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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ポリアセタール共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 2/24 20060101AFI20230817BHJP
   C08G 2/06 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C08G2/24
C08G2/06
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022566047
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2022020533
(87)【国際公開番号】W WO2022264736
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021098587
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】増田 栄次
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-086736(JP,A)
【文献】特開平01-170610(JP,A)
【文献】特開平09-059332(JP,A)
【文献】特開2014-105279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 2/00-2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリオキサンを、全モノマーの90~99.9モル%である主モノマー(a)とし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状ホルマール化合物をコモノマー(b)とするポリアセタール共重合体の製造方法であって、
重合触媒(c)として下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸と、前記環状ホルマール化合物とを、第1の液体混合装置を用いて液相状態で均一に混合する工程Aと、
前記工程Aで得られる混合物と、前記トリオキサンとを、第2の液体混合装置を用いて液相状態で均一に混合する工程Bと、
前記工程Bで得られるトリオキサンを含む混合物を連続重合装置に供給して共重合する工程Cと、
前記工程Cで得られる反応生成物に、塩基性失活剤(d)を添加して溶融混練処理し、前記重合触媒(c)を失活させる工程Dと、を含み、
前記主モノマー(a)及び前記コモノマー(b)の合計量に対する前記重合触媒(c)の使用量が1.5~3.0質量ppmである、ポリアセタール共重合体の製造方法。
[M ・M ]・nHO ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、MはP及びSiより選ばれる1種又は2種の元素からなる中心元素を示す。MはW、Mo及びVより選ばれる1種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。〕。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール共重合体は、機械的性質、耐薬品性、摺動性等のバランスに優れ、かつ、その加工が容易であることにより、代表的なエンジニアリングプラスチックとして、電気・電子部品、自動車部品、その他の各種機械部品を中心として広く利用されている。ポリアセタール共重合体の工業的な製造方法は、主モノマーとしてトリオキサンを、コモノマーとして2つ以上の隣接炭素原子を有する環状エーテル又は環状ホルマールを、重合触媒として三フッ化ホウ素、又は三フッ化ホウ素とエーテル類との配位化合物を、コニーダー型一軸押出機、二軸スクリュー式押出混合機、二軸パドルタイプの押出混合機等の連続反応装置に供給し、連続的に共重合反応させるのが一般的である。
【0003】
しかし、一般に使用される三フッ化ホウ素系化合物の如き重合触媒は、比較的多量に(例えば、モノマー1kg当たり3×10-4mol以上)添加する必要がある。そのため、共重合体に残留した重合触媒による共重合体の分解が避けられず、得られる共重合体の重合度に限界があり、また、かなりの量の不安定末端部が存在して、煩雑な安定化工程を必要とする等の問題点が存在した。
【0004】
このような問題点を解決するために、重合触媒としてヘテロポリ酸又はその酸性塩を、コモノマー成分である少なくとも一つの炭素間結合を有する環状エーテル又は環状ホルマールの一部または全部に、予め混合しておき、その混合物をトリオキサンに添加して重合する方法が提案されている(特許文献1参照)。あるいは、トリオキサン、コモノマー及び重合開始剤(重合触媒)としてのヘテロポリ酸又はその酸性塩を、予め、液相状態を保ちつつ十分に混合してから共重合する方法が提案されている(特許文献2参照)。いずれも、重合触媒濃度を低減し、生成共重合体の安定性の向上を図る方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2958270号公報
【文献】特開平11-302349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1又は2に記載の重合方法により、重合触媒量の低減及び共重合体の安定性について一定の成果が得られた。しかし、収率及びホルムアルデヒドの発生量については課題があり、改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、重合触媒量を少なくしても十分な収率を確保することができ、かつ、ホルムアルデヒドの発生が少ないポリアセタール共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、先ず、環状ホルマール(コモノマー)と、特定のヘテロポリ酸(重合触媒)とを均一に混合し、次いで、得られた混合物にトリオキサン(主モノマー)を均一に混合し、その後、共重合し、さらに塩基性失活剤により重合触媒を失活することで、触媒量が少なく、十分な収率を確保することが得られ、かつ、ホルムアルデヒドの発生が少ないポリアセタール共重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)トリオキサンを、全モノマーの90~99.9モル%である主モノマー(a)とし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状ホルマール化合物をコモノマー(b)とするポリアセタール共重合体の製造方法であって、
重合触媒(c)として下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸と、前記環状ホルマール化合物とを液相状態で均一に混合する工程Aと、
前記工程Aで得られる混合物と、前記トリオキサンとを液相状態で均一に混合する工程Bと、
前記工程Bで得られるトリオキサンを含む混合物を連続重合装置に供給して共重合する工程Cと、
前記工程Cで得られる反応生成物に、塩基性失活剤(d)を添加して溶融混練処理し、前記重合触媒(c)を失活させる工程Dと、
を含む、ポリアセタール共重合体の製造方法。
[M ・M ]・nHO ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、MはP及びSiより選ばれる1種又は2種の元素からなる中心元素を示す。MはW、Mo及びVより選ばれる1種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。〕
【0010】
(2)前記主モノマー(a)及び前記コモノマー(b)の合計量に対する前記重合触媒(c)の使用量が1.5~3.0質量ppmである、前記(1)に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重合触媒量を少なくしても十分な収率を確保することができ、かつ、ホルムアルデヒドの発生が少ないポリアセタール共重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態のポリアセタール共重合体の製造方法における、液体混合装置及び連続重合装置への各成分の供給態様について示す概念図である。
図2】従来のポリアセタール共重合体の製造方法における、連続重合装置への各成分の供給態様について示す概念図である。
図3】従来のポリアセタール共重合体の製造方法における、液体混合装置及び連続重合装置への各成分の供給態様について示す概念図である。
図4】従来のポリアセタール共重合体の製造方法における、液体混合装置及び連続重合装置への各成分の供給態様について示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ポリアセタール共重合体の製造方法>
本実施形態のポリアセタール共重合体の製造方法は、トリオキサンを、全モノマーの90~99.9モル%である主モノマー(a)とし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状ホルマール化合物をコモノマー(b)とするポリアセタール共重合体の製造方法である。そして、重合触媒(c)として下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸と、環状ホルマール化合物とを液相状態で均一に混合する工程Aを含む。また、工程Aで得られる混合物と、トリオキサンとを液相状態で均一に混合する工程Bを含む。さらに、工程Bで得られるトリオキサンを含む混合物を連続重合装置に供給して共重合する工程Cを含む。工程Cで得られる反応生成物に、塩基性失活剤(d)を添加して溶融混練処理し、前記重合触媒(c)を失活させる工程Dを含む。
[M ・M ]・nHO ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、MはP及びSiより選ばれる1種又は2種の元素からなる中心元素を示す。MはW、Mo及びVより選ばれる1種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。〕
【0014】
本実施形態の製造方法においては、図1に示すように、まず、重合触媒(c)として特定のヘテロポリ酸と、環状ホルマール化合物とを、液体混合装置(第1)により液相状態で均一に混合する(工程A)。すなわち、工程Aにおいては、環状ホルマール化合物は分散媒として作用し、重合触媒たる特定のヘテロポリ酸を均一に分散させることができる。
次いで、工程Aで得られる混合物と、トリオキサンとを、液体混合装置(第2)により液相状態で均一に混合する(工程B)。すなわち、工程Bにおいては、工程Aで均一に混合されたヘテロポリ酸と環状ホルマール化合物とに、トリオキサンを混合することから、トリオキサンに対する均一化がより進んだ状態となる。そして、そのような均一化が進んだ状態で共重合するため(工程C)、重合触媒量が少なくても高い収率でポリアセタール共重合体が得られると考えられる。また、収率が高いことにより共重合後に未反応モノマー残留分を水洗浄する必要がなくなり、そのまま塩基性失活剤を添加して溶融状態で重合触媒を失活させるため(工程D)、不安定末端部の生成量が減少して安定性が向上し、成形品としたときにホルムアルデヒドの発生量が少ないと考えられる。なお、本実施形態においては、そもそも使用する重合触媒量が少ないため、残留する重合触媒も少ない。そのため、ポリアセタール共重合体の成形加工時および成形品の長期間の使用において残留する重合触媒による悪影響を抑えることができる。
【0015】
一方、図2図4は、従来のポリアセタール共重合体の製造方法における、連続重合装置等への各成分の供給態様について示している。図2に示す態様は、ヘテロポリ酸(重合触媒)と、環状ホルマール化合物(コモノマー)と、トリオキサンとを混合することなく順次連続重合装置に供給して共重合する態様である。また、図3に示す態様は、ヘテロポリ酸(重合触媒)と、環状ホルマール化合物(コモノマー)とを、液体混合装置に供給して混合して混合物とし、その混合物と、トリオキサンとを連続重合装置に供給して共重合する態様である。さらに、図4に示す態様は、ヘテロポリ酸(重合触媒)と、環状ホルマール化合物(コモノマー)と、トリオキサンとを液体混合装置に供給して混合して混合物とし、その混合物を連続重合装置に供給して共重合する態様である。いずれの態様も、各成分はある程度均一に混合されて共重合に供されるものの十分ではない。本実施形態の製造方法においては、各成分が図2図3の態様よりも均一に混合されるため、収率やホルムアルデヒドの発生の抑制において高い効果が得られる。
以下、本実施形態の製造方法における各工程について説明する。
【0016】
[工程A]
工程Aにおいては、重合触媒(c)として前記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸と、コモノマー(b)としての環状ホルマール化合物とを液相状態で均一に混合する。ここで、混合方法は、液相状態で均一に混合できるなら、いかなる方法を用いてもよい。例えば、連続的に、配管内で合流させ混合する方法、連続的に合流させ、さらに、スタティックミキサーにより混合する方法、攪拌機を備えた容器内で一旦混合した混合成分を供給する方法等が挙げられる。
【0017】
液相状態での混合時間に関して、必要最小の混合時間は、重合触媒が、コモノマー中に均一に分散するのに必要な時間であり、これは混合方法やコモノマー、重合触媒の供給速度等に依存する。また、最大の混合時間は、混合物の反応が進んで、重合物の析出が始まる時間を超えてはならず、これは、混合温度、コモノマー濃度、重合触媒濃度に依存する共重合反応速度によって決まる。従って、好ましい混合時間は、混合方法、供給速度、混合温度、コモノマー濃度、重合触媒濃度等に依存するので、限定することはできないが、一般には、0.01~60秒の混合時間が選ばれる。このような好ましい混合時間は、粘度測定、観察などから、実験により容易に決定することができる。例えば、工業的に広く用いられているスタティックミキサー等の、混合効果の高い連続液体混合装置を使用し、一般的なコモノマー組成のポリアセタール共重合体を製造する場合では、0.01~30秒が好ましく、0.1~10秒が特に好ましい。
以下に、工程Aにおいて使用する、コモノマー(b)及び重合触媒(c)について詳述する。
【0018】
(コモノマー(b))
コモノマー(b)としては、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状ホルマールが使用される。コモノマー(b)として使用する化合物の代表的な例としては、例えば、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン等が挙げられる。中でも、重合の安定性から考慮して、1,3-ジオキソランが好ましい。
さらに、得られるポリアセタール樹脂組成物の性能を大幅に低下させないような範囲ならば、主モノマー(a)、コモノマー(b)に加えて、第三のコモノマー成分として、分岐剤などの公知の変性剤コモノマーを併用添加しても差し支えない。
【0019】
本実施形態において、コモノマー(b)として用いる、環状ホルマール化合物の量は、全モノマー(主モノマー(a)とコモノマー(b)の合計量)中の割合として0.1~10モル%であることが好ましく、0.2~8モル%であることがより好ましい。コモノマー(b)の量が0.1モル%未満であると、重合によって生成する粗ポリアセタール共重合体の不安定末端部が増加して安定性が悪くなることがある。コモノマー(b)の量が10モル%を超えると、共重合反応に必要な重合触媒(c)の量が多くなり品質低下を起こし、また生成共重合体が軟質となり融点の低下を生じることがある。
【0020】
(重合触媒(c))
本実施形態においては、重合触媒(c)として、下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸を使用する。
[M ・M ]・nHO ・・・一般式(1)
【0021】
式(1)中、MはP及びSiより選ばれる1種又は2種の元素からなる中心元素を示す。MはW、Mo及びVより選ばれる1種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。
【0022】
上記ヘテロポリ酸の具体例として、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が挙げられる。中でも、重合の安定性、ヘテロポリ酸自体の安定性を考慮して、ヘテロポリ酸は、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸又はリンタングステン酸のいずれか1種以上であることが好ましい。
【0023】
本実施形態の製造方法においては、上記の通り、重合触媒(c)の使用量を少なくしても、高い収率で共重合体が得られる。具体的には、主モノマー(a)及びコモノマー(b)の合計量に対する重合触媒(c)の使用量は1.0~4.0質量ppmとすることができ、1.5~3.0質量ppmとすることが好ましい。そして、このような少量の重合触媒でも共重合が可能なことは、重合触媒による重合体の主鎖分解、解重合等の好ましくない反応を僅少に留め、不安定なホルメート末端基(-O-CH=O)、ヘミアセタール末端基(-O-CH-OH)等の生成を抑制するのに効果的であり、また、経済的にも有利である。
【0024】
反応を均一に行うために、重合触媒(c)は、重合に悪影響のない不活性な溶媒で希釈して、コモノマー(b)と混合することが好ましい。上記不活性な溶媒として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の炭素数1~10の低分子量カルボン酸と、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-へキサノール等の炭素数1~10の低分子量のアルコールが縮合して得られるエステル;アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-へキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル-t-ブチルケトン等の炭素数1~10の低分子量のケトン類が好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。工業的な入手しやすさ等も勘案すると、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン等が最も好適である。重合触媒は、上記不活性な溶媒に、好適には濃度1~30質量/質量%で溶解されるが、これに限定されるものではない。
【0025】
[工程B]
工程Bにおいては、工程Aで得られる、コモノマー(b)及び重合触媒(c)を均一に混合した混合物と、融液状態の主モノマー(a)とを液相状態で均一に混合する。
工程Bにおける混合の方法は工程Aに準ずるが、混合時間については十分な混合状態を得るまでの時間より長く、誘導期を経て共重合体が析出するまでの時間より短くする必要がある。重合触媒の種類やその濃度、混合後の液体温度などにより適宜調整する必要がある。工程Aでの混合が適切であれば工程Bの混合時間は短くすることができる。また、工程Bにおいて混合効果の高い連続混合装置を使用した場合にも混合時間を短くすることができる。一般には0.01~60秒の混合時間が選ばれるが、実際の運転状況の安定性や最終的に得られるポリアセタール共重合体の品質を鑑みると0.01~30秒が好ましく、0.1~15秒が特に好ましい。
以下に、工程Bにおいて使用する主モノマー(a)について詳述する。
【0026】
(主モノマー(a))
主モノマー(a)としては、トリオキサンが使用される。トリオキサンは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。重合に用いるトリオキサンは、水、メタノールなどの不純物を極力低減させたものが好ましい。また、主モノマーは、全モノマーの90~99.9モル%が使用される。なお、トリオキサンは常温では固体であるので、融点以上に加熱して融液として用いることが一般的である。
【0027】
[工程C]
工程Cにおいては、工程Bで得られるトリオキサンを含む混合物を連続重合装置に供給して共重合する。本実施形態においては、工程Bにおいて液相状態を保ちつつ均一に混合した、主モノマー(a)(トリオキサン)、コモノマー(b)(環状ホルマール化合物)及び重合触媒(c)(所定のヘテロポリ酸)の混合物を、連続重合装置に供給して、連続的に共重合反応を行う。連続重合装置としては、コニーダー型一軸押出機、二軸スクリュー式押出混合機、二軸パドルタイプの押出混合機その他、これまでに提案されているトリオキサン等の連続重合装置が挙げられる。2種以上のタイプの重合機を組み合わせて使用することもできる。重合装置の中で、反応物が接する部分は、共重合反応に適した温度(65~130℃)に調節しておく必要がある。
【0028】
重合時間は、触媒濃度、コモノマー濃度、反応温度に依存し、特に限定できないが、一般には0.5~10分の重合時間が選ばれる。
【0029】
工程Cにおいては、さらに、必要に応じて、公知の連鎖移動剤を適当量添加して、生成共重合体の重合度を、適宜任意の値に調節することができる。かかる連鎖移動剤としては、例えば、メチラール、メトキシメチラール、ジメトキシメチラール、トリメトキシメチラール、オキシメチレンジ-n-ブチルエーテルの如き、低分子量の線状アセタール等が挙げられる。工程Cにおいては、さらに、必要に応じて、公知の分岐・架橋構造を形成しうる成分を添加することもできる。かかる分岐・架橋構造を形成しうる成分としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0030】
以上のようにして得られる共重合体は、重合触媒の失活及び不安定末端の安定化を行っていない粗ポリアセタール共重合体である。そこで、以下の工程Dを実行する。
【0031】
[工程D]
工程Dにおいては、工程Cで得られる反応生成物(すなわち、粗ポリアセタール共重合体)に、塩基性失活剤(d)を添加して溶融混練処理し、重合触媒(c)を失活させる。
【0032】
(塩基性失活剤(d))
塩基性失活剤の種類、添加方法は、特に限定されるものでないが、粗ポリアセタール共重合体を洗浄することなく、粗ポリアセタール共重合体に対して塩基性失活剤をそのまま添加して溶融混練することで、重合触媒の失活及び粗ポリアセタール共重合体の不安定末端の安定化に供することができるものが好ましい。具体的には、塩基性失活剤は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物、及びアミノ基又は置換アミノ基を有するトリアジン環含有化合物、から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0033】
さらには、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物を使用した場合に、最終的に得られる組成物において、そのホルムアルデヒド発生量は特に低い値となり、より好ましい。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム及びステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0034】
工程Cにおいて使用する塩基性失活剤の量は、粗ポリアセタール共重合体に対して0.0002~0.01質量%とすることが好ましく、0.0003~0.003質量%とすることがより好ましい。
【0035】
本実施形態において、上記の塩基性失活剤は、1種類であってもよいし、複数を組み合わせて使用してもよく、それらの水和物や混合物、複塩等の状態であっても構わない。
【0036】
かかる重合及び失活処理の後、必要に応じてさらに未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法にて行う。
【0037】
以上のようにして得られる重合体は、必要に応じて、さらに安定化処理に供される。安定化処理は、加熱溶融処理、又は不溶性又は可溶性の液体媒体中で加熱し、不安定部分を、選択的に分解して除去することにより達成される。特に本実施形態における共重合は、従来法に比べて、重合終了段階での不安定部が少ないので、安定化は極めて簡略化することが可能となり、所定の安定剤の存在下で、溶融押出しペレット化することにより達成され、最終製品としても、安定性の高い重合体を取得することができる。また、本実施形態の製造方法により得られるポリアセタール共重合体は、上述の通り、成形品としたときホルムアルデヒドの発生量が少ない。
【実施例
【0038】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1~4]
各実施例において、表1に示すように、重合触媒として所定のヘテロポリ酸と、所定の環状ホルマール化合物(コモノマー)とを第1の液体混合装置に供給して均一に混合した(工程A)。ここで、第1の液体混合装置及び以下に示す第2の液体混合装置としては、いずれもスタティックミキサー(内径5mm、長さ80mm)を用いた。また、重合触媒はギ酸メチル溶液として使用した。次に、第1の液体混合装置から排出された混合物にトリオキサン(分子量調節剤としてのメチラールをトリオキサンに対して1000質量ppm含む)を合流させ、これを第2の液体混合装置に供給して均一に混合した(工程B)。
そして、第2の液体混合装置より排出された混合物を連続重合装置の一端に供給して共重合を行った(工程C)。その後、連続重合装置の他端に設けられた吐出口から、得られた粗ポリアセタール共重合体を排出した。なお、連続重合装置としては連続式二軸重合機を用いた。当該連続式二軸重合機は、外側に加熱用又は冷却用の媒体を通すためのジャケットが設けられており、その内部には撹拌、推進用の多数のパドルを付した2本の回転軸が長手方向に設けられている。この連続式二軸重合機のジャケットに80℃の熱媒を通し、2本の回転軸を一定の速度で回転させながら、その一端に、重合触媒及びモノマー類等を供給して連続的に重合を行った。
なお、表1において、コモノマーの使用量は、トリオキサン及びコモノマー合計に対する量(質量%)であり、重合触媒の使用量は、トリオキサン及びコモノマー合計に対する量(質量ppm)である。
【0040】
次に、重合触媒を失活させるため、粗ポリアセタール共重合体%に対して、塩基性失活剤としてのステアリン酸ナトリウムを0.002質量%添加した(工程D)。さらに、安定剤としてトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェール)プロピオネート〕0.3質量%、メラミン0.05質量%、ステアリン酸カルシウム0.1質量%を添加し、ベント付き二軸押出機を用いて温度220℃、ベント部の真空度5mmHgで溶融混練して押し出した。上記の工程を経て、ポリアセタール共重合体を得た。
尚、重合収率測定は前記粗ポリアセタール共重合体を重合機吐出口より別途、単位時間サンプリングしたものを、アンモニア水溶液に浸漬して触媒を失活するとともに未反応モノマーを除去した。その後に、乾燥後質量測定を行い、供給モノマーに対する質量%で求めた。重合収率の算出結果を表1に示す。
【0041】
[ホルムアルデヒド発生量(VOC)の評価]
得られたポリアセタール共重合体を用い、下記条件で平板状試験片(100mm×40mm×2mmt)を成形した。この平板状試験片2枚を、10Lのポリフッ化ビニル製サンプリングバッグに封入し脱気して、4Lの窒素を入れ、65℃で2時間加熱した。その後、サンプリングバッグ内の窒素を0.5ml/minで3L抜き取り、発生したホルムアルデヒドをDNPH(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン)捕集管(Waters社製 Sep―PakDNPH―Silica)に吸着させた。
その後、DNPH捕集管からDNPHとホルムアルデヒドとの反応物をアセトニトリルで溶媒抽出し、高速液体クロマトグラフでDNPHとホルムアルデヒドとの反応物の標準物質を用いた検量線法により、発生したホルムアルデヒド量を求め、試験片単位質量あたりのホルムアルデヒド発生量(μg/g)を算出した。算出結果を表1に示す。
(成形条件)
・成形機:FANUC ROBOSHOT α―S100ia(ファナック(株)) ・成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル-C1- C2- C3
190 190 180 160℃
・射出圧力:60(MPa)
・射出速度:1.0(m/min)
・金型温度:80(℃)
【0042】
[比較例1~3]
比較例1~3においては、図2に示す態様で各成分の混合及び共重合を行った。各比較例において、連続重合装置の一端から順に、表1に示すように、トリオキサン(分子量調節剤としてのメチラールをトリオキサンに対して1000質量ppm含む)と、環状ホルマール化合物(コモノマー)とを供給し、その下流側に重合触媒としてのヘテロポリ酸(ギ酸メチル溶液)を供給して共重合を行った。その後、連続重合装置の他端に設けられた吐出口から粗ポリアセタール共重合体を排出した。それ以降の処理は、前記実施例1と同様に実施し、ポリアセタール共重合体を得た。そして、実施例1と同様にして、重合収率測定及びホルムアルデヒド発生量(VOC)の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0043】
[比較例4~7]
比較例4~7においては、図3に示す態様で各成分の混合及び共重合を行った。各比較例において、表1に示すように、重合触媒としてのヘテロポリ酸(ギ酸メチル溶液)と環状ホルマール化合物(コモノマー)とを液体混合装置に供給して均一に混合し、混合物を得た。次いで、トリオキサン(分子量調節剤としてのメチラールをトリオキサンに対して1000質量ppm含む)が一端から供給される連続重合装置において、そのトリオキサン供給部の下流側に該混合物を供給して共重合を行った。その後、重合機の他端に設けられた吐出口から粗ポリアセタール共重合体を排出した。それ以降の処理は、実施例1と同様に実施し、ポリアセタール共重合体を得た。そして、実施例1と同様にして、重合収率測定及びホルムアルデヒド発生量(VOC)の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0044】
[比較例8~11]
比較例8~11においては、図4に示す態様で各成分の混合及び共重合を行った。各比較例において、表1に示すように、重合触媒のヘテロポリ酸(ギ酸メチル溶液)と、環状ホルマール化合物(コモノマー)と、トリオキサン(分子量調節剤としてのメチラールをトリオキサンに対して1000質量ppm含む)とを液体混合装置に供給して均一に混合した。次いで、液体混合装置から排出された混合物を、連続重合装置の一端に供給して共重合を行った。その後、重合機の他端に設けられた吐出口から粗ポリアセタール共重合体を排出した。それ以降の処理は、実施例1と同様に実施し、ポリアセタール共重合体を得た。そして、実施例1と同様にして、重合収率測定及びホルムアルデヒド発生量(VOC)の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1より、実施例1~4においては、各比較例と比較して、重合触媒の使用量が少ないにもかかわらず、重合収率が高く、かつ、ホルムアルデヒドの発生量が少ないことが分かる。従って、本実施形態のポリアセタール共重合体の製造方法により、重合触媒量を少なくしても十分な収率が得られ、かつ、ホルムアルデヒドの発生を低減可能であることが示された。
図1
図2
図3
図4