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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】表面処理層、及び、物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20230822BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20230822BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20230822BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20230822BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230822BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
C08G18/00 C
C08L75/04
C08L23/26
C08K3/013
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021566925
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2020043119
(87)【国際公開番号】W WO2021131429
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019231481
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】坂井 美代
(72)【発明者】
【氏名】中庄谷 隆典
(72)【発明者】
【氏名】竹村 潔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 盛緒
(72)【発明者】
【氏名】千々和 宏之
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-176615(JP,A)
【文献】特開2019-72935(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162868(WO,A1)
【文献】特開2014-214199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/20
C08G 18/00
C08L 75/04
C08L 23/26
C08K 3/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマー層(i)、及び、トップコート層(ii)を有する表面処理層であって、
前記プライマー層(i)が、ウレタン樹脂(A)、オレフィン樹脂(B)、フィラー(C)、及び、水(D)を含有するプライマー層形成用樹脂組成物から形成されたものであり、前記プライマー層(i)の光沢値が、0.9未満であり、
前記トップコート層(ii)が、ウレタン樹脂(X)、ビーズ(Y)、及び、水(Z)を含有するトップコート層形成用樹脂組成物から形成されたものであり、前記トップコート層(ii)における前記ビーズ(Y)の充填率が25~90%の範囲であることを特徴とする表面処理層。
【請求項2】
前記プライマー層形成用樹脂組成物中における、前記フィラー(C)の含有量が、1.5~10質量%の範囲である請求項1記載の表面処理層。
【請求項3】
前記トップコート層形成用樹脂組成物中における、前記ビーズ(Y)の平均粒子径が7μm以上である請求項1又は2記載の表面処理層。
【請求項4】
前記トップコート層形成用樹脂組成物中における、前記ビーズ(Y)の含有量が、1.5~30質量%の範囲である請求項1~3のいずれか1項記載の表面処理層。
【請求項5】
熱可塑性オレフィン樹脂基材、及び、請求項1~4のいずれか1項記載の表面処理層を有することを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理層、及び、物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)レザー用シートの製造工程においては、その表面に耐久性および意匠性付与の観点から、表面処理剤により仕上げがなされている。従来の表面処理剤に用いられる材料は、有機溶剤を含んだ溶剤系樹脂組成物が主流であったが、近年の環境規制の高まりを受け、有機溶剤を実質的に含まない水性表面処理剤の開発が進められている。
【0003】
更に、自動車としてのデザイン性の多様化に伴い、インパネやドアトリムの形状でもデザイン性を重視した仕上がりが求められるようになってきている。しかしながら、現状の水性表面処理剤(例えば、特許文献1を参照。)では、自動車メーカーのデザイナーが設計する形状に成形された場合、成形品端部で局所的に高延伸になる部分が発生し、その部分だけが光沢が高くなり、意匠性(デザイン性)が損なわれる。また、これ以外にも、TPOレザーに対する剥離強度や、表面処理層の耐エタノール性の向上も市場からは強く要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-176615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、水を含有する材料を用い、延伸時に光沢変化が少なく、剥離強度、及び、耐エタノール性に優れる表面処理層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プライマー層(i)、及び、トップコート層(ii)を有する表面処理層であって、前記プライマー層(i)が、ウレタン樹脂(A)、オレフィン樹脂(B)、フィラー(C)、及び、水(D)を含有するプライマー層形成用樹脂組成物から形成されたものであり、前記プライマー層(i)の光沢値が、0.9未満であり、前記トップコート層(ii)が、ウレタン樹脂(X)、ビーズ(Y)、及び、水(Z)を含有するトップコート層形成用樹脂組成物から形成されたものであり、前記トップコート層(ii)における前記ビーズ(Y)の充填率が25~90%の範囲であることを特徴とする表面処理層を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、熱可塑性オレフィン樹脂基材、及び、前記表面処理層を有することを特徴とする物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表面処理層は、水を含有する材料を用いているため環境に優しく、延伸時に光沢変化が少なく、剥離強度、及び、耐エタノール性に優れるものである。特に、本発明の表面処理層は、TPOレザーに対する剥離強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の表面処理層は、プライマー層(i)、及び、トップコート層(ii)を有し、それぞれの層が特定の材料により形成されていることが必須である。
【0010】
前記プライマー層(i)は、特にTPOレザーとの優れた密着性(剥離強度)、及び、耐エタノール性を得るうえで、ウレタン樹脂(A)、及び、オレフィン樹脂(B)を含有することが必須であり、また、表面処理層延伸時の光沢変化を抑制するうえで、マット剤であるフィラー(C)を含有し、更に前記フィラー(C)によりプライマー層(i)の光沢値を0.9未満とすることが必須である。
【0011】
前記ウレタン樹脂(A)は、水(D)に分散し得るものであり、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等の親水性基を有するウレタン樹脂;乳化剤で強制的に水(B)中に分散したウレタン樹脂などを用いることができる。これらのウレタン樹脂(A)は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0012】
前記アニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、カルボキシル基を有する化合物及びスルホニル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を原料として用いる方法が挙げられる。
【0013】
前記カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-吉草酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記スルホニル基を有する化合物としては、例えば、3,4-ジアミノブタンスルホン酸、3,6-ジアミノ-2-トルエンスルホン酸、2,6-ジアミノベンゼンスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルスルホン酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記カルボキシル基及びスルホニル基は、樹脂組成物中で、一部又は全部が塩基性化合物に中和されていてもよい。前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等を含む金属塩基化合物などを用いることができる。
【0016】
前記カチオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、アミノ基を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0017】
前記アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン等の1級及び2級アミノ基を有する化合物;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン等のN-アルキルジアルカノールアミン、N-メチルジアミノエチルアミン、N-エチルジアミノエチルアミン等のN-アルキルジアミノアルキルアミンなどの3級アミノ基を有する化合物などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記ノニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、オキシエチレン構造を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0019】
前記オキシエチレン構造を有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレングリコール等のオキシエチレン構造を有するポリエーテルポリオールを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
以上の親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料の使用量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、耐摩耗性、耐候性、及び、耐加水分解性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)の原料中0.1~15質量%の範囲であることが好ましく、1~10質量%の範囲がより好ましく、1.5~7質量%の範囲が更に好ましい。
【0021】
前記強制的に水(D)中に分散するウレタン樹脂を得る際に用いることができる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン性乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性乳化剤などを用いることができる。これらの乳化剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記ウレタン樹脂(A)としては、具体的には、例えば、前記した親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、ポリイソシアネート(a1)、ポリオール(a2)、及び、鎖伸長剤(a3)の反応物を用いることができる。これらの反応は公知のウレタン化反応を用いることができる。
【0023】
前記ポリイソシアネート(a1)としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記ポリイソシアネート(a1)としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、脂環式ポリイソシアネートを用いることが好ましく、少なくともイソシアネート基の窒素原子がシクロヘキサン環と直接連結した構造を1つ以上有するポリイソシアネートを用いることがより好ましく、イソホロンジイソシアネート及び/又はジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いることが更に好ましい。また、脂環式ポリイソシアネートの使用量としては、より一層優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ポリイソシアネート(a1)中30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
【0025】
また、本発明の表面処理層として、より一層の耐光性が求められる場合には、前記ポリイソシアネート(a1)として、前記脂環式ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートとを併用することが好ましく、前記脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートを用いることが好ましい。この際のポリイソシアネート(a1)中の前記脂環式ポリイソシアネートの含有量としては、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
【0026】
前記ポリイソシアネート(a1)の使用量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)の原料中5~50質量%の範囲であることが好ましく、15~40質量%の範囲がより好ましく、20~37質量%の範囲が更に好ましい。
【0027】
前記ポリオール(a2)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。
【0028】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステル及び/又はホスゲンと、水酸基を2個以上有する化合物との反応物を用いることができる。
【0029】
前記炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記水酸基を2個以上有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-ノナンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、3-メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、グリセリン等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れたTPOレザーとの密着性、耐薬品性、延伸時の光沢変化抑制、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチルペンタンジオール、及び、1,10-デカンジオールからなる群から選ばれる1種以上の化合物を用いることが好ましく、1,6-ヘキサンジオールがより好ましい。
【0031】
前記ポリカーボネートポリオールの使用量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ポリオール(a2)中85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
【0032】
前記ポリカーボネートポリオールの数平均分子量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、機械的強度、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、100~100,000の範囲であることが好ましく、150~10,000の範囲より好ましく、200~2,500の範囲が更に好ましい。なお、前記ポリカーボネートポリオールの数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0033】
前記ポリカーボネートポリオール以外の前記ポリオール(a2)の数平均分子量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、及び、耐候性が得られる点から、500~100,000の範囲であることが好ましく、700~50,000の範囲より好ましく、800~10,000の範囲が更に好ましい。なお、前記ポリオール(a2)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0034】
前記ポリオール(a2)の使用量としては、ウレタン樹脂(A)の原料中30~80質量%の範囲であることが好ましく、40~75質量%の範囲がより好ましく、50~70質量%の範囲が更に好ましい。
【0035】
前記鎖伸長剤(a3)としては、例えば、数平均分子量が50~450の範囲のもの(前記ポリカーボネートポリオールを除く。)であり、具体的には、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤;エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記鎖伸長剤(a3)としては、前記した中でも、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、機械的強度、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、アミノ基を有する鎖伸長剤を用いることが好ましく、ピペラジン及び/又はヒドラジンがより好ましく、ピペラジン及びヒドラジンの合計量としては、前記鎖伸長剤(a3)中30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましい。また、前記鎖伸長剤(a3)としては、平均官能基数が3未満であること好ましく、2.5未満がより好ましい。また、
【0037】
前記鎖伸長剤(a3)の使用量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、機械的強度、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)の原料中0.5~10質量%の範囲であることが好ましく、0.7~5質量%の範囲がより好ましく、0.9~2.3の範囲が更に好ましい。
【0038】
前記ウレタン樹脂(A)の製造方法としては、例えば、前記ポリイソシアネート(a1)と前記ポリオール(a2)と前記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料を反応させることによって、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、次いで、前記ウレタンプレポリマーと、前記鎖伸長剤(a3)とを反応させることによって製造する方法;前記ポリイソシアネート(a1)、前記ポリオール(a2)、親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、及び、前記鎖伸長剤(a3)を一括に仕込み反応させる方法等が挙げられる。これらの反応は、例えば50~100℃で3~10時間行うことが挙げられる。
【0039】
前記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料が有する水酸基、前記ポリオール(a2)が有する水酸基、及び、前記鎖伸長剤(a3)が有する水酸基及びアミノ基の合計と、前記ポリイソシアネート(a1)が有するイソシアネート基とのモル比[(イソシアネート基)/(水酸基及びアミノ基)]としては、0.8~1.2の範囲であることが好ましく、0.9~1.1の範囲であることがより好ましい。
【0040】
前記ウレタン樹脂(A)を製造する際には、前記ウレタン樹脂(A)に残存するイソシアネート基を失活させることが好ましい。前記イソシアネート基を失活させる場合には、メタノール等の水酸基を1個有するアルコールを用いることが好ましい。前記アルコールの使用量としては、ウレタン樹脂(A)100質量部に対し、0.001~10質量部の範囲であることが好ましい。
【0041】
また、前記ウレタン樹脂(A)を製造する際には、有機溶剤を用いてもよい。前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物などを用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記有機溶剤は、蒸留法等によって最終的には除去されることが好ましい。
【0042】
前記ウレタン樹脂(A)のウレタン結合の含有量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、980~4,000mmol/kgの範囲が好ましく、1,000~3,500mmol/kgの範囲がより好ましく、1,100~3,000mmol/kgの範囲が更に好ましく、1,150~2,500mmol/kgの範囲が。なお、前記ウレタン樹脂(A)のウレタン結合の含有量は、前記ポリイソシアネート(a1)、ポリオール(a2)、親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、および、鎖伸長剤(a3)の仕込み量から算出される値を示す。
【0043】
前記ウレタン樹脂(A)のウレア結合の含有量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、315~850mmol/kgの範囲であることが好ましく、350~830mmol/kgの範囲がより好ましく、400~800mmol/kgの範囲が更に好ましく、410~770mmol/kgの範囲が更に好ましい。なお、なお、前記ウレタン樹脂(A)のウレア結合の含有量は、前記ポリイソシアネート(a1)、ポリオール(a2)、親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、および、鎖伸長剤(a3)の仕込み量から算出される値を示す。
【0044】
前記ウレタン樹脂(A)の脂環構造の含有量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、延伸時の光沢変化抑制、耐薬品性、耐摩耗性、及び、耐候性が得られる点から、500~3,000mmol/kgの範囲であることが好ましく、600~2,900mmol/kgの範囲がより好ましく、700~2,700mmol/kgの範囲が更に好ましい。なお、なお、前記ウレタン樹脂(A)の脂環構造の含有量は、前記ポリイソシアネート(a1)、ポリオール(a2)、親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、および、鎖伸長剤(a3)の仕込み量から算出される値を示す。
【0045】
前記ウレタン樹脂(A)の含有率(固形分)としては、TPOレザーとの密着性、塗工性、作業性および保存安定性の点から、プライマー層形成用樹脂組成物中6~30質量%の範囲であることが好ましく、8~25質量%の範囲がより好ましい。
【0046】
前記オレフィン樹脂(B)は、例えば、ポリオレフィン化合物を重合したポリオレフィン;天然ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、合成イソプロピレンゴム;これらの変性物などを用いることができる。これらのオレフィン樹脂は単独で用いても2種以上を併用しもよい。
【0047】
前記ポリオレフィン化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン等のものを用いることができる。また、これらのオレフィン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記ポリオレフィンは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。
【0048】
前記ポリオレフィンの変性物としては、例えば、水酸基で変性したポリオレフィン、酸変性したポリオレフィン、アミノ基で変性したポリオレフィン等を用いることができる。これらのポリオレフィンは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、酸変性したポリオレフィンを用いることが、TPOレザーに対する密着性をより一層向上できる点から好ましい。
【0049】
前記酸変性したポリオレフィンとしては、例えば、ポリオレフィンを塩素化せずに酸変性したものを用いることができる。前記酸変性には、不飽和カルボン酸又はその無水物を用いて、ポリオレフィンと反応させる方法が好ましい。前記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、アコニット酸、クロトン酸;これらの無水物等;不飽和カルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及び、無水マレイン酸からなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0050】
また、前記酸変性したポリオレフィンとしては、水への分散性に優れる点から、ポリエーテル鎖を有しているものを用いることが好ましく、前記ポリエーテル鎖としては、ポリエチレン鎖、及び/又は、ポリプロピレン鎖が好ましく、ポリエチレン鎖がより好ましい。
【0051】
前記オレフィン樹脂(B)の重量平均分子量としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、及び、耐エタノール性が得られる点から、10,000~500,000の範囲であることが好ましく、20,000~200,000の範囲がより好ましい。なお、前記オレフィン樹脂(B)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0052】
前記オレフィン樹脂(B)の含有率(固形分)としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、及び、耐エタノール性が得られる点から、プライマー層形成用樹脂組成物中0.5~30質量%の範囲であることが好ましく、0.6~25質量%の範囲がより好ましい。
【0053】
また、前記ウレタン樹脂(A)と前記オレフィン樹脂(B)との質量比(固形分比)[(A)/(B)]としては、より一層優れたTPOレザーとの密着性、及び、耐エタノール性が得られる点から、55/45~98/2の範囲が好ましく、70/30~97/3の範囲がより好ましい。
【0054】
前記フィラー(C)としては、例えば、シリカ粒子、有機ビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、カオリン、雲母、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム、アルミナシリケイト等を用いることができる。これらのフィラーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記シリカ粒子としては、例えば、乾式シリカ、湿式シリカ等を用いることができる。これらの中でも、散乱効果が高く光沢値の調整範囲が広くなることから、乾式シリカが好ましい。これらシリカ粒子の平均粒子径としては、2~14μmの範囲であることが好ましく、3~12μmの範囲がより好ましい。なお、前記シリカ粒子の平均粒子径は、粒度分布測定結果の積算粒子量曲線において、その積算量が50%を占めるときの粒子径(粒度分布におけるD50での粒子径)を示す。
【0056】
前記有機ビーズとしては、例えば、アクリルビーズ、ウレタンビーズ、シリコンビーズ、オレフィンビーズ等を用いることができる。
【0057】
前記フィラー(C)の含有量としては、前記プライマー層(i)の光沢値を本発明に規定する範囲に調整しやすい点から、プライマー層形成用樹脂組成物中1.5~10質量%の範囲が好ましく、2.5~6質量%の範囲がより好ましい。
【0058】
前記水(D)としては、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。前記水(D)の含有率としては、塗工性、作業性および保存安定性の点から、プライマー層形成用樹脂組成物中1~60質量%の範囲であることが好ましく、10~50質量%の範囲がより好ましい。
【0059】
前記プライマー層形成用樹脂組成物は、前記ウレタン樹脂(A)、前記オレフィン樹脂(B)、前記フィラー(C)、及び、前記水(D)を必須成分として含有するが、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。
【0060】
前記その他の添加剤としては、例えば、架橋剤(E)、乳化剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、粘弾性調整剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防かび剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、助溶剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0061】
前記架橋剤(E)は、耐薬品性、耐摩耗性及び、剥離強度を向上するうえで用いるものであり、例えば、ポリイソシアネート架橋剤、オキサゾリン架橋剤、カルボジイミド架橋剤、エポキシ架橋剤、メラミン架橋剤等を用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐薬品性、及び、剥離強度性をより一層向上できる点から、カルボジイミド架橋剤を用いることが好ましい。
【0062】
前記架橋剤(E)を用いる場合の使用量としては、プライマー層形成用樹脂組成物中0.1~5質量%(固形分として)の範囲が好ましく、0.3~3質量%の範囲がより好ましい。
【0063】
前記プライマー層(i)の光沢値は、表面処理層延伸時の光沢変化が抑制する点から、0.9未満であることが必須であり、0.3~0.8の範囲がより好ましい。係る範囲の光沢値であることにより、表面処理層延伸時にトップコートの厚みが薄くなり透過する光が多くなってもプライマー層で乱反射するので、表面処理層延伸時の光沢変化を抑制できるものと推察される。
【0064】
前記トップコート層(ii)は、優れた耐エタノール性、及び、表面処理層延伸時の光沢変化を抑制できる点から、ウレタン樹脂(X)、ビーズ(Y)を含有し、更に、前記トップコート層(ii)における前記ビーズ(Y)の充填率が、25~90%の範囲であることが必須である。
【0065】
前記ウレタン樹脂(X)としては、前記プライマー層(i)に用いる前記ウレタン樹脂(A)と同様のものを用いることができ、より一層優れたTPOレザーとの密着性、及び、親和性が得られる点から、前記ウレタン樹脂(A)及び(X)は、同じ材料であることが好ましい。
【0066】
前記ウレタン樹脂(X)の含有率(固形分)としては、TPOレザーとの密着性、表面処理層延伸時の光沢変化抑制、塗工性、作業性および保存安定性の点から、トップコート層形成用樹脂組成物中6~25質量%の範囲であることが好ましく、10~20質量%の範囲がより好ましい。
【0067】
前記ビーズ(Y)としては、例えば、アクリルビーズ、ウレタンビーズ、アクリルウレタンビーズ、シリコンビーズ、オレフィンビーズ等を用いることができる。これらの有機ビーズは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた表面処理層延伸時の光沢変化抑制が得られる点から、アクリルビーズ、ウレタンビーズ、及び、アクリルウレタンビーズからなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0068】
前記ビーズ(Y)の平均粒子径としては、より一層優れた表面処理層延伸時の光沢変化抑制が得られる点から、7μm以上が好ましく、8~15μmの範囲がより好ましい。なお、前記ビーズ(Y)の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡にてビーズ(Y)を観察し、一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として求め、更にこれを平均し求める方法により算出したものを示す。
【0069】
前記ビーズ(Y)の含有率としては、より一層優れた表面処理層延伸時の光沢変化抑制が得られる点、及び、から、前記トップコート層(ii)におけるビーズ(Y)の充填率を好ましい範囲に調整しやすい点から、トップコート層形成用樹脂組成物中1.5~30質量%の範囲であることが好ましく、2~25質量%の範囲がより好ましい。
【0070】
前記水(Z)としては、前記トップコート層(ii)に用いる前記水(D)と同様のものを用いることができる。前記水(Z)の含有率としては、例えば、トップコート層形成用樹脂組成物中1~60質量%の範囲が挙げられる。
【0071】
前記トップコート層(ii)は、前記ウレタン樹脂(X)、前記ビーズ(Y)、及び、前記水(Z)を必須成分として含有するが、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。
【0072】
前記その他の添加剤としては、例えば、架橋剤(S)、フィラー(T)、乳化剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、粘弾性調整剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防かび剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、助溶剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0073】
前記架橋剤(S)としては、耐薬品性、耐摩耗性及び、耐光性を向上するうえで用いるものであり、具体的には、前記プライマー層(i)に用いることができる前記架橋剤(E)と同様のものを用いることができる。これらの中でも、より一層優れた耐エタノール性、及び、表面処理層延伸時の光沢変化抑制ができる点から、オキサゾリン架橋剤(OXZ)とカルボジイミド架橋剤(NCN)と併用することが好ましく、その質量比[OXZ/NCN]としては、90/10~20/80の範囲が好ましく、80/20~30/70の範囲がより好ましい。
【0074】
前記架橋剤(S)を用いる場合の使用量としては、トップコート層形成用樹脂組成物中0.1~5質量%(固形分として)の範囲が好ましく、0.2~4質量%の範囲がより好ましい。
【0075】
前記フィラー(T)としては、光沢調整、及び、質感を向上するうえで用いるものであり、具体的には、前記プライマー層(i)に用いることができる前記フィラー(C)と同様のものを用いることができる。
【0076】
前記フィラー(T)を用いる場合の使用量としては、例えば、トップコート層形成用樹脂組成物中0.1~15質量%の範囲が好ましく、0.2~10質量%の範囲がより好ましい。
【0077】
前記トップコート層(ii)における前記ビーズ(Y)の充填率としては、優れた耐エタノール性、及び、表面処理層延伸時の光沢変化抑制が得られる点から、25~90%の範囲であることが必須であり、28~75%の範囲がより好ましい。係る範囲であれば、各種物性と成形性が確保されるため、優れた耐エタノール性、及び、表面処理層延伸時の光沢変化抑制が得られるものと推察される。なお、前記トップコート層(ii)における前記ビーズ(Y)の充填率は、下記計算式により算出された値を示す。
【0078】
【0079】
最密充填モデル時のビーズの充填率計算方法
【0080】
【表1】


上記計算式により、求められた最密充填時のPVCの値となる配合を100%ビーズ充填率として、ビーズ(Y)の充填率比率を求めた。
【0081】
次に、本発明の表面処理層について説明する。
【0082】
前記表面処理層は、前記プライマー層(i)、及び、前記トップコート層(ii)を有するものである。
【0083】
前記表面処理層の製造方法としては、例えば、基材上に前記プライマー層形成用樹脂組成物を塗工、乾燥した後、その上に、前記トップコート層形成用樹脂組成物(ii)を塗工、乾燥する方法が挙げられる。
【0084】
前記プライマー層(i)の厚さとしては、例えば、2~30μmの範囲が挙げられ、前記トップコート層(ii)の厚さとしては、例えば、2~30μmの範囲が挙げられる。
【0085】
前記基材としては、例えば、合成皮革、ポリ塩化ビニル(PVC)レザー、熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)レザー、ダッシュボード、インスツルメントパネルが挙げられる。また、本発明の表面処理層は、特にTPOレザーとの密着性に優れるため、TPOレザー用の表面処理剤として好適に用いることができる。
【0086】
以上、本発明の表面処理層は、水を含有する材料を用いているため環境に優しく、延伸時に光沢変化が少なく、剥離強度、及び、耐エタノール性に優れるものである。特に、本発明の表面処理層は、TPOレザーに対する剥離強度(密着性)に優れる。
【実施例
【0087】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0088】
[合成例1]ウレタン樹脂(A-1)水分散体の調製
攪拌機、温度計、および窒素還流管を備えた四つ口フラスコに、メチルエチルケトン250質量部、及びオクチル酸第一錫0.001質量部を入れ、次いで、ポリカーボネートポリオール-1(1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールを原料とするもの、数平均分子量:1,000)200質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸15質量部、イソホロンジイソシアネート49質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート34質量部を入れ、70℃で1時間反応させ、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、このウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液に、ヒドラジン6.8質量部、トリエチルアミン15質量部を混合させた後に、イオン交換水820質量部を加えてウレタン樹脂(A-1)が水に分散した乳化液を得た。
次いで、前記乳化液からメチルエチルケトンを留去し、更にイオン交換水を加えることで、不揮発分30質量%のウレタン樹脂(A-1)水分散体を得た。
得られたウレタン樹脂(A-1)のウレタン結合の含有量は2,052mmol/kg、ウレア結合の含有量は698mmol/kg、脂環構造の含有量は715mmol/kgであった。
【0089】
[合成例2]ウレタン樹脂(A-2)水分散体の調製
攪拌機、温度計、および窒素還流管を備えた四つ口フラスコに、メチルエチルケトン250質量部、及びオクチル酸第一錫0.001質量部を入れ、次いで、ポリカーボネートポリオール-3(1,6-ヘキサンジオールを原料とするもの、数平均分子量:2,000)を220質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸12質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート70質量部を入れ、70℃で1時間反応させ、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、このウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液に、ピペラジン4.5質量部、トリエチルアミン9質量部を混合させた後に、イオン交換水880質量部を加えてウレタン樹脂(A-2)が水に分散した乳化液を得た。
次いで、前記乳化液からメチルエチルケトンを留去し、更にイオン交換水を加えることで、不揮発分32質量%のウレタン樹脂(A-2)水分散体を得た。
得られたウレタン樹脂(A-2)のウレタン結合の含有量は1,278mmol/kg、ウレア結合の含有量は435mmol/kg、脂環構造の含有量は1,713mmol/kgであった。
【0090】
[調製例1]プライマー層形成用樹脂組成物(i-1)の調製
合成例1で得られたウレタン樹脂(A-1)水分散体38質量部、オレフィン樹脂(ポリエーテル系重合体鎖を有する酸変性非塩素化ポリオレフィン樹脂、ユニチカ株式会社製「アローベース SD-1010」、不揮発分;20.5質量% 5.5質量部、乾式法で製造されたシリカ粒子、平均粒子径:10μm、以下、「シリカ」と略記する。」)3.9質量部、水44.5質量部、レベリング剤(ビックケミージャパン株式会社製「BYK-342」)0.3質量部、消泡剤(サンノプコ株式会社製「SNデフォーマー777」)0.1質量部を混合することで、プライマー層形成用樹脂組成物(i-1)を得た。
【0091】
[調製例2]プライマー層形成用樹脂組成物(i-2)の調製
調整例1において、前記ウレタン樹脂(A-1)水分散体を、前記ウレタン樹脂(A-2)水分散体に変更した以外は、調整例1と同様にして、プライマー層形成用樹脂組成物(i-2)を得た。
【0092】
[比較調製例1]プライマー層形成用樹脂組成物(iR-1)の調製
調整例1において、前記ウレタン樹脂(A-1)水分散体の使用量を38質量部から、43.5質量部へ、オレフィン樹脂の使用量を5.5質量部から0質量部へ変更した以外は、調整例1と同様にして、プライマー層形成用樹脂組成物(iR-1)を得た。
【0093】
[比較調製例2]プライマー層形成用樹脂組成物(iR-2)の調製
調整例1において、前記ウレタン樹脂(A-1)水分散体の使用量を38質量部から、38.6質量部へ、シリカの使用量を3.9質量部から3.3質量部へ変更した以外は、調整例1と同様にして、プライマー層形成用樹脂組成物(iR-2月)を得た。
【0094】
[調製例3]トップコート層形成用樹脂組成物(ii-1)の調製
合成例1で得られたウレタン樹脂(A-1)水分散体48.15質量部、ウレタンビーズ(根上工業株式会社製「ART PEARL C-600T」、平均粒子径;10μm)5.03質量部、シリカ3.33質量部、水34.59質量部、助剤(ブチルセロソルブ)0.49質量部、増粘剤(株式会社ADEKA製「UH-420」)2.6質量部、レベリング剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK-342」)0.2質量部、消泡剤(サンノプコ株式会社製「SNデフォーマー777」)0.2質量部を混合することで、トップコート層形成用樹脂組成物(ii-1)を得た。
【0095】
[調製例4]トップコート層形成用樹脂組成物(ii-2)の調製
調整例3において、ウレタンビーズの使用量を5.03質量部から2.83質量部へ、シリカの使用量を3.33質量部から3.97質量部へ、水の使用量を34.59質量部から35.55質量部へ、増粘剤の使用量を2.6質量部から3.2質量部へ変更した以外は調整例3と同様にしてトップコート層形成用樹脂組成物(ii-2)を得た。
【0096】
[調製例5]トップコート層形成用樹脂組成物(ii-3)の調製
調整例3において、ウレタンビーズの使用量を5.03質量部から18.8質量部へ、シリカの使用量を3.33質量部から0.47質量部へ、水の使用量を34.59質量部から23.78質量部へ、増粘剤の使用量を2.6質量部から2.5質量部へ変更した以外は調整例3と同様にしてトップコート層形成用樹脂組成物(ii-3)を得た。
【0097】
[調製例6]トップコート層形成用組成物(ii-4)の調製
調整例3において、ウレタン樹脂(A-1)水分散体に代えて、ウレタン樹脂(A-2)水分散体を用いた以外は、調整例3と同様にしてトップコート層形成用組成物(ii-4)を得た。
【0098】
[比較調製例3]トップコート層形成用樹脂組成物(iiR-1)の調製
調整例3において、ウレタンビーズの使用量を5.03質量部から2.17質量部へ、シリカの使用量を3.33質量部から3.97質量部へ、水の使用量を34.59質量部から36.81質量部へ変更した以外は調整例3と同様にしてトップコート層形成用樹脂組成物(iiR-1)を得た。
【0099】
[比較調製例4]トップコート層形成用樹脂組成物(iiR-2)の調製
調整例3において、ウレタンビーズの使用量を5.03質量部から21.5質量部へ、シリカの使用量を3.33質量部から0.47質量部へ、水の使用量を34.59質量部から20.98質量部へ変更した以外は調整例3と同様にしてトップコート層形成用樹脂組成物(iiR-2)を得た。
【0100】
[実施例1]
調整例1で得られたプライマー層形成用樹脂組成物(i-1)100質量部に、カルボジイミド架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV-02」、有効っ成分;40質量%、カルボジイミド当量;430、以下「NCN」と略記する。)2質量部を配合した。これを、TPOレザーシート上にバーコーターを使用してwet膜厚が30μmとなるように配合物を塗工し、120℃で1分間乾燥してプライマー層を得た。
次いで、調整例3で得られたトップコート層形成用樹脂組成物(ii-1)100質量部に、NCN1質量部、オキサゾリン架橋剤(日本触媒株式会社製「エポクロスWS-500」、有効成分;39質量%、オキサゾリン当量;220、以下「OXZ」と略記する。)1質量部を配合した。これを、前記プライマー層上にバーコーターを使用してwet膜厚が30μmとなるように配合物を塗工し、120℃で1分間乾燥してトップコート層を得、物品を得た。
【0101】
[実施例2]
実施例1において、トップコート層に用いる前記NCN、及び、OXZをそれぞれ1質量部から1.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0102】
[実施例3]
実施例1において、プライマー層に用いる前記NCNの使用量を2質量部から、2.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0103】
[実施例4]
実施例1において、トップコート層に用いる前記トップコート層形成用樹脂組成物(ii-1)を、トップコート層形成用樹脂組成物(ii-2)に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0104】
[実施例5]
実施例1において、トップコート層に用いる前記トップコート層形成用樹脂組成物(ii-1)を、トップコート層形成用樹脂組成物(ii-3)に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0105】
[実施例6]
実施例1において、プライマー層に用いる前記プライマー層形成用樹脂組成物(i-1)をプライマー層形成用樹脂組成物(i-2)に変更し、トップコート層に用いる前記トップコート層形成用樹脂組成物(ii-1)を、トップコート層形成用樹脂組成物(ii-4)に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0106】
[比較例1]
実施例1において、プライマー層に用いる前記プライマー層形成用樹脂組成物(i-1)をプライマー層形成用樹脂組成物(iR-1)に変更し、に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0107】
[比較例2]
実施例1において、プライマー層に用いる前記プライマー層形成用樹脂組成物(i-1)をプライマー層形成用樹脂組成物(iR-2)に変更し、に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0108】
[比較例3]
実施例1において、トップコート層に用いる前記トップコート層形成用樹脂組成物(ii-1)をトップコート層形成用樹脂組成物(iiR-1)に変更し、に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0109】
[比較例4]
実施例1において、トップコート層に用いる前記トップコート層形成用樹脂組成物(ii-1)をトップコート層形成用樹脂組成物(iiR-2)に変更し、に変更した以外は、実施例1と同様にして物品を得た。
【0110】
[数平均分子量の測定方法]
合成例等で用いたポリオールの数平均分子量、オレフィン樹脂の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定し得られた値を示す。
【0111】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0112】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0113】
[プライマー層(i)の光沢値の測定方法]
調合したプライマー層形成用調合液を黒アート紙に第一理化株式会社製バーコーターNo.14を用いてウェット膜厚がおよそ30μmになるように塗工する。その後120℃にセットした熱風乾燥機に1分入れて乾燥する。
乾燥機から取り出した後に常温になるまで冷却したものを鏡面光沢度計ビックガードナー社製「マイクロートリーグロス」を用いて塗工面の60度鏡面光沢を測定した。
【0114】
[延伸時の光沢変化の評価方法]
得られた物品について、真空成型機を使用して300%の延伸率となるように成形を実施し、成形前後での外観観察、及び、60度光沢値をビックガードナー社製「マイクロートリーグロス」を使用して測定して以下のように評価した。
(外観)
「〇」;外観上異常が確認されない。
「×」;白化又は塗膜の割れが確認される。
(60度光沢値)
「〇」;光沢変化が0.5未満である。
「△」;光沢変化が0.5以上0.8未満である。
「×」;光沢変化が0.8以上である。
【0115】
[剥離強度の評価方法]
得られた物品表面について、テンシロン(株式会社エー・アンド・デイ製)を使用して、T字剥離試験を行い、表面処理層とTPOレザーとの間の剥離強度(N/15mm)を測定し、以下のように評価した。また、真空成型機を使用して150%の延伸率となるように成形を実施し、延伸後の物品についても同様に剥離強度(N/15mm)を測定し、以下のように評価した。
「◎」;20以上である。
「〇」;10以上20未満である。
「×」;10未満である。
【0116】
[耐エタノール性の評価方法]
得られた物品表面について、学振摩擦試験機(株式会社大栄科学精機製作所製「RT-200」)を使用して、500g荷重下、30質量%エタノール水溶液に浸した綿布で塗膜表面を摩擦して、塗膜状態を観察し、以下のように評価した。
「〇」:300回以上、塗膜の剥がれが観察されない。
「×」:300回未満で塗膜の剥がれが確認された。
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
本発明の表面処理層は、水を含有する材料を用い、延伸時に光沢変化が少なく、剥離強度、及び、耐エタノール性に優れることがわかった。
【0120】
一方、比較例1は、プライマー層(i)にオレフィン樹脂(B)を含有しない態様であるが、TPOレザーとの剥離強度、及び、耐エタノール性が不良であった。
【0121】
比較例2は、プライマー層(i)の光沢値が本発明で規定する範囲を超える態様であるが、延伸時の光沢変化が著しかった。
【0122】
比較例3は、トップコート層(ii)におけるビーズ(Y)の充填率が本発明で規定する範囲を下回る態様であるが、延伸時の光沢変化が著しかった。
【0123】
比較例3は、トップコート層(ii)におけるビーズ(Y)の充填率が本発明で規定する範囲を超える態様であるが、耐エタノール性が不良であった。