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特許7333308石油樹脂及び水素添加石油樹脂、並びに水素添加石油樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】石油樹脂及び水素添加石油樹脂、並びに水素添加石油樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 232/00 20060101AFI20230817BHJP
   C08F 212/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C08F232/00
C08F212/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020504062
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2019009409
(87)【国際公開番号】W WO2019172434
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2018041974
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 清彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢司
(72)【発明者】
【氏名】黒木 政勝
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/098692(WO,A1)
【文献】特開2017-190428(JP,A)
【文献】特開2011-195711(JP,A)
【文献】特開2017-031273(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098370(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/056882(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/193894(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 232/00-232/08
C08F 212/00-212/36
C08F 240/00
C09J 11/00- 11/08
C09J 201/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物とを重合溶媒の存在下で共重合反応させる共重合反応工程と、該共重合反応工程で得た共重合反応生成液に含まれる揮発分を除去処理し石油樹脂を得る工程と、該石油樹脂を水素化溶媒の存在下で水素化反応させる水素化反応工程と、該水素化反応工程で得た水素添加反応生成液に含まれる未反応分及び揮発分を除去処理し水素添加石油樹脂濃縮液を得る工程と、該水素添加石油樹脂濃縮液から揮発性有機化合物成分を除去し、分子量が200~350である水素添加低分子量体が6~10質量%含まれる水素添加石油樹脂を得る揮発性有機化合物成分の除去工程と、を含み、
前記揮発性有機化合物成分の除去工程が、前記水素添加石油樹脂を薄膜蒸留装置に供給し、揮発性有機化合物成分の含有量を2000wtppm未満とする第1の工程と、該第1の工程を経た水素添加石油樹脂を窒素ストリッピング装置又は水蒸気蒸留装置に供給し、揮発性有機化合物成分の含有量を100wtppm未満とする第2の工程と、から構成される水素添加石油樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記水素添加石油樹脂濃縮液中の水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体の含有量が、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中7~13質量%である、請求項に記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜蒸留装置における、処理温度が100~300℃、処理圧力が0.1~15kPa、処理時間が5~180分間である、請求項又はに記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記窒素ストリッピング装置又は水蒸気蒸留装置における、処理温度が150~300℃、処理圧力が0.5~150kPa、窒素又は水蒸気流量が水素添加石油樹脂100質量%に対して100~1,000,000mL/分、処理時間が10~180分間である、請求項のいずれか1項に記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記窒素ストリッピング装置がロータリーエバポレーター又はフラッシュドラムであり、前記水蒸気蒸留装置がフラッシュドラム又は放散塔である、請求項のいずれか1項に記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物成分の含有量が少なく、低臭気性に優れる、石油樹脂及び水素添加石油樹脂、並びに水素添加石油樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性化合物をベースポリマーとして粘着付与剤等の添加剤を配合してなるホットメルト型の接着剤が、衛生用品の製造、製本、各種包装などの様々な分野で用いられている。
【0003】
ホットメルト接着剤のベースポリマーとなる熱可塑性化合物としては、例えば、天然ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、非晶性ポリアルファオレフィン、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、および、それらのゴム成分を水素添加して得られる、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンゴム(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンゴム(SEPS)などが挙げられる。
【0004】
また、ホットメルト接着剤の添加剤となる粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂、およびこれらの水素添加物などが用いられている。これらの中でも、工業生産に適し、品質安定性が高いという観点から、石油樹脂が好適に使用されている。
【0005】
これまで、粘着付与剤として石油樹脂を含むホットメルト接着剤が用いられてきた。特に、紙おむつ等の衛生用品の製造にホットメルト接着剤が用いられた場合、製品中に含まれる揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)に由来する臭気が、ユーザに不快感を与えることや、健康に悪影響が及ぼされること等が懸念され、様々な検討がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、ハロゲン化金属化合物を触媒として炭化水素単量体を重合して、炭化水素単量体が重合されてなる石油樹脂と、重合溶媒および未反応単量体の少なくとも一方を含む揮発性成分と、触媒残渣とを含む重合後混合物を得る第1の工程と、第1の工程で得られた重合後混合物に水を添加して、触媒残渣を沈殿させて、それを除去することにより、触媒残渣除去混合物を得る第2の工程と、第2の工程で得られた触媒残渣除去混合物に、吸着剤を接触させて、吸着剤処理混合物を得る第3の工程と、第3の工程で得られた吸着剤処理混合物を加熱することにより、吸着剤処理混合物から揮発性成分を揮発させた後、残った成分から石油樹脂を回収する第4の工程と、を有してなる石油樹脂の製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、重量平均分子量300以下の成分が0.5重量%以下、ガードナー色差計により測定した色相が8以下、揮発性有機化合物成分が500nL/g以下であることを特徴とする石油樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-196758号公報
【文献】特開2007-204519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、重合後混合物に水を添加して、触媒残渣を沈殿させて、これを除去することにより触媒残渣除去混合物を得ている。そして、この触媒残渣除去混合物に吸着剤を接触させて得られる吸着剤混合物を加熱し、揮発性成分を揮発させることで、水素添加を行わなくとも低臭気性の石油樹脂が得られることが開示されている。
また、特許文献2には、揮発性有機化合物成分が500nL/g以下であることが開示されている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている石油樹脂にあっても、紙おむつ等の衛生用品に適用できるレベルにまで低臭気性に優れる石油樹脂であるかについて改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、揮発性有機化合物成分の含有量が少なく低臭気性に優れる、石油樹脂及び水素添加石油樹脂、並びに水素添加石油樹脂の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、揮発性有機化合物成分の含有量を特定量未満とすることで、低臭気性に優れる石油樹脂が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0012】
[1]揮発性有機化合物成分の含有量が100wtppm未満である石油樹脂。
[2]前記石油樹脂が、シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物との共重合体を含む、前記[1]に記載の石油樹脂。
[3]前記共重合体が、シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物とを熱重合してなる、前記[2]に記載の石油樹脂。
[4]揮発性有機化合物成分の含有量が100wtppm未満である水素添加石油樹脂。
[5]前記揮発性有機化合物成分の含有量が、10wtppm未満である前記[4]に記載の水素添加石油樹脂。
[6]前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の石油樹脂が水素添加されてなる、前記[4]又は[5]に記載の水素添加石油樹脂。
[7]前記石油樹脂が、シクロペンタジエン及びジシクロペンタジエンからなる群より選択される少なくとも1種とスチレンとを熱重合してなる、前記[6]に記載の水素添加石油樹脂。
[8]前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の石油樹脂、及び前記[4]~[7]のいずれか1つに記載の水素添加石油樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含有するホットメルト接着剤組成物。
[9]更に、熱可塑性化合物を含有する、前記[8]に記載のホットメルト接着剤組成物。
[10]前記熱可塑性化合物が、スチレン重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、天然ゴム、非晶性ポリアルファオレフィン(APAO)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンゴム(SEBS)、及びスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンゴム(SEPS)からなる群より選択される少なくとも1種である、前記[9]に記載のホットメルト接着剤組成物。
[11]シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物とを重合溶媒の存在下で共重合反応させる共重合反応工程と、該共重合反応工程で得た共重合反応生成液に含まれる揮発分を除去処理し石油樹脂を得る工程と、該石油樹脂を水素化溶媒の存在下で水素化反応させる水素化反応工程と、該水素化反応工程で得た水素添加反応生成液に含まれる未反応分及び揮発分を除去処理し水素添加石油樹脂濃縮液を得る工程と、該水素添加石油樹脂濃縮液から揮発性有機化合物成分を除去し、水素添加低分子量体が6~10質量%含まれる水素添加石油樹脂を得る揮発性有機化合物成分の除去工程と、を含み、
前記揮発性有機化合物成分の除去工程が、前記水素添加石油樹脂を薄膜蒸留装置に供給し、揮発性有機化合物成分の含有量を2000wtppm未満とする第1の工程と、該第1の工程を経た水素添加石油樹脂を窒素ストリッピング装置又は水蒸気蒸留装置に供給し、揮発性有機化合物成分の含有量を100wtppm未満とする第2の工程と、から構成される水素添加石油樹脂の製造方法。
[12]前記水素添加石油樹脂濃縮液中の水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体の含有量が、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中7~13質量%である、前記[11]に記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
[13]前記薄膜蒸留装置における、処理温度が100~300℃、処理圧力が0.1~15kPa、処理時間が5~180分間である、前記[11]又は[12]に記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
[14]前記窒素ストリッピング装置又は水蒸気蒸留装置における、処理温度が150~300℃、処理圧力が0.5~150kPa、窒素又は水蒸気流量が水素添加石油樹脂100質量%に対して100~1,000,000mL/分、処理時間が10~180分間である、前記[11]~[13]のいずれか1つに記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
[15]前記水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体の分子量が200~350である、前記[11]~[14]のいずれか1つに記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
[16]前記窒素ストリッピング装置がロータリーエバポレーター又はフラッシュドラムであり、前記水蒸気蒸留装置がフラッシュドラム又は放散塔である、前記[11]~[15]のいずれか1つに記載の水素添加石油樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、揮発性有機化合物成分の含有量が少なく低臭気性に優れる、石油樹脂及び水素添加石油樹脂、並びに水素添加石油樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(石油樹脂)
本発明において、石油樹脂に含まれる揮発性有機化合物成分(VOC成分)の含有量は100wtppm未満である。
上記VOC成分の含有量が、上記範囲を超える場合には、VOC成分の含有量が多過ぎ低臭気性に劣るおそれがある。これに対して、上記VOC成分の含有量が、上記範囲を満たす場合には、VOC成分の含有量が少なく低臭気性に優れる。
なお、本明細書において、石油樹脂に含まれる揮発性有機化合物成分は、後述する実施例の試験方法に示す(1-1)揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンの定量方法に準じて、ガスクロマトグラフにて測定することができる。
【0015】
<共重合反応工程>
本発明で規定する石油樹脂を得る方法は、特に限定されないが、例えば、加熱装置、加圧装置、及び撹拌装置を備えた重合反応槽を採用し、第1原料としてシクロペンタジエン系化合物、及び第2原料としてビニル芳香族化合物を用いることが好ましい。そして、重合用溶媒の存在下で、シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物とを、所定の条件で共重合反応させて共重合体(石油樹脂)を生成させることが好ましい。
ここで、共重合体(石油樹脂)は、シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物とを熱重合してなることが好ましい。
より具体的には、共重合体(石油樹脂)は、シクロペンタジエン及びジシクロペンタジエンからなる群より選択される少なくとも1種とスチレンとを熱重合してなることが好ましい。
【0016】
重合反応槽には、第1原料タンク、第2原料タンク、及び重合用溶媒タンクが接続されたものを用いることができる。第1原料タンク及び第2原料タンクには、第1原料と第2原料とをそれぞれ貯蔵し、重合用溶媒タンクには、重合用溶媒を貯蔵する。
そして、重合反応槽には、先ず、重合用溶媒タンクから重合用溶媒を供給し、次いで、第1原料タンク及び第2原料タンクのそれぞれから第1原料及び第2原料を適宜供給する設計とすることができる。また、重合反応槽の底部には開閉口を設け、共重合反応で生成した共重合体(石油樹脂)を外部に流出可能とすることができる。
なお、第1原料と第2原料とを予め混合物とする場合には、原料タンクは1つであってもよい。
【0017】
ここで、シクロペンタジエン系化合物としては、例えば、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、およびこれらの二量体や共二量体などが挙げられる。また、ビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、インデン、メチルインデン、エチルインデンなどが挙げられる。
【0018】
シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物とは、それぞれ単独で重合反応槽に供給してもよいが、予め互いを混合しモノマー混合物としておいてから重合反応槽に供給してもよい。
シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物との混合割合は、特に限定されないが、質量比でシクロペンタジエン系化合物:ビニル芳香族化合物=70:30~20:80であることが好ましく、60:40~40:60がより好ましい。
【0019】
シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物との共重合反応に用いる、重合用溶媒としては、芳香族系溶媒、ナフテン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒などが代表的に挙げられる。重合用溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどが好適に用いられる。
重合用溶媒の使用量は、モノマー混合物100質量%に対して、50~500質量%であることが好ましく、60~300質量%がより好ましい。
【0020】
重合反応槽中に供給した重合用溶媒は、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上の温度に予め加熱しておくことが、スムーズに熱重合を開始する観点から好ましい。このように予め加熱された重合用溶媒中に、シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのモノマー混合物を添加し、撹拌しながら、所定の条件で共重合反応を行なうことが好ましい。
ここで、モノマー混合物添加は、分割添加又は連続添加であることが、重合による発熱を制御する観点から好ましい。なお、分割したモノマー混合物の添加量は等分であることが好ましい。
モノマー混合物の添加において、添加を開始してから終了するまでに要する時間は、好ましくは0.5~5時間、より好ましくは1~3時間である。
モノマー混合物の添加が終了した後においても、共重合反応を継続させることが好ましい。
共重合反応における所定の条件として、特に限定されないが、反応温度は、通常は150~350℃、好ましくは220~300℃で、反応圧力は、通常は0~2MPaG、好ましくは0~1.5MPaGで、反応時間は、通常は1~10時間、好ましくは1~8時間である。
【0021】
以上のようにして得られる共重合反応生成液を対象として、「揮発分」の回収除去処理を所定の条件で行うことが、所望の石油樹脂を得る観点から好ましい。
なお、ここで「揮発分」とは、重合用溶媒、未反応モノマー、分子量200~350程度の低分子量共重合体等が該当する。
「揮発分」の回収除去処理を経て回収された溶媒は、重合用溶媒として再利用されることが経済的な観点から好ましい。
「揮発分」の回収除去処理における所定の条件として、特に限定されないが、処理温度は、通常100~300℃で、処理圧力は、通常大気圧で、処理時間は、通常1~3時間である。
【0022】
ここで、「揮発分」の回収除去処理を経て回収された溶媒には、通常、分子量200~350程度の低分子量共重合体が含まれている。回収された溶媒中に含まれる低分子量共重合体の含有量は、生成される共重合体(石油樹脂)が有する粘着付与性能を低下させない観点から、回収された溶媒中、4質量%以下とすることが好ましく、3.5質量%以下がより好ましい。
上記低分子量共重合体の含有量が、上記範囲を満たす場合には、回収された溶媒をそのまま再利用し、重合用溶媒として重合反応槽に供給することができる。
一方、上記低分子量共重合体の含有量が、上記範囲を超える場合には、回収された溶媒中の低分子量共重合体を別途分離除去するか、或いは新しい重合用溶媒により希釈する等して、上記範囲を満たすよう調整してから再利用し、重合用溶媒として重合反応槽に供給することが好ましい。
【0023】
上述したように、「揮発分」の回収除去処理を経て回収された溶媒を重合用溶媒として再利用し、シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物との共重合反応を行うことが好ましい。そして、共重合反応生成物であるシクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物との共重合体である石油樹脂を得ることができる。
なお、このようにして得られる石油樹脂の物性としては、軟化点が50~120℃、ビニル芳香族化合物単位含有量が30~90質量%、臭素価が30~90g/100g、数平均分子量が400~1100であることが好ましい。
【0024】
(水素添加石油樹脂)
本発明において、水素添加石油樹脂に含まれる揮発性有機化合物成分(VOC成分)の含有量は100wtppm未満であり、10wtppm未満であることが好ましい。
上記VOC成分の含有量が、上記範囲を超える場合には、VOC成分の含有量が多過ぎ低臭気性に劣るおそれがある。これに対して、上記VOC成分の含有量が、上記範囲を満たす場合には、VOC成分の含有量が少なく低臭気性に優れる。
なお、本明細書において、水素添加石油樹脂に含まれる揮発性有機化合物成分は、後述する実施例の試験方法に示す(1-1)揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンの定量方法に準じて、ガスクロマトグラフにて測定することができる。
【0025】
<水素化反応工程>
本発明で規定する水素添加石油樹脂を得る方法は、特に限定されないが、例えば、加熱装置、及び加圧装置を備えた水素化反応槽を採用し、前記の共重合反応で得られた共重合体(石油樹脂)を水素化溶媒に溶解させ、必要に応じて水素化反応触媒の存在下において、所定の条件で、水素を添加し、水素化反応させて水素添加石油樹脂を生成させることが好ましい。
このように、本発明で規定する水素添加石油樹脂は、前記の共重合反応で得られた共重合体(石油樹脂)が水素添加(水素付加)されてなることが好ましい。
水素添加石油樹脂は、石油樹脂の構成成分に芳香環を含む場合には、芳香環をも水素添加(水素付加)されてなることが好ましい。
また、水素添加石油樹脂は、石油樹脂が部分的に水素添加されてなる部分水添型であってもよいし、石油樹脂が完全に水素添加されてなる完全水添型であってもよい。
【0026】
ここで、水素化溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0027】
前記の共重合反応で得られた共重合体(石油樹脂)を水素化溶媒に溶解させて、水素化反応槽に供給する方法は、特に限定されないが、例えば、共重合体(石油樹脂)と水素化溶媒とをそれぞれ単独で水素化反応槽に供給して溶解させてもよく、或いは予め互いを混合し溶解混合物としておいてから水素化反応槽に供給してもよい。
使用する石油樹脂と水素化溶媒との混合割合は、特に限定されないが、質量比で石油樹脂:水素化溶媒=10:90~50:50であることが好ましく、20:80~40:60がより好ましい。
【0028】
水素化反応に用いる水素化反応触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、コバルト、白金、ロジウムなどが挙げられる。
【0029】
水素化反応における所定の条件として、特に限定されないが、水素の供給圧力を通常は1.0~6.0MPaGとし、反応温度は、通常は120~300℃、好ましくは150~250℃で、反応時間は、通常は1~7時間、好ましくは2~5時間である。
以上のような水素化反応で得られる水素添加石油樹脂については、JIS Z8803に準拠し、次工程である揮発性有機化合物成分の除去工程における処理温度で測定される粘度は、0.01~1.0Pa・sであることが好ましい。
上記水素化反応で得られる水素添加石油樹脂の粘度が、上記範囲内にあれば、次工程である揮発性有機化合物成分の除去工程において、揮発性有機化合物成分(VOC成分)を効率よく除去することができる。
【0030】
<水素添加石油樹脂濃縮液を得る工程>
一方、以上のような水素化反応で得られる水素添加反応生成液については、「未反応分」の除去処理、及び「揮発分」の回収除去処理をそれぞれ所定の条件で行うことが、所望の水素添加石油樹脂を得る観点から好ましい。
なお、ここで「未反応分」とは、未反応水素等が該当する。また、「揮発分」とは、水素化溶媒等が該当する。
「揮発分」の回収除去処理を経て回収された溶媒は、水素化溶媒として再利用されることが経済的な観点から好ましい。
「未反応分」の除去処理における所定の条件として、特に限定されないが、処理温度は、通常100~200℃で、処理圧力は、通常1~5MPaGで、処理時間は、通常1~3時間である。
また、「揮発分」の回収除去処理における所定の条件として、特に限定されないが、処理温度は、通常100~300℃で、処理圧力は、通常0~10kPaGで、処理時間は、通常1~3時間である。
【0031】
水素化反応で得られる水素添加反応生成液を対象とする、「未反応分」の除去処理、及び「揮発分」の回収除去処理をそれぞれ行う方法は、特に限定されないが、例えば、第1分離機、第2分離機を用い、水素化反応槽から水素添加反応生成液をそれぞれの分離機に通液させる過程で、それぞれの分離機における所定の条件を異ならせることで、沸点等の物性が異なる「未反応分」及び「揮発分」の除去処理を効率的に行うことができる。
水素化反応槽から水素添加反応生成液をそれぞれの分離機に通液させるために、具体的には、水素化反応槽に第1分離機を接続し、該第1分離機に第2分離機を接続した構成のものを用いることが好ましい。
このような構成とすることで、水素添加反応生成液の通液が、水素化反応槽から、第1分離機、第2分離機まで連続的に行われ、効率的に「未反応分」の除去処理、及び「揮発分」の回収除去処理を行うことができる。
第1分離機で「未反応分」の除去処理を行う場合の所定の条件として、特に限定されないが、処理温度は、通常100~200℃で、処理圧力は、通常1~5MPaGで、処理時間は、通常1~3時間である。
第2分離機で「揮発分」の回収除去処理を行う場合の所定の条件として、特に限定されないが、処理温度は、通常100~300℃で、処理圧力は、通常0~10kPaGで、処理時間は、通常1~3時間である。
【0032】
上述したように、「未反応分」の除去処理、及び「揮発分」の回収除去処理を経て回収された溶媒を水素化溶媒として再利用し、水素を添加して石油樹脂に対する水素化反応を行うことが好ましい。そして、水素化反応生成物である水素添加石油樹脂を得ることができる。このように「未反応分」の除去処理、及び「揮発分」の回収除去処理を経た段階の水素添加石油樹脂濃縮液中の水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体の含有量は、生成される水素添加石油樹脂が有する粘着付与性能を低下させない観点、及び最終的に低臭気性に優れる水素添加石油樹脂を得る観点から、水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中7~13質量%であることが好ましい。
なお、本明細書において、水素添加石油樹脂濃縮液中の水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体は、実施例の試験方法に示す(1-2)水素添加低分子量体の定量方法にて測定することができる。
ここで、水素添加低分子量体の分子量は、通常200~350であることが好ましい。
なお、本明細書において、水素添加低分子量体の分子量は、GC-MSにて測定することができる。
【0033】
<揮発性有機化合物成分の除去工程>
本発明において、水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分の含有量を低減させる方法は、特に限定されないが、例えば、(1)薄膜蒸留、(2)窒素ストリッピング、(3)水蒸気蒸留などの蒸留法を採用することができる。
本発明において採用する蒸留法は、揮発性有機化合物成分の含有量を低減させる効果を高める観点から、先ず、第1の工程として(1)薄膜蒸留を行い、続いて第2の工程として(2)窒素ストリッピング又は(3)水蒸気蒸留を行う順序とすることが好ましい。
このような第1の工程及び第2の工程を経ることで、水素添加石油樹脂中に6~10質量%の水素添加低分子量体を残存させつつ、揮発性有機化合物成分を除去することができる。
【0034】
(1)薄膜蒸留
薄膜蒸留に用いる装置としては、一般に用いられる装置であれば、特に限定されず、例えば、遠心薄膜蒸留器(株式会社日立プラントテクノロジー社製「横形コントロ」)を用いることができる。
具体的には、前記の水素化反応で得られた水素添加石油樹脂、好ましくは「未反応分」の除去処理、及び「揮発分」の回収除去処理を行い得られた水素添加石油樹脂を、薄膜蒸留装置に供給し、必要に応じて酸化防止剤の存在下において、所定の条件で、薄膜蒸発させながら、揮発性有機化合物成分を除去させることができる。
薄膜蒸留における所定の条件として、特に限定されないが、処理温度は、通常100~300℃で、処理圧力は、通常0.1~15kPaで、処理時間は、通常5~180分間である。
【0035】
酸化防止剤を添加するタイミングは、特に限定されないが、薄膜蒸留を行った後に水蒸気蒸留を行わない場合には、薄膜蒸留を行う前の段階で、酸化防止剤を添加することが好ましい。
一方、薄膜蒸留を行った後に水蒸気蒸留を行う場合には、酸化防止剤が水蒸気によって加水分解されることを防止する観点から、水蒸気蒸留を行った後の段階で、酸化防止剤を添加することが好ましい。
ここで、酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤やホスファイト系酸化防止剤などが挙げられる。
酸化防止剤を用いる場合、その使用量は、水素添加石油樹脂100質量%に対して、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.3~1.0質量%がより好ましい。
【0036】
このような薄膜蒸留を経た段階の水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分の含有量は、最終的に低臭気性に優れる水素添加石油樹脂を得る観点から、2000wtppm未満であることが好ましく、1500wtppm未満がより好ましい。
【0037】
(2)窒素ストリッピング
窒素ストリッピングに用いる装置としては、一般に用いられる装置であれば、特に限定されず、例えば、ロータリーエバポレーター、フラッシュドラムなどを用いることができる。
具体的には、前記の第1の工程として(1)薄膜蒸留を経て得られた水素添加石油樹脂を、アイセル株式会社製MSEスタティックミキサーで窒素混合後、フラッシュドラムで窒素と分離する。
窒素ストリッピングにおける所定の条件として、特に限定されないが、処理温度は、通常150~300℃で、処理圧力は、通常0.5~100kPaで、窒素流量は、水素添加石油樹脂100質量%に対して通常100~1,000,000mL/分で、処理時間は、通常10~180分間である。
【0038】
このような窒素ストリッピングを経て得られた水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分の含有量は、最終的に低臭気性に優れる水素添加石油樹脂を得る観点から、100wtppm未満であることが好ましく、10wtppm未満がより好ましい。
【0039】
(3)水蒸気蒸留
水蒸気蒸留に用いる装置としては、一般に用いられる装置であれば、特に限定されず、例えば、フラッシュドラム、濡れ壁塔、放散塔などを用いることができる。
具体的には、前記の第1の工程として(1)薄膜蒸留を経て得られた水素添加石油樹脂を、アイセル株式会社製MSEスタティックミキサーで水蒸気混合後、フラッシュドラムで水蒸気と分離する。
【0040】
水蒸気蒸留における所定の条件としては、窒素ストリッピングにおける場合と同様に、処理温度は、通常150~300℃で、処理圧力は、通常0.5~150kPaで、水蒸気流量は、水素添加石油樹脂100質量%に対して通常100~1,000,000mL/分で、処理時間は、通常10~180分間である。
以下、揮発性有機化合物成分の低減目標に応じた、水素添加石油樹脂に対する水蒸気の供給量と処理圧力の条件を例示する。
<低減目標:100wtppm未満>
揮発性有機化合物成分がエチルシクロヘキサンとジメチルシクロヘキサンの混合溶媒(混合割合=8:2(質量比))に由来する際の低減目標を100wtppm未満とする場合には、例えば、水蒸気を水素添加石油樹脂100質量%に対して0.3質量%供給し、11kPaAの圧力でフラッシュさせる。
これにより、水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンを79wtppm、ジメチルシクロヘキサンを20wtppmにまで低減させることができる。
<低減目標:10wtppm未満>
揮発性有機化合物成分がエチルシクロヘキサンとジメチルシクロヘキサンの混合溶媒(混合割合=8:2(質量比))に由来する際の低減目標を10wtppm未満とする場合には、例えば、水蒸気を水素添加石油樹脂100質量%に対して0.5質量%供給し、10kPaAの圧力でフラッシュさせ、再び水蒸気を水素添加石油樹脂100質量%に対して0.3質量%供給し、10kPaAの圧力でフラッシュさせる。
これにより、水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンを5wtppm、ジメチルシクロヘキサンを1wtppmにまで低減させることができる。
<低減目標:1wtppm未満>
揮発性有機化合物成分がエチルシクロヘキサンとジメチルシクロヘキサンの混合溶媒(混合割合=8:2(質量比))に由来する際の低減目標を1wtppm未満とする場合には、例えば、水蒸気を水素添加石油樹脂100質量%に対して0.5質量%供給し、10kPaAの圧力でフラッシュさせ、再び水蒸気を水素添加石油樹脂100質量%に対して0.5質量%供給し、10kPaAの圧力でフラッシュさせる。
これにより、水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンを0.3wtppm、ジメチルシクロヘキサンを0.0wtppmにまで低減させることができる。
【0041】
このような水蒸気蒸留を経て得られた水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分の含有量は、最終的に低臭気性に優れる水素添加石油樹脂を得る観点から、100wtppm未満であることが好ましく、10wtppm未満がより好ましい。
以上のように、揮発性有機化合物成分の除去工程では、水素添加石油樹脂に含まれる揮発性有機化合物成分の含有量を低減させる方法について述べたが、石油樹脂についても水素添加石油樹脂と同様の方法を適用し、揮発性有機化合物成分の含有量を低減させることができる。
【0042】
ここで、薄膜蒸留を行う第1の工程と、窒素ストリッピング又は水蒸気蒸留を行う第2の工程と、から構成される揮発性有機化合物成分の除去工程では、該除去工程を経て得られる水素添加石油樹脂中に、分子量200~350程度の水素添加低分子量体が、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中6~10質量%含まれるように行うことが好ましい。
水素添加石油樹脂中に含まれる、分子量200~350程度の水素添加低分子量体の含有量は、生成される水素添加石油樹脂が有する粘着付与性能を低下させない観点から、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中6~10質量%とすることが好ましく、7~8質量%がより好ましい。
なお、本明細書において、水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体は、実施例の試験方法に示す(1-2)水素添加低分子量体の定量方法にて測定することができる。
なお、このようにして得られる水素添加石油樹脂の物性としては、軟化点が90~160℃、ビニル芳香族化合物単位含有量が0~35質量%、臭素価が0~30g/100g、数平均分子量が500~1100であることが好ましい。
【0043】
(ホットメルト接着剤組成物)
本発明におけるホットメルト接着剤組成物は、前述の石油樹脂、及び前述の水素添加石油樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を粘着性付与樹脂とし、これにベースポリマーとなる熱可塑性化合物、可塑剤などを配合して得ることができる。
【0044】
ベースポリマーとなる熱可塑性化合物としては、例えば、スチレン重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、天然ゴム、非晶性ポリアルファオレフィン(APAO)、及び、これらのゴム成分を水素添加して得られる、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンゴム(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンゴム(SEPS)などが挙げられる。
【0045】
可塑剤としては、例えば、原油を常圧蒸留することにより得られる重油留分を減圧蒸留し、さらに、水素化改質、脱ロウ処理等で精製することにより得られるパラフィン系プロセスオイル、または、減圧蒸留後、溶剤抽出や水添、白土処理によって得られるナフテン系プロセスオイルが挙げられる。この他にもポリブテンや液状のポリアルファオレフィンなどが挙げられる。
【0046】
ホットメルト接着剤組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、プロペラ式攪拌機、二軸の混練機、ニーダー等を用いて加熱溶融攪拌或いは混練する方法などを用いることができる。
ホットメルト接着剤組成物の製造時において、加熱温度は、特に限定されるものではないが、通常120~190℃であることが好ましい。
また、ホットメルト接着剤組成物の製造時において、各成分の配合順序、配合量は、特に限定されるものではないが、前記した3成分の配合量は、ホットメルト接着剤組成物として要求される物性によって異なるが、例えば、本発明に係る石油樹脂、及び水素添加石油樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が30~70質量%、ベースポリマーとなる熱可塑性化合物が15~40質量%、可塑剤が10~40質量%の範囲であるものが好ましい。
【0047】
ホットメルト接着剤組成物の配合成分としては、前述の石油樹脂、及び前述の水素添加石油樹脂からなる群より選択される少なくとも1種、ベースポリマーとなる熱可塑性化合物、可塑剤の他に、その物性を損なわない範囲で、酸化防止剤、ワックス、フィラー類を添加してもよい。
【0048】
本発明で得られるホットメルト接着剤は、揮発性有機化合物成分の含有量が少ない石油樹脂又は水素添加石油樹脂を原料として用いることができるため、低臭気性に優れるものである。
よって、本発明で得られるホットメルト接着剤は、衛生用品用、各種包装用、製本用、繊維用、木工用、電気材料用、製缶用、建築用、製袋用、道路用バインダーなど様々な分野で利用できるものであるが、特に、紙おむつ等の衛生用品に好適に利用できる。
【実施例
【0049】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
(共重合反応工程)
重合用溶媒であるキシレン90質量%を、窒素で置換した攪拌機付きの重合反応槽に供給し、260℃の温度になるまで加熱した。
この重合反応槽に、(ジ)シクロペンタジエンとスチレンとのモノマー混合物(混合割合=1:1(質量比))100質量%を3時間で均等に分割添加し、重合反応系が260℃の温度に保持されるように撹拌しながら共重合反応を行った。その後、引き続き260℃の温度を保持しながら共重合反応を115分間行った。
【0051】
なお、ここで「(ジ)シクロペンタジエン」とは、シクロペンタジエンとジシクロペンタジエンとの混合物を指していう。
【0052】
(石油樹脂を得る工程)
共重合反応で得られた共重合反応生成液を対象として、「揮発分」の回収除去処理を下記条件で行った。
<「揮発分」の回収除去処理条件>
・処理温度:175℃
・処理圧力:大気圧
・処理時間:3時間
なお、ここで「揮発分」の回収除去処理を経て回収された溶媒中に含まれる、分子量200~350程度の低分子量共重合体の含有量は4質量%以下であった。
このため、回収された溶媒を重合用溶媒として再利用し、シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物との共重合反応を行った。
そして、共重合反応生成物であるシクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族化合物との共重合体である石油樹脂を得た。
【0053】
なお、ここで「揮発分」とは、重合用溶媒、未反応モノマー、分子量200~350程度の低分子量共重合体等が該当する。
【0054】
(水素化反応工程)
上記の共重合反応工程で得られた石油樹脂と水素化溶媒であるエチルシクロヘキサンとの溶解混合物(混合割合=1:3(質量比))を水素化反応槽に供給し、更に、水素の供給圧力を5.0MPaGとして水素を水素化反応器に供給し、150~250℃の反応温度で水素化反応を12時間行った。
【0055】
なお、予め、水素化反応槽には第1分離機を接続させ、該第1分離機には第2分離機を接続させておく。
第1分離機では「未反応分」が除去処理され、第2分離機では「揮発分」が回収除去処理される。
【0056】
なお、ここで「未反応分」とは、未反応水素等が該当する。また、「揮発分」とは、水素化溶媒であるエチルシクロヘキサン等が該当する。
【0057】
(水素添加石油樹脂濃縮液を得る工程)
水素化反応で得られる水素添加反応生成液を、第1分離機に下記(1)の処理条件で通液し、次いで第2分離機に下記(2)の処理条件で通液し、「未反応分」の除去処理、及び「揮発分」の回収除去処理を行い、水素添加石油樹脂濃縮液を得た。
(1)第1分離機における「未反応分」の除去処理条件
・処理温度:150℃
・処理圧力:4.4MPaG
・処理時間:1時間
(2)第2分離機における「揮発分」の回収除去処理条件
・処理温度:230℃
・処理圧力:4kPaG
・処理時間:1時間
ここで、水素添加石油樹脂濃縮液中の水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体について、以下に示す方法(1-2)で定量したところ、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中9.5質量%であった。
なお、ここで、水素添加低分子量体について、GC-MSにて分子量を測定したところ、分子量200~350の範囲でピークを検出した。
【0058】
(揮発性有機化合物成分の除去工程)
<第1の工程:薄膜蒸留>
上記の工程で得られた水素添加石油樹脂濃縮液に酸化防止剤(商品名:Irganox1010)7000wtppmを添加したものを、遠心薄膜蒸留器(株式会社日立プラントテクノロジー社製「横形コントロ」)に供給し、下記処理条件で、薄膜蒸留させながら、揮発性有機化合物成分を除去し、第1の工程(薄膜蒸留)を経た段階の水素添加石油樹脂を得た。
・処理温度:210℃
・処理圧力:4kPa
・処理時間:6分間
このような第1の工程(薄膜蒸留)を経て得られた水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンについて、以下に示す方法(1-1)で定量したところ、1300wtppmであった。
【0059】
<第2の工程:窒素ストリッピング>
上記の(薄膜蒸留)を経た水素添加石油樹脂500gを、ロータリーエバポレーターに供給し、下記処理条件で、窒素を導入させながら、揮発性有機化合物成分を除去し、第2の工程(窒素ストリッピング)を経た段階の実施例1の水素添加石油樹脂を得た。
・処理温度:200℃
・処理圧力:100kPa
・窒素流量:1500mL/分
・処理時間:105分間
このような第2の工程(窒素ストリッピング)を経て得られた実施例1の水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンについて、以下に示す方法(1-1)で定量したところ、2wtppmであった。
また、ここで、実施例1で得られた水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体について、以下に示す方法(1-2)で定量したところ、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中7.2質量%であった。
なお、ここで、水素添加低分子量体について、GC-MSにて分子量を測定したところ、分子量200~350の範囲でピークを検出した。
【0060】
更に、実施例1で得られた水素添加石油樹脂について、下記物性を測定したところ、下記に示す結果が得られた。
軟化点:106℃(JIS K2207:2006を準用)
ビニル芳香族化合物単位含有量:20.3質量%(赤外分光光度計(吸光度700cm-1)による定量)
臭素価:5.8g/100g(JIS K2605:1996を準用)
数平均分子量(Mn):720(GPC測定法;カラム TSKゲルG200HXL&G4000HXL、流量 1mL/min、溶離液 THF、温度 40℃)
【0061】
[実施例2]
実施例1の揮発性有機化合物成分の除去工程の第2の工程(窒素ストリッピング)において、ロータリーエバポレーターの処理時間を105分間から150分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の水素添加石油樹脂を得た。
実施例2で得られた水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンについて、以下に示す方法(1-1)で定量したところ、0wtppmであった。
また、ここで、実施例2で得られた水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体について、以下に示す方法(1-2)で定量したところ、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中7.1質量%であった。
なお、ここで、水素添加低分子量体について、GC-MSにて分子量を測定したところ、分子量200~350の範囲でピークを検出した。
更に、実施例2で得られた水素添加石油樹脂について、下記物性を測定したところ、下記に示す結果が得られた。
軟化点:106℃(JIS K2207:2006を準用)
ビニル芳香族化合物単位含有量:20.3質量%(赤外分光光度計(吸光度700cm-1)による定量)
臭素価:5.8g/100g(JIS K2605:1996を準用)
数平均分子量(Mn):720(GPC測定法;カラム TSKゲルG200HXL&G4000HXL、流量 1mL/min、溶離液 THF、温度 40℃)
【0062】
[比較例1]
実施例1の揮発性有機化合物成分の除去工程において、第2の工程(窒素ストリッピング)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の水素添加石油樹脂を得た。
比較例1で得られた水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンについて、以下に示す方法(1-1)で定量したところ1300wtppmであった。
また、ここで、比較例1で得られた水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体について、以下に示す方法(1-2)で定量したところ、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中7.5質量%であった。
なお、ここで、水素添加低分子量体について、GC-MSにて分子量を測定したところ、分子量200~350の範囲でピークを検出した。
更に、比較例1で得られた水素添加石油樹脂について、下記物性を測定したところ、下記に示す結果が得られた。
軟化点:101℃(JIS K2207:2006を準用)
ビニル芳香族化合物単位含有量:20.3質量%(赤外分光光度計(吸光度700cm-1)による定量)
臭素価:5.8g/100g(JIS K2605:1996を準用)
数平均分子量(Mn):710(GPC測定法;カラム TSKゲルG200HXL&G4000HXL、流量 1mL/min、溶離液 THF、温度 40℃)
【0063】
[比較例2]
実施例1の共重合反応工程において、共重合反応の時間を115分間から80分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水素添加石油樹脂濃縮液を得た。
ここで、水素添加石油樹脂濃縮液中の水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体について、以下に示す方法(1-2)で定量したところ、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中7.9質量%であった。
なお、ここで、水素添加低分子量体について、GC-MSにて分子量を測定したところ、分子量200~350の範囲でピークを検出した。
また、実施例1の揮発性有機化合物成分の除去工程において、第1の工程(薄膜蒸留)の処理条件のうち処理温度を210℃から240℃に変更し、第2の工程(窒素ストリッピング)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の水素添加石油樹脂を得た。
比較例2で得られた水素添加石油樹脂に含まれる、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンについて、以下に示す方法(1-1)で定量したところ、600wtppmであった。
また、ここで、比較例2で得られた水素添加石油樹脂中に含まれる水素添加低分子量体について、以下に示す方法(1-2)で定量したところ、該水素添加低分子量体を含む水素添加石油樹脂100質量%中6.5質量%であった。
なお、ここで、水素添加低分子量体について、GC-MSにて分子量を測定したところ、分子量200~350の範囲でピークを検出した。
更に、比較例2で得られた水素添加石油樹脂について、下記物性を測定したところ、下記に示す結果が得られた。
軟化点:101℃(JIS K2207:2006を準用)
ビニル芳香族化合物単位含有量:21.5質量%(赤外分光光度計(吸光度700cm-1)による定量)
臭素価:5.5g/100g(JIS K2605:1996を準用)
数平均分子量(Mn):680(GPC測定法;カラム TSKゲルG200HXL&G4000HXL、流量 1mL/min、溶離液 THF、温度 40℃)
【0064】
上述した実施例1~2、及び比較例1~2で得られた水素添加石油樹脂について、以下に示す方法で(1-1)揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンの定量、及び(2)臭気の評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0065】
[試験方法]
(1-1)揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンの定量
実施例1~2、及び比較例1~2で得られた各水素添加石油樹脂0.500gを、クロロホルム5.00mLに溶解し、測定用サンプルを調製した。
この測定用サンプルを対象として、ガスクロマトグラフ(Agilent Technologies社製「Agilent6850」)にて、下記の測定条件でエチルシクロヘキサンの定量を行った。
<測定条件>
・カラムHP-1(30m×0.25mm、膜厚0.25μm)
・オーブン温度:10℃/分の速度で50℃(0min)から350℃(10min)まで昇温
・インジェクション温度:250℃
・ディテクション温度:300℃
・検出器:FID
・キャリアガス:He
・線速:40cm/sec
・注入量:1.0μL
・スプリット:1/10
【0066】
(1-2)水素添加低分子量体の定量
上述した(1-1)揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンの定量方法に準じて、ガスクロマトグラフにて水素添加低分子量体の定量を行った。
【0067】
(2)臭気の評価
実施例1~2、及び比較例1~2で得られた各水素添加石油樹脂60質量%と下記に示す配合成分とを、下記に示す配合量で混練し、ホットメルト接着剤を作製した。作製したホットメルト接着剤各1gを、臭気の評価試験のサンプルとした。
<ホットメルト接着剤組成物の配合成分>
・ベースポリマー(商品名:クレイトンD1102JSZ):25質量%
・オイル(商品名:PS32):15質量%
・酸化防止剤(商品名:Irganox1010):1質量%
このサンプルを、200mL三角フラスコに入れ、開口部をアルミホイルで覆って密閉状態とし、160℃の温度で1時間加熱を行い室温にまで冷却し、臭気の評価の対象サンプルとした。
準備した4つの対象サンプルについて、6人のパネルによる官能試験を行い、以下に示す5段階で各パネルに判定させて、6人のパネルが判定した値を合計し平均化することにより、臭気の評価を行った。
0:無臭
1:やっと感知できる臭い
2:何の臭いであるか判る臭い
3:楽に感知できる臭い
4:強く感知できる臭い
5:非常に強い臭い
合計判定値の平均が低いほど、低臭気性に優れると評価できる。
【0068】
【表1】
【0069】
(結果のまとめ)
表1に示された結果より、比較例1~2では、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンの含有量が、本発明で規定する範囲を超える水素添加石油樹脂を用いたことに起因し、臭気の評価試験において低臭気性に劣るものであることが分かった。
これに対して、実施例1~2では、揮発性有機化合物成分であるエチルシクロヘキサンの含有量が、本発明で規定する範囲を満たす水素添加石油樹脂を用いたことに起因し、臭気の評価試験において低臭気性に優れるものであることが分かった。