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特許7333941酸化ストレスに起因する疾患の予防又は治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】酸化ストレスに起因する疾患の予防又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20230821BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20230821BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230821BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230821BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230821BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230821BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K33/00
A23L33/21
A61K9/14
A61K9/16
A61P1/04
A61P17/00
A61P29/00
A61P39/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019106147
(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公開番号】P2019214556
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018109533
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「人間力活性化によるスーパー日本人の育成拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌一
(72)【発明者】
【氏名】小山 佳久
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】小林 光
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠輝
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130709(WO,A1)
【文献】特開2016-155118(JP,A)
【文献】特開2017-104848(JP,A)
【文献】国際公開第2007/021034(WO,A1)
【文献】J Nanopart Res,2017年,Vol. 19, 176,pp. 1-9
【文献】Oxidative Medicine and Cellular Longevity,2012年,Vol. 2012, Article ID 353152,pp. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
A23L 33/21
A61K 9/14
A61K 9/16
A61P 1/04
A61P 17/00
A61P 29/00
A61P 39/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン微粒子を含有する炎症性疾患の予防又は治療剤であって、該シリコン微粒子は、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子であり、該炎症性疾患は、消化管の炎症性疾患又は皮膚炎である、予防又は治療剤
【請求項2】
前記炎症性疾患が、消化管の炎症性疾患である、請求項に記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
前記消化管の炎症性疾患が、炎症性腸疾患である、請求項に記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
前記炎症性疾患が、皮膚炎である、請求項に記載の予防又は治療剤。
【請求項5】
前記皮膚炎の症状が、炎症部の腫脹及び/又は肥厚である、請求項4に記載の予防又は治療剤
【請求項6】
前記皮膚炎が、接触性皮膚炎である、請求項4又は5に記載の予防又は治療剤。
【請求項7】
前記シリコン結晶子の結晶子径が、0.5nm以上100μm以下である、請求項1~6のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項8】
前記表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子が、水と接して水素を発生し得る粒子である、請求項1~7のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項9】
前記表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子の凝集体を含む、請求項1~8のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項10】
前記表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子が、シリコン単体の塊もしくは粒子が粉砕された粒子である、請求項1~9のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項11】
前記酸化シリコン膜が、水酸基を含む酸化シリコン膜である、請求項1~10のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項12】
経口投与用である、請求項1~11のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
【請求項13】
シリコン微粒子を含有する炎症性疾患の予防又は治療用医薬組成物であって、該シリコン微粒子は、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子であり、該炎症性疾患は、消化管の炎症性疾患又は皮膚炎である、予防又は治療用医薬組成物
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1に記載の予防又は治療剤を含有する消化管の炎症性疾患又は皮膚炎の予防又は治療用食品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ストレスに起因する疾患の予防又は治療に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素は、生命維持に必要である一方、生体を構成する細胞を酸化して損傷させることが知られている。活性酸素は、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素を含むが、ヒドロキシルラジカルはきわめて酸化力が高いラジカルであり、生体内で発生すると近接する物質、例えば、DNA、脂質、タンパク質等を酸化し、臓器に損傷を与えることが知られている。ヒドロキシルラジカルは、このような作用により、癌、生活習慣病等のさまざまな病気、及び老化を引き起こすとされている。大腸でもヒドロキシラジカルによる酸化が一因で障害が惹起され炎症が亢進することが報告されている(非特許文献1)
【0003】
体内で生成したヒドロキシルラジカルを消滅させる物質として水素が知られている。水素がヒドロキシルラジカルと反応して生成するのは水であり、生体に有害な物質を生成しない。そこで、体内のヒドロキシルラジカルを消滅させる水素を含有する水素水については多くの報告がある。
【0004】
ところが、飽和水素濃度は室温で1.6ppmであり、1リットルの水素水中に含まれる水素量は飽和状態でも気体換算で18ml(ミリリットル)にすぎない。また、水素は分子サイズが小さく水素水中の水素は容器を通過して空気中に拡散し、水素水中の溶存水素量を維持することは難しい。また、たとえ高濃度の水素水を摂取したとしても、胃等の上部消化管において水素水中の水素の多くがガス化してしまい、呑気症状(いわゆる「げっぷ」)を引き起こすこともある。したがって、水素水を摂取するという方法では、体内のヒドロキシルラジカルと反応させるために十分な量の水素を体内に取り込むことは容易ではない。さらに、水素が吸収され各器官に輸送されても、その濃度は1時間程度で水素水摂取前の濃度に戻る。また、日常生活の中で気体の水素を吸引することは難しい。
【0005】
シリコン(ケイ素、Si)は半導体材料等、幅広い分野で使用されているものである。本願発明者等は、シリコン微粒子と水との反応性を種々検討してきた。
【0006】
本願発明者等は、シリコン微粒子は水と接して水素を発生し得えることを見いだした。反応は、以下の式で示される。
Si+2HO→SiO+2H
また、pHが5未満の水との接触ではこの反応はほとんど進行せず、pH7以上の水に接したときは、反応が進行し、pH8以上で反応がより速く進行することを見いだした。また、シリコン微粒子を表面処理することにより、上記反応が好適に進むことを見いだした。さらに、シリコン微粒子は水と接触している間、持続的に20時間以上にわたり水素を発生し続け、条件によっては、シリコン微粒子1gで水素を400ml以上発生することを見いだした(特許文献1~6、非特許文献2)。水素400mlは飽和水素水22リットルに含まれる水素に相当する。
【0007】
炎症性疾患は炎症症状を伴う疾患である。炎症には、全身性に発症する炎症と局所で発症する炎症があり、全身性の炎症は、例えば敗血症等が挙げられ、局所の炎症は、例えば炎症性腸疾患や関節炎等が挙げられる。
【0008】
国の指定難病である潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の原因はいまだ特定されておらず、根治的療法が確立されていないため完治は難しい。現在の治療は対症療法であり、主な対症療法は下記に挙げる薬物療法である。
抗炎症剤:5-アミノサリチル酸薬、副腎皮質ステロイド剤
抗サイトカイン療法:抗TNFα抗体製剤
免疫抑制剤:アザチオプリン、6-MP(メルカプトプリン)
【0009】
薬物療法で症状が改善しない場合、LCAP(白血球除去療法)、GCAP(顆粒球除去療法)といった血球成分除去療法や外科的治療(潰瘍性大腸炎:人工肛門作製等、クローン病:小範囲の切除や狭窄形成術等)が施される。
【0010】
一方、炎症性腸疾患の罹患率は増加の一途をたどっているため、新規予防方法、新規治療方法が望まれている。
【0011】
関節炎は、関節のはれと痛みを主症状とし、化膿や疼痛などを伴い、運動障害を呈することもある。結核性や梅毒性などの細菌性のものとリウマチや外傷に起因するものに大別される。人口の高齢化や肥満の増加により罹患患者は年々増加し、経済負担も数年後には莫大になるため、より有効な治療薬や予防薬の開発は急務である。現在の治療法には、保存的治療法と手術的治療法がある。前者にはリハビリテーション中心の運動療法、痛みを軽減する温熱療法、杖などの補助器具を用いる装具療法及び薬物療法(消炎鎮痛剤:NSAIDs、抗リウマチ薬:DMARDs、ステロイド、JAK阻害剤、ヒアルロン酸製剤など)がある。後者には関節鏡手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2016-155118号公報
【文献】特開2017-104848号公報
【文献】国際公開2017/130709号公報
【文献】国際公開2018/037752号公報
【文献】国際公開2018/037818号公報
【文献】国際公開2018/037819号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Yan H, et al. Int J Clin Exp Med. 2015 Nov 15;8(11):20245-53
【文献】松田真輔ほか、シリコンナノ粒子による水の分解と水素濃度、第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集、2015、11a-A27-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、酸化ストレスに起因する疾患の予防又は治療のための医薬、医療機器、衛生用品、食品、又は飲料等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、シリコン微粒子が酸化ストレスに起因する疾患を予防及び/又は治療することができることを見出し、本発明を完成した。
1.シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療剤。
2.前記酸化ストレスに起因する疾患が、炎症性疾患である、前項1に記載の予防又は治療剤。
3.前記炎症性疾患が、消化管の炎症性疾患である、前項2に記載の予防又は治療剤。
4.前記消化管の炎症性疾患が、炎症性腸疾患である、前項3に記載の予防又は治療剤。
5.前記炎症性疾患が、肝炎である、前項2に記載の予防又は治療剤。
6.前記肝炎が、急性肝炎である、前項5に記載の予防又は治療剤。
7.前記炎症性疾患が、皮膚炎である、前項2に記載の予防又は治療剤。
8.前記皮膚炎が、接触性皮膚炎である、前項7に記載の予防又は治療剤。
9.前記シリコン微粒子が、水と接して水素を発生し得るシリコンを含有する微粒子である、前項1~8のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
10.前記シリコン微粒子が、シリコン微細粒子及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体である、前項1~9のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
11.前記シリコン微細粒子が、シリコン単体からなる微細粒子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成されている微細粒子である、前項10に記載の予防又は治療剤。
12.前記シリコン微細粒子が、シリコン単体の塊もしくは粒子が粉砕された微細粒子である、前項10又は11に記載の予防又は治療剤。
13.前記シリコン微細粒子の凝集体の粒子径が、10nm以上500μm以下である、前項10~12のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
14.前記シリコン微細粒子が、シリコン結晶子である、前項10~13のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
15.前記シリコン微粒子が多孔質シリコン粒子である、前項1~9のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
16.前記シリコン微粒子が、親水化処理されたシリコン微粒子である、前項1~15のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
17.前記親水化処理が、過酸化水素水処理である、前項16に記載の予防又は治療剤。
18.経口投与用である、前項1~17のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
19.シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療用医薬組成物。
20.前項1~18のいずれか1に記載の予防又は治療剤を含有する医療機器。
21.前項1~18のいずれか1に記載の予防又は治療剤を含有する衛生用品。
22.前項1~18のいずれか1に記載の予防又は治療剤を含有する食品又は飲料。
【発明の効果】
【0016】
本発明の予防又は治療剤は、酸化ストレスに起因する疾患を予防及び/又は治療することができる。その予防効果及び治療効果は非常に優れている。
【0017】
本発明の予防又は治療剤が含有するシリコン微粒子は、水素を発生することができる微粒子である。水素発生反応にはOHイオンが触媒的に働くため、アルカリ性下で水素が効率的に20時間以上持続して水素を発生する。一方、通常ヒトの腸内の食物の滞留時間は20時間以上である。
【0018】
経口投与された本発明の予防又は治療剤は、腸内で長時間にわたって水素を発生し続け、体内に水素を配給し続けることができる。また、皮膚上もしくは粘膜上に本発明の予防又は治療剤を長時間留置すると、長時間にわたって体内に水素を配給し続けることができると考えられる。このように水素を配給し続けることにより体内の抗酸化力が向上し、その向上した抗酸化力が維持されると考えられる。
【0019】
本発明の予防又は治療剤は、水素水と比較して顕著に優れた効果を発揮する。水素水や気体の水素では、長時間にわたり連続的に体内に水素を配給し続けることができなかったが、本発明の予防又は治療剤は長時間にわたり連続的に体内に水素を配給し続けることができる。さらに本発明の予防又は治療剤には顕著な効果があることから、水素水にはない作用があるとも考えられる。
【0020】
本発明の予防又は治療剤による予防及び治療は、酸化ストレスに起因する疾患の原因療法の1つになり得る。原因療法は効果に優れ安全性にも優れている。また、本発明の予防又は治療剤は、ヒドロキシルラジカルと反応して生成する生成物が水であることからも安全性に優れている。酸化ストレスに起因する疾患の患者は、近年増加しており、根治療法がない疾患も多いことより、酸化ストレスに起因する疾患の原因療法を見いだしたことは、今後の医療や健康増進に大いに貢献するものである。
【0021】
また、本発明の予防又は治療剤は、水素水のように投与前に水素が拡散してしまうことがない。この性質は製品の品質保持に貢献し、製造者、販売者及び利用者の利便性に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例2で得られたシリコン微粒子を36℃、pH8.2の水に接触させることによって発生したシリコン微粒子1gあたりの水素量(累積量)を示すグラフである。
図2図2は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、シリコン結晶子の凝集体の写真である。
図3図3は、シリコン微粒子を8週間投与した正常SDラットの血漿の抗酸化力(BAPテスト)の結果を示すグラフである。Conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群を示す。
図4図4は、リポポリサッカライド(LPS)により炎症が惹起されたマウスにシリコン微粒子を投与した結果を示すグラフである。Conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群を示す。Salは生理食塩水腹腔投与群、LPSはLPS腹腔投与群を示す。縦軸はIL-6の濃度(pg/ml)およびTNF-αの濃度(pg/ml)を示す。
図5図5は、炎症性腸疾患モデルマウスにシリコン微粒子を投与した後の血液中の2種類の過酸化脂質、LPO(Lipid hydroperoxide)とHEL(ヘキサノイルリジン)の各濃度を示すグラフである。Conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群を示す。
図6図6は、炎症性腸疾患モデルマウスにシリコン微粒子を投与した結果(体重減少率、大腸炎スコア及び生存率)を示すグラフである。○はコントロール群、●はシリコン微粒子投与群を示す。
図7図7は、炎症性腸疾患モデルマウスにシリコン微粒子を投与した後の大腸の状態を示す写真と大腸の長さ(cm)を示すグラフである。conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群を示す。
図8図8は、野生型マウス(sham)と炎症性腸疾患モデルマウスにシリコン微粒子を投与した後の大腸の状態を示す写真と大腸の長さ(cm)を示すグラフである。conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群を示す。
図9図9は、DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)投与開始から3日目(3d)の結腸と直腸の病理組織像を示す。Siはシリコン微粒子投与群を示す。
図10図10は、DSS投与開始から5日目(5d)の結腸と直腸の病理組織像を示す。Siはシリコン微粒子投与群を示す。
図11図11は、陰窩崩壊度を解析した結果を示す。Conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群を示す。
図12図12は、嘔吐中枢領域である延髄背側部の蛍光免疫染色写真を示す。白色のシグナルは神経活性マーカー因子であるc-Fos陽性細胞を示す。Conはコントロールのモデルマウスの延髄背側部、Siはシリコン微粒子投与のモデルマウスの延髄背側部である。APは最後野、ccは中心管及び12Nが舌下神経核を示す。円は内臓不快感や内臓痛に反応する迷走神経背側運動核と孤束核の位置を示す。なお、図面の写真はグレースケールのため、緑色の蛍光シグナルは、白色シグナルで示されている。
図13図13は、扁桃体の蛍光免疫染色写真を示す。白色のシグナルは神経活性マーカー因子であるc-Fos陽性細胞を示す。Conはコントロールのモデルマウスの扁桃体、Siはシリコン微粒子投与のモデルマウスの扁桃体である。上下の2枚の上段は、同一マウスの左側扁桃体であり下段は右側扁桃体である。BLAは扁桃体基底外側核を示す。矢印は内臓痛など痛みに反応する扁桃体中心核を指し示している。なお、図面の写真はグレースケールのため、緑色の蛍光シグナルは、白色シグナルで示されている。
図14図14は、比較のために作製した水素水の溶存水素濃度を示すグラフである。縦軸は溶存水素濃度(ppm)、横軸は水素水精製後の経過時間(分)を示す。
図15図15は、炎症性腸疾患モデルマウスにシリコン微粒子又は水素水を投与した後の大腸の状態を示す病理画像と大腸の短縮度合いを示すグラフである。Conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群、Hydrogen Waterは水素水投与群を示す。
図16図16は、接触性皮膚炎モデルマウスの耳介の厚さを示すグラフである。1日目は感作前、2日目は感作の日の1日後及び3日目は感作の日の2日後の耳介の厚さの実測値(mm)を示す。Siはシリコン微粒子投与群、Conはコントロール群を示す。
図17図17は、接触性皮膚炎モデルマウスにおける肥厚度(1日目と2日目の耳介厚の差、2日目と3日目の耳介厚の差、1日目と3日目の耳介厚の差)を示すグラフである。Siはシリコン微粒子投与群、Conはコントロール群を示す。
図18図18は、急性肝炎モデルマウスの生存率を示すグラフである。Siはシリコン微粒子投与群、Conはコントロール群を示す。左図は各群の生存率の平均値の比較、右図は個別の生存率の比較したグラフである。
図19図19は、関節炎モデルマウスにおける通常食群とシリコン微粒子含有食群の関節炎発症率を示すグラフである。縦軸は関節炎発症率を示す。□:通常食、■:シリコン微粒子含有食
図20図20は、関節炎モデルマウスにおける通常食群とシリコン微粒子含有食群の「関節炎指数(全四肢平均)」を示すグラフである。関節炎発症基準(4段階の評点;0:変化無し;1:足指の腫脹;2:足指及び足裏、甲の腫脹;3:足全体の腫脹;4:重度の腫脹)に基づき各肢の炎症度を点数化し関節炎指数とし、各肢(四肢)の関節炎指数の平均値を各個体の関節炎指数(全四肢平均)とし、各群における各個体の関節炎指数(全四肢平均)の平均値を図17に示した。縦軸は関節炎指数(全四肢平均)、横軸は第2回目感作時からの時間(週)を示す。□:通常食、■:シリコン微粒子含有食
図21図21は、関節炎モデルマウスにおける通常食群とシリコン微粒子含有食群の「関節炎指数(最大炎症肢)」を示すグラフである。関節炎発症基準(4段階の評点;0:変化無し;1:足指の腫脹;2:足指及び足裏、甲の腫脹;3:足全体の腫脹;4:重度の腫脹)に基づき最大炎症肢の炎症度を点数化し、各個体の関節炎指数(最大炎症肢)とし、各群における各個体の関節炎指数(最大炎症肢)の平均値を図21に示した。縦軸は関節炎指数(最大炎症肢)、横軸は第2回目感作時からの時間(週)を示す。○:通常食、●:シリコン微粒子含有食
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微粒子は、シリコンを含有する微粒子であって、水と接して水素を発生し得るシリコンを含有する微粒子であればよい。
【0024】
前記の「水と接して水素を発生し得るシリコンを含有する微粒子」(水素発生能を有するシリコン微粒子)とは、36℃、pH8.2の水に接したときに、持続的に水素を発生し、24時間でシリコン微粒子1グラムあたり10ml以上の水素を発生することができるシリコン微粒子を意味する。好ましくは、20ml以上、40ml以上、80ml以上、150ml以上、200ml以上、300ml以上である。
【0025】
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微粒子は、好ましくはシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び/又は、多孔質シリコン粒子(ポーラスシリコン粒子)である。
【0026】
本発明の予防又は治療剤の有効成分は、好ましくは、シリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び、多孔質シリコン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子である。すなわち、好ましい有効成分としては、シリコン微細粒子単独でもよく、シリコン微細粒子の凝集体単独でもよく、多孔質シリコン粒子単独でもよい。また有効成分として2種以上のシリコン微粒子を含んでいてもよい。本発明の予防剤又は治療剤は、好ましくは、シリコン微細粒子及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体を含有する。より好ましくは、シリコン微細粒子の凝集体を主成分とする。
【0027】
本発明におけるシリコン微粒子は、シリコン単体からなる微粒子であることが好ましいが、シリコン単体は、大気に曝露した場合、表面が酸化され酸化シリコン膜が生成する。よって、本発明におけるシリコン微粒子は、表面に酸化シリコン膜が形成されている微粒子であることが好ましい。本発明における好ましいシリコン微粒子は、シリコン単体からなる微細粒子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成さているシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び多孔質のシリコン単体からなる粒子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成されている多孔質シリコン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子である。
【0028】
シリコン微粒子中のシリコンの含有量は、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20%重量以上、さらに好ましくは50%重量以上、最も好ましくは70重量%以上である。
【0029】
前記シリコン単体とは、高純度シリコンある。本明細書において、高純度シリコンとは、シリコンの純度が99%以上、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.99%以上のシリコンである。
【0030】
シリコン微粒子の形に制限はない。不定形、多角形、球、楕円形、円柱状等が挙げられる。
【0031】
前記シリコン微粒子は、結晶性を有する結晶シリコン微粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファスシリコン微粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも多結晶でもよい。好ましくは、結晶シリコン微粒子であり、より好ましくは単結晶シリコン微粒子である。
【0032】
前記アモルファスシリコン微粒子は、プラズマCV法やレーザーアブレーション法等で形成されるアモルファスシリコン微粒子であり得る。
【0033】
本発明におけるシリコン微粒子の表面に形成される前記酸化シリコン膜は、大気に曝され自然に酸化されて形成された酸化シリコン膜であり得る。また、硝酸等の酸化剤による化学酸化等の公知の方法により、人為的に形成された酸化シリコン膜であり得る。
【0034】
前記酸化シリコン膜の厚さは、シリコン単体からなる微粒子が安定し、効率的な水素発生を可能にする厚さであればよい。例えば0.3nm~3nm、0.5nm~2.5nm、0.7~2nm、0.8nm~1.8nm、1.0~1.7nmである。酸化シリコン膜は、シリコン単体からなる微粒子の表面のシリコンが酸素と結合して、SiO、SiO、Si、SiO等の酸化物を含む膜である。SiO、SiO、Si等は水素発生反応を促進する。
【0035】
前記シリコン微細粒子は、結晶性を有する結晶シリコン微細粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファスシリコン微細粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも多結晶でもよい。好ましいシリコン微細粒子は、結晶シリコン微細粒子であり、より好ましくは単結晶シリコン微細粒子(以下、シリコン結晶子ともいう)である。
【0036】
前記シリコン微細粒子は、単結晶シリコン微細粒子、多結晶シリコン微細粒子及びアモルファスシリコン微細粒子からなる群から選択される少なくとも2つが混合された微細粒子であり得る。
【0037】
本発明におけるシリコン微細粒子は、シリコン微細粒子が製造された後に自然に又は人為的に酸化シリコン膜が形成されたシリコン微細粒子であり得る。より好ましいシリコン微細粒子は、シリコン結晶子の表面に酸化シリコン膜が形成されている微細粒子である。
【0038】
本発明におけるシリコン微細粒子は、シリコン単体(高純度シリコン)の塊が粉砕された粒子又はシリコン単体の粒子が粉砕された粒子であり得る。シリコン単体の塊もしくは粒子が粉砕されてシリコン微細粒子が製造されると、そのシリコン微細粒子の表面が自然酸化されて酸化シリコン膜が形成される。
【0039】
本発明におけるシリコン微細粒子の粒子径(微細粒子がシリコン結晶子である場合は結晶子径)は、好ましくは、0.5nm以上100μm以下であり、より好ましくは1nm以上50μm以下、より好ましくは1.5nm以上10μm以下、より好ましくは、2nm以上5μm以下、より好ましくは、2.5nm以上1μm以下、5nm以上500nm以下、7.5nm以上200nm以下、10nm以上100nm以下である。粒子経が500nm以下であれば、好適な水素の発生速度及び水素発生量が得られ、200nm以下であればさらに好適な水素の発生速度及び水素発生量が得られる。
【0040】
本発明におけるシリコン微細粒子の凝集体は、前記シリコン微細粒子の凝集体である。自然に形成されたものでも、人為的に形成されたものでもよい。好ましくは、酸化シリコン膜が形成されたシリコン微細粒子が凝集した凝集体である。自然に形成された凝集体は、消化管内で凝集したままであると考えられる。好ましい凝集体は、内部に空隙を有し水分子が凝集体に浸入して内部の微細粒子と反応できる構造を有する。自然に形成された凝集体の水素発生速度は、凝集体サイズに依存しないことより、該凝集体は、内部に空隙を有し水分子が凝集体に浸入して内部の微細粒子と反応できる構造を有する。
【0041】
シリコン微細粒子の凝集体の大きさに特に制限はない。好ましいシリコン微細粒子の凝集体の粒子径は、10nm以上500μm以下である。より好ましくは、50nm以上100μm以下である、さらに好ましくは100nm以上50μm以下である。凝集体は微細粒子の表面積を保持するように形成され得、高い水素発生能を実現するために十分な表面積を有し得る。
【0042】
本発明におけるシリコン微細粒子の凝集体を構成するシリコン微細粒子の粒子径は、好ましくは、0.5nm以上100μm以下であり、より好ましくは1nm以上50μm以下、より好ましくは1.5nm以上10μm以下、より好ましくは、2nm以上5μm以下、より好ましくは、2.5nm以上1μm以下、5nm以上500nm以下、7.5nm以上200nm以下、10nm以上100nm以下である。シリコン凝集体を構成するシリコン微細粒子は、結晶シリコン微細粒子であってもアモルファスシリコン微細粒子であってもよい。好ましい凝集体は、結晶子径1nm以上10μm以下のシリコン結晶子の凝集体である。好ましくは、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子が凝集した凝集体である。
【0043】
本発明の予防又は治療剤は、好ましくは結晶子径1nm~1μm、より好ましくは結晶子径1nm以上100nm以下のシリコン結晶子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成されている結晶子、及び/又はその凝集体を含有する。好ましくは、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子の凝集体を主成分として含有する。
【0044】
多孔質シリコン粒子(ポーラスシリコン粒子)は、シリコン粒子の多孔質体であり得る。またシリコン微細粒子が凝集され加工された多孔質体であってもよい。前記多孔質シリコン粒子は、好ましくは、多孔質のシリコン単体からなる粒子であって、表面に酸化シリコン膜が形成されている粒子である。
【0045】
前記多孔質シリコン粒子は、結晶性を有する多孔質シリコン粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファス多孔質シリコン粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも、多結晶でもよい。
【0046】
多孔質シリコン粒子に存在する空隙の大きさに制限はないが、通常は1nm~1μmであり得、多孔質シリコン粒子は高い水素発生能を実現するために十分な表面積を有する。多孔質シリコン粒子の大きさに特に制限はない。好ましくは200nm~400μmであり得る。
【0047】
シリコン微細粒子の凝集体及び多孔質シリコン粒子は、全体としての粒子径が大きく、かつ表面積が大きい粒子であるため、経口投与用には好適な粒子である。粒子が大きければ消化管、特に腸管の細胞膜及び細胞間を通過せず、体内にシリコン微粒子が吸収されず安全性の観点から優れている。
【0048】
本発明におけるシリコン微粒子は、親水化処理されたシリコン微粒子が好ましい。親水化処理されたシリコン微粒子は、表面と水の接触効率がよくなり、水素発生反応が促進され、多くの水素を発生することができる。親水化処理の方法は、特に限定されず、公知の親水化処理方法を用いればよい。例えば、過酸化水素水処理、硝酸処理が挙げられる。好ましくは過酸化水処理である。親水化処理は、粒子表面の酸化シリコン膜のSiH基を除去して水酸基を粒子表面に付加する処理が好ましい。該粒子表面とは、シリコン微細粒子の表面、多孔質シリコン粒子の表面、及びシリコン微細粒子の凝集体を形成するシリコン微細粒子の表面である。
【0049】
過酸化水素水処理の具体的方法は、例えば、シリコン微粒子を過酸化水素水中に浸漬して撹拌する。過酸化水素の濃度は1~30%が好ましく、より好ましくは1.5~20%であり、さらに好ましくは2~15%、2.5~10%、最も好ましくは3%である。浸漬して撹拌する時間は、5~90分が好ましく、より好ましくは10~80分、さらに好ましくは、20~70分である。最も好ましくは30~60分である過酸化水素水処理することによりシリコン微粒子の親水性を向上させることができるが、処理時間が長くなるとシリコン微粒子からの水素発生反応が進行してシリコン微粒子の酸化膜の厚みに影響を与える。過酸化水素水処理時の過酸化水素水の温度は20~60℃が好ましく、より好ましくは、25~50℃、より好ましくは30~40℃、最も好ましくは35℃である。
【0050】
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微細粒子の粒子サイズ分布、シリコン単体からなる微細粒子の粒子サイズ分布もしくは結晶子サイズ分布に特に制限はない。多分散であってもよい。特定範囲の粒子サイズもしくは結晶子サイズを持つシリコン微細粒子を含有する製剤であってもよい。また、シリコン微細粒子の凝集体のサイズ分布に特に制限はない。
【0051】
本発明のシリコン微粒子の製造方法に特に制限はないが、シリコン含有粒子を目的とする粒子径まで物理的に粉砕することによって製造することができる。物理的粉砕法の好適な例は、ビーズミル粉砕法、遊星ボールミル粉砕法、衝撃波粉砕法、高圧衝突法、ジェットミル粉砕法、又はこれらを2種以上組み合わせた粉砕法である。また、公知の化学的方法を採用することも可能である。製造コスト又は、製造管理の容易性の観点から、好適な粉砕法は、物理的粉砕法である。シリコン単体の微細粒子からなる微粒子は、大気に曝露することにより、表面が酸化され酸化シリコン膜が形成される。また、粉砕した後に過酸化水素水や硝酸等の酸化剤による化学酸化等の公知の方法により、人為的に酸化シリコン膜を形成させてもよい。
【0052】
シリコン含有粒子をビーズミル装置を用いて目的とする粒子径にまで粉砕して製造する場合、適宜、ビーズの大きさ及び/又は種類を変えることにより、目的とする粒子の大きさ又は粒度分布を得ることができる。
【0053】
出発材料のシリコン含有粒子は、高純度シリコン粒子であれば制限はない。例えば、市販の高純度シリコン粒子粉末が挙げられる。出発材料のシリコン含有粒子は単結晶でも多結晶でも、アモルファスでもよい。
【0054】
本発明は、酸化ストレスに起因する疾患の予防又は治療剤である。酸化ストレスに起因する疾患の予防又は治療剤には、酸化ストレスに起因する疾患を予防する剤、酸化ストレスに起因する疾患を治療する剤、及び酸化ストレスに起因する疾患を予防及び治療する剤が含まれる。
【0055】
本発明の予防又は治療剤は、酸化ストレスに起因する疾患に係る1つ以上の症状について、症状の発症の予防、症状の改善、症状の憎悪の抑制、症状の再発防止等の効果を奏する。
【0056】
前記酸化ストレスに起因する疾患とは、生体内で発生した活性酸素、特に酸化力の強いヒドロキシルラジカルが関与する疾患及び症状であり、ヒドロキシラジカルにより引き起こされる疾患及び症状、並びにヒドロキシラジカルを発生させることによって症状が悪化する疾患及び症状等を含む。ただし、本発明における酸化ストレスに起因する疾患には、腎臓疾患は含まれない。腎臓疾患とは、慢性腎不全、腎線維症、急性腎障害、腎虚血再灌流傷害、薬剤性腎障害、慢性腎臓病等である。
【0057】
本発明におけるシリコン微粒子は、in vitroでは、長時間(20時間以上)にわたり水素を発生し続ける性質を持つ。本発明の一実施形態の製剤では、シリコン微粒子がpH7以上の水と接触すると水素を発生し、pH8以上でより多くの水素を発生する。一方、pH5以下では水素をほとんど発生しない性質を有する。
【0058】
本発明におけるシリコン微粒子を経口投与した場合には、上記のような性質により、胃では水素をほとんど発生しないと考えらえるが、腸内で水素を発生する。正常マウスに本発明におけるシリコン微粒子を投与すると大腸の一部である盲腸において水素発生が確認され、同条件で正常マウスに通常食を与えても、水素は検出限界以下であった。腸内の食物の滞留時間は、通常ヒトでは20時間以上であることより、本発明の予防又は治療剤は、経口投与されることにより腸内で長時間にわたって水素を発生し続け、体内に水素を配給することができると考えられる。
【0059】
また皮膚又は粘膜上にシリコン微粒子を長時間留置することにより経皮又は経粘膜で体内に水素を長時間にわたって配給することができると考えられる。
【0060】
また、ラットにシリコン微粒子を投与した後に、血漿の抗酸化力を評価(BAPテスト)したところ、シリコン微粒子投与群で抗酸化力が有意に高くなったことが確認されている。
【0061】
酸化ストレスに起因する疾患が予防及び/又は治療される作用機序の一つは、本発明におけるシリコン微粒子が長時間にわたり水素を発生し続け、発生した水素が、血中や各器官に輸送され、水素がヒドロキシルラジカルと選択的に反応することによると考えられる。また、血液中の抗酸化力が向上していることから、血液中で生成された抗酸化物質によるものと考えられる。さらに、水素水と比較して顕著な効果を示すことから、水素水にはない別の作用があることが考えられる。例えば、シリコン微粒子と水との反応のよって腸内で生じる発生初期状態の水素を、コバルト等の金属元素を含むタンパク質が捕獲するまたは水素原子が電子を供与する結果還元力が強くなったタンパク質が各器官に輸送され、ヒドロキシラジカルと反応し、それを消滅させる機序が考えられる。
【0062】
本発明の予防又は治療剤は、炎症性疾患の予防又は治療剤であり得る。酸化ストレスに起因する疾患として炎症性疾患が挙げられる。炎症性疾患は、炎症症状を伴う疾患である。炎症性疾患では、炎症性サイトカイン産生量が上昇し、血液中の炎症性サイトカインの濃度が上昇する。本発明の予防又は治療剤は、炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。炎症には、全身性に発症する炎症と局所で発症する炎症があり、全身性の炎症としては、敗血症、全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome、SIRS)、エンドトキシン血症等が挙げられる。局所の炎症としては、例えば、消化管の炎症性疾患、関節炎、皮膚炎、肝炎等が挙げられる。本発明は、炎症性疾患の原因療法の1つになり得る。
【0063】
本発明の予防又は治療剤は、全身性の炎症性疾患の予防又は治療剤であり得る。また、本発明は敗血症の予防又は治療剤であり得る。
【0064】
本発明の予防又は治療剤は、消化管の炎症性疾患の予防又は治療剤であり得る。消化管は口から肛門につながる食物が通る管であり、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸等を含む。消化管の炎症性疾患には、それぞれの場所での炎症性の疾患を含む。例えば、炎症性腸疾患、胃潰瘍、十二指腸潰瘍が含まれる。また、炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎、クローン病、ベーチェット病等が含まれる。
【0065】
本発明の予防又は治療剤は、炎症性腸疾患の予防又は治療剤であり得る。また、本発明の予防治療剤は、潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤であり得る。本発明におけるシリコン微粒子は炎症性腸疾患において優れた予防及び/又は治療効果を示す。その効果は水素水より顕著に優れている。本発明の予防又は治療剤を投与することにより、体重減少や下痢等の大腸炎の症状の進行が抑制され、炎症性腸疾患の悪化が抑制される。また、炎症による出血が抑制され、炎症による細胞の死滅による大腸の短縮が抑制される。また、大腸炎の特徴である陰窩崩壊、ひだの消失が抑制される。また、本発明におけるシリコン微粒子の投与により炎症性腸疾患に伴う内臓不快感や内臓痛(腹痛等)が軽減される。これば、内臓不快感や内臓痛に反応する延髄の迷走神経背側運動核及び孤束核、並びに扁桃体の中心核の神経活性化がシリコン微粒子により抑制されることによる。本発明のシリコン微粒子の投与により血液中の抗酸化力を向上させることができる。シリコン微粒子投与の炎症性腸疾患モデルマウスの血液中の脂質の酸化が抑制されていることが確認された。
【0066】
対症療法、血球成分除去療法又は外科治療しかなかった炎症性腸疾患の原因療法を見いだしたことは、今後の予防と治療に大いに貢献する。
【0067】
本発明の予防又は治療剤は、皮膚炎の予防又は治療剤であり得る。本発明におけるシリコン微粒子は皮膚炎において優れた予防及び/又は治療効果を示す。本明細書における皮膚炎には、接触性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、接触じんま疹等が含まれる。好適には本発明の予防又は治療剤は接触性皮膚炎の予防又は治療剤であり得る。本発明の予防又は治療剤は、皮膚炎の炎症部の腫脹及び/又は肥厚の抑制剤であり得る。また、本発明の予防又は治療剤は接触性皮膚炎における炎症部の腫脹及び/又は肥厚の抑制剤であり得る。皮膚炎の原因療法を見いだしたことは、今後の医療や健康増進に大いに貢献するものである。
【0068】
本発明の予防又は治療剤は、肝炎の予防又は治療剤であり得る。本発明におけるシリコン微粒子は肝炎において優れた予防及び/又は治療効果を示す。本明細書における肝炎には、急性肝炎、慢性肝炎が含まれる。本明細書における肝炎には、アルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、薬物性肝炎等が含まれる。また、本明細書における急性肝炎の概念には、肝障害が著しい劇症肝炎が含まれる。本発明の予防又は治療剤は急性肝炎の予防治療剤であり得る。また、本発明の予防又は治療剤は劇症肝炎の予防治療剤であり得る。肝炎の原因療法を見いだしたことは、今後の医療や健康増進に大いに貢献するものである。
【0069】
本発明におけるシリコン微粒子は関節炎において優れた予防及び/又は治療効果を示す。本明細書における関節炎には、リウマチに起因する関節炎、細菌性の関節炎、外傷に起因する関節炎を含む。例えば、慢性関節リウマチ、結核性関節炎、乾癬性関節炎、脊椎関節炎等を含む。本発明の予防又は治療剤は、好適には、慢性関節リウマチの予防又は治療剤であり得る。また、本発明の予防又は治療剤は関節炎の発症抑制剤であり得る。また、本発明の予防治療剤は関節炎に伴う関節の腫脹の軽減剤であり得る。
【0070】
関節炎患者は、人口の高齢化や肥満の増加に伴い近年増加しており、関節炎の原因療法を見いだしたことは、今後の医療や健康増進に大いに貢献するものである。
【0071】
本発明の予防又は治療剤の予防又は治療対象は、ヒト及び非ヒト動物である。好ましい非ヒト動物として、ペットや家畜等が挙げられる。
【0072】
本発明におけるシリコン微粒子は、その1種又は2種以上がそのままヒトや非ヒト動物に投与されてもよいが、必要に応じて、許容される添加剤又は担体と混合され、当業者に周知の形態に製剤化されて投与され得る。そのような添加剤又は担体としては、例えば、pH調整剤(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、クエン酸等)、賦形剤(例えば、マンニトール、ソルビトールの如き糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプンの如きデンプン誘導体;又は、結晶セルロースの如きセルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムの如きステアリン酸金属塩;又はタルク等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムの如きセルロース誘導体等)、防腐剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンの如きパラオキシ安息香酸エステル類;又はクロロブタノール、ベンジルアルコールの如きアルコール類等)が挙げられる。これら添加剤及び担体は、単独又は2種以上を混合してシリコン微粒子に配合され得る。好ましい添加剤としては、pHを8以上に調整可能なpH調整剤が挙げられる。好ましいpH調整剤としては、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0073】
本発明の予防又は治療剤の投与経路に特に制限はないが、好ましい投与経路として、経口、経皮、経粘膜(口腔、直腸、膣等)が挙げられる。
【0074】
経口投与用製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤(ドライシロップ剤)、経口ゼリー剤などが挙げられる。経皮投与用又は経粘膜投与用製剤としては、貼付剤、軟膏剤等が挙げられる。
【0075】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤及び散剤等は、腸溶性製剤とすることができる。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤に腸溶性のコーティングを施す。腸溶性コーティング剤としては、胃難溶性腸溶性コーティング剤を用いることができる。カプセル剤は腸溶性カプセルに、本発明のシリコン微粒子を充填することにより、腸溶性にすることができる。また、水素の発生速度は、シリコン微粒子の粒子径や粒度分布の調整により調整することができる。
【0076】
本発明の予防又は治療剤は、上記の剤形に製剤化した後、ヒト又は非ヒト動物に投与され得る。
【0077】
本発明の予防又は治療剤中のシリコン微粒子の含有量は特に制限はないが、例えば、0.1~100重量%、1~99重量%、5~95%が挙げられる。
【0078】
本発明におけるシリコン微粒子の投与量及び投与回数は、投与対象、その年齢、体重、性別、目的(予防用か治療用か等)、症状の重篤度、剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、シリコン微粒子の好ましい投与量は、例えば、1日当たり、約0.1mg~10g、好ましくは約1mg~5g、より好ましくは約1mg~2g投与される。また、投与回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。例えば、1日当たり1~3回、1~2回、又は1回であってよい。
【0079】
本発明のシリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療剤は、医薬品、医薬部外品、医療機器、衛生用品、食品、飲料に利用することができる。
【0080】
本願はまた、シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療用医薬組成物の発明に係るものである。本願はまた、前記シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療剤を含有する医薬組成物の発明に係るものである。本発明における医薬組成物は、医薬部外品に該当するような作用が緩やかな組成物も含む。本発明の医薬組成物の実施形態は、上述の予防又は治療剤に係る発明の実施形態を挙げることができる。
【0081】
本願はまた、前記シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療剤を含有する医療機器の発明に係るものである。また、前記シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療用医療機器の発明に係るものである。本発明における医療機器とは、ヒト若しくは非ヒト動物の疾病の治療もしくは予防に使用されることが目的とされている用具や器具等である。医療機器として、例えばマスクが挙げられる。本発明のマスクを装着することにより、気管又は肺に直接水素を供給することができる。また、他の例として、絆創膏が挙げられる。
【0082】
本願はまた、シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防用衛生用品の発明に係るものである。本発明の実施形態は、上述の予防又は治療剤に係る発明の実施形態を挙げることができる。本発明の衛生用品は、ヒトや非ヒト動物の皮膚や粘膜に接する用具、用品であり得、医薬部外品に分類されるものも含まれる。例えば、おむつや生理用品が挙げられる。
【0083】
本願はまた、前記シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療剤を含有する食品又は飲料の発明に係るものである。また、前記シリコン微粒子を含有する酸化ストレスに起因する疾患(ただし、腎臓疾患は除く)の予防又は治療用食品又は飲料の発明に係るものである。本発明の食品又は飲料の好ましい例としては、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品等が挙げられる。食品又は飲料の形態に制限はない。例えば、既存の食品や飲料に混合した混合物の形態や製剤化した形態が挙げられる。例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、ゼリー等が挙げられる。
【0084】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0085】
<実施例1>
高純度シリコン粉末(高純度化学研究所社製、粒度分布<φ5μm(但し、結晶粒子径が1μm超のシリコン粒子)、純度99.9%)200gを、99.5wt%のエタノール溶液4L(リットル)中に分散させ、φ0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)を加えて、ビーズミル装置(アイメックス株式会社製、横型連続式レディーミル(型式、RHM-08))を用いて、4時間、回転数2500rpmで粉砕(一段階粉砕)を行って微細化した。
【0086】
微細化されたシリコン粒子を含むエタノール溶液は、ビーズミル装置の粉砕室内部に設けられたセパレーションスリットにより、ビーズと分離された後、減圧蒸発装置を用いて30℃~35℃に加熱された。エタノール溶液を蒸発させることによって、微細化されたシリコン粒子(結晶子)が得られた。
【0087】
上記方法により得られた、微細化されたシリコン粒子(結晶子)は、主として、結晶子径が1nm以上100nm以下であり、ほとんどの結晶子が凝集体を形成していた。また、結晶子は酸化シリコン膜に被覆されており、酸化シリコン膜の厚さは約1nmであった。このシリコン結晶子をX線回折装置(リガク電機製スマートラボ)によって測定した結果、体積分布において、モード径が6.6nm、メジアン径が14.0nm、平均結晶子径が20.3nmであった。得られた酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。
【0088】
<実施例2>
実施例1で得られたシリコン結晶子及びその凝集体を、ガラス容器中で、過酸化水素水(3wt%)と混合し、35℃で30分間撹拌した。過酸化水素水で処理されたシリコン結晶子及びその凝集体を、公知の遠心分離処理装置を用いて、固液分離処理によって過酸化水素水を除いた。さらにその後、得られたシリコン結晶子及びその凝集体とエタノール溶液(99.5wt%)とを混合し、十分に撹拌した。エタノール溶液と混合されたシリコン結晶子及びその凝集体を、公知の遠心分離処理装置を用いて、固液分離処理によって揮発性の高いエタノール溶液を除いてから十分に乾燥させた。得られた過酸化水素水処理された、酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。なお、得られたシリコン結晶子の凝集体の水素発生速度は、凝集体サイズに依存しなかった。
【0089】
実施例2で得られたシリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体)の水素発生量を測定した。シリコン微粒子10mgを容量100mlのガラス瓶(硼ケイ酸ガラス厚さ1mm程度、ASONE社製ラボランスクリュー管瓶)に入れた。炭酸水素ナトリウムでpH8.2に調整した水をこのガラス瓶に入れて、液温を36℃の温度条件において密閉し、該ガラス瓶内の液中の水素濃度を測定した。水素濃度の測定には、ポータブル溶存水素計(東亜DKK株式会社製、型式DH-35A)を用いた。シリコン微粒子1gあたりの水素発生量を図1に示す。
【0090】
<実施例3>
実施例2で得られたシリコン結晶子及びその凝集体の混合物から凝集体を分離した。得られたシリコン結晶子の凝集体は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。得られたシリコン結晶子の凝集体の電子走査顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
【0091】
<実施例4>
実施例1と同様に一段階粉砕を行った。一段階粉砕に用いたφ0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)は、ビーズミル粉砕室内部において、自動的にシリコン結晶子を含む溶液から分離された。得られたシリコン結晶子を含む溶液に、0.3μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)を加えて4時間、回転数2500rpmでシリコン結晶子をさらに粉砕(二段階粉砕)して微細化した。
【0092】
ビーズは、上述のとおりシリコン結晶子を含む溶液から分離され、得られたシリコン結晶子を含むエタノール溶液は、実施例1と同様に減圧蒸発装置を用いて40℃に加熱された。エタノールは蒸発し、二段階粉砕されたシリコン結晶子が得られた。このように二段階粉砕された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子も本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。
【0093】
<実施例5>
実施例2で得られた過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物を、市販のカプセル3号に充填し、カプセル製剤を得た。本カプセル製剤は過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子の凝集体を主成分とし、さらに過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子を含有する。
【0094】
<試験例>
I.シリコン微粒子含有食の調製
通常飼料(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)に、実施例2で製造されたシリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体)を2.5wt%になるように混合した。さらにクエン酸水溶液(pH4)を、該シリコン微粒子と該飼料との総量に対して約0.5wt%の量で加え、公知の混錬装置を用いて混錬し、シリコン微粒子含有食を得た。
【0095】
II.シリコン微粒子の薬理作用
【0096】
A.抗酸化力の向上
SDラット(6週齢)を入手した。シリコン微粒子投与群には、上記シリコン微粒子含有食を与え、コントロール群には、通常の飼料(通常食)(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を与えた。8週間投与後に採血し、血漿の抗酸化力の評価(BAPテスト)(フリーラジカル解析装置 FREE Carrio Duo)を行った。結果を図3に示す。シリコン微粒子投与群で有意に抗酸化力が高くなったことが示された。
【0097】
B.全身性の炎症性疾患モデルマウスにおける薬理試験
炎症反応を惹起するリポポリサッカライドをマウスに投与して産生される炎症性サイトカインに対してシリコン微粒子が与える影響を調べた。ICRマウス(雄7週齢、体重(30~35g)を日本SLCより入手した(Day1)。シリコン微粒子投与群には、上記シリコン微粒子含有食を与え、コントロール群には、通常の飼料(通常食)(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を与えた(Day1~Day7)。6日目(Day6)に生理食塩水又はリポポリサッカライド(LPS)1mg/kgを腹腔に投与した。投与後24時間後に採血し血清中の炎症性サイトカイン(IL‐6及びTNF‐α)の濃度をELISA(R&D systems社)により測定した。結果を図4に示す。LPS投与による炎症性サイトカインの産生量増加がシリコン微粒子によって抑制されることが示された。以上の結果より、本発明におけるシリコン微粒子により炎症性サイトカインの産生が抑制され、全身性の炎症性疾患に対して予防効果及び治療効果を発揮することが明かになった。
【0098】
C.炎症性腸疾患モデルマウスにおける薬理試験
C-1.炎症性腸疾患モデルマウスの作製
C57Bl6/Jマウス(雄7週齢、体重24~25g)を日本SLCより入手した。シリコン微粒子投与群には、上記シリコン微粒子含有食を与え、コントロール群には、通常の飼料(通常食)(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を与えた。各食餌開始の日(0d)の翌日(1d)より、シリコン微粒子投与群及びコントロール群に、5%デキストラン硫酸ナトリウム(以下、DSS)(MP Bio社)の自由飲水を開始し、炎症性腸疾患モデルマウスを作製した。このモデルは、炎症性腸疾患の標準モデルである。抗酸化力、体重減少、大腸炎スコア(表1)、生存率、生検材料検査所見(大腸の長さ、状態)、病理組織学的解析、内臓不快感や内臓痛に関与する神経活動、及び水素水との比較により、シリコン微粒子の有用性を評価した。
【0099】
C-2.抗酸化力の向上
DSS投与3日目(3d)のマウスの血液を採取した(各群5匹)。採取した血液中の2種類の過酸化脂質LPO(Lipid hydroperoxide)とHEL(ヘキサノイルリジン)の濃度を測定した。LPOの測定にはLPO測定キット(日本老化制御研究所)を用いた。HELの測定には、ヘキサノイルリジン測定キット(日本老化制御研究所)を用いた。LPOは、ヒドロペルオキシド基(-OOH)を有する脂質過酸化物の総称である。ヘキサノイルリジン(HEL)は脂質過酸化の初期段階を捉えることが可能な酸化ストレスバイオマーカーである。測定結果を図5に示す。LPOの生成及びHELの生成がシリコン微粒子投与により抑制されることが示され、シリコン微粒子投与により血液中の抗酸化力が向上していることが示された
【0100】
C-3.体重減少、大腸炎スコア、生存率
体重減少、大腸炎スコア(表1)及び生存率の試験では、25匹のシリコン微粒子投与群と25匹のコントロール群を用いた(各評価につき各群8匹)。
【0101】
【表1】
【0102】
体重減少、大腸炎スコア、生存率の結果を図6に示す。炎症性腸疾患モデルマウスにおいて、シリコン微粒子投与群が、コントロール群に比べて体重減少や大腸炎の進行が有意に抑制され、生存する確率も高い傾向が観察された。コントロール群のマウスは発症した炎症性腸疾患の病状が悪化していくのに対して、シリコン微粒子投与群マウスでは、炎症性腸疾患の悪化が有意に抑制された。
【0103】
C-4.生検材料検査
生検材料検査は、回腸を切断し盲腸から肛門を摘出して、大腸の長さ(結腸~直腸の長さ)を計測して行った。DSS投与後3日目(3d)のシリコン微粒子投与群8匹及びコントロール群8匹、並びに、DSS投与後5日目(5d)のシリコン微粒子投与群7匹及びコントロール群8匹から摘出した。また、野生型群4匹からも同様に回腸を切断し盲腸から肛門を摘出した。
【0104】
図7に、コントロール群とシリコン微粒子投与群の大腸の長さ(結腸~直腸の長さ)の比較を示す。3日目(3d)、5日目(3d)ともシリコン投与群の方が有意に長いことが示された。また、図7に摘出された盲腸から肛門の写真を示す。3d及び5dとも、コントロールマウスの直腸下部に出血が見られるが、シリコン微粒子投与マウスには出血は見られなかった。
【0105】
図8に、野生型群、3dのコントロール群、3dのシリコン微粒子投与群の大腸の長さ(結腸~直腸の長さ)の比較を示す。野生型群に比較して、コントロール群シリコン投与群とも有意に大腸が短縮していることが示され、シリコン投与群は大腸の短縮が抑制されていることが示された。また、図8に各群のマウスから摘出された盲腸から肛門の写真を示す。
【0106】
以上の生検材料検査所見より、シリコン微粒子投与により炎症による大腸の出血や長さの短縮が有意に抑制されることが示された。
【0107】
C-5.病理組織学的解析
図9図11は、病理組織学的解析結果を示す。図9は、3日目(3d)の結腸と直腸を示す。図10は5日目(5d)の結腸と直腸を示す。図11は陰窩崩壊度を解析した結果を示す。結腸、直腸において、ひだの脱落・消失、粘膜上皮組織の空胞化、陰窩の消失などの大腸炎の所見が見られたが、シリコン微粒子投与により、これらの大腸炎の症状が軽減していることが示された。陰窩崩壊度は半分以下に抑制されていた。
【0108】
C-6.内臓痛や内臓不快感に関与する神経細胞活性化の抑制
内臓痛や内臓不快感に関与する神経細胞の活動を解析するために、延髄背側部と扁桃体の神経活性化をc-Fos発現を指標に評価した。DSS投与後5日目(5d)に、4%パラホルムアルデヒド含有0.1Mリン酸緩衝液でかん流固定を行った。30%ショ糖含有0.1Mリン酸緩衝液にて氷晶防止処理を行った後に粉末状のドライアイスにて凍結した。
【0109】
ミクロトーム(クリオスタット)にて30μm厚の切片を作製し、浮遊法にて蛍光免疫染色を行った。3%牛血清アルブミンタンパク質(BSA)及び0.3%Triton-X含有0.01Mリン酸緩衝液でブロッキング処理を行った後、一次抗体、抗c-Fos抗体(Rabbit polyclonal antibody)(アブカム社)を1000倍希釈でブロッキング溶液に懸濁した。この一次抗体反応液中で一晩サンプルを反応させた。0.01Mリン酸緩衝液で洗浄後、2次抗体、Alexa Fluor(登録商標)488結合抗ウサギIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を0.01Mリン酸緩衝液で500倍に希釈した二次抗体反応液中で、サンプルを1時間遮光して反応させた。0.01Mリン酸緩衝液で洗浄後、サンプルを封入して蛍光顕微鏡にて観察した。
【0110】
図12に延髄背側部の蛍光免疫染色写真を示す。白色のシグナルはc-Fos陽性細胞を示す。図12のConはコントロールのモデルマウスの延髄背側部、Siはシリコン微粒子投与のモデルマウスの延髄背側部である。図中の12Nは舌下神経核、APは最後野及びCCは中心管を示す。円は内臓不快感や内臓痛に反応する迷走神経背側運動核と孤束核の位置を示す。通常食のマウスでは多くのc-Fos陽性細胞が観察されるのに対し、シリコン微粒子含有食のマウスでは陽性細胞が少なく迷走神経背側運動核と孤束核の活性が有意に抑制されていた。したがってシリコン微粒子により内臓不快感や内臓痛(腹痛)が抑制されることが示された。なお、図面はグレースケールのため、緑色の蛍光シグナルは白色シグナルで示されている。
【0111】
図13に扁桃体の蛍光免疫染色写真を示す。白色のシグナルはc-Fos陽性細胞を示す。図13のConはコントロールのモデルマウスの扁桃体、Siはシリコン微粒子投与のモデルマウスの扁桃体、上下の2枚の上段は、同一マウスの左側扁桃体であり下段は右側扁桃体である。矢印は内臓痛など痛みに反応する扁桃体中心核を指し示している。通常食のマウスでは、扁桃体中心核にc-Fos陽性細胞が観察され、内臓痛の反応が観測された。一方シリコン微粒子含有食投与マウスでは、c-Fos陽性細胞が観察されず扁桃体中心核の活性が抑制されていた。したがってシリコン微粒子により内臓痛が抑制されることが示された。なお、写真中のBLAは扁桃体基底外側核の位置を示す。なお、図面はグレースケールのため、緑色の蛍光シグナルは白色のシグナルで示されている。
【0112】
C-7.シリコン微粒子と水素水の効果の比較
C57Bl6/Jマウス(雄7週齢、体重24~25g)を日本SLCより入手した。5匹のコントロール群、5匹のシリコン微粒子投与群及び5匹の水素水投与群を用いて評価した。シリコン微粒子投与群には、上記シリコン微粒子含有食を与え、水素水投与群とコントロール群には、通常の飼料(通常食)(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を与えた(d0)。各群に、翌日(d1)から5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)(MP Bio社)を連日自由飲水させて、炎症性腸疾患モデルマウスを作製した。
【0113】
水素水は、高濃度水素水生成器(ルルド ビクトリージャパン株式会社)を用いて作製した。水道水1.7Lを前記生成器に入れて30分(0.8~1.2ppmの水素水作製コース)を選択した。水素水作製完了次第、スクリューキャップ付きガラスボトルに入れてアルミホイルでボトルを覆った。作製した水素水の溶存水素濃度を測定した(溶存水素濃度判定試薬(MIZ株式会社):メチレンブルー試薬)結果を図14に示す。生成した水素水中の水素は徐々に拡散し6時間後に検出できなくなった。なお、厳密な溶存水素の測定法は、一般社団法人日本分析機器工業会の定めるガスクロマトグラフ法と隔膜電極法の2種類の方法がある。独立行政法人国民生活センターは、このガスクロマトグラフ法と隔膜電極法の2種類の方法を用いて各種水素水発生装置から作られる水素水の溶存水素濃度を測定し報告している。その報告では、今回使用した高濃度水素水生成器(ルルド ビクトリージャパン株式会社)が作る水素水の溶存水素濃度は1.0~1.3ppmであった。この測定結果と、メチレンブルー試薬による簡易測定法での溶存水素濃度が、ほぼ同じ結果を示したので、今回の実験ではメチレンブルー試薬を用いて溶存水素濃度を測定した。
【0114】
水素水投与群には、作製した水素水にDSS(5%)を混ぜてマウスに連日自由飲水させた。水素水は1日2回交換した(午前9時頃と午後6時頃)。交換の都度水素水を新たに作製し、DSS(5%)を混合した。
【0115】
DSS投与後3日目(d3)に各投与群のマウスの生検材料検査を行った。コントロール群(Con:5匹)、シリコン微粒子投与群(Si:5匹)、水素投与群(Hydrogen Water:4匹)、及び野生型群(WT:4匹)から回腸を切断し盲腸から肛門を摘出して、大腸の長さ(結腸~直腸の長さ)を計測した結果を表2に示す。野生型群の大腸の長さの平均値と各群の個々の大腸の長さとの差における平均値を各群の大腸の短縮度合いとして図15に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
以上の生検材料検査所見より、シリコン微粒子と水素水を比較すると、シリコン微粒子投与が水素水投与より炎症による大腸の長さの短縮を有意に抑制することが示された。
【0118】
C-8.
以上の結果より、本発明におけるシリコン微粒子は炎症性腸疾患に対して高い予防効果及び高い治療効果を発揮することが明かになった。
【0119】
D.接触性皮膚炎モデルマウスにおける薬理試験
BALB/cマウス(雄、7週齢)を日本SLCより入手した。シリコン微粒子投与群(9匹)には、上記シリコン微粒子含有食を与え、コントロール群(9匹)には、通常の飼料(通常食)(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を与えた。各食餌投与開始から1週間後に1回目感作(Day1)、翌日(Day2)に2回目感作、その5日後(Day7)に3回目の感作を行った。1回目感作と2回目感作は、前胸部皮膚に、3回目感作は左右両方の耳介にジニトロフルオロベンゼン(DNFB)溶液(等量のオリーブオイルで懸濁)を直接塗布することによって行った。耳介感作後、耳介に炎症が発症し耳介の肥厚が生じた。
【0120】
3回目の感作を行った日(Day7)から3日間毎日耳介の厚さを計測した(Day7(1日目)~Day9(3日目))。左右の耳介の厚さを3回ずつマイクロメーター(測定力可変式デジマチックマイクロメータ)で計測し、平均値を耳介の厚さとした。1日目~3日目までの耳介の厚さを図16に示す。通常食を与えたコントロール群と比較して、シリコン微粒子投与群では耳介の肥厚が抑制された。日毎の耳介厚の差を肥厚度として、1日目と2日目の耳介厚の差、2日目と3日目の耳介厚の差、1日目と3日目の耳介厚の差を図17に示す。肥厚度においても、コントロール群と比較してシリコン微粒子投与群では肥厚が抑制されていることが示された。
【0121】
以上の結果より、本発明におけるシリコン微粒子は接触性皮膚炎の炎症に対して高い予防効果及び高い治療効果を発揮することが明かになった。
【0122】
E.急性肝炎モデルマウスにおける薬理試験
C57BL/6Jマウス(雄、7週齢)を日本SLCより入手した。シリコン微粒子投与群には、上記シリコン微粒子含有食を与え、コントロール群には、通常の飼料(通常食)(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を与えた。各食餌投与開始から1週間後に四塩化炭素を投与して急性肝炎モデルを作製した。四塩化炭素はオリーブオイルの同量と懸濁して、四塩化炭素2μL/マウス体重1gの濃度でマウス腹腔に投与した。投与翌日にマウスの生存率を確認及び評価した。実験は4回行い、一回の実験に1群当たり5-6匹として検討を行った。その結果、シリコン微粒子投与群の生存率(約80%)の方がコントロール群のマウス(35%)に比べて有意に高かった(図18)。
【0123】
以上の結果より、本発明におけるシリコン微粒子は急性肝炎に対して高い予防効果及び高い治療効果を発揮することが明かになった。
【0124】
F.関節炎モデルマウスにおける薬理試験
F-1.関節炎モデルマウスの作製
DBA/1JJmsSlcマウス(雄、7週齢)を日本SLCより入手した。感作に用いる抗原溶液として、8mg/mlのウシコラーゲンII型含有0.01M酢酸リン酸緩衝液にアジュバント(4mg/ml Mycobacterium tuberculosis H37Ra)を等量加えて4mg/mlのエマルジョンを作製した。耳介基部(8週齢:1回目)及び尾根部(11週齢:2回目)に上述の感作抗原溶液を0.025ml/回/匹ずつ皮内投与することによって感作を行った(1匹当たりのコラーゲン量は合計0.2mg)。第2回感作日より2~4週間後にマウスは膝関節に炎症を呈した。
【0125】
F-2.関節炎の評価
上記のように作製したコラーゲン関節炎モデルマウスに通常食(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)又は上記シリコン微粒子含有食を1回目感作1週前から2回目の感作8週後まで与え続けた。以下の試験では、通常食群7匹、シリコン微粒子含有食群7匹の関節炎モデルマウスを用いた。
【0126】
以下の関節炎発症基準に基づいて各マウスの各足の炎症度を点数化し関節炎指数とした。
関節炎発症基準:
0:変化無し(正常)
1:足指の腫脹
2:足指及び足裏、甲の腫脹
3:足全体の腫脹
4:重度の足の腫脹
【0127】
四肢のいずれかが関節炎指数1と評価された場合、その個体は関節炎を発症したものとした。通常食群のマウスの約9割が関節炎を発症するのに対して、シリコン微粒子含有食群のマウスでは約5割が関節炎を発症し、シリコン微粒子により有意に関節炎の発症が抑制された(図19)。
【0128】
各マウスの各足(四肢)の関節炎指数の平均値を各個体の関節炎指数(全四肢平均)とし、各群における各個体の関節炎指数(全四肢平均)の平均値を1週間毎に図20に示した。また、各マウスの最大炎症肢の関節炎指を各個体の関節炎指数(最大炎症肢)とし、各群における各個体の関節炎指数(最大炎症肢)の平均値を1週間毎に図21に示した。図20図21の横軸は、2回目の感作時からの時間(週)である。通常食群に比べて、シリコン微粒子含有食群は炎症が抑えられていた。
【0129】
以上の結果より、本発明におけるシリコン微粒子は関節炎に対して高い予防効果及び高い治療効果を発揮することが明かになった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、酸化ストレスに起因する疾患の原因療法の1つになり得、今後の医療や健康増進に大いに貢献するものである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21