ポリマーは、例えば、モノマーとしてパラヒドロキシ安息香酸を有するポリマーがあげられ、具体例として、下記式に示す基本構造があげられる。下記式において、例えば、タイプIは、フェノールとフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸の重縮合体であり、タイプIIは、2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体であり、タイプIIIは、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体である。下記式において、モノマー構造の繰り返し単位は、特に制限されない。
【化1】
【0027】
前記処理前ポリマーは、例えば、前記液晶ポリマーの他に、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリウレタン、芳香族ポリアミド等があげられる。
【0028】
前記処理前ポリマーに含まれるポリマーの種類は、特に制限されず、例えば、一種類でも、二種類以上の混合物でもよい。前記ポリマーは、例えば、ポリマーアロイ、ポリマーコンパウンドでもよい。
【0029】
前記処理前ポリマーは、例えば、流動性を有するポリマー、半固体状のポリマー、固体状のポリマーでもよい。前記処理前ポリマーは、例えば、室温以上の融点を有するポリマー、室温で固体状、結晶状またはアモルファス状のポリマー、0℃以上で固体状、結晶状またはアモルファス状のポリマー等があげられる。前記処理前ポリマーがガラス転移温度を有する場合、前記ガラス転移温度は、特に限定されず、例えば、-150℃以上である。前記処理前ポリマーは、例えば、結晶化度が相対的に高いものでもよく、前記結晶化度は、例えば、20%以上、30%以上、35%以上である。
【0030】
前記処置前ポリマーの重合形態は、特に制限されず、例えば、単独重合体(ホモポリマー)でも、共重合体でもよい。前記共重合体は、特に限定されず、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等があげられる。前記共重合体において、繰り返し単位(モノマー)は、例えば、2種類以上である。前記処理前ポリマーは、例えば、線状ポリマー、分岐状ポリマー、網目状ポリマー等があげられる。
【0031】
前記処理前ポリマーは、例えば、さらに、その他の材料を含んでもよい。前記他の材料は、特に限定されず、例えば、一般的なポリマーに含有されている材料であり、無機物でも有機物でもよい。前記無機物は、例えば、炭酸カルシウム、クレイ、タルク、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、シリコーン、酸化亜鉛等があげられる。前記他の材料は、例えば、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤でもよい。
【0032】
前記処理前ポリマーの形態は、特に制限されず、成形体でも未成形体でもよい。前記成形体の場合、例えば、前記表面処理工程を施した後、そのまま、つぎの接着工程に供すればよい。また、前記処理前ポリマーが未成形体の場合、取り扱い性の点から、前記表面処理を施した前記未成形体のポリマー(処理済ポリマー)を、例えば、前記接着工程に先立って成形し、前記処理済ポリマーの成形体として、次の接着工程に供してもよい。前記未成形体は、例えば、ポリマーそのものであり、前記成形体は、例えば、前記ポリマーから成形された成形体である。
【0033】
前記成形体は、例えば、成形方法、形状等、何ら制限されない。前記成形体は、例えば、前記処理対象ポリマーを用いて、公知の方法により得ることができる。前記成形方法は、例えば、一般的に、ポリマーを熱溶融し、所望の形状に整え、冷却する等である。前記成形方法は、例えば、圧縮成形、トランスファ成形、押出成形、カレンダー成形、インフレーション成形、ブロー成形、真空成形、射出成形、注型成形等があげられる。
【0034】
前記成形体の大きさおよび形状等は、特に制限されない。前記形状は、例えば、シート、フィルム、プレート、チューブ、パイプ、棒、ビーズ、ブロック、織布、不織布、糸、ファイバー等があげられ、例えば、非多孔体でも、多孔体でもよい。
【0035】
(2)ハロゲン酸化物ラジカル
前記ハロゲン酸化物ラジカルは、ハロゲン酸化物のラジカルであって、その種類は特に制限されず、例えば、F(二フッ化酸素ラジカル)、F (二フッ化二酸素ラジカル)、ClO (二酸化塩素ラジカル)、BrO (二酸化臭素ラジカル)、I5 (酸化ヨウ素(V)ラジカル)等があげられる。
【0036】
前記表面処理工程において使用する前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、改質対象の処理前ポリマーの種類、反応条件等に応じて、適宜選択できる。
【0037】
(3)反応系
前記表面処理工程は、例えば、前記処理前ポリマーを配置した反応系に、前記ハロゲン酸化物ラジカルを共存させることで行うことができる。前記処理前ポリマーは、前記ハロゲン酸化物を含む反応系に配置すればよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、前記反応系において生成させることで、前記反応系に含ませてもよいし、別途生成させた前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記反応系に導入してもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生方法は、特に制限されず、具体例を後述する。前記反応系は、例えば、気体反応系でも、液体反応系でもよい。
【0038】
前記表面処理工程は、例えば、さらに、前記反応系に光照射を行ってもよいし、行わなくてもよい。前記表面処理工程において、例えば、前記反応系に光照射を行っても行わなくても、前記処理前ポリマーと前記ハロゲン酸化物ラジカルとを反応できる。後述するように、例えば、同じ反応系で、光照射により前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させる場合は、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生工程と前記表面処理工程とを並行して行えるため、光照射を行ってもよい。以下、光照射を行った例をあげて説明するが、本発明は、これには何ら制限されない。
【0039】
(3-1)気体反応系
前記気体反応系の場合、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む気体反応系中に、前記処理前ポリマーを配置し、光照射する。前記気体反応系における気相の種類は、特に制限されず、例えば、空気、窒素、希ガス、酸素等である。前記気体反応系を収容する反応器は、例えば、光照射を外部から行う場合、光透過性の容器が好ましく、光照射を内部から行う場合、光透過性の容器には限られない。
【0040】
前記ハロゲン酸化物ラジカルは、前記表面処理工程に先立って、前記気体反応系に導入してもよいし、前記表面処理工程と同時に、前記気体反応系に導入してもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルの導入は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含むガスを気相に導入することで行える。具体例として、前記ハロゲン酸化物ラジカルが前記二酸化塩素ラジカルの場合、例えば、前記気相に二酸化塩素ガスを導入することによって、前記気体反応系に前記二酸化塩素ラジカルを含ませることができる。また、前記ハロゲン酸化物ラジカルの導入は、例えば、後述するように、液相のラジカル生成用反応系で前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させ、前記発生したハロゲン酸化物ラジカルを、気相に移行させることで、前記気体反応系に導入してもよい。
【0041】
前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、前記気体反応系において発生させてもよい。具体例として、前記ハロゲン酸化物ラジカルが二酸化塩素ラジカルの場合、例えば、電気化学的方法により気相中に発生させることもできる。
【0042】
(3-2)液体反応系
前記液体反応系は、例えば、有機相を含む。前記液体反応系は、例えば、前記有機相のみを含む一相反応系でも、前記有機相と水相とを含む二相反応系でもよい。
【0043】
前記二相反応系の場合、例えば、前記水相で前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させ、生成した前記ハロゲン酸化物ラジカルを、前記有機相に移行させることで、前記有機相に前記ハロゲン酸化物ラジカルを導入してもよい。また、前記一相反応系の場合、例えば、別途、生成させた前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相に導入してもよい。具体的には、例えば、別途、水相で前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成した後、前記水相に前記有機相を混合し、前記水相で生成したハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)し、前記水相と前記有機相とを分離し、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む有機相を、前記一相反応系として調製してもよい。
【0044】
前記液体反応系の場合、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む有機相中に、前記処理前ポリマーを配置し、光照射する。前記液体反応系を収容する反応器は、例えば、光照射を外部から行う場合、光透過性の容器が好ましく、光照射を内部から行う場合、光透過性の容器には限られない。
【0045】
前記処理前ポリマーは、例えば、処理の効率の点から、例えば、改質させる所望の領域が、前記有機相中の前記ハロゲン酸化物ラジカルと接触するように、前記有機相に浸漬させ、前記有機相中から露出しないように、前記有機相中に固定することが好ましい。
【0046】
前記有機相は、例えば、有機溶媒である。前記有機溶媒は、例えば、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記有機溶媒は、特に制限されず、例えば、ハロゲン化溶媒、フルオラス溶媒等があげられる。前記液体反応系が前記二相反応系の場合、前記有機溶媒は、例えば、前記水相を構成する水性溶媒と分離する溶媒、前記水性溶媒に難溶性または非溶性の溶媒が好ましい。
【0047】
「ハロゲン化溶媒」は、例えば、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分が、ハロゲンに置換された溶媒をいう。前記ハロゲン化溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上が、ハロゲンに置換された溶媒でもよい。前記ハロゲン化溶媒は、特に限定されず、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、および後述するフルオラス溶媒等があげられる。
【0048】
「フルオラス溶媒」は、前記ハロゲン化溶媒の1種であり、例えば、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分がフッ素原子に置換された溶媒をいう。前記フルオラス溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上がフッ素原子に置換された溶媒でもよい。前記フルオラス溶媒は、例えば、前記溶媒自体の反応性が低いため、副反応を、より抑制または防止できる。前記副反応は、例えば、前記溶媒の酸化反応、前記ハロゲン酸化物ラジカルによる前記溶媒の水素引き抜き反応またはハロゲン化反応(例えば、塩素化反応)、および、後述するような、前記処理前ポリマー由来のラジカルと前記溶媒との反応(例えば、前記処理前ポリマーの側鎖または末端の炭化水素基がエチル基の場合、エチルラジカルと前記溶媒との反応)等があげられる。前記フルオラス溶媒は、水と混和しにくいため、例えば、前記二相反応系の形成に適している。
【0049】
前記フルオラス溶媒は、例えば、下記化学式(F1)~(F6)で表される溶媒等があげられ、下記化学式(F1)におけるn=4のCF(CFCF等が好ましい。
【0050】
【化F】
【0051】
前記有機溶媒の沸点は、特に限定されない。前記有機溶媒は、例えば、前記表面処理工程の温度条件によって、適宜選択できる。前記表面処理工程において、反応温度を相対的に高温に設定する場合、前記有機溶媒は、例えば、相対的に高い沸点の溶媒を選択してもよい。本発明において、前記表面処理工程は、例えば、後述するように、加熱が必須ではなく、例えば、常温常圧で行える。このため、前記有機溶媒は、例えば、取扱い易さの観点から、沸点が相対的に高くない溶媒が使用できる。
【0052】
前記有機相は、例えば、前記処理前ポリマー、前記ハロゲン酸化物ラジカルおよび前記有機溶媒のみを含んでもよいし、さらに、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、特に限定されず、例えば、ブレーンステッド酸、ルイス酸、および酸素(O)等があげられる。前記有機相において、前記他の成分は、例えば、前記有機溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、前記他の成分は、例えば、前記有機溶媒に、分散された状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0053】
前記水相は、例えば、水性溶媒の相である。前記水性溶媒は、例えば、前記有機相で使用する溶媒と分離する溶媒である。前記水性溶媒は、例えば、HO、DO等の水があげられる。
【0054】
前記水相は、例えば、ルイス酸、ブレーンステッド酸、ラジカル発生源等の任意の成分を含んでもよい。前記水相において、これらの任意の成分は、例えば、前記水性溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、前記任意の成分は、例えば、前記水性溶媒に、分散された状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0055】
(4)表面処理工程
前記表面処理工程は、前述のとおり、前記処理前ポリマーをハロゲン酸化物ラジカルと反応させて、その表面が改質された処理済ポリマー(以下、改質ポリマーともいう)を得る工程である。本発明の表面処理工程によれば、前記処理前ポリマーの表面を前記ハロゲン酸化物ラジカルと反応させることで、前記処理前ポリマーの表面が改質された改質ポリマーが得られる。前記改質ポリマーの改質の程度(例えば、酸化の程度)は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの量、光照射の時間の長さ等により調整できる。また、前記改質ポリマーの改質の程度を調整することで、例えば、過剰な改質による前記改質ポリマーにおけるポリマーの分解を抑制でき、前記改質ポリマーにおける前記処理前ポリマーが本来有する特性を維持できる。
【0056】
前記処理前ポリマーにおいて表面処理する領域は、特に制限されず、例えば、前記成形体の場合、後の接着工程において、前記被接着物と接触させる領域を含めばよい。これによって、前記成形体の前記領域を改質できるため、前記接着剤を介した前記被接着物との接着性を向上できる。
【0057】
前記表面処理工程において、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルから、前記ハロゲンのラジカル(例えば、塩素原子ラジカルCl)および酸素分子Oが発生し、前記処理前ポリマーに対する改質反応(例えば、酸化反応)を行い、前記ポリマーを改質できる。
【0058】
前記表面処理工程により、前記処理前ポリマーは、例えば、側鎖が変化しても、主鎖(直鎖)が変化してもよい。主鎖の変化は、例えば、主鎖の末端の変化でも、主鎖の内部の変化でもよい。前記変化(改変ともいう)は、例えば、酸化、ハロゲン化等があげられる。例えば、前記主鎖は、炭素原子および/またはヘテロ原子の連鎖であり、前記側鎖は、主鎖から枝分かれした鎖(分岐鎖)であり、具体的には、主鎖を構成する炭素原子またはヘテロ原子に連結した、前記主鎖から枝分かれした鎖である。
【0059】
具体例として、前記処理前ポリマーが、主鎖の芳香環としてベンゼン環を有する場合、前記ベンゼン環の=CH-の水素が、水酸基(-OH)に酸化される。これは、以下のメカニズムが推測される。すなわち、例えば、前記処理前ポリマーにおける前記芳香環(ベンゼン環)部位から、二酸化塩素の光励起状態へ電子移動が起こり、その後、反応系中の水由来の水酸化物イオン(OH)の付加反応と脱水素反応とが起こる。その結果、前記芳香環(ベンゼン環)が水酸化され、フェノール基(=C-OH)となる。
【0060】
前記表面処理工程において、光照射の条件は、特に制限されない。照射光の波長は、特に限定されず、下限は、例えば、200nm以上であり、上限は、例えば、800nm以下であり、光照射時間は、特に限定されず、下限は、例えば、1秒以上であり、上限は、例えば、1000時間以下であり、反応温度は、特に限定されず、下限は、例えば、-20℃以上であり、上限は、例えば、100℃以下、40℃以下であり、範囲は、例えば、0~100℃、0~40℃である。反応時の雰囲気圧は、特に限定されず、下限は、例えば、0.1MPa以上であり、上限は、例えば、100MPa以下、10MPa以下、0.5MPa以下、であり、範囲は、例えば、0.1~100MPa、0.1~10MPa、0.1~0.5MPaである。前記表面処理工程の反応条件は、例えば、温度0~100℃または0~40℃、圧力0.1~0.5MPaが例示できる。本発明において、前記表面処理工程は、例えば、加熱、加圧、減圧等を行うことなく、常温(室温)および常圧(大気圧)下で行うことができ、また、他の工程も同様である。「室温」とは、特に限定されず、例えば、5~35℃である。このため、前記処理前ポリマーが、例えば、耐熱性が低いポリマーを含んでいても、本発明を適用可能である。本発明によれば、例えば、不活性ガス置換等を行うことなく、大気中で、前記表面処理工程またはそれを含めた全ての工程を行なうこともできる。
【0061】
前記光照射の光源は、特に限定されず、例えば、太陽光等の自然光に含まれる可視光が利用できる。自然光を利用すれば、例えば、励起を簡便に行うことができる。前記光源は、例えば、前記自然光に代えて、または前記自然光に加え、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、水銀ランプ、LEDランプ等の光源を使用してもよい。前記光照射は、例えば、さらに、必要波長以外の波長をカットするフィルターを適宜用いてもよい。
【0062】
前記表面処理工程は、例えば、前記処理前ポリマーに対して、任意の領域にのみに光照射を行ってもよい。前述のように、前記表面処理工程によれば、例えば、光照射下、前記処理前ポリマーの露出面にハロゲン酸化物が接触することで、前記露出面について、改質を行うことができる。このため、例えば、前記処理前ポリマーの露出表面について、任意の領域のみに光照射を行うことで、例えば、前記任意の領域のみを改質できる。選択的な光照射の制御方法は、特に制限されず、例えば、任意の領域のみに光照射してもよいし、光照射しない領域のみマスキングして、全体に光照射してもよい。
【0063】
前記表面処理工程は、前述のように、前記液体反応系で行っても、気体反応系で行ってもよく、前記処理前ポリマーが、液体媒体に溶解し易い場合、例えば、前記気相反応系が好ましい。前記反応系が前記液体反応系の場合、前記表面処理工程において、例えば、少なくとも前記有機相に光照射する。前記一相反応系の場合、例えば、前記有機相に光照射することで、前記表面処理工程を実施できる。前記二相反応系の場合、例えば、前記有機相および前記水相のうち、前記有機相のみに光照射してもよいし、前記有機相と前記水相の両方に光照射してもよい。前記液体反応系の場合、例えば、前記液体反応系を空気に接触させながら、前記液体反応系に光照射してもよく、前記二相反応系の場合、前記水相に酸素が溶解した状態で光照射してもよい。
【0064】
前記表面処理工程において、前記処理前ポリマーは、例えば、前記反応系に含まれる前記ハロゲン酸化物ラジカルに接触する露出面を有していることが好ましい。前記処理前ポリマーにおける露出面は、例えば、前記処理前ポリマーの外部に露出した表面でも、チューブや多孔体等のように、内部において露出した表面でもよい。前記表面処理工程は、例えば、表面改質工程ともいえる。
【0065】
前記表面処理工程によれば、例えば、有毒な重金属触媒等を用いずに、前記処理前ポリマーを改質でき、また、前述のように、例えば、極めて温和な条件下で反応が行える。このため、前記表面処理工程によれば、例えば、環境への負荷がきわめて小さい方法で、前記ポリマー層の改質を、効率よく行える。
【0066】
前記表面処理工程の後、続く接着工程の前、さらに、後述するように、前記改質ポリマーの改質された領域に、官能基を導入する工程を含んでもよい。本発明によれば、前記表面処理によって、改質されるため、例えば、使用する接着剤に応じて、前記接着剤に親和性を示す官能基を導入することで、より接着性を向上することもできる。
【0067】
(5)接着工程
前記接着工程は、前記表面処理工程後の前記改質ポリマーの表面および被接着物の表面の少なくとも一方に、接着剤を塗布して、前記ポリマーと前記被接着物とを接着する。本発明によれば、前述のように、前記表面処理工程により前記ポリマーを改質できるため、例えば、接着剤を塗布しても前記被接着物と接着できなかったポリマーについて、前記接着剤との親和性が向上し、前記接着剤による前記被接着物との接着が可能になる。前記被接着物および前記接着剤は、特に制限されず、後述のようなものが例示できる。
【0068】
前記接着剤は、前記改質ポリマーと前記被接着物のいずれの表面に塗布してもよく、両方に塗布してもよい。前記改質ポリマーの表面に塗布する場合、例えば、前記接着剤は、前記被接着物と接触する領域であって、前記表面処理工程によって改質された領域に塗布し、前記被接着物の表面に塗布する場合、例えば、前記接着剤は、前記改質ポリマーの表面における前記改質された領域と接触する領域に塗布する。
【0069】
前記接着剤を塗布した後、例えば、前記改質ポリマーと前記被接着体とを前記接着剤を介して接触させ、圧着すればよい。前記改質ポリマーと前記被接着体との接触は、例えば、前記接着剤を塗布後、塗布した前記接着剤が完全に硬化する前に、行うことが好ましい。
【0070】
前記圧着において、圧力は、特に限定されず、下限は、例えば、0.1MPa以上、0.5MPa以上、1MPa以上、5MPa以上、または10MPa以上であり、上限は、例えば、100MPa以下、50MPa以下、40MPa以下、30MPa以下、または25MPa以下である。圧力をかける時間は、特に限定されず、例えば、下限は、0.01分間以上、0.1分間以上、3分間以上、5分間以上、または10分間以上、上限は、60分間以下、45分間以下、30分間以下、または20分間以下である。圧着方法は、特に限定されず、例えば、ローラーによる圧着、手による圧着等でもよい。
【0071】
このようにして得られる前記ポリマーと前記被接着物との接着積層体において、例えば、前記ポリマーと前記被接着物との剥離力は、特に制限されない。前記剥離力の下限は、例えば、0.001N/mm以上、0.01N/mm以上、0.1N/mm以上、1N/mm以上、5N/mm以上、または10N/mm以上であり、その上限は、例えば、1000N/mm以下、500N/mm以下、100N/mm以下、50N/mm以下、または20N/mm以下である。
【0072】
(6)接着剤
前記接着剤は、特に限定されず、様々な接着剤が利用できる。前記前処理工程によれば、例えば、前記改質ポリマーは、ハロゲン酸化物ラジカルとの反応によって、改質(例えば、酸化)される。このため、前記改質ポリマーの表面に含まれる改質により形成された官能基(例えば、ヒドロキシ基等)によって、前記接着剤との親和性を向上することができる。接着剤は、特に限定されず、市販のものを用いてもよい。
【0073】
前記接着剤は、例えば、水親和性の接着剤があげられる。前記改質ポリマーが、改質(例えば、酸化)により官能基(例えば、ヒドロキシ基等)を有する場合、例えば、前記水親和性の接着剤が好ましい。前記接着剤は、例えば、水を開始剤として重合するモノマーを含んでもよい。前記モノマーは、特に限定されず、例えば、シアノアクリレートモノマー等である。前記シアノアクリレートモノマーを有する接着剤は、例えば、アロンアルファ(商品名、東亞合成株式会社製)、セメダインC(商品名、セメダイン株式会社)等があげられる。
【0074】
前記接着剤は、これらの例には制限されず、例えば、エポキシ系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、ゴム系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、EVA樹脂系エマルジョン形接着剤、アクリル樹脂系エマルジョン形接着剤、水性高分子─イソシアネート系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤、変性シリコーン系接着剤、シリル化ウレタン系接着剤、ニトロセルロース系接着剤、でんぷん系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン系接着剤、ビニル樹脂系接着剤、スチレン樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、ポルトランドセメント、しっくい、せっこう、マグネシウムセメント、リサージセメント、歯科用セメント、アスファルト、にかわ、カゼイン、大豆蛋白等も使用できる。前記改質ポリマーは、前述のように、改質後、さらに官能基を導入できるため、使用する接着剤に応じて、適宜、前記官能基を導入することで、より接着性を向上できる。
【0075】
(7)被接着体
前記被接着物は、特に限定されず、例えば、金属、ポリマー、セラミック、ガラス、布、紙等があげられる。前記金属は、特に限定されず、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、金、銀、銅等、また、ジュラルミン、高張力鋼、ステンレス鋼などの合金等があげられる。前記ポリマーは、例えば、前記処理前ポリマーと同じポリマーでもよいし、その他の異なるポリマーでもよい。前記セラミックは、特に限定されず、例えば、ジルコニア、酸化アルミニウム、フェライト、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ステアタイト等があげられる。
【0076】
前記他のポリマーは、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、シリコーン系ポリマー、天然ゴム、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリル系ポリマー、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、非晶ポリアリレート等のポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶性ポリエステル、ポリパラフェニレン(PPP)、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))とPSS(ポリスチレンスルホン酸)とからなる複合体(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリスチレンスルホン酸、ポリ(3-ヒドロキシアルカン酸)、ポリ塩化ビニリデン、スチレン共重合体(例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂(AS)、スチレンブタジエン共重合体等)、メタクリル樹脂、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリ(トランス-1,4-イソプレン)、尿素樹脂、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、環状シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアセタール、フッ素含有ポリマー(例えば、テフロン(登録商標)、フッ素含有合成ゴム等)、およびタンパク質(例えば、フィブロネクチン、アルブミン、フィブリン、ケラチン、シトクロム、サイトカイン等)等があげられる。前記アクリル系ポリマーは、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等があげられる。前記ポリアミドは、例えば、ナイロン(商品名)であり、具体例として、6-ナイロン、6,6-ナイロン等があげられる。
【0077】
前記ポリオレフィンは、例えば、炭素数2~20のオレフィンの重合体があげられ、具体例として、低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレン等のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等があげられる。前記ポリオレフィンは、例えば、共重合体でもよい。
【0078】
前記ポリマーが前記単独重合体の場合、例えば、直鎖を形成する繰り返し単位(モノマー)が、側鎖を有する。前記ポリマーが前記共重合体の場合、例えば、直鎖を形成する各繰り返し単位(各モノマー)は、1種類のモノマーが側鎖を有してもよいし、2種類以上のモノマーが側鎖を有してもよい。
【0079】
前記ポリマーは、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールポリマー等があげられる
【0080】
前記被接着物の形状、大きさ等は、特に限定されず、前記処理前ポリマーと同様の例示ができる。前記形状は、例えば、シート、フィルム、プレート、チューブ、パイプ、棒、ビーズ、ブロック、織布、不織布、糸、ファイバー等があげられ、例えば、非多孔体でも、多孔体でもよい。
【0081】
前記処理前ポリマーと前記前記被接着物との組み合わせは、特に限定されず、また、前記処理前ポリマーと前記接着剤との組み合わせも、特に制限されない。
【0082】
(8)ハロゲン酸化物ラジカルの生成工程
本発明は、例えば、さらに、前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させる生成工程を含んでもよい。前記生成工程は、例えば、前記表面処理工程の前に行ってもよいし、前記表面処理工程と同時に行ってもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルの生成方法は、特に制限されない。
【0083】
前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程は、例えば、ラジカル生成用反応系を使用して、前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させてもよい。前記ラジカル生成用反応系は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源を含む水相であり、前記生成工程において、前記発生源から前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させる。前記水相は、例えば、水性溶媒の相であり、前記水性溶媒は、前述と同様である。
【0084】
前記ラジカル生成用反応系で発生させた前記ハロゲン酸化物ラジカルは、前述のように、例えば、前記表面処理工程の反応系(前記気体反応系または前記液体反応系)に導入してもよいし、前記ラジカル生成用反応系を、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む前記表面処理工程の前記液体反応系として、そのまま前記表面処理工程に使用してもよい。
【0085】
前記ハロゲン酸化物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記ラジカル生成用反応系を、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系とすることで、前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相に移行できる。この場合、例えば、前記二相反応系は、そのまま前記前処理工程の液体反応系として使用できるため、前記生成工程と前記表面処理工程とを連続的に行うことができ、より良い反応効率が得られる。また、前記ラジカル生成用反応系が前記二相反応系の場合、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記水相で発生させ、前記有機相に溶解(抽出)させた後、前記水相を除去し、前記有機相を、前記表面処理工程の一相反応系として使用してもよい。
【0086】
前記ハロゲン酸化物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記水相で発生した前記ハロゲン酸化物ラジカルは、前記気相に移行できることから、前記気相を、例えば、前記前処理工程の液体反応系として使用できる。
【0087】
前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源(ラジカル生成源)は、特に制限されず、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの種類によって、適宜選択できる。前記発生源は、例えば、1種類でも、複数種類を併用してもよい。
【0088】
前記発生源は、例えば、酸素とハロゲンとを含む化合物であり、具体例として、例えば、亜ハロゲン酸(HXO)またはその塩があげられる。前記亜ハロゲン酸の塩は、特に限定されず、例えば、金属塩があげられ、前記金属塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類塩等があげられる。前記発生源は、例えば、酸素と、ハロゲンと、1族元素(例えば、H、Li、Na、K、Rb、およびCsからなる群から選択された少なくとも一つ)とを含む化合物でもよく、例えば、前記亜ハロゲン酸またはそのアルカリ金属塩である。前記ハロゲン酸化物ラジカルが前記二酸化塩素ラジカルの場合、その発生源は、特に限定されず、例えば、亜塩素酸(HClO)またはその塩であり、具体的には、例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、亜塩素酸リチウム(LiClO)、亜塩素酸カリウム(KClO)、亜塩素酸マグネシウム(Mg(ClO)、亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)等である。中でも、コスト、取扱い易さ等の観点から、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)が好ましい。他のハロゲン酸化物ラジカルの発生源についても、同様の方法が採用できる。前記他の発生源は、例えば、亜臭素酸ナトリウム等の臭素酸塩類、亜要素酸ナトリウム等の亜ヨウ素酸塩類等があげられる。
【0089】
前記ラジカル生成用反応系の水相において、前記発生源の濃度は、特に限定されず、前記ハロゲン酸化物イオン濃度に換算した場合、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が、1mol/L以下であり、また、前記ハロゲン酸化物イオンのモル数に換算した場合、例えば、下限が、前処理対象のポリマーのモル数の1/100000倍以上であり、上限が、1000倍以下である。前記発生源が亜ハロゲン酸または亜ハロゲン酸塩(例えば、亜塩素酸または亜塩素酸塩)の場合、その濃度は、亜ハロゲン酸イオン(例えば、亜塩素酸イオン(ClO ))の濃度に換算した場合、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が、1mol/L以下であり、亜ハロゲン酸イオン(例えば、亜塩素酸イオン(ClO ))のモル数に換算した場合、例えば、下限が、前処理対象のポリマーのモル数の1/100000倍以上であり、上限が、1000倍以下である。他の発生源についても、例えば、前記濃度が援用できる。
【0090】
前記水相は、例えば、さらに、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方を含み、これを前記ハロゲン酸化物イオンに作用させて前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させてもよい。前記ルイス酸およびブレーンステッド酸は、例えば、前記1族元素を含む。前記ハロゲン酸化物イオンは、例えば、亜塩素酸イオン(ClO )である。前記水相は、例えば、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の一方のみを含んでも、両方を含んでも、1つの物質が、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の両方を兼ねてもよい。前記ルイス酸または前記ブレーンステッド酸は、それぞれ1種類のみを用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。本発明において、「ルイス酸」は、例えば、前記発生源に対してルイス酸として働く物質をいう。
【0091】
前記水相において、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の少なくとも一方の濃度は、特に限定されず、例えば、前記前処理対象のポリマーの種類等に応じて、適宜設定できる。前記濃度は、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が1mol/L以下である。
【0092】
前記ブレーンステッド酸は、特に限定されず、例えば、無機酸でも有機酸でもよく、具体例として、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸等があげられる。前記ブレーンステッド酸の酸解離定数pKは、例えば、10以下であり、その下限値は、特に限定されず、例えば、-10以上である。
【0093】
前記水相は、例えば、前記ハロゲン酸化物イオンと前記ブレーンステッド酸とを含み、具体的には、例えば、前記発生源の化合物とブレーンステッド酸(例えば、塩酸)とが水性溶媒に溶解した水相である。前記ハロゲン酸化物ラジカルが二酸化塩素ラジカルの場合、前記水相は、例えば、亜塩素酸イオン(ClO )とブレーンステッド酸とを含み、具体的には、例えば、前記亜塩素酸ナトリウム(NaClO)と前記ブレーンステッド酸(例えば塩酸)とが水性溶媒に溶解した水相である。
【0094】
前記水相において、例えば、前記ルイス酸、前記ブレーンステッド酸、前記発生源等は、前記水性溶媒に溶解した状態でも、非溶解の状態でもよい。後者の場合、これらは、例えば、水性溶媒に分散した状態でも、沈殿した状態でもよい。
【0095】
前記生成工程は、例えば、前記水性溶媒に前記発生源を含有させることによって、前記ハロゲン酸化物イオン(例えば、亜塩素酸イオン)から前記ハロゲン酸化物ラジカル(例えば、二酸化塩素ラジカル)を自然発生できる。前記水相は、例えば、静置させることが好ましい。前記水相は、例えば、さらに、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の少なくとも一方の共存によって、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生をさらに促進できる。前記生成工程は、例えば、前記水相に光照射してもよいし、光照射しなくてもよく、いずれでも前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生できる。
【0096】
前記水相において、前記ハロゲン酸化物イオンから前記ハロゲン酸化物ラジカルが発生するメカニズムは、例えば、以下のように推測される。ただし、この説明は例示であって、本発明を何ら限定しない。
【0097】
図1に、前記二相反応系を用いた、前記生成工程および前記表面処理工程の一例を模式的に示す。図1は、前記ハロゲン酸化物ラジカルとして前記二酸化塩素ラジカル、前記処理前ポリマーとしてポリマー成形体を、具体例として示す。前記二相反応系は、反応容器中において、下層の有機相1と上層の水相2とが分離して、界面で接触している。図1は、断面図であるが、有機相1および水相2のハッチは省略する。まず、水相2中の亜塩素酸イオン(ClO )が酸と反応して、二酸化塩素ラジカル(ClO )が発生する。二酸化塩素ラジカル(ClO )は、水に難溶であるため、有機相1に溶解する。つぎに、二酸化塩素ラジカル(ClO )を含む有機相1に光照射し、光エネルギーを与えることで、有機相1中の二酸化塩素ラジカル(ClO )が分解して、塩素ラジカル(Cl)および酸素分子(O)が発生する。これにより、有機相1中のポリマー成形体(処理前ポリマー)の表面が酸化等により改質される。
【0098】
前記二相反応系は、例えば、図1には制限されず、例えば、有機相1が水相2より密度(比重)が低い場合、有機相1が上層になる。前記処理前ポリマーが前記ポリマー成形体の場合、例えば、有機相1中に前記ポリマー成形体が浸漬するように、前記反応容器中で固定化してもよい。前記ポリマー成形体を固定する固定部は、例えば、前記反応容器中に設けてもよいし、前記反応容器の外部に設けてもよい。後者の場合、例えば、外部から前記ポリマー体を吊るし、有機相1中に浸漬させる形態等があげられる。
【0099】
(9)官能基を導入する工程
本発明は、例えば、前記前処理工程後、前記接着工程の前、さらに、前記改質ポリマーの改質された領域に、官能基を導入する工程を含んでもよい。本発明によれば、さらに、官能基化することによって、前記改質ポリマー層の物性をさらに変えることもできる。
【実施例
【0100】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0101】
[実施例1]
液晶ポリマーフィルムを改質し、接着剤を介した被接着物との接着性を確認した。
【0102】
(1)改質フィルターの調製
長さ50mm×幅15mm×厚み2mmの液晶ポリマー(LCP)フィルム(商品名UENO LCP、6030G-MF、上野製薬社製)を準備し、一方の表面に、以下に示すようにして改質処理を行った。
【0103】
反応容器として、小シャーレ(直径30mm×深さ10mm)を用い、その中に、塩酸酸性NaClO水溶液を入れた。前記塩酸酸性NaClO水溶液は、HO(7mL)、NaClO(200mg)、および35%HClaq.(100μL)を混合して調製した。大シャーレ(直径700mm×深さ180mm)の中に、蓋をしていない前記小シャーレと、前記LCPフィルムとを入れた。前記大シャーレに蓋をして、ヒータにより、90℃で5分間予備加熱した。その後、前記大シャーレの蓋の上方から、出力60Wで5分間光照射した。光源は、波長365nmのLEDランプ(dotAqua社製)を使用し、前記光源と前記大シャーレの蓋との距離は20cmとした。この光照射により、前記小シャーレ内の前記NaClO水溶液から二酸化塩素ラジカルを発生させ、二酸化塩素ラジカルを前記大シャーレ内の気相に移行させ、前記大シャーレ内の気相中で、前記LCPフィルムの表面を二酸化塩素ラジカルと反応させて、表面処理した。前記反応は、大気中、加圧および減圧を行なわず、90℃の加熱条件下で行った。前記NaClO水溶液の二酸化塩素ラジカル由来の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。反応終了後、前記LCPフィルムを精製水で洗浄し、減圧下で一晩乾燥した。乾燥後の前記LCPフィルムを、改質された改質LCPフィルムとして、以下の工程に使用した。なお、前記二酸化塩素ラジカルの発生は、ESR(電子スピン共鳴)により確認済みである。
【0104】
(2)濡れ性評価
前記改質LCPフィルムと未改質LCPフィルムとについて、それぞれの表面の濡れ性を確認した。具体的には、各フィルムの表面に、水5μLを滴下して、水滴の形状から濡れ性を判断した。図2(A)に、前記未改質LCPフィルム上の液滴の写真を示し、図2(B)に、前記改質LCPフィルム上の液滴の写真を示す。図2に示すように、前記改質LCPフィルムの液滴は接触角が、前記未改質LCPフィルムよりも小さくなっていることから、濡れ性が向上したといえる。そして、濡れ性の向上は、前記改質LCPフィルムにおいて、前記未改質LCPよりも水酸基が多く導入されていることを意味すると解される。
【0105】
(3)被接着物との接着
図3の斜視図に示すように、前記改質LCPフィルムと前記被接着物とを接着させ、積層体を製造した。
【0106】
具体的には、前記被接着物として、アルミ板(長さ50mm×幅15mm×厚み2mm)、銅板(長さ60mm×幅20mm×厚み2mm)、同様にして前記改質処理を施した改質LCPフィルム(長さ50mm×幅15mm×厚み2mm)を準備した。そして、図3(A)に示すように、改質LCPフィルム10の改質表面において、長手方向の一端の15mm×15mmの領域に、シアノアクリレート系接着剤11(商品名アロンアルファ、東亞合成株式会社製)を塗布した。接着剤11は、25mmあたり40mgを均等に塗布した。そして、図3(B)に示すように、前記塗布領域においてのみ、改質LCPフィルム10と被接着物12とが接触するように、接着剤11の塗布後、ただちに、改質LCPフィルム10の上に被接着物12を積層した。そして、積層箇所をクリップで挟み、室温で10分間静置した。静置後の積層体を、以下の評価に使用した。また、比較例として、改質処理を施していない未処理LCPフィルムについても、同様に積層体を製造し、評価を行った。
【0107】
(4)引張強度
前記積層体について、図3(B)に示すように、前記改質LCPフィルムの端部と前記被接着物の端部とを、それぞれ反対方向に30N/minの強さで引張り、引張強度(せん断応力)を測定した。この結果を、下記表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
前記表1に示すように、前記改質LCPフィルムは、表面が酸化により改質されていることから、前記接着剤との親和性が上がり、その結果、十分に強い強度で前記被接着物と接着することができた。他方、前記改質処理をしていないLCPフィルムを使用した場合、前記LCPフィルムの表面に塗布した接着剤は、前記表面上で液滴状のまま固化し、前記LCPフィルムから剥がれ落ちた。このため、前記LCPフィルムと前記被接着物は、接着しなかった。
【0110】
また、前記接着剤として、エポキシ系接着剤(アラルダイトラピッド、AR-R30、ニチバン社製)を用いた以外、同様にして、前記アルミ板と前記改質LCPフィルムとを接着し、引張強度を測定した。この結果を下記表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
[実施例2]
前記液晶ポリマーフィルムに代えて、PETフィルムを改質し、前記実施例1と同様にして、改質PETフィルムと、前記被接着物である未改質PETフィルムとの接着剤による接着を確認した。その結果、前記未改質PETフィルムは、被接着物(未改質PETフィルム)との界面が剥離したのに対して、前記改質PETフィルムは、被接着物(未改質PETフィルム)と接着し、引張強度は1.2MPa(N/mm)であった。
【0113】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【0114】
この出願は、2018年6月20日に出願された日本出願特願2018―117172を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上のように、本発明によれば、簡便かつ低コストに、接着剤を介したポリマーと被接着物との接着性を向上させた接着積層体を製造できる。
【符号の説明】
【0116】
1 有機相
2 水相
10 改質LCPフィルム
11 接着剤
12 被接着物
図1
図2
図3