(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】成形材料の補強用繊維
(51)【国際特許分類】
C08J 5/06 20060101AFI20230817BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20230817BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20230817BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C08J5/06 CFG
C04B16/06 Z
C04B16/06 A
C04B14/42 Z
C04B14/38 A
C04B16/06 D
C04B16/06 E
C04B16/06 F
(21)【出願番号】P 2018205324
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】高坂 繁行
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188157(JP,A)
【文献】特開2006-143541(JP,A)
【文献】特開2009-234796(JP,A)
【文献】特開昭56-009268(JP,A)
【文献】特開2003-335559(JP,A)
【文献】特開平07-149552(JP,A)
【文献】特開2001-328853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B29C 41/00-41/36
B29C 41/46-41/52
D06M 13/00-15/715
B29B 7/00-11/14
B29B 13/00-15/06
B29C 31/00-31/10
B29C 37/00-37/04
B29C 71/00-71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)繊維材料の束に対して(B)熱可塑性樹脂が含浸されて一体化された樹脂含浸繊維束であり、
(A)成分と(B)成分の合計量100質量%中、(A)成分の含有割合25~80質量%、(B)成分の含有割合75~20質量%であり、
樹脂含浸繊維束が、幅方向の断面形状が長軸と短軸(長軸長さ>短軸長さ)を有する扁平形状で、さらに繊維束表面に凹凸が形成されたものであり、
長軸の平均長さ(D1)が1.0~4.0mmであり、
長軸の平均長さ(D1)と短軸の平均長さ(D2)から求められる平均扁平比(D1/D2)が2~20であり、
繊維束の長さ(L)が15~50mmであり、
前記Lと前記D1の比(L/D1)が3~50であり、
樹脂含浸繊維束の表面に形成された凹凸が、前記繊維束の長さ方向に直交する方向に線状凹部と線状凸部が形成され、
前記線状凹部と線状凸部とが繊維束の長さ方向に交互に組み合わされてなるものであり、長さ(L)に対する線状凸部同士の中間位置の間隔(P1)の比(L/P1)が8~80である、
水硬性材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束。
【請求項2】
(A)繊維材料の束に対して(B)熱可塑性樹脂が含浸されて一体化された樹脂含浸繊維束であり、
(A)成分と(B)成分の合計量100質量%中、(A)成分の含有割合25~80質量%、(B)成分の含有割合75~20質量%であり、
樹脂含浸繊維束が、幅方向の断面形状が長軸と短軸(長軸長さ>短軸長さ)を有する扁平形状で、さらに表面に凹凸が形成されたものであり、
長軸の平均長さ(D1)が1.0~4.0mmであり、
長軸の平均長さ(D1)と短軸の平均長さ(D2)から求められる平均扁平比(D1/D2)が3~20であり、
繊維束の長さ(L)が15~50mmであり、
前記Lと前記D1の比(L/D1)が3~50であり、
樹脂含浸繊維束の表面に形成された凹凸が、前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に線状凹部と線状凸部が形成され、
前記線状凹部と線状凸部とが繊維束の長さ方向に交互に組み合わされてなるものである、
水硬性材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束。
【請求項3】
樹脂含浸繊維束の表面に形成された凹凸の線状凸部が、前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に形成された第1線状凸部と、第1線状凸部に対して斜交するように形成された第2線状凸部との組み合わせを含むものであり、
第1線状凸部が、前記繊維束の長さ方向に間隔をおいて複数形成され、第2線状凸部が前記繊維束の長さ方向に間隔をおいて複数形成されており、
複数の第1線状凸部と複数の第2線状凸部とで囲まれた内側が、平面形状で四角形の凹部である、請求項2記載の
水硬性材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束。
【請求項4】
複数の第1線状凸部と複数の第2線状凸部で囲まれた内側が、平面形状で菱形の凹部である、請求項3記載の
水硬性材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束。
【請求項5】
樹脂含浸繊維束の表面に形成された凹部と凸部の高低差が0.05~1.0mmである、請求項1~4のいずれか1項記載の
水硬性材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束。
【請求項6】
(A)成分の繊維材料の束が、有機繊維又は無機繊維からなるものであり、
繊維材料の本数が1,000~24,000本である請求項1~5のいずれか1項記載の
水硬性材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束。
【請求項7】
(A)成分の繊維材料が、アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維から選ばれるものである、請求項1~6のいずれか1
項記載の
水硬性材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束。
【請求項8】
水硬性材料が、セメント、セメントを含むモルタル、セメントを含むコンクリート、天然水硬性石灰から選ばれるものである、請求項1~7のいずれか1項記載の水硬性材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート、モルタル等の水硬性材料に配合して使用する補強用繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、モルタル等の水硬性材料を補強するための補強用繊維材には、天然繊維や合成繊維からなる各種繊維材料が知られている。
水硬性材料の補強用材料の物性として、水硬性材料からなる成形体の曲げ強度、曲げ靱性等の機械的特性が求められる。そして、補強効果を充分に発現させるためには、成形体中で繊維の1本1本が、周囲の水硬性材料と強固に結合していることが重要となる。
【0003】
特許文献1には、樹脂が含浸した無機繊維束からなるコンクリート補強材が記載されており、前記補強材の表面に0.05~3.0mmの凹凸高低差を有することが記載されている。段落0007には、表面に小さい凹凸を付与したコンクリート補強材の採用によりコンクリートの補強効果に優れること、コンクリート成形体にクラックが生じても引き抜けの抵抗力が大きいためにコンクリートの靭性が維持されてコンクリートの剥落が発生しにくいこと、等が記載されている。
【0004】
特許文献2には、成形材料の補強用繊維材として、表面に凹凸を有する成形ロールを用いて形成された樹脂含浸繊維束を用いることが記載されている。段落0040には凹凸の好ましい例として「(I)長さ方向に連続又は非連続に形成された凹凸」等を挙げており、実施例には
図2、3に示す成形(賦形)ロールを用いて表面に凹凸を形成した樹脂含浸繊維束は引抜け荷重が大きいことが開示されている。
しかしながら、特許文献1、2ともに、成形体中での水硬性材料と樹脂含浸繊維束の結合強度には改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-335559号公報
【文献】特開2011-162905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、補強用繊維をモルタルやコンクリート等の水硬性材料に配合したとき、固化した水硬性材料中の樹脂含浸繊維束の引抜け荷重を高めることにより、高い補強効果が得られる補強用繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)繊維材料の束に対して(B)熱可塑性樹脂が含浸されて一体化された樹脂含浸繊維束であり、
(A)成分と(B)成分の合計量100質量%中、(A)成分の含有割合25~80質量%、(B)成分の含有割合75~20質量%であり、
樹脂含浸繊維束が、幅方向の断面形状が長軸と短軸(長軸長さ>短軸長さ)を有する扁平形状で、さらに繊維束表面に凹凸が形成されたものであり、
長軸の平均長さ(D1)が1.0~4.0mmであり、
長軸の平均長さ(D1)と短軸の平均長さ(D2)から求められる平均扁平比(D1/D2)が2~20であり、
繊維束の長さ(L)が15~50mmであり、
前記Lと前記D1の比(L/D1)が3~50であり、
樹脂含浸繊維束の表面に形成された凹凸が、前記繊維束の長さ方向に直交する方向に線状凹部と線状凸部が形成され、前記線状凹部と線状凸部とが繊維束の長さ方向に交互に組み合わされてなるものである、
成形材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束を提供する。
【0008】
また本発明は、(A)繊維材料の束に対して(B)熱可塑性樹脂が含浸されて一体化された樹脂含浸繊維束であり、
(A)成分と(B)成分の合計量100質量%中、(A)成分の含有割合25~80質量%、(B)成分の含有割合75~20質量%であり、
樹脂含浸繊維束が、幅方向の断面形状が長軸と短軸(長軸長さ>短軸長さ)を有する扁平形状で、さらに表面に凹凸が形成されたものであり、
長軸の平均長さ(D1)が1.0~4.0mmであり、
長軸の平均長さ(D1)と短軸の平均長さ(D2)から求められる平均扁平比(D1/D2)が2~20であり、
繊維束の長さ(L)が15~50mmであり、
前記Lと前記D1の比(L/D1)が3~50であり、
樹脂含浸繊維束の表面に形成された凹凸が、前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に線状凹部と線状凸部が形成され、前記線状凹部と線状凸部とが繊維束の長さ方向に交互に組み合わされてなるものである、
成形材料の補強用繊維として用いる樹脂含浸繊維束を提供する。
【0009】
さらに本発明は、樹脂含浸繊維束の表面に形成された凹凸の線状凸部が、前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に形成された第1線状凸部と、第1線状凸部に対して斜交するように形成された第2線状凸部との組み合わせを含むものであり、
第1線状凸部が、前記繊維束の長さ方向に間隔をおいて複数形成され、第2線状凸部が前記繊維束の長さ方向に間隔をおいて複数形成されており、
複数の第1線状凸部と複数の第2線状凸部とで囲まれた内側が、平面形状で四角形の凹部である、請求項2記載の樹脂含浸繊維束を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂含浸繊維束は、固化した水硬性材料中の樹脂含浸繊維束の引抜け荷重を高めることにより、水硬性材料による成形材料が固化したときの成形材料の結合強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)表面に凹凸が形成された実施例1の樹脂含浸繊維束の部分平面図。(b)表面に凹凸が形成された実施例2の樹脂含浸繊維束の部分平面図。(c)表面に凹凸が形成された実施例3の樹脂含浸繊維束の部分平面図。(d)
図1(c)の凹凸を反転させた、表面に凹凸が形成された樹脂含浸繊維束の部分平面図。実施形態に記載の番号と合わせて示している。
【
図2】比較例3の樹脂含浸繊維束の平面図。矢印は、引抜け荷重試験における引抜き方向を示す。
【
図3】繊維束表面に凹凸が形成された部分と凹凸が形成されていない部分があることを説明するための断面図。実際に断面図を示すものではない。
【
図4】実施例3の樹脂含浸繊維束表面の凹凸形成に使用した成形(賦形)ロールの外表面の一部拡大図の写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<樹脂含浸繊維束>
本発明の樹脂含浸繊維束は、多数本の(A)成分の繊維材料に(B)成分の熱可塑性樹脂が含浸され一体化された束の表面に凹凸が形成されたものである。
【0013】
本発明の樹脂含浸繊維束は、(A)成分の繊維材料の中心部まで(B)成分の熱可塑性樹脂が浸透され(含浸され)、繊維束を構成する中心部の繊維間にまで樹脂が入り込んだ状態のもの;(A)成分の繊維材料の表面のみが(B)成分の熱可塑性樹脂で覆われた状態のもの;それらの中間のもの((A)成分の繊維材料の表面が(B)成分の熱可塑性樹脂で覆われ、表面近傍のみに(B)成分が含浸され、中心部にまで(B)成分が入り込んでいないものを含む。
【0014】
本発明の樹脂含浸繊維束に含まれる(A)成分は、アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維から選ばれるものを用いることができる。
耐アルカリ性の点から、炭素繊維が好ましい。
【0015】
(A)成分の繊維材料の直径及び長さは特に制限されるものではないが、好ましくは直径が5~24μmの範囲のものである。なお、樹脂含浸繊維束を構成する(A)成分の繊維材料の長さは、樹脂含浸繊維束の長さと一致するから、前記長さは樹脂含浸繊維束の長さでもある。
本発明の樹脂含浸繊維束は、クロスヘッドダイを用いた引抜成形法を適用する方法により製造されたものであることが望ましく、本発明の樹脂含浸繊維束の製造に使用する(A)成分の繊維材料の長さは、引抜成形法に適用できる程度の長さのものを用いることが好ましい。
【0016】
本発明の樹脂含浸繊維束に含まれる(A)成分の繊維材料の数は、樹脂含浸繊維束の外径(長軸長さおよび短軸長さ)を考慮して調整するものであり、1,000~24,000本の範囲が好ましく、1,000~15,000本の範囲がより好ましい。
【0017】
本発明の樹脂含浸繊維束に含まれる(B)成分の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12等)、オレフィン樹脂(ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン等)、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、熱可塑性ウレタン樹脂(TPU)、ポリオキシメチレン樹脂(POM)、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂のアロイ、ポリアミド樹脂とポリプロピレンのアロイ等から選ばれるものを用いることができる。(B)成分の熱可塑性樹脂は、2種以上からなるアロイも用いることができ、その場合には、適当な相溶化剤も含有することができる。
【0018】
(A)成分の繊維材料の束と(B)成分の熱可塑性樹脂の含有割合は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量%中、(A)成分が25~80質量%、(B)成分が75~20質量%であり、(A)成分が40~60質量%、(B)成分が60~40質量%が好ましい。
【0019】
樹脂含浸繊維束は、用途に応じて、公知の樹脂用添加剤を含有することができる。樹脂用添加剤としては、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤などを挙げることができる。
【0020】
樹脂含浸繊維束は、幅方向の断面形状が長軸と短軸(長軸長さ>短軸長さ)を有する扁平形状のものである。
樹脂含浸繊維束の長軸の平均長さ(D1)は1.0~4.0mmであり、1.3~3.5mmが好ましい。
樹脂含浸繊維束の長軸の平均長さ(D1)と短軸の平均長さ(D2)から求められる平均扁平比(D1/D2)は2~20であり、2~15が好ましい。
樹脂含浸繊維束の長さ(L)は15~50mmであり、15~40mmが好ましい。
LとD1の比(L/D1)は3~50であり、10~40が好ましい。
【0021】
本発明の樹脂含浸繊維束は、上記のD1、D1/D2、L、L/D1が上記特定の範囲内にある扁平形状のものであって、その外表面に下記(i)~(iv)のいずれかの凹凸を有する。
【0022】
(i)前記繊維束の長さ方向に直交する方向に線状凹部と線状凸部が形成され、前記線状凹部と線状凸部とが繊維束の長さ方向に交互に組み合わされて形成された凹凸、
(ii)前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に線状凹部と線状凸部が形成され、前記線状凹部と線状凸部とが繊維束の長さ方向に交互に組み合わされて形成された凹凸、
(iii)前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に形成された第1線状凸部と、第1線状凸部に対して斜交するように形成された第2線状凸部との組み合わせを含むものであって、
第1線状凸部が、繊維束の長さ方向に間隔をおいて複数形成され、第2線状凸部が繊維束の長さ方向に間隔をおいて複数形成されており、
複数の第1線状凸部と複数の第2線状凸部とで囲まれた内側が、平面形状で四角形の凹部である、凹凸、
(iv)前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に形成された第1線状凹部と、第1線状凹部に対して斜交するように形成された第2線状凹部との組み合わせを含むものであって、
第1線状凹部が、繊維束の長さ方向に間隔をおいて複数形成され、第2線状凹部が繊維束の長さ方向に間隔をおいて複数形成されており、
複数の第1線状凹部と複数の第2線状凹部とで囲まれた内側が、平面形状で四角形の凸部である、凹凸。
【0023】
図1(a)は、凹凸(i)を有する樹脂含浸繊維束1の部分平面図を示すものである。
線状凹部11は、樹脂含浸繊維束1の側面に、前記繊維束の長さ方向に直交する方向に周り込んで複数が形成される。線状凸部12は、樹脂含浸繊維束1の側面に、前記繊維束の長さ方向に直交する方向に周り込んで複数が形成される。前記繊維束1の側面中、線状凹部11と線状凸部12は、同じ幅であって、樹脂含浸繊維束1の長さ方向に交互に配置されるように形成されており、前記凹部11と前記凸部12が形成されていない部分があってもよい。
【0024】
凹凸(i)は、前記繊維束1の長さ方向の複数箇所に線状凹部11が形成され、線状凹部11同士の間が線状凸部12となる。前記繊維束1中における線状凹部11または線状凸部12の数の指標となる、線状凸部12の中間位置の間隔(ピッチ:P1)は、好ましくは0.5~2.0mmの範囲であり、より好ましくは0.5~1.8mmの範囲である。
【0025】
凹凸(i)は、樹脂含浸繊維束1の長さ(L)に対する線状凸部12の中間位置の間隔(ピッチ:P1)の比は、L/P1で、7~100が好ましく、8~80がより好ましい。
【0026】
なお、
図2は、表面に凹凸が形成された既存の樹脂含浸繊維束5の平面図を示すものである。
既存の樹脂含浸繊維束5の表面に形成された凹凸は、前記繊維束5の長さ方向に平行して形成された複数の直線状の凹部51と凸部52を有しており、前記凹部51と前記凸部52とが前記繊維束5の長さ方向にそれぞれ複数が形成されている。線状凹部51と線状凸部52は、樹脂含浸繊維束5の周方向に交互に配置されるように形成されている。
前記繊維束5は、引抜け荷重試験において、引抜き方向と平行して前記凹部51と前記凸部52とが形成されているため、十分な引抜け荷重を得ることができない。
【0027】
図1(b)は、凹凸(ii)を有する樹脂含浸繊維束2の部分平面図を示すものである。
線状凹部21は、樹脂含浸繊維束2の側面に、前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に周り込んで複数が形成される。線状凸部22は、樹脂含浸繊維束2の側面に、前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に周り込んで複数が形成される。前記繊維束2の側面中、線状凹部21と線状凸部22は、同じ幅であって、樹脂含浸繊維束2の長さ方向に交互に配置されるように形成されており、前記凹部21と前記凸部22が形成されていない部分があってもよい。
【0028】
凹凸(ii)は、前記繊維束2の長さ方向に対して斜交する線状凹部21は角度20~70°の範囲のものであることが好ましい。なお、線状凸部22は線状凹部21と交互に配置されているため、線状凸部22は線状凹部21と同じ角度のものである。
【0029】
凹凸(ii)は、前記繊維束2の長さ方向の複数箇所に線状凹部21が形成され、線状凹部21同士の間が線状凸部22となる。前記繊維束2中における線状凹部21または線状凸部22の数の指標となる、線状凸部22の中間位置の間隔(ピッチ:P2)は、好ましくは0.5~2.0mmの範囲であり、より好ましくは0.5~1.8mmの範囲である。
【0030】
凹凸(ii)は、樹脂含浸繊維束の長さ(L)に対する前記凸部22の中間位置の間隔(ピッチ:P2)の比は、L/P2で、7~100が好ましく、8~80がより好ましい。
【0031】
なお、既存の樹脂含浸繊維束として、前記繊維束の長さ方向に連続して螺旋状に形成された凹凸を有する樹脂含浸繊維束は、その外観の平面図は凹凸(ii)の部分平面図である
図1(b)と類似のものであるが、本発明の樹脂含浸繊維束は螺旋状に形成された凹凸を有するものは含まない。
【0032】
図1(c)は、凹凸(iii)を有する樹脂含浸繊維束3の部分平面図を示すもので、凹部31、第1線状凸部32、第2線状凸部33から形成される。
第1線状凸部32は、樹脂含浸繊維束3の側面に、前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に周り込んで複数が形成される。第2線状凸部33は、第1線状凸部32に対して斜交するように前記繊維束側面に周り込んで複数が形成される。さらに第1線状凸部32は前記繊維束3の長さ方向に間隔をおいて複数形成され、第2線状凸部33は前記繊維束3の長さ方向に間隔をおいて複数形成されており、複数の第1線状凸部32と複数の第2線状凸部33とで囲まれた内側が、平面形状で四角形の凹部31となる。第1線状凸部32と第2線状凸部33は同じ幅である。前記繊維束3の側面中、前記凸部32と前記凸部33が形成されていない部分があってもよい。
【0033】
凹部31は、平面形状で四角形であり、前記四角形は正方形、平行四辺形、菱形を含む。凹部31は、平面形状で菱形であることが好ましい。
但し、第1線状凸部32および第2線状凸部33は、いずれも長さ方向に斜交する方向に周り込んで複数が形成され、前記凸部32と前記凸部33が形成されていない部分があってもよいものであるため、前記凹部31の平面形状において完全に囲まれていないものも含む。
【0034】
平面形状で四角形の凹部31の大きさは、前記四角形の対角線のうち、繊維束の長さ方向に平行する対角線の長さ(ピッチ:P3)で決まるものである。
【0035】
凹凸(iii)は、凹部31が正方形の場合、対角線の長さは同じであり、対角線(ピッチ:P3)は好ましくは0.5~2.0mmの範囲のものであり、より好ましくは0.5~1.8mmの範囲のものである。
【0036】
また凹凸(iii)は、凹部31が菱形の場合、長径と短径の対角線があり、長径>短径の関係を満たす。対角線(ピッチ:P3)は、繊維束の長さ方向に平行する対角線であれば長径および短径のどちらでもよく、好ましくは0.5~3.0mmの範囲のものであり、より好ましくは0.5~2.0mmの範囲のものである。
【0037】
凹凸(iii)は、凹部31が正方形の場合、樹脂含浸繊維束の長さ(L)に対する対角線(ピッチ:P3)の比は、L/P3で、7~100が好ましく、8~80がより好ましい。
【0038】
また凹凸(iii)は、凹部31が菱形の場合、樹脂含浸繊維束の長さ(L)に対する対角線(ピッチ:P3)の比は、L/P3で、7~100が好ましく、8~80がより好ましい。
【0039】
凹凸(iv)を有する樹脂含浸繊維束4は、凹凸(iii)を反転させた凹凸を有する樹脂含浸繊維束であって、前記凹凸(iv)は凸部41、第1線状凹部42、第2線状凹部43から形成される。
第1線状凹部42は、樹脂含浸繊維束4の側面に、前記繊維束の長さ方向に斜交する方向に周り込んで複数が形成される。第2線状凹部43は、第1線状凹部42に対して斜交するように前記繊維束側面に周り込んで形成される。さらに第1線状凹部42は前記繊維束4の長さ方向に間隔をおいて複数形成され、第2線状凹部43は前記繊維束4の長さ方向に間隔をおいて複数形成されており、複数の第1線状凹部42と複数の第2線状凹部43とで囲まれた内側が、平面形状で四角形の凸部41となる。第1線状凹部42と第2線状凹部43は同じ幅である。前記繊維束4の側面中、前記凹部42と前記凹部43が形成されていない部分があってもよい。
【0040】
凸部41は、平面形状で四角形であり、前記四角形は正方形、平行四辺形、菱形を含む。凸部41は、平面形状で菱形であることが好ましい。
但し、第1線状凹部42および第2線状凹部43は、いずれも長さ方向に斜交する方向に周り込んで複数が形成され、前記凹部42と前記凹部43が形成されていない部分があってもよいものであるため、前記凸部41の平面形状において完全に囲まれていないものも含む。
【0041】
平面形状で四角形の凸部41の大きさは、前記四角形の対角線のうち、繊維束の長さ方向に平行する対角線の長さ(ピッチ:P4)で決まるものである。
【0042】
凹凸(iv)は、凸部41が正方形の場合、対角線の長さは同じであり、対角線(ピッチ:P4)は好ましくは0.5~2.0mmの範囲のものであり、より好ましくは0.5~1.8mmの範囲のものである。
【0043】
また凹凸(iv)は、凸部41が菱形の場合、長径と短径の対角線があり、長径>短径の関係を満たす。対角線(ピッチ:P4)は、繊維束の長さ方向に平行する対角線であれば長径および短径のどちらでもよく、好ましくは0.5~3.0mmの範囲のものであり、より好ましくは0.5~2.0mmの範囲のものである。
【0044】
<樹脂含浸繊維束の製造方法>
本発明の樹脂含浸繊維束の製造方法は、特開2011-162905号公報(特許文献2)の段落0026~0039に記載の方法に準じて製造することができる。
【0045】
前記凹凸(i)~(iv)を樹脂含浸繊維束の表面に凹凸を形成する方法として、特開2011-162905号公報(特許文献2)の段落0027に記載された方法と同様に、外表面に凹凸が形成された成形ロール(樹脂含浸繊維束の成形装置内)を使用することができる。
成形ロールは、2本、3本、または4本以上を組み合わせて使用することができ、2本の成形ロールを組み合わせることが好ましい。
【0046】
凹凸は、前記凹凸を反転させたエンボスを有する複数の成形ロールの間に、前記繊維束を通過させて形成(賦形)される。通過の際、前記繊維束の上下から押圧されて前記繊維束の断面が扁平形状となり、成形ロールと接する繊維束表面部分に凹凸が形成される。
2本の成形ロールを使用する場合、前記繊維束表面の一部分のみ接触し、その接触部分に凹凸が形成される、つまり2本の成形ロールの押圧により形成される前記繊維束の断面(扁平形状)の短軸方向の上下表面のみ凹凸が形成される。
そのため、本発明の樹脂含浸繊維束は、
図3に示すように、前記繊維束表面において部分的に凹凸部のない箇所を含んで前記繊維束側面に周り込むように形成された線状凹凸を有するものである。
但し、本発明の樹脂含浸繊維束は、前記繊維束の側面積全体(繊維束を長さ方向に垂直に切断してできる繊維束断面の面積は含まない)の70面積%以上で凹凸が形成されたものに限る。
【0047】
図3は、一部表面に線状凹凸61が形成され残部表面に凹凸部のない部分62を有する樹脂含浸繊維束6の、幅方向に垂直に切断した断面の概略図を示す。
図3中のジグザグ(ぎざぎざに屈曲した線)61は、繊維含浸繊維束6の短軸方向の上下表面に凹凸が形成された部分を示すものであって、前記ジグザグ61の起伏が前記繊維束6の表面に形成された凹凸の形状を示すものではない。
【0048】
また、本発明の樹脂含浸繊維束は、前記繊維束表面全体を周回して連続的に凹凸が形成されたもの(環状凹凸)を含んでもよい。
環状凹凸が形成された樹脂含浸繊維束は、2本の成形ロールの押圧により形成される前記繊維束の断面(扁平形状)の短軸方向の上下表面のみ凹凸が形成され、次いで前記繊維束を幅方向に90°回転させて、凹凸が形成されていない繊維束の断面の長軸方向の上下表面を2本の成形ロールと接触させて凹凸が形成されて得られる。
【0049】
樹脂含浸繊維束の表面に凹凸を形成する成形(賦形)ロールの外表面には、前記凹凸(i)~(iv)を反転させた凹凸のエンボスが形成されている。
例えば、
図4の成形(賦形)ロール7の外表面に形成されたエンボスにおいて、前記ロールの凸部エンボス71は凹凸(iii)の凹部31を、前記ロールの凹部エンボス72、73は凹凸(iii)の第1線状凸部32、第2線状凸部33を成形する。
図4中の符号P7は、前記凹凸(iii)の凹部31の対角線の長さ(ピッチ:P3)に相当する。
【0050】
本発明の樹脂含浸繊維束は、前記凹凸(i)~(iv)を反転させた凹凸のエンボスを有する成形(賦形)ロールを用いて、成形ロールの回転速度や凹凸を賦形する際の成形ロールの温度、加圧等を、凹部と凸部の高低差が好ましくは0.05~1.0mmの範囲になるように調整することができる。
【0051】
本発明の表面に凹凸が形成された樹脂含浸繊維束は、水硬性材料の補強用繊維として使用することができる。
【0052】
水硬性材料としては、公知の各種セメント、前記各種セメントを含むモルタル及びコンクリートのほか、水を添加して硬化する公知の材料を挙げることができ、例えば、天然水硬性石灰(NHL;Natural Hydraulic Lime)にも適用することができる。
【0053】
樹脂含浸繊維束の含有量は、セメント100質量部に対して0.1~50質量部が好ましく、0.1~30質量部がより好ましく、0.1~20質量部がさらに好ましい。
【0054】
水硬性材料がモルタルの場合には、セメント、水、細骨材、混和材料(必要に応じて加える)、上記の樹脂含浸繊維束等を含むことができる。
【0055】
水硬性材料がコンクリートの場合には、セメント、水、細骨材、粗骨材、混和材料(必要に応じて加える)、上記の樹脂含浸繊維束等を含むことができる。
【0056】
上記の細骨材、粗骨材、混和材料等は公知のものであり、例えば、特開2007-302528号公報の段落番号0021に記載されているものを挙げることができる。
【実施例】
【0057】
(A)炭素繊維、製品名「トレカ糸 T700S」、東レ株式会社製
(B)ナイロン12、製品名「ダイアミドL1600」、ダイセル・エボニック社製
【0058】
実施例および比較例
特開2011-162905号公報(特許文献2)の
図1、
図2に示すフローにて、表面に凹凸が形成された樹脂含浸繊維束を製造した。
【0059】
表1に示す炭素繊維(直径7μm)約12000本からなる長尺状の繊維束を予備加熱装置に通して、約250℃で予備加熱した。
【0060】
次に、予備加熱後の繊維束をクロスヘッドダイに導入して、押出機から供給した溶融状態(290℃)のナイロン12と接触させることで、長尺状の繊維束に樹脂を含浸させた。
【0061】
次に、ナイロン12を含浸させた長尺状の繊維束を、外表面に凹凸を有する2本の成形ロールに通過させることで、前記繊維束を表1に示す扁平形状に成形し、さらに前記繊維束の断面の短軸方向の上下表面に多数の凹凸を賦形させた。
【0062】
次に、引取機を通過させた後、ペレタイザーで30mm(繊維束長)に切断して、繊維束の長軸および短軸が表1に示す樹脂含浸繊維束を得た。なお、表1に示す樹脂含浸繊維束は、いずれも、前記繊維束の側面積中の80面積%以上に凹凸が形成されたものであった。
【0063】
試験例1
JIS A 6208の付属書B(
図B.1)に準じた引抜試験方法により、引抜け荷重を測定した。
測定サンプルは、普通ポルトランドセメント0.675kg、陸砂1.35kg、水0.338kgを充分に混合して調製した試験用モルタルを成形して、前記モルタル成形体(JIS A 6208の付属書B(
図B.2)様)に本発明の樹脂含浸繊維束(長さ30mm)の端15mmを垂直に埋め込み、24時間後に脱型後、20℃水中下で材齢28日養生したものを用いた。
下記の引張試験機に、前記モルタル成形体を固定し、本発明の樹脂含浸繊維束を垂直に上へ引張り、引抜け荷重を測定した。
引っ張り試験機:AUTOGRAPH AG-X(島津製作所製)
試験速度:0.5mm/min
ヒンジ間距離:12mm
繊維束の呼び繊度と最大引抜け荷重を、表1に示した。
【0064】
【符号の説明】
【0065】
1~4 樹脂含浸繊維束
11、21 線状凹部
12、22 線状凸部
31 凹部
32 第1線状凸部
33 第2線状凸部
41 凸部
42 第1線状凹部
43 第2線状凹部
5 樹脂含浸繊維束の比較例
51 凹部
52 凸部
61 樹脂含浸繊維束表面上の凹凸が形成された部分
62 樹脂含浸繊維束表面上の凹凸が形成されていない部分
7 外表面に凹凸が形成された成形(賦形)ロール
71 凸部エンボス
72、73 凹部エンボス