(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】アンブレインの効率的製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/61 20060101AFI20230821BHJP
C12N 9/90 20060101ALI20230821BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230821BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230821BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230821BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230821BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C12N15/61 ZNA
C12N9/90
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P7/02
(21)【出願番号】P 2019539673
(86)(22)【出願日】2018-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2018032418
(87)【国際公開番号】W WO2019045058
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2017168128
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 努
(72)【発明者】
【氏名】星野 力
(72)【発明者】
【氏名】竹花 稔彦
(72)【発明者】
【氏名】小池 誠治
(72)【発明者】
【氏名】滋野 浩一
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/033746(WO,A1)
【文献】上田大次郎、外,スクアレン-アンブレイン環化酵素の創出:アンブレインはスクアレンから2つの経路を通して1つの酵素によって合成できる,日本生物工学会大会講演要旨集,2017年08月08日,Vol. 69,p. 321
【文献】村上瑞気、外,二環性トリテルペン/セスクアテルペン環化酵素の触媒機構の解析,日本農芸化学会2017年度大会講演要旨集(オンライン),2017年03月05日,講演番号:3C11p11
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem.,1999年12月,Vol. 63, No. 12,p. 2189-2198
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem.,2001年10月,Vol. 65, No. 10,p. 2233-2242
【文献】J. Am. Chem. Soc.,2013年12月11日,Vol. 135, No. 49,p. 18335-18338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がシステインに置換しており、
(2)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸がアラニンに置換しているか、又はGXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がアラニンに置換している、
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であり、そして
(c)スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示す、
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項2】
前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がシステインに置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがアラニンに置換しているか、若しくは596番目のロイシンがアラニンに置換しているポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がシステインに置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがアラニンに置換しているか、若しくは596番目のロイシンがアラニンに置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がシステインに置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがアラニンに置換しているか、若しくは596番目のロイシンがアラニンに置換しているアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がシステインに置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがアラニンに置換しているか、若しくは596番目のロイシンがアラニンに置換しているアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がシステインに置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがアラニンに置換しているか、若しくは596番目のロイシンがアラニンに置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、又は
(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がシステインに置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがアラニンに置換しているか、若しくは596番目のロイシンがアラニンに置換しているアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド
である、請求項1に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項3】
DXDDモチーフを有し、GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がアラニン、バリン、又はフェニルアラニンである、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であり、そして
(c)3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示す、
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項4】
前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがアラニン、バリン、又はフェニルアラニンに置換しているポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがアラニン、バリン、又はフェニルアラニンに置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側596番目のロイシンがアラニン、バリン、又はフェニルアラニンに置換しているアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがアラニン、バリン、又はフェニルアラニンに置換しているアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがアラニン、バリン、又はフェニルアラニンに置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、又は
(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがアラニン、バリン、又はフェニルアラニンに置換しているアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド
である、請求項
3に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項5】
前記GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がアラニン若しくはフェニルアラニンである、請求項3又は4に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを有する微生物。
【請求項8】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクター。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターを有する形質転換体。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とする、アンブレインの製造方法。
【請求項11】
請求項3~5のいずれか一項に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を3-デオキシアキレオールAに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とする、アンブレインの製造方法。
【請求項12】
請求項7に記載の微生物、又は請求項9に記載の形質転換体を培養することを特徴とするアンブレインの製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とする、アンブレインの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素及びそれを用いたアンブレインの製造方法に関する。本発明によれば、スクアレン又は3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレインを効率的に合成することができる。
【背景技術】
【0002】
龍涎香(ambergris)は、7世紀ごろから世界各地で使用されてきた高級香料であり、漢方薬としても使用されている。龍涎香は、マッコウクジラが食物(タコ、イカ等)の不消化物を消化管分泌物により結石化させ、排泄したものと考えられているが、詳細な生成メカニズムは不明である。龍涎香の主成分はアンブレインであり、龍涎香が海上を浮遊する間に日光と酸素によって酸化分解を受け、各種の香りを持つ化合物を生成すると考えられている。
龍涎香の主成分アンブレインは、香料又は薬剤として用いられているが、自然界から大量に入手することは不可能である。このため、種々の有機合成法が提案されている。
例えば、特許文献1には、(+)-アンブレインを簡便かつ安価に効率よく製造する方法として、アンブレノリドから、新規なスルホン酸誘導体を製造し、これにγ-シクロゲラニルハライドの光学活性体をカップリングさせる工程を含む方法が開示されている。
また、非特許文献1には、(±)(5,5,8a-トリメチルオクタヒドロ-1H-スピロ[ナフタレン-2,2’-オキシラン]-1-イル)メタノールから合成した2-((1R,2R,4aS,8aS)-2-(メトキシメトキシ)-2,5,5,8a-テトラメチルデカヒドロナフタレン-1-イル)アセトアルデヒドと、(±)メチル 6-ヒドロキシ-2,2-ジメチルシクロヘキサンカルボキシレートから合成した5-((4-((S)-2,2-ジメチル-6-メチレンシクロヘキシル)ブタン-2-イル)スルホニル)-1-フェニル-1H-テトラゾールとを、Juliaカップリング反応によって収束的合成して、アンブレインを得る方法が開示されている。
しかしながら、従来のアンブレインの有機合成法は、多くの合成段階を必要とすることから、反応系が複雑であり、事業化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-236996号公報
【文献】国際公開WO2015/033746号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【文献】Tetrahedron Asymmetry, (2006) Vol.17, pp.3037-3045
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem., (1999) Vol.63, pp.2189-2198
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem., (2001) Vol.65, pp.2233-2242
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem., (2002) Vol.66, pp.1660-1670
【文献】J. Am. Chem. Soc., (2011) Vol.133, pp.17540-17543
【文献】J. Am. Chem. Soc., (2013) Vol.135, pp.18335-18338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、スクアレン-ホペン環化酵素の変異型酵素(D377C、D377N、Y420H、Y420W等)を用いることによって、スクアレンから、単環性トリテルペンである3-デオキシアキレオールAを得る方法が知られている(非特許文献2~4)。
本発明者らは、スクアレンから3-デオキシアキレオールAを生成可能な変異型スクアレン-ホペン環化酵素をスクアレンに反応させることによって、3-デオキシアキレオールAを得、さらにテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を反応させることによって、アンブレインの製造ができることを見出した(特許文献2)。
しかしながら、2段階目の反応である3-デオキシアキレオールAからアンブレインへ変換させる反応は副生成物が生じたり、スケールアップが困難等の課題があった。更に、特許文献2の方法は多段階反応であり、また収率についても改善の余地があった。
従って、本発明の目的は、簡便に且つ効率的にアンブレインを得ることができるアンブレインの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、簡便にアンブレインを得ることができるアンブレインの製造方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、わずかな特定の変異を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素がスクアレンからアンブレインを生成する活性を有することを見出した。本発明者らは、前記の変異に加えて、更なる変異を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素がスクアレンからアンブレインを更に効率的に生成する活性を有することを見出した。更に、特定の変異を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が3-デオキシアキレオールAからアンブレインを効率よく生成する活性を有することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1](1)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、(2)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸がチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、又はGXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸に置換している、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、(a)前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有し、(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が40%以上であり、そして(c)スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示す、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[2]DXDDモチーフを基準として、C末端側に170アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGXWモチーフを有さない、[1]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[3]前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸の置換しているポリペプチド、(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、又は(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチドである、[1]又は[2]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[4]前記DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸から、システイン又はグリシンに置換しており、前記(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸がチロシンからアラニン若しくはグリシンに置換しているか、又は前記GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がロイシンからアラニン若しくはフェニルアラニンに置換している、[1]~[3]のいずれかに記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[5]DXDDモチーフを有し、GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸である、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、(a)前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有し、(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が40%以上であり、そして(c)3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示す、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[6]DXDDモチーフを基準として、C末端側に170アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGXWモチーフを有さない、[5]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[7]前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているポリペプチド、(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、又は(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸の置換しているアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチドである、[5]又は[6]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[8]前記GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がアラニン若しくはフェニルアラニンである、[5]~[7]のいずれかに記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[9][1]~[8]のいずれかに記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチド、
[10][9]に記載のポリヌクレオチドを有する微生物、
[11][9]に記載のポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクター、
[12][11]に記載のベクターを有する形質転換体、
[13][1]~[4]のいずれかに記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とする、アンブレインの製造方法、
[14][5]~[8]のいずれかに記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を3-デオキシアキレオールAに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とする、アンブレインの製造方法、及び
[15][10]に記載の微生物、又は[12]に記載の形質転換体を培養することを特徴とするアンブレインの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の1つの態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素によれば、変異型スクアレン-ホペン環化酵素を併用しなくとも、スクアレンを基質としてアンブレインを1ステップで合成することができる。また、微生物発酵により培養液に含まれる炭素源から効率的にアンブレインを合成することができる。
本発明に用いる変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから3-デオキシアキレオールAを生成することができる。また、本発明に用いる変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)からアンブレインを生成することができる。
本発明に用いる変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換したのみのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素と比較して、効率的に前記効果を示すことができる。
また、本発明の別の態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素によれば、3-デオキシアキレオールAからアンブレインを効率的に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】変異型スクアレン-ホペン環化酵素及びテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を使用する、スクアレンを基質とした従来のアンブレイン合成経路(A)並びに本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を使用する、3-デオキシアキレオールAを基質としたアンブレイン合成経路(B)を示した図である。
【
図2】本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を用いたスクアレンからアンブレインを生成する2つの経路を示した図である。
【
図3】Y167A/D373C変異体(実施例1)、D373C/L596A変異体(実施例2)、D373C変異体(比較例1)、Y167A変異体(比較例2)、及びL596A(比較例3)を用いて、スクアレンを基質としてアンブレインの生成効率を調べたグラフである。
【
図4】Y167A/D373C変異体(実施例1)、D373C/L596A変異体(実施例2)、D373C変異体(比較例1)を用いて、スクアレンを基質として酵素反応させた際のアンブレイン及びその他反応生成物(副生成物)の比率を調べたグラフである。
【
図5】Y167A/D373C変異体(実施例1)を用いて、スクアレンを基質とし、基質濃度を変化させて、アンブレインの生産性を検討したグラフである。
【
図6】L596A変異体(実施例5)、L596F変異体(実施例6)、野生型(比較例5)、L596V変異体(実施例7)、L596P変異体(比較例6)を用いて、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレインの生成効率を調べたグラフである。
【
図7】野生型(比較例5)、L596A変異体(実施例5)を用いて、3-デオキシアキレオールAを基質として酵素反応させた際のアンブレイン及びその他反応生成物(副生成物)の比率を調べたグラフである。
【
図8】野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、373番目のアスパラギン酸がシステインに置換し、そして167番目のチロシンがアラニンに置換した変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、及び373番目のアスパラギン酸がシステインに置換し、そして596番目のロイシンがアラニンに置換した変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列を示した図である。
【
図9】野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、596番目のロイシンがアラニンに置換した変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、596番目のロイシンがフェニルアラニンに置換した変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、及び596番目のロイシンがバリンに置換した変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列を示した図である。
【
図10】バチルス・メガテリウム、バチルス・サブチリス、及びバチルス・リケニフォルミスのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列、並びにアリシクロバチルス・アシドカルダリウスのスクアレン-ホペン環化酵素のアミノ酸配列のアラインメントを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素)
野生型のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(以下、TCと称することがある)は、片末端に単環を有する3-デオキシアキレオールAを基質として利用し、アンブレインを生成することができる。すなわち、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、3-デオキシアキレオールAを基質として利用すると、3-デオキシアキレオールAの環状化されていない端を選択的に環化させて、両末端環化化合物を生成することができる。
また、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンを基質とし、2環性の8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを生成することができる(非特許文献5)。更に、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、2環性の8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンの環状化されていない端を選択的に環化させて、両末端環化化合物のオノセランオキサイドと14β-ヒドロキシオノセラ-8(26)-エンを生成することができる(非特許文献6)。
【0010】
すなわち、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、EC4.2.1.129に分類され、水とテトラプレニル-β-クルクメンからバチテルペノールAを生成する反応、又は、スクアレンから8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを生成する反応を触媒し得る酵素である。
テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、例えばバチルス属、ブレビバチルス属、パエニバチルス属、又はジオバチルス属などの細菌が有している。バチルス属の細菌としては、枯草菌(バチルス・サブチルス)、バチルス・メガテリウム、又はバチルス・リケニフォルミスを挙げることができる。テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、及びC末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフを有している。スクアレン-ホペン環化酵素も、前記のモチーフを有しているが、更にDXDDモチーフのC末端側に170アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGXWモチーフを有している。一方、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記QXXXGXWモチーフを有していない。また、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、好ましくはDXDDモチーフから、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフを有しているが、スクアレン-ホペン環化酵素は(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフを有していない。更に、スクアレン-ホペン環化酵素は、QXXXGXWモチーフのC末側にGXGFP配列を有し、その4番目のアミノ酸がフェニルアラニン(F)であるという特徴を有する。テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素もGXGFPモチーフに似たGXGX(G/A/P)モチーフを有するが、4番目のアミノ酸がフェニルアラニンではなく、基本的には、ロイシン(L)である。
【0011】
[1]変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素
(第1態様)
本発明の第1の態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、(1)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、(2)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸がチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、又はGXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸に置換している、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、(a)前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有し、(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が40%以上であり、そして(c)スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示す。
ここで、各モチーフや配列を定義しているアルファベットはアミノ酸の一文字略号を表しており、「X」は任意のアミノ酸を意味する。すなわち、QXXXGX(W/F)モチーフの場合、N末端側からC末端側に向かってグルタミン(Q)、任意のアミノ酸(X)が3つ、グリシン(G)、任意のアミノ酸(X)、さらにトリプトファン(W)又はフェニルアラニン(F)のいずれか、が配列することを示す。また、「DXDDモチーフを基準として、N末端側100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフを有する」とは、DXDDモチーフとQXXXGX(W/F)モチーフの間に100アミノ酸残基以上存在することを意味するものとし、その他モチーフの特定についても同様である。
また、GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸とは、N末端側から数えて4番目であることを示し、他の配列についても同様である。以下、特に記載のない限り同様である。
なお、アミノ酸配列の同一性は、比較する配列のアミノ酸残基が一致するように適宜ギャップを挿入して整列させ、一致したアミノ酸残基数を全アミノ酸残基数で除したものを百分率で表したものである。同一性は、周知のプログラム(例えばBLAST、FASTA、CLUSTAL W等)を用いて行うことができる。
【0012】
本発明の第1態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の好ましい態様としては、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸の置換しているポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、又は
(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から373番目のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換しており、そしてN末端側から167番目のチロシンがチロシン以外のアミノ酸に置換しているか、若しくは596番目のロイシンがロイシン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
である。
【0013】
また、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の最も好ましい態様としては、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、配列番号5又は6で表されるアミノ酸配列からなるBacillus megaterium由来のポリペプチド、を挙げることができる。この変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がシステインに置換しており、(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸がアラニンに置換しているか、又はGXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がアラニンに置換している。
【0014】
(DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基の置換)
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(以下、変異型TCと称することがある)においては、DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換している。アスパラギン酸以外のアミノ酸は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではなく、アラニン、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、又はチロシンを挙げることができるが、好ましくはシステイン又はグリシンであり、より好ましくはシステインである。
DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸以外のアミノ酸(特には、システイン又はグリシン)に置換することによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから3-デオキシアキレオールAを生成することができ、そして8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインを生成することができる。
DXDDモチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から370~373番目に存在する。また、配列番号2で表されるバチルス・サブチルスのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から375~378番目に位置する。DXDDモチーフのアスパラギン酸は極めて保存性が高く、通常N末端側から4番目のアミノ酸残基はアスパラギン酸である(
図10)。
【0015】
((A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基の置換)
本発明の変異型TCにおいては、(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸がチロシン以外のアミノ酸に置換している。チロシン以外のアミノ酸は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではなく、アラニン、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、又はアスパラギン酸を挙げることができるが、好ましくは疎水性アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、及びトリプトファン)、セリン、トレオニン又はシステインを挙げることができる。特に好ましくは、アラニン又はグリシンであり、より好ましくはアラニンである。
(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基がチロシン以外のアミノ酸(特には、アラニン又はグリシン)に置換することによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから3-デオキシアキレオールAを生成する機能、そして8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインを生成する機能が向上している。
(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から168~174番目に存在する。また、配列番号2で表されるバチルス・サブチルスのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から170~176番目に位置する。(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基は極めて保存性が高く、野生型では基本的にはチロシンである(
図10)。本発明は、この保存性の高い特定のアミノ酸を変異させることで、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を向上できることを見出したものである。
【0016】
(GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基の置換)
本発明の変異型TCにおいては、GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸に置換している。ロイシン以外のアミノ酸は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではなく、アラニン、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン、又はアスパラギン酸を挙げることができるが、好ましくはアラニン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、トリプトファンを挙げることができる。特に好ましくは、アラニン又はフェニルアラニンであり、より好ましくはアラニンである。
GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基がロイシン以外のアミノ酸(特には、アラニン又はフェニルアラニン)に置換することによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから3-デオキシアキレオールAを生成する機能、そして8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインを生成する機能が向上している。
GXGX(G/A/P)モチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から593~597番目に存在する。また、配列番号2で表されるバチルス・サブチルスのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から594~598番目に位置する。GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基は、機能を確認できている野生型では、発明者らの知る限りロイシンである(
図10)。本発明は、このロイシンを変異させることで、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を向上できることを見出したものである。
【0017】
図8にバチルス・メガテリウムの野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、373番目のアスパラギン酸がシステインに置換し、そして167番目のチロシンがアラニンに置換した変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、及び373番目のアスパラギン酸がシステインに置換し、そして596番目のロイシンがアラニンに置換した変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列を示す。
【0018】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の由来は、特に限定されるものではなく、全てのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を用いることができる。すなわち、DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸(好ましくはシステイン又はグリシン)に置換しており、かつGXGX(G/A/P)モチーフにおける4番目のアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸(好ましくはアラニン又はフェニルアラニン)に置換しているか、若しくは(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸がチロシン以外のアミノ酸(好ましくはアラニン又はグリシン)へ置換している変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、本発明の効果を示すことができる。より具体的には、DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置にGXGX(G/A/P)モチーフを有しており、DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸(好ましくはシステイン又はグリシン)に置換しており、かつGXGX(G/A/P)モチーフにおける4番目のアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸(好ましくはアラニン又はフェニルアラニン)に置換しているか、若しくは(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸がチロシン以外のアミノ酸(好ましくはアラニン又はグリシン)へ置換している変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、本発明の効果を示すことができる。また、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフのC末端側に170アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGXWモチーフを有していないものが好ましい。例えば、バチルス・サブチルスとバチルス・メガテリウムとのポリペプチドのアミノ酸配列の同一性は50%程度であるが、本発明の特徴を有することにより、いずれの酵素もスクアレンから3-デオキシアキレオールAを生成することができ、そして8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインを生成することができる。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列は、バチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列であり、配列番号2に記載のアミノ酸配列はバチルス・サブチルスのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列である。
【0019】
(第2態様)
本発明の第2の態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフを有し、GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換している、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、
(a)前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有し、(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が40%以上であり、そして(c)3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示す。
なお、各モチーフ又は配列のアルファベット等の定義は、第1態様と同様である。
【0020】
本発明の第2態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の好ましい態様としては、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、又は
(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンがロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸の置換しているアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
【0021】
また、本発明の第2態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の最も好ましい態様としては、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、配列番号9、10、又は13で表されるアミノ酸配列からなるBacillus megaterium由来のポリペプチド、を挙げることができる。この変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸がアラニン、フェニルアラニン、又はバリンに置換している。
【0022】
(GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基の置換)
本発明の変異型TCにおいては、GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸がロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸である。第4番目のアミノ酸のアミノ酸は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではなく、アラニン、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、又はアスパラギン酸を挙げることができるが、好ましくはアラニン、フェニルアラニン、メチオニン、イソロイシン、トリプトファン、を挙げることができる。特に好ましくは、アラニン、フェニルアラニンであり、より好ましくはアラニンである。
GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基がロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸(特には、アラニン又はフェニルアラニン)に置換することによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、3-デオキシアキレオールAからアンブレインを効率的に生成する機能が向上している。
GXGX(G/A/P)モチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から593~597番目に存在する。また、配列番号2で表されるバチルス・サブチルスのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から594~598番目に位置する。GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基は、機能を確認できている野生型では、発明者らの知る限りロイシンである。本発明は、このロイシンを変異させ、ロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸とすることで、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が、3-デオキシアキレオールAからアンブレインを効率的に生成できることを見出したものである。
【0023】
図7にバチルス・メガテリウムの野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、及び596番目のロイシンがアラニン又はフェニルアラニンに置換した変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列を示す。
【0024】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の由来は、特に限定されるものではなく、全てのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を用いることができる。すなわち、GXGX(G/A/P)モチーフにおける4番目のアミノ酸がロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸(好ましくはアラニン又はフェニルアラニン)に置換している変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、本発明の効果を示すことができる。より具体的には、DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有しており、GXGX(G/A/P)モチーフにおける4番目のアミノ酸がロイシン、グリシン、及びプロリン以外のアミノ酸(好ましくはアラニン又はフェニルアラニン)に置換している変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、本発明の効果を示すことができる。また、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフのC末端側に170アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGXWモチーフを有していないものが好ましい。例えば、バチルス・サブチルスとバチルス・メガテリウムとのポリペプチドのアミノ酸配列の同一性は50%程度であるが、本発明の特徴を有することにより、いずれの酵素も3-デオキシアキレオールAからアンブレインの生成効率を向上させることができる。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列は、バチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列であり、配列番号2に記載のアミノ酸配列はバチルス・サブチルスのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列である。更に、本発明の第2態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、好ましくはDXDDモチーフから、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフを有する。
【0025】
図10にバチルス・メガテリウム(配列番号1)、バチルス・サブチリス(配列番号2)、及びバチルス・リケニフォルミス(配列番号3)のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、並びにアリシクロバチルス・アシドカリダリウスのスクアレン-ホペン環化酵素(配列番号4)のアラインメントを示した。本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の第1態様及び第2態様においては、前記DXDDモチーフを基準として、N末端側100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフを有するが、好ましくは、前記DXDDモチーフを基準として、N末端側100アミノ酸残基以上離れた位置にモチーフAを2個有する。
【0026】
従来、
図1(A)に記載のように、スクアレンからアンブレインを生成する場合、スクアレンを変異型スクアレン-ホペン環化酵素(以下、変異型SHCと称することがある)によって、3-デオキシアキレオールAに変換し、そして3-デオキシアキレオールAを野生型のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素によって、アンブレインに変換することによって製造されていた(特許文献2)。
図1(B)に記載のように、本発明の第2態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を用いることにより、3-デオキシアキレオールAをアンブレインに変換する効率が顕著に向上した。
また、本発明の第1態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を用いて、スクアレンからアンブレインを生成する場合、
図2に示すように単環性の3-デオキシアキレオールAを中間体とする経路(以下、単環性経路と称することがある)と、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを中間体とする経路(以下、2環性経路と称することがある)によって製造される。
【0027】
(単環性経路)
前記単環性経路においては、変異型TCによって、スクアレンから単環性の3-デオキシアキレオールAが生成される。そして変異型TCによって、3-デオキシアキレオールAからアンブレインが生成される。従来の野生型TCは、3-デオキシアキレオールAをアンブレインに変換することができたが、スクアレンを単環性の3-デオキシアキレオールAに変換することはできなかった。本発明の変異型TCは、スクアレンを単環性の3-デオキシアキレオールAに変換することが可能であり、従って
図2に示すように、スクアレンから3-デオキシアキレオールAへの変換(
図2の反応(a))及び3-デオキシアキレオールAからアンブレインへの変換(
図2の反応(b))の2つの反応を1つの酵素によって、効率的に行うことが可能になった。
【0028】
(2環性経路)
一方、2環性経路においては、変異型TCによって、スクアレンから8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンが生成される。そして変異型TCによって、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインが生成される。従来の野生型TCは、スクアレンを8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンに変換することができたが、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンをアンブレインに変換することはできなかった。本発明の変異型TCは、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンをアンブレインに変換することが可能であり、従って
図2に示すようにスクアレンから8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンへの変換(
図2の反応(c))及び8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインへの変換(
図2の反応(d))の2つの反応を1つの酵素によって、効率的に行うことが可能になった。
【0029】
本発明の変異型TCは、スクアレンからアンブレインを製造する工程において、スクアレンから3-デオキシアキレオールAへの変換(反応(a))、3-デオキシアキレオールAからアンブレインへの変換(反応(b))、スクアレンから8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンへの変換(反応(c))、及び8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインへの変換(反応(d))の4つの反応を1つの酵素で行うことができる。前記4つの反応を可能とする重要な変異は、DXDDモチーフの第4番目のアスパラギン酸をアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換する変異(例えば、D373C)である。本発明の第1態様の変異型TCは、前記の変異に加え、(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸のチロシン以外のアミノ酸への置換(例えば、Y167A)、又はGXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸のロイシン以外のアミノ酸への置換(例えば、L596A)を有することにより、更に効率的に単環性経路及び2環性経路の反応を1つの酵素で実施できる。
【0030】
(1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列)
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。そして、前記第1態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、スクアレンを基質として、そして第2態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチドである。すなわち、それぞれスクアレン又は3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示さないポリペプチドは、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドに含まれない。本明細書において、「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、アミノ酸の置換等により改変がなされたことを意味する。アミノ酸の改変の個数は、例えば1~330個、1~300個、1~250個、1~200個、1~150個、1~100個、又は1~50個であることができ、好ましくは1~30個、より好ましくは1~10個、更に好ましくは1~5個、最も好ましくは1~2個である。本発明に用いることのできる変異ペプチドの改変アミノ酸配列の例は、好ましくは、そのアミノ酸が、1又は数個(好ましくは、1、2、3又は4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であることができる。
【0031】
(アミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列)
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列に対してアミノ酸配列との同一性が40%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。そして、前記第1態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、スクアレンを基質として、そして第2態様の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチドである。すなわち、それぞれスクアレン又は3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を示さないポリペプチドは、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドに含まれない。より好ましくは該同一性が45%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは50%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは60%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは70%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは80%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは90%以上であるアミノ酸配列、最も好ましくは該同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、且つスクアレン又は3-デオキシアキレオールAからアンブレインを生成する活性を有するポリペプチドからなる変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素である。
【0032】
前記配列番号1のアミノ酸配列において「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」又は「同一性が40%以上であるアミノ酸配列」は、配列番号1のアミノ酸配列が置換されたものであるが、このアミノ酸配列の置換は、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の機能を維持する保存的置換である。換言すると「保存的置換」とは、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の優れた効果が失われない置換を意味する。すなわち、前記挿入、置換、又は欠失、若しくは付加された場合であっても、スクアレン又は3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレイン生成活性を向上できる置換である。具体的には、アミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置き換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことでできる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。非極性(疎水性)アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、例えば、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。正電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0033】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素におけるDXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸をアスパラギン酸以外のアミノ酸へ変異(置換)させること、(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸をチロシン以外のアミノ酸に置換させること、又はGXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸をロイシン以外のアミノ酸に置換させることは、スクアレン又は3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレインを生成する活性を付与するための、積極的な置換(変異)であるが、前記保存的置換はスクアレン又は3-デオキシアキレオールAを基質としてアンブレインを生成する活性を維持するための置換であり、当業者であれば容易に実施することのできるものである。
【0034】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、公知の遺伝子組換え技術などを用いて取得することができる。例えば、バチルス・メガテリウムの染色体DNAを取得し、適当なプライマーを用いて、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を、PCRなどによって増幅する。得られた遺伝子を、適当なベクターに組み込み、遺伝子配列を決定する。そして上記の変異を導入することによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードする遺伝子を取得することができる。その遺伝子を、酵母等の宿主に組み込み、発現させることによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を得ることが可能である。
またテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、バチルス・メガテリウムの他に、バチルス属等の細菌に存在することが知られており、バチルス・サブチリス由来酵素(アクセッション番号:AB618206)、バチルス・リケニフォルミス由来酵素(アクセッション番号:AAU41134)等を取得することも可能である。
【0035】
また、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードする遺伝子は、公知の合成遺伝子の合成方法、例えば、Khoranaらの方法(Gupta et al.,1968)、Narangらの方法(Scarpulla et al.,1982)、又はRossiらの方法(Rossi et al.,1982)によって合成することも可能である。そして、合成された遺伝子を発現させることにより、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を得ることができる。
【0036】
[2]ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドである限りにおいて、特に限定されるものではない。例えば、配列番号5で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号7)、配列番号6で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号8)、配列番号9で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号11)、配列番号10で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号12)、又は配列番号13で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号14)を挙げることができる。
更には、配列番号7、8、11、12、又は14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、スクアレンからアンブレインを生成する活性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
また、本発明のポリヌクレオチドは、それを導入する微生物又は宿主細胞に合わせて、最適なコドンの塩基配列に変更することが好ましい。
【0037】
[3]微生物
本発明の微生物は、本発明のポリヌクレオチドを有する微生物である。すなわち、本発明のポリヌクレオチドを細胞内に含む限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属菌、放線菌、パン酵母、麹菌、又はアカパンカビを挙げることができる。
【0038】
[4]ベクター
本発明のベクターは、上記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクターである。すなわち、本発明のベクターは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明による前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。
発現ベクターとしては、宿主である大腸菌、パン酵母等において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、外来タンパク質の発現効率の高いものが好ましい。前記ポリヌクレオチドを発現させるための発現ベクターは、微生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、前記DNA及び転写終結配列より構成された組換えベクターであることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0039】
より具体的には、発現ベクターとして、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pQE-30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200〔Agricultural Biological Chemistry,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescriptII SK+、pBluescriptII SK(-)(Stratagene社製)、pTrS30(FERMBP-5407)、pTrS32(FERM BP-5408)、pGEX(Pharmacia社製)、pET-3(Novagen社製)、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔gene,33,103(1985)〕、pUC19〔Gene,33,103(1985)〕、pSTV28(宝酒造社製)、pSTV29(宝酒造社製)、pUC118(宝酒造社製)、pPA1(特開昭63-233798号公報)、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pColdI、pColdII、pColdIII、pColdIV、pNIDNA、pNI-HisDNA(タカラバイオ社製)等を例示することができる。
【0040】
プロモーターとしては、宿主である大腸菌、パン酵母等の細胞中で発現することができるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrpx2)、tacプロモーター、letIプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。酵素法による生産(スクアレンを基質とした酵素反応による生体外での合成)に用いる酵素を生産するには、強いプロモーターとして機能し、目的タンパク質の大量生産が可能なプロモーターが好ましく、誘導型プロモーターがより好ましい。誘導型プロモーターとしては、例えば低温で発現誘導されるコールドショック遺伝子cspAのプロモーター、誘導剤であるIPTGの添加により誘導されるT7プロモーター等をあげることができる。また発酵生産(グルコースなどを炭素源とした宿主による生体内での生合成)においては、上記プロモーターの中でも組織を問わず常時目的遺伝子を発現させるプロモーター、すなわち構成的プロモーターであることがより好ましい。構成的プロモーターとしては、アルコールデヒドロゲナーゼ1遺伝子(ADH1)、翻訳伸長因子TF-1α遺伝子(TEF1)、ホスホグリセリン酸キナーゼ遺伝子(PGK1)、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(TPI1)、トリオースリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(PYK1)のプロモーターが挙げられる。
【0041】
[5]形質転換体
本発明の形質転換体も、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明による前記ポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含むベクターの形で含有する形質転換体であることもできる。また、本発明によるポリペプチドを発現している形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明によるポリペプチドを発現していない形質転換体であることもできる。本発明の形質転換体は、例えば、本発明による前記ベクターにより、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
【0042】
宿主細胞は、特に限定されないが、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属菌、放線菌、酵母、麹菌、アカパンカビ等取り扱いが容易な菌株が好ましいが、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞などを用いることも可能である。しかしながら、酵素法による生産(スクアレンを基質とした酵素反応による生体外での合成)に用いる酵素を生産するには、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属菌、麹菌が好ましく、大腸菌が最も好ましい。また発酵生産(グルコースなどを炭素源とした宿主による生体内での生合成)で最も好ましくは酵母である。最も好ましい酵母株としては、清酒酵母が挙げられる。特に好ましくは、清酒酵母協会7号又は701号が挙げられる。協会701号酵母は、協会7号から育種された泡なし酵母で高泡を形成しない特長があるが、他の性質は同じである。
【0043】
[6]アンブレインの製造方法
本発明のアンブレインの製造方法の第1の態様は、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とするものである。本発明のアンブレインの製造方法の第2の態様は、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を3-デオキシアキレオールAに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とするものである。
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、酵素発現用ベクターを細菌等に導入することによって得られた形質転換体を培養することにより生成できる。形質転換体の培養に用いられる培地は、通常用いられる培地でよく、宿主の種類に応じて適宜選択される。例えば、大腸菌を培養する場合には、LB培地等が用いられる。培地には、選択マーカーの種類に応じた抗生物質が添加されていてもよい。
【0044】
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記酵素を発現可能な形質転換体を培養することにより得られた培養液から酵素を抽出し精製したものであってもよい。また、あらかじめ本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドのN末側又はC末側にトリガーファクター(TF)又はHisタグなどを融合させた融合タンパク質として発現させ、精製などを容易にしてもよい。また、培養液中の形質転換体から抽出された酵素を含む抽出液をそのまま用いてもよい。形質転換体からの酵素の抽出方法は、公知の方法を適用してよい。酵素の抽出工程は、例えば、形質転換体を抽出溶媒中で破砕し、細胞内容物を形質転換体の破砕片と分離することを含んでよい。得られた細胞内容物には、目的とする変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が含まれている。
【0045】
形質転換体の破砕方法としては、形質転換体を破砕して、酵素液を回収可能な公知の方法を適用してよく、例えば、超音波破砕、ガラスビーズ破砕等が挙げられる。破砕の条件は、特に制限はなく、10℃以下及び15分間などの、酵素が失活しない条件であればよい。
細胞内容物と微生物体の破砕片との分離方法としては、沈降分離、遠心分離、濾過分離及びこれらの2つ以上の分離方法の組み合わせ等が挙げられる。これらの方法を用いた分離条件は当業者には公知であり、遠心分離の場合には例えば、8,000×g~15,000×g及び10分間~20分間である。
【0046】
抽出溶媒としては、酵素抽出の溶媒として通常用いられるものでよく、例えば、Tris-HCl緩衝液、リン酸カリウム緩衝液等が挙げられる。抽出溶媒のpHは、酵素の安定性の点で、3~10が好ましく、6~8がより好ましい。
【0047】
抽出溶媒には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、両性イオン界面活性等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、n-オクチルβ-D-グルコシド等のアルキルグルコシド、ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル等のポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、アルキルベタインであるN,N-ジメチル-N-ドデシルグリシンベタイン等が挙げられる。これら以外にも、トライトンX-100(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij-58)、ノニルフェノールエトキシレート(Tergitol NP-40)等の当技術分野で一般的に用いられる界面活性剤が利用可能である。
抽出溶媒中の界面活性剤の濃度は、酵素の安定性の観点から、0.001質量%~10質量%が好ましく、0.10質量%~3.0質量%がより好ましく、0.10質量%~1.0質量%が更に好ましい。
【0048】
抽出溶媒には、酵素活性の観点から、ジチオスレイトール、β-メルカプトエタノール等の還元剤が含まれていることが好ましい。還元剤としては、ジチオスレイトールが好ましい。抽出溶媒中のジチオスレイトールの濃度は、0.1mM~1Mが好ましく、1mM~10mMがより好ましい。抽出溶媒中にジチオスレイトールが存在することによって、酵素におけるジスルフィド結合等の構造が保持されやすくなり、酵素活性がより上昇する傾向がある。
【0049】
抽出溶媒には、酵素活性の観点から、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤が含まれていることが好ましい。抽出溶媒中のEDTAの濃度は、0.01mM~1Mが好ましく、0.1mM~10mMがより好ましい。抽出溶媒中にEDTAが存在することによって、酵素活性を低下させ得る金属イオンがキレートされるため、酵素活性がより上昇する傾向がある。
【0050】
抽出溶媒には、上記の成分以外に、酵素抽出溶媒に添加可能な公知の成分が含まれていてよい。
【0051】
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素とスクアレン又は3-デオキシアキレオールAとの反応の条件は、酵素反応が進行可能な条件であれば特に制限はない。例えば、反応温度及び反応時間は、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の活性等に基づいて適宜選択することができる。反応温度及び反応時間は、反応効率の観点から、例えば4℃~100℃及び1時間~30日であり、30℃~60℃及び16時間~20日が好ましい。pH条件は、反応効率の観点から、例えば3~10であり、6~8が好ましい。
【0052】
反応溶媒は、酵素反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、通常用いられる緩衝液等を用いることができる。また、例えば、酵素の抽出工程で使用する抽出溶媒と同一のものを用いることができる。また、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を含む抽出液(例えば、無細胞抽出液)を酵素液としてそのまま反応に用いてもよい。
【0053】
アンブレイン生成反応における変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素と、その基質であるスクアレン又は3-デオキシアキレオールAとの濃度比は、反応効率の観点から、酵素に対する基質のモル濃度比(基質/酵素)として、1~10000が好ましく、10~5000がより好ましく、100~3000がより好ましく、1000~2000が更に好ましい。
酵素反応に用いるスクアレン又は3-デオキシアキレオールAの濃度は、反応効率の観点から、反応溶媒の全質量に対して0.000001質量%~10質量%が好ましく、0.00001質量%~1質量%がより好ましい。
【0054】
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素とスクアレン又は3-デオキシアキレオールAとが反応する反応工程は、複数回繰り返してもよい。これにより、アンブレインの収率を高めることができる。反応工程を複数回繰り返す場合には、基質となるスクアレン又は3-デオキシアキレオールAを反応系に再投入する工程、公知の方法により酵素を失活させた後、反応液中の反応生成物を回収及び精製する工程等を含むものであってもよい。スクアレンの再投入を行う場合には、反応液中の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の濃度、反応液中に残存する基質量等によって、投入する時期、投入量を適宜設定することができる。
【0055】
本発明のアンブレインの製造方法の別の実施態様においては、本発明の微生物又は形質転換体を培養することを特徴とする。
前記微生物又は発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養することによって、アンブレインを製造することができる。例えば、酵母について記載すると、酵母は通常用いられるYPD培地などで培養すればよい。相同組換えにより遺伝子導入された酵母、又は発現ベクターを有する酵母を前培養し、更にYPD培地などに植菌し、そして24~240時間、好ましくは72~120時間程度培養する。培地中に分泌されたアンブレインは、そのまま、又は公知の方法により精製して用いることができる。精製方法としては、具体的には、溶媒抽出、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー、及びHPLC等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。本文中又は図表において、バチルス・メガテリウムを「Bme」と略す場合があり、バチルス・メガテリウム由来のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を「BmeTC」と略す場合がある。
【0057】
《実施例1》
本実施例では、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のクローニング及び発現ベクター構築を行った。
バチルス・メガテリウム染色体DNAを鋳型として用いて、PCRにより野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドを取得し、当該野生型酵素のアミノ酸配列を決定した。(以下、特に記載のない限り、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素はバチルス・メガテリウム由来の配列であり、単に「野生型」ということもある。)
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子は、当該野生型酵素のアミノ酸配列をもとに、373番目のアスパラギン酸がシステインに置換されるように、また167番目のチロシンがアラニンに置換されるように設計し、宿主である大腸菌にコドンを最適化して合成した。合成した遺伝子は、ベクターpColdTF(タカラバイオ社)のクローニングサイト(制限酵素EcoRVサイト)に挿入し、Y167A/D373C変異体(配列番号5)の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。
【0058】
《実施例2》
本実施例では、373番目のアスパラギン酸がシステインに置換され、そして596番目のロイシンがアラニンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子は、当該野生型酵素のアミノ酸配列をもとに、373番目のアスパラギン酸がシステインに置換され、そして596番目のロイシンがアラニンに置換されるように設計し、宿主である大腸菌にコドンを最適化して合成した。合成した遺伝子は、ベクターpColdTF(タカラバイオ社)のクローニングサイト(制限酵素EcoRVサイト)に挿入し、D373C/L596A変異体(配列番号6)の発現ベクターを得た。
続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。
【0059】
《比較例1~3》
本比較例では、373番目、167番目及び596番目のうちいずれか一方のみ変異させた、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の発現ベクター構築を行った。
373番目のアスパラギン酸がシステインに置換されるようにクイックチェンジ法により部位特異的変異を導入したこと、167番目のチロシンがアラニンに置換されるようにクイックチェンジ法により部位特異的変異を導入したこと、又は596番目のロイシンがアラニンに置換されるようにクイックチェンジ法により部位特異的変異を導入したことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、D373C変異体(比較例1)、Y167A変異体(比較例2)又はL596A変異体(比較例3)の発現ベクター及び形質転換体を得た。
なお、コドンは宿主である大腸菌に最適化したものを利用した。
【0060】
《実施例3及び比較例4》
本実施例及び比較例では、スクアレンを基質として、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の酵素活性を検討した。
実施例1、実施例2、及び比較例1~3で作製した形質転換体をそれぞれアンピシリン(50mg/L)含有LB培地(1L)に植菌し、37℃で3時間振とう培養した。培養後、0.1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、15℃で24時間振とうを行い、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の発現を誘導した。
その後、遠心(6,000×g、10分間)によって集菌した菌体を、50mMのTris-HCl緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、5gの菌体に対して15mLの緩衝液A[50mMのTris-HCl緩衝液(pH7.5)、0.1v/v%のTween80、0.1w/v%のアスコルビン酸ナトリウム、2.5mMのジチオスレイトール、1mMのEDTAを含有。]で懸濁し、UP2005 sonicator(Hielscher Ultrasonics, Teltow, Germany)を用いて超音波破砕(4℃、20分間)した。破砕処理後の試料を遠心(12,300×g、20分間)し、遠心後に得られた上清を無細胞抽出液A~Eとした。(以下、実施例1又は2で作成した形質転換体を用いた無細胞抽出液をそれぞれ無細胞抽出液A,Bとし、比較例1~3で作成した形質転換体を用いた無細胞抽出液をそれぞれ無細胞抽出液C~Eとする。)
スクアレン(100μg)をTween80(5mg)に混合して可溶化した後に緩衝液A(1mL)に添加してスクアレン液を調製した。このスクアレン液の全量を無細胞抽出液A(4mL)に加えて反応液とし、30℃で64時間インキュベートした。反応液において、スクアレン(基質)と変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(酵素)とのモル比(基質/酵素)は、約200であった。
インキュベート後に、15%水酸化カリウム・メタノール(6mL)を反応液へ添加し、酵素反応を停止させた。その後、反応液へn-ヘキサン(5mL)を添加して、反応生成物の抽出を3回行った。
得られた抽出物のアンブレイン産生率を
図3に示す。D373変異体と比較して、実施例1で得られたY167A/D373C変異体、及び実施例2で得られたD373C/L596A変異体は、アンブレインの産生量が向上した。一方、比較例2及び3で得られたY167A変異体及びL596A変異体は、アンブレインを産生することができなかった。
また、アンブレインおよび副生物の生成比率を
図4に示した。スクアレン(基質)からアンブレインへの反応選択性が向上しており、Y167A/D373C変異体、及びD373C/L596A変異体により効率的にアンブレインを生産することができる。なお、アンブレインの同定及び産生率の算出は、GC/MS及びNMRにより行った。
【0061】
《実施例4》
本実施例では、実施例1で得られたY167A/D373C変異体を用い、スクアレンを基質として、基質濃度を変化させて変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素によるアンブレインの生産性を検討した。基質濃度を変化させた他は、実施例3と同様な方法を繰り返した。
図5に結果を示す。1000μgのスクアレンから427マイクログラムのアンブレイン生産が可能であり、この時の反応効率は43%であった。
【0062】
《実施例5》
本実施例では、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のクローニング及び発現ベクター構築を行った。変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子は、当該野生型酵素のアミノ酸配列をもとに、596番目のロイシンがアラニンに置換されるように設計し、宿主である大腸菌にコドンを最適化して合成した。合成した遺伝子は、ベクターpColdTF(タカラバイオ社)のクローニングサイト(制限酵素EcoRVサイト)に挿入し、L596A変異体(配列番号9)の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。(L596A変異酵素を生産する形質転換体)
【0063】
《実施例6》
本実施例では、596番目のロイシンがフェニルアラニンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。596番目のロイシンをフェニルアラニンに置換する部位特異的変異を導入したことを除いては、実施例5の操作を繰り返し、L596F変異体(配列番号10)の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子(宿主である大腸菌にコドンを最適化)を含む発現ベクターを得た。続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。(L596F変異酵素を生産する形質転換体)
【0064】
《比較例5》
本比較例では野生型のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のクローニング及び発現ベクター構築を行った。
596番目のロイシンをアラニンに置換する部位特異的変異を導入しなかったことを除いては、実施例5の操作を繰り返し、596番目がロイシンのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子(宿主である大腸菌にコドンを最適化)を含む発現ベクターを得た。続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。(WT酵素を生産する形質転換体)
【0065】
《実施例7》
本実施例では、596番目のロイシンがバリンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
596番目のロイシンをバリンに置換する部位特異的変異を導入したことを除いては、実施例5の操作を繰り返し、L596V変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子(宿主である大腸菌にコドンを最適化)を含む発現ベクターを得た。続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。(L596V変異酵素を生産する形質転換体)
【0066】
《比較例6》
本比較例では、596番目のロイシンがプロリンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
596番目のロイシンをプロリンに置換する部位特異的変異を導入したことを除いては、実施例5の操作を繰り返し、L596P変異体のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子(宿主である大腸菌にコドンを最適化)を含む発現ベクターを得た。続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。(L596P変異酵素を生産する形質転換体)
【0067】
《実施例8及び比較例7》
本実施例及び比較例では、3-デオキシアキレオールAを基質として、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の酵素活性を検討した。
実施例5~7、及び比較例5~6で作製した形質転換体をそれぞれアンピシリン(50mg/L)含有LB培地(1L)に植菌し、37℃で3時間振とう培養した。培養後、0.1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、15℃で24時間振とうを行い、変異型及び野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の発現を誘導した。
その後、遠心(6,000×g、10分間)によって集菌した菌体を、50mMのTris-HCl緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、5gの菌体に対して15mLの緩衝液A[50mMのTris-HCl緩衝液(pH7.5)、0.1v/v%のTween80、0.1w/v%のアスコルビン酸ナトリウム、2.5mMのジチオスレイトール、1mMのEDTAを含有。]で懸濁し、UP2005 sonicator(Hielscher Ultrasonics, Teltow, Germany)を用いて超音波破砕(4℃、20分間)した。破砕処理後の試料を遠心(12,300×g、20分間)し、遠心後に得られた上清を無細胞抽出液F~Jとした。(以下、実施例5~7で作成した形質転換体を用いた無細胞抽出液をそれぞれ無細胞抽出液F~Hとし、比較例5~6で作成した形質転換体を用いた無細胞抽出液を無細胞抽出液I~Jとする。)
3-デオキシアキレオールA(100μg)をTween80(2mg)に混合して可溶化した後に緩衝液A(1mL)に添加して3-デオキシアキレオールA液を調製した。この3-デオキシアキレオールA液の全量を無細胞抽出液F~Jのいずれか(4mL)に加えて反応液とし、30℃で112時間インキュベートした。反応液において、3-デオキシアキレオールA(基質)と変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(酵素)とのモル比(基質/酵素)は、約200であった。
インキュベート後に、15%水酸化カリウム・メタノール(6mL)を反応液へ添加し、酵素反応を停止させた。その後、反応液へn-ヘキサン(5mL)を添加して、反応生成物の抽出を3回行った。
得られた抽出物のアンブレイン産生率を
図6に示す。その結果、L596A変異体、L596F変異体およびL596V変異体は、高い変換効率でアンブレインが得られた。特にL596A変異体は、副生成物は少なく、生成物の94%がアンブレインであった。一方、野生型のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素ではアンブレインの生成が少なく、さらに副生成物の割合も高いものであった。
また、アンブレインおよび副生物の生成比率を
図7に示した。3-デオキシアキレオールA(基質)からアンブレインの反応選択性が向上しており、L596A変異体により効率的にアンブレインを生産することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、アンブレインの生産において、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を用いることにより、スクアレンを基質として用いて1ステップでアンブレインを効率的に製造することができる。本発明によって得られる、アンブレインは、例えば医薬品などの生産の原料として用いることができる。
【配列表】