(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
G21C 9/016 20060101AFI20230821BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20230821BHJP
G21C 15/18 20060101ALI20230821BHJP
G21D 1/02 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
G21C9/016
F28D15/02 Z
F28D15/02 101J
F28D15/02 104C
G21C15/18 Z
G21D1/02 Z
(21)【出願番号】P 2020089834
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 令和1年5月23日 集会名 The 27th International Conference on Nuclear Engineering(ICONE27) 開催場所 日本、茨城県つくば市、つくば国際会議場
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】原田 賢
(72)【発明者】
【氏名】深谷 祐一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊一
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-324178(JP,A)
【文献】特開平06-088893(JP,A)
【文献】特開平09-318782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/016
F28D 15/02
G21C 15/18
G21D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器または原子炉圧力容器内の溶融デブリの熱を除去する高線量環境下に適したヒートパイプであって、
円筒状の本体と、
前記本体内に収容されウィックを有する内部構造体とを備え、
作動液が水であり、
前記内部構造体の内部には、パラジウム触媒が配置されていて、水素ガスを原子状に解離吸着し、酸素ガスを原子状に解離吸着し、原子状となった前記水素ガスと前記酸素ガスを、水に再結合することを特徴とするヒートパイプ。
【請求項2】
前記パラジウム触媒は、鎖状または線状であることを特徴とする請求項
1に記載のヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉格納容器または原子炉圧力容器内の溶融デブリの熱を除去する高線量環境下に適したヒートパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の過酷事故(シビアアクシデント)の1つに、炉心溶融がある。炉心溶融とは燃料が溶融して崩落することをいう。炉心溶融の中で、燃料が原子炉圧力容器の中で落下した状態をメルトダウンといい、さらに原子炉圧力容器の底を溶融して原子炉格納容器まで落下した状態をメルトスルーという。メルトダウンやメルトスルーが発生した場合、核燃料と炉の構造物の溶融物が混在した、いわゆる溶融デブリが発生する。
【0003】
核燃料は、核反応が停止した状態(未臨界の状態)であっても強い放射線と高い崩壊熱を生じる。このため、炉心溶融によって発生した溶融デブリは、高線量環境下で放熱して冷えるまでには相当の時間を要する。そのため、溶融デブリの冷却を促進して早期に冷却することで安全性の向上を図るために、各種対策が講じられている。
【0004】
特許文献1には、沸騰水型原子炉(BWR)における溶融デブリの熱を、ヒートパイプを用いて除去する方法が記載されている。このヒートパイプは、蒸発部(吸熱部)と、凝縮部(放熱部)と、断熱部とを備える。ヒートパイプでは、原子炉の下方に位置するドライウェルのコンクリート製の水平な内壁内に蒸発部を埋設し、原子炉格納容器の外部に凝縮部を位置させている。さらに、ヒートパイプの断熱部は、蒸発部と凝縮部を連通しかつ原子炉格納容器を気密に貫通している。
【0005】
特許文献1では、ドライウェル内壁上に溜まった溶融デブリの熱を、内壁内に埋設されコンクリートで間隔を隔てられたヒートパイプの蒸発部で吸熱し、この熱を凝縮部で放熱することにより、溶融デブリを短時間に冷却することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヒートパイプは、例えば熱伝導性が高い材質からなる円筒の本体と、本体内に減圧状態で封入された少量の作動液(水)とを有し、加熱側の端部が加熱されると、作動液の蒸発・凝縮のサイクルにより、熱をすばやく移動(輸送)して、冷却側の端部で放熱し冷却する。
【0008】
しかし特許文献1のように、ヒートパイプを高線量環境下に設置した場合、作動液(水)が放射線分解によって水素ガスと酸素ガスに分解される。さらに水素ガスは、冷却しても凝縮しない(液体にならない)。そのため、ヒートパイプは、高線量環境下で熱移動の機能を失ってしまい、溶融デブリの熱を除去する機能を維持することが困難となる。なお特許文献1には、ヒートパイプの構造や材料についての記載がなく、具体的な仕様や性能についても開示されていない。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、高線量環境下で溶融デブリの熱を除去する機能を維持できるヒートパイプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるヒートパイプの代表的な構成は、原子炉格納容器または原子炉圧力容器内の溶融デブリの熱を除去する高線量環境下に適したヒートパイプであって、円筒状の本体と、本体内に収容されウィックを有する内部構造体とを備え、作動液が水であり、内部構造体と本体の冷却側の端部との間に、水素ガスを蓄積させる冷却部空間が形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記構成では、ヒートパイプの本体内に収容された内部構造体と本体の冷却側の端部との間に冷却部空間を形成している。このため、ヒートパイプでは、非凝縮性ガスである水素ガスを冷却部空間に蓄積でき、さらに冷却部空間に水素ガスを蓄積したままで凝縮可能な水蒸気も溜めることができる。したがってヒートパイプでは、高線量環境下で放射線分解により作動液(水)が分解されて水素ガスが発生しても、作動液の循環を継続することができるため、溶融デブリの熱を除去する機能を維持できる。
【0012】
上記の冷却部空間内には、パラジウム触媒が配置されていて、水素ガスを原子状に解離吸着し、酸素ガスを原子状に解離吸着し、原子状となった水素ガスと酸素ガスを、水に再結合するとよい。これにより、ヒートパイプでは、高線量環境下で放射線分解により作動液(水)が分解されて水素ガスと酸素ガスが発生しても、水素ガスを蓄積させる冷却部空間内にパラジウム触媒が配置されているため、非凝縮性ガスである水素ガスを原子状に解離吸着する。同様に、酸素ガスもパラジウム触媒に触れることで原子状に解離吸着する。さらに原子状となった水素ガスは、原子状となった酸素ガスと再結合し水に戻る。したがってヒートパイプでは、高線量環境下で作動液の循環を継続することができるため、溶融デブリの熱を除去する機能を維持できる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明にかかるヒートパイプの他の代表的な構成は、原子炉格納容器または原子炉圧力容器内の溶融デブリの熱を除去する高線量環境下に適したヒートパイプであって、円筒状の本体と、本体内に収容されウィックを有する内部構造体とを備え、作動液が水であり、内部構造体の内部には、パラジウム触媒が配置されていて、水素ガスを原子状に解離吸着し、酸素ガスを原子状に解離吸着し、原子状となった水素ガスと酸素ガスを、水に再結合することを特徴とする。
【0014】
上記構成では、ヒートパイプの本体内に収容された内部構造体の内部に、パラジウム触媒を配置している。このため、ヒートパイプでは、高線量環境下で放射線分解により作動液(水)が分解されて水素ガスと酸素ガスが発生しても、パラジウム触媒により、非凝縮性ガスである水素ガスを原子状に解離吸着する。同様に、酸素ガスもパラジウム触媒に触れることで原子状に解離吸着する。さらに原子状となった水素ガスは、原子状となった酸素ガスと再結合し水に戻る。したがってヒートパイプでは、高線量環境下で作動液の循環を継続することができるため、溶融デブリの熱を除去する機能を維持できる。
【0015】
上記のパラジウム触媒は、鎖状または線状であるとよい。このように、パラジウム触媒を鎖状または線状とすることにより、パラジウム触媒と水素ガスとの接触面積を大きくし、圧力損失を少なくすることができる。なお、触媒としては、パラジウムに限らず、白金等の他の白金族金属を用いてもよい。
【0016】
なお本発明者らは、ヒートパイプの内部体積の10%の作動液(水)を含む試験体を用意し、ヒートパイプの本体部に対して内部構造体を若干短尺にして、非凝縮性ガス(水素ガス)を蓄積する冷却部空間を形成した。その上で、本発明者らは、ヒートパイプの冷却部空間に上記の鎖状または線状のパラジウム触媒を配置したところ、高線量環境下の一例として100kGyまでの照射ではヒートパイプの熱移動の機能(伝熱性能)が維持されることを明らかにした。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高線量環境下で溶融デブリの熱を除去する機能を維持できるヒートパイプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態におけるヒートパイプが適用される原子炉の概略構成を説明する図である。
【
図2】本発明の実施形態におけるヒートパイプを説明する図である。
【
図3】本発明の他の実施形態におけるヒートパイプを説明する図である。
【
図4】各ヒートパイプの性能試験の各条件を示す表である。
【
図5】
図4の各ヒートパイプの異なる照射条件下における熱輸送量を示すグラフである。
【
図6】本発明のさらに他の実施形態におけるヒートパイプを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態におけるヒートパイプが適用される原子炉の概略構成(事故時の状態)を説明する図である。以下では、理解を容易にするために沸騰水型原子炉(BWR)を例示して説明するが、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)についても本実施形態を適用可能である。
【0021】
原子炉建屋100には原子炉格納容器102が設置され、その中に原子炉圧力容器104が設置されている。原子炉圧力容器104は、ペデスタル106によって原子炉格納容器102内に支持されている。原子炉格納容器102の下方にはサプレッションプール108(圧力抑制室ともいう)が設けられていて、過剰な蒸気をサプレッションプール108内の水に注入することによって圧力をさげることができる。また、原子炉圧力容器104には、ウラン等からなる燃料棒を束ねた燃料集合体110が収容されている。
【0022】
なお
図1は炉心溶融などの事故時の状態を示している。
図1では原子炉格納容器102の下部およびサプレッションプール108の部屋に水が溜まっているように描いているが、通常の運転中は、原子炉格納容器102は窒素充填され、サプレッションプール108内部には適量の水が保有されている。また
図1では、原子炉格納容器102および原子炉圧力容器104の下端に、溶融デブリ112が堆積しているように描いている。
【0023】
炉心溶融によって発生した溶融デブリ112は、高線量環境下で放熱して冷えるまでには相当の時間を要する。そこで本実施形態では、高線量環境下に適したヒートパイプ114、116、118、120を用いて、溶融デブリ112の熱を除去している。
【0024】
ヒートパイプ114は、原子炉圧力容器104に収容された燃料集合体110の位置から原子炉格納容器102の外に引き出されるように設置されている。ヒートパイプ116は、原子炉圧力容器104の下端に堆積した溶融デブリ112の位置から原子炉圧力容器104の外に引き出されるように設置されている。ヒートパイプ118、120は、原子炉格納容器102の下端、ここではペデスタル106の下に堆積した溶融デブリ112の位置から上方に立設している。
【0025】
以下では代表的にヒートパイプ120について説明する。ただし、各ヒートパイプ114、116、118、120は、上記のように原子炉格納容器102または原子炉圧力容器104内での設置位置が異なっているが、その構造および機能などは同様である。
【0026】
図2は、本発明の実施形態におけるヒートパイプ120を説明する図である。
図2(a)は、ヒートパイプ120の全体と内部構造を示す図である。
図2(b)は、
図2(a)のA-A断面図である。
図2(c)は、ヒートパイプ120内に配置されるパラジウム触媒122(後述)を示している。
【0027】
ヒートパイプ120は、本体124と、内部構造体126とを備える。本体124は、例えば熱伝導性が高い材質(ここではSUS316)からなる円筒状の部材であって、蒸発部となる加熱側の端部128と、凝縮部となる冷却側の端部130とを有する。また本体124の内部には、少量の作動液(水)が減圧状態で封入されている。なお作動液の量は、ヒートパイプ120の内部体積の例えば10%としている。さらにヒートパイプ120の全長すなわち本体124の全長は、図示のように寸法L1としている。
【0028】
内部構造体126は、
図2(a)に示すように本体124の内部に収容される構造体であって、その全長が寸法L2であり、本体124の全長の寸法L1より小さい。また内部構造体126は、
図2(b)に示すように外形が星型(六角形)の中空の構造体であり、その外周にはカーボンファイバー132(
図2(a)参照)が巻き付けられている。内部構造体126は、その外周に巻かれたカーボンファイバー132により毛細管構造(ウィック)を形成している。
【0029】
ここで一般的なヒートパイプは、加熱側の端部が加熱されると、作動液の蒸発・凝縮のサイクルにより、熱をすばやく移動(輸送)して、冷却側の端部で放熱し冷却する、という機能を有する。しかし、高線量環境下においては、作動液(水)が放射線分解によって水素ガスと酸素ガスに分解される。さらに水素ガスは、冷却しても凝縮しない(液体にならない)。そのため、一般的なヒートパイプでは、高線量環境下で熱移動の機能を失ってしまい、溶融デブリ112の熱を除去する機能を維持することが困難となる。
【0030】
そこで本実施形態のヒートパイプ120では、
図2(a)に示すように、内部構造体126と本体124の冷却側の端部130との間に、冷却部空間134を形成している。冷却部空間134は、非凝縮性ガスである水素ガスを蓄積させる空間であり、さらに水素ガスを蓄積したままで凝縮可能な水蒸気も溜めることができる。なお冷却部空間134の
図2(a)に示す寸法L3は、本体124の寸法L1と内部構造体126の寸法L2との差に相当する。
【0031】
ヒートパイプ120では、
図2(a)の矢印Bに示すように溶融デブリ112(
図1参照)からの熱が本体124の加熱側の端部128に入力されると、作動液が蒸発した気体(水蒸気)が矢印Cに示すように内部構造体126の内部を通る。この水蒸気は、冷却部空間134に溜まってさらに凝縮して水となる。これにより、ヒートパイプ120では、本体124の冷却側の端部130で矢印Dに示すように放熱する。
【0032】
さらに水は、内部構造体126の外周に巻かれたカーボンファイバー132を利用した毛細管現象によって、矢印Eに示すように本体124の加熱側の端部128に向かって戻される。戻された作動液(水)は、本体124の加熱側の端部128が加熱されると、再び水蒸気となって矢印Cに示すように移動する。
【0033】
したがってヒートパイプ120では、高線量環境下で放射線分解により作動液(水)が分解されて水素ガスが発生しても、作動液の循環すなわち蒸発・凝縮のサイクルを継続できるため、溶融デブリ112の熱を除去する機能を維持できる。
【0034】
さらにヒートパイプ120では、内部構造体126の内部にパラジウム触媒122が配置されている。パラジウム触媒122は、
図2(c)に示すように、細線と箔のリングの組み合わせで構成された鎖状または線状となっている。パラジウム触媒122は、非凝縮性ガスである水素ガスに触れることで水素ガスを原子状に解離吸着し、同様に、酸素ガスに触れることで酸素ガスを原子状に解離吸着する。
【0035】
このため、ヒートパイプ120では、高線量環境下で放射線分解により作動液(水)が分解されて水素ガスと酸素ガスが発生しても、パラジウム触媒122により、非凝縮性ガスである水素ガスを原子状に解離吸着し、酸素ガスを原子状に解離吸着し、原子状となった水素ガスと原子状となった酸素ガスを水に再結合する。
【0036】
したがってヒートパイプ120では、高線量環境下で作動液の循環を継続することができるため、溶融デブリ112の熱を除去する機能を維持できる。さらにヒートパイプ120では、パラジウム触媒122を鎖状または線状とすることにより、パラジウム触媒122と水素ガスとの接触面積を大きくし、圧力損失を少なくすることができる。なお、触媒としては、パラジウムに限らず、白金等の他の白金族金属を用いてもよい。
【0037】
図3は、本発明の他の実施形態におけるヒートパイプ120Aを説明する図である。ヒートパイプ120Aは、パラジウム触媒122を内部構造体126の内部に代えて、冷却部空間134に配置した点で、上記のヒートパイプ120と異なる。
【0038】
このようなヒートパイプ120Aでは、高線量環境下で放射線分解により作動液(水)が分解されて水素ガスと酸素ガスが発生しても、水素ガスを蓄積させる冷却部空間134内にパラジウム触媒122が配置されていることになる。このため、ヒートパイプ120Aによれば、非凝縮性ガスである水素ガスを原子状に解離吸着し、酸素ガスを原子状に解離吸着し、原子状となった水素ガスと原子状となった酸素ガスを水に再結合する。したがってヒートパイプ120Aでは、高線量環境下で作動液の循環を継続することができるため、溶融デブリ112の熱を除去する機能を維持できる。
【0039】
図4は、各ヒートパイプの性能試験の各条件を示す表である。図示のように、この性能試験では、3つの試験体として試料S1、S5、S8を用意した。なお各試料S1、S5、S8はいずれも、本体124の寸法L1は50cmであり、作動液(水)の量はヒートパイプの内部容積の10%としている。
【0040】
試料S1は、内部構造体126の寸法L2が「48cm」、触媒「なし」である。つまり、試料S1では、寸法L3が「2cm」の冷却部空間134が形成されている。試料S5は、内部構造体126の寸法L2が「43cm」であるため、寸法L3が「7cm」の冷却部空間134が形成されている。また試料S5は、試料S1と同様、触媒「なし」である。
【0041】
試料S8は、内部構造体126の寸法L2が「43cm」であるため、試料S5と同様、寸法L3が「7cm」の冷却部空間134が形成されている。さらに試料S8では、鎖状または線状のパラジウム触媒122を冷却部空間134に配置した。すなわち試料S8は、
図3に示すヒートパイプ120Aと同じ構成を有している。
【0042】
図5は、
図4の各ヒートパイプの異なる照射条件下における熱輸送量を示すグラフである。図中、横軸は高線量環境下を想定した吸収線量(kGy)、縦軸は熱輸送量(W)をそれぞれ示している。
【0043】
まず、試料S1、S5を比較すると、試料S5は、上記したように試料S1に比べて、非凝縮性ガスである水素ガスを蓄積させる冷却部空間134が大きい。その結果、試料S5では、
図5に示すように試料S1に比べて、吸収線量を高めたときの性能劣化が抑制されていることが明らかになった。
【0044】
つぎに、試料S5、S8を比較すると、試料S5、S8は、上記したように非凝縮性ガスである水素ガスを蓄積させる冷却部空間134の大きさは同じである。しかし、試料S8では、鎖状または線状のパラジウム触媒122が冷却部空間134に配置されているため、水素ガスを原子状に解離吸着し、酸素ガスを原子状に解離吸着し、原子状となった水素ガスと原子状となった酸素ガスを水に再結合することができる。その結果、試料S8では、
図5に示すように試料S5に比べて、吸収線量108(kGy)の照射後も、熱移動の機能(伝熱性能)がほぼ維持されていることが明らかになった。
【0045】
図6は、本発明のさらに他の実施形態におけるヒートパイプ120Bを説明する図である。ヒートパイプ120Bは、パラジウム触媒122を内部構造体126の内部だけでなく、さらに冷却部空間134にも配置した点で、上記のヒートパイプ120と異なる。
【0046】
このようなヒートパイプ120Bでは、高線量環境下で放射線分解により作動液(水)が分解されて水素ガスと酸素ガスが発生しても、内部構造体126の内部に加え、水素ガスを蓄積させる冷却部空間134内にパラジウム触媒122が配置されていることになる。このため、ヒートパイプ120Bによれば、非凝縮性ガスである水素ガスを原子状に解離吸着し、酸素ガスを原子状に解離吸着し、原子状となった水素ガスと原子状となった酸素ガスを水に再結合する。したがってヒートパイプ120Bでは、高線量環境下で作動液の循環を継続することができるため、溶融デブリ112の熱を除去する機能を維持できる。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、原子炉格納容器または原子炉圧力容器内の溶融デブリの熱を除去する高線量環境下に適したヒートパイプとして利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
100…原子炉建屋、102…原子炉格納容器、104…原子炉圧力容器、106…ペデスタル、108…サプレッションプール、110…燃料集合体、112…溶融デブリ、114、116、118、120、120A、120B…ヒートパイプ、122…パラジウム触媒、124…本体、126…内部構造体、128…加熱側の端部、130…冷却側の端部、132…カーボンファイバー、134…冷却部空間