(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230822BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20230822BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20230822BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20230822BHJP
C08F 8/04 20060101ALI20230822BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B32B27/30 Z
C08L53/02
C08K5/5419
C08K5/05
C08F8/04
C08F8/42
(21)【出願番号】P 2020548335
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035213
(87)【国際公開番号】W WO2020066554
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018182603
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞島 啓
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-225103(JP,A)
【文献】特開平10-251357(JP,A)
【文献】特開2016-204217(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014282(WO,A1)
【文献】特開平08-209094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/00- 53/02
C08F 8/04- 8/42
B32B 27/00- 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物から形成される樹脂フィルムと、基材フィルムとを含み、前記基材フィルムの面に前記樹脂フィルムが直に接する、積層体であって、
前記樹脂組成物は、
ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物と、
有機金属化合物とを含
み、
前記ブロック共重合体水素化物は、芳香族ビニル化合物単位を主成分として含む重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物単位を主成分として含む重合体ブロック[B]とを含むブロック共重合体が水素化されている物質であ
り、かつ前記ブロック共重合体水素化物が、前記ブロック共重合体における芳香族性炭素-炭素不飽和結合の90%以上及び前記ブロック共重合体における非芳香族性炭素-炭素不飽和結合の90%以上が水素化されている物質であり、
前記有機金属化合物が、置換基を有していてもよいアミノ基を含むシランカップリング化合物、オキシラン環構造を有する基を含むシランカップリング化合物、有機チタン化合物、又は有機ジルコニウム化合物である、
積層体。
【請求項2】
前記基材フィルムの厚みが、1000μm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ブロック共重合体が、一分子当たり少なくとも2個の前記重合体ブロック[A]と、一分子当たり少なくとも1個の前記重合体ブロック[B]とを含む、請求項1
又は2に記載の
積層体。
【請求項4】
前記ブロック共重合体における、前記芳香族ビニル化合物単位の含有重量の前記鎖状共役ジエン化合物単位の含有重量に対する比率(芳香族ビニル化合物単位/鎖状共役ジエン化合物単位)が、30/70以上60/40以下である、請求項1
~3のいずれか一項に記載の
積層体。
【請求項5】
前記有機金属化合物が、
置換基を有していてもよいアミノ基を含むシランカップリング化合物又はオキシラン環構造を有する基を含むシランカップリング化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の
積層体。
【請求項6】
前記シランカップリング化合物が、置換基を有していてもよいアミノ基を含む
シランカップリング化合物である、請求項5に記載の
積層体。
【請求項7】
前記シランカップリング化合物が、一分子当たり置換基を有していてもよいアミノ基を2個含む、請求項6に記載の
積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂フィルム、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子などに使われる基材フィルムに、フィルムの保護などを目的として樹脂層が積層されている。
例えば、偏光子保護フィルムとして、所定のブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物を含む樹脂から形成される樹脂層が用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/003715号(対応公報:米国特許出願公開第2019/0162876号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に係る樹脂から形成される樹脂フィルムは、基材フィルムとの密着性が十分ではなかった。
したがって、基材フィルムとの密着性に優れた樹脂フィルムを形成できる材料;基材フィルムとの密着性に優れた樹脂フィルム;及び、密着性に優れた樹脂フィルムと、基材フィルムとの積層体が、求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、所定の重合体の変性物と有機金属化合物とを含む樹脂組成物により、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0006】
[1] ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物と、
有機金属化合物とを含む樹脂組成物であって、
前記ブロック共重合体水素化物は、芳香族ビニル化合物単位を主成分として含む重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物単位を主成分として含む重合体ブロック[B]とを含むブロック共重合体が水素化されている物質である、樹脂組成物。
[2] 前記ブロック共重合体が、一分子当たり少なくとも2個の前記重合体ブロック[A]と、一分子当たり少なくとも1個の前記重合体ブロック[B]とを含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記ブロック共重合体における、前記芳香族ビニル化合物単位の含有重量の前記鎖状共役ジエン化合物単位の含有重量に対する比率(芳香族ビニル化合物単位/鎖状共役ジエン化合物単位)が、30/70以上60/40以下である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記ブロック共重合体水素化物が、前記ブロック共重合体における芳香族性炭素-炭素不飽和結合の90%以上及び前記ブロック共重合体における非芳香族性炭素-炭素不飽和結合の90%以上が水素化されている物質である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[5] 前記有機金属化合物が、シランカップリング化合物である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[6] 前記シランカップリング化合物が、置換基を有していてもよいアミノ基を含む、[5]に記載の樹脂組成物。
[7] 前記シランカップリング化合物が、一分子当たり置換基を有していてもよいアミノ基を2個含む、[6]に記載の樹脂組成物。
[8] [1]~[7]のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成される樹脂フィルム。
[9] [8]に記載の樹脂フィルムと、基材フィルムとを含み、前記基材フィルムの面に前記樹脂フィルムが直に接する、積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基材フィルムとの密着性に優れた樹脂フィルムを形成できる樹脂組成物;基材フィルムとの密着性に優れた樹脂フィルム;及び、密着性に優れた、樹脂フィルムと基材フィルムとの積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0010】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0011】
[1.樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物と、有機金属化合物とを含む。
[1.1.ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物]
[1.1.1.ブロック共重合体水素化物]
ブロック共重合体水素化物は、重合体ブロック[A]と、重合体ブロック[B]とを含むブロック共重合体が水素化されている物質である。すなわち、ブロック共重合体水素化物は、ブロック共重合体を水素化して得られる構造を有する物質である。但し水素化物はその製造方法により限定されない。
【0012】
(重合体ブロック[A])
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位を主成分として含む。ここで、芳香族ビニル化合物単位を主成分として含むとは、重合体ブロック[A]における芳香族ビニル化合物単位の含有率が、50重量%以上であることを意味する。
また、芳香族ビニル化合物単位とは、芳香族ビニル化合物を重合して形成される構造を有する構造単位を意味する。芳香族ビニル化合物単位は、その製造方法により限定されない。
【0013】
重合体ブロック[A]が有する芳香族ビニル化合物単位に対応する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素原子数1~6のアルキル基を有するスチレン類;4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン等の、置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素原子数1~6のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類;等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、吸湿性を低くできることから、スチレン、置換基として炭素原子数1~6のアルキル基を有するスチレン類等の、極性基を含有しない芳香族ビニル化合物が好ましく、工業的入手のし易さから、スチレンが特に好ましい。
【0014】
重合体ブロック[A]における芳香族ビニル化合物単位の含有率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは98重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。重合体ブロック[A]において芳香族ビニル化合物単位の量を前記のように多くすることにより、樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの硬さ及び耐熱性を高めることができる。
【0015】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[A]は、任意の構造単位を、1種類単独で含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0016】
重合体ブロック[A]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、鎖状共役ジエン化合物単位が挙げられる。ここで、鎖状共役ジエン化合物単位とは、鎖状共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。ここで、鎖状共役ジエン化合物は、直鎖共役ジエン化合物であっても、分岐共役ジエン化合物であってもよい。鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、重合体ブロック[B]が有する鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物の例として挙げるものと同じ例が挙げられる。鎖状共役ジエン化合物単位は、その製造方法により限定されない。
【0017】
また、重合体ブロック[A]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。任意の不飽和化合物としては、例えば、鎖状ビニル化合物、環状ビニル化合物等のビニル化合物;不飽和の環状酸無水物;不飽和イミド化合物;等が挙げられる。これらの化合物は、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、又はハロゲン基等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、吸湿性の観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテン等の1分子当たり炭素原子数2~20の鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサン、4-ビニルシクロヘキセン、ノルボルネン等の1分子当たり炭素原子数5~20の環状オレフィン;等の、極性基を有しないオレフィン化合物が好ましく、1分子当たり炭素原子数2~20の鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0018】
重合体ブロック[A]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0019】
ブロック共重合体1分子における重合体ブロック[A]の数は、好ましくは2個以上であり、好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、更に好ましくは3個以下であり、特に好ましくは2個である。ブロック共重合体1分子における重合体ブロック[A]の数が2個以上である場合、重合体ブロック[A]は、互いに同じでもよく、異なっていてもよく、例えば、重合体ブロック[A]に含まれる構造単位の組成及び/又は構造単位の数が互いに異なっていてもよい。
【0020】
(重合体ブロック[B])
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位を主成分として含む。ここで、鎖状共役ジエン化合物単位を主成分として含むとは、重合体ブロック[B]における鎖状共役ジエン化合物単位の含有率が、50重量%以上であることを意味する。
また、鎖状共役ジエン化合物単位とは、鎖状共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位を意味する。鎖状共役ジエン化合物は、直鎖共役ジエン化合物であっても、分岐共役ジエン化合物であってもよい。鎖状共役ジエン化合物単位は、その製造方法により限定されない。
【0021】
この重合体ブロック[B]が有する鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、吸湿性を低くするために、極性基を含有しない鎖状共役ジエン化合物が好ましく、1,3-ブタジエン、イソプレンがより好ましい。
【0022】
重合体ブロック[B]における鎖状共役ジエン化合物単位の含有率は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、特に好ましくは、95重量%以上又は98重量%以上である。重合体ブロック[B]において鎖状共役ジエン化合物単位の量を前記のように多くすることにより、樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの柔軟性を向上させることができる。
【0023】
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[B]は、任意の構造単位を、1種類単独で含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0024】
重合体ブロック[B]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物単位、並びに、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物単位、並びに、任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位としては、例えば、重合体ブロック[A]に含まれていてもよいものとして例示したものと同じ例が挙げられる。
【0025】
重合体ブロック[B]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、特に好ましくは5重量%以下、最も好ましくは2重量%以下である。重合体ブロック[B]における任意の構造単位の含有率を低くすることにより、樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの柔軟性を向上させることができる。
【0026】
ブロック共重合体1分子における重合体ブロック[B]の数は、通常1個以上であり、2個以上であってもよい。ブロック共重合体1分子における重合体ブロック[B]の数が2個以上である場合、重合体ブロック[B]は、互いに同じでもよく、異なっていてもよく、例えば、重合体ブロック[B]に含まれる構造単位の組成及び/又は構造単位の数が互いに異なっていてもよい。
【0027】
(ブロック共重合体)
ブロック共重合体のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもよく、ラジアル型ブロックでもよい。中でも、鎖状型ブロックが、機械的強度に優れ、好ましい。ブロック共重合体が鎖状型ブロックの形態を有する場合、ブロック共重合体の分子鎖の両端が重合体ブロック[A]であることが、樹脂組成物のベタツキを適切な低い値に抑えることができるので、好ましい。
【0028】
ブロック共重合体は、一分子当たり少なくとも2個の重合体ブロック[A]と、一分子当たり少なくとも1個の重合体ブロック[B]とを含むことが好ましい。
ブロック共重合体の特に好ましいブロックの形態は、[A]-[B]-[A]で表されるように、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体;[A]-[B]-[A]-[B]-[A]で表されるように、重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、更に該両重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体;である。
[A]-[B]-[A]のトリブロック共重合体であることが、製造が容易であり且つ物性を所望の範囲に容易に収めることができるため、特に好ましい。
【0029】
ブロック共重合体において、ブロック共重合体の全体に占める芳香族ビニル化合物単位の重量分率wAと、ブロック共重合体の全体に占める鎖状共役ジエン化合物単位の重量分率wBとの比(wA/wB)は、特定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、前記の比(wA/wB)は、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上であり、好ましくは60/40以下、より好ましくは55/45以下である。前記の比wA/wBを前記範囲の下限値以上にすることにより、樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの硬さ及び耐熱性を向上させたり複屈折を小さくしたりすることができる。また、上限値以下にすることにより、樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの柔軟性を向上させることができる。ここで、芳香族ビニル化合物単位の重量分率wAは、芳香族ビニル化合物単位の全体の重量分率を示し、鎖状共役ジエン化合物単位の重量分率wBは、鎖状共役ジエン化合物単位の全体の重量分率を示す。
前記の比(wA/wB)は、ブロック共重合体における、芳香族ビニル化合物単位の含有重量の、鎖状共役ジエン化合物単位の含有重量に対する比率(芳香族ビニル化合物単位/鎖状共役ジエン化合物単位)を示す。
【0030】
ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは30,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは60,000以下である。
また、ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下であり、好ましくは1.0以上である。ここで、Mnは、数平均分子量を表す。
ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の値として測定しうる。
【0031】
ブロック共重合体は、従前公知の方法により製造することができる。ブロック共重合体の製造方法としては、例えば、リビングアニオン重合等の方法により、芳香族ビニル化合物を主成分として含有するモノマー組成物(a)と鎖状共役ジエン化合物を主成分として含有するモノマー組成物(b)とを交互に重合させる方法;芳香族ビニル化合物を主成分として含有するモノマー組成物(a)と鎖状共役ジエン化合物を主成分として含有するモノマー組成物(b)とを順に重合させた後、重合体ブロック[B]の末端同士を、カップリング剤によりカップリングさせる方法;が挙げられる。
ブロック共重合体は、例えば、国際公開第2018/003715号に記載された方法により製造することができる。
【0032】
(ブロック共重合体水素化物)
ブロック共重合体水素化物は、前記ブロック共重合体が水素化されている物質であり、更に詳細には、前記ブロック共重合体の不飽和結合の少なくとも一部が水素化されて得られる重合体である。ここで、水素化されるブロック共重合体の不飽和結合には、ブロック共重合体の主鎖及び側鎖の、芳香族性及び非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合をいずれも含む。
ブロック共重合体が水素化されることにより、芳香族ビニル化合物単位に含まれる芳香族性炭素-炭素不飽和結合の少なくとも一部が水素化されている構造単位を含む、重合体ブロック[hA];及び/又は鎖状共役ジエン化合物単位に含まれる非芳香族性炭素-炭素不飽和結合の少なくとも一部が水素化されている構造単位を含む、重合体ブロック[hB];を含む、ブロック共重合体水素化物が得られうる。
【0033】
芳香族性の炭素-炭素不飽和結合は、通常、ブロック共重合体に含まれる芳香族ビニル化合物単位が有する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を含む。
非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合は、通常、ブロック共重合体に含まれる鎖状共役ジエン化合物単位が有する、炭素-炭素二重結合を含む。
【0034】
非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、ブロック共重合体における非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の、好ましくは90%以上、より好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上である。非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、樹脂組成物の耐光性及び耐酸化性を更に高くできる。
【0035】
また、芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、ブロック共重合体における芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の、好ましくは90%以上、より好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上である。芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、重合体ブロック[A]を水素化して得られる重合体ブロックのガラス転移温度が高くなるので、樹脂組成物の耐熱性を効果的に高めることができる。更に、樹脂組成物の光弾性係数を下げることができる。
【0036】
好ましくは、非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率が、ブロック共重合体における非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の90%以上であり、且つ芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率が、ブロック共重合体における芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の90%以上である。水素化率が高いほど、樹脂組成物の透明性、耐熱性及び耐候性を良好にでき、更には複屈折を小さくし易い。
【0037】
ブロック共重合体水素化物における、芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率及び非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の1H-NMRを測定することにより求めうる。
【0038】
ブロック共重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは30,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは60,000以下である。ブロック共重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)を前記の範囲に収めることにより、樹脂フィルムの機械強度及び耐熱性を向上させることができ、更には複屈折を小さくし易い。
ブロック共重合体水素化物の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下であり、好ましくは1.0以上である。ブロック共重合体水素化物の分子量分布(Mw/Mn)を前記の範囲に収めることにより、樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの機械強度及び耐熱性を向上させることができ、更には複屈折を小さくし易い。
ブロック共重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の値で測定しうる。
【0039】
ブロック共重合体水素化物は、ブロック共重合体を水素化することにより製造しうる。ブロック共重合体の水素化は、従前公知の方法で行うことができる。水素化方法としては、水素化率を高くでき、ブロック共重合体の鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような水素化方法としては、例えば、国際公開第2011/096389号、国際公開第2012/043708号に記載された方法が挙げられる。
【0040】
[1.1.2.ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物]
ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物は、ブロック共重合体水素化物に、アルコキシシリル基を導入して得られる重合体である。導入されたアルコキシシリル基は、ブロック共重合体水素化物に直接結合していてもよく、例えばアルキレン基、アルキレンオキシカルボニルアルキレン基などの2価の有機基を介して間接的に結合していてもよい。アルコキシシリル基変性物は、広範な材料に対する密着性に優れるため、かかるアルコキシシリル基変性物を含む樹脂組成物の密着性を優れたものとしうる。
【0041】
導入するアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等の、トリ(C1-C6アルコキシ)シリル基;メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、プロピルジメトキシシリル基、プロピルジエトキシシリル基等の、(C1-C20アルキル)ジ(C1-C6アルコキシ)シリル基;フェニルジメトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基等の、(アリール)ジ(C1-C6アルコキシ)シリル基;等が挙げられる。
【0042】
アルコキシシリル基変性物におけるアルコキシシリル基の導入量は、アルコキシシリル基の導入前のブロック共重合体水素化物100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、更に好ましくは3重量部以下である。アルコキシシリル基の導入量を前記範囲に収めると、水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋度が過剰に高くなることを抑制できるので、樹脂組成物の密着力を高く維持することができる。
アルコキシシリル基の導入量は、1H-NMRスペクトルにて計測しうる。また、アルコキシシリル基の導入量の計測の際、導入量が少ない場合は、積算回数を増やして計測しうる。
【0043】
アルコキシシリル基変性物の重量平均分子量(Mw)は、導入されるアルコキシシリル基の量が少ないため、通常は、アルコキシシリル基を導入する前のブロック共重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)から大きく変化しない。ただし、アルコキシシリル基を導入する際には過酸化物の存在下でブロック共重合体水素化物を変性反応させるので、そのブロック共重合体水素化物の架橋反応及び切断反応が進行し、分子量分布は大きく変化する傾向がある。
【0044】
アルコキシシリル基変性物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは30,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは60,000以下である。また、アルコキシシリル基変性物の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下であり、好ましくは1.0以上である。アルコキシシリル基変性物の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)がこの範囲であると、樹脂組成物から形成された樹脂フィルムの良好な機械強度及び引張り伸びが維持できる。
【0045】
アルコキシシリル基変性物の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の値として測定しうる。
【0046】
アルコキシシリル基変性物は、前記のブロック共重合体水素化物にアルコキシシリル基を導入することにより、製造しうる。ブロック共重合体水素化物にアルコキシシリル基を導入する方法としては、例えば、ブロック共重合体水素化物とエチレン性不飽和シラン化合物とを、過酸化物の存在下で反応させる方法が挙げられる。
【0047】
エチレン性不飽和シラン化合物としては、ブロック共重合体水素化物とグラフト重合でき、ブロック共重合体水素化物にアルコキシシリル基を導入できるものを用いうる。このようなエチレン性不飽和シラン化合物の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン等のビニル基を有するアルコキシシラン;アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン等のアリル基を有するアルコキシシラン;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン等のp-スチリル基を有するアルコキシシラン;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の3-メタクリロキシプロピル基を有するアルコキシシラン;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の3-アクリロキシプロピル基を有するアルコキシシラン;2-ノルボルネン-5-イルトリメトキシシラン等の2-ノルボルネン-5-イル基を有するアルコキシシラン;などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより得られやすいことから、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランが好ましい。また、エチレン性不飽和シラン化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
エチレン性不飽和シラン化合物の量は、アルコキシシリル基を導入する前のブロック共重合体水素化物100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、更に好ましくは3重量部以下である。
【0049】
過酸化物としては、ラジカル反応開始剤として機能するものを用いうる。このような過酸化物としては、通常、有機過酸化物を用いる。有機過酸化物としては、例えば、ジベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、ラウロイルパーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの中でも、1分間半減期温度が170℃~190℃のものが好ましく、具体的には、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド等が好ましい。また、過酸化物は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
過酸化物の量は、アルコキシシリル基を導入する前のブロック共重合体水素化物100重量部に対して、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、更に好ましくは0.2重量部以上であり、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1重量部以下、更に好ましくは0.5重量部以下である。
【0051】
アルコキシシリル基変性物は、具体的には、例えば国際公開第2018/003715号に記載された方法により製造しうる。
【0052】
[1.2.有機金属化合物]
有機金属化合物は、金属と炭素との化学結合及び金属と酸素との化学結合の少なくとも一方を含む化合物であり、有機基を有する金属化合物である。有機金属化合物の例としては、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、及び有機ジルコニウム化合物が挙げられる。これらのうち、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物が好ましく、有機ケイ素化合物がより好ましい。有機金属化合物は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
有機金属化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられるが、これに限定されない。
R1
aSi(OR2)4-a (1)
(式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、エポキシ基(オキシラニル基)、アミノ基、メルカプト基(スルファニル基)、イソシアネート基、及び、炭素原子数1~10の有機基からなる群より選ばれる基を表し、aは、0~4の整数を表す。R1が複数ある場合、複数あるR1は互いに異なっていてもよい。R2が複数ある場合、複数あるR2は互いに異なっていてもよい。)
【0054】
R1は、好ましくは炭素原子数1~10の有機基を表し、より好ましくはオキシラニル基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、イソシアネート基、アクリロイルオキシ基、及びメタクリロイルオキシ基からなる群より選択される1以上の基を含む、炭素原子数1~10の有機基を表す。
R2は、好ましくは水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表し、より好ましくはメチル基又はエチル基を表す。
aは、好ましくは1又は2を表し、より好ましくは1を表す。
【0055】
有機金属化合物として、シランカップリング化合物が特に好ましい。シランカップリング化合物とは、有機ケイ素化合物であって、反応性基と、ケイ素原子に結合するアルコキシ基及び/又はケイ素原子に結合するヒドロキシ基とを含む。
シランカップリング化合物に含まれる反応性基の例としては、ハロゲン原子、ビニル基、オキシラン環構造を有する基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、カルバモイルアミノ基、イソシアナト基、イソシアヌレート環構造を有する基、及びメルカプト基(スルファニル基)が挙げられる。
【0056】
オキシラン環構造を有する基とは、構造中にオキシラン環を有する基であり、オキシラン環構造を単環として有していても、他の環との縮合環として有していてもよい。オキシラン環構造を有する基の例としては、オキシラニル基、エポキシシクロヘキシル基(例、3,4-エポキシシクロヘキシル基)、グリシジルオキシ基が挙げられる。
【0057】
置換基を有していてもよいアミノ基とは、無置換のアミノ基(-NH2で表される基)、-NH-R3で表される基、-NR4R5で表される基、又は-N=R6で表される基を意味する。ここで、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の1価の炭化水素基を表す。R3、R4、及びR5により表される炭素原子数1~10の1価の炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等の、炭素原子数1~10のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の、炭素原子数3~10のシクロアルキル基;フェニル基等の、炭素原子数6~10のアリール基;ベンジル基等の、炭素原子数7~10のアリールアルキル基が挙げられる。
また、R6は、炭素原子数1~10の2価の炭化水素基を表す。R6により表される炭素原子数1~10の2価の炭化水素基の例としては、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、ブチリデン基、ペンチリデン基等の、炭素原子数1~10のアルキリデン基が挙げられる。
ここで、R3、R4、R5、及びR6は、それぞれ独立して、更に置換基を有していてもよい。R3、R4、R5、及びR6が有しうる置換基の例としては、アミノ基及びビニル基が挙げられる。
【0058】
シランカップリング化合物に含まれる反応性基は、ケイ素原子に直接結合していてもよいし、連結基を介してケイ素原子に結合していてもよい。シランカップリング化合物において、反応性基とケイ素原子とを連結する連結基の例としては、炭素原子数1~10の2価の炭化水素基が挙げられる。連結基としての炭素原子数1~10の2価の炭化水素基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基等の、炭素原子数1~10のアルカンジイル基;シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基等の、炭素原子数3~10のシクロアルカンジイル基;フェニレン基等の、炭素原子数6~10のアリーレン基;が挙げられ、エチレン基、プロパンジイル基、及びフェニレン基が好ましい。
【0059】
シランカップリング化合物に含まれるケイ素原子に結合するアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基等の、炭素原子数1~10のアルコキシ基が挙げられ、炭素原子数1~5のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基及びエトキシ基がより好ましい。
ケイ素原子に結合するアルコキシ基は、更に置換基を有していてもよい。ケイ素原子に結合するアルコキシ基が有していてもよい置換基の例としては、炭素原子数1~4のアルコキシ基が挙げられる。
【0060】
シランカップリング化合物は、ケイ素原子に1個のアルコキシ基が結合している有機ケイ素化合物、ケイ素原子に2個のアルコキシ基が結合している有機ケイ素化合物、及びケイ素原子に3個のアルコキシ基が結合している有機ケイ素化合物のいずれであってもよい。シランカップリング化合物が、ケイ素原子に結合する複数のアルコキシ基を含む場合、該複数のアルコキシ基は、互いに同一であっても、互いに異なっていてもよいが、シランカップリング化合物の製造が容易となるので、好ましくは互いに同一である。
【0061】
有機金属化合物である、シランカップリング化合物の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等の、ビニル基を含む有機ケイ素化合物;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等の、オキシラン環構造を有する基を含む有機ケイ素化合物;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の、メタクリロイルオキシ基を含む有機ケイ素化合物;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の、アクリロイルオキシ基を含む有機ケイ素化合物;N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等の、置換基を有していてもよいアミノ基を含む有機ケイ素化合物;3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等の、カルバモイルアミノ基を含む有機ケイ素化合物;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等の、イソシアナト基を含む有機ケイ素化合物;トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等の、イソシアヌレート環構造を有する基を含む有機ケイ素化合物;及び、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の、メルカプト基を含む有機ケイ素化合物;が挙げられる。
【0062】
シランカップリング化合物としては、置換基を有していてもよいアミノ基を含む有機ケイ素化合物が好ましく、一分子当たり置換基を有していてもよいアミノ基を2個含む有機ケイ素化合物がより好ましい。ここで、シランカップリング化合物が、置換基を有するアミノ基を含み、該置換基が更にアミノ基を有する場合、シランカップリング化合物に含まれる、置換基を有していてもよいアミノ基の数に、アミノ基の置換基におけるアミノ基の数を含める。
一分子当たり置換基を有していてもよいアミノ基を2個含むシランカップリング化合物の例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩が挙げられる。
【0063】
有機チタン化合物の例としては、テトライソプロピルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアセチルアセトネート等のチタンキレート、チタンイソステアレート等のチタンアシレートが挙げられる。
【0064】
有機ジルコニウム化合物の例としては、ノルマルプロピルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウムキレート、ステアリン酸ジルコニウム等のジルコニウムアシレートが挙げられる。
【0065】
有機アルミニウム化合物の例としては、アルミニウムセカンダリーブトキシド等のアルミニウムアルコキシド、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等のアルミニウムキレートが挙げられる。
【0066】
有機金属化合物の、アルコキシシリル基変性物に対する割合は、アルコキシシリル基変性物100重量部に対して、好ましくは0.005重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上、更に好ましくは0.03重量部以上であり、好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。有機金属化合物の割合を、前記範囲とすることにより、樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの密着性を、より効果的に向上させうる。
【0067】
前記有機金属化合物として、例えば、信越化学工業社製のKBEシリーズ及びKBMシリーズ、マツモトファインケミカル社製のオルガチックス(登録商標)シリーズ等の、市販品を用いうる。
【0068】
[1.3.任意成分]
樹脂組成物は、前記のアルコキシシリル基変性物及び有機金属化合物以外に、添加剤、溶媒などの、任意の成分を含みうる。
【0069】
添加剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤;滑剤などの樹脂改質剤;染料や顔料などの着色剤;及び帯電防止剤が挙げられる。これらの添加剤は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。添加剤の配合量は、適宜選択されうるが、好ましくは、アルコキシシリル基変性物100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。添加剤の配合量を前記範囲とすることにより、樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの密着性を、より効果的に向上させうる。
【0070】
樹脂組成物が含みうる溶媒の例としては、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の、脂肪族及び脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の、芳香族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン等の、エーテル溶媒が挙げられる。溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。樹脂組成物における溶媒の割合は、樹脂組成物に含まれる成分の溶解性等を考慮して適宜選択されうる。樹脂組成物における溶媒の割合は、例えば、アルコキシシリル変性物100重量部に対して、好ましくは150重量部以上、より好ましくは200重量部以上であり、好ましくは500重量部以下、より好ましくは400重量部以下である。
【0071】
[1.4.樹脂組成物の製造方法]
樹脂組成物は、樹脂組成物に含まれる成分の性質に応じて従前公知の方法により製造しうる。例えば、樹脂組成物は、樹脂組成物の成分を、押出機などを用いて溶融混合する方法、溶媒に、溶媒以外の樹脂組成物の成分を添加して混合する方法などにより製造しうる。
【0072】
[2.樹脂フィルム]
本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムは、前記樹脂組成物から形成される。したがって、樹脂フィルムは、アルコキシシリル基変性物及び有機金属化合物を含みうる。
樹脂フィルムは、溶融押出し法、溶液流延法、塗布法などの任意の方法により、樹脂組成物から形成されうる。
樹脂組成物が、溶媒を含む場合、樹脂組成物の層を形成し、この樹脂組成物の層を乾燥させることにより、樹脂フィルムを形成しうる。
樹脂フィルムの厚みは、樹脂フィルムの用途に応じて任意に設定できるが、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。
樹脂フィルムは、基材フィルムとしての各種フィルムとの密着性に優れるので、例えば各種光学素子フィルム(例、偏光子フィルム)の保護フィルムとして有用である。
【0073】
[3.積層体]
本発明の一実施形態に係る積層体は、前記樹脂フィルムと、基材フィルムとを含み、前記基材フィルムの面に前記樹脂フィルムが直に接する。
図1は、本実施形態に係る積層体を模式的に示す断面図である。積層体100は、基材フィルム101と、基材フィルム101の面101Uに接して設けられた樹脂フィルム102とを備える。
【0074】
基材フィルムの材料としては、特に限定されず、種々の重合体を含む樹脂を用いうる。重合体の例としては、脂環式構造含有重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル;トリアセチルセルロースなどのセルロースエステル;ポリメチルメタクリレートなどの、アクリル重合体;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;エポキシ重合体;ポリスチレン;及びこれらの組み合わせ;が挙げられる。基材フィルムは、溶融押出し法、溶液流延法、塗布法などの任意の方法により形成されうる。基材フィルムは、表面処理(例、コロナ処理、プラズマ処理、ケン化処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理)、延伸処理、染色処理などの任意の処理がされていてもよい。
【0075】
基材フィルムは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。
【0076】
基材フィルムの厚みは、適宜選択されうるが、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは110μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0077】
本実施形態の積層体が備える樹脂フィルムは、前記アルコキシシリル基変性物と有機金属化合物とを含む樹脂組成物から形成されるフィルムである。
【0078】
積層体は、従前公知の方法により製造されうる。製造方法の例としては、(1)基材フィルムと、樹脂フィルムとを製造し、次いで基材フィルムと樹脂フィルムとを圧着などにより積層して積層体を製造する方法、(2)基材フィルムの少なくとも一方の面に、溶媒を含む樹脂組成物を塗工して樹脂組成物の層を形成し、次いで該樹脂組成物の層を乾燥させて樹脂フィルムを形成することにより積層体を製造する方法が挙げられる。樹脂フィルムの基材フィルムへの密着性を効果的に発揮させる観点から、積層体は、前記(2)の方法により製造されることが好ましい。
【0079】
基材フィルムの面に、溶媒を含む樹脂組成物を塗工する方法の例としては、溶液コーティング、エマルジョンコーティング、及び溶融押出コーティングが挙げられ、高速塗工が可能で均一な厚みの樹脂フィルムが得られることから溶液コーティングが好ましい。塗工される樹脂組成物の層の厚みは、樹脂フィルムに求められる所望の厚さに応じて適切に設定しうる。
【0080】
樹脂組成物の層を乾燥させる方法の例としては、加熱乾燥、減圧乾燥、加熱減圧乾燥、及び自然乾燥が挙げられる。
【0081】
別の実施形態に係る積層体は、第1の樹脂フィルムと、基材フィルムと、第2の樹脂フィルムとをこの順で含み、前記基材フィルムの一方の面に第1の樹脂フィルムが直に接し、基材フィルムの他方の面に第2の樹脂フィルムが直に接する。
本実施形態の積層体は、両面に密着性に優れた樹脂フィルムが設けられているので、両面が樹脂フィルムにより良好に保護されうる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0083】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0084】
[評価方法]
(重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mw/Mn))
ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の分子量は、THFを溶離液とするGPCによる標準ポリスチレン換算値として、38℃において測定した。測定装置として、東ソー社製「HLC8020GPC」を用いた。
【0085】
(水素化率)
ブロック共重合体水素化物の水素化率を、ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の1H-NMRスペクトルを測定して算出した。
【0086】
(厚みの測定方法)
積層体に含まれる各フィルムの厚みは、厚み計(株式会社ミツトヨ社製、商品名「ABSデジマチックシックネスゲージ(547-401)」)を使用して5回測定し、その平均値を各フィルムの厚みとした。
【0087】
(密着性の評価)
JIS K5400:1990(碁盤目試験)に準拠し、樹脂フィルム(樹脂層)に1mm×1mmの100マスの切り込みを入れ、碁盤目試験を実施した。剥がれたマスの数が、20マスより多い場合は、密着性が不良であると評価した。密着性の評価を、樹脂フィルム(樹脂層)形成後に、樹脂フィルムを下記の条件下に置いて行った。
(1日後)大気中に樹脂フィルムを静置して1日後
(5日後)大気中に樹脂フィルムを静置して5日後
(耐湿熱試験後)大気中に樹脂フィルムを静置して5日後に、更に温度60℃、相対湿度90%の環境で500時間静置した後
【0088】
[製造例1]ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物[S1]の製造
(ブロック共重合体の製造)
撹拌装置を備えた反応器を用意し、内部を十分に窒素置換した。この反応器に、脱水シクロヘキサン400部、脱水スチレン10部、及びジブチルエーテル0.475部を投入した。容器内容物を60℃で攪拌しながら、これにn-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.90部を加えて重合を開始させた。次いで、容器内の反応液を60℃で攪拌しながら、脱水スチレン15部を40分間かけて連続的に反応液に添加して重合反応を進行させた。脱水スチレンを添加した後、更に60℃で20分間反応液を攪拌し続けた。この時点での反応液をガスクロマトグラフィー(GC)により分析したところ、重合転化率は99.5%であった。
次いで、反応液に、脱水イソプレン50部を130分間かけて連続的に添加した。脱水イソプレンを添加した後、そのまま30分間反応液を攪拌し続けた。この時点での反応液をGCにより分析したところ、重合転化率は99.5%であった。
次いで、更に、脱水スチレン25部を70分間かけて連続的に反応液に添加した。脱水スチレンを添加した後、そのまま60分間反応液を攪拌し続けた。この時点での反応液をGCにより分析したところ、重合転化率はほぼ100%であった。
【0089】
次いで、反応液に、イソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止させて、ブロック共重合体を含む重合体溶液を得た。この重合体溶液に含まれるブロック共重合体[J1]は、スチレン単位を含む重合体ブロック[A]-イソプレン単位を含む重合体ブロック[B]-スチレン単位を含む重合体ブロック[A]型のトリブロック共重合体であった。ブロック共重合体[J1]の重量平均分子量(Mw)は45,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.04、wA/wB=50/50であった。
ここで、wAは、ブロック共重合体[J1]の全体に占める芳香族ビニル化合物単位(スチレン単位)の重量分率を表し、wBは、ブロック共重合体[J1]の全体に占める鎖状共役ジエン化合物単位(イソプレン単位)の重量分率を表す。
【0090】
(ブロック共重合体水素化物の製造)
次いで、前記重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送した。重合体溶液に、水素化触媒として、珪藻土担持型ニッケル触媒(製品名「E22U」、日揮触媒化成社製、ニッケル担持量60%)7.0部及び脱水シクロヘキサン80部を添加して混合して混合物を得た。反応器内部を水素ガスで置換し、次いで、混合物を攪拌しながら反応器内に水素ガスを供給し、温度150℃、圧力3.0MPaにて1時間水素化反応を行い、次いで温度190℃、圧力4.5MPaに昇温昇圧して6時間水素化反応を行い、ブロック共重合体水素化物[H1]を含む反応混合物を得た。得られた反応混合物中のブロック共重合体水素化物[H1]の重量平均分子量(Mw)は47,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.06であった。
【0091】
水素化反応終了後、得られた反応混合物を濾過して水素化触媒を除去して濾液を得、得られた濾液に、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](製品名「AO60」、ADEKA社製)0.1部を溶解したキシレン溶液2.0部を添加して溶解させ、溶液を得た。
次いで、前記溶液を、金属ファイバー製フィルター(孔径0.4μm、ニチダイ社製)にて濾過して微小な固形分を除去した。次いで、円筒型濃縮乾燥器(製品名「コントロ」、日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶液からシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去した。濃縮乾燥器に直結したダイから溶融樹脂を押出し、水冷後、アンダーウォーターカッターにより切断してペレット状とし、ブロッキング防止剤として約100ppmのエチレンビスステアリン酸アマイドの微粉を添加して、ブロック共重合体水素化物[H1]のペレット95部を製造した。
得られたペレット状のブロック共重合体水素化物[H1]は、重量平均分子量(Mw)が47,400、分子量分布(Mw/Mn)が1.10、鎖状共役ジエン化合物単位の二重結合(主鎖及び側鎖の二重結合、非芳香族性炭素―炭素不飽和結合)の水素化率及び芳香族性炭素-炭素不飽和結合の水素化率がいずれもほぼ100%であった。
【0092】
(アルコキシシリル基変性物の製造)
得られたブロック共重合体水素化物[H1]のペレット100部に対して、ビニルトリメトキシシラン(製品名「KBM-1003」、信越化学工業社製)2.0部及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(製品名「パーヘキサ(登録商標)25B」、日油社製)0.1部を添加して混合物を得た。この混合物を、二軸押出機(製品名「TEM37B」、東芝機械社製)を用いて、樹脂温度210℃、滞留時間60秒以上70秒以下で混練した。得られた混練物を、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、アルコキシシリル基が導入された、ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物[S1]のペレット96部を得た。
【0093】
アルコキシシリル基変性物[S1]のペレット0.00001部をシクロヘキサン0.001部に溶解させ、次いで得られた溶液を脱水メタノール0.004部中に注いで、アルコキシシリル基変性物[S1]を凝固させ、得られた凝固物を濾取した。濾取した凝固物を25℃で真空乾燥して、精製されたアルコキシシリル基変性物[S1]0.000009部を得た。
アルコキシシリル基変性物[S1]のFT-IRスペクトルには、1090cm-1にSi-OCH3基、825cm-1及び739cm-1にSi-CH2基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのSi-OCH3基、Si-CH基に由来する吸収帯(1075cm-1、808cm-1及び766cm-1)と異なる位置に観察された。
また、アルコキシシリル基変性物[S1]の1H-NMRスペクトル(重クロロホルム中)を測定したところ、3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づくピークが観察された。ピーク面積比からブロック共重合体水素化物[H1]100部に対してビニルトリメトキシシラン1.8部が結合したことが確認された。
【0094】
[製造例2]ブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル基変性物[S2]の製造
(ブロック共重合体の製造)
下記事項を変更した以外は製造例1(ブロック共重合体の製造)と同様の手順により、ブロック共重合体[J2]を含む重合体溶液を得た。
・n-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)の量を0.90部から0.80部に変更した。
この重合体溶液に含まれるブロック共重合体[J2]は、スチレン単位を含む重合体ブロック[A]-イソプレン単位を含む重合体ブロック[B]-スチレン単位を含む重合体ブロック[A]型のトリブロック共重合体であった。ブロック共重合体[J2]の重量平均分子量(Mw)は51,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.04、wA:wB=50:50であった。
【0095】
次いで、前記重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送した。重合体溶液に、水素化触媒として、トルエン1.0部中で、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド0.042部とジエチルアルミニウムクロライド0.122部とを混合して得られた溶液を添加して混合して混合物を得た。反応器内部を水素ガスで置換し、次いで混合物を攪拌しながら反応器内に水素ガスを供給し、温度90℃、圧力1.0MPaにて5時間水素化反応を行い、ブロック共重合体水素化物[H2]を含む反応溶液を得た。
得られた反応溶液中のブロック共重合体水素化物[H2]の重量平均分子量(Mw)は55,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0096】
水素化反応終了後、得られた反応溶液に水0.10部を添加して、60℃で60分間攪拌した。次いで、反応溶液を30℃以下まで冷却し、活性白土(製品名「ガレオンアース(登録商標)」、水澤化学工業社製)1.5部、及び、タルク(製品名「ミクロエース(登録商標)」、日本タルク社製)1.5部を添加して濾過し、反応溶液から不溶物を除去し、濾液を得た。得られた濾液にフェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.1部を溶解したキシレン溶液2.0部を添加して溶解させ、溶液を得た。
次いで、前記溶液を製造例1と同様に処理して、ブロック共重合体水素化物[H2]のペレット96部を製造した。
得られたペレット状のブロック共重合体水素化物[H2]は、重量平均分子量(Mw)が54,400、分子量分布(Mw/Mn)が1.08、鎖状共役ジエン化合物単位の二重結合(主鎖及び側鎖の二重結合、非芳香族性炭素―炭素不飽和結合)の水素化率は99%、芳香族性炭素-炭素不飽和結合の水素化率は3%未満であった。
【0097】
(アルコキシシリル基変性物の製造)
下記事項を変更した以外は製造例1(アルコキシシリル基変性物の製造)と同様の手順により、アルコキシシリル基変性物[S2]のペレット93部を得た。
・ブロック共重合体水素化物[H1]の代わりに、ブロック共重合体水素化物[H2]のペレットを使用した。
【0098】
得られたアルコキシシリル基変性物[S2]の1H-NMRスペクトルを測定したところ、ブロック共重合体水素化物[H2]100部に対してビニルトリメトキシシラン1.8部が結合したことが確認された。
【0099】
[実施例1]
(塗工液の調製)
製造例1で製造したアルコキシシリル基変性物[S1]のペレット100重量部を、300重量部のシクロヘキサンに溶解させて樹脂溶液を得た。次いで、得られた樹脂溶液に、0.05重量部のN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603]、信越化学工業社製、有機ケイ素化合物(シランカップリング化合物))を添加して、1時間撹拌し、樹脂組成物としての樹脂フィルム形成用(樹脂層形成用)の塗工液を得た。
【0100】
(積層体の製造)
基材フィルムとして、長尺のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製「A4300]、厚み50μm)を用意した。基材フィルムの一方の面に、コロナ処理を施し、コロナ処理を施した面に、ダイコーターを用いて塗工液を塗工し、塗工層を形成した。塗工層の厚みは、厚み10μmの樹脂フィルム(樹脂層)が得られるように調整した。次いで、塗工層を加熱乾燥させて、厚み10μmの樹脂フィルム(樹脂層)を形成し、基材フィルムと、樹脂フィルムとを備えた、幅600mmの長尺の積層体を得た。積層体においては、基材フィルムの一方の面に、樹脂フィルムが直に接している。
得られた積層体について、前記方法にて密着性を評価した。
【0101】
[実施例2]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・基材フィルムとして、長尺のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム社製「フジタック」、厚み40μm)を用いた。
【0102】
[実施例3]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・基材フィルムとして、長尺のアクリル樹脂(Ac)フィルム(厚み50μm)を用いた。
アクリル樹脂フィルムは、下記の手順で製造した。
ポリメチルメタクリレート樹脂(L)(住友化学社製、商品名「スミペックス(登録商標)HT20Y」を用意した。また、樹脂(L)より耐熱性の高いポリメチルメタクリレート樹脂(H)(住友化学社製、商品名「スミペックスMH」を用意した。2種の樹脂から3層の押出フィルムを形成できる多層共押出装置のT型ダイスに、樹脂(L)/樹脂(H)/樹脂(L)の層構成の押出フィルムが得られるように、樹脂(L)及び樹脂(H)を供給した。T型ダイスから、樹脂(L)及び樹脂(H)を、それぞれ押出量20kg/hr及び10kg/hrで吐出させ、吐出させたフィルムを鏡面ロールで受けて冷却し、厚み50μmの3層構成のアクリル樹脂フィルムを得た。
【0103】
[実施例4]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・基材フィルムとして、長尺のポリビニルアルコール(PVA)フィルム(厚み60μm)を用いた。
【0104】
[実施例5]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・基材フィルムとして、長尺のポリカーボネート(PC)フィルム(恵和株式会社製、商品名「オプコン」、厚み110μm)を用いた。
【0105】
[実施例6]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])の代わりに3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製「KBM903」、有機ケイ素化合物)を用いた。
【0106】
[実施例7]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])の代わりに、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製「KBM403」、有機ケイ素化合物)を用いた。
【0107】
[実施例8]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])の代わりに、ノルマルプロピルジルコネート(マツモトファインケミカル社製「オルガチックスZA-45」、有機ジルコニウム化合物)を用いた。
【0108】
[実施例9]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])の代わりに、テトライソプロピルチタネート(マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTA-8」、有機チタン化合物)を用いた。
【0109】
[実施例10]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、アルコキシシリル基変性物[S1]の代わりに、製造例2で製造したアルコキシシリル基変性物[S2]を用いた。
【0110】
[比較例1]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])を0重量部とした。
【0111】
[比較例2]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])を0重量部とした。
・基材フィルムとして、長尺のトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製「フジタック」、厚み40μm)を用いた。
【0112】
[比較例3]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])を0重量部とした。
・基材フィルムとして、長尺のアクリル樹脂(Ac)フィルム(厚み50μm)を用いた。アクリル樹脂フィルムは、実施例3において製造されたアクリル樹脂フィルムと同じである。
【0113】
[比較例4]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])を0重量部とした。
・基材フィルムとして、長尺のポリビニルアルコール(PVA)フィルム(厚み60μm)を用いた。
【0114】
[比較例5]
下記事項を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得て、密着性を評価した。
・塗工液の調製において、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(「KBM603])を0重量部とした。
・基材フィルムとして、長尺のポリカーボネート(PC)フィルム(恵和株式会社製、商品名「オプコン」、厚み110μm)を用いた。
【0115】
[評価結果]
実施例及び比較例の結果を、下記表に示す。
表中の略号は、下記の意味を示す。
「S1」:アルコキシシリル基変性物[S1]
「S2」:アルコキシシリル基変性物[S2]
「KBM603」:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
「KBM903」:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
「KBM403」:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
「PET」:ポリエチレンテレフタレートフィルム
「TAC」:トリアセチルセルロースフィルム
「Ac」:アクリル樹脂フィルム
「PVA」:ポリビニルアルコールフィルム
「PC」ポリカーボネートフィルム
また、表中の密着性評価は、100マスに対する剥離しなかったマス数Xの割合(X/100)として示されている。
【0116】
【0117】
以上の結果によれば、以下が分かる。
所定の樹脂と有機金属化合物とを含む樹脂組成物を用いた実施例に係る積層体は、有機金属化合物を含まない樹脂組成物を用いた比較例に係る積層体と比較して、密着性が顕著に優れている。
更に、有機ケイ素化合物として、アミノ基を含むシランカップリング化合物を用いた実施例1~6、及び実施例10に係る積層体は、アミノ基を含まないシランカップリング化合物を用いた実施例7と比較して、密着性が優れている。特に、一分子当たりアミノ基を2個含むシランカップリング化合物を用いた実施例1は、アミノ基を一分子当たり1個含むシランカップリング化合物を用いた実施例6と比較して、密着性が優れている。
また、有機ケイ素化合物として、一分子当たりアミノ基を2個含むシランカップリング化合物を用い、かつ、変性物[S1]を用いた実施例1~5は、耐湿熱試験後における密着性評価が、実施例6~10と比較して優れている。
以上の結果は、所定のアルコキシシリル基変性物と有機金属化合物とを含む樹脂組成物が、密着性に優れた樹脂フィルム及び積層体を製造しうることを示すものである。
【符号の説明】
【0118】
100 積層体
101 基材フィルム
102 樹脂フィルム
101U 面