IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7334622ポリビニルアルコール系フィルムロールおよびその製法
<>
  • 特許-ポリビニルアルコール系フィルムロールおよびその製法 図1
  • 特許-ポリビニルアルコール系フィルムロールおよびその製法 図2
  • 特許-ポリビニルアルコール系フィルムロールおよびその製法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系フィルムロールおよびその製法
(51)【国際特許分類】
   B65H 75/10 20060101AFI20230822BHJP
   B65H 18/02 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B65H75/10
B65H18/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019548349
(86)(22)【出願日】2019-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2019034584
(87)【国際公開番号】W WO2020054509
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2018169846
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】出口 鋭
(72)【発明者】
【氏名】河田 公司
(72)【発明者】
【氏名】吉河 裕二
(72)【発明者】
【氏名】市橋 一輝
(72)【発明者】
【氏名】高木 悠磨
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043514(WO,A1)
【文献】特開平01-203143(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034182(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 75/10
B65H 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の長さが3.5m以上の芯管と、この芯管に巻かれた、幅3.5m以上,厚み60μm以下,長さ5000m以上の偏光膜製造用のポリビニルアルコール系フィルムとを備えたポリビニルアルコール系フィルムロールであって、
上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における巻き硬度のふれが、デュロメータ硬さ15以下であることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムロール。
【請求項2】
上記巻き硬度が、デュロメータ硬さ60~95の範囲内である請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルムロール。
【請求項3】
上記ポリビニルアルコール系フィルムの含水率が、5重量%以下である請求項1または2記載のポリビニルアルコール系フィルムロール。
【請求項4】
軸方向の長さが3.5m以上の芯管の近傍に、その芯管と平行に第1制御ローラおよび第2制御ローラを設け、
上記芯管を回転させ、幅3.5m以上,厚み60μm以下,長さ5000m以上の偏光膜製造用のポリビニルアルコール系フィルムを、上記第1制御ローラおよび第2制御ローラの少なくとも一方と接触させながら、上記芯管に巻き取ることにより、上記芯管と、この芯管に巻かれた上記ポリビニルアルコール系フィルムとを備えた上記請求項1~3のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムロールを得るポリビニルアルコール系フィルムロールの製法であって、
巻き取り中は、回転する上記芯管に巻かれたポリビニルアルコール系フィルムの外径が増加するにつれて、上記芯管を上記第1制御ローラおよび第2制御ローラから徐々に遠ざけ、
そのうち巻き始めから巻き終わりまでの間の所定の時点までは、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、上記第1制御ローラに接触させながら、上記芯管に巻き取り、
上記所定の時点以降巻き終わりまでは、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、上記第1制御ローラに接触させず、第2制御ローラに接触させながら、上記芯管に巻き取ることにより、
巻き始めから巻き終わりまで、上記ポリビニルアルコール系フィルムの進入角度を2~35°の範囲内に維持することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
【請求項5】
上記第1制御ローラおよび第2制御ローラが、それぞれ独立して、位置の調整が可能になっている請求項4記載のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
【請求項6】
上記ポリビニルアルコール系フィルムを上記芯管に巻き取る巻き取り張力が、100~300N/mの範囲内に維持される請求項4または5記載のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
【請求項7】
上記芯管に巻かれているポリビニルアルコール系フィルムの外周面と上記第1制御ローラの外周面との間の隙間が、2~10mmの範囲内に維持される請求項4~6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
【請求項8】
上記ポリビニルアルコール系フィルムの巻き取り速度が、35m/分以上である請求項4~7のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜の形成材料として用いるポリビニルアルコール系フィルムを芯管に巻き取って得られるポリビニルアルコール系フィルムロールおよびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系フィルムは、透明性に優れたフィルムとして多くの用途に利用されており、その有用な用途の一つに偏光膜があげられる。その偏光膜は、液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられている。
【0003】
上記ポリビニルアルコール系フィルムは、一般に、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を形成材料とする連続キャスト法により、長尺の帯状に形成された後、幅を設計値にするために両側端部を切断除去(スリット)して製造され、その後、巻き取り機を用い、円筒状の芯管に巻き取られる。その巻き取り機は、上記芯管に接触ないし近接した状態で1本の制御ローラ(タッチローラ,コンタクトローラ等と呼ばれる)を備えており、その制御ローラに上記ポリビニルアルコール系フィルムが接触してから、上記芯管に巻き取られるようになっている(例えば、特許文献1,2参照)。そして、その制御ローラにより、上記巻き取り状態が制御されるようになっている。このようにして、上記芯管と、その芯管に巻かれた上記ポリビニルアルコール系フィルムとからなるポリビニルアルコール系フィルムロールが得られる。
【0004】
上記偏光膜は、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールからポリビニルアルコール系フィルムを繰り出し、そのポリビニルアルコール系フィルムに対する膨潤工程,染色工程,延伸工程等を経て製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-106376号公報
【文献】国際公開第2017/038955号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、上記液晶ディスプレイが大型化しており、それに伴い、その液晶ディスプレイの基本構成要素である上記偏光膜の大型化、そして、その偏光膜の形成材料である上記ポリビニルアルコール系フィルムの長尺化および広幅化が進んでいる。
【0007】
しかしながら、製造される上記ポリビニルアルコール系フィルムが長尺化および広幅化すると、場合によって、そのポリビニルアルコール系フィルムを形成材料として製造される偏光膜に、色むらが発生する等、その偏光膜の性能が悪化することがある。上記ポリビニルアルコール系フィルムが薄いと、その傾向が著しい。
【0008】
そこで、本発明者らは、上記ポリビニルアルコール系フィルムの長尺化および広幅化による、上記偏光膜の性能の悪化の原因を探求した。その結果、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールに、それまで見られなかった、はっきりとした皺や偏心(巻かれたポリビニルアルコール系フィルムの外径の偏り)が発生していることがわかった。そのため、上記偏光膜を製造する際に、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールからポリビニルアルコール系フィルムを繰り出したとき、そのポリビニルアルコール系フィルムに皺があったり、または、上記偏心に起因して、その繰り出し状態が不均一になったりする。それが原因で、製造される上記偏光膜の性能が悪化することを、本発明者らは突き止めた。この点で上記ポリビニルアルコール系フィルムロールは改善の余地がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、芯管に巻き取るポリビニルアルコール系フィルムを長尺化および広幅化しても、皺も偏心も発生しないポリビニルアルコール系フィルムロールおよびその製法である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明者らは、上記のようにして得た知見に鑑み、ポリビニルアルコール系フィルムロールについてさらに研究を重ねた。その結果、はっきりとした皺や偏心が発生しているポリビニルアルコール系フィルムロールは、巻き硬度が、上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の位置によって、大きく異なっていることを突き止めた。そして、上記幅方向における巻き硬度のふれを小さくするように、芯管にポリビニルアルコール系フィルムを巻くと、ポリビニルアルコール系フィルムロールに皺や偏心が抑制され、外観形状の優れたポリビニルアルコール系フィルムロールが得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔8〕を要旨とする。
〔1〕軸方向の長さが3.5m以上の芯管と、この芯管に巻かれた、幅3.5m以上,厚み60μm以下,長さ5000m以上のポリビニルアルコール系フィルムとを備えたポリビニルアルコール系フィルムロールであって、
上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における巻き硬度のふれが、デュロメータ硬さ15以下であるポリビニルアルコール系フィルムロール。
〔2〕上記巻き硬度が、デュロメータ硬さ60~95の範囲内である上記〔1〕に記載のポリビニルアルコール系フィルムロール。
〔3〕上記ポリビニルアルコール系フィルムの含水率が、5重量%以下である上記〔1〕または〔2〕に記載のポリビニルアルコール系フィルムロール。
〔4〕軸方向の長さが3.5m以上の芯管の近傍に、その芯管と平行に第1制御ローラおよび第2制御ローラを設け、上記芯管を回転させ、幅3.5m以上,厚み60μm以下,長さ5000m以上のポリビニルアルコール系フィルムを、上記第1制御ローラおよび第2制御ローラの少なくとも一方と接触させながら、上記芯管に巻き取ることにより、上記芯管と、この芯管に巻かれた上記ポリビニルアルコール系フィルムとを備えた上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルムロールを得るポリビニルアルコール系フィルムロールの製法であって、巻き取り中は、回転する上記芯管に巻かれたポリビニルアルコール系フィルムの外径が増加するにつれて、上記芯管を上記第1制御ローラおよび第2制御ローラから徐々に遠ざけ、そのうち巻き始めから巻き終わりまでの間の所定の時点までは、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、上記第1制御ローラに接触させながら、上記芯管に巻き取り、上記所定の時点以降巻き終わりまでは、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、上記第1制御ローラに接触させず、第2制御ローラに接触させながら、上記芯管に巻き取ることにより、巻き始めから巻き終わりまで、上記ポリビニルアルコール系フィルムの進入角度を2~35°の範囲内に維持するポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
〔5〕上記第1制御ローラおよび第2制御ローラが、それぞれ独立して、位置の調整が可能になっている上記〔4〕に記載のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
〔6〕上記ポリビニルアルコール系フィルムを上記芯管に巻き取る巻き取り張力が、100~300N/mの範囲内に維持される上記〔4〕または〔5〕に記載のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
〔7〕上記芯管に巻かれているポリビニルアルコール系フィルムの外周面と上記第1制御ローラの外周面との間の隙間が、2~10mmの範囲内に維持される上記〔4〕~〔6〕のいずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
〔8〕上記ポリビニルアルコール系フィルムの巻き取り速度が、35m/分以上である上記〔4〕~〔7〕のいずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法。
【0012】
ここで、本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールにおける、ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における巻き硬度の「ふれ」とは、その幅方向の一端部から他端部までの最短距離上の複数箇所を測定した巻き硬度の最大値と最小値との差である。
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法における、ポリビニルアルコール系フィルムの「進入角度」とは、図2,3に示すように、ポリビニルアルコール系フィルム2を巻き取っている状態において、巻かれる直前のポリビニルアルコール系フィルム2が最初に接触する、製造中のポリビニルアルコール系フィルムロールの部分を通る仮想垂線Lと、上記巻かれる直前のポリビニルアルコール系フィルム2とがなす角度(図2のα、図3のβ)のことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールは、芯管に巻かれているポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における巻き硬度のふれが、デュロメータ硬さ15以下となっている。そのため、上記ポリビニルアルコール系フィルムが、幅3.5m以上と広幅であり、長さ5000m以上と長尺であっても、均一な状態で巻かれている。しかも、上記ポリビニルアルコール系フィルムが、厚み60μm以下と薄型であっても、その均一な巻装状態を維持している。すなわち、本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールは、皺も偏心も殆どないものとなっている。そのため、偏光膜を製造する際に、本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールからポリビニルアルコール系フィルムを繰り出したとき、そのポリビニルアルコール系フィルムに皺がなく、しかも、その繰り出し状態を均一にすることができる。その結果、色むらがない等の、性能に優れた偏光膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールの一実施の形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールの製法における工程の一実施の形態を模式的に示す説明図である。
図3図2に続く工程を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0016】
〔ポリビニルアルコール系フィルムロール〕
図1は、本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールの一実施の形態を示す斜視図である。このポリビニルアルコール系フィルムロールは、軸方向の長さが3.5m以上の芯管1と、この芯管1の外周面に巻かれた、幅3.5m以上,厚み60μm以下,長さ5000m以上のポリビニルアルコール系フィルム2とを備えている。そして、そのポリビニルアルコール系フィルム2の幅方向における巻き硬度のふれが、デュロメータ硬さ15以下となっている。これが本発明の大きな特徴的構成の一つである。
その特徴的構成により、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールは、巻かれているポリビニルアルコール系フィルム2が上記のように広幅,長尺,薄型であっても、皺も偏心も殆どなく、ポリビニルアルコール系フィルム2が均一な状態で巻かれたものとなっている。
なお、図1では、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの構成をわかりやすくするために、各構成を模式的に示すとともに、各構成の大きさの縮尺を変えて図示している。
【0017】
そして、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールは、上記のように、巻き硬度のふれがデュロメータ硬さ15以下と小さく、皺も偏心も殆どないことから、偏光膜を製造する際に、そのポリビニルアルコール系フィルムロールからポリビニルアルコール系フィルム2を繰り出すと、そのポリビニルアルコール系フィルム2に皺がなく、しかも、その繰り出し状態を均一にすることができる。その結果、得られる偏光膜は、性能に優れた(幅方向における偏光度のふれが小さい,色むらがない等)ものとなる。
【0018】
より詳しく説明すると、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの巻き硬度は、製造する上記偏光膜の性能をより優れたものとする観点から、デュロメータ硬さ60~95の範囲内であることが好ましく、特に好ましくはデュロメータ硬さ65~92の範囲内であり、更に好ましくはデュロメータ硬さ70~90の範囲内である。
この巻き硬度が大きくなりすぎるように巻くと、その巻く工程で芯管1が変形したり、ポリビニルアルコール系フィルム2に皺が発生したりする傾向がある。巻き硬度が小さくなりすぎるように巻くと、芯管1より下側にある上記ポリビニルアルコール系フィルム2の部分が垂れ下がって、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールが偏心した状態になる傾向がある。そして、その偏心が原因となって、ポリビニルアルコール系フィルム2の繰り出し状態が不均一になり、そのため、製造される偏光膜は、色むらが発生しやすくなる傾向があり、性能に劣るものとなる。
【0019】
そして、上記幅方向における巻き硬度のふれは、先に述べたように、デュロメータ硬さ15以下であり、好ましくは12以下、特に好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
この巻き硬度のふれが大きすぎると、そのようなポリビニルアルコール系フィルムロールのポリビニルアルコール系フィルム2を形成材料として製造した偏光膜は、幅方向における偏光度のふれが大きくなり、性能に劣るものとなる。
【0020】
〔芯管〕
上記芯管1は、通常、形状が円筒状になっている。その芯管1の材質としては、例えば、アルミニウム,アルミニウム合金,カーボン,合成樹脂等があげられ、これらは、単独ないし2種類以上併せて用いられる。そのうち、強度の観点から、アルミニウム合金,カーボンが好ましく、通常、コストの観点から、アルミニウム合金が用いられる。また、上記芯管1は、先に述べたように、軸方向の長さが3.5m以上であり、通常、その芯管1に巻き取るポリビニルアルコール系フィルム2の幅よりも0~400mm程度長いものが用いられる。上記円筒状の芯管1の直径(外径)は、通常、110~310mmの範囲内であり、肉厚は、その芯管1の材質にもよるが、その材質がアルミニウム合金の場合、通常、3~40mmの範囲内である。
【0021】
〔ポリビニルアルコール系フィルム〕
上記ポリビニルアルコール系フィルム2は、一般に、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を形成材料とする連続キャスト法により、長尺の帯状に形成された後、幅を設計値にするために両側端部を切断除去(スリット)して製造される。
そのポリビニルアルコール系フィルム2の幅は、先に述べたように、3.5m以上であり、偏光膜の製造上の観点から、4m以上が好ましく、特に好ましくは4.2~7.0mの範囲内である。すなわち、上記幅が広すぎると、偏光膜を製造する際に、上記ポリビニルアルコール系フィルム2の繰り出しを制御しにくく、破断しやすくなる傾向がある。上記幅が狭すぎると、液晶ディスプレイの大型化に対応した偏光膜を製造しにくくなる傾向がある。
【0022】
上記ポリビニルアルコール系フィルム2の長さは、先に述べたように、5000m以上であり、取り扱い上および偏光膜の生産性の観点から、10000m以上が好ましく、特に好ましくは12000~30000mの範囲内である。すなわち、上記長さが長すぎると、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの外径および重量が大きくなるため、設備負荷が大きくなるとともに、輸送効率も低下する傾向がある。上記長さが短すぎると、偏光膜の生産性が低下する傾向がある。
【0023】
上記ポリビニルアルコール系フィルム2の厚みは、先に述べたように、60μm以下であり、偏光膜の製造上の観点から、55μm以下が好ましい。厚みの下限値は10μmが好ましい。すなわち、上記厚みが厚すぎると、製造した偏光膜は、収縮力が大きくなりやすく、設計どおりの寸法に形成しにくくなる傾向がある。上記厚みが薄すぎると、偏光膜を製造する際に、破断しやすくなる傾向がある。
上記厚みの調整は、例えば、上記連続キャスト法における、キャストドラムへのポリビニルアルコール系樹脂水溶液の吐出量を調整したり、その吐出により製膜したフィルム2の流れ方向(MD)ないし幅方向(TD)への延伸量を調整したりすること等により行う。
【0024】
上記ポリビニルアルコール系フィルム2の含水率は、製造する上記偏光膜の性能をより優れたものとする観点から、5重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.1~4重量%の範囲内であり、更に好ましくは0.2~3.5重量%の範囲内である。上記含水率が高すぎると、上記ポリビニルアルコール系フィルム2がブロッキングしやすくなる傾向があり、上記含水率が低すぎると、上記ポリビニルアルコール系フィルム2に傷が付きやすくなる傾向があり、いずれも、偏光膜の性能に悪影響を及ぼしやすくなる。
上記含水率の調整は、例えば、巻き取る前の上記ポリビニルアルコール系フィルム2を、乾燥ないし調湿することにより行う。
【0025】
〔巻き取り機〕
つぎに、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの製造に用いる巻き取り機について説明する。
この巻き取り機は、先に述べたように、製造された長尺のポリビニルアルコール系フィルム2を、設計値の幅になるようスリットした後に、円筒状の芯管1に巻き取るための機械である。
【0026】
すなわち、上記巻き取り機は、図2に示すように、上記芯管1を回転自在に支持する芯管支持体10と、支持する上記芯管1と平行に設けられた一対の制御ローラ11,12とを備えている。また、上記芯管支持体10は、上記芯管1を回転駆動させるモータ等の駆動手段(図示せず)を備えている。そして、上記巻き取り機は、製造された上記ポリビニルアルコール系フィルム2を、上記一対の制御ローラ11,12の少なくとも一方と接触させながら、上記芯管1に巻き取り、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールを製造するようになっている。
なお、図2において、符号5は、製造された長尺のポリビニルアルコール系フィルム2を上記巻き取り機まで、長手方向に走行させるために複数(図2では3個)設けられたガイドローラである。
また、図2では、上記ガイドローラ5および巻き取り機の構成をわかりやすくするために、その構成の要部を模式的に示すとともに、その要部(構成)の大きさの縮尺を変えて図示している。以降の図3でも同様である。
【0027】
上記芯管支持体10は、この実施の形態では、アーム状になっており、そのアーム状の先端部分に上記芯管1が着脱自在となっているとともに、そのアーム状の根元部分を中心として、上記芯管1の軸に直角な仮想平面に沿って、揺動自在となっている(図2の矢印R参照)。その揺動は、通常、モータにより行う。
このアーム状の芯管支持体10の揺動半径は、製造するポリビニルアルコール系フィルムロールの半径よりも大きく、通常、1.0~1.5mの範囲内である。
【0028】
上記一対の制御ローラ11,12は、巻き始めに上記芯管1に近い側に位置する第1制御ローラ11と、遠い側に位置する第2制御ローラ12とを備えている。この実施の形態では、各制御ローラ11,12が別々のスイングアーム11a,12aの先端部分に追従回転自在に取り付けられており、互いに対向した状態(タンデム型に配置)で設けられている。各スイングアーム11a,12aは、根元部分を中心として、各制御ローラ11,12の軸に直角な仮想平面に沿って、揺動自在となっている。この揺動は、それぞれ独立して行われ、上記一対の制御ローラ11,12は、それぞれ独立して、位置の調整が可能になっている。そして、上記揺動は、通常、モータにより行う。
【0029】
各制御ローラ11,12の材質としては、例えば、炭素鋼,ステンレス鋼等の鋼、アルミニウム,アルミニウム合金,カーボン(炭素繊維)等があげられ、なかでも、制御ローラ11,12の自重およびポリビニルアルコール系フィルムの張力による撓みを小さくする観点から、カーボン(炭素繊維)が好ましい。各制御ローラ11,12の寸法は、通常、半径が100~300mmの範囲内であり、長さが、巻き取るポリビニルアルコール系フィルム2の幅以上の、3.5m以上である。対向する制御ローラ11,12の中心間距離は、通常、150~700mmの範囲内である。上記スイングアーム11a,12aの揺動半径は、上記制御ローラ11,12の半径よりも大きく、通常、200~1000mmの範囲内である。
【0030】
〔ポリビニルアルコール系フィルムロールの製法〕
つぎに、上記巻き取り機を用いた上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの製法について説明する。
【0031】
すなわち、まず、図2に示すように、芯管1を上記芯管支持体10の先端部分に取り付けて支持する。ついで、第1制御ローラ11に接触したポリビニルアルコール系フィルム2を上記芯管1の外周面に巻き始める際の、上記ポリビニルアルコール系フィルム2の進入角度αが2~35°の範囲内となるよう、上記芯管支持体10を揺動させるとともに、上記第1制御ローラ11を取り付けているスイングアーム11aを揺動させ、上記芯管1を上記第1制御ローラ11に近付ける。この状態で、上記第1制御ローラ11の位置を固定する(スイングアーム11aが揺動しないようにする)。この近付いた状態では、上記芯管1の外周面と上記第1制御ローラ11の外周面との間の隙間(ニア量)が、2~5mmの範囲内になっていることが好ましい。
【0032】
また、後に述べるように、巻き取り中は、上記芯管1に巻かれたポリビニルアルコール系フィルム2の外径が増加するにつれて、上記芯管支持体10を揺動させ、上記芯管1を上記第1制御ローラ11から徐々に遠ざけるが、このようにすると、ある時点から、巻き取られるポリビニルアルコール系フィルム2の進入角度αが上記範囲(2~35°)から外れる。そこで、図3に示すように、上記進入角度βが上記範囲(2~35°)を維持するよう、所定の時点から、ポリビニルアルコール系フィルム2を、上記第2制御ローラ12に接触させた後に、上記第1制御ローラ11に接触させることなく、巻き取るようにすべく、巻き始める前に予め、上記第2制御ローラ12の位置を調整して固定する(スイングアーム12aが揺動しないようにする)。
【0033】
このように、上記第1制御ローラ11および第2制御ローラ12の位置を固定した状態で、上記芯管1を回転させ、上記ポリビニルアルコール系フィルム2を上記芯管1の外周面に巻き始める。
【0034】
巻き始めから上記所定の時点まで(巻き取り初期)は、図2に示すように、上記ポリビニルアルコール系フィルム2は、上記第2制御ローラ12に接触してから、上記第1制御ローラ11に接触し、その後、上記芯管1の外周面に巻き取られる。この巻き取り中は、先に述べたように、上記芯管1に巻かれたポリビニルアルコール系フィルム2の外径が増加するにつれて、上記芯管支持体10を揺動させ(図2の矢印R参照)、上記芯管1を上記第1制御ローラ11から徐々に遠ざける。
【0035】
このような巻き取りを続けると、図3に示すように、上記所定の時点から、上記ポリビニルアルコール系フィルム2が、上記第1制御ローラ11から離れて接触しないようになり、上記第2制御ローラ12に接触した後に、上記第1制御ローラ11に接触することなく、巻き取られるようになる。この巻き取り中の上記進入角度βは、通常、巻き取り初期における上記進入角度αよりも大きくなる。このような巻き取りが巻き終わりまで続き、目的の上記ポリビニルアルコール系フィルムロールが得られる。
【0036】
上記ポリビニルアルコール系フィルム2の巻き取り速度は、両側端部を切断除去(スリット)した後の切断面の形状を良好にする観点から、35m/分以上であることが好ましく、特に好ましくは40m/分以上であり、更に好ましくは50~150m/分の範囲内である。
上記巻き取り速度が遅すぎると、生産効率が低下する傾向があり、速すぎると、両側端部を切断除去(スリット)した後の切断面の形状が悪化し、偏光膜の性能に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0037】
上記巻き取り中、上記ポリビニルアルコール系フィルム2の進入角度α,βは、得られるポリビニルアルコール系フィルムロールの巻き硬度のふれをデュロメータ硬さ15以下に制御する観点から、2~35°の範囲内であり、好ましくは2~20°の範囲内であり、特に好ましくは2~10°の範囲内である。
上記進入角度α,βが大きすぎると、芯管1より下側にある上記ポリビニルアルコール系フィルム2の部分が垂れ下がって、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールが偏心した状態になる傾向がある。そして、その偏心が原因となって、ポリビニルアルコール系フィルム2の繰り出し状態が不均一になり、そのため、製造される偏光膜は、色むらが発生しやすくなる傾向があり、性能に劣るものとなる。上記進入角度α,βが小さすぎると、巻き取りの際に、ポリビニルアルコール系フィルム2に皺が発生しやすくなる傾向がある。
【0038】
また、上記巻き取り中、巻き取られた上記ポリビニルアルコール系フィルム2の外周面と上記第1制御ローラ11の外周面との間の隙間(ニア量)は、上記進入角度α,βを上記2~35°の範囲に維持しやすくする観点から、2~10mmの範囲内に維持されることが好ましく、特に好ましくは2~8mmの範囲内であり、更に好ましくは2~6mmの範囲内である。
なかでも、上記隙間は、上記巻き取り初期では、2~5mmの範囲内に維持され、その巻き取り初期以降では、6mm以上に維持されることが好ましい。
上記隙間が大きすぎると、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールが偏心した状態になる傾向がある。そして、その偏心が原因となって、ポリビニルアルコール系フィルム2の繰り出し状態が不均一になり、そのため、製造される偏光膜は、色むらが発生しやすくなる傾向があり、性能に劣るものとなる。上記隙間が小さすぎると、巻き取りの際に、ポリビニルアルコール系フィルム2に皺が発生しやすくなる傾向がある。
【0039】
上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの製法において、上記ポリビニルアルコール系フィルム2の巻き取り張力は、得られるポリビニルアルコール系フィルムロールの巻き硬度を前記好ましい範囲(デュロメータ硬さ60~95)にする観点から、100~300N/mの範囲内に維持することが好ましく、特に好ましくは120~280N/mの範囲内であり、更に好ましくは140~260N/mの範囲内である。
上記巻き取り張力が大きすぎると、巻き締りによる皺が発生しやすくなる傾向がある。上記巻き取り張力が小さすぎると、芯管1より下側にある上記ポリビニルアルコール系フィルム2の部分が垂れ下がって、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールが偏心した状態になる傾向がある。そして、その偏心が原因となって、ポリビニルアルコール系フィルム2の繰り出し状態が不均一になり、そのため、製造される偏光膜は、色むらが発生しやすくなる傾向があり、性能に劣るものとなる。
ここで、上記巻き取り張力とは、巻き取るポリビニルアルコール系フィルム2の幅1m当たりにかける張力である。その巻き取り張力の調整は、例えば、上記芯管1の回転トルクと、上記ポリビニルアルコール系フィルム2の走行路の途中に設けられるテンションロールによる、上記ポリビニルアルコール系フィルム2への負荷とを調整すること等により行う。
【0040】
上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの製法では、上記一対の制御ローラ11,12により、巻き取るポリビニルアルコール系フィルムロールの進入角度α,βを2~35°の範囲を維持するようになっている。それにより、得られる上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの、ポリビニルアルコール系フィルム2の幅方向における巻き硬度のふれを、デュロメータ硬さ15以下にすることができる。
このように、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの製法において、上記一対の制御ローラ11,12を設け、上記進入角度α,βを2~35°の範囲内に維持することが、本発明の大きな特徴的構成の一つである。
【0041】
そして、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの製法では、上記一対の制御ローラ11,12が、それぞれ独立して、位置の調整が可能になっているため、上記進入角度α,βの調整の自由度が高く、ポリビニルアルコール系フィルムロールの状態(巻き硬度等)をより適正化することができる。
【0042】
このようにして製造された上記ポリビニルアルコール系フィルムロールは、先に述べたように、巻き硬度のふれが小さく、皺も偏心も殆どないことから、そのポリビニルアルコール系フィルムロールから繰り出されるポリビニルアルコール系フィルム2に皺がなく、しかも、その繰り出し状態を均一にすることができる。そのため、上記ポリビニルアルコール系フィルム2を形成材料として偏光膜を製造すると、その偏光膜を、色むらがない等の、性能に優れたものとすることができる。
【0043】
〔偏光膜〕
上記偏光膜の製造は、通常、上記ポリビニルアルコール系フィルム2を、その長手方向に走行させながら、膨潤,染色,ホウ酸架橋,延伸,洗浄,乾燥等の工程を経て行われる。
【0044】
また、製造された上記偏光膜は、その片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等方性な樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合することにより、偏光板に形成される。
【0045】
そして、上記偏光膜および偏光板は、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射低減層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。
【0046】
なお、上記実施の形態では、上記一対の制御ローラ11,12の位置の調整を、スイングアーム11a,12aの揺動により行っているが、他でもよく、例えば、ランダムに位置の調整をできるようにしてもよい。
【実施例
【0047】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。但し、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕
重量平均分子量142000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂1000kg、水2500kg、可塑剤としてグリセリン100kgを溶解缶に入れ、撹拌しながら140℃まで昇温して、樹脂濃度25重量%に濃度調整を行い、均一に溶解したポリビニルアルコール系樹脂水溶液を得た。
ついで、そのポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、二軸押出機に供給して脱泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイ吐出口から、表面温度90℃のキャストドラムに吐出および流延して製膜した。
つぎに、その製膜したフィルムを複数の金属加熱ロールで乾燥し、フローティングドライヤーを用いて熱処理を行い、含水率3重量%、厚み60μm、幅4.8m、長さ5500mのポリビニルアルコール系フィルムを形成した(連続キャスト法)。つづいて、スリット装置を用い、その形成したポリビニルアルコール系フィルムロールの両側端部を切断除去(スリット)して幅を4.5mにした。
そして、上記実施の形態の、一対の制御ローラをタンデム型に配置した巻き取り機を用い、上記実施の形態と同様にして、上記スリット後のポリビニルアルコール系フィルムのうち長さ5000mを、アルミニウム合金製の円筒状芯管(直径230mm、肉厚15mm、軸方向の長さ4.8m)の外周面に巻き取った。このようにしてポリビニルアルコール系フィルムロールを得た。
【0049】
この実施例1では、巻き取り条件を以下のようにした。
・巻き始めのポリビニルアルコール系フィルムの進入角度:5°。
・巻き始めから巻き終わりまでの上記進入角度:5~10°の範囲内。
・巻き始めの、巻き取られたポリビニルアルコール系フィルムの外周面と第1制御ローラの外周面との間の隙間(ニア量):5mm。
・巻き取り張力:160N/m。
・巻き取り速度:100m/分。
【0050】
〔実施例2〕
実施例1において、連続キャスト法により形成するポリビニルアルコール系フィルムの幅を5.0m、長さを15500mとした。また、スリット後の幅を4.8mとした。そして、円筒状芯管の軸方向の長さを5.0mとし、巻き取るポリビニルアルコール系フィルムの長さを15000m、巻き取り張力を200N/mとした。それ以外の部分は上記実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムロールを得た。
【0051】
〔実施例3〕
実施例1において、連続キャスト法により、含水率1重量%、厚み45μm、幅5.0m、長さ17500mのポリビニルアルコール系フィルムを形成した。またスリット後の幅を4.8mとした。そして、円筒状芯管の軸方向の長さを5.0mとし、巻き取るポリビニルアルコール系フィルムの長さを17000m、巻き取り張力を200N/m、巻き取り速度を70m/分とした。それ以外の部分は上記実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムロールを得た。
【0052】
〔比較例1〕
実施例1において、巻き取り機の制御ローラを1本とした。また、巻き取り条件は、巻き始めの上記進入角度を40°、巻き始めから巻き終わりまでの上記進入角度を40~50°、上記ニア量を15mm、巻き取り張力を100N/m、巻き取り速度:80m/分とした。それ以外の部分は上記実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムロールを得た。
【0053】
〈巻き硬度〉
上記実施例1~3および比較例1のポリビニルアルコール系フィルムロールについて、巻き硬度を測定した。
その測定は、アスカーゴム硬度計JA型(高分子計器社製)を用い、上記ポリビニルアルコール系フィルムロールの、巻かれたポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の一端縁から100mmの位置を始点として、その幅方向に100mm間隔で他端部まで行った。そして、測定した硬度の平均値を、上記巻き硬度とし、下記の表1に示した。
【0054】
〈巻き硬度のふれ〉
上記測定した硬度の、最大値と最小値の差を、巻き硬度のふれとし、下記の表1に示した。
【0055】
〈外観〉
上記実施例1~3および比較例1のポリビニルアルコール系フィルムロールの外観を目視にて観察して、以下の基準で評価し、下記の表1に示した。
(評価基準)
〇・・・皺も偏心も殆どなく、外観形状は良好であった。
×・・・はっきりとした皺および偏心があり、外観形状が不良であった。
【0056】
【表1】
【0057】
〈偏光膜の製造〉
上記実施例1~3および比較例1のポリビニルアルコール系フィルムロールから、ポリビニルアルコール系フィルムを繰り出し、水温25℃の水槽に浸漬して膨潤させながら流れ方向(MD)に1.7倍に延伸した。ついで、ヨウ素0.5g/L、ヨウ化カリウム30g/Lよりなる28℃の水溶液中に浸漬して染色しながら流れ方向(MD)に1.6倍に延伸した。つぎに、ホウ酸40g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(55℃)に浸漬してホウ酸架橋しながら流れ方向(MD)に2.1倍に一軸延伸した。最後に、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、乾燥して総延伸倍率5.8倍の偏光膜を得た。
【0058】
〈偏光度(%)および単体透過率(%)〉
得られた上記偏光膜の幅方向の中央部から、長さ4cm×幅4cmの試験片を切り出し、自動偏光フィルム測定装置(日本分光社製:VAP7070)を用い、偏光度(%)および単体透過率(%)を測定し、下記の表2に示した。なお、偏光度(%)は、平均値、最大値、最小値を示した。
【0059】
〈色むら〉
得られた偏光膜の幅方向の中央部から、長さ30cm×幅30cmの試験片を切り出し、クロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45°の角度で挟み、その状態で、表面照度14000lxのライトボックスを用い、透過モードで光学的な色むらを観察して、以下の基準で評価し、下記の表2に示した。
(評価基準)
〇・・・色むらがなかった。
△・・・かすかに色むらがあった。
×・・・はっきりとした色むらがあった。
【0060】
【表2】
【0061】
上記表1の結果から、巻き取り硬度のふれが小さくなるよう製造された実施例1~3のポリビニルアルコール系フィルムロールは、外観に優れている(皺も偏心も殆どない)ことがわかる。そして、上記表2の結果から、そのようなポリビニルアルコール系フィルムロールから繰り出されたポリビニルアルコール系フィルムを形成材料として製造された偏光膜は、性能に優れている(色むらがない)ことがわかる。
これに対し、巻取り硬度のふれを考慮せずに製造された比較例1のポリビニルアルコール系フィルムロールは、外観に劣っている(皺および偏心がみられる)ことがわかる。しかも、そのようなポリビニルアルコール系フィルムロールから繰り出されたポリビニルアルコール系フィルムを形成材料として製造された偏光膜は、性能に劣っている(色むらがある)ことがわかる。
【0062】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムロールおよびその製法は、芯管に巻き取るポリビニルアルコール系フィルムを長尺化および広幅化しても、皺も偏心も発生しないものとし、性能に優れた偏光膜を製造する場合に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 芯管
2 ポリビニルアルコール系フィルム
11 第1制御ローラ
12 第2制御ローラ
α 進入角度
図1
図2
図3