(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】複合シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 37/24 20060101AFI20230822BHJP
B29C 43/24 20060101ALI20230822BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B32B37/24
B29C43/24
B29C43/34
(21)【出願番号】P 2019217194
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】蔵谷 祥太
(72)【発明者】
【氏名】内海 大介
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156956(JP,A)
【文献】特開2016-018763(JP,A)
【文献】特開2008-080793(JP,A)
【文献】特開2016-210848(JP,A)
【文献】特開2019-012631(JP,A)
【文献】特開2019-127546(JP,A)
【文献】特開平08-132463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 43/00-43/58
C08J 7/04- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルム上に供給された樹脂及び充填材を含有する粉体組成物とを搬送し、一対の圧延ロールの間隙を通過させることで前記粉体組成物を圧延して、前記基材フィルム上に、前記充填材の含有割合が30体積%以上である複合シートを形成する工程を含む、複合シートの製造方法であって、
前記圧延を、前記粉体組成物と、前記基材フィルム上の前記粉体組成物の供給面と同じ面であって且つ前記粉体組成物よりも前記基材フィルムの搬送方向下流側に配置した粘着シートとを連続して前記間隙を通過させることにより行い、前記複合シートを前記粘着シートと接合した状態で形成し、
前記圧延後における前記粘着シートの前記基材フィルムに対する接着力が、前記複合シートの前記基材フィルムに対する接着力よりも大きい、複合シートの製造方法。
【請求項2】
前記複合シート中に含有される前記充填材は、体積平均粒子径が100μm以下の粒子状材料である、請求項1に記載の複合シートの製造方法。
【請求項3】
前記充填材が鱗片状粒子材料である、請求項1又は2に記載の複合シートの製造方法。
【請求項4】
0.2MPa、50℃の条件で厚み方向に加圧した状態における前記粘着シートの厚みをT
Pとし、前記加圧前の前記粘着シートの厚みをT
0としたときに下記式(1):
圧縮率={1-(T
P/T
0)}×100(%)・・・(1)
で算出される、前記圧延を行う前の前記粘着シートの圧縮率が5%以上である、請求項1~3の何れかに記載の複合シートの製造方法。
【請求項5】
前記圧延後における前記粘着シートの前記基材フィルムに対する接着力が0.3N以上10N以下である、請求項1~4の何れかに記載の複合シートの製造方法。
【請求項6】
前記複合シートの厚みが800μm以上である、請求項1~5の何れかに記載の複合シートの製造方法。
【請求項7】
前記圧延を行う前の前記粘着シートの厚みが前記間隙の幅よりも大きい、請求項1~6の何れかに記載の複合シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、充填材を樹脂中に分散させてなる複合シートが、様々な分野で使用されている。例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP)や集積回路(IC)チップ等の電子部品の分野においては、熱伝導性を有する充填材(熱伝導性充填材)と、樹脂とを成形することで得られる複合シート(熱伝導性シート)が用いられている。そして、複合シートを製造する方法の改良が、従来から試みられている。
【0003】
例えば特許文献1では、樹脂と充填材を含む粉体組成物を基材上で搬送し、一対の圧延ロールの間隙を通過させることで圧延(ロール圧延)して、基材上に複合シートを形成する技術が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで近年、充填材により付与される特性を一層良好に発揮しうる複合シートを形成するべく、複合シート中の充填材の含有割合を高めることが求められている。しかしながら、従来のロール圧延の方法において、充填材の含有割合を高める(例えば、30体積%以上とする)ために充填材の使用量を増やすと、相対的に樹脂の含有割合が低下することで複合シートの接着能が損なわれ、ロール圧延後に、搬送中の基材フィルムから複合シートが剥がれてしまうという問題が生じた。
即ち、上記従来の技術には、複合シート中の充填材の含有割合を高めた場合であっても、搬送中の基材フィルムから複合シートが意図せず剥離する現象を抑制するという点において、更なる改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、複合シート中の充填材の含有割合を高めた場合であっても、搬送中の基材フィルムから複合シートが剥離するのを抑制し得る、複合シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、基材フィルムを搬送しつつ、当該基材フィルム上の粉体組成物をロール圧延して複合シートを形成するに際し、基材フィルムからの複合シートの剥離が、当該シートの搬送方向下流端部を起点として生じることに着目した。その上で本発明者は、粉体組成物に先行するように粘着性が高いシート(粘着シート)を基材フィルム上に配置して圧延し、複合シートの搬送方向下流端部と粘着シートが接合した状態で搬送することにより、複合シートの基材フィルムからの剥離を抑制し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の複合シートの製造方法は、基材フィルムと、前記基材フィルム上に供給された樹脂及び充填材を含有する粉体組成物とを搬送し、一対の圧延ロールの間隙を通過させることで前記粉体組成物を圧延して、前記基材フィルム上に、前記充填材の含有割合が30体積%以上である複合シートを形成する工程を含む、複合シートの製造方法であって、前記圧延を、前記粉体組成物と、前記基材フィルム上の前記粉体組成物の供給面と同じ面であって且つ前記粉体組成物よりも前記基材フィルムの搬送方向下流側に配置した粘着シートとを連続して前記間隙を通過させることにより行い、前記複合シートを前記粘着シートと接合した状態で形成し、前記圧延後における前記粘着シートの前記基材フィルムに対する接着力が、前記複合シートの前記基材フィルムに対する接着力よりも大きいことを特徴とする。このような方法を用いることで、充填材の含有割合が30体積%以上である複合シートを基材フィルム上に形成した場合であっても、複合シートが基材フィルムから剥離するのを抑制することができる。
なお、本発明において、「基材フィルムに対する接着力」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0009】
ここで、本発明の複合シートの製造方法において、前記複合シート中に含有される前記充填材は、体積平均粒子径が100μm以下の粒子状材料であることが好ましい。複合シート中において充填材の体積平均粒子径が上記値以下であれば、複合シート中における充填材の含有割合を高めた場合であっても、当該複合シートの柔軟性を十分に確保することができる。
なお、本発明において、「体積平均粒子径」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0010】
そして、本発明の複合シートの製造方法は、前記充填材が鱗片状粒子材料であることが好ましい。充填材として鱗片状粒子材料を用いれば、熱伝導性などの諸特性に十分優れる複合シートを得ることができる。
【0011】
また、本発明の複合シートの製造方法は、0.2MPa、50℃の条件で厚み方向に加圧した状態における前記粘着シートの厚みをTPとし、前記加圧前の前記粘着シートの厚みをT0としたときに下記式(1):
圧縮率={1-(TP/T0)}×100(%)・・・(1)
で算出される、前記圧延を行う前の前記粘着シートの圧縮率が5%以上であることが好ましい。圧縮率が上述した値以上である粘着シートは圧延により容易に変形しうり、基材フィルム等に良好に接着することができる。そのため、当該粘着シートに接合した状態で搬送される複合シートが、基材フィルムから剥離するのを一層抑制することができる。
なお、本発明において、「圧縮率」は上述した式(1)で導出される値であり、より具体的には実施例に記載の方法を用いて導出することができる。
【0012】
更に、本発明の複合シートの製造方法は、前記圧延後における前記粘着シートの前記基材フィルムに対する接着力が、0.3N以上10N以下であることが好ましい。圧延後において、粘着シートの基材フィルムに対する接着力が上述した範囲内であれば、当該粘着シートに接合した状態で搬送される複合シートが、基材フィルムから剥離するのを一層抑制することができる。また、粘着シートが基材フィルム側でなく対向する圧延ロール側(圧延ロール表面、又は後述のカバーフィルムを用いている場合は、カバーフィルム表面)に意に反して追従してしまう現象を十分に抑制することができる。
【0013】
ここで、本発明の複合シートの製造方法は、前記複合シートの厚みを800μm以上とすることができる。厚みが大きい複合シートは、送りロールを通過する際の屈曲が、厚みが小さい複合シートよりも大きくなることなどから搬送中に基材フィルムから剥離し易い。しかしながら、本発明の複合シートの製造方法によれば、複合シートの厚みが上述した値以上であっても、搬送中における複合シートの基材フィルムからの剥離を十分に抑制することができる。
なお、本発明において、シート等の「厚み」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0014】
また、本発明の複合シートの製造方法は、前記圧延を行う前の前記粘着シートの厚みが前記間隙の幅よりも大きいことが好ましい。圧延する前の粘着シートの厚みが、一対の圧延ロールの間隙幅よりも大きければ、圧延時に粘着シートが十分に挟圧され、基材フィルムに良好に接着することができる。そのため、当該粘着シートに接合した状態で搬送される複合シートが、基材フィルムから剥離するのを一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合シートの製造方法によれば、複合シート中の充填材の含有割合を高めた場合であっても、搬送中の基材フィルムから複合シートが剥離するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る複合シートの製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の複合シートの製造方法は、樹脂及び充填材を含有する粉体組成物を用いて、充填材の含有割合が30体積%以上である複合シートを製造する際に用いることができる。
【0018】
本発明の複合シートの製造方法では、基材フィルムと、基材フィルム上の粉体組成物とを搬送し、それらを一対の圧延ロールの間隙を通過させることで粉体組成物を圧延して基材フィルム上に複合シートを形成する。
ここで、本発明の複合シートの製造方法は、上記圧延の際に、粘着シートを用いることを大きな特徴の一つとする。より具体的には、上記圧延を、粉体組成物と、基材フィルム上の粉体組成物の供給面と同じ面であって且つ基材フィルムの搬送方向下流側に配置した粘着シートとを連続して間隙を通過させることにより行う。粘着シートと粉体組成物とをこの順で圧延することにより、複合シートが、搬送方向下流側に位置する粘着シートに接合した状態で形成される。そしてこの複合シートは、搬送方向下流端部に粘着シートが存在することにより、搬送時に屈曲などが生じても当該端部からの剥離が生じ難い。
【0019】
本発明の複合シートの製造方法における、複合シートを形成する工程の一例を、
図1を用いて説明する。なお、本発明の複合シートの製造方法は、当該一例に限定されるものではない。
【0020】
図1に示す例では、長尺の基材フィルム1が、当該基材フィルム1の巻回体2が回転することで矢印Fの方向(搬送方向)に送り出され、間隙を空けて離隔配置された一対の圧延ロール(圧延ロール31と圧延ロール32)に供給される。ここで
図1(a)では、基材フィルム1上に粘着シート4が配置されており、粘着シート4の後方(搬送方向上流側)から、粉体供給機5により粉体組成物6が供給される。そして粘着シート4と粉体組成物5は、粘着シート4が先行しつつ連続して一対の圧延ロール(圧延ロール31と圧延ロール32)の間隙を通過することで、粉体組成物5が圧延されて基材フィルム1上に複合シート7が形成される。なお
図1においては、圧延ロール32の表面に接しつつ、当該ロールの回転に追従する長尺のカバーフィルム8が用いられ、粉体組成物6は基材フィルム1とカバーフィルム8の間で圧延されている。
そして、このようにして形成された長尺(例えば、1m以上)の複合シート7は、
図1(b)のように先行する粘着シート4と接合(連続)している。粘着シート4を搬送方向下流端部に有する複合シート7は、基材フィルム1に対する接着力が大きい粘着シート4の寄与により、送りロール9を通過する際の屈曲等によっても、基材フィルム1から剥離せず安定して搬送することができる。なお、得られた複合シート7は、例えば
図1に示すような巻き取り機10で巻き取って回収することができる。
【0021】
(粉体組成物)
粉体組成物は、少なくとも樹脂と充填材を含有し、任意にその他の成分を含有する組成物である。
【0022】
<樹脂>
粉体組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されず、複合シートの用途等に応じて適宜選択することができる。ここで、樹脂としては、液状樹脂及び固体樹脂の何れも用いることができるが、搬送中における複合シートの基材フィルムからの剥離を一層抑制する観点から、液状樹脂が好ましい。なお、樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
<<液状樹脂>>
液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本発明において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0024】
液状樹脂として常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いれば、粉体組成物の調製に際し、液状樹脂及び充填材を加熱しながら混合することにより、液状樹脂と充填材を均一に混合することができる。また、粉体組成物の圧延を加熱下で行うことにより複合シートを基材フィルムに良好に接着させて、搬送中における複合シートの基材フィルムからの剥離を一層抑制することができる。
【0025】
ここで、液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、液状樹脂としては、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂の少なくともいずれかを含むことが好ましく、フッ素樹脂を含むことがより好ましい。液状樹脂がシリコーン樹脂及びフッ素樹脂の少なくともいずれかを含めば、得られる複合シートの難燃性を向上させることができる。また、液状樹脂としてフッ素樹脂を用いれば、得られる複合シートの耐熱性、耐油性、及び耐薬品性を向上させることができる。
【0026】
<<固体樹脂>>
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂、を用いることができる。
【0027】
[常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂]
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0028】
[常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂]
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
[樹脂(液状樹脂及び固体樹脂)の含有割合]
粉体組成物中の樹脂の含有割合は、特に制限されることなく、35質量%以上であることが好ましく、95質量%以下であることが好ましい。粉体組成物中に占める樹脂の割合が35質量%以上であれば、粉体組成物を圧延してシート化する際の成形性を向上させることができる。また、複合シートを基材フィルムに良好に接着させて、搬送中における複合シートの基材フィルムからの剥離を一層抑制することができる。一方、粉体組成物中に占める樹脂の割合が95質量%以下であれば、粉体組成物中の粉体同士のブロッキングを抑制することができる。
【0030】
[液状樹脂の含有割合]
また、樹脂中における液状樹脂の含有割合は、特に制限されることなく、60質量%以上であることが好ましく、90質量%以下であることが好ましい。樹脂中に占める液状樹脂の含有割合が60質量%以上であれば、粉体組成物を圧延してシート化する際の成形性を高めることができる。また、複合シートを基材フィルムに良好に接着させて、搬送中における複合シートの基材フィルムからの剥離を一層抑制することができる。一方、樹脂中に占める液状樹脂の含有割合が90質量%以下であれば、粉体組成物中の粉体同士のブロッキングを抑制することができる。
【0031】
<充填材>
粉体組成物に含まれる充填材としては、特に限定されることなく、得られる複合シートに付与したい所望の特性を発揮し得る任意の充填材とすることができる。例えば、複合シートを熱伝導シートとして用いる場合は、充填材としては、熱伝導性充填材を用いることができる。
【0032】
熱伝導性充填材としては、特に限定されることなく、例えば、アルミナ粒子、酸化亜鉛粒子、窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、酸化マグネシウム粒子および粒子状炭素材料(例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛、カーボンブラック等)などの粒子状材料、並びに、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などの繊維状材料が挙げられる。中でも、熱伝導性充填材としては、窒化ホウ素粒子、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、膨張性黒鉛および膨張化黒鉛等の鱗片状粒子材料;並びに、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)などの繊維状炭素ナノ材料;からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、鱗片状粒子材料を用いることがより好ましく、鱗片状黒鉛および膨張化黒鉛等の異方性黒鉛を用いることが更に好ましく、膨張化黒鉛を用いることが特に好ましい。これらの熱伝導性充填材を用いれば、複合シートの熱伝導性を高めることができる。
なお、熱伝導性充填材などの充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ここで、粉体組成物の調製に用いる充填材が、粒子状炭素材料などの粒子状材料である場合、当該粒子状材料の体積平均粒子径は、複合シート中における充填材の含有割合を高めた場合であっても、当該複合シートの柔軟性を十分に確保しつつ、複合シートの諸特性(熱伝導性など)を優れたものとする観点から、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
【0034】
粉体組成物中の充填材の含有割合は、特に制限されることなく、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。粉体組成物中に占める充填材の割合が5質量%以上であれば、得られる複合シートに、熱伝導性などの諸特性を十分に発揮させることができる。一方、粉体組成物中に占める充填材の割合が50質量%以下であれば、粉体組成物を圧延してシート化する際の成形性を向上させることができる。
【0035】
また粉体組成物中の樹脂と充填材の含有量比は、特に制限されない。例えば、粉体組成物は、樹脂100質量部当たり、充填材を10質量部以上含むことが好ましく、20質量部以上含むことがより好ましく、30質量部以上含むことが更に好ましく、90質量部以下含むことが好ましく、80質量部以下含むことがより好ましく、70質量部以下含むことが更に好ましい。粉体組成物中の充填材の含有量が樹脂100質量部当たり10質量部以上であれば、得られる複合シートに、熱伝導性などの諸特性を十分に発揮させることができる。一方、粉体組成物中の充填材の含有量が樹脂100質量部当たり90質量部以下であれば、粉体組成物を圧延してシート化する際の成形性を向上させることができる。
【0036】
<その他の成分>
熱伝導シートに任意に含有させ得るその他の成分としては、特に限定されることなく、例えば、難燃剤、可塑剤、靭性改良剤、吸湿剤、接着力向上剤、濡れ性向上剤、イオントラップ剤などの添加剤が挙げられる。なお、その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
<粉体組成物の性状>
ここで、粉体組成物中においては、上述した樹脂と充填材が物理的に一体となることで複合化されて、粒子を形成していることが好ましい。すなわち、粉体組成物は、樹脂と充填材が複合化された複合粒子を含んでいることが好ましい。樹脂と充填材が複合化された複合粒子を含む粉体組成物を用いれば、複合シートの製造に際し、粉飛散や粉落ちを抑制することができる。
【0038】
ここで、粉体組成物が、樹脂と充填材が複合化された複合粒子を含む場合、粉体組成物は、複合粒子以外の成分を含んでいてもよい。複合粒子以外の成分としては、例えば、複合粒子を含む粉体組成物の製造過程において複合粒子に包含されず、複合粒子とは別個に存在する樹脂、充填材、上述したその他の成分が挙げられる。しかしながら、本発明の製造方法に用いる粉体組成物中における複合粒子以外の成分の含有割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0質量%以下である(即ち、粉体組成物は複合粒子のみからなる)ことが特に好ましい。
【0039】
<粉体組成物の調製方法>
樹脂と充填材を含有する粉体組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、樹脂と充填材が複合化された複合粒子を含む粉体組成物は、樹脂及び充填材を複合化して複合混合物を得る工程(複合工程)と、複合工程において得られた複合混合物を粉砕する工程(粉砕工程)を経て製造することができる。
【0040】
<<複合工程>>
複合工程では、樹脂と、充填材と、任意に用いられるその他の成分とを複合化して複合混合物を得る。複合化の方法としては、特に限定されないが、上述した成分をニーダーなどの既知の混練装置を用いて混練する方法が好ましい。混練は、酢酸エチルやメチルエチルケトン等の溶媒の存在下で行ってもよい。また、混練温度は、例えば5℃以上200℃以下とすることができる。
【0041】
<<粉砕工程>>
粉砕工程では、複合工程で得られた複合混合物を粉砕することで、複合粒子を含む粉体組成物を得る。複合混合物を粉砕する方法としては、特に限定されず、既知の粉砕装置を用いて行うことができる。
なお、粉砕工程における粉砕条件は、粉砕後に得られる複合粒子の所望の粒子径等に応じて粉砕装置、粉砕強度などを適宜選定又は調整すればよい。
【0042】
(基材フィルム)
基材フィルムは、その上に複合シートが形成可能であれば特に限定されず、既知の材質からなるフィルムを用いることができる。そして、基材フィルムとしては、柔軟性及び屈曲性等に優れ、搬送が容易であるといった観点から、樹脂フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムがより好ましい。
基材フィルムの厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上150μm以下とすることができる。また基材フィルムは、その表面に既知の離型処理が施されていてもよい。
【0043】
(粘着シート)
粘着シートは、圧延後に、上述した基材フィルムに対して、粉体組成物を成形して得られる複合シートよりも大きい接着力を発揮しうれば、その材質は特に限定されない。しかしながら、粘着シートは、良好な接着力及び圧縮率を容易に得られる観点から、樹脂を含むシート(樹脂シート)であることが好ましく、複合シートへの不純物混入を防ぐ観点から、上述した粉体組成物と同じ又は類似する材料(上述した、樹脂、充填材、及びその他の成分)を用いて得られる樹脂シートであることがより好ましい。例えば、樹脂としてフッ素樹脂を、充填材として黒鉛を含む粉体組成物を用いて複合シートを形成する場合、粘着シートとしては、フッ素樹脂からなる樹脂シートや、フッ素樹脂および黒鉛からなる樹脂シートを用いることが好ましい。
【0044】
<圧縮率>
ここで、後述する圧延を行う前の粘着シートは、上述した式(1)により算出される圧縮率が5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましく、25%以上であることが特に好ましい。圧縮率が5%以上であれば、粘着シートが圧延により容易に変形しうり、基材フィルムに良好に接着することができる。そのため、当該粘着シートに接合した状態で搬送される複合シートが、基材フィルムから剥離するのを一層抑制することができる。なお、基材フィルムの圧縮率の上限は、特に限定されないが、ハンドリング性を確保する観点から、例えば90%以下とすることができる。
【0045】
<基材フィルムに対する接着力>
そして、後述する圧延を行った後の粘着シートの基材フィルムに対する接着力は、上述した通り、粉体組成物を成形して得られる複合シートの基材フィルムに対する接着力より大きければ特に限定されないが、0.3N以上であることが好ましく、0.5N以上であることがより好ましく、1.5N以上であることが更に好ましく、2N以上であることが特に好ましく、10N以下であることが好ましく、8N以下であることがより好ましく、7N以下であることが更に好ましい。粘着シートの基材フィルムに対する接着力が0.3N以上であれば、当該粘着シートに接合した状態で搬送される複合シートが、基材フィルムから剥離するのを一層抑制することができる。一方、粘着シートの基材フィルムに対する接着力が10N以下であれば、粘着シートが基材フィルム側でなく対向する圧延ロール側(圧延ロール表面、又はカバーフィルムを用いている場合は、カバーフィルム表面)に意に反して追従してしまう現象を十分に抑制することができる。
なお、粘着シートの基材フィルムに対する接着力は、粘着シートの作製に用いる材料、粘着シートの圧縮率、基材フィルムの種類および離型処理の条件、並びに、圧延の条件などを変更することにより調整することができる。
【0046】
<厚み>
また、粘着シートの厚みは、圧延に用いる一対の圧延ロールの間隙を通過する前(即ち、圧延を行う前)において、当該一対の圧延ロールの間隙幅よりも大きいことが好ましい。圧延前の粘着シートの厚みが、一対の圧延ロールの間隙幅よりも大きければ、圧延時に粘着シートが十分に挟圧され、基材フィルムに良好に接着することができる。そのため、当該粘着シートに接合した状態で搬送される複合シートが、基材フィルムから剥離するのを一層抑制することができる。具体的に、粘着シートの厚みは、500μm以上であることが好ましく、800μm以上であることがより好ましく、1000μm以上であることが更に好ましく、2500μm以下であることが好ましく、2000μm以下であることがより好ましく、1500μm以下であることが更に好ましい。
なお、粘着シートの平面視形状は、特に限定されず、例えば、略正方形状、略長方形上などの任意の形状とすることができる。また粘着シートの幅及び搬送方向長さは、圧延ロールのサイズ(ロール径、ロール幅等)や所望の複合シートのサイズに応じて適宜設定することができる。
【0047】
(圧延)
上述した基材フィルム上で粉体組成物を搬送し、一対の圧延ロールの間隙を通過させることで粉体組成物の圧延を行う。なお上述した通り、粉体組成物の圧延に際しては、2つの圧延ロールのうち基材フィルムと接しない側の圧延ロール表面に接しつつ当該ロールの回転に追従するカバーフィルムを用いて、粉体組成物を基材フィルムとカバーフィルムの間で圧延することが好ましい。このようにカバーフィルムを用いて圧延を行えば、粘着シートが基材フィルム側でなく対向する圧延ロール側に意に反して追従してしまう現象を十分に抑制することができる。
【0048】
なお、カバーフィルムとしては、既知の材質からなるフィルムを用いることができる。そして、カバーフィルムとしては、柔軟性及び屈曲性等に優れ、搬送が容易であるといった観点から、樹脂フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムがより好ましい。カバーフィルムの厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上150μm以下とすることができる。また基材フィルムは、その表面に既知の離型処理が施されていることが好ましい。
【0049】
ここで、圧延に用いる一対の圧延ロールの間隙幅は、求める複合シートの厚み等に応じて適宜設定することができる。一対の圧延ロールの間隙幅は、例えば、100μm以上3000μm以下とすることができる。
なお、本発明において、一対の圧延ロールの間隙幅とは、2つの圧延ロールが最も接近する箇所における、基材フィルム表面と対向する圧延ロール表面(カバーフィルムを用いている場合は、カバーフィルム表面)との間の距離をいい、例えば隙間ゲージを用いて測定することができる。
【0050】
また、圧延時のロール温度は、特に限定されないが、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、130℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましい。ロール温度を50℃以上とすれば、粘着シート及び複合シートを基材フィルムに良好に接着することができる。そのため、搬送中における複合シートの基材フィルムからの剥離を一層抑制することができる。一方、ロール温度を130℃以下とすれば、基材フィルムとカバーフィルムの熱変形を抑制して良好な作業性を確保することができる。
【0051】
(複合シート)
上述した圧延を経て、基材フィルム上に複合シートが形成される。ここで複合シートは、基材フィルム上において粘着シートの搬送方向上流側に位置し、且つ粘着シートと連続して形成される。なお、形成された複合シートは、必要に応じて粘着シートを切り離して、各種用途に用いられる。
【0052】
ここで、複合シートの厚みは、当該複合シートの用途等に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。複合シートの厚みは、例えば、100μm以上とすることができ、500μm以上とすることができ、700μm以上とすることができ、800μm以上とすることができ、900μm以上とすることができ、1200μm以上とすることができ、2000μm以下とすることができ、1400μm以下とすることができる。
ここで、複合シートの厚みを大きくすればするほど、送りロールを通過する際の屈曲が、厚みが小さい複合シートよりも大きくなることなどから、搬送中に基材フィルムからの剥離が生じやすい。しかしながら、本発明の複合シートの製造方法によれば、得られる複合シートの厚みを大きくした場合(例えば、800μm以上)であっても、搬送中における複合シートの基材フィルムからの剥離を十分に抑制することができる。
【0053】
なお、複合シート中に含有される充填材が、粒子状炭素材料などの粒子状材料である場合、当該粒子状材料の体積平均粒子径は、複合シート中における充填材の含有割合を高めた場合であっても、当該複合シートの柔軟性を十分に確保しつつ、複合シートの諸特性(熱伝導性など)を優れたものとする観点から、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例及び比較例において、以下の方法に従って測定または評価を行った。
【0055】
<接着力>
<<粘着シート>>
基材フィルム上で接合した状態の複合シートと粘着シートの粘着シート部分から、直径10mmの円形の試験片(基材フィルムと粘着シートの積層体)を切り抜いた。プローブタック試験機(株式会社レスカ製、製品名「TAC1000」)を用い、上記試験片の粘着シート側に8N、10秒間プローブを押し付けて引き上げ、粘着シートを基材フィルムから剥離した時の力(N)を測定して、接着力とした。
<<複合シート>>
基材フィルム上で接合した状態の複合シートと粘着シートの複合シート部分から、直径10mmの円形の試験片(基材フィルムと複合シートの積層体)を切り抜いた。プローブタック試験機(株式会社レスカ製、製品名「TAC1000」)を用い、上記試験片の複合シート側に8N、10秒間プローブを押し付けて引き上げ、複合シートを基材フィルムから剥離した時の力(N)を測定して、接着力とした。
<圧縮率>
粘着シートの圧縮率は、熱抵抗試験器(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製、製品名「樹脂材料熱抵抗測定装置」)を用いて測定した。
具体的には、まず粘着シートを1cm角の略正方形に切り出して試験片とし、厚みT0を測定した。次いで、試験片温度50℃において0.2MPaの圧力を加えた状態における当該試験片の厚みTPを測定した。そして、下記式(1)
圧縮率={1-(TP/T0)}×100(%)・・・(1)
を用いて圧縮率を算出した。
<粒子状材料の体積平均粒子径>
複合シート1gを溶媒としてのメチルエチルケトン中に入れ、複合シート中のの樹脂等を溶解することにより、複合シートに含まれる粒子状材料(膨張化黒鉛)を分離および分散させた懸濁液を得た。次に、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA960」)を用いて、当該懸濁液に含まれる粒子状材料の粒子径を測定した。そして、得られた粒子径を横軸とし、体積換算した粒子の頻度を縦軸とした粒度分布曲線を作成した。当該粒度分布曲線において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を求め、粒子状材料の体積平均粒子径の値とした。
<厚み>
粘着シート及び複合シートの厚みの特定には、膜厚計(株式会社 ミツトヨ社製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いた。具体的には、粘着シート及び複合シート表面上の任意の箇所5点について測定した値の平均値(μm)を、それらの厚みとした。
<基材フィルムからの剥離抑制>
基材フィルムからの複合シートの剥離抑制は、当該複合シートに先行し且つ接合して搬送される粘着シートが、基材フィルムからどの程度剥離しているかを目視で確認し、以下の基準で評価した。A~B評価であれば、粘着シートに後行する複合シートの基材フィルムからの剥離を十分に抑制可能といえる。
A:粘着シートが基材フィルムから全く剥離していないか、粘着シートの主面(基材フィルムと接着または近接する側の面)の0面積%超10面積%未満が、基材フィルムから剥離している。
B;粘着シートの主面の10面積%以上60面積%以下が、基材フィルムから剥離している。
C:粘着シートの主面の60面積%超が、基材フィルムから剥離している。
<カバーフィルムへの固着抑制>
圧延後に、カバーフィルムに粘着シートの少なくとも一部が固着しているかを目視で確認し、以下の基準で評価した。
A:カバーフィルムの表面に粘着シートの一部が付着していない。
B:カバーフィルムの表面に粘着シートの一部が付着している。
【0056】
(製造例1 粉体組成物1の調製)
常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)70部と、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「Dyneon FC-2211」、ムーニー粘度:ML1+4(100℃))30部と、充填材としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC100」、体積平均粒子径:190μm)50部とを、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、150℃にて20分間撹拌混合して、複合混合物を得た。
得られた複合混合物を粉砕装置に投入して10秒間粉砕することにより、複合粒子からなる粉体組成物1を得た。
【0057】
(製造例2 粉体組成物2の調製)
充填材として、膨張化黒鉛(製品名「EC100」)に代えて、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)90部を用いた以外は、製造例1と同様にして粉体組成物2を得た。
【0058】
(製造例3 粉体組成物3の調製)
常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を用いず、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の量を70部から100部に変更した以外は、製造例1と同様にして粉体組成物3を得た。
【0059】
(製造例4 粉体組成物4の調製)
膨張化黒鉛の量を50部から40部に変更した以外は、製造例3と同様にして粉体組成物4を得た。
【0060】
(製造例5 粉体組成物5の調製)
膨張化黒鉛の量を90部から120部に変更した以外は、製造例2と同様にして粉体組成物5を得た。
【0061】
(実施例1)
<粘着シートの作製>
加熱ロール式ラミネート装置(ヒラノ技研工業株式会社製)の一対の圧延ロールに、離形処理を施した厚み100μmのPETフィルム(基材フィルム)と、基材フィルムとは異なる離形処理を施した厚み75μmのPETフィルム(カバーフィルム)のそれぞれを各圧延ロール表面に這わせた(密着させた)状態で、上記粉体組成物1を連続的に供給し、基材フィルムとカバーフィルムの間で粉体組成物1を搬送することで圧延ロールの間隙を通過させ、長尺のシート(厚み1300μm)を得た。得られたシートから150mm×50mm(厚み1300μm)の粘着シートを切り出した。
なお、圧延の条件は、以下の通りである。
間隙幅:1100μm
ロール温度:100℃
ロール線圧:0.35t(トン)/cm
ロール速度:1m/分
得られた粘着シートについて、圧縮率及び厚みを測定した。結果を表1に示す。
<複合シートの作製>
加熱ロール式ラミネート装置(ヒラノ技研工業株式会社製)の一対の圧延ロールに、離形処理を施した厚み100μmのPETフィルム(基材フィルム)と、基材フィルムとは異なる離形処理を施した厚み75μmのPETフィルム(カバーフィルム)のそれぞれを各圧延ロール表面に這わせた(密着させた)状態で、上記粘着シートを基材フィルムとカバーフィルムの間に供給した。粘着シートの搬送方向後方から、上記製造例2で調製した粉体組成物2を250g/分の供給速度で供給し、粘着シートと粉体組成物を、この順に連続して圧延ロールの間隙を通過させ、搬送方向下流端部に粘着シートが接合した状態の複合シートを得た。
なお、圧延の条件は、以下の通りである。
間隙幅:650μm
ロール温度:100℃
ロール線圧:0.35t(トン)/cm
ロール速度:1m/分
上記圧延後の、粘着シート及び複合シートのそれぞれについて、基材フィルムに対する接着力を測定した。また、上記圧延に際し、基材フィルムからの剥離抑制、およびカバーフィルムへの固着抑制を評価した。更に、得られた複合シートについて、厚み、並びに充填材の含有割合及び体積平均粒子径を測定した。結果を表1に示す。尚、充填剤の含有割合は、複合シート中に含まれる充填剤の質量を密度で除して充填剤が占める体積を求めた上で、当該充填剤が複合シート100体積%中に占める割合(体積%)として算出した。
【0062】
(実施例2~4)
粘着シートの作製に際し、粉体組成物1に代えて、それぞれ粉体組成物2(実施例2)、粉体組成物3(実施例3)、粉体組成物(実施例4)を用いた以外は、実施例1と同様にして粘着シート及び複合シートを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例5)
複合シートの作製に際し、間隙幅を650μmから1100μmに変更した以外は、実施例1と同様にして粘着シート及び複合シートを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
粘着シートを作製せず、複合シートの作製に際し粘着シートを用いなかった以外は、実施例1と同様にして複合シートを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例2)
粘着シートの作製に際し、粉体組成物1に代えて粉体組成物5を用いた以外は、実施例1と同様にして粘着シート及び複合シートを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1より、実施例1~5では、搬送中における複合シートの基材フィルムからの剥離を十分抑制できていることが分かる。
なお、実施例2においては、粘着シート及び複合シートの作製に、何れも粉体組成物2を使用している。しかしながら、圧延後の基材フィルムに対する接着力は粘着シートと複合シートで差が生じており、粘着シートの方が大きい。これは、圧延前に事前に成形されている粘着シートの方が、ロール圧延の挟圧を効率よく接着力に反映し得るためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の複合シートの製造方法によれば、複合シート中の充填材の含有割合を高めた場合であっても、搬送中の基材フィルムから複合シートが剥離するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 基材フィルム
2 巻回体
31,32 圧延ロール
4 粘着シート
5 粉体供給機
6 粉体組成物
7 複合シート
8 カバーフィルム
9 送りロール
10 巻き取り機
F 搬送方向