(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】蒸着装置及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20230818BHJP
【FI】
C23C14/24 U
(21)【出願番号】P 2019023630
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-162969(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0009706(US,A1)
【文献】特開2015-010257(JP,A)
【文献】特開平11-050238(JP,A)
【文献】特開2014-009386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置され、蒸着材料を収容する室内空間を形成する圧力室と、前記蒸着材料を加熱する加熱機構と、前記チャンバ内における前記圧力室の外部空間である室外空間に前記室内空間を連通させるノズルとを備える蒸発源と、
前記室内空間の圧力である室内圧力を計測する室内圧力センサと、
前記室外空間の圧力である室外圧力を計測する室外圧力センサと、
前記室外圧力を調整する圧力調整機構と、
前記加熱機構の温度と前記圧力調整機構を制御する制御部と
を具備し、
前記圧力調整機構は、前記チャンバに配管によって接続され、前記チャンバ内を真空排気する真空ポンプ、または、前記配管に接続された調圧バルブにより構成され、
前記制御部は、前記室外圧力と前記室内圧力の圧力差が予め設定された設定値となるように前記加熱機構の温度と前記圧力調整機構を制御する
蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着装置であって、
前記制御部は、前記圧力差が前記設定値より小さい場合には前記加熱機構の温度を上昇させると共に前記室外圧力を減少させ、前記圧力差が前記設定値より大きい場合には前記加熱機構の温度を低下させると共に前記室外圧力を増加させる
蒸着装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蒸着装置であって、
前記蒸発源は、前記室内空間に配置され、前記蒸着材料の蒸気を分散させる分散板をさらに備える
蒸着装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の蒸着装置であって、
前記室内圧力センサはイオンゲージである
蒸着装置。
【請求項5】
チャンバ内に配置され、蒸着材料を収容する室内空間を形成する圧力室と、前記蒸着材料を加熱する加熱機構と、前記チャンバ内における前記圧力室の外部空間である室外空間に前記室内空間を連通させるノズルとを備える蒸発源と、
前記室外空間の圧力であ
る室外圧力を
、前記チャンバに配管によって接続され、前記チャンバ内を真空排気する真空ポンプ、または、前記配管に接続された調圧バルブにより調整する圧力調整機構と、
を用い、
前記室外圧力と前記室内空間の圧力である室内圧力の圧力差が予め設定された設定値となるように前記加熱機構の温度と前記圧力調整機構を制御する
蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料を蒸発させ、蒸着対象物に付着させる蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着材料を蒸発させ、蒸着対象物に付着させる蒸着装置は、有機EL(electro-luminescence)ディスプレイやイメージセンサ等の各種製品の製造に利用されている。蒸着装置は、チャンバ内に配置された蒸発源を備え、ディスプレイのパネル等の蒸着対象物が蒸発源に対向して配置される。
【0003】
蒸発源は、固体又は液体である蒸着材料を収容可能であり、加熱機構を備える。加熱機構によって蒸着材料を加熱し、発生した蒸気を蒸着対象物に供給する。蒸着速度、即ち単位時間当たりの蒸着膜厚は蒸着材料の加熱温度によって調整することが可能である。
【0004】
蒸着速度の測定は膜厚センサによって行われ、膜厚センサとしては水晶振動子センサが多く用いられる。水晶振動子を所定の周波数で振動させておき、蒸着を行うと、蒸着材料が水晶振動子に付着し、周波数が変動する。この周波数変動に基づいて蒸着速度を測定することができる。例えば特許文献1には、水晶振動子センサを備える蒸着装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水晶振動子センサは振動や圧力変動に弱く、各種の問題が生じる。例えば、水晶振動子に付着した蒸着材料が剥がれると急激な周波数変動(周波数ジャンプ)が発生する。また、水晶振動子センサは通常、複数が切り替えられながら使用されるが、切り替え時に周波数ジャンプが生じる場合もある。
【0007】
さらに、蒸発源を蒸着対象物に対して移動させながら蒸着が行われる場合、蒸発源の駆動による温度変化や振動が水晶振動子センサの指示値に影響を与える場合がある。加えて、水晶振動子センサを蒸着材料が多量に付着する位置に配置すると、センサ寿命が短くなってしまうため、設定されたセンサ寿命を達成するためには配置にも幾何学的な制限が発生する。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、水晶振動子センサを用いることなく蒸着速度の制御が可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着装置は、チャンバと、蒸発源と、室内圧力センサと、制御部とを具備する。
上記蒸発源は、上記チャンバ内に配置され、蒸着材料を収容する室内空間を形成する圧力室と、上記蒸着材料を加熱する加熱機構と、上記チャンバ内における上記圧力室の外部空間である室外空間に上記室内空間を連通させるノズルとを備える。
上記室内圧力センサは、上記室内空間の圧力である室内圧力を計測する。
上記制御部は、上記室内圧力に基づいて上記加熱機構の温度を制御する。
【0010】
蒸発源においてノズルから放出される蒸着材料の放出速度は、室外空間の圧力である室外圧力と室内圧力の圧力差によって決まる。上記構成によれば、制御部が室内圧力に基づいて加熱機構の温度を調整し、室内圧力を増減させることで蒸着材料の放出速度、即ち蒸着速度を制御することが可能となる。この構成では、蒸着速度を測定するための水晶振動子センサが不要であり、水晶振動子センサに起因する問題の発生を防止することが可能である。
【0011】
上記制御部は、上記室外空間の圧力である室外圧力と上記室内圧力の圧力差が予め設定された設定値となるように上記加熱機構の温度を制御してもよい。
【0012】
上記制御部は、上記圧力差が上記設定値より小さい場合には上記加熱機構の温度を上昇させ、上記圧力差が上記設定値より大きい場合には上記加熱機構の温度を低下させてもよい。
【0013】
上記蒸着装置は、上記チャンバに設けられ、上記室外圧力を計測する室外圧力センサをさらに具備してもよい。
【0014】
上記蒸発源は、上記室内空間に配置され、上記蒸着材料の蒸気を分散させる分散板をさらに備えてもよい。
【0015】
上記室内圧力センサはイオンゲージであってもよい。
【0016】
上記蒸着装置は、上記室外圧力を調整する圧力調整機構をさらに具備し、
上記制御部は、さらに、上記室内圧力と上記室外圧力に基づいて上記圧力調整機構を制御してもよい。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着方法は、チャンバ内に配置され、蒸着材料を収容する室内空間を形成する圧力室と、上記蒸着材料を加熱する加熱機構と、上記チャンバ内における上記圧力室の外部空間である室外空間に上記室内空間を連通させるノズルとを備える蒸発源を用い、上記室内空間の圧力である室内圧力に基づいて上記加熱機構の温度を制御する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば水晶振動子センサを用いることなく蒸着速度の制御が可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る蒸着装置の模式図である。
【
図4】同蒸着装置が備える蒸着源における蒸着材料の経路を示す模式図である。
【
図7】同蒸着装置が備える蒸発源の他の構成を示す模式図である。
【
図8】同蒸着装置が備える蒸発源の他の構成を示す模式図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る蒸着装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
本技術の第1の実施形態に係る蒸着装置について説明する。
【0021】
[蒸着装置の構成]
図1は、本実施形態に係る蒸着装置100の構成を示す模式図であり、
図2は、蒸着装置100の一部構成の斜視図である。以下の図において相互に直交する三方向をそれぞれX方向、Y方向及びZ方向とする。X方向及びY方向は例えば水平方向、Z方向は例えば鉛直方向である。
【0022】
これらの図に示すように、蒸着装置100は、チャンバ101、支持機構102、蒸発源103、室内圧力センサ104、室外圧力センサ105、温度調整器106及び制御部107を備える。
【0023】
チャンバ101は、図示しない真空ポンプに接続され、内部を所定の圧力に維持する。支持機構102及び蒸発源103はチャンバ101内に収容されている。
【0024】
支持機構102は、チャンバ101内に配置され、蒸着対象物Sを支持する。支持機構102は、
図2に示すように、蒸着対象物Sを蒸発源103に対向する位置と対向しない位置の間でX方向において移動させることが可能に構成されている。蒸着対象物Sは例えばディスプレイのパネルである。
【0025】
蒸着対象物Sの表面には、マスクMが設けられている。マスクMには所定のパターンで開口が設けられ、蒸着対象物Sの表面に蒸着材料のパターンを形成する。なお、蒸着対象物Sの全面に蒸着を行う場合にはマスクMは設けられなくてもよい。
【0026】
蒸発源103は、チャンバ101内に配置され、蒸着対象物Sに蒸着材料を供給する。
【0027】
図3は、蒸発源103の構造を示す断面図であり、
図4は蒸発源103における蒸着材料の流れを矢印で示す模式図である。
図3に示すように、蒸発源103は、圧力室111、加熱機構112及びノズル113を備える。
【0028】
圧力室111は、蒸着材料Rを収容する。蒸着材料Rは、金属や有機物等であり特に限定されない。以下、圧力室111の内部空間を室内空間K1とし、圧力室111の外部空間であってチャンバ101内の空間を室外空間K2とする。
【0029】
室内空間K1には、第1分散板114、第2分散板115及びメッシュ板116が設けられている。これらの部材は、蒸発した蒸着材料Rの流れを分散させ、各ノズル113から蒸着材料Rを均等に放出させるためのものである。
【0030】
第1分散板114には複数個所に開口114aが設けられ、第2分散板115には第1分散板114の開口114aとは対向しない位置に開口115aが設けられている。
【0031】
図4に示すように、開口114aを通過した蒸着材料Rは開口115aに向かって第1分散板114と第2分散板115の間を流れ、分散される。このような構造はトーナメント方式と呼ばれる。なお、蒸発源103は必ずしもトーナメント方式の構造を有するものでなくてもよい。
【0032】
加熱機構112は、圧力室111の周囲に設けられ、蒸着材料Rを加熱し、蒸発させる。加熱機構112は、抵抗加熱又は誘導加熱等によって発熱するものとすることができる。加熱機構112には温度調整器106が接続され、温度調整器106によって加熱機構112の加熱温度が調整される。
【0033】
ノズル113は、蒸発した蒸着材料Rを放出するノズルであり、室内空間K1を室外空間K2に連通させる。ノズル113は複数が設けられ、
図2に示すように、複数のノズル113がY方向に沿って配列するものとすることができる。なお、ノズル113の数は特に限定されず、1つであってもよい。
【0034】
蒸着装置100は、1つの蒸発源103を備えるものであってもよく、複数の蒸発源103を備えるものであってもよい。複数の蒸発源103を備える場合、互いに異なる蒸着材料Rを蒸着対象物Sに供給するものとすることができる。
【0035】
室内圧力センサ104は、室内空間K1内の気体の圧力(以下、室内圧力P1)を測定するセンサである。室内圧力センサ104は、イオンゲージとすることができる。また、室内圧力センサ104は他の圧力センサを用いてもよいが、長寿命とするために蒸着材料Rの付着を防止できるものが好適であり、例えば蒸着防止加工を施した圧力計とすることも可能である。
【0036】
室内圧力センサ104の配置は、室内圧力を測定できる位置であれば限定されないが、ノズル113の近傍が好適である。なお、蒸着装置100は複数の室内圧力センサ104を備えるものであってもよい。
【0037】
室内圧力センサ104は
図1に示すように制御部107に接続され、測定した室内圧力P1を制御部107に出力する。
【0038】
室外圧力センサ105は、室外空間K2内の気体の圧力(以下、室外圧力P2)を測定するセンサである。室外圧力センサ105は、イオンゲージとすることができる。また、室外圧力センサ105は他の圧力センサを用いてもよいが、長寿命とするために蒸着材料Rの付着を防止できるものが好適であり、例えば蒸着防止加工を施した圧力計とすることも可能である。
【0039】
室外圧力センサ105の配置は、室外圧力を測定できる位置であれば限定されない。室外圧力センサ105は
図1に示すように制御部107に接続され、測定した室外圧力P2を制御部107に出力する。
【0040】
温度調整器106は、加熱機構112に接続され、制御部107から指示された温度となるように加熱機構112の温度を調整する。温度調整器106は例えば、加熱機構112に供給する電力を増減させることにより、加熱機構112の温度を調整することができる。
【0041】
制御部107は、室内圧力センサ104及び室外圧力センサ105の出力に基づいて、温度調整器106に温度を指示し、加熱機構112の温度を制御する。制御部107は例えば、PLC(programmable logic controller)とすることができる。制御部107の動作については後述する。
【0042】
[蒸着装置の動作について]
蒸着装置100の動作について説明する。
図5乃至
図6は蒸着装置100の動作を示す模式図である。
【0043】
図5に示すように、蒸発源103において加熱機構112(
図3参照)により蒸着材料Rを加熱し、蒸着材料Rをノズル113から放出させる。
【0044】
蒸着開始前には
図5に示すように蒸着対象物Sは蒸発源103から離間した待機位置に位置している。蒸着材料Rが所定の温度に到達すると、支持機構102を駆動し、
図6に示すように蒸着対象物Sを蒸発源103に対向する位置に移動させる。
【0045】
蒸着材料Rはノズル113から蒸着対象物Sに向かって飛散し、蒸着対象物Sに付着する。また、一部はマスクMによって遮蔽され、パターニングされる。
【0046】
蒸着対象物Sが終端位置(図中、左端)に到達すると、支持機構102は蒸着対象物Sを
図5に示す待機位置に戻す。
【0047】
蒸着材料Rは、蒸着対象物Sの待機位置から終端位置への往路と終端位置から待機位置への復路の両方で蒸着対象物Sに蒸着される。これにより、蒸着対象物Sの表面に蒸着材料Rからなる膜が成膜される。
【0048】
なお、蒸着対象物Sをチャンバ101に対して固定し、蒸発源103を蒸着対象物Sに対して移動させながら蒸着を行ってもよく、蒸着対象物Sと蒸発源103の相対位置を固体して蒸着を行ってもよい。
【0049】
[制御部による制御について]
上述のように蒸着材料Rが所定の温度に到達すると制御部107による加熱機構112の制御が実施される。
【0050】
具体的には、制御部107が室内圧力センサ104から室内圧力P1を取得し、室外圧力センサ105から室外圧力P2を取得する。さらに、制御部107は室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差を算出する。
【0051】
制御部107は、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が、予め設定された値より小さい場合、温度調整器106に加熱機構112の加熱温度を上昇させるように指示する。これにより、室内圧力P1が上昇し、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が増加する。
【0052】
また、制御部107は、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が、予め設定された値より大きい場合、温度調整器106に加熱機構112の加熱温度を下降させるように指示する。これにより、室内圧力P1が下降し、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が減少する。
【0053】
制御部107はこのようにして室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が予め設定された値となるように加熱機構112の加熱温度を調整する。
【0054】
ノズル113から放出される蒸着材料Rの放出速度は、未蒸発の蒸着材料Rの表面からノズル113の開口の間のコンダクタンスQによって決定される。(式1)は、コンダクタンスQを表す式である。
【0055】
Q=C(P1-P2) (式1)
【0056】
なお、Cは定数である。(式1)に示すように、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差(P1-P2)によってコンダクタンスQを調整することができる。このように、制御部107は、加熱機構112の加熱温度によって室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差を調整し、蒸着材料Rの放出速度、即ち蒸着速度を制御することが可能である。
【0057】
なお、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差の設定値は、その蒸着材料について予め蒸着試験を行うことによって求めることが可能である。
【0058】
[蒸着装置による効果について]
蒸着装置100では上述のように、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差に基づいて加熱機構112の加熱温度を調整し、蒸着速度を制御することができる。蒸着速度を測定する必要がなく、水晶振動子センサ等の膜厚センサを用いないため、膜厚センサに起因する蒸着速度測定値の変動を防止することができる。
【0059】
また、室内圧力センサ104及び室外圧力センサ105はセンサへ蒸着材料Rを付着させる必要がないため、蒸着材料の付着を利用する膜厚センサに比べて高寿命を実現することが可能である。さらに、蒸着材料の付着を利用する膜厚センサでは、適正な付着量とするために膜厚センサの配置に幾何学的な制限が生じるが、室内圧力センサ104及び室外圧力センサ105にはそのような制限が生じず、配置の自由度が高い。
【0060】
さらに、蒸着装置が水晶振動子センサを備える場合、水晶振動子センサから出力される周波数を蒸着速度に変換するための成膜コントローラが必要となる。蒸着装置100ではこのような成膜コントーラが不要であるため蒸着装置100のフットプリントやコストの低減が可能である。
【0061】
加えて、蒸着装置100ではノズル113での蒸着材料のつまりが生じると、室内圧力P1が上昇するため、室内圧力センサ104の出力に基づいてノズル113のつまりを検知することが可能である。
【0062】
[変形例]
上記説明では、蒸着装置100は室内圧力センサ104及び室外圧力センサ105を備えるものとしたが、蒸着装置100が室外圧力P2の制御機構を備える場合等、室外圧力P2が既知の場合、必ずしも室外圧力センサ105は設けられなくてもよい。制御部107は既知の室外圧力P2と室内圧力センサ104から出力される室内圧力P1を用いて加熱機構112の温度を制御することが可能である。
【0063】
蒸発源103の構造も上述のものに限られない。
図7及び
図8は他の構造を有する蒸発源103の模式図である。
【0064】
図7に示すように、圧力室111には蒸着材料Rを収容するポット部121が設けられてもよい。加熱機構112はポット部121の周囲に設けられ、蒸着材料Rを加熱する。また、
図8に示すように、圧力室111には分散板が設けられなくてもよい。
【0065】
この他にも蒸発源103は、蒸着材料Rを収容する室内空間K1を形成し、加熱機構112とノズル113が設けられた構造を有するものであればよい。
【0066】
(第2の実施形態)
本技術の第2の実施形態に係る蒸着装置について説明する。
【0067】
[蒸着装置の構成]
図9は、本実施形態に係る蒸着装置200の構成を示す模式図である。なお、蒸着装置200の構成において、第1の実施形態に係る蒸着装置100と同一の構成については蒸着装置100と同一の符号を付し、説明を省略する。
【0068】
図9に示すように、蒸着装置200は、チャンバ101、支持機構102、蒸発源103、室内圧力センサ104、室外圧力センサ105、温度調整器106、圧力調整機構207及び制御部208を備える。圧力調整機構207及び制御部208以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0069】
第1の実施形態と同様に、圧力室111の内部空間を室内空間K1とし、圧力室111の外部空間であってチャンバ101内の空間を室外空間K2とする。また、室内空間K1の圧力を室内圧力P1とし、室外空間K2の圧力を室外圧力P2とする。
【0070】
圧力調整機構207は、室外圧力P2を調整する。圧力調整機構207は、図示しない配管によってチャンバ101に接続された調圧バルブとすることができる。また、圧力調整機構207は、図示しない配管によってチャンバ101に接続された真空ポンプであってもよい。この他にも圧力調整機構207は室外圧力P2を調整可能なものであればよい。
【0071】
制御部208は、室内圧力センサ104及び室外圧力センサ105の出力に基づいて、加熱機構112及び圧力調整機構207を制御する。制御部208は、例えばPLC(programmable logic controller)とすることができる。
【0072】
[制御部による制御について]
蒸着装置200においても、第1の実施形態と同様に蒸着材料Rが所定温度まで加熱され、蒸着が行われる。蒸着材料Rが所定の温度に到達すると制御部208による加熱機構112及び圧力調整機構207の制御が実施される。
【0073】
具体的には、制御部208が室内圧力センサ104から室内圧力P1を取得し、室外圧力センサ105から室外圧力P2を取得する。さらに、制御部208は室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差を算出する。
【0074】
制御部208は、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が、予め設定された値より小さい場合、温度調整器106に加熱機構112の加熱温度を上昇させるように指示する。これにより、室内圧力P1が上昇し、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が増加する。
【0075】
さらに制御部208は、圧力調整機構207に室外圧力P2を減少させるように指示する。これにより、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が増加する。
【0076】
また、制御部208は、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が、予め設定された値より大きい場合、温度調整器106に加熱機構112の加熱温度を下降させるように指示する。これにより、室内圧力P1が下降し、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が減少する。
【0077】
さらに制御部208は、圧力調整機構207に室外圧力P2を増加させるように指示する。これにより、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が減少する。
【0078】
制御部208はこのようにして室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差が予め設定された値となるように加熱機構112の加熱温度及び室外圧力P2を調整する。
【0079】
ノズル113から放出される蒸着材料Rの放出速度は、第1の実施形態において説明したように、未蒸発の蒸着材料Rの表面からノズル113の開口の間のコンダクタンスによって決定されるため、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差(P1-P2)によってコンダクタンスを調整することができる。
【0080】
制御部208は、加熱機構112の加熱温度及び室外圧力P2によって室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差を調整し、蒸着材料Rの放出速度、即ち蒸着速度を制御することが可能である。
【0081】
なお、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差の設定値は、その蒸着材料について予め蒸着試験を行うことによって求めることが可能である。
【0082】
[蒸着装置による効果について]
蒸着装置200は、第1の実施形態と同様の効果を有する。即ち、蒸着速度の測定に水晶振動子センサ等の膜厚センサを用いないため、膜厚センサに起因する蒸着速度測定値の変動を防止することができる。また、室内圧力センサ104及び室外圧力センサ105の高寿命を実現することが可能であり、これらのセンサの配置の自由度も高いものとなっている。
【0083】
さらに、蒸着装置200では、室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差を加熱機構112の温度だけでなく、室外圧力P2によっても調整することができる。蒸着材料Rの種類によっては、一定温度以上に加熱すると劣化を生じるものもあるため、加熱機構112の温度調整のみによっては室内圧力P1と室外圧力P2の圧力差を設定値に調整できない場合でも室外圧力P2の調整によって同圧力差を設定値に調整することが可能となる。
【0084】
[変形例]
本実施形態においても、蒸発源103の構造は上述のものに限られず、
図7及び
図8に示したような蒸発源103あるいは蒸着材料Rを収容する室内空間K1を形成し、加熱機構112とノズル113が設けられた構造を有する蒸発源103とすることができる。
【符号の説明】
【0085】
100、200…蒸着装置
101…チャンバ
102…支持機構
103…蒸発源
104…室内圧力センサ
105…室外圧力センサ
106…温度調整器
107、208…制御部
111…圧力室
112…加熱機構
113…ノズル
114…第1分散板
115…第2分散板
116…メッシュ板
121…ポット部
207…圧力調整機構