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特許7334735非水系二次電池用負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】非水系二次電池用負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20230822BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230822BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230822BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020521218
(86)(22)【出願日】2019-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2019019872
(87)【国際公開番号】W WO2019225534
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018098022
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】丸 直人
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 寿子
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-200983(JP,A)
【文献】特開2007-242282(JP,A)
【文献】特開2017-016944(JP,A)
【文献】特開2011-233497(JP,A)
【文献】特開2017-004727(JP,A)
【文献】特開2019-075199(JP,A)
【文献】特開2015-185407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)とを含み、炭素質粒子(A)は、微小圧縮試験機を用いて下記の測定方法で測定される10%粒径変位圧力が10MPa以下であり、かつ、酸化珪素粒子(B)のメディアン径(D50)が0.8μm以上20μm以下で、炭素質粒子(A)のメディアン径(D50)が酸化珪素粒子(B)のメディアン径(D50)よりも大きい非水系二次電池用負極材。
<10%粒径変位圧力の測定方法>
試料を微小圧縮試験機の試料台に載せ、装置付属の顕微鏡によって、無作為に測定対象の炭素質粒子を選定する。被測定粒子を顕微鏡によって平面視した際の最大径と、最大径を与える軸に直交する方向の極大径の平均値として、測定対象の粒子の平均径を算出した後、最大試験力490mN、負荷速度4.8mN/secの条件にて圧縮試験を行う。被測定粒子の変位(変形)が平均径の10%に到達した時の試験力を下記(1)式に入力して、10%粒径変位圧力を算出する。炭素質粒子4粒子以上に対して測定を実施し、得られた10%粒径変位圧力の分布のうち、下位50%の測定結果の平均値を試料の10%粒径変位圧力とする。
式(1) 〔10%粒径変位圧力〕=2.48×〔試験力[N]〕/(π×〔平均径[μm]〕×〔平均径[μm]〕)
【請求項2】
前記炭素質粒子(A)として人造黒鉛を含む請求項1に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項3】
前記炭素質粒子(A)として造粒人造黒鉛を含む請求項1に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項4】
前記炭素質粒子(A)と前記酸化珪素粒子(B)との合計量に対する酸化珪素粒子(B)の含有量が30重量%未満である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項5】
前記炭素質粒子(A)が黒鉛粒子である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項6】
前記酸化珪素粒子(B)が珪素の微結晶を含む構造を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項7】
前記酸化珪素粒子(B)が一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で示される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項8】
前記酸化珪素粒子(B)が黒鉛に内包されていないものである請求項1乃至7のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項9】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が請求項1乃至8のいずれか1項に記載の負極材を含有する非水系二次電池用負極。
【請求項10】
正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、該負極が請求項9に記載の非水系二次電池用負極である非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用負極材、それを用いた非水系二次電池用負極及びこの負極を備えた非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度が高く、急速充放電特性に優れた非水系二次電池、とりわけリチウムイオン二次電池が注目されている。特に、リチウムイオンを吸蔵・放出できる正極及び負極、並びにLiPFやLiBF等のリチウム塩を溶解させた非水電解液からなる非水系リチウム二次電池が開発され、実用化されている。
【0003】
非水系リチウム二次電池の負極材としては種々のものが提案されている。非水系リチウム二次電池の負極材としては高容量であること及び放電電位の平坦性に優れていることなどから、天然黒鉛やコークス等の黒鉛化で得られる人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズピッチ、黒鉛化炭素繊維等の黒鉛質の炭素質粒子が用いられている。一部の電解液に対して比較的安定しているなどの理由で非晶質の炭素材料も用いられている。黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆あるいは付着させ、黒鉛による高容量かつ不可逆容量が小さいという特性と、非晶質炭素による電解液との安定性に優れるという特性との2つの特性を併せもたせた炭素材料も用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池を更に高容量化する目的から、リチウムと合金化できる金属または金属酸化物を負極材として使用する試みがなされている。リチウムと合金化できる金属または金属酸化物は、負極材として充放電する際に大きな体積変化を伴うため、電池の劣化が進行しやすいことが知られている。これに対して、特定の性質を持つ炭素材料と、リチウムと合金化できる金属または金属酸化物を組み合わせて用いる検討がなされている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、特定の電極プレス荷重を有する炭素質材料と珪素元素を含む複合炭素粒子を組み合わせたものが記載されている。
特許文献3には、特定の圧力において特定の密度を有するペレットを形成する黒鉛粒子と金属-炭素複合系活物質粒子を組み合わせたものが記載されている。
特許文献4には負極活物質として、ケイ素系活物質(SiOx:0.5≦x≦1.6)及び炭素系活物質を含み、負極活物質の総質量に対するケイ素系活物質の質量の割合が1質量%以上25質量%以下であるものが記載されている。
特許文献5には黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に炭素層を備える炭素質粒子と、酸化珪素粒子とを組み合わせたものが記載されている。
【0006】
【文献】特開2015-38862号公報
【文献】特開2015-69762号公報
【文献】特開2009-105046号公報
【文献】特開2017-4727号公報
【文献】特開2013-200983号公報
【0007】
本発明者がこれらの従来の技術を詳細に検討した結果、特許文献1乃至5の負極材では、電池としたときの容量とサイクル特性のバランスが不十分であるという課題が見出された。
【発明の概要】
【0008】
本発明の課題は、電池としたときの容量とサイクル特性のバランスに優れた非水系二次電池用負極材、並びにこれを用いた非水系二次電池用負極及び非水系二次電池を提供することにある。
【0009】
本発明者は、特定の圧縮強度を有する炭素質粒子に対して特定の粒子径を有する酸化珪素粒子を組み合わせた非水系二次電池用負極材を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] 炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)とを含み、炭素質粒子(A)は、微小圧縮試験機を用いて下記の測定方法で測定される10%粒径変位圧力が10MPa以下であり、かつ、酸化珪素粒子(B)のメディアン径(D50)が0.8μm以上20μm以下である非水系二次電池用負極材。
<10%粒径変位圧力の測定方法>
試料を微小圧縮試験機の試料台に載せ、装置付属の顕微鏡によって、無作為に測定対象の炭素質粒子を選定する。被測定粒子を顕微鏡によって平面視した際の最大径と、最大径を与える軸に直交する方向の極大径の平均値として、測定対象の粒子の平均径を算出した後、最大試験力490mN、負荷速度4.8mN/secの条件にて圧縮試験を行う。被測定粒子の変位(変形)が平均径の10%に到達した時の試験力を下記(1)式に入力して、10%粒径変位圧力を算出する。炭素質粒子4粒子以上に対して測定を実施し、得られた10%粒径変位圧力の分布のうち、下位50%の測定結果の平均値を試料の10%粒径変位圧力とする。
式(1) 〔10%粒径変位圧力〕=2.48×〔試験力[N]〕/(π×〔平均径[μm]〕×〔平均径[μm]〕)
【0011】
[2] 前記炭素質粒子(A)として人造黒鉛を含む[1]に記載の非水系二次電池用負極材。
【0012】
[3] 前記炭素質粒子(A)として造粒人造黒鉛を含む[1]に記載の非水系二次電池用負極材。
【0013】
[4] 前記炭素質粒子(A)と前記酸化珪素粒子(B)との合計量に対する酸化珪素粒子(B)の含有量が30重量%未満である[1]乃至[3]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0014】
[5] 前記炭素質粒子(A)が黒鉛粒子である[1]乃至[4]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0015】
[6] 前記酸化珪素粒子(B)が珪素の微結晶を含む構造を有する[1]乃至[5]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0016】
[7] 前記酸化珪素粒子(B)が一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で示される[1]乃至[6]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0017】
[8] 前記酸化珪素粒子(B)が黒鉛に内包されていないものである[1]乃至[7]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0018】
[9] 集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が[1]乃至[8]のいずれかに記載の負極材を含有する非水系二次電池用負極。
【0019】
[10] 正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、該負極が[9]に記載の非水系二次電池用負極である非水系二次電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電池としたときの容量とサイクル特性のバランス等に優れた非水系二次電池用負極材、並びにこれを用いた非水系二次電池用負極及び非水系二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0022】
〔負極材〕
本発明の非水系二次電池用負極材(以下において、「本発明の負極材」と称す場合がある。)は、炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)とを含み、炭素質粒子(A)は、微小圧縮試験機を用いて下記の測定方法で測定される10%粒径変位圧力(以下、単に「10%粒径変位圧力」と称す。)が10MPa以下であり、かつ、酸化珪素粒子(B)のメディアン径(D50)が0.8μm以上20μm以下であることを特徴とする。
【0023】
<10%粒径変位圧力の測定方法>
試料を微小圧縮試験機の試料台に載せ、装置付属の顕微鏡によって、無作為に測定対象の炭素質粒子を選定する。被測定粒子を顕微鏡によって平面視した際の最大径と、最大径を与える軸に直交する方向の極大径の平均値として、測定対象の粒子の平均径を算出した後、最大試験力490mN、負荷速度4.8mN/secの条件にて圧縮試験を行う。被測定粒子の変位(変形)が平均径の10%に到達した時の試験力を下記(1)式に入力して、10%粒径変位圧力を算出する。炭素質粒子4粒子以上に対して測定を実施し、得られた10%粒径変位圧力の分布のうち、下位50%の測定結果の平均値を試料の10%粒径変位圧力とする。
式(1) 〔10%粒径変位圧力〕=2.48×〔試験力[N]〕/(π×〔平均径[μm]〕×〔平均径[μm]〕)
【0024】
以下において、本発明の負極材に含まれる10%粒径変位圧力が10MPa以下の炭素質粒子(A)を「本発明の炭素質粒子(A)」と称し、メディアン径(D50)が0.8μm以上20μm以下の酸化珪素粒子(B)を「本発明の酸化珪素粒子(B)」と称す場合がある。
【0025】
本発明の酸化珪素粒子(B)は、特許文献1~3に記載されるような、珪素原子が黒鉛等の炭素材と複合化されたものではなく、SiOxを主体として好ましくは70重量%以上含むものである。本発明の酸化珪素粒子(B)は、SiOxを主体とするものであれば、Si以外の他の元素を含むものであってもよく、後述のように表面にアモルファス炭素のコーティングがなされた酸化珪素粒子であってもよい。
【0026】
[メカニズム]
<メディアン径(D50)が0.8μm以上20μm以下の酸化珪素粒子(B)を含むことによる効果>
本発明の負極材は、酸化珪素粒子(B)を含むことによって、負極材として大きな容量を得ることが可能となる。しかも、この酸化珪素粒子(B)は、メディアン径(D50)が0.8μm以上20μm以下であることで、表面酸化による容量損失が少なく、かつ、サイクル特性に優れた負極材を得ることができる。
【0027】
<10%粒径変位圧力が10MPa以下の炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)とのブレンドによる効果>
本発明の負極材は、10%粒径変位圧力が10MPa以下という圧縮強度が小さい炭素質粒子(A)と、炭素材と複合化されていないメディアン径(D50)が0.8μm以上20μm以下の酸化珪素粒子(B)とを共に含むことによって、炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)が形成する電極層に適度な隙間が形成された電極を形成することが可能になる。これにより、電池の充放電反応中に、高容量の酸化珪素粒子(B)に十分な量の電解液を供給することが可能になり、電池としたときに高容量、かつ優れたサイクル特性を得ることができると考えられる。
【0028】
また、充放電を伴う酸化珪素粒子(B)の大きな体積変化に対し、酸化珪素粒子(B)に接する、圧縮強度の小さい炭素質粒子(A)が形状を変化させつつ追随できるようになることにより、負極電極の劣化を抑制することが可能になり、このことからも電池としたときに高容量、かつ優れたサイクル特性を得ることができると考えられる。
【0029】
[炭素質粒子(A)]
本発明の炭素質粒子(A)は、10%粒径変位圧力が10MPa以下である。本発明の炭素質粒子(A)の10%粒径変位圧力は10MPa以下であれば、その値には特に制限はない。急速充放電サイクル時にも優れた性能を維持するために、本発明の炭素質粒子(A)の10%粒径変位圧力は8MPa以下、特に7MPa以下であることが好ましい。10%粒径変位圧力が過度に小さいものは粒子としての耐久性が低くなる傾向にあるので、本発明の炭素質粒子(A)の10%粒径変位圧力は0.5MPa以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の炭素質粒子(A)は、10%粒径変位圧力が10MPa以下であれば特に限定されないが、例えば、黒鉛、非晶質炭素、黒鉛化度の小さい炭素質物が挙げられる。
【0031】
本発明の炭素質粒子(A)としては、中でも、黒鉛が、商業的に容易に入手可能であり、理論上372mAh/gの高い充放電容量を有し、さらには他の負極用活物質を用いた場合と比較して、高電流密度での充放電特性の改善効果が大きいため好ましい。
【0032】
黒鉛としては、不純物の少ないものが好ましく、必要に応じて、公知の種々の精製処理を施して用いることができる。黒鉛の種類としては、天然黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。電池としたときのサイクル特性が良好な点から天然黒鉛が好ましい。一方、電池としたときに高容量となる観点から人造黒鉛が好ましく、造粒人造黒鉛がより好ましい。「造粒人造黒鉛」とは、人造黒鉛の一次粒子が複数、集合または結合して二次粒子を形成したものを意味する。また、後述のとおり、電池としたときの特性が総合的に良好となる点から、球形化天然黒鉛と造粒人造黒鉛が好ましく、なかでも、鱗片状黒鉛を球形化処理した球形化天然黒鉛と造粒人造黒鉛がより好ましく、造粒人造黒鉛が最も好ましい。
【0033】
また、これらを炭素質物、例えば非晶質炭素や黒鉛化物で被覆したものを用いてもよい。本発明ではこれらを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
黒鉛化度の小さい炭素質物粒子としては、有機物を通常2500℃未満の温度で焼成したものが挙げられる。具体的には、例えばバルクメソフェーズや非晶質炭素が挙げられる。有機物としては、コールタールピッチ、乾留液化油などの石炭系重質油;常圧残油、減圧残油などの直留系重質油;原油、ナフサなどの熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油などの石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素;フェナジンやアクリジンなどの窒素含有環状化合物;チオフェンなどの硫黄含有環状化合物;アダマンタンなどの脂肪族環状化合物;ビフェニル、テルフェニルなどのポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールなどのポリビニルエステル類、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性高分子などが挙げられる。
【0035】
バルクメソフェーズとしては、例えば、石油系重質油、石炭系重質油、直留系重質油を400~600℃で熱処理した炭素質物が挙げられる。
【0036】
非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、前記有機物を不融化処理し、焼成した粒子が挙げられる。
【0037】
非晶質炭素は結晶化度の程度に応じて、焼成温度は600℃以上とすることができ、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上であり、通常2500℃未満とすることができ、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1400℃以下の範囲である。
焼成の際、有機物に燐酸、ホウ酸、塩酸などの酸類、水酸化ナトリウム等のアルカリ類などを混合してもよい。
【0038】
人造黒鉛としては、例えば、ニードルコークス、ピッチコークス、コールタール、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機物を焼成し、黒鉛化したものが挙げられる。これらの中でも、電池としたときの容量が大きい負極材が得られる点から、ニードル系生コークス、コールタール、コールタールピッチ、石炭系重質油、石油系重質油、芳香族炭化水素を焼成し、黒鉛化したものが好ましく、ニードル系生コークス、を焼成し、黒鉛化したものが特に好ましい。
【0039】
黒鉛化温度は、2500℃以上、3200℃以下の範囲とすることができ、黒鉛化の際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。
【0040】
電池としたときにより高容量でサイクル特性が良好である観点から人造黒鉛の中でも造粒人造黒鉛がより好ましい。なかでも、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が添着された造粒人造黒鉛が特に好ましい。なお、「造粒人造黒鉛」とは、人造黒鉛の一次粒子が複数、集合または結合して二次粒子を形成したものを意味する。
【0041】
造粒人造黒鉛を製造する方法としては、例えば、バルクメソフェーズやニードルコークス等の人造黒鉛前駆体にコールタール、コールタールピッチ、石油系重質油等のバインダーを加えて混合・成形し、焼成して黒鉛化する方法等が挙げられる。さらに、得られた造粒人造黒鉛にコールタール、コールタールピッチ、石油系重質油等の非晶質炭素前駆体を加えて混合し、不活性ガス中で焼成することで、非晶質炭素で被覆された造粒人造黒鉛を製造することが出来る。
また、人造黒鉛にコールタール、コールタールピッチ、石油系重質油等の非晶質炭素前駆体をバインダーとして加えて混合・造粒し、不活性ガス中で焼成する方法により、非晶質炭素で被覆された複合人造黒鉛を製造することができる。
【0042】
天然黒鉛は、その性状によって、鱗片状黒鉛(Flake Graphite)、鱗状
黒鉛(Crystal Line Graphite)、塊状黒鉛(Vein Grap
hite)、土壌黒鉛(Amorphous Graphite)に分類される(「粉粒体プロセス技術集成」((株)産業技術センター、昭和49年発行)の黒鉛の項、および「HANDBOOK OF CARBON,GRAPHITE,DIAMOND AND FULLERENES」(NoyesPublications発行)参照)。黒鉛化度は、鱗状黒鉛や塊状黒鉛が100%で最も高く、これに次いで鱗片状黒鉛が99.9%で高い。黒鉛化度が高い黒鉛が本発明において好適である。なかでも不純物の少ないものが好ましく、必要に応じて、公知である種々の精製処理を施して用いることができる。
【0043】
天然黒鉛の産地は、マダガスカル、中国、ブラジル、ウクライナ、カナダ等である。鱗状黒鉛の産地は、主にスリランカである。土壌黒鉛の主な産地は、朝鮮半島、中国、メキシコ等である。
【0044】
天然黒鉛の中でも、例えば、鱗状、鱗片状、又は塊状の天然黒鉛、高純度化した鱗片状黒鉛、球形化処理した天然黒鉛(以降、球形化天然黒鉛と称す。)等が挙げられる。中でも、炭素材の内部に好適な緻密な細孔を形成させることができ、優れた粒子の充填性や充放電負荷特性を発揮するという観点から、球形化天然黒鉛が好ましく、鱗片状黒鉛を球形化処理した球形化天然黒鉛が最も好ましい。
【0045】
本発明の炭素質粒子(A)としては、上記天然黒鉛や人造黒鉛に、非晶質炭素及び/又は黒鉛化度の小さい黒鉛質物を被覆した粒子を用いることもできる。本発明の炭素質粒子(A)は、酸化物やその他金属を含んでいてもよい。その他金属としては、Sn、Si、Al、BiなどのLiと合金化可能な金属が挙げられる。
【0046】
本発明の炭素質粒子(A)は、常法に従って製造することができる。本発明の炭素質粒子(A)の製造の際に、用いる原料の形態を選択し、非晶質炭素の量などを適宜調整することで、10%粒径変位圧力10MPa以下の炭素質粒子(A)とすることができる。
【0047】
以下、本発明の炭素質粒子(A)の好ましい物性について、説明する。
【0048】
(メディアン径(D50))
本発明の炭素質粒子(A)のメディアン径(D50)は好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、更に好ましくは5μm以上、殊更に好ましくは8μm以上、特に好ましくは10μm以上、とりわけ好ましくは12μm以上、最も好ましくは17μm以上である。
炭素質粒子(A)のメディアン径(D50)は、好ましくは30μm以下、より好ましくは28μm以下、更に好ましくは25μm以下、殊更に好ましくは23μm以下、特に好ましくは20μm以下、最も好ましくは17μm以下である。
D50が上記範囲内であれば、不可逆容量の増加を抑制でき、スラリー塗布における筋引きなどの生産性が損なわれない傾向がある。
D50が小さすぎると、炭素質粒子(A)を用いて得られる非水系二次電池の不可逆容量の増加、初期電池容量の損失を招く傾向がある。D50が大きすぎるとスラリー塗布における筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下を招く場合がある。
【0049】
本発明の炭素質粒子(A)及び後述の本発明の酸化珪素粒子(B)のメディアン径(D50)は、体積基準の粒度分布に基づいて測定された小粒子側から50%積算部の粒子径であり、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0050】
(タップ密度)
本発明の炭素質粒子(A)のタップ密度は通常0.7g/cm以上、好ましくは0.75g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、更に好ましくは0.83g/cm以上、殊更に好ましくは0.85g/cm以上、特に好ましくは0.88g/cm以上、より特に好ましくは0.9g/cm以上、最も好ましくは0.95g/cm以上であり、好ましくは1.3g/cm以下、より好ましくは1.2g/cm以下、更に好ましくは1.1g/cm以下、殊更に好ましくは1.08g/cm以下、特に好ましくは1.05g/cm以下、より特に好ましくは1.0g/cm以下、最も好ましくは0.98g/cm以下である。
タップ密度が上記範囲内であると、極板化作製時のスジ引きなどの生産性が良好になり高速充放電特性に優れる。また、粒子内炭素密度が上昇し難いため圧延性も良好で、高密度の負極シートを形成し易くなる傾向にある。
【0051】
タップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して本発明の炭素質粒子(A)を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の質量から求めた密度として定義する。
【0052】
(BET比表面積(SA))
本発明の炭素質粒子(A)のBET法により測定した比表面積(SA)は、好ましくは1m/g以上、より好ましくは1.2m/g以上、更に好ましくは1.4m/g以上、特に好ましくは、2m/g以上、とりわけ好ましくは3m/g以上、最も好ましくは4m/g以上で、好ましくは30m/g以下、より好ましくは25m/g以下、更に好ましくは20m/g以下、殊更に好ましくは18m/g以下、特に好ましくは17m/g以下、とりわけ好ましくは15m/g以下、最も好ましくは5m/g以下である。
比表面積が上記範囲内であると、Liが出入りする部位を十分確保することができるため電池としたときに高速充放電特性、出力特性に優れ、活物質の電解液に対する活性も適度抑えることができるため、初期不可逆容量が大きくならず、高容量電池を製造できる傾向にある。また、炭素材を使用して負極を形成した場合の、その電解液との反応性の増加を抑制でき、ガス発生を抑えることができるため、好ましい非水系二次電池を提供することができる。
【0053】
BET法による比表面積は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0054】
[酸化珪素粒子(B)]
<物性>
(メディアン径(D50))
本発明の酸化珪素粒子(B)のメディアン径(D50)、即ち、体積基準の粒子径分布における小粒子側から50%体積積算部の粒子径(D50)は、0.8μm以上20μm以下である。酸化珪素粒子(B)のD50が上記範囲であれば、電極にした場合、炭素質粒子(A)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(B)が存在し、充放電によるLiイオン等のアルカリイオンの吸蔵・放出に伴う酸化珪素粒子(B)の体積変化を間隙が吸収して、体積変化による導電パス切れを抑制し、結果としてサイクル特性を向上させることができる。酸化珪素粒子(B)のD50の下限は、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上、特に好ましくは、3μm以上、最も好ましくは4μm以上、また、上限は15μm以下、更に好ましくは10μm以下、特に好ましくは8μm以下、最も好ましくは7μm以下である。
【0055】
(BET比表面積(SA))
本発明の酸化珪素粒子(B)のBET比表面積(SA)の上限は80m/g以下が好ましく、60m/g以下がより好ましく、20m/g以下が更に好ましく、10m/g以下が殊更に好ましく、8m/g以下が特に好ましく、6m/g以下が最も好ましい。また、下限は0.5m/g以上が好ましく、1m/g以上がより好ましく、1.2m/g以上が更に好ましく、1.5m/g以上が殊更に好ましく、1.8m/g以上が特に好ましく、2.0m/g以上が最も好ましい。
酸化珪素粒子(B)のBET法による比表面積が前記範囲内であると、Liイオン等のアルカリイオンの入出力の効率を良好に維持でき、酸化珪素粒子(B)が好適な大きさとなるため、炭素質粒子(A)によって形成された間隙に存在させることができ、炭素質粒子(A)との導電パスを確保することができる。また、酸化珪素粒子(B)が好適な大きさとなるため不可逆容量の増大を抑制し、高容量を確保することができる。
【0056】
BET法による比表面積は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0057】
<構成>
本発明の酸化珪素粒子(B)は、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で示されるものであることが好ましい。また、結晶化した珪素の微結晶を含むことが好ましい。この微結晶は通常、ゼロ価の珪素原子である。
【0058】
一般式SiOxにおけるxの下限は、より好ましくは0.7以上、特に好ましくは0.8以上、最も好ましくは0.9以上である。また、上限は、より好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.1以下である。xが上記範囲であると、Liイオン等のアルカリイオンの出入りのしやすい高活性な非晶質の珪素酸化物からなる粒子により、炭素質粒子(A)に比べて電池としたときに高容量化を得ることができ、かつ非晶質構造により電池としたときに高サイクル維持率を達成することが可能となる。また、酸化珪素粒子(B)が、炭素質粒子(A)によって形成された間隙に炭素質粒子(A)との接点を確保しながら充填させることによって、充放電によるLiイオン等のアルカリイオンの吸蔵・放出に伴う酸化珪素粒子(B)の体積変化を該間隙により吸収させることが可能となる。このことにより、酸化珪素粒子(B)の体積変化による導電パス切れを抑制することができる。
【0059】
本発明の酸化珪素粒子(B)は、固体NMR(29Si-DDMAS)測定において、通常、酸化珪素において存在する-110ppm付近を中心とし、特にピークの頂点が-100~-120ppmの範囲にあるブロードなピーク(P1)に加えて、-70ppmを中心とし、特にピークの頂点が-65~-85ppmの範囲にあるブロードなピーク(P2)が存在することが好ましい。これらのピークの面積比(P2)/(P1)は、0.1≦(P2)/(P1)≦1.0であることが好ましく、0.2≦(P2)/(P1)≦0.8の範囲であることがより好ましい。本発明の酸化珪素粒子(B)が上記性状を有することによって、電池としたときに容量が大きく、かつ、サイクル特性の高い負極材を得ることができる。
【0060】
本発明の酸化珪素粒子(B)は、水酸化アルカリを作用させた時に水素を生成することが好ましい。この時発生する水素量から算出される酸化珪素粒子(B)中のゼロ価の珪素原子の量の下限は、2重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい、また、上限は、45重量%以下が好ましく、36重量%以下がより好ましく、30重量%以下が更に好ましい。ゼロ価の珪素原子の量が、上記の範囲であれば、電池としたときの充放電容量とサイクル特性が良好となる。
【0061】
珪素の微結晶を含む酸化珪素粒子(B)は、下記性状を有していることが好ましい。
【0062】
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu-Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径の下限が好ましくは1nm以上、より好ましくは1.5nm以上、更に好ましくは2nm以上である。また上限が好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは20nm以下である。珪素の微粒子の大きさが上記の範囲であれば、充放電容量が良好であり、充放電時の膨張収縮も大きくなりすぎず、サイクル特性が良好となる。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0063】
ii.固体NMR(29Si-DDMAS)測定において、そのスペクトルが-110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のピークとともに-84ppm付近にSiのダイヤモンド結晶の特徴であるピークが存在する。このスペクトルは、通常の酸化珪素(SiOx:x=1.0+α)とは全く異なるもので、構造そのものが明らかに異なっているものである。透過電子顕微鏡によって、シリコンの結晶が無定形の二酸化珪素に分散していることが確認される。
【0064】
酸化珪素粒子(B)中の珪素の微結晶の量の下限は、2重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、10重量%以上が更に好ましい。また上限は、45重量%以下が好ましく、36重量%以下がより好ましく、30重量%以下が更に好ましい。この珪素の微結晶量が上記の範囲であれば、充放電容量とサイクル特性が良好である。
【0065】
<酸化珪素粒子(B)の製造方法>
本発明の酸化珪素粒子(B)は、通常、二酸化珪素(SiO)を原料とし、金属珪素(Si)及び/又は炭素を用いてSiOを熱還元させることにより得られる、SiOxのxの値が0<x<2で表される珪素酸化物からなる粒子の総称である(ただし、後述するように、珪素及び炭素以外の他の元素をドープすることも可能であり、この場合はSiOxとは異なる組成式となるが、このようなものも本発明に用いる酸化珪素粒子(B)に含まれる。)。珪素(Si)は、黒鉛と比較して理論容量が大きく、更に非晶質珪素酸化物は、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能となる。本発明の酸化珪素粒子(B)は、前述の通り一般式SiOxにおけるxが0.5~1.6の酸化珪素粒子(B)であることが好ましい。
【0066】
本発明の酸化珪素粒子(B)は、酸化珪素粒子を核として、この表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子であってもよい。酸化珪素粒子(B)は、非晶質炭素からなる炭素層を備えていない酸化珪素粒子(B1)及び複合型の酸化珪素粒子(B2)からなる群より選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ここで、「表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた」とは、炭素層が酸化珪素粒子の表面の一部又は全部を層状に覆う形態のみならず、炭素層が表面の一部又は全部に付着・添着する形態をも包含する。炭素層は、表面の全部を被覆するように備えていてもよく、一部を被覆あるいは付着・添着してもよい。
【0067】
(酸化珪素粒子(B1)の製造方法)
酸化珪素粒子(B1)は、本発明の特性を満たすものであれば、製法は問わないが、例えば特許第3952118号公報に記載されたような方法によって製造された酸化珪素粒子を使用することができる。具体的には、二酸化珪素粉末と、金属珪素粉末あるいは炭素粉末とを特定の割合で混合し、この混合物を反応器に充填した後、常圧あるいは特定の圧力に減圧し、1000℃以上に昇温し、保持してSiOxガスを発生させ、冷却析出させて、一般式SiOx(xは0.5≦x≦1.6)で示される酸化珪素粒子を得ることができる。析出物は、力学的エネルギー処理を与えることで、粒子とすることができる。
【0068】
力学的エネルギー処理としては、例えば、ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、転動ボールミル等の装置を用いて、反応器に充填した原料と、この原料と反応しない運動体を入れて、これに振動、回転又はこれらが組み合わされた動きを与える方法によって、前記物性を満たす酸化珪素粒子(B)を形成することができる。
【0069】
(複合型の酸化珪素粒子(B2)の製造方法)
酸化珪素粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子(B2)を製造する方法としては特に制限はない。酸化珪素粒子(B1)に石油系や石炭系のタールやピッチ、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、フェノール樹脂、セルロース等の樹脂を必要により溶媒等を用いて混合した後、非酸化性雰囲気において、下限が通常500℃以上、好ましくは700℃以上、より好ましくは800℃以上で、また上限が通常3000℃以下、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1500℃以下の範囲の温度で焼成することで、酸化珪素粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子(B2)を製造することができる。
【0070】
(不均化処理)
本発明の酸化珪素粒子(B)は、上記のようにして製造された酸化珪素粒子(B1)や複合型の酸化珪素粒子(B2)を更に熱処理を施して不均化処理したものであってもよい。不均化処理を施すことで、アモルファスSiOx中にゼロ価の珪素原子がSi微細結晶として偏在する構造が形成され、このようなアモルファスSiOx中のSi微細結晶により、Liイオンを吸蔵・放出する電位の範囲が炭素質粒子と近くなり、Liイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が炭素質粒子(A)と同時に起こるようになる。このため、炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)の界面における相対位置関係が維持され、炭素質粒子との接触が損なわれることによる性能低下を低減させることが可能となる。
【0071】
この不均化処理は、前述の酸化珪素粒子(B1)又は複合型の酸化珪素粒子(B2)を、900~1400℃の温度域において、不活性ガス雰囲気下で加熱することにより行うことができる。
【0072】
不均化処理の熱処理温度が900℃より低いと、不均化が全く進行しないかシリコンの微細なセル(珪素の微結晶)の形成に極めて長時間を要し、効率的でない。不均化処理の熱処理温度が1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、Liイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。不均化処理の熱処理温度の下限は、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1100℃以上である。また上限は好ましくは1300℃以下、より好ましくは1250℃以下である。不均化の処理時間(不均化時間)は不均化処理温度に応じて10分~20時間、特に30分~12時間程度の範囲で適宜制御することができる。例えば1100℃の不均化処理温度においては5時間程度が好適である。
【0073】
上記不均化処理は、特に限定されず、不活性ガス雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いて行うことができ、連続法、回分法での処理が可能である。具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、Ar、He、H、N等の上記処理温度にて不活性なガス単独もしくはそれらの混合ガスを用いることができる。
【0074】
<酸化珪素粒子(B)への他元素のドープ>
酸化珪素粒子(B)は、珪素、酸素以外の元素がドープされていてもよい。珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)は、粒子内部の化学構造が安定化することにより初期充放電効率、サイクル特性の向上が見込まれる。さらに、このような酸化珪素粒子(B)は、リチウムイオン受け入れ性が向上して炭素質粒子(A)のリチウムイオン受け入れ性に近づくので、炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)を共に含む負極材を用いることで、急速充電時にも負極電極内でリチウムイオンが極端に濃縮されることがなく、金属リチウムが析出しにくい電池を作製することができる。
【0075】
ドープされる元素は通常、周期表第18族以外の元素であれば任意の元素から選ぶことができる。珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)がより安定であるためには周期表第4周期までの元素が好ましい。具体的には、周期表第4周期までのアルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、Ga、Ge、N、P、As、Se等の元素から選ぶことができる。珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)のリチウムイオン受け入れ性を向上させるためには、ドープされる元素は周期表第4周期までのアルカリ金属、アルカリ土類金属であることが好ましく、Mg、Ca、Liがより好ましく、Liが更に好ましい。これらは1種のみでも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0076】
珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)における珪素原子数(MSi)に対するドープされた元素の原子数(M)の比、M/MSiは、0.01~5が好ましく、0.05~4がより好ましく、0.1~3が更に好ましい。M/MSiがこの範囲を下回ると珪素、酸素以外の元素をドープした効果が得られない。M/MSiがこの範囲を上回るとドープ反応で消費されなかった珪素、酸素以外の元素が酸化珪素粒子の表面に残存し、酸化珪素粒子の容量を低下させる原因となることがある。
【0077】
珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)を製造する方法としては、例えば、酸化珪素粒子とドープされる元素の単体、もしくは、化合物の粉体を混合し、不活性ガス雰囲気下において、50~1200℃の温度で加熱する方法が挙げられる。また、例えば、二酸化珪素粉末と、金属珪素粉末あるいは炭素粉末とを特定の割合で混合し、これにドープされる元素の単体、もしくは、化合物の粉体を加え、この混合物を反応器に充填した後、常圧あるいは特定の圧力に減圧し、1000℃以上に昇温し、保持して発生するガスを冷却析出させて、珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子を得る方法も挙げられる。
【0078】
本発明の負極材は炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)との両方を含むものであれば制限されないが、酸化ケイ素粒子(B)は黒鉛に内包されていないものであることが前述の本発明におけるメカニズムをより利用しやすく、効果を得やすいために好ましい。
【0079】
[負極材]
<炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)の含有割合>
本発明の負極材は、本発明の炭素質粒子(A)と本発明の酸化珪素粒子(B)との合計量に対する酸化珪素粒子(B)の含有量が30重量%未満であり、炭素質粒子(A)の含有量が70重量%より多いことが好ましい。炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)との合計量に対する酸化珪素粒子(B)の含有量の下限は、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは、2重量%以上、特に好ましくは5重量%以上、最も好ましくは8重量%以上である。上限は、より好ましくは20重量%以下、更に好ましくは18重量%以下、特に好ましくは15重量%以下、最も好ましくは12重量%以下である。このような割合で炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)とを混合して用いることにより、炭素質粒子(A)同士によって形成された間隙に、高容量かつLiイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が小さい酸化珪素粒子(B)が存在することで、炭素質粒子(A)との接触が損なわれることによる性能低下が小さい、高容量な負極材を得ることが可能となる。
【0080】
本発明の負極材において、炭素質粒子(A)として、前記10%粒径変異圧力の値が異なる複数種の炭素質粒子を組み合わせて用いることもできる。また、炭素質粒子(A)に該当しない炭素質粒子や酸化ケイ素粒子(B)に該当しない酸化ケイ素粒子であっても、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で組み合わせて用いることができる。
【0081】
〔非水系二次電池用負極〕
本発明の非水系二次電池用負極(以下、「本発明の負極」と称す場合がある。)は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が本発明の負極材を含有するものである。
【0082】
本発明の負極材を用いて負極を作製するには、負極材に結着樹脂を配合したものを水性又は有機系媒体でスラリーとし、必要によりこれに増粘材を加えて集電体に塗布し、乾燥すればよい。
【0083】
結着樹脂としては、非水電解液に対して安定で、かつ非水溶性のものを用いるのが好ましい。例えば、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアクリル酸、及び芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体やその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン及びスチレンブロック共重合体並びにその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン及びポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子等を用いることができる。有機系媒体としては、例えば、N-メチルピロリドン及びジメチルホルムアミドを用いることができる。
【0084】
結着樹脂は、負極材100重量部に対して通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上用いるのが好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して0.1重量部以上とすることで、負極材料相互間や負極材料と集電体との結着力が十分となり、負極から負極材料が剥離することによる電池容量の減少及びリサイクル特性の悪化を防ぐことができる。
【0085】
結着樹脂の使用量は負極材100重量部に対して10重量部以下が好ましく、7重量部以下がより好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して10重量部以下とすることにより、負極の容量の減少を防ぎ、かつリチウムイオン等のアルカリイオンの負極材料への出入が妨げられる等の問題を防ぐことができる。
【0086】
スラリーに添加する増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール並びにポリエチレングリコール等が挙げられる。中でも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘材は負極材料100重量部に対して、下限が通常0.1重量部以上、特に0.2重量部以上で、上限が通常10重量部以下、特に7重量部以下となるように用いるのが好ましい。
【0087】
負極集電体としては、従来からこの用途に用い得ることが知られている、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン及び炭素等を用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネット及びパンチングメタル等を用いることも好ましい。
【0088】
集電体に負極材と結着樹脂のスラリーを塗布・乾燥した後は、加圧して集電体上に形成された活物質層の密度を大きくして負極活物質層の単位体積当たりの電池容量を大きくするのが好ましい。活物質層の密度の下限は、1.2g/cm以上が好ましく、1.3g/cm以上がより好ましい。また、上限は1.8g/cm以下が好ましく、1.6g/cm以下がより好ましい。
【0089】
活物質層の密度を1.2g/cm以上とすることで、電極の厚みの増大に伴う電池の容量の低下を防ぐことができる。活物質層の密度を1.8g/cm以下とすることで、電極内の粒子間空隙が減少に伴い空隙に保持される電解液量が減り、リチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が小さくなり急速充放電性が小さくなるのを防ぐことができる。
【0090】
負極活物質層は、炭素質粒子(A)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(B)が存在して構成されていることが好ましい。炭素質粒子(A)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(B)が存在することで、高容量化し、レート特性を向上させることができる。
【0091】
本発明の負極材を用いて形成した負極活物質層の水銀圧入法による10nm~100000nmの範囲の細孔容量は、0.05ml/g以上が好ましく、0.1ml/g以上がより好ましい。細孔容量を0.05ml/g以上とすることによりリチウムイオン等のアルカリイオンの出入りの面積が大きくなる。
【0092】
〔非水系二次電池〕
本発明の非水系二次電池は、正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、負極として、本発明の負極を用いたものである。
【0093】
本発明の非水系二次電池は、上記の本発明の負極を用いる以外は、常法に従って作製することができる。
【0094】
[正極]
本発明の非水系二次電池の正極の活物質となる正極材料としては、例えば、基本組成がLiCoOで表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNiOで表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO及びLiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物、並びにこれらの複合酸化物混合物等を用いればよい。更にはTiS、FeS、Nb、Mo、CoS、V、CrO、V、FeO、GeO及びLiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiFePO等を用いればよい。
【0095】
正極材料に結着樹脂を配合したものを適当な溶媒でスラリー化して集電体に塗布・乾燥することにより正極を作製できる。スラリー中にはアセチレンブラック及びケッチェンブラック等の導電材を含有させるのが好ましい。スラリー中には所望により増粘材を含有させてもよい。
【0096】
増粘材及び結着樹脂としてはこの用途に周知のもの、例えば負極の作製に用いるものとして例示したものを用いればよい。正極材料100重量部に対する導電材の配合比率は、下限が0.5重量部以上、特に1重量部以上で、上限が20重量部以下、特に15重量部以下とすることが好ましい。正極材料100重量部に対する増粘材の配合比率は、下限が0.2重量部以上、特に0.5重量部以上で、上限が10重量部以下、特に7重量部以下とすることが好ましい。
【0097】
正極材料100重量部に対する結着樹脂の配合比率は、結着樹脂を水でスラリー化するときは、下限は、0.2重量部以上が好ましく、0.5重量部以上が特に好ましい。また、上限は、10重量部以下が好ましく、7重量部以下が特に好ましい。結着樹脂をN-メチルピロリドン等の結着樹脂を溶解する有機溶媒でスラリー化する場合は、下限は、0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上が特に好ましい。また、上限は、20重量部以下が好ましく、15重量部以下が特に好ましい。
【0098】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタル等並びにこれらの合金が挙げられる。なかでもアルミニウム、チタン及びタンタル並びにその合金が好ましく、アルミニウム及びその合金が最も好ましい。
【0099】
[電解液]
電解液は、従来周知の非水溶媒に種々のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
【0100】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル、クラウンエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメチルテトラヒドロフラン及び1,3-ジオキソラン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル等を用いればよい。通常はこれらの2種以上を混合して用いる。なかでも環状カーボネートと鎖状カーボネート、又はこれに更に他の溶媒を混合して用いるのが好ましい。
【0101】
電解液には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン及びジエチルスルホン等の化合物やジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていてもよい。更に、電解液には、ジフェニルエーテル及びシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていてもよい。
【0102】
非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)及びLiC(CFSO等が挙げられる。電解液中の電解質の濃度の下限は、通常0.5mol/L以上、好ましくは0.6mol/L以上である。上限は通常2mol/L以下、好ましくは1.5mol/L以下である。
【0103】
[セパレータ]
正極と負極との間に介在させるセパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔性シートや不織布を用いるのが好ましい。
【0104】
[負極/正極容量比]
本発明の非水系二次電池は、負極/正極の容量比を1.01以上、特に1.2以上で~1.5以下、特に1.4以下に設計することがより好ましい。
【0105】
本発明の非水系二次電池は、Liイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備えるリチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【実施例
【0106】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0107】
〔物性ないし特性の測定・評価方法〕
[炭素質粒子(A)及び酸化珪素粒子(B)の測定]
<炭素質粒子(A)の10%粒径変位圧力>
微小圧縮試験機((株)島津製作所製)を用いて測定した。
試料を試料台に載せ、装置付属の顕微鏡によって、無作為に測定対象の炭素質粒子を選定した。被測定粒子を顕微鏡によって平面視した際の最大径と、最大径を与える軸に直交する方向の極大径の平均値として、測定対象の粒子の平均径を算出した後、最大試験力490mN、負荷速度4.8mN/secの条件にて圧縮試験を行った。被測定粒子の変位(変形)が平均径の10%に到達した時の試験力を下記(1)式に入力して、10%粒径変位圧力を算出した。炭素質粒子4粒子以上に対して測定を実施し、得られた10%粒径変位圧力の分布のうち、下位50%の測定結果の平均値を、試料の10%粒径変位圧力とした。
式(1) 〔10%粒径変位圧力〕=2.48×〔試験力[N]〕/(π×〔平均径[μm]〕×〔平均径[μm]〕)
【0108】
<メディアン径(D50)>
体積基準のメディアン径(D50)は、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2重量%水溶液(約10mL)に試料を分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布計LA-700(堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0109】
<タップ密度>
粉体密度測定器タップデンサーKYT-3000((株)セイシン企業社製)を用いて測定した。20ccのタップセルに試料を落下させ、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行って、そのときの密度をタップ密度とした。
【0110】
<BET比表面積(SA)>
マイクロメリティクス社製 トライスターII3000を用いて測定した。試料に150℃で1時間の減圧乾燥を実施した後、窒素ガス吸着によるBET多点法(相対圧0.05~0.30の範囲において5点)により測定した。
【0111】
[電池の評価]
<性能評価用非水系二次電池(コイン型電池)の作製>
後述する炭素質粒子(A)と酸化珪素粒子(B)との混合物97.5重量%と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)1重量%及びスチレン・ブタジエンゴム(SBR)48重量%水性ディスパージョン3.1重量%とを、ハイブリダイズミキサーにて混練し、スラリーとした。このスラリーを厚さ10μmの圧延銅箔上にブレード法で、目付け2~10mg/cmとなるように塗布し、乾燥させた。
その後、負極活物質層の密度1.0~1.6g/cmとなるようにロールプレスして負極シートとした。
【0112】
作製した負極シートを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、リチウム金属箔を直径14mmの円板状に打ち抜き対極とした。両極の間には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(容積比=3:7)に、LiPFを1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、コイン型電池をそれぞれ作製した。
【0113】
<放電容量、サイクル維持率の測定>
前述の方法で作製した非水系二次電池(コイン型電池)を用いて、下記の測定方法で電池充放電時の放電容量(mAh/g)を測定した。
0.05Cの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、さらに5mVの一定電圧で電流密度が0.005Cになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.1Cの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行った。
【0114】
充電容量、放電容量は以下のように求める。負極重量から負極と同面積に打ち抜いた銅箔の重量を差し引くことで負極活物質の重量を求め、この負極活物質の重量で1サイクル目の充電容量、放電容量を除して、重量当りの充電容量、放電容量を求めた。
このときの充電容量(mAh/g)を本負極材の1st充電容量(mAh/g)とし、放電容量(mAh/g)を1st放電容量(mAh/g)とした。この1st放電容量を初期容量とした。
初期容量は、400mAh/g以上のものが合格であり、415mAh/g以上のものが優良である。
【0115】
また、ここで得られた1サイクル目の放電容量(mAh/g)を充電容量(mAh/g)で除し、100倍した値を1st効率(%)とした。
2nd効率は2nd放電容量を1st充電容量と2nd不可逆容量の和で除し、100倍した値を用いた。
3rd効率は3rd放電容量を1st充電容量、2nd不可逆容量と3rd不可逆容量の和で除し、100倍した値を用いた。
上記操作を10サイクル実施し、10サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除し、100倍した値をサイクル維持率とした。
サイクル維持率は、30%以上のものが合格であり、60%以上のものが優良である。
【0116】
<総合評価>
初期容量、サイクル維持率ともに合格したものを総合的に合格とし、なかでも初期容量、サイクル維持率のどちらか優良であるものを総合的に優良とし、さらにそのなかでも初期容量、サイクル維持率のどちらも優良であるものを総合的に最良とする。初期容量、サイクル維持率の一方又は双方が合格でないものは不合格とした。
【0117】
[炭素質粒子(A)]
<炭素質粒子(A1)>
体積基準平均粒径D50が16.3μm、BET比表面積(SA)が6.8m/g、タップ密度が0.99g/cmの球形化天然黒鉛粒子を炭素質粒子(A1)とした。
炭素質粒子(A1)について測定した10%粒径変位圧力は表1に示す通りであった。
【0118】
<炭素質粒子(A2)>
D50が100μmの鱗片状天然黒鉛を乾式旋回流式粉砕機により粉砕し、D50が8.1μm、タップ密度が0.39g/cm、水分量0.08重量%の鱗片状天然黒鉛を得た。得られた鱗片状天然黒鉛100gに造粒剤としてパラフィン系オイル(流動パラフィン、和光純薬工業社製、一級、25℃における物性:粘度=95cP、接触角=13.2°、表面張力=317mN/m、rCOSθ=30.9)を12g添加して撹拌混合した後、得られたサンプルをハンマーミル(IKA社製MF10)で回転数3000rpmにて解砕混合し、造粒剤が均一に添着した鱗片状天然黒鉛を得た。得られた造粒剤が均一に添着した鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS-1型にてローター周速度85m/秒で10分間の機械的作用による造粒・球形化処理を行い、不活性ガス中で720℃で熱処理を施すことで、球形化黒鉛の炭素質粒子(A2)を得た。
炭素質粒子(A2)について測定した物性は表1に示す通りであった。
【0119】
<炭素質粒子(A3)>
ニードル系生コークスを微粉砕し、d50が10.9μmのニードル系生コークス粉末を得た。得られた粉末を電気炉で室温から1000℃まで昇温して焼成し、その後、3000℃で黒鉛化した。得られた黒鉛化粉末に非晶質炭素前駆体としてナフサ熱分解時に得られる石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が添着された造粒人造黒鉛(A3)を得た。焼成収率から、得られた炭素質粒子(A3)は、黒鉛100質量部に対して4質量部の非晶質炭素で被覆されていることが確認された。
炭素質粒子(A3)について測定した物性は表1に示す通りであった。
【0120】
<炭素質粒子(a1)>
D50が16.3μm、BET比表面積(SA)が6.8m/g、タップ密度が0.99g/cmの球形化天然黒鉛粒子に非晶質炭素前駆体としてナフサ熱分解時に得られる石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を粉砕・分級処理することにより、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が添着された複層構造炭素材の炭素質粒子(a1)を得た。焼成収率から、得られた複層構造炭素材は、黒鉛100質量部に対して3質量部の非晶質炭素で被覆されていることが確認された。
炭素質粒子(a1)について測定した物性は表1に示す通りであった。
【0121】
<炭素質粒子(a2)>
市販のメソカーボンマイクロビーズ(以下、MCMB)の人造黒鉛を炭素質粒子(a2)とした。
炭素質粒子(a2)について測定した物性は表1に示す通りであった。
【0122】
【表1】
【0123】
[酸化珪素粒子(B)]
<酸化珪素粒子(B1)>
市販のSiO粒子(SiOxのx=1)粒子を酸化珪素粒子(B1)として用いた。酸化珪素粒子(B1)のD50、BET比表面積(SA)は表2に示す通りであった。
【0124】
<酸化珪素粒子(b1)>
市販のSiO粒子(SiOxのx=1)粒子を酸化珪素粒子(b1)として用いた。酸化珪素粒子(b1)のD50、BET比表面積(SA)は表2に示す通りであった。
【0125】
【表2】
【0126】
[実施例及び比較例]
<実施例1>
炭素質粒子(A1)90重量部に対して、酸化珪素粒子(B1)10重量部を乾式混合し、混合物とした。この混合物を用いて前述の方法で性能評価用非水系二次電池(コイン型電池)を作製し、前述の測定法で初期容量、サイクル維持率を測定した。結果を表3に示す。
【0127】
<実施例2>
炭素質粒子(A2)90重量部に対して、酸化珪素粒子(B1)10重量部を乾式混合して混合物とし、この混合物を用いて、実施例1と同様に測定を行った。結果を表3に示す。
【0128】
<実施例3>
炭素質粒子(A3)90重量部に対して、酸化珪素粒子(B1)10重量部を乾式混合して混合物とし、この混合物を用いて、実施例1と同様に測定を行った。結果を表3に示す。
【0129】
<比較例1>
炭素質粒子(a1)90重量部に対して、酸化珪素粒子(B1)10重量部を乾式混合して混合物とし、この混合物を用いて、実施例1と同様測定を行った。結果を表3に示す。
【0130】
<比較例2>
炭素質粒子(a2)90重量部に対して、酸化珪素粒子(B1)10重量部を乾式混合して混合物とし、この混合物を用いて、実施例1と同様に測定を行った。結果を表3に示す。
【0131】
<比較例3>
炭素質粒子(A1)90重量部に対して、酸化珪素粒子(b1)10重量部を乾式混合して混合物とし、この混合物を用いて、実施例1と同様に測定を行った。結果を表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
以上の結果から、負極材として、10%粒径変位圧力が10MPa以下の炭素質粒子(A)と、メディアン径(D50)が0.8μm以上20μm以下の酸化珪素粒子(B)とを組み合わせて用いることにより、容量とサイクル特性のバランスに優れた負極材を得ることができることが分かる。特に、実施例3では炭素質粒子(A)として人造黒鉛を使用したことにより特に初期容量が高く、高容量の負極材が得られたことがわかる。
【0134】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年5月22日付で出願された日本特許出願2018-098022に基づいており、その全体が引用により援用される。